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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない W41
管理番号 1415495 
総通号数 34 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2023-09-11 
確定日 2024-08-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第6636270号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6636270号商標(以下「本件商標」という。)は、「天眞正自源流」の文字を標準文字により表してなり、令和4年2月22日に登録出願、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,インターネットを利用して行う映像の提供,演芸の上演,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),運動施設の提供」を指定役務として、同年10月25日に登録査定、同年11月4日に設定登録されたものである。

第2 引用標章
本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、本件商標の登録の無効の理由において引用する標章は、「天眞正自源流」(以下「引用標章1」という。)及び「天眞正自源流兵法」(以下「引用標章2」という。)の文字からなり、請求人等の提供に係る役務の出所識別標識として広く認識されていると主張するものである。
なお、以下、引用標章1と引用標章2をまとめていうときは、単に「引用標章」という。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書及び審判弁駁書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第53号証(以下「甲〇」という。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号、同項第16号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効とすべきである。
(1)商標法第4条第1項第7号について
本件商標を構成する「天眞正自源流」の文字は、「開祖・瀬戸口備前守政基によって永正5年(1508年)に創始確立された居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術」を意味する(甲2、甲3、甲30)。
すなわち、本件商標「天眞正自源流」は、永正5年(1508年)から請求人等によって受け継がれてきた、歴史的・文化的・伝統的価値を有する無形の文化的所産である総合武術の名称を、後述するように、当該総合武術とは無関係の本件商標の商標権者(以下「被請求人」という。)が剽窃的に出願し、登録を受けたものであり、社会公共の利益及び社会の一般的道徳観念に反することから、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものであることが明らかである。
甲4は、本件商標の手続の経緯に係る令和4年9月29日提出の意見書であり、当該意見書において、被請求人は「「天眞正自源流」という本件商標は、出願人、及び、出願人の前身となる団体(以下「前身団体」という。)が剣道等の武術を教授する際に使用する商標である。瀬戸口備前守政基が、自身が確立した総合武術に「天眞正自源流」と名付けて、その教授を始め、その後、瀬戸口備前守政基を引き継いだ前身団体が使用していた。武術等を教授する団体では、最高位の指導者を「宗家」と称し、その下の位の指導者を「師範」等と称することが多く、出願人及び前身団体においても同様である。前身団体では、第十四代宗家のA氏から第十五代宗家のB氏、第十六代宗家のC氏と「宗家」が継承された。そして、第十六代宗家のC氏が、前身団体を一般法人化し、出願人を設立した。」と述べている。
ここで、当該意見書に記載の「第28代、十四世宗家のA氏」は、請求人の一人であるA氏であり、第29代、十五世宗家のB氏は、A氏の実弟であり、また同記載の「前身団体」は、一般社団法人天眞正自源流(被請求人と同名であるが、別法人であり、令和3年に解散している。以下、旧一般社団法人天眞正自源流という。)及びその後継任意団体の天眞正自源流兵法一門會である(甲5)。以下、旧一般社団法人天眞正自源流及び天眞正自源流兵法一門會を総称して、「本家団体」という。
甲2は、被請求人の管理運営に係るウェブサイトであるところ、同号証には「2019年1月に第16世(30代)C宗家が継承しました。」と記載されている。なお、C氏は、被請求人の代表者(代表理事)(甲6)である。
第29代宗家のB氏の健康上の理由により、宗家継承後も、第28代宗家のA氏が実質的に宗家の役割を担ってきたところであるが、A氏及び本家団体において、C氏に宗家を含め、天眞正自源流兵法に於ける全ての技術と開祖伝来の教え等、その全てを継承した事実は存在しない。
まず、C氏は、旧一般社団法人天眞正自源流及び第29代宗家のB氏が主宰する「総合武道源心会 天眞正自源流兵法」に平成22年12月25日付「入門書」(甲7)を提出のうえ入門し、平成28年6月1日には天眞正自源流兵法東京支部の代表師範として、天眞正自源流を冠した組織の名称の使用を旧一般社団法人天眞正自源流から許諾される(甲8)等の本家団体における経歴を経て、平成31年1月に本家団体の鏡開き式典において、第28代宗家A氏から、本家団体の各師範に対して宗家継承者としてC氏を公表されるとともに、第28代宗家A氏からC氏に対して、宗家の任命告知に係る書面が交付された(甲9)。
本家団体では、宗家の継承にあたり、「三年間沈黙之掟」と称する掟が存在し、次の時代にふさわしい宗家となるべく、宗家任命告知から3年間の修行を行うことが義務付けられている。つまり、C氏が宗家を継承し得るのは、宗家任命告知の平成31年1月から3年後の令和4年1月である。
この点に関連して、C氏は、第28代宗家A氏宛に自署のある「敬白起請文」(甲10)、及び「天眞正自源流兵法御宗家奉上 御師範家継承指名之段 尊祖恩師神文誓詞約定之儀」(甲31、以下「神文誓詞約定」という。)を提出している。「敬白起請文」には、「三年間沈黙の掟を満願成就の暁には、誓詞血判を以て御宗家胤傅を授けて頂く事に御同意申し上げます。」と記載され、また、「神文誓詞約定」には、「此の上は三年間の沈黙之掟による修行を怠る事なく・・・恩師に背く事なく・・・恩師上野景範先父の命に従い義務を全うする事を約定申し上げます」と記載されている。したがって、C氏は、三年間沈黙之掟を経て宗家を継承すること、すなわち、時期的には令和4年1月に宗家を継承することについて、自署をもって同意しているのであり、甲2のように同氏が2019年(平成31年)1月に宗家を継承することはあり得ないことである。
一般に、武術等の業界においては、礼儀礼節が重んじられる傾向にあり、「天眞正自源流」においても同様であるところ、令和3年7月には、C氏による本家団体の師範等に対する言動等が礼儀礼節を欠き、本家団体の各種規律を著しく違背するものであったことから、本家団体又は第28代宗家A氏において、C氏を令和3年7月20日付にて道場への出入禁止処分とし(甲11)、令和3年10月1日付をもって同氏を本家団体から除名処分(甲12)及び破門(甲13)するとともに、宗家継承権が失効した旨通知(甲14)している。
