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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W093942
管理番号 1413635 
総通号数 32 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2024-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-12-07 
確定日 2024-08-01 
異議申立件数
事件の表示 登録第6741286号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6741286号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6741286号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和5年3月2日に登録出願、第9類、第39類及び第42類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同年9月12日に登録査定、同年10月2日に設定登録されたものである。

2 引用登録商標及び引用使用商標
(1)登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標は、以下のとおりである。
登録第6452208号商標(以下「引用登録商標」という。)
商標の態様:別掲3のとおり
登録出願日:令和2年7月27日
設定登録日:令和3年10月6日
指定商品及び指定役務:第9類、第12類、第35類、第36類、第39類、第41類、第42類及び第45類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
なお、引用登録商標は、現に有効に存続している。
(2)申立人が、本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する商標(以下「引用使用商標」という。)は、別掲3と構成を同じくするものであり、申立人の業務に係る「コンピュータソフトウェア,コンピュータソフトウェアの提供,輸送,輸送の予約,広告,電子商取引の利用者に代わってする支払代金の精算又は決済」等の出所を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていると主張するものである。
なお、引用登録商標と引用使用商標を合わせて「引用商標」という場合がある。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)申立人の引用商標の著名性について
ア 申立人事業と引用使用商標の使用実績について
(ア)申立人と引用使用商標の採択について
申立人は、日本交通ホールディングス株式会社と株式会社ディー・エヌ・エーが、それぞれが使用するタクシー配車アプリ等に関する事業を2020年4月に統合して設立された企業である。なお、存続会社は、日本交通ホールディングス株式会社側の子会社であるJapanTaxi株式会社である(甲6の1)。また、設立当時の社名は、株式会社Mobility Technologiesであり、2023年4月に現在の名称に変更している。
申立人は、JapanTaxi株式会社が提供していたタクシー配車アプリ「JapanTaxi」と株式会社ディー・エヌ・エーが提供していたタクシー配車アプリ「Mov」の強みを生かした新たなアプリの商標として「GO」を2020年9月から開始することとした。これが引用使用商標の開始時期である。なお、このロゴは、人々の暮らしや未来を俯瞰で捉え、集約した姿として、地球をモチーフにデザインしたものである(甲6の2)。
(イ)アプリの具体的な機能について
このアプリの機能の具体的な内容は以下のとおりである。
GO配車に対応する各車両には、専用の乗務員端末が搭載されており、この端末を通してアプリサーバで各車の位置情報を常時取得している。
「GO」アプリをスマートフォンにインストールした需要者が、当該アプリで表示される地図上で、自分の乗車位置を指定し配車注文が行われると、サーバ上のAIが乗車場所や車両条件など、注文内容に応じて適切な車両1台を決定し、その車両の端末に配車依頼を送る。乗務員が配車を了解すると車載タブレットに乗客の情報が送信される。
これによって、需要者はタクシーの配車依頼(予約)を行ったことになり、乗車位置で依頼した車両を待って、当該タクシー会社の輸送サービスを受ける。なお、降車地についても事前にスマートフォンを介して乗務員に連絡することが可能である(甲5の1)。
後述するとおり、料金支払いも「GO Pay」により、スマートフォンとリンクしたクレジットカード機能などを用いて行う事ができる(甲5の2他)。
