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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W35
管理番号 1401972 
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-23 
確定日 2023-09-07 
異議申立件数
事件の表示 登録第6572613号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6572613号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6572613号商標(以下「本件商標」という。)は、「HOLY IN CODE/ホーリーインコード」の文字等を横書きしてなり、第35類「身飾品・かばん類・財布・被服・靴・靴下・ベルト・帽子の小売り又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、令和3年7月14日に登録出願、同4年2月8日に登録査定され、同年6月16日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号及び同項第19号に該当するとして引用する商標は、「HOLY IN CODE」の文字を横書きしてなり(以下「引用商標」という。)、申立人の製品(身飾品、かばん類、財布、被服、靴、靴下、ベルト、帽子)の小売りについて使用し、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、韓国、台湾及び我が国において、需要者の間に広く知られていると主張するものである。

第3 登録異議の申立ての理由
1 本件商標と引用商標について
(1)本件商標について
本件商標は、欧文字「HOLY IN CODE」と片仮名「ホーリーインコード」の間に記号「/」(スラッシュ)を配して構成された商標である(甲1)。
(2)引用商標について
引用商標は、「HOLY IN CODE」の欧文字を横書きしてなる商標である(甲2)。
本件商標の登録出願日(令和3年7月14日)の2年以上前の2019年5月1日に、大韓民国ソウル特別市において、申立人(甲3)は自らのファッションブランドを立ち上げ、そのブランド名の英語表記が「HOLY IN CODE」である(甲4)。
申立人は韓国のファッション業界において、2013年から2019年初頭にかけて引用商標の前身となるファッションブランド「HOLIGAN」を運営し(甲5)、「HOLIGAN」を引き継ぐ形で2019年5月1日に引用商標に係るファッションブランドを立ち上げたものである。
引用商標に係るファッションブランドは前ブランドの世界観(ストリート系ファッション)を引き継ぐものであり、比較的安価な価格設定も10代から20代の需要者への訴求力となっている。引用商標に係るファッションブランドは、前身のファッションブランドの取引者及び需要者を中心に、新たな需要者をも取り込み、急速に認知度を高めていった。
2 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類似性について
ア 称呼について
本件商標を構成する文字のうち、片仮名は、欧文字から生じる称呼を片仮名表記したものである。欧文字からも片仮名からも「ホーリーインコード」の称呼が生じる。
引用商標は、欧文字「HOLY IN CODE」からなるところ、該文字に応じて「ホーリーインコード」の称呼が生じる。
本件商標から生じる称呼と引用商標から生じる称呼は、同ーである。
イ 外観について
本件商標を構成する欧文字と引用商標は構成文字を共通とし、本件商標を構成する片仮名文字は欧文字の称呼を片仮名表記したものであることに鑑みると、本件商標の外観は引用商標の外観に類似する。
ウ 観念について
「HOLY IN CODE」の欧文字は、辞書等に記載される既存の語ではなく、申立人の創作による造語であることから、本件商標及び引用商標から特定の観念は生じない。
エ 小括
本件商標は、称呼、外観、観念の全てにおいて、引用商標に類似する商標である。
(2)引用商標の周知性
ア 韓国における周知性
引用商標は、申立人による広告・宣伝・販売の結果、韓国における申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、需要者に広く知られるに至った商標である。
(ア)先進国における広告・宣伝の実情
現在、先進国における宣伝広告手法の主流は、インターネットやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)である。
