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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W092539
管理番号 1395479 
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-06 
確定日 2023-01-23 
異議申立件数
事件の表示 登録第6342261号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6342261号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第6342261号商標(以下「本件商標」という。)は、「BLUE ORIGIN」の欧文字を標準文字で表してなり、令和元年9月11日に登録出願、第9類「電気通信機器,電気通信機械器具用モジュール,オーディオ及びビデオ受信機,無線受信機,衛星用受信機,衛星放送の受信機,遠隔制御受信機,変調器,トランスミッター,デコーダー,科学用人工衛星,人工衛星,通信衛星」、第25類「被服,ガータ,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第39類「鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,ガスの供給,電気の供給,熱の供給,水の供給」を指定商品及び指定役務として、同2年12月23日に登録査定、同3年1月19日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立人の使用に係る商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は、「BLUE ORIGIN」の欧文字からなる商標(青色に彩色されているものも含む。以下「引用商標」という。)であり、「有人宇宙飛行用ロケット,衛星打ち上げ用ロケット,低空垂直飛行物体,被服,ペン,タンブラー」等の商品及び「ロケットによる人員の輸送」やこれに関連する役務に使用していると主張するものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第37号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを示すときは枝番号を省略する。)を提出した。
1 申立人について
申立人は、アメリカ合衆国のワシントン州に本拠を置く航空宇宙企業である。申立人は、2000年9月にオンライン通販世界最大手であるAmazon.com,Inc.(以下「Amazon社」という。)の創業者であるジェフ・ベゾスによって設立され、設立以来、ロケットの製造やロケットエンジン等の航空宇宙関連部品の製造、弾道宇宙旅行の実現のための実験などを数多く行い、その活動は世界中で広く注目を集めている。
2 商標法第4条第1項第10号違反について
(1)引用商標の周知性
ア 申立人は、ロケットの製造や打ち上げ等の領域を業とするものであって、これらは特殊専門的な事業であり、一般向けの旅客用ロケットがまだ実用段階には至っていないことからすると、引用商標の周知性判断に係る主たる需要者層は、一般的な国民ではなく、航空・宇宙関連産業従業者やこれらの分野に関わる学者、政府関係者等といえる。そして、これらの業界は性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されているといえるから、その点を考慮しつつ引用商標の周知性判断がなされるべきといえる。
また、申立人は、現在、日本国内で業務を行っておらず、申立人自らが商標の使用を行っているものではない。したがって、主として外国で商標として使用され、それが我が国において報道、引用された結果、我が国において周知となっているか否か、という観点を中心に検討する。
イ 申立人は、Amazon社の創業者であるジェフ・ベゾスによって設立され、オンライン通販世界最大手であり、ベゾス自身も世界長者番付で4年連続トップ(甲35)となるなど、その資金力は絶大である。それゆえに、同氏は申立人のロケット事業に繰り返し多額の自己資金を投入しており、そのような事実は米国において大々的に報じられている(甲5、甲9、甲10の4・5)。また、申立人はイーロン・マスクの設立したSpaceXやリチャード・ブランソンのヴァージン・ギャラクティックなどと並び、民間宇宙関連事業会社としてはトップクラスの実績や資金力を有することから、これらの企業とメディア上で比較されることも多い(甲6の2・3、甲7の3)。
このように、申立人は、申立人自身の技術力と創業者自身の著名性もあいまって、米国では日々様々なメディアで取り上げられている(甲5〜甲8)。また、当然ながら航空・宇宙関連専門メディアにおいても広く取り上げられている(甲10)。