このように「GO」アプリは、タクシーの配車依頼や支払いの利便性を向上させるアプリケーションである。
したがって、引用使用商標は、「アプリケーション、オンラインでのアプリケーションの提供、輸送の予約」等について使用されているものである。
(ウ)需要者のダウンロード数について
「GO」アプリは、スマートフォン用のアプリケーションであるため、そのダウンロード数が一つの使用実績の目安になる。
上述したとおり、使用開始は2020年9月であるが、約一年後の2021年10月には500万ダウンロード、2022年5月に800万、二年後の2022年9月に1000万と爆発的なダウンロード数を誇っており、これは同種のタクシーアプリの中で最もダウンロード数の多いアプリである。
なお、本件商標出願後ではあるが、2023年7月に1500万、本件商標登録後ではあるが、2023年11月には1800万とその数は伸び続けている(甲6の3〜甲6の7)。
(エ)提供エリアとラッピング広告について
「GO」アプリはもともと他のタクシーアプリと比較しても関東・関西の都市圏を中心に広い範囲でサービスを提供していたが、本件商標出願の前である2023年1月には鹿児島県でサービス提供を開始し、この時点で、全国42都道府県で利用可能となっている。
本件商標が登録される同時期である2023年9月には山梨県でサービス提供が開始され、この時点では全国45都道府県となった。
したがって、引用使用商標は、本件商標の出願前には、ほぼ全国で使用されており、登録時においては残りのエリアも順調にカバーしていることがわかる(甲6の8、甲6の9)。
そして、この時期には全国で10万台程度が「GO」アプリに対応するタクシーが存在している。時期は前後するがサービス開始当初より、申立人は引用使用商標の需要者間の認知度を向上させるために、タクシーに引用使用商標をラッピング広告していた(甲7)。
したがって、「GO」アプリを利用していない需要者であっても、街中で引用使用商標が使用されたタクシーを目にしたことがある需要者は、相当数に上るといえる。
イ 引用使用商標の宣伝広告やキャンペーンについて
上述したラッピング広告の他、申立人は引用使用商標の認知度を向上させるために様々な宣伝広告やキャンペーンを展開してきた。この展開が功を奏したからこそ、上記ア(ウ)で述べたように急激に利用者数を獲得できたのである。
以下、これについて詳述する。
(ア)テレビCM・動画広告と屋外広告について
テレビCM(及びデジタルサイネージなどでの動画CM)には、俳優のA氏を起用した。しかも、コミカルな内容となっていることと、最後に下図に示すように「どうする?GOする」というキャッチコピーが流れることで、瞬く間にコマーシャルは需要者間に認知され、その結果、引用使用商標も認知されるにいたった。このCMが人気であることを示すものとして甲第6号証の4などにも記載がある。なお、甲第8号証の1に示すYouTubeにおいて当該広告動画を視聴することができる。
そして、「どうする?GOする」のキャッチコピーをはじめ、申立人の引用使用商標を指すものとして「ゴー」という単語が意識的に発音されていることから、引用使用商標は「ゴー」の称呼で広く認識されているものであるといえる。
また、GOを搭載しているタクシーには座席の前にデジタルサイネージが装備されており、広告が自動で流れている(ただし、乗客が意図的に電源をOFFにすることは可能である)。そして、乗客は広告を視聴する。この際、甲第8号証の1に示した申立人の動画広告も当然に流れる。
申立人の関連会社であって、タクシー車内で放映するデジタルサイネージを取り扱う株式会社IRISという企業がある。甲第8号証の2及び甲第8号証の3は、株式会社IRISが扱う「TokyoPrime」の媒体資料である。なお、前者は本件商標の出願前のもの、後者は本件商標の登録直後のものである。これらの資料の「メディア概要」に記載のあるとおり本願の出願前(甲8の2)では全国で約6万台のサイネージが装備され、月間のリーチ数が3100万人以上と高い広告効果を果たしていることがわかる。また、甲第8号証の3に示すように、その数値は向上していることがわかる。このように多くのタクシーにおいて、申立人の動画広告が流されていることから、乗客の多くが引用使用商標や後述する「GO Pay」「GO BUSINESS」「GO PREMIUM」等の関連使用商標を目にすることになる。
さらに申立人は、上記のタクシーのラッピング広告の他、街中の屋外広告(OOH)への広告掲載にもこだわった。これにより需要者は、テレビCMで見たことのある引用使用商標を、実際にタクシーを利用する屋外でも多数引用使用商標を目にし、実際に利用する契機を作り出していったのである(甲9の1〜甲9の4)。
このような大量の広告を展開することで、需要者間における引用使用商標の認知は急激に高まったといえる。
