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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y091628
管理番号 1393172 
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2020-10-02 
確定日 2022-12-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4962383号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4962383号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4962383号商標(以下「本件商標」という。)は、「蒼きウル」を標準文字で表してなり、平成17年10月17日に登録出願され、第9類、第16類及び第28類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同18年6月16日に設定登録されたものである。
また、本件商標は、平成28年6月28日に存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録日は、令和2年10月19日であり、その請求の登録前3年以内とは、平成29年10月19日から令和2年10月18日までの期間(以下「要証期間」という。)である。

第2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 弁駁の理由
(1)被請求人の答弁に対する弁駁
ア 「使用をしていないことについて正当な理由」の抗弁について
被請求人は、答弁書において、要証期間の本件商標の不使用の事実を認めた上で、請求人との間における知的財産権の譲渡契約を締結したこと(乙1)が、その不使用についての「使用をしていないことについて正当な理由」に当たるとして、商標法第50条第2項ただし書の規定により、商標登録の取消を免れることができる旨を主張しているが、被請求人の主張は誤りである。
商標法第50条第2項ただし書の「使用をしていないことについて正当な理由」として想定されるのは、天災等により商標使用予定の商品の製造・販売や役務の提供が不可能となった場合や、薬事法等による医薬品の製造承認に時間を要したため商標の使用が出来なかったような場合である。
それに対して、本件のように私人間の知的財産権譲渡契約が締結されたのみであって実際の移転登録申請がなされていない状態では、本件商標の商標権者はあくまで被請求人であり、商標権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)は、登録しなければその効力を生じないから(商標法第35条で準用する特許法第98条第1項第1号)、被請求人の本件商標の商標権者として本件商標を使用しなければその登録を取り消される可能性があることは、商標法が予定するところである。
よって、被請求人の使用をしていないことについて正当な理由がある旨の抗弁は、認められない。
権利の濫用の抗弁について
被請求人は、答弁書において、「譲渡契約がすでにあるにもかかわらず、請求人があえて商標の取消審判を求めることは、そもそも権利の濫用であり認められるべきではない」と主張するが、被請求人の主張は誤りである。
請求人と被請求人との間において本件商標の譲渡をも含む知的財産権の譲渡契約が締結されている事実(乙1)がある。請求人としても2000万円の対価と引換に譲渡を受ける契約をした本件商標について、通常であればその商標登録の取消を求めるはずがない。
しかし、被請求人は乙第1号証の契約締結後に当該契約第5条に違反して、本件商標の移転登録手続について不作為の状態を継続し、その間に本件商標は被請求人の都税滞納により東京都により差し押えられたため、移転登録等の手続ができない状況にある。
仮に、被請求人が権利濫用の抗弁を維持するのであれば、滞納している都税を納付して本件商標に係る差押えを解除し、その上で速やかに本件商標の譲渡証書及び請求人による単独申請を承諾する旨の承諾書を請求人に送付されたい。当該譲渡証書等を受領し次第、請求人は本件審判請求を取り下げる用意がある。
ウ 本件審判の請求に至る経緯