以前は、新聞・雑誌への広告掲載やテレビ番組やラジオ番組でのコマーシャルの放映が広告宣伝の主流とされていたが、インターネットやスマートフォンの普及等を経て(甲6)、現在においては、上記のような傾向が強い。
加えて、インターネットやSNSの画面の操作性の向上によって、探していた情報や、商品の購入の申込み画面等に辿り着くことが可能となっている。
よって、実店舗を保有せずに敢えてショッピングサイトのみ保有することを選択するケースが増加している(甲7、甲8)。
(イ)韓国市場における広告・宣伝の実情
韓国においては、日本と比較して早くから高度なデジタル化が進んでいること、紙媒体の発行部数や売上げの急減という事情があること(甲9)、スマートフォンをはじめとするデジタル機器が日常生活において広く浸透していることなどから、各種商品等に関する情報はインターネットやSNSを通じて入手することが顕著となっている。
(ウ)SNSを利用した広告・販促活動
申立人も、引用商標に係るファッションブランドを立ち上げた後、主としてSNSを通じて広告・販促活動を行っている。
SNSを活用しての広告・販促活動は、フォローという仕組みを利用して、特定の者を対象にダイレクトに行うことが出来る即効性の高いものであり、不特定多数の者を対象とした従来型の広告・販促活動と比較して、より効率的で効果的な方法である。また、費用を節約することもできる。
さらに、SNSからECサイト(電子商取引サイト)へ簡単に移動できるため、SNSは商品や役務の購入手続きの一端をも担っている。
(エ)ファッション業界におけるSNSを利用した広告・販促活動
特に被服等の小売の分野においては、ファッションブランドを中心に、SNSを活用した広告手法が採用されている。そして、SNSのフォロワー数が、今日ではブランドや商標の周知性・著名性を示す基準の一つとなっている。韓国においては、日本と異なり、ファッションに特化した雑誌が少数しかなかったということが、SNSを活用した広告手法の積極的採用を大きく後押ししたという地域的事情がある。
(オ)申立人の広告・販促活動
申立人はSNSの中でも特にInstagramに重点をおいた広告販促活動を行っており、Instagramにおいて「HOLY IN CODE」のアカウント(以下「公式アカウント」という。)を取得し(甲10)、公式アカウントにおいて、「HOLY IN CODE」商品等の紹介を行い、「HOLY IN CODE」のショッピングサイト(以下「公式ショッピングサイト」という。)のURLのリンクを張ることで公式ショッピングサイトヘ移動して商品を閲覧することを可能としている。これにより、Instagramに掲載された商品の写真画像等に着目した閲覧者は、URLをクリックするだけで公式ショッピングサイトを閲覧し、より詳細な情報の入手や商品の購入などを行うことが可能となる。
さらに加えて、申立人は、写真や記事の投稿だけでなく、月56万円〜69万円もの広告費用も支出して、Instagramにおける広告販促活動に努めている。その結果、公式アカウントヘの1日当たりのアクセス数は3500、公式ショッピングサイトへの1日当たりのアクセス数は2500にまで達している。
(カ)SNSにおける引用商標の周知性の獲得
各SNSの大きな特徴として、アカウントを有する者同士(フォロワー同士)で画像を共有すると、フォロワーのフォロワーもその画像を閲覧することが可能となり、連鎖的により多くの人の目に触れることが可能となる。
SNSへの画像又は記事の頻繁な投稿や、多額の広告費用の支出に加えて、申立人は、SNSのうち特にInstagramにおいて、フォロワー数が10万人以上いる利用者(インフルエンサー)12名と連携した広告・販促活動も行っている。例えば、インフルエンサーは、「HOLY IN CODE」の商品を着こなす自身の画像を多数掲載している(甲11)。
そして、公式アカウントから公式ショッピングサイト(甲12)へのリンクが張られているので、公式ショッピングサイトにアクセスしてその商品等を購入することが可能である。
なお、2020年におけるファッションブランド184社のInstagramのアカウントのフォロワー数の中央値は約3.6万人である(甲13)ところ、公式アカウント(韓国版)のフォロワー数は、2022年10月時点で6.6万人を超えている(甲10)。韓国の総人口が約5163万人のうち、10代・20代の人口は約1145万人とみられ(甲14)、ファッションの多様化が進む中で、「HOLY IN CODE」のフォロワー数が6.6万人もいるという事実からしても、引用商標に係るファッションブランドが、少なくとも、10代・20代のストリート系ファッションを好む人々の間で人気ブランドの一つであることは明らかである。
(キ)韓国での販売数
上述の申立人の営業努力に伴い、引用商標を付した商品は、韓国において、2020年から2022年にかけて、毎年2万点後半ほど、それぞれ販売されている(甲15)。
(ク)まとめ
