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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W44
管理番号 1412494 
総通号数 31 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2024-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-11-10 
確定日 2024-07-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第6734165号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6734165号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6734165号商標(以下「本件商標」という。)は、「mitsouko」の欧文字を標準文字で表してなり、令和5年3月22日に登録出願、第44類「理容,マッサージ,美容,栄養の指導,セラピー,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与,医療情報の提供,爪の美容,植毛」を指定役務として、同年9月4日に登録査定され、同月7日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由に該当するとして引用する商標は、欧文字の「MITSOUKO」(以下「引用商標1」という。)及び片仮名の「ミツコ」(以下「引用商標2」という。)を横書きした構成からなる商標であり、申立人が商品「香水」に使用しているものである。
2 同じく、申立人が本件商標に係る登録異議の申立ての理由に該当するとして引用する商標は、以下の2件の登録商標であり、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第295071号商標(以下「引用商標3」という。)は、「MITSOUKO」の欧文字を横書きした構成からなり、昭和12年4月30日に商標登録出願、第3類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同年10月14日に設定登録され、その後、平成19年9月26日に指定商品を第3類「香料類(薫料・香精・天然じゃ香・芳香油を除く。),香水類,フケ取り香水,香油」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(2)登録第606538号商標(以下「引用商標4」という。)は、「MITSOUKO」の欧文字を横書きした構成からなり、昭和36年12月9日に商標登録出願、第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同38年3月7日に設定登録され、その後、平成16年9月22日に指定商品を第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類」とする指定商品の書換登録がされたものである。
上記の引用商標1ないし引用商標4をまとめていうときは、以下「引用商標」という。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の3第2項によって、取り消されるべきものである旨申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第122号証(枝番号を含む。)(甲第28号証及び甲第120号証は欠番。)を提出した。以下、証拠の記載については、甲1、甲2のように表記する。
1 引用商標の周知著名性について
(1)ブランド「GUERLAIN」について
申立人である「GUERLAIN」(以下「GUERLAIN」という。)は、1828年にフランス・パリにおいて創業したコスメティックブランドである(甲2、甲3)。
「GUERLAIN」の創業者であり、初代調香師でもあるピエールフランソワ・パスカル・ゲランは、1853年に、ナポレオン三世の婚礼を祝し、妃であるユージェニー皇后に香水「オーデコロン・イムベリアル」(現在の「オーインペリアル」)を献上したことで、「皇室御用達調香師」の称号を得て、皇帝家から御用達のワラント(保証)が下され、各国の王家から香水の注文が殺到した(甲2、甲14)。「GUERLAIN」は、上記「オーデコロン・イムベリアル」をはじめ、1889年には「ジッキー」、1912年には「ルール ブルー」、1925年には「シャリマー」、1965年には「アビルージュ」、2021年には「ラール エ ラ マティエール」、そして2022年には「アクア アレゴリア」など、創業から約2世紀にわたり、「香りの王室」と呼ばれるにふさわしい名香を発表し続けている(甲2、甲18)。
実際に、「GUERLAIN」は、数々の書籍及び雑誌等において、香水の有名ブランド等として紹介されている(甲12〜甲47、甲55)。
また、「GUERLAIN」は、創業当初から現在に至るまで、香水以外にも、メイクアップ製品、スキンケア製品等を販売するだけでなく、スパやエステティックサロン等も展開するなど(甲2、甲4〜甲7)、美容に関連する商品及びサービスを幅広く展開している。