被請求人が主張するとおり、請求人と被請求人との間において本件商標の譲渡をも含む知的財産権の譲渡契約が締結されている事実(乙1)があり、請求人は当該契約の締結後に、本件商標と同一の「蒼きウル」の文字よりなる商標について、更に幅広い権利を確保すべく別途商標登録出願を行った(商願2018−126569。以下「新規出願」という。)。この新規出願は、本件商標の譲渡を受ける前提で出願したものであり、本件商標と同一又は類似する商標であって、一部については同一又は類似する商品について使用をするものであるから、本件商標の商標権が請求人に移転登録されない限り、商標法第4条第1項第11号の規定により請求人が商標登録を受けることができないものである。
このようなところ、本件商標の譲渡について被請求人の不作為状態が継続し、ついには都税滞納による差押えがなされるに至り、請求人としては新規出願の支障となっている本件商標について、致し方なく不使用による取消審判を請求した次第である。
そうでなければ、有償で譲受け(乙1の第2条第2項)、しかもその代金の支払いは相殺処理により支払済み(乙1の第3条第2項)の本件商標について、更なる手間と費用を投じて自ら取消審判を請求する理由がない。
(2)まとめ
以上のとおり、本件商標は要証期間に商標権者によって日本国内において使用されていないものであるから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証を提出した。
本件においては、被請求人は請求人との間に平成30年8月1日付けで商標権を含む知的財産権の譲渡契約書を締結しており、締結日後可及的速やかに移転登録を請求人の費用負担をもって行うこととなっている。
そのため、平成30年8月1日以降、被請求人は本件商標を自ら使用していない。これは商標法第50条第2項ただし書きにおける商標不使用の正当な理由に当たる。
また、譲渡契約がすでにあるにもかかわらず、請求人があえて本件商標の取消審判を求めることは、そもそも権利の濫用であり認められるべきではない。
なお、5月18日付け上申書によれば、「新型コロナウイルス感染症拡大による経済活動の停止により、引用商標権者との間において綿密な連絡が極めて難しい状況に至り、」とあるが、請求人代表者は被請求人代表者たる私個人のメールアドレス、携帯電話番号を掌握しており、「引用商標権者との連絡が極めて難しい状況」であったとは思えないが、これまで一度も本件商標に係わる連絡を受けたことがないことを申し添える。

第4 当審における審尋及び両当事者の回答
1 審尋後の経緯の概要について
(1)合議体は、令和3年9月6日付け審尋(以下「審尋1」という。)により、被請求人に対し、a本件商標の使用に係る証拠の提出について、b商標登録原簿状の差押えについて、及びc知的財産権の譲渡契約書について審尋し、それに対する回答及び弁駁書に対する意見を求めるとともに、請求人に対し、上記審尋に対する回答を求めた。
これに対し、被請求人は、令和3年10月11日付け回答書(以下「被請求人回答書1」という。)を提出し、請求人は、同月12日付け回答書(以下「請求人回答書1」という。)を提出した。また、請求人は、請求人回答書1とともに甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
(2)合議体は、令和3年12月8日付け審尋(以下「審尋2」という。)により、被請求人及び請求人に対し、a本件商標の商標権の移転登録手続の進捗について、及びb本件審判の審理の進行について暫定的見解を示し、それらについて意見を求めるとともに、先に提出された被請求人回答書1及び請求人回答書1に対し、それぞれ意見を求めた。
これに対して、被請求人は、令和4年1月10日付け回答書(以下「被請求人回答書2」という。)を提出し、請求人は、同月12日付け回答書(以下「請求人回答書2」という。)を提出した。
(3)合議体は、令和4年2月3日付け審尋(以下「審尋3」という。)により、被請求人及び請求人に対し、a関連裁判について、及びb本件審判の審理の進行について暫定的見解を示し、それらについて意見を求めるとともに、先に提出された被請求人回答書2及び請求人回答書2に対し、それぞれ意見を求めた。
これに対して、被請求人は、令和4年2月21日付け回答書(以下「被請求人回答書3」という。)及び訴状を提出し、請求人は、同月24日付け回答書(以下「請求人回答書3」という。)を提出した。
2 請求人の回答の概要
(1)請求人回答書1の概要
ア 知的財産権の譲渡契約書(乙1)について
合議体は、「知的財産権の譲渡契約書」(乙1)につき、請求人の名称が記載されていない点を指摘し、それについて求釈明されているので、回答する。
