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審決分類 |
審判 全部無効 外観類似 無効としない W30 |
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管理番号 | 1416792 |
総通号数 | 35 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2024-11-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2024-04-11 |
確定日 | 2024-10-17 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6746506号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6746506号商標(以下「本件商標」という。)は、「美玉だんご」の文字を標準文字で表してなり、令和4年4月21日に登録出願、第30類「だんご」を指定商品として、同5年9月27日に登録査定、同年10月19日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は、以下の2件の登録商標であり、いずれも現に有効に存続しているものである(以下、これらをまとめて「引用商標」という。)。 1 登録第6332195号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の構成:みたまやの黒みつだんご(標準文字) 出 願 日:平成30年11月27日 設定登録日:令和 2年12月21日 指定商品 :第30類「団子」 2 登録第6316300号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:美玉屋(標準文字) 出 願 日:平成30年11月 6日 設定登録日:令和 2年11月13日 指定役務 :第35類「団子・その他の菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,企業の経営に関するコンサルティング,企業の人事管理に関するコンサルティング,販売戦略に関するコンサルティング,広告に関するコンサルティング,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,広告業,トレーディングスタンプの発行,職業のあっせん,求人情報の提供,輸出入に関する事務の代理又は代行,コンピュータデータベースへの情報編集,書類の複製,衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」 第3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。 1 請求の理由 本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第7号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。 2 商標法第4条第1項第11号について (1)引用商標1について 本件商標「美玉だんご」は、引用商標1「みたまやの黒みつだんご」の略称である。そして、請求人は本件商標の商標権者である被請求人に対して、引用商標をライセンスしており、ライセンスを受けて被請求人及びその父親は、請求人から貸与された店舗で「美玉屋」を営業している。したがって、本件商標に関して、取引の実情から引用商標1と出所混同が生じることは明らかである。 引用商標の無効審判に係る審決取消訴訟において、請求人と被請求人とは和解しており(甲3)、請求人は被請求人に対して引用商標をライセンスし、「美玉屋」の店舗を貸与している。 そのような取引の実情を考慮して、本件商標と引用商標1とを比較すると、本件商標「美玉だんご」の「美玉」は「美玉屋」を表していることは明らかであり、また「だんご」は美玉屋の名物である「黒みつだんご」を表しているから、本件商標からは「美玉屋の黒みつだんご」の観念が生じ、本件商標と引用商標1とは観念が類似するため、本件商標と引用商標1とは類似する。 (2)引用商標2について 上記(1)の取引の実情があるという前提で、本件商標と引用商標2を比較すると、本件商標の「美玉」は「美玉屋」を表しており、また「だんご」は美玉屋の名物である「黒みつだんご」を表しているが、仮に「だんご」から「黒みつだんご」の観念が生じない場合であっても、「美玉屋で販売されている団子」という観念が生じる。 本件商標における「だんご」は、指定商品との関係から出所識別標識としての観念は非常に弱いから、本件商標と引用商標2とは観念が類似し、本件商標と引用商標2とは類似する。 また、仮に「美玉だんご」の「美玉」から「美玉屋」の観念が生じない場合であっても、本件商標中の「だんご」は、指定商品との関係から出所識別標識として非常に弱いため、要部は「美玉」である。そして、「美玉」と「美玉屋」とは称呼において1文字違いであり、称呼が類似する。したがって、本件商標と引用商標2は称呼が類似し、本件商標と引用商標2は類似する。 