またこのような広告を出稿するために多大な費用がかかることは証左するまでもなく明らかである。
(イ)キャンペーンについて
また申立人は、エリア拡大や新規ユーザー獲得のためにキャンペーンを度々行ってきた。例えば、以下のようなものがある。
なお、甲第11号証の2はウェブサイトの更新日が2023年12月になっているが記事自体は本件商標の出願日以前のものである(記事内容に旧社名で記載されていることからも明らかである)。
このようなキャンペーンによっても需要者獲得の大きなきっかけとなったことは明白である。
(ウ)引用使用商標の使用態様のアレンジについて
これまで示してきた宣伝広告やキャンペーンにおいて、申立人は引用使用商標の地球をモチーフにした「O」のロゴ部分をアレンジしていることがわかる。
なお、甲第10号証の1に示す「エンドキャップ」とは、動画広告が流れた後に3〜5秒ほど、静止画を表示させ、サービスや商品の詳細ページヘアクセスしてもらう広告手法である(甲10の2)。
申立人はこれらのアレンジされた使用商標を使用する際に、それが後述する「GO PREMIUM」のように、独立したサービスでは無い限り、必ずどこかに引用使用商標「GO」を使用している。これにより、これらのアレンジされた使用商標は、引用使用商標と関連付けられて需要者の脳裏に深く記憶されることになる。そして、需要者は、「GO」の「O」のロゴ部分が固定ではなく変化することを認識しているといえる。
ウ 関連サービス・派生サービスについて
申立人は引用使用商標のみを、申立人の事業の商標として使用しているわけではなく、関連又は派生サービスに引用使用商標を要部とする商標を複数使用している。
このように申立人はその事業において引用使用商標「GO」単独のみを用いているわけではなく、関連サービス・派生サービスに「GO」とその事業で使用される一般名詞を結合した「GO●●」を頻繁に使用していることがわかる。またその中には「GO PREMIUM」のように「O」をアレンジしたものを商標として採択している例もあることがわかる。
エ インターネット上の記事等について
これまで示してきた出願人の使用実績や甲第6号証の1ないし甲第6号証の17に示したプレスリリースやその関連記事などはインターネット記事などにも多数掲載されている(甲11の1〜甲11の12)。これらの記事は本件商標の登録査定前のものだけを集めたものである。なお、甲第11号証の1ないし甲第11号証の12は一例であり、申立人の事業に関する記事は枚挙に暇がないことを付言する。
また、タクシーアプリを比較するサイトも多数存在しているが、引用使用商標は最初に紹介されている(甲12の1〜甲12の4)。このことは、引用使用商標が需要者間に代表的なタクシーアプリであると認識されていることの証左である。これらの記事は、本件商標登録査定後のものもあるが、過去の実績があってからこそ、このような紹介をされるのである。
そして、そのような認識があることも相まって、インターネット上の記事において、「GO」を搭載しているタクシーや申立人サービスを「GOタクシー」という呼称で紹介しているものもある(甲13の1〜甲13の4)。
オ 小括
以上に述べた申立人の引用使用商標とその関連使用商標の実績をまとめると次のことがいえる。
(ア)引用使用商標は、タクシーアプリ、すなわち輸送に関するアプリケーションや輸送役務の分野において極めて著名である。
(イ)引用使用商標は、テレビCMなどの音声・映像による広告から「ゴー」の称呼でも認識されている。
(ウ)引用使用商標の「O」のロゴ部分はアレンジして使用される場合があることも認識されている。
(エ)申立人の事業において引用使用商標のみならず「GO●●」(●●は一般名詞)を使用していることも認識されている。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標の特定
本件商標は、上段に「GO」の文字と下段に「GOダンプ」の文字を併記してなる商標である。そして上段の「O」は中からダンプカーが走り出しているようなイラストが配置されている。
下段の「GOダンプ」に比して、上段の「GO」は大きく表示されており、かつ、上述した特徴的な「O」との関係で上段の「GO」は強く支配的な印象を与えるものである。
したがって、商標の類否に当たって上段の「GO」の部分を分離して商標の類否を判断することは許されるというべきである。
そして、「GO」の部分からは「ゴー」の称呼が生じ、「行く」という観念が生ずる。
イ 引用商標の特定
引用商標から生ずる称呼は「ゴー」であり、「行く」という観念が生ずる。なお、上記(1)において述べたとおり、引用使用商標の使用実績から引用登録商標は周知著名であるといえる。商標審査基準「十、4.(2)結合商標類否判断について(ア)需要者の間に広く認識された商標を構成中に含む場合」にあるように査定時において引用商標の著名性を考慮することは、何ら問題ない。
