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審決分類 |
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W09 |
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管理番号 | 1409410 |
総通号数 | 28 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2024-04-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2023-06-08 |
確定日 | 2024-03-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6211728号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第6211728号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6211728号商標(以下「本件商標」という。)は、「iSteady」の文字を標準文字で表してなり、令和元年9月7日に登録出願、第9類「自撮り棒(手持用一脚),デジタルカメラ用自撮り棒」を指定商品として、同年11月28日に登録査定、同年12月27日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する商標は、以下のとおりである。 1 請求人が「スマートフォン用又はカメラ用スタビライザー及びジンバル」について使用していると主張する「iSteady」の文字からなる商標(以下「引用商標1」という。) 2 商願2020−24308に係る商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:iSteady(標準文字) 指定商品:第9類「コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),音声・映像受信機,写真用機器専用ケース,写真装置用スタンド,写真用ファインダー,映写装置,自撮り棒(手持用一脚),自撮りレンズ,データ処理装置,ビデオカメラ」 登録出願日:令和2年3月5日 なお、引用商標2については、令和2年9月3日付けで、本件商標を引用して商標法第4条第1項第11号に該当する旨の拒絶理由通知がされている。 3 登録第6499210号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の構成:iSteady(標準文字) 指定商品:第9類「雲台,写真装置用スタンド,カメラ用三脚,写真用機器専用ケース,カメラ及び写真機械器具用バッグ,写真撮影用フラッシュ,蓄電池,カメラのケース及びカバー,映写装置,写真用ファインダー」 登録出願日:令和3年10月27日 設定登録日:令和4年1月13日 以下、引用商標1ないし引用商標3を合わせて「引用商標」という。 第3 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第42号証を提出した。 1 利害関係 請求人は、本件商標と同一又は類似の引用商標を使用及び出願している者であり(甲2〜7)、引用商標2は本件商標と同一又は類似するとして拒絶理由通知書を受けており(甲8)現在審査が保留中である。したがって、請求人は本件審判の結果により影響を受ける者であり、利害関係人に該当する。 2 商標法第3条第1項柱書 (1)商標法第3条第1項柱書は、商標登録要件として、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを規定するところ、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、少なくとも登録査定時において、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標、あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される(平成24年5月31日知財高裁平成24(行ケ)第10019号)。 そして、この判決において、裁判所は、被告は他者の使用する商標ないし商号について、多岐にわたる指定役務について商標登録出願をし、登録された商標を収集しているにすぎないというべき旨を示し、登録査定時における被告の使用意思を認め難いと判断している。この判断の前提として、裁判所が総合考慮した事情をまとめると以下のとおりとなる。 ア 原告が原告使用商標を使用していた後に、被告が原告使用商標に同一又は類似する商標を登録出願したこと イ 原告使用商標が造語で特徴的なこと ウ 被告が約1年半の短期間に45件もの商標登録出願(以下「大量出願」という。)をしていたこと エ 被告が原告使用商標を認識した上で被告商標の出願をしたと考え得ること オ 現在に至るまでこれらの商標について大量出願の指定役務やその他の業務に使用したとはうかがわれないこと カ 大量出願の指定役務は広い範囲に及び、一貫性もないこと キ 大量出願のうち30件の商標については、被告とは無関係に類似の商標や商号を使用している店舗ないし会社が存在し、確認できているだけでも、そのうち10件については、被告の商標登録出願が類似する他者の商標ないし商号の使用に後れるものであること (2)出願日と商標類似性 請求人は、2014年に設立され、世界50か国以上で引用商標を付したスマートフォン用又はカメラ用スタビライザー及びジンバル(以下「引用商品」ということがある。)を広告及び販売している(甲9)。引用商品が日本で販売された最先の日として確認できる日は2017年10月9日である(甲2)。引用商品は2018年にはAmazonで最も人気のある製品になり、販売台数50万台を突破し、2019年にはAmazonベストセラーの複数のサイトを独占し販売台数100万個を突破し(甲9)、同年9月7日、本件商標に係る商標権者(以下「本件商標権者」という。)が本件商標の出願をした(甲1)。 本件商標と引用商標とは同一又は類似の商標であることは明らかである。