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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W44 |
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管理番号 | 1412501 |
総通号数 | 31 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2024-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-01-15 |
確定日 | 2024-06-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6754970号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6754970号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6754970号商標(以下「本件商標」という。)は、「よりどころメンタルクリニック」の文字を標準文字で表してなり、令和5年1月6日に登録出願、同年10月17日に登録査定され、第44類「医業,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導」を指定役務として、同年11月17日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由において引用する商標は、横浜駅を中心点として広く関東一円において周知、著名な名称となっていると主張されている「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」及び「よりどころメンタルクリニック」の文字からなる商標(以下、これらをまとめて「引用商標」という場合がある。)である。 第3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号の規定により、その登録は取り消されるべきものであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第5号証(枝番号を含む。以下「甲○」と表記する。)を提出した。 1 令和5年7月12日に提出された意見書における誤認又は虚偽 (1)本件商標権者は弊法人の在任中に法人に許可することなく申請 本件商標権者は、本件商標の登録出願日の時点で、「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」を運営する医療法人誠心会で勤務している状況で、当該医療法人の許諾を得ずに、勝手に個人で出願したものである。なお、本件商標権者は、令和5年3月末日まで医療法人誠心会に勤務しており、同年4月1日に、医療法人誠心会の健康保険・厚生年金保険資格を喪失している(甲1)。 また、本件商標権者から意見書とともに提出された「本願出願人と医療法人誠心会との間のメールの写し」において、ドメインの取得等については記載されているが、商標登録出願を行う予定である旨は、全く記載されていない。また、当該メールは、医療法人誠心会の代表者である理事長宛のメールではなく、さらに、当該メールを受信した者は、単にメールを受け取ったことを示すリプライをしているにすぎない。 なお、「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」の名称は、医療法人として、理事会及び社員総会で決議を受けて厚生局に届出したものであり、将来的に「よりどころメンタルクリニック」という商標を使用する意思があることを、本件商標権者が、個人の立場で、医療法人誠心会にメールで伝えているとした場合、当該医療法人がそれを許容するはずはない。 (2)医療法人誠心会の「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」の周知性 医療法人誠心会が運営、経営する「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」は、平成31年に設立されて以来、複数の施設を通じて、その名称は心療内科医療及び精神科医療の需要者に広く知られている。 「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」の名称又はその略称である「よりどころメンタルクリニック」の周知、著名性は、以下の事情より分かる。 ア 医療法人誠心会の「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」は、毎月1500人の延べ患者が利用している(甲2)。 イ 同施設が所在する横浜市は、政令指定都市の人口ランキングで日本第1位である。 ウ 一般的に、医療施設は当該施設の近くに在住する人々がこれを利用するのみならず、むしろ通院の便を考えて通勤、通学先の最寄り駅の近辺に所在する医療施設を利用することも多い。この点、医療法人誠心会が運営、経営する「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」は、日本でも最も利用客が多い横浜駅に近い場所に所在することから、地の利という面からも同施設を利用する通院者が多い。ちなみに、「日本全国の駅別 乗降客数のランキング100」によれば、JR横浜駅は第5位に位置する(甲3)。 エ さらに、横浜駅を利用する通院者、通勤者、通学者等は横浜近辺在住者に限られない。周辺の巨大都市である川崎市や東京都の在住者が横浜駅を利用する場合も多い。 以上の事情に鑑みると、「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」の名称及びその略称である「よりどころメンタルクリニック」は、横浜駅を中心点として広く関東一円において周知、著名な名称となっているから、それら名称及び略称には大きな信用と顧客吸引力が化体している。 2 商標法第4条第1項第7号について (1)本件商標権者について 本件商標権者が、「よりどころメンタルクリニック/横浜駅西口の患者様」と題する2023年4月1日付けの告知文(甲4の1)から以下の事実が伺える。 ア 本件商標権者は精神科医である。また、同人は「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」の管理医師(雇われ院長)であった(甲4の2)。 イ 「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」なる医療施設は、医療法人誠心会の系列のものである(甲5の1、2)。 ウ 本件商標権者は、前記の医療施設の管理医師(雇われ院長)として、令和5年3月末日まで勤務していたが、同人と理事長との間で何らかの確執があり、同月末日で医療施設を退職することとなった。 