• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W14
管理番号 1415579 
総通号数 34 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2024-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-11-07 
確定日 2024-09-12 
異議申立件数
事件の表示 登録第6731316号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6731316号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6731316号商標(以下「本件商標」という。)は、「PAGANI DESIGN」の欧文字を標準文字で表してなり、令和4年8月31日に登録出願、第14類「時計」を指定商品として、同5年8月3日に登録査定、同月30日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)の引用する国際登録第979660号商標(以下「引用商標」という。)は、「PAGANI」の欧文字を横書きしてなり、2008年(平成20年)6月3日にEUIPOにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年7月22日に国際商標登録出願、第9類、第12類、第14類、第16類、第18類、第20類、第25類及び第28類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成22年5月28日に設定登録されたものである。
そして、その後、引用商標の指定商品は、2010年(平成22年)3月24日に国際登録簿に記録された本件の登録の減縮、及び令和5年6月12日になされた指定商品の一部について商標登録を取り消すべき旨の審決の確定登録により、最終的に別掲に示すとおりの指定商品になったものであり、その商標権は現に有効に存続している。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第120号証(枝番号を含む。)を提出した。
なお、以下、証拠の記載に当たっては、「甲第○号証」を、「甲○」のように省略して記載し、枝番号を全て記載するときは枝番号を省略して記載する。
1 商標法第4条第1項第19号について
(1)他人の業務に係る商品又は役務を表示するもの
ア 本件商標権者
本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。」は、「中部貿易合同会社」となっており、本件商標権者の過去の商標登録出願をみると、第14類「時計」(甲6〜甲9)及び第35類「時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(甲10)について、複数の商標を出願・登録し、それらは「PAGANI DESIGN」とは異なる海外の時計メーカーのブランドである(甲11〜甲15)。
また、PAGANI DESIGN社は、2012年8月15日に中国広州で設立された中国の機械式腕時計メーカーであり、本件商標を付した腕時計を販売しており(甲16)、同社と本件商標権者は異なる法人である。
イ 申立人
申立人について、引用商標の国際登録時には「HORACIO PAGANI S.p.A.」であったが、2022年3月8日付けで「HORACIO PAGANI S.p.A.」が「PAGANI Automobili S.p.A.」に合併されたため、2022年7月4日付けで「PAGANI Automobili S.p.A.」に名義人の変更の記録の請求をWIPOに対して行った(甲4、甲5)。
また、2023年(決定注:「2022年」の誤記と認める。)7月8日付けで「PAGANI Automobili S.p.A.」から「HORACIO PAGANI S.p.A.」への名義人の表示変更の記録の請求をWIPOに対して行い、さらに、2023年5月4日付けで「HORACIO PAGANI S.p.A.」から「PAGANI S.p.A.」への名義人の表示変更の記録の請求をWIPOに対して行った(甲4)。
このように、「HORACIO PAGANI S.p.A.」、「PAGANI Automobili S.p.A.」及び「PAGANI S.p.A.」と引用商標の名義人は変更されているものの、いずれの名義も実質的に同じ法人を示す名称であり、申立人は、1992年の設立以来、30年以上にわたり、引用商標と同じ「PAGANI」を含む名称を使用し続けている。
申立人は、主たる事業として、第12類「自動車」を製造ないし販売しているが、事業の多角化に伴い、第12類の自動車以外の指定商品、並びに第9類、第14類、第16類、第18類、第20類、第25類及び第28類に属する指定商品についても、引用商標の登録設定を受けている。なお、申立人は、我が国において、「パガーニ」ないし「パガーニ・アウトモビリ」として知られていることが多いが、これは「PAGANI Automobili S.p.A.」の略称である。
ウ 小括
引用商標の商標権者は、本件商標権者や、本件商標を付した腕時計を製造販売している中国の腕時計メーカーであるPAGANI DESIGN社とは何の関係もないイタリアの自動車メーカーである。
したがって、申立人が提供するスーパーカーないしハイパーカーを主とする、複数の指定商品について登録設定されている引用商標は、本件商標権者にとって「他人の業務に係る商品を表示するもの」に該当する。
(2)周知性
ア 申立人は、イタリアのカーデザイナーにしてエンジニアであるオラチオ・パガーニ(Horacio Pagani)氏により1992年に設立されたイタリアの法人であり、1999年から約25年にわたり、スーパーカーないしハイパーカーを製造販売している自動車メーカーである(甲17、甲18(以下、申立人の業務に係る「スーパーカーないしハイパーカー」を「申立人商品」という。))。
オラチオ・パガーニ氏の名前に由来する申立人のハウスマークである「PAGANI」の表示は、以下のとおり、申立人商品について長年使用されてきた結果、本件商標の登録から本件商標の登録査定日、さらには現在に至るまで、需要者の間に広く認識されている。
(ア)ジュネーブ・モーターショーでの発表
申立人は、世界5大モーターショーの一つで、毎年数十万人の来場者があるジュネーブ・モーターショーで1999年3月に「パガーニ」の最初のモデル・ゾンダC12を発表し、ゾンダC12は、シャシーに卓越したカーボン成型技術が用いられ、レーシングカー的な独特なスタイルと特徴的なデザインと圧倒的な性能、そして非常に高額な少数生産モデルとして知られている(甲19、甲20)。
(イ)世界有数の名門サーキットでの市販車最速記録達成
生産されたゾンダシリーズのうち、「パガーニ・ゾンダFクラブスポーツ」は、生産販売された25台中の1台が日本におけるゾンダFの正規輸入車第1号車でもあるが、世界有数の名門サーキットであるドイツのニュルブルクリンク・サーキットにおいて、7分27秒82のタイムを記録し、市販車最速記録を達成し、スーパーカーないしハイパーカーの愛好家の注目を集め(甲21)、同サーキットでの最速記録はスーパーカー愛好家の関心事であり、多くの自動車雑誌に掲載される。
(ウ)ハイパーカーオブザイヤーの受賞
2010年に生産を終了したパガーニ・ゾンダの後継機として2011年に発表されたパガーニ・ウアイラは、V12エンジン搭載スポーツカーでは最高速度が370km/hと驚異的な性能を持ち(甲22)、自動車業界で圧倒的な存在感を放ったことで、イギリスで最大の発行部数をもち、中国、チェコ共和国、ギリシャ、リトアニア、ラトビア、インドネシア、韓国、フィンランド及びスウェーデンを含む世界10か国以上にライセンス供与で同名の姉妹紙をもつ総合自動車雑誌「Top Gear」において、2012年のハイパーカーオブザイヤーを受賞した(甲23、甲24)。
(エ)著名人の所有によるビジネス誌への掲載
申立人は、2014年上半期の世界新車販売において、全生産台数の40%が米国で販売されたと公表し、米国が世界最大市場となり、米国でのパガーニ車に対する需要が非常に根強いことが明らかになった(甲25)。
例えば、Meta Platforms,Inc.(旧称Facebook,Inc.)の共同創業者兼会長兼CEOであるマーク・ザッカーバーグもパガーニ・ウアイラを所有していることは、ビジネス雑誌でも取り上げられており、ビジネス雑誌読者にも知られている(甲26)。
(オ)申立人の売上増加に伴う認知度の向上
申立人の主たる事業内容はスーパーカーないしハイパーカーの製造と販売であり、申立人の2020年の売上高は、約1億700万ユーロ(甲27、甲28)、2021年の売上高は、約1億1,400万ユーロ(甲29、甲30)、2022年の売上高は、約1億3,800万ユーロである(甲31、甲32)。
本件商標の出願前後において、申立人は、約130億円(2020年)から約148億円(2021年)、約190億円(2022年)と急速に売上高を伸ばしており、売上高を見れば、申立人が事業を行う世界各国の需要者に引用商標が認知されていたこと、及び売上高の拡大とともに引用商標の認知度も年々高まっていたことは十分に理解できる。
(カ)正規輸入代理店・ショールームの開設
我が国においては、2014年までは、パガーニのスーパーカーないしハイパーカーは、並行輸入のもののみが存在していたが、2015年に申立人の我が国における正規輸入代理店であるパガーニ・ジャパンがビンゴスポーツによって設立され、正式に我が国でも展開することになり、パガーニ・ジャパンのショールームも東京、外堀通沿いに誕生した(甲33)。
その後、都内を中心にハイエンド高級車ブランドを取り扱う正規輸入車ディーラーであるSKY GROUPが、パガーニの正規ディーラーに加わり、同グループは、2020年10月から日本各地にて「パガーニ・ウアイラロードスター」の展示キャラバンを実施しており、神戸のショールームに加えて東京の品川にワークショップを構えている(甲34)。
(キ)ヨーロッパでの3つのカー・オブ・ザ・イヤーの受賞
パガーニ・ジャパンは、2013年6月24日、「パガーニ・ウアイラ」の日本1号車を公開し、特に、アルミ製のメーターパネルがスイス製の機械式時計をデザインモチーフとしているのが特徴となっており、「パガーニ・ウアイラ」は、2011年にデビューし、2013年時点で既にヨーロッパで3つのカー・オブ・ザ・イヤーを受賞している(甲35)。
(ク)我が国の需要者の関心の高さ
