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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W2841 |
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管理番号 | 1408152 |
総通号数 | 27 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2024-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-03-13 |
確定日 | 2024-02-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6657706号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6657706号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6657706号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、令和4年6月14日に登録出願、第28類及び第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務(別掲2)を指定商品及び指定役務(以下、第28類の指定商品を「本件指定商品」といい、第41類の指定役務を「本件指定役務」という。)として、同年11月10日に登録査定され、同年12月28日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 商標登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由に該当するとして、引用する登録商標は、以下の1及び2のとおりであり、いずれの商標権も、現に有効に存続しているものである。 1 登録第5318286号商標(以下「引用商標1」という。)は、「PLAY-DOH」の文字を標準文字で表してなり、平成21年11月4日に登録出願、第16類、第25類及び第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品(別掲3)を指定商品として、同22年4月23日に設定登録されたものである。 2 登録第5976228号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲4のとおりの構成よりなり、平成29年3月27日に登録出願、第28類「ゲーム用具及びおもちゃ」を指定商品として、同年9月1日に設定登録されたものである。 なお、引用商標1及び引用商標2をまとめていう場合は、以下「引用商標」という。 第3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第61号証(枝番号を含む。)を提出した。 以下、証拠の表記に当たっては、「甲第1号証」を「甲1」のように省略して記載し、枝番号の全てを表示する場合は、枝番号を省略する。 1 商標「Play-Doh」の世界的な周知・著名性について (1)申立人は、1923年に創業し、米国ロードアイランド州に所在し玩具やゲームを製造・販売する企業であり、2020年には、米国のフォーチュン誌による企業ランキング「フォーチュン500」にもランクインしている、世界的な大企業である(甲4~甲6)。 (2)申立人は、種々の玩具を製造・販売しており、その主力商品の一つである「Play-Doh」(プレイ・ドー)(以下「申立人商品」という。)は、小麦粉・水・塩を主成分とする粘土状の造形用の複合材料(一般に「小麦ねんど」、「小麦粉粘土」と呼ばれるものであり、本件では「小麦ねんど」という。)であり、申立人商品は、1956年に米国において販売が開始され、60年以上も継続的に販売されている商品であり(甲7、甲8)、現在は50色以上のねんどを展開し、また、アイスクリームやケーキをねんどで作ることができるキッチンセットや、歯医者さんごっこなどで遊ぶことができる「職業」シリーズのセットなど、様々な玩具セットも販売し、申立人商品は、時代を超え、世界的に人気の高い商品である(甲8~甲10)。 申立人商品の販売国は世界80か国以上にわたり、引用商標と同様の商標は、米国や欧州・南米・アジア・オセアニアなどにおける各国で商標登録がなされている(甲11~甲13)。 (3)申立人商品の販売量は、1956年以来30億缶を超えるとされ、2016年2月13日付けフォーチュン誌の記事でも紹介されている(甲11、甲14)。 販売高に関しては、申立人の2022年の全体の収益は約58.6億米ドル(約7,800億円)、申立人商品が分類されるフランチャイズブランド部門の収益が約28.3億米ドルであり(約3,790億円)(甲15)、このうち申立人商品の売上げは約3.87億米ドル(約518億円)にも上る(甲16)。 