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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W354142
管理番号 1410515 
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2023-03-29 
確定日 2024-04-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第6504597号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6504597号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、令和3年3月30日に登録出願、同年12月28日に登録査定され、第35類「広告業,トレーディングスタンプの発行,経営の診断又は経営に関する助言,事業の管理,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,新聞の予約購読の取次ぎ,速記,筆耕,書類の複製,文書又は磁気テープのファイリング,コンピュータデータベースへの情報編集,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,求人情報の提供,新聞記事情報の提供,自動販売機の貸与,衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,おむつの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,食肉の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,食用水産物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,野菜及び果実の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,米穀類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,牛乳の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,清涼飲料及び果実飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,茶・コーヒー及びココアの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,建具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,畳類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,葬祭用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,手動利器・手動工具及び金具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,薬剤及び医療補助品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,農耕用品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,花及び木の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,燃料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,楽器及びレコードの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,写真機械器具及び写真材料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,建築材料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,宝玉及びその模造品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ペットの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、第41類「当せん金付証票の発売,技芸・スポーツ又は知識の教授,献体に関する情報の提供,献体の手配,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,インターネットを利用して行う映像の提供,映画の上映・制作又は配給,インターネットを利用して行う音楽の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械器具の貸与」及び第42類「気象情報の提供,建築物の設計,測量,地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与,製図用具の貸与」を指定役務として、同4年1月26日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件審判の請求の理由において引用する商標は、スマートフォン向けアフィリエイトASP「Link−A」というサービスについて請求人が使用する、別掲2のとおりの構成からなるロゴマーク(以下「引用商標」という。)である。