なお、前記出入禁止処分(甲11)、破門(甲13)及び宗家継承権失効通知(甲14)には、その処分の理由として、それぞれ「誓詞血判約定違反」、「誓詞血判約定に違背」と記載されているが、ここでいう「誓詞血判約定」とは、「神文誓詩」(甲15)である。「神文誓詩」に記載の約定を護ることについてC氏自らの血判をもって同意していたものである。
また、前記除名処分(甲12)は、その公平性及び民主性を担保するため、C氏との確執のあったA氏を除外した、令和3年当時の本家団体の最高意思決定機関である最高師範會(現在の評議委員会)会議における決議に基づいて行われたものである(甲16〜甲24)。除名処分の決議においては、処分の理由として、C氏が、平成22年12月25日付「神文誓詞血判約定」、平成27年12月14日付「授偉誓詞血判書」及び平成30年6月25日付「約定書」に違反したこととされている。ここで、平成22年12月25日付「神文誓詞血判約定」は「神文誓詩」(甲15)であり、平成27年12月14日付「授傅誓詞血判書」は「授博誓詞血判書」(甲25)であり、及び平成30年6月25日付「約定書」は「就任承諾書」(甲26)である。そして、これら書類に記載の条項を遵守することについて、C氏自らの血判又は実印をもって同意していたものである。
したがって、C氏が宗家を継承し得た令和4年1月以前の令和3年10月1日をもって、同氏は、第30代、十六世宗家となる地位、資格、身分、権利等を喪失しているのであるから、同氏が第30代、十六世宗家となり得る余地はない。
なお、前述の「神文誓詞約定」(甲31)には、「万が一にも恩師上野景範先父に違背した時は如何なる処罰も是に従い御師範家継承指名の権利を剥奪されても異議を申し立てる事なく己が進退を正し潔く身を処す事を御流儀尊祖に神文誓詞約定之儀を神前にて奉上申し上げます。」と記載されているように、C氏は、恩師A氏に違背した場合には、宗家を継承する権利が剥奪されることに同意していたのである。
また、本家団体の宗家の証として、宗家印鑑、伝承刀剣、御師範家相博書、御流儀教典、武備録等の物品(甲32)が、宗家継承にあたり、当代宗家から次代宗家に伝授される仕来りが存在するが、C氏は、宗家を継承していないことから、これらは一切同氏に伝授されていない。なお、令和3年9月29日付にて、C氏等は、代理人弁護士を通じて、A氏の代理人弁護士に対して、一方的に、前記宗家継承にあたり伝授される物品を譲渡するよう要求してきている(甲27)が、宗家を継承していないC氏に、これら物品を譲渡するいわれが無いことから、A氏において、当然そのような要求を拒否している。なお、甲27には、上野氏がC氏の刀剣を横領したかのような記載があるが、そのような事実は存在しない。
これまで述べたように、C氏は、自らの血判、実印及び署名に係る文書、並びに本家団体の正式な文書等をもって、本家団体から破門及び除名され、その宗家継承権を剥奪されていること、したがって、同氏を代表者とする被請求人が、「天眞正自源流(兵法)」の正当継承者である本家団体とは無関係であり、そのため被請求人が「天眞正自源流(兵法)」とも無関係であることは明白であるが、以上の事実が真実であることを証明すべく、念のため、現在の本家団体の最高意思決定機関である評議委員会の構成員である各評議委員の作成に係る「無効審判請求合意書」(甲33〜甲41)を提出する。
以上のとおり、本件商標は、開祖・瀬戸口備前守政基によって永正5年(1508年)に創始確立された居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術「天眞正自源流」を代々正当に継承してきた本家団体を破門・除名された、「天眞正自源流」とは無関係のC氏を代表者とする被請求人の剽窃的出願及び登録に係るものである。
したがって、本件商標は、社会公共の利益及び社会の一般的道徳観念に反するものであって、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)商標法第3条第1項第3号について
本件商標の手続の経緯に係る令和4年8月25日付発送の拒絶理由通知書(甲28)において認定されたように、また、「武芸流派大事典」(甲30)に記載されるように、「「天眞正自源流(兵法)」の語が「開祖・瀬戸口備前守政基によって永正5年(1508年)に創始確立された居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術」を意味する語として用いられている実情がある」。また、上記1で述べたとおり、当該総合武術については、本家団体が正当に継承してきているものである。
したがって、本件商標「天眞正自源流」を被請求人がその指定役務に使用しても、これに接する取引者・需要者は、「天眞正自源流に関する役務」であることを認識するか、又は、本家団体若しくは請求人の提供に係る役務であると認識するのであり、被請求人の提供に係る役務と認識することはない。
ここでは以下、本件商標が被請求人によって使用されても、「天眞正自源流に関する役務」であると認識されるにすぎず、単に役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章と認識され、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するものであることを説明する。
まず、被請求人は、拒絶理由通知書(甲28)に対する意見書(甲4)において、「瀬戸口備前守政基が、自身が確立した総合武術に「天眞正自源流」と名付けて、その教授を始め、その後、瀬戸口備前守政基を引き継いだ前身団体が使用しておりました。・・・前身団体では、第十四代宗家のA氏から第十五代宗家のB氏、第十六代宗家のC氏と「宗家」が継承されました。そして、第十六代宗家のC氏が、前身団体を一般法人化し、出願人を設立しました。」と述べ、さも、被請求人が「天眞正自源流」を正当に継承しているかのように、何等客観的な証拠に基づくことなく主張している。
しかし、上記(1)で詳述したように、C氏は、宗家継承を予告されたに止まり、その後、宗家継承前に、自らの血判、実印又は自署をもって約した約定に違背・違反して、本家団体を除名・破門(甲9〜甲14)されているのであるから、宗家を継承し得る術はない。
したがって、意見書における「第十六代宗家のC氏と「宗家」が継承されました」との主張は事実に基づかない虚偽の主張である。また、同氏は、本家団体を除名・破門されているのであるから、「C氏が、前身団体を一般法人化し、出願人を設立しました」との主張も誤りであり、「C氏が、本家団体を除名・破門されたことから、本家団体とは別人格の一般社団法人である出願人(被請求人)を設立した」というのが実態である。
ここで、「天眞正自源流(兵法)」の語が、500年以上も前から継承されてきた総合武術の名称として用いられてきた実情からすると、その正当な継承者である本家団体又は請求人が使用するならばともかく、僅か1年半前に設立された被請求人の使用に係る本件商標が、被請求人の役務の出所識別標識として認識される余地は無く、本件商標は、「総合武術天眞正自源流に関する役務」、すなわち、役務の質を認識させるにすぎないものである。
