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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W43 |
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管理番号 | 1391166 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-01-11 |
確定日 | 2022-11-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6460960号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6460960号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6460960号商標(以下「本件商標」という。)は、「CIPRIANI」の欧文字を横書きした構成からなり、平成30年11月12日に登録出願、第43類「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」を指定役務として、令和3年9月30日に登録査定され、同年10月25日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において引用する登録第5763726号商標(以下「引用商標1」という)は、「CIPRIANI」の文字を標準文字により表してなり、平成24年7月11日に登録出願、第43類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、同27年5月15日に設定登録されたものであるが、その後、商標登録の取消審判により、指定役務の一部について取り消すべき旨の審決がされ、令和3年6月30日に確定審決の登録がされた結果、その指定役務は、第43類「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」となり、現在有効に存続しているものである。 2 申立人が、本件商標は商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する商標は、「HOTEL CIPRIANI」、「ホテル チプリアーニ」及び「ホテル・チプリアーニ」の文字からなる商標(以下これらをまとめて「引用商標2」という。)並びに「CIPRIANI」及び「チプリアーニ」の文字からなる商標(以下「引用商標3」という。)であり、申立人が「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ,レストランにおける飲食物の提供,その他の飲食物の提供」(以下「申立人役務」という。)について使用しているというものである。 なお、上記の引用商標1〜引用商標3をまとめて、以下、「引用商標」という場合がある。 第3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は、商標法第4条1項第11号、同項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に該当するものであり、その登録は、商標法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきものである旨申立て、その理由を以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第121号証(枝番号を含む。)及び参考資料1を提出した。 1 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標と引用商標1との比較 ア 外観について 本件商標と引用商標1は共に、欧文字「CIPRIANI」から構成されており、その外観において類似の商標である。 イ 称呼について 本件商標と引用商標1は、共に「チプリアーニ」の称呼を生ずることが明らかであるから、その称呼において類似の商標である。 ウ 以上より、本件商標は、その出願の日前の他人の登録商標である引用商標1に類似する商標である。 (2)指定役務について 本件商標の指定役務は、第43類「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」であり、引用商標1の指定役務は、第43類「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」である。 一般的に、ホテルの中にはレストランが併設されており、これらのホテル内のレストランは、仮にホテル名とは別の店名を有している場合であっても、「○○ホテル」のレストランとして認識されるのが一般的であり、また、ホテル自身もホテル内のラウンジ等やルームサービスを通じて、ホテルの名前自身で飲食物の提供を行うことが一般的である。 したがって、両役務は同一の事業者によって提供される役務といえ、その需要者の範囲においても一致している。 上記の取引実情等を鑑みると、引用商標1の指定役務中、第43類「ホテルにおける宿泊施設の提供」と本件商標の指定役務の第43類「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」の間で同一または類似の商標が使用された場合、これらが同一営業主の提供にかかる役務と誤認されるおそれがあることは明らかであり、両役務は類似する。 (3)以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 2 商標法第4条第1項第10号について (1)日本における引用商標2及び3の著名性 ア 申立人の事業について イタリア国ヴェネチアのホテル「Hotel Cipriani(ホテル・チプリアーニ)」は、ジュゼッペ・チプリアーニ氏によって設立され、1958年にホテルサービス及びレストランサービスの提供を開始して以来、現在に至るまで継続して営業されている(甲3)。 申立人は、当該ホテル(以下「申立人ホテル」という。)の単独唯一のオーナーであり、申立人ホテルは1976年にオリエント・エクスプレス・ホテルズ・リミテッド(以下「オリエント・エクスプレス・ホテルズ社」という。)に買収され、2014年に同社がベルモンド・リミテッド(以下「ベルモンド社」という。)と名称を変更してからは、申立人はベルモンド・グループの一員としてその傘下の下で申立人ホテルを所有してきた(甲4〜甲6)。 イ 実際に使用している商標及び役務 申立人は、申立人ホテルが設立された1958年以来、商標「HOTEL CIPRIANI」及びその日本語表記である「ホテル チプリアーニ」又は「ホテル・チプリアーニ」(引用商標2)の下で「ホテルにおける宿泊施設の提供」の役務を提供してきており、申立人がベルモンド・グループの傘下となった2014年から現在に至るまで、申立人ホテルは、「ベルモンド・グループ」に属することを示す「BELMOND」の文字を加えた「BELMOND HOTEL CIPRIANI」及びその日本語表記である「ベルモンド ホテル チプリアーニ」又は「ベルモンド・ホテル・チプリアーニ」の下で営業を行ってきた。 「BELMOND」及び「ベルモンド」の文字は、申立人ホテルが「ベルモンド・グループ」に属することを示す目的で付されているものにすぎない。 また、申立人ホテルは、「ベルモンドホテル・チプリアーニ」、「ベルモンドホテル チプリアーニ」又は「チプリアーニ&パラッツォヴェンドラミン」と「チプリアーニ」部分が分離するような形で紹介されたり、単に「Cipriani」又は「チプリアーニ」(引用商標3)と「HOTEL」又は「ホテル」を省略して紹介されることもある。 ウ わが国における事業 申立人は、ベルモンド社の前身であるオリエント・エクスプレス・ホテルズ社、ベルモンド社の子会社を通じて、少なくとも2014年6月から現在に至るまで継続的にわが国の需要者を対象とした日本語による申立人ホテルの予約ウェブサイト(甲7、甲8)を提供してきており、加えて、ベルモンド社は、電話による日本語での申立人ホテルの予約も受けつけてきた(甲9)。 また、申立人ホテルは、旅行会社である株式会社グローバルユースビューローが企画し、2018年4月15日から同月18日まで、及び、2018年10月から2019年3月までわが国の顧客に提供したツアー(甲10)の宿泊先としても利用されるとともに、わが国の主要な旅行会社のウェブサイト(甲11〜甲21)でも紹介されてきた。 申立人ホテルは、これらの当該旅行会社及び/又はその予約ウェブサイトを通じての予約が可能であり、これまで、1,017名ものわが国在住の顧客が申立人ホテルを予約し滞在してきた(甲22)。 エ わが国における広告宣伝 申立人は、これまで、引用商標2及び3の下で提供される「ホテルにおける宿泊施設の提供」及びこれに伴う「飲食物の提供」に関する広告宣伝を多数行ってきた。 具体的には、申立人は、メーリングリストに登録済みのわが国在住の顧客に対し、2018年6月から同年8月にかけて申立人ホテルの宣伝広告を含むEメールを送付しており(甲24の1〜4)、その数は2,016件にものぼる(甲24の5)。 また、申立人は、メーリングリストに登録済みのわが国在住の顧客に対し、2021年5月から同年9月にかけて申立人ホテルの宣伝広告を含むEメールを送付しており(甲24の6〜11)、その数は合計で1,657件にものぼる(甲24の12)。 オ わが国における一般紙、業界紙又は雑誌等における記事掲載 (ア)新聞における紹介記事 申立人ホテルは、1987年にヴェネチアで主要先進国首脳会議(サミット)が行われた際の米国大統領夫妻の宿泊先として、多数の全国紙及び地方紙で紹介され(甲25〜甲30)、その他の新聞記事の中でも、申立人ホテルが紹介されている(甲31〜甲35)。 (イ)雑誌における紹介記事 多数の雑誌において、申立人ホテルが「世界のエクセレントホテル」、「世界のリーディングホテル」のように紹介され、また、申立人ホテルに滞在するツアーなどが紹介されている(甲36〜甲41)。 (ウ)ウェブサイトにおける紹介記事 「ぴあ映画生活」のウェブサイト(甲42)や多数のオンライン旅行情報誌等の中で、申立人ホテルが紹介されている(甲43〜甲65)。 (エ)テレビ番組による紹介 複数のテレビ番組において、申立人ホテルが紹介された(甲66〜甲69)。 カ 旅行ガイド 申立人ホテルは、わが国の主要な旅行ガイドに掲載されてきた(甲70〜甲75)。 キ 商標登録 申立人は、世界中で、申立人(申立人の旧名称であるHotel Cipriani Srlも含む。)又はその他のベルモンド社の子会社の名義の「ホテルにおける宿泊施設の提供,レストランにおける飲食物の提供」等の役務に関する商標「CIPRIANI」及び「HOTEL CIPRIANI」の商標登録を有している(甲76〜甲94)。 ク ドメイン名 申立人は、何ら問題なく「hotelcipriani」「ciprianihotel」「cipriani」「ristorantecipriani」が含まれるドメイン名を多数保有している(甲95)。 