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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09354142
管理番号 1393384 
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-24 
確定日 2023-01-07 
異議申立件数
事件の表示 登録第6500887号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6500887号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6500887号商標(以下「本件商標」という。)は、「ユチュブる」の文字を標準文字で表してなり、令和3年3月31日に登録出願、第9類、第35類、第41類及び第42類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同年12月24日に登録査定され、同4年1月18日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりであり(以下、それらをまとめて「引用商標」という。)、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(1)登録第4999382号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様 YouTube(標準文字)
指定役務 第38類、第41類及び第42類に属する商標登録原簿に記載の役務
登録出願日 平成18年7月28日
優先権主張日 2006年(平成18年)1月30日(アメリカ合衆国)
設定登録日 平成18年10月27日
(2)登録第4999383号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の態様 別掲1のとおり
指定役務 第38類、第41類及び第42類に属する商標登録原簿に記載の役務
登録出願日 平成18年7月28日
優先権主張日 2006年(平成18年)1月30日(アメリカ合衆国)
設定登録日 平成18年10月27日
(3)国際登録第991364号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の態様 別掲2のとおり
指定商品及び指定役務 第9類、第35類、第38類、第41類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載の商品及び役務
国際商標登録出願日 2008年(平成20年)10月16日
設定登録日 平成22年7月16日
(4)登録第6094059号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の態様 別掲3のとおり
指定商品及び指定役務 第9類、第25類、第35類、第38類、第41類、第42類及び第45類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務
登録出願日 平成29年8月31日
優先権主張日 2017年(平成29年)8月28日(アメリカ合衆国)
設定登録日 平成30年11月2日

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するので、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第40号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)引用商標の周知・著名性について
ア 引用商標に係る「YouTube」の文字は、申立人の提供する動画共有・配信ウェブサイト「YouTube」として採択され(甲3)、我が国において周知・著名となっている商標である。
動画共有・配信ウェブサイト「YouTube」(以下「申立人ウェブサイト」ということがある。)は、2005年の立ち上げ以来、全世界で何十億人ものユーザーが、自ら作成した動画をアップロードし、共有し、再生することができる場として親しまれ、そこでは、世界中のユーザーが繋がり、情報を交換し、お互いに影響を与え合うことができることから(甲4)、インターネット上における動画配信サービスの先駆けとなり、極めて短期間のうちに世界中で広く知られるようになった。
また、動画コンテンツ制作者や広告主は、申立人ウェブサイトを用いて、動画や広告を自由に配信することもでき、広告媒体としての利用も推奨されており、個人のインターネットユーザーのみならず、多くの企業にも幅広く活用されている(甲5)。
イ 申立人と関連会社ユーチューブ リミテッド ライアビリティー カンパニーについて
申立人は、インターネットの代表的なサーチエンジンのひとつである「Google」を運営する米国の企業であり、今日では、サーチエンジンのほかに、ウェブブラウザ、動画共有、地図、インターネット広告、電子メールなどソフトウェアアプリケーションの提供を中心として、さまざまなサービスを提供している。
