• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) W30
管理番号 1406775 
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-09-15 
確定日 2024-01-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第5916658号商標の商標登録無効審判事件についてされた令和3年7月27日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和3年(行ケ)第10108号、令和4年7月14日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 登録第5916658号の指定商品中、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」についての登録を無効とする。 その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5916658号商標(以下「本件商標」という。)は、「チロリアンホルン」の片仮名を横書きしてなり、平成28年7月21日に登録出願、第30類「茶,コーヒー,ココア,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,調味料,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」を指定商品として、同29年1月10日に登録査定され、同月27日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標は、以下のとおりであり、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
1 登録第614146号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成 別掲1のとおり
登録出願日 昭和37年4月17日
設定登録日 昭和38年5月23日
書換登録日 平成15年9月24日
指定商品 第30類「菓子,パン」
2 登録第768600号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成 別掲2のとおり
登録出願日 昭和41年4月30日
設定登録日 昭和43年1月26日
書換登録日 平成20年7月23日
指定商品 第30類「菓子,パン」
3 登録第4358641号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成 別掲3のとおり
登録出願日 平成10年6月22日
設定登録日 平成12年2月4日
指定商品 第30類「菓子及びパン」
4 登録第5969132号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成 別掲4のとおり(音商標)
登録出願日 平成28年12月26日
設定登録日 平成29年8月4日
指定商品 第30類「菓子,パン」
5 登録第5998540号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成 チロリアン(標準文字)
登録出願日 平成29年4月24日
設定登録日 平成29年11月24日
指定役務 第35類「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び第43類「飲食物の提供」
以下、これらをまとめていうときは「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第93号証(枝番号を含む。なお、甲第35号証ないし甲第38号証、甲第73号証ないし甲第75号証及び甲第89号証は欠番。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号、同項第7号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきものである。
2 具体的理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標は、「チロリアンホルン」をゴシック体で横一行に表してなるものである(甲1)。
イ 引用商標について
(ア)引用商標1について
引用商標1は、「チロリアン」を毛筆風で表してなるものである(甲2)。
(イ)引用商標2について
引用商標2は、やや崩した字体のアルファベット文字で「TIRO」と「LIAN」を上下2段に表してなるものである(甲3)。
(ウ)引用商標3について
引用商標3は、ややモノグラム化した字体のアルファベット文字で「Tirolian」を横一行に表してなるものである(甲4)。
(エ)引用商標4について
引用商標4は、音商標であり、コーラスにある「チロリアン」の音声からなるものである(甲5)。
(オ)引用商標5について
引用商標5は、「チロリアン」を標準文字で表してなるものである(甲6)。
ウ 引用商標の著名性について
(ア)請求人について
請求人は、請求人代表者の祖先であるFにより1630年(寛永7年)に創業された「松月堂」を原点とし、1997年(平成9年)に設立をされ、九州・沖縄地方において「千鳥屋」の屋号のもとで38の直営店舗(福岡県に36店舗、佐賀県に1店舗、沖縄県に1店舗)を運営する菓子製造販売を主業務とする法人である(甲7、甲8)。
請求人は、法人「株式会社千鳥饅頭総本舗」であってFの「子孫」ではなく、被請求人は請求人とBを混同している。
(イ)「チロリアン」について
請求人は、1962年(昭和37年)に「チロリアン」を商品化し、全国的に販売を開始した(甲7)。この「チロリアン」は、ヨーロッパで洋菓子の技術を学んだ請求人の元代表取締役社長であるBが、オーストリアの伝統菓子と京都の巻きせんべいをヒントに生み出したものである(甲9)。
請求人は、「チロリアン」の発売当初から現在に至るまで、新聞広告(甲10〜甲14)、店舗内外で配布するチラシ(甲15)、カタログ(甲16)、テレビ・ラジオCM(甲17、甲18)において積極的に「チロリアン(TIROLIAN)」の広告宣伝を行っている。
また、数多くの雑誌、テレビ番組においては請求人が特集として組まれ、その中で開発にまつわるエピソードを始めとして商品「チロリアン」が紹介されている(甲19〜甲25)。
