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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W06
管理番号 1406852 
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2022-12-22 
確定日 2024-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第6547892号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第6547892号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6547892号商標(以下「本件商標」という。)は、「PIONEER MATERIALS」の欧文字を標準文字により表してなり、令和2年12月24日に登録出願、第6類「金属製スパッタリングターゲット材,鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を指定商品として、同4年3月14日に登録査定、同年4月22日に設定登録されたものである。
なお、本件商標の登録無効審判請求の後、指定商品については、令和5年4月12日受付の本権一部抹消登録申請により、上記指定商品中の第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」に係る商標権が放棄により抹消されたものである。

第2 請求人が引用する商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する登録商標は、次のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである(以下、引用商標1ないし引用商標21をまとめて「引用商標」という場合がある。)。
1 登録第4048895号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲1のとおり
登録出願日:平成7年7月20日
設定登録日:平成9年8月29日
指定商品 :第1類「非鉄金属」を含む第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
2 登録第4113435号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲1のとおり
登録出願日:平成7年11月2日
設定登録日:平成10年2月13日
指定商品 :第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を含む第6類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
3 登録第4126689号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲1のとおり
登録出願日:平成8年7月19日
設定登録日:平成10年3月20日
指定商品 :第14類「貴金属」を含む第14類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
4 登録第4176971号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:別掲1のとおり
登録出願日:平成8年12月9日
設定登録日:平成10年8月14日
指定商品 :第2類「塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉」を含む第2類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
5 登録第4444085号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成11年11月18日
設定登録日:平成13年1月5日
指定商品 :第1類「非鉄金属」を含む第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
6 登録第4444086号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成11年11月18日
設定登録日:平成13年1月5日
指定商品 :第2類「塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉」を含む第2類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
7 登録第4475238号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成11年11月18日
設定登録日:平成13年5月18日
指定商品 :第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を含む第6類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
8 登録第4494405号商標(以下「引用商標8」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成11年12月1日
設定登録日:平成13年7月27日
指定商品 :第14類「貴金属」を含む第14類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
9 登録第5084599号商標(以下「引用商標9」という。)
商標の構成:「PIONEER」(標準文字)
登録出願日:平成18年9月8日
設定登録日:平成19年10月19日
指定商品 :第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を含む第6類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
10 登録第5751636号商標(以下「引用商標10」という。)
商標の構成:「パイオニア」(標準文字)
登録出願日:平成26年9月25日
設定登録日:平成27年3月20日
指定商品 :第2類「塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉」を含む第1類ないし第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
11 登録第5961267号商標(以下「引用商標11」という。)
商標の構成:「Pioneer」(標準文字)
登録出願日:平成28年5月27日
設定登録日:平成29年7月7日
