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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09
管理番号 1394260 
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-28 
確定日 2023-01-05 
異議申立件数
事件の表示 登録第6503901号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6503901号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6503901号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成30年6月28日に登録出願、第9類「コンピュータ用ゲームプログラム,コンピュータ用ゲームプログラムを記憶させた電子回路・磁気テープ・磁気ディスク・光ディスク・ROMカートリッジ,携帯電話機用ゲームプログラム,コンピュータゲームソフトウェア」を指定商品として、令和3年12月28日に登録審決、同4年1月25日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立人が引用する商標
1 登録異議申立人「株式会社ユピテル」(以下「申立人1」という。)が引用する登録商標(以下、まとめていうときは「引用商標A」という。)は次のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第2037915号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成 ATLAS
指定商品 第9類「電気通信機械器具(ラジオ受信機,テレビジョン受信機,音声周波機械器具を除く。),電子応用機械器具」(平成20年9月3日書換登録)
登録出願日 昭和60年3月5日
設定登録日 昭和63年4月26日
(2)登録第3346160号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成 ATLAS
指定商品 第9類「電気通信機械器具(但し,ラジオ受信機,テレビジョン受信機,音声周波機械器具を除く),電子応用機械器具及びその部品」
登録出願日 平成6年2月15日
設定登録日 平成9年9月12日
(3)登録第5390109号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成 アトラス(標準文字)
指定商品 第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」 登録出願日 平成21年12月17日
設定登録日 平成23年2月10日
(4)登録第5875276号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成 別掲2のとおり
指定商品 第9類「電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・サイクロトロン・産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器・超音波応用探知器・電子応用扉自動開閉装置・電子顕微鏡」を除く。)及びその部品,電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路及び記憶媒体,電子計算機用プログラム,通信ネットワーク等を通じてダウンロード可能な電子計算機用プログラム」ほか、第9類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
登録出願日 平成26年12月4日
設定登録日 平成28年8月19日
2 登録異議申立人「坂本理恵」(以下「申立人2」という。)が引用する登録商標は、上記引用商標1ないし4に加えて、次のとおりの登録商標(以下、これらすべてをまとめていうときは「引用商標」という。)であり、現に有効に存続しているものである。
登録第5945425号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成 別掲3のとおり
指定商品・指定役務 第42類「アプリケーションサービスプロバイダによる電子計算機用プログラムの提供,その他の電子計算機用プログラムの提供」ほか、第42類、第9類、第35類及び第37類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