ウ 指定商品・役務の類否について
本件商標の指定商品・役務は、甲第1号証及び甲第2号証に示したとおりであるが、第39類「寄託を受けた物品の倉庫における保管,荷物の一時預かり」以外は、引用登録商標の指定商品・役務と同一又は類似する。
なお、いわゆる各区分の商品役務についての積極表示・具体的表示についてさえも、本件商標と引用商標は重複している。例えば、「車両の予約・手配・配車に用いるコンピュータソフトウェア」等がある。ここまで重複するとほぼ申立人事業と重複した事業について本件商標を使用する意図があることは明白である。
エ 商標の対比について
以上を踏まえて、本件商標と引用商標を対比する。
称呼において、本件商標を構成する「GO」と引用登録商標とはともに「ゴー」の称呼が生ずることから、称呼において同一である。また両者はともに英語の「GO」より「行く」という観念が生ずる。
次に、外観についてみると、両者は具体的な構成においては相違するが、その輪郭や丸みを帯びたゴシック体調のフォントが用いられている点は全く同じである。また、「G」の中央の横線の長さもほぼ同じであり、さらには、「G」と「O」の重なり具合に関しては、本件商標は「O」が前面に出ており、引用登録商標は「G」が前面に出ているという点を除けば、全く同じである。
「GO」という単語自体は商標において頻繁に使用される単語であるとともに、そもそもアルファベット二文字で構成される英単語であるから、本来的な識別性が高くないということは申立人も否定しない。
しかしながら、本件商標の指定商品・役務との関係を考慮すれば、「ゴー」といえば、申立人の輸送に関する商品・役務が想起されることは上述したとおりであり、それに加えて、外観の輪郭がほぼコピーである。
以上より、総合的に判断すれば、本件商標がその指定商品・役務に使用された場合には、引用商標と出所の混同が生ずるおそれがあるほどに、両者は類似するものであるといえる。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 他人の表示について
他人、すなわち申立人の表示は引用使用商標「GO」とその関連使用商標である。
類似性の程度
上記(2)において述べたとおり、本件商標を構成する上段の「GO」の部分と引用使用商標とは称呼・外観・観念において同一又は類似するものであるから類似性の程度は高いといえる。
また、下段の「GOダンプ」の部分についてみると、この部分も「GO」と「ダンプ」という輸送に関連する役務についての一般名称である。そうとすると、この「GOダンプ」の部分は、引用使用商標の関連使用商標である「GO Pay」や「GO BUSINESS」等と「GO●●」という構成において共通にするといえる。
なお、この要件の「類似性の程度」は、商標法第4条第1項第15号に該当するか否かの判断の一要素であって、同項第11号の判断において必ずしも類似性が明白ではない商標であっても、「他人の表示の周知・著名性及び独創性の程度」等の種々の事情を勘案した結果、同項第15号に該当することが十分あり得ることはいうまでもないことを念のため付言する(甲17の1に示す「養命茶」事件参考[知財高判平成27年10月29日])。実際に貴庁の無効審判でも同項第11号には該当しないものの、同項第15号には該当すると判断している事例はある(無効2018−890038・甲17の2)。また、過去の裁判例において、図形の構成の共通性と引用商標の著名性を考慮して同項第15号を適用している「レッドブル」事件(知財高判平成29年12月25日)などがある(甲17の3)。
ウ 他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
上記(1)において述べたとおり、引用使用商標は著名な商標である。
また、「GO」という単語自体は独創性が高いわけではないが、「G」と「O」の丸みを帯びたゴシック体で書されていること、「G」と「O」が重なりあっていること、「O」の部分が地球をモチーフにしていること、そして場合によってはアレンジで「O」部分が変わり得ることなどは、造語の程度は高いものであるといえる。
エ 当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、商品等の取引者及び需要者の共通性、その他の取引の実情等
上記(2)において述べたとおり、請求人の使用商品・役務と本件商標の指定商品・役務は同一又は類似である。また、商品が同一又は類似するものであることから取引者・需要者は完全に共通である。なお、ダンプは主に産業用の物を運送することが多いと思われるが、本件商標の指定商品・役務には「トラック」も明記されているし、上位概念の指定商品・役務も包含されていることから最終消費者も対象にしていることは明らかである。また仮に、本件商標の提供対象がダンプカーを利用したい事業者向けであったとしても、申立人も法人専用のサービス(「GO BUSINESS」)を提供していることから、いずれにしても需要者層の重なり合いはあるといえる。
