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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
管理番号 1390906 
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-04-28 
確定日 2022-03-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第5860284号の1の2の1の1商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5860284号の1の2の1の1の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5860284号の1の2の1の1商標(以下「本件商標」という。)は、「マリカー」の文字を標準文字で表してなり、平成27年5月13日に登録出願、同年9月9日に登録査定、同28年6月24日に設定登録された登録第5860284号商標について、同29年3月29日及び令和元年5月30日を受付日とする商標権の分割移転がされた結果、第35類「船体・機体・車体を利用した広告,インターネットによる広告,広告宣伝物の企画及び制作,広告のための商品展示会・商品見本市の企画又は運営,広告業,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,求人情報の提供,商業用・販売促進用及び広告用のイベント・展示会・見本市及びショーの企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供但し、船体・機体を利用した広告,インターネットによる広告,広告宣伝物の企画及び制作,広告のための商品展示会・商品見本市の企画又は運営,広告業,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,求人情報の提供,商業用・販売促進用及び広告用のイベント・展示会・見本市及びショーの企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供を除く但し、フロントカウル及びフロントフェアリング及びサイドポンツーンを備え、かつ高さが750mm以下かつ乗車定員が1名の4輪乗用自動車(またがり式座席、又はバーハンドル、又はヘッドレスト、又はフェンダーを備えるものを除く)の車体を利用した広告を除く」を指定役務として、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人標章
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同第15号及び同第19号に該当するとして引用する商標(以下「請求人標章」という。)は、「マリオカート」の文字を書してなり、「ゲームソフトウェア」について使用しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、 証拠方法として甲第1号証ないし甲第46号証(枝番を含む。)を提出した。
1 審判請求の利益
請求人は、昭和22年11月に設立され、娯楽用具、運動具、音響機器及び乗物の製造及び販売、ゲーム、映像及び音楽等のコンテンツの制作、製造及び販売、キャラクター商品の企画、製造及び販売並びに知的財産権の許諾等を業とする株式会社である(甲2)。
請求人は、平成4年8月27日に第1作を発売して以来、全世界での累計販売本数が平成26年12月末日時点で1億本を超えるゲームソフトシリーズ「マリオカート」シリーズ(以下「請求人商品」という場合がある。)を全9作開発・販売しており、シリーズ名称としての「マリオカート」の文字は周知・著名性を獲得している。
そして、本件商標を構成する「マリカー」は、遅くとも平成8年頃から現在に至るまでの長期に亘って様々なメディア(ゲーム雑誌、テレビ番組、大学の調査報告、漫画作品等)や多数のユーザーにおいて請求人標章の略称として広く一般に使用されたことから、本件商標をその指定役務に使用する場合、当該役務が請求人と経済的に又は組織的に何等かの関連性があると取引者・需要者に誤認させるおそれがあり、かつ、かかる本件商標の使用は請求人が開発・販売している請求人標章に化体されている信用にフリーライドするものであると共に、かかる信用を希釈化するものであることから、請求人は本件審判請求をすることにつき利害関係を有している。
ちなみに、請求人は、本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」に対して、平成29年2月24日、請求人標章の略称である「マリカー」の使用行為等について、不正競争行為等の差止等及びこれらの行為から生じた損害賠償を求める訴訟を提起し(甲3の1)、請求人の訴えを認める知的財産高等裁判所の判決が下されたのち、最高裁判所により上告を受理しない決定がなされたことから、知的財産高等裁判所の判決が確定している(甲3の2)。