2013年6月26日の時点で、ウアイラの年間生産台数は20台で、日本へはそのうち2台が割り当てられており、ウアイラの価格はオーダーメイドであることから、あまり定まっていないとしつつも、100万ユーロからが目安とされている(甲36、甲37)。
なお、パガーニ・ウアイラの100万ユーロ又は約1億3,000万円という価格は、甲第22号証及び甲第33号証にも記載があり、パガーニ・ジャパンを取材した記事である甲第35号証では、目安となる基本価格を1億5,000万円からとしている。
また、パガーニ・ゾンダ・レボリューションの日本での価格は300万ユーロである(甲19)。
すなわち、日本国内において、2013年の時点で、パガーニ・ジャパンは、オプションも考慮すれば、日本市場に対して少なくとも年間2〜3億円もの売上を達成していたものと考えられる。
このように、1台につき1億円を超える高価格にもかかわらず、パガーニ・ウアイラの日本の販売シェアが全世界の年間生産台数の10%(20台中2台)を維持しているという事実は、申立人商品に対する我が国の需要者の関心が高いことを示すものといえる。
(ケ)我が国の需要者を対象とした申立人商品のテレビコマーシャル
パガーニ・ジャパンを運営するビンゴスポーツは、スーパーカー「ウアイラ」の日本導入に合わせてテレビコマーシャルフィルム(TVCF)「風の神」を製作し、2013年10月12日・13日、BSフジ「F1グランプリ2013日本GP」で放映が開始され、視聴者に大きなインパクトを与えた(甲38、甲39)。
(コ)申立人商品の有名サーキットで展示・走行
2016年6月4・5日、日本を代表するサーキットの一つである富士スピードウェイで開催された「2016ワンメイクレース祭り」において、世界限定で5台のみが販売され、価格3億円のパガーニ・ゾンダ・レボリューションが展示されて話題になった(甲40)。
また、株式会社ZOZO(以下「ZOZO社」という。)の創業者であるM氏もパガーニ・ゾンダZOZOを所有しており、鈴鹿サーキットで2019年4月28日に開催された「スーパーカーフェスティバル〜サウンドパフォーマーズ〜」に出演し、同氏は、パガーニ・ゾンダZOZOに搭乗して鈴鹿サーキット国際レーシングコースを走行し、4月29日〜30日に同日開催の「働くクルマ大集合!!」会場内でパガーニ・ゾンダZOZOの展示を行っている(甲41)。
甲第41号証に「鈴鹿サーキットのスーパーカーフェスティバル〜サウンドパフォーマーズ〜は、往年の名車から現代のハイパフォーマンスマシンまで、世界を代表するスーパーカーの迫力に触れることができるイベント。」とあるように、申立人の「パガーニ・ゾンダ」がフェラーリやランボルギーニとともに、世界を代表するスーパーカーであることが、日本モータースポーツファンの聖地であり、F1で有名な鈴鹿サーキットからも認められていたことがわかる。
(サ)我が国の著名な実業家・M氏による申立人商品のYouTubeでの紹介
ZOZO社の創業者であるM氏もパガーニ・ゾンダZOZOを所有しており、チャンネル登録者数130万人のM氏のYouTubeチャンネルにて公開された2020年8月21日付けの動画「【総額9.5億円!?】パガーニ&ブガッティ Mのスーパーカー大公開」にて、M氏所有のパガーニ・ゾンダZOZOを紹介し、300万回以上もの再生数を記録し、2.9万回もの高評価を受けるほど大きな話題となった(甲42)。
また、M氏は、同日付けの動画「【Pagani Zonda ZOZO】世界に一台!市場価格8億円のスーパーカー!?」において、「パガーニがMのために作った特注モデル『Pagani Zonda ZOZO』」として、「Pagani Zonda ZOZO」を詳しく紹介しており、動画中ではさらに、「パガーニ」の名前が申立人の創立者オラチオ・パガーニ氏に由来することや、M氏とオラチオ・パガーニ氏とのツーショットが紹介されている(甲43)。
このような我が国の著名な実業家による動画配信によって、引用商標は我が国のスーパーカーないしハイパーカーの需要者及び愛好者のみならず、一般人からの認知も獲得し始めている。
(シ)我が国のSKY GROUPによる申立人商品のメディアへの広告・宣伝活動
パガーニの正規ディーラーであるSKY GROUPは、2021年2月24日、世界40台限定の「ウアイラ・ロードスターBC」を、東京でメディア向けに披露し、限定40台が既に完売しているのにもかかわらず、メディア向けに披露した理由について、K取締役は、「パガーニの存在をより多くの人に知ってもらうため」と述べ、「今後発表されるモデルに向けて、パガーニの魅力をさらに伝えていきたいです」と話した(甲44)。
このように、我が国において、日本1号車が公開された2013年から現在に至るまで約10年近くにわたり、引用商標の認知度を向上させるため、及び引用商標に化体した信用、評判、名声を落とさぬよう、申立人と関係者らは継続的にメディアによる広告・宣伝を行っている。
(ス)申立人商品の日本の雑誌への掲載(フェラーリとランボルギーニに並ぶイタリアのスーパーカーブランド)
申立人商品は、我が国の雑誌においても積極的に特集されており、例えば、雑誌「名車アーカイブ イタリアンスーパーカーのすべて」において、フェラーリやランボルギーニと並んで、申立人の「PAGANI HUAYRA(パガーニ・ウアイラ)」が見開きのカラーページで大きく特集されている(甲45)。
この特集において、「パガーニ・アウトモビリ、その軌跡“新顔”から“名門”へ」というタイトルの記事で、「21世紀前に強豪ひしめくイタリアで設立したパガーニは、第2世代モデルへと移行。幾多の挑戦者が生まれては消えるスーパーカーの世界にあって、確固たる地位を築いた。」として、「パガーニ。その第1号車の登場から15年と、新興と呼んでも差し支えないメーカーだ。しかし、今やその名は、フェラーリとランボルギーニに並ぶイタリアのスーパーカーブランドとして、世界に輝いている。」と記載されている。
また、スーパーカーの聖地であるモデナでは、オラチオ・パガーニ氏は「モデナの顔」として、「フェラーリやランボルギーニファンでパガーニの名を知らぬ者などいなく、モデナではフェラーリやランボルギーニに匹敵するほどの大きな発言力を持っている」と紹介されている(甲46)。
このように、「パガーニ」は、フェラーリとランボルギーニに並ぶイタリアのスーパーカーブランドとして、確固たる名門の地位を築いていたことは、我が国の自動車雑誌読者にとっては周知の事実であった(甲45)。
その後も、申立人商品は定期的に雑誌の特集に取り上げられており、2016年の雑誌「GENROQ」には、「PAGANI HUAYRA BC」の特集が見開き6頁にわたって掲載されている(甲47)。
また、自動車雑誌のような専門誌にとどまらず、一般誌「BRUTUS No.919『東京の正解』(2020年7月1日号)」の1970年代に日本を席巻した高級スーパーカーブームを紹介する記事において、世界でも指折りのスーパーカー・タウンとされる東京で撮影されたランボルギーニ・ミウラと申立人のパガーニ・ウアイラBCが並んで紹介され、この記事はBRUTUSのウェブサイトにおいて、2023年12月23日にも掲載されている(甲48)。
(セ)申立人商品の我が国の図鑑への掲載
申立人商品は、小学校高学年から上の子供向けの「世界のスーパーカー図鑑」に見開き8頁にわたって収録され、2018年12月の時点で、世界のスーパーカーとして子供向けの図鑑に収録されるほど、我が国においても幅広い人気を得ていたことがうかがえる(甲49)。
また、申立人商品は、2019年12月25日に発行された「イタリア車大図鑑」においても、世界中の自動車ファンを魅了するイタリアの名車361モデルの一つに選ばれており、パガーニ・ゾンダC12及びパガーニ・ウアイラが紹介されている(甲50)。
特に、申立人商品が、フェラーリとランボルギーニと並んで、日本の雑誌の特集で何度も大きく取り上げられるだけでなく、子供向けの図鑑やイタリア車の図鑑にも収録されていることは、我が国において、申立人商品が周知性を獲得したことの証左であるといえる。
(ソ)申立人商品の自動車業界以外の幅広い宣伝活動
申立人は、自動車業界に限らず、映画やホビー、ゲームなどの様々な業界においても、「パガーニ」のスーパーカーの使用許諾を積極的に行い、「パガーニ」の世界的な知名度の向上に継続的に努めており、引用商標は、映画やゲーム、漫画などの様々なメディアを通じて幅広く宣伝されてきており、その結果、スーパーカーないしハイパーカーの需要者だけでなく、スーパーカーないしハイパーカーに興味のある需要者にも広く認識されている。
(タ)申立人商品の世界的に著名な映画での起用
2007年にマイケル・ベイ監督、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮で製作されたアメリカのSFアクション映画シリーズ「トランスフォーマー」の4作目として、2014年に公開された「トランスフォーマー/ロストエイジ」の人造トランスフォーマーのプロトタイプにパガーニ・ウアイラが起用されて大きな話題になり(甲51)、当該映画は、全世界興行収入が10億ドル(約1,000億円)を超え、当時世界興行ランキングで歴代9位を記録する大ヒット作となった(甲52)。
また、「トランスフォーマー・ロストエイジ」の公開を記念して、パシフィコ横浜B・Cホールにおいて、2014年8月9日から8月17日まで開催された世界最大級のトランスフォーマー空間体感イベント「トランスフォーマー展」において、パガーニ「ウアイラ」が展示された(甲53)。
このように、著名な映画への起用により、パガーニは、スーパーカーないしハイパーカーの取引者及び愛好者にとどまらず、映画ファンなど異なる層の人々からの知名度を獲得することができたものと考えられる。
(チ)申立人商品の我が国での模型の商品化
タカラトミーが、映画「トランスフォーマー」シリーズより、歴代の人気キャラクターをベストチョイスした「スタジオシリーズ」の第1弾のラインナップにおいて、赤いスポーツカー「パガーニ・ウアイラ」に変形するディセプティコンの兵士「スティンガー」の完全変形フィギュア「SS−02ディセプティコンスティンガー」を2018年4月21日に発売した(甲54、甲55)。
さらに、人気のスーパーカーのプラモデルを1/24スケールでリリースする青島文化教材社の「ザ☆スーパーカー」シリーズとして「パガーニ ゾンダC12S」が発売された(甲56)。
青島文化教材社は、1932年頃に模型の飛行機を作り始めて以来、90年以上もの歴史を有する老舗の模型メーカーであり、スーパーカーブームの際に発売した「スーパーカーシリーズ」が大ヒットしたことで知られている(甲57)。
このため、「パガーニ ゾンダC12S」が青島文化教材社の「ザ☆スーパーカー」シリーズに採用されるほど、我が国においても「パガーニ」の認知度は高まっており、また、根強い人気があったことがうかがえる。