ケ わが国における引用商標2及び3の著名性 上記のとおり、申立人、ベルモンド社及び同社の子会社は、長期にわたりわが国において申立人ホテルに関する多数の広告宣伝を行うと共に、日本の需要者をターゲットとした申立人ホテルの予約ウェプサイトを提供してきた(甲7〜甲9)。 申立人ホテルはいわゆる最高級ホテルに属するものであり、60年以上もの間、世界中の資産家、貴族、政治家、俳優、女優、著名人等のセレブリティを始めとする多くの顧客に利用されてきた。セレブリティの動向は常に注目されており、これに伴い申立人ホテルも上記の多数のメディアで紹介されてきており(甲25〜甲69)、申立人ホテルは、旅行に興味がある層のみならず、広い範囲の層の需要者に知られるに至ったといえる。 また、上記申立人ホテルを紹介する記事には、申立人ホテルのレストランを紹介するものが多く(甲31、甲32、甲36、甲37の1、甲39、甲40の3、甲41の3、甲45、甲57、甲61、甲62)、当該レストランがミシュランによる格付けで星を獲得したことも紹介されている(甲61、甲62)。 上記申立人ホテルを紹介する記事や旅行ガイドの中には必ずしも別のレストラン名が記載されているとは限らず、単に「チプリアーニ」、「ザ・チプリアーニ」又は「ホテル チプリアーニ」「(ホテル チプリアーニの)ホテル内のレストラン」と記載されている例も少なくない(甲31、甲36、甲65、甲70)。 これらの事実に鑑みると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人ホテルのホテル名である引用商標2及びその略称である引用商標3は、申立人役務に関し、申立人の商標としてわが国における需要者の間に広く知られるに至っていたといえる。 (2)本件商標と引用商標2及び3の類否 ア 外観について 本件商標と引用商標2及び3中、欧文字のものは共に、欧文字「CIPRIANI」の要部を共通とする、その外観において類似の商標である。 イ 称呼について 本件商標と引用商標2及び3は、共に「チプリアーニ」の称呼を生ずることが明らかであるから、その称呼において類似の商標である。 ウ 以上より、本件商標は、その出願時及び査定時において、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者に間に広く認識されている商標である引用商標2及び3に類似する商標である。 (3)本件商標に係る指定役務と申立人の使用に係る役務の類否 上記1(2)で述べたとおり、本件商標に係る指定役務「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」は、申立人が引用商標2及び3を使用してきた役務「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ」に類似する。 また、本件商標に係る指定役務は、申立人が引用商標2及び3を使用してきた「レストランにおける飲食物の提供,その他の飲食物の提供」と同一又は類似であることは明白である。 (4)以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。 3 商標法第4条第1項第15号について (1)引用商標2及び3の著名性 上記2(1)のとおり、引用商標2及び3は、申立人役務の出所を表示するものとして、本件商標の出願時及び査定時において、わが国の需要者の間に広く知られるに至っていた。 (2)本件商標と引用商標2及び3の類似性 上記2(2)のとおり、本件商標と引用商標2及び3は各々類似する商標であることは明白である。 (3)役務間の関連性、役務の需要者等 申立人が引用商標2及び3を使用してきた主な役務は、「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ、レストランにおける飲食物の提供,その他の飲食物の提供」であり、このうち「レストランにおける飲食物の提供,その他の飲食物の提供」は、本件商標の指定役務である「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」と同じ性質を有する役務であり、関連性があることは明らかである。 また、引用商標2及び3の使用に係る「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ」と本件商標の指定役務である「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」についても、わが国において、ホテルが宿泊客に飲食物を提供すること、ホテル内にレストランが併設されることが一般的である点に鑑みると、両役務は、役務提供者、需要者等の点においても共通しており、相互に密接に関連する役務であることは明らかである。 (4)以上のとおり、本件商標と引用商標2及び3の類似性、引用商標2及び3の著名性、両役務の密接な関連性、両役務の需要者の共通性等に鑑みると、本件商標をその指定役務に使用した場合には、需要者は、これを申立人の業務に係る役務または申立人との間に経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認することは明らかである。 したがって、本件商標は、その出願時及び査定時において、他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当するものであり、商標法第4条第1項第15号に該当する。 4 商標法第4条第1項第19号について (1)引用商標2及び3の周知性 ア 過去の審決 欧州共同体商標意匠庁(OHIM)において2001年3月20日付け及び同年4月12日付けの異議事件決定(甲96、甲97)において、役務「ホテルにおける宿泊施設の提供」に関して引用商標2及び3が申立人の商標として国際的に著名である旨の判断がなされている。 