さらに、請求人は、本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」に対して、本件商標と同様に登録第5860284号商標の商標権から分割された登録第5860284号の1の1商標の登録及び登録第5860284号の2商標の登録について、これらの登録を無効とすることを求めて商標登録無効審判を請求しており、いずれについても令和2年10月19日に商標登録を無効とする審決が下され(甲3の3、4)、すでに確定している。
2 無効理由
(1)はじめに
本件商標を構成する片仮名「マリカー」は、請求人が開発・販売しているレーシングゲームのシリーズ名として周知・著名性を獲得している請求人標章である商標「マリオカート」の略称として広く知られている。そして、かかる略称につき、レーシングゲームと関連性のある役務が含まれている本件商標の指定役務において、請求人以外の第三者が商標登録を取得し、それを独占的に使用することは、著名な請求人標章との間でその出所につき誤認・混同を生じるおそれがある。
また、請求人標章の略称である「マリカー」を請求人と関係のない第三者が使用する行為は、請求人標章に蓄積されている信用にフリーライドをするものであり、本件商標の指定役務の商標として、著名な請求人標章の略称である「マリカー」をあえて採択し、使用することは、信義則に反するばかりではなく商標法の目的に反するものである。
(2)請求人が開発・販売している「マリオカート」シリーズが著名性を獲得していることについて
請求人は、ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターとしてギネス・ワールド・レコーズに発表されたキャラクター「マリオ」が登場するゲームソフトのシリーズを開発・販売している(甲4)。「マリオ」は、請求人を代表するゲームキャラクターであり、世界的なイベントであるリオデジャネイロオリンピックの閉会式において、日本が生み出したキャラクターの代表として大きく扱われるなど、世界的に著名な存在となっている(甲5)。
そして、「マリオカート」は、「マリオ」シリーズに登場する「マリオ」を始めとして、請求人が生み出した様々なキャラクターがレースを繰り広げるレーシングゲームのシリーズであり、請求人は、平成4年8月27日に発売されたスーパーファミコン用ソフト「スーパーマリオカート」を第1作目として、「マリオカート64(発売:平成8年12月14日)」、「マリオカートアドバンス」(発売:平成13年7月21日)、「マリオカートダブルダッシュ!!(発売:平成15年11月7日)」、「マリオカートDS(発売:平成17年12月8日)」、「マリオカートWii(発売:平成20年4月10日)」、「マリオカート7(発売:平成23年12月1日)」、「マリオカート8」(発売:平成26年5月29日)及び「マリオカート8デラックス」(発売:平成29年4月28日)」に至るまで、9本の「マリオカート」シリーズのレーシングゲームを開発販売している(甲6の1〜9)。
このうち、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(コンピュータエンターテインメント産業に関する調査及び研究、普及及び啓発等を行うことにより、コンピュータエンターテインメント産業の振興を図り、もって我が国産業の健全な発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする協会(甲7)。以下「コンピュータエンターテインメント協会」という)が年1回発刊している「CESAゲーム白書」の2015年版(甲8の1)によれば、平成26年12月31日の時点で、最初のタイトルである「スーパーマリオカート」(甲6の1:平成4年8月27日)は、国内出荷本数382万本、世界累計出荷本数876万本を記録しているが、これはスーパーファミコン用の全ソフト中、最高の販売本数である。また、NINTENDO64用ソフト「マリオカート64」(甲6の2:平成8年12月14日発売)は、国内出荷本数224万本、世界累計出荷本数987万本を記録しているが、これはNINTENDO64用の全ソフ卜中、最高の販売本数である。さらに特筆すべきは、Wii用の「マリオカートWii」(甲6の6:平成20年4月10日発売)の販売本数であり、国内出荷本数383万本、世界累計出荷本数3526万本を記録しており、同タイトルは、世界における歴代ミリオン出荷タイトルの3位にランクインしている。そして、本件商標の出願前の時点での最新作としては、Wii U用ソフト「マリオカート8」(甲6の9:平成26年5月29日発売)が、平成26年12月31日の時点で国内出荷本数103万本、世界累計出荷本数477万本を記録している。このように、「マリオカート」シリーズの全世界での累計販売本数は平成26年12月31日の時点で1億本を超えており、このことから、2015年版のGUINNESS WORLD RECORDS GAMER’S EDITIONでも「マリオカート」シリーズを2頁にわたって紹介した上で「史上最も売れたカートレーシングシリーズ」(best−selling kart−racing series)と記録している(甲8の2)。
これらのことからすれば、同作品が世界有数のゲームシリーズであることは明らかである。
上記に加えて、「マリオカート」シリーズの各ゲームソフトは、その発売前から発売後約2、3ヵ月の時期で、ゲーム雑誌の人気ランキングにおいて上位にランクされていた。