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由(商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号)を要旨次のように延べ、証拠方法として甲第1号証から甲第80号証(枝番号あり。以下、「甲○」と表記する。)を提出した。
2 請求の理由(要旨)
(1)当事者について
ア 請求人について
請求人は、平成23年7月1日に設立され、同年12月27日にスマートフォン向けアフィリエイトASP「Link−A」というサービスをリリースし、ウェブサイト上にサービス内容を説明している(甲1)。さらに、平成29年1月下旬に、クラウドソーシングサイト「ランサーズ」を通じてコンペ方式で本件サービスのロゴマークを発注し(甲2)、これ以降、このロゴマークを請求人のサービスやアフィリエイター向けセミナーに関する商標として利用している(甲3)。そしてさまざまなアフィリエイター等のブログで紹介されたり、ネット記事で取り扱われるときにも、請求人のサービスを表すものとして、このロゴマークが付されている(甲4〜甲55)。
イ 被請求人について
被請求人は、平成27年6月30日に設立され、令和元年11月に沖縄県宜野湾市から東京都新宿区に移転している(甲56)。
被請求人の事業内容は、アフィリエイトを始めとするインターネットビジネスの拡大のためのコンテンツの提供であり、アフィリエイト講座も開催している(甲57)。
被請求人は、令和3年3月30日付けにて本件商標であるロゴマークを出願している。これは請求人使用のロゴマークと同一であり、請求人の使用役務を含む出願であったため、同年8月30日付けの拒絶理由通知書にて「本願商標が、偶然に登録出願されたとは考えにくく、出願人は、引用商標の存在を知った上で、剽窃的に本願商標を出願したというのが相当です。」等の判断が下された。これに対し被請求人は、「出願人は、提出者の存在を刊行物等提出書の内容を見るまで明確には認識しておらず、また、過去の業務等で関わったといった関連性もない(この点刊行物等提出書においても言及されている。)。提出者は、提出者と出願人とが同じ業界であることを理由に「提出者の社名・サービス名・ロゴ等を認知していた可能性が高く・・・」と主張しているが、アフィリエイトを含む広告関連業界には無数の会社や個人が存在しており、業界が同じだからといって知っているというのは甚だ無理がある。」という反論をしている。つまり、被請求人は、請求人の存在及び請求人のサービス名等を知らずに、本件商標を出願したと主張している。
しかしながら被請求人は、本件商標であるロゴマークと同日付けにて、請求人のサービス名である「Link−A(登録第6504594号)」、請求人の会社名の略称である「リンクエッジ(登録第6504595号)」と、その英語表記の「Linkedge(登録第6504596号)」までも出願している。一つの商標であればまだ偶然の一致と考えられるにしても、このように請求人のサービスを示す創作されたロゴマークのみならず、請求人のサービス名、請求人の会社名の略称及びその英語表記まで同日に出願するという行為は、拒絶理由通知でも判断されているように偶然とは到底考えられず、請求人のサービス名・社名・ロゴマークを知って出願したものと考えるほかなく、被請求人の請求人に対する異常な執着心、及び強い悪意が推認できる。
そして、被請求人は、本件商標であるロゴマークの登録が認められた後、本件商標の色彩を変更したロゴマークを使用し(甲58)、「Link−A(登録第6504594号)」の態様から一部の文字を大文字に変えて、「LINK−A」という態様にて使用している(甲58)。
さらに、請求人は、被請求人の代表(甲59)からの紹介で、請求人のサービスにアフィリエイター登録を希望するというメールを2通受信している(甲60、甲61)。メールの受信日はいずれも本件商標の登録出願日より後であり、被請求人の代表という立場にある者が、被請求人が出願中の商標と同一のサービス名である請求人のサービスを自己の顧客に斡旋するという極めて不可解な行為に至っている。これは、請求人のサービス名と被請求人の商標との誤認混同を惹起させる行為と推認できる。
被請求人のこのような行為は、請求人が10年以上の長きにわたり築き上げた実績やそのサービス名に化体する信用をフリーライドする目的か、いやがらせか、あるいはその両方ではないかと思われ、極めて強い不正の目的が推認される。
ウ 本件商標と請求人使用商標(請求人使用ロゴマーク)との対比
本件商標は、鋭角に折り曲げられたV字状の略対称形状の図形をその折曲部から両端部にかけて各端部が鋭角となるように縮幅された第1図形と第2図形とを有し、第2図形の奥方に配置される黒色の第1図形はその折曲部が本件商標全体の左下を向くように配置され、第2図形は第2図形の折曲部の端部と第1図形の上方に位置する一方の端部と接するとともに第2図形の右方に位置する一方の端部が第1図形の下方に位置する他方の端部と接して第2図形の折曲部が本件商標全体の上方やや左方を向くように配置されて上方から下方へ向けて濃くなるようにグラデーションがかった濃赤色に配色され、さらに第1図形及び第2図形の奥方には略正方形の輪郭で灰色に配色された背景が配置された外観を有する。本件商標は、第1図形及び第2図形については各々の形状及び向きによりそれぞれ欧文字「L」及び「A」を想起させる。
請求人使用ロゴマークは、甲2のとおり、図形要素と文字要素からなる商標であるが、図形要素部分についていえば、本件商標とは灰色の背景を除いた2つのV字状の形を組み合わせた形状、色彩、そして、その色の濃淡具合までもが寸分違わず一致している。