指定商品 :第14類「貴金属」を含む第14類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
12 登録第5968106号商標(以下「引用商標12」という。)
商標の構成:「Pioneer」(標準文字)
登録出願日:平成28年4月26日
設定登録日:平成29年7月28日
指定商品 :第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を含む第6類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
13 登録第5970989号商標(以下「引用商標13」という。)
商標の構成:「Pioneer」(標準文字)
登録出願日:平成28年4月22日
設定登録日:平成29年8月10日
指定商品 :第2類「塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉」を含む第2類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
14 登録第5989634号商標(以下「引用商標14」という。)
商標の構成:「Pioneer」(標準文字)
登録出願日:平成28年4月22日
設定登録日:平成29年10月20日
指定商品 :第1類「非鉄金属」を含む第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
15 登録第6004656号商標(以下「引用商標15」という。)
商標の構成:「パイオニア」(標準文字)
登録出願日:平成28年2月4日
設定登録日:平成29年12月15日
指定商品 :第14類「貴金属」を含む第6類、第11類、第14類、第16類、第17類、第19類ないし第22類、第24類、第26類、第27類及び第31類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
16 登録第6090552号商標(以下「引用商標16」という。)
商標の構成:「パイオニア」(標準文字)
登録出願日:平成29年12月28日
設定登録日:平成30年10月19日
指定商品 :第1類「非鉄金属」を含む第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
17 登録第6270373号商標(以下「引用商標17」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成31年1月29日
設定登録日:令和2年7月16日
指定商品 :第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を含む第6類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
18 登録第6325788号商標(以下「引用商標18」という。)
商標の構成:「pioneer」(標準文字)
登録出願日:令和2年3月19日
設定登録日:令和2年12月7日
指定商品 :第14類「貴金属」を含む第14類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
19 登録第6350599号商標(以下「引用商標19」という。)
商標の構成:「pioneer」(標準文字)
登録出願日:令和2年7月14日
設定登録日:令和3年2月9日
指定商品 :第2類「塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉」を含む第2類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
20 登録第6376156号商標(以下「引用商標20」という。)
商標の構成:「pioneer」(標準文字)
登録出願日:令和2年7月14日
設定登録日:令和3年4月12日
指定商品 :第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を含む第6類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
21 登録第6376158号商標(以下「引用商標21」という。)
商標の構成:「pioneer」(標準文字)
登録出願日:令和2年7月14日
設定登録日:令和3年4月12日
指定商品 :第1類「非鉄金属」を含む第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第120号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同項第11号及び同項第15号に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。
2 具体的な理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標の構成について
本件商標は「PIONEER MATERIALS」の標準文字からなるものであり、「PIONEER」と「MATERIALS」との間には一文字分の空白がある。
「PIONEER」は、「開拓者、先駆者」といった意味を有する(甲2)。
「MATERIALS」は「物質、物、材料」を意味する英語の複数形である(甲3)。
本件商標全体として、その単数形「PIONEER MATERIAL」を想定しても、たとえば「新規物質を開拓する者」というような、まとまった意味合いを持つ熟語とはいえず、本件商標「PIONEER MATERIALS」についても特定の意味を有するものとはいえない(甲4)。
イ 商標「Pioneer」の著名性について
「電気通信機械器具」等につき、文字「Pioneer」からなる商標は、本件商標の出願時及び査定時において著名である。
(ア)パイオニアとパイオニアブランドの歴史(甲5、甲6)
パイオニアブランドは、創業者、松本望が1937年ダイナミックスピーカーA−8の開発に成功し、福音商会電機製作所を東京に設立、創業した後に創案したもので、1948年に「PIONEER」の文字からなる商標の商標権(登録第314052号の2)を譲り受けた(甲7)。なお、「FUKUIN.PIONEER」の文字を含むロゴマーク商標(登録第367150号)の商標登録を受けたのは1946年である(甲8)。
1961年には商号を福音電機株式会社からパイオニア株式会社に変更し、1962年に世界初のセパレートステレオを発売、その後も1975年に世界初のコンポーネントカーステレオ、1979年に世界初の業務用レーザーディスク(LD)プレーヤー、1984年に世界初のカーCDプレーヤー、1990年に世界初のGPSカーナビゲーションシステムを発売する等、創業以来、パイオニアのDNAである、「世界初」「業界初」の製品やサービス、新しい感動を数多くの需要者へ提供してきた。