登録出願日 平成28年10月17日
設定登録日 平成29年5月12日

第3 登録異議の申立ての理由
1 申立人1の理由
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第87号証(枝番号を含む。以下、枝番号のすべてを示すときは、枝番号を省略する。なお、甲6〜甲18、甲20〜甲25、甲29及び甲39は「公報のため添付省略」とされ、また、甲33は添付されていない。)を提出した。
ア 指定商品の同一又は類似について
本件商標の指定商品の類似群コードは11C01であって(甲1)、一方、引用商標Aのすべての類似群コードには11C01を含む(甲2〜甲5)。
したがって、本件商標の指定商品と、引用商標Aのそれぞれの指定商品とが類似のものに当たる。
イ 商標の類似について
(ア)「外観」について
a 「構成文字」について
本件商標は、その先頭のAの文字の横線の省略は図案化されているとしても、慣用的なもの(甲6〜甲18)であって、非常に特徴的であるとはいえず、顕著な差異を有するものではなく、引用商標Aに類似する。
本件商標は、その先頭のAの右側の斜線を垂直にするのは、よくあるデザインであって、本件商標権者が述べるように「当該文字のみでは一見して「A」とは認識できない程度に高度にロゴ化されている」とはいえず、また、本件商標権者は、本件商標を「頂点から左回りに30度、60度」と主張しているが、本件商標は、実際はそれぞれ、30度と40度の間、60度と50度の間の所定の角度であり(甲15、甲16)、特徴的な構成とまではいえない。
そうすると、本件商標を構成する「ATLUS」の欧文字と引用商標Aの「ATLAS」の欧文字とは、5文字中、4文字目を構成する「U」と「A」の差異をもって顕著な差異を有するとはいえない(甲20)。
「ATLUS」と「ATLAS」は、いずれも英文字の5文字で、セリフのない書体ゴシック体であって、間隔はおおむね等幅であり、ベースライン、キャップラインともに一定である点が共通であるから、本件商標は、非常に特徴的であるとはいえず、引用商標Aに類似している(甲7)。
原審決(決定注:不服2021−2192)は、欧文字からなる本件商標と片仮名からなる引用商標3に関し、欧文字と片仮名の文字種の相違を、外観において明確に区別できる根拠としているが、商標の類否判断において、文字種の相違は、重要な意味を有するものではない。
すなわち、商標の使用において、商標の構成文字を同一の称呼が生ずる範囲内でローマ字を平仮名、片仮名、漢字表記にしたり、あるいは、その逆にしたりという文字種の変換はごく普通に行われていることである(甲21〜甲25)。
そして、このことは、本件指定商品を取り扱う業界においても例外ではない(不服2019−650051、不服2019−10088、不服2019−2683等参照)。
また、商標法第38条第5項の「登録商標」についての規定から、本件商標及び引用商標Aの指定商品の需要者・取引者にとって、文字種が異なることは、本件商標と引用商標Aが別異のものであることを認識させるほど、外観上、強い印象を与えるものではない。
よって、欧文字と片仮名という文字種の相違を根拠に、本件商標と引用商標3について、外観において明確に区別できると判断し、かつ、相紛れるおそれがない、とした原審決の判断は、明らかな謬論である。
b 「図形の有無」について
本件商標権者は、引用商標4について「円弧状の図形と欧文字はまとまり良く表されており一体と認識するのが自然」と述べているが、円弧状の図形と欧文字との間には、空間が存在し、一体ではない。審決例(甲8、甲11、甲14)と対比しても、引用商標4の当該文字部分のみを要部として抽出し、本件商標と比較して、商標の類否を判断することができる。
c 「色彩の有無」について
文字商標において1文字のみ異なる色彩が施されていることは、外観の類否判断・商標の類否判断に影響を与えるものではなく、文字商標の外観類否の問題は、文字列の相違が外観においていかなる影響を与えるかという観点から判断されるべきである。色彩の相違は、文字商標における外観の類否・商標の類否判断に、さほどの影響を与えるべきものではない。
本件商標権者は、会社の受付壁面に、本件商標と同一の構成文字列を、黒一色で表示し(甲19)、ゲームの広告等を行っているTwitterアカウントにて、「#ATLUSロゴ」のハッシュタグを付けた投稿における写真において、パーカーの胸元には黒地に白、壁面には白地に黒の外観での使用態様が示されている(甲27)。そして、本件商標権者のゲームである「『真・女神転生V』ティザームービー」の冒頭部分において、黒地に白の外観での使用態様が示されているように(甲28)、色彩を変えて使用されることは、一般に行われていることである。