(2)香水「MITSOUKO」(ミツコ)の周知著名性について
ア 香水「MITSOUKO」(ミツコ)の歴史
上述のとおり、「GUERLAIN」は香水において世界的に有名なブランドであるが、中でも、香水「MITSOUKO」(ミツコ)は「GUERLAIN」を代表するアイコニックな香水の一つであり、昭和12年及び昭和38年には、商標「MITSOUKO」に係る引用商標3及び引用商標4が、指定商品「香料類、香水類」又は「香料類、化粧品」を含む第3類として商標登録されていた(甲116の1〜甲117の2)。
香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、1919年に、3代目調香師ジャック・ゲランによって創作され、その名称は、フランスの作家クロード・ファレールのベストセラー小説「ラ・バタイユ」のヒロインである日本の海軍将校の若妻の名前「Mitsouko」(ミツコ)に由来する(甲2、甲8〜甲10の3)。
香水の香りには様々な系統があるが、香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、シプレー系の香りの香水として、「シプレー系の傑作として、今でも多くの女性の憧れの的」(甲17)、「時代をこえて世界中の女性たちに羨望され続けるシプレー系の名香。」(甲18)、「シプレー系の名香としてその名が知られている」(甲19)等と評されている。発売当初から現代に至るまで、継続して販売及び広告宣伝がなされ(甲2、甲8、甲9、甲40、甲46の1、甲46の2、甲54)、1世紀以上にわたり世界中で愛され続けており、現在も、「GUERLAIN」の直営ブティックや大手百貨店をはじめ、これらが運営するオンラインストア等において幅広く販売されている(甲8、甲9、甲11)。
イ 香水「MITSOUKO」(ミツコ)の紹介記事等
上述のとおり、香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、1世紀以上にわたり世界中で販売され続けているところ、数々の書籍、雑誌、新聞、インターネット記事等においても、多数回にわたり紹介されており(甲12〜甲40、甲52、甲55)、あらゆる書籍、雑誌、新聞、インターネット記事等において「GUERLAIN」のアイコニックなロングセラーの名香として紹介されている。
ウ 著名人による愛用
香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、時を超えて数々の著名人にも愛用されてきた。かつては、喜劇王チャールズ・チャップリンや、故ダイアナ元英皇太子妃など、世界的な著名人が愛用していたことでも知られている(甲30、甲31、甲38、甲44、甲46の1)。近年においても、シャネル専属のモデルであるファッションデザイナー(甲43)や、日本を代表する女優などにも愛用されている(甲39)。
エ 他ブランドとのコラボレーションボトルの展開
香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、他ブランドとコラボレーションをすることにより、通常販売されているボトルとは異なるデザインのスペシャルボトルを展開することによっても、注目を集めている。
2016年には、有田焼創業400年を記念して、有田焼のブランド「アリタポーセリンラボ」を展開する弥左エ門窯とコラボレーションし、同ブランドが香水「MITSOUKO」(ミツコ)の香水ボトルを有田焼で製作し、数量限定で販売され、話題となった(甲40、甲47〜甲50)。
また、後述のとおり、香水「MITSOUKO」(ミツコ)が誕生100周年を迎えた2019年には、石川県・金沢の金箔の老舗ブランド「箔一」及び書家とコラボレーションし、金箔が施され、梅が描かれた、香水「MITSOUKO」(ミツコ)のスペシャルボトル「ミツコ100周年アニバーサリーエディションオーデパルファン」が数量限定で販売され、話題となった(甲51〜甲66、甲68、甲73、甲74、甲76〜甲78、甲80、甲82、甲86、甲87、甲93)。
オ 香水「MITSOUKO」(ミツコ)100周年を記念したイベント等の開催
香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、2019年に誕生100周年を迎え、これを記念したイベント等も行われた。
たとえば、石川県・金沢の老舗ブランド「箔一」によって金箔が施され、日本を代表する書家による梅が描かれた、香水「MITSOUKO」(ミツコ)のスペシャルボトル「ミツコ100周年アニバーサリーエディションオーデパルファン」を数量限定で販売した。当該商品には、ボトル1本あたり金箔4枚に相当する23.5カラットが使用され、1本ずつ手作業で仕上げられ、1本が完成するまでに10日もの日数を要することでも話題となった(甲51〜甲66、甲68、甲73、甲74、甲76〜甲78、甲80、甲82、甲86、甲87、甲93)。
また、2019年11月6日から同月19日までの期間には、東京・銀座の商業施設「GINZA SIX」において、銀座の高級クラブをイメージしたポップアップストア「銀座 クラブ みつこ」が開催され、同ポップアップストアにおいては、前述の「ミツコ100周年アニバーサリーエディションオーデパルファン」が先行販売されたり、その他特別な購入特典やシャンパンサービス等が用意された。また、同ポップアップストアのオープニングイベントでは、モデルでタレントのA氏がクラブのママ役としてゲスト出演したことでも話題となり、ヤフーニュースやNEWS24等をはじめとする50以上のメディアで同イベントの様子が取り上げられ、多数のフォロワーを擁する有名人のSNSでの投稿でも紹介された(甲67〜甲95)。
