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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W12
管理番号 1397326 
総通号数 17 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-21 
確定日 2023-02-28 
異議申立件数
事件の表示 登録第6464513号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6464513号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6464513号商標(以下「本件商標」という。)は、「Toptrek」の欧文字を標準文字で表してなり、令和3年1月6日に登録出願、第12類「オートバイ,オートバイ・自転車,陸上の乗物用の方向指示器,自転車用スタンド(キックスタンド),泥よけ,自転車用ペダル,自転車用空気ポンプ,オートバイ・自転車用サドル,チューブ修理用具,自転車用ドレスガード,自転車用フレーム,自転車用サドルカバー,自転車用かご,二輪自動車・自転車用パニヤ,自転車専用サドルバッグ」を指定商品として、同年10月14日に登録査定、同年11月1日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録第2381687号の1商標(以下「引用商標」という。)は、「TREK」の欧文字を書してなり、昭和63年9月29日登録出願、平成4年2月28日に設定登録された登録第2381687号商標について、同7年9月25日に商標権の分割移転がされ、その後、同16年7月7日に指定商品を第12類「二輪自転車用フレーム,二輪自転車用ハンドル,二輪自転車用ハンドルステム,二輪自転車用ハンドルの握り,二輪自転車用シートの支柱,二輪自転車用シート,二輪自転車用タイヤ,二輪自転車用タイヤチューブ,二輪自転車用ウオーターボトル,二輪自転車用ウオーターボトルかご,二輪自転車用荷台,二輪自転車用ラック,二輪自転車用修理用具,二輪自転車用キャリーラック,二輪自転車用かばん,二輪自転車用パック,二輪自転車用警報装置,二輪自転車用フェンダー,その他の二輪自転車およびその附属品」とする指定商品の書換登録がされ、現に有効に存続しているものである。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第90号証(枝番号を含む。以下、枝番号のすべてを示すときは、枝番号を省略する。)を提出した。
(1)引用商標の著名性について
ア 申立人の沿革及び申立人の製造・販売に係る二輪自転車の世界的な名声
申立人は、米国において1976年に設立された、米国ウイスコンシン州ウォータールーに本社を置く、世界最大規模の二輪自転車の製造・販売メーカーである(甲3、甲4)。
1976年の法人設立以降、申立人が製造・販売した二輪自転車はすぐに評判を呼び、製造が追いつかなくなるほど順調に売り上げを伸ばしていく中で、1982年からはロードレース用の二輪自転車の生産も開始し、1983年にはマウンテンバイクの生産も開始した。以降、ロードレース用自転車分野においては、世界王者のランス・アームストロングが、1999年のツール・ド・フランスで申立人の上位モデルの二輪自転車に乗って初優勝し、それ以降、7年連続でツール・ド・フランスを制覇するなど、これまでに幾度も優勝に貢献してきた。また、他の世界的なロードレースにおいても、madoneシリーズなどの申立人の上位モデルの自転車が優勝選手によって使用されていることから、申立人の自転車は、プロの自転車競技者から絶大な信頼を得ており(甲3)、今や日本を含む世界の自転車愛好家らがあこがれる世界的な自転車ブランドの一つとなっている(甲3〜甲5)。
現在、申立人は、マウンテンバイクを世界で最初に製造したGary Fisher(ゲイリー フィッシャー)や、自転車部品で需要者からの高い信頼を得ているBONTRAGER(ボントレガー)などの有力ブランドを傘下に持ち、米国では1700以上の販売店を通じて、スポーツバイク、すなわち、スポーツ用自転車で長らく全米No.1の地位を獲得している(甲3、甲4)。
また、申立人は、ヨーロッパやアジア圏でも子会社や代理店を通じて自己の製造する自転車及びその関連商品を販売しており、現在では、全世界90か国以上で販売を行っている(甲3)。
さらに日本においては、平成3年(1991年)に日本法人、トレック・ジャパン株式会社(以下「トレックジャパン社」という。甲8)を設立し、それ以降30年に渡って販路を拡大してきた結果、現在では、自己の製造に係る自転車及びその関連商品を取り扱う直営店を全国に22店舗有するに至り(甲9)、また、当該直営店を含む申立人の正規販売店は280以上にものぼっている(甲10)。