本件における主たる需要者層は航空・宇宙関連に携わる専門家であるところ、このような専門家は日本国内の文献やニュースにとどまらず、海外の専門メディア、論文などからも申立人についての情報を取得するものと考えられる。また、申立人はその技術力が認められ、NASAとの間で様々な提携プロジェクトを行ったり、NASAから資金援助を受けるなどしており(甲11〜甲16)、本件における主たる需要者層であれば、当然このような民間事業者に対して関心を抱くものといえる。そのため、申立人やNASA自身のプレスリリースの他、各種メディアにおける報道などを通じて、需要者は申立人に関する情報や引用商標につき、多く見聞しているということができる。
さらに、申立人は各種SNSを通じで情報発信をしており(甲17〜甲19)、また申立人の各種SNSのフォロワー数やチャンネル登録者数は他の著名企業と比較しても多いことから、その中には需要者の多くも含まれ、ロケットの機体や各種部品、被服に付された引用商標も日常的に需要者の目に触れているといえる。
ウ また、国内メディアにおいては、2011年6月9日から2021年6月9日までの10年間で申立人について1217件もの報道がなされ(甲20)、その媒体の種類も極めて多岐に渡っていることから、需要者層である専門家はもちろん、広く一般国民も申立人に関する情報に触れていといえる(甲22)。その証に、主要な現代用語が掲載されているimidasにも、「ブルーオリジン」の語は掲載されている(甲23)。また、JAXAが運営し、宇宙に関する興味を有する一般向けに国内外の最新の話題を提供するサイト「ファン!ファン!JAXA!」においても、勢いがある企業として、世界最大の航空宇宙機器開発製造会社であるボーイング社と並んで言及されている(甲24)。
このように、一般向けメディアでも長期にわたり我が国で多数報道、引用されていることから、我が国の一般国民の間でも申立人及び引用商標についての認知度は高まっているといえる。
さらに、申立人が世界の民間宇宙事業者のトップランナーの一角を担う存在であることから、我が国における宇宙政策を検討する政府の部会等でも頻繁にその名が挙がっている(甲25〜甲31)。また、宇宙ビジネスは近年競争が激化している分野であるが、そのような分野においてコンサルティングを行う民間のコンサルティング会社の資料でも、申立人は取り上げられ(甲32、甲33)、宇宙関連の学術論文で取り上げられることもある(甲34)。
本件における需要者は航空・宇宙関連の専門家であるから、このような資料を能動的に取得することが多いと考えられるほか、自らが政府の部会等のメンバーとなることもあると考えられる。そのため、需要者はこのような資料を通じて申立人に関する情報並びにその商標について接する機会も少なくないといえる。
エ 以上のように、申立人については、テレビ、新聞、雑誌、各種ウェブサイトなど多岐に渡る媒体で数多く報道されている。そのため、一般国民でも申立人及び引用商標を認識している者は多いといえるが、特に需要者たる航空・宇宙関連の専門家は航空・宇宙関連の話題にとりわけ強い関心を抱くため、申立人に関する報道、引用が繰り返しなされた結果、外国で商標として使用された引用商標が、結果的に我が国において周知となっているものということができる。また、需要者が一定分野の関係者に限定されているという特殊性を有する本件では、受動的に報道を受け入れるのみならず、能動的に前述のような海外の専門メディア、政府の資料、学術論文等の情報をも取得するものと考えられる。そして、それらの媒体には頻繁に申立人に関する情報及び引用商標が登場することから、そのような媒体を通しても需要者の間で引用商標が周知となっているということができる。
なお、近年、小型ロケットの技術進歩は著しいことから、申立人がメディア等で取り上げられる機会も増え、日経テレコンで本件商標の出願日の3年前から本件商標の登録査定謄本送達日までの間に、「ブルーオリジン」の語を含むニュースや記事を検索した結果、768件がヒットし(甲21)、2011年6月9日からの10年間でのヒット数が1217件であったことからすると、わずか4年強で768件がヒットしていることは、本件商標の登録出願前数年から登録査定時前後にかけては、特に引用商標の周知性が高まっていたということができる。
(2)本件商標と引用商標の類似性
ア 外観
本件商標は、アルファベットの大文字の「BLUE ORIGIN」を標準文字で表してなるものである。
申立人は、米国特許商標庁(USPTO)において複数の登録商標を有しており(甲4)、そのほとんどは標準文字として登録されている。また、実際の使用例(引用商標)としても、シンプルな書体で、アルファベットの大文字で「BLUE ORIGIN」と黒色、青色等で書してなるものであるから(甲2、甲3)、本件商標と引用商標の外観は同一又は類似といえる。