2021年の全体の収益は約64.2億米ドル(約8,600億円)、フランチャイズブランド部門の収益が約29.5億米ドルであり(約3,950億円)(甲15)、このうち申立人商品の売上げは3.68億米ドル(約493億円)にも上る(甲16)。 (4)申立人は、申立人商品に関する各種の宣伝広告・イベントの開催を世界的に行っており(甲17~甲23)、申立人の事業全体の宣伝広告費は年間3億米ドル(約400億円)を下らず、そのうち申立人商品の宣伝広告費は年間3,000万米ドル(約40億円)を下らない(甲15、甲16)。 (5)申立人は、SNSサイト等で継続的に申立人商品による作品を掲載するなどの宣伝広告を行っており(甲21~甲23)、2015年にはデジタル広告の分野で活躍した広告を表彰するOMMA賞の最終候補や、ソーシャルメディアコンテンツにおける傑出した作品を表彰する「Shorty Awards」の最終候補に選出された(甲24、甲25)。 また、申立人商品の販売60周年の記念イベントでは、948缶分の小麦ねんどを使用した作品を作り上げた(甲26)。 動画共有・配信サイト「YouTube」上でも、申立人商品を用いた数々の動画作品を配信しており、その再生回数は300万回を超える作品も少なくなく、中には1,000万回を上回る動画もある(甲27)。 申立人商品の著名性・名声は、申立人商品が、1998年にニューヨーク州のストロング国立遊びの博物館の「おもちゃの殿堂」に入ったこと(甲28)、2011年に米TIME誌による「史上最高のおもちゃ100選」に選出されたこと(甲29)、玩具小売協会の、2020年のトイ・オブ・ザ・イヤーを受賞したこと(甲30)、調査会社NPDによる、玩具業界における業績の表彰において、申立人商品はアート&クラフト部門における年間のトップセールスアワードを継続的に受賞していること(甲31~甲33)、2019年のニューヨークのトイ・フェアにおいて、米国のトップセールスアワードを受賞したこと(甲34)、申立人が子供用の小麦ねんどに使用する商標「Play-Doh」の周知・著名性が、各国の裁判所等においても認定されていること(甲35~甲37)等の事実からも明らかである。 2 我が国における引用商標の周知・著名性について (1)我が国においては、申立人商品は1970年代より販売が開始され、現在は、申立人が大手ECサイトや小売店を通じて、申立人商品や、キッチンセットなどの玩具セットを広く販売しており、「Play-Doh」の欧文字に加え、「プレイ・ドー」の片仮名の商標も広く使用され、常に「プレイドー」と称呼されている(甲10、甲39~甲41)。 「Play-Doh(プレイ・ドー)」は我が国においても古くより販売されている商品であり、2018年の販売開始より40周年を迎え、これにちなみ「日本デビュー当時の大ヒット商品「ゆかいなとこやさん」」の復刻販売がなされた(甲41)。 なお、昭和のおもちゃを紹介するウェブサイトにも、「ゆかいなとこやさんは、こんな感じで様々な楽しみ方ができ、何度も繰り返し遊べることから、昭和の大ヒットおもちゃとなりました。」の記載がある(甲42、甲43)。 販売開始当時より、小麦ねんどの商標として「Play-Doh」や「プレイ・ドー」が使用され、1988年にはおもちゃ等を指定して、「Play-Doh」の商標登録がなされ、当該商標の独占権を継続的に維持している(甲44)。 (2)我が国における、2018年から2020年の申立人商品の販売額は、約40万米ドルないし80万米ドルにも上り(甲16)、さらに、我が国における一般的な英和辞典である「ジーニアス英和辞典 第5版」や「グランドセンチュリー英和辞典 第4版」のいずれにも、「Play-Doh」が子供用の合成粘土を指す商標として掲載され、その称呼は「プレイドー」と明記されており(甲45、甲46)、このような辞書への掲載は、我が国において、子供用ねんどの商品名として親しまれていることの証である。 (3)申立人商品は、長い歴史を有し、かつ、小麦・水・塩を主成分とする安全・信頼性の高い商品として、インターネット上の紹介サイトや記事が多数存在する(甲47~甲52)。 我が国における宣伝広告について、申立人は、2013年ないし2017年頃には、CSテレビ放送においてテレビCMを放送し、そのCM放送において引用商標が使用された。 また、現在は、動画共有・配信サイト「YouTube」において広告用動画を配信しており、そのCMの種類別に再生回数が298万回、74万回、56万回、24万回を記録し(甲54)、需要者等が申立人商品を紹介する動画も多数配信され数百万回から1,000万回を超える再生回数を記録している(甲55)。 (4)このように、申立人商品は、世界的に著名な商品であり、また、我が国においても人気の高い商品であるから、申立人の子供用のねんどの商品ブランド「Play-Doh」が、玩具や娯楽の分野における我が国の需要者の間で広く認知されている。 