【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09
管理番号 1410539 
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2024-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-20 
確定日 2024-04-20 
異議申立件数
事件の表示 登録第6716584号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6716584号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6716584号商標(以下「本件商標」という。)は、「Fractal Design」の文字を標準文字により表してなり、令和4年12月21日に登録出願、第9類「コンピュータ周辺機器(コンピュータハードウエアを含む。),コンピュータ・グラフィックカード・マザーボード・プロセッサー・電子回路及び他のコンピュータ構成部品の冷却用装置(コンピュータの冷却用の水の冷却用装置を含む),コンピュータ・グラフィックカード・マザーボード・マイクロプロセッサ・電子回路及び他のコンピュータ構成部品の冷却装置の部品としてのポンプ及びタンク(冷却用の水の冷却用のポンプ及びタンクを含む),電子応用機械器具用ヒートシンク,冷却装置をコンピュータ中央処理装置に取り付けるためクリップ,コンピュータ中央処理装置用冷却装置の部品として用いる熱伝導パイプ,コンピュータ中央処理装置用冷却装置の部品として用いるファンブレード,コンピュータ中央処理装置用冷却装置,電子応用機械器具の部品用の自動冷却装置,中央処理装置用の冷却器,PCハウジング用ファン,ランダムアクセスメモリー用冷却装置,ハードディスク装置用放熱板,コンピュータ用ハウジング,コンピュータ用電源,コンピュータ用冷却ファン,USB対応コンピュータ用ファン,コンピュータ用ケーブル,コンピュータ用構成部品,無線及び有線ヘッドセット,有線通信機械器具,無線通信機械器具,無線応用機械器具,遠隔測定制御機械器具,音声周波機械器具,映像周波機械器具,電気通信機械器具の部品及び付属品,携帯情報端末,電子応用機械器具,入退室監視装置,測定機械器具」を指定商品として、同5年6月19日に登録査定され、同年7月12日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において、商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する国際登録第1507890号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、2019年7月8日にEUIPOにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2019年(令和元年)11月12日に国際商標登録出願、第9類「Computer chassis; parts and fittings for computer chassis; case fans for computers; liquid cooling apparatus for computers; power supplies for computers; coolers for processors for data processing apparatus.」を指定商品として、令和3年7月21日に設定登録されたものであり、この商標権は、現に有効に存続しているものである。
2 申立人が、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する商標は、「Fractal Design」の欧文字よりなり(以下「引用商標2」という。)、申立人の出所を示すものとして、本件商標が登録出願されるよりもはるか以前から、日本国内のパソコン関連部品の取引者、需要者間において相当程度広く認識されていたというものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号、同項第19号に該当し、同法第3条第1項柱書きの要件を具備しないものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきものである旨申立て、その理由を以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第128号証(枝番号を含む。)を提出した。
以下、証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載し、枝番号の全てを示すときは、枝番号を省略して記載する。
1 申立人のブランド名「Fractal Design」について
(1)会社沿革
申立人は、ブランド名「Fractal Design」(引用商標2)の下(甲3)、パソコンのケース、ケースファン、電源ユニット、水冷CPUクーラー、その他アクセサリ類を主に製造販売している(甲4)。
「Fractal Design」は、2007年にスウェーデンで誕生しており(甲5)、申立人は2021年に証券取引所「NASDAQ」の欧州中小新興企業向け市場「NASDAQ FirstNorth」に上場している(甲6)。
申立人は、「Facebook」、「X」、「Instagram」、「YouTube」のSNSでオフィシャルアカウントを有しており、そのアカウント名は全て引用商標2と同一であり(甲7〜甲10)、それぞれのアカウントにおいて、13万人ないし24万人以上のフォロワー数/チャンネル登録者数を有し(Facebookのフォロワー数約25万人、Xフォロワー数約22万人、Instagramフォロワー数約13万人、YouTubeチャンネル登録者数約20万人。)、Fractal Design製品情報について積極的に発信している(甲7〜甲10)。
(2)世界規模の販売