「iSteady」のつづりが同一であるから、同一の称呼が生じることとなり、かつ、外観上も異なる印象を与えないためである。なお、つづりが同一であるため観念が生ずるとすれば観念同一となる。 (3)引用商標が造語で特徴的なこと 本件商標と引用商標に共通する「iSteady」は辞書に掲載されておらず(甲10)、全体として特定の意味を表示する語でもない。また、引用商品を示す語以外に使用されている事実も見つからない(甲11)。さらに、指定商品・役務の分野を問わず検索しても「iSteady」の商標を出願したことのある者は請求人と本件商標権者以外に見つからない(甲12)。したがって、引用商標は、造語でかつ特徴的であるといえる。 (4)短期間の大量出願 本件商標権者は、2017年9月25日から2021年5月11日までの間(2021年9月9日に公開商標公報の検索)に114件もの商標登録出願(以下「本件大量出願」ということがある。)をしている(甲13)。これを特に件数の多い2018年及び2019年に絞ると、2年間という短い期間で109件もある。このうち、譲渡したケースは22件存在する(甲14、15:甲14に記載の譲渡された商標権は甲13のうち色付きの行の商標権を抽出したものである。)。 (5)本件商標権者の認識 上記(3)及び(4)からすると、本件商標権者が引用商標を認識した上で本件商標の登録出願をしたと優に考え得る。 (6)本件商標権者の使用実績 本件商標権者は、早期審査申請時に本件商標を使用しているように見えるものの(甲16)、その実態はないと評価できる。以下に詳述する。 ア 甲第16号証に係るネットショップ「WES PREMIUM STORE」(以下「WESショップ」という。)の該当ページを2023年5月30日時点で閲覧すると「現在、この商品は扱っておりません。」との表示がなされる(甲17)。WESショップにて、「iSteady」を検索すると、5つの商品の情報が表示されるが、これらのいずれにも早期審査事情説明書の添付資料1に表示の「カートに入れる」がなく、その他商品購入のためのボタンはない(甲18)。のみならず、各商品ページ及びその商品には、請求人の登録商標(甲19、20)が表示されており、かつ、請求人の商品写真及び商品説明(甲2、3)がそのまま表示されている部分がある(甲18)。 イ 他の本件大量出願に係る商標についても同様である。例えば「AUOPLUS」「POSTTA」「Nulaxy」「kmise」「LXTEK」及び「GEEMO」の商標は、早期審査事情説明書に記載のウェブサイトには掲載されている(甲21)が、これらの商標は当該ウェブサイトにおいて早期審査の事情説明書提出後の2021年9月15日時点で使用されていない(甲22)。 ウ 以上を考慮すると、本件商標を含む本件大量出願におけるこのような本件商標権者の使用は、早期審査のための使用実績又は異議申立や無効審判に対抗するための名目的な使用というべきである。 なお、上記のうち「Nulaxy」については、異議申立(異議2020−900083)の決定において、「当審において職権をもって調査するも、少なくとも、本件商標権者が、申立人による引用商標の使用とは別個に、本件商標をその指定商品について使用していると認めるに足る事実は発見できなかった。」と認定されている(甲23)。つまり、「Nulaxy」について商標権者による使用の事実がないと認定された。この点からも、本件商標を含む本件大量出願における本件商標権者の使用の事実があったということはできない。 (7)指定商品の範囲・一貫性 本件大量出願の指定商品には、例えば以下のようなものがある(甲13)。 第2類:プリンター用インクカートリッジ(中味が詰められたもの) 第5類:マカを主原料とするサプリメント、マカを主原料とする粒状・粉状・顆粒状・カプセル状・スティック状・液状・クリーム状・ペースト状・錠剤状とした加工食品 第7類:電気掃除機並びにその部品及び附属品 第9類:スマートフォン用スタビライザー、スマートフォン・携帯電話・携帯情報端末機又はコンピュータの加入者ID番号を記録したICカードの動作制限機能(ロック)を解除するためのアダプター、スマートフォン用のカバー、写真機械器具、光学機械器具、ゴム・皮・プラスチックなどの硬度を計測するための硬度計測器、電気通信機械器具、携帯情報端末、電子応用機械器具及びその部品、プロジェクター、バイク用無線通信機、防犯カメラ、バナナプラグ(端子)、電子機器用電源制御装置、カメラ用のフィルター、業務用テレビゲーム機用プログラム、電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品、自動車故障診断機、救命用具 第10類:マッサージ具 第11類:LED電球 第12類:オートバイの部品及び附属品 第14類:時計、時計用化粧箱、腕時計、キーホルダー、時計の部品及び附属品、身飾品、貴金属 第15類:楽器 第18類:リュックサック、バッグ、つえ、携帯用化粧道具入れ、革ひも、傘、財布、かばん金具、かばん類 第20類:旅行用まくら、携帯用まくら、空気まくら(医療用のものを除く。)、椅子 第21類:化粧用具 第22類:衣服綿、ハンモック、布団袋、布団綿 第25類:補正下着、ベルト、運動用特殊靴、運動用特殊衣服、靴下止め、バンド、ガーター、仮装用衣服、ズボンつり、履物、被服、下着 第27類:ヨガマット 第28類:おもちゃ、知育玩具、玩具、遊園地用機械器具、愛玩動物用おもちゃ、釣り用プライヤー、釣り具 これらの指定商品は広範囲に及んでおり、一貫性もない。また、当該指定商品同士は全く関連性のないものが少なくなく、本件商標権者の事業内容(甲24)とも合致しないものを多く含んでいる。さらに、本件商標権者は平成28年(2016年)5月16日に設立した資本金300万円の会社であるところ(甲24)、設立して間もなく資本金も多いとはいえない一会社がここまで幅広い事業を行うのは不自然であるのみならず、現在まで大々的に事業を行ってきたことが客観的にうかがえない点も不自然である。 (8)大量出願商標と第三者の商標 上記(4)にて述べたとおり、本件大量出願のうち22件の商標出願に基づく商標権は、譲渡されている(甲14、15)。この譲渡された商標だけを見ても、全件が本件商標権者とは無関係に類似の商標を使用している第三者(店舗ないし会社)が存在している。