その例として、我が国のゲーム雑誌である週刊ファミコン通信((株)アスキー発行)及び週刊ファミ通((株)KADOKAWA発行)における第1作の「スーパーマリオカート」と第8作の「マリオカート8」の発売日前後の人気ランキングの推移を具体的に挙げると、以下のとおりである。
・「スーパーマリオカート」(平成4年8月27日発売)
週刊ファミコン通信1992年9月4日号(甲9の1):6位
週刊ファミコン通信1992年9月25日号(甲9の2):1位
週刊ファミコン通信1992年10月2日号(甲9の3):1位
週刊ファミコン通信1992年10月9日号(甲9の4):1位
週刊ファミコン通信1992年10月16日号(甲9の5):1位
週刊ファミコン通信1992年10月23日号(甲9の6):1位
・「マリオカート8」(平成26年5月29日発売)
週刊ファミ通2014年5月22日号(甲10の1):2位
週刊ファミ通2014年5月29日号(甲10の2):3位
週刊ファミ通2014年6月5日号(甲10の3):4位
週刊ファミ通2014年6月26日号(甲10の4):1位
週刊ファミ通2014年7月3・10日号(甲10の5):2位
週刊ファミ通2014年7月10日増刊号(甲10の6):1位
週刊ファミ通2014年7月17日号(甲10の7):2位
また、本件商標の登録査定後に発行された週刊ファミ通(カドカワ(株)発行)2017年7月13日号に掲載された「レース&スポーツゲーム総選挙」でのランキングにおいても、「スーパーマリオカート」が1位に選ばれたほか、5位に「マリオカート8デラックス」が、7位に「マリオカート64」が、17位に「マリオカート7」が、19位に「マリオカートDS」が、それぞれランクインしていた(甲10の8)。
さらに、2013年(平成25年)6月26日にニュースリリースされた東京工芸大学による「ウェアラブル・コンピュータに関する調査」には、「メガネ型端末でプレイしたいゲームタイトル/男性は『バイオ』『DQ』『FF』、女性は『マリオ』『マリカー』『ぶつ森』」との表題の下、「・・・女性は1位『スーパーマリオ』(35.0%)、2位『マリオカート』(32.5%)」との記載がある(甲11)。
また、「マリオカート」シリーズの各ゲームソフトは、ゲーム雑誌のみならず一般雑誌である「monoマガジン」((株)ワールドフォトプレス発行)2011年12月2日号(甲12の1)及び2014年6月2日号(甲12の2)でも「お待たせ!ニンテンドー3DSの大本命タイトル『マリオカート7』が、ついに発売される。」及び「誰もが一度はプレイしたことがある『マリオカート』シリーズの8作目が、Wii Uで発売される。」と記載され、請求人のゲーム機における「大本命」のゲーム作品であり、また、「誰もが一度はプレイしたことがある」ゲームシリーズとして取り上げられている。
さらに「マリオカート」シリーズの各ゲームソフトは、ゲーム作品としての価値も社会的に高く評価されており、例えば、コンピュータエンターテインメント協会が主催する日本ゲーム大賞において、「マリオカートWii」が、日本ゲーム大賞2009(平成21年)の年間作品部門において大賞を受賞して大々的に表彰されている(甲13の1)。「マリオカート」シリーズの他の作品も同様であり、例えば、「マリオカートDS」が日本ゲーム大賞2006(平成18年)の年間作品部門優秀賞(甲13の2)、「マリオカート7」が日本ゲーム大賞2012(平成24年)の年間作品部門優秀賞(甲13の3)、そして、「マリオカート8」が日本ゲーム大賞2015(平成27年)の年間作品部門優秀賞を受賞している(甲13の4)。
以上述べたとおり、「マリオカート」シリーズは、きわめて高い人気を誇るゲームシリーズであり、また、一般雑誌においても「誰もが一度はプレイしたことがある」ゲームシリーズとして掲載されるほどの高い知名度を獲得している。
(3)請求人標章に関する商品化事業等について
請求人が開発・販売している「マリオカート」シリーズは、その獲得した著名性に基づき、国内有数の大企業を含む多数の企業との間で、「マリオカート」シリーズに関する多岐に渡るライセンス商品やコラボレーション企画を展開している。その具体例を挙げていくと枚挙に暇がないが、その一部を以下に示す。
ア 株式会社タカラトミーヘのライセンス商品
「チョロQハイブリッド!マリオカートWiiシリーズ」(平成22年6月19日発売)(甲14の1)、「ドリームトミカ マリオカート8 マリオ」(平成26年5月29日発売)(甲14の2)。
イ 株式会社バンダイナムコエンターテインメントヘのライセンス商品
「マリオカート アーケードグランプリ2」(平成19年3月中旬発売)(甲14の3)、「マリオカート アーケードグランプリDX(デラックス)」(平成25年夏発売)(甲14の4)。
ウ 株式会社サンアートヘのライセンス商品
「マリオカート8 シューズバッグ」(甲14の5)、「マリオカート8 ナップサック」(平成26年)(甲14の6)。
エ スケーター株式会社へのライセンス商品
「マリオカート8 ランチボックス」(甲14の7)、「マリオカート8 レジャーシート」(甲14の8)、「マリオカート8 水筒」(平成27年)(甲14の9)。
オ 日本マクドナルド株式会社との間のコラボレーション活動
