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審決分類 |
審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W41 |
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管理番号 | 1394243 |
総通号数 | 14 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2023-02-24 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2022-03-11 |
確定日 | 2023-01-06 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6332392号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6332392号商標(以下「本件商標」という。)は、「そばづくりスト」の文字を横書きしてなり、令和2年2月10日に登録出願、同年12月11日に登録査定され、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,ティーシャツ,和服,ハッピ,エプロン,ショール,スカーフ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,マフラー,防暑用ヘルメット,帽子」及び第41類「そば打ちに係る知識の教授,そば打ちの教授,そば打ちに関する段級位認定試験の企画・運営又は実施,そば打ちに関する資格検定試験の企画・運営又は実施,そば打ちに関する研修会の企画・運営又は開催,そば打ち大会の企画・運営又は開催に関する情報の提供,そば打ちの実演用厨房設備を備えた教育・研修のための設備の提供,そば打ちに係る電子出版物の制作又は提供,そば打ちに係る書籍の制作」を指定商品及び指定役務として、同年12月21日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が引用する商標は、以下のとおりである。 (1)商願2020−40245号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の態様:そばづくりスト(標準文字) 指定役務:第35類及び第41類に属する願書記載のとおりの役務 登録出願日:令和2年3月30日 (2)登録第6536036号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の態様:別掲1のとおり 指定役務:第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務 登録出願日:令和2年4月10日 設定登録日:令和4年3月29日 (3)登録第6422194号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の態様:別掲2のとおり 指定役務:第35類及び第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務 登録出願日:令和2年4月10日 設定登録日:令和3年7月29日 (4)登録第6407395号商標(以下「引用商標4」という。) 商標の態様:手打ちそば伝道師(標準文字) 指定役務:第35類及び第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務 登録出願日:令和2年7月17日 設定登録日:令和3年6月25日 (5)登録第6332391号商標(以下「引用商標5」という。) 商標の態様:そば打ち伝道師(標準文字) 指定商品及び指定役務:第25類及び第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務 登録出願日:令和2年2月10日 設定登録日:令和2年12月21日 (6)登録第6345763号商標(以下「引用商標6」という。) 商標の態様:そばネット(標準文字) 指定商品:第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品 登録出願日:令和2年2月10日 設定登録日:令和3年1月27日 第3 請求人の主張 1 請求の趣旨 請求人は、本件商標の指定役務中、第41類「全指定役務」の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証から甲第29号証(以下「甲○」と表記する。)を提出した。 2 請求の理由 (1)本件商標の登録出願前の経緯 a 被請求人と請求人及び請求人代表理事(以下、「請求人代表」という。)等との関係 請求人は、そば打ち愛好団体の連合体であるNPO法人である。 被請求人は、請求人の名称変更前である、NPO法人そばネット埼玉が設立された2005年当時の設立発起人の一人であり、2016年に辞任するまで10年間、請求人の理事職を務めていた。 また、被請求人は、請求人の会員で密接な関係にある、そば打ち愛好団体さいたま蕎麦打ち倶楽部の会員でもあったが、本件商標の登録出願後の2020年3月に退会している。 さらに、被請求人は、そばネット雷門そば倶楽部の会長、代表者であり、加えて、そば打ち愛好団体の連合体の中では国内最大規模である、一般社団法人全麺協(以下、「全麺協」という。)の専務理事兼事務局長(本件商標の登録出願当時は、理事兼事務局長)という要職を担う立場でもある。 このような被請求人の経歴であるが、数年前より組織運営方針等の違いにより請求人代表及び役員並びにさいたま蕎麦打ち倶楽部幹部等との間で軋礫が高まり、NPO法人そばネット埼玉を2016年に、さいたま蕎麦打ち倶楽部を2020年3月にそれぞれ辞任、退会している(甲1)。 b 請求人が出願予定商標を採択した理由 NPO法人そばネット埼玉は、2005年に設立され、2020年に設立15周年を迎えるにあたり、NPO法人としての公益性の観点、つまり日本の食文化を代表する手打ちそばの継承・発展を軸とした「地域文化の継承」、「地域活力の向上」、「地域問の交流」、そのための「手打ちそば伝道師」の育成等、より一層の公益的価値を高めた活動計画を理事会及び評議員会で検討していた。その成果としての大綱が、請求人代表より2019年12月31日に会員宛送信されたメールに添付の「NPO法人そばネット埼玉設立15年改革案について」である(甲1)。この中には「手打ちそば伝道師」の文言が頻繁に出てくることが確認できる。 また、本件商標と同一の引用商標1「そばづくりス卜」は、2019年12月27日開催の評議員会開催時に、名称の発案者より初めて公表されたもので、その創作意図や正式に採択されるまでの経緯が述べられている(甲1)。 