その中核サービスの一つ動画共有は、主に申立人ウェブサイトの管理運営を通じて提供されているものであるが、同サイトは、申立人が2006年11月にユーチューブ、インコーポレイテッド(以下「ユーチューブ社」という。後にユーチューブ リミテッド ライアビリティー カンパニーとなる。)を買収し、その事業を実質的に運営・管理する形で開始されたものである(甲6)。
申立人ウェブサイトは、またたく間に日本を含む世界のネットユーザーに浸透し、「YouTube」の文字と共に特徴的な赤色の丸みを帯びた横長長方形を表したロゴ(引用商標4)は極めて短期間に日本を含む世界中で周知・著名な商標として認識されるに至った。
ウ 「YouTube」ロゴ(引用商標4)の採択の由来
「YouTube」の名前は、二人称単数を表す英語の「You」と、「ブラウン管」を意味し「テレビ」を表す米国の俗語として用いられている「Tube」の文字を組み合わせた創造語であり、このような(テレビ)放送に関係する言葉を、敢えてインターネット(通信)におけるウェブサイトの名称(商標)に使用したことは他に例がなく、極めて独創的なものであった。
エ 申立人ウェブサイト(YouTube)の特徴
申立人ウェブサイトにおいては、会員登録をしたユーザーは、動画ファイルをインターネット上にアップロードすることにより投稿し、公開することができる。公開された動画ファイルの検索・閲覧は会員登録の有無に拘わらず誰でも無料ですることができる。会員登録したユーザーはさらに閲覧した動画に対するコメントを投稿したり、評価したりすることもできる。申立人ウェブサイトの登場以前からも動画配信サイト自体は存在していたが、一般的なインターネット個人ユーザーが動画をウェブ上で公開するための手段として使い勝手の良い動画配信サイトは、申立人ウェブサイトが初めてのものである。申立人ウェブサイトが開設されたことにより、個人が容易にビデオクリップ等の動画をウェブ上にアップロード、検索・閲覧、インターネット・個人専用のビデオネットワーク又は電子メールを経由して他人と動画を共有することが極めて容易にできることとなったことが最大の特徴であった(甲7)。
オ 申立人ウェブサイトの利用者
申立人ウェブサイトは、サービスを開始した当初は英語のみで運営していたが、サービスを開始後間もなく(2006年春)、世界中から一日当たり6万5千件もの動画のアップロードがなされ、1億件を超える動画の配信が行われるようになった(甲8)。その中には日本からの投稿者・視聴者も非常に多く、サービスを開始直後の2006年3月時点において、1か月あたりの米国内からのアクセスが800万、日本国内からのアクセスは200万を数えた。さらに、申立人が2006年11月にユーチューブ社を買収したことが大々的に報道された(甲6)ことの話題性も相俟って、2007年6月には日本語版の「YouTube」のサイトが完成し、より多くの日本のユーザーが容易にアクセスできるようになり、申立人ウェブサイトは我が国において急激に広まることとなった。
2006年のインターネット10大ニュースに選ばれ(甲9)、「YouTube」の語は2007年のYahoo!の検索ワードランキングで第2位となった程である。同年には、民間調査会社のネットレイティングスの発表で、サービス開始後わずか14か月で日本国内家庭からの利用者が1000万人を超えた(甲10)。
カ 申立人ウェブサイトの事業者による利用拡大について
申立人ウェブサイトを利用することによってインターネット上で手軽に動画を公開・配信することが可能になることに着目し、同サイトを広告・宣伝の媒体として利用する者も現れた(甲11〜甲18)。
また、純粋な放送・娯楽の提供のメディアとしての利用方法も盛んになった(甲19)。申立人ウェブサイトの有する手軽に動画を公開・配信することができるという特色は、他方で著作権を侵害する蓋然性の高いコンテンツの無断配信をも可能にしてしまうという側面もあり(甲20〜甲22)、申立人は違法動画対策を約束するなど(甲23、甲24)日本でのサービスの普及に強い意欲を示した。
申立人ウェブサイトはその高い情報・知識提供機能、広告・宣伝機能から、国内外の文化・経済・政治などの各方面からも注目されることとなった(甲25〜甲28)。
キ 申立人ウェブサイトの個人による利用促進
申立人は、個人に対しても利用を促進するための各種プログラムを用意した。
2007年5月、申立人は最も閲覧数の多い数名のユーザーに「パートナー」となるよう勧誘した。当初は、特権的地位(パートナー)を、企業のみに与えていたが、ビデオ画面の隣に広告掲載するのを条件に、一般のユーザーにも動画の配信を通じて利益を得ることを可能にした。2011年4月にはパートナープログラムが一般にも開放され、動画クリエイターの支援のためのプログラムを立ち上げ(甲29)、動画撮影スタジオを2013年2月15日にオープンし、無料で貸し出したことも話題となった(甲30)。
このように、より多くのユーザーが「YouTubeクリエイター」として魅力的な動画を配信することで閲覧数を稼ぎ、ひいては広告収入を得られることとなった。一部の「YouTubeクリエイター」は「YouTuber(ユーチューバー)」と呼ばれてインターネットユーザーの間で爆発的人気を有する者もあらわれ、ある種の社会現象の如くになっている。
なお、申立人ウェブサイトの日本版の公式チャンネルの我が国におけるサブスクライバー(登録閲覧者)は93万人に上り、2013年8月20日から2015年9月30日の間で、述べ約6125万回閲覧された(申立人調べ)。
