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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 審決却下 W09 |
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管理番号 | 1414351 |
総通号数 | 33 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2024-09-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2023-07-06 |
確定日 | 2024-08-06 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5771825号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5771825号商標(以下「本件商標」という。)は、「TART OPTICAL ARNEL」の欧文字を標準文字で表してなり、平成27年2月12日に登録出願、第9類「眼鏡,サングラス」を指定商品として、同年5月18日に登録査定され、同年6月19日に設定登録されたものである。 そして、本件審判の請求は、令和5年7月6日にされたものである。 第2 引用商標 請求人が引用する登録第5427549号商標(以下「引用商標」という。)は、「TART」の欧文字を標準文字で表してなり、平成23年1月18日に登録出願、第9類「眼鏡,眼鏡の部品及び附属品」を指定商品として、同年7月22日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続しているものである。 第3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第84号証(枝番号を含む。なお、甲第7号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第32号証、甲第33号証、甲第45号証、甲第46号証、甲第51号証ないし甲第53号証及び甲第61号証は欠番。)を提出した。 なお、証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する場合がある。また、枝番号全てを表示する場合は、枝番号を省略することがある。 1 請求の理由 本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当し、その登録は同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。 2 具体的な理由 (1)本件商標と引用商標の類似性について ア 本件商標について 本件商標は、「TART OPTICAL ARNEL」である。「TART」と「OPTICAL」の間及び「OPTICAL」と「ARNEL」の間にそれぞれ空白が置かれており、「TART」(タート)の部分と「OPTICAL」(オプティカル)の部分と「ARNEL」(アーネル)の部分は、分離して観察できる(甲63、甲64)。 「OPTICAL」の部分は、「目の」、「視力の」、「視覚の」、「視力を助ける」、「光学(上)の」などの意味である(甲8、甲9)。本件商標の指定商品及び引用商標の指定商品との関係において、「OPTICAL」の部分は、商品の種類、用途ないし機能を示すにすぎず、識別力がないか少なくとも識別力がほとんどない(甲62)。 イ 「TART」について 本件商標の「TART」の部分及び引用商標「TART」は、本件商標の指定商品の分野(眼鏡関係分野)においては、1948年にアメリカ合衆国ニューヨーク州で設立された「Tart Optical Enterprises,Inc.(タート オプティカル エンタープライゼズ インク)」(以下「タート社」という。)の創立者であり眼鏡フレームの伝説的職人である「Julius Tart(ジュリアス・タート)」氏(以下「タート氏」という。)、タート社若しくはその承継人である請求人、請求人の事業会社である「Tart Optical Enterprises,Inc.」(後述)又はそれらのブランドとしての「TART」を想起させる(甲5、甲6、甲10〜甲17、甲20〜甲31、甲34〜甲44、甲47〜甲50、甲54〜甲60、甲65〜甲83)。 タート氏が創立したタート社は、タート氏のラーストネームを冠して、「Tart Optical Enterprises,Inc.」との名称であり、「Tart」ないし「TART」が重要部分である。 本件商標中の「TART」の部分と引用商標「TART」がタート氏のラーストネームであることも請求人と被請求人の間で争いのないことである(甲4、甲10)。 ウ 請求人は、タート社の事業承継者であることについて 請求人は、タート社の事業承継者であり、「TART」ブランドの保有者である(甲5、甲6、甲10、甲20〜甲25、甲47〜甲50、甲59、甲60)。 請求人が保有する、眼鏡類、眼鏡フレーム等を指定商品とする商標「TART」に係る米国商標登録(甲23、甲59)及び眼鏡類、眼鏡フレーム等を指定商品とする商標「TART OPTICAL ENTERPRISES」に係る米国商標登録(甲60)においても、使用主義の米国において1948年12月31日を最初の商業使用日として登録されている。つまり、1948年設立のタート社の使用に係る「TART」及び「TART OPTICAL ENTERPRISES」の商標の権利を請求人が承継していることがタート社及びタート氏の母国である米国で認められている。 請求人の名称は、「Tart Optical Enterprises,LLC」(タート オプティカル エンタープライゼズ エルエルシー)である。これもタート社の名称を引き継いだものである(なお、LLCはリミテッド・ライアビリティー・カンパニーの略であり会社形態を示す部分である。)。2017年に、請求人は権利保有会社となり、タート氏の「Tart Optical Enterprises,Inc.」と同じ名称の「Tart Optical Enterprises,Inc.」(タート オプティカル エンタープライゼズ インク)を事業会社(以下「請求人事業会社」という。)とし、以降は、請求人事業会社が「TART」ブランドの眼鏡関係商品を製造、販売している(甲47)。タート氏又はタート社の承継者である請求人と請求人事業会社がそれらの会社名称に「Tart」を冠して、「TART」ブランドの眼鏡関係商品を製造、販売しているのである。 