カ 需要者の声
香水「MITSOUKO」(ミツコ)が需要者の間で広く認識されていることは、需要者のロコミ等が多数あることからも明らかである(甲96〜甲98の10)。
キ 引用商標の周知著名性が認められた審決例等
引用商標を含む、香水「MITSOUKO」(ミツコ)に使用されている商標は、特許庁においても香水を示す表示として周知著名性が認められている(甲99、甲100)。
以上のとおり、既に特許庁において、引用商標を含む香水「MITSOUKO」(ミツコ)に使用されている商標の周知著名性が認められ、特に引用商標1については日本国周知・著名商標として扱われており(甲101)、その後も当該香水は継続して販売及び広告宣伝されていること等からすれば、本件商標の登録出願時である2023年(令和5年)3月22日時点においても、引用商標の周知著名性が継続している。
ク 他国における商標登録
申立人は、国際登録商標及び欧州連合商標等を保有することにより、日本国外においても、フランス、イタリア、オーストラリア、カナダ、シンガポール、台湾、香港等を含む約90の主要な国及び地域において、香水等を含む第3類の指定商品について、商標「MITSOUKO」に係る商標登録を保有し(甲115)、それぞれの国及び地域において独占的に商標「MITSOUKO」を使用している。
ケ 小括
以上のとおり、香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、1919年から現在に至るまで、100年以上にわたり多数の店舗及びオンラインストア等を通じて販売され、多数の書籍、雑誌、新聞、インターネット記事等において紹介されるとともに、数々の著名人によっても愛用され、また、「GUERLAIN」自身においても、他ブランドとのコラボレーションや、香水「MITSOUKO」(ミツコ)の誕生100周年を記念したイベント等も積極的に行っており、その結果、発売から100年以上経った現在も、香水市場から淘汰されることなく安定した人気を誇っており、香水「MITSOUKO」(ミツコ)が広く認識されていることは、需要者の声をみても明らかである。
したがって、香水「MITSOUKO」(ミツコ)に使用されている引用商標は、本件商標の登録出願時である2023年(令和5年)3月22日時点において、「GUERLAIN」の香水を示す表示として、周知著名となっていたことは明らかである(甲12〜甲101、甲115)。そして、香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、本件商標の登録出願後も同様に継続して販売され、インターネット記事等においても紹介されていること等からすれば(甲41〜甲46の2)、かかる引用商標の周知著名性は、本件商標の登録出願後、査定時点である2023年(令和5年)9月5日においても、継続していたことは明らかである。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標に接した取引者・需要者はあたかも、「GUERLAIN」、又は「GUERLAIN」と緊密な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品又は役務であるかのごとく、商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
(1)本件商標と他人の表示との類似性の程度
ア 本件商標について
本件商標は、「mitsouko」の欧文字を横一列に書した構成からなる。本件商標からは、その商標公報にも記載されているとおり、「ミツコ」等の称呼が生じる(甲1)。
本件商標から生じる観念について検討すると、引用商標1、3及び4は、小説「ラ・バタイユ」のヒロインの名前「Mitsouko」(ミツコ)に由来するところ、「ミツコ」を欧文字で表記する場合、「MITSUKO」と表記されることが通常であるが、引用商標1、3及び4は「MITSOUKO」という独創的なつづりからなり、かかる欧文字のつづりの構成において、「GUERLAIN」の香水を示す表示として周知著名となっている。そして、本件商標「mitsouko」は、かかる独創的かつ周知著名である引用商標1、3及び4と同じ欧文字のつづりで構成されていることからすると、かかる本件商標からも、「GUERLAIN」の香水との観念が生じる。
イ 引用商標について
引用商標1、3及び4は、「MITSOUKO」の欧文字を横一列に書した構成からなり、引用商標2は「ミツコ」の片仮名を横一列に書した構成からなる。
上述のとおり、引用商標は、いずれも、「ミツコ」等の称呼が生じ、「GUERLAIN」の香水との観念が生じる。
ウ 本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標と引用商標1、3及び4とを比較すると、いずれも「mitsouko」の欧文字を横一列に書してなり、両者の外観は極めて近似する。また、本件商標並びに引用商標l、3及び4からは、いずれからも、「ミツコ」という称呼及び「GUERLAIN」の香水との観念が生じる点においても共通している。