(イ)「観念」について
本来、商標の類否判断における「観念」は、単に辞書的な意味合いに基づいて認定、判断されるべきものではなく、その商標が使用される商品又は役務における需要者、取引者が商標に接したときに、いかなる意味合いを認識、理解するかに基づいて判断されるべきであって、一見して世人に直ちに一定の意義を理解させるものでなければならない(昭和28年(行ナ)18号参照)。
したがって、辞書等を紐解いてはじめてその意義がわかるような語からなる商標については、そこから商標類否判断における観念を生ずる、ということはできない。
例えば、「unify」は、「atlas」と同じCランクレベル(甲70〜甲72、甲31)であるところ、「unify」の文字について、我が国においてその意味が広く一般に知られている語とは認められないとした審決がある(甲29)。
これらの点からも、「ATLAS」は、我が国においてその意味が広く一般に知られている語とまでは認められなく、引用商標Aから、直ちに「ギリシャ神話のアトラス」の観念を生じると、断ずることはできない。
ただし、引用商標Aから「ギリシャ神話のアトラス」又は「地図帳」等の意味を理解する者にとっては、本件商標から生ずる「アトラス」の称呼に関しても、同様の意味を有すると理解される場合がある。
また、引用商標Aを構成する欧文字、片仮名は、我が国の一般需要者にとって、さほど馴染みの深い英単語又はその表音ではないから、仮に引用商標Aから「ギリシャ神話のアトラス」又は「地図帳」等の意味を想起し得る者がいたとしても、その正確なつづり字までを記憶していない場合がある。
したがって、本件商標は、そこから生ずる「アトラス」の称呼から、アトラスの辞書的意味を知っている者については「ギリシャ神話のアトラス」又は「地図帳」の観念を生じ得る可能性もあり得る。
ましてや、会社・商品名の由来を紹介するブログ(甲36)には、株式会社アトラスについて、ギリシャ神話のアトラスが採択の契機となったことが記載されている。
(ウ)「称呼」について
原審決では、本件商標から、英語及びローマ字読みの「アトラス」の称呼の外、「アトルス」の称呼も生ずるとしているが、「ローマ字」とは、本来、仮名をラテン文字に転写する際の規則全般(ローマ字表記法)、又はラテン文字で表記された日本語(ローマ字つづりの日本語)のことであって、ヘボン式では、アルファベット26文字のうち、LQVXの4字を除いた22文字が使用される。したがって、「L」は、ローマ字にはないし、英語の発音方法に従うならば、容易に「アトラス」の称呼を生ずるからである。
また、原査定においても、「その構成文字に即応して『アトラス』の称呼を生じ」と判断しており、本件商標権者も、審判請求書において「本願商標に関する称呼並びに観念の認定については出願人も基本的には異存のないところである。」と自認しているのであり、さらに、本件商標について、「特許情報プラットフォーム」における「参考情報」として掲載されている称呼は、「アトラス」のみである。
したがって、本件商標から生ずる称呼は、「アトラス」のみであって、「アトルス」の称呼を持ち出す必然性は一切ない。
(エ)「外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察」について
本件商標と引用商標1、2及び4のそれぞれとは、称呼同一、観念について共に一般的には観念不可ないし辞書的観念ができる者にとっては観念同一、外観上の差異は顕著とはいえず全体として外観類似であることに鑑みると、両商標を時と所を異にして離隔的に接する需要者等は、両商標を見誤り、これら商標が付された商品の出所について混同するおそれがあることは明らかである。
引用商標3について、称呼同一、観念について共に一般的には観念不可ないし辞書的観念ができる者にとっては観念同一、本件商標の拒絶査定で認定されているように「商標の使用においては、平仮名、片仮名又はローマ字を相互に変更して使用することが一般的に行われている実情」からすれば、本件商標から引用商標3を想起するものであって、両商標を時と所を異にして離隔的に接する需要者等は、両商標を見誤りこれら商標が付された商品の出所について混同するおそれがあることは明らかである。
また、現に出所の混同が生じている(甲40、甲33、甲73〜甲75)。
さらに、本件商標権者側と、当社の間には事業領域の類似性があるため、出所の混同が生じる可能性は一層高いものとなっている。