「YouTubeクリエイター」の育成の一環で、申立人は各年の12月に、特別なウェブサイト「YouTube Rewind」を開設し(甲29、甲31)、その年に人気の高かった動画のランキングなどを特集するなど、動画クリエイターによる動画の投稿を促進すると同時に、インターネットユーザーによる閲覧の促進を図っており、申立人ウェブサイトに注目が集まるような仕掛けを随時提供してきた。
ク 申立人ウェブサイトのアプリケーションソフトウェアとしての利用
申立人の提供するオペレーションソフトである「アンドロイド(Android)」を搭載したスマートフォンやタブレットコンピュータに、申立人ウェブサイトのアプリケーションソフトウェアがプレインストールされている事実は特筆すべきものである。
我が国においてスマートフォンなどにプレインストールされた申立人ウェブサイトのアプリケーションソフトウェアの総数は、2013年8月20日から2015年9月30日の間で、約2717万に上る(申立人調べ)。また、「Google Play」を通じてダウンロードされた同アプリケーションソフトウェアの総数は、同期間で、約26万7千に上る(申立人調べ)。これらを合計すると、約2743万7千もの数が端末に保存されたことになる。
このことが、申立人ウェブサイト利用の際の利便性を高め、その利用者数増加、固定ユーザー層の獲得に多大な貢献をしたことはいうまでもない。
ケ 申立人ウェブサイトが我が国における動画共有・配信ウェブサイトの利用者数No.1であること
申立人ウェブサイトは、日本国内において、動画サイトの利用者数第1位となり、2位以下を大きく引き離すともに(甲32)、申立人は、すでに2016年においてパソコン経由の動画ストリーミングの閲覧数が最も多いサービス企業(甲33)となっていた。
また、申立人の行った調査によれば、日本における申立人ウェブサイトを使ったことがあるインターネットユーザーの割合は、インターネットユーザーのなんと77パーセントにも上ること、男女とも年代別に比較したときには、10代の若年層による利用率が高いことが分かった(甲34)。さらに、2017年には、18〜64歳のネット人口の82%が視聴した(甲35)。
コ 引用商標に関わる申立人ウェブサイトに関連する商品・役務について
前記したように、引用商標は、動画共有・配信ウェブサイトを通じて「インターネットを用いて行う動画の提供」を中心とした役務に使用され、さらには、これに関連して、申立人ウェブサイトの利用のための、電子媒体又は情報をインターネット上又は他の通信ネットワーク上でアップロード・ポスティング・発表・表示・タグ付け・ブログ・共有又は他の提供を可能にするコンピュータソフトウェア(第9類、第42類)、申立人ウェブサイトを通じて提供される、広告及び販売促進(他人のためのこと)、販売促進、すなわちオンラインによる娯楽・オンラインによる他人の商品の販売促進及び役務の普及促進(第35類)、インターネットその他の通信網により電子媒体・電子情報を提供する教育及び娯楽の提供,電子媒体・マルチメディアコンテンツ・ビデオ・映画・写真・画像・テキスト・写真・ユーザーが作成したコンテンツ・オーディオコンテンツ及び関連情報の提供(第41類)等に大々的に使用され、少なくともこれらの商品・役務について周知、著名性を獲得している。
サ 小括
以上より、本件商標の出願前から、引用商標に係る「YouTube(ユーチューブ)」は、申立人が動画共有・配信ウェブサイトを通じて、「インターネットを用いて行う動画の提供」等について継続して使用した結果、周知・著名性を獲得していた事実は疑いようがないのであり、本件商標の査定時においても継続してその周知・著名性を維持していたと優に推認できるものである。
参考までに、特許庁における過去の審判事件(取消2009ー300042)や審査において、引用商標の我が国における周知著名性が認められている(甲36)。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標と引用商標の類似性について
(ア)称呼について
本件商標は「ユチュブる」の文字を標準文字にて表してなるところ、構成文字に相応して「ユチュブル」の称呼が生ずるものである。
引用商標は、通常用いられる文字を用いて「YouTube」の文字を表したもの(引用商標1)、その文字と赤色又は黒色に着色した、角を丸くした横長楕円形の内側に白抜き右向き三角形を表した図形を組み合わせたもの(引用商標4)と、「You」の文字と赤色又は黒色に着色した、角を丸くした横長楕円形の内側に白抜き文字で表した「Tube」の文字により構成されてなるもの(引用商標2及び3)であるところ、構成文字に相応して「ユーチューブ」の称呼が生じる。
そこで、本件商標より生ずる「ユチュブル」と引用商標より生ずる「ユーチューブ」の称呼とを比較するに、両者の差異は、「ユ」と「チュ」に続く「ー(長音)」と語尾における「ル」の有無にある。
しかしながら、両者の構成音中の「ユ」と「チュ」は、それぞれ長音の有無という差異があるとしても、この差異音である長音は常に一定の長さで発音されるとは限らないし、ともに前の「ユ」と「チュ」の音に吸収されて余韻として残る程度の極めて弱い音となる。語尾の「ル」の有無についても、語尾音は他の音の比べて明確さを欠く発声を以って発音されるのが通例であり、前の「ブ」の音に吸収されて余韻として残る程度の極めて弱い音となって、明確に聴取し難く、その差異は一層薄れがちとなる。