また、本件商標と引用商標2を比較すると、両者からは、「ミツコ」という称呼及び「GUERLAIN」の香水との観念が生じる点において共通している。
したがって、本件商標と引用商標の類似性は極めて高いといえる。
(2)引用商標の周知著名性及び独創性
引用商標は、「GUELAIN」の香水を示す商標として我が国において周知著名となっており、引用商標が使用されている香水「MITSOUKO」(ミツコ)が100年以上にわたり販売及び広告宣伝されていること等も踏まえると、需要者におけるその周知著名性の程度は高いというべきである。
また、引用商標は、小説「ラ・バタイユ」のヒロインである日本の海軍将校の若妻の名前「Mitsouko」(ミツコ)に由来しており、一般名称等ではないこと等も踏まえると、引用商標の独創性は高いといえる。特に、前述のとおり「ミツコ」を欧文字で表記した場合、「MITSUKO」というつづりになることが通常であるにもかかわらず、引用商標1、3及び4では、あえて「MITSOUKO」というつづりを採用していることからすれば、引用商標1、3及び4は特に独創性が高い。
(3)本件商標の指定役務と引用商標が使用されている商品(香水)との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
本件商標の指定役務には「美容」、「マッサージ」、「セラピー」等が含まれており、他方、引用商標が使用されている商品又は指定商品は香水等であるところ、いずれも、身だしなみを整えるとともに美容の向上や回復、さらには、利用者に癒やしを与え、利用者自身の気分を向上させることを目的及び用途としている。また、本件商標の指定役務である第44類「美容」には、「エステティック美容」も含まれるところ、国内であると海外であるとを問わず、香水を含む化粧品を展開する多くの化粧品ブランドは、エステティックサロン等も展開している。さらに、香水を販売している化粧品ブランドは、販売している香水のシリーズ商品として、当該香水の商品名を使用して、当該香水と同じ香りのローション、ボディクリーム等といった化粧品も販売しているところ(甲118の1〜甲118の4)、前述した化粧品ブランドが展開するエステティックサロン等の施術においては、そのような香水や、香水のシリーズ商品である化粧品が使用されており、実際に「GUERLAIN」が運営するエステティックサロンにおいても、店内の装飾や香りに「GUERLAIN」の香水が使用されるのみならず、施術の個室の名称にまで香水の名前が付けられ、施術中や施術後のメイクアップにも「GUERLAIN」の化粧品が使用されているものであって、「香水」と「美容」等が、同一の目的、用途、場所等において提供されているといえる(甲119の1〜甲119の4)。したがって、「美容」、「マッサージ」、「セラピー」等を含む本件商標の指定役務と、引用商標が使用されている「香水」等が、密接な関係を有する商品及び役務であることは明らかである。
また、香水の需要者は、身だしなみ等を整えるとともに、自身の好みの香りをまとうことで癒やしを求め、気分を向上させるために香水を使用するといえ、その需要者は特に成人女性が多いといえるところ、美容、マッサージ、セラピー等のサービスを受ける需要者も、同様の目的をもって当該サービスを受けることが多く、その需要者も特に成人女性が多いといえ、両者の需要者は共通するといえる。
さらに、ほとんどの化粧品ブランドは、百貨店等において、美容部員を通して商品の販売を行っており、化粧品業界においては、そのような美容部員を通じた商品の販売が広く一般的に行われているという取引の実情がある。
美容部員が行う役務は、直接的には化粧品の販促行為に該当するが、美容部員はメイクアップに関する相談員であるともいえるから、商標法上の「メイクアップ(Make−up application services)」又は「メイクアップに関する助言(consultation services in the field of make−up)」という側面も有する。そして、これらの役務は、第44類の「美容」の類似役務とされている。このようなことからしても、美容と香水を含む化粧品は密接な関連性を有するものである。
この点、特許庁においても、本件商標の指定役務「美容」と、引用商標が使用されている商品「香水」を含む「化粧品」が密接な関係を有すると判断されている(甲121)。
(4)本件商標の指定役務と引用商標1が使用されている商品の関連性
本件商標の指定役務は、容貌、容姿や髪型を美しくすることを目的に提供される美容等に関する役務であり、これらの役務には「香水」を始めとする化粧品が使用されることが当然であることから、いずれも美容の向上や回復等を目的とする役務や商品であり、本件商標の美容等に係る指定役務と、申立人の業務に係る商品「香水」、「口紅」などの化粧品とは互いに美容に関するものとして密接な関連性を有するものである。
(5)取引者及び需要者の共通性
本件商標の「美容」等に関する指定役務と、引用商標1が使用されている「香水」、「口紅」などの「化粧品」とは主に成人女性という需要者層を共通にするものである。また、化粧品メーカーがエステティックサロンを営んでいることが一般的な取引の実情でもある。