2014年9月に新たな事業方針を発表し、その後はカーエレクトロニクス事業に経営資源を集中することとした。
なお、ロゴマークの変遷は甲第9号証のとおりである。
(イ)「Pioneer」という語に関する認識
「Pioneer」は、「開拓者、先駆者」といった意味合いを有する平易な英語であるが、これを片仮名にした「パイオニア」については、百科事典に「電気機器メーカー」という記載がある(甲10)。また、「日本の企業がわかる事典2014−2015(講談社)」にも「パイオニア」が取り上げられている。よって、「Pioneer」という語に触れたときに、「開拓者、先駆者」といった意味合いを離れ、「電気通信機械器具」等に関するブランド名としての「パイオニア」の観念も生ずるものということができる。
最近の知財高裁の判決でも、「チロリアン」の文字を横書きに書してなる商標について、「チロルの人々。オーストリア西部からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独特の民族服」、「チロル地方の。チロル風の」の観念以外に、「特定の菓子のブランド名としての「チロリアン」の観念が生じる」としたものがある(知財高裁令和3年(行ケ)第10108号 令和4年7月14日判決(甲11)。同10109号、10110号も同旨)。
著名商標については、このように元来の意味合いだけでなく、ブランド名としての観念も生じ得るのである。
(ウ)ブランドランキング・ブランドシェア等
株式会社日経リサーチ「企業ブランド総合ランキング」(2019〜2021)によれば、「パイオニア」ブランドの総合評価は、国内でそれぞれ133位(2019年)、152位(2020年)、135位(2021年)である(甲12)。
また、カーエレクトロニクス市場における売上高(2021年度)では、有力な同業者と考えられるデンソーテン(3,484億円)に続く2,698億円であり、アルプスアルパイン(2,343億円)、JVCケンウッド(1,642億円)を上回る(甲13)。
さらに、2021年度における上記ブランドランキングでは、パイオニアは135位であるが、同業者と考えられるJVCケンウッド(165位)、デンソーテン(353位。ただし「デンソー」のランキング)、アルプスアルパイン(376位)より上位である(甲12)。これらによっても、「電気通信機械器具」について「Pioneer」の文字からなる商標が、著名商標であるといえる。
(エ)新聞等記事・インターネット情報
本件商標の出願日である2020年12月24日以前から、登録査定が起案された2022年3月14日までについて、「パイオニア」「Pioneer」は、「電気通信機械器具」の一つである「カーオーディオ機器」「カーナビゲーション装置」「ドライブレコーダー」「ルーター」等について、業界紙・一般紙でも「Pioneer」の文字を表示した商品が数多く露出し、それらの商品は好評を博し(甲16、甲17、甲19、甲30、甲36〜甲38、甲47、甲49、甲51、甲55、甲58、甲63、甲68)、ウェブ等の各種ランキングで上位を占める(甲15、甲21、甲23、甲24、甲31〜甲34、甲41、甲42、甲48、甲52〜甲54、甲57、甲60、甲66、甲67)だけでなく、自動車のオーディオ機器として多くのメーカーで採用され(甲18、甲25〜甲27、甲29、甲35、甲39、甲40、甲43、甲46、甲50)、会社としても、自動運転・安全運転や長時間労働の削減等について、企業や公共機関に共同研究等にも呼ばれ(甲14、甲44、甲62、甲64、甲65)、見本市等でのアピールも積極的に行う(甲20、甲22、甲28、甲46)等によって、一般消費者はもとより、事業者・公共機関等の幅広い取引者、需要者に知られている。本件商標の登録査定直前である令和4年2月に発表された新商品である「パイオニア NP1」は、モニターがなく、音声で案内するというカーナビゲーションやドライブレコーダーの機能を持つ全く新しいオールインワン車載器として需要者に注目され、カー用品店の売上金額一位になる(甲67)など、極めて高い評価を受けている(甲61、甲63、甲66〜甲68)。さらに、「パイオニア NP1」は2022年3月販売開始後も消費者から高い評価を受け、継続して広告宣伝も行っている。
よって、「パイオニア」は本件商標の出願時以前より信用が蓄積されたブランドであり、本件商標の出願時点から登録査定に至るまでの間も著名な商標であるから、「パイオニア」及びその商品に表示されている「Pioneer」の文字からなる商標は著名商標であるということができる(甲14〜甲68)。
(オ)防護標章
ローマ字「PIONEER」の文字からなる商標登録第915211号について最初の防護標章登録が1983年(甲69)、片仮名「パイオニア」の文字からなる商標登録第648393号についても1994年に防護標章登録を受け(甲70)、その後ローマ字の「Pioneer」からなる商標登録第4482310号についても2003年に防護標章登録を受け、著名商標としての地位をゆるぎないものとしている。なお、商標登録第4482310号の防護標章登録第2号については、2014年10月2日に更新登録査定がされ、著名性が維持されている旨の判断を得ている(甲71)。
特許情報プラットフォームの「日本国周知・著名商標検索」にも、これらの登録防護標章について掲載されている(甲72)。
よって、ローマ字「PIONEER」、片仮名「パイオニア」、ローマ字「Pioneer」の文字からなる商標は、特許庁においても著名商標であるということが認められており、需要者の間に広く認識されていることは明らかである。
(カ)日本有名商標集
AIPPI・JAPAN(一般社団法人日本国際知的財産保護協会)発行の「日本有名商標集(FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN)」の1998、2004に「PIONEER」及び「Pioneer」の文字からなる商標が掲載されている(甲73、甲74)。
よって、ローマ字「PIONEER」及び「Pioneer」の文字からなる商標が客観的な資料をもって日本において著名な商標であるということは明らかである。
ウ 「MATERIALS」の識別力について
「MATERIALS」は「物質,物,材料」を意味する英語(甲3)の複数形であり、指定商品との関係から、識別力がないか、極めて弱い部分であるといえるが、そのことは過去の審決(不服2006−15392、不服2009−17555、不服2009−8679)からも明らかである。
エ いわゆる結合商標の分離親察について(最高裁判所の判断等)
いわゆる結合商標分離観察について、最高裁判所は以下のように判断している。
「一個の商標から二つ以上の称呼、観念が生ずる場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。」最高裁昭和37年(オ)第953号 昭和38年12月5日判決参照)(甲75)