具体的には以下の商標である。 「BOBOVR」「XIBERIA」「KOMPUTERBAY」「PROCASE」「NUBWO」「KOOLSEN」「Foval」「PUMPKIN」「5BILLION FITNESS」「WOSPORTS」「WOPET」「Beatit」「OPPULITE」「TIMETEC」「Jennov」「GEEKRIA」「POLVCOG」「CCA」「nobelbird」「LC−POWER」「GM CLIMBING」及び「YESKAMO」 上記出願は、これらの第三者の販売する商品が権利範囲に属するように、商標及び指定商品が記載されているのみならず、当該第三者の使用商標に係る商品と詳細な表現まで完全に一致しているものも相当数ある。また、確認できているだけでも、そのうち21件については、本件商標権者の商標登録出願が類似する他者の商標の使用に後れるものである(甲25:「POLVCOG」のみ出願前の使用事実を発見できなかった。)。そして、これらのほとんどが特徴的な造語であり、偶然採択されたとはいえないものである。 また、本件大量出願のうち、7件に対して刊行物等提出書による情報提供がなされており(甲26)、12件(本件商標に係る登録を含む。)に対して異議申立又は無効審判が請求されている(甲27)。これらによると、本件商標権者の出願が提出者、申立人又は請求人の使用に後れるものである。したがって、上記の21件に19件を加えて合計40件が本件商標権者の出願が類似する他者の商標の使用に後れるものということになる。 (9)その他 ア 上記(8)で述べたとおり、本件大量出願のうち12件に対して異議申立又は無効審判が請求されている。2021年9月15日時点で本件商標権者が保有する商標権は44件であり(甲28)、これに当該異議申立により取消となった1件を加えると45件である。つまり、全体の約26.6%にも上る割合で商標登録の有効性が争われている。この割合がいかに大きいかを主張するために請求人代理人が調査した結果を以下に示す。 イ 商標登録件数の多い企業の保有商標権(2018年及び2019年に出願されたもの)のうち異議申立又は無効審判を受けた件数の合計(以下「異議等件数」という。)を調査した。件数の多い商標権者に絞ったのは、サンプル数として充分と評価できるためである。株式会社サンリオは1224件の商標権を保有しており(甲29)、これに対する異議等件数は0件である。株式会社資生堂は保有件数973件のうち異議等件数は2件だけである(甲30、31)。花王株式会社は保有件数1013件のうち(甲32)、異議等件数は2件だけである(甲33)。パナソニック株式会社は保有数448件のうち(甲34)、異議等件数は1件だけである(甲35)。株式会社タカラトミーは保有数217件のうち(甲36)異議等件数は0件である。つまり、各社の商標登録に対して異議申立又は無効審判を受けているのは0ないし0.2%程度にすぎない。これと比較すると、本件商標権者が保有商標登録に対する異議等が約26.6%という割合がいかに大きいかが理解できる。 ウ したがって、同一の商標権者に対して、短期間に、多数の情報提供、異議申立又は無効審判の請求がなされており、極めて異常な事態が起きているといえる。 エ さらに、このうち、無効2020−890015では、「当審の判断」において以下の事実が認定されており、商標権者が当該無効審判請求人に対して実際に権利行使したということができる。 「請求人は、出品していた日本アマゾンより、商標番号6173665の商標権を侵害している可能性があるという申立てを権利者から受け、請求人の出品を一部削除させられる通知を受けているものである(甲7、8、30の1)。 そして、この商標番号は、本件商標と同じ登録番号であるから、本件商標権者であるWES株式会社によるものであると認められる。」 オ また、本件商標権者は、請求人の代理店による引用商品の販売に対して警告し、かつ、オンラインショッピングモールで商品の削除を求め、その販売中止を求めている(甲37、38)。のみならず、本件商標権者は、請求人に対して、代理人を介し、本件商標権を17,000米ドル(現在の為替レート1米ドル=約140円で計算すると約230万円以上)にて売却することを申し出た(甲39)。この申出の中で、商標登録第5921385号に係る商標権について17,000米ドルで販売した実績があることを示している。 カ その他にも、本件商標権者は、本件商標権を含む本件大量出願に係る商標権の譲渡及びライセンスを販売していた事実もある(甲13〜15、40、41)。 キ 加えて、本件大量出願又はこれにより生じた登録を引用して拒絶理由通知を受けた出願が確認できるだけでも24件存在する(甲42)。 3 法的主張 (1)商標法第3条第1項柱書 ア 商標法第3条第1項柱書の趣旨については、以下のように述べられている。 「・・・以上の各規定等と商標法1条が「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定していること(商標法1条)を総合すると、現行の商標法は、商標の使用を通じてそれに化体された業務上の信用が保護対象であることを前提とした上で、出願人が現に商標を使用していることを登録要件としない法制(いわゆる登録主義)を採用したものであり、商標法3条1項柱書が、出願人において「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件とした趣旨は、このような法制の下において、他者からの許諾料や譲渡対価の取得のみを目的として行われる、いわゆる商標ブローカーなどによる濫用的な商標登録を排除し、登録商標制度の健全な運営を確保するという点にあるものと解される。 