契約書に記載の当事者は、「甲1」がY氏、「甲2」は「株式会社ガイナックス」(被請求人。以下「被請求人」又は「ガイナックス社」という場合がある。)であって、「乙」は「株式会社福島ガイナックス」とされているが、この「株式会社福島ガイナックス(福島県田村郡三春町大字鷹巣字瀬山・・・)」は、平成30年8月9日に商号を「株式会社ガイナ」(請求人。以下「請求人」又は「ガイナ社」という。)に変更するとともに、同日付で東京都小金井市本町・・・に本店移転し(甲1)、その後、更に令和1年5月24日付けで東京都武蔵野市吉祥寺本町・・・に本店移転している(甲2)。
よって、契約書において「乙」とされている「株式会社福島ガイナックス」は、請求人と同一法人である。
イ 本件商標権の譲渡手続について
合議体は、契約書に定められた本件商標の譲渡及びその後移転登録の手続に関し、その進捗について求釈明しているので、回答する。
弁駁書において主張したとおり、請求人と被請求人との間において本件商標の譲渡をも含む知的財産権の譲渡契約が締結されている事実(乙1)がある。請求人としても2000万円の対価と引換に譲渡を受ける契約をした本件商標について、通常であればその商標登録の取消を求めるはずがない。しかし、被請求人は乙第1号証の契約締結後に当該契約第5条に違反して、本件商標の移転登録手続について不作為の状態を継続し、その間に本件商標は被請求人の都税滞納により東京都により差し押えられたため移転登録等の手続ができない状況にあった。
本件商標の差押えの解除につき、被請求人より「差押え解除の認識が正しい」旨の回答がなされる場合には、契約書に定める本件商標の移転登録手続に何らの支障もないことから、請求人は被請求人に対し、速やかなる本件商標の譲渡証書及び請求人による単独申請を承諾する旨の承諾書の送付を求める。
請求人は、当該譲渡証書等を受領し次第、本件審判請求を取り下げる用意がある。
(2)請求人回答書2の概要
ア 審尋2に対する回答
(ア)本件商標の移転登録手続について
審尋2において合議体が指摘されるとおり、本件商標の商標権の差押えはすでに解除され、契約書の第5条に定める本件商標の商標権の移転登録手続に何ら支障がない状況にあると考えられる。
したがって、請求人としては、被請求人に対して速やかなる本件商標の商標権の移転登録手続への協力を求めるものである。
(イ)審理の進行についての請求人の意見
本件商標の商標権の移転登録手続について、被請求人の積極的な協力が得られるようであれば、請求人としても不必要な審理をしてもらう必要はないことから、審理についての時間的猶予をお願いしたいが、具体的な時間については被請求人の対応次第であり、請求人から申し出難いところである。
また、請求人としては、被請求人による契約書の第5条の不履行により、本件商標と同様の商標を新規出願して、加えて本件審判を請求せざるを得なくなったという経緯があるので、仮に本件移転登録手続について被請求人の積極的な協力がないのであれば、本件審理を進めた上で請求の趣旨記載の審決がされることにより、前記出願中の商標が登録されることから、請求人としては何としても本件審理の中断を求めたいという状況ではない。
しかし、被請求人に対しては、合議体に無用な審理負担を強いることのないよう、本件商標の商標権の移転登録手続に対する積極的な協力を希望するとともに、今後、当該移転登録手続に協力したとしても、これまでの不作為による債務不履行による損害賠償責任を逃れられるものではない旨を付言する。
イ 請求人の主張に対する回答
上記のとおり、今後については、被請求人の対応如何であり、請求人から具体的な猶予を求める期間を申し出難い状況であるが、被請求人の積極的な協力が得られるようであれば、移転登録申請は可能であろうと思料する。
(3)請求人回答書3の概要
ア 被請求人回答書2に対する意見
被請求人回答書2に基づく被請求人の主張は、以下のとおり、契約上及び実体法上の根拠がなく、関連裁判の進捗に照らしても理由がないため、本件審判事件の審理を中断せず進めることが相当である。
イ 意見の趣旨
(ア)関連裁判(東京地方裁判所令和3年(ワ)第1917号詐害行為取消等請求事件)についての意見
A 関連裁判の概要
関連裁判は、被請求人に対し貸金債権を有する原告(株式会社カラー。以下「カラー社」という。)が、被請求人から未完の劇場アニメーション作品である「蒼きウル」に関する本件商標、著作権、動産資料などの知的財産権を平成30年8月1日付譲渡契約により譲り受けた請求人に対し、本件譲渡契約が詐害行為(民法第424条)に当たるとして、その取消及び本件譲渡契約の対象動産資料の引渡しを求める内容の詐害行為取消請求訴訟である。
被告である請求人は、原告の上記請求を全面的に争っており、関連裁判における主な争点は、本件譲渡契約の締結が客観的詐害性を有するか否か、本件譲渡契約当時において請求人及び被請求人が通謀による詐害意思を有していたか否か、本件譲渡契約の対象物の客観的評価(当該評価の方法を含む)である。