「ハッピーセット『マリオカート8』」(平成26年)(甲14の10)。
カ メルセデス・ベンツ日本株式会社との間のコラボレーション活動
「Mercedes Cup in マリオカート8」(平成26年)(甲14の11〜17)。
キ Pennzoil社とのコラボレーション活動
「Mario Karting Reimagined」(平成26年)(甲14の18、19)。
ク 京都府警察との間のコラボレーション活動
自動車関連犯罪防止ポスター・チラシ及び防犯イベント(平成26年)(甲14の20、21)。
ケ 京都府との間のコラボレーション活動 京都縦貫自動車道開通直前フリーウォークイベント(平成27年)(甲14の22)。
コ 日本道路公団中部支部及び名古屋高速道路公社とのコラボレーション活動
国道23号の夜間通行止めに関するテレビコマーシャル(平成14年)(甲14の23)。
上記の極めて多岐にわたるライセンス商品の広告・宣伝並びにコラボレーション活動は、ゲームシリーズ名として著名性を獲得している「マリオカート」の知名度がゲーム業界に留まることなく非常に広範な領域において浸透しているからこそ行われるものである。
特に、ゲームに関するライセンス商品が特に販売されることが多い日用品などの分野の商品・役務に留まらず、自動車や自動車用品メーカーであるメルセデス・ベンツ日本株式会社やPenzzoil社とのコラボレーションあるいは京都府警察との自動車関連犯罪防止ポスター・チラシ及び防犯イベントに関するコラボレーション、京都縦貫自動車道開通直前フリーウォークイベントにおけるコラボレーション、日本道路公団中部支部及び名古屋高速道路公社との国道23号の夜間通行止めに関するテレビコマーシャルにおけるコラボレーションが行われた事実は、「マリオカート」が広告や啓発活動に用いられるほど広告業界や広告の受け手となる一般消費者における高い著名性を獲得していることや、「マリオカート」と広告や自動車関係の業界との親和性の高さを示すものである。
これらのことは、請求人による防護標章登録出願(商願2017−005651号)につき、登録商標「マリオカート\MARIO KART」(登録第4880591号の2)の防護標章として防護標章登録が認められたこと(甲15の1)や、知的財産高等裁判所の判決(甲15の2:第89〜99頁)において、本件商標が出願された平成27年5月13日の時点で、「MARIO KART」表示は日本の国内外の需要者の間で、「マリオカート」は日本国内の需要者の間で、請求人のカートレーシングゲームシリーズである「マリオカート」を示すものとして「著名な商品等表示」になり、これが現在でも継続していると認められたこと、また、本件商標と同様に登録第5860284号商標の商標権から分割された商標登録に対する無効審判の確定した審決(甲3の3、4)において、請求人標章が、請求人の製造、販売に係るゲームソフトである請求人の商品を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、ゲームの需要者のみならず、我が国の一般の需要者の間に広く知られていたものと認められたことからも明らかである。
このように、請求人標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の一般の需要者の間に既に広く知られたものとなっていた。
(4)本件商標を構成する「マリカー」の文字が、ゲームに関する需要者のみならず、我が国の一般の需要者の間においても請求人標章の略称として広く知られていたことについて
ア 複合語の各要素の語頭から二拍ずつを採る略称のパターンについて
言語学上、独立性を持つ語どうしが結合してできる大きな単語である複合語は、二語が結合している分だけ一語より長くなることから、短縮される可能性が高くなるところ、複合語の各要素の語頭から二拍ずつを採るパターンは、部分結合形式の短縮形の中では最も基本的なものとされ、人名、地名、会社名から普通名詞まで広範囲に観察されており(甲16の1)、特に、外来語の略語としてこのパターンに分類される多くの例があることが指摘されている(甲16の2)。
その具体例として、普通名詞では、「エンジンストール」が「エンスト」、「パワーステアリング」が「パワステ」、「パトロールカー」が「パトカー」と略されるほか、固有名詞でも「ランドクルーザー」が「ランクル」(甲16の3)と略されたり、近年登場した新語でも「アラウンドサーテイ」が「アラサー」(甲16の4)と略されたりしている。
同様に、ゲーム機やゲームソフトの分野における複合語は、しばしば各要素の語頭から二拍ずつを採るパターンで略称され、その略称がゲーム機やゲームソフトのシリーズ名と同義なものとして使用されている。
その具体例としては、「プレイステーション」が「プレステ」(甲16の5、6)、「ドラゴンクエスト」が「ドラクエ」(甲16の7、8)、「マインクラフト」が「マイクラ」(甲16の9、10)、「イナズマイレブン」が「イナイレ」(甲16の11、12)、「モンスターハンター」が「モンハン」(甲16の13、14)、「アサシンクリード」が「アサクリ」(甲16の15、16)、「サムライスピリッツ」が「サムスピ」(甲16の17、18)、「ポケットモンスター」が「ポケモン」(甲16の19、20)、「ポケモンGO」が「ポケGO」(甲16の21、22)などといったように、複合語からなるゲーム機やゲームソフトのシリーズ名称は、複合語を構成する各要素の語頭から二拍ずつを採るパターンで略称されており(甲16の5〜22)、ゲームソフトのシリーズ名である「マリオカート」も「マリオ」と「カート」の二語が結合してなる複合語であることから、「マリオカート」を構成する各要素の語頭から二拍ずつを採り、「マリ」と「カー」とを組み合わせた構成からなる「マリカー」と略される。