さらに、被請求人は、意見書(甲4)において、拒絶理由通知書(甲28)における引用情報の別掲(4)及び(5)について、別掲(4)及び(5)にそれぞれ掲載されている「D氏」及び「E氏」は、「出願人(被請求人)と関係する者」であることから、別掲(4)及び(5)は、実質的に被請求人の提供に係る役務について言及するものであるかのような虚偽の主張を行っているが、「D氏」及び「E氏」は、請求人であり、本家団体に所属する者であって、本家団体を除名・破門されたC氏及び被請求人とは何等関係を有する者ではない。
したがって、別掲(4)及び(5)は、拒絶理由通知書において認定されたとおり、「本願指定役務を取り扱う業界において、複数の者によって、「天眞正自源流」の居合術や剣術の指導が行われている実情」を示す情報である。
以上のとおり、本件商標を構成する「天眞正自源流」の文字は、総合武術の名称として知られており、かつ複数の者によって総合武術の指導にあたり使用されていることから、本件商標は、「天眞正自源流に関する役務」、すなわち、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもので、商標法第3条第1項第3号に該当するものである。
(3)商標法第4条第1項第16号について
上記(2)で述べたとおり、本件商標は、「天眞正自源流に関する役務」を認識させるものであるから、これ以外の役務について、本件商標を使用するときは、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。
なお、本件商標「天眞正自源流」を使用して役務を提供した場合、その取引者・需要者は、当該役務について「天眞正自源流」を正当に継承した者の提供に係る役務であると期待するところ、上記1で述べた経緯に照らせば、被請求人は、「天眞正自源流」を正当に継承した本家団体を除名・破門された者が設立した団体であって、「天眞正自源流」を正当に継承した者ではないことから、仮に、被請求人において、「天眞正自源流に関する役務」又はこれに近しい役務を提供し得たとしても、取引者・需要者に役務の質の誤認を生ずるおそれがある。
(4)商標法第4条第1項第10号について
「天眞正自源流(兵法)」の語については、特許庁において認定されたように、「開祖・瀬戸口備前守政基によって永正5年(1508年)に創始確立された居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術」を意味する語として用いられている実情がある(甲28)。
一方で、甲3、甲29、甲30及び甲32に記載のとおり、「天眞正自源流(兵法)」に係る宗家は、最終的に第29代B氏が継承している(上述のとおり、B氏の健康上の理由で、第28代A氏が宗家としての立場を担っている。なお、天眞正自源流兵法は、甲29の末尾に記載のとおり、令和4年1月1日をもって宗家制度を廃止している。)。
そして、「天眞正自源流(兵法)」については、第28代宗家A氏が昭和49年に宗家を継承し、同氏を中心として、請求人等で構成される本家団体が正当に継承し、A氏が宗家を継承した後に限ってみても、約50年もの長きにわたり、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」なる商標を使用してきており、その使用は、例えば、道場における日々の武術の教授において使用されたり、あるいは、甲32に示すように、平成15年から平成30年まで、ほぼ毎年、靖国神社において実施された奉納演武のような大々的な活動において使用されてきている。
したがって、500年以上もの歴史・伝統のある「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」は、総合武術の名称として知られるとともに、その嫡流宗家である第28代宗家A氏、請求人又は本家団体の提供に係る役務の出所識別標識として広く知られるに至っているものである。
よって、本件商標「天眞正自源流」は、他人(嫡流宗家である第28代宗家A氏、請求人又は本家団体)の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって、その役務又はこれに類似する役務について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号について
「天眞正自源流(兵法)」の正当な継承者である第28代宗家A氏、請求人及び本家団体においては、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」の商標(以下、A氏、請求人及び本家団体の使用に係る商標「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」を総称して、本家商標という。)を使用して、その役務を提供しているところ、第28代宗家A氏、請求人及び本家団体とは無関係の被請求人が本件商標「天眞正自源流」をその役務について使用した場合には、第28代宗家A氏、請求人又は本家団体の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第19号について
上記(4)で述べたように、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」の総合武術の名称は、その嫡流宗家である第28代宗家A氏、請求人又は本家団体の提供に係る役務の出所識別標識、すなわち、商標(本家商標)として、少なくとも日本国内における需要者の間に広く詔識されている。そして、本件商標は、本家商標と同一又は類似であることは明らかである。
商標法第4条第1項第19号該当性について、特許庁の「商標審査基準」には、本号に該当する場合の例として、以下の2点を挙げている。
(あ)外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止し若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したもの。
(い)日本国内で全国的に知られている商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり、その名声等を毀損させる目的をもって出願したもの。
上記(あ)は、外国の周知商標に関する例であるが、あくまで例示であるので、国内周知商標についても同様に考えることができる。具体的には、本家商標は、国内で周知な商標であるところ、本件商標は、本家商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、「天眞正自源流(兵法)」を正当に継承した者(第28代宗家A氏、請求人及び本家団体)による「天眞正自源流(兵法)」の指導を阻止し、宗家継承の証となる物品を強制的に奪い(甲27)、宗家継承の事実が存しないにも拘らず、あたかもC氏が宗家を継承したかのような外形を作出する(甲2、甲4)目的で出願したものであることから、本件商標は、不正の目的をもって使用するものであることが明らかである。
また、本家団体を除名・破門され、かつ虚偽の自称宗家が代表を務める被請求人による本件商標の使用は、本家商標の名声等を毀損することが明らかであり、また、その出所表示機能を希釈化若しくは汚染化するものであり、上記(い)に照らしても、本件商標は、不正の目的をもって使用するものであることが明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(7)むすび
したがって、本件登録は、商標法第3条第1項第3号又は同第4条第1項第7号、同第10号、同第15号、同第16号若しくは同第19号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第7号該当性について