B 関連裁判の進捗
関連裁判の進捗について、令和4年2月時点では和解協議中である。具体的には、原告(カラー社)から請求人に対し、本件譲渡契約につき取消の効果を発生させないことを前提とする和解案が提示されており、次回の和解協議期日(令和4年3月16日)までに請求人が当該和解案を検討し、対案提示を行うことが予定されている。このような関連裁判の進捗状況に照らしても、関連裁判は本件審判事件の審理を中断する理由にはならない。
(イ)被請求人回答書2に対する意見
A 被請求人回答書2のアについて
(A)被請求人は、「請求人からの具体的な指示がない」旨主張するが、譲渡契約が請求人・被請求人間において有効に締結されている以上(関連裁判においてもこの点につき争いはない。)、被請求人が本件商標の移転登録手続を拒絶できる契約上の根拠はなく、仮に拒絶する場合には譲渡契約の債務不履行を構成することとなる。
(B)被請求人は、本件商標の移転には裁判結果の確認が必要との認識がある旨主張する。
しかしながら、譲渡契約が詐害行為に当たる旨判断された場合であっても、詐害行為取消請求の認容判決が確定しない限り詐害行為取消の効果は生じ得ず、また、譲渡契約は、改正民法施行日(2020年4月1日)前の平成30年8月1日に行われているため、改正民法附則(平成二九年六月二日法律第四四号)第19条により改正前民法が適用される結果、詐害行為取消請求の認容判決の効力は関連裁判の原・被告間だけで生じ、訴訟当事者となっていない被請求人には及ばない(取消の相対的効果説〔最二小判昭和39年7月10日民集18巻6号1078頁、最三小平成14年12月17日集民208号581頁等〕。改正前民法425条)。なお、関連裁判においても改正前民法の適用が前提とされている。
(C)したがって、被請求人の上記主張は、契約上及び実体法上の根拠を有しない。
B 被請求人回答書2のイについて
被請求人は、譲渡契約後、速やかに商標権譲渡が行われていなかった事実について疑念がある旨主張し、本件審判の進行を保留するよう求めている。
上記主張について、そもそも「疑念」の中身やそれが本件審判事件の進行を止める原因となる理由が不分明であるが、譲渡契約は、被請求人の当時の代表取締役Y氏及び請求人代表取締役A氏(なお、A氏が譲渡契約当時、「実質的にガイナックス社の経営に参画していた」事実もない。)との間で有効に締結されており(関連裁判においてもこの点につき争いはない。)、また、譲渡契約に従って請求人の被請求人に対する制作報酬等債権合計5346万円と譲渡契約に基づく2000万円の代金債権とが対当額にて相殺されるとともに、請求人が「蒼きウル」の制作を被請求人から引き継ぐことを2018年9月7日付けで自社ホームページ上にて対外的に公表していることなどから、譲渡契約が実体のある取引であることは明らかである。そして、本件商標の移転登録手続の経過はこの点を左右する事情たり得ない。
したがって、被請求人の上記主張には何ら理由がない。
3 被請求人の回答の概要
(1)被請求人回答書1の概要
ア 本件商標を使用したことを証明する証拠の提出について
先に答弁書で回答した理由により、該当期間での商標の使用はない。
イ 商標登録原簿上の差押えについて
本件商標の差押えは、滞納税完納により解除済みである。
ウ 知的財産権の譲渡契約書について
譲渡契約書の名義に関して、請求人の旧商号が「株式会社福島ガイナックス」であるため、被請求人と請求人は契約していることが認められる。
「株式会社ガイナ」のホームページ (https://studiogaina.com/会社概要/)の記述には、「2014年、アニメーション制作拠点となるスタジオと本格アニメーションミュージアムを開設し、福島県の震災復興に寄与を目的に新会社「株式会社福島ガイナックス」福島県三春町に設立。(中略)2018年8月、「株式会社福島ガイナ」「株式会社ガイナ」(本社:福島県田村郡)を設立、移管。本社を「株式会社ガイナ」(東京都小金井市)への移転。」とある。
本件商標の移転の手続は、請求人から具体的な履行方法について連絡がなかったため、未だ進行していない。
(2)被請求人回答書2の概要
現時点で、被請求人に対して請求人からの具体的な指示がないことに加え、下記の事由から移転登録手続の着手を現在見送っている。
ア 譲渡契約について、カラー社を原告として、ガイナ社(請求人)に対して詐害行為取消請求が令和3年1月27日付けで東京地方裁判所に提訴され、本件に関わる商標権の売買取消について審議中である。
[東京地方裁判所令和3年(ワ)第1917号詐害行為取消等請求事件(原告:カラー社/被告:ガイナ社。以下「関連裁判」という場合がある。)]