請求人及び請求人事業会社の名称中の「Optical」は、前記のとおり、「目の」、「視力の」、「視覚の」、「視力を助ける」、「光学(上)の」などの意味である(甲8、甲9)。本件商標の指定商品及び引用商標の指定商品との関係において、「OPTICAL」の部分は、商品の種類、用途ないし機能を示すにすぎず、識別力がないか少なくとも識別力がほとんどない。 エ タート社、請求人ないし請求人事業会社の「TART」ブランドは日本を含めて世界的によく知られたブランドであることについて 1948年設立のタート社ないしタート氏の「TART」ブランドの眼鏡フレーム及びその眼鏡フレームを使用した眼鏡は、眼鏡関係商品の分野において、優れたデザインを有し、高品質で価値が高いビンテージ商品として、日本を含めて世界的に需要者の間によく知られてきた。需要者の間ではあこがれの商品となっていた。 請求人は、タート社ないしタート氏の眼鏡フレーム事業(「TART」ブランドも含む。)を承継し、日本を含む世界において、請求人及び請求人事業会社又はそのライセンシーによって、「TART」ブランドの眼鏡フレームを製造、販売してきた。 よって、眼鏡関係商品の分野における請求人の引用商標の知名度は、単に請求人及び請求人事業会社の製造、販売に係るものだけでなく、1948年からタート社によって製造、販売されてきた眼鏡フレームの知名度も含めるべきことになる。 請求人の「TART」ブランドの眼鏡フレーム及び眼鏡は、タート社の「TART」ブランドの眼鏡フレームを受け継ぎ、優れたデザインを有し、高品質で価値が高いビンテージ商品としての商品性を継承するため、米国そしてイタリアにおいて手作りされている(甲10)。このようなビンテージ商品の知名度は、単に日本における販売数量や眼鏡分野におけるシェアという基準で量るべきものではない(甲12、甲35の5)。 タート社、請求人ないし請求人事業会社の「TART」の眼鏡フレームを使用した眼鏡は、日本を含めて世界的に知られた映画スターやエンターテイナーといった著名人にも使用され、その広告効果は極めて大きく、眼鏡関係商品の分野において「TART」は日本を含めて世界的によく知られたブランドとなり、需要者のあこがれの商品となった(甲10〜甲17、甲26〜甲31、甲34〜甲44、甲54〜甲58、甲70〜甲83)。 請求人の「TART」ブランドの眼鏡フレームないしその眼鏡は、度々、日本の雑誌にも紹介された(甲12、甲26〜甲30)。 オ 本件商標ないし被請求人は「TART」商標にフリーライドしていることについて 被請求人のウェブページ(甲4、2枚目)には、「タート社は1948年にニューヨークで設立されました。当初は小さい眼鏡店でした。どこにも負けない品質を維持し続けておりましたが、1970年代に静かに幕を閉じました。しかし、業界におけるレジェンドとなって今なお語り継がれています。その伝説を尊敬して、日本において再びそのテイストを復活させるべく、日本の鯖江の技術によって、今ここにオリジナル「TART OPTICAL ARNEL(R)」がスタートしました。」(審決注:(R)は○の中にRの文字。)と記載されているが、これは明らかに虚偽であり悪意でなされている。請求人は、眼鏡類、眼鏡フレーム等を指定商品とする商標「TART」に係る米国商標登録(甲23、甲59)及び眼鏡類、眼鏡フレーム等を指定商品とする商標「TART OPTICAL ENTERPRISES」に係る米国商標登録(甲60)を保有し、これらは、使用主義の米国において1948年12月31日を最初の商業使用日として登録され、今日まで有効である。つまり、1948年設立のタート社の使用に係る「TART」及び「TART OPTICAL ENTERPRISES」の商標の権利を請求人が承継していることがタート社及びタート氏の母国である米国で認められているのである。 また、被請求人のウェブページ(甲4、2枚目)には、「James Dean(1955年没)は、愛車はPORCHE、ジーンズはLEE、煙草はWinstonとモノにこだわった彼が愛用していたメガネがありました。Johnny Deppが師と仰ぐJames Deanが当時かけていたメガネを全米で探させたことから、新たな始まりとなりました。そのため、DeanにFOCASしたモノづくりは不可欠と判断しました。」、「私たちは日本の鯖江によるハンドメイドによって、当時のモノづくりに対する思いを受け継ぎ、当時使用していたメガネを忠実に再現していくものです。ここに蘇る本物のTART OPTICAL ARNELの息吹、掛け心地、いまだ衰えない洗練されたデザインをどうぞ体感してください。」と記載されているが、被請求人は、タート氏又はタート社から何らタート社のブランド(「TART」を含む。)ないし権利(眼鏡事業の資料に関する権利を含む。)を取得していない。本件商標ないし被請求人は、タート社又は「TART」を含むタート社のブランドにフリーライドをして、眼鏡商品の広告をしているのである。 さらに、被請求人のウェブページ(甲4、3枚目)には、「1940年台後半、ニューヨークで創業を開始し、特に1950年代から60年代に掛けて数多くの著名人たちの御用達となっておりました。その顧客リストには第32代アメリカ合衆国大統領であるフランクリン・ルーズベルトや当時の人気俳優など、有名な人たちが名を連ねておりました。」と記載され、「TART OPTICAL EX−MAN」が記載された被請求人のウェブページ(甲4、4枚目)には、「同ブランドはニューヨーク老舗タート社で、1960年代人気モデルとして、一世を風靡した商品です。」と記載されている。 被請求人は、本件商標を、眼鏡商品に関して、タート社又は「TART」を含むタート社のブランドにフリーライドをして広告をしていることは明らかである。 さらに、被請求人のウェブページ(甲4、2枚目〜6枚目)は、「TART」を使用した被請求人の眼鏡商品の広告であるが、タート社及びタート社の眼鏡を愛用していた映画スターなどの著名人の記載がされおり、被請求人は、眼鏡商品に関して、タート社又は「TART」を含むタート社のブランドにフリーライドをして広告をしている。 被請求人が、タート社の創立者であるタート氏のラーストネーム又はタート社の「TART」ないしタート社の社名(及びタート社の承継人である請求人の社名)中の「TART OPTICAL」を本件商標中に入れたことは明らかである。 そして、被請求人は、「TART OPTICAL ARNEL」、「TART OPTICAL EX−MAN」、「TART OPTICAL F.D.R.」、「TART OPTICAL BRYAN」といった眼鏡商品を販売しており(甲4、1枚目〜7枚目)、「TART」又は「TART OPTICAL」の部分を主商標としていることは明らかである。