わが国における2009年9月29日付けの異議事件決定(甲98)においても、引用商標2が申立人の業務に係る役務「宿泊施設の提供」について使用された結果、引用商標2は少なくともイタリアの需要者の間で広く知られていたと認められ、その周知性は現在も継続していると判断されている。 イ 受賞歴及びランキング 申立人ホテルは、2005年から2021年に至るまで、ワールド・トラベル・アワードのイタリア及びヨーロッパの候補として毎年ノミネートされ(甲99の1)、2000年及び2003年の「ヨーロッパの優れたホテル」部門(甲99の2、3)、2006年、2013年及び2014年の「イタリアの優れたホテル」部門(甲99の4、5、8)、2014年の「ヨーロッパの優れたホテルスイート」部門(甲99の6)、2014年の「ヨーロッパの優れたラグジュアリーホテル」部門(甲99の7)において優勝しており、また、「ヨーロッパで最高のホテル」ランキング、「ヨーロッパのセレブが頻繁に訪れるホテル20」のランキング、「ヴェネチアにおけるトップホテル」ランキング等が公表されており、申立人ホテルはそれぞれのランキングにおいて上位にランクインしている(甲100〜甲105)。 ウ 申立人による申立人ホテルの宣伝広告 申立人は、これまでに、イタリア及びヨーロッパを中心とする世界各国において、引用商標2及び3の下で提供される「ホテルにおける宿泊施設の提供」及びこれに伴う「飲食物の提供」に関する広告宣伝を多数行ってきた。 その一例として、パンフレット(甲106)、ウェブサイト(甲107)及びEメールによる広告宣伝(甲24の1〜4、甲24の6〜11)が挙げられる。これらの広告宣伝物はいずれもイタリア、ヨーロッパ、その他世界中で配布されたものである。 エ 申立人ホテルの紹介記事 欧米の主要なメディアにおいても継続的に申立人ホテルが紹介されており(甲108〜甲120)、欧州共同体商標意匠庁(OHIM)及び日本特許庁において引用商標2及び3がイタリア又は国際的に著名であると判断された(甲96〜甲98)後もイタリア、ヨーロッパを含む世界においてその著名性を維持していたことがうかがい知れる。 オ 上記の事実及び上記2(1)の事実に鑑みると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人ホテルのホテル名である引用商標2及びその略称である引用商標3は「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ,レストランにおける飲食物の提供,その他の飲食物の提供」に関し、申立人の商標としてイタリア、ヨーロッパ、日本を含む世界中の国における需要者の間に広く知られるに至っていたといえる。 (2)本件商標と引用商標2及び3の類否 上記2(2)のとおり、本件商標と引用商標2及び3は各々類似する商標であることは明白である。 (3)不正の目的 申立人ホテルは、ジュゼッペ・チプリアーニ氏によって設立され、1958年にホテルサービス及びレストランサービスの提供を開始したものであり、当初、申立人ホテルの株式はジュゼッペ・チプリアーニ氏と英国の企業であるパットンデール・リミテッド(以下「パットンデール社」という。)によって保有されていた。その後、1966年にパットンデール社は自身が保有する申立人ホテルの株式をカナダ企業であるストンドン・オンデール・パットモア・カンパニー・リミテッド(以下「SOP社」という。)に売却した。さらに、1967年に、ジュゼッペ・チプリアーニ氏はSOP社に自身が保有する申立人ホテルに関する全ての株式を売却した(甲121)。当該売却により、SOP社が申立人ホテルの単独の株主となり、それ以来、ジュゼッペ・チプリアーニ氏及びその一家(以下「チプリアーニ家」という。)は申立人ホテルに関する一切の権利を保有しておらず、同ホテルの経営にも一切関与していない。また、オリエント・エクスプレス・ホテルズ社は、申立人ホテルの株式の譲渡に伴いSOP社の地位を承継しているため、ジュゼッペ・チプリアーニ氏とSOP社の間で締結された1967年契約書(甲121)の内容は、申立人ホテルがオリエント・エクスプレス・ホテルズ社(名称変更後はベルモンド社)の傘下となった後も、同社とチプリアーニ一家の間で有効である。 本件商標権者は、チプリアーニ一家によって設立された法人であるため、当然ながら両当事者間で上記の取り決めがあることを熟知していたはずである。それにもかかわらず、「飲食物の提供」等について本件商標を出願したという事実は信義則に反するものであると同時に、申立人の商標として周知・著名となっている引用商標2及び3にフリーライドし、その出所表示機能を希釈化させ、その名声を毀損させる目的をもって行われたものである。 以上より、本件商標は、不正の目的をもって使用されるものである。 (4)以上のとおり、本件商標は、申立人の業務に係る役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。 5 商標法第4条第1項第7号について (1)上記4(3)のとおり、申立人と本件商標権者間の取り決めにより、商標「CIPRIANI」は申立人に排他的に使用できる権利が認められているため、本件商標はその出願の経緯に社会的相当性を欠くものである。 (2)さらに、上記の受賞歴(甲99〜甲105)等からも明らかなとおり、申立人ホテルはイタリア国を代表するホテルである。当該ホテルを表すものとして周知・著名な「CIPRIANI」の文字からなる本件商標の登録を認めることは、国際信義にも反する。 (3)以上より、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当し、商標法第4条第1項第7号に該当する。 