エ 本件商標権者は、令和5年4月以降、新たな医療施設にて、従前からの患者を診療する意思がある。 (2)医療法人誠心会が運営、経営する「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」について ア 診療所開設許可申請書から伺える事実 医療法人誠心会は、平成31年2月28日付けで「診療所開設許可申請書」(診療所の名称を「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」とする内容を含む。)を当該地域の医療施設を管轄する横浜市長宛てに提出し、これが受理されている(甲5の1)。また、同医療法人は、令和3年6月17日付けで「診療所開設許可申請書」(診療所の名称を「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」とする内容を含む。)を当該地域の医療施設を管轄する横浜市長宛てに提出し、これが受理されている(甲2の2)。 イ 名称の周知、著名性 上述したとおり、医療法人誠心会が運営、経営する「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」は、平成31年に設立されて以来、複数の施設を通じて、その名称は心療内科医療及び精神科医療の需要者に広く知られている。 (3)本件商標権者による剽窃行為 本件商標権者は、「医療法人誠心会 よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」の管理医師(雇われ院長)として、令和5年3月末日まで同医院に勤務していたが、雇用主である理事長との間で何らかの確執があったことから、同医院を退職し、自ら新たな医療施設を開設して従前からの患者を診療しようとするものである。そして、本願の登録出願日が令和5年1月6日であることから、本件商標権者は、前職の在職中に新たな施設の準備に入り、その準備の一環として本願の登録出願に至ったことが推認される。いうまでもなく、本件商標を構成する「よりどころメンタルクリニック」なる文字は、前職の勤務先の名称である「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」の要部と同一である。 前記で述べたとおり、「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」なる名称及びその略称である「よりどころメンタルクリニック」は、医療法人誠心会が運営、経営する医療施設の名称として需要者に広く知られているものであり、それらの名称には大きな信用と顧客吸引力が化体している。 そうすると、本件商標権者は、「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」又は「よりどころメンタルクリニック」なる名称が医療法人誠心会によって未だ商標登録出願、登録がされていないことを奇貨として先取り的に出願したもので、端的にいえば、本願は剽窃的出願である。 (4)小括 以上のとおり、本願は剽窃的な出願であり、出願の経緯に社会的相当性を欠き、その登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。 3 商標法第4条第1項第8号について 本件商標は、医療法人誠心会が診療所開設許可申請により使用許可を受けた名称「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」の著名な略称である「よりどころメンタルクリニック」と同一であり、またその使用について同医療法人からの承諾を受けたものでもないから、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。 4 商標法第4条第1項第10号について 本件商標は、商標の構成において、医療法人誠心会が使用する周知、著名な「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」又はその著名な略称である「よりどころメンタルクリニック」と同一又は類似であり、かつ、医療法人誠心会が提供する役務と同一の役務「医業」について使用するものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当する。 5 商標法第4条第1項第15号について 本件商標は、商標の構成において、医療法人誠心会が使用する周知、著名な「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」又はその著名な略称である「よりどころメンタルクリニック」と同一又は類似であり、かつ、医療法人誠心会が提供する役務と同一の役務「医業」について使用するものであり、医療法人誠心会の医業と混同を生ずるおそれがあるから、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。 6 商標法第4条第1項第19号について (1)商標の同一、類似について 本件商標は、商標の構成において、医療法人誠心会が使用する周知、著名な「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」又はその著名な略称である「よりどころメンタルクリニック」と同一又は類似である。 (2)不正の目的について 上述したとおり、医療法人誠心会が運営、経営する「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」は、平成31年に設立されて以来、横浜駅西口という地の利を得て、毎月1500人の延べ患者が利用するに至り、その名称は心療内科医療及び精神科医療の需要者に周知、著名な名称となっており、「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」及びその名称の要部である「よりどころメンタルクリニック」には保護に値する信用及び顧客吸引力が化体している。 しかるところ、本件商標権者は、「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」又は「よりどころメンタルクリニック」なる名称が医療法人誠心会によって未だ商標登録出願、登録がされていないことを奇貨として先取り的に出願した。 したがって、本件商標は「不正の目的をもって使用する商標」に該当する。 第4 当審の判断 1 引用商標の周知性について 申立人の提出証拠及び主張によれば、申立人の運営する「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」(以下「申立人医院」という。)