上記(ア)ないし(キ)の事実からすれば、少なくとも韓国の10代・20代のストリート系ファッションを好む人々の間で、引用商標が周知・著名であることは明らかである。
イ 台湾における周知性
本件商標の登録出願前の時点で、既に台湾において、申立人のブランドである引用商標は、周知となっていて、台湾の需要者から多数の商品注文を受けていた(甲16)。公式ショッピングサイトは、台湾の言語にも対応している(甲12)。
ウ 小括
上述のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして、韓国にとどまらず、韓国のストリート系ファッションを愛する台湾の需要者にも広く知られているものである。
(3)不正の目的
ア 「不正の目的」について調査するに至った経緯
申立人は、ファッションブランドの立ち上げ前の2019年4月12日に、自国である韓国の特許庁へ引用商標に係る商標出願を行った(甲17)。
そして、申立人は、日本からの注文も増えてきたことに鑑み、2021年7月16日に日本で商標登録出願を行い(甲18)、2022年2月28日に本件商標を引用した拒絶理由通知書を日本国特許庁から受け、本件商標の存在を知るに至った。申立人の商標登録出願は、本件商標の出願日の2日後であった。
引用商標は既に述べたように既成の語とは異なる申立人の造語に係る商標であるところ、本件商標は引用商標と同一の欧文字つづりとその欧文字つづりから生じる称呼を片仮名表記したものとからなるものであって、無数にある選択肢の中から、同業者が偶然に類似のものを商標として採択したということは考えにくい。
イ 本件商標権者について
本件商標権者の登記事項全部証明書によれば、本件商標権者は平成31年3月7日に設立された法人で、アパレル製品、ファッション雑貨、日曜雑貨などの企画、製造販売卸売り及び小売業、インターネットなどのオンラインを利用したアパレル製品、ファッション雑貨品、日用雑貨品などの販売等を目的とする(甲19)。
ウ 本件商標権者の事業について
申立人が本件商標権者について調べたところ、以下の事実が判明した。
(ア)本件商標権者のウェブサイトでの販売
インターネット検索エンジンにおいて、本件商標権者の社名を検索すると、検索結果の上位に「UNDERSTUDY CLUB」のウェブサイトが表示される。「UNDERSTUDY CLUB」は、90以上の韓国ファッションブランドの商品を取り扱っているショッピングサイトである(甲20)。このウェブサイトの運営者は本件商標権者である。
(イ)「BUYMA」での販売
本件商標権者は、ショッピングサイト「BUYMA」においても「understudyclub」の出品者名でアパレル商品の販売を行っている(甲25)。
a 「BUYMA」について
BUYMAは、世界各国に居住している出品者(パーソナルショッパー)が、それぞれの現地で商品の買い付けを行い、注文に応じて商品の発送を行う形で通信販売を行うサイトであり(甲26)、自国外や遠方の商品について、購入者自らが出向くことなく入手できるため、BUYMAは2005年のサービス開始当初から大きな注目を浴びてきたショッピングサイトである。2020年以来のコロナ禍の影響もあって、世界各国に利用者を持つに至っている(甲27、甲28)。
b BUYMAのパーソナルショッパー「understudyclub」について
BUYMAのパーソナルショッパーである「understudyclub」は、本件商標権者である。「understudyclub」は、2018年4月10日にBUYMAで事業者登録し、韓国のデザイナーズブランドを中心とする各種デザイナーズブランドの販売活動を行っている(甲25)。2022年11月時点で「understudyclub」はBUYMAに約26280件もの出品を行っている(甲25)。
c 「understudyclub」が「HOLY IN CODE」の商品を販売していた事実
BUYMAにおける「understudyclub」の「お知らせ」欄には「当店は取り扱っているデザイナーズブランドと直接契約をし、買い付けをしている」と記載されている(甲25)。そして、「understudyclub」は、引用商標が付された申立人の商品について、韓国デザイナーズブランドの商品と紹介した上で、本件商標出願(出願日:2021年7月14日)の2日前の2021年7月12日の時点で、小売りを行っていた(甲29)。
エ 本件出願時の出願人の不正の目的
上記の事実から、本件商標権者は、引用商標が韓国風ファッションブランドを好む日本の需要者の間で知られていることに着目し、申立人の商品を仕入れて、韓国デザイナーズブランドと紹介したうえで、パーソナルショッパー「understudyclub」の名前でBUYMAに出品、販売を行っていたといえるから、本件商標権者は、引用商標が、韓国において人気を有する申立人の商標であることを十分に認識していた。