イ ゲーム雑誌における「マリカー」の記載例
そして、本件商標を構成する「マリカー」の文字は、請求人の著名なゲームソフトのシリーズ名である「マリオカート」の略称として周知・著名性を獲得しているため、ゲーム雑誌では昔から請求人標章である「マリオカート」の略称として「マリカー」と記載されている。
例えば、その具体例として、「ファミマガ64」1996年12月13日号(徳間書店インターメディア(株)発行)には「MARIO KART/マリオカート/64PerfectGuide」の表題のもと「システムガイド」の説明文に「カート操作の特徴からゲームモードやアイテムまで、プレイに必要な『マリカー』のシステムをすべて解説するぞ。」の記載があり、同月27日号には「MARIO KART/マリオカート/64」の表題のもと「『マリカー』最速の法則を発見!!」、「全国の『マリカー』プレイヤーに」などの記載がある(甲17の1、2)。
また、「電撃GB(ゲームボーイ)アドバンス」2001年9月号(メディアワークス発行)には、「マリオカートアドバンス/MARIO KARTADVANCE」と大きく表示され、欄外に「任天堂公認/『マリカー』大会開催」、「ソフト発売直後の7/22から全国で『マリカー』のレース大会が関催されるぞ。」などの記載があり、同年10月号には「売り上げ総合ランキング」として第2位に「マリオカートアドバンス」が表示され、その説明文に「・・・今までの『マリカー』シリーズの売れ方を考えると、次号では発売累計本数で『マリオカート』が上回ることだってありえそう。」との記載がある(甲17の3、4)。
また、「電撃GAMECUBE」2003年11月号(メディアワークス発行)には、「マリオカート ダブルダッシュ!!」の説明として「『マリカー』シリーズ最新作」及び「1人乗りだったマシンが『マリカーDD』では2人乗りに大きく変更された。」などの記載があり、また、同年12月号には、「・・・歴代の任天堂ハードで好評だった『マリオカート』シリーズ。その最新作『マリオカート ダブルダッシュ!!』(以下「マリカーDD」)の最新情報・・・」のように記載され、さらに、2004年1月号及び同年2月号には、「日本一の『マリカー』プレイヤーを決める!!」及び「マリカーDD」との記載がある(甲17の5〜8)。
また、「ニンドリ Nintendo DREAM」2006年9月号及び2007年8月号((株)毎日コミュニケーションズ発行)の別冊付録「完全保存版 DSソフト オールカタログ」には、「マリオカートDS」の項に「Wi−Fi搭載の『マリカー』シリーズ最新作」との記載があり、同年10月号には、読者投稿欄に「マリカー最ッ高!!」との記載がある(甲17の9〜11)。
また、週刊ファミ通2017年6月1日号((株)KADOKAWA発行)においても、タレント・ラジオパーソナリティとして有名な伊集院光氏のコラムにおいて、「『ゼルダ』が終わるころには『マリカー』を、という計画だったが」との記載がある(甲17の12)。
ウ ゲームとは関連性のないメディアでの「マリカー」の使用例
さらに、ゲーム関係の雑誌等に限らず、複合語のゲームソフトのシリーズ名を各要素の語頭から二語ずつを採る略称で特定することが広く一般に行われている。このことは、平成24年の直木賞受賞作であり、平成28年に映画化された著名な小説である朝井リョウ『何者』において、「ウイニングイレブン」という人気のサッカーゲームシリーズの略称である「ウイイレ」が、例えば、「俺は光太郎と酒を飲みながらウイイレをしていた。」及び「光太郎と試合の真っ最中だったウイイレの画面をそのまま残してきた部屋。」などと、ゲームのタイトルであることの説明の記述はもとより、何らの注釈もなく用いられていることからも明らかである(甲18)。
同様に、「マリカー」の語が、請求人標章の略称として、ゲームとは関連性が高いとはいえない様々なメディアにおいて注釈もなく使用されている。
その具体例として、例えば、フジテレビ系列で放送されていたバラエティ番組「モシモノふたり〜タレントが“おためし同居生活”してみました〜」では、元AKB48メンバーでタレントの板野友美氏がロンドン五輪の競泳男子200メートル平泳ぎの種目における銅メダリストの立石諒氏と「マリオカート」対決をした際に、「マリカー楽しいね」と発言し、その発言が画面上に大きくテロップで表示されていた(甲19の1)。
また、テレビ東京系列で放送されているバラエティ番組「ABChanZOO」では、ジャニーズ事務所に所属するアイドルグループのA.B.C−Zのメンバーが「マリオカート」をプレイするに際して「マリカーだな」と発言し、その「マリカー」の語が画面上に大きくテロップで表示されていた(甲19の2)。
