ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 一部申立て 登録を維持 W032535 |
---|---|
管理番号 | 1402994 |
総通号数 | 22 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2023-10-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-11-28 |
確定日 | 2023-09-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6617172号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6617172号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6617172号商標(以下「本件商標」という。)は、「&est」の欧文字及び「アンドエスト」の片仮名を上下二段に横書きしてなり、令和4年6月3日に登録出願、第3類「バスソルト,美顔用パック,ヘアートリートメント,歯磨き,香水類,香水,つけまつ毛用接着剤,薫料,入浴剤(医療用のものを除く。),シャンプー,ヘアーリンス,つけまつ毛,バスオイル,化粧品,香料,化粧水,つけづめ,せっけん類」、第25類「運動用特殊靴」及び第35類「手動利器・手動工具及び金具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,薬剤及び医療補助品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を含む第3類、第25類及び第35類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同年9月2日に登録査定され、同月20日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録商標は、以下の11件の商標であり、いずれも現に有効に存続しているものである。 1 登録第779431号の2商標(以下「引用商標1」という。)は、「EST」の欧文字を横書きした構成からなり、昭和41年6月11日に登録出願、第13類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同43年4月26日に設定登録され、その後、平成20年4月9日に、指定商品を第8類「手動利器」とする指定商品の書換登録がされたものである。 2 登録第2176893号商標(以下「引用商標2」という。)は、「エスト」の片仮名及び「EST」の欧文字を上下二段に横書きした構成からなり、昭和62年3月23日に登録出願、第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成元年10月31日に設定登録され、その後、同21年10月21日に、指定商品を第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類」とする指定商品の書換登録がされたものである。 3 登録第3371266号商標(以下「引用商標3」という。)は、「EST」の欧文字を横書きした構成からなり、平成4年6月19日に登録出願、第3類「せっけん類,植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料,化粧品,つや出し剤」を指定商品として、平成11年4月9日に設定登録されたものである。 4 登録第4347556号商標(以下「引用商標4」という。)は、「エスト」の片仮名及び「EST」の欧文字を上下二段に横書きした構成からなり、平成10年11月16日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,つけづめ,つけまつ毛,歯磨き,つや出し剤,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」を指定商品として、同11年12月24日に設定登録されたものである。 5 登録第4549360号商標(以下「引用商標5」という。)は、「エスト」の片仮名及び「EST」の欧文字を上下二段に横書きした構成からなり、平成13年1月18日に登録出願、第21類「化粧用具(「電気式歯ブラシ」を除く。)」を指定商品として、同14年3月8日に設定登録されたものである。 6 登録第4896119号商標(以下「引用商標6」という。)は、「エスト」の片仮名及び「EST」の欧文字を上下二段に横書きした構成からなり、平成16年12月1日に登録出願、第18類「皮革製包装用容器,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具」及び第44類「エステティック美容・美容及び理容に関する相談,エステティック美容に関する情報の提供」を指定商品及び指定役務として、同17年9月22日に設定登録されたものである。 7 登録第4950781号商標(以下「引用商標7」という。)は、「エスト」の片仮名及び「EST」の欧文字を上下二段に横書きした構成からなり、平成16年12月9日に登録出願、第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,はえ取り紙,乳糖,乳児用粉乳,人工受精用精液」を指定商品として、同18年5月12日に設定登録されたものである。 8 登録第5027188号商標(以下「引用商標8」という。)