そして、申立人が日本でまだ商標出願していないことを奇貨として、本件商標について商標出願を行った本件商標権者の行為には、日本において、申立人の製品を独占的に販売する地位を得ようとする意図があることは明らかで、本件商標の登録出願は不正の目的をもってされたものである。
また、「understudyclub」は、韓国系ファッションブランドの販売を行っている事業体であるから、本件商標の査定時においても、上記事業体を運営する本件商標権者が、上記意図を継続して保有していたことに疑いの余地はない。
よって、本件商標権者は、本件商標登録の出願時においても査定時においても、不正の目的をもって本件商標を使用していたものである。
オ 本件商標権者の従業員からの電話の内容
本件異議申立て後の2022年9月14日に、本件商標権者の従業員から申立人に本件商標権の買取りを持ち掛ける電話がかかってきている。申立人は、電話内容を録音した音声データ、及び録音内容を速記事務所に依頼して文字に起こした書面「録取録」を提出する(甲30)。
「録取録」によると、本件商標権者の従業員は、本件商標の登録出願時に、本件商標権者が引用商標「HOLY IN CODE」を窃取目的で出願していることを認めているので、不正の目的をもって本件商標を使用していたことは明らかである。
カ 本件商標権者による他社の未出願商標の先取り出願について
本件商標権者は7件の日本商標出願を行っていて、7件中5件の出願に係る商標は他人の韓国ファッションブランド又はオンラインプラットフォームの名称である(甲31)。
本件商標権者は、韓国において商品を仕入れる際に、引用商標も含む上記5件の商標の存在を知り、日本でまだ商標登録出願されていないことを奇貨として、自社が日本において韓国流ファッションブランドの商品を有利に販売出来るようになることを期待して、先取りするために出願したものである。
(4)まとめ
上述のとおり、本件商標の登録出願日前から本件商標権者は引用商標が付された申立人の商品を仕入れて販売していて、引用商標が申立人の商標であることを十分に認識しているにも関わらず、申立人が日本でまだ商標出願していないことを奇貨として、引用商標と同一の称呼が生じる本件商標について商標出願を行ったものであり、本件商標の登録出願時及び登録査定時に「不正の目的」を持って本件商標の使用の意思を有していたことは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類否について
上記2(1)のとおり、本件商標は、引用商標に類似する商標である。
(2)本件商標に係る指定役務と申立人の業務に係る商品及び役務の対比
ア 本件商標に係る指定役務
本件商標に係る指定役務は、第35類の「身飾品・かばん類・財布・被服・靴・靴下・ベルト・帽子の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供」である。
イ 申立人の業務に係る商品及び役務
上述のように、申立人は、2019年5月1日に大韓民国で引用商標に係るファッションブランドを立ち上げ、被服等の小売業を営んでいる。
申立人は、公式ウェブサイト(韓国版及び日本版)等において「HOLY IN CODE」の商品である被服等の小売を行っている(甲12)。
ウ 小括
本件商標に係る指定役務は、「身飾品・かばん類・財布・被服・靴・靴下・ベルト・帽子の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供」であって、引用商標に係る申立人の業務「被服等の小売り」に係る商品及び役務と同一又は類似するものである。
(3)日本国内における引用商標の周知性について
2017年頃からいわゆる第3次韓流ブームが起こり、10代や20代の若者を中心に韓国文化全般に対する関心が広く高まった(甲32)。そのような第3次韓流ブームに後押しされ、日本においても申立人のブランド「HOLY IN CODE」への注目度も上がり、日本の複数のウェブサイト(韓国系ファッションブランドについてまとめて紹介する「まとめサイト」等)において人気のブランドとして紹介されるようになり(甲33)、日本においても韓国のファッションブランドについて関心を持つ人々に、広く知られる存在となるに至った。
申立人のブランド「HOLY IN CODE」は、全国的な広がりとまではいえないものの、ストリート系ファッションという嗜好者が一定層に限定される分野においては、需要者の間で十分に知られた周知なブランドに育っていった。
申立人の公式ショッピングサイトには日本語表記のページもあるので、日本人も商品を購入することが可能である。また、公式ショッピングサイト以外でも、ショッピングサイト「BUYMA」(甲25)やアジアのブランドを集めたオンラインセレクトストア「60%」(甲34)などを利用して、日本人も引用商標に係る商品を購入することが可能である。
そして、遅くとも本件商標の登録出願前には、日本でも韓国風ファッションのうちストリート系ファッションを好む若者を中心に、引用商標は広く知られたブランドとなった。