「商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものである。」(最高裁平成3年(行ツ)第103号 平成5年9月10日判決参照)(甲76)
これらを本件についてみるに、本件商標が指定商品に使用された場合には、著名商標と同一又は類似する「PIONEER」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与える。そして、「MATERIALS」の部分は、指定商品と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字であり、さらに具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情も認められないから、出所の識別標識としての称呼、観念は生じない。よって、本件商標からは「PIONEER」の部分としての称呼、観念が生じるというべきである。
つまり、本件商標については「PIONEER」が支配的な部分ということができ、「MATERIALS」と分離観察することが許される。
オ 商品の類似
本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは類似する。
引用商標(甲77)の指定商品中には、本件商標の指定商品と類似する「非鉄金属(1類)」、「塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉(2類)」、「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金(6類)」又は「貴金属(14類)」のいずれかが含まれている。
カ 本件商標の商標法第4条第1項第11号に関する判断について
上記エのとおり、本件商標については、「PIONEER」と「MATERIALS」とに分離観察することが許される。そして、「PIONEER」部分に着目すれば、本件商標は、以下の欧文字「PIONEER」又は「Pioneer」の文字からなる登録商標(引用商標1〜9、同11〜14、同17〜21)とは、外観において構成文字を同じくするから類似し、称呼「パイオニア」が共通し、観念についても「開拓者、先駆者」以外に広く知られた「パイオニアブランド」としても認識されるというべきである。また、片仮名「パイオニア」の文字からなる登録商標(引用商標10、同15、同16)とは、同様に称呼、観念について同一又は類似するものである。
また、上記オのとおり、本件商標と引用商標とは、指定商品が類似するものである。
よって、本件商標の指定商品の取引者、需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合して、全体的に考察すれば、本件商標は引用商標と相紛れるおそれのある類似の商標といわなければならない。
以上により、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであり、その登録を無効とすべきものである。
キ 出願人の意見書について
出願人(本件商標の商標権者)は、令和3年12月16日に拒絶理由通知に対する意見書を提出し、商標「○○」と「○○MATERIAL(マテリアル)」とを非類似とした審査例を取り上げているが、「○○」部分が周知・著名商標、その他支配的であるといえるような事情がある事例については検討されていないので、本件商標とは事案を異にするものである。
(2)商標法第4条第1項第8号について
上記(1)イのとおり、「Pioneer」は著名商標であり、請求人の英文社名「PIONEER CORPORATION」の著名な略称に該当する。本件商標は、請求人の名称の著名な略称「PIONEER」を含む商標であるが、請求人の承諾を得ていない。
以上により、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものであり、その登録を無効とすべきものである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 商標法第4条第1項第15号の判断基準について
商標法第4条第1項第15号について、最高裁判所は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は、当該商標をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ、すなわち、いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性その他取引の実状などに照らし、右指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。」旨判示している(最高裁平成10年(行ヒ)第85号 平成12年7月11日判決参照)(甲78)。
イ 商標「Pioneer」の著名性について
上記(1)イのとおり、商標「Pioneer」は「電気通信機械器具」等について著名である。
ウ 「MATERIAL」又は「MATERIALS」について
上記(1)ウのとおり、「MATERIAL」又は「MATERIALS」は識別力が強いとは到底いえない上に、「○○」を商号の一部として有する企業の関係会社として「○○マテリアル」又は「○○マテリアルズ」と称するものが多数ある(甲79〜甲104)。
例えば、昭和電工株式会社について昭和電工マテリアルズ株式会社(甲79)、DIC株式会社についてDICマテリアル株式会社(甲87)、エア・ウォーター株式会社についてエア・ウォーターマテリアル株式会社(甲88)、東芝株式会社について東芝マテリアル株式会社(甲91)等様々な事例がある。
エ 商品の類似性
上記(1)オのとおり、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と類似する。
また、電気通信機械器具等を取り扱う企業において、本件商標の指定商品である「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を取り扱う企業(グループ会社を含む。)が少なからず存在する(甲105〜甲113)。
そして、本件商標の指定商品、特に「金属製スパッタリングターゲット材」を用いてスパッタリングにより成膜された半導体部品、例えばマイクロコンピュータは、「電気通信機械器具」を制御するためには欠かせないものであることから、本件商標の指定商品と「パイオニア」が取り扱うカーエレクトロニクス製品とは密接な関係にある(甲114〜甲116)。
オ 請求人の国内グループ会社