このように、本件商標と請求人使用ロゴマークの大きさを合わせて重ね合わせると、寸分違わず一致することから、本件商標はランサーズの成果物のデッドコピーであるといえ、請求人使用ロゴマークと極めて類似の商標であるといえる。
エ 本件指定役務と請求人のサービスとの対比
請求人のロゴマーク(請求人使用ロゴマーク)が使用されている請求人のサービスの具体的内容を例示すると次のとおりである。請求人のサービスは、アフィリエイターである管理者が自身のウェブサイトにおいて広告主のウェブサイトにリンクした広告等を掲載し、当該広告等を経由して広告主のウェブサイトヘアクセスした者が一定の行為を行った場合に、当該管理者に広告報酬が支払われるものである(甲62)。請求人のサービスではウェブサイトにおいて管理者専用の管理ぺージが提供されている(甲62)。管理者は、この管理ページにおいて広告主の情報等を確認できる(甲62)。請求人のサービスは、積柩的にアフィリエイター向けのセミナーや交流会を開催してノウハウや情報を提供し、またチャットでの問い合わせにも素早く返信する等手厚いサポートを徹底しており、結果の出せるアフィリエイターの育成に取り組んでいる。そしてそのことはネットニュース記事で取り扱われたり、アフィリエイター達からブログ記事にて紹介されている(甲7〜甲9、甲63〜甲71)。
そして、広告主に対しては、広告主1社につき及び全アフィリエイターに1人のコンサルタントが付き、導入から運用まで、アフィリエイトの成約数を増やすための施策提案やキャンペーンの立案、広告主とアフィリエイターとの相互理解を深めるためのミーティング設定、請求人のサービスのサーバーに蓄積された広告関連データの提供等、広告主のバックアップを行っている(甲62〜甲72)。
また、請求人のサービスのウェブサイトでは、ヘルプメニュー等において管理ページ(管理画面)の専門的な操作方法等に関する紹介及び説明がなされている(甲8、甲50〜甲55、甲66、甲68、甲72)。請求人のサービスではセミナー動画の提供(甲23)や、他社との協働によりホームページ作成・運用のためのサービスも提供している(甲73)。
したがって、本件指定役務のうち「広告業」、「経営の診断又は経営に関する助言」、「事業の管理」、「市場調査又は分析」、「商品の販売に関する情報の提供」、「コンピュータデータベースヘの情報編集」、「セミナーの企画・運営又は開催」、「インターネットを利用して行う映像の提供」、「デザインの考案」、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」、「電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明」、「電子計算機用プログラムの提供」は、請求人のサービスと同一又は類似の役務に該当する。
(2)本件出願の商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、審査において、商標法第4条第1項第7号に該当すると判断され、令和3年8月30日付けにて拒絶理由が通知されている。
被請求人により本件商標が出願される前に、黒色と赤色のV字型の図形を組み合わせた略三角図形を書してなる本件商標が、請求人がアフィリエイト広告等について使用している商標と酷似している点、そしてすでに取引者、需要者の間に広く認識されている点、また請求人のロゴマークが独創性の高い商標である点、さらに本件商標の指定役務には請求人が使用している指定役務が含まれている点が考慮され、本件商標が、偶然に登録出願されたとは考えにくく、出願人は、引用商標の存在を知った上で、剽窃的に本件商標を出願したというのが相当であると判断され、出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきであるから、商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されたのである。
これに対し被請求人は、知財高裁平成19年(行ケ)第10391号を盾に、出願を怠った請求人に落ち度があった旨意見書にて主張している。そしてこの意見書による反論が認められ、登録が認められてしまったのであるが、この点について、請求人は承服いたしかねる次第であり、次のとおり意見を申し述べる。
被請求人は、本件商標である請求人使用ロゴマークだけでなく、請求人のサービス名である「Link−A(登録第6504594号)」、請求人の会社名の略称である「リンクエッジ(登録第6504595号)」と、その英語表記の「Linkedge(登録第6504596号)」までも、請求人のサービスを含む指定役務について、被請求人によって同日に商標出願されているという事実がある。被請求人による4件もの商標出願は、いずれも請求人使用商標と同一であり、かつ請求人のサービスと同一又は類似の役務を指定するものであり、請求人使用商標と偶然に一致したものとはいい難い。さらに被請求人は、本件商標を、被請求人サービスに使用している(甲58)。被請求人が本件商標の登録出願時に請求人のサービス及び請求人使用ロゴマークを明確に認識していたことは明らかであるから、被請求人の当該使用行為は、請求人の有する著作権に係る著作物である請求人使用ロゴマークと極めて類似するロゴマークを、請求人使用ロゴマークに依拠してなんら権原なく利用するものであり、請求人の著作権を明白に侵害する行為である。
したがって、被請求人は、明確な強い悪意を持って請求人使用商標を狙い撃ちして、請求人商標を剽窃したといわざるを得ない。