イ 申立人の製造・販売に係る二輪自転車の販売状況と種類
申立人は、世界中のプロ自転車競技者及び自転車愛好家からの絶大な信頼とその周知性を活かし、世界的に著名な自転車競技者が使用する高性能で高額な「ハイエンド」な自転車(50万円以上の価格帯)はもちろんのこと、アマチュアの自転車愛好家が使用する「ミドルレンジ」の自転車(20万円から40万円)、さらには自転車競技初心者や、通勤・通学者及び子供向けを含む広く一般向けの「エントリー」と呼ばれる比較的手ごろな価格帯の下位モデルの自転車(数万円〜20万円以下)まで、幅広い需要者をターゲットとしたビジネスを世界中で展開している(甲11、甲12)。
申立人の取り扱う自転車の種類や対象需要者の幅広さは、「2020年−世界のトップ自転車ブランド」(甲5)と題されたインターネット記事において、1番目にその名を挙げられていることでも証明されている。当該記事によれば、トップブランドを選出する基準として、幅広く需要者に浸透しているかが重視されており、製造モデル数の多さ、幅広いサイクリングスタイルやニーズに対応しているか、また、ロードバイク、マウンテンバイクのいずれも製造しているか、製造に係る自転車の価格の多様性等、種々の観点から評価が行われ、申立人が全ての価格帯の幅広い種類の自転車を提供している点、また男性向けのみならず、女性向け及び子供向けの自転車まで製造・販売している点、従来のペダル式自転車だけでなく、電動マウンテンバイクなども製造している点、そして、数万円から数百万円までの幅広い価格帯の自転車を製造・販売している点(甲5)等が1番目に名前を挙げられる程の高評価につながっているといえる。
そのような多様な種類の商品提供は日本でも同様になされており、高額・高性能なプロ向けの自転車のみならず、アマチュアの自転車愛好家や一般需要者向けのミドルレンジの自転車(甲5、甲13)、さらには一般需要者向けエントリーモデルの自転車として、子供向け(甲14)、中・高・大学・大学院・専門学校生向け(甲15、甲16)、通勤にも使用可能な社会人向け(甲16)等と種類豊富に販売されている。
ウ 申立人の「TREK」製品の日本における売上高及びスポーツバイクにおける市場占有率
(ア)日本における申立人の自転車及び自転車用部品・附属品の総売上高は、2017年、約36億8,076万円、2018年、約42億9,561万円、2019年、約45億2,097万円、2020年、約54億8,891万円、2021年、約58億553万円である(甲17)。
(イ)2020年の年間統計(自社調べ)によれば、日本におけるスポーツバイクの分野での申立人の市場占有率は、9.9%の第2位となっており、第1位とは、0.2%の僅差である(甲18)。
国内の自転車の市場規模は、2018年で1,281億円であるところ(甲19)、年間統計(自社調べ)によると日本のスポーツバイクの市場規模は2020年で550億円を超えており、そうとすると、日本の自転車の市場のうち、スポーツバイクの分野がいかに大きい比重を占めるか、想像に難くないところである。
エ 申立人の「TREK」製品に係るマーケティング費、宣伝広告例、及び第三者による申立人商標の紹介記事等
2017年から2021年の日本における申立人のマーケティングに係る費用(広告費の他、システム使用料、翻訳費、人件費等も含む)は、2017年、約1億6,967万円(149万9千USドル:甲20)等、申立人は、宣伝広告費を含むマーケティング費用として、日本でも毎年2億円前後を費やしており、自己の製品について様々な媒体を通じて積極的に広告宣伝活動を行っている(甲21〜甲48)。
また、申立人及び申立人の業務に係る自転車の情報については、第三者によるインターネットニュース記事や紹介記事、ブログ等で多数発信されており(甲49〜甲61)、これらは申立人自身が行っている広告宣伝活動ではないとしても、現在のインターネット社会においては、取引者・需要者に対して決して無視できない影響力を発揮している。
オ 自転車及び自転車用部品における他人による申立人の商標と同一又は類似する標章の使用の有無及び使用状況について
自転車の完成品・部品等の世界23か国の500近くに上る自転車及び自転車部品のメーカーの一覧リストによれば、申立人の引用商標及び著名な略称である「TREK」及び「トレック」の文字を含む商号を持つ自転車メーカーは日本のみならず世界中を見ても申立人のみである(甲62)。
そうとすると、日本のみならず世界中の自転車メーカーの名称を見ても、自転車及び自転車用部品における他人による申立人の商標「TREK」と同一又は類似する標章が使用されている可能性は著しく低いと推測されるから、申立人の商標「TREK」の顕著性・固有性は極めて高い状況であることが伺える。
カ 取引者・需要者の申立人及びその製品に対する認識度を調査したアンケート結果や申立人の影響力について