請求人の国内グループ会社として、商号の一部に「パイオニア」を含むものが存在する(甲117、甲118)。その中で、例えば、「パイオニアファインテック株式会社」は「精密機械部品の製造並びに販売」や「プラスチック金型の設計、製造、加工、修理、販売」を事業内容とする(甲119)。このように「パイオニア」が取り扱うカーエレクトロニクス製品の部品や部材の加工をグループ会社が担っているという事実もある。よって、「PIONEER MATERIALS」に需要者が接した場合には、それが著名な「パイオニア株式会社」及びそのブランド「PIONEER」に関連するものであると認識するといわざるを得ない。なお、商号の一部に「パイオニア」を含む国内グループ会社の代表例として、「パイオニアコミュニケーションズ株式会社」、「パイオニア精密株式会社」、「パイオニアビデオ株式会社」、「パイオニアプラズマディスプレイ株式会社」、「パイオニアLDC株式会社」等がある。
カ 本件商標の商標法第4条第1項第15号に関する判断
本件商標は、「電気通信機械器具」等につき著名な商標「Pioneer」と類似する「PIONEER」、及び識別力の弱い「MATERIALS」からなる。企業名について、「マテリアル」又は「マテリアルズ」を付加したグループ企業(子会社等)が多数存在する。また、本件商標の指定商品は引用商標の指定商品と類似し、更には電気通信機械器具等を取り扱う企業について兼業性もある。また、本件商標の指定商品は電気通信機械器具の原材料や部品の製造に用いられる部材に該当する。
よって、本件商標を商標権者が使用すれば、上記オと同様、請求人と少なくともいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがある。
以上により、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであり、その登録を無効とすべきものである。
キ 商標の独創性について
「Pioneer」は、平易な英語であるから独創性の高い語とはいえないが、上記(1)イのとおり著名商標として強い顧客吸引力を有するものであるから、指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、本件商標が混同を生ずるおそれがある商標というべきであることは、最高裁判所の判決(平成12年(行ヒ)第172号 成13年7月6日判決)(甲120)からも明らかである。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標の登録について、商標法第4条第1項第8号、同項第11号及び同項第15号の無効理由がある。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証を提出した。
1 本件商標の指定商品について
被請求人は、本件商標の指定商品中、第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」について一部抹消登録申請手続を行った(乙1)。これにより、本件商標の指定商品は、第6類「金属製スパッタリングターゲット材」のみとなった。
2 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用商標との類否について
請求人は、本件商標と引用商標とが類似し、かつ、指定商品も類似するため、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当すると主張する。
しかしながら、本件商標と引用商標とは、本件商標の審査において判断されたとおり非類似である。
請求人は、本件商標の構成中「MATERIALS」の部分の識別力が弱く、「PIONEER」の部分が強く支配的な印象を与えると主張する。しかしながら、「PIONEER」の単語は、「開拓者、先駆者」ほどの意味を有する、一般的な需要者に馴染みのある平易な英単語である(甲2)。そして「開拓者」とは「新しい領域を切り開いていく者」ほどの意味を有し(乙2)、発展的なイメージが想起されるため、「PIONEER」及び「パイオニア」は商標として採択されやすい単語であるといえる。現に、文字要素が「PIONEER」又は「パイオニア」のみからなる商標が、請求人以外の第三者によって多数登録されている(乙3)。さらに「PIONEER」又は「パイオニア」の単語を含む商標の登録及び出願は、請求人の所有する登録及び出願を除いても、多数存在する(乙4)。
また、技術的な製品の研究、開発、製造を伴う商品の分野では、「PIONEER」又は「パイオニア」の単語は、「・・・のパイオニア」のように一般的に使用されている状況が散見され、ありふれた単語であるといえる(乙5〜乙9)。
これらの事実を考慮すると、技術を伴う製品の分野において「PIONEER」という既存の英単語の自他商品識別力は強いとはいえず、仮に「MATERIALS」の識別力が多少弱いとしても、「PIONEER」と「MATERIALS」の識別力の差はさほど大きくない。標準文字「PIONEER MATERIALS」を同書同大で横一連に書して構成される本件商標においては、需要者に対して「PIONEER」又は「MATERIALS」のいずれかの部分のみが強く支配的な印象を与えることはなく、「PIONEER MATERIALS」は常に一連一体として看取される。
そうすると、本件商標と引用商標とは明らかに非類似であり、本件商標の審査に誤りはない。
(2)「PIONEER」の著名性について
請求人は、被請求人が令和3年12月16日付けにて提出した意見書において挙げた、商標「○○」と「○○MATERIAL(マテリアル)」を非類似とした審査例について、「『○○』部分が周知・著名商標、その他支配的であるといえるような事情がある事例については検討されていないので、本件商標とは事案を異にする」と述べている。つまり、請求人は、本件商標中「PIONEER」部分が請求人の著名商標であるため支配的であり、本件商標と引用商標とが類似すると主張する。
その根拠として、請求人は、「パイオニア」について百科事典に「電気機器メーカー」と記載されていると主張するが、これは片仮名の「パイオニア」であり(甲10)、英文字の「PIONEER」ではない。このことをもって英文字の「PIONEER」が、請求人の著名商標であるとはいえない。
また、仮に請求人が主張するとおり「Pioneer」が「電気通信機械器具」について一定程度知られているとしても、「電気通信機械器具」は第9類に属する商品であり、本件商標の指定商品とは事業分野が全く異なる。請求人は、主にオーディオ機器を製造する「電機機器メーカー」であり、その事業の範囲外である本件商標の指定商品「金属製スパッタリングターゲット材」についてまで、英文字の「PIONEER」が請求人の商標として広く知られているということはできない。