前記のとおり、「OPTICAL」の部分は、商品の種類、用途ないし機能を示すにすぎず、識別力がないか少なくとも識別力がほとんどないため、「TART」の部分を主商標として使用しているといえる。 「ARNEL」、「Ex−Man」、「F.D.R.」、「BRYAN」も、被請求人の使用又は商標登録出願前から請求人が使用してきた商標である(甲12、甲13、甲17、甲28、甲31、甲34、甲35の3〜甲35の7、甲36、甲38〜甲44、甲49〜甲50、甲57、甲58、甲71、甲73〜甲77、甲81〜甲83)。 以上のとおり、被請求人自身も「TART」が主商標として、主要部分であると認識し、広告しており、需要者も「TART」の部分が主要部分であると認識する。 本件と関連する審決である「TART OPTICAL」に係る確定した審決(甲64)及び「TART OPTICAL ENTERPRISES」に係る確定した審決(甲63)において、これらの商標において「TART」の部分が要部と認定され、これらの商標は請求人が保有する引用商標「TART」商標と類似し、相紛れるおそれのある商標であると認定され、商標法第4条第1項第11号、同法第46条第1項により無効と判断されている。 「TART OPTICAL ARNEL」は、前記のとおり、識別力がないか少なくとも識別力がほとんどない「OPTICAL」を間に挟んで、「TART」の部分と「ARNEL」の部分が記載されていることにも鑑みると、「TART」の部分と「ARNEL」の部分はより分離して観察できる。 これらの点から、「TART」の部分が主要部分と認識されるか、少なくとも「TART」の部分が分離して観察できる。「TART OPTICAL ARNEL」において、一番前に記載の「TART」の部分又は一番目と二番目の「TART OPTICAL」(OPTICALの部分は識別力がないか識別力がほとんどない。)が称呼又は取り上げられることが多いことも推察される。 被請求人は、被請求人の本件商標の出願前から日本において取引及び販売されていた請求人の眼鏡フレームの中から同じ名称(甲84の1〜甲84の3)をコピーしただけであるから、意識的に「TART OPTICAL ARNEL」を選択したのである。当該眼鏡フレームの中に示された請求人の商標の被請求人の使用及び甲4、2枚目に関して前記に述べたように、請求人の商標に関する被請求人の虚偽の陳述(請求人の米国及び日本における登録商標に反する。)は、請求人の良く知られた商標にフリーライドする目的で、意識的かつ悪意をもってなされたものである。 カ まとめ 以上のとおり、本件商標中、「TART」(タート)の部分が要部であり、引用商標は、「TART」(タート)であるから、本件商標と引用商標とは、「TART」の部分が同一である。 本件商標と引用商標とは、「TART」の部分において、外観、称呼、観念が同一又は少なくとも類似である。 したがって、本件商標と引用商標とは類似する。 (2)商品の類似性について 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品が同一(少なくとも類似)であることは明らかである。 (3)本件商標は請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であること及び不正の目的について 前記のとおり、「TART」は、眼鏡関係商品の分野においては、1948年にアメリカ合衆国ニューヨーク州で設立されたタート社の創立者であり眼鏡フレームの伝説的職人であるタート氏、タート社若しくはその承継者である請求人若しくは請求人事業会社又はそれらのブランドとしての「TART」を想起させる。 請求人は、タート社の承継者であり、「TART」ブランドの保有者で、日本を含む世界において、請求人の「TART」ブランドの眼鏡フレーム及び眼鏡が、請求人、請求人事業会社又はそのライセンシーによって、製造、販売され、映画スターを含む著名人にも使用され、眼鏡関係商品において「TART」は日本を含めて世界的によく知られてきたブランドであることは前記のとおりである。 一方、被請求人は、タート氏又はタート社から何らタート社又はタート氏のブランド(「TART」を含む。)ないし権利や眼鏡フレーム事業(眼鏡フレーム事業の資料に関する権利を含む。)を取得していないにもかかわらず、被請求人が製造、販売する眼鏡商品に本件商標「TART OPTICAL ARNEL」を使用し、被請求人がタート氏又はタート社を承継するかのような説明をし(甲4、2枚目〜6枚目)、又は被請求人があたかもタート氏、タート社又は請求人からライセンスを受けているかのように需要者を誤認させている、又は少なくともそのおそれが十分ある。 前記のとおり、1948年に眼鏡フレームの伝説的職人であったタート氏がタート社を設立し、「TART」ブランドの眼鏡フレームを製造、販売し、「TART」ブランドの眼鏡フレームは、優れたデザインを有し、高品質で価値が高いビンテージ商品として、日本を含めて世界的に需要者の間によく知られ、請求人は、タート社ないしタート氏の承継者として「TART」を眼鏡商品について日本でも商標登録して、眼鏡フレーム及び眼鏡について使用していた。「ARNEL」もタート社ないし請求人の「TART」ブランドの眼鏡フレームのモデル名であった(甲12、甲13、甲17、甲28、甲31、甲34、甲35の3〜甲35の7、甲36、甲38〜甲39、甲41〜甲44、甲49、甲50、甲57、甲58、甲71、甲73、甲75〜甲77、甲81〜甲83)。 ところが、被請求人が、正に、タート社ないし請求人が本件商標の出願前から使用してきたといえる「TART OPTICAL ARNEL」を商標として、眼鏡又はサングラスに使用するならば、需要者が、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれが発生することは、その商標登録出願の時点において容易に推推ないし予測できたのであり、また、被請求人もそのことを意図して本件商標の登録出願をした。被請求人は、タート社又は「TART」を含むタート社のブランドにフリーライドし、不正の利益を得る目的をもって本件商標の登録出願をした。被請求人は、このような不正の目的をもって本件商標の登録出願をし、商標登録を受けた。 以上のとおり、被請求人が、本件商標をその指定商品(眼鏡、サングラス)に使用すると、需要者は、被請求人の商品が、タート社の承継者である請求人の商品と混同を生ずるおそれ(ライセンスを受けているとの誤認を生ずるおそれを含む。)がある。 (4)結論 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第27号証を提出した。 なお、証拠の表記に当たっては、「乙第○号証」を「乙○」のように省略して記載する場合がある。 1 請求人が、タート氏が創立したタート社の事業承継者であるとの主張について (1)請求人は、タート社の事業承継者であると主張し、甲第5号証、甲第6号証、甲第10号証、甲第20号証ないし甲第25号証、甲第47号証ないし甲第50号証、甲第59号証及び甲第60号証を提出している。 しかしながら、以下の理由により請求人がタート社の事業承継者であることは、甚だ疑わしく、請求人は事業承継者ではなく、1970年代に廃業したタート社の意思を引き継いだかのように発信することを宣伝広告の手段として眼鏡を新しく復刻した一つの会社にすぎない。 ア タート社は、乙第1号証及び乙第2号証に示されるように、1950年頃にアメリカ合衆国のニューヨーク州にて設立された会社であり、セルロイドの眼鏡フレームを自社で製造販売していた眼鏡製造販売会社であるが、既に1970年代にその事業を廃業している。すなわち、この時に、タート社はこのセルロイドの眼鏡フレームの製造販売を完全に中止し、法人としても解散したものと考えられる。 現在では、前記廃業の前に製造販売されたタート社のセルロイドの眼鏡フレームは希少価値のあるビンテージ商品として我が国でも販売されている例がある。 また、請求人の甲第26号証ないし甲第30号証の雑誌においてビンテージ商品が日本で販売されていることが示されており、請求人はこの商品が請求人の商品であると主張しているが、このビンテージ商品は請求人の商品とは別物である。 イ 甲第10号証は、単に自社の宣伝広告用に作成した英語のウェブページであり、その説明は主観的なものである。また、甲第20号証ないし甲第22号証は、何を立証するためのものであるのか不明なものであり、請求人が何らタート社の承継者であることを客観的に示すものではない。さらに、甲第23号証及び甲第59号証は、「TART」の米国での商標登録であるが、これも米国特許商標庁での商標登録出願では単に主観的な宣誓書が出されるだけであり、請求人が何らタート社の事業承継者であることを客観的に示すものではない。すなわち、これらは、請求人がタート社の事業承継者である事実を何ら客観的に示すものとはいえない。 ウ 請求人は、甲第47号証として、請求人のmanager(マネージャー)であるAndrew C. Bagnall(アンドリュー シー バグナル)(以下「バグナル氏」という。)が署名した供述書(以下「マネージャー供述書」という。)を提出している。 このマネージャー供述書では、あたかも請求人がタート氏の承継者であるかのような記載がある。 すなわち、2000年10月25日に、David Hart氏(以下「デイビッドハート氏」という。)がTARTのコモンロー上の権利をタート氏から獲得し、その後、その権利はカリフォルニア州においてZoila Hart氏とのcommunity property(夫婦共有財産)となり、2009年8月11日にカリフォルニア州で設立されたTART OPTICAL ENTERPRISES,LLC(以下「TOE社」という。)にその権利をTOE社に出資される最初の対価の一部として譲渡したとの記載がある。 ところで、米国は日本でも周知のとおり契約社会であり、日本のように契約書なしで商取引が行われることはなく、いろいろな条項を明示した契約書が締結されるものである。特に、事業に関わる知的財産権等を第三者に譲渡などする場合には、後の紛争を回避するために契約書を作成することが当たり前である。 このマネージャー供述書は、単にマネージャーのバグナル氏が私的に主観的に供述したにすぎないものであり、証拠能力に乏しいものである。 それにも関わらず、請求人は、タート氏からデイビッドハート氏への「TART」のコモンロー上の権利の譲渡に関する契約書を明示していない。 また、デイビッドハート氏がTOE社に出資したことを示す契約書も明示していない。なおかつ、「TART」のコモンロー上の権利がZoila Hart氏とのcommunity property(夫婦共有財産)となっているのであれば、Zoila Hart氏の承諾も必要である。 エ 請求人は、甲第48号証として、タート氏からデイビッドハート氏への書簡を示している。 しかしながら、この書簡は、そもそも様々な箇所が不鮮明であり、特に英文の文章において、どのような内容の権利であるかの肝心な箇所が明らかに不鮮明であって判読できない。また、この書簡には、出荷日(2000年10月25日)、請求日(2000年10月25日)や請求書番号などが記載されるとともに英文の文章の前に商品の金額のような「2.00」と読めるような記載がある。 このことからすると、この書簡は何らかの商品取引の請求書などではないかと考えられ、普通に考えれば、事業にとって重要な「TART」のコモンロー上の権利の譲渡がこのような簡易な書簡で許諾されることはない。 さらに、この書簡の上側に「TART OPTICAL ENTERPRISES INC」のように読めそうな会社名の記載があるが、タート社は、前述のように1970年代に廃業していることから、廃業後20年以上が経過しており、この書簡の日付時点においてタート社が存続していること自体が疑わしく、この書簡自体がねつ造であるものと考えられる。 オ その上、マネージャー供述書でも述べられており、乙第2号証にも示されるように、現に、我が国では、株式会社The Light(以下「The Light社」という。)がタート氏の甥であるRichard Tart氏とともに新たに創設した「JULIUS TART OPTICAL」が商標登録を取得するとともに我が国で展開されており、商標登録第5894128号「JULIUS TART OPTICAL」の無効審判の審決取消訴訟令和4年(行ケ)第10120号の判決(以下「「JULIUS TART OPTICAL」審決取消訴訟の判決」という。)(乙3)及び商標登録第5918891号「Julius Tart」の無効審判の審決取消訴訟令和4年(行ケ)第10121号の判決(以下「「Julius Tart」審決取消訴訟の判決」という。)(乙4)において、これらの審決取消訴訟の被告のThe Light社は請求人がタート社の商標事業承継者であることについて争っていることからも、請求人がタート社の事業承継者であるとはいえない。 (2)以上に鑑みると、タート社からの事業承継者であるとの主張は甚だ疑わしく、請求人はタート社からの事業承継者ではなく、The Light社と同じく1970年代に廃業したタート社の意思を引き継いだかのように発信することを宣伝広告の手段として復刻させた商品を製造販売するにすぎない者である。 