3 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標は、円の中に「PLAY DOUGH STORY」の欧文字、生地のようなものとそれをこねる2つの手からなる図形、及び半円の円弧からなる図形を配した態様からなるものである。 本件商標の文字部分は、「PLAY DOUGH STORY」の欧文字であるところ、その構成中の「STORY」の欧文字と他の語を組み合わせた語は、例えば「LOVE STORY(恋愛小説)」、「HORROR STORY(ホラー小説)」のように、「STORY」が話や物語、小説を意味し、当該語の前に位置する語が物語等の内容を表すのであるから、本件商標は、「PLAY DOUGH」の欧文字と「STORY」の欧文字とを組み合わせた語であると容易に理解・認識できるものである。 本件商標の構成中の欧文字の「PLAY DOUGH」は、英語圏であれば、粘土に似た柔らかい物質であり、子供が造形に使用するもの程の意味合いを有する語として認識される場合もあるのかもしれないが、我が国においては、一般的な英和辞書に「PLAY DOUGH」の項目はなく(甲45、甲46)、また、当該語が我が国において一般的に使用されているといった実情もない。 よって、本件商標の構成中の欧文字の「PLAY DOUGH」は、一般的な用語である「STORY」に比べ、識別力が強いことは明らかであり、「Play-Doh」の欧文字は、申立人商品を表示するものとして需要者の間で広く知られており、また、我が国においては「プレイ・ドー」の商標も広く使用され、申立人の小麦ねんど商品は、常に「プレイドー」と称呼される。 本件商標の構成中の欧文字の、「PLAY DOUGH」は、申立人の周知・著名商標「Play-Doh」とは中間の「UG」の文字の有無の差異を除く、全ての文字構成が一致しており、外観が極めて近似し、また、語尾の「GH」は、「HIGH」、「SIGH」、「THROUGH」のように発音されない音であるから、本件商標の構成中の欧文字の「PLAY DOUGH」は、申立人の周知・著名商標と同一の「プレイ・ドー」の称呼が生ずる。 さらに、本件商標を構成する図形が粘士をこねるような図形であるから、本件商標からは、その構成中「PLAY DOUGH」の欧文字から、申立人の子供用のねんど商品「プレイ・ドー」が想起されるといえる。 そうすると、本件商標の構成においては、申立人の著名商標「PLAY-DOH」と近似した構成態様からなる「PLAY DOUGH」の欧文字が看者の注意を強くひき、それ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を有するものということができ、本件商標は、その欧文字より「プレイドーストーリー」の称呼が生ずるほか、「PLAY DOUGH」の文字より「プレイドー」の称呼が生ずるといえる。 そして、本件商標は、「PLAY DOUGH」の欧文字より、申立人の子供用のねんど商品「Play-Doh(プレイ・ドー)」を想起させ、「PLAY DOUGH STORY」の欧文字全体より「申立人のプレイ・ドー商品に関する物語」ほどの観念が生じ、さらに、図形からは、「生地と生地をこねる手」ほどの観念が生ずるといえる。 (2)引用商標は、その構成文字に相応して「プレイドー」の称呼が生ずる。 そして、引用商標1は申立人の著名な商品名であり、また、引用商標2は申立人商品のパッケージに常に使用されるロゴ商標であり、共に周知著名な商標であることから、引用商標からは「申立人の子供用ねんど「Play-Doh」」ほどの観念が生ずる。 (3)本件商標と引用商標の対比について 外観についてみると、本件商標の構成中、独立して自他商品の識別標識としての機能を有する「PLAY DOUGH」の欧文字は、引用商標の構成中、「PLAY DO」(Play Do)の文字から始まる文字と、語尾が「H」(h)で終わる点において共通し、差異は後半の「UG」の文字の有無のみであるから、外観上極めて近似した印象を与えるものである。 よって、本件商標と引用商標は、外観上相紛れるおそれのある類似の商標である。 次に、称呼について比較すると、本件商標は、「PLAY DOUGH」の欧文字が看者の注意を強くひき、また、「PLAY DOUGH STORY」の欧文字の構成全体より生ずる「プレイドーストーリー」は10音からなり冗長なものであるから、簡易迅速を尊ぶ取引においては、前半の「プレイドー」のみが称呼されるとみるのが相当である。 他方、引用商標からはその文字構成より「プレイドー」の称呼が生ずる。 そうすると、本件商標と引用商標は、「プレイドー」の称呼を共通にし、称呼上も相紛れるおそれのある類似の商標である。 さらに、本件商標は、申立人の周知著名商標と外観が極めて近似し、称呼が同一である「PLAY DOUGH」の欧文字を構成に有することから、申立人の取り扱いに係る周知著名な申立人商品を想起するものである。 よって、本件商標は、申立人商品を想起する引用商標と、観念においても類似する。 (4)本件指定商品と引用商標に係る指定商品の対比について 本件指定商品である第28類「セットおもちゃ,おもちゃ,人形,さいころ,すごろく,遊戯用器具,ゲーム用具」と引用商標1の指定商品「おもちゃ,人形,さいころ,すごろく,遊戯用器具」及び引用商標2の指定商品「ゲーム用具及びおもちゃ」とは、同一又は類似する。 本件指定商品中、第28類「ペット用おもちゃ,運動用具」は、引用商標1の指定商品「愛玩動物用おもちゃ,運動用具」と同一又は類似する。 (5)本件商標と引用商標の類否判断について 本件商標と引用商標は、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似するものであり、本件商標の構成中の「PLAY DOUGH STORY」の欧文字は、「PLAY DOUGH」の欧文字が一般的な英和辞典に掲載がなく、一般的な用語である「STORY」の欧文字よりも識別力が強いといえ、さらに、「Play-Doh」(プレイ・ドー)は世界的に高い名声・評価・信用を獲得している子供用のねんどのブランド名であり、我が国の需要者の間でも広く知られている。 してみれば、本件商標は、その構成中、申立人の子供用ねんどの商品ブランドと同一の称呼が生ずる「PLAY DOUGH」の欧文字が、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる。 よって、本件商標は、その構成中の「PLAY DOUGH」の欧文字より「プレイドー」の称呼を生じ、また、申立人の著名な子供用ねんど商品を想起するから、同一の称呼及び観念を生ずる引用商標と相紛れるおそれのある類似の商標であることは明らかであり、そのほかに、本件商標と引用商標との間で出所の混同が生ずるおそれがないとすべき特段の取引実情も認められない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 4 商標法第4条第1項第15号について 仮に、本件商標の構成中の「PLAY DOUGH」の欧文字が単独で自他商品識別標識として機能しないと仮定した場合でも、本件商標は、申立人商品と混同を生じさせるおそれがある商標であり、商標登録を受けることができないものである。 申立人は世界的な玩具メーカーであり、商標「Play-Doh」は申立人(及びその前身会社)により、米国では60年以上、我が国において40年以上も前から子供用ねんどに使用されている商標である。 我が国では1988年より商標登録がなされ、一般的な複数の辞書に商標として掲載されているほど、一般に親しまれているものである(甲44~甲46)。 そして、各種ECサイトや小売店で引用商標を使用した子供用のねんどが販売されており、また、子供用のねんどを紹介するウェブサイト・記事には、申立人商品が掲載されている。 申立人商品は非常にカラフルなねんどで様々な造形が可能であり、また、キッチンセットや職業シリーズのセットなど、エンターテイメント性の高い玩具セットも販売されていることから、「Play-Doh」を用いた動画は極めて高い再生回数を誇っており、その人気が高いものである。 よって、本件商標が登録出願時点及び登録査定がなされた時点においても、引用商標が周知・著名であったと考えるのが相当である。 また、「Play-Doh」は米国では1956年より小麦ねんどに使用されてきたユニークな造語であり、我が国における辞書にも商標として掲載されており、現時点でも独創性を有することに変わりはない。 さらに、本件商標と引用商標とは互いに類似する。 加えて、商品及び役務の関連性については、申立人は、世界的玩具メーカーであり、本件指定商品である第28類「セットおもちゃ,おもちゃ,人形,さいころ,すごろく,遊戯用器具,ゲーム用具,ペット用おもちゃ,運動用具」とは取引者、需要者が共通し、本件指定役務である第41類「おもちゃの貸与」とは需要者が共通し、また、申立人の商品は幼児教育にも使用され、指先を使う知育おもちゃとしても使用されるものであるから、本件指定役務中、教育に関する役務である第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,幼児教育,セミナーの企画・運営又は開催,文化又は教育のための展示会の企画・運営,教育に関する研究」とは取引者又は需要者が共通する。 そして、申立人は、本件商標を使用した小麦ねんどにより制作した作品に関する動画を多数配信しており、その人気も極めて高いことからすれば、本件指定役務中、「インターネットを利用して行う映像の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」との関係においても、関連性が高く、この他の娯楽等に関する「興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),レクリエーション施設の提供,電子出版物の提供,書籍の制作」とも関連する。 また、申立人は、様々なキャラクター・おもちゃ・ゲームなどを取り扱っており、多角的な経営を行っている(甲4、甲5、甲56)。 以上を考慮すると、本件商標の権利者(以下「本件商標権者」という。)