請求人は、防護標章登録を所有している旨主張するが、防護標章登録が認められた登録第915211号の商標は特徴的なロゴの態様であり(甲69)、登録第648393号の商標は片仮名の「パイオニア」である(甲70)。商標登録第4482310号の登録商標も、丸みを帯びた特徴的なロゴの態様である(甲71)。つまり、需要者の間に広く認識されている商標は、これらのロゴ又は片仮名の「パイオニア」であり、平易なフォントからなる英文字の「PIONEER」ではない。
さらに、本件商標の指定商品と同じ類似群コード(06A01及び06A02)の指定商品を含む防護標章登録は、商標登録第4482310号の第2号のみである。当該防護標章登録の権利範囲は、同一の商標に限られ、類似商標には及ばない。よって、平易なフォントからなる「PIONEER」の単語が、請求人の商標として、類似群コード06A01及び06A02の商品について周知性が認められたとはいえない。
そうすると、上記(1)で述べたとおり、本件商標の指定商品の属する分野において、「PIONEER」の単語は、一般的に使用される既成の英単語にすぎない。商標として比較的採択されやすい単語であるため、本件商標中「PIONEER」の部分のみが強く支配的な印象を与えるとはいえず、本件商標は「PIONEER MATERIALS」で一連一体であり、引用商標とは明らかに非類似である。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではなく、請求人の主張は失当である。
3 商標法第4条第1項第8号について
片仮名の「パイオニア」が、請求人の商標として需要者に一定程度知られていて、請求人の名称「パイオニア株式会社」の略称として使用されているとしても、平易なフォントからなる「PIONEER」の英単語が、請求人の英文名称である「Pioneer Corporation」の著名な略称であると直ちにいうことはできない。また、そのことを示す証左もない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するものではなく、請求人の主張は失当である。
4 商標法第4条第1項第15号について
本件商標と引用商標との「出所混同のおそれ」について以下に考察する。
(1)商標の類似性について
上記2(1)で述べたとおり、本件商標「PIONEER MATERIALS」は一体として看取されるべきであり、本件商標と引用商標との類似性の程度は低い。
(2)引用商標の周知著名性及び独創性
上記2(2)で述べたとおり、平易なフォントからなる英単語の「PIONEER」は、請求人の商標として周知著名であるとはいえない。また、「PIONEER」は辞書に掲載されている一般的な英単語であり、独創性は低い。
(3)商品の関連性について
請求人は、電気通信機械器具を取り扱う企業において、「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を取り扱う企業が少なからず存在すると主張する(甲15〜甲113)。しかしながら、請求人の提示する証拠は、第9類の商品と第6類の商品を取り扱う企業又はその関連会社が存在することを示すだけであり、具体的な商品「電気通信機械器具」と「金属製スパッタリングターゲット材」が同一企業において取り扱われることが、業界において一般的であることを示すものではない。
また、請求人は、本件商標の指定商品「金属製スパッタリングターゲット材」は、半導体、液晶、HDD、記録メディア等の様々な用途に使用される(甲114〜甲116)ところ、「金属製スパッタリングターゲッ卜材」を使用した半導体部品が、請求人の「電気通信機械器具」に使用されるため、第6類「金属製スパッタリングターゲット材」と第9類「電気通信機械器具」とが密接な関係にあると主張する。
しかしながら、「電気通信機械器具」と「金属製スパッタリングターゲット材」とは、完成品と部品の関係にはなく、「電気通信機械器具」は、半導体部品が使用される広い用途のうちの1つにすぎず、さらに、半導体部品は、「金属製スパッタリングターゲット材」が使用される様々な用途のうちの1つにすぎない。このような状況において、「金属製スパッタリングターゲット材」と「電気通信機械器具」とが密接な関係にあるとの結論は、飛躍的な論理であるといわざるを得ない。これが認められるとすると、「金属製スパッタリングターゲット材」を使用した半導体、液晶、HDD、記録メディア等を組み込んだ全ての製品が「金属製スパッタリングターゲット材」と密接な関係を有することとなり、合理性を欠く。
むしろ、「金属製スパッタリングターゲット材」は、これを扱う企業の多くが独自の紹介ページを設け、また、個別の要望に対応した受託製造を行っていることから見れば(乙10〜乙12)、専門性の高い特殊な商品である。「金属製スパッタリングターゲット材」が使用される様々な用途のうちの1つにすぎない半導体部品、さらにその半導体部品の広い用途の1つにすぎない「電気通信機械器具」とは、全く異なる商品であることは明らかであり、商品の関連性の程度は低い。
(4)請求人の国内グループ会社について
請求人は、請求人の国内グループ会社として、商号の一部に「パイオニア」を含む企業が存在すると主張する。
しかしながら、請求人が列挙するグループ会社は、いずれも片仮名の「パイオニア」を含むものであり、英文字の「PIONEER」ではない。本件商標「PIONEER MATERIALS」に接する需要者が、直ちに請求人と何らかの関連性があると認識するとはいえない。
以上の事実を考慮すると、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が、請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その商品の出所について混同を生ずるおそれがないことは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではなく、請求人の主張は失当である。
(5)むすび
以上に述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第8号、同項第15号のいずれにも該当するものではなく、請求人の主張は失当である。

第5 当審の判断
1 利害関係
請求人が本件審判を請求することの利害関係の有無については当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
2 引用商標の周知性について
(1)請求人提出の証拠及び同人の主張によれば、次の事実が認められる。
ア 請求人(パイオニア株式会社)は、請求人の会社情報や「ブリタニカ国際大百科事典小項目事典」及び「日本の企業が分かる事典2014−2015」の辞書情報によれば、昭和13年(1938年)創業の日本の企業であり、音響・映像機器、カーオーディオ製品やカーナビゲーションシステムを主力とする「電気機器製造業」を営む者であって、「PIONEER」(引用商標及び「pioneer」、「Pioneer」の文字も含む。)の文字からなる商標(以下「使用商標」という場合がある。)は、請求人のコーポレートマークとして創業当時から使用されてきた(甲5、甲9、甲10)。