申立人発行の2023年4月26日付け年次報告書2022によると、Fractal Design製品は、世界各地50以上の市場で販売されており、特にPCケース市場をけん引しており、また、2022年における世界全体の純売上高は4,790万ドル(約68億円)で、最も強い市場はアジアと北アメリカであり、特に、我が国では45%という顕著な伸びを示した(甲11)。
(3)我が国における引用商標2の著名性
ア 日本国内の販売
我が国の市場の販売に関しては、株式会社アスク(以下「アスク社」という。)が代理店を務めており(甲12)、2012年からFractal Designブランド製品の取り扱いを開始している(甲13)。
アスク社は、代理店となって翌年の2013年には、Fractal Designのユーザーミーティングイベントを秋葉原で開催(甲14)するなど、精力的に市場開拓を進め、その翌年の2014年には、国内の自作PC市場登場からわずか数年で人気ブランドのひとつに成長したとして、申立人の社長を含む3名が日本メディアのインタビューを受けている(甲15)。
また、アスク社は、自作PCパーツのイベント「ASK★FES」を毎年主催しており、本件商標の登録出願前では、2022年11月5日と6日の2日間にわたって、ベルサール秋葉原で開催し、申立人もFractal Designのブースを出展している(甲16、甲17)。
「Fractal Design」製品の小売販売ルートとしては、小売店販売もオンライン販売もあり(甲18〜甲22)、全てのウェブサイトで、商品検索をするためのブランド名として、引用商標2が使用されている。
また、価格情報ウェブサイトで著名な「価格.com」においても、引用商標2が使用されている(甲23)。
イ インターネットメディアの記事
「Fractal Design」に関するインターネットメディアの記事は無数に存在する。「Fractal Dessign」の新製品が発表されると、複数のメディアが一斉に紹介記事を作成する(甲25〜甲58)。
次に、いわゆるBTOパソコンと呼ばれる、パソコンの構成部品を購入者が選択できる受注生産型のパソコンを販売しているショップにおいて、Fractal Design製品が多く選択されている(甲59〜甲76)。
Fractal Design製品を採用していることが、殊更に強く宣伝されていることから、申立人の製品の人気の高さが伺えると同時に、引用商標2が日本国内の需要者にいかに広く知られているかが分かる。
さらに、インターネットメディアによる自作パソコン企画でFractal Design製のPCケースが採用されたり(甲77)、パソコン雑誌で実施された読者によるPCケースの人気投票ランキングでは、ExtendedATX&ATX部門で3位、microATX&Mini−ITX部門で1位、2位、4位に選出されたり(甲78)と、Fractal Design製品の人気が客観的に証明されている。
(4)小括
以上から分かるとおり、申立人のFractal Designブランド製品は、海外及び日本国内において極めて人気が高く、特に日本国内においては、申立人の製品が紹介される場合には必ず引用商標2「Fractal Design」が使用されている。
したがって、引用商標2は、海外・日本国内のいずれにおいても、著名であることは自明である。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)公の秩序を害するおそれ
引用商標2「Fractal Design」は、申立人の出所を示すものとして、日本国内で10年以上にわたり、PCケース、ファン、電源、アクセサリ等に使用されており、本件商標が登録出願されるよりもはるか以前から、日本国内のパソコン関連部品の取引者、需要者間において相当程度広く認識されていたものである。
そして、「6 商標法第4条第1項第19号該当性について」の項目で詳述するとおり、商標権者は、他人が日本国内で販売している商品で使用している商標と社会通念上同一の商標ばかり登録出願しており、本件商標も商標権者が大量に行っている剽窃的な登録出願の一つである。
商標権者が本件商標をその指定商品について使用をすれば、取引者、需要者間において、申立人の著名ブランドと混同を生ずることは必至であり、申立人の企業努力を台無しにするものである。
我が国の商標制度がたとえ先願主義を採用するものであったとしても、本件商標の登録を認めることは、商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものであり、公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるものというべきである。
(2)小括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、その登録を取り消すべきである。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、「Fractal Design」の文字を標準文字で表してなるところ、これは申立人が、本件商標の登録出願前より、PCケースを始めとする商品「コンピュータ用構成部品」等について使用し、我が国の使用者、需要者間に広く認識されている引用商標2(甲3〜甲78)と同一又は類似であり、かつ、上記商品と同一又は類似の商品に使用するものである。
(2)小括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものであるから、その登録を取り消すべきである。
4 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、「Fractal Design」の文字を標準文字で表してなる商標であり、その構成文字のうち、「Fractal」は、部分と全体とが同じ形となる自己相似性を示す図形を意味し(甲79)、あまり一般的には馴染みのある単語ではない。
一方、「Design」の文字は、片仮名でも「デザイン」を意味する一般的な単語である。
そして、両文字の間にスペースがあることから、両文字は、視覚上分離して看取し得るものであり、また、「Fractal」と「Design」との間には識別力の顕著な差があるから、これら2語は分離して観察されるべきである。