申立人の引用商標の周知性・著名性及びその品質に対する取引者・需要者の厚い信頼は、取引者・需要者向けのアンケート結果(ロードバイクにおけるネット上の人気ランキングの結果)にも表れている(甲63〜甲67)。
また、雑誌社主催の自転車の購入予定ブランドのランキング結果、お薦めモデルのランキング結果、及びロードバイクについての「日本バイシクル・オブ・ザ・イヤー」のノミネート結果等(甲68、甲69)を見ても、「TREK」ブランドは取引者・需要者から絶大な信頼を得ていることが伺える。
さらに、申立人の日本法人であるトレックジャパン社が2016年に外部委託して行った「スポーツ自転車の購入検討ブランド」についての需要者アンケートによれば、「TREK」ブランドは「スポーツ自転車を購入する際に検討候補となったブランド」で3位に、「実際に購入したスポーツ自転車のブランド」で2位となっている(甲70)。
上記を総合勘案すると、10年以上前から日本の需要者の間では「TREK」ブランドが広く浸透しており、かつ、直近5年間の年間売上高が年々増していることからも、このような状況が長らく維持されていると判断できる。
また、申立人は、自転車分野における世界のトップブランドであることに甘んじず、自転車製造時における環境負荷の軽減や再生可能エネルギーの利用促進、及び新しい自転車用の公共トレイルの開発や土地の保全、シェアバイクの利用拡大など、企業全体として環境問題に真正面から取り組んでいる(甲71)。このような企業としての姿勢は、単に商品の売上高や宣伝広告費等のみから直接的に導き出される価値や影響力だけではなく、取引者・需要者を含む社会全体にとっての大きな価値や強い影響力が生じるといえ、申立人の社会への影響力の大きさは、申立人が米国の有名雑誌「TIME」による「TIME 100 MOST INFLUENTIAL COMPANIES 2022」に選出され、評価されているところからも伺い知れるところである(甲72)。
キ 世界各国において申立人が保有する商標登録について
申立人は、引用商標について、130を超える国と地域で合計230件以上の各国商標登録を有しており(甲73)、申立人の自己のブランドに対する強い権利意識と各国の商標登録を保持し続ける努力が見て取れる。
ク 外国の無効審決及び異議決定における申立人商標の著名性の認定
引用商標は、米国はもとより、フランス、チェコ共和国、中国を含む諸外国においても自転車及びその関連商品について周知・著名であるとの判断を多数受けている(甲74〜甲83)。
ケ 小括
以上の事実によれば、引用商標は、申立人のハウスマークとして、本件商標の指定商品中、自転車又は少なくともスポーツ用自転車及びその関連商品について長年広く使用されてきた結果、現在のみならず、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、申立人の業務に係る商品を表示するものとして日本及び諸外国における取引者・需要者の間で広く認識されていたことが明らかである。
(2)商標法第4条第1項第11号の該当性について
ア 本件商標は、「Toptrek」の欧文字から構成された、「Top」の文字部分と「trek」の文字部分とからなる結合商標であるといえるが、その構成中「trek」の文字は、上記のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、本件商標の指定商品の取引者・需要者の間において、申立人のブランド名及び略称を示すものとして広く認識されていたものといえるのに対し、「Top」の欧文字は、「いちばんの上の」や「最高の」等を意味する極めて日常的、かつ、平易な英単語(形容詞)であり(甲84)、本件指定商品については、その品質を普通に用いられる方法で表示するものと把握するのが相当で、極めて識別力が弱く、商品の出所識別標識としての称呼及び観念は生じないというべきである。
そうとすると、「Top」の文字部分と「trek」の文字部分とは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないといえる。
また、本件商標が、特に「自転車」や「自転車用サドル」等の自転車関連商品について使用された場合には、本件商標中の「trek」の文字部分が自転車又は少なくともスポーツ用自転車のブランド名として周知・著名であることから、取引者、需要者に対し、上記商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるというべきである。
そうとすれば、本件商標からその要部である「trek」を抽出し、引用商標と対比させることは許されるべきであるから、本件商標からは、「トレック」の称呼及び「自転車を中心として展開している申立人の業務に係るTREKブランド」又は「申立人の著名な略称であるTREK」との観念が生じるといえる。