そして、このような法の趣旨に鑑みれば、商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、出願人において自己の業務に現在使用しているもの又は近い将来において自己の業務に使用する意思があるものであることを要するが、この「自己の業務」に該当するかどうかについては、形式的に判断することは必ずしも相当ではないというべきであり、専ら他者に使用させることを目的とする商標の登録出願であっても、出願人と当該商標を使用する他者の業務との間に密接な関係があって、出願人に当該商標の商標登録を認めることに社会的、経済的にみて合理的な必要性が認められる事情があり、濫用的な商標登録を排除するという法の趣旨にも反せず、かつ、当該商標を使用する役務に係る業務を行うことができる者が他の法令上制限されているときはその制限の趣旨にも反しないと認められる場合には、当該他者の業務を当該出願人の「自己の業務」と同視し、当該出願人において当該商標が「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に当たると評価することができるものと解するのが相当である(平成23年10月28日東京地方裁判所、平成22年(ワ)第1232号)。」 イ 本件において、上記2(2)ないし(9)のとおり、本件商標権者は、広範にわたり関連性のない商品について他人の特徴的な造語商標を短期間に大量に出願してきている事実がある。 ウ そして、上記2(6)において、本件商標権者は早期審査の申請時に本件商標を使用しているように見えるものの、当該使用は、早期審査のための使用又は異議申立や無効審判に対抗するための名目的な使用というべきである。したがって、この使用は形式的に使用といえると認められることがあっても、「自己の業務」に該当するかどうかについて形式的に判断することは相当ではない。そこで、実質的に見ると、本件商標権者による使用は自己の商品についての商標の使用とみることができない上に、本件商標権者は本件大量出願に係る商標権のうち22件を譲渡している(その他、譲渡には至らなくとも譲渡やライセンスの申出がなされているものもある。)。また、本件大量出願のうち他人の造語商標の使用に後れるものが40件もあり、本件商標権者が当該他人及び請求人に権利行使をしている事実もある。さらに、本件商標権者は、引用商品に対して権利行使をする一方で、請求人に対して本件商標権を17,000米ドルという高額で売却することを申し出た事実もある。このため、本件大量出願に係る商標登録は他者からの許諾料や譲渡対価の取得のみを目的として行われる、いわゆる商標ブローカーなどによる濫用的な商標登録である。 エ さらに、以上の全ての事実からすると、本件商標権者は、多岐にわたる指定商品について商標登録出願をし、登録された商標を収集しているにすぎないというべきであり、登録査定時における商標権者の使用意思を認め難いというべきである。 オ したがって、本件商標は「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に該当しない。よって、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書に違反する。 (2)商標法第4条第1項第7号 仮に、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものでないとしても、同法第4条第1項第7号に該当する。 ア 商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(平成18年9月20日知的財産高等裁判所、平成17年(行ケ)第10349号)。 イ 本件において、上記(1)の事実のとおりであるから、本件商標権者の本件大量出願及び譲渡等の一連の行為は、他者からの譲渡対価等の取得のみを目的として行われる、いわゆる商標ブローカーなどによる濫用的な商標登録をする行為と評価できる。 ウ また、本件大量出願のうち、7件に対して刊行物等提出書による情報提供がなされており、12件に対して異議の申立又は無効審判が請求されている。さらに、本件大量出願又はこれにより生じた登録を引用して拒絶理由通知を受けた出願が確認できるだけでも24件存在する。加えて、本件大量出願の中には、先行して使用されている他人の商標と類似するとして商標法第4条第1項第10号や同項第19号等の拒絶理由を受けているケースが相当数ある。これらの事実からすると、他社が商標登録出願していないことを奇貨として次々と商標登録をした上で当該他社の営業を妨害する行為であると評価せざるを得ない。 エ 上記のような大量出願の一環としてなされた本件商標の出願は出願の経緯に社会的相当性を欠くというべきであるし、このような行為を商標法が予定しているとは到底考えられない。 オ したがって、本件商標登録は、5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当するというべきである。 カ また、本件大量出願に基づく商標権の譲渡及びこれに対する拒絶理由通知、情報提供、異議申立又は無効審判請求が相当数あるところ、これには譲受人、特許庁審査官、情報提供提出者、異議申立人、無効審判請求人、特許庁審判官等の多くの者にとっての人的及び金銭的な負担となっている。これは公益を損なっているというべきである。このような観点からも、本件商標登録は、5)に該当し、ひいては公序良俗を害するおそれがある。 キ 直近の裁判例において、上記のような事実に基づき、商標権者による商標登録が公序良俗に反する旨の判断がなされている(令和5年1月19日知的財産高等裁判所、令和4年(行ケ)第10073号)。特に、商標権者に対して以下のとおり判断された点については本件にも当てはまる(同裁判例における「原告」は本件商標権者を意味する。)。 「本件は、原告が、先願主義に名を借りて、商標権が本来持つべき出所識別機能とは関係なく、剽窃的な商標出願を大量にした上、金銭的利益を得ることを業とするという事案であって、単なる特定の当事者間の私的な問題に止まるものではなく、公正な取引秩序そのものに関わる重大な違反があると認められるものであるから、商標法が先願主義を採り、また、冒認者による出願が登録拒絶理由として定められていないことを考慮しても、その登録が公序良俗に反することは明らかといわざるを得ない。」 ク したがって、この裁判例の観点からも、本件商標は公序良俗を害するおそれがあるというべきである。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 4 むすび よって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反し、同法第4条第1項第7号に該当するものであるから、本件商標の登録は、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証から乙第9号証を提出した。 