6 むすび 以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に該当する。 第4 当審の判断 1 引用商標2及び3の周知性について 申立人は、引用商標2及び3が本件商標の登録出願前に我が国及び少なくともイタリアの需要者の間に広く認識され、周知商標となっていた旨を主張しているところ、申立人提出の証拠によれば、引用商標2は、イタリア国にあるホテル(申立人ホテル)の名称であって、申立人役務について、使用されていることが認められる(甲25〜甲69)。また、我が国からの申立人ホテルの宿泊数は1,017名である(甲22)。 しかしながら、申立人提出の証拠からは、引用商標2及び3の周知著名性の程度を推定するために必要な具体的な事実、例えば、引用商標2及び3の業務に係る役務における売上高、宣伝広告費などを立証する証拠は見いだせない。 また、申立人提出の証拠によれば、新聞、雑誌、テレビ番組等で申立人ホテルが紹介されていることは認められるものの、新聞記事(甲25〜甲35)は、1987年6月、1993年11月、1994年12月、2001年6月、2007年7月、8月と限定的であり、テレビ番組は(甲66〜甲69)、2013年5月、6月及び2014年9月の併せて3回程度と数が少なく、ウェブサイトは、特定のウェブサイトにおける2014年及び2015年の掲載に偏っており、雑誌や旅行の書籍等の掲載(甲36、甲37の1、甲38の1、甲39、甲40の2及び3、甲41の3、甲70〜甲75)については、1999年、2001年、2008年、2014年ないし2018年に13件掲載されている程度で、それほど多いとはいえない。 さらに、外国において「ベルモンドホテルチプリアーニ」に受賞歴(甲99〜甲105)があることは認められるものの、このことが直ちに引用商標2及び3の周知・著名性を示すものではない。 以上によれば、「HOTEL CIPRIANI」、「ホテルチプリアーニ」は、イタリアにあるホテル(申立人ホテル)の名称であり、イタリア旅行に関する雑誌、ウェブサイトに紹介されていることは認められるものの、旅行雑誌等の掲載数もそれほど多いものとはいえず、また、イタリア旅行に関して複数のホテルの一つとして紹介されているものであって、我が国からの宿泊客もそれほど多いものとは認められない。 そして、申立人提出の証拠は、外国におけるものを含めほとんどが、「BELMOND HOTEL CIPRIANI」、「ベルモンドホテルチプリアーニ」、「HOTEL CIPRIANI」、「ホテルチプリアーニ」といった使用例であり、「CIPRIANI」の文字のみの使用例は極めて少ないと認められるところ、「宿泊施設の提供」の分野においては、「ホテル」の語を含む名称が広く使用、採択されており、例えば「帝国ホテル」、「苗場プリンスホテル」、「ホテルニューオータニ」等のように、これらに接する取引者、需要者も「ホテル」の文字を含んだ構成文字全体を一体としてホテルの名称を表したものと理解、認識するというのが相当であるから、先の表示について、先頭の「HOTEL」又は「ホテル」の文字を捨象し、それ以外の文字部分のみによって取引に当たることが一般的であるとはいい難いものである。 してみると、引用商標2にあっては、先頭の「HOTEL」及び「ホテル」の文字を捨象し、「CIPRIANI」、「チプリアーニ」の部分(引用商標3)のみを分離抽出すべき構成態様上の理由は乏しい。 そうすると、申立人提出の証拠をもってしては、引用商標2及び3が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る役務を表示するものとして、日本国内及び外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 2 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標と引用商標1について 本件商標は、前記第1のとおり、「CIPRIANI」の欧文字を横書きした構成からなるところ、これよりは、「チプリアーニ」の称呼を生ずるものである。また、該文字は、一般的な辞書には掲載されておらず造語として認識されるものであるから、これよりは特定の観念を生じないものである。 そして、引用商標1も本件商標と同じ綴りからなるものであるから、同じく、「チプリアーニ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 (2)本件商標と引用商標1との類否について 本件商標と引用商標1との類否を検討するに、両商標は、同一の綴り文字よりなるものであるから、外観において同一又は類似し、「チプリアーニ」の称呼を共通にするものであって、いずれも特定の観念を生じないものである。 そうすると、本件商標と引用商標1とは、観念においては比較し得ないものの、称呼を共通にし、外観上において同一又は類似する互いに紛れるおそれのある商標であるということができる。 (3)本件商標の指定役務と引用商標1の指定役務との類否について 本件商標は、第43類「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」を指定役務とするのに対し、引用商標は、第43類「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」を指定役務とするものであって、本件商標の指定役務が、飲食物(食品)の提供に関する役務であるのに対し、引用商標1の指定役務は、宿泊施設を提供する役務である。 そうすると、両役務は、役務の内容、用途、目的等を異にするものである。 