このような常軌を逸した被請求人による出願は、仮に請求人側に、速やかに商標登録しなかったという軽微な落ち度があったとしても、請求人の業務により継続的に高い評価を得続けているサービス名と同一又は酷似する商標を、同指定役務において商標登録するというのは、請求人が長年にわたり築き上げた実績やそのサービス名に化体する信用をフリーライドする目的か、いやがらせか、あるいはその両方ではないかと思料される。いくら被請求人がそれを否定したとしても、取引者、需要者、業界関係者からすると、それは正常な商取引とはみなされ難いものであり、社会的相当性を欠いている。
もっといえば、平成19年(行ケ)第10391号の判決を盾にすれば、本件請求人のように、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願しなかった場合、このように露骨な悪意をもち不正の目的をもった他人に同一又は酷似する商標を出願されてしまったとしても、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきものと判断することで、本来商標登録を受けるべきと主張する者が救済されることなく、露骨な悪意をもった出願人による登録が認められてしまうというおそろしい道筋が出来上がってしまい、今後も本件と同様のケースにおいて軽微な瑕疵があっただけで長年の企業努力が水泡に帰してしまうような商取引の秩序を乱す幇助になってしまうのではないかと思料される。そのため商標登録出願について先願主義を採用し、また、現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても、そのような出願は、健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり、また、商標法の目的にも反し、公正な商標秩序を乱すものというべきである。
このように、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものといえる。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標の出願時の審査では、商標法第4条第1項第10号に基づく拒絶理由通知書が発せられている。
これに対し、被請求人からは「周知・著名であることを示す客観的証拠はどこにも存在せず、引用商標は周知でも著名でもない」との反論があり、なぜか採用されている。
請求人の商標が周知されていることを証明するために、まず請求人のアフィリエイトサービスについて説明するが、アフィリエイトASPは、アフィリエイター(ウェブサイトに広告を掲載することで広告収入を得る者)と、広告主を仲介するサービスである。日本のアフィリエイター人口は延べ約500万人といわれ、令和2年時点におけるアフィリエイト総市場規模は3258億4000万円に上るとされる(甲74)。請求人のサービスは、アフィリエイトASPの中でも、さらに「クローズドASP」と呼ばれるサービスに分類され、それは「オープンASP」とは異なり、招待を受けたアフィリエイター又は高い審査基準を満たしたアフィリエイターのみが登録可能なサービスである。その性質上、クローズドASPは、オープンASPに比べ、登録アフィリエイター数において劣後する傾向にあるのだが、その中でも請求人のサービスは、急速にアフィリエイター数を伸ばし(甲5)、同年時点で1563社の広告主、5万2312人のアフィリエイター、14万5260個の登録サイトを抱え(甲75)、49億3000万円の売上を上げると同時にアフィリエイター数においても売り上げにおいても、市場全体の1%を上回る規模で事業を行っている。そしてクローズドASPの最大手は上場企業が運営する「Rentracks」と思われるが、その登録アフィリエイター数は約3万6000人であり(甲76)、同アフィリエイター数5万2312人を擁する請求人のサービスが上回っている(甲75)。
上述のとおり、もともと狭い業界であり、全体の分母数が比較的少ないにもかかわらず、その中で5万2312人のアフィリエイターを擁するというのは、業界内では間違いなく高い地名度を得ていると思料され、そのサービスに係る「Link−A」は、十分周知著名のレベルであるといえる。
さらに、総フォロワー数15万人である女性ビジネス系YouTuberによる「KYOKO式しっかり学べる副業の学校アフィリエイト編」というアフィリエイト業界では影響力のある書籍において、代表的なアフィリエイトASP6銘柄のうちの一つとして請求人のサービスとして「Link−A」が紹介され(甲77)、請求人のサービスの存在感がここからも裏付けられる。また、(株)クロスメディア・パブリッシング発行の「Shapers新産業をつくる思考法」においては、事業者としての請求人が特集されており、請求人のサービス「Link−A」のみならず、請求人自身のアフィリエイター業界での存在感もうかがえる(甲78)。(株)矢野経済研究所発行の「アフィリエイト市場の動向と展望2021」については、請求人は、平成30年10月23日に、2019年版の発刊に際しての取材の申込みも受けており(甲79)、その時点において、請求人がアフィリエイトASPの市場において重要な位置にあったことが裏付けられている。同書籍の2021年度版では、2021年1月末現在のアフィリエイトサービスを提供している主なASPとして、請求人のサービス「Link−A」が挙げられている(甲80)。よって、出願時、査定時において請求人使用商標「Link−A」が周知著名であったことは明らかである。