2 請求人の「TART」が眼鏡関係商品において我が国を含む世界的に知られてきたブランドであるとの主張について (1)請求人は「TART」が眼鏡関係商品において我が国を含む世界的に知られてきたブランドと主張しているが、米国及び我が国において眼鏡を購入する需要者をして周知又は著名であるものとはいえない。 ア 乙第5号証に示されるように、2015年頃において米国の眼鏡市場規模は、約2兆3,800億円である。 一方、乙第6号証ないし乙第9号証に示されるように、我が国の眼鏡市場規模は、2014年では4,798億円、2015年では4,939億円、2016年では5,045億円となっている。 このように米国及び我が国での眼鏡市場規模はかなり大きな市場規模であるといえる。 また、これらの市場規模の中で特定の商標が米国及び我が国において周知又は著名であるというためには、かなり大きな売上規模が必要であり、例えば、乙第10号証に示されるように、我が国でいえば、2016年において売上高が693億円(シェアが13%)の「眼鏡市場」、同461億円(シェアが9.1%)の「ジンズ」及び同498億円(シェアが9.8%)の「パリミキ」などの売上高規模が必要である。 さらに、その宣伝広告もテレビ、新聞、雑誌などの宣伝広告媒体において頻繁かつ継続的になされていることなどが必要である。 イ ところで、請求人は、タート社の既に製造販売が中止された眼鏡に関して、種々の証拠を挙げて周知又は著名であると主張しているが、この眼鏡はタート社が販売したビンテージ商品であり、以前にジョニー・ディップなどが掛けていたことから、取り上げられていたものにすぎず、米国又は我が国の眼鏡を購入する需要者をして周知又は著名になっているものではない。 また、請求人は、甲第12号証の10及び甲第12号証の11、甲第31号証及び甲第34号証などに示されるように、我が国において、雑誌及び店舗のホームページに請求人の眼鏡が取り上げられていると主張しているが、単に数種の雑誌及び20社程度の店舗のホームページに取り上げられているにすぎず、さらに米国及び我が国における本件商標の出願時より前での請求人の眼鏡の販売数又は売上額については、2009年から2015年2月9日(本件商標の出願日前)までの約7年間において、900件程度の取引数及びその売上額(甲38〜甲44)を示すにすぎないことからすると、到底、米国及び我が国において、請求人の商標「TART」が周知又は著名であるとはいえない。 すなわち、米国及び我が国において周知又は著名であれば、数多くの新聞・雑誌などの広告媒体や、数多くの店舗での販売や数多くの店舗のホームページで取り上げられているはずである。 また、前述のように、米国及び我が国における眼鏡市場の規模は年間で5,000億円以上の売上規模であることに鑑みると、単に広告宣伝だけではなく、その販売数又は売上額も相当なものになることに疑いがない。 しかしながら、請求人によりこれらについての立証がなされていない。 ウ 請求人は、あたかも請求人の製造販売する眼鏡が米国の著名人によって購入されたかのような主張をしているが、彼らによって購入されて掛けられている眼鏡は全てタート社が販売したビンテージ商品であると考えられ、請求人の製造販売した眼鏡が掛けられているものではない。すなわち、請求人の甲第12号証において、前記米国での著名人が請求人の眼鏡を掛けているかのような画像が見られるが、いずれの画像及びその画像に関する英文でのコメントにおいても各米国の著名人が請求人の製造販売する眼鏡を掛けていることが示されておらず、かつ請求人の眼鏡を推奨するとの明示がなされている記載もない。これらの請求人のフェイスブックに掲載された画像は、例えばインターネットから入手した画像に基づいて作成することが可能であり、これに請求人が広告宣伝のためのコメントを加えることも簡単にできることから、前記画像が画像に写された米国の著名人の承諾の下に使用されているかどうかも疑わしく、その承諾の下に掲載されている証拠は一切示されていない。また、甲第12号証の1ないし第12号証の9は全て英語のものであり、我が国の眼鏡関係の多くの需要者がその内容を認識・理解できないものである。 エ さらに、乙第11号証ないし乙第13号証に示されるように、検索エンジン「Yahoo!」にて「tart 眼鏡」、「タート 眼鏡」及び「arnel 眼鏡」を検索したところ、この検索結果に表れるのは、ほとんどが被請求人の「TART OPTICAL ARNEL」又はThe Light社の「Julius Tart Optical」ばかりで、その他ではタート社のビンテージ商品が表れるだけであり、請求人の「TART」はほとんど見当たらない。「TART」が我が国で周知又は著名であればこの検索結果の大部分を占めるべきであるが、そのような事実がないことからも、「TART」は我が国では眼鏡を購入する需要者をして周知又は著名であるとはいえない。 オ その上、「JULIUS TART OPTICAL」審決取消訴訟の判決及び「Julius Tart」審決取消訴訟の判決においても、請求人の商標「TART」の我が国での周知性が否定されていることからも、請求人の商標「TART」に接した我が国の眼鏡を購入する需要者をして周知又は著名でないことが補強されるものである。 (2)以上に鑑みると、請求人の「TART」は、米国及び我が国において眼鏡を購入する需要者をして周知又は著名であるとは到底いえない。 3 被請求人は本件商標を「不正の目的」をもって出願し登録していないことについて 本件商標は、既にその設定の登録日から5年を経過しているので、商標法第4条第1項第15号を無効理由とする本無効審判請求が認められるための前提として、被請求人が「不正の目的」をもって本件商標の登録を得ていることが必要である。 しかし、以下の理由により、被請求人は、本件商標を「不正の目的」をもって出願し登録したものではなく、本件無効審判の請求は認められないものである。 (1)本件商標「TART OPTICAL ARNEL」は、タート社が1970年代に廃業した後にビンテージ商品として今なお中古品として販売がなされているタート社が製造販売した品質の高かった商品を尊重し、被請求人が我が国において眼鏡フレームの品質が高いとして著名な鯖江の技術に基づいて、過去のタート社のビンテージ商品と同じような品質の高い眼鏡を日本国内で眼鏡を購入する需要者に提供するために、新たに採用した商標である(甲4)。 被請求人は、この新たなブランドである本件商標「TART OPTICAL ARNEL」について、2015年2月12日に商標登録出願し、2015年5月18日に登録査定を受け、2015年6月19日に商標登録を受ける(甲1)とともに、この新たなブランド「TART OPTICAL ARNEL」を立ち上げ、2017年頃から眼鏡について製造販売して使用を開始し、現在にまで至っている。 