(4)まとめ
上述のとおり、本件商標は引用商標に類似し、本件商標に係る指定役務と申立人の業務に係る商品及び役務は同一又は類似する。
また、引用商標は、本件商標の登録出願日前から日本においても、特に韓国系ファッションブランドを好む若者に広く知られていていた。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本件商標の出願の経緯
仮に引用商標の周知性が認められないようなことがあったとしても、申立人は現代的なビジネス手法であるSNSを駆使して日本を含む東アジアにおける需要者獲得及び販路拡大のために継続的に営業努力を行ってきており、引用商標は少なくともターゲット層である10代や20代の東アジア圏の韓国ストリート系ファッションブランドを好む需要者の間では、一定程度の周知著名性を獲得しているものである。
一方で、本件商標権者は、引用商標に係る商品を申立人から購入した上で、自社サイト又は他社サイトで引用商標を韓国デザイナーズブランドと紹介して第三者に継続的に販売を行い、引用商標が他社の商標であることを十分に認識していたにも関わらず、日本において引用商標が登録出願されていないことを奇貨として、自ら商標出願を行ったものである。
また、本件異議申立て後、本件商標権者の従業員から申立人に本件商標権の買取りを持ち掛ける電話があった(甲30)事実からすれば、本件商標権者は、いずれ本件商標を買い取らせる目的で、本件商標の登録出願を行ったものである。
(2)先取出願する前に、本件商標権者が出願商標に類似する商標を付した商品を販売していた事実
本件商標権者は他社の未出願商標5件について先取り出願を行っているところ、その中の下記アないしエに係る4件の商標を付したブランドの商品について、本件商標権者は、BUYMAにおいてパーソナルショッパー「understudyclub」の名前で販売していた。
また、上記4件中3件について、商標出願の日前から、本件商標権者はBUYMAにおいて「understudyclub」の名前で、商品を販売していた。
上記4件の商標は特色のあるブランドとして、早くから韓国ファッションブランドを取り扱う通販サイト等でも注目されてきたものである。
ア 「HOLY IN CODE」(甲39)。
イ 「Raucohouse」(甲40)。
2022年1月末の時点では、BUYMAの「Understudyclub」のページのプロフィール欄には、「understudyclub」が出品することの多いブランドとして、「Raucohouse」と明記されていた(甲41)が、現在では削除されている(甲25)。
ウ 「OPEN THE DOOR」(甲42)。
2022年1月末の時点では、BUYMAの「Understudyclub」のページのプロフィール欄には、「understudyclub」が出品することの多いブランドとして、Open the Doorと明記されていた(甲41)が、現在では削除されている(甲25)。
エ 「HI FI FNK」(甲43)
2022年1月末の時点では、BUYMAにおける「HI FI FNK」のページには、「HI FI FNK」が得意なパーソナルショッパーの第1位に「understudyclub」が記載されていた(甲43)。
オ 本件商標権者は、上記4件の韓国ファッションブランドが日本の若者において周知であることに着目し、商品を販売していたものである。よって、本件商標権者は、上記4件の韓国ファッションブランドが他人の商標であることを十分に認識していたにも関わらず、上記各ブランドが日本への商標出願を行っていなかったことを奇貨として、自社の名義で日本への先取りの商標出願を行ったものである。
本件商標権者のかかる行為は1件の商標出願に限った一過性のものではないため、本件商標権者には他人の周知商標を不正の目的を持って先取り出願するという「悪意の商標出願の常習性」があることを示している。してみれば、本件商標権者が今後も「不正の目的」を有する商標出願を続けることがうかがわれ、強く懸念されるものであり、決して看過することはできない。上記の5件の商標出願の経緯に鑑みれば、本件商標の登録出願は適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為というべきである。
(3)まとめ
本件商標の登録出願が社会の一般的道徳的観念に反する剽窃的意図という不正の目的をもって行われたことは明白であり、このような経緯による商標出願に係る商標の登録を容認することは、申立人の所有に係る引用商標に化体した業務上の信用を失墜させるものであるばかりでなく、海外において一定程度の周知性を備えた商標について日本国内における悪意を有する第三者による商標登録を容認することにほかならない。
本件商標に係る出願は、社会的相当性を著しく欠く行為であって、本件商標の登録を認めることは商標法の予定する法秩序に反するものである。