また、申立人に限らず、タクシーサービスを提供している事業者が同時にダンプによる輸送事業を行っている例は多数ある(甲14の1〜甲14の5)。その他、輸送サービスを提供する大企業であると、タクシーやバス、運輸事業など輸送に関する事業を幅広く提供しているケースもある。例えば、甲第15号証の1及び甲第15号証の2に示すように京王電鉄や名古屋鉄道のような鉄道企業のグループでは、タクシー・バス・運輸など、輸送に関わる事業はすべて提供している。さらには、甲第16号証に示すように、タクシー、トラック、ダンプ、バスの運輸事業者とサポート企業による「運輸デジタルビジネス協議会」という社団法人が存在していることも、タクシー事業とダンプ事業との関連性は高いものであることを裏付けている。
オ 総合的な判断
以下に示すように、仮に、本件商標がダンプなどに使用され、路上を走行した場合やスマートフォンアプリのアイコンとしてインストールされた場合を想定してみると、これまでの引用使用商標の著名性、引用使用商標の関連使用商標の実績、輸送サービスの共通性などを考慮すれば、需要者は申立人あるいは申立人の関係企業が、タクシーとは別の新たなサービスとしてダンプを用いた輸送サービスに関するアプリや役務を提供しているという広義の混同が生ずることは必定である。
すなわち本件商標の「GO」部分の外観の輪郭の共通性を持たせたまま「O」部分のロゴを変更している点から、需要者は引用使用商標の関連使用商標のひとつかのように認識する。また、本件商標を構成する下段の「GOダンプ」は「GO●●」という構成であり、これも申立人が引用使用商標との関連サービス・派生サービスにおいて頻繁に使用する商標の構成と同じであることから、「GOダンプ」もそのうちの一つであると想起する需要者数も相当数存在するものと思われる。加えて、甲第13号証に示したように申立人のタクシーアプリを指して「GOタクシー」などと呼称され認識されている例もあることも考慮すれば、より一層混同が生ずる可能性は高くなるというべきである。なお、商標の構成の共通性を理由として15号に該当すると判断した審決例は過去に存在する(甲17の4、甲17の5)。
よって、本件商標をその指定商品・役務に使用すると申立人の事業と混同が生ずる蓋然性が高い商標であるので、本件商標はやはり商標法第4条第1項第15号に該当する。
また、仮に本件商標の登録が有効なものであると判断されるとなると、同一又は類似する商品・役務について引用使用商標の外観の輪郭をコピーしたような「GO」を用いた「GO バス」「GO トラック」「GO バイク」などの商標も登録されてしまう可能性も出てきてしまう。
そして、そのような商標が氾濫的に使用された場合、申立人がこれまで築き上げてきた著名な「GO」の商標の希釈化が生ずることは明白である。
前掲「レールデュタン」事件の判例の冒頭でも述べられているとおり、商品の誤信のみならず、希釈化をはじめとする、このような著名表示への毀損を防止し、それを保護するのが商標法第4条第1項第15号の趣旨であり、その趣旨に鑑みても、本件商標の登録は取り消されるべきものであるといえる。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
これまで述べてきたところから明らかなように、本件商標と引用使用商標とは類似するものである。
そればかりか外観の輪郭においては、引用使用商標のコピーともいえるものである。このことから商標権者が、申立人商標を認識していなかったとは考えられない。
そして、輸送分野の中で、申立人がまだ事業展開をしていない「ダンプ」事業を標榜した本件商標は、申立人の商標にフリーライドする意図がある、あるいは、申立人商標の出所表示機能を希釈化させる意図があるものであるといえる。すなわち本件商標は「不正の目的」を持って出願された商標であるといえる。
商標審査基準「十七、4.」によれば、商標法第4条第1項第19号は、「周知度、商標の同一又は類似性の程度、不正の目的のそれぞれの判断要素を総合的に勘案して判断する。」となっており、必ずしも商標同士の類否を比較する同項第10号や11号と同じ判断になるわけではない。
引用使用商標の著名性、本件商標と引用使用商標との類似性の程度、商標権者のフリーライド希釈化の意図などを考慮すれば、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
(5)まとめ
以上において述べたように、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号、及び同項第19号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2第1号の規定によりその登録は取り消されるべきものである。