また、インターネット検索サイトGoogle、Yahooにて「チロリアン」を検索した場合、複数のページにわたって請求人の「チロリアン」に関連するサイトがヒットする(甲26)。
そして「チロリアン」は、今では請求人の全体の売上げの約3割を占めるヒット商品となっている(甲22)。
さらに、請求人は、「チロリアン」が縁となって、1986年10月にはオーストリアのチロル州との間で業務提携を締結しており、海外との積極的な交流を進めている(甲22)。
(ウ)小括
以上のように、請求人は、1962年の発売から現在に至るまでの長期にわたり、「チロリアン(TIROLIAN)」標章のブランド価値を高めてきており、引用商標は、本件商標の登録出願日前において、既に請求人の商品を指し示すものとして取引者、需要者間で広く認識された商標になっていたものである。
エ 「チロリアン」標章の宣伝広告について
被請求人は、「チロリアン」のブランド価値を高めたのはAであると主張するが、主張を基礎づける客観的証拠は提出していない。
また、被請求人が提出する乙第2号証は、C(被請求人代表者)が1973年(昭和48年)に「大阪千鳥屋」として開店し、被請求人として法人化した後に作成配布した宣伝広告とのことであるが、乙第2号証には屋号である「大阪千鳥屋」、あるいは「株式会社千鳥屋宗家」の文字は一切表示がされておらず、これら宣伝広告を被請求人が作成配布したものであるかどうか判断することができない。
オ 本件商標と引用商標について
(ア)本件商標について
a 本件商標の外観について
本件商標の外観については前記したとおりである。すなわち、「チロリアンホルン」の文字をゴシック体により横一行に表してなるものである。
b 本件商標の称呼、観念について
(a)「チロリアン」の文字部分について
前記したとおり、「チロリアン」については請求人の商品名を指し示すものとして取引者、需要者の間で広く認識されたものであり、「チロリアン」の文字部分は、本件商標の指定商品との関係において、明らかに取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。
(b)「ホルン」の文字部分について
本件商標の構成中「ホルン」の文字は、「角笛、金管楽器。」(広辞苑)という意味を有する語として一般の辞書に掲載された既成語であること、「ホルン」又は「HORN」の名称は本件商標の指定商品である菓子業界において商品名として一般的に使用されている事実があること(甲27)、本件商標の登録出願日前にも「ホルン」又は「HORN」を含む商標登録が数多く存在すること(甲28〜甲33)等に照らせば、本件商標の「ホルン」の文字部分は、それ自体が自他商品を識別する機能が全くないというわけではないものの、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「チロリアン」の文字部分との対比においては、取引者及び需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。
(c)本件商標から生ずる外観、称呼及び観念について
以上のとおり、本件商標の「チロリアン」と「ホルン」の間には、商品の出所識別標識としての機能の点で明らかに主従、軽重の差がある。
また、本件商標の全体から生じる「チロリアンホルン」の称呼についてはやや冗長であり、中間音の「ン」で一拍おいて発音され、「チロリアン」と「ホルン」に区切って2小節で称呼されるのが一般的である。
したがって、簡易迅速を尊ぶ商取引上においては、本件商標に接する取引者、需要者は「チロリアンホルン」と一体的に捉えた称呼及び観念により取引するというよりは、取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「チロリアン」の文字部分を独立して要部として捉えて取引することが自然である。
そうすると、本件商標が使用された商品に接する取引者、需要者は、本件商標の要部である「チロリアン」の文字部分から生じる称呼及び観念をもって取引に当たる場合も決して少なくないものであり、常に全体として「チロリアンホルン」とのみ一体的に認識し、一連に称呼しなければならない理由はなく、2つ以上の称呼、観念を生じないとする取引の実情も存在しない。
したがって、本件商標全体の外観及び称呼からは「請求人が製造販売する『チロリアン』の『ホルン』という名の商品シリーズの一つ」といった観念が生じ、本件商標の要部である「チロリアン」の文字及び称呼からは請求人が製造販売する「チロリアン」の観念が生じる。
(イ)引用商標について
引用商標1、引用商標5は「チロリアン」の文字、引用商標2及び引用商標3は「TIROLIAN」、「Tirolian」の文字、引用商標4は「チロリアン」の音声からなるものである。
そうすると、引用商標からは「チロリアン」の称呼が生じるとともに、請求人が製造販売する商品「チロリアン」の観念が生じる。
カ 本件商標と引用商標の類似性について
(ア)本件商標と引用商標の対比について
a 外観
本件商標の構成から要部である「チロリアン」を抽出した場合、本件商標と引用商標1、引用商標5はともに「チロリアン」の外観が共通する。
b 称呼
本件商標の構成から要部である「チロリアン」を抽出した場合、本件商標と引用商標はともに「チロリアン」の称呼が共通する。
c 観念
本件商標の構成から要部である「チロリアン」を抽出した場合、本件商標と引用商標は、ともに請求人が製造販売する商品「チロリアン」を想起、連想するため両者は観念が共通する。
(イ)本件商標と引用商標の指定商品、指定役務の対比について
a 引用商標1ないし引用商標4との関係
本件商標の指定商品「菓子,パン」と引用商標1ないし引用商標4は、商品「菓子、パン」で共通し、本件商標の指定商品「サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」についても、引用商標1ないし引用商標4の指定商品と同一の類似群コード(30A01)が付与されたものであるから、互いに類似するものと推定される。
b 引用商標5との関係
引用商標5の指定役務である「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、本件商標の指定商品「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」と同一の類似群コード(30A01)が付与されたものであるから、互いに類似するものと推定される。
(ウ)小括