よって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
5 むすび
本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号、同項第10号及び同項第7号の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきである。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知著名性について
(1)韓国における周知著名性について
ア 申立人は、引用商標が申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、韓国における需要者の間に広く認識されている旨主張する。そこで、以下、検討する。
イ 申立人による主張及び当該主張に対する検討
(ア)申立人は、「HOLY IN CODE」の文字をウェブサイト名とした公式ショッピングサイトを通じて被服(以下「取扱商品」という。)の小売(以下「使用役務」という。)を行っている(甲12)。
(イ)申立人は、2019年5月1日に、大韓民国において、ストリート系のファッションブランドとして、引用商標の使用を開始した旨主張する。
もっとも、その裏付けとする甲第4号証の1及び甲第4号証の2には、2019年7月22日の日付と同年8月2日の日付が確認できるほか、韓国語の文字が記載されていることは確認できるものの、引用商標である「HOLLY IN CODE」の文字は見られない。
したがって、当該資料によっては、上記時期に申立人による韓国語でのブランドの使用があった可能性があるとしても、引用商標の正確な使用開始時期を特定することはできない。
(ウ)申立人は、公式ショッピングサイト(甲12)やInstagramに重点をおいたSNSで、取扱商品の広報、販売を行っている(甲10)ほか、月56万円〜69万円の広告費用を支出、Instagramの公式アカウントヘの1日あたりのアクセス数は3500、公式ショッピングサイトへの1日あたりのアクセス数は2500である旨主張する。
もっとも、公式ショッピングサイトやInstagramでの引用商標の使用は確認できるとしても、上記広告費用やアクセス数を具体的に示す証拠は提出されていない。また、当該数値(広告宣伝費用、アクセス数)が韓国における同業者における平均的な数値と比較してどの程度の量であるのかも不明である。
(エ)申立人は、Instagramの公式アカウントにおいて、フォロワー数が10万人以上いるインフルエンサー12名と連携して、申立人に係る取扱商品を着こなす画像を多数掲載する(甲11)などの広告・販促活動を行っている旨主張する。また、ファッションブランド184社のInstagramのフォロワー数の中央値が約3.6万人である(甲13)ところ、2022年10月時点における申立人の公式アカウントのフォロワー数は、約6.6万人である(甲10)ことが確認できる。
もっとも、甲第11号証において、インフルエンサーとおぼしき人物が写っている画面に、引用商標が使用されていることを確認することはできない。また、184社のInstagramのフォロワー数については、中央値は約3.6万人であるが、平均値は申立人のアカウント数の2倍近い約12.7万人である(甲13)から、申立人の公式アカウントのフォロワー数は、決して大きな数値とみることはできない。したがって、インフルエンサーの活動や申立人のInstagramのフォロワー数をもって、引用商標の知名度が高いとみることは困難である。
(オ)申立人は、申立人に係る取扱商品を、2020年から2022年にかけて、毎年2万点後半ほど、韓国において販売している(甲15の1〜3)ものの、韓国のファッション業界におけるシェアや位置(ランキング等)が不明である。また、各年の売上点数が、上記(エ)の公式アカウントのフォロワー数を下回っていることからすると、フォロワーの数が購買行動に直結しているとはいえないものであり、全てのフォロワーの引用商標に対する支持や愛着の度合いが等しいものと考えることはできないというべきであるから、この点においてもフォロワー数をもって、引用商標の知名度を推し量ることは困難というべきである。
ウ 判断
上記イによれば、引用商標は、その正確な使用開始時期を特定することができない上、申立人が積極的に宣伝広告を行っているとするInstagramでの活動については、具体的な証拠が示されていないか、引用商標が使用されていることを確認できないものである。また、Instagramの公式アカウントのフォロワーが一定程度存在することは確認できるものの、その数がファッション業界の平均値よりも少なく、またフォロワーの数が購買実績に直結していないことから、全てのフォロワーの引用商標に対する支持や愛着の度合いが等しいとみることはできないため、フォロワー数のみをもって知名度が高いということはできない。さらに、申立人に係る取扱商品の売上点数については、韓国のファッション業界におけるシェアや位置(ランキング等)が不明である。