この関連裁判において被請求人は訴外となっているが、本件商標の移転には裁判結果の確認が必要との認識がある。
イ 請求人の代表者A氏は、譲渡契約当時に実質的にガイナックス社(被請求人)の経営に参画していた。それにもかかわらず、契約後速やかに商標権譲渡が行われていなかった事情について疑念があり、契約が締結された推移も含め、譲渡がなされていなかった理由について調査中である。
ウ 本件審判の審理の進行について
上記の理由から、カラー社とガイナ社(請求人)との裁判の結審を待って、譲渡手続の実施について検討させて欲しい。
(3)被請求人回答書3の概要
ア 関連裁判について
(ア)関連裁判の具体的な内容
カラー社を原告として、被告ガイナ社(請求人)に対して関連裁判が令和3年1月27日付けで東京地方裁判所に提訴され、本件商標の売買取消について審議中である。
原告からの訴状を資料として添付する。
当時、ガイナックス社(被請求人)は原告カラー社に対し多額の債務があったが、当時のガイナックス社の経営陣は被告ガイナ社(請求人)と通謀し、ガイナックス社が有する「蒼きウル」の商標と原作権をガイナ社に売却する売買契約を締結した。この売買契約はカラー社に対するガイナ社による詐害行為であるとして、カラー社は詐害行為すなわち売買契約の取消を求めている。
なお、被請求人の現代表者である私「K」は当時ガイナックス社に在籍しておらず、審議中の詐害行為については無関与であるため、この訴訟ではガイナックス社は訴外となっている。
イ 本件商標と関連裁判の関係
被請求人の資産である本件商標が不当に安価でガイナ社(請求人)に売却されたことは、被請求人に多額の債権を有する原告カラー社にとって損害をもたらす詐害行為だというのが原告カラー社の主張である。審理は続行中であるが、客観的にみて、カラー社の主張が通る可能性は一定以上あると考える。その場合、本件商標の移転の契約そのものが破棄され、今回請求人の求める本件商標の譲渡はその根拠が失われる。関連裁判の結審を待たない本件商標の移転はその後の混乱を大きくするものとなるので、商標譲渡手続は関連裁判の結審を待った上で検討したい。
ウ 関連裁判の進捗について
被請求人はこの関連裁判において訴外となっているため、裁判進捗状況は十分に把握していない。

第5 当審の判断
1 本件商標の使用の立証
本件商標の使用を証明するために、被請求人は、(ア)本件要証期間に、(イ)日本国内において、(ウ)商標権者又は使用権者のいずれかが、(エ)本件審判請求に係る指定商品のいずれかについての、(オ)本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標の使用(商標法第2条第3項各号のいずれかに該当する使用行為)をしていることのすべて証明する証拠の提出が必要であるところ、被請求人は、本件においては、被請求人は請求人との間に平成30年8月1日付けで商標権を含む知的財産権の譲渡契約書(乙1)を締結しており、締結日後可及的速やかに移転登録を請求人の費用負担をもって行うこととなっているから、同日以降、被請求人は本件商標を自ら使用しておらず、このことは商標法第50条第2項ただし書きにおける商標不使用の正当な理由に当たる旨主張するのみであって、被請求人は、本件商標を使用したことを立証していない。
2 本件商標を使用していないことについての正当な理由
被請求人は、上記のとおり、平成30年8月1日付け譲渡契約書(乙1)の締結を根拠に、本件商標の使用をしていないことについての正当な理由に当たる旨を主張しているので、以下、検討する。
商標法第50条第2項は、そのただし書において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が指定商品又は指定役務に登録商標を使用していないとしても、「登録商標の使用をしていないことについて正当な理由」があることを商標権者である被請求人が明らかにしたときは、その商標登録は取り消されない旨規定しているところ、同項が規定する正当な理由とは、地震、水害等の不可抗力、放火、破損等の第三者の故意又は過失による事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために、商標権者等において、登録商標をその指定商品又は指定役務について使用をすることができなかった場合をいうと解すべき(東京高等裁判所 平成7年(行ケ)第124号判決、知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10160号判決、知的財産高等裁判所 平成22年(行ケ)第10012号判決)ところ、かかる判決の趣旨に照らせば、商標権の譲渡契約書の締結に伴う移転登録手続の遅延についての被請求人の主張は、「地震、水害等の不可抗力、放火、破損等の第三者の故意又は過失による事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由」に該当するものとはいい難いものである。