以上のとおり、本件商標の要部と引用商標1、引用商標5は、外観、称呼及び観念において共通し、本件商標の要部と引用商標2、引用商標3、引用商標4は、称呼が類似するとともに観念において共通する。
また、本件商標の指定商品のうち「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」は、引用商標の指定商品、指定役務と同一又は類似であると推定される。
したがって、本件商標と引用商標は、商標が類似するとともに、指定商品が同一又は類似するため、全体として類似するものである。
キ むすび
以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似するものであり、本件商標の指定商品「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」については引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
前記したとおり、「チロリアン(TIROLIAN)」という名称は、本件商標の登録出願当時において、少なくとも商品「菓子」について、請求人が使用する商標として広く取引者及び需要者において認知されていたものである。
そのため、この名称を使用した菓子及びそれ以外の商品が請求人以外から提供される場合には、請求人が提供する商品と誤認混同するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第7号について
被請求人は、菓子の製造販売を行う企業であり、同業界内の事情につき熟知しているのであるから、本件商標は、請求人が長らく使用し信用を築いてきた「チロリアン(TIROLIAN)」のブランドに便乗し、利益の独占を図るために出願された剽窃的なものであることは疑う余地がなく、これが社会の一般道徳観念や公正な取引秩序を害し、公序良俗に反する商標に該当するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号について
上記(1)ウのとおり、本件商標の登録出願時には、引用商標は、請求人の商品を示すものとして需要者に広く認識されていた商標である。
また、上記(1)カのとおり、本件商標は、引用商標と類似の商標である。
さらに、引用商標が周知・著名な商標であったこと、及び上記(3)のとおり、被請求人は、菓子の製造販売を行う企業であり、同業界内の事情につき熟知しているのであるから、本件商標の登録出願時に、当然に引用商標について知っていたといえる。
そうすると、被請求人が請求人の高い名声、グッドウィルにフリーライドする意思があることは明らかであるから、被請求人が本件商標の登録出願に際して、不正の目的があったことは容易に推認できる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(5)総括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号、同項第7号及び同項第19号に該当するものであり、その登録は、同法第46条第1第1号の規定により無効とされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)引用商標の著名性について
ア 引用商標を各地域において周知にした者
福岡(九州地区)・大阪(関西地区)・東京(関東地区)の各地域において「チロリアン」を販売し、各地域において周知となるように積極的に広告宣伝してきたのは、FのA(1964年(昭和39年)東京千鳥屋開店、後に千鳥屋総本家となる)、B(後に請求人となる)、C(1973年(昭和48年)大阪千鳥屋開店、後に千鳥屋宗家となる)、D(後に千鳥屋本家となる)の4人である(甲22)。
請求人は、1997年(平成9年)に設立された(株)千鳥屋ファクトリー(代表取締役社長B)を2004年(平成16年)に社名変更した会社であり、設立以前には存在しない(甲7)。また、甲第21号証の記載から判断すると、Bは、1960年(昭和35年)に大学を卒業してから1963年(昭和38年)までは、千鳥屋で仕事をしていないことになる。また、Bは1962年(昭和37年)の「チロリアン」発売から7年間は、「チロリアン」の販売等に全く携わっていないことになる。
したがって、1962年(昭和37年)に洋風巻きせんべい「チロリアン」を開発、販売したのは、請求人でないことは明白であり、また、1962年(昭和37年)から1997年(平成9年)に至るまでは、請求人が福岡及びその他の地域(全国的)で販売を行っていない(甲21)。
上述のように1962年(昭和37年)の発売から現在に至るまでの長期にわたり「チロリアン」標章のブランド価値を各地域において高めてきたのは、Fの4人、特にAであり、各地域において「チロリアン」標章は取引者、需要者間で広く認識されるようになったのは、Fの4人の経営努力によるものであり、決して請求人のみでない。
その証拠として提示する乙第2号証は、Cが1973年(昭和48年)大阪千鳥屋として開店し、株式会社千鳥屋宗家(被請求人)として法人化した後に大阪(関西地区)において作成配布した宣伝広告等である。
イ 引用商標1ないし引用商標3の履歴
引用商標1は、1964年(昭和39年)4月2日にA名義で登録され、2010年(平成22年)4月19日にH(Aの孫)に譲渡され、その4年後の2014年(平成26年)3月17日に請求人へ譲渡されている(乙3)。引用商標2及び引用商標3も同様にA名義で登録され(甲3、甲5)、引用商標1と同じ日付(乙4)でHに譲渡され、引用商標1と同じ日付(乙5)で請求人へ譲渡されている。
すなわち、1962年(昭和37年)の「チロリアン」開発、販売から2012年(平成24年)までの50年もの長きにわたって、登録商標「チロリアン」をFの4人所有の登録商標であると信じて使用してきたのは、Aを除くB、C、Dであり、この使用によって取引者、需要者間で広く認識されるようになったものであり、決して請求人のみの使用によるものでない。
(2)本件商標と引用商標について
請求人も、「本件商標の『ホルン』の文字部分は、それ自体が自他商品を識別する機能が全くないというわけではない」と認めている。
したがって、請求人の「商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える『チロリアン』の文字部分との対比においては、取引者及び需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない」との主張は、その根拠がない。