は、「est」の欧文字を標準文字により表してなり、平成18年7月7日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き,つけづめ,つけまつ毛」、第21類「化粧用具(「電気式歯ブラシ」を除く)」及び第44類「美容,理容,入浴施設の提供,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),あん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラクティック,きゅう,柔道整復,はり,医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,植木の貸与,農業用機械器具の貸与,医療用機械器具の貸与,漁業用機械器具の貸与,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与,芝刈機の貸与」を指定商品及び指定役務として、同19年2月23日に設定登録されたものである。 9 登録第5526118号商標(以下「引用商標9」という。)は、「est」の欧文字及び「エスト」の片仮名を上下二段に横書きした構成からなり、平成19年6月29日に登録出願、第35類「化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,化粧用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ビタミン類やミネラル成分等を主成分とする固形・顆粒状・粉末状・ペースト状・ゲル状・ゼリー状・液状・タブレット状・カプセル状の加工食品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,薬剤及び医療補助品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、同24年10月5日に設定登録されたものである。 10 登録第6147124号商標(以下「引用商標10」という。)は、「est」の欧文字及び「エスト」の片仮名を上下二段に横書きした構成からなり、平成30年5月25日に登録出願、第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,包帯,包帯液,胸当てパッド,乳児用粉乳,サプリメント」、第30類「茶,コーヒー,ココア」及び第32類「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」を指定商品として、令和元年5月24日に設定登録されたものである。 11 登録第6239984号商標(以下「引用商標11」という。)は、「est」の欧文字及び「エスト」の片仮名を上下二段に横書きした構成からなり、平成30年5月25日に登録出願、第10類「家庭用電気マッサージ器」及び第11類「家庭用電熱用品類」を指定商品として、令和2年3月27日に設定登録されたものである。 以下、上記の引用商標1ないし引用商標11をまとめていうときは、「引用商標」という。 第3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標はその指定商品中、第3類「全指定商品」、第25類「運動用特殊靴」及び第35類「手動利器・手動工具及び金具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,薬剤及び医療補助品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下、これらをまとめて「申立てに係る指定商品及び指定役務」という。)について、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2第1号の規定により、取り消されるべきものである旨申立て、その理由を以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第18号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。 1 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標と引用商標の類似性 ア 本件商標について 本件商標の「est」の欧文字部分については、申立人が「ソフィーナ」事業において長年にわたり培ってきた技術のエッセンスという意味を込めて、「essence」、「sofina」及び「technology」の各語の頭文字から創作した造語であって、申立人のブランド又はその業務に係る商品としての観念を生じるものである。また、後述するとおり、申立人の業務に係る化粧品を表すものとして全国的な周知著名性を獲得している商標であるから、極めて強い自他商品等識別力を有する部分である。 これに対して、本件商標の「&」の記号は、英語における等位接続詞である「and」を示す記号であることは我が国において広く知られていることは顕著な事実であり、「&」には後続する単語や、句、節、文章等を追加するという程度の意味しか有しないものであるから、全国的な周知著名性を獲得している「est」と比較すると、自他商品等識別力が極めて弱いものである。 さらに、本件商標の文字は各々が重なることなく無機的に等間隔に各文字を配してなるものであり、「記号」である「&」と「欧文字」である「est」は文字の種類が異なるから、視覚上も「&」と「エスト」を分離してみるべき外観的構成要素を有する。 したがって、本件商標と引用商標の類否判断において、本件商標を構成する「est」の欧文字を要部として抽出し、自他商品等識別力の弱い「&」部分を捨象して引用商標と比較することは当然に許されるというべきである。 