イ 引用商標は、「TREK」の欧文字よりなり、当該欧文字に相応して、「トレック」の称呼及び「自転車を中心として展開している申立人の業務に係るTREKブランド」又は「申立人の著名な略称であるTREK」との観念が生じる。
ウ 両商標の類否について
本件商標からその要部である「trek」を抽出した場合、本件商標の要部である「trek」と欧文字の「TREK」を横書きしてなる引用商標は、外観はわずか大文字と小文字の差しかない上、両商標からは互いに「トレック」との称呼が生じる。
また、上記のとおり、申立人の「TREK」ブランドは、自転車又は少なくともスポーツ用自転車及びその関連商品について周知・著名であるといえるから、本件商標の要部である「trek」及び引用商標からは、共に「自転車を中心として展開している申立人の業務に係るTREKブランド」又は「申立人の著名な略称であるTREK」との観念が生じるものである。
以上のとおり、本件商標の要部と引用商標は、外観、称呼及び観念を共通にしており、本件商標が、その指定商品である「自転車」及び自転車関連商品について使用された場合は、引用商標と出所混同のおそれがあるということができるから、本件商標と引用商標は類似する。
エ 過去の判決例
本件商標のように標準文字で一連に記載されたものであっても、それぞれがいくつかの文字等を組み合わせた結合商標と解されるもので、かつ、その一部が需要者に対して、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである場合に、当該一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否判断を行うことは許されるべきである(甲85、甲86)。
オ 本件商標と引用商標の指定商品について
本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが、同一又は類似するものであることは明白である。なお、本件商標の指定商品中「チューブ修理用具」については、スポーツ用自転車を含む自転車のメンテナンスにおいて使用されるものであり、一般的又は専門的な自転車店で販売されていることも多く、需要者の範囲も一致しているから、引用商標の指定商品と類似するというべきである。
カ 小括
したがって、本件商標と引用商標は、全体として類似するというべきであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号の該当性について
ア 引用商標の周知著名性について
引用商標の周知著名性については上記(1)のとおりである。
イ 本件商標と引用商標の類似性の程度について
本件商標と引用商標は、上記(2)のとおり、同一の称呼・観念を生ずるわけであるから、両商標の類似性は極めて高いというべきである。
なお、仮に本件商標からその文字どおりに「トップトレック」の称呼が生じたとしたとしても、申立人が、自転車の製造・販売において全米1位のシェアを誇り、世界のトップ10のブランドの一つにも挙げられることを踏まえれば、「自転車を中心として展開している『最高の(又はいちばん上の)』申立人の業務に係るTREKブランド」程の意味合いとなるため、本件商標がその指定商品に使用された場合は、本件商標に接する取引者・需要者は、申立人又は申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認するおそれがあるといえる。
ウ 引用商標がハウスマークであるかについて
引用商標「TREK」が、申立人の名称である「TREK BICYCLE CORPORATION」のハウスマークであることは明らかである。
エ 企業における多角経営の可能性について
申立人は、少なくとも米国においては、スポーツ用自転車及びその関連商品のみならず、サイクリング用・フィットネス用のTシャツやトップス、サイクリング用の靴下、サイクリングで使用可能なダウンベスト・ダウンジャケット・帽子、さらにはタウンユースにも利用可能なリュックサックなど、自転車と関連する商品をオンラインにて販売しており(甲87)、この事実に照らせば、申立人が、本件商標の指定商品中、スポーツ用自転車以外の自転車やその関連商品及び「チューブ修理用具」等について商品展開を行う可能性は十分にあるといえる。
オ 商品間の関連性と商品の需要者の共通性について
本件商標の指定商品には、申立人の業務に係る商品と同一・類似の商品が含まれているから、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品とは極めて関連性が高いといえる。
また、両商標の指定商品の需要者は、自転車愛好家や同競技者、スポーツ愛好家、アスリート、さらには一般消費者とほぼ同一である。
なお、申立人の業務に係る商品の中には50万円を超えるような高額な二輪自転車も多く含まれることから、申立人の業務に係る商品の需要者は、マウンテンバイク等の限られた分野に興味がある者や自転車愛好家、同競技者のみに限られるがごとく誤解されることがあるが、申立人の業務に係る商品の需要者は、スポーツ愛好家や一般消費者も幅広く対象としている(甲88、甲89)。