本件商標権者側のグループ会社として、本件商標権者と、セガ社及びセガトイズ社等がある(甲41)。一方、引用商標Aの権利者はいずれも申立人1である。
申立人1と本件商標権者側との間では、例えば、ゲーム・音楽・映像ソフト・キャラクタ関連(甲42〜甲55)、ゴルフ関連(甲56〜甲67)、センサー有するネコ型ロボット関連(甲68、甲69)などの各分野において、製品等の類似性がある。
(オ)小括
以上のとおり、本件商標と、引用商標Aのそれぞれの商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,その外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察した結果,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認められる関係にある。
(2)むすび
以上から明らかなように、本件商標と引用商標Aは、両商標を時と所を異にして離隔的に接する需要者等が両商標を見誤り、これら商標が付された商品の出所について混同するおそれがあるものである。
したがって、本件商標をその指定商品について使用した場合、引用商標Aと出所混同のおそれがあり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
2 申立人2の理由
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証(枝番号を含む。以下、枝番号のすべてを示すときは、枝番号を省略する。)を提出した。
ア 引用商標について
引用商標4は、「ATLAS」の欧文字を肉太に横書きしたものの上部に、構成中の「L」字の上部から「S」字の上部にかけて右側に向かって細くなる円弧上の図形を配置してなるところ、これらの文字部分と図形部分とは、視覚上分離して把握されるものであり、かつ、意味上のつながりもないから、これらを分離して観察することが取引上不自然であるというほど不可分的に結合しているとはいえず、「ATLAS」の文字部分のみが独立して出所識別標識として需要者に認識される場合も少なくないといえ、これより、引用商標1ないし引用商標3と同様、「アトラス」の称呼を生じ、「地図帳」又は「ギリシャ神話の巨人アトラス」の観念を生じる。
また、引用商標5は、語頭の赤字で大きく表示されてなる文字が、一般には、「A」字のロゴとして使用され、認識されるものであり、全体として「Antrus」の文字を表してなるものと容易に認識されるから、これより、「アントラス」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
イ 本件商標について
本件商標の構成は、語頭の文字が、欧文字の「A」字の横線部分を取り除き、左側の縦線は底辺から斜めに、右側の縦線は直角に、それぞれ引かれており、このような「A」字の横線部分を取り除いたロゴは、(右側縦線も左側と同じ角度で引かれているロゴや、縦線の角度が多少異なるものも含めて、)広く一般的に使用されている(甲3)。
例えば「Wikipedia」(甲4)には、「Λ(本来はギリシャ文字の「ラムダ」であり、アルファベットのAとは異なるが、ロゴタイプのデザイン文字でAの代わりによく使われる)」との記載、また、「ロゴタイプ(デザイン文字)などでは、ラテン文字のAがしばしばこの文字と同じ形となる。」という記載がある。
また、本件商標は、「T」字を赤色、その他の文字を青色にして横書きしてなるが、このように、一連の欧文字商標中の一部の文字色を変更して表示する方法もしばしばみられる(甲5、甲6)。
以上によれば、本件商標については、一部の文字に多少のロゴ化や色彩の相違があるとはいえ、構成全体としてはありふれた表示方法にとどまるものといえる。
したがって、本件商標に接する需要者は、その外観的特徴に特に印象付けられるということはなく、「ATLUS」の欧文字を同じ大きさでバランスよく横書きしてなるものと認識・理解するというのが相当と思料し、「ATLUS」の文字自体は、英語や仏語の辞書類には掲載のないものである。
ウ 本件商標における審決の問題
まず、我が国における英語をはじめとする外国語の普及は相当程度のものとはいえるが、本件商標と引用商標のように、「アトラス」の発音・称呼を同じくする欧文字において、「ラ」に該当する欧文字部分が「L(子音)+A」であるか「L(子音)+U」であるかの区別は、英語ネイティブではない我が国の一般的な需要者にとっては難しく、ごく基本的な英語を除いては、むしろ、正確に認識・判別されるとはいえない。