そして、本件商標の登録出願日以前より、請求人が発信するウェブサイト等の情報(甲3、甲4、甲49〜甲55)や、請求人以外の者が発信する多数のネット記事情報及びブログ記事(甲5〜甲48)において、請求人のサービス名である「Link−A」と供に請求人使用のロゴマークが付され、請求人のサービスについての情報が掲載されている事実から、請求人使用のロゴマークは、被請求人による本件商標の登録出願時及び査定時において、周知のみならず著名な商標に至っている。
これらの情報に紹介されている請求人のサービスは、本件指定役務のうち「広告業」、「経営の診断又は経営に関する助言」、「事業の管理」、「市場調査又は分析」、「商品の販売に関する情報の提供」、「コンピュータデータベースヘの情報編集」、「セミナーの企画・運営又は開催」、「インターネットを利用して行う映像の提供」、「デザインの考案」、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」、「電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明」、「電子計算機用プログラムの提供」と同一又は類似の役務に該当する。
ゆえに、被請求人による本件商標の登録出願時及び査定時において、周知のみならず著名な商標に至っている。請求人のサービスとその使用商標がこれだけ十分なほど取引者、需要者間に広く認識されている事実が揃っている以上、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標と甲2で示す請求人使用ロゴマークとは、それらの大きさを合わせて重ね合わせると、本件商標の背景を除いて、寸分違わず一致することから、極めて類似するといえる。甲2は、請求人の出所を表示するものとして周知著名な商標である。甲2は、請求人のサービス内容との関係で自他役務識別力の高い独創的な商標である。
請求人は、請求人のサービスと同種のサービスを展開する他の事業者が行っているメデイア事業並びに、ネット通販等の小売業等の多角経営を行う可能性がある。特に、メデイア事業や小売業においては、インターネットビジネスとして取り扱う可能性のある商品及び役務は広範に及ぶことがある。
請求人のサービスは、本件商標の関連役務と関連が高い。
さらに、請求人はそのサービスと同種のサービスを行う他の事業者と同様に、メデイア事業、ECクーポン管理サービス等のサービスを行う可能性がある。
請求人のサービスの需要者は、主に、商品又はサービスに関連する情報を提供するウェブサイトの管理者、及びそれら商品又はサービスを提供する事業者であり、これに対し、本件商標の指定役務に係るアフィリエイトASP、メディア事業、ECクーポン管理サービスの需要者も、商品又はサービスに関連する情報を提供するウェブサイトの管理者、及びそれら商品又はサービスを提供する事業者を含み、請求人のサービスの需要者と共通する。
被請求人は「アフィリエイトを始め、インターネットビジネスで事業拡大を目指す方のためのコンテンツ提供(甲58)」を事業内容としており、請求人の事業分野との共通性が高い。
さらに、被請求人は、本件商標の登録出願時及び査定時において、本件商標を使用しておらず又は仮に使用していたとしても、被請求人の業務を表示するものとしては需要者の間で全く認知されていない。
以上の事情を総合勘案すると、本件商標の登録出願時及び査定時のいずれにおいても、請求人の業務を表示するものとして著名な本件商標がその指定役務に使用された場合、本件商標が表示されている役務に接した需要者、取引者は、請求人の役務であると誤認し、その役務の需要者が役務の出所について混同を生ずるおそれがあるか、請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し、その役務の需要者が役務の出所について混同するおそれがある。
また、請求人の商標は、クローズドASPという狭い業界でありながらも、その中で十分に著名であるため、本件商標の同役務について使用されるときには、請求人の業務に係る役務と出所混同を生ずるおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について
請求人使用ロゴマークと同一又は類似の本件商標は、本件商標の登録出願時及び査定時において、請求人のサービスを表示するものとして少なくとも日本国内におけるアフィリエイトASP業界及びクローズドASP業界における需要者の間で全国的に知られた周知商標である。
また、請求人使用のロゴマークは、請求人がランサーズに依頼した創作物であり、独創性の高い商標である。その創作物が寸分違わず一致した図形商標として出願がなされたことは偶然の一致とはいい難い。
さらに、被請求人は、本件商標であるロゴマークだけでなく、請求人のサービス名である「Link−A(登録第6504594号)」、請求人の会社名の略称である「リンクエッジ(登録第6504595号)」と、その英語表記の「Linkedge(登録第6504596号)」までも、請求人のサービスを含む指定役務について、被請求人によって同日に商標出願されているという事実がある。
被請求人は、本件商標の審査において、令和3年11月1日付けの意見書で「出願人は、提出者の存在を刊行物等提出書の内容を見るまで明確には認識しておらず」、「出願人は、単に自分で選択した商標を将来に渡って安全に使用するために商標登録出願を行ったに過ぎない。」と述べているが、請求人の略称を含む請求人使用商標と同一又は極めて類似の複数の商標を、請求人のサービスと同一又は類似の役務を含む指定役務にて、前記提出者の存在はおろか前記提出者が現に使用していた各請求人使用商標及び請求人のサービスの存在を明確に認識することなく同日に出願することなど不可能であり、客観的にみても虚偽の主張と言わざるを得ない。