なお、被請求人のメインブランドである本件商標「TART OPTICAL ARNEL」に関しては、2019年10月開催の国際メガネ展iOFT2019(乙14)に出展するとともに、その会場にて現大阪市長の松井一郎氏から感謝状を頂く(乙15)とともに、元経産省官僚でよくテレビに出演している岸博幸氏からも感謝状を頂いており(乙16)、さらに商標「TART OPTICAL ARNEL」は我が国で著名な雑誌「Safari」2021年2月号(乙17)及び同「monoマガジン」2022年1月2月合併号(乙18)などの著名な雑誌においても広告記事が掲載されており、その上、一例として乙第19号証ないし乙第23号証に示されるオンラインショップなどにおいても商標「TART OPTICAL ARNEL」が付された眼鏡が多数販売されている。 (2)前記2で詳述したように、請求人の「TART」は、我が国において眼鏡を購入する需要者をして周知又は著名であるとはいえないことから、本件商標に接した需要者が請求人の商標「TART」を想起することはなく、請求人と何らかの組織的な関係があると誤認することもない。 また、前記1で詳述したように、請求人はタート社からの事業承継者ではなく、The Light社と同じく1970年代に廃業したタート社の意思を引き継いだかのように発信することを宣伝広告の手段として復刻させた商品を製造販売するにすぎない者である。被請求人は、タート社が過去に製造販売していた「ビンテージ商品(眼鏡)」をリスペクトして日本の鯖江の技術に基づいて日本で新たなブランドを立ち上げて、商取引としての自由競争の枠内で、本件商標を独自に考え採用したものである。 そうすると、被請求人は不正の利益を得るなどの「不正の目的」をもって出願し登録していないことは明らかである。 したがって、そもそも、本無効審判請求は除斥期間を経過していることから、不適法であり、本無効審判請求は認められないものである。 (3)なお、請求人は、我が国で本件商標の出願前から「TART OPTICAL ARNEL」を使用してきた旨の主張をしているが、請求人が「TART OPTICAL ARNEL」を一連一体として使用している証拠はない。 4 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しない理由について (1)本件商標について 本件商標は、標準文字であり、「TART」「OPTICAL」「ARNEL」との3つの英語の言葉を各言葉の間にスペースを空けて横一連に同書、同大、同間隔にて構成されている。 本件商標の構成中の「TART」「OPTICAL」「ARNEL」の各言葉は、我が国の眼鏡を購入する需要者をして、明確な意味合いを有する言葉ではないと認識・理解されるものである。 したがって、本件商標「TART OPTICAL ARNEL」に接した我が国の眼鏡を購入する需要者をして、全体としてまとまった一連一体の造語的なものとして認識・理解されるものであり、本件商標からは「タートオプティカルアーネル」との称呼のみが生じるものである。 なお、請求人は、「OPTICAL」が英語で「目の」「視力の」「視覚の」などの意味合いを有するとし、また「OPTICAL」との言葉が眼鏡店ないし眼鏡ブランドの名称中によく使用されていると主張している(甲9の1〜甲9の7)が、単にインターネット上での数件の事例を挙げているにすぎず、また店名及び眼鏡ブランドに含まれる「OPTICAL」に接した我が国の眼鏡を購入する需要者をして、明らかに自他商品識別力を有しない言葉と認識・理解する事実を示しているとはいえない。「眼鏡」の英文字表記としては、「OPTICAL」だけが単独で使用されている例はなく、「eyewear」「EYEWEAR」又は「g1asses」との表記が一般的である(乙24)。 また、「OPTICAL」が我が国の眼鏡を購入する需要者をして、請求人の主張するような意味合いとして認識・理解されないことは、「JULIUS TART OPTICAL」審決取消訴訟の判決においても、明確に判示されており、このように判断することが妥当であることを示している。 (2)引用商標について 引用商標は、「TART」との英語の言葉を横一連に同書、同大、同間隔にて構成されている。 引用商標からは、普通に発音できる「タート」との称呼のみが生じる。 また、引用商標は、眼鏡を購入する需要者をして周知又は著名ではなく、なじみのある英語の言葉ではないことから、特定の観念を生じない言葉であると認識・理解されるものである。 (3)本件商標と引用商標との類否について 本件商標は、この商標に接した我が国の眼鏡を購入する需要者をして、全体としてまとまった一連一体の造語的なものとして認識・理解されるものである。 その一方で、引用商標は、我が国の眼鏡を購入する需要者をして、周知又は著名なものではないことから、本件商標「TART OPTICAL ARNEL」から「TART」のみを取り出してその類否判断をする理由はない。 したがって、これを前提として以下に外観、称呼、観念を対比する。 ア 外観について 本件商標「TART OPTICAL ARNEL」は全体として一連一体のものであるのに対し、引用商標は「TART」だけであり、その外観において著しく相違している。 イ 称呼について 本件商標からは「タートオプティカルアーネル」との称呼が生じるのに対し、引用商標「TART」からは「タート」との称呼が生じることから、その称呼において著しく相違している。 ウ 観念について 本件商標「TART OPTICAL ARNEL」及び引用商標「TART」からのいずれからも特定の観念は生じないことから、観念において対比することはできない。 エ 以上のとおり、本件商標に接した我が国の眼鏡を購入する需要者をして、引用商標とは明確に別異のものとして認識・理解されるものである。 (4)請求人は、登録商標「TART OPTICAL」及び「TART OPTICAL ENTERPRISES」に関する無効審決では「TART」部分が出所識別標識として機能を有する要部であると認識・理解されると認定されるとして、本件商標も同様であるかのような主張をしている。 しかし、前述のとおり、前記各審決よりも後に出された「JULIUS TART OPTICAL」審決取消訴訟の判決(乙3)において、「OPTICAL」に関して異なる判断がなされており、この判決を優先すべきである。 (5)「JULIUS TART OPTICAL」審決取消訴訟の判決(乙3)において、「JULIUS TART OPTICAL」は全体としてまとまった一連一体として認識・理解されるものであると認定されていることから、本件商標も同様に、本件商標に接する我が国の眼鏡を購入する需要者をして全体として一連一体のものとして認識・理解されることが補強されるものである。 (6)請求人は「ARNEL」「Ex−Man」「F.D.R.」「BRYAN」を使用してきたとの主張をするが、少なくとも我が国においては、請求人はこれらの商標について商標登録をしておらず、請求人以外のものが「Ex−Man」を除いて商標登録をしていること、すなわち商標登録第5560964号「ARNEL」(乙25)、商標登録第5945001号「FDR」(乙26)、商標登録第5945002号「Bryan」(乙27)として登録されていることに鑑みると、これらの各商標が単なる品番などとして使用されている事実はなく、自他商品識別力を有する部分であることが確認できる。 なお、請求人は、前記商標登録第5560964号「ARNEL」の商標権者から、商標権侵害の警告を受けたと聞き及んでいる。 (7)本件商標「TART OPTICAL ARNEL」は、前述のように、引用商標に類似するものではなく、また前記2で詳述したように、引用商標に接した我が国の眼鏡を購入する需要者をして、周知又は著名であると認識・理解させるものではないことから、明らかに引用商標と混同を生じることはなく、商標法第4条第1項第15号に該当しないものである。 第5 当審の判断 1 商標法第47条第1項について 商標法第47条第1項は、商標登録が同法第4条第1項第15号に違反してされたとの理由により、同法第46条第1項に基づき、該商標登録の無効の審判を請求するときは、それが不正の目的で商標登録を受けた場合を除き、該商標登録に係る商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、その請求をすることができない旨規定している。 本件商標は、上記第1のとおり、平成27年6月19日に設定登録されたものであり、また、本件審判の請求は、令和5年7月6日にされたものである。 そうすると、本件審判の請求は、本件商標に係る商標権の設定の登録の日から5年を経過した後にされたものである。 また、上記第3のとおり、請求人は、本件商標の登録が商標法第4条第1項第15号の規定に違反してされたとの理由により、本件審判を請求している。 してみると、本件審判を請求することができるのは、本件商標が不正の目的で商標登録を受けた場合に限られる。 2 不正の目的について (1)上記第3の2(3)のとおり、請求人は、「TART」は、タート氏、タート社若しくはその承継者である請求人若しくは請求人事業会社又はそれらのブランドとして想起させること、「TART」は日本を含めて世界的によく知られてきたブランドであること、一方、被請求人は、タート氏又はタート社から何ら両者のブランド(「TART」を含む。)ないし権利等を取得していないこと、タート社ないし請求人が本件商標の出願前から使用してきたといえる「TART OPTICAL ARNEL」を商標として、眼鏡又はサングラスに使用するならば、需要者が、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれが発生することは、その商標登録出願の時点において容易に推推ないし予測できたことなどから、被請求人は、タート社又は「TART」を含むタート社のブランドにフリーライドし、不正の利益を得る目的をもって本件商標の登録出願をしたと主張している。 (2)認定事実 両当事者の提出した証拠及び主張によれば、次の事実が認められる。 ア タート氏が1948年に米国ニューヨーク州において設立したタート社は、眼鏡メーカーであり、同社が製造した眼鏡フレームは、「TART」のブランドで販売されたが、1970年代に廃業している(甲4、甲10、乙1、乙2等)。 イ 請求人及び請求人事業会社(以下、両者を合わせて「請求人等」という。)は、米国において、商標「TART」を使用した「眼鏡、眼鏡フレーム」(以下「請求人等商品」という。)を遅くとも2009年頃から販売等し(甲12〜甲16、甲38)、請求人は米国において2017年10月に商標「TART」について、指定商品を「第9類 眼鏡」などとする商標登録を受け(甲23)、請求人等は2009年頃から2015年まで毎年、請求人等商品を含む商品を我が国に個別に輸出していた(甲38〜甲44)。 ウ 我が国において、商標「TART」を使用した「眼鏡、眼鏡フレーム」(以下「使用商品」という。)が販売されており(甲11)、2011年11月以降、雑誌やウェブページに使用商品を紹介等する記事が約20回程度掲載された(甲12、甲26〜甲36、甲71、甲72)。 エ 請求人が米国において商標登録した商標「TART」について、米国特許商標庁の登録情報には、最初の使用及び最初の商業使用は1948年12月31日とされている(甲59)。 オ 請求人のマネージャーであるバグナル氏の供述によると、2000年10月25日に、デイビッドハート氏は、タート氏から「TART」のコモンロー上の権利を取得し、その権利は、請求人が2009年8月11日に設立した際に、請求人へ譲渡された(甲47)。 カ 被請求人は、自社のウェブサイトにおいて、タート社が1970年代に廃業した後に、タート社の伝説を尊敬し、日本においてそのテイストを復活されるべく、日本の鯖江の技術によって、本件商標である「TART OPTICAL ARNEL」をスタートさせたと説明している(甲4)。 キ The Light社は、自社のウェブサイトにおいて、「JULIUS TART OPTICAL」は、タート社の創立者タート氏の甥のリチャード・タート氏とともに新規に創設したブランドと説明しており(乙2)、令和4年(行ケ)第10120号及び同第10121号の審決取消訴訟において、請求人がタート社の事業承継者であるかについて、請求人と争っていた(乙3、乙4)。 ク 請求人等は、「Arnel」、「ARNEL」又は「アーネル」の文字からなる商標を「眼鏡」に使用していることがうかがえるが(甲31、甲34、甲36、甲73、甲75〜甲77等)、「TART OPTICAL ARNEL」一連の商標の使用は見いだせない。 (3)判断 ア 引用商標の周知著名性について 上記(2)アないしウによれば、タート氏が1948年に米国ニューヨーク州において設立したタート社は、眼鏡メーカーであり、同社が製造した眼鏡フレームは、「TART」のブランドで販売されたが、1970年代に廃業している。 