イ 引用商標について 引用商標からは、「エスト」の称呼が生じ、上述したとおり、申立人のブランド又はその業務に係る商品としての観念が生じる。 ウ 引用商標の周知著名性について 「est」(エスト)は、デパート専門の高級ラインとして申立人が2000年10月に立ち上げた著名ブランドであり、スキンケア、ベースメイク、ポイントメイクアップシリーズの化粧品、せっけん類等の商標として使用されているものである(甲4)。 (ア)取り扱い商品 「est(エスト)」は、「せっけん類,化粧品」に関する商品が主であり、近年では新技術を搭載した美容機器、ドリンクの商標としても使用されている(甲5の1、甲5の2)。 (イ)取り扱い店舗 申立人は、日本全国の主要な百貨店・商業施設において、100店舗以上出店し、引用商標「est(エスト)」の付された申立人の商品を販売しているが(甲5の3)、百貨店の化粧品売場には、ブランド毎に目立つ態様で当該ブランドのサインボード等が掲げられた専用コーナーが設けられているため、「est(エスト)」も百貨店の化粧品コーナーを訪れる数多くの需要者に広く認知されるに至っている。 また、引用商標「est(エスト)」の付された申立人の商品は、実店舗のみならず、大手百貨店のオンラインショップをはじめ、Amazon等の大手インターネット通販サイト等においても広く取り扱われている(甲5の4)。 (ウ)引用商標「est」の業界における評価 美容雑誌やインターネット記事に示すとおり、「est(エスト)」ブランドの申立人の商品は、過去から現在に至るまで、美容雑誌やインターネットサイトにおいて高い評価を得ており、ベストコスメ等の賞を多数受賞している(甲6)。 (エ)広告宣伝実績 「est(エスト)」は、TVCM、インターネット広告、鉄道中吊り広告、トレインチャンネル等の交通系広告のほか、多数のファッション・美容雑誌において広告掲載を行っており(甲7)、特にファッション・美容雑誌においては、試供品が付録として採用され広く配布されている(甲8の1〜6)。 上記ファッション・美容雑誌は、VOCE(講談社)の2019年1月から3月における発行部数は平均7万1667部であり、MAQUIA(集英社)の現在の発行部数は約8万8千部であり、美的(小学館)の2019年上期の平均販売部数は8万8343部であった(甲8の7〜9)。 (オ)「est(エスト)」の知名率調査 市場調査・マーケティングリサーチ会社にインターネット調査を委託し、2019年12月、20代383名、30代492名、40代625名の合計1500名の女性(本人又は同居家族がトイレタリー・化粧品、デパート・スーパー・コンビニその他小売、マスコミ・広告、市場調査に従事している者を除く。)を対象として、商品画像を提示して当該ブランドを知っているか確認することにより、「est(エスト)」の知名率調査を実施したところ、582名(38.8%)の者が知っているとの回答をした(甲9)。 (カ)報道 新聞報道等においても、申立人の「est(エスト)」ブランド商品の売れ行きが発売開始以来好調であり、申立人の商品を代表する主力商品であるといった記事が何度も掲載されている(甲11)。 (キ)小括 以上のとおり、「est(エスト)」ブランド商品は、2000年の販売以来、21年以上の永きにわたって製造販売されている申立人のロングセラー商品である。「est(エスト)」ブランドの商品は、主として「化粧品」に分類される商品であり、その中には、美容液洗顔料「エスト エッセンス ウォッシュ」(甲5の1の2)のように、せっけん類にも分類される商品も含まれている。 したがって、「est(エスト)」は、申立人の製造販売に係る化粧品・せっけん類の商標として、遅くとも、本件商標の出願時までには、日本国内においても周知・著名な商標となっていたというべきである。 エ 本件商標と引用商標との類否について 本件商標と引用商標を対比すると、本件商標の要部となる「est」の欧文字及び「エスト」の片仮名は、引用商標とは、英大文字か英小文字かという字形に相違がみられる程度の差異しかなく、「EST(est)」及び「エスト」の文字の綴りが同一であるから、外観において類似するといえ、また、「est」「エスト」の部分は、「エスト」の称呼、及び申立人のブランド又はその業務にかかる化粧品としての観念が生じる部分として、同一又は類似する。 また、本件商標に係る一部の指定商品・指定役務は、引用商標に係る指定商品及び指定役務と類似している。 オ 本件商標と引用商標の先後願について 本件商標が引用商標の後願に係る商標であることは明らかである。 カ 裁判例及び特許庁の登録実務 本件商標が「EST」「エスト」の文字部分を要部とする商標であって、引用商標に類似するとの請求人の主張は、過去の裁判例や特許庁の審決にみられる判断に照らすことでより明確になる(甲13)。 (2)小括 以上により、本件商標は、引用商標と類似する商標であり、「つけまつ毛用接着剤」以外の申立てに係る指定商品及び指定役務は、引用商標に係る指定商品及び指定役務と同一又は類似であって、引用商標の後願に係る商標である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 2 商標法第4条第1項第15号該当性について (1)本件商標と引用商標の出所混同の生ずるおそれについて ア 本件商標と引用商標の類似性の程度 上述のとおり周知著名な引用商標「EST(est)」及び/又は「エスト」と本件商標の要部「est」の欧文字及び「エスト」の片仮名は、「EST(est)」及び/又は「エスト」の文字の綴りが同一であり外観において類似であるといえ、「エスト」の称呼及び申立人のブランド又はその業務に係る商品としての観念においては同一であるから、類似性の程度は高いといえる。 