むしろ、両称呼は、称呼の識別上重要な要素を占める語頭音を含む大部分の音である「ユ」「チュ」「ブ」を共通にしており、しかもこれらの音は印象の薄い上記差異音とは異なって明瞭に強く発音されるので、両者をそれぞれ一連に称呼するときは、その語調、語感が極めて近似したものとなり、互いに聞き誤るおそれがある。
よって、本件商標は、称呼上、引用商標と類似し、その類似性は非常に高い。
(イ)観念について
本件商標と引用商標はいずれも創造語ではあるが、引用商標に係る「YouTube」の文字は、申立人の提供する動画共有・配信ウェブサイト「YouTube」として採択され、我が国において周知・著名となっている商標である(甲3〜甲35)。
そうすると、引用商標からは、「グーグル社の提供する動画共有・配信ウェブサイト」に関連する商品または役務との観念が生ずるといえる。
これに対して、本件商標を構成する「ユチュブる」の文字は、本件商標の構成に含まれる「ユチュブ」の文字が、申立人の商標として我が国において周知・著名な商標である「YouTube」の表音「ユーチューブ」を短い音で表示したものと無理なく理解できるものである。
そうすると、本件商標からは「グーグル社の提供する動画共有・配信ウェブサイト」に関連する商品または役務との観念が生ずるものと無理なく理解できるところである。
上記の点を総合的に鑑みると、本件商標にあっては、構成中の「ユチュブ」の文字から引用商標に係る申立人ウェブサイト(YouTube(ユーチューブ))が想起され、「グーグル社の提供する動画共有・配信ウェブサイト」に関連する商品または役務の観念を以って理解されるものであり、引用商標とは、その意味合いにおいて非常に紛らわしい。
後述するが、商標権者は、本件商標の出願において提出した意見書で述べているとおり、本件商標を用いて「YouTube」用の動画制作等を生業としているから、構成中の「ユチュブ」が「YouTube」を示す文字として採択したことは明らかである(甲37)。
よって、本件商標は、観念上、引用商標と類似し、その類似性は非常に高い。
(ウ)両商標の類否について
そこで、隔離観察を行った場合、本件商標と引用商標は、称呼上、観念上類似している。しかも、本件商標構成中の「ユチュブ」の文字が、申立人の商標として周知著名である「ユーチューブ」と共通にしていることから、これに接する需要者・取引者をして「ユチュブ」の文字が強く印象付けられ、需要者等の通常の注意力のみをもってしては、本件商標と引用商標とを区別することは必ずしも容易ではない。
以上を総合すると、本件商標と引用商標は、彼此紛れるおそれの高い類似の商標である。
イ 指定商品・指定役務の類似性について
本件商標に係る以下の指定商品・指定役務は、引用商標の指定商品、指定役務と同一または類似のものである。
・第35類 「職業のあっせん,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,求人情報の提供」を除く全指定役務
・第41類 全指定役務
・第42類 「デザインの考案」を除く全指定役務
ウ 小括
よって、本件商標は、引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
本号の該当性について、最高裁判決(平成10年(行ヒ)第85号)の判示に沿って、以下検討する。
ア 本件商標と引用商標との類似性の程度について
本号は、たとえ同項第11号の意味で商標が非類似であっても、引用商標が周知・著名である等のため広義の混同のおそれがある場合に該当することがある(上記最高裁判例に関する「最高裁判所判例解説」法曹時報第54巻第6号187頁)。
前記(2)で詳述したように、本件商標と引用商標の類似性の程度は高いといわなければならない。
なお、特許庁が、本件商標の審査において発出した拒絶理由通知書においても、「本願商標は「ユチュブる」の文字を書してなるものですが、これはアメリカ合衆国カリフォルニア州所在の「グーグル エルエルシー」が、本願商標の登録出願前から役務「インターネットを用いて行う動画の提供」等に使用して著名な商標「YouTube」と類似するものです。」と認定されていたものである(甲36の1)。
イ 引用商標の周知(著名)性
前記(1)で詳述したように引用商標は周知、著名性を獲得しており、本件商標の出願時はもちろんのこと、査定時においても継続してその周知性を維持していたと優に推認できるものである。
ウ 引用商標の独創性の程度
上記(1)ウで述べたように、「YouTube」(引用商標1)は、極めて独創的なものである。また、引用商標2ないし4は、申立人関連会社であるユーチューブ社の創作に係る特異な構成からなるものである。
よって、引用商標は高い独創性を有するとみるのが相当である。
なお、商標権者は、自身が運営するウェブサイトのデザインにおいて、「赤色」を象徴的に用いていること、赤色と白色を反転した、角を丸くした横長四辺形の図形とともに本件商標に係る「ユチュブる」の文字を表示しているが(甲38)、これは、申立人による独創的な図案に依拠としていることに他ならない。
エ 商品・役務間の関連性