また、請求人等は、米国において請求人等商品を遅くとも2009年頃から販売等しており、2009年頃から2015年まで毎年、請求人等商品を含む商品を個別に我が国に輸出したことなどが認められるものの、我が国における請求人等商品の販売実績を全体的に示す証拠はない。 さらに、雑誌やウェブページにおける使用商品の紹介もさほど頻繁とはいえず、その他、我が国の取引者、需要者において、請求人等商品の認知度が高いことを認めるに足りる証左は見いだせないから、請求人等商品及びそれに使用されている商標「TART」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人又は請求人等の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 したがって、「TART」の文字からなる引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、タート氏若しくはタート社又は請求人等の業務に係る商品(眼鏡、眼鏡フレーム)を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されているものとはいえない。 イ 請求人等による「TART OPTICAL ARNEL」の文字からなる商標の使用について 上記(2)クによれば、請求人等が「TART OPTICAL ARNEL」一連の商標を使用していることは認められない。 なお、請求人等は、「Arnel」、「ARNEL」又は「アーネル」の文字からなる商標を「眼鏡」に使用していることがうかがえるが、当該商品の販売実績等を示す証拠の提出はないから、当該商標が請求人等の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 ウ 出所の混同のおそれについて 本件商標は、上記第1のとおり、「TART OPTICAL ARNEL」の欧文字を標準文字で表してなるものであり、その構成中には、「TART」及び「ARNEL」の欧文字を有してなるものである。 しかしながら、上記ア及びイのとおり、「TART」の文字からなる引用商標及び「Arnel」、「ARNEL」又は「アーネル」の文字からなる商標は、需要者の間に広く認識されているものとは認められず、また、請求人等が「TART OPTICAL ARNEL」一連の商標を使用していることも認められない。 そうすると、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、タート氏、タート社若しくは請求人等又はそれらのブランドを想起させるものとはいえず、それらとの間で、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないというべきである。 エ タート氏又はタート社からのブランドないし権利等の取得について 上記(2)エ及びオによれば、請求人が米国において商標登録した引用商標の登録情報には、最初の使用及び最初の商業使用は1948年とされており、これはタート社の設立年と一致し、また、2000年10月25日に、デイビッドハート氏は、タート氏から「TART」のコモンロー上の権利を取得し、その権利は、請求人が2009年8月11日に設立した際に、請求人へ譲渡されたとバグナル氏が供述していることが認められる。 しかしながら、コモンロー上の権利が具体的にどのような権利であるのか不明であり、引用商標に関する権利が請求人へ譲渡されたことを示す客観的な証拠は見いだせない。 他方で、上記(2)カ及びキによれば、被請求人は、タート社の伝説を尊敬し、日本においてそのテイストを復活されるべく、日本の鯖江の技術によって、また、The Light社は、タート社の創立者タート氏の甥のリチャード・タート氏とともに新規にブランドを創設したとして、それぞれ「TART」の文字を含む商標(ブランド)を使用ないし創設している。 そして、タート社が1970年代に廃業していること、及び上記アないしウをも踏まえれば、被請求人がタート氏又はタート社から何らのブランドないし権利等を取得していないことが、本件商標が不正の目的をもって商標登録を受けた場合に該当するということはできない。 オ 以上のとおり、引用商標又は「Arnel」、「ARNEL」若しくは「アーネル」の文字からなる商標は需要者の間に広く認識されているとはいえず、請求人等が「TART OPTICAL ARNEL」一連の商標を使用しているとはいえず、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるとはいえず、かつ、被請求人がタート氏又はタート社から何らのブランドないし権利等を取得していないことが、本件商標が不正の目的をもって商標登録を受けた場合に該当するともいえない。 そうすると、被請求人が不正の利益を得る目的をもって本件商標の登録出願をしたという請求人の主張は、理由がないといわなければならない。 他に、本件商標が不正の目的で商標登録を受けたというべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、不正の目的で商標登録を受けたということはできない。 3 むすび 以上のとおり、本件商標は、不正の目的で商標登録を受けたと認めることができないものであるから、本件商標の登録が商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるとの理由に基づく本件審判の請求は、同法第47条第1項の規定により、請求することのできる期間を経過した後にされたものといわなければならない。 したがって、本件審判の請求は、不適法なものであって、その補正をすることのできないものであるから、商標法第56条第1項において準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 審判長 山田 啓之 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2024-02-27 |
結審通知日 | 2024-03-04 |
審決日 | 2024-03-29 |
出願番号 | 2015017181 |
審決分類 |
T
1
11・
271-
X
(W09)
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最終処分 | 11 審決却下 |
特許庁審判長 |
山田 啓之 |
特許庁審判官 |
鈴木 雅也 渡邉 あおい |
登録日 | 2015-06-19 |
登録番号 | 5771825 |
商標の称呼 | タートオプチカルアーネル、タートオプチカル、タート、オプチカルアーネル、アーネル、タルト |
代理人 | 深井 俊至 |
代理人 | 垣木 晴彦 |