イ 引用商標の周知著名性及び独創性について 上述したとおり、「est」(エスト)は、デパート専門の高級ラインとして申立人が2000年10月に立ち上げた著名ブランドであり、特許庁の判定が認定しているとおり(甲12)、周知著名性を獲得していることは明らかである。 また、「est(エスト)」は、引用商標の指定商品との関係で何ら直接的に商品の品質等の内容を表示するものではなく、このような文字を採択すること自体、高い自他商品役務識別力を有しているのであるから、高い独創性を有するものである。 ウ 申立てに係る指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品・役務の取引者及び需要者の共通性 申立てに係る指定商品及び指定役務(「つけまつ毛用接着剤」を除く。)は、引用商標に係る指定商品及び指定役務と類似しているので、性質、用途又は目的における関連性の程度は高く、商品・役務の取引者及び需要者の共通性はあるといえる。 本件商標の指定商品「つけまつ毛用接着剤」については、主にドラッグストアで市販されるものであり、引用商標の指定商品における「つけまつ毛,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類」等その多くについてもドラッグストア等で取引をされ、一般大衆を需要者として販売されるものであるから、本件商標の指定商品「つけまつ毛用接着剤」は、申立人の業務に係る商品と取引者や需要者においても共通するといえる。 したがって、申立てに係る指定商品及び指定役務と、引用商標の指定商品及び指定役務は、性質、用途又は目的における関連性の程度は高く、商品・役務の取引者及び需要者の共通性はあるといえる。 エ 本件商標が、引用商標の商標権の申立人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であると認めるべきその他取引の実情 (ア)構成中に「エスト」「est」を含む商標を使用していること 申立人は、申立人の製造販売に係る化粧品・せっけん類の商標として周知著名である「エスト」「est」と他の文字ないし記号から構成される商標登録を有している(甲15)。 また、申立人は、実際にも「エスト」「est」と他の文字ないし記号からなる商標を付した商品を全国において販売している(甲5の1の1〜18)。 このような取引の実情の下において、申立人の製造販売に係る化粧品・せっけん類の商標として周知著名である「エスト」「est」と記号「&」からなる本件商標を使用した場合には、取引者・需要者においては、申立人「est」(エスト)ブランド・シリーズの新商品であるとの誤認混同を生じるおそれがある。 (イ)申立人と本件商標に係る商標権者は同業者であること 商標権者は、総合衣料卸売事業、ビューティー事業、ヘルスケア事業、メディカル事業等を行う企業であり(甲16の1)、本件商標をつけ爪、ヘアケア商品等の通信販売ウェブサイトに使用している事実がある(甲16の2、甲16の3)。 よって、商標権者は、化粧品・せっけん類・美容機器・ドリンク等における「est(エスト)」の販売等を行っている申立人とは、同業種であるといえ、商標権者が引用商標の周知著名性を知らないはずはなく、本件商標は、申立人の引用商標の周知著名性を承知の上で登録出願したものであって、引用商標の周知著名性へのただ乗り(いわゆるフリーライド)や希釈化(いわゆるダイリューション)を意図したものであると合理的に推認することができる。 したがって、需要者は、商標権者が申立人から、あたかも上記商品の販売の許諾を受けて販売していると誤認するおそれがあるといえ、「EST(エスト)」を含む本件商標が申立てに係る指定商品及び指定役務について使用された場合には、それらの商品又は役務が恰も申立人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。 オ 裁判例及び特許庁の審決(決定) 他人の周知著名な商標を一部に含む商標について、当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあるとして、登録拒絶又は登録無効若しくは取消しの判断をした判決や特許庁の審決は多数存在する(甲17、甲18)。 (2)小括 以上のとおり、本件商標の要部は、引用商標と同一又は類似である「EST」及び「エスト」の文字からなる商標として、引用商標と高い類似性を有すること、引用商標は、申立人が使用する引用商標「EST(エスト)」を表すものとして周知著名な商標であること、申立てに係る指定商品及び指定役務は、引用商標が周知著名性を獲得した商品と関連性が高いものであり、需要者の範囲も一致するものであることから、本件商標は取引者・需要者にとって引用商標と極めて強い関連性を持って認識されること、さらには、商標権者が、本件商標を申立てに係る指定商品及び指定役務に使用するときは、これに接する取引者・需要者は、申立人の引用商標「EST(エスト)」に係る商品を想起・連想し、恰も申立人が取り扱う業務に係る商品及び役務であるかの如く認識して取引にあたると考えられるため、その出所について混同を生ずるおそれがあることは明白であるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。 第4 当審の判断 1 引用商標等の周知著名性について (1)申立ての理由に係る商標について 「est」(エスト)は、デパート専門の高級ラインとして申立人が2000年10月に立ち上げたブランドであり(甲11の1、ほか)、主として商品「化粧品、せっけん類」に「est」(「エスト」)の文字(以下「引用標章」という。)