本件商標及び引用商標は、我が国の平均的な需要者においては、その欧文字の正確なつづりや字義を理解しているとは必ずしもいい得ないから、むしろ、これより容易に生じる「アトラス」の称呼から、子供のころに親しんだ「地図帳」又は「ギリシャ神話の巨人アトラス」の意味合いを連想・想起するといえる。したがって、本件商標からは「地図帳」又は「ギリシャ神話の巨人アトラス」の観念を生じる場合が少なからずあるというべきである。
エ 本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標1、2及び4は、いずれも漢字・片仮名・平仮名ではなく、アルファベットで共通している。アルファベットはすべて大文字で、いずれも「合字」を含まない(「合字」とは、「複数の文字を1つの文字としてデザインした文字」)。
和文フォントとしてみれば、本件商標と引用商標1及び4の文字部分とは、次の点で共通する。
a 明朝体ではない。筆意を表す「うろこ」「はね」「はらい」がない。
b ゴシック体である。「すべての線や点画がほぼ同じ太さになるように設計された書体」である。
c 「ゴシック体の角をまるめた丸ゴシック体」でもない。
次に、欧文フォントとしてみれば、本件商標と引用商標1及び4の文字部分とは、次の点で共通する。
a スクリプト体ではない。「手書きの流れを残した書体」でない。
b ローマン体ではない。「エレメントの端にセリフを持つ書体」でない。
c サンセリフ体である。「セリフのない書体」である。(「セリフ」とは「要素の端につける爪状のデザイン」で「ブラケットセリフ」「ヘアラインセリフ」「スラブセリフ」などがある。)
d スラブセリフ体ではない。「四角くてとても厚いセリフを持つ書体」ではない。
また、本件商標は、広く一般に使用されるWindowsパソコンの標準フォントと比べても、「極めて特徴的」とまではいえず、印象に残らない。
さらに、本件商標、引用商標1、2及び4は、商標の構成文字間の文字の高さが等しい点、各文字の下端の位置が一定(水平)、各文字の上端の位置も一定である点で共通する。
以上のように、対比的観察によっても大枠(基本部分)で、本件商標と引用商標とは共通し、ましてや離隔的観察によれば、より違いがあいまいになりやすく、記憶に頼るので細かい点は覚えておらず、混同が生じやすいものとなる。
実際の商取引においては、ある時ある場所で引用商標が付された商品を見た取引者、需要者が、全く別の時に別の場所で本件商標が付された商品を見たときに、それが引用商標の商標権者の業務に係る商品であると混同するか否かの観点から、商標の類否は判断されるべきものであり、そのような観点から、本件商標と引用商標とを対比すれば、以下のとおりである。
まず、上記のとおり、本件商標の構成において、「A」字をこのような態様のロゴにするのは、広く一般に認められる、ありふれたものであり、かつ、商標の構成文字の一部の色彩を変えるのも商標の表示方法の一類型としてしばしば見られるから、これらの点が、本件商標の自他商品識別力に大きな影響を及ぼすものとはいい得ない。そして、本件商標に接する取引者、需要者が認識するのは、同じ大きさ、同じ高さで、まとまりよく横書きされた「ATLUS」の一連の欧文字であり、しかも、そのスペリングに強い印象を受けるものでもないことから、これより生じる「アトラス」の称呼及び「地図帳」又は「ギリシャ神話の巨人アトラス」の観念が生じるというのが相当である。
一方、引用商標1及び2を構成する「ATLAS」の文字は、いずれも、外観上特に顕著な特徴をもって表示されたものではなく、普通に用いられる方法で表示してなるものである。また、引用商標4も上記のとおり、「ATLAS」の文字部分が独立して識別標識として取引に資されることが多いものといえる。
そして、上記のとおり、同じ「アトラス」の称呼を生じ、それから「地図帳」又は「ギリシャ神話の巨人アトラス」の観念を生じる本件商標と引用商標1、2及び4とを対比すれば、いずれも、全体として同じ大きさでまとまりよく横書きされた5文字からなる欧文字の大文字で構成され、その構成中の第4字の「U」と「A」の差異を有するほかはつづりを同一にするから、外観上極めて近似した印象を与えるものであり、需要者に相当の注意力又は印象付けがない限り、混同される場合が多いものと思料する。
なお、審決では、本件商標と引用商標Aとの対比において、「色彩の有無」も「顕著な差異」の一つに挙げている。しかし、本件商標は、使用に際して種々の着色が可能であり、原則としてその種々の色に着色したものの総てが同一の商標と認定される(商標法第70条)。よって本件商標の全体を黒にしたもの(以下「黒ATLUS」といいます。)も登録商標とみなされ(同法第70条、同法第25条)、この黒ATLUSは、引用商標と紛らわしく類似するものである。この点は、需要者の利益を保護する観点から考慮されるべき事項である(同法第1条)。