そうすると、本件商標は、「フラクタルデザイン」の他に「フラクタル」の称呼をも生じ、「自己相似性を示す図形のデザイン」の他に「自己相似性を示す図形」の観念をも生ずる。
(2)引用商標1について
ア 外観
引用商標1は、傾けた黒色のL字を2つ重ねたような図形を左に配置し、装飾した欧文字「Fractal」を右に配置して表したものである。
イ 称呼
引用商標1からは、「フラクタル」の称呼が生じる。
ウ 観念
引用商標1からは、「自己相似性を示す図形」の観念が生じる。
(3)本件商標と引用商標1との類否
いずれの商標からも、「フラクタル」の称呼が生じ、「自己相似性を示す図形」の観念が生じ、外観については、図形の有無と文字態様において多少の差異はあるものの、いずれも近似した印象を与えるものである。
以上のことから、両商標は類似であるといえる。
(4)指定商品の類否
本件商標の指定商品中、「コンピュータ周辺機器(コンピュータハードウエアを含む。),コンピュータ・グラフィックカード・マザーボード・プロセッサー・電子回路及び他のコンピュータ構成部品の冷却用装置(コンピュータの冷却用の水の冷却用装置を含む),コンピュータ・グラフィックカード・マザーボード・マイクロプロセッサ・電子回路及び他のコンピュータ構成部品の冷却装置の部品としてのポンプ及びタンク(冷却用の水の冷却用のポンプ及びタンクを含む),電子応用機械器具用ヒートシンク,冷却装置をコンピュータ中央処理装置に取り付けるためクリップ,コンピュータ中央処理装置用冷却装置の部品として用いる熱伝導パイプ,コンピュータ中央処理装置用冷却装置の部品として用いるファンブレード,コンピュータ中央処理装置用冷却装置,電子応用機械器具の部品用の自動冷却装置,中央処理装置用の冷却器,PCハウジング用ファン,ランダムアクセスメモリー用冷却装置,ハードディスク装置用放熱板,コンピュータ用ハウジング,コンピュータ用電源,コンピュータ用冷却ファン,USB対応コンピュータ用ファン,コンピュータ用構成部品,無線及び有線ヘッドセット,携帯情報端末,電子応用機械器具」は、引用商標1の指定商品中、「コンピュータシャーシー,コンピュータシャーシー用の部品及び付属品,コンピュータ用ケースファン,コンピュータ用の液体冷却装置,データ処理装置用プロセッサ用冷却器」と類似している。
(5)小括
以上のことから、本件商標と引用商標とは、互いに類似し、上記(4)の指定商品についても類似するため、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録を取り消すべきである。
5 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標2の著名性について
上記1のとおり、申立人に係る引用商標2は、我が国の使用者、需要者間に広く認識されている商標である(甲3〜甲78)。
(2)混同を生ずるおそれ
本件商標は、「Fractal Design」の文字を標準文字で表してなるところ、これは申立人が、本件商標の登録出願前より、PCケースを始めとする商品「コンピュータ用構成部品」等について使用する著名な引用商標2と同一又は類似するものである。
そうすると、商標権者が本件商標をその指定商品について使用した場合、あたかも申立人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがある。
(3)小括
以上のことから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、その登録を取り消すべきである。
6 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)商標権者の不正の目的について
上記1のとおり、引用商標2は、申立人の出所を示すものとして、10年以上にわたりPCケース、ファン、電源等に使用されており、本件商標が登録出願されるよりもはるか以前から、日本国内のパソコン関連部品の取引者、需要者間において相当程度広く認識されていたものである(甲3〜甲78)。
そこで、商標権者は、引用商標2が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、同商標と社会通念上同一の本件商標を、申立人が販売しているパソコン関連部品と同一又は類似の商品を指定して、申立人に無断で先取り的に出願して登録を受けたものである。
商標権者が、引用商標2の周知著名性を熟知していたことは、商標権者の商標出願を見れば自明である。
(2)商標権者の商標出願
これまで商標権者が単独で出願した商標は57件あるが(甲80)、これら全てが既に存在しているブランドと同一又は類似の商標である。
商標権者は、パソコン関連部品、IOT家電、センサー等電子部品に特に関心が高い傾向があり、本件商標が登録出願された日以降に登録出願された商標のうち、本異議申立てにも関係性の高い、パソコン関連部品のブランドだけに絞っても、9ブランド・12商標ある(甲86、甲87、甲91、甲93、甲97、甲101、甲102、甲108、甲111、甲112、甲116、甲121、甲122、甲126)。
このように、商標権者は、他人の末登録商標と同一又は極めて類似する商標を継続的に出願しているにすぎない。
(3)小括
以上のことから、申立人の商品を表示するものとして、外国又は日本国内における取引者、需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の本件商標を、不正の目的をもって使用するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものであり、その登録を取り消すべきである。
7 商標法第3条第1項柱書違反について
商標登録は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」について行う必要があるところ、「使用をする」とは、登録出願に係る商標が現在使用されているもの、あるいは登録出願に係る商標を使用する意思があり、近い将来において信用の蓄積があることが推認されるもの、をいう。