そうとすると、本件商標の指定商品の需要者と申立人の業務に係る商品の需要者が共通することは明白である。
混同を生ずるおそれについて
上記アないしオのとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、取引者・需要者の間に広く認識されていたものであり、引用商標がハウスマークであること、本件商標と引用商標の類似性の程度が極めて高いこと、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品との関連性が高く、その需要者を共通にすることからすると、本件商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する需要者は、引用商標を連想、想起して、あたかも当該商品が申立人又は申立人と経済的・組織的に何等かの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第8号の該当性について
申立人の名称は、「TREK BICYCLE CORPORATION(トレック バイシクル コーポレーション)」であり(甲3)、申立人の略称である「TREK」(又は「トレック」)の文字が、申立人の製造・販売に係る二輪自転車(又は少なくともスポーツ用自転車)及びその関連商品の商標として広く知られていることは既述のとおりである。
さらに、「TREK」が申立人の名称の著名な略称として普通に使用されていることも、甲第3号証他から明らかであり、インターネット上を見るだけでも、その証拠は枚挙にいとまがない。
よって、本件商標は、申立人の名称の著名な略称である「TREK」の文字を含む商標であるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第19号の該当性について
引用商標が、申立人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内及び外国において需要者の間に広く認識されている商標であることは上記(1)のとおりである。
次に、本件商標及び引用商標の両商標から「トレック」の称呼及び「自転車を中心として展開している申立人の業務に係るTREKブランド」又は「申立人の著名な略称であるTREK」の観念が生じ、もって、本件商標と引用商標が類似するものであることは、上記(2)のとおりである。
そして、本件商標権者はオンラインショッピングストア「Amazon」にて、「自転車用カバー」を販売している(甲90)が、これによれば、本件商標権者は、「Toptrek」と頭文字のみ大文字で残る文字は小文字の商標を出願・登録しているにも関わらず、「自転車用カバー」の側面に「TOPTREK」とすべて大文字で記載し、より引用商標の使用態様に寄せていること、また、商品説明には「自転車カバーの展開後のサイズは(中略)で、マウンテンバイク、ロードバイク、シティサイクル、電気アシスト自転車…」と、申立人の業務にかかる商品の中で特に需要者の間で広く知られている商品である「ロードバイク」や「マウンテンバイク」などを意識したかのように、自転車の種類としてこれらが最初に記載されていることがわかる。また、同証拠には、同様の自転車カバーが多数掲載されているところ、Liquidness,Bicycover,Yeedoop,creer,Ohuhu等、TREK又はその他の自転車についての著名な製造者・販売者の名称に寄せたネーミングはほとんど見られないことなどを考慮すると、本件商標権者は、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で、本件商標を採択・出願し、登録を受けたものと推認できる。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第7号の該当性について
引用商標が、自転車(又は少なくともスポーツ用自転車)及びその関連商品の商標及び申立人の名称の著名な略称として取引者・需要者の間で広く知られていることはすでに上記したとおりである。
また、本件商標権者が、「自転車用カバー」について「TOPTREK」と引用商標に表記を寄せる形で使用することにより、本件商標に接する取引者、需要者に引用商標を連想、想起させ、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で採択・出願し登録を受けたものと推認できる。
そして、本件商標をその指定商品に使用する場合には、引用商標の出所表示機能が希釈化され、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力、ひいては申立人の業務上の信用を毀損させるおそれがある。