また、本件商標中の文字間の色彩の相違(商標の識別力に特に影響を与えない程度のもの)を前提に引用商標と対比するのは妥当ではないと思料する。
さらに、引用商標3は、片仮名の「アトラス」を標準文字で表してなり、商取引の実際においては、同一の称呼及び観念が生じる範囲内で商標の構成文字や文字種を相互に変換して表記することが一般によく行われることは、過去の判決においても認定されているところである(甲17、甲18)。
そして、本件商標の指定商品である「コンピュータ用ゲームプログラム」等の商品を取り扱う業界においては、商品・役務の出所識別標識として、欧文字及びその表音の片仮名が多く使用されていることは顕著な事実であるから、本件商標と引用商標3とは文字種は異なるとはいえ、両者はいずれも同じ「アトラス」の称呼を生じ、「地図帳」又は「ギリシャ神話の巨人アトラス」の観念を生じるから、これらを離隔的に観察した場合は互いに相紛らわしい類似の商標というべきである。
一方、本件商標と引用商標5とは、外観においては、全体の印象として、両商標ともほぼ同じ形の「A」のロゴで始まり「US」で終わる点で外観上、需要者を混同させるほどに紛らわしく、また、仮に、文字の色彩についての印象も考慮されるとすれば、語頭の「A」のロゴが同じ赤であることに加えて一連の文字色が赤と青から構成されているなど、互いに共通する部分が多いといえ、本件商標と引用商標5とは外観上、類似すると思料する。
称呼においては、本件商標は「アトラス」、引用商標5は「アントラス」であるところ、両商標は、称呼において印象に強く残る語頭の「ア」と後半部の「トラス」の音を共通にする。この場合、日本人の取引者、需要者にあっては「LUS」も「rus」も発音上の区別はほとんどされないというのが実情であるから、両商標は、称呼において2音目の「ン」の有無に差異を有するのみである。そして、2音目における「ン」は、鼻音であって弱い音で、しかも比較的聴取し難い中間部に位置するものであるから、両称呼をそれぞれ全体として称呼するときは、互いに聴き誤られるおそれがあるというのが相当である(甲19)。
観念においては、引用商標5からは特段の観念を生じないので、比較することはできない。
以上によれば、本件商標と引用商標5とは、観念においては相紛れるおそれがないとしても、外観の印象が近似し、両称呼をそれぞれ全体として称呼するときは,互いに聴き誤るおそれがあるから、これらを離隔的に観察した場合には、商品の出所について混同を生じるおそれのある類似の商標である。
オ 指定商品について
本件商標の指定商品は、引用商標Aの各指定商品中の、「電子応用機械器具」(引用商標1)、「電子応用器具及びその部品」(引用商標2、3)又は「電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・サイクロトロン・産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器・超音波応用探知器・電子応用扉自動開閉装置・電子顕微鏡」を除く。)及びその部品,電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路及び記憶媒体,電子計算機用プログラム,通信ネットワーク等を通じてダウンロード可能な電子計算機用プログラム」(引用商標4)にそれぞれ、包含される。
したがって、本件商標の指定商品は引用商標Aの各指定商品と同一又は類似し、引用商標5の指定商品・指定役務には、第42類に「その他の電子計算機用プログラムの提供」が含まれており、第9類「電子計算機用プログラム」と備考類似となっている。したがって、本件商標の指定商品は、引用商標5の指定役務と類似する。
カ 取引の実情について
本件商標の指定商品の需要者には、携帯電話やパソコンでゲーム用プログラムをダウンロードしてゲームを楽しむ、広範囲にわたる一般消費者が多く含まれ、これらの需要者は、必ずしも高い英語理解力や判断力を有しているとはいえない。
また、これらの商品については、需要者は、ゲームのタイトルや商品のパッケージデザイン、登場キャラクターの画像などによって商品を選択・購入しているものといえる。たとえ、商品パッケージにゲーム用プログラムの製造者や販売者に関する記載があっても、それを意識して商品購入するというべき特段の事情はないものと思料する。