答弁書において、被請求人は、高等裁判所の判決を引用のうえ、商標法第4条第1項第7号に該当する場合について5つの類型をあげ、請求人の主張が被請求人による5つ目の類型、即ち、「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合」に該当すると主張している。
しかし、請求人の商標法第4条第1項第7号に関する主張は、「商標の構成自体がそのようなものでなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」についての主張である(甲42)。
つまり、被請求人は、審判請求書における請求人の主張についての解釈を誤っているのであり、したがって、被請求人による答弁書における商標法第4条第1項第7号に関する主張は、法的文書の解釈を誤った瑕疵を有するもので全て失当である。
しかしながら、念のため、以下、被請求人の商標法第4条第1項第7号に関する答弁に対して弁駁する。
ア 宗家承継について
被請求人は、被請求人代表者C氏が「天眞正自源流」の宗家の承継者である旨主張するが、その唯一の根拠は、被請求人自身のウェブサイト(乙1)のみであり客観性に欠けるとともに、宗家承継の証拠としては極めて脆弱であるといわざるを得ない。つまり、C氏が宗家を承継したことを示す証拠は、実質的に皆無であり、C氏が宗家であるとの被請求人の主張は、単なる自称に過ぎない。正当且つ正式に宗家を承継したのならば、相応の証拠が存するはずである。被請求人は、乙第3号証及び甲第9号証をも引用し、宗家任命が告知された旨主張するが、それは告知に止まり、その後、C氏が宗家を正式に承継した事実が存しないことは請求人が審判請求書で述べたとおりである。
イ 「三年間沈黙之掟」について
被請求人は、「三年間沈黙之掟」に関連して、「敬白起請文」(甲10)及び「神文誓詞約定」(甲31)は偽造又は偽筆に係るものであり、「三年間沈黙之掟」に関する主張は、言いがかりであり、請求人の工作に過ぎないと何の根拠も示さずに主張する。このような無根拠の主張は、所謂水掛け論を誘発するものであるから、請求人の弁駁は控え、請求人による「三年間沈黙之掟」に関する主張が正当である旨の上申書(甲43〜甲51)を提出する。
ウ C氏に対する破門等処分について
被請求人は、C氏が「天眞正自源流」から破門等の処分を受けたことに関し、審判請求書にはC氏のどの行為が破門等の処分に至ったか等の具体的な経緯の記載が無いと主張する。しかし、商標登録の無効を請求する審判請求書においては、客観的にC氏が宗家を承継していない事実を立証すれば足りるのであるから、同氏の具体的な行為や経緯等の所謂内輪話を審判請求書に記載しないことは審判請求書の法的文書たる性質上当然である。
エ 本件登録商標の出願の経緯について
被請求人は、本件登録商標の出願の経緯について、C氏の個人名義ではなく被請求人の法人名義にした旨述べているが、本件登録商標の有効無効とは何等関係の無い主張である。
(2)商標法第3条第1項第3号該当性について
答弁書における被請求人の商標法第3条第1項第3号に関する答弁は、支離滅裂であり理解不能であると言わざるを得ない。
まず、被請求人は、答弁書において「また、本件登録商標である「天眞正自源流」が商標法第3条第1項第3号に該当しない旨は、請求人であるA氏も主張している。」と述べているが、一体何を根拠に述べているのか全く不明である。そのようなA氏の主張は、答弁書及び答弁書が引用する証拠のどこにも記載されていない。
被請求人が指摘するように、A氏は、商標「天眞正自源流兵法」について商標登録出願し、現状、拒絶査定までの経過をたどっている。A氏は、当該商標登録出願に係る意見書(乙10)において、出願商標「天眞正自源流兵法」が商標法第3条第1項第3号に該当しない旨は当然主張しているが、同じ拒絶理由通知書において引用された「天眞正自源流」について商標法第3条第1項第3号に該当しない等の意味の無い主張をするはずがないし、実際、当該意見書を精査してもそのような主張は無い。
さらに、被請求人は、答弁書において、「この意見書は結果として理由2に対する反論が認められず拒絶査定されるものの、理由1の商標法第3条第1項第3号に関しては、請求人の反論の如何にかかわりなく、「天眞正自源流」は自他役務の識別機能を発揮するものと認めている(乙11)。」とも記載する。ここで、末尾の「認めている。」に対応する主語が省略されているのが意図的であるのか否か不明であるが、「天眞正自源流」が自他役務の識別機能を発揮するものと認めているのは特許庁審査官であって、A氏ではない。そして、本件無効審判の審理は、当該審査官の認定に拘束されるものではない。
さらに、被請求人は、答弁書において、「つまりA氏は、かつて「天眞正自源流」の使用を認めていた被請求人に対しても、正当な「天眞正自源流」の使用を認めていたことになる。そして特許庁もそれを認めている。」と記載する。この文章は、極度に不明瞭であって善解することすら不能である。
なお、被請求人は、請求人による、被請求人が本件登録商標に係る意見書(甲4)において虚偽の主張をしているとの主張は、商標法第3条第1項第3号とは関連のない内容であると述べているが、例えば、本件登録商標に対する拒絶理由通知書(甲28)における引用情報別掲(4)及び(5)は、請求人のうちの2名の提供に係る役務に関する情報であるのに、これらは実質的に被請求人の提供に係る役務であるというような、あからさまな虚偽の主張は、商標法第3条第1項第3号該当性判断に大きく影響を与えるものであることは明らかである。
以上のとおり、被請求人による商標法第3条第1項第3号に関する答弁は、ほぼその全てが法的にも国語的にも理解不能である。
(3)商標法第4条第1項第10号、同項第15号、同項第16号及び同項第19号の該当性について
商標法第4条第1項第10号、同項第15号、同項第16号及び同項第19号に関する被請求人の答弁は、C氏が天眞正自源流の宗家を承継したとの主張に終始するものであるが、上記(1)で述べたとおり、同氏は天眞正自源流の宗家を承継していないのであるから、被請求人のこれらの答弁には理由が無い。
(4)まとめ
以上のとおり、審判事件答弁書における被請求人の主張及び被請求人が提出する証拠をもってしても、本件登録商標は、商標法第3条第1項第3号、並びに同第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号、同項第16号及び同項第19号に該当するものであるから、本件登録商標は、商標法第46条第1項により、その無効を免れないものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を審判事件答弁書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第11号証(以下「乙○」という。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第7号
商標法第4条第1項第7号は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨規定する。また、「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」には、以下の場合が該当する旨判示した判決例がある。
(1)構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形等である場合。