また、異議2003−90405(甲122)は、第3類「化粧品、せっけん類、香料類」等を指定商品とする登録商標に対して異議申立てがなされた事案であるところ、特許庁は、当該登録商標の指定商品と、申立人が商標を使用していた役務「美容」等について、密接な関係を有することは明らかであるとしたうえで、当該登録商標について、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである旨判断している。
以上の審決例等も踏まえれば、「美容」、「マッサージ」、「セラピー」等を含む本件商標の指定役務と、引用商標が使用されている商品「香水」との間の性質、用途及び目的における関連性、並びに需要者の共通性はいずれも極めて高い。
(6)取引の実情
現代における化粧品業界においては、経営が多角化しており、「GUERLAIN」のように香水を含む化粧品を展開するブランドが、エステ、スパ等を運営して美容に関する施術やマッサージ、セラピー等を提供する例は多数見受けられる(甲102の1〜甲113の2)。そして、「GUERLAIN」も、主に香水を含む化粧品を取り扱うブランドではあるが、1939年には既に「ゲランスパ」をオープンしており、現在では、日本を含む世界各国においてエステティックサロンの店舗を構え、トリートメント等の美容施術を提供している(甲6、甲7)。また、「GUERLAIN」が展開するエステティックサロンのある店では、受付の前には「GUERLAIN」の化粧品や香水のショーケースが並べられ、店内のいたるところにゲランの香水瓶の特注サイズのオブジェが飾られている。施術する個室にはそれぞれ「GUERLAIN」の香水の名前が付けられており、施術には「GUERLAIN」の化粧品が使用され、フレグランスメゾンとして始まった「GUERLAIN」ならではの、「GUERLAIN」の香水の香りが漂う心地よい空間の中で、五感全てで深く癒やされることができる。さらに、施術後には、「GUERLAIN」のメイクアップ製品を使用し、美容部員がメイクアップを施すサービスも行われている(甲119の1〜甲119の4)。
以上のような化粧品業界における実情、とりわけ「GUERLAIN」の実情からすれば、本件商標に接した需要者としては、「GUERLAIN」が、その展開する香水「MITSOUKO」(ミツコ)に係る引用商標を使用して美容、マッサージ、セラピー等を提供しているか、又は、「GUERLAIN」と緊密な営業上の関係若しくは同一の「MITSOUKO」の商標を使用して事業を営むグループに属する関係にある者がこれを提供しているかのごとく、役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
(7)小括
以上のとおり、本件商標及び引用商標の類似性の程度は極めて高く、引用商標の周知著名性及び独創性も高いこと、本件商標の指定役務と引用商標が使用されている商品(香水)の関連性も高く、その需要者も共通することに加え、香水を含む化粧品等を取り扱うブランドが、エステ等も運営して美容、マッサージ、セラピー等を提供することも一般的になっており、実際に「GUERLAIN」も、香水「MITSOUKO」(ミツコ)を販売しつつエステ等も運営し、当該エステにおいては、「GUERLAIN」の香水や香水のシリーズ商品である化粧品等を用いて施術を行っている。かかる事情を踏まえれば、「GUERLAIN」の香水に係るに商標として周知著名な引用商標と極めて類似性の高い本件商標が、引用商標に係る商品である香水と非常に密接な関係性を有する本件商標の指定役務に使用された場合には、本件商標に接する取引者・需要者としては、あたかも「GUERLAIN」又は「GUERLAIN」と緊密な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る役務であると誤認し、その役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたというべきであり、その登録は取り消されるべきである。
3 商標法第4条第1項第19号該当性
(1)「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」該当性
引用商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されているといえるところ、本件商標は、かかる引用商標と類似する商標である。
したがって、引用商標は、商標法第4条第1項第19号に規定する「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」に該当する。
(2)「不正の目的」該当性
ア 「不正の目的」の判断基準
商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」とは、「図利目的・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的」をいい、具体的には、(1)外国において周知な他人の商標と同一又は類似の商標について、我が国において登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせたり、外国の権利者の国内参入を阻止したり、国内代理店契約を強制したりする等の目的で、先取り的に出願した場合、(2)日本国内で商品・役務の分野を問わず全国的に知られているいわゆる著名商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり、その名声を毀損させる目的をもって出願した場合、(3)その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願した場合とされている(甲114)。