c 請求人商標の出願決定と剽窃的冒認出願 請求人の出願予定商標は、2020年1月27日に開催された「第167回そばネット埼玉理事会」(以下「第167回理事会」という。)において議事として初めて取り上げられ、商標登録出願することを正式に決定した(甲1)。 なお、商標登録出願に関しては初の試みであったが、3件から4件もの出願となると、費用面から代理人への依頼は難しく、また具体的な標章態様も未決定な部分があったため、決議後直ちに出願できる状況ではなかった。ちなみに、組織として商標出願を行うときはまず、しかるべき会議等で出願の決議を諮り、その後詳細を詰めてから出願に至るのが一般的である。その意味では通常のステップを踏んだ、合理的期限内での出願といえる。 このような中、被請求人は、第167回理事会内容を聞きつけ、諸求人の出願予定商標全てを盗用し冒認出願したのである。 これらの出願は、被請求人と請求人代表を含むその他の幹部の遺恨の下に、また、自身が要職を務める全麺協の競合になり得るものと捉えてか、請求人のさらなる公益活動を妨害する不正な目的で、請求人の出願予定商標の登録を阻止するために、冒認出願したものである。 このような不正により他人を排除する行為は、独占禁止法(競争者取引妨害)に抵触する可能性が高い。 加えて、引用商標6は、被請求人が過去に理事職として請求人法人に長年在籍していた関係もあり、請求人の重要な商号の一部であることを重々承知、理解していたことは自明である。被請求人は、本来信義則上の義務を最も遵守しなければならない立場であったにもかかわらず、請求人の商号を含めた請求人の出願予定商標全てを自ら取得するに至ったことは、不正な利益を得ることを目的として、又は請求人に損害を加えることが目的であることは明白であり、出願の経緯、目的に社会的相当性を著しく欠いた出願である。 (2)冒認(盗用)出願の根拠 ア 請求人の理事の一人(以下「H氏」という。)は、第167回理事会が開催された当日の会議終了後に辞任届を提出し辞任した。ところで、通常、当日辞任する者が、今後請求人が大きく飛躍活動するための改革議案を討議決議する理事会に出席し、閉会まで在席するであろうか。情報窃取が目的だったことは疑いようもない。辞任後H氏は、被請求人が代表である、そばネット雷門そば倶楽部の事務局及び全麺協研修センター運営部長に就いている(甲1) イ 本件商標並びにこれと同日出願した引用商標5及び引用商標6の合計3件(以下、これらをまとめて「本件関連商標」という。)は、請求人の第167回理事会決議による請求人の出願予定商標と全て同一の商標であるが、これら3件の商標出願が、たまたま偶然に一致したでまかり通ることではなく、悪意をもって盗用したことは社会通念上疑う余地もない。 H氏は、そばネット15年改革案にも当初より携わっており、請求人のあらゆる活動と計画は、逐一さいたま蕎麦打ち倶楽部の一部役員を通じて被請求人を含む全麺協幹部に報告されていた。その証として、そばネット15年改革案の骨子が決定した、そばネット埼玉第166回理事会(甲2)の内容を、H氏が直ちに当該倶楽部の一部役員宛にメール送信した事実(甲3)を提出する。当メールにはファイル8点が添付されているが、請求人改革案の骨子が示されている重要な基本方針である。このような機密資料を、正式発表前に軽々しく何の権限もないH氏が送信すること自体非常識といえるが、この行為は請求人の公益活動を妨害する目的があったものと推測する以外、解釈のしようがない。 当該機密資料を請求人代表が修正、加筆したものが、2019年12月31日に請求人会員宛に送信された(甲1)。 H氏が送付したメールに添付された資料が、いかに重要なものかは、当該メールの送信後、さいたま蕎麦打ち倶楽部会長からH氏宛てのメール(甲4)から分かる。 以上から、H氏は理事職という立場を利用し、自ら得たあらゆる情報を、事あるごとに被請求人を含む全麺協関係者に情報漏洩していたことは、容易に推測できる。 ウ 被請求人は、辞書に掲載がない造語である本件関連商標を採択するに至るまでの説明及びそれに込めた思いを何ら語っていない。本人が代表を務めるそばネット雷門そば倶楽部のホームページを閲覧しても、わずか9条からなる会則に突然出てくるのみである(甲1)。このような造語商標3件をどのような思いと理由で創作し、出願したかの合理的な理由を被請求人に問うてみたい。 一方、請求人は、採択までの過程と確かな計画を企図しており、使用においても請求人のパンフレット(甲1)や請求人ホームページからも明らかなように、2020年12月6日開催の「第1回そばづくりスト技能検定会in沼田」の実施から現在に至るまで計画通りに遂行されている。 両者を比較すれば、本件商標を含む請求人の出願予定商標は、請求人が熟考のうえ採択したことは明白であり、請求人が真の商標権者になるべきである。 (3)全麺協理事長から個人会員宛の通知(甲6) 令和2年2月1日付け書面の中で、理事の辞任に関する記載があるが、その他の文面を含め全くの虚偽であり、事実は、甲1で述べているとおりである。 また、全麺協は、請求人が2020年4月を目標に、より多様性、公益性を高めた「そばネット埼玉設立15年改革案」を計画していたことは、H氏関係メール(甲4)の中で、さいたま蕎麦打ち倶楽部会長が述べるとおり、請求人の活動は、関係同士より逐一報告されていることでもあり、全て把握していたことは疑う余地もない。 (4)本件商標の出願後及び組織ぐるみの妨害行為 ア さいたま蕎麦打ち倶楽部の分裂 請求人は、全麺協との路線の違いや被請求人及び全麺協幹部からの圧力もあり、全麺協を2020年3月末日退会した(甲1)。この退会を境に、請求人設立母体の一つであり車の両輪の如く関係性を保っていた、さいたま蕎麦打ち倶楽部内で方針の違いによる不協和音が生じてきた。すなわち、NPO法人そばネットジャパンに継続加盟する意見(主に新都心道場)と、脱会を執拗に主張する意見(主に北本道場)とに分かれた。このため幾度かの話し合いを設けたが意思統一することがかなわず、2020年8月末日にて二分割することとなり、当該倶楽部は自然消滅することになった。二分されるにあたり話し合いの下、当該倶楽部は8月末日をもって全麺協を退会し、9月1日から各々が新倶楽部として全麺協に入会手続きを申請することで双方合意した。 このような状況下であったため、会員個人の意向を尊重すべく、新都心道場と北本道場間の移籍を認めるための希望を募った結果、H氏1名のみが、新都心道場から北本道場に移籍した。付言するに、北本道場には全麺協副理事長K氏が顧問として在籍している。 イ 全麺協入会拒否 元さいたま蕎麦打ち倶楽部が、さいたま蕎麦打ち倶楽部新都心(以下「新都心」という。)とさいたま蕎麦打ち倶楽部北本道場(以下、「北本道場」という。)に二分され、両者取り決めどおり、新都心会長が全麺協に元さいたま蕎麦打ち倶楽部の退会届と新都心の新規加盟を申請したところ、令和2年9月16日に全麺協専務理事兼事務局長の被請求人より新都心会長宛に書面が届いた(甲7)。