また、被請求人は、本件商標であるロゴマークの登録が認められた後、その色彩を変更したロゴマークを使用している(甲58)。そして「Link−A(登録第6504594号)」の態様から一部の文字を大文字に変えて、「LINK−A」という態様にて使用している(甲58)。被請求人の当該使用行為は、請求人の有する著作権に係る著作物である請求人使用ロゴマークと極めて類似するロゴマークを、請求人使用ロゴマークに依拠してなんら権原なく利用するものであり、請求人の著作権を明白に侵害する行為である。このような商標の使用行為からも請求人の強い悪意が推認できる。
これらを総合勘案すると、本件商標は、一般に使用、採択されるものではなく、被請求人が出願当初から計画し、請求人使用ロゴマークが商標登録されていないことを奇貨として、請求人のこれまでの長期にわたる営業努力によって請求人使用ロゴマークに化体した信用、名声、顧客吸引力にただ乗りフリーライド)し、請求人使用ロゴマークの出所表示機能を希釈化(ダイリューション)させ、かつ、その名声等を毀損させる明確な強い悪意を持って請求人使用ロゴマークを狙い撃ちして、請求人ロゴマークを剽窃したと言わざるを得ない。
このような常軌を逸した被請求人による出願は、露骨な悪意をもち不正の目的をもった請求人サービスを狙い撃ちした剽窃出願であることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べた。
2 答弁の理由(要旨)
商標登録審査時に提出した拒絶理由通知に対する意見書にて述べたとおり、本件商標は維持されるべきである。
整理番号S8PZ21001(商願2021−037836、登録番号第6504594)
整理番号S8PZ21002(商願2021−037837、登録番号第6504595)
整理番号S8PZ21003(商願2021−037838、登録番号第6504596)
整理番号S8PZ21004(商願2021−037839、登録番号第6504597)

第5 当審の判断
1 利害関係について
請求人が本件審判を請求することの利害関係の有無については、当事者間に争いがなく、当審は請求人が本件審判の請求について利害関係を有すると認める。
2 引用商標の著名性について
(1)ア 請求人は、2011年7月に創業の、アフィリエイト事業を事業内容とした会社であり、スマートフォン向けアフィリエイトASP「Link−A」(以下「請求人役務」という。)を、2011年12月に開始した(甲1)。
請求人役務の内容は、パートナーがパートナーサイトにおいて広告主のサイトにリンクしたバナー広告、テキスト広告等を掲載し、当該広告等を経由して広告主サイトへアクセスした者が一定の行為を行った場合に、パートナーに対し、広告報酬を支払うものである(甲62)。
イ 請求人は、請求人役務と関連するロゴとして、別掲2のとおりの構成からなる引用商標を作成してもらい、自己のウェブサイトなどに表示している(甲2、甲3)。
ウ 請求人役務は、2020年の時点で、パートナー登録数が約5万2千、クライアント登録数が約1千5百あったとされる(甲75)。
なお、アフィリエイト総市場規模は、2019年度に約3千98億円(甲74)とされるところ、請求人役務の売上は49億3千万円(2020年時点)とされる(請求人の主張)。
エ ブログやインターネット記事情報などに、請求人役務の関連記事(中には、引用商標やその図形部分と色彩以外の構成を共通にするロゴを表示するものがある。)が掲載されている(甲4〜甲48)。
(2)上記認定事実によれば、請求人は2011年から本件商標の登録出願時までの約10年間、広告業の一種である「アフィリエイトASP」について引用商標を使用しており、当該事業は一定程度の営業実績があることはうかがい知れるとしても、その売上額はアフィリエイト総市場の中では約1%程度の規模にすぎず、広告業界の中では相対的にさらに小さな事業規模に位置づけられると考えられるもので、また、請求人役務を紹介する記事もインターネット上のブログ記事などが中心であり、テレビや雑誌などのメディアを通じた大規模な広告宣伝実績は確認できない。
その他、本件使用役務に使用されている引用商標が、広告業界における我が国の需要者の間において広く知られるに至っていることを、具体的かつ直接的に示す証拠はない。
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時において、アフィリエイトASPと関連する一定程度の範囲の取引者間においてはある程度認知されていた可能性があるとしても、その著名性の程度は高くはなく、その範囲も限定的であるから、我が国の需要者の間において、広く認識されていた商標と認めることはできない。
3 商標法第4条第1項第10号について
(1)引用商標の周知性
引用商標は、上記2のとおり、我が国の需要者の間において広く認識された商標とはいえない。
(2)本件商標と引用商標の同一又は類似
ア 本件商標は、別掲1のとおり、先のとがった矢尻状の2つの図柄(1つは黒色、1つは赤色)を組み合わせた図形であるところ、具体的に何を描いてなるのか明らかではない。
そうすると、本件商標は、称呼及び観念は生じない。
イ 引用商標は、別掲2のとおり、先のとがった矢尻状の2つの図柄(1つは黒色、1つは赤色)を組み合わせた図形と、その右下に「Link−A」の文字を配置してなるところ、その図形部分は、具体的に何を描いてなるのか明らかではない。