が使用され、近年では美容機器やドリンクの商標としても使用されている(甲4、甲5の1、甲5の4)。 (2)取り扱い店舗 日本全国の主要な百貨店・商業施設に出店された100以上の店舗において、引用標章が使用された商品が販売され(甲5の3)、また、引用標章が使用された商品は、実店舗のみならず、大手百貨店のオンラインショップをはじめ、Amazon等の大手インターネット通販サイト等においても取り扱われている(甲5の4)。ただし、提出された証拠によっては、上記の出店ないし取り扱いに係る時期が明らかでないものが含まれる。 (3)引用標章に係る商品の業界における評価 引用標章を使用した申立人の商品は、ベストコスメ等の賞を多数受賞している(甲6)。 (4)広告宣伝実績 引用標章を使用した商品について、2016年1月から2021年10月までの間に複数回にわたり、テレビCM、インターネット広告及び鉄道中吊り広告等の交通系広告が行われたほか、「VOCE(講談社)」、「MAQUIA(集英社)」、「美的(小学館)」等のファッション・美容雑誌において広告が行われた(甲7、甲8)。 (5)「est(エスト)」の知名率調査 市場調査・マーケティングリサーチ会社である株式会社インテージによる2019年12月のインターネット調査(20代383名、30代492名、40代625名の合計1500名の女性(本人又は同居家族がトイレタリー・化粧品、デパート・スーパー・コンビニその他小売、マスコミ・広告、市場調査に従事している者を除く。)を対象)で、「est(エスト)」の知名率調査を実施したところ、582名(38.8%)の者が知っているとの回答をした(甲9)。 (6)報道 新聞記事等において、2000年7月から2021年10月までの間に複数回にわたり、「est(エスト)」に関して掲載され(甲11)、これが百貨店向けの高価格帯の化粧品ブランドである旨の記載がなされているほか、例えば、申立人の主力化粧品ブランドであって、中心顧客は30代から40代である旨の記載も見受けられる(2017年12月28日付け。甲11の20)。 (7)判断 上記(1)ないし(6)によれば、申立人は、2000年10月に「est」ブランドを立ち上げ、主として商品「化粧品、せっけん類」に引用標章が使用され、引用標章が使用された商品は、日本全国の主要な100店舗以上の百貨店・商業施設において販売されており、大手百貨店のオンラインショップをはじめ、Amazon等の大手インターネット通販サイト等においても販売されていること、また、引用標章を使用した申立人の商品は、ベストコスメ賞等多数の受賞歴があること、さらに、引用標章を使用した商品の広告宣伝は、テレビCM、インターネット広告、交通系広告及びファッション・美容雑誌において行われていること、知名率調査において「est」の知名率は38.8%であったこと、「est(エスト)」に関する新聞報道等があること等が認められる。 以上を踏まえると、引用標章は、商品「せっけん類、化粧品」の需要者の間に、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、ある程度知られていると推認できる。 そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「est」の文字からなる引用商標8について、その指定商品「せっけん類,化粧品」の限度で、需要者の間で一定程度の周知性を有するものというのが相当である。なお、引用商標は、上記以外については、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして周知性を有するものと認めることはできない。 2 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標 本件商標は、上記第1のとおり、「&est」及び「アンドエスト」の文字を上下二段に横書きしてなるところ、いずれもゴシック体で、外観上一体的に表されており、これより特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として理解されるものである。また、本件商標は、その構成中の「&」の記号は、英語の「and」に相当する記号であり、下段に書された「アンドエスト」の片仮名は、上段の記号及び欧文字部分より生ずる称呼とも一致することからすれば、下段部分は、上段部分の自然な読みを特定していると無理なく認識し得るものであって、当該「アンドエスト」の称呼は、格別冗長なものではなく、無理なく一連に称呼し得るものである。 そうすると、本件商標は、その上記構成及び称呼からすれば、構成全体をもって、一種の造語として認識されるものとみるのが相当である。 したがって、本件商標は、「アンドエスト」の一連の称呼のみを生じ、特定の観念を生じないものである。 (2)引用商標 引用商標は、上記第2のとおり、「EST」若しくは「est」の欧文字、又は、「エスト」の片仮名と「EST」若しくは「est」の欧文字を上下二段に組み合わせた構成からなるところ、これよりは、いずれも「エスト」の称呼が生じるものである。 そして、「est」の文字は、「英語の単語で、主に略語として使用されることが多い。略語としての「est」は、established(設立された、確立された)の省略形であり、企業や団体の設立年を示す際によく用いられる。」(weblio辞書実用日本語表現辞典)、「東。東方。東部。」(クラウン仏和辞典第7版(三省堂))等の意味を有するとしても、我が国においてそれのみで直ちに特定の意味合いを理解させる語として広く親しまれているとはいえないものであるから、引用商標は、一種の造語として理解、認識されるものというのが相当である。 