そうとすると、本件商標は,引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標を模倣し、「Top」の語と一連一体に結合させることにより全体非類似と判断されやすくなるような態様で出願し登録を受けたもので、このような商標を保護することは、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(7)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきである。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
申立人の提出に係る証拠及び申立人の主張によれば、以下の事実が認められる。
ア 申立人は、米国に本社を置く自転車の製造・販売メーカーであり、1976年創業以来、北米・ヨーロッパ・アジアの子会社と代理店等を通じて、全世界90か国以上で自転車の販売を行っている(甲3)が、その売上高や販売数量等は具体的に確認できない。
イ 「クロスバイクStyle」(2014年3月6日発行:甲4)には、「世界最高峰のバイクを創る!!トレックがNo.1になるまで」の項に、「トレック・バイシクルは…今や押しも押されもせぬアメリカのNo.1自転車メーカーに成長した。」の記載がある。
ウ 申立人は、自転車競技者が使用する高性能で高額な「ハイエンド」な自転車(50万円以上の価格帯)から、アマチュアの自転車愛好家が使用する「ミドルレンジ」の自転車(20万円から40万円)、さらには自転車競技初心者や広く一般向けの「エントリー」の自転車(20万円以下)までの商品を製造・販売している(甲11、甲13〜甲16)。
エ Global Brands Magazineのウェブサイトには、「Top Bicycle Brands in the World−2020」の表題の下、「TOP 10 BIKE BRANDS」の項に「1.Trek Bicycle Corporation」と記載され、自転車のダウンチューブに「TREK」と表示されている(甲5)が、このウェブサイトの掲載日は確認できない。
オ 申立人の子会社であるトレックジャパン社のウェブサイトには、店舗一覧として22の直営店舗の写真が掲載されている(甲9)が、このウェブサイトの掲載日は確認できない。また、日本におけるTREKディーラー・販売店一覧表(甲10)は、2022年3月現在のものであり、本件商標の登録査定後のものである。
カ 自転車小売店のウェブサイト等(甲14〜甲16)においては、申立人の二輪自転車(子供向けや学生向け等)が販売されており、また、「ロードバイク」、「BiCYCLE CLUB」ほか自転車に関する専門雑誌(甲21〜甲32)において、「TREK」の表示とともに、申立人の二輪自転車(ロードバイク、マウンテンバイク等)が掲載されている。
キ 「AERA」(2020年5月25日、2014年12月1日発行:甲37、甲38)、「週刊朝日」(2014年12月5日発行:甲39)、「GetNavi」(2014年8月23日発売:甲40)、「MonoMax」(2013年1月、2009年12月:甲41、甲42)には、「TREK」の表示とともに、申立人のロードバイクやマウンテンバイク等が紹介されている。他の雑誌は、本件商標の登録査定後のもの、発行日が不鮮明のもの、本件商標の登録出願後のものである(甲33〜甲36)。
ク facebook、Instagram、twitter、YouTubeを通じて、申立人のロードバイク等に関する投稿の抜粋がある(甲43〜甲46)が、これらは主に、自転車愛好家等、自転車に興味のある者がアクセスするものといえる。
ケ 「TREK WORLD2019」という展示会レポート(甲47)には、「TREK」の表示とともに、申立人のロードバイク等が紹介されているが、当該展示会は販売店向けのものである。
コ 「Daiichi TV」のウェブサイトにおけるテレビ放送の内容紹介において、店舗の看板とおぼしきものに「TREK」の文字が表示されている画像及び申立人の二輪自転車が紹介されている画像が掲載されている(甲48)が、その放送日は、本件商標の登録出願後のものである。
サ 第三者によるインターネット記事等には、「TREK」の表示とともに、申立人のロードバイク等が紹介されている(甲49〜甲61)。
シ 「【ロードバイクブランド】人気ランキング」(甲63)では、TREK(トレック)が1位に位置しているが、このランキングの元となるアンケートに係る対象者の属性や回答方法等は確認できない。また、「ロードバイク人気メーカーランキングTOP30!」(甲64〜甲67)では、TREK(トレック)が2019年に2位、2018年に1位、2017年に3位、2016年に9位に位置しているが、このランキングはgoogle検索ワードを独自集計したデータを元にまとめたものである。