1 商標法第3条第1項柱書違反に対する反論 (1)本件商標権者が本件商標を選択した理由 本件商標を使用する商品は、「自撮り棒(手持用一脚),デジタルカメラ用自撮り棒」であるので、利用者が移動しながら自撮り棒を使用しても、カメラ等を安定した状態で「固定させる」との意味合いを想起させるように、「i(私は)steady(固定させる)」から選択されたものである。 このような主語と動詞を組み合わせた商標は数多く使用され、商標登録されている。例えば、類似群コード11B01の商品を指定する登録第5657607号商標「iMOVE」、登録第6019963号商標「ibalance」等がある。 したがって、本件商標権者が本件商標を選択して商標登録したことについて、格別不自然な点は存在しない。 (2)本件商標権者は、インターネットの通販サイトであるWESSTORE楽天市場店において、本件商標を商品「自撮り棒」に使用して販売している(乙1、2)。 (3)乙第3号証、乙第4号証は、それぞれ2022年11月、2023年2月において、WESSTORE楽天市場店での売上個数及び売上実績を示す資料である。コロナ禍の影響で売上個数は少ないものの、売上実績があることが分かる。 (4)乙第5号証、乙第6号証、乙第7号証は、実際に商品を購入した記録を示す資料である(一部の個人情報についてマスキングしている。)。 (5)請求人は種々主張しているが、全て該当しないことは明らかである。 本件商標権者は、インターネットの通販サイトであるWESSTORE楽天市場店で多くの商品を取り扱っているが、amazonや楽天市場で運営している多くのストアでは、種類の異なる様々な商品を販売していることは例を挙げるまでもなく常識である。 また、多くの商品を扱えば、取引の安全のため、必然的に相当数の商標登録を行う必要が生じる。 さらに、時間とともに、将来的な商品の売上等を予測して、他社に商標権を譲渡した方がビジネス的に有利と判断すれば、商標権を譲渡する場合もある。 (6)以上から、本件商標権者は、「自己の業務に係る商品について使用をしている」のであるから、本件商標の登録は商標法第3条第1項柱書に違反するものではないので、無効理由は存在しない。 2 商標法第4条第1項第7号違反に対する反論 (1)乙第3号証、乙第4号証から分かるように、本件商標権者は、「自撮り棒」だけでなく、他の商品も取り扱っている。 (2)乙第8号証は、請求人が本件商標権の譲渡を求めていたことが分かる2020年10月29日付けの代理人のEメールであり、乙第9号証は、乙第8号証のEメールの内容に対して回答した2020年11月11日付けの代理人のEメールである。 (3)乙第9号証から分かるように、本件商標権者は本件商標について「具体的な使用の予定があり、既に準備を進めているため、譲渡の意思はない」旨を回答している。 (4)したがって、本件商標権者は、「他者からの譲渡対価等の所得のみを目的として商標登録した」ものではないので、「公序良俗に反する」ものではなく、本件商標の登録は商標法第4条第1項第7号に違反するものではないので、無効理由は存在しない。 第5 当審の判断 1 利害関係について 請求人は、同人に係る商標登録出願として審査に係属中の引用商標2について、前記第2の2のとおり、本件商標を引用して商標法第4条第1項第11号に該当する旨の拒絶理由通知を受けており(甲8)、本件商標を無効にすることについて、利害関係を有するものと認める。 2 本件商標と引用商標の類否及び両商標の商品の類否について (1)本件商標について 本件商標は、前記第1のとおり、「iSteady」の文字からなるところ、その構成文字に相応して「アイステディ」の称呼を生じるものであり、また、全体の構成文字は、辞書に載録された語ではなく、一般に親しまれた意味を想起させない造語であって、特定の観念を生じないものである。 (2)引用商標について 引用商標は、いずれも前記第2のとおり、「iSteady」の文字からなるところ、その構成文字に相応して「アイステディ」の称呼を生じるものであり、また、全体の構成文字は、辞書に載録された語ではなく、一般に親しまれた意味を想起させない造語であって、特定の観念を生じないものである。 (3)本件商標と引用商標の類否について 本件商標と引用商標は、つづりを共通とし、外観において紛れるものであり、また、「アイステディ」の称呼も共通するものであるから、観念において比較できないとしても、同一又は類似するものであることは明らかである。 (4)本件商標と引用商標の商品の類否について 本件商標の指定商品「自撮り棒(手持用一脚),デジタルカメラ用自撮り棒」と、引用商標1に係る商品「スマートフォン用又はカメラ用スタビライザー及びジンバル」は、いずれも、スマートフォン、カメラ等に取り付け、自撮り等においてカメラ等を安定した状態で固定させる目的を有するものであって、商品の目的、用途、販売部門、需要者の範囲等において共通性を有し、これらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは商品の出所について誤認混同のおそれがあるから、これらは類似の商品に当たるものといえる。 3 事実認定 請求人及び被請求人の提出した証拠並びに両者の主張によれば、以下の事実が認められる。 (1)請求人による業務について 請求人(「Hohem」)は、2014年に設立された中国の企業であり、スマートフォン用又はカメラ用スタビライザー及びジンバルの広告及び販売を業としている(甲2、3、5、9)。 (2)引用商標の使用状況について ア 「Amazon.co.jp」のウェブサイトにおいて、「Hohem Isteady Mobile Plus 3軸ジンバルスタビライザー for iPhone11・・・」の記載とともに、当該商品の画像が掲載され、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日」として「2017/10/9」と記載されている(甲2)。 