そして、引用商標の構成中「Link−A」の文字部分は、「関連。つながり。」の意味を有する「Link」の欧文字と、「英語アルファベットの第1字」である「A」の欧文字を、間にハイフンを介して結合してなる(参照:「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店)もので、構成文字全体としては「リンクエー」と発音できるが、具体的な意味を有する成語となるものではない。
そうすると、引用商標の構成中、図形部分と文字部分は、その構成要素の差異から視覚上分離して認識されるもので、称呼又は観念における関連性もないから、それらを分離して観察することが不自然であると思われるほど不可分的に結合してなるものではない。
したがって、引用商標は、その図形部分に相応して、特定の称呼及び観念は生じないものの、その構成文字に相応して、「リンクエッジ」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。
ウ 本件商標と引用商標の図形部分を比較すると、いずれも称呼及び観念は生じないから比較できないものの、外観においては、構成要素及び構成態様を共通にするから、相紛らわしい。
したがって、本件商標は、引用商標とは、図形部分の比較において外観上相紛らわしいから、同一又は類似の役務について使用するときは、出所の誤認混同を生じるおそれがあり、同一又は類似する商標と認められる。
(3)本件商標の指定役務と引用商標の使用に係る役務の類似
ア 本件商標の指定役務は、第35類、第41類及び第42類に属する上記第1のとおりの役務であるところ、その指定役務中、第35類「広告業」は、主として依頼人のために、広告に係る企画立案、マーケティング、コンテンツの作成、広告媒体の選択、総合的なサービスを提供する事業所や、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットその他の広告媒体のスペース又は時間を当該広告媒体企業と契約し、依頼人のために広告をする広告代理業者などにより提供されるサービスであって、広告主や広告媒体企業を需要者や取引者とするものである。
イ 引用商標は、アフィリエイトASPについて使用されているところ、当該役務は「広告業」の一種であり、広告主や広告媒体企業(ウェブサイトの運営主体)などを需要者や取引者とするものである。
ウ 本件商標の指定役務中「広告業」と引用商標の使用に係る上記役務を比較すると、いずれも業種(広告業の一種)や提供事業者(広告代理業者など)、需要者や取引者層(広告主や広告媒体企業)を共通にするから、それらに同一又は類似の商標を使用するときは、出所の誤認混同を生じるおそれがあるから、関連性の程度は高く、同一又は類似する役務と認められる。
(4)小括
以上のとおり、引用商標は他人(請求人)の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標ではないから、本件商標は、引用商標とは同一又は類似するもので、また、その指定役務は引用商標の使用に係る役務と同一又は類似の役務を含むとしても、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の著名性の程度
引用商標は、上記2のとおり、我が国の需要者の間において広く認識された商標とはいえず、その著名性の程度は高くはない。
(2)本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標と引用商標は、上記3(2)ウのとおり、同一又は類似する商標であり、類似性の程度は高い。
(3)本件商標の指定役務と引用商標の使用に係る役務の比較
本件商標の指定役務中、第35類「広告業」は、上記3(3)のとおり、引用商標の使用に係る役務(広告業の一種であるアフィリエイトASP)と同一又は類似の役務である。
他方、本件商標の指定役務中、上記役務以外の役務は、広告代理業者などの行う広告業ではなく、広告業とは需要者や取引者を共通にするものではないから、通常同一の営業主が提供するような密接な関連性はなく、関連性の程度は低い。
(4)小括
以上のとおり、引用商標は、我が国の需要者の間において広く認識された商標とはいえず、その著名性の程度は高くないから、本件商標と引用商標の類似性の程度や、その指定役務と引用商標の使用に係る役務との関連性の程度にかかわらず、本件商標の指定役務に係る需要者及び取引者において普通に払わされる注意力を基準とすれば、本件商標をその指定役務(「広告業」を含む。)に使用したときに、引用商標又は請求人の業務に係る役務との関連性を想起させることは考えにくく、他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人は、被請求人は、請求人の使用商標と同一で、かつ請求人のサービスと同一又は類似の役務を指定する商標登録出願を4件しており、これらが偶然一致したとはいい難いから、被請求人が本件商標の登録出願時に請求人のサービス及び請求人使用のロゴマークを認識していたことは明らかであり、また、当該使用行為は請求人の著作権を侵害する行為であるから、被請求人は、明確な強い悪意をもって請求人商標を剽窃したものであり、本件商標の登録出願は、請求人の信用にフリーライドする目的か、嫌がらせか、あるいはその両方と思われるため、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある旨を主張する。
しかしながら、仮に本件商標権者が、本件商標の登録出願時において、引用商標を含めた請求人の使用に係る商標やサービスを認識していたとしても、先願主義を採用する商標制度の下においては、そのように他人の商標を認識しながら先んじて商標登録出願をすること自体が、公序良俗に反するような行為であるとまでは直ちに評価することはできない。