したがって、本件商標の指定役務と引用商標1の指定役務とは、非類似の役務というべきものである。 (4)まとめ 以上のとおり、本件商標の指定役務は、引用商標1の指定役務と類似しないものであるから、本件商標と引用商標1とが類似の商標であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について 上記1のとおり、引用商標2及び3は、申立人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く知られていたとはいえないものであるから、本件商標は、これをその指定役務について使用したとしても、これに接する取引者、需要者が、これから引用商標2及び3を連想、想起するようなことはないというべきであり、該役務が申立人又は同人らと経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その出所について混同を生じるおそれはないものと判断するのが相当である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第19号該当性について 上記1のとおり、引用商標2及び3は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人らの業務に係る役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されていたということはできないものである。 また、申立人提出の証拠からは、商標権者が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的を持って本件商標を出願し、登録を受けたと認めるに足る具体的事実を見いだすこともできない。 そうすると、本件商標は、引用商標2及び3の周知著名性へのただ乗りをする等、不正の目的をもって使用されるものであるということはできない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、アその構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、イ当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会的公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、ウ他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、エ特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、オ当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(平成17年(行ケ)第10349号判決)。 しかしながら、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨などからすれば、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっては、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(平成19年(行ケ)第10391号判決)。 (2)本件商標は、上記第1のとおり、「CIPRIANI」の欧文字を横書きした構成からなるところ、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないこと明らかであり、さらに、社会の一般的道徳観念に反するなど、公序良俗に反するものというべき証左も見あたらない。 そして、本件商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではなく、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合があるとはいえない。 加えて、申立人と本件商標権者との間における商標権の帰属をめぐる問題は、両当事者間の私的な問題として解すべき問題であって、公の秩序や善良な風俗を害する特段の事情がある例外的な場合に該当すると判断するべき事情はない。 その他、本件商標が不正の利益を得る目的をもって剽窃的に登録出願したものと認めるに足りる具体的事実を見いだすことができない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 6 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
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異議決定日 | 2022-10-25 |
出願番号 | 2018140201 |
審決分類 |
T
1
651・
261-
Y
(W43)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
大森 友子 |
特許庁審判官 |
清川 恵子 馬場 秀敏 |
登録日 | 2021-10-25 |
登録番号 | 6460960 |
権利者 | アルトゥニス−トレーデイング・ジェスタウン・エ・セルヴィソス・ソシエダージ・ウニペッソアウ・リミターダ |
商標の称呼 | チプリアーニ、シプリアーニ |
代理人 | 田中 陽介 |
代理人 | 青島 恵美 |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 青木 博通 |
代理人 | 中田 和博 |