イ ウェブアーカイブ(2021年4月11日)に係る「Amazon.co.jp」のウェブサイトにおいて、「Hohem iSteady Mobile Plusスマホジンバル3軸スタビライザーiPhone12Pro、Androidスマホ携帯電話手持ちジンバル・・・」の記載とともに、当該商品の画像が掲載され、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日」として「2018/8/15」と記載されている(甲3)。 ウ 「note.com」のウェブサイト(2019年11月7日 13:11)において、「HohemJapan3軸ジンバルの紹介」のタイトルの下、「商品詳細紹介」「これは弊社のHohem iSteady Proジンバルの写真です。」「iSteady Mobile」「iSteady Multiカメラ用ジンバル」「iSteady Pro2 アクションカメラ用ジンバル」等の記載とともに、当該各商品の写真画像が掲載されている(甲5)。 エ 「hohem」のウェブサイトにおいて、「開発の歴史」のタイトルの下、「2018/Hohemは、iSteady Mobile(3軸スマートフォンスタビライザー)、iSteady Pro(3軸アクションカメラスタビライザー)、およびiSteady Gear(4軸DSLR/ミラーレスカメラスタビライザー)を発売しました。・・・販売台数50万台を突破。」「2019/Hohemは、・・・iSteadyシリーズ製品・・・を発売し、販売数が100万個を超えました。」等の記載とともに、商品の写真画像が掲載されている(甲9)。 (3)本件商標権者による商標登録出願について ア 本件商標権者(被請求人)は、前記第1のとおり、令和元年(2019年)9月7日に本件商標の登録出願をしているが、平成29年(2017年)9月25日から令和3年(2021年)5月11日までの間に114件の商標を登録出願し(甲13)、特に平成30年(2018年)及び令和元年(2019年)の2年間で109件もの商標を登録出願した(甲13〜15)。 イ 上記アに係る大量の商標登録出願の指定商品は、例えば「マカを主原料とするサプリメント,LED電球,おもちゃ,バッグ,遊園地用機械器具,椅子,腕時計,被服,旅行用枕,ヨガマット,楽器,釣り具,オートバイの部品及び付属品」等(甲13)、広範囲に及んでおり、一貫性もなく、本件商標権者が公式ウェブサイトに掲載している事業内容「・コンピュータ、その周辺機器・関連機器及びそのソフトウェアの開発、設計、製造、販売並びに輸出入業務 ・インターネット等の通信ネットワーク及び電子技術を利用した各種情報提供サービス、情報収集サービス、広告・宣伝に関する業務及び代理業務 ・通信販売業務 ・前各号に付帯関連する一切の事業」(甲24)と無関係なものも多い。 ウ 上記アに係る商標登録出願のうち、22件の商標出願に基づく商標権は、登録後短期間のうちに譲渡され(甲14、15)、少なくとも18件については、本件商標権者による商標登録出願が類似する他人の商標の使用に遅れるものである(甲25)。本件商標権者に係るこれらの出願で、他人が使用する商標に遅れるものについては、「BOBOVR」「NUBWO」等、日本語や英語を前提とする限り考え付くのが困難な特徴的な造語が多く含まれている。 エ 本件商標権者は、本件商標についても使用許諾する旨、知的財産権の取引サイトに出品している(甲40)。 オ 上記アに係る商標登録出願のうち、7件に対して、第三者から刊行物提出書による情報提供(商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号又は同項第19号等)がなされ(甲26)、12件(本件商標を含む。)に対して、登録異議の申立て又は無効審判の請求(商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号又は同項第19号等)がなされた(甲27)。 なお、本件商標の商標登録原簿によれば、本件商標に対する異議申立て(異議2020−900081)の申立日は、令和2年(2020年)3月19日、異議決定日は同年9月9日であり、また、無効審判(無効2021−890059)の請求日は、令和3年(2021年)11月5日、審決日は同4年(2022年)6月21日である。 カ 甲第16号証は、令和元年(2019年)9月7日受付の本件商標の早期審査に関する事情説明書であるが、これに係るWESショップの該当ページを令和5年(2023年)5月30日時点で閲覧すると「現在、この商品は扱っておりません。」との表示がなされる(甲17)。また、当該事情説明書の添付資料1に表示されていた「カートに入れる」がなく、商品購入のためのボタンもない(甲18)。さらに、請求人の登録商標(甲19、20)が表示されており、かつ、請求人の商品写真及び商品説明(甲2、3)がそのまま表示されている部分がある(甲18)。 そして、上記アに係る商標登録出願に係る本件商標以外の商標についても同様に、当該WESショップにおいて、令和3年(2021)年9月15日時点で使用されていない(甲22)。 キ 「Rakuten」のウェブサイトに本件商標権者が出品したとされる「WESSTORE楽天市場店」において、「isteady 自撮り棒」の記載ともに、当該商品の画像が掲載され、「2023/07/03更新」と記載されている(乙1、2)。 ク 被請求人が提出した「楽天市場店での売上個数及び売上実績を示す」とされる資料には、「集計対象の選択:統計」の記載の下、「2022年11月01日〜2022年11月30日の商品別売上高(データ更新時間2023年8月3日19時)」の「商品名」の欄に、「isteady 自撮り棒・・・/単価 999(円)/売上件数 3(件)」と記載され(乙3)、また、「2023年02月01日〜2023年02月28日の商品別売上高(データ更新時間2023年8月3日19時)」の「商品名」の欄の中に、「isteady 自撮り棒・・・/単価 999(円)/売上件数 2(件)」と記載されている(乙4)。 (4)その他 ア 2020年10月29日付けEメールには、請求人から、本件商標権者に「本件商標権譲渡の可能性」を打診する旨の記載があり(乙8)、これに対し、本件商標権者は、2020年11月11日付けEメールで、「zhiyun(商標登録第6256358号)」(以下「zhiyun商標」という。)