による「プレイドー」の称呼を生ずる欧文字を含む本件商標の使用により、申立人商品が真っ先に想起される可能性が高いことは明らかである。 また、本件商標の構成中の「PLAY DOUGH STORY」の欧文字は、その構成より申立人の周知・著名商標と同一の称呼を生ずる「PLAY DOUGH」の欧文字と「STORY」の欧文字を組み合わせたものと容易に理解・認識されるものであり、さらに、申立人は様々なキャラクターの商品を取り扱っており(甲56)、それらの多くは絵本、コミック、映像などのストーリー性のある商品・役務としても提供されているのであるから、かかる点に鑑みても、本件商標が本件指定商品及び本件指定役務について使用された場合、本件商標の需要者・取引者は、当該商品・役務が、申立人と経済的あるいは資本的に何らかの関係がある者によって提供されているかのごとく認識することは明らかである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 5 商標法第4条第1項第19号について 商標「Play-Doh」が、子供用の小麦ねんどに長年にわたり使用されてきた世界的に著名な商標であり、本件商標権者は、本件商標の構成中の「PLAY DOUGH STORY」の欧文字が使用されているウェブサイト及びSNSサイトによると、「小麦粉・食用油・塩」などを使用して自ら作成した子供向けの粘土状の商品の販売がなされ、さらに、「海外生まれの感覚、感触あそびを発信しています」との記載があり、小麦の粘土にも海外の遊びにも精通しているとみられることからすれば、「Play-Doh」が申立人の著名な子供用の小麦ねんどであり、我が国では片仮名で「プレイ・ドー」と表記され、「プレイドー」と称呼されていることを知らないはずがない(甲57~甲60)。 また、本件商標の構成中の「PLAY DOUGH STORY」の欧文字が使用されているInstagramでは、「粘土」に関する多数の投稿があり、「それでもバカ売れ 日本一値段が高い粘土はこちら」などのフレーズを用いて積極的な宣伝広告がなされ(甲61)、ウェブサイトなどでは、本件商標の構成中「PLAY DOUGH STORY」の欧文字のみではなく、「プレイドー」の文字が頻繁に用いられており(甲57、甲59、甲60)、かかる欧文字は、申立人の著名商標と全く同一の称呼を生ずるものであるから、実際には、申立人の著名商標により一層に似せた態様の商標も併せて使用しているといえる。 そうすると、本件商標は、引用商標と偶然にその要部が一致したとは考え難く、引用商標の名声・顧客吸引力を知りながら、その顧客吸引力を利用し、不当に利益を上げることを目的として登録出願され、使用されている商標であることが容易に推認できる。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 第4 当審の判断 1 引用商標の周知著名性について (1)申立人の主張及び同人の提出した証拠によれば、以下のとおりである。 ア 申立人は、1923年に創業し、米国ロードアイランド州に所在し玩具やゲームを製造・販売する企業であり、2020年には、米国のフォーチュン誌による企業ランキング「フォーチュン500」にもランクインしている旨主張している(甲4~甲6)が、その詳細は明らかでない。 イ 申立人商品は、1956年に米国において販売が開始され、60年以上継続的に販売され(甲7、甲8)、申立人商品の販売国は、世界80か国以上にわたり、引用商標と構成を同じくする商標は、米国や欧州・南米・アジア・オセアニアなどにおける各国で商標登録がなされている(甲11~甲13)。 ウ 申立人は、申立人商品の販売量は1956年以来30億缶を超え、販売高に関しては、申立人の2022年の全体の収益は約58.6億米ドル(約7,800億円)、申立人商品が分類されるフランチャイズブランド部門の収益が約28.3億米ドルであり(約3,790億円)(甲15)、このうち申立人商品の売上げは約3.87億米ドル(約518億円)である(甲16)旨、2021年の全体の収益は約64.2億米ドル(約8,600億円)、フランチャイズブランド部門の収益が約29.5億米ドルであり(約3,950億円)(甲15)、このうち「Play-Doh」商品の売上げは3.68億米ドル(約493億円)である(甲16)旨主張するが、この主張を裏付ける具体的な証拠の提出はない。 エ 申立人は、申立人事業全体の宣伝広告費は年間3億米ドル(約400億円)を下らず、そのうち申立人商品の宣伝広告費は、年間3,000万米ドル(約40億円)である(甲15、甲16)旨主張するが、この主張を裏付ける具体的な証拠の提出はない。 オ 申立人は、動画共有・配信サイト「YouTube」上でも、申立人商品を用いた動画作品を配信しており(甲27)、また、申立人商品は、インターネット上の紹介サイトや記事等で多数紹介されている(甲47~甲52)。 