(ツ)申立人商品の我が国のレーシングゲームへの登場
申立人商品は、著名な我が国及び外国のレーシングゲームにも起用されている。
a バンダイナムコエンターテイメント
バンダイナムコエンターテイメントは、プレイステーション4用ソフト「PROJECT CARS PERFECT EDITION(プロジェクト カーズ パーフェクト)」を2016年6月9日に発売し、同ソフトは、欧米で累計出荷本数150万本以上を達成したリアル・レーシング・シミュレーションであり、そのパッケージには、2016年3月3日の「ジュネーブ・モーターショー」にて申立人から発表された推定価格約2.8億円の「Pagani Huayra BC」の画像がデザインされている(甲58)。
さらに、バンダイナムコエンターテイメントは、上記ソフトについて、人気声優のF氏のナレーションによるスペシャルPVを公開し(甲59)、当該スペシャルPVは、上記ソフトのパッケージになっている「Pagani Huayra BC」に焦点を当てた映像となっており、動画の冒頭、中央部分に大きく「PAGANI」の文字が表示されている(甲60)。
b 任天堂
Nintendo Switch初の本格リアルレースゲーム「ギア・クラブ アンリミテッド」の追加ダウンロードコンテンツ「スーパーカーパック2」に、Pagani Huayra Roadster Ginevra/C2カテゴリーがラインナップされており(甲61)、同コンテンツは、2021年7月2日付けで世界販売数が100万本を突破し、NintendoSwitchを代表するゲームの一つとなった(甲62)。
c ソニー
ソニー・インタラクティブエンタテイメントは、リアルドライビングシミュレーターとして知られるゲームソフトシリーズ「グランツーリスモ」を販売しており、2019年、「グランツーリスモ」シリーズ初のPS4作品である「グランツーリスモSPORT」のアップデートにおいて、「PAGANI HUAYRA 2013」がトヨタやマツダの名車とともに登場した(甲63)。
「グランツーリスモ」シリーズは、1997年にPlayStationで発売された第1作から20年以上もの歴史があり、2018年4月末時点で累計販売本数8,040万本を突破した世界的な人気シリーズである(甲64)。
d ジンガ
申立人は、2019年7月31日付けで「Pagani Huayra Roadster BC」をジンガのレーシングゲーム「CSR Racing 2(CSR2)」で世界初公開し、自動車メーカーが、一般発売前にモバイルゲームの中で、本物のデザイナーカーを発表する初の試みで話題になった。CSR2では、プレイヤーはパガーニ「ゾンダHPバルケッタ」を獲得して、自身のパガーニコレクションを完成させ、拡張現実(AR)を使用することで、実世界のガレージにウアイラ ロードスターBCなどのパガーニ車を置き、ドアなどのすべてのパネルを開いて、細部を近くで眺めることができ(甲65)、CSR2は、2017年11月20日の時点において、5,000万回ダウンロードされ、1億ドルの売上を計上した世界的な人気コンテンツとなっている(甲66)。
(テ)申立人商品の我が国の国民的コミックへの紹介
「週刊少年ジャンプ」において1976年の連載開始から40年以上にわたって連載され、2016年9月17日に発売された最終巻で200巻を記録してギネス世界記録に認定され、1巻からの累計発行部数が1億5,000万部以上、テレビアニメ化、実写ドラマ化・映画化もされた秋元治氏の人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(通称「こち亀」)は、日本の国民的コミックとして我が国で広く知られているが(甲67)、「スーパーカー散歩の巻」というエピソードにおいて、主人公の両津勘吉が自ら「パガーニ・ウアイラ」に乗車して、夜中の首都高で「パガーニ・ウアイラ」を運転・走行するシーンが描かれている(甲68)。
このエピソードにおいて、「エンジンがAMGの12気筒」、「ツインターボ」、「最高速380km/s」、「0−100m3秒」、「車高2センチ」など、パガーニ・ウアイラの性能が詳細に紹介されているだけでなく、ランボルギーニにいたデザイナー(オラチオ・パガーニ)が独立してパガーニを作ったことや、カウンタック・アニバーサリーをデザインしたこと、パガーニ・ウアイラが初代ゾンダよりも乗りやすいこと、ドイツのニュルブルクリンクにおける世界新記録について、2016年6月現在、1位がパガーニ・ゾンダR(サーキット専用車)の6分47秒50であることなど、「パガーニ」に関するうんちくが数多く紹介されている。また、別のエピソード「サブマリン航路の巻」の扉絵にも、「ZONDA REVOLUSION(サーキット専用車 限定5台)」が一面に描かれ、「ZONDA R、これはその最終進化型」と紹介され、さらに、「両津さんにおすすめしますの巻」の扉絵にも「PAGANI HUAYRA」が大きく描かれ、「アルミとカーボンに身を包んだ軽量・700馬力」と紹介されている(甲69)。
このように、我が国の国民的コミック「こち亀」においても、スーパーカーを題材とするエピソードで主人公が最初に乗車するスーパーカーとして、申立人の「パガーニ・ウアイラ」が主人公・両津勘吉のうんちくとともに詳しく紹介されていることから、我が国において、「パガーニ」が世界の代表的なスーパーカーとして大変な人気があったことがうかがえる。
このように、「パガーニ」は、我が国において、自動車業界のみならず、映画やプラモデル、ゲーム、漫画など、様々な業界で取り上げられていることから、スーパーカーないしハイパーカーの需要者だけでなく、スーパーカーないしハイパーカーに興味のある需要者層にも広く知られている。
イ 小活
このように、引用商標は、本件商標の登録出願時以前から本件商標の登録査定時、さらに現在に至るまで、フェラーリとランボルギーニと並ぶイタリアの著名な自動車メーカーである申立人の業務に係る商品(スーパーカーないしハイパーカー)を表示するブランド商標として、我が国を含む世界各国のスーパーカーないしハイパーカーの需要者に広く認識されていたことが認められる。
また、申立人は、世界的な人気ゲームにも「PAGANI」の車の名称及びデザインを積極的に使用許諾しているから、実際にスーパーカーないしハイパーカーの購入者層でないもののスーパーカーないしハイパーカーに興味のある需要者も、これらのゲーム内で気軽に「PAGANI」のスーパーカーを運転することができるため、「PAGANI」は、スーパーカー好きな日本人にとっても、トヨタやマツダの名車と並んでなじみの深い車の名称であるものと認められる。
以上のように、引用商標は、スーパーカーないしハイパーカーの需要者の間において、世界的な超高級スーパーカーブランドを生産販売する申立人の業務を表すものとして、本件商標の登録出願日には既に相当程度広く認識され、その周知性は、本件商標の登録査定日においても継続していたものといえる。
このように、引用商標は、映画やゲーム、漫画などの様々なメディアを通じて幅広く宣伝されてきており、その結果、スーパーカーないしハイパーカーの需要者だけでなく、スーパーカーないしハイパーカーに興味のある需要者、さらに言えば、一般の人々にも広く認識されているといえる。
(3)同一又は類似
ア 本件商標
本件商標は、「PAGANI DESIGN」の文字を標準文字で表してなる結合商標であるが、その構成文字である「PAGANI」と「DESIGN」との間にはスペースがあり、一体不可分ではなく、「DESIGN」には、識別力がない。
すなわち、「DESIGN」は、「デザイン、設計、意匠、図案」等の意味を有する外来語又は英語として一般的に用いられている語であり、第14類の本件指定商品との関係でみた場合には、何ら自他商品を識別する機能は有しない。
また、本件商標の「PAGANI」の文字部分については、周知・著名な自動車メーカーの通称として広く知られ、さらに、従来から時計業界と自動車業界との間には、コラボレーションが頻繁に行われているという実情があることから、本件商標に接する需要者にとっては、「PAGANI」の文字部分が強く記憶に残り、当該部分が、本件商標の要部として認識される。
したがって、本件商標の構成中「DESIGN」の文字部分からは、自他商品識別標識としての独立した称呼や観念は生じず、「PAGANI」の文字部分が本件類否判断の対象となる要部というべきである。
イ 引用商標
一方、引用商標は、「PAGANI」の欧文字を横書きしてなり、申立人の創業者の名前「Horacio Pagani」に由来するハウスマークであり、特定の意味合いを看取させるものではないことから、独創的な商標である。
ウ 本件商標と引用商標との類否判断
本件商標の構成中、需要者に対し強く支配的な印象を与える「PAGANI」の文字部分は、引用商標を構成する「PAGANI」の文字と構成文字のつづりを共通にするものであるから、本件商標と引用商標とは、外観上類似するものである。
そして、本件商標と引用商標とは、「パガーニ」の称呼及び申立人の周知・著名ブランドとしての「PAGANI」又は「パガーニ」と観念を同一にするものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観上類似し、称呼及び観念を同一にするものであるから、両者は、相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
仮にそうでなかったとしても、「PAGANI DESIGN」という本件商標の指定商品の需要者が通常払う注意力で見れば、「PAGANIというブランドのデザインを有する時計」ないし「PAGANI氏のデザインした時計」のように感じさせるものである。
エ 本件商標の審査段階での類否判断
本件商標登録出願第2022−100515号について、令和4年10月21日(起案日)付けで「この商標登録出願に係る商標は、引用商標と同一又は類似であって、その商標登録に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する」との理由により、特許庁から拒絶理由通知を受けており(甲70)、この理由からも、本件商標が引用商標と同一又は類似であると、特許庁の審査官が認定していることがわかる。