この点、商標権者は一個人であると考えられるところ、登録名義人である「張天文」でインターネット検索をしても、自社ホームページはおろか、商標権者が事業をやっているかのような情報は何ら見つけることはできず、また、本件商標についても同様に、インターネット上で検索をしても、商標権者に関する情報は何ら見つけることはできない。
これまで詳述してきたとおり、商標権者は、申立人のブランド名が海外又は日本国内で著名であることを知りながら、本件商標を登録出願することにより、申立人使用商標を剽窃したものである。
したがって、商標権者には、そもそも「自己の業務に係る商品又は役務」が存在しておらず、申立人の名声にただ乗りしたり、名声を毀損させたりする以外に、本件商標を使用する意思はないことは明らかである。
以上のことから、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないものであるから、その登録を取り消すべきである。

第4 当審の判断
1 引用商標2の周知性について
(1)申立人の主張及び同人提出の証拠によれば、以下のとおりである。
ア 申立人は、パソコンのケース、ケースファン、電源ユニット、水冷CPUクーラー、その他アクセサリー類を主に製造販売しており(甲4)、「Fractal Design」は、2007年にスウェーデンで誕生した(甲5)。
イ 申立人は、SNSでオフィシャルアカウントを有しており、そのアカウント名は引用商標2と同一であって、それぞれのアカウント数は、Facebookのフォロワー数約25万人、Xフォロワー数約22万人、Instagramフォロワー数約13万人、YouTubeチャンネル登録者数約20万人(甲7〜甲10)である。
しかし、上記各SNSの記事内容は、外国語で書かれたものである上、フォロワー数、登録者数に我が国の取引者、需要者がどの程度含まれているのかは明らかではない。
ウ 2023年4月26日付けで申立人が発行した年次報告書2022によると、Fractal Design製品は、世界各地50以上の市場で販売されており、2022年における世界全体の純売上高は4,790万ドル(約68億円)であり、我が国では45%という伸びを示したことがうかがえる(甲11)。
エ 日本市場の販売に関しては、アスク社が代理店を務めており(甲12)、2012年からFractal Designブランド製品の取り扱いを開始している(甲13)。アスク社は、代理店となって翌年の2013年には、Fractal Designのユーザーミーティングイベントを秋葉原で開催し(甲14)、また、自作PCパーツのイベント「ASK★FES」を毎年主催しており、本件商標の登録出願前では、2022年11月5日と6日の2日間にわたって、ベルサール秋葉原で開催し(甲16)、申立人もFractal Designのブースを出展している(甲17)。
オ 「Fractal Design」製品の小売販売ルートとしては、小売店販売もオンライン販売もあるが(甲18〜甲22)、ウェブサイトでは、商品検索をするためのブランド名として、引用商標2が使用され、また、価格情報ウェブサイト「価格.com」においても、引用商標2が使用されている(甲23)。
カ パソコン雑誌で実施された読者によるPCケースの人気投票ランキングでは、ExtendedATX&ATX部門で3位、microATX&Mini−ITX部門で1位、2位、4位に選出された(甲78)。
(2)判断
上記(1)からすれば、申立人の業務に係る商品(PCケース)は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国における、自作パソコン制作者等の間で、ある程度知られているとしても、申立人の主張する当該商品の売上高については、他の同業者のそれと比較して判断することができないため、この売上高の多寡について確認することができず、また、引用商標2を使用した商品の市場シェアや、引用商標2に係る広告宣伝の費用、回数及び期間など、引用商標2の使用事実を量的に把握することができる具体的な証拠の提出はないから、引用商標2は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の取引者、需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「Fractal Design」の文字を標準文字により表してなるところ、「Fractal」の文字と「Design」の文字との間に1文字分のスペースを有するとしても、構成各文字は、同じ書体で、まとまりよく一体的に表されており、外観上、どちらかの文字部分が需要者に対し強く支配的な印象を与えるとはいえないばかりか、当該文字部分全体から生ずる「フラクタルデザイン」の称呼も、無理なく一連に称呼し得るものである。
そして、当該文字は、辞書等に載録されている成語ではなく、直ちに何らかの意味合いを理解させるものではないから、一種の造語として認識されるものである。
そうすると、本件商標のかかる構成及び称呼においては、本件商標に接する取引者、需要者が、殊更、その構成中の「Fractal」の文字部分のみに着目するということはなく、構成要素全体をもって把握するとみるのが相当である。
してみると、本件商標は、「フラクタルデザイン」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標1について
引用商標1は、別掲のとおり、極太に表された、くの字状の図形を上下に2つ並べた図形部分と、その右側に「Fractal」の欧文字を横書きした構成からなるところ、これら図形部分と文字部分とは、視覚上分離して把握されるものである。
そして、当該図形部分は、直ちに特定の事物又は意味合いを表したものと認識されるものとはいえないことから、特定の称呼及び観念を生じないものであり、また、「Fractal」の文字は、「部分と全体とが同じ形となる自己相似性を示す図形」(「大辞泉 第2版」株式会社小学館。「フラクタル【fractal】」の項参照。)の意味を有するとしても、我が国において親しまれた語とはいえないから、一種の造語とみるのが相当である。