イ 称呼
本件商標と引用商標は、共にアルファベットで「BLUE ORIGIN」と書してなるものであり、「ブルーオリジン」の称呼を生じるものであるから、称呼は同一である。
ウ 観念
「BLUE ORIGIN」は、「BLUE(青色)」と「ORIGIN(原点)」を組み合わせた造語といえ、全体としては共に特に観念を生じない、若しくは共に「青色の原点」程度の観念が生じる。
エ 以上より、両者は外観において同一又は類似であり、称呼は同一、観念はいずれからも生じず比較不可ないし同一といえる。そのため、全体として見ると本件商標と引用商標は類似であるといえる。
(3)商品・役務の類似性について
本件商標は、第9類、第25類、第39類を指定商品、指定役務とするものである。
一方、申立人も、米国特許商標庁における登録商標(甲4)において、第25類の衣類や帽子、第39類の航空宇宙関連の輸送に係る役務、第42類の技術・科学・航空宇宙分野におけるコンサルティングやコンピュータソフトウェアの設計・開発等を指定商品、指定役務として指定し、使用している。各区分の指定商品についてはいずれもその原材料や品質等が一致するほか、指定役務についてはその目的、取引者・需要者の範囲等を共通にするものであるから、同一又は類似する商品、役務である。
特に、第39類の「航空機による輸送等」は申立人の業務の中心である自社製ロケットによる宇宙飛行等の航空・宇宙関連技術を用いた輸送に関する役務と同一であり、第9類の科学用人工衛星、人工衛星、通信衛星等の宇宙関連商品も、申立人の業務の中心である宇宙関連製品と需要者層を共通にするものであるから、類似である。
(4)小括
以上のとおり、引用商標は、需要者の間に広く認識されている商標である。また、本件商標は、引用商標と同一又は類似であり、その指定商品、指定役務も、引用商標において使用されている商品及び役務と同一又は類似である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
3 商標法第4条第1項第15号違反について
(1)本件商標と引用商標との類似性の程度
本件商標と引用商標は、上記2(2)のとおり、両者は同一又は類似であるといえる。
(2)引用商標の周知著名性及び独創性の程度
引用商標は、上記2(1)のとおり、周知著名であるといえる。
また、引用商標「BLUE ORIGIN」は、「BLUE(青色)」と「ORIGIN(原点)」を組み合わせた申立人独自の造語であり、これらの語が組み合わされて使用されることは一般的とはいえないため、独創性の程度は高い。
(3)本件商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度
申立人は、前述の米国特許商標庁における登録商標(甲4)において、第25類の衣類や帽子、第39類の航空宇宙関連の輸送に係る役務、第42類の技術・科学・航空宇宙分野におけるコンサルティングやコンピュータソフトウェアの設計・開発等を指定商品、指定役務として指定し、使用している。このうち、第25類については、申立人は自社のウェブサイトやAmazon.comなど複数の販売経路を通じて、多くの種類グッズを製造、販売している(甲3)。そして、これらの商品と本件商標における第25類の指定商品とは、その用途や需要者層が一致するものであり、両者の関連性は強い。
また、申立人は、自社製ロケットによる宇宙飛行等の航空・宇宙関連技術を用いた輸送に関する役務を主たる業務とし、米国特許商標庁においてもかかる役務に関して複数の登録商標を有するが(甲4の2・6・9)、本件商標においても第39類において複数の輸送に関する役務が指定され、これらは、輸送の役務という性質上近似した性格を有するものである。
さらに、引用商標の周知度が高く、かつ、ハウスマークであり、また造語よりなるものである場合、混同の生じるおそれのある範囲は広いといえるところ、引用商標はこれらを充足するから、第39類の「航空機による輸送」以外の本件商標の輸送役務との関係においても、引用商標との関連性の程度は強いといえる。また、申立人はロケットの発射や宇宙空間における物質採取など広範な分野における科学実験を行っているものであるから、「ガスの供給,電気の供給,熱の供給,水の供給」等の役務についても申立人の業務に係る役務と一定の関連性を有するものである。
加えて、申立人は航空・宇宙関連業務を専門とするものであるから、本件商標第9類の衛星用受信機、衛星放送の受信機、遠隔制御受信機、科学用人工衛星、人工衛星、通信衛星等の指定商品と申立人の業務との関連性は極めて強い。さらに、申立人はロケットに用いる周辺機器類を製造しており、米国特許商標庁においても、申立人は本件商標の第9類に近似した性質の第9類の商品を指定商品とした登録商標を有していた(甲36)ことから、本件商標の第9類の指定商品は全体として、申立人の業務に係る商品、役務と関連性を有するものである。