ス 「CYCLE MODE international 2011」及び「CYCLE MODE international 2013」の購入予定ブランドアンケートで1位及び5位となっている(甲68)が、その対象者は、スポーツバイクのイベントである「CYCLE MODE international」へ来場した自転車愛好家及び販売店関係者である。
セ 2018年〜2021年日本バイシクル・オブ・ザ・イヤーにおいて、申立人の商品がノミネートされているが、その対象となる二輪自転車はロードバイクのみであり、受賞したのは他社である(甲69)。
ソ スポーツ自転車の購入検討ブランドについての需要者アンケートにおいて、「スポーツ自転車を購入する際に検討候補となったブランド」で3位、「実際に購入したスポーツ自転車のブランド」で2位であるが、その対象となる二輪自転車はスポーツ自転車のみであり、アンケートの実施主体や実施時期、対象者の属性等は確認できない(甲70)。
タ 上記アないしソによれば、申立人は、会社設立の1976年以降、今日まで北米を中心に90か国以上において、引用商標を使用した二輪自転車(ロードバイク、マウンテンバイク等)を製造・販売していることが認められる。
しかしながら、申立人の製造・販売する二輪自転車は、ロードレース用のロードバイク、野山や林道を走るのに適したマウンテンバイク及びロードバイクとマウンテンバイクを組み合わせたクロスバイクが主であり、それらは一般の二輪自転車とは異なり、やや特殊な自転車ということができ、その販売価格も50万円以上と高額なものが多く、加えて、我が国においては、直営店及び正規代理店のみで販売されていること、また、子ども・学生・社会人向けの自転車が販売されているとしても、その販売台数等は確認できないことからすれば、一般の消費者を対象として広く販売されているということができない。
また、申立人の提出に係る甲各号証の雑誌のうち、その多くが自転車関係の専門誌であって、その購読者も自転車愛好家等に限定されるというべきものである。
そして、申立人は、「全米No.1の地位を獲得している」旨を主張しているが(甲4)、雑誌の記事中における記載のみであり、その裏付けとなる具体的な証拠の提出はない。
さらに、日本における自転車及び自転車用部品等の売上高、自社調べによる2020年のスポーツバイクの市場占有率(甲17、甲18)は、表のみであり、その裏付けとなる具体的な証拠の提出はなく、また、国内の自転車の市場規模が2018年に1,281億円である旨主張し(甲19)、スポーツバイクの市場規模が2020年で550億円を超えている旨主張しているが、後者の裏付けとなる具体的な証拠の提出はない。
さらにまた、日本における宣伝広告費を含むマーケティング費用として毎年2億円前後を費やしている旨(甲20)を主張しているが、表のみであり、システム使用料、人件費等を含むマーケティングに係る費用全般であって、広告費が具体的に確認できる証拠の提出はない。
その他、各国別の市場シェア、販売額及び販売数量等については、不明である。
してみれば、引用商標は、ロードバイク、マウンテンバイク等の限られた分野に興味のある者や当該自転車愛好家、同競技者の間において、申立人の業務に係る商品を表示する標章として認識されるにとどまるものというべきであって、その範囲を超えて、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国の取引者、需要者の間で広く認識されているとまではいうことができない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標は、上記1のとおり、「Toptrek」の欧文字よりなるところ、語頭のみを大文字で、それに続く文字をすべて小文字で表し、その構成各文字は同じ書体、同じ大きさで書されており、全体的にまとまりよく表され、外観上「trek」の文字部分のみが、特に強調されている態様でもないことから、本件商標は、その構成文字全体が一体のものとして看取されるものである。
そして、本件商標から生じる「トップトレック」の称呼も、冗長ではなく、これを称呼するときは、よどみなく一気に称呼できるものである。
さらに、本件商標の「Toptrek」の文字は、辞書等に載録されていない語であることから、全体として特定の語義を有しない一種の造語として認識、把握されるとみるのが相当である。
してみれば、たとえ、本件商標の構成中の「Top」の文字が、「一番の上の」や「最高の」等の意味を有するとしても、本件商標のかかる構成においては、指定商品の品質等を具体的に表示するものとはいい難いものであり、殊更に、その構成中の「Top」の文字部分を捨象して「trek」の文字部分のみに着目し、これのみをもって取引に資されるというよりは、むしろ構成文字全体をもって一体不可分のものとして認識、把握され、取引されるとみるのが自然である。