本拒絶理由通知に対し、本件商標登録出願人は、令和4年9月2日付けで引用商標の指定商品中、第14類「horological and chrono metric instruments」についての商標登録の取消審判の請求を行い(甲71)、その結果、本拒絶理由通知が解消されたが、これは本件商標の指定商品、第14類「時計」と同一又は類似の上記指定商品について引用商標が取り消されたことによるものであり、本件商標が引用商標と同一又は類似であることの審査官の認定自体はいまだに解消されていないから、本件商標は、需要者の間に広く認識されている申立人の商標「PAGANI」と他の文字「DESIGN」と結合した商標であり、申立人の商標が既成語の一部となっている事情もないことから、上記基準に照らしても、申立人の商標と類似する。
(4)不正の目的の使用
ア 引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力へのフリーライド
本件商標の指定商品「時計」と、引用商標の指定商品の一つである「自動車」とは需要者が重複しており、自動車メーカーとコラボレーションして時計メーカーが販売する事例だけでなく、自動車メーカーが関連ブランドとして時計メーカーに作らせて販売する事例について説明し、特に後者の事例において、「自動車メーカー名 DESIGN」という商標が自動車メーカーによって商標登録出願・登録されている実情があり、本件商標登録出願人がそのような実情を利用して、周知な引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力を利用して不正な利益を得ようとしている。
(ア)引用商標が申立人のハウスマークかつ独創的な商標であること
引用商標は、申立人の創業者の名前「Horacio Pagani」に由来するハウスマークであり、特定の意味合いを看取させるものではないことから、独創的な商標である。さらに、引用商標は申立人が創業から30年以上の長きにわたり使用を続けている名称であって、その過程で信用、名声及び顧客吸引力を獲得してきた商標である。
(イ)腕時計好きの需要者と自動車好きの需要者との関係
従来、腕時計好きの需要者と自動車好きの需要者との間には、密接な関係があり、自動車好きには腕時計好きが多いことが知られている。
その理由として、「『自動車好きの人には腕時計好きの人も多い』と一般的に言われますが、やはり両方とも『機械モノ』という共通点があるためかもしれません。」、「そしてまだ腕時計メーカーと組んでいない自動車メーカーについては『この腕時計メーカーと契約したらいいのに』と考えることがあって、」との記載があり(甲72)、腕時計メーカーとコラボをしていない自動車メーカーに対しても、コラボによる腕時計の販売を望む需要がある。
このような需要を受けて、従来から時計業界と自動車業界との間には、コラボレーションが頻繁に行われているという実情がある。
時計業界と自動車業界のコラボレーションが多い理由を別の観点から述べる証拠として、「車と時計には密接な関係があります。20世紀初頭、自動車とほぼ同時期に腕時計が人気を博しました。最近では、この2つの業界の関係は大きなビジネスとなっており、ブランド間のコラボレーションにより、両社はより多くの顧客にリーチできるようになっています。」と説明されている(甲73)。
また、「多くの腕時計ブランドが、自動車メーカーやモーターレース、レーシングチームとのパートナーシップを結んでいる。」理由として、「歴史的に時計と車は、近しい存在であり続けてきた。人々が馬車に乗って旅をし始めて以降、懐中時計や馬車用の時計は、社会的に重要な存在となったからである。自動車の台頭によって、時計ブランドはダッシュボード用の時計を作り始め、歴史的にそれと並行して腕時計の生産も増加傾向となっていった。」と説明されている(甲74)。
さらに、「時計好き」と「クルマ好き」が共通する理由について「機械的」であることや「ステータスの象徴」とされていることなどが紹介されている(甲75)。
また、「時計ブランドと自動車メーカーは度々コラボレーションをしている」理由として、「世界観を同じくするブランド同士のコラボはお互いのブランド価値を高める」と説明されている(甲76)。
そして、「腕時計と車の関係」について、「腕時計と車には似た部分があります。例えば、所有する個数(台数)です。腕時計も車も、一般的には『ひとり1個(台)』という所有が多く、多い方でも数(台)程度でしょう。そのため、“相棒”のように感じることもでき、愛着が沸きやすい点は似ていると感じます。」と記載されている(甲77)。
また、「車と腕時計は深い関係」にある理由として、「昔からステータスシンボルの役割を担う腕時計と車は、妥協できない重要なアイテム」であり、「特に男性は、この2つにこだわりを持つ方も多い」こと。また、「時計と車は古くから関係性が深く、高級車のコンソールに埋め込まれた時計や、モータースポーツをルーツに開発された腕時計など、その例は多々存在」することがあげられている(甲78)。
さらに、「腕時計と切っても切れない関係にあるのがクルマです。」として、その理由について、「腕時計とクルマの共通項は多く、いずれも流麗なデザインに精緻なメカニズムを秘め、内から伝わる鼓動はオヤジさんの心を虜にします。両者は、時間とスピードいう、まさに切っても切れない関係そのものなのです。」、「自動車メーカーや名車、伝統的なカーレースとのコラボレーションウォッチは、古今存在し、深い絆を象徴します。近年ではお互いのブランドの歴史や文化、価値観などを深く理解し、より世界観を共通させるモデルが増えているのです。」、「R&Dの共有化や事業活動でのパートナーシップを組むところもあり、より密な関係に。そうした背景から、最新のコラボも独創的なスタイルに最先端の技術革新を注ぎます。」と記載されている(甲79)。
また、「クルマと時計はコラボによってより魅力が輝く!」として、その理由について、「クルマと時計についての親和性の高さは今さら多くを語るまでもないだろう。自動車業界的からも、時計業界的からも、両者のマーケットはリンクしていると言われている。」、「それを如実に表しているのがF1業界かもしれない。各チームが各々時計ブランドをスポンサーに持っている。マシンを見れば一目瞭然。ボディサイドにカッコいいデカールが貼られ、お互いのブランド力が「1+1=2」以上に感じるほど魅力あるものとなっているのだ。」と記載されている(甲80)。
以上のことから、腕時計好きの需要者と自動車好きの需要者が重複していることは疑う余地もない事実である。
(ウ)自動車メーカーとコラボレーションして時計メーカーが販売する事例
自動車メーカーとコラボレーションして時計メーカーが販売する事例として、例えば、メルセデス・ベンツとスウォッチを作るスイスのSMH社との合併企業であるMCC社が1994年3月に設立されたことや、トヨタとカシオが2022年の初めに、特別なG−Shockの開発のためにコラボしたこと、2019年にグランドセイコーが日産GT−Rの50周年を祝うコラボレーションをリリースしたこと、2014年ベルギーのブランドIce WatchがBMWとのコラボレーションモデルをリリースしたこと、メルセデスAMGとスイスのブランド、インターナショナル ウォッチ カンパニーが2004年から自動車業界と時計業界の間で最も長いコラボレーションを行っていること、スイスの時計会社であるブライトリングがベントレーとの正式なパートナーシップが20年前にさかのぼることなど、自動車会社と時計メーカーの長年にわたる象徴的なパートナーシップの例が数多く紹介されている(甲73)。
また、「ロレックス デイトナ」や「タグホイヤー フォーミュラ1」などのモータースポーツをルーツとするモデルが時計に多数存在している(甲81)。
世界屈指のモーターチューンメーカーAMGとパネライやIWCとのコラボレーションモデル、イギリスの高級車の製造・販売会社であるベントレー・モーターズとブライトリングとのコラボレーションモデル、高級四輪駆動車を専門とする英国の自動車メーカー・ブランドのランドローバー/レンジローバーとゼニスとのコラボレーションモデル、日産自動車とタグホイヤーとのコラボレーションモデル、イタリアのフェラーリとウブロやパネライ、ジラールペルゴとのコラボレーションモデルなど、自動車メーカーと腕時計メーカーとのコラボレーションモデルが多数紹介されている(甲81)。特に、コラボモデル13に示されるように、2014年のフェラーリコラボモデルである401.HQ.0121.VRは、ダイアル9時位置にフェラーリのエンブレムがセットされ、針やインデックスもフェラーリのメーターを模したデザインとなっている。
(エ)自動車メーカーが関連ブランドとして時計メーカーに時計を作らせて販売する事例
自動車メーカーとコラボレーションして時計メーカーが販売する事例に加えて、自動車メーカーが関連ブランドとして時計メーカーに作らせて販売する事例がある。
その際に、従来から世界中の自動車メーカーが、その事業の多角化等に伴い、その「ハウスマーク」に「Design」の文字を付した結合商標を出願・登録することが一般に行われているという実情がある。
例えば、ドイツのポルシェ社は、「PORSCHE DESIGN」の商標を出願・登録しており(甲82〜甲88)、「PORSCHE DESIGN」のブランド名で、衣服、アクセサリー、カバン、時計、サングラス、自動車用品、文具、小物などの多様な商品が販売されている(甲89)。
「PORSCHE DESIGN」は、伝説的な自動車ポルシェ911のデザイナーであるフェルディナンド・アレキサンダー・ポルシェ氏により1972年に設立されたブランドであり、同年、「PORSCHE DESIGN」名義の最初のプロダクトとして、世界初のオールブラックの腕時計「クロノグラフ」が発表された。「PORSCHE DESIGN」は我が国においても腕時計のブランドとしても知られ、最初の腕時計「クロノグラフ」が「クロノグラフ1−1972 リミテッド・エディション」として2022年にブランド設立50周年を記念して復活した。クロノグラフは1972年のオリジナル・モデルのダイアル、ケースバックに歴史的な最初期の「PORSCHE DESIGN」のロゴが記され、このモデルのために特別に開発されたブレスレットとリュウズにもオリジナル・モデルのデザインが再現されている(甲90)。
また、マツダ株式会社も、「MAZDA DESIGN」の商標を出願・登録しており、第14類「時計」を含む9区分もの指定商品を指定している(甲91)。
マツダ株式会社は、ドイツの高級時計メーカーSinnとの協業プロジェクトにより、2007年8月に欧州マツダディーラーにて「マツダデザイン・クロノグラフ」を販売した(甲92、甲93)。
株式会社SUBARUも、「SUBARU DESIGN」の商標を出願・登録しており、第14類「時計,計時用具」を含む15区分もの指定商品を指定している(甲94)。
株式会社SUBARUは、2018年3月30日〜4月7日、東京恵比寿の本社ショールーム「スバルスタースクエア」で、スバルのデザインを体感できる展示会「SUBARU DESIGN MUSEUM」と開催した(甲95)。