なお、商標法第4条第1項第19号について、「不正競争の目的」とせず、「不正の目的」としたのは、取引上の競争関係を有しない者による出願であっても、信義則に反するような不正の目的による出願については商標登録すべきではないからであり、同号にいう「不正の目的」とは、競争関係とは無関係に、公正な取引秩序に違反するような目的をいい、必ずしも取引を巡る対立構造を前提とするものではない。
イ 本件商標に係る商標権者の「不正の目的
引用商標は、本件商標に係る商標登録の出願時点において、我が国において既に周知著名となっており、かつ、かかる周知著名性は本件商標の登録査定時点においても継続していた。また、引用商標は、小説「ラ・バタイユ」のヒロインである日本の海軍将校の若妻の名前「Mitsouko」(ミツコ)に由来しており、一般名称等としては存在しない。さらに、かかる「ミツコ」を欧文字で表記する場合、「MITSUKO」というつづりになることが通常であるが、引用商標1、3及び4は、上記小説からあえてそのまま「MITSOUKO」というつづりを採用した独創性の高い商標である。加えて、本件商標の指定役務と、引用商標が使用されている商品「香水」は、いずれも、美容と密接な関係を有し、その関連性は高いといえる。
以上の事情を踏まえると、本件商標に係る商標権者が、本件商標の商標登録の出願時点及び登録査定時点において、周知著名である引用商標を知らずに、「香水」と関連性の高い本件商標に係る指定役務について、一般名称として存在せず、かつ、つづりの特殊な引用商標1、3及び4と同じつづりの本件商標を偶然に採用したとは到底考えられず、むしろ、引用商標1、3及び4と同じ欧文字のつづりを採用することにより、引用商標の周知著名性にフリーライドすることを目的として本件商標を採用したといわざるを得ない。
したがって、本件商標に係る商標権者が、信義則に反する不正の目的で本件商標を出願したことは明らかである。
ウ 小括
以上のとおり、「GUERLAIN」の香水を表示するものとして日本において周知著名な引用商標と同一又は類似する本件商標を、不正の目的をもって出願されたことは明らかであるから、本件商標は商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたというべきであり、その登録は取り消されるべきである。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、次のとおりである。
ア 香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、1919年に、調香師ジャック・ゲランによって創作され(甲2)、現在も、「GUERLAIN」の直営ブティックや大手百貨店をはじめ、これらが運営するオンラインストア等において販売されている(甲8、甲9、甲11)。
イ 香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、書籍、雑誌、新聞、インターネット記事等においても、多数回にわたり紹介されている(甲12〜甲40、甲52、甲55)。
ウ 申立人は、香水「MITSOUKO」(ミツコ)は喜劇王チャールズ・チャップリンや、故ダイアナ元英皇太子妃、ハリウッド映画を代表する女優など、世界的な著名人が愛用していた(甲38、甲44、甲46の1)旨主張している。
エ 香水「MITSOUKO」(ミツコ)が誕生100周年を迎えた2019年には、香水「MITSOUKO」(ミツコ)のスペシャルボトル「ミツコ100周年アニバーサリーエディションオーデパルファン」が数量限定で販売され(甲61〜甲63、甲73)、また、100周年を記念したイベント等も行われ、メディアで同イベントが取り上げられ、また、多数のフォロワーを擁する有名人等のSNSでの投稿でも紹介された(甲67〜甲95)。
(2)上記によれば、香水「MITSOUKO」(ミツコ)は、1919年に創作され、現在も「GUERLAIN」の直営ブティックや大手百貨店をはじめ、これらが運営するオンラインストア等において販売されており、雑誌やインターネット記事等において商品紹介されている実情はうかがえるものの、当該香水の販売規模や広告宣伝規模は必ずしも明らかではないから、引用商標は、本件商標の登録出願時において、香水に詳しい者の間において一定程度認知されていることがあるとしても、申立人の業務に係る商品「香水」を表示するものとして我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知性について
引用商標は、上記1(2)のとおり、本件商標の登録出願時において、香水に詳しい者の間において一定程度認知されていることがあるとしても、申立人の業務に係る商品「香水」を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されているものではない。
(2)本件商標の指定役務と引用商標の使用に係る商品の関連性
申立人は、本件商標の指定役務には「美容」、「マッサージ」、「セラピー」等が含まれており、他方、引用商標が使用されている商品は香水であるところ、いずれも、身だしなみを整えるとともに美容の向上や回復、さらには、利用者に癒やしを与え、利用者自身の気分を向上させることを目的及び用途としている旨述べ、香水を含む化粧品を展開する多くの化粧品ブランドは、エステティックサロンなども展開しているとし(甲102〜甲113)、本件商標の指定役務と、引用商標が使用されている「香水」が、密接な関係を有する商品及び役務であることは明らかであると主張している。