Fの4人の所有する「チロリアン」と他の文字を結合した登録商標は、いずれも「チロリアン」の部分を要部として抽出されることなく登録されている。
したがって、請求人の主張する「本件商標のうち『チロリアン』の部分を要部として抽出する」ことは、許されるものでない。
(3)本件商標と引用商標の類似性について
請求人は、引用商標との類似性について、本件商標のうち「チロリアン」の部分を要部として抽出して論じているので、本件商標「チロリアンホルン」と引用商標の類似性について論じるという前提条件を欠いている。
2 商標法第4条第1項第15号について
上記1(1)アで述べたように1962年(昭和37年)の発売から現在に至るまでの長期にわたり「チロリアン」標章のブランド価値を各地域において高めてきたのは、上述のFの4人であり、被請求人はその中の一人である点、及び上述したように本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しない点を考慮すれば、被請求人が本件商標を使用した菓子を提供した場合であっても、請求人が提供する商品と誤認混同するおそれは全くない。
3 商標法第4条第1項第7号について
上記1(1)アで述べたように1962年(昭和37年)の発売から現在に至るまでの長期にわたり「チロリアン」標章のブランド価値を各地域において高めてきたのは、上述のFの4人であり、被請求人はその中の一人である。したがって、被請求人が利益の独占を図るために出願された剽窃的なものであるとか、社会の一般道徳観念や公正な取引秩序を害し、公序良俗に反する商標に該当するなどということはできない。
4 商標法第4条第1項第19号について
上記1(1)、2及び3のとおりであり、根拠に乏しい。
5 むすび
以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号又は同項第19号に違反して登録されたものではなく、同法第46条第1項には該当しない。

第5 当審の判断
1 審決取消判決の拘束力について
商標登録無効審判事件についての審決の取消訴訟において、審決取消しの判決が確定したときには、審判官は商標法第63条第2項で準用する特許法第181条第2項の規定に従い、当該審判事件について更に審理を行い、審決をしなければならないところ、再度の審理ないし審決には行政事件訴訟法第33条第1項の規定により上記審決取消判決の拘束力が及ぶ。
2 令和3年(行ケ)第10108号判決(以下「1次審決取消判決」という。)の内容について
知的財産高等裁判所は、1次審決取消判決において、以下のとおり判示した。
「1 認定事実
(1)証拠及び弁論の趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 原告及び被告による菓子「チロリアン」の販売経緯等
(ア)千鳥屋は、Fが現在の佐賀県で創業した菓子屋「松月堂」を起源とし、昭和初期から福岡県飯塚市を中心に「千鳥饅頭」等の商品を販売してきた老舗の和菓子屋である。
千鳥屋は、昭和24年に福岡市へ進出し、昭和29年に当時の個人事業主であったG(以下「G」という。)が死亡した後は、Gの妻であるEがその事業を引き継いだ(以下「Eの千鳥屋」という。甲7、61、乙B3(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。))。
GとEは、長男A(昭和11年11月生)、二男B(昭和13年7月生)、三男C(昭和17年6月生)及び五男D(昭和21年11月生)をもうけた。
(イ)Eの千鳥屋は、昭和37年から、菓子「チロリアン」(「チロリアン」という商品名の「クリーム入りロールクッキー」)の販売を開始した。菓子「チロリアン」は、その販売開始後、顧客から好評を博し、Eの千鳥屋において千鳥饅頭と並ぶ看板商品の一つとなった。
その後、Eの千鳥屋は、福岡県を中心に、その店舗及び販売先を拡大し、昭和54年時点における店舗数(委託販売店を含む。)は、100を超えていた(甲7、61、乙B5、6、9、12)。
(ウ)Aは、昭和39年、Eから独立し、東京都内に、個人経営の東京千鳥屋を開店し、菓子「チロリアン」の製造販売を行うようになった後、関東地方においてその店舗及び販売先を拡大した。
また、Cは、昭和48年、兵庫県尼崎市内に、個人経営の「千鳥屋」を開店し、菓子「チロリアン」の製造販売を行うようになった後、関西地方においてその店舗及び販売先を拡大した。その後、Cは、昭和61年11月11日、被告(設立時の商号「株式会社千鳥屋」、平成20年1月15日「株式会社千鳥屋宗家」に商号変更、乙B1の12及び13)を設立し、その代表取締役に就任した。以後、被告の経営する「千鳥屋」の店舗においても、菓子「チロリアン」の製造販売を行うようになった(以下、Cの個人経営の「千鳥屋」及び被告の経営する「千鳥屋」を併せて、「大阪千鳥屋」という場合がある。)。
このように菓子「チロリアン」を含む「千鳥屋」の商品は、福岡県を中心としたEの千鳥屋のほか、東京千鳥屋及び大阪千鳥屋において販売されるようになった(甲61、63、92、乙B4、8ないし11、18、50、51)。
(エ)Eの千鳥屋の製造部門は、昭和61年8月5日に設立された株式会社チロリアン(乙B1の1及び2)が、Eの千鳥屋の販売部門は、平成7年3月16日に設立された千鳥屋販売株式会社(以下「千鳥屋販売」という。乙B1の3及び4)がそれぞれ担うようになった。
その後、菓子「チロリアン」の製造及び販売は、平成9年までに、株式会社チロリアン及び千鳥屋販売の両社で行われるようになった(乙B13、23、29)。
この間の平成7年12月1日、Eは、死亡した。
(オ)Eの死亡後、A、B、C及びDの間で、「千鳥屋」の事業を巡って様々な紛争が発生した(乙B21)。
例えば、平成8年から、AとB及びDとの間で、株式会社チロリアンの経営権等を巡る紛争が発生し、また、Bが平成9年8月1日に福岡市で原告(乙B1の7、26)を設立した後、原告と千鳥屋販売との間で紛争が発生した(乙B22、24、25、27、29)。
その後、Dは、平成18年5月26日、福岡県飯塚市で株式会社千鳥屋本家(以下「千鳥屋本家」という。乙B1の5)を設立し、以後、千鳥屋本家は、福岡県内で、菓子「チロリアン」の製造販売を行うようになった。
(力)Aは、平成22年9月1日、「東京千鳥屋」に係る個人事業を法人化し、東京都で千鳥屋総本家株式会社(乙B1の9)を設立し、以後、同社で、菓子「チロリアン」の製造販売を行うようになった。
その後、千鳥屋総本家株式会社は、経営が悪化したため、平成24年頃から、原告に対し、東京千鳥屋が販売する菓子「チロリアン」の製造を委託し、原告は、その製造を行うようになった。