は、平成31年(2019年)に神奈川県横浜市に開設された、心療内科、精神科を診療科目とする診療所であり(甲5の1)、令和4年4月から同5年11月にかけて、毎月1千5百人前後の患者が利用している(甲2)という実情は伺い知れる。 しかしながら、当該実情から、申立人医院は、その開設から本件商標登録出願時までの約4年程度の期間において、1カ所の診療所において安定的な患者数の診断実績があるといえても、それだけでは「医業」の役務に係る取引業界における相対的な事業規模を評価できず、また、その他に、当該役務の需要者に対して引用商標の周知を図るような広告宣伝実績を具体的に示す証拠もない。 そうすると、申立人提出の証拠によっては、引用商標「よりどころメンタルクリニック横浜駅西口」及び「よりどころメンタルクリニック」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の略称又はその業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間において、著名となり、広く認識されるに至っているとは認められない。 2 商標法第4条第1項第8号該当性 引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の略称として、我が国の需要者の間において著名なものではない。 したがって、本件商標は、他人の著名な略称を含む商標ではないから、商標法第4条第1項第8号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第10号該当性 引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(申立人)の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間において、広く認識されている商標ではない。 したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標ではないから、その他の要件について言及するまでもなく、商標法第4条第1項第10号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第15号該当性 引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(申立人)の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間において、広く認識されている商標ではなく、周知性の程度は低い。 そうすると、本件商標は、引用商標と共通する構成文字を含んでおり、その指定役務に申立人の業務に係る役務「医業」を含んでいるとしても、これに接する需要者が、周知性の程度の低い引用商標や申立人との関係を連想、想起して、その役務が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように認識するとは考えにくく、その役務の出所について混同を生ずるおそれはない。 したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標ではなく、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第7号該当性 (1)申立人は、本件商標権者は申立人医院の管理医師(雇われ院長)であったこと(甲4の2)、同人は令和5年3月末に同医院を退職したこと、同人は新たな医療施設にて従前からの患者を診療する意思があること(甲4の1)、同人は前職の在職中に本件商標の登録出願に至ったことなどを指摘して、本件商標は、引用商標が未だ商標登録出願されていないことを奇貨として先取り的に出願したものであり、出願の経緯に社会的相当性を欠く旨を主張する。 しかしながら、申立人の提出証拠からは、本件商標権者は、自身が勤務していた申立人医院の名称に通じる引用商標の存在を知りながら、その在職中に本件商標の登録出願をしたという事実関係は把握できるとしても、それだけでは本件商標の登録出願の目的は明らかではなく、その出願経緯に不正があったと直ちに認めることはできない。 また、上記のほかに、本件商標権者が、本件商標を利用して、申立人の事業活動を阻害したり、何らかの金銭的な利益を要求するなど、具体的な行為に及んだことを示す証拠もない。 そうすると、申立人提出の証拠によっては、本件商標の登録出願について、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)があったものとまでは認めることはできない。 (2)その他、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではない。 (3)以上によれば、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標ではない。 したがって、本件商標は、商標法4条第1項第7号に該当しない。 6 商標法第4条第1項第19号該当性 引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(申立人)の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間において、広く認識されている商標ではない。 また、本件商標は、上記5(1)のとおり、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)で使用するものとはいえない。 したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものとはいえないから、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 7 むすび 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号のいずれの規定にも違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
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異議決定日 | 2024-06-13 |
出願番号 | 2023004812 |
審決分類 |
T
1
651・
22-
Y
(W44)
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最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
大島 康浩 |
特許庁審判官 |
小林 裕子 阿曾 裕樹 |
登録日 | 2023-11-17 |
登録番号 | 6754970 |
権利者 | 斎藤 知之 |
商標の称呼 | ヨリドコロメンタルクリニック、ヨリドコロメンタル、ヨリドコロ、メンタルクリニック |
代理人 | 谷川 英和 |