3 商標法第4条第1項第7号について 上記2(1)の取引の実情のとおり、被請求人は請求人から、引用商標のライセンスを受けているにも関わらず、ライセンスを受けている引用商標1の略称又は引用商標2と要部が共通する本件商標を登録しており、被請求人の行為は著しく社会的妥当性を欠く行為であり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認しえない行為である(東京高裁平成14年(行ケ)第94号、東京高裁平成14年(行ケ)第616号、令和元年(行ケ)第10073号、知財高裁令和4年(行ケ)第10034号)。 また、被請求人の本件商標の出願及び登録行為は、ライセンスしている引用商標1の略称又は引用商標2の要部が共通する本件商標を使用することにより、引用商標が有する顧客吸収力を利用し続けようとするものであり、ライセンシーが順守すべき信義誠実の原則に大きく反するものである。 本件商標の出願の目的や経緯等に鑑みれば、本件商標の登録は、請求人が被請求人にライセンスしている屋号(引用商標2)及び引用商標1の略称の権利化を図るものであり、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く事情があるというべきであって、こうした商標の登録出願及び設定登録を許せば、商標法の目的に反することになりかねない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 4 商標法第4条第1項第15号について (1)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品について 本件商標の指定商品は「だんご」であり、上記2(1)のとおり、被請求人は請求人から、引用商標のライセンスを受けているから、本件商標の指定商品とライセンスしている引用商標の商品及び役務は共通する。したがって、本件商標の指定商品と、請求人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度は高い。 (2)標章について 被請求人は請求人から引用商標についてライセンスを受けており、店舗も貸与されているという実情から、本件商標の「美玉」は「美玉屋」を表しており、「だんご」は美玉屋の名物である「黒みつだんご」を表していることは明らかである。 したがって、本件商標は、請求人の登録商標である引用商標1の略称であり、また、「美玉だんご」の「美玉」は引用商標2の「美玉屋」を表しているため、本件商標と請求人の業務に係る商標とは類似性の程度は高いといえる。また、請求人の業務に係る商標は独創性も高い。 (3)取引者及び需要者の共通性並びに取引の実情について 本件商標は、引用商標1の略称であり、被請求人は請求人から引用商標についてライセンスを受けて営業しており、また、店舗も貸与されている。したがって、請求人と被請求人の取引者及び需要者は当然同一である。 (4)請求人の引用商標の周知性に関して 上記(3)の取引の実情のとおり、請求人と被請求人はライセンサーとライセンシーの関係であり、請求人は店舗も貸与している。 このような実情のもと、請求人の引用商標の周知性の有無に関わらず、本件商標は請求人の業務に係る商品又は役務と混同が生じるおそれがあることは明らかである。 そもそも周知性があれば混同が生じやすくはなるが、一方で、混同が生じる商標又は混同が生じやすい商標は、必ず周知性があるとは限らない。 商標法第4条第1項第15号の趣旨でも「「混同を生じるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,・・・」と記載されているとおり、周知性(周知著名性)は、混同が生じるおそれがあるための必須要件ではない。 特に本件は、請求人と被請求人はライセンサーとライセンシーの関係であり、また、請求人は被請求人に店舗も貸与しているという取引の実情があるため、請求人の引用商標の周知性の有無に関わらず、本件商標と出所混同が生じるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 第4 被請求人の主張 被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第8号証を提出した。 1 商標法第4条第1項第11号に(無効理由1)ついて (1)本件商標と引用商標1の類似性について ア 称呼上の比較 両商標の称呼を比較すると、引用商標1は、「みたまやの黒みつだんご」を一連かつ一体的に表記しているので、「ミタマヤノクロミツダンゴ」の称呼が生じ、音節数が12音節で一連に発音される。 これに対して、本件商標は、「ミタマダンゴ」の称呼を生じる。本件商標は、漢字「美玉」とひらがな「だんご」を1文字のスペースも入れることなく、等間隔で一連かつ一体的に表記され、音節数が6音節と短いので、分離されることなく「ミタマダンゴ」と一連かつ一体的に称呼される。 すなわち、引用商標1は12音節からなる「ミタマヤノクロミツダンゴ」と称呼されるのに対して、本件商標は6音節からなる「ミタマダンゴ」と称呼されるため、両商標は音節数が異なり、称呼が著しく異なる非類似の商標である。 イ 外観上の比較 両商標の外観を比較すると、引用商標1は「みたまやの黒みつだんご」の11文字で構成される。 