また、2016年9月、SUBARUオンラインショップから、SUBARUがオリエント時計とのコラボした「SUBARUオリジナルウォッチ」が限定360本で発売されており、この時計の外周には「SUBARU DESIGN」のロゴが刻印されている(甲96)。
ドイツの高級車メーカー・アウディAGも、「Audi design」の商標を出願・登録しており、第14類「計時用具」を含む3区分の指定商品を指定している(甲97)。
「Audi design」の腕時計は、2019年4月時点において、日本正規高級時計協会を通じて日本国内においても販売されていた(甲98)。
(オ)本件商標権者が本件商標の登録出願の時点で引用商標の存在を知っていた可能性
本件商標権者は、令和4年9月2日付けで引用商標の指定商品中、第14類「horological and chrono metric instruments」(すなわち、時計)についての商標登録の取消審判の請求を行っている(甲71)。
ここで、当該審判請求日(令和4年9月2日)は、本件商標の出願日(令和4年8月31日)のわずか2日後であることから、当該審判請求の準備期間も考慮すれば、本件商標権者は、拒絶理由通知を受けて初めて引用商標の存在を知ったとは考えられず、むしろ本件商標の出願の時点で引用商標ないし申立人の存在を知っていた可能性が高いものといえる。
(カ)申立人の主たる事業所のあるイタリアにおいて、「PAGANI DESIGN」の商標登録出願が行われていない事実
WIPOのGLOBAL BRAND DATABASEで確認したところ、「PAGANI DESIGN」は、日本のほかに、カンボジア・ドイツ・メキシコ・マレーシア・モロッコ・ヴェトナム・アラブ首長国連邦・タイ・ブラジル・スペイン・米国・インドネシア・シンガポール・英国の14か国において、本件商標権者とは異なる様々な出願人の名前で商標登録出願されていることが確認できる(甲99)。
しかしながら、申立人の主たる事業所のあるイタリアにおいては、「PAGANI DESIGN」の商標登録出願が行われていない。この事実から見ても、「PAGANI DESIGN」の商標登録出願が、申立人本国での不正使用発覚をおそれ本国以外の国において、申立人の名声を僭用して不正な利益を得るために使用する目的、その他不正な意図をもってなされたものであると推察される。
(キ)小括
本件商標権者は、本件商標の他にも第14類「時計」を指定商品とする商標登録出願を複数しているから、時計に関する事業を行う法人であると推察される。このため、自動車業界と時計業界のマーケットがリンクしていることや、自動車メーカーとコラボレーションして時計メーカーが販売することや、自動車メーカーが関連ブランドとして時計メーカーに作らせて販売することのみならず、世界中の自動車メーカーの「ハウスマーク」に「Design」の文字を付した結合商標と、その商標の付された時計が販売されていることを把握した上で、引用商標の信用、名声及び顧客吸引力にフリーライドすべく、「時計」を指定商品として、申立人のハウスマークである「PAGANI」に「DESIGN」の文字を付した結合商標を出願・登録することで、自動車の需要者と重複する時計の需要者にあたかも「PAGANI」の時計である、あるいは「PAGANI」とコラボした時計であると誤認させることにより、不正な利益を得ようとしたことは明らかである。
ポリューション
引用商標は本件商標権者にとって他人の商標であり、周知な商標であること、本件商標と引用商標は類似又は同一であること、時計の需要者と自動車の需要者は重複すること、及び自動車メーカーの「ハウスマーク」と「DESIGN」という言葉を結合させたブランド名で自動車メーカーとコラボした腕時計が販売されていることから、本件商標が低品質の腕時計に使用された場合、需要者が本件商標「PAGANI DESIGN」が付された腕時計を申立人の商品又は引用商標の使用許諾を受けた商品と誤認して購入する可能性が十分考えられる。その場合、申立人商品のブランド価値がポリューション汚染)されるおそれがある。
(ア)申立人商品が徹底的なこだわりにより顧客の信用を獲得したこと
申立人商品は、「手作りにより少数生産にこだわり、顧客満足度を上げる」ことをモットーとしており(甲17)、「幸いなことに、ランボルギーニ時代から、モデナを知り尽くしたオラチオは、周辺にある高い技術をもったサプライヤーについて熟知している。彼らとの親密なコラボレーション体制が確立されていることがパガーニの強みだ。」とあるように、少数でもこだわりをもって生産する体制により、極めて高い品質を有することで知られている。
例えば、「完全主義者の創始者が作ったビジネスモデル」として、「オラチオ氏は、少量生産だからすぐに壊れるというようなエクスキューズをすることは許せない完全主義者であった。」、「彼はモデナの機械加工会社と提携し、パガーニが発注するとあらかじめ預けておいたデータを元に、あらゆるパーツを削り出し、速やかに納品されるルートを作っていた。だからお得意のカーボンファイバー成形ともども、少量生産メーカーならではの複雑な造形に加えて、クオリティの高さを実現することができたわけだ。」とあるように(甲46)、妥協を一切許さないオラチオ・パガーニ氏の完璧主義に基づく徹底的なこだわりによって、申立人商品のクオリティの高さが実現され、ターゲットとなる顧客の信用を獲得した結果、パガーニがランボルギーニと並ぶごくわずかなトップブランドとなったことが認められる。
(イ)本件商標の腕時計の品質の甘さについての需要者の指摘
PAGANI DESIGN社の腕時計の品質の評価は、「革バンドの糸が解れていた事。」(甲100)、「時針や分針が薄っぺら」(甲101)、「金属のバリ感があって、ブレスの動きもギクシャク。擬似ではないものの、それぞれが独立してスムーズに動かない。何度もコジってなじませる必要がある。」「拡大するとインデックスにゴミらしきものがついている。」「ケースのエッジ処理が甘くて丸みがある。」「細部の詰めが甘い」(甲102)、「ブレスなどの仕上げ、ちょっとエッジが効いてる。それとベゼルの遊び、ねじ込み竜頭のねじ等、やっぱ最後の仕上げが甘い。」(甲103)、「私が購入した個体はベゼルインデックスの5分の辺りにベゼルリングを接着する時に使用したと思しき接着剤が付着していました」(甲104)など、その品質の甘さを指摘する購入者のレビューが数多くみられる。
(ウ)小活
PAGANI DESIGN社の腕時計の品質の甘さは、妥協を一切許さない徹底的なこだわりによって高いクオリティを実現した申立人商品の引用商標に化体したブランド価値をポリューション汚染)し、その価値を損なわせることは明らかである。
ウ ダイリューション
同様に、申立人商品以外の商品である腕時計に、引用商標「PAGANI」を含む本件商標を付することにより、引用商標の識別機能が弱められること、及び/又は引用商標に化体したブランド価値が薄められるため、商標のダイリューション(稀釈化)も生じていることも明らかである。
エ 信用・名声・顧客吸引力の毀損
妥協を一切許さないオラチオ・パガーニ氏の完璧主義に基づく徹底的なこだわりによって、申立人商品のクオリティの高さが実現され、ターゲットとなる顧客の信用を獲得した結果、パガーニがランボルギーニと並ぶごく僅かなトップブランドとなったことが認められるのに対し、PAGANI DESIGN社の腕時計の品質の評価は、品質の甘さを指摘する購入者のレビューが数多くみられるから、PAGANI DESIGN社の腕時計の品質の甘さは、妥協を一切許さない徹底的なこだわりによって高いクオリティを実現した申立人のスーパーカーないしハイパーカーの引用商標に化体した信用・名声・顧客吸引力を毀損するものであることは明らかである。
(5)まとめ
以上のように、本件商標は、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にフリーライドする不正な目的で登録を受けたものであり、また、本件商標が本件指定商品に使用された場合、申立人商品のブランド価値がポリューション汚染)・ダイリューション(稀釈化)され、その周知商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標は、第4条第1項第19号に該当する。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)公序良俗違反
ア 商取引の秩序を乱すものであり、公序良俗を害する行為であること
腕時計好きの需要者と自動車好きの需要者との間には、密接な関係があり、自動車好きには腕時計好きが多いことが知られており、このような需要を受けて、従来から時計業界と自動車業界との間には、コラボレーションが頻繁に行われているという実情がある。
また、自動車メーカーが関連ブランドとして時計メーカーに作らせて販売する際に、「PORSCHE DESIGN」、「MAZDA DESIGN」、「Honda Design」、「SUBARU DESIGN」及び「Audi Design」に示されるように、「メーカー名」に「Design」の文字を付した結合商標を出願・登録した上で、当該結合商標を付した腕時計等の商品が販売されている実情もある。
それゆえ、本件商標権者は、上記のような世界中の自動車メーカーの商標を把握した上で、引用商標の名声にフリーライドすべく、「時計」を指定商品として、申立人のハウスマークである「PAGANI」に「DESIGN」の文字を付した結合商標を出願・登録したことは明らかである。
さらに、東京高判平成11年3月24日判時1683号138頁〔JUVENTUS事件〕では、我が国においてその名称をもって周知・著名な外国の申立人と無関係の者が、その承諾を得ずに申立人の名称を含む商標の登録を受けることは、それが商標法第4条第1項第15号、同項第19号等によって商標登録を受けることができない場合に当たらないとしても、申立人の名声を僭用して不正な利益を得るために使用する目的、その他不正な意図をもってなされたものと認められる限り、商取引の秩序を乱すものであり、公序良俗を害する行為というべきであると説示されている。
知財高判平成25年6月27日 H24(行ケ)10454〔KUMA事件〕は、著名な商標と酷似した構成態様の商標を利用した商標登録を無効とする審決の取消を求めた事案であるが、裁判所は「本件商標は、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力を本件商標権者が把握しており、それを不正に利用しようとして、フリーライドする不正な目的で登録を受けたものといわざるを得ない。