(2)商標の構成自体がそのようなものでなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
(3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
(5)当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合
(知財高平成21年(行ケ)第10173号速報424−16537)。
以上を踏まえて以下答弁する。
請求人は審判請求書において、本件商標「天眞正自源流」は請求人等によって受け継がれた総合武術の名称であり、かかる「天眞正自源流」が当該総合武術とは無関係の被請求人が剽窃的に出願し、登録を受けたものであるため、社会公共の利益及び社会の一般的道徳観念に反することから、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものであることは明らかであり、商標法第4条第1項第7号に該当すると主張する。この主張から判断すると上記のうちの(1)から(4)についての主張ではないと判断できる。つまり、「当該総合武術とは無関係の被請求人が剽窃的に出願し、登録を受けた」との主張から、(5)の「商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある」旨の主張であると考えられる。
上記主張において請求人は被請求人が「天眞正自源流」とは無関係である旨主張している。しかし、被請求人は以下に述べるとおり「天眞正自源流」と無関係ではない。「天眞正自源流兵法」は開祖・瀬戸口備前守政基によって永正5年(1508年)に創始確立され、戦国時代から現代に至るまで脈々と受け継がれ、明治維新を経た後、第12世(26代)溝口玄心翁から、第13世(27代)上野源心(1913〜1973)に継承され一般にも門戸を開放される。その後第14世(28代)A宗家は門戸を開放するだけでなく、その和を世界に広げ、第15世(29代)B宗家と共に公開指導を実施し、2019年1月に第16世(30代)C宗家が継承した(乙1)。ここで述べられている第14世(28代)Aは請求人の1人のA氏(以下、単に「A氏」という。)のことであり、第16世(30代)宗家のC氏は被請求人の代表である(乙2)。つまり、被請求人の代表であるC氏(以下、単に「C氏」という。)は無関係どころか「天眞正自源流兵法」の正当な承継者である。また、請求人が審判請求書でも述べているとおり、C氏は、A氏により「天眞正自源流」の第16世(30代)宗家となることを平成31年1月に任命告知されている(乙3)。この乙3(甲9と同じ)はA氏が本家団体に対して宗家承継者をC氏と宣言した書状である。つまり請求人であるA氏と本家団体はこの時点でC氏が「天眞正自源流」の承継者であることを文書をもって認めている。
次に、請求人は、宗家を承継するにあたり「三年間沈黙之掟」と称する掟が存在し、次の時代にふさわしい宗家となるべく、宗家任命告知から3年間の修行を行うことが義務付けられている。と主張する。しかし、C氏が、第14世(28代)宗家A氏や本家団体から、「三年間沈黙之掟」なるものについて言及されたという事実は存在しない。請求人は、C氏が「三年間沈黙之掟」なる掟に誓いをたてた証拠として、「敬白起請文」(甲10)や「神文誓詞約定」(甲31)を提出していると主張する。しかし、「敬白起請文」(甲10)の著名はC氏の署名を貼り付けた偽造であり、「神文誓詞約定」(甲31)の著名は偽筆である。したがってC氏が自筆をもって「三年間沈黙之掟」なる掟に誓いを立てた事実は存在しない。つまり、「三年間沈黙之掟」がC氏の知り得ない状況下で秘密裏に故意に作成され、これを証拠として一方的に「三年間沈黙之掟」なる掟を破ったことを理由として、C氏が正当な「天眞正自源流」の承継者でないことを主張しているにすぎない。「三年間沈黙之掟」は明らかな言いがかりであり、あたかも被請求人側に非があるように見せかける工作にすぎない。
また、請求人は「令和3年7月には、C氏による本家団体の師範等に対する言動等が礼儀礼節を欠き、本家団体又は第14世(28代)宗家A氏において、C氏を令和3年7月20日付けにて道場への出入り禁止処分とし、令和3年10月1日付をもって同氏を本家団体から除名処分及び破門するとともに、宗家承継権が失効した旨通知している。」と述べている。まず「言動等が礼儀礼節を欠き」という点、最終的に破門の処分となることから判断すると、よほど致命的な背徳行為があったという言いぶりである。しかし、そのあたりの説明が審判請求書には何ら記載がなく、またこの「言動等が礼儀礼節を欠き」についてC氏自身も身に覚えがなく全く把握していない。確かにC氏が血判をもって同意している「神文誓詩」には「五、名誉真義礼節ヲ守リ師二違背致ス間敷候之事」とあるが、C氏の具体的にどのような行為がこの誓約に違反していたのかを窺い知ることができない。いずれにせよ、審判請求書の内容からは、出入り禁止処分の令和3年7月20日から、破門に至る令和3年10月1日までの間に、本家団体又は第14世(28代)宗家A氏とC氏との間のやり取りが不明である点、第16世(30代)宗家に対して破門という極めて厳しい処分を決定した理由が不明瞭である点を考量すると、道場への出入り禁止処分から破門に至る処分は、第14世(28代)宗家A氏及び本家団体による突発的かつ一方的な処分であると考えざるを得ない。
以上のA氏の行動を考量すると、ありもしない「三年間沈黙之掟」をでっち上げ、偽造により、あたかもC氏が正当な「天眞正自源流」の承継人ではないように装うことにより、事実を捻じ曲げた主張を行うことは十分に考えられることである。また、上述のとおり、A氏は令和3年7月15日のC氏との会合で「天眞正自源流」を完全に引退する旨の宣誓をしていることから、その後のA氏によるC氏に対する出入り禁止処分や破門処分はそもそもその権限のない者による手続きであるため、かかる手続きは無効と考えるべきである。
一方、第16世(30代)宗家のC氏は、個人名義ではなく被請求人である「一般社団法人天眞正自源流」を設立して、その名義で商標登録をした理由は、国内外に広く存在する門人達から年会費等を徴収することで活動をしていく以上、法人化することで会計および経営の透明性を維持し、また持続的な活動のための体制を構築するうえで必要と考えたからであり、個人による権威や権利の独占を行わず、民主的に、公正に、公益性を意識したオープンな経営を目的としてあえて法人として商標登録したという経緯がある。
以上のように、本件商標「天眞正自源流」は商標登録を受けるべき者により商標登録出願され、登録されたものであり、請求人が主張するような剽窃的に出願し、登録を受けたものではない。よって、上記の「(5)商標登録出願の経緯も社会的相当性を欠くもの」に該当せず、商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものでもない。なお、「天眞正自源流」という文言は、上述のように総合武術の名称にすぎないので、商標自体がきょう激又は卑わいな文字、また、商標を指定役務に使用することが社会の公益又は一般的道徳観念に反するものでもないことは言うまでもない。以上より、商標法第4条第1項第7号に該当しないと確信する。
2 商標法第3条第1項第3号
請求人は審判請求書において、本件商標は「天眞正自源流に関する役務」、すなわち、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもので、商標法第3条第1項第3号に該当すると主張する。