本件商標の第9類の指定商品は、端的にいうと、ソフトウェア、電子通信機器、映像・音声記録物等であり、第35類の指定役務は、広告・マーケティングなどの、他人の商品、役務等の販売・提供促進に関わる役務、人材紹介、消費者向けの情報提供などの、業務支援の役務を内容とし、第41類の指定役務は、教育及び娯楽の提供に関する各種役務であり、第42類の指定役務は、デザインの考案、コンピュータンフトウェアの設計、同ソフトウェアの提供等である。
これら本件商標の指定商品及び指定役務は、引用商標に関わる申立人ウェブサイトに関連して周知・著名となっている上記(1)コの商品、役務と、「科学用又は研究用機械器具、視聴覚用及び情報技術用装置」等である点、「他人の事業を支援する目的で提供される役務」である点、「あらゆる形態の教育又は訓練のサービス、娯楽又はレクリエーションを基本的な目的とするサービス」であるという点、「複雑な活動分野の理論的又は実用的な側面に関する人により提供されるサービス」であるという点において、商品・役務の品質・質、用途、目的を共通にしており、密接に関連している。
してみると、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標が周知性を有する各商品・役務の間における商品・役務の性質(質)、用途、目的における関連性の程度は極めて高いというべきである。
オ 需要者・取引者の共通性
申立人の調査によれば、商標権者は申立人ウェブサイトに投稿するためのビデオの制作等を請け負う業務を行っている(甲39)。
すわなち、商標権者の取扱うサービスはいずれも申立人ウェブサイトと関連性が極めて高く、両商標に接する需要者・取引者は、申立人ウェブサイトに動画を投稿する者であって、両商標ともに「インターネットユーザーを中心とした一般消費者」を対象としている点で共通する。
商標権者の需要者である一般消費者には、老若男女も含まれ、その注意力の程度は決して高くはない。
特に、申立人ウェブサイトにおいて、10代の若年層による利用率が他の年代にくらべて高いものとなっているところ(甲34)、小中高生などの未成年者の注意力、判断力はさらに低いものとなる。
カ その他、本件審理において考慮すべき事項
上記に加え、商標権者が本件商標の審査において提出した意見書(甲37)の供述に係る以下の事実についても、十分に考慮願いたい。
・本件商標を使用したサービスのテレビコマーシャルが千葉テレビで放映されたことをもって、当該サービスが独自のサービスとして周知となったとは到底いえない。
・申立人が商標権者に対して、引用商標の使用行為を許諾した事実は存在しない。
・申立人が申立人ウェブサイトにおいて、アカウントの開設やチャンネル登録を行っているが、これは「いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主」の如き関係があることを意味するものでない。
・申立人が商標権者による本件商標を用いた動画配信ビジネスを「認可」した事実は存在しない。
・申立人は、令和4年4月25日付で、商標権者に対して本件商標の一切の使用の中止などを求める通知を行っている(甲40)。なお、商標権者からの回答はない。
キ 小括
以上の事情を総合的に勘案すれば、本件商標は、これに接する需要者・取引者に対して、引用商標を連想させて商品の出所について誤認を生じさせ、不当に需要者等を誘導するために取得されたものであることは明らかであり、その登録を認めた場合には、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招くという結果を生じえない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」にあたるというべきである。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、申立人(関係会社を含む。)は、動画共有・配信ウェブサイト「YouTube」(申立人ウェブサイト)を2005年から提供していること(甲4〜甲6)、2007年6月頃に申立人ウェブサイトの日本語版の提供が開始されたこと(甲15、甲16、甲35)、及び、我が国において、日本語版の提供開始前の2007年2月における家庭からの申立人ウェブサイト利用者数が1,000万人を超えていること(甲10)、2015年1月における申立人ウェブサイトの利用者数は4,924万人であったこと(甲32)、2017年における申立人ウェブサイトの月間ログイン視聴者数は6,200万人であったこと(甲35)、さらに、2018年10月24日において視聴回数が1億回を超える申立人ウェブサイトのコンテンツが複数あること(甲31)及び申立人ウェブサイトには引用商標1、2、4が使用されていること(甲3〜甲5)が認められる。
イ 上記アの事実に加え、2018年以降現在まで、例えば申立人ウェブサイトの利用者数が大きく減少したなど上記事実を打ち消すような特別の事情は見いだせないことを考慮すれば、申立人が提供する動画共有・配信ウェブサイト「YouTube」(申立人ウェブサイト)は、本件商標の登録出願日前から、登録査定日はもとより現在まで継続して需要者の間に広く認識されているものと判断するのが相当である。