そして、本件商標をその指定商品に使用する場合には、引用商標の出所表示機能が稀釈化(ダイリューション)され、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力、ひいては申立人の業務上の信用を毀損させるおそれがあるものというべきであるから、本件商標は、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的(商標法1条)に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである」と判断している。
そうすると、本件商標は、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標に類似する商標を出願し登録を受けたものといわざるを得ないから、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるとともに、商取引の秩序を乱すものであり、公序良俗を害するものであるとして到底容認し得ないというべきである。
イ 国際信義に反すること
(ア)イタリア国若しくはイタリア国民を侮辱すること
申立人は、イタリアのオラチオ・パガーニ(Horacio Pagani)氏により1992年に設立されたイタリアの法人であり、現在も本拠地をイタリアに構えている自動車メーカーであり、世界の最高水準の性能を持つ、イタリア製のスーパーカー11選として、ランボルギーニが発売した最初のモデル「ムルシエラゴ」の次に申立人のパガーニ・ウアイラが紹介されており(甲105の1)、「スーパーカー=イタリアのクルマ」であるとして、イタリアがスーパーカー大国であることが示されている(甲105の2)。
また、イタリア人のレース好きが有名であり、かつてF1開催日翌日の会議がレース展開の話から始まったエピソードが紹介されており(甲50)、「イタリア人の体にはクルマとレースを愛するDNAが組み込まれている。ここの疑いの余地はない。」と記載されている。また、イタリア人が運転好きであることについても紹介されており、イタリア人がクルマ、特にスーパーカーを愛していることがうかがえる。
それゆえ、スーパーカー大国であるイタリアの代表的なスーパーカーに付されている引用商標のブランド価値の毀損を我が国で放置することは、イタリア国の威信を大いに傷つけるだけでなく、イタリアの国民感情も大きく傷つけ、さらにはイタリア国民を侮辱するものであるといえる。
(イ)我が国とイタリア国政府との間の国際信義に反すること
スーパーカーの聖地であるイタリアのモデナでは、オラチオ・パガーニ氏は「モデナの顔」として、「フェラーリやランボルギーニファンでパガーニの名を知らぬ者などいなく、モデナではフェラーリやランボルギーニに匹敵するほどの大きな発言力を持っている」と言われている(甲46の1)。
また、妥協を一切許さないオラチオ・パガーニ氏の完璧主義に基づく徹底的なこだわりによって、申立人商品のクオリティの高さが実現され、ターゲットとなる顧客の信用を獲得した結果、「パガーニ」は、フェラーリとランボルギーニに並ぶイタリアのスーパーカーブランドとして、確固たる名門の地位を築いていたことが分かる(甲46の2)。
このように、スーパーカー大国であるイタリアの代表的なスーパーカーであるパガーニブランドを敬愛するイタリア国民にとって、オラチオ・パガーニ氏を含む関係者等の承諾(許諾)を得ず、無断で引用商標と類似する本件商標を登録出願し登録した行為は、仮に本件商標権者に不正の目的がなかったとしても、これを客観的にみれば、上記関係者等との信義誠実の原則に反し、穏当を欠くものであって、かつ、本件商標を日本国の商標として登録することは、我が国と申立人を含むイタリア国政府との間の国際信義に反するものといわざるを得ない。
(ウ)世界各国において、「PAGANI DESIGN」の商標登録/出願に対する異議申立が行われていること
申立人は、我が国の他に、米国・英国及び中国を含む各国において、商標登録出願された商標であって、本件商標と同じ構成を有する商標である「PAGANI DESIGN」の商標登録/出願に対する異議申立を行っており、そのうち、既に米国・ベネルクス・メキシコ・スペイン・英国・パキスタン・インドの7か国において、当該商標登録の取消、当該商標出願の拒絶・放棄又は取下げが認められている(甲106〜甲114)。
特に、メキシコやスペインでは申立人の引用商標と、各国で商標登録出願された「PAGANI DESIGN」という商標は出所の混同を生じるおそれがあるため、登録できないと認定している。
これについて、これら世界各国の加盟するパリ条約及び/又はTRIPS協定の目的まで遡れば、少なくともイタリアやメキシコにおいて、申立人の主たる事業所のあるスペインを含む世界各国で著名な引用商標は、守られるべき工業所有権であって、引用商標と混同を引き起こす商標である「PAGANI DESIGN」は、パリ条約及び/又はTRIPS協定の目的とする工業所有権の保護及び/又は国際間の通商の円滑化に不利益を与えるものと判断されたものと思われる。
このように、米国・英国等の各国においても、「PAGANI DESIGN」の商標登録/出願に対する異議申立による取消が認められていることから、本件商標と同一の構成である「PAGANI DESIGN」の商標登録は、条約法の国際信義に反すると認定されたものと考えられる。
(2)まとめ
本件商標は、信義誠実の原則に反し、穏当を欠くものであって、かつ、本件商標を我が国の商標として登録することは、我が国と申立人を含むイタリア国政府との間の国際信義に反するものというべきであり、また、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標に類似する商標を出願し登録を受けたものというべきである。
したがって、本件商標の登録を容認することは、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に当たるものとして、その登録が許されるべきものではないものである。
したがって、本件商標は、第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第15号について
(1)商品又は役務の出所の混同
ア 本件商標と引用商標の類似性
本件商標と引用商標との類似性について、本件商標と引用商標とは、外観上類似し、称呼及び観念を同一にするものであるから、両者は、相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
また、商標審査基準には、「他人の著名な商標を一部に有する商標」について、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、商品等の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して取り扱うものとする。ただし、その他人の著名な商標が既成語の一部となっているもの、又は、指定商品若しくは指定役務との関係において出所の混同のおそれのないことが明白なものを除く。」とされており、本件商標「PAGANI DESIGN」は、外国において著名な申立人の商標「PAGANI」と他の文字「DESIGN」と結合した商標であり、申立人の商標が既成語の一部となっている事情もないことから、上記基準に照らしても、申立人の商標と出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認される。
イ 引用商標の周知性
引用商標の周知性について、引用商標は、本件商標の登録出願時以前から登録査定時、そして現在に至るまで、イタリアの著名な自動車メーカーである申立人の業務に係る商品(スーパーカーないしハイパーカー)を表示するものとして、また、フェラーリとランボルギーニに並ぶイタリアのスーパーカーブランドとして、我が国を含む世界各国のスーパーカーないしハイパーカーの需要者、特にイタリア国のスーパーカーないしハイパーカーの需要者に広く認識されている。
さらに、引用商標は、映画やゲーム、漫画などの様々なメディアを通じて幅広く宣伝されてきており、その結果、スーパーカーないしハイパーカーの需要者だけでなく、スーパーカーないしハイパーカーに興味のある需要者にも広く認識されている。
ウ 広義の混同を生ずるおそれがある商標
本件商標権者にとって引用商標は他人の商標であり、周知な商標であること、本件商標と引用商標は類似又は同一であること、時計と自動車の需要者は重複すること、及び従来から自動車メーカーの「ハウスマーク」と「DESIGN」という言葉を結合させたブランド名で自動車メーカーとコラボした腕時計が販売されていること、申立人は引用商標を複数の区分で商標登録していることなど事業を多角化させていたことを総合的に考慮すると、需要者が通常払う注意力を基準として、本件商標「PAGANI DESIGN」が付されたその指定商品「時計」を見た時に、申立人の商品であると考える可能性がある。そうでなくても、「同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等である」等の広義の混同を生ずる可能性はある。
そうすると、本件商標は、時計業界とのコラボレーション等により引用商標の腕時計が我が国で販売されていないことを奇貨として、引用商標「PAGANI」に「DESIGN」の文字を付した結合商標を出願・登録したものであることから、本件商標権者は、上記取引の実情を利用して、出所の混同を生じさせる意図で登録を受けたものといわざるを得ない。
エ 本件商標が申立人商品と何らかの関係があるように取引者を含む需要者に誤認が事実上生じていること
実際、本件商標を付した腕時計を販売している中国の販売業者であるPAGANI DESIGN社は、日本向けの販売サイトを有し、我が国でも購入可能である(甲115)。
また、PAGANI DESIGN社の腕時計は、Amazon.co.jpなどの腕時計の販売ページにおいて発売されており、例えば、Amazon.co.jpでの取り扱い開始日2015年12月16日の腕時計「PD−2658G0」の商品のタイトルに「イタリア 高級車 メーカー」とあるだけでなく、商品の説明にも「イタリアの高級スーパーカーブランドをモチーフとして新ブランドの独占先行発売。」の記載があり、申立人商品と何らかの関係があるように需要者に誤認を生じさせる記載となっている(甲116)。
なお、Googleにおいて、「パガーニデザイン PD−2658G0」について、「2022年4月1日」より前にアーカイブされたページのみを表示した検索結果から、2017年2月11日付けで「パガーニデザイン 腕時計 イタリア 高級車 メーカー 自動巻き PD−2658G0[並行輸入品]」と記載されたAmazon.co.jpのページが確かに存在していたことがわかる(甲117)。