しかし、本件商標である「天眞正自源流」は、上記1で述べた「天眞正自源流兵法」の「天眞正自源流」であり、かつ被請求人の代表であるC氏はこの「天眞正自源流」の16世(30代)宗家である。よって、被請求人は正当な「天眞正自源流」の指導者であるため、その被請求人が「天眞正自源流」を「天眞正自源流に関する役務」に使用した場合、当該役務の出所が被請求人であると識別することになる。
また、本件商標である「天眞正自源流」が商標法第3条第1項第3号に該当しない旨は、請求人であるA氏も主張している。
A氏は、被請求人が「天眞正自源流」を商標登録出願した令和4年2月22日(乙7)の後、令和4年6月9日に「天眞正自源流兵法」(商願2022−066070)を出願しており(乙8)、令和4年8月5日に拒絶理由通知書を受けている。拒絶理由の内容は、理由1として「天眞正自源流兵法」が商標法第3条第1項第3号に該当する理由であり、理由2として先願である本件登録商標「天眞正自源流」(商願2022−019856)と類似するという理由である(乙9)。この拒絶理由通知書に対してA氏は令和4年9月20日に意見書を提出しており、理由1の商標法第3条第1項第3号に該当する旨に対する反論として、被請求人を含む数例の「天眞正自源流」を使用する団体の道場運営者は全て請求人の1人であるA氏の指導を受け、許可を得、「天眞正自源流兵法」の表示を許された、あるいはかつて表示を許されていた団体、と述べ、商標としての使用が認められた者、又はかつて認められていた者のみの例を提示して商標法第3条第1項第3号に該当するという判断は不当であると主張している(乙10)。この意見書は結果として理由2に対する反論が認められず拒絶査定されるものの、理由1の商標法第3条第1項第3号に関しては、請求人の反論の如何にかかわりなく、「天眞正自源流」は自他役務の識別機能を発揮するものと認めている(乙11)。上記意見書で述べられている「かつて表示を許されていた団体」や「認められていた者」というのは被請求人のことを言っているのは明らかである。つまりA氏は、かつて「天眞正自源流」の使用を認めていた被請求人に対しても、正当な「天眞正自源流」の使用を認めていたことになる。そして特許庁もそれを認めている。
なお、請求人は、被請求人が「天眞正自源流」の出願に対して拒絶理由が通知された際の意見書(甲4)で虚偽の主張をしている等種々述べているが、いずれも商標の識別力を判断する商標法第3条第1項第3号とは関連のない内容であり、これらの主張が「天眞正自源流」が商標法第3条第1項第3号に該当することの理由とはならない。
以上のように、請求人の主張は間違いであり、また、請求人が自らの商標登録出願の際に意見書で主張していたとおり、「天眞正自源流」が商標法第3条第1項第3号に該当することはないと確信する。
3 商標法第4条第1項第16号
請求人は審判請求書において、本件商標は「天眞正自源流に関する役務」を認識させるものであるから、これ以外の役務について、本件商標を使用するときは、役務の質の誤認を生じるおそれがある。また、被請求人は「天眞正自源流」を正当に承継した者ではないから、「天眞正自源流に関する役務」またはこれに近しい役務を提供しても、取引者・需要者に役務の質の誤認を生じるおそれがある旨主張する。しかし、2での述べたとおりC氏はこの「天眞正自源流」の16世(30代)宗家であるため、本件商標を被請求人が使用することにより役務の質の誤認を生じるおそれはない。また、請求人も指摘するとおり、被請求人は、A氏の指導を受けた正当な「天眞正自源流」を使用して役務を提供するのであるから、その「天眞正自源流」の使用が取引者・需要者に役務の質の誤認を生じるおそれはない。以上より、「天眞正自源流」が商標法第4条第1項第16号に該当することはないと確信する。
4 商標法第4条第1項第10号
請求人は審判請求書において、本件商標「天眞正自源流」は、他人(嫡流宗家である第14世(28代)宗家A氏、請求人又は本家団体)の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって、その役務又はこれに類似する役務について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。と主張する。しかし、C氏はこの「天眞正自源流」の16世(30代)宗家であり、被請求人の代表である。よって本号でいう「他人」には該当せず、本人である。つまり、商標権者本人であるため、被請求人が「天眞正自源流」を使用することにより出所の混同を生じるおそれは生じない。よって、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはないと確信する。
5 商標法第4条第1項第15号
請求人は審判請求書において、第14世(28代)宗家A氏、請求人及び本家団体とは無関係の被請求人が本件商標「天眞正自源流」をその役務について使用した場合には、第28代宗家A氏、請求人又は本家団体の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあることは明らかである。と主張する。ここで被請求人が本件商標「天眞正自源流」とは無関係であると述べているが、上述したとおり、被請求人の代表であるC氏はこの「天眞正自源流」の16世(30代)宗家であるため、「天眞正自源流」とは無関係という主張自体が誤りであり、当然被請求人による「天眞正自源流」の使用が「天眞正自源流」の役務と混同を生ずることはあり得ない。よって、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することはないと確信する。
6 商標法第4条第1項第19号
請求人は審判請求書において、本件商標は不正の目的をもって使用するものは明らかであるとして、その理由を種々述べている。しかし、被請求人の代表であるC氏は正当な「天眞正自源流」の16世(30代)宗家であるため、その被請求人による「天眞正自源流」の使用が不正の目的となることはありえない。よって、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当することはないと確信する。
7 結論
以上述べたとおり、本件商標は商標法第3条第1項第3号、又は同第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号、同項第16号及び同項第19号に該当せず登録適格性を具備した商標である。
よって、本件無効審判請求について理由がないとの審決を求める。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。
1 「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」について
「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」は、開祖・瀬戸口備前守政基によって永正5年(1508年)に創始確立された居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術の名称である(甲2、甲3、甲30、乙1)。
2 引用標章の周知性について
請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