カ 申立人商品は、1970年代より販売が開始され、現在は、大手ECサイトや小売店を通じて販売されており(甲10、甲38~甲41)、1988年にはおもちゃ等を指定し、「Play-Doh」の商標登録がなされている(甲44)。 キ 申立人は、我が国における、2018年から2020年の「Play-Doh」の販売額は約40万米ドル~80万米ドルである(甲16)旨主張するが、この主張を裏付ける具体的な証拠の提出はない。 ク 「ジーニアス英和辞典 第5版」や「グランドセンチュリー英和辞典 第4版」に、「Play-Doh」が子供用の合成粘土を指す商標として掲載されており、その称呼は「プレイドー」と記され、当該辞典において、「Play-Doh」の項に、「(米商標)プレイドー(子供用の合成粘土)」、「プレイドー(米国の児童用粘土;商標)」の記載があることは確認できる(甲45、甲46)が、当該記載からは、「Play-Doh(プレイドー)」が申立人に係る商標であるのかは確認することができない。 (2)判断 上記(1)によれば、申立人は、1923年に創業し、米国ロードアイランド州に所在し玩具やゲームを製造・販売する企業であり、申立人商品は、1956年に米国において販売が開始され、申立人商品の販売国は世界80か国以上にわたり、現在も継続的に販売されていること、申立人は、動画共有・配信サイト「YouTube」上でも、申立人商品を用いた動画作品を配信しており、また、申立人商品は、インターネット上の紹介サイトや記事等で多数紹介されていること、申立人商品は1970年代より販売が開始され、現在は、大手ECサイトや小売店を通じて販売されており、1988年にはおもちゃ等を指定し、「Play-Doh」の商標登録がなされていることは分かる。 しかしながら、申立人商品の販売量や広告宣伝費の主張を裏付ける具体的な証拠の提出はなく、その商品の市場シェアについても不明であるから、当該販売量や広告宣伝費の多寡を判断することはできない。 また、英和辞典において、「Play-Doh」が子供用の合成粘土を指す商標として掲載されているとしても、「Play-Doh(プレイドー)」が申立人に係る商標であるのかは確認することができない。 そして、申立人商品は、子供用の小麦ねんどという極めて限定的な商品であり、かかる商品の需要者の間においては、広く知られていると判断し得る場合があるとしても、本件指定商品は「おもちゃ」全般や「運動用具」に該当する商品であり、本件指定役務は教育やエンターテイメントに関する役務であって、広く一般的な需要者が購入又は供与される商品及び役務である。 そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国における本件指定商品及び本件指定役務の需要者の間で、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、広く認識されていたと認めることはできない。 2 本件商標と引用商標との類否について (1)本件商標 本件商標は、黒色の円輪郭(以下「輪郭図形」という。)内に、輪郭図形の輪郭線内側の上半分に沿うように「PLAY DOUGH STORY」の着色された欧文字(以下「本件文字部分」という。)、並びに、輪郭図形の内側中央から下部にかけて、何らかの塊を表したとおぼしき輪郭線に、両腕の肘から手先を描いた図形及びその下に上半分の着色された円弧状図形(以下、輪郭図形内に配置されたこれらの図形をまとめて「内側図形」という。)を配した構成よりなるところ、いずれも重なることなく間隔を空けて配置されているから、視覚上、分離して看取、把握され得るものである。 そして、本件商標は、その構成中の輪郭図形及び内側図形が、我が国において特定の事物又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情が認められないため、特定の称呼及び観念は生じないものであり、また、本件文字部分と輪郭図形及び内側図形とは、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないものであるから、それぞれが独立して自他商品の出所識別標識として機能し得るものである。 そうすると、本件商標は、これに接する取引者、需要者が、輪郭図形内に顕著に表された「PLAY DOUGH STORY」の欧文字に着目し、当該部分をもって取引に資する場合も決して少なくないとみるのが相当であり、引用商標との類否を判断するに当たって、本件文字部分を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。 そして、当該「PLAY DOUGH STORY」の文字は、「PLAY」、「DOUGH」及び「STORY」の語の間に1文字分の空白を有するが、同書、同大、等間隔でまとまりよく一体的に表されているものであり、いずれかの文字部分が看者の注意を引くような構成とはいえない。 また、当該「PLAY DOUGH STORY」の構成文字全体から生じる「プレイドーストーリー」の称呼は、やや冗長であるとしても無理なく一連に称呼し得るものである。 