加えて、ゲーム用プログラムを取り扱う大手事業者のハウスマークとして「スクウェア・エニックス」、「バンダイ・ナムコ」、「カプコン」、「コロプラ」、「ネクソン」、「サイバーエージェント」などがあるが、これらのハウスマークの欧文字表記を正確に理解・認識している需要者はさほど多くなく、需要者は、我が国において日常語として親しまれている片仮名で商品名・社名等の商標を認識・記憶し、称呼から生じる観念でさらにその記憶を強めて、事業者を推定するといえ、欧文字表記の正確なつづりや外観上の詳細についてまで認識することは極めて少ないと思料する。
そうすると、本件商標の指定商品を取り扱う業界において、商品の出所の識別において重要な役割を果たすのは称呼といえるので、本件審決で認定しているような、本件商標と引用商標との外観上の相違点、それも対比観察による相違点に重きをおいて、出所の識別がされることは、極めて少ないものと思料する。
(2)むすび
以上のとおり、本件商標は、引用商標のいずれとも同一又は類似するものであり、これらの引用商標に係る指定商品・指定役務と同一又は類似する商品に使用をするものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、1文字目にややデザイン化された「A」の文字(「A」の横棒は除かれている。)を青色で表し、これに続き、同様のデザインで、「T」の文字を赤色、「LUS」の文字を青色で表した構成からなるところ、全体として統一したデザインで「ATLUS」の欧文字を表したものと認識されるものである。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「アトラス」の称呼を生じ、また、当該文字は辞書等に掲載が認められない造語であって、特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標
引用商標1及び2は、標準的な書体で表した「ATLAS」の欧文字を横書きした構成からなり、引用商標3は、「アトラス」の片仮名を標準文字で表してなるものである。
また、引用商標4は、別掲2のとおり、「ATLAS」の欧文字(「L」から「S」字の上部にかけて右側に向かって細くなる円弧上の図形が配置されている。)からなるものである。
そうすると、引用商標Aは、いずれもその構成文字に相応して、「アトラス」の称呼を生じ、また、「ATLAS」の語は、例えば、「グランドセンチュリー英和辞典第2版」(2008年12月20日 株式会社三省堂発行)には、「地図書」の記載、「アトラス」の語は、「広辞苑第七版」には、「ギリシア神話で、大地の西端に立って天を支えている巨人。地図帳。」等と記載されており、かかる意味合いで一般に知られていることから、引用商標Aの構成文字からは、「地図帳」、「ギリシャ神話の巨人」程の観念を生じるというべきである。
さらに、引用商標5は、別掲3のとおり、1文字目にデザイン化された「A」の文字(「A」の横棒は除かれている。)、3文字目にデザイン化された「T」の文字(「T」の横棒は、その前の「n」の文字と、その後の「rus」の文字の上に伸びている。)を配し、全体として統一されたデザインで「AnTrus」の欧文字を表したものと認識されるものである(「A」の文字及び「T」の文字の横棒は赤色で、「T」の文字の縦棒及び「rus」の文字は青色で表されている。)。
そうすると、引用商標5は、その構成文字に相応して、「アントラス」の称呼を生じ、また、「AnTrus」の文字は、辞書等に掲載が認められない造語であって、特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標との類否
ア 外観について
本件商標及び引用商標は、それぞれ上記(1)及び(2)のとおりの構成からなるところ、本件商標は、ややデザイン化された「ATLUS」の欧文字を青と赤とで着色している外観であるのに対し、引用商標Aは、標準的な書体又は本件商標とは異なる手法でややデザイン化された「ATLAS」の欧文字又は「アトラス」の片仮名からなるものであって、各構成文字の構成態様、欧文字4文字目の「U」と「A」の構成文字が相違すること等において差異を有することから、それらの差異が全体の視覚的印象に与える影響は大きく、両者は、外観上相紛れるおそれのないものとみるのが相当である。
また、本件商標と引用商標5とは、青と赤という同色系の着色がされ、語頭の「A」の文字のデザイン手法が類似するとしても、全体の構成文字に「A」と「T」の文字の間の「n」の文字の有無、「T」の文字に続く「LUS」と「rus」の文字に相違を有するものであるから、外観上、明らかに相違するものである。
イ 称呼について
本件商標と引用商標Aは、共に「アトラス」の称呼を生じ、称呼において共通するものである。