4 当審の判断
(1)引用使用商標の周知性について
ア 申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(ア)申立人は、2020年9月に、スマートフォン用のタクシー配車に関するアプリ及び当該アプリを使用したタクシーの予約・配車のサービス(以下「申立人商品役務」という。)について、引用使用商標の使用を開始している(甲6の2)。
(イ)上記の申立人のアプリのダウンロード数は、使用開始から約1年後の2021年10月には500万、2022年5月に800万、2022年9月には1000万、2023年7月には1500万に達し、タクシー配車アプリの中でも最も多いダウンロード数となっている(甲6の3〜6)。
(ウ)申立人は、関東・関西の都市圏を中心に広い範囲で申立人商品役務を提供しており、2023年1月には全国42都道府県で利用可能となった(甲6の8)。
(エ)申立人は、申立人商品役務の提供開始当初より、引用使用商標をタクシーに付したラッピング広告を行っている(甲7)。
また、引用使用商標を使用した申立人商品役務についてのテレビCMに俳優を起用し(甲6の4、甲8の1)、YouTubeにおいて当該テレビCM及び動画広告も配信している(甲8の1)。
(オ)申立人は、申立人商品役務の提供開始当初から、各種キャンペーンによる宣伝活動(甲6の10、甲6の11及び甲11の1 )、及び駅構内やビルの屋上等における屋外広告(OOH)(甲9の1〜甲9の4)を行った。
(カ)申立人商品役務についてのプレスリリースや関連記事等がインターネットに掲載されている(甲11の1〜甲11の12)。
イ 判断
上記アのとおり、申立人は、本件商標の登録出願前である2020年9月以降、全国の広い範囲において、申立人商品役務であるタクシーの配車用アプリ及び当該アプリを使用したタクシーの予約・配車等のサービスに引用使用商標を使用している。また、当該タクシーの配車アプリのダウンロード数は、本件商標出願後の2023年7月に1500万に達したことがうかがえる。
そして、申立人は、申立人商品役務について、俳優を起用したテレビCMや各種キャンペーンを行い、それらに引用使用商標を使用していること、また、プレスリリース等において申立人商品役務が紹介されていることがうかがえる。
しかしながら、上記の申立人商品役務に関する宣伝広告にかかる規模(費用、期間、回数等)について、それを客観的に把握できる具体的な証拠の提出はない。
また、タクシー以外を含む輸送全般の分野における申立人商品役務の市場占有率等も確認することができない。
以上を踏まえると、申立人の提出に係る証拠によっては、引用使用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、タクシー配車に関連する申立人商品役務の取引、需要者の間においては一定程度知られていたと推認できるものの、幅広い輸送や輸送の予約及びそれに関連するコンピュータソフトウェア等の分野においてまで、取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたと認めることはできない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、タクシーへのラッピング広告について、全国で10万台程度のタクシーが申立人の業務に係るタクシーの配車用アプリに対応しており、配車サービス等の開始当初から、引用使用商標をタクシーにラッピング広告していた旨主張する。
しかしながら、上記配車用アプリに対応するタクシーが10万台程度あることを裏付ける証拠の提出はなく、また、それらのタクシー全てにラッピング広告が施されていることを立証する証拠の提出もない。
(イ)申立人は、申立人の関連会社が、タクシー車内で放映するデジタルサイネージを取り扱い、申立人の動画広告も流している旨、当該デジタルサイネージが装備されたタクシーは全国で約6万台あり、月間のリーチ数が3100万人以上と高い広告効果を果たしている(甲8の2)旨主張する。
しかしながら、申立人商品役務が当該デジタルサイネージにより広告されていたことを裏付ける証拠の提出はない。
(ウ)申立人は、引用使用商標の構成中、円形状の図形部分を別の図形(甲6の2、甲6の11、甲9の3、甲10の1、甲11の1)にアレンジして、宣伝広告に使用していることが、引用使用商標と関連付けられ需要者の脳裏に深く記憶されると主張する。
しかしながら、これらのアレンジされた図形は、直ちに引用使用商標と同一視し得るものとはいい難いだけでなく、需要者が引用使用商標と関連付けて認識することを裏付ける具体的な証拠の提出もない。