さらに、当該文字は、一般的な辞書等に載録されておらず、特定の意味合いをもって親しまれているような事情も見いだせない。 したがって、本件商標は、その構成中「PLAY DOUGH STORY」の欧文字に相応して「プレイドーストーリー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 (2)引用商標 ア 引用商標1は、「PLAY-DOH」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して、「プレイドー」の称呼を生じるものであり、当該文字は、特定の意味合いをもって親しまれているような事情も見いだせないものである。 したがって、引用商標1は、「プレイドー」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。 イ 引用商標2は、別掲4のとおり、細い二重線で縁取りされた、濃淡のある薄い灰色の雲形の図形(以下「雲図形」という。)を描き、雲図形内に、細線で縁取りされた白抜き文字で大きく「Play-Doh」の欧文字を横書きしてなるところ、引用商標2の構成中の雲図形は、我が国において特定の事物又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないものであり、「Play-Doh」の欧文字を強調するための背景図形として理解されるものであるから、これよりは、特定の称呼及び観念は生じないものである。 そして、引用商標2の構成中、「Play-Doh」の欧文字は、雲図形内に、顕著に表されているため、看者の注意を引く部分であり、当該文字が、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。 そうすると、引用商標2は、これに接する取引者、需要者が、引用商標2の構成中の「Play-Doh」の欧文字に着目し、当該部分をもって取引に資する場合も決して少なくないとみるのが相当であり、これを引用商標2の要部として抽出し、この部分のみを本件商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。 したがって、引用商標2は、その構成中の「Play-Doh」の欧文字に相応し、「プレイドー」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。 (3)本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標とは、外観において、図形の相違(有無)、構成文字の書体及び着色の相違、構成文字及び構成文字数において明らかな差異があるから、両商標は、外観上、明確に判別し得るものである。 また、本件商標の構成中、本件文字部分より生じる「プレイドーストーリー」の称呼と引用商標から生じる「プレイドー」の称呼は、「ストーリー」の音の有無の差異において顕著な差異を有するものであるから、両者は、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。 そして、本件商標及び引用商標は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、両者の観念は、比較することができない。 そうすると、本件商標と引用商標は、観念において比較できないとしても、その外観、称呼において相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標である。 その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。 (4)まとめ したがって、本件商標と引用商標は、本件指定商品と引用商標の指定商品が同一又は類似であるとしても、両商標は非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。 3 商標法第4条第1項第11号該当性について 本件指定商品と引用商標の指定商品が同一又は類似であるとしても、上記2のとおり、本件商標と引用商標は、非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第15号該当性について (1)引用商標の周知性について 上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人又は申立人商品を表示するものとして、我が国の需要者の間で広く認識されていたものと認めることはできない。 (2)本件商標と引用商標の類似性とその程度について 上記2のとおり、本件商標と引用商標は、互いに紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標といえるものであるから、類似性の程度は高いとはいえない。 (3)出所の混同のおそれについて 上記1のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国における本件指定商品及び本件指定役務の需要者の間で、広く認識されていたものと認めることはできないものであり、上記2のとおり、本件商標と引用商標は、互いに紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標といえるものであるから、類似性の程度は高いとはいえないことからすると、本件商標は、本件商標権者がこれを本件指定商品及び本件指定役務について使用しても、取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起することはなく、その商品及び役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれはないとするのが相当である。 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。 (4)まとめ したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第19号該当性について 上記1のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国における本件指定商品及び本件指定役務の需要者の間で、広く認識されていたものと認めることはできないものであり、上記2のとおり、本件商標と引用商標は、互いに紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標といえるものであることからすると、本件商標は、申立人が主張する「引用商標と偶然にその要部が一致したとは考え難く、引用商標の名声・顧客吸引力を知りながら、その顧客吸引力を利用し、不当に利益を上げることを目的として登録出願され、使用されている商標である」に該当するものではなく、本件商標権者による本件商標の採択は、引用商標に化体した信用や名声等にただ乗りし、またはその信用や名声等を希釈化させることによって申立人に損害を与えるものである等の不正の目的によるものであると判断することはできず、他に本件商標権者の不正の事実を認めるに足りる証拠の提出はない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 6 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標。色彩は原本参照。) 別掲2(本件指定商品及び本件指定役務) 第28類「セットおもちゃ,おもちゃ,人形,さいころ,すごろく,遊戯用器具,ゲーム用具,ペット用おもちゃ,運動用具」 第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,幼児教育,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,書籍の制作,インターネットを利用して行う映像の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),おもちゃの貸与,運動用具の貸与,文化又は教育のための展示会の企画・運営,レクリエーション施設の提供,教育に関する研究」 別掲3(引用商標1の指定商品) 第16類「紙類,文房具類,印刷物」 第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,帽子,防暑用ヘルメット,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」 第28類「遊園地用機械器具(「業務用テレビゲーム機」を除く。),愛玩動物用おもちゃ,おもちゃ,人形,囲碁用具,歌がるた,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,トレーディングカードゲーム,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具」 別掲4(引用商標2) (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
異議決定日 | 2024-02-15 |
出願番号 | 2022068061 |
審決分類 |
T
1
651・
261-
Y
(W2841)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
豊田 純一 |
特許庁審判官 |
小田 昌子 杉本 克治 |
登録日 | 2022-12-28 |
登録番号 | 6657706 |
権利者 | 尾本 沙菜江 中山 正一郎 |
商標の称呼 | プレードーストーリー、プレードー、ドーストーリー |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 弁理士法人エルア商標意匠事務所 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 弁理士法人エルア商標意匠事務所 |