(4)商品等の取引者及び需要者の共通性
本件商標の第9類の指定商品のうち、衛星用受信機、衛星放送の受信機、遠隔制御受信機、科学用人工衛星、人工衛星、通信衛星等は、特殊専門的な商品であり、航空・宇宙関連業界に従事する者が主たる取引者及び需要者と考えられ、引用商標の取引者及び需要者層と共通する。また、それ以外の第9類の指定商品は、広範な概念を含むものであるから、航空・宇宙関連業界に従事する者も含めた技術者全般が取引者及び需要者となるといえる。
したがって、これらに関しても引用商標の取引者及び需要者層と共通する。
第25類の指定商品は、被服や履物等であるから、本件商標と引用商標の取引者及び需要者層は共に広く一般的な消費者層であって共通する。
第39類についても、広く輸送業務やインフラ関連の役務が指定されていることから、本件商標と引用商標の取引者及び需要者層は共に広く一般的な消費者層であって共通する。
(5)小括
以上のとおり、本件商標と引用商標の類似性の程度は高い。また、引用商標の周知性の程度は高い上、ハウスマーク、かつ、造語よりなるものであり、独創性の程度も高い。さらに、本件商標の指定商品等と申立人の業務に係る商品等との関連性は高く、需要者層も共通するものである。
したがって、本件商標は、引用商標との出所混同を生じさせるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
4 商標法第4条第1項第19号違反について
(1)引用商標について、日本国内の需要者の間で高い周知性を有することについては、前述したとおりである。
また、外国における周知性については、我が国以外の一の国において周知であることは必要ではあるが、必ずしも複数の国において周知であることを要しないとされ、前述のとおり、申立人は、民間宇宙事業者としてはその技術力、資金力、知名度共にトップクラスを誇り、専門メディアではもちろん、申立人の活動は米国内の一般メディアでも、日々広く報じられ(甲5〜甲9)、少なくとも我が国以外の一の国、すなわち米国において周知であるといえる。
(2)不正の目的について
引用商標は需要者の間に広く知られており、かつ、「BLUE」と「ORIGIN」の組み合わせた造語よりなるものである。また、「BLUE」と「ORIGIN」の組み合わせた語は一般に用いられておらず、構成上顕著な特徴を有するものといえる。そのため、このような商標を本件商標権者が偶然に採択したとは考え難い。
そして、本件商標と引用商標がともにアルファベットの大文字で「BLUE ORIGIN」と書してなるものであるから、社会通念上同一の商標である。
また、本件商標権者は、種々の指定商品・役務を指定しているが、その中には航空機による輸送や人工衛星、通信衛星等の航空・宇宙関連の商品、役務も含まれている。本件商標権者が、引用商標を知得することなく引用商標と社会通念上同一の商標を採択した上、その指定商品、指定役務も近似したものを採択することは考え難いものである。
さらに、本件商標権者の中国における企業信用情報によると、本件商標権者の事業目的の範囲は、家庭用品や事務用品、マスク、家具の販売等、日用品の販売を主とするものであることが分かる(甲37)。一部技術的事項も含むものの、航空・宇宙関連などの高度な技術開発やサービスの提供が含まれているとはいえない。実際、本件商標権者が中国において所有している商標について見ても、家庭で日常的に用いられる日用品等のみを指定商品として指定していることから、このような範囲の商品の販売が本件商標権者の事業範囲であることは明らかである。
航空・宇宙関連事業は多額の資金と高度な技術力を要する極めて参入障壁の高い産業であるため、本件商標権者のような日用品の販売会社が一朝一夕に参入することは不可能である。そのため、本件商標権者が本件商標において、航空機による輸送や人工衛星、通信衛星等の航空・宇宙関連の商品、役務を指定した点についても不可解というほかない。
上記各事実を併せ考えると、本件商標権者は、申立人が日本で未だ事業を開始していないことを奇貨として、不正の目的をもって出願したものというべきである。このような行為は、引用商標との出所の混同のおそれを生じさせ、ひいては申立人の我が国への参入が阻止されるという結果を招来するものであって、許されない。
(3)小括
以上のとおり、本件商標は日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている申立人の商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものといえるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