(エ)したがって、申立人の主張はいずれも採用できない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、上段に、「G」の欧文字状の図形と、内部にダンプカーの前側半分とおぼしき図形を配した輪状図形とを一部重ねるようにして、全体を赤色で表し、下段には、「GOダンプ」の文字を赤色と濃い茶色をもって表してなるところ、上段の図形部分と下段の文字部分は、視覚上分離して把握されるものである。
また、上段の図形部分は、特定の称呼及び観念を生じるものではなく、下段の「GOダンプ」の文字部分は、「ゴーダンプ」の称呼が生じ、直ちに何らかの意味合いを理解、認識させるものではなく、一種の造語として理解されるものである。
そうすると、上段の図形部分と下段の文字部分とは、相互に特段の関連性を見いだすことはできず、また、これらが本件商標の指定商品及び指定役務との関係で商品の品質又は役務の質等を表すなどの事情も認められないから、それぞれが独立して自他商品役務の識別標識としての機能を果たすものである。
そうすると、本件商標は、構成中の「GOダンプ」の文字部分に相応して「ゴーダンプ」の称呼が生じ、特定の観念を生じない。
イ 引用登録商標について
引用登録商標は、別掲3のとおり、「G」の欧文字と、その右側に一部重なるようにして、濃い青色を主体に薄い黄緑色と青色をグラデーションにより彩色した円形状の図形を配してなるものである。
そして、引用登録商標は、引用使用商標と同一の構成よりなるところ、上記(1)のとおり、引用使用商標は、需要者の間に広く認識されている商標と認めることはできないものである。
そうすると、引用登録商標は、特定の意味を有しない一体の図形を表したものと認識されるというのが相当であるから、引用登録商標は、特定の称呼及び観念を生じるものではない。
ウ 本件商標と引用登録商標の類否
本件商標と引用登録商標の類否を検討すると、両者はそれぞれ上記ア及びイのとおりの構成からなるところ、外観においては、両者の色彩及び構成中の文字や図形の有無などから明らかに異なるものであり、これらの差異が視覚的印象に与える影響は大きく、両者を離隔的に観察しても、外観上、区別し得るものであるから、外観において相紛れるおそれはない。
次に、称呼においては、本件商標は「ゴーダンプ」の称呼を生じるのに対し、引用登録商標は、特定の称呼を生じるものではないから、両者は称呼において相紛れるおそれはない。
そして、観念においては、両者は特定の観念は生じないから、観念において比較することはできない。
そうすると、本件商標と引用登録商標とは、観念において比較することができないとしても、外観においては判然と区別し得るものであり、称呼において明らかに相違するものであるから、これらが取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に勘案すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
その他、両商標が類似するというべき事情は見いだせない。
エ 小括
以上のとおり、本件商標と引用登録商標は非類似の商標であるから、本件商標の指定商品及び指定役務と引用登録商標の指定商品及び指定役務が同一又は類似する商品及び役務であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
上記(1)のとおり、引用使用商標は、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、需要者の間に広く認識されているものとは認められない。
また、引用使用商標は引用登録商標と同一の構成であることから、本件商標と引用使用商標とは、上記(2)と同様に、互いに類似しない別異の商標といえるものであって、その類似性の程度は低い。
そうすると、本件商標に接する取引者、需要者が申立人の業務に係る引用使用商標を連想、想起するものということはできない。
以上からすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品及び指定役務について使用しても、取引者、需要者が、その商品及び役務が申立人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であると誤認し、その商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものである。
その他、本件商標について、出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
上記(1)のとおり、引用使用商標は、申立人商品役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、需要者の間に広く認識されているものとは認められず、上記(3)のとおり、本件商標と引用使用商標とは、非類似の商標である。