加えて、TBS系列で放送されているバラエティ番組「NEWSな二人」の平成28年6月4日に放送された回で、本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」らの行為が取り上げられた際には、ジャニーズ事務所に所属するアイドルグループのNEWSのメンバーが、「マリカー」という語を昔から請求人のレーシングゲームシリーズ「マリオカート」を指すものとして使っていた、という趣旨で「僕ら昔から『マリオカート』やってて『マリカーやった?』(と言っていた)」などと発言し、その発言内容が画面上に大きくテロップで表示されていた(甲19の3:「NEWSな二人」の動画(開始2分40秒以降に該当発言))。
さらに、本件商標の権利者の前の権利者に対し、請求人が平成29年2月24日付けで訴訟を提起した(甲3の1)直後における情報番組においても、「マリカー」の語が請求人標章の略称として広く知られているという趣旨の発言がなされていた。
例えば、フジテレビ系列「直撃LIVEグッディ!」では、倉田大誠アナウンサーは、マリオカートについて、「みんなね、マリカーマリカー呼んでます。」と発言していた。また、三田友梨佳アナウンサーも、マリオカートで遊ぶことを指す言葉として、「普通にね、マリカーする?ですよね、マリオカートする?よりも」などと述べ、「マリオカート」というゲーム作品を「マリカー」と呼ぶ方が浸透しているといった発言がなされていた(甲19の4:「直撃LIVEグッディ!」の動画(開始5分23秒以降に該当発言))。
また、「羽鳥慎一モーニングショー」においても、野上慎平アナウンサーは、「マリカー」という名称について、「もう有名ですね。」「マリオカートのことをマリカーと略して総称するというのはかなり一般的です。」と発言しており、宇賀なつみアナウンサーも、マリオカートの略称について、「小学生の頃からずっとマリカーです。」と発言していた(甲19の5:「羽鳥慎一モーニングショー」の動画(開始6分50秒以降に該当発言))。
このように、全国ネットのテレビ番組において、「マリカー」という略称が「マリオカート」の略称として使用されているだけではなく、知名度の高い芸能人や複数の主要地上波テレビ局に在籍する複数のアナウンサーなどから「マリカー」が「マリオカート」の略称として広く知れ渡っている旨の発言がなされているのであり、これらの事実も「マリカー」表示が請求人のゲームソフトシリーズ「マリオカート」の略称として周知かつ著名であることの証左といえる。
また、2013年6月26日付の東京工芸大学の「ウェアラブル・コンピュータに関する調査」においても、メガネ型端末でプレイしたいゲームタイトルとしてシリーズ名称である「マリオカート」ではなく同シリーズ名称の略称である「マリカー」が用いられている(甲11)。
さらに、「マリオカート」を何らの注釈もなしに「マリカー」と表記する例は、一般の読者を対象とし、ゲームとは関連性のない著名な漫画作品やテレビアニメなどにも見られる。
その具体例として、例えば、平成21年には、朝日新聞社が主催する手塚治虫文化賞において短編賞を受賞したほか(甲20の1)、宝島社「このマンガがすごい!2009年」オトコ編第1位作品に選ばれ、映画化され、実写ドラマ化されたほどに著名な漫画作品(甲20の2)である中村光『聖☆おにいさん』において、その登場人物が「マリオカート」を請求人のゲーム機でプレイすることに関して「マリカー」という表記がなんらの注釈もなく用いられている(甲20の3、4:『聖☆おにいさん』5巻及び13巻の使用例)。
また、653万部という我が国の漫画雑誌で歴代最高発行部数を記録した「週刊ジャンプ」(甲20の5)に平成24年から連載された漫画作品であり、テレビアニメが放送され、平成29年には実写映画が全国公開されたほどに著名な漫画作品(甲20の6)である麻生周一『斉木楠雄のΨ難』において、非常に素早く動くことを「マリオカート」のゲーム内でアイテム「キラー」を使用した際の演出に例えて「マリカーのキラー状態」と表現するセリフが何らの注釈もなく用いられている(甲20の7:『斉木楠雄のΨ難』3巻の使用例)。
また、平成26年1月から同年3月にかけて全国的に放送されたアニメであり(甲20の8)、京都府の国勢調査ポスターに採用されたほどに著名な漫画作品(甲20の9)であるよしだもろへ『いなり、こんこん、恋いろは。』において、請求人の製造販売するゲーム機であるWiiの名称及び形状を想起させるゲーム機が描かれている場面において「マリオカート」をプレイすることに関して「マリカー」という表記が何らの注釈もなく用いられている(甲20の10):『いなり、こんこん、恋いろは』2巻の使用例)。
加えて、平成25年4月から同年6月にかけて全国的にテレビアニメが放送されたほど有名な漫画作品(甲20の11)である三上小又『ゆゆ式』において、登場人物が放課後の過ごし方について、後輩を部活動に勧誘するか、それともゲームをして過ごすかの意見を聞くという場面で「マリカー大会する?」「マリカーで」(お願します)という発言が何ら注釈もなく用いられている(甲20の12:『ゆゆ式』3巻の使用例)。さらに、この漫画作品を原作とするテレビアニメにおいても、「マリカー大会する?」、「マリカーで」という発言が、字幕や説明するセリフなく使用されている(甲20の13:『ゆゆ式』:テレビアニメ「第8話2年生になりました」の動画(開始18秒に該当発言))。