また、本件商標から生じる「アトラス」の称呼と引用商標5から生じる「アントラス」の称呼とは、2音目における「ン」の有無に差異を有するところ、4音と5音という短い音構成における差異音は、全体の称呼に与える影響が大きく十分に聴別し得るものである。
ウ 観念について
本件商標は、特定の観念を生じないのに対し、引用商標Aからは、「地図帳」、「ギリシャ神話の巨人」程の観念を生じるといえるから、両者は、観念において紛れるおそれはない。
また、引用商標5は、特定の観念が生じないから、本件商標と引用商標5とは観念において比較することができない。
エ 判断
そうすると、本件商標と引用商標Aとは、称呼において共通するとしても、外観及び観念において紛れるおそれがないものであり、また、本件商標と引用商標5とは、観念において比較することができないとしても、外観及び称呼において紛れるおそれがないから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本件商標と引用商標は、商品及び役務の出所について誤認混同を生じるおそれのない、互いに非類似の商標というのが相当である。
オ 申立人の主張について
(ア)申立人1の主張について
申立人1は、「引用商標3について、・・・「商標の使用においては、平仮名、片仮名又はローマ字を相互に変更して使用することが一般的に行われている実情」からすれば、本件商標から引用商標3を想起するものであって、両商標を時と所を異にして離隔的に接する需要者等は、両商標を見誤りこれら商標が付された商品の出所について混同するおそれがあることは明らかである。」旨主張する。
しかしながら、本件商標と引用商標3とは、外観においては、その構成文字における欧文字と片仮名という文字種の明らかな差異を有するのみでなく、特定の意味のない造語からなる本件商標と、我が国の一般的な辞書に「ギリシャ神話の巨人」程の意味を有する既成の外来語として載録されている引用商標3とは、観念上も相紛れるおそれはないから、明確に区別できるものである。
してみれば、両商標を時と所を異にして離隔的に接するとしてもその需要者等は、両商標を見誤りこれら商標が付された商品の出所について混同するおそれはないものというのが相当であり、申立人1の上記主張を採用することはできない。
(イ)申立人2の主張について
申立人2は、「本件商標の指定商品の需要者には、携帯電話やパソコンでゲーム用プログラムをダウンロードしてゲームを楽しむ、広範囲にわたる一般消費者が多く含まれ、これらの需要者は、必ずしも高い英語理解力や判断力を有しているとはいえない。これらの商品については、需要者は、ゲームのタイトルや商品のパッケージデザイン、登場キャラクターの画像などによって商品を選択・購入しているものといえる。」旨主張する。
しかしながら、本件商標の指定商品の需要者に、その英語理解力や判断力が必ずしも高くない、広範囲にわたる一般消費者が含まれ、ゲームのタイトルや商品のパッケージデザイン、登場キャラクターの画像などによって商品を選択・購入しているとすれば、当該需要者は、商標の構成文字である英語に相応して生じる称呼や観念よりも、まずは商標の外観そのものに注目して商品を選択、購入することも多いといえるから、取引の実情として外観上の相違が重要となるというのが相当である。
してみれば、本件異議申立てにおいては、上記アないしエのとおり、外観上の差異を重視して商標の類否を判断することもできるというべきであり、申立人2の上記主張を採用することはできない。
(4)小括
したがって、本件商標の指定商品と、引用商標の指定商品及び指定役務が類似するとしても、本件商標は、引用商標とは非類似の商標であるから、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1(本件商標:色彩については原本参照。)


別掲2(引用商標4)



別掲3(引用商標5:色彩については原本参照。)



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異議決定日 2022-12-21 
出願番号 2018084647 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W09)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 荻野 瑞樹
鈴木 雅也
登録日 2022-01-25 
登録番号 6503901 
権利者 株式会社アトラス
商標の称呼 アトラス 
代理人 平井 佑希 
代理人 古関 宏 

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