一方、Aは、別紙2記載のとおり、引用商標1ないし3に係る商標登録を受けていたところ、引用商標1ないし3に係る各商標権は、平成22年4月19日(受付年月日)、Aから孫のHへ移転登録され、平成26年3月17日(受付年月日)、Hから原告へ移転登録された(甲62の1ないし3)。
イ 菓子「チロリアン」の売上高等
(ア)原告は、福岡県を中心に展開する直営店舗で菓子「チロリアン」を取り扱っているほか、平成27年及び平成28年において、青森県、岩手県、宮城県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、鳥取県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県及び沖縄県に所在する各得意先に、菓子「チロリアン」を納品し、これらの各地の得意先もチロリアンを販売していた(甲42、76、77)。
また、原告の売上高は、平成9年度で12億円を超えており、その後、平成21年度まで毎年度20億円を上回り、平成22年度から平成29年度まで、毎年度17億円から19億円の間で推移していた(甲54)。
(イ)東京千鳥屋の売上高は、昭和52年度で6億円を上回り、その後増加し、昭和63年度には10億円を上回り、平成9年度には29億円に達した(乙C14)。
また、大阪千鳥屋の売上高は、昭和58年度で●●円を上回り、平成3年度には●●●円を超え、その後も増加し、平成11年度には●●●円に達し、平成17年度まで毎年度●●●円以上の売上げを維持していた。そして、被告の売上高は、平成21年度で●●●円を上回り、平成22年度以降は毎年度おおむね●●●円を上回っていた(乙C9、13)。
ウ 菓子「チロリアン」に係る広告宣伝
(ア)a 原告は、平成19年、菓子「チロリアン」のテレビCMを制作し、放送した(甲17、46、48)。原告が放送したテレビCMの中には、その画面上にデザイン化された太字で横書きされた「チロリアン」の文字が表示されるものや、女性の声色で「チロリアン」の言語的要素からなる音を発するものがあった。
原告は、平成24年11月から平成25年1月にかけて、CROSS FM(福岡県を中心とした放送局)と九州朝日放送(福岡県を中心とした九州地方北部のほか、山口県、愛媛県等をカバーする放送局)で菓子「チロリアン」のラジオCMを放送した(甲18、50、51)。
平成27年12月15日、同月18日、同月19日、同月22日及び同月25日に発行された産経新関に原告の菓子「チロリアン」の広告が掲載された(甲10ないし14)。上記広告では、デザイン化された太字で横書きされた「チロリアン」の文字が表示されていた。
b 原告の平成9年度の広告宣伝費の額は、1億4000万円を上回り、その後、平成14年度には約6000万円に減少したものの、平成17年度には再び約1億円となった。平成20年度以降、その額は減少し、平成21年度には約2000万円となったが、平成23年度には4000万円を超え、平成26年度以降は毎年度おおむね5000万円を超えるようになった(甲54)。
(イ)a 株式会社チロリアン及び千鳥屋販売が平成10年頃発行したパンフレットには、菓子「チロリアン」が掲載されていた(乙B58の1)。
また、平成8年4月から同年9月までに発行された雑誌「婦人画報」に千鳥屋販売の「千鳥屋」の菓子「チロリアン」に係る広告が掲載された(乙B56、67)。
上記のパンフレット及び広告には、デザイン化された太字で横書きされた「チロリアン」の文字が表示されていた。
千鳥屋販売は、平成9年頃、菓子「チロリアン」のテレビCMを制作し、放送した(乙B52、56)。
b 千鳥屋本家が平成23年頃から平成27年頃までに発行したチラシにはデザイン化された太字で横書きされた「チロリアン」の文字が表示されていた。また、千鳥屋本家が平成28年頃発行したカタログには、菓子「チロリアン」が掲載され、明朝体による横書きの「チロリアン」の文字が表示されていた(乙B58の3ないし7)。
c 平成7年度から平成9年度までの株式会社チロリアンと千鳥屋販売の広告宣伝費の合計額は、毎年度3億円から4億5000万円の間で推移していた(乙C5、6)。
(ウ)東京千鳥屋が昭和39年頃から平成10年頃までに発行したチラシには菓子「チロリアン」が掲載されていた(乙B80)。
上記チラシのうち多くのものにおいて、デザイン化された太字で横書きされた「チロリアン」の文字が表示されていた。
東京千鳥屋が昭和44年頃から平成17年頃までに発行したパンフレットには菓子「チロリアン」が掲載されていた(乙B81)。
上記パンフレットのうち多くのものにおいて、デザイン化された太字で横書きされた「チロリアン」の文字が表示されていた。
(エ)被告の平成21年度以降の広告宣伝費の額は、毎年度おおむね●●円を上回っていた(乙C13)。
エ 書籍、雑誌及びウェブサイトの掲載記事等について
(ア)平成2年1月発行の書籍「福岡土産品ガイド福岡名物」に、「千鳥屋」の「千鳥饅頭」を紹介する記事があり、その中で「チロル高原名菓チロリアンとともに千鳥屋の代表名菓です。」との記載がある(乙B17)。
(イ)平成19年1月にテレビ朝日で放送されたテレビ番組「ワイド!スクランブル」において、原告及びBが紹介され、原告の代表的な菓子として菓子「チロリアン」が紹介された(甲23、58)。
(ウ)平成21年9月に福岡放送で放送されたテレビ番組「ナイトシャッフル」で、原告及びその代表的な菓子として菓子「チロリアン」が紹介された(甲24、56)。
また、同年11月に福岡放送で放送されたテレビ番組「めんたいワイド」で、原告及びその代表的な菓子として菓子「チロリアン」が紹介された(甲25、57)。
(エ)平成27年12月に発行された雑誌「月刊はかた」に、「「千鳥饅頭総本舗」にはもう一つ、看板商品がある。今月は「チロ〜リア〜ン♪」のCMでもおなじみの、あの大人気お菓子「チロリアン」の誕生前夜までの秘話を、引き続き現社長のIさんにお聞きしよう。」との記載がある(甲20)。
(オ)平成29年9月にウェブサイト「マイナビニュース」に掲載された「名CMすぎる福岡銘菓「チロリアン」の秘密」と題する記事に、「福岡出身者に懐かしのCMを尋ねると、何人かは、「チロ〜リアン♪」のサウンドロゴで返してくれるだろう。愛らしいパッケージとおいしい焼菓子、そして商品イメージにびったりなおしゃれCMは、当時の子どもたちにとって心くすぐられるものであった。」との記載がある(甲55の3)。