加えて、本件商標が、申立人の業務にかかる引用使用商標の知名度や名声にフリーライドするなどの不正の目的をもって使用されるものであると認めるに足りる事実を見いだすことはできない。
また、本件商標権者が引用使用商標の出所表示機能を希釈化させることを認識し、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他不正の目的をもって使用するものと認めるに足りる具体的事実があるということもできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するとはいえず、他にその登録が、同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。


別掲

別掲1 本件商標(色彩については原本参照)



別掲2 本件商標の指定商品及び指定役務

第9類「ダンプカー・トラックなどの車両の予約・手配・配車に用いるコンピュータソフトウェア,ダンプカー・トラックなどの車両による輸送の予約・手配に用いるコンピュータソフトウェア,ダンプカー・トラックなどの車両による輸送の予約・手配の媒介又は取次ぎに用いるコンピュータソフトウェア,コンピュータソフトウェア,電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム,電子計算機用プログラムを記憶させた記憶媒体,乗物運転技能訓練用シミュレーター,測定機械器具並びにその部品及び付属品,自動車に係わる各種情報を検出するための測定機械器具,電気通信機械器具,電気通信機械器具の部品及び附属品,無線通信機械器具並びにその部品及び付属品,車両用通信機械器具,携帯用通信機械器具,無線応用機械器具,乗物用ナビゲーション装置,携帯情報端末,携帯情報端末の部品及び附属品」

第39類「輸送の予約,輸送の手配,車両による輸送の手配,車両による輸送の手配の媒介又は取次ぎ,車両による輸送の手配に関する情報の提供,貨物の輸送の媒介又は取次ぎ,輸送の媒介又は取次ぎ,荷役車両による貨物の輸送の媒介,車両の配車,代替車両の手配,車両の位置情報の提供,道路情報の提供,車両による輸送,廃棄物の車両による輸送,通信を利用して行う車両の運行管理・移動状況把握に関する情報の提供,車両による輸送・運行の予約状況に関する情報の提供,航空機・車両又は船舶による旅客又は物品の輸送,鉄道・車両・船舶・航空機による輸送及び輸送情報の提供,物品の輸送及び保管の手配,寄託を受けた物品の倉庫における保管,荷物の一時預かり,旅行の手配,旅行の予約,旅行の企画・運営,旅行のための輸送の手配」

第42類「ダンプカー・トラックなどの車両の予約・手配・配車に用いるコンピュータソフトウェアの提供,ダンプカー・トラックなどの車両による輸送の予約・手配に用いるコンピュータソフトウェアの提供,ダンプカー・トラックなどの車両による輸送の予約・手配の媒介又は取次ぎに用いるコンピュータソフトウェアの提供,コンピュータソフトウェアの提供,コンピュータソフトウェアの提供に関する情報の提供,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),電子計算機用プログラムの提供,ダンプカー・トラックなどの車両の予約・手配・配車に用いるコンピュータソフトウェアの設計・作成又は保守,ダンプカー・トラックなどの車両による輸送の予約・手配に用いるコンピュータソフトウェアの設計・作成又は保守,ダンプカー・トラックなどの車両による輸送の予約・手配の媒介又は取次ぎに用いるコンピュータソフトウェアの設計・作成又は保守,コンピュータソフトウェアの設計・作成又は保守,コンピュータソフトウェアの設計・作成又は保守に関する情報の提供,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータシステムの設計・作成・開発又は保守」


別掲3 引用登録商標及び引用使用商標(色彩については原本参照)




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異議決定日 2024-07-22 
出願番号 2023021977 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W093942)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 旦 克昌
特許庁審判官 大島 康浩
小林 裕子
登録日 2023-10-02 
登録番号 6741286 
権利者 株式会社ヒルタ興業
商標の称呼 ゴーダンプ、ゴー、ダンプ、ジイオオ 
代理人 山田 朋彦 
代理人 石井 明夫 
代理人 土橋 編 
代理人 佐野 弘 

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