それによると、「退会は受理」、「新規入会は全麺協と請求人の団体双方の所属は認めず、どちらかを選択せよ」、「請求人の役員に就任している方は、全麺協の個人会員、各段位、役職を自主的に返上せよ」とあり、甲6の内容とは甚だしく矛盾していた。 これに対し、令和2年9月22日新都心会長は、かかる矛盾を指摘し、全麺協と請求人双方に加盟する方針である旨の内容で返答した(甲8)。 この一転入会拒否の背景にある思惑は、請求人の中枢的役割を担う会員が多く存在する新都心の入会を拒むことで新都心内での動揺を誘起させ、請求人を孤立させる意図があるからである。 ウ 全麺協理事長から新都心会長宛通知 令和2年10月2日付けの全麺協理事長から新都心会長宛の通知(甲9)の骨子は、以下のとおりである。 (ア)請求人は段位制度を模倣した。 (イ)請求人の役員に新都心在籍のものが10数名在籍しているが、その者は民法上の注意義務(善管義務)を科せられているので他の法人を利する行動は制限される。 (ウ)請求人の役員が保有している全国審査員、地方審査員、指定指導員、主席指導員、支部公認指導員の役職、資格による活動の制限を科す。 (エ)令和2年2月1日付けの文書(甲6)で、「全麺協と新団体の両方に所属することは差し支えない」とあったが、いずれか一方の法人に所属するよう決議がなされた(甲1)。 このように、理不尽かつ一方的な主張で、請求人及び請求人と密接な関係にある新都心への妨害行為が顕著になってきた。さらに、全麺協に対する入会申請を拒否されているのは、新都心のみであり、同時に退会し、新規入会手続きを行うことで合意したはずの北本道場側は、何ら問題なく継続扱いとなっていることが後日判明した。以上、これまでの相関図(甲10)を提出する。 エ 請求人による被請求人への取り下げ要求及び全麺協理事長への質問と回答 (ア)請求人は、本件関連商標3件の出願が不正な目的での冒認出願であることを承知しているが、無益な争いを避けるため、令和2年10月16日付けで当時出願人である被請求人に、本件関連商標に対し、商標法第4条第1項第7号その他の不登録条項に該当するとして特許庁に情報提供をした事実と、取り下げを要求し、また、誠意ある回答がない場合は被請求人の行為を請求人のホームページ上に公開する旨の通知をした(甲11)。 併せて同日、全麺協理事長宛に被請求人による悪意による商標登録出願の事実の通知をした上で、次の3つの質問をした(甲12)。 a 被請求人の出願を出顧前、あるいは出願後に了知していたか? b 被請求人が会長であるそばネット雷門そば倶楽部の主たる事務所は全麺協研修センターと同じであるが、単なる構成員に使用を認めているのか?そうであれば、「そばネット」の使用を全麺協は認めていることになり、この度の被請求人の出願を全麺協が関与し、組織ぐるみと疑われることになるが如何か? c この度の被請求人の行為は全麺協が標榜している「そば道」には反しないか? (イ)被請求人の回答 「登録商標出願の取り下げはしない。」、ホームページへの公開は、「好きにしたらよい。自分たちの準備不足を露呈するだけだ。」との令和2年10月29日付け回答を書面で受領した(甲13)。 この回答を素直に解釈すれば、請求人の出願予定商標の仕様や法人名変更後の出願にするか否かも決まってない状況下において、評議員会や理事会で発表するから、他から先を越されても自業自得だ、請求人の準備不足であるということを露呈するだけだ、と解釈できる。当該回答は、被請求人自ら第167回請求人理事会で商標登録出願を決議した請求人の出願予定商標を、全て盗用したと認めているのである。この回答により、公益法人である請求人の活動を妨害することが目的の、悪質かつ不正な出願であることが疑いようもない事実となった。 (ウ)全麺協理事長からの回答 全麺協理事長からの回答(甲14)は、請求人による令和2年10月16日付けの質問(甲12)に対して答えてなく、全く意味不明の回答である。これはこのような内容でしか返答できないと解すべきである。いずれにせよ敢えてはぐらかしているものであり、国内最大規模であるそば打ち団体の理事長返答書簡としては、誠意ある回答とはいい難い。 また、その対応も理事長の立場ともなれば、全麺協幹部であった請求人代表の辞任から1年にも満たない中で、被請求人(当時は出願人)との紛争に対し、問題解決に向け話し合いの場を設ける等の行動を取ってしかるベきであるが、真逆の立ち位置である。これは被請求人と相補関係の故の回答であり、全麺協上層部における組織ぐるみの妨害行為と解するのが相当である。被請求人が出願した3件の本件関連商標出願も、全麺協名の出願でなく敢えて個人名とすることで、全麺協が関与していないことのカムフラージュであると思料せざるを得ない。付言するに、全麺協が過去に行った商標出願件数は4件あるが、被請求人の出願内容とその区分及び指定商品は全て同一である。 オ 全麺協への入会許可 令和2年11月11日に全麺協理事長から新都心会長宛に、新都心会員の入会許可通知を受領したが、その内容は請求人に所属する役員は除くとなっていた。 なお、新都心は新たに入会費と団体会員費を支払ったが、北本道場側は継続扱いのため支払いはない。 カ 被請求人から新都心会長へのメール 2020年11月17日付けで被請求人から新都心会長へのメールがあり、新入会の手続きが完了したとの通知を受けた(甲15)。この中で、白々しくも「なぜ、北本道場が変更届で新都心が退会、再入会なのか理解できませんが・・・」と素知らぬふりを装いつつ、「私の今でも変わらない思いは、ニッポンにそばの趣味の団体は二つもいらない・・・」と明言している。これは正しく本人が専務理事を務める全麺協のみが唯一、そば打ち業界での連合体であればよく、他者を排除する宣言である。すなわち、請求人への賛同者、加盟者が増すにつれ、その規模が拡大することを恐れるあまり、その活動を不正に妨害する手段として、本件商標の登録出願に及んだと解するのが相当である。 キ 全麺協から請求人会員への不利益処分の通知とそれに対する声明 令和2年11月18日付け書面が全麺協会員である270余の団体代表に送付された(甲16)。 その要旨は、令和2年2月1日付け書面(甲6)で、全麺協及び請求人双方の団体に加盟することは差し支えないと回答したことについては、段位認定制度の事業運営に影響を及ぼすものと判断し、諸求人会員の入会は認めないこととしたというものである。基本方針は、以下のとおりである。 (ア)請求人の会員(団体及び個人)は全麺協の会員となることができない。令和3年4月1日以前に既に請求人の役員となっている者は全麺協の会員継続を認めない。 (イ)全麺協段位者が請求人の段位に編入されている場合、及び全麺協の会員でなくなった場合は、一定期間後に段位認定者名簿から削除する。 (ウ)請求人に入会していた者が退会して全麺協に入会を希望する場合は随時入会を認める。 請求人としては、これまで数々の誹謗中傷を受けたにも関わらず、敢えて争うことなく静観してきた。しかしながら、請求人の会員に対してまでも法令違反ともとれる内容で、公然と一方的に差別することを主張する全麺協に対しては看過できるものではない。