そして、同ウェブサイトには引用商標1、2及び4が使用されていること、引用商標3は引用商標2と色彩のみが異なるものであって外観上同一視し得るものであること、さらに、申立人ウェブサイトの提供は引用商標の指定商品及び指定役務中に含まれているといえることをあわせ考慮すれば、引用商標は、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、いずれも申立人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることができる。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標
本件商標は、上記1のとおり「ユチュブる」の文字を標準文字で表してなり、該文字に相応し「ユチュブル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
イ 引用商標
引用商標1は、上記2(1)のとおり「YouTube」の欧文字を標準文字で表してなり、引用商標2は別掲1のとおり「You」の欧文字と「Tube」の欧文字を白抜きで表した赤色の隅丸四角形からなり、引用商標3は別掲2のとおり「You」の欧文字と「Tube」の欧文字を白抜きで表した灰色の隅丸四角形からなり、引用商標4は右向きの三角形を白抜きで表した赤色の隅丸四角形と「YouTube」の欧文字からなり、いずれもそれらの構成文字又は構成中の文字「YouTube」に相応し「ユーチューブ」の称呼を生じ、「(申立人が提供する動画共有・配信ウェブサイトである)YouTube」の観念を生じるものと判断するのが相当である。
ウ 本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標の類否を検討すると、両者の上記のとおりの外観は構成態様が明らかに異なり、相紛れるおそれのないものである。
次に、本件商標から生じる「ユチュブル」の称呼と引用商標から生じる「ユーチューブ」の称呼を比較すると、両者は「ユ」と「チュ」の音に続く2つの長音の有無及び語尾における「ル」の音の有無という差異を有し、この差異が両称呼全体の語調語感に及ぼす影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼しても、かれこれ聞き誤るおそれのないものと判断するのが相当である。
さらに、観念においては、本件商標が特定の観念を生じないものであるのに対し、引用商標は「(申立人が提供する動画共有・配信ウェブサイトである)YouTube」の観念を生じるものであるから、相紛れるおそれのないものである。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
エ 申立人の主張について
申立人は、本件商標と引用商標は称呼上及び観念上類似するなどとして、両商標は類似の商標である旨主張しているが、本件商標と引用商標は、上記のとおり、相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標というべきものである。
したがって、申立人のかかる主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、両商標の指定商品及び指定役務が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
上記(1)のとおり引用商標は、申立人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものであるが、上記(2)のとおり本件商標は、引用商標と外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標というべきものである。
そうすると、本件商標は、引用商標の独創性の程度、本件商標と引用商標の指定商品及び指定役務などの関連性の程度などを考慮しても、商標権者がこれをその指定商品及び指定役務について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品及び役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲

別掲1 引用商標2(色彩は原本参照。)



別掲2 引用商標3


別掲3 引用商標4 (色彩は原本参照。)



(この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
異議決定日 2022-12-26 
出願番号 2021038776 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W09354142)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大森 友子
特許庁審判官 馬場 秀敏
清川 恵子
登録日 2022-01-18 
登録番号 6500887 
権利者 株式会社ユチュブる
商標の称呼 ユチュブル 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 右馬埜 大地 
代理人 石田 昌彦 
代理人 田中 克郎 

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