そうすると、本件商標は、その構成文字全体に相応して「トップトレック」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
他方、引用商標は、「TREK」の欧文字を書してなるところ、当該文字は「旅行,移住,のろのろ旅行する,骨の折れる旅行をする」等の意味を有する英語(「新英和中辞典」研究社)であり、当該文字に相応して「トレック」の称呼を生じ、「旅行」等の観念を生じるものである。
そうすると、本件商標と引用商標は、全体の構成文字数及び「Top」の文字の有無において明らかな差異を有し、外観において明確に区別でき、「トップ」の音の有無に差異を有する称呼においては、明瞭に聴別できるものである。そして、特定の観念を生じない本件商標に対して、「旅行」等の観念が生じる引用商標とは、その観念においても紛れるおそれがないといえるから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は、非類似の商標というべきである。
以上のとおり、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品が類似する商品であるとしても、本件商標と引用商標とは類似するとはいえないから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されているとはいえないものである。
また、上記(2)のとおり、本件商標は、引用商標と類似する商標とはいえない。
そうすると、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起することはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第8号該当性について
申立人の提出に係る証拠において、申立人の業務に係る商品「スポーツバイク」のブランドとして、引用商標を使用しているとしても、「TREK」の文字が、本件商標の登録出願時において、申立人の名称を指称する略称として使用され、認識されていると認めるに足りる証拠は見いだせず、また、上記(1)のとおり、「TREK」の文字からなる引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されているとは認められないものである。
してみれば、引用商標である「TREK」の文字は、「他人の名称の著名な略称」ということができない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第7号及び同項第19号該当性について
引用商標は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国の取引者、需要者の間において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたとは認められないものである。
また、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないことは明らかであり、さらに、社会の一般的道徳観念に反するなど、公序良俗に反するものというべき証左も見あたらない。
さらに、本件商標権者が、「自転車用カバー」に大文字の「TOPTREK」を使用しているとしても、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標権者が引用商標にフリーライドするなど不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる証拠は見いだせない。
そうすると、申立人が提出した証拠からは、本件商標権者が引用商標の名声を毀損させることを認識し、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当しない。
(6)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲

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異議決定日 2022-12-27 
出願番号 2021001103 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W12)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 小林 裕子
荻野 瑞樹
登録日 2021-11-01 
登録番号 6464513 
権利者 シェンツェン・トゥオトゥ・エレクトロニック・コマース・カンパニー・リミテッド
商標の称呼 トップトレック、トレック 
代理人 今井 貴子 
代理人 江成 文恵 
代理人 瀧野 文雄 
代理人 加藤 智子 

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