(カ)平成30年2月に発行された書籍「新 まだある。大百科〜お菓子編〜」に「1962年チロリアン千鳥饅頭総本舗」との見出しの下、「福岡を代表する銘菓だが、筆者の子ども時代は「♪チロ〜リア〜ン」というボーイソプラノ・・・が清らかに響きわたるテレビCMで、東京でも知らない人はいないほどのメジャーなお菓子だった。製造している千鳥饅頭総本舗は老舗の南蛮菓子メーカー。」、「福岡銘菓だが、テレビCMなどで昔から東京でも知名度、人気ともに高かった。」、「我々世代にとって「チロリアン」といえば先述のテレビCMである。いろいろなパターンがあったが、基本はチロル地方の山々に囲まれた緑の草原で、民族衣装に身を包んだ子どもたちが踊ったり、遊んだりしながら「チロリアン」を食べる、という内容だったと思う。で、最後は必ずアルプスの山々にこだまするような「♪チロ〜リア〜ン」というソプラノで締めくくられた。」といった記載がある(甲55の1)。
(キ)ウェブサイト「フードポート」において平成30年10月に更新された「福岡といえばコレ! 千鳥屋の「チロリアン」|紙採集家・堤信子の「日本の包み紙」」と題する記事に、「博多っ子の定番おやつ・・・我が故郷・福岡県の老舗菓子店「千鳥屋」の銘菓「チロリアン」・・・「博多の子供は、チロリアンで育つ」と言っても過言ではない、福岡県を代表するロングセラーのお菓子「チロリアン」。・・・私の小学生時代(昭和40年代です)には、ちょっとハイカラなおやつとして、絶大な人気を誇っていました。」との記載がある(甲55の2)。
(ク)「芸能人紹介 全国の絶品おすすめ お取り寄せグルメ」と題するウェブサイト内の記事に、2006年12月の「笑っていいとも!」の中で原告の菓子「チロリアン」が紹介されたこと、福岡ではとても有名なお菓子であることなどといった記載がある(甲55の4)。
(2)前記(1)の認定事実によれば、(i)(「1」の丸囲みのこと、(ii)以下同じ。)菓子「チロリアン」は、昭和37年にEの千鳥屋によって販売が開始された後、「千鳥屋」の看板商品となり、Eの千鳥屋は、福岡県を中心に店舗を拡大し、また、Aが昭和39年に開店した東京千鳥屋は、関東地方で、Cが昭和48年に開店した大阪千鳥屋及び昭和61年に設立された被告が開店した大阪千鳥屋は、関西地方で、それぞれ店舗及び販売先を拡大し、いずれの「千鳥屋」も菓子「チロリアン」を販売していたこと、(ii)平成7年にEが死亡した後、Eの子であるA、B、C及びDの間で、「千鳥屋」の事業をめぐって様々な紛争が発生したこと、(iii)原告は、平成9年に福岡市でBによって設立され、福岡県を中心に展開する直営店舗や全国の得意先を通じて菓子「チロリアン」を販売し、原告の売上高は、毎年度10億円を超えていること、(iv)原告は、菓子「チロリアン」について、テレビCM、ラジオCMを制作、放送したり、新聞に広告を掲載し、それらの広告には「チロリアン」の文字が表示され、その広告宣伝費は、複数の年度において1億円を超えていたこと、(v)Eの千鳥屋の事業を承継した株式会社チロリアン及び千鳥屋販売や、平成18年に福岡県飯塚市でDによって設立された千鳥屋本家も菓子「チロリアン」を販売し、その広告には「チロリアン」の文字が表示されていたこと、(vi)被告の売上高は、平成21年度以降、毎年度●●●円を上回っており、被告も菓子「チロリアン」の販売を行っていたこと、(vii)菓子「チロリアン」は、平成2年以降、テレビ番組、雑誌、書籍及びウェブサイトで、「あの大人気お菓子」などと紹介されていたことが認められる。
これらの事実を総合すると、標章「チロリアン」は、本件商標の登録査定日(平成29年1月10日)の時点で、福岡県を中心とした九州地方において、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものと認められる。」
3 本件審判の請求の利益
請求人が本件審判を請求することについて、被請求人は利害関係について争っておらず、また、当審は請求人が利害関係を有するものと認める。
4 本件商標の指定商品中、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」について
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について
類否判断の判断手法について
複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品又は役務の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合には、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である。
イ 本件商標について
本件商標は、「チロリアンホルン」の文字をゴシック体で横書きに書してなり、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分とから構成される結合商標である。本件商標を構成する文字は、外観上、同書、同大、同間隔で一連表記されており、構成文字に相応して、「チロリアンホルン」の称呼が生じる。
次に、「チロリアン」の文字部分は、「チロルの人々。オーストリア西部からイタリア北東部にまたかるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独特の民族服」(ブリタニカ国際大百科事典)、「チロル地方の。チロル風の」(広辞苑第七版)といった意味を有する語として、「ホルン」の文字部分は、「角笛。金管楽器」(広辞苑第七版)といった意味を有する語として、一般に理解されていることが認められる。このような上記各文字部分の観念及びそれぞれの称呼に照らすと、本件商標を構成する文字は、外観上、同書、同大、同間隔で一連表記されていることを勘案しても、本件商標において、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
そして、前記2の判示のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登録査定日(平成29年1月10日)当時、福岡県を中心とした九州地方において、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたことに照らすと、本件商標がその指定商品中の「菓子」に使用された場合には、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分は、菓子のブランド名を示すものとして注意を惹き、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものと認められる。