イ 使用商標は、昭和37年(1962年)に販売された請求人の業務に係るステレオについて表示され(甲6)、1975年にコンポーネントカーステレオを発売して以降、請求人の業務に係るカーオーディオ機器、カーナビゲーション装置、ドライブレコーダー、車載ルーター等(以下「請求人商品」という。)に表示され、これらの商品や請求人のコーポレートマークとしての使用商標が、本件商標の登録出願時である令和2年12月24日までに新聞記事及び第三者によるインターネット情報において多数紹介されてきた(甲6、甲15、甲29、甲31、甲33、甲34、甲36、甲37、甲39、甲41、甲42、甲44、甲47、甲49、甲54、甲55、甲58、甲60、甲61)。
ウ 請求人は、引用商標5ないし引用商標8及び引用商標17(別掲2)と同一の文字構成からなる登録第4482310号に係る商標権を所有しているところ、当該商標権の指定商品中には第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」等を含み、また、当該商標権に係る防護標章登録第2号として、第6類「鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」を含む商品及び役務について防護標章登録されており、現在も有効に存続している(甲71)。
エ 株式会社日経リサーチによる「ブランド戦略サーベイ 2021総合評価ランキング」(各業種の代表企業600社(ブランド)を対象に2021年6月から7月にインターネットで調査したもの。)によれば、請求人のブランド総合評価のランキングは、135位である(甲12)。
(2)判断
上記(1)によれば、請求人は、使用商標を、創業当時から請求人のコーポレートマークとして、また、1975年以降請求人商品について使用していること、本件商標の登録出願時までに継続して我が国において新聞やインターネット記事等で多数紹介されていることなどが認められ、加えて、引用商標5ないし引用商標8及び引用商標17と同一の文字構成からなり、請求人商品がその範ちゅうに属するものと認められる第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」等を指定商品中に含む登録第4482310号商標を原登録商標とする防護標章登録が存在していることなどをあわせ考慮すれば、使用商標は、本件商標が登録出願される以前から、請求人商品を表示する商標として、我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたものであって、その周知性は本件商標の登録査定時においても継続していたと認めることができる。
3 本件商標の商標法第4条第1項第11号の該当性について
(1)本件商標の分離観察の可否について
ア いくつかの文字等を組み合わせた結合商標と解されるものは、その一部が需要者に対して、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである場合やそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、当該一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否判断をすることも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日判決、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日判決、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日判決参照)。
イ これを本件についてみるに、本件商標「PIONEER MATERIALS」は、「PIONEER」と「MATERIALS」の文字を1文字分のスペースを介して組み合わせ、標準文字で表した結合商標であるところ、「PIONEER」と「MATERIALS」との間に1文字分のスペースがあるから、外観上、一連の語であるとは認められないものである。
また、本件商標の構成中の「MATERIALS」の文字部分は、「物質、物、材料、原料、(物の)構成要素、成分、素材」の意味を有する親しまれた英語「MATERIAL(マテリアル)」(甲3)の複数形であるところ、本件商標の指定商品「金属製スパッタリングターゲット材,鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」は、半導体、液晶、HDD、記録メディア等の材料として幅広く使用される金属製スパッタリングターゲット材を含め、一般に、各種製品の材料や原料(マテリアル)となる商品であると認められる(甲114〜甲116)。
そうすると、本件商標の構成中の「MATERIALS」の文字部分は、本件商標の指定商品の品質、用途を表したものとして、出所識別表示としての機能がないか又は極めて弱いということができる。
一方、「PIONEER」(パイオニア)の語からは、まず、その語義である「開拓者、先駆者」の意味が想起されるものと認められ(甲2)、そのことは、本件商標の指定商品の取引者及び需要者においても同様と認められるところ、「開拓者、先駆者」と、本件商標の指定商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状等との関連を想定できないから、本件商標の構成中の「PIONEER」の文字部分は、本来的に、強い印象を取引者、需要者に与えるものといえる。そして、上記2のとおり、「PIONEER」、「pioneer」又は「Pioneer」の文字からなる使用商標は、請求人商品を表示する商標としてその関連分野における取引者及び需要者の間で周知であり、上記のとおり、本件商標の指定商品は、一般に、各種製品の材料や原料(マテリアル)となる商品であって、請求人商品の商品分野の各種製品の材料や原料としても用いられる可能性があるといえることも考慮すれば、使用商標と欧文字のつづりが同一である本件商標の構成中の「PIONEER」の文字部分は、本件商標の指定商品との関係で、出所識別標識として、取引者、需要者の間で強い訴求力を持つものといえる。
したがって、本件商標においては、「PIONEER」の文字部分が、取引者及び需要者に対し、商品の出所識別標識として、強く支配的な印象を与える。
以上からすると、本件商標は、「PIONEER」の文字部分を要部として抽出し、他人の商標と比較して商標そのものの類否判断をすることが許されるというべきである。
(2)類否判断
本件商標からその要部である「PIONEER」を抽出して引用商標との類否を検討するに、外観においては、本件商標の要部である「PIONEER」と、引用商標1ないし引用商標9、引用商標11ないし引用商標14、引用商標17ないし引用商標21とは、欧文字の書体や大文字と小文字の相違はあるものの、欧文字のつづりが同一であることから、両者は、外観上、近似するものといえる。