また、被請求人は、本件商標の移転登録手続がなされていない以上、本件商標の商標権者は被請求人自身であり、立証責任は被請求人にあるにもかかわらず、合計3回にわたる合議体からの上記審尋に対して、本件商標の譲渡手続は関連裁判の結審を待った上で検討したい旨回答するのみで、本件商標を使用しないことの正当な理由であることを認めるに足りるような十分な主張、立証を行っていない。
さらに、本件商標の要証期間は、平成29年10月19日から令和2年10月18日までの期間であり、仮に本件商標の譲渡契約の締結が正当な理由に該当するとしても、同譲渡契約が締結されたのは平成30年8月1日であるから、平成29年10月19日から平成30年8月1日(譲渡契約締結日)までの期間について、本件商標を使用しなかったことの理由とはならない。
以上から、本件商標を使用していないことについて正当な理由があるとの被請求人の主張を認めることはできない。
3 その他の被請求人の主張について
(1)権利の濫用について
被請求人は、答弁書において、譲渡契約がすでにあるにもかかわらず、請求人があえて商標の取消審判を求めることは、そもそも権利の濫用であり認められるべきではない旨主張する。
しかしながら、登録商標の不使用による取消審判の請求が、専ら被請求人を害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情がない限り、当該請求が権利の濫用となることはないと解するのが相当である(知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10025号判決)ところ、本件についてみるに、被請求人と請求人との間で、本件商標の譲渡契約が締結されているにもかかわらず(乙1)、被請求人が本件商標の移転登録に協力しないことから、請求人は、本件商標についてその登録の取消を求めて、本件審判請求に及んだのであって、請求人の行動は、自然かつ合理的なものであり、権利の濫用に該当するものとはいえない。また、本件審判の請求人が、専ら被請求人を害することを目的としているような事情も見当たらない。
(2)関連裁判の結果の確認について
被請求人は、被請求人回答書2及び被請求人回答書3において、裁判結果の確認が必要である旨主張する。
しかしながら、被請求人は、合議体からの審尋に対して、本件商標を使用していない旨を述べ、何ら本件商標の使用についての主張、立証をしておらず、また、上記2のとおり、本件商標を使用しないことについての正当な理由も認められないものであり、さらに、被請求人及び請求人の回答を参酌しても、関連裁判で本件商標の不使用や、無効について争われている事情もないことから、当該裁判の結果を確認するべき合理的な理由はないものと認め、審理を進めることとした。
4 まとめ
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る指定商品について、本件商標を使用していたことを証明したものと認めることはできない。
また、被請求人は、本件審判請求に係る指定商品について本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その登録を取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

(この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
審理終結日 2022-07-21 
結審通知日 2022-07-26 
審決日 2022-09-26 
出願番号 2005096966 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (Y091628)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 小松 里美
特許庁審判官 鈴木 雅也
大山 健
登録日 2006-06-16 
登録番号 4962383 
商標の称呼 アオキウル、アオキ、ウル 
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所 

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