以上からすると、引用商標が韓国において一定程度使用されていることは確認できるものの、その知名度が高いと見て取ることはできない。
したがって、引用商標が、申立人の業務に係る取扱商品又は使用役務を表示するものとして、韓国における需要者の間に広く認識されていると認めることはできない。
(2)台湾における著名性について
申立人は、引用商標が、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、台湾における需要者の間に広く認識されていると主張し、その根拠として公式ショッピングサイトが台湾の言語にも対応しているほか、注文実績を示している。
もっとも、その品目数は、2020年から2022年10月にかけて毎年300点に満たないほど(甲16の1〜3)であり、市場におけるシェア等は示されていないものの、多数受注されているとはいい難い。そのほか、引用商標が周知著名であることを示す資料は提出されていない。
したがって、引用商標が、申立人の業務に係る取扱商品又は使用役務を表示するものとして、台湾における需要者の間に広く認識されていると認めることはできない。
(3)日本国内における周知著名性について
申立人は、引用商標は、日本においても周知であると主張し、その根拠として、2017年頃からの第3次韓流ブーム(甲32)に後押しされて引用商標も注目されたこと、複数のまとめサイトで引用商標が紹介されていること(甲33の1〜3)、公式ショッピングサイト(甲12)が日本語でも対応していること、他のショッピングサイト等(甲25、甲34)を利用して、日本人も引用商標に係る取扱商品を購入することが可能であることを挙げている。
もっとも、まとめサイトでは、複数ある韓国ブランドの一画として紹介されているにすぎないもの(甲33の1、甲33の3)や、「日本初上陸をすることとなった」と紹介されている(甲33の2)ことから、引用商標の知名度が日本国内に浸透していると推し量ることは困難なものなどであり、これらから引用商標が我が国で周知著名であると認めることはできない。
また、上記公式ショッピングサイト(甲12)や他のショッピングサイト等(甲25、甲34)を含め、日本国内における取扱商品の販売量、市場におけるシェア、使用地域、宣伝広告の実績等は何ら示されていない。
以上からすると、日本国内において、引用商標が一定程度使用されていることは確認できるものの、その知名度が高いと見て取ることはできない。
したがって、引用商標が申立人の業務に係る取扱商品又は使用役務を表示するものとして、日本国内における需要者の間に広く認識されていると認めることはできない。
(4)小括
上記(1)ないし(3)のとおり、引用商標は、韓国、台湾又は日本国内において、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていると認めることはできないものである。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
上記1(3)のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、日本国内の需要者の間に広く認識されているとはいえないものである。
したがって、本件商標が、引用商標と同一又は類似であって、その取扱商品又は使用役務と類似する役務について使用をするものであるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)著名性について
上記1のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されているとは認められないものである。
(2)不正の目的について
ア 申立人は、無数にある選択肢の中から造語である引用商標と同一のつづりである本件商標を偶然に商標として採択したということは考えにくいこと、本件商標権者と実質的に同一事業主体である「UNDERSTUDY CLUB」(甲20〜甲24)がショッピングサイト「BUYMA」において、申立人の取扱商品を、韓国デザイナーズブランドの商品と紹介した上で、本件商標出願の2日前に販売していたこと(甲25、甲29)、本件商標権者が行っている商標登録出願7件中5件の出願に係る商標は他人の韓国ファッションブランド等の名称であること(甲31、甲39、甲40、甲42、甲43)、本件異議申立ての後に本件商標権者の従業員から申立人に対して本件商標権の買い取りを持ち掛ける電話がかかってきたこと(甲30の1〜3)を主な根拠として、本件商標権者が不正の目的をもって行った旨主張する。