「天眞正自源流」を正当に継承した「本家一門」を構成する団体の一つとされる「天眞正自源流兵法一門會」及び請求人のホームページにおいて、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」の文字が記載されていること(甲2、甲3、甲5)、平成15年から平成30年まで、ほぼ毎年、靖国神社において奉納演武大会が行われ、2018年(平成30年)9月16日に行われた第18回靖国神社奉納演武大会の「源武 天眞正自源流兵法祈念誌 開祖 瀬戸口備前守政基公五百年御霊祭を記念して」と題する開祖500年法要記念誌の第44頁には、「天眞正自源流 上野影範」の記載があること(甲32)、さらに、「天眞正自源流兵法一門會」のホームページには、「天眞正自源流」及び「天真正自源流兵法」に関する紹介及び昭和49年にA氏が天真正自源流兵法を継承した旨が記載されている(甲3)。
以上のことからすると、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」は、居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術の名称であり、平成15年から平成30年まで、ほぼ毎年、靖国神社において奉納演武大会が行われてきたこと、そして、「天眞正自源流兵法一門會」のホームページには、「天眞正自源流」及び「天真正自源流兵法」についての記載があることが認められる。
しかし、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」の文字の使用が確認できるのは、平成30年9月16日に靖国神社において実施された第15回靖国神社奉納演武大会の際に作成されたと思われる開祖500年法要祈念誌や「天眞正自源流兵法一門會」のホームページ程度であるところ、当該法要祈念誌の発行部数及び奉納演武大会の参加者数等並びにホームページの作成日や記事の掲載開始時期は明らかではなく、かつ、ホームページは、当該ホームページに関心を持ってアクセスする者が目にするもので、広く一般の者が目にするものとはいえないものである。
そして、ほかに、引用標章を使用した請求人の活動範囲、内容、規模、宣伝広告等、引用標章の周知著名性を客観的に把握することができる証拠は見いだせない。
してみると、引用標章が、請求人の業務に係る役務(「武術に関する知識の教授,演武の上演」等)を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
3 商標法第3条第1項第3号の該当性について
上記1のとおり、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」は、永正5年(1508年)に創始確立された居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術の名称であることが認められる。
そして、請求人の提出した証拠からは、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、例えば、本件商標の指定役務中「武術に関する知識の教授,演武の上演」等の役務について、需要者の間に浸透したことをうかがわせる証拠はなく、該文字が指定役務の質として、取引者、需要者に広く認識されている特段の事情もない。
そうすると、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」の文字は、居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術の名称であるといった意味合いを理解させる場合があるとしても、本件商標に係る指定役務との関係において、役務の質を表示するものということはできず、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るというべきである。
その他、本件商標が、具体的な役務の質を表示するものとして、取引者、需要者間に理解されているとの事情を認めるに足りる証拠は提出されていない。
してみれば、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第16号該当性について
商標法第4条第1項第16号でいう、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」とは、「指定商品又は役務に係る取引の実情の下で、公益性を担保するという観点から、取引者又は需要者において、当該商標が表示していると通常理解される品質又は質と、指定商品が有する品質又は役務が有する質とが異なるため、商標を付した商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すものというべきである。」と判示されている(参考:知的高等裁判所 平成20年(行ケ)第10086号 平成20年11月27日判決)。
そして、同号でいう商品の品質又は役務の質とは、抽象的な内容のものを指すのではなく、取引者又は需要者が当該商標から看取する直接的、具体的な商品の品質又は役務の質をいうものとみるのが相当である。
これを本件についてみれば、上記3において認定したとおり、「天眞正自源流」及び「天眞正自源流兵法」の文字は、例えば、一般名称のように本件商標の指定役務の質として取引者、需要者に認識されていない以上、本件商標をその指定役務に使用したとしても、これに接した取引者、需要者が、具体的に居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術の名称であると理解し、認識することはできず、また、該武術以外の武術の名称であると誤解して、その質を誤認することはないというべきである。
なお、請求人は、被請求人は「天眞正自源流」を正当に継承した本家団体を除名・破門された者が設立した団体であって、「天眞正自源流」を正当に継承した者ではないことから、仮に、被請求人において、「天眞正自源流に関する役務」又はこれに近しい役務を提供し得たとしても、取引者、需要者に役務の質の誤認を生ずるおそれがある旨主張している。
しかしながら、「天眞正自源流」が、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、取引者、需要者の間に広く認識されていたと認められないことは、上記2のとおりである。
また、「天眞正自源流」は、瀬戸口備前守政基を開祖とする、永正5年(1508年)に創始確立された居合術・剣術・長刀術・槍術を網羅する総合武術の名称(甲2、甲3、甲30、乙1)であり、古武道の一流派の名称であるところ、請求人及び被請求人は、いずれもこの同じ流派に属するものであると認められるから、両者のどちらか一方が瀬戸口備前守政基を開祖とする「天眞正自源流」そのものであるといった観点における役務の質の誤認は生じ得ないというべきである。
よって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
以上のとおり、本件商標をその指定役務について使用しても、需要者をして、役務の質について誤認を生じさせるおそれはないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標と引用標章は、それぞれ上記第1及び第2の構成からなり、両者はともに「天眞正自源流」の文字を有してなるものであるから、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において相紛らわしい同一又は類似の商標である。