しかしながら、当該通知に対して当面静観して頂きたい旨の通知を各会員宛、令和2年12月4日付けで送付した(甲17)。 その上で、同日、全麺協理事長及び全麺協団体会員宛に、法令違反の示唆を含め書面を各々送付した(甲18、甲19)。 そうしたところ、慌てて全麺協は、12月10日付け通知を発した(甲20)。その内容は、(ア)当法人の会員資格喪失ということではない、(イ)個人会員、特別個人会員の資格を剥奪することはない、と、またもや前言を翻す内容であった。 このように全麺協の声明、ポリシーに一貫性がなく、その場を取り繕うベく、二転三転した玉虫色の主張を繰り返すのは、請求人に対する本件商標の登録出願をはじめとした、不正な妨害行為を正当化するための自己弁護であると解せざるを得ない。 この通知に対して請求人は、困惑している会員宛に、NPOそばネットジャパンの方針を丁寧に説明した上で、当法人は常に開かれた法人であり、会員の自主的な活動を保証し、入退会も自由である旨の、令和2年12月31日付け通知を発した(甲21)。 以上、出願後についても全麺協との関係性を含め述べてきた理由は、被請求人及び全麺協という、個人と組織との連携した計画的陰謀による、善意の第三者を巻き込んでの請求人排除の企みがあり、その目的を達成する手段の一つとして本件商標の出願があったと解するのが相当であるとの観点からである。全麺協発行の会報誌において、唐突に商標のコラム欄が掲裁されたことを鑑みても、その計画性が読み取れる(甲1)。 (5)全麺協の指摘が不条理であることの事実 ア 全麺協は、さいたま蕎麦打ち倶楽部への書面通知(甲6、甲9)の中で、全麺協と請求人との役員兼職は、注意義務、善管注意義務に違反する等、利益相反的な指摘をしているが、双方の役員兼職は、それまで任意団体であった全麺協が2014年に一般社団法人に移行して以来続いてきたもので、何故6年も経過してからこのような主張をするのか理解し難く正当な理由もない。このような指摘は善意の第三者を欺く主張である。 また、請求人は公益法人としてNPO法に則った活動を行っているものであり、利益相反の指摘は全く根拠がなく失当である。 加えて、被請求人は2014年から2016年まで全麺協理事と請求人理事を兼職していた事実があり、過去の被請求人等による請求人代表に対する勧告を含め、全麺協の主張は矛盾することが多岐にわたり合理性に著しく欠けるものである。 イ 全麺協は請求人の設立を2020年4月1日と主張しているが、正しくは2005年10月である。設立時の名称はNPO法人そばネット埼玉であったが、2020年4月に役員、会員も既存のまま現在の法人名に変更している。この事実は行政官庁が認定していることであり、また、他の商標の拒絶理由通知でも示されている(甲22)。よって、当該主張はその前提として誤りである。 ウ 請求人の「そばづくりスト技能検定制度」を全麺協段位制度の盗用であると主張しているが、請求人の検定制度は多彩な郷土そば打ち、さらしなそば打ち等を取り入れ、検定基準も独自のものである。なお、全麺協は「請求人のそば打ち基準は全麺協の主旨にあわない」と自らその相違について言及している事実がある(甲1)。 また、段位制度自体も日本では武道や趣味の世界を始め広く普及しているものであり、手打ちそばにあっても全麺協や請求人以外にも独自の認定制度を設け活動している道場、教室は多く存在している。 このような虚偽や不条理な指摘を基に、請求人、会員及び関係者を欺く行為は、不正競争防止法第2条第1項第21号に、さらに、これまで述べた組織ぐるみの妨害行為についても、私的独占の禁止行為に該当する蓋然性が極めて高い。 (6)被請求人による説明責任 被請求人は、NPO法人そばネット埼玉設立当初より、理事として2016年まで10年もの間、その職を務めていた。つまり、被請求人は、辞任後といえども請求人に対し、当然ながら信義則上の義務を負うべき立場である。それにもかかわらず、被請求人が本件商標及び請求人の法人名を含む商標計3件(請求人の出願予定商標)を計画的に冒認出願したことは、請求人に対する特別背任行為に該当すべき行為である。この行為こそが、全麺協のいう「注意義務(善管注意義務、忠実義務)」違反行為として問われてしかるべきである。したがって、被請求人は本件関連商標3件の商標出願について、説明責任を負う立場といえるものであるが、現在までその説明がなされていない。 (7)請求人の直近の公益活動 直近の活動として、令和3年度から伝統文化の奨励、継承の一環として、請求人団体正会員主催の子どもそば打ち教室に対して助成金の支給を行い、体験した子どもへは、手打ちそば伝道師制度技能検定における、級認定証を授与することとしている。これまで既に6団体が実施し好評を博しているため、今後は恒例の行事候補となっている。また、令和4年1月に実施された技能検定埼玉大会では老若男女、小学生から80歳代まで会員非会員を問わず多数の応募があり、小学生が見事に初段合格等、日本の食文化の継承、発展を軸として、地域活力の向上、交流に大いに貢献している(甲23)。このようなNPO活動を妨害することは、断じて許容することができない。 (8)むすび 以上述べてきたことを総合的に判断するならば、過去の軋櫟を根に持ち、また、被請求人が要職を務める全麺協が、そば打ち業界で唯一の連合体の盟主であるベきという独善的な考えの下、全麺協と共に組織的に請求人の活動を妨害する目的をもって、本件関連商標を登録出願したものとみるのが相当である。 本件商標は、出願の経緯、目的に社会的相当性を著しく欠き、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであり、到底認容できない場合に当たるものとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。 また、本件は、単なる私的利害調整のみの問題でなく、請求人のNPO法人としての公益活動を妨害する目的であり、さらに、善意の第三者である請求人の多くの会員、関係者をも巻き込み、多大な混迷をもたらし心労を被ることを余儀なくされている。加えて、組織ぐるみの不正競争行為や独占禁止法に抵触する蓋然性を鑑みるならば、特段の事情があるものといわざるを得ない。 したがって、本件商標は、出願の経緯及び目的に照らし、商標法第4条第1項第7号に該当する。 3 請求人の弁駁 (1)弁駁の理由 ア 本件商標は、その出願の経緯及び目的が社会的相当性を著しく欠くから、商標法第4条第1項第7号に該当する。 イ 被請求人が請求人から辞任した理由について、その主張に矛盾がある。 また、善管注意義務違反について、被請求人は、請求人とさいたま蕎麦打ち倶楽部は密接な関係にあることを認めているが、そうであれば、2020年3月まで何故在籍していたのか理解できない。本来であれば、請求人の役員を辞任し脱会したと同時に、当該倶楽部も退会してしかるべきである。 請求人代表が、被請求人に対し、辞職勧告したことはなく、事実と異なる。