5 商標法第4条第1項第7号違反について
上述のとおり、(ア)本件商標と引用商標が酷似している点、(イ)本件商標権者が航空機による輸送や人工衛星、通信衛星等の航空・宇宙関連の商品・役務を指定している点、(ウ)本件商標権者は家庭で用いられるような日用品の販売を主として行っている企業である点が認められる。
そして、造語であって一般的に用いられてもいない引用商標と同一表記の商標が偶然に出願されることは考え難く、まして、その指定商品・役務が偶然航空・宇宙関連事業に係る商品・役務となることは考え難い。
さらに、本件商標権者は、日用品の販売といった高度な技術力を要しない業務を行う事業者であることから、多額の資金と高度な技術力を要し、極めて参入障壁の高い航空・宇宙関連事業に参入することは考え難い。このような登録出願により引用商標との出所の混同のおそれを生じさせ、ひいては申立人の我が国への参入が阻止されるという結果を招来することは、到底許されないというべきである。
よって、本件商標は、登録出願の経緯に社会的相当性を欠き、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反する場合に該当するものであり、公序良俗に反する。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

第4 当審における取消理由
当審において、令和4年2月28日付けの取消理由通知書によって、本件商標権者に対し、本件商標はその登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないから、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきであり、商標法第4条第1項第7号に該当する旨の取消理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。

第5 本件商標権者の意見
上記第4の取消理由に対し、本件商標権者は、何ら意見を述べていない。

第6 当審の判断
1 申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、申立人及び引用商標については、以下のとおりである。
(1)申立人は、2000年9月にAmazon社の創業者であるジェフ・ベゾス氏により設立された米国の航空宇宙企業であり、ロケット及びロケットエンジンの製造などを行っている。
(2)申立人を商標権者とする引用商標は、本件商標の登録出願よりも前に、米国において、ロケットエンジン等の商品及び航空宇宙関連の輸送等の役務などを指定して複数登録されている(甲4、甲36)。
(3)米国においては、「NASA」のウェブサイトにおける、2010年2月1日付け「NASAは復興法資金を用いて有人宇宙飛行のためのクルー輸送コンセプトと技術実証の開発を開始する民間企業を選定」の表題の下、当該企業のうちの1社に「Blue Origin」が選定され、370万ドル(約4億1,000万円)の資金を獲得した旨(甲11の2・3)の記載、また、2018年6月1日付け「NASAは宇宙資源の収集を進める米国企業を選定」の表題の下、当該企業のうちの1社に「Blue Origin」が選定された旨(甲12の1・2)の記載があり、さらに、2018年12月18日付け「NASAが支援するペイロードがBlue Originから打ち上げられる」の表題の下、Blue Originのロケットが12月18日に宇宙に飛び立つ旨の記載とともに、側面に引用商標の文字を付したロケットの画像が掲載されている(甲13)。
その他にも、2017年4月5日付けのThe New York Timesには、「ジェフ・ベゾス、宇宙開発競争のためにアマゾン株を年間10億ドル売却すると発表」の表題の下、「アマゾンの創業者であり、億万長者でもあるベゾス氏は、再使用可能なロケットブースターと、人を乗せて地球のパノラマを眺めるためのカプセルの実物大の模型を、シンポジウムで披露した。」の記載があり、その中の写真説明には、ジェフ・ベゾス氏が「Blue Origin」の創業者との記載がある(甲5)。
(4)我が国においては、日経テレコンの検索によれば、「ブルーオリジン」の文字を含む記事が、遅くとも2011年6月からの10年間で1217件掲載されており(甲20の1)、それらの記事には、「ブルーオリジン(Blue Origin)」はアマゾン社の創業者であるジェフ・ベゾス氏が立ち上げた宇宙開発企業などと紹介され、また、テレビや新聞等のオンラインニュースでも同様に報じられている(甲22)。さらに、側面に引用商標を付したロケットの画像が掲載されている2016年6月20日及び2017年10月6日付けの記事もある(甲22の2・7)。