また、甲第116号証の腕時計の出荷元・販売元である「dottown ドットタウン」は、そのFacebookページにおいて、PAGANI DESIGN社の腕時計のほか、NOLOGOやIngersoll、FIREFOXの腕時計も取り扱っていることから、PAGANI DESIGN社から腕時計を仕入れて販売している取引者であるものと考えられる。ドットタウンは、「PAGANI DESIGN」について、「イタリアの高級スーパーカー、『パガーニ』をモチーフとした新ブランド、それがPAGANI DESIGNです。」と紹介しており、取引者であるドットタウン自身、PAGANI DESIGN社の腕時計が申立人商品と何らかの関係があるように誤認を生じていることがうかがえる(甲118)。
また、PAGANI DESIGN社の腕時計を購入した購入者のレビューにおいても、「PAGANI DESIGN(パガーニ・デザイン)は、中国の腕時計ブランドです。イタリアの高級スーパーカーブランド「PAGANI」をモチーフとしたデザインの腕時計を作成しています。」(甲100)や「この『パガーニデザイン』の腕時計、日本のAmazonでもクオーツクロノグラフがいくつか売られており、そこの販売広告には概ね『日本初上陸!イタリアスーパーカーメーカー・パガーニをイメージして作られた時計がこちらの腕時計』云々との文言。」(甲119)との記載がある。
YouTubeにおいても、チャンネル登録者数2.1万人の「ものがまガジェットレビュー」の2020年11月1日付けの動画において、「Pagani Designとは?」という説明において、「パガーニデザインは、イタリアの高級スーパーカーブランド『パガーニ』をモチーフとしたデザインの腕時計を作成しています。」(動画開始後1:01分頃)と紹介されており、この動画は1万回以上の再生数及び120以上もの高評価を受けている(甲120)。
これらの事実から、少なくとも2014年2月頃から、取引者だけでなく、需要者の間にも「PAGANI DESIGN」の腕時計と申立人のスーパーカーとの間に何らかの関係があるとする広義の混同が実際に生じていることが認められる。
また、この広義の混同を生ずるおそれは、本件商標の登録出願時から本件商標の登録査定時においても継続していたものと考えられる。
オ 出所混同を生ずるおそれについて
以上の事情に照らせば、本件商標をその指定商品「時計」に使用するときは、これに接する需要者は、「PORSCHE DESIGN」、「MAZDA DESIGN」、「Honda Design」、「SUBARU DESIGN」及び「Audi Design」と同様に、「PAGANI DESIGN」が「PAGANI」と前記の緊密な関係がある営業主の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがあるものと考えられる。
(2)まとめ
本件商標が本件指定商品に使用された場合、その商品の需要者が申立人の業務に係る商品と出所について混同するおそれがある。
したがって、本件商標は、第4条第1項第15号に該当する。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 申立人(申立人の前身である「HORACIO PAGANI S.p.A.」、「PAGANI Automobili S.p.A.」を含む。以下同じ。)は、オラチオ・パガーニ(Horacio Pagani)により、1992年に設立されたイタリアの法人であり、1999年から申立人商品を製造、販売している(申立人の主張、甲17)。
イ 申立人商品「パガーニ・ゾンダ」及び「パガーニ・ウアイラ」は、それぞれ、1999年及び2011年の世界5大モーターショーの1つである「ジュネーブ・モーターショー」において発表された(甲19〜甲22)。
また、2011年から発売されている申立人商品「パガーニ・ウアイラ」は、2012年に英国の有名な自動車雑誌である「Top Gear」においてハイパーカーオブザイヤーを受賞したとされるが、当該記事の詳細は不明であり(甲24の2)、さらに、2013年時点でヨーロッパにおいて、3つのカーオブザイヤーを受賞しているとされる(甲35)。
ウ 申立人の2020年ないし2022年の売上高は、約130億円ないし約190億円で推移しているとされるが、その詳細は不明である(申立人の主張、甲27〜甲32)。
エ 我が国においては、申立人の正規輸入代理店のパガーニ・ジャパンによって、2013年に「パガーニ・ウアイラ」の日本1号車が公開され(甲35)、また、2020年からは、申立人の正規輸入車ディーラーであるSKY GROUPによって、神戸のショールーム及び東京のワークショップにおいて申立人商品が展示された(甲34、甲44)。
また、「パガーニ・ウアイラ」の年間生産台数は20台程度であるところ、我が国への割当ては、2台程度であり、1台あたりの基本価格は、約1億5,000万円からとされる(甲33、甲35、甲36)。
オ 我が国におけるテレビコマーシャルについては、2013年のBSフジ「F1グランプリ2013日本GP」で、「パガーニ・ウアイラ」に関するテレビコマーシャルが放送されたことが確認できるが、当該コマーシャルの視聴者数は確認できず、それ以外のテレビコマーシャルに関する証拠は確認できない(甲38、甲39)。
カ 「PAGANI」の文字が付された申立人商品「パガーニ・ゾンダ」は、2016年に「富士スピードウェイ」で開催された「2016ワンメイクレース祭り」及び2019年に「鈴鹿サーキット」で開催された「スーパーカーフェスティバル〜サウンドパフォーマーズ」において、展示、走行されたことがうかがえる(甲40、甲41)。
キ 申立人商品は、「パガーニ・ゾンダ」を所有する著名な実業家の2020年のYouTubeチャンネルで紹介されたことはうかがえる(甲42、甲43)。
ク 我が国において、自動車関連の雑誌及び図鑑である「名車アーカイブ イタリアンスーパーカーのすべて」(2014年発行)、「Car Entertainment Magazine GENROQ」(2016年発行)及び「世界のスーパーカー図鑑」(2018年発行)及び「イタリア車大図鑑」(2019年発行)(甲45、甲47、甲49の1、甲50)や一般紙「BRUTUS」(2020年発行)(甲48)に申立人商品が掲載され、また、ウェブサイト(2013年、2015年、2018年、2019年及び2020年付け)に、申立人のブランド「PAGANI」「パガーニ」に関する記事が掲載されたことがうかがえる(甲17、甲20、甲33〜甲35)。
ケ そのほか、我が国において、申立人商品は、複数のメーカーによって模型の商品化がされ(甲54〜甲57)、複数のレーシングゲームへの起用(甲58〜甲66)及びコミックで取り上げられた(甲68、甲69)。
(2)上記(1)からすると、申立人は、オラチオ・パガーニ(Horacio Pagani)により、1992年に設立されたイタリアの法人であり、申立人商品は、1999年から製造、販売され、1999年及び2011年の世界5大モーターショーの1つである「ジュネーブ・モーターショー」で発表され、自動車分野において複数の賞を受賞しているとされるが、それらの詳細は確認できない上、本件商標の登録出願時及び登録査定時における「PAGANI」の文字からなる引用商標についての使用事実等を具体的な証拠をもって確認することはできない。
また、申立人の2020年ないし2022年の申立人の売上高は、約130億円ないし約190億円で推移しているとされるが、引用商標を使用した申立人商品の売上高を客観的に裏付ける証拠の提出はなく、引用商標を使用した申立人商品の市場シェアについても不明であるから、当該売上高により引用商標の周知性について判断することができない。
さらに、我が国においては、申立人の正規輸入代理店によって、2013年に申立人商品が初めて公開され、また、2020年からは、申立人の正規輸入車ディーラーによって、神戸のショールーム及び東京のワークショップにおいて申立人商品が展示されたことはうかがえるが、申立人商品中「パガーニ・ウアイラ」の我が国での販売数は2台程度と極めて少ない台数であり、我が国の多くの需要者が申立人商品を購入したとはいえない。
そして、我が国における、申立人商品の広告宣伝について、2016年に「富士スピードウェイ」及び2019年に「鈴鹿サーキット」で開催されたイベントにおいて、申立人商品「パガーニ・ゾンダ」が展示、走行されたことがうかがえ、2014年以降に発行された複数の自動車関連の雑誌及び図鑑などで紹介されたことからすれば、申立人商品は、自動車分野及び自動車に興味を有する需要者の間において一定程度知られていたといえる。
しかしながら、申立人商品に関するテレビコマーシャルは、2013年のBSフジのみであり、かつ、当該コマーシャルの視聴者数も確認できず、申立人商品が取り上げられたYouTubeチャンネルも特定のYouTubeチャンネルのみであるから、これをもって、我が国及び外国における需要者の引用商標に対する認識の程度を判断することはできない。
また、申立人商品について、複数のメーカーによって申立人商品の模型が商品化され、複数のレーシングゲームへ起用され、コミックで取り上げられたことなどがうかがえるとしても、我が国及び外国における、引用商標を使用した申立人商品の市場シェア等の量的規模を示す客観的な証拠、引用商標を使用した申立人商品の宣伝広告の時期、期間、回数及び宣伝広告費等に係る証拠が確認できないことから、引用商標の使用状況を把握することができず、引用商標の周知性の程度を推し量ることができない。
その他、申立人の提出に係る証拠からは、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間で広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。
したがって、「PAGANI」の文字からなる引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類似性の程度について
ア 本件商標
本件商標は、上記第1のとおり「PAGANI DESIGN」の欧文字を標準文字で表してなるところ、「PAGANI」と「DESIGN」との間に一文字程度の間隔を有しているとしても、その構成は、外観上まとまりよく一体的に表してなるものであり、構成文字全体から生じる「パガーニデザイン」の称呼も一連に称呼し得るものである。
そして、本件商標は、その構成態様から、「PAGANI」の文字が、強く支配的な印象を与えるものとみることはできない。
また、本件商標は、辞書等に掲載が認められない。