そうすると、本件商標の構成中「チロリアン」の文字部分は、独立して商品の出所識別標識として機能し得るものと認められるから、本件商標から上記文字部分を要部として抽出し、これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるというべきである。
したがって、本件商標は、その要部である「チロリアン」の文字より「チロリアン」の称呼及び特定の菓子のブランド名としての「チロリアン」の観念又は「チロルの人々。オーストリア西部からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独特の民族服」、「チロル地方の。チロル風の」の観念が生じるものと認められる。
ウ 引用商標1について
引用商標1は、別掲1のとおり、「チロリアン」の文字を毛筆風で横書きに書してなり、その構成文字に相応して、「チロリアン」の称呼が生じる。
しかるところ、前記2の判示のとおり、本件商標の登録査定日(平成29年1月10日)において、標章「チロリアン」は、菓子の取引者、需要者の間で、福岡県を中心とした九州地方において、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものと認められる。
そうすると、「チロリアン」の文字を横書きに書してなる引用商標1からは、特定の菓子のブランド名としての「チロリアン」の観念も生じるものと認めるのが相当である。
したがって、引用商標1は「チロリアン」の称呼及び特定の菓子のブランド名としての「チロリアン」の観念又は「チロルの人々。オーストリア西部からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独特の民族服」、「チロル地方の。チロル風の」の観念が生じるものと認められる。
エ 本件商標と引用商標1の類否について
本件商標の要部である「チロリアン」の文字部分と引用商標1を対比すると、字体は異なるが、「チロリアン」の文字を書してなる点で外観が共通し、いずれも「チロリアン」の称呼及び特定の菓子のブランド名としての「チロリアン」の観念又は「チロルの人々。オーストリア西部からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独特の民族服」、「チロル地方の。チロル風の」の観念が生じる点で、称呼及び観念が同一である。
そうすると、本件商標と引用商標1が本件商標の指定商品中の「菓子」と同一又は類似する商品に使用された場合には、その商品の出所について誤認混同が生ずるおそれがあるものと認められるから、本件商標と引用商標1は、全体として類似しているものと認められる。
したがって、本件商標は、引用商標1に類似する商標であるものと認められる。
オ 指定商品の類否について
本件商標の指定商品中、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」は引用商標1の指定商品である第30類「菓子,パン」と同一又は類似の商品である。
カ 小括
以上のとおり、本件商標は引用商標1に類似する商標であって、本件商標の指定商品中、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」は引用商標1の指定商品と同一又は類似であるから、本件商標はその指定商品中、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」との関係では、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)被請求人の主張について
被請求人は、(ア)本件商標は、「チロリアンホルン」の文字を同書、同大、同間隔に横書きしたものであって、外観上一連一体にまとまりよく書されており、これより生じる称呼も「チロリアンホルン」と、よどみなく一連に称呼し得るものである、(イ)登録商標「チロリアン」は、Aを除くB、C、Dの使用によって取引者、需要者間で広く認識されるようになったものであり、決して請求人のみの使用によるものでない旨主張する。
しかしながら、前記(1)アのとおり、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標においては、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合などのほか、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合においても、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である。
そして、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得るか否かについての判断は、商標に接した取引者、需要者において、商標のどのような構成部分について注意を惹き、どのような印象を受けるかなどの観点から判断されるべきものであることに照らすと、その判断においては、取引者、需要者が、当該構成部分を何人かの出所識別標識として認識し得るものであれば、当該構成部分に係る出所自体(例えば、特定の事業主体の名称、事業形態、事業主体が単数か、複数か等)について正確に認識することまでは要しないと解するのが相当である。
被請求人主張の(ア)については、前記(1)イのとおり、「チロリアン」の文字部分の観念及び称呼、「ホルン」の文字部分の観念及び称呼に照らすと、本件商標を構成する文字が、外観上、同書、同大、同間隔で一連表記されていることを勘案しても、本件商標において、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
被請求人主張の(イ)は、取引者、需要者において、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分に係る出所自体(特定の事業主体の名称等)について正確に認識することまで必要であることを前提とし、上記文字部分が請求人の出所を示す出所識別標識として認識されることを求めるものであるから、その前提において採用することができない。
したがって、被請求人の上記主張はいずれも理由がない。
5 本件商標の指定商品中、上記4以外の指定商品(第30類「茶,コーヒー,ココア,調味料,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」)について