加えて、「imidas」(集英社発行)には、「ブルーオリジン[Blue Origin](2017年3月)」の項に、「アメリカ通信販売大手であるアマゾンのジェフ・ベゾスCEOが、2000年に設立した宇宙ベンチャー。・・・また、地球周回軌道に入る有人宇宙船の開発も行っており、・・・これらの機体のための各種ロケットエンジンも開発しており・・・」などと記載されている(甲23)。
(5)その他、我が国の各省審議会の資料、民間企業や大学等の研究資料においても米国「Blue Origin」が宇宙関連企業として取り上げられている(甲25〜甲34)。
(6)上記(1)ないし(5)によれば、申立人は、アマゾン社の創業者であるジェフ・ベゾス氏により2000年に設立された米国の航空宇宙企業であって、ロケット及びロケットエンジンの開発、製造などを行い、2010年及び2018年には米国のNASAからの資金を獲得し、宇宙資源の収集を進める米国企業の1社に選定された企業である。
そして、申立人については、2011年頃より継続して、米国の報道関係ウェブサイト、我が国の一般的なメディア等においても、主に宇宙開発に関する報道がされているといえ、さらに、少なくとも2016年6月及び2017年10月頃のオンラインニュースにおいては、申立人の開発したロケットの側面に引用商標を付していることが確認できる。
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願日前から、申立人又は申立人のロケットを表すものとして、米国はもとより我が国の需要者の間に相当程度認識されていたものというべきである。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないとしている。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号、同18年9月20日判決参照)。
(2)本件商標は、前記第1のとおり、「BLUE ORIGIN」の文字を標準文字で表してなるものであり、前記第2のとおり、引用商標も「BLUE ORIGIN」の文字からなるから、両商標は、つづりを同じくするものである。
また、「BLUE ORIGIN」の文字は、辞書等に載録されておらず、全体として特定の意味を有しない造語というべきものである。
そして、本件商標の指定商品及び指定役務は、前記第1のとおり、人工衛星、通信衛星及び航空機による輸送といった航空・宇宙関連の商品及び役務を含むものでものである。
(3)以上からすると、本件商標「BLUE ORIGIN」の文字は、本件商標の登録出願前から申立人又は申立人のロケットを表すものとして、米国はもとより我が国の需要者の間に相当程度認識されていた引用商標と同一のつづりであって、その文字が造語であること、本件商標の指定商品及び指定役務が、航空・宇宙関連の商品及び役務を含むことを考慮すれば、本件商標は、本件商標の権利者が偶然に本件商標を採択したというよりは、むしろ、米国において本件商標と同一又は類似すると認められる引用商標が商標登録され、又は「ロケット」について使用されている引用商標の存在をあらかじめ知った上で、我が国においても登録出願されるであろうと推測される商標を先回りして、不正な目的をもって剽窃的に登録出願したものとみるのが相当である。
このような行為に係る本件商標は、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合(上記(1)(e))に該当するものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるといわざるを得ないから、その他の登録異議の申立ての理由について論及するまでもなく、本件商標は、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲

(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。

審判長 森山 啓
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
異議決定日 2022-09-13 
出願番号 2019120310 
審決分類 T 1 651・ 22- Z (W092539)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 小林 裕子
小松 里美
登録日 2021-01-19 
登録番号 6342261 
権利者 杭州臨安飛鳥科技有限公司
商標の称呼 ブルーオリジン、オリジン 
代理人 田中 克郎 
代理人 石田 昌彦 
代理人 岩崎 吉男 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 中河 香一郎 

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