また、出願された商標が他人の著作権と抵触するかどうかについては、特許庁における審査、審判における判断にはそぐわないものであって、他人の著作権と抵触する商標であっても、商標法第4条第1項第7号に規定する商標には当たらない。
その他、請求人提出の証拠によっては、本件商標権者と請求人との契約関係や取引関係なども明らかではないから、本件商標の登録出願に至った経緯は不明であって、また、本件商標権者が本件商標を利用して不正な利益を得たり、請求人の事業活動を阻害しているような事実関係は把握できない。
そうすると、請求人提出の証拠によっては、本件商標の登録出願の目的は未だ明らかではなく、本件商標の登録出願及び登録が、不正の利益を得る目的又は他人に損害を加える目的などの不正の目的をもってなされたとまではいえない。
(2)その他、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではない。
(3)請求人は、引用商標に係る役務を2011年12月に開始しながら、本件商標の登録出願まで約10年間、先に商標登録出願をしておらず、その間に引用商標の商標登録出願ができなかった合理的な理由も明らかではないから、本件事態を招いた責任がないわけではない。
(4)以上によれば、本件商標は、その出願目的及び経緯も明らかではないから、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法4条第1項第7号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第19号について
(1)請求人は、引用商標は全国的に知られた周知商標であり、創作物として独創性が高いから、それと一致する本件商標の登録出願は偶然の一致とはいえないこと、被請求人は請求人の使用商標と同一でかつ請求人のサービスと同一又は類似の役務を指定する商標登録出願していること、被請求人は本件商標の色彩を変更したロゴマークや「LINK−A」の表示を使用していること(甲58)などを指摘して、本件商標は、請求人使用ロゴマークが商標登録されていないことを奇貨として、請求人のこれまでの長期にわたる営業努力によって請求人使用ロゴマークに化体した信用、名声、顧客吸引力にただ乗りし、請求人使用商標の出所表示機能を希釈化させ、かつ、その名声を毀損させるという明確な強い悪意をもって、請求人使用ロゴマークを剽窃したのであり、不正な目的をもった剽窃出願である旨を主張する。
しかしながら、上記5(1)のとおり、仮に本件商標権者が、本件商標の登録出願時において、引用商標を含めた請求人の使用に係る商標やサービスを認識していたとしても、先願主義を採用する商標制度の下においては、そのように他人の商標を認識しながら先んじて商標登録出願をすること自体が、不正な行為とまでは直ちに評価できない。
また、本件商標権者は「LINK−A」と称する「記事LP作成ツール」と関連して本件商標と色彩を除く構成を共通にするロゴを表示している(甲58)としても、その役務の内容は引用商標の使用に係る役務(広告業の一種であるアフィリエイトASP)とは一致せず、また、本件商標権者がインターネットビジネスで事業拡大を目指す人のためのコンテンツ提供をしている会社(甲57)であれば、当該サービスを提供すること自体に不自然な点はないから、これら事実関係のみから本件商標の登録出願における不正の目的を推し測ることはできない。
その他、請求人提出の証拠によっては、本件商標権者が本件商標を利用して不正な利益を得たり、請求人の事業活動を阻害しているような事実関係は把握できない。
そうすると、請求人提出の証拠によっては、本件商標の登録出願の目的は未だ明らかではなく、本件商標の登録出願及び登録が、不正の利益を得る目的又は他人に損害を加える目的などの不正の目的をもってなされたものとまではいえない。
(2)引用商標は、上記2のとおり、我が国の需要者の間において広く認識された商標とはいえない。
(3)そうすると、本件商標は、引用商標と同一又は類似する商標であるとしても、引用商標は日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標ではなく、不正の目的をもって使用するものとはいえないから、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
7 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすることはできない。

別掲
別掲1(本件商標。色彩は原本を参照。)




別掲2(引用商標。色彩は原本を参照。)




(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
審理終結日 2024-02-07 
結審通知日 2024-02-13 
審決日 2024-02-29 
出願番号 2021037839 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W354142)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 大橋 良成
特許庁審判官 小林 裕子
阿曾 裕樹
登録日 2022-01-26 
登録番号 6504597 
代理人 弁理士法人前川知的財産事務所 
代理人 土谷 一貴 
代理人 名古屋 聡介 

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