そうすると、本件商標は、その構成文字全体をもって、特定の意味合いを認識させることのない造語を表したものと理解するというのが相当であり、これに接する需要者が、「PAGANI」の文字部分のみを捉えて、取引に当たるものとは考え難いものである。
したがって、本願商標は、その構成文字全体をもって一体不可分のものと認識し、把握されるとみるのが相当であるから、これよりは、「パガーニデザイン」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じないものである。
イ 引用商標
引用商標は、上記第2のとおり、「PAGANI」の欧文字からなるところ、その構成文字に相応して「パガーニ」の称呼を生じ、当該文字は、辞書等に掲載が認められないから、特定の観念を生じないものである。
ウ 本件商標と引用商標の類似性の程度について
本件商標と引用商標を比較すると、外観においては、「DESIGN」の文字の差異を有するから、両者は、明確に区別し得るものである。
また、称呼においては、両者は「デザイン」の音の有無の差異を有し、その音構成及び構成音数が明らかに異なるから、明瞭に聴別し得るものである。
さらに、観念においては、いずれも特定の観念を生じないものであるから比較することができない。
そうすると、本件商標と引用商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において明確に区別及び明瞭に聴別し得るものであるから、非類似の商標というべきであって、類似性の程度が高いとはいえない別異の商標である。
なお、申立人は、「PAGANI」の文字部分は、周知、著名な自動車メーカーの通称として広く知られているから、当該文字部分が強く記憶に残る旨主張するが、上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものであるから、「PAGANI」の文字部分のみが強く記憶に残るとはいい難い。
(2)本件商標の指定商品と申立人商品との関連性及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品「時計」は、人の身体に身につけるファッション関連の商品であるのに対し、申立人商品は「自動車」であるから、両商品は、その用途、性質等においてかなり異なり、本件商標の指定商品と申立人商品の関連性は低いものというのが相当である。
なお、申立人は、自動車好きには、腕時計好きが多いという密接な関係があるから、腕時計好きの需要者と自動車好きの需要者が重複している(甲72〜甲80)旨主張する。
しかしながら、本件商標の指定商品は、人の身体に身につけるファッション関連の商品であって、申立人商品とは、上記のとおり、その用途、性質等において異なるものであるから、腕時計及び自動車のコラボ商品があるとしても、そのことのみをもって直ちに腕時計の需要者と自動車の需要者の範囲が重複することが多いということはできない。
(3)出所の混同のおそれについて
上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
また、上記(1)のとおり、本件商標と引用商標は類似性の程度が高いとはいえない別異の商標であり、また、上記(2)のとおり、両商品は、その用途、性質等において異なるものであるから、本件商標の指定商品と申立人商品の関連性は低いものである。
そうすると、本件商標は、その構成中に「PAGANI」の語を有するとしても、本件商標に接する需要者が、引用商標を想起又は連想することはないというべきであるから、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても、当該商品が申立人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものと認めることはできない。
その他、本件商標が出所の混同を生ずるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものであり、上記2(1)のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものである。
また、本件商標の使用態様や本件商標の出願時期などを考慮したとしても、申立人の提出した証拠からは、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標権者が我が国及び外国において不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる具体的事実を見いだせない。
そうすると、本件商標は、引用商標の周知性へのフリーライドの意図を有し、引用商標が我が国において登録されていないことを奇貨として、その参入を阻害する等、不正の目的をもって使用されるものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
また、上記2(1)のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標である。
してみれば、本件商標は、引用商標の周知著名性にフリーライドし、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標に類似する商標を出願し登録を受けたものとはいえず、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くと認めるべき事情が存するものということはできない。
また、本件商標は、その構成自体が非道得的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないことは明らかであり、さらに、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではなく、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合にも該当しない。
そうすると、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当するとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第19号に違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
別掲(引用商標の指定商品)
第9類「Nautical, surveying, weighing apparatus and instruments; measuring apparatus; electric monitoring apparatus; teaching apparatus; apparatus and instruments for conducting, switching, transforming, accumulating, regulating or controlling electricity; apparatus for recording, transmission or reproduction of sound or images; magnetic data carriers, recording discs; automatic vending machines and mechanisms for coin-operated apparatus; cash registers, calculating machines, data processing equipment and computers; fire-extinguishing apparatus; eyeglasses.」
第12類「Aircraft; automobiles; bicycles; motorcycles; rolling stock for railways; ships.」
第14類「Precious metals, unwrought or semi-wrought; key rings [trinkets or fobs] of precious metal; jewellery cases [caskets] of precious metal; jewellery, precious stones.」
第18類「Leather and imitations of leather, and goods made of these materials and not included in other classes; animal skins, hides; trunks and travelling bags; whips, harness and saddlery.」
第20類「Furniture, mirrors, picture frames; furniture made from wood or substitutes for wood; bands of cork or substitutes for cork; screens of reed or substitutes for reed; chairs of cane and wicker or substitutes therefor; statuettes of wood, wax, plaster or plastic; boxes of plastic; packing boxes and containers made of plastic; plastic and wooden sculptures.」
第25類「Clothing, headgear.」
第28類「Games and playthings; gymnastic and sporting articles not included in other classes; decorations for Christmas trees.」

(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
異議決定日 2024-09-03 
出願番号 2022100515 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W14)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 鈴木 雅也
特許庁審判官 小田 昌子
馬場 秀敏
登録日 2023-08-30 
登録番号 6731316 
権利者 中部貿易合同会社
商標の称呼 パガーニデザイン、パガーニ 
代理人 保田 英樹 
代理人 稲本 潔 
代理人 野河 信久 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