してみると、引用商標1の図形部分と文字部分とは、分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているということはできないものであって、それぞれが独立して自他商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものである。
したがって、引用商標1は、その構成文字部分に相応して、「フラクタル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標1の類否について
ア 外観について
本件商標は、上記第1のとおりの構成よりなるものであり、また、引用商標1は、別掲のとおりの構成よりなるものであるから、両者の外観は、判然と区別し得るものである。
イ 称呼について
本件商標から生じる「フラクタルデザイン」の称呼と引用商標1の文字部分から生じる「フラクタル」の称呼とは、「デザイン」の音の有無に顕著な差異があるため、構成音及び構成音数の差異によって、明瞭に聴別し得るものである。
ウ 観念について
本件商標と引用商標1は、いずれも特定の観念が生じないものであるから、観念上、比較することができない。
類否判断
してみると、本件商標と引用商標1とは、観念において比較することができないとしても、外観においては明確に区別できるものであり、称呼においても明瞭に聴別し得るものであるから、これらを総合して考察すれば、両商標は、相紛れるおそれがない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
(4)小括
したがって、本件商標の指定商品が、引用商標1の指定商品と同一又は類似であるとしても、本件商標と引用商標1とは、非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について
本件商標は、上記第1のとおり、「Fractal Design」の文字を標準文字により表してなり、一方、引用商標2も、上記第2の2のとおり、「Fractal Design」の欧文字からなるものであるから、本件商標と引用商標2とは、文字構成を同一にする同一又は類似の商標である。
しかしながら、引用商標2は、上記1(2)のとおり、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されているとはいえないものである。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者が、引用商標2を連想又は想起することはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないとするのが相当である。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号のいずれにも該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号及び同項第7号該当性について
引用商標2は、上記1(2)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人等の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているものと認められないものである。
そうすると、本件商標は、引用商標2の信用へのフリーライドや引用商標のダイリューションなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。
さらに、本件商標が、その出願及び登録の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序良俗に反するものというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号のいずれにも該当しない。
5 商標法第3条第1項柱書の要件充足性について
商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、少なくとも登録査定時において、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標、あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10019号、平成24年5月31日判決言渡)。
しかしながら、申立人の提出に係る証拠によっては、本件商標は、その登録査定時において、商標権者がその指定商品について使用をしているか又は使用する意思があるかについて合理的疑義があったものとは認められず、他にこれを認めるに足りる事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないものとはいえない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当せず、かつ、同法第3条第1項柱書の要件を具備しないとはいえないから、その登録は同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲(引用商標1)


(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意)
本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
異議決定日 2024-04-12 
出願番号 2022145424 
審決分類 T 1 651・ 18- Y (W09)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 鈴木 雅也
特許庁審判官 杉本 克治
渡邉 あおい
登録日 2023-07-12 
登録番号 6716584 
権利者 張 天文
商標の称呼 フラクタルデザイン、フラクタル 
代理人 弁理士法人酒井国際特許事務所 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