これに対して、本件商標は1文字のスペースも空けることなく、等間隔で一連かつ一体的に表記した「美玉だんご」の5文字で構成される。 そのため、両商標は、語尾「だんご」の部分(3文字)が共通するとしても、「みたまやの黒みつ」と「美玉」の部分の文字が相違し、全体の文字数も11文字と5文字で大きく異なるため、外観が著しく異なる非類似の商標である。 ウ 観念上の比較 両商標の観念を比較すると、引用商標1は、語頭部分の4文字「みたまや」が商人・店舗の屋号又は商号を意味するため、「みたまやという商人又は店舗が販売する黒みつだんご」の観念を生じる。 これに対して、本件商標は、「美しい玉のようなだんご」の観念を生じる。 そのため、両商標は、観念が著しく異なる非類似の商標である。 エ 一方、請求人は、「本件商標が引用商標1の略称であるため、本件商標が引用商標1と出所の混同を生じる」と主張している。 しかしながら、請求人は引用商標1が「美玉だんご」と略称された事実を何一つ立証しておらず、斯かる主張は事実に反する主張である。 取引の実情を考慮しても、引用商標1は、上記ウで述べたように、「みたまやという商人又は店舗が販売する黒みつだんご」の観念が生じるため、略称される場合は語頭部分「みたまやの」が省略されて「黒みつだんご」と略称されることが一般的であり、「美玉だんご」と略称された事実は皆無である。例えば、乙第1号証ないし乙第6号証は、被請求人の父Bが長年使用してきた商標「みたまやの/黒みつだんご」(記号「/」は2列表記を示す)の略称が「美玉だんご」ではなく、「黒みつだんご」であることを立証するものである。 オ したがって、両商標は、称呼・外観・観念の何れも異なるため、商標全体として非類似の商標である。 (2)本件商標と引用商標2の類似性について ア 称呼上の比較 両商標の称呼を比較すると、引用商標2は、「美玉屋」を一連かつ一体的に表記しているので、「ミタマヤ」の称呼が生じ、音節数が4音節と短いので一連に発音される。また、引用商標2は1文字のスペースも入れることなく等間隔に一連かつ一体的に表記されているので「美玉」と「屋」を分離して称呼されることもない。 これに対して、本件商標は、「ミタマダンゴ」の称呼を生じ、等間隔で一連かつ一体的に表記され、音節数が6音節と短いので、分離されることなく「ミタマダンゴ」と一連かつ一体的に称呼される。 すなわち、引用商標2は4音節からなる「ミタマヤ」と称呼されるのに対して、本件商標は6音節からなる「ミタマダンゴ」と一連かつ一体的に称呼されるため、両商標は音節数が異なり、称呼が著しく異なる非類似の商標である。 イ 外観上の比較 両商標の外観を比較すると、引用商標2は漢字「美玉屋」の3文字で構成される。 これに対して、本件商標は漢字「美玉」とひらがな「だんご」を1文字のスペースも空けることなく、等間隔に一連かつ一体的に表記した「美玉だんご」の5文字で構成される。 そのため、両商標は、「美玉」の部分(2文字)が共通するとしても、「屋」と「だんご」の部分の文字が相違し、全体の文字数も3文字と5文字で大きく異なるため、外観が大きく異なる非類似の商標である。 ウ 観念上の比較 両商標の観念を比較すると、引用商標2は一連に表記され、「屋」がその前の2文字の「商人」「店舗」の屋号又は商号を意味するため「美玉屋という商人又は店舗」の観念が生じる。 これに対して、本件商標は、「美しい玉のようなだんご」の観念を生じる。 そのため、両商標は、観念が著しく異なる非類似の商標である。 エ したがって、両商標は、称呼・外観・観念の何れも異なるため、商標全体として非類似の商標である。 したがって、本件商標は引用商標によって、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。 2 商標法第4条第1項第7号(無効理由2)について (1)引用商標1の略称は「黒みつだんご」であり、「美玉だんご」と略称された事実は全くない。また、和菓子店「美玉屋」が販売する「だんご」といえば、商品名「みたまやの/黒みつだんご」が有名であり、その略称が「黒みつだんご」であるので、「美玉屋の販売するだんご」といえば「黒みつだんご」に他ならない。 それ故に、請求人の「本件商標が、引用商標1の略称であり、引用商標2と要部が共通するから商標法4条1項7号に該当する」旨の主張は、商標法第4条第1項第7号の趣旨に照らして間違った主張である。 (2)被請求人の父親Bが商標「美玉屋」及び「みたまやの/黒みつだんご」を使用してきた経緯等について ア 和菓子店美玉屋は、先代のA(故人、請求人の父)が京都府京都市左京区所在(店舗)において、昭和15年に創業し、昭和53年12月まで営業していた。 Bは、昭和38年頃より、美玉屋で従業員として働いていたが、先代Aが営業を辞める昭和53年に、先代Aより「子供達が家業を継ぐ意思がなく、美玉屋を承継してくれる者がいないので、Bが美玉屋を継いで暖簾を守ってくれないか。暖簾を守ってくれるなら、店舗(土地・建物)を貸すから。」と頼まれた。Bは、「先代Aの家族の同意が無ければ受けることができません。」と言ってお断りしたが、後日先代Aより「家族も同意しているので、是非とも美玉屋を継いで暖簾を守って欲しい。」と重ねて頼まれたので、美玉屋を継ぐことを承諾した。 