役員の解任は総会の権能であり、この件で理事会に諮った事実もない。 さいたま蕎麦打ち倶楽部は、最後まで全麺協加入についてこだわっており、被請求人の答弁は、矛盾のみで信ぴょう性に著しく欠ける。 ウ 被請求人は、本件商標を含め3件の商標登録出願をし、その全てが請求人の出願予定商標と同一の商標である。これらが偶然に一致したとは社会通念上到底考えられない。 また、出願商標の選択理由が何ら述べられていない。商標を選択するには、それに対する思い、理由、意図等があってしかるべきであるが、被請求人は説明責任があるにもかかわらず、出願から2年半を経過しても何らその理由を語ることなく、自ら説明の機会を放棄しており、被請求人が悪意をもって冒認出願したことを容易に推認できる。 甲3のメールは、冒認(盗用)、情報漏洩の一つの例示として述べたまでで、確かにそのメールアドレスはグループアドレスであり、配信時、誰がそこに含まれていたか又は削除したかを精査するのは困難であるが、役員であれば社会通念として当然に、そこに含まれていたと推定してしかるべきである。 さらに、甲3の1から8の15年改革案は、秘の印はないが、請求人の役員であれば機密情報と了知してしかるべきで、管理責任も担っている。加えて、当該改革案は、後にオープンしたものの、少なくとも配信時点では機密情報に値すると誰もが認めていた(甲4)。 加えて、H氏は、所属する倶楽部内において、数々の不義により謹慎処分を受けていた(甲25)。H氏より反論があったが、執行部より容認できないと返答している(甲26)。謹慎処分の内容は、本件商標の登録出願前後からの数ヶ月間、会員及び会友の個人情報を無断借用し、被請求人が会長を務める雷門そば倶楽部への勧誘誘導メール、職務怠慢行為、ホームページに雷門そば倶楽部への無断リンクを張る行為などが指摘されているが、その大半が被請求人への献身的な協力、支援がうかがえる内容である。 エ 本件商標の登録出願の経緯目的について、被請求人はいまだその思い、理由、意図等を明らかにしていないが、請求人と被請求人のそれまでの関係、請求人が今後の活動の主体となるべきワードである請求人出願予定商標と3件とも同一であること、また、請求人の取り下げ要求に対する返答は、事実と異なり、怨恨をもっていたという動機を表明しているから、本件商標は請求人の活動を妨害する目的であることは明白である。この妨害目的の一環として、被請求人が全麺協専務理事兼事務局長という立場を利用し、請求人及びその関係者に対する差別的な嫌がらせ行為を組織的に行うに至った。 オ 本件では、被請求人は請求人の設立時から10年間役員を務めた後、2016年に辞任したが、さいたま蕎麦打ち倶楽部には2020年3月末まで役員として在籍していた。請求人と当該倶楽部は、車の両輪のごとく活動している関係で、事務所、道場、使用道具類も全て共有又は共用しており、請求人の役員構成もさいたま蕎麦打ち倶楽部会員が多数を占めているから、正に一体であり、当該倶楽部会員が請求人の活動を主導しているといっても過言ではない。つまり、本件商標の登録出願は、さいたま蕎麦打ち倶楽部の現役役員による、請求人に対する注意義務違反であり、背信行為と判断されるべき行為である。 (2)請求の理由の追加 本件商標は、商標法第3条第1項柱書に該当しないため、本件商標は、同法第46条第1項第1号により取り消されるべきである。 第4 被請求人の答弁 1 答弁の趣旨 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証から乙第7号証(枝番号を含む。以下「乙○」と表記する。)を提出した。 2 答弁の理由 (1)全麺協の組織・事業等 全麺協は、1992年(平成4年)に開催された「世界そば博覧会in利賀」に関与協力した自治体等により1993年(平成5年)結成された全国麺類文化地域間交流推進協議会(以下「協議会」という。)を母体に、その結成20周年を契機として、協議会による世界そば博覧会、そばに係る地域振興及び国際交流、段位認定制度等の事業を引き継ぐために、平成26年(2014年)に一般社団法人及び一般財団法人に関する法律上の一般社団法人として設立された(乙1)。全麺協は、協議会時代から、「そば道」を提唱しており、その研究推進普及をその主要な目的とし、その目的のため、そば打ち愛好者を対象として、そば道段位認定制度を設け、その全麺協又はその会員が全麺協の後援、協賛の下に行う審査会において手打ちそば愛好者の技能等を審査し、段位を授与するという事業を主たる事業の一つとしている(乙3の1、2)。 段位認定制度において、初段は誰でも受験しうるが、二段以上は受験資格が全麺協の個人会員に限定され、段位認定者は、全麺協の段位認定登録者名簿へ掲載される。 全麺協は、一般社団法人であるため、社員総会をその最終決定機関とするが、日常業務は理事により構成される理事会によって決せられ、代表権は理事長のみが有する。理事は社員総会で選出される(乙2)が、全麺協各支部が各2名の理事候補者を推薦し、さらに理事長が12名以内の理事候補者を推薦するのが慣例であった。全麺協の定款上の会員は4種で、うち、全麺協の目的に賛同して入会し、所定の会費を納入している団体(そば打ち愛好者の団体)である正会員及び協議会時代から全麺協に所属していた地方公共団体である地方公共団体正会員が一般社団法人法上の社員である(乙2)。 全麺協には、定款上の会員とは別に個人会員がある。個人会員は、主として、正会員に所属するそば打ち愛好者たる個人(段位認定者が原則であるが、全麺協の趣旨に賛同し事業参加を希望する者であれば、段位認定者以外の者も個人会員たり得る。)であって、所定の手続を経て全麺協に個人会員として登録された者であり、正会員を通じ、所定の年会費2000円を支払う義務を負う。しかし、正会員に所属しない段位認定者及び全麺協の趣旨に賛同し事業参加を希望する者であって全麺協が認めた者は、所定の手続を経て年会費5000円を納入することにより、特別個人会員になることができる(乙4)。全麺協が開催、協賛、後援する段位認定会の個人会員の受験料、段位の認定料は、非会員よりも低廉に設定されており、また、全麺協の段位を取得した場合、全麺協の段位認定登録者名簿に登載される。 正会員は、1か月以上の予告をすることにより、任意に全麺協を退会することができる。正会員が退会した場合、当該正会員に所属する個人会員は、別途所定の手続を経て特別個人会員とならない限り、自動的に個人会員たる資格を失い、その場合、段位認定者も段位認定登録者名簿から抹消される。 (2)請求人の全麺協退会の意向及び請求人代表の全麺協理事辞任 被請求人は、2011年(平成21年)5月23日、全麺協東日本支部幹事会に出席するため、請求人代表と宇都宮に行ったことがあるが、そのJR宇都宮線の車内で、請求人代表が「段位認定制度の全麺協のノウハウは十分蓄積したので、新しい団体を作ろうと思う。家内に相談したら、やっていいと言われた。」と言うのを聞いたことがあり、それに対し、被請求人は「私は全麺協の事務局長の立場でそのようなことはできない。」