また、本件商標の要部である「PIONEER」と、「パイオニア」の文字からなる引用商標10、引用商標15及び引用商標16とは、欧文字と片仮名とで文字種が異なるから、外観上、相違するものである。しかしながら、両者はいずれも特徴のない書体であることに加え、我が国の商取引においては、欧文字からなる商標をその読みに対応した片仮名で代替的に表記したり、又はその逆にしたりすることが、一般に行われていることからすると、両者の外観における差異は、取引者、需要者に対して強い印象を与えるものではなく、記憶に残るものでもない。
次に、称呼においては、本件商標の要部と引用商標は、いずれも「パイオニア」の称呼が生じるものであるから、両者は、称呼上、同一である。
さらに、観念においては、上記2のとおり、使用商標が、請求人商品の分野における取引者及び需要者の間で周知であることから、本件商標の要部である「PIONEER」と引用商標は、いずれも「開拓者、先駆者」の観念に加えて、「カーオーディオ機器、カーナビゲーション装置、ドライブレコーダー、車載ルーター等において展開されている請求人の業務に係るブランド」といった観念も生じるものと認められる。よって、本件商標の要部である「PIONEER」と引用商標は、観念上、同一である。
そうすると、本件商標と引用商標との外観、称呼、観念等によって、取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に考察すれば、たとえ外観において相違する場合があるとしても、その差異は、取引者及び需要者に対して強い印象を与えるものではなく、記憶に残るものでもないことを踏まえれば、外観上、近似する場合があり、称呼及び観念を同一にする両者は、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似する商標と判断するのが相当である。
そして、本件商標の指定商品「金属製スパッタリングターゲット材,鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」は、引用商標の各指定商品中、上記第2に明記した商品に含まれるものであるか、あるいは、同一又は類似するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
4 本件商標の商標法第4条第1項第15号の該当性について
(1)本件商標と使用商標との類似性の程度について
上記3のとおり、本件商標と引用商標とは類似する商標と判断するのが相当であるから、同様に、本件商標と使用商標とは類似するものというべきである。
したがって、本件商標と使用商標との類似性の程度は高いといえる。
(2)使用商標の周知著名性及び独創性の程度について
上記2(2)のとおり、使用商標は、カーオーディオ機器、カーナビゲーション装置、ドライブレコーダー、車載ルーター等の請求人商品を表示するものとして取引者及び需要者の間に広く認識されているものである。
したがって、使用商標の周知著名性の程度は高いといえる。
使用商標を構成する「PIONEER」、「pioneer」又は「Pioneer」の文字(語)は、「開拓者、先駆者」の意味を有する英語であるから(甲2)、独創性の程度は高いものとはいえない。
(3)本件商標の指定商品と請求人商品との関連性の程度並びに取引者及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品は、上記第1のとおり、第6類「金属製スパッタリングターゲット材,鉄及び鋼,非鉄金属及びその合金」であり、上記3(1)イのとおり、これらはいずれも、一般に、各種製品の材料や原料(マテリアル)となる商品であって、請求人商品の商品分野の各種製品の材料や原料としても用いられる可能性があるといえる。
そうすると、本件商標の指定商品と請求人商品とは、上記の点においては関連性があるといえるが、取引者及び需要者を共通にする場合があるとはいえない。
(4)混同を生ずるおそれについて
上記(1)ないし(3)によれば、使用商標の独創性は高いとはいえず、取引者及び需要者を共通にするとはいえないものの、本件商標と使用商標との類似性の程度及び使用商標の周知著名性は高いことから、本件商標は、これをその指定商品に使用をされた場合、これに接する取引者及び需要者が、使用商標を想起、連想し、当該商品が請求人又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生じるおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
5 本件商標の商標法第4条第1項第8号の該当性について
上記2のとおり、使用商標は、請求人商品の分野における取引者及び需要者の間で周知であることしても、請求人の提出に係る証拠からは、当該文字が、請求人の名称である「パイオニア株式会社」の著名な略称であることを認めることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するとはいえない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しないものの、同項第11号に該当し、仮に同号に該当しないとしても、同項第15号に該当する。
そうすると、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号又は同項第15号の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
別掲

別掲1 引用商標1ないし引用商標4


別掲2 引用商標5ないし引用商標8及び引用商標17


(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。

審判長 小松 里美
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
審理終結日 2023-07-26 
結審通知日 2023-08-01 
審決日 2023-08-21 
出願番号 2020159561 
審決分類 T 1 11・ 261- Z (W06)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 小松 里美
特許庁審判官 渡邉 あおい
山田 啓之
登録日 2022-04-22 
登録番号 6547892 
商標の称呼 パイオニアマテリアルズ、パイオニア、マテリアルズ 
代理人 弁理士法人深見特許事務所 
代理人 弁理士法人酒井国際特許事務所 

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