先代Aに「美玉屋を継いで暖簾を守ってくれ」と言われたが、無償で譲ってくれた訳ではなく、製造機械と在庫の原材料を合わせて100万円で買取ることを要請されたBは、買取りの資金がなかったので、美玉屋を継ぐことを躊躇したが、先代Aが銀行で融資を受ける保証人になってくれたので、銀行融資を受けて買取り費用を工面して支払った。当時、Bは買取り費用が高額であったが、製造機械が減価償却済の中古品の価値しかなく、暖簾代(商号)も含まれていると理解して支払った。 なお、このことは40年以上も前のことであり、先代Aの奥さんと美玉屋の承継を廻るトラブルもなく、銀行融資を受けたときの契約書や返済を記録した古い通帳を処分してしまっていたため、無効審判事件(無効2021−89006及び無効2021−89022)の審決取消訴訟において証拠として提出できなかっただけである。 イ 2代目を承継したBは、昭和54年1月より現在に至るまでの45年間、上記営業所在地の店舗を借りて二階に住込み、「みたまやの/黒みつだんご」等の和菓子の製造・販売の業務を継続しつつ美玉屋の暖簾を守り、商品の創意・工夫と営業努力を重ねて、事業を大きく発展させてきた。 一方、Bは承継当初の昭和54年から数年間、商品「だんご」に商標「みたまやの/黒みつだんご」を使用していた訳ではなく、先代Aが使用していた商標「黒光だんご」をそのまま使用していた(乙7)。 換言すると、先代Aが営業していた昭和53年までは商標「みたまやの/黒みつだんご」を使用した事実が全く無く、Bが美玉屋を承継した数年後の昭和56年頃まで、先代Aと同じ商標「黒光だんご」を使用していたことが乙第7号証より明らかである。 ウ また、その数年後から1988年頃迄の間、Bは、黒蜜を使っただんごの販売に際して、商標「黒みつだんご」を使用していた(乙8)。 エ Bが商標「みたまやの/黒みつだんご」を使用し始めたのは平成に入ってからであり、乙第1号証が発行される数年前である。 オ 乙第4号証は、2代目Bになってから、商品「みたまやの/黒みつだんご」が人気商品となり、遠方からの顧客が増加したことを紹介している。 カ 「黒みつだんご」は、Bが手作りにこだわり、舌の肥えた京都の人などの消費者を喜ばせるために、試行錯誤を繰り返しながら改良を加えてきたことが人気の秘密になっている(乙5、乙6)。 キ 以上のとおり、先代Aが営業していた頃は商品名(商標)「黒光だんご」を使用していたこと(乙7)、商標「みたまやの/黒みつだんご」を使用したのは2代目Bであって、先代Aでも請求人でもないこと(乙1〜乙4)、商標「みたまやの/黒みつだんご」の略称が、「美玉だんご」ではなく、「黒みつだんご」であること(乙1〜乙6)、すなわち、使用商標の変遷と取引の実情、及び乙第1号証ないし乙第8号証の新聞・雑誌記事を考慮すれば、請求人の引用する複数の判決例と本件とは事案を全く異にしており、「社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く事情」に該当しないことが明白である。 (3)また、被請求人及びBが請求人の所有する引用商標のライセンス契約をしたのは、本件商標の出願日(令和4年4月21日)よりも約11カ月後の令和5年3月6日であり、裁判官の和解提案に従って双方歩み寄って契約したものである。 被請求人は、和解の話が出るよりもずっと前に、将来の商標の選択の自由度を確保する目的で、引用商標の何れにも類似していない本件商標を出願していたのである。 したがって、引用商標のライセンス契約を根拠として、本件商標が商標法第4条第1項第7号の無効理由に該当する旨の主張は、認められない。 3 商標法第4条第1項第15号(無効理由3)について 請求人は、引用商標の周知性を証明する証拠を何1つ提出していないばかりでなく、請求人は、自分自身で引用商標を使用したことが一切ない。むしろ、引用商標を商品「和菓子」に長年に亘って使用し、知名度を高めてきたのは被請求人の父親Bである(乙4〜乙6)。 ー方、被請求人及びBが請求人の所有する引用商標に対して請求した無効審判事件(無効2021−89006、無効2021−89022)において、周知性を立証する多量の証拠を提出したにもかかわらず周知性を認められなかったことを考慮すれば、引用商標の周知性を証明する証拠を何1つ提出していない請求人に対して引用商標の周知性が認められるはずがなく、著名性が認められないことも当然のことである。 したがって、本件商標は、引用商標によって商標法第4条第1項第15号の無効理由に該当するものではない。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って、審理する。 1 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標 本件商標は、「美玉だんご」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「美玉」の漢字は、「美しい玉」ほどの意味合いを想起させるものの、「美玉」の文字は辞書に掲載がなく、特定の意味合いをもって親しまれた語ともいえない。そして、「美玉」の文字は、指定商品との関係では、商品の品質を表すものではなく、十分に自他商品の識別機能を発揮し得るものであるのに対し、「だんご」の文字は、「穀類の粉を水でこね、小さくまるめて蒸しまたはゆでたもの」(出典:株式会社岩波書店「広辞苑 第七版」)のことであって、その指定商品との関係でみれば、商品の普通名称を表すものであるから、該構成中の「美玉」の文字は、独立して取引に資される場合があるものといえる。 