と答えたことがある。 しかし、請求人代表の全麺協からの脱退、独立の意向は変わらなかったようである。全麺協は、そば打ち愛好者団体を正会員とするが、大半の正会員はその所属する会員は個人会員が中心で、全麺協正会員に所属する団体会員200以下にすぎなかったが、請求人は、40を超える団体をその会員としていた。これら団体が全麺協の直接の正会員になれば全麺協に入会金、会費が支払われるが、この場合全麺協については係る収入が失われる一方、所属する正会員は、(その規程、規約に基づき)入会金、会費を得ることになり、全麺協の得ベかりし利益が失われることになる。上記状態は、通常、当該団体がその財務状態から、全麺協の直接の正会員とならないことを選択したことから生じていたが、請求人の場合、請求人が全麺協に加入して以来、請求人代表は、全麺協の正会員に対しても、請求人の会員になるように勧誘していた。 また、請求人は、全麺協の基準や定めた名称によらず、そば打ちの技能向上のための手打ち蕎麦アカデミーや、手打ち蕎麦指導者養成道場等の事業を運営し、全麺協との協議、報告なく埼玉県外の他団体との協定を締結する等全麺協から独立した行動が目立つようになった。そのため、上記の行動が全麺協理事として請求人代表が負う忠実義務に違反するのではないかとの指摘が、2019年(令和元年)3月末頃、全麺協の理事から指摘があり、それに関して4月にかけて請求人代表と全麺協事務局長である被請求人との間で、メールのやりとりがなされたことがある(甲1)。 また、段位認定会など、全麺協が後援、協賛をするそば打ちに係る大会を全麺協正会員が開催する場合、あらかじめその名称、内容を所定の書式による名義使用願を正会員は全麺協に提出して申請し、全麺協がそれを全麺協の規程、規約、定めた基準、全麺協の目的等に反しないかを審査の上、協賛、後援等の諾否を決する(乙5)。正会員の中には、その全国規模の打ちに係る大会を開催する者もあるが、少なくとも係る大会を初めて開催する場合は、相当期間前に開催の是非を含め全麺協と協議を行うのが通常であった。しかし、請求人は、2019年(令和元年)6月末頃、全麺協に対し、従前独自に開催していたシニア向け全国規模のそば打ちの大会を、事前協議なく名称使用願の申請をなし、結局不許可とされたこともあった(甲1)。 被請求人及び請求人代表を除く他の理事は、2019年(令和元年)10月頃から、年度(2020年(令和2年)年3月)末には請求人が全麺協を退会し、又は独立してそば打ち段位認定制度に類似した事業を行うのではないかという噂を耳にするようになった。 2019年(令和元年)12月17日、突然、メールにて、被請求人はH氏から請求人の全麺協退会又は新団体設立の意思を伝えられ、同月18日、15年改革案の送付を受けた(乙6の1〜4、乙7の1〜3)。そのため、同年終わり頃には、請求人の全麺協からの退会自体は、請求人が望む限りそれを阻止することはできないものの、請求人代表は全麺協の理事である以上、全麺協の理事の地位に留まったまま全麺協と競合する事業の準備行為を行うことは、一般社団法人の理事の忠実義務に反することを、請求人代表及びそれに近い者を除く全麺協の理事間で確認し、全麺協とその目的のため今後も共に行動するよう請求人の退会を慰留するが、請求人があくまで独立して競合する事業を行おうとするのであれば、請求人代表は全麺協理事を辞するべきという方針で、請求人に対する今後の対応に臨むこととした。 全麺協の理事長は、2020年(令和元年)1月9日、請求人代表との話し合いを申し入れたが、請求人代表はこれに応じなかった。同月17日、全麺協臨時理事会が開かれ、理事長が一対一で請求人代表を説得に当たったりもしたが、退会についての請求人代表の意思は固く、1月31日付けで全麺協理事を辞任する旨の辞任届をその場で提出した(甲6)。 (3)請求人代表の理事辞任、請求人の全麺協退会後の全麺協の対応 請求人は、全麺協の正会員として個人会員のみならず団体も多数その会員としていて規模も大きく、請求人代表自身も全麺協理事のみならずその東日本支部長であったため、その退会及び辞任による他の正会員、個人会員の動揺を招くのではないかと考えられた。そのため発したのが全麺協理事長の東日本支部個人会員宛2020年(令和2年)2月1日通知及びそれに添付されたQ&A(甲6)であり、そこで、辞任、退会に至った経緯を説明している。 なお、正会員が全麺協を退会した場合、所属する個人会員は、特別個人会員にならない限り、自動的に退会となる。上記Q&Aで、請求人に所属しながら全麺協の会員になることができるかとの質問に対する可能だが会費の二重払いになるという答えは、請求人に所属し請求人に対しその会費を払い、さらに、特別個人会員として(又は、他の全麺協正会員に二重に所属して)全麺協にもその会費を支払うという意味で、それを説明したものである。この点は、2019年(令和元年)12月17日の請求人の役員会で提出された資料に記載されており(乙6)、請求人も了解していた。 その後、請求人の会員であるさいたま蕎麦打ち倶楽部(その会員は個人からなるが、係る会員は全麺協の個人会員でもある。)で、全麺協に留まるか否かを巡り会員間で議論が生じ、その拠点ごとに北本道場と新都心に分裂し、北本道場はそのまま正会員として全麺協に留まり、新都心はいったん全麺協を退会後改めて正会員としての加入申請をすることとなった(甲7、甲8)。これについて、請求人は、全麺協による会員の引抜、請求人の活動の妨害であると何ら具体的な事実を主張することなく決めつけているようである(甲10)が、上記分裂及び北本道場は特に手続なく全麺協の会員に留まり、新都心は一且退会後再加入することは、さいたま蕎麦打ち倶楽部会員が決定したものであって、全麺協は北本道場及び新都心の会員が希望するとおり、名称変更、退会、再加入等の手続を行ったにすぎない。さいたま蕎麦打ち倶楽部は請求人と行動を共にするだろうと考えさいたま蕎麦打ち倶楽部を退会した被請求人は、何らその分裂に関与していない。 ただ、全麺協は、新都心会長宛2020年(令和2年)10月2日付け書面(甲9)により、新都心の会員のうち請求人の役員を務める者については、全麺協は審査員、指導員等の委嘱、依頼をしないこと、並びに個人会員は請求人及び全麺協の両方に所属することは望ましくなく、いずれに所属するようにすべきとの意向を通知した。後者の点については、さらに、全麺協理事長の全麺協正会員団体代表者宛2020年(令和2年)11月18付け書面(甲16)により、(ア)請求人の会員は2021年(令和3年)4月1日以降全麺協の会員になることはできず、請求人の役員は同日以前においても会員継続を認めない、(イ)同日以降、全麺協の段位認定を受けた者が、そばネットジャパンの段位に編入され又は全麺協会員でなくなった場合は一定期間経過後に段位認定者名簿から削除する、並びに、(ウ)請求人の会員がその退会後全麺協に入会を認める場合は入会を認める旨を通知した。 