そして、本件商標の指定役務中「武術に関する知識の教授,演武の上演」等は、引用標章を使用した請求人の業務に係る使用役務(開祖・瀬戸口備前守政基によって創始確立された居合術・剣術等を網羅する総合武術に関する役務)と類似する。
しかしながら、引用標章は、上記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間で広く認識されているものと認めることはできないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第15号該当性について
上記5のとおり、本件商標と引用標章は同一又は類似するものであるが、上記2のとおり、引用標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間で広く認識されているものと認めることはできないものである。
その他、本件商標が請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標とすべき特段の事情はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
7 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記5のとおり、本件商標と引用標章は同一又は類似するものであるが、上記2のとおり、引用標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の需要者の間で広く認識されているものと認めることはできないものである。
また、請求人の提出の証拠からは、商標権者が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的を持って本件商標を出願し、登録を受けたと認めるに足る具体的事実を見いだすこともできない。
そうすると、本件商標は、引用標章の周知著名性へのただ乗りをする等、不正の目的をもって使用されるものであるということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
8 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号にいう、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、<1>その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、<3>他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、<4>特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、<5>当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(参考:知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決)。
しかしながら、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨などからすれば、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段に事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。
そして、特段の事情があるか否かの判断にあたっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当ではないと判示されている(参考:知的財産高等裁判所 平成19年(行ケ)第10391号 平成20年6月26日判決)。
以上のことを踏まえて、本件についてみると、本件商標は、上記第1のとおり、「天眞正自源流」の文字からなるものであるから、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字及び図形でないことは明らかである。
そして、請求人の主張のとおり、旧一般社団法人天眞正自源流は、令和3年に解散しているものの、本件の商標登録出願日は、令和4年2月22日であることから、それまでの間に請求人は、自らすみやかに本件商標について商標登録出願することが可能であったにもかかわらず、商標登録出願をしなかったということであり、また、それができなかった特段の事情があったと認めるに足りる事実もないことから、当該出願を怠っていたものと判断せざるを得ないものである。
加えて、請求人の提出した証拠からは、具体的に、被請求人が請求人の活動を阻害しあるいは請求人に対して交渉等における有利な地位を確保しようとしていることなどを裏付ける事実は見いだせない。
そうとすれば、本件商標について、商標法の先願登録主義を上回るような、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあるということはできないし、そのような場合には、あくまでも、当事者間の私的な問題として解決すべきであるから、公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。
また、本件商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではなく、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものでもない。そして、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するというような事情があるともいえない。
その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る証拠もない。
してみると、被請求人が、本件商標の登録出願をし、登録を受ける行為が「公の秩序や善良の風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
9 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項3号並びに同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号、同項第16号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。


別掲

(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
審理終結日 2024-06-12 
結審通知日 2024-06-18 
審決日 2024-07-18 
出願番号 2022019856 
審決分類 T 1 11・ 13- Y (W41)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 旦 克昌
特許庁審判官 小林 裕子
大島 康浩
登録日 2022-11-04 
登録番号 6636270 
商標の称呼 テンシンショージゲンリュー、テンシンセージゲンリュー、テンシンショージゲン、テンシンセージゲン 
代理人 古岩 信嗣 
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代理人 弁理士法人iRify国際特許事務所 
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