そうすると、本件商標よりは、構成文字全体として「ミタマダンゴ」の称呼を生じるほか、漢字「美玉」の部分(以下「本件商標要部」という場合がある。)より「ミタマ」の称呼をも生じ、特定の観念は生じない。 (2)引用商標 ア 引用商標1は、「みたまやの黒みつだんご」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさ、等しい間隔で、外観上まとまりよく一体的に表されており、また、その構成文字全体から生ずる「ミタマヤノクロミツダンゴ」の称呼も、格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。 また、引用商標1の構成文字は、「みたまや」の文字と、「黒みつだんご」の文字を、連体格を示す格助詞「の」(出典:前掲書)を介して結合してなるものであるところ、全体としてのまとまりのよい構成態様も相まって、一連一体の語を表してなると看取できるものである。そして、構成中の「黒みつ」の文字は「黒砂糖と水を煮詰めたもの」の意味である「黒蜜」(出典:前掲書)の「蜜」の文字を平仮名で表したものと理解され、「だんご」の文字は、上記(1)と同様に指定商品の普通名称を表すものであるとしても、全体として具体的な意味合いまでは直ちに認識できるとはいえない。 そうすると、引用商標1は、その構成文字に相応して、「ミタマヤノクロミツダンゴ」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。 イ 引用商標2は、「美玉屋」を標準文字で表してなるところ、構成中の「美玉」の文字は、上記(1)と同様に特定の観念は生じないものであり、「屋」の文字は、「家号や雅号、書斎に用いる語。」の意味を有する語(出典:前掲書)であることからすれば、全体として一つの店舗の名称を表したと理解されるものであるから、引用商標2は、その構成文字に相応して「ミタマヤ」の称呼を生じ、「店舗名としての美玉屋」といった観念を生じるというのが相当である。 (3)本件商標と引用商標1の類否 ア 外観について、 本件商標は、上記(1)のとおり「美玉だんご」を標準文字で表してなり、他方、引用商標1は、上記(2)アのとおり、「みたまやの黒みつだんご」の文字を標準文字で表してなるところ、両者は、その構成文字数、構成態様が明らかに異なり、全体の外観において異なるものである。 また、本件商標要部といえる「美玉」の文字部分と引用商標1の「みたまやの黒みつだんご」の文字の比較においても、文字種が相違し、「みたま」以外の文字部分の有無から、構成文字全体としては異なる語を表してなると理解でき、判別は容易である。 イ 称呼について 本件商標から生じる「ミタマダンゴ」の称呼と引用商標1から生じる「ミタマヤノクロミツダンゴ」の称呼は、構成音数及び語調語感が明らかに異なり、聴別は容易である。 また、本件商標要部から生じる「ミタマ」の文字部分と引用商標1から生じる「ミタマヤノクロミツダンゴ」の称呼は、「ミタマ」以外の文字部分の音の有無から、構成音数及び語調語感が明らかに異なり、聴別は容易である。 ウ 観念について 観念については、本件商標と引用商標1、又は本件商標要部と引用商標1はいずれも特定の観念を生じないから、比較できない。 エ 小括 本件商標と引用商標1とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別及び聴別は容易であるから、両者の外観、観念、称呼等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。 その他、本件商標と引用商標1が類似するというべき事情は見いだせない。 (4)本件商標と引用商標2の類否について ア 外観について 本件商標は、上記(1)のとおり、「美玉だんご」を標準文字で表してなり、他方、引用商標2は、上記(2)イのとおり、「美玉屋」の文字を標準文字で表してなるところ、両者は、その構成文字数、構成態様が明らかに異なり、全体の外観において異なるものである。 また、本件商標要部といえる「美玉」の文字部分と引用商標2の「美玉屋」の文字の比較においても、「屋」の文字部分の有無から、構成文字全体としては異なる語を表してなると理解でき、判別は容易である。 イ 称呼について 本件商標から生じる「ミタマダンゴ」の称呼と引用商標1から生じる「ミタマヤ」の称呼は、構成音数及び語調語感が明らかに異なり、聴別は容易である。 また、本件商標要部から生じる「ミタマ」の文字部分と引用商標1から生じる「ミタマヤ」の称呼は、「ヤ」の文字部分の音の有無から、構成音数及び語調語感が明らかに異なり、聴別は容易である。 ウ 観念について 観念については、本件商標と本件商標要部からは特定の観念は生じないが、引用商標2からは「店舗名としての美玉屋」の観念が生じるから、紛れるおそれはない。 エ 小括 本件商標と引用商標2とは、外観、称呼及び観念において判別及び聴別は容易であり、相紛れるおそれはないから、両者の外観、観念、称呼等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。 