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標の指定商品中、第30類「茶,コーヒー,ココア,調味料,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」(以下「茶・弁当等商品」という場合がある。)と引用商標1ないし引用商標4の指定商品である「菓子,パン」とは、互いに非類似の商品というべきである。
また、本件商標の指定商品中、茶・弁当等商品と引用商標5の指定役務とは、非類似のものである。
したがって、本件商標の指定商品中、第30類「茶,コーヒー,ココア,調味料,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」については、引用商標の指定商品又は指定役務と同一又は類似しないものであるから、本件商標と引用商標の類否について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
前記2の判示のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登録査定日(平成29年1月10日)当時、福岡県を中心とした九州地方において、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものである。
しかしながら、当該「菓子」と茶・弁当等商品とは、ともに食品であって、需要者も共通することがあるものの、両者は製造者が異なり、販売者も異なる場合が多く、その用途も相違するから、商品の関連性は高いものとはいえず、当該「特定の菓子」(菓子「チロリアン」)のブランド名としての周知性が、茶・弁当等商品にまで及ぶものではない。
そうすると、本件商標と引用商標の類似性の程度を検討するまでもなく、本件商標権者が本件商標をその指定商品中、茶・弁当等商品について使用したときには、需要者が引用商標を連想又は想起することはなく、その商品が請求人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標は、その指定商品中、第30類「茶,コーヒー,ココア,調味料,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」との関係では商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性について
前記2の判示のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登録査定日(平成29年1月10日)当時、福岡県を中心とした九州地方において、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものである。
しかしながら、請求人が提出した甲各号証を総合してみても、被請求人が、本件商標を茶・弁当等商品に使用して、請求人の引用商標の信用にただ乗りし、引用商標の出所表示機能を希釈化し又は名声を毀損させたものというべき事実は見いだせないし、他に不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる具体的事実も見いだせない。
したがって、本件商標と引用商標を比較するまでもなく、本件商標は、その指定商品中、第30類「茶,コーヒー,ココア,調味料,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」との関係では、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性について
前記2の判示のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登録査定日(平成29年1月10日)当時、福岡県を中心とした九州地方において、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものである。
しかしながら、被請求人が、本件商標を茶・弁当等商品に使用することで、請求人の引用商標の信用にただ乗りし、利益の独占をはかっていたという事実は見いだせない。
また、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないこと明らかであり、さらに、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序良俗に反するものというべき証拠も見いだせない。
したがって、本件商標は、その指定商品中、第30類「茶,コーヒー,ココア,調味料,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」との関係では、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標は、その指定商品中、「結論掲記の商品」について、商標法第4条第1項第11号に該当するから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とし、その余の商品については、同法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものではないから、その登録を無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
別掲1(引用商標1)


別掲2(引用商標2)


別掲3(引用商標3)


別掲4(引用商標4)


(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
審理終結日 2023-11-02 
結審通知日 2023-11-09 
審決日 2023-12-01 
出願番号 2016078604 
審決分類 T 1 11・ 22- ZC (W30)
最終処分 03   一部成立
特許庁審判長 高野 和行
特許庁審判官 大森 友子
板谷 玲子
登録日 2017-01-27 
登録番号 5916658 
商標の称呼 チロリアンホルン、チロリアン、ホルン 
代理人 田中 雅敏 
代理人 高橋 浩三 
代理人 有吉 修一朗 
代理人 堀田 明希 
代理人 筒井 宣圭 
代理人 山腰 健一 
代理人 遠藤 聡子 
代理人 森田 靖之 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