これらの全麺協の措置は、従前の定款等に基づく入会手続及びその時点までに明らかになった請求人が実施しようとしていた技能検定制度を踏まえ、正会員及び個人会員の入会の指針を明らかにしたものである。そもそも、会社、団体等は、一定の目的のため組織されたものであり、その構成員がその目的に照らし相当なものであるよう、その資格、基準を設定するのは当該会社、団体等の自治の範疇に属する。全麺協においても、その正会員は全麺協の目的に賛同した者でなければならず(乙2)、入会時全麺協理事長は精査の上入会の諾否を決する(乙2)。個人会員について定款上の定めはないが、特別個人会員を除き、全麺協の目的に賛同した正会員に所属しており、したがって、全麺協の目的にそぐわぬ者を正会員が入会させるわけはない。しかるに、請求人は、自らも認めるように全麺協と活動方針を異にすることを明らかにして退会しており、いわば、全麺協の目的に賛同しないことを明確にしているものであり、それに所属する会員も同様であると推認することは相当である。 さらに、請求人はそば道段位認定制度、つまり全麺協の事業と競合する事業を行おうとする者である。企業、団体がその事業と競合する事業を行う者の社員、構成員を自らの事業への従事、関与から排除することは世間一般に普通に見られることである。全麺協も同様であって、自己の目的のため自らの行う事業と競合する事業に従事する者をその構成員としないとすることは、自らの目的達成、事業遂行、組織維持等の観点から当然のことである。 最後に、本件商標の登録出願についてであるが、被請求人が自己の費用負担で行ったもので、全麺協の指示等によるものではなく、また、被請求人は出願前に出願することを全麺協に知らせてはいない。木件商標の登録出願は、2020年(令和2年)2月10日になされているが、請求人は、出願後約1週間後頃に、副理事長K氏に、本件商標の商標登録出願をしたことを伝えた。 その副理事長は、本件商標の登録出願は被請求人が行ったものであり、全麺協の関知することでないこと及び本件商標の登録出願に関する請求人の要求には被請求人より対応するように被請求人に確認し、その際、本件商標の登録出願等に関連して請求人につき事を荒立てないようにして欲しい旨を要請された。その後、請求人より、全麺協に対し、2020年(令和2年)10月16日付け書簡(甲12)により、本件商標登録出願に関する質問に対する回答要求及び被請求人に対し、同日付書簡(甲11)により、本件商標登録出願取下げ請求がなされたが、上記を踏まえ、全麺協は、2020年(令和2年)10月29日付け書簡をもって、請求人に対し被請求人が本件商標につき回答する旨を通知し(甲14)、被請求人は、請求人に対する同日付け書簡により、その要求を拒絶した(甲13)。 なお、本件商標は、2020年(令和2年)12月11日、登録査定がなされ設定登録がなされたが、被請求人は、出願後、現在に至るまで、請求人に対し、商標使用差止めその他請求人に対する本件商標又は「そばづくりスト」の語の使用に関し何らの要求もしたことがない。 (4)本件商標の商標法第4条第1項第7号の該当性 他人の(しばしば著名若しくは周知の)商標、表示をしばしば不当な目的でなされた商標登録が商標法第4条第1項第7号の公序良俗違反とされた事例は多々あるが、本件がこれに該当するか検討する。 まず、被請求人の本件商標登録出願以前に、「そばづくりスト」が請求人の商標、表示として用いられていたかについては、段位認定会その他請求人の主催した大会等のイベントであって、全麺協の後援、協賛を得ているものについては、そのような語を付加してこれらイベント名を使用することは全麺協の許可基準に反するからそのようなイベントはなされることはなかったといい得る。さらに、K氏作成の2020年(令和2年)6月5日付け書面(甲1)によると、「そばづくりスト」はK氏の発案した語とのことであるが、(ア)「手打ちそば伝道師制度」の導入が議決されたが、手打ちそば伝道師に代わる名称はその時点で浮上していなかった、(イ)2019年(令和元年)12月の請求人評議会でK氏が請求人代表、理事の一部に「そばづくりスト」を伝道師に代わる名称案として打診した、(ウ)2020年(令和2年)1月27日の請求人の第167回理事会で15年改革案が審議され、初めて手打ちそば伝道師制度に代わる愛称案として「そばづくりスト検定制度」が提案され、「そばづくりス卜技能検定部会」、「そばづくりスト学術検定部会」が設置されたが、商標登録の問題があり、理事関係者以外には名称(「そばづくりスト技能検定部会」、「そばづくりスト学術検定部会」)は公表されなかった、及び(エ)2020年(令和2年)2月17日理事会でK氏の原稿案「そばづくりスト通信」が理事に配布されたが、理事間の共通理解を深めるためにしたためたもので、外部への発信情報としては未使用の状態にあったとのことである。 つまり、「そばづくりスト」の語は、2020年(令和2年)1月終わり頃になって請求人が使用することを決めたが、請求人は外部に対してこれを使用したことはなかったということになる。よって、「そばづくりスト」が請求人の表示又は商標として使用された事実はない。 次に、請求人は、本件商標の登録が請求人の事業、活動を妨害する不当な目的によるものであると主張する。不当な目的、動機の認定については、自ら認めない限り、外部に現れた行為、言動によりそれを推認するしかないと思われるが、被請求人は本件商標の登録出願をしたのみで、本件商標登録出願後現在に至るまで、請求人の事業活動を妨害するような社会的相当性を欠く行為、言動は一切していない。また、請求人は全麺協の上記の行為をもって請求人の行為、事業を妨害するものであるという趣旨の主張をするが、被請求人は、全麺協の専務理事、事務局長ではあるが、全麺協の意思、行動を左右するような立場にはなく、かつ、全麺協はその法人格を否定され被請求人と同一視されるような法人ではないから、そもそも全麺協の行為をもって被請求人の行為に同視するのは失当であるし、また、その内容についても、全麺協の事業遂行、組織維持等の正当な目的のためになした社会的相当な範囲内の行為にすぎないのであって、不当な目的を推認しうるような行為、言動は何ら存在しない。 したがって、請求人の公序良俗違反の商標である旨の主張は、失当である。 第5 当審の判断 1 利害関係 請求人が本件審判を請求することの利害関係の有無については、当事者間に争いがなく、当審は請求人が本件審判の請求について利害関係を有すると認める。 2 商標法第4条第1項第7号該当性 (1)本件商標の出願経緯について 請求人及び被請求人の提出証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。 ア 請求人は、平成17年(2005年)6月に設立された「特定非営利活動法人 そばネット埼玉」を前身とするNPO法人で、2020年4月1日に現名称「特定非営利活動法人そばネットジャパン」に名称変更をした(甲1の資料3、資料31)。 なお、請求人の代表理事は、「一般社団法人 全麺協」(以下「全麺協」という。)