その他、本件商標と引用商標2が類似するというべき事情は見いだせない。 (5)以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 2 商標法第4条第1項第15号該当性について (1)請求人は、引用商標に係る商品や役務の販売や提供額、販売や提供地域、広告、宣伝の程度など、引用商標の日本国内における周知性を客観的に判断するための具体的な証拠を何ら提出していない。 したがって、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、日本国内において、請求人の業務に係る商品や役務を表すものとして、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。 (2)引用商標は、上記(1)のとおり請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されているものとはいえないものである。 そして、本件商標は、上記1(3)及び(4)のとおり、引用商標とは相紛れるおそれのない非類似の商標である。 そうすると、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務との関連性の程度、需要者の共通性の程度などをあわせ考慮しても、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 その他、本件商標が商品の出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。 なお、請求人は、引用商標について、引用商標1の指定商品及び引用商標2の指定役務中「団子・その他の菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について、被請求人及びBに専用使用権を設定している(甲3、職権調査)。そうすると、引用商標を上記指定商品及び指定役務について、実際に使用しているのは、被請求人及びBといえる。 そうとすれば、引用商標を使用した商品又は役務に接する需要者、取引者が、引用商標を使用していない請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品や役務であるかのように、連想、想起することはあり得ないから、その出所についての混同を生ずるおそれはないというべきである。 3 商標法第4条第1項第7号該当性について 引用商標は、上記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されていたとは認められない。また、本件商標と引用商標とは、上記1のとおり非類似の商標であり、本件商標が引用商標を連想、想起させるものではない。 そして、請求人は、本件商標を商標登録する被請求人の行為は、被請求人とより密接な関係を有する者であるライセンサーである請求人の利益を害し、剽窃的行為に該当する旨主張するが、請求人の提出に係る全証拠を勘案しても、本件商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあったものと認めることはできない。 その他、本件商標は、それ自体何らきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるものでなく、また、他の法律によってその使用が禁止されているものとも認められない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 4 請求人の主張 請求人は、請求人の引用商標を被請求人にライセンスし、店舗を貸しているという事情から、本件商標の「美玉」は「美玉屋」を表しており、「だんご」からは美玉屋名物の「黒みつだんご」の観念を生じるから、本件商標と引用商標1は類似である旨、本件商標中の「だんご」の文字部分が出所識別標識として非常に弱いため、本件商標の要部は「美玉」であるから、引用商標2とは称呼が類似し、本件商標と引用商標2は類似である旨主張する。 しかしながら、本件商標の要部が「美玉」であるとしても、引用商標とは非類似であることは、上記1のとおりである。また、請求人主張の「美玉」が「美玉屋」を表すことや「だんご」が「黒みつだんご」であることを、客観的に示す証拠も見いだせないから、請求人の主張は採用できない。 5 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項15号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
審理終結日 | 2024-07-29 |
結審通知日 | 2024-08-19 |
審決日 | 2024-09-05 |
出願番号 | 2022046444 |
審決分類 |
T
1
11・
261-
Y
(W30)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
大森 友子 |
特許庁審判官 |
清川 恵子 白鳥 幹周 |
登録日 | 2023-10-19 |
登録番号 | 6746506 |
商標の称呼 | ミタマダンゴ、ミタマ |
代理人 | 本田 史樹 |
代理人 | 本田 史樹 |
代理人 | 田甫 佐雅博 |