イ もっとも、上記1のとおり、引用商標が申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と認められないことに加え、申立人の主張及び証拠からは以下の点がうかがえる。
(ア)申立人は、本件異議申立て後に本件商標権者の従業員から申立人に対して本件商標権の買い取りを持ち掛ける電話がかかってきた旨主張しているところ、当該従業員は、本件商標の商標権を持っている理由がないため、商標権を返す、譲渡する、等の説明をしているものの、金銭等の対価を要求する発言は見られない(甲30の3)。
(イ)申立人は、日本からの注文も増えてきたことに鑑み、2021年7月16日に日本で商標登録出願を行い(甲18)、2022年2月28日に本件商標を引用した拒絶理由通知書を日本国特許庁から受け、その時点で本件商標の存在を知った旨主張する(上記第3 2(3)ア)ところ、いい換えれば、2021年7月16日以前の日本における取引開始から拒絶理由通知書の受領の時点まで日本国内での事業に支障があって本件商標の存在を知ったというものではなく、さらにはその後においても、本件商標権者が、申立人の日本国内における事業を阻害したり、上記(ア)を除き申立人に積極的に連絡してきたりするといった事情はみられないことから、本件商標権者が商標の買取りや申立人の国内参入を阻止しようとした事実は確認できない。
(ウ)その他、本件商標権者が、申立人の日本進出に関する具体的計画や事業規模拡大の計画を有しているといった事実や、引用商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させる目的を有していたとみるべき事情も見られない。
ウ 上記イよりすれば、たとえ本件商標権者が引用商標の存在を知っていたと推認させる事実があるとしても、申立人に対して金銭等の対価を要求したり、申立人の国内参入を阻止したりするといった事情は見られない。また、本件商標の登録出願の意図が不正目的以外の目的(例えば、第三者による商標登録の防止や出願そのものが目的化した行動)も排除できないことをも考慮すると、本件商標権者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を登録出願したと認めることはできない。
(3)小括
上記(1)のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とはいえない。
また、上記(2)のとおり、本件商標は、不正の目的をもって使用するものとはいえない。
したがって、本件商標が引用商標と同一又は類似であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
上記1のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とはいえない。
また、上記3(2)のとおり、本件商標の登録出願の経緯において、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を登録出願したと認めることはできない。
そうすると、本件商標は、引用商標等の知名度や名声にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできず、また、本件商標が、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないというべき事情は見いだせないものである。
さらに、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激又は他人に不快な印象を与えるようなものでもない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号及び同項第19号に違反してされたものではなく、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲

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異議決定日 2023-08-29 
出願番号 2021094603 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W35)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 鈴木 雅也
特許庁審判官 茂木 祐輔
渡邉 あおい
登録日 2022-06-16 
登録番号 6572613 
権利者 株式会社SWIPE
商標の称呼 ホーリーインコードホーリーインコード、ホーリーインコード、ホーリー、インコード、ホリーインコード、ホリー 
代理人 弁理士法人太陽国際特許事務所 

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