及び「iSteady(商標登録第6211726号)」(本件商標)について、「具体的な使用の予定があり、既に準備を進めていることから、譲渡の意思はない」「本件商標権者の使用を前提として、ライセンス(通常使用権)であれば検討できる」旨を回答した(乙9)。 イ 2021年8月10日付けのEメールにおいて、本件商標権者は、請求人に対して、本件商標に係る商標権を17,000米ドルにて売却することを申し出た(甲39)。この申出の中で、zhiyun商標に係る商標権について、17,000米ドルで販売した実績があることを示した(甲39)。 ウ 令和5年2月15日付け通知書において、本件商標権者は、請求人の代理店に対し、引用商標に係るスマートフォン用スタビライザー及びジンバルスティックの販売が本件商標に係る商標権を侵害するとして警告し、当該商品の販売中止を求めた(甲37、38)。 エ なお、zhiyun商標については、商標法第3条柱書及び同法第4条第7号に違反するとの理由により、その登録を無効にするとの無効審決(無効2021−890051、審決日:令和4年6月14日)がなされ、当該審決は、裁判所によって支持され、確定した(令和5年1月19日知的財産高等裁判所、令和4年(行ケ)第10073号)。 4 商標法第3条第1項柱書について (1)商標法第3条第1項柱書は、商標登録要件として、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを規定するところ、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、少なくとも登録査定時において、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標、あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される(平成24年5月31日知的財産高等裁判所、平成24年(行ケ)第10019号)。 (2)上記2及び3によれば、以下のことを認めることができる。 ア 請求人は、遅くとも平成29年(2017年)10月9日から、Amazonジャパンのウェブサイトにおいて、引用商標又はそれに類似する商標を使用したスマートフォン用又はカメラ用スタビライザー及びジンバル(引用商品)の広告、販売を行っており、引用商品は、平成30年(2018年)には50万台、令和元年(2019年)には100万個販売された。 イ 一方、本件商標権者は、令和元年(2019年)9月7日に本件商標の登録出願を行い、同日受付の早期審査の事情説明書で自社のウェブサイト上での本件商標の使用の事実を証拠として提出し、同年11月28日に登録査定され、同年12月27日にその設定登録を受けたが、令和5年(2023年)5月30日時点において、当該ウェブサイト上で、本件商標を指定商品「自撮り棒(手持用一脚),デジタルカメラ用自撮り棒」に使用していない。 ウ そして、本件商標と引用商標は、同一又は類似する商標であり、また、引用商標は、請求人の業務に係る引用商品に使用する造語商標で、特徴的なものである。そして、引用商品は2018年ないし2019年には相当の売上げ台数をあげていたところ、確認できる引用商標の我が国での使用期間(2017年10月9日〜2019年11月7日)と本件商標の登録出願日(2019年9月7日)が近接していることからすれば、本件商標権者は、引用商標を認識した上で、引用商標と同一又は類似する本件商標を、引用商品と類似の商品(「自撮り棒(手持用一脚),デジタルカメラ用自撮り棒」)について商標登録出願したものと考え得る。 エ また、本件商標権者は、上記3(3)アのとおり、平成29年(2017年)9月25日から令和3年(2021年)5月11日までの期間に大量の商標登録出願をしているところ、これらの商標についても、令和3年(2021)年9月15日時点で使用されていないばかりか、それら商標の指定商品は広範囲に及び、一貫性もなく、そのうち22件は、登録後ほぼ短期間のうちに譲渡され、そのうち18件は、本件商標権者の商標登録出願が、類似する他人の商標の使用に後れるものである。なお、本件商標権者に係るこれらの出願で、他人が使用する商標に遅れるものについては、「BOBOVR」「NUBWO」等、日本語や英語を前提とする限り考え付くのが困難な特徴的な造語が多く含まれ、他人が先行する商標と偶然に一致したものとはいい難い。 オ さらに、本件商標権者は、令和2年(2020年)11月11日付けEメールで、本件商標のライセンスを検討できる旨回答したり、同3年(2021年)8月10日付けのEメールにおいて、他の商標権について、17,000米ドルで販売した実績があることを示した上で、本件商標に係る商標権も17,000米ドルで売却することを申し出たりしているのみならず、使用許諾のために本件商標を知的財産権の取引サイトに出品もしている一方で、令和5年(2023年)2月15日付け通知書において、引用商品の販売が本件商標に係る商標権を侵害するとして警告し、当該商品の販売中止を求めている。 カ 加えて、上記3(3)アに係る商標登録出願のうち、7件に対して刊行物提出書による情報提供がなされ、また、12件に対して登録異議の申立て又は無効審判の請求がなされており、いずれも商標法第3条第1項柱書違反を根拠に含むものである。 (3)上記(2)を総合すると、本件商標権者は、他者の使用する商標について、多岐にわたる指定商品に関し商標登録出願をし、登録商標を収集(他者からの譲渡対価の取得等を目的として行われているものと推認される。)しているものというべきであって、本件商標は、登録査定時において、本件商標権者が現に自己の業務に係る商品に使用をしている商標に当たらない上、本件商標に将来自己の業務に係る商品に使用する意思があったとも認め難いものである。 (4)したがって、本件商標は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは認められず、その登録は、商標法第3条第1項柱書に違反してされたものというべきである。 5 商標法第4条第1項第7号について (1)上記3(2)のとおり、本件商標の登録出願日である令和元年(2019年)9月7日以前に、我が国において、遅くとも平成29年(2017年)10月9日以降、引用商品は、Amazonジャパンのウェブサイトにおいて広告、販売され、平成30年(2018年)には50万台、令和元年(2019年)にはその販売台数は100万個を越えていたことがうかがえる。 (2)また、上記3(3)及び(4)のとおり、本件商標の登録出願は、平成29年(2017年)9月25日から令和3年(2021年)5月11日までの間に本件商標権者によりされた大量の商標登録出願の一部であるところ、これらの出願のうち22件については、登録後1、2年で移転され、そのうち少なくとも18件については原告による登録出願が、類似する他人の商標の使用に後れるものであり、本件商標権者に係るこれらの商標の多くが特徴的な造語で、先行する他人の商標と偶然に一致したものとは考えられず、さらに、本件商標権者は本件商標についても使用料を得ようとし、引用商品の販売が本件商標に係る商標権に基づいて請求人の引用商品の販売中止を求めていたことが認められる。 (3)これらの事情によれば、本件商標権者は、先願主義に名を借りて、先行して使用されてきた他人の商標と類似する商標を出願した上、金銭的利益を得ることを業とする者といわざるを得ない。 (4)また、本件商標は、造語として特徴的なものといえ、同時期に本件商標権者により出願された商標には、他人が先行する商標と偶然に一致したものとはいい難いものが多く含まれていることに照らせば、本件商標権者が独自に考え出したものとはいい難いものである。 (5)してみれば、本件商標権者は、請求人が我が国及び外国で、引用商品が相当の販売実績を有していることを知りながら、これらの商品と類似の商品を指定商品として、我が国で先に商標登録を得ることで、金銭的利益を得ようとしいたものと推認し得るものである。このような本件商標の登録出願に至る経緯等に照らせば、本件商標の登録を認めることは、商標法の予定する公正な取引秩序に著しく反するものというべきである。 (6)したがって、本件商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれのある商標というべきであるから、その登録は、商標法第4条第1項第7号に違反したされたものである。 6 被請求人の主張について (1)被請求人は、本件商標はカメラ等を安定した状態で「固定させる」との意味合いを想起させるように、「i(私は)steady(固定させる)」から選択されたものであり、このような主語と動詞を組み合わせた商標は「iMOVE」等、多く使用され、商標登録されているから、本件商標権者が本件商標を選択して商標登録したことについて、格別不自然な点は存在しない旨主張している。 しかしながら、本件商標の登録出願は、上記3の認定事実に照らせば、上記4及び5のとおり判断するのが相当であって、本件商標も、他の商標登録出願と同様に、先行して使用されてきた他人の商標と同一又は類似する商標を出願したものであり、本件商標権者が独自に考え出したものとはいい難いものである。 (2)被請求人は、「Rakuten」のウェブサイト(2023年7月3日付け)、「楽天市場店での売上個数及び売上実績を示す」とされる資料(2022年11月01日〜同年11月30日、2023年2月01日〜同年2月28日)等(乙1〜7)を提出し、本件商標を商品「自撮り棒」に使用しており、コロナ禍の影響で売上個数は少ないものの、売上実績がある旨主張している。 しかしながら、これらは、商標法第3条第1項柱書違反を理由に含む、本件商標に対する異議申立て(申立日:令和2年(2020年)3月19日、異議決定日:同年9月9日)及び無効審判(請求日:令和3年(2021年)11月5日、審決日:同4年(2022年)6月21日)後の、2022年11月から2023年2月にかけての単発的なAmazonジャパンへの出品や、売上げを示すものにすぎず、しかも、上記3(3)のとおり、平成29年9月25日から令和3年5月11日までの間に大量に出願された商標の1つであって、極めて不自然である。 そうすると、被請求人の主張する使用実績は、異議申立てや無効審判の請求に対応するための名目的なものというべきで、上記の認定及び判断を覆すことはできない。 (3)被請求人は、本件商標権者は、2020年11月11日付けEメール(乙9)において、本件商標について「具体的な使用の予定があり、既に準備を進めているため、譲渡の意思はない」旨を回答しているから、「他者からの譲渡対価等の所得のみを目的として商標登録した」ものではなく、本件商標は公序良俗に反しない旨主張している。 しかしながら、上記3の事実認定によれば、本件は、本件商標権者が、先願主義に名を借りて、商標権が本来持つべき出所識別機能とは関係なく、剽窃的な商標出願を大量にした上、金銭的利益を得ることを業とするという事案であって、単なる特定の当事者間の私的な問題に止まるものではなく、公正な取引秩序そのものに関わる重大な違反があると認められることは上記5のとおりであり、当該Eメールに本件商標と共に記載されていた「zhiyun商標」について、上記と同様の理由で商標法第4条第7号に違反するとして、その登録を無効にするとの審決が裁判所の判決で支持されたこと(令和5年1月19日知的財産高等裁判所、令和5年(行ケ)第10073号)もあわせて考慮すれば、上記Eメールの記載をもって、上記5の判断を覆すことはできない。 (4)したがって、被請求人の上記主張はいずれも採用することができない。 7 まとめ 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書及び同法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
審理終結日 | 2024-01-05 |
結審通知日 | 2024-01-11 |
審決日 | 2024-02-06 |
出願番号 | 2019119178 |
審決分類 |
T
1
11・
18-
Z
(W09)
|
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
山田 啓之 |
特許庁審判官 |
鈴木 雅也 渡邉 あおい |
登録日 | 2019-12-27 |
登録番号 | 6211728 |
商標の称呼 | アイステディ |
代理人 | 岡村 太一 |
代理人 | 中澤 昭彦 |