このように、一般の視聴者や読者を対象とし、ゲームとは関連性のないテレビ番組、著名な漫画作品やテレビアニメにおいても何らの注釈なしに片仮名「マリカー」が表示され、音声「マリカー」がテレビを通じて流されているのは、「マリカー」が請求人の製造・販売するゲームソフトシリーズ名である「マリオカート」の略称であることが視聴者や読者に自明であることが当然の前提となっているからである。
エ 一般需要者によるSNS等における「マリカー」の使用例
また、多くの一般需要者によるSNS等における情報発信においても「マリカー」の語が請求人標章の略称として広く使用されている。
例えば、Web上において一短文のつぶやき(ツイート)の投稿を共有する情報サービス(ソーシャル・ネットワーキング・サービス(いわゆるSNSサービス))であるTwitterにおいて、「マリカー」の語を含む多数のツイートがなされており、その数は、本件商標の登録出願日前日の平成27年5月12日では、一日あたり約600件にも上り(甲21の1)、請求人が「マリオカート8」を発売した同26年5月29日に一日当たり約3000件にも上った(甲21の2)。
なお、Twitterのアンケート機能により「あなたはマリカーがなんのゲーム名の略か知ってますか?」というアンケートが行われた際には、3万6246人の回答者のうち95パーセントの回答者が「知ってる」と回答し(甲21の3)、「あなたは『マリカー』と聞いて、任天堂のレースゲーム『マリオカート』を連想しますか?」というアンケートには、684人の回答者のうち94パーセントの回答者が「はい」と回答している(甲21の4)。
これに加えて、動画共有サービス「YouTube」においても「マリカー」の語をタイトルに含む動画が7万件以上も投稿されており、その中には100万回を超えて再生されている動画も含まれている(甲21の5)。
また、一般ユーザーが関設している「マリオカート」シリーズのゲーム作品の攻略サイトにおいても、「マリカーの館」といった題名が付されている(甲21の6)。
さらに、Twitterのフォロワー数が平成29年6月14日の時点で国内総合第2位の485万9690にも上り(甲21の7)、不特定かつ極めて多数の読者がいることが想定される人気の高い著名人である「きゃりーぱみゅぱみゅ」(甲21の8)のツイートにおいても、平成23年12月22日に「マリカーでゆう加速が高くてすぐ捕まって殺された。」とのツイートを行った例(甲21の9)や、平成24年9月15日に「マリオカート」の画面を撮影した写真とともに「けっけっけ!まじゲームするし!マリカー超強いし!」などとツイートを行っている(甲21の10)。
オ 小括
以上からすれば、「マリカー」の文字が、請求人標章の略称として、遅くとも平成8年(甲17の1)からの20年以上の長期にわたり、ゲーム雑誌において使用され、また、平成22年頃には、ゲームとは関連性が高いとはいえない漫画作品においても使用されており、さらに、平成27年5月頃には、ツイッターで「マリカー」の文字が注釈もなく使用され、かつ、ツイッターのアンケートにおいての認知度も約95%であること、本件商標の登録査定後ではあるもののYouTubeに「マリカー」の語を含む投稿が相当数されたことからすれば、それ以前においても相当数の投稿がされたものと推認し得ること、本件商標の登録査定後に放送されたものではあるものの全国ネットのテレビ番組において「マリカー」の語が昔から有名であった旨の発言が複数なされていることなどを総合勘案すれば、「マリカー」の文字は、本件商標の登録出願時には、請求人のレーシングゲームシリーズであるゲームソフト「マリオカート」を表すものとして、我が国の需要者の間において、広く認識されていたものといえ、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたといえる。
そうすると、「マリカー」の文字は、請求人商品及び請求人標章の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、ゲームに関連した分野においてはもとより、我が国の一般の需要者の間に広く認識されるに至っていたといえる。
(5)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて
ア 請求人標章及び「マリカー」の周知性について
上記(2)から(4)までに記載のとおり、請求人標章は、請求人商品を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の一般の需要者の間に広く認識されていたものであり、また、「マリカー」の文字についても、請求人標章の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において我が国の一般の需要者の間に広く認識されていたものである。
イ 請求人標章及び「マリカー」の独創性について
請求人標章である「マリオカート」の文字は、辞書等に掲載されていないいわゆる造語であって(甲22の1)、その独創性は高いものであり、その略称である「マリカー」の文字も、辞書等に掲載されていない造語であって(甲22の2)、独創性が高いといえるものである。
ウ 本件商標と請求人標章との類似性について