の理事であったが、全麺協と類似する事業等を展開する組織の設立準備を行っているとして、令和2年(2020年)1月31日に辞任しており(甲6)、請求人も、2020年3月末日に、同社団を退会している(請求人の主張)。 イ 本件商標権者は、請求人の前身法人設立時の理事であったが、平成28年(2016)4月8日付けで理事を辞任している(甲1の資料3)。 また、本件商標権者は、そば打ちの技術の向上やそばの魅力等の普及を行うことを目的とする「そばネット雷門そば倶楽部」の代表者であって、全麺協の専務理事兼事務局長でもある(甲1の資料4)。 ウ 請求人の前身法人は、2019年12月末頃から、設立15年の改革案として「手打ちそば伝道師の育成」、「手打ちそば技能(基礎)検定」、「手打ちそば学術(基礎)検定」などの検討を開始した(甲1の資料11、12)。 同法人の第167回理事会(令和2年(2020年)1月27日)において、伝道師制度段位の愛称を「そばづくりスト」とすることが決定し、その登録出願を進めることも承認された(甲1の資料8)。 エ 本件商標権者は、上記第1のとおり、本件商標「そばづくりスト」を、令和2年(2020年)2月10日に登録出願した。 オ 請求人は、本件商標権者(当時は出願人)に対して、令和2年(2020年)10月16日付け書面で、本件商標の登録出願の取り下げを求めた(甲11)。 しかしながら、本件商標権者は、「商標登録出願の取り下げはしない。全麺協の段位認定システムを盗用した団体から公序良俗だとか剽窃的に冒人出願とか言われる筋合いはない。」として、取下要求に応じなかった(甲13)。 カ 被請求人の主張によれば、本件商標の設定登録(令和2年(2020年)12月21日)の後に、請求人に対して、商標の使用差止めや、その他「そばづくりスト」の語の使用に関して何らの要求もしたことがないとされる。 なお、本件商標権者が請求人に対して、本件商標に基づいて、何らかの具体的な要求(金銭請求、事業停止要求など)や事業運営の妨害をしたことを示す証拠は提出されていない。また、請求人による手打ちそばの技術や知識などの習熟度を審査する技能検定は、2020年(令和4年)1月にも開催されている(甲23)。 (2)検討 以上によれば、請求人の前身法人が新たに導入を検討していた伝道師制度段位について、「そばづくりスト」の愛称にすることが理事会で決定(2020年1月27日)した約2週後(同年2月10日)に、それと同一の構成文字からなる本件商標(そばづくりスト)を、請求人の理事(当時)でもない本件商標権者が登録出願しているところ、その状況を踏まえると、それぞれの事実関係が何らの関連性もなく生じたとは考えにくいから、本件商標権者は、何らかの方法で請求人側の検討情報を知り得て、本件商標の登録出願に及んだ可能性は否定できない。 しかしながら、本件商標権者は、本件商標の商標権を持ち出して請求人との交渉を優位に進めようとしたり、ライセンス料の請求や名称使用(そばづくりスト)の差止請求などを行っておらず、請求人による技能検定も現に開催されているから、現段階において具体的な問題や損害は確認できない。 また、本件商標権者は、その登録出願時において、請求人との間で契約関係や取引関係、組織関係などもない(当時理事は辞任している。)ことからすると、本件商標の登録出願をしてはならないという理由は見いだせない。 そうすると、本件商標の登録出願の目的及び経緯に不自然な点はあるものの、その商標権により何らかの具体的な問題や損害が確認できない現段階においては、それだけで本件商標の登録自体が、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くとまでは認めるに足りない。 (3)請求人の主張について ア 請求人は、本件商標権者は、過去の軋轢を根に持ち、また、全麺協がそば打ち業界で唯一の連合体の盟主であるべきという独善的な考えの下、全麺協とともに組織的に請求人の活動を妨害する目的をもって、本件商標を登録出願した旨を主張する。 しかしながら、上記(2)のとおり、本件商標の登録出願の目的及び経緯に不自然な点があるとしても、その登録によって何らかの具体的な問題や損害は発生していない現段階においては、請求人の主張する危惧は、未だ潜在的かつ抽象的な懸念にすぎない。 そうすると、本件商標は、現段階においては、その登録自体が、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くとまでは認めるに足りない。 イ 請求人は、本件商標権者の組織ぐるみの妨害行為として、さいたま蕎麦打ち倶楽部の分裂や、その全麺協入会拒否に関するトラブルなどを詳細に説明する。 しかしながら、それらのトラブルが、請求人や本件商標権者及びその関連団体などのいさかいの具体例や背景事情であるとしても、本件商標の登録の存在により生じた事実関係とは考えにくい。 したがって、それら事実関係は、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性の判断に直接影響はしない。 (4)以上を踏まえると、本件商標は、少なくとも現段階においては、公序良俗を害するおそれのある商標とはいえず、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 3 商標法第3条第1項柱書について 請求人は、令和4年9月28日付けの審判事件弁駁書において、本件商標は商標法第3条第1項柱書に該当するとして、請求の理由を追加している。 しかしながら、上記追加された理由は、審判請求書の請求の理由には記載がなく、本件審判の当初の請求理由を実質的に追加し、要旨変更するものといえるから、商標法第56条第1項において準用する特許法第131条の2第1項の規定により、その理由の追加は認めることはできない。 したがって、本件審判の当初の請求理由である商標法第4条第1項第7号該当性のみを判断することとした。 4 まとめ 以上のとおり、本件商標の第41類「全指定役務」の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(引用商標2。色彩は原本を参照。) ![]() 別掲2(引用商標3。色彩は原本を参照。) ![]() (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。 |
審理終結日 | 2022-10-25 |
結審通知日 | 2022-10-28 |
審決日 | 2022-11-25 |
出願番号 | 2020014161 |
審決分類 |
T
1
12・
22-
Y
(W41)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
矢澤 一幸 |
特許庁審判官 |
豊田 純一 阿曾 裕樹 |
登録日 | 2020-12-21 |
登録番号 | 6332392 |
商標の称呼 | ソバズクリスト |
代理人 | 坂井 豊 |
代理人 | 副島 史子 |