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応し「エスト」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものというのが相当である。 (3)本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標の類否を検討すると、両者の構成は、それぞれ上記(1)及び(2)のとおりであり、外観においては、「&」及び「アンド」の有無という顕著な差異を有し、両者の少ない構成文字においては、当該相違が、外観の印象に与える影響は大きいといえるから、両者は外観上判然と区別できるものである。 次に、本件商標から生じる「アンドエスト」の称呼と引用商標から生じる「エスト」の称呼とを比較すると、両者は、「アンド」の有無において明確に相違するものであるから、この差異が比較的短い両称呼に及ぼす影響は大きく、それぞれを一連に称呼するときは、語感・語調が相違し、称呼上、明らかに聴別し得るものと判断するのが相当である。 さらに、観念においては、本件商標及び引用商標は、共に特定の観念を生じないものであるから、比較することができない。 してみれば、本件商標と引用商標は、観念において比較できないとしても、外観において判然と区別し得るものであり、称呼においても明らかに聴別し得るものであるから、これらを総合的に勘案すると、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標と判断するのが相当である。 その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。 (4)小括 以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、申立てに係る指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務とが同一又は類似のものを含むとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。 3 商標法第4条第1項第15号について (1)引用商標の周知性 引用商標8は、上記1のとおり、商品「せっけん類,化粧品」の需要者の間に一定程度知られていることがうかがえる。 (2)本件商標と引用商標の類似性の程度 上記2のとおり、本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。 よって、両者の類似性の程度は低いものである。 (3)商品の関連性及び需要者の共通性について 本件商標の申立てに係る指定商品及び指定役務には、引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似するものが含まれるから、両者は商品及び役務の関連性を有し、需要者を共通にする場合がある。 (4)引用商標の独創性について 「est」の文字は、一般に親しまれている語とまではいい難いものであるが、上記2(2)のとおり、辞書等に掲載が認められる語であるから、独創性が高いものとはいえない。 (5)引用商標が申立人のハウスマークであるかについて 引用商標は、申立人のハウスマークではない。 (6)小括 上記(1)ないし(5)を総合的に判断すれば、引用商標8が商品「せっけん類,化粧品」の需要者の間で一定程度知られているものであることがうかがわれ、本件商標の申立てに係る指定商品及び指定役務には、引用商標に係る指定商品及び指定役務と関連性を有する商品及び役務が含まれ需要者を共通にする場合があるとしても、本件商標と引用商標の類似性の程度は低く、また、引用商標は、独創性が高くなく、申立人のハウスマークでもない。 そうすると、本件商標権者が、本件商標を申立てに係る指定商品及び指定役務について使用しても、取引者・需要者が、引用商標を連想又は想起することはなく、その商品及び役務が他人(申立人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品及び役務の出所について混同を生じるおそれはないというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 4 申立人の提出に係る上申書について なお、申立人は、令和5年7月7日付け上申書を提出しているが、上記判断を覆すものではない。 5 むすび 以上のとおりであるから、本件商標の登録は、申立てに係る指定商品及び指定役務について、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
異議決定日 | 2023-09-14 |
出願番号 | 2022063738 |
審決分類 |
T
1
652・
261-
Y
(W032535)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
高野 和行 |
特許庁審判官 |
豊瀬 京太郎 板谷 玲子 |
登録日 | 2022-09-20 |
登録番号 | 6617172 |
権利者 | 株式会社プロルート丸光 |
商標の称呼 | アンドエスト、エスト、イイエステイ |
代理人 | 佐藤 俊司 |
復代理人 | 阪田 至彦 |
代理人 | 弁理士法人Toreru |
代理人 | 田中 克郎 |
復代理人 | 村瀬 純一 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
復代理人 | 笹川 大智 |
代理人 | 中村 勝彦 |