しかしながら、本件商標の指定役務は、上記第1のとおりの役務であり、理容店、美容院、エステティックサロンなどが提供する役務である。
他方、引用商標の使用に係る「香水」は、化粧品製造業者などが製造、販売する商品である。
そうすると、上記役務及び商品は、いずれも美容という用途や目的に漠然とした共通点があるとしても、通常同一営業主が製造、販売又は提供するような密接な関連性はないから、関連性の程度は低い。
また、上記役務及び商品の需要者は、一部重なる場合があるとしても、必ずしも共通するとはいえないから、その共通性や関連性の程度は低い。
(3)本件商標と引用商標の類似性の程度について
本件商標は、前記第1のとおり、「mitsouko」の欧文字を標準文字で表してなるものであり、他方、引用商標1、引用商標3及び引用商標4は、前記第2のとおり、「MITSOUKO」の欧文字を横書きした構成からなるものである。
してみると、両商標は、つづりを同じくするものであって、外観において紛らわしく、称呼及び観念において異なるところはないから、類似性の程度は高く、同一又は類似の商標である。
また、本件商標は、称呼を特定し難いものであるから、引用商標2「ミツコ」とは、称呼において比較し難く、構成文字の相違により、外観は判然と区別できるものであり、さらに、いずれも特定の観念を生じない造語であり、観念は比較できないから、これらを総合すれば、本件商標と引用商標2は、類似性の程度は低く、非類似の商標である。
(4)出所の混同のおそれについて
上記(2)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において、申立人の業務に係る商品「香水」を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されているものではなく、また、本件商標の指定役務と引用商標の使用に係る商品「香水」の関連性及び需要者の共通性の程度は低いことを踏まえると、本件商標と引用商標1、引用商標3及び引用商標4の類似性の程度が高いとしても、本件商標は、これをその指定役務について使用しても、取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起するとは考え難く、その役務が申立人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)本件商標は、上記2(3)のとおり、引用商標1、引用商標3及び引用商標4とは、同一又は類似の商標であるが、引用商標2とは、非類似の商標である。
(2)引用商標は、上記1(2)のとおり、申立人の業務に係る商品「香水」を表示するものとして我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものではない。
(3)申立人は、本件商標権者が、本件商標の登録出願時において、周知著名である引用商標を知らずに、「香水」と関連性の高い本件商標に係る指定役務について、一般名称として存在せず、かつ、つづりの特殊な引用商標1、3及び4と同じつづりの本件商標を偶然に採用したとは到底考えられず、むしろ、引用商標1、3及び4と同じ欧文字のつづりを採用することにより、引用商標の周知著名性にフリーライドすることを目的として本件商標を採用したといわざるを得ない旨を主張する。
しかし、仮に本件商標権者が、申立人の業務に係る商品「香水」及び引用商標を認識しながら本件商標を登録出願したとしても、それだけでは直ちに不正の利益を得る目的や、他人に損害を加える目的などの不正の目的があると推し測ることはできない。
また、申立人提出の証拠からは、本件商標権者が、本件商標を使用して不正の利益を得たり、他人に損害を加えているなど、具体的な行為に及んでいるような事実関係は把握できない。
そうすると、本件商標権者が、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものということはできない。
(4)以上によれば、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当するとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲

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異議決定日 2024-06-27 
出願番号 2023030416 
審決分類 T 1 651・ 271- Y (W44)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 康浩
特許庁審判官 大島 勉
阿曾 裕樹
登録日 2023-09-07 
登録番号 6734165 
権利者 有限会社AMERICA
商標の称呼 ミツコ、ミットソウコ 
代理人 弁理士法人Toreru 
代理人 田中 克郎 
復代理人 佐藤 力哉 
復代理人 橋 沙耶香 
代理人 池田 万美 

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