本件商標は「マリカー」の文字よりなるものであり、請求人標章は「マリオカート」の文字からなるところ、外観においては、本件商標は、語頭の「マリ」の文字を請求人標章の前半部の「マリオ」の文字と2文字を共通にし、後半の「カー」の文字も請求人標章の後半部の「カート」の文字と長音を含め2文字を共通にしており、本件商標は、請求人標章と前半及び後半のそれぞれに類似している点があることから、外観上、一定程度の類似性を有するものといえ、近似した印象を与えるといい得るものである。
また、称呼においては、本件商標からは「マリカー」の称呼を生じ、請求人標章からは、「マリオカート」の称呼を生じるところ、両者は、印象に残りやすい語頭の「マリ」の音及び後半において「カー」の音を共通にしていることから、一定程度類似するものである。
さらに、観念においては、請求人標章は、レーシングゲームシリーズを表すものとして広く認識されており、当該ゲームシリーズである「マリオカート」の観念を生じ、「マリカー」の文字はその略称として広く認識されていることから、「マリカー」の文字からなる本件商標からも同じ観念が生じる。
したがって、本件商標と請求人標章とは、外観において近似した印象を与えるものであり、また、称呼においても一定程度類似し、同一の観念を生じるものであることからすれば、その類似性の程度は高いものである。
エ 本件商標の指定役務と請求人標章に係る請求人商品との関連性及び需要者の共通性について
(ア)本件商標の指定役務及び請求人商品について
本件商標の指定役務は、第35類「船体・機体・車体を利用した広告,インターネットによる広告,広告宣伝物の企画及び制作,広告のための商品展示会・商品見本市の企画又は運営,広告業,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,求人情報の提供,商業用・販売促進用及び広告用のイベント・展示会・見本市及びショーの企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供但し、船体・機体を利用した広告,インターネットによる広告,広告宣伝物の企画及び制作,広告のための商品展示会・商品見本市の企画又は運営,広告業,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,求人情報の提供,商業用・販売促進用及び広告用のイベント・展示会・見本市及びショーの企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供を除く但し、フロントカウル及びフロントフェアリング及びサイドポンツーンを備え、かつ高さが750mm以下かつ乗車定員が1名の4輪乗用自動車(またがり式座席、又はバーハンドル、又はヘッドレスト、又はフェンダーを備えるものを除く)の車体を利用した広告を除く」である。
したがって、本件商標の指定役務は、広告に関連を有するものである。
請求人商品は、上記(2)のとおりレーシングゲームソフトである。
(イ)企業における多角経営の可能性について
まず、ゲームのプラットフォームを運営し、ゲームソフトの開発・販売を行う事業者が、自社のプラットフォーム用に提供されている他社の商品・サービスを宣伝するための広告活動を行うことは、従来から広く行われている。
例えば、その具体例として、請求人は「Nintendo Direct」という名称で、自社だけでなく他のソフトメーカーの商品・サービスをも宣伝するための広告映像を配信している(甲23の1〜3)。また、請求人と同様にゲームのプラットフォームを運営する株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントも、「State of Play」という名称で、自社だけでなく他のソフトメーカーの商品・サービスをも宣伝するための広告活動を行っている(甲23の4)。
さらに、ゲームソフトや映画においては、古くから、企業の製品を使用したり、その製品や企業ロゴを映し出したりすることによって、消費者に広告という意識を持たせることなく、その製品の宣伝効果を狙う手法(このような手法は「プロダクトプレイスメント」(甲24の1)や「ゲーム内広告」(甲24の2)と呼ばれている)が行われている。請求人も、古くは昭和63年に発売された「帰ってきたマリオブラザーズ」においてゲーム内広告を実施した(甲24の2、3)。
さらに、請求人標章である「マリオカート」はレーシングゲームのシリーズ名であるが、レーシングゲームはゲームソフトの中でもとりわけ広告との親和性が高いジャンルであり、レーシングゲームにおいては、一般に、ゲーム内のサーキットの看板に広告を掲示したり、ゲーム内に実在の自動車を登場させるゲーム内広告を行ったりするなど、ゲームに関連した広告が広く行われている。
例えば、その具体例として、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントが平成13年4月28日に発売した四輪自動車のレーシングゲームである「グランツーリスモ 3A−Spec」(甲25の1)では、ゲーム内に「SKYLINE」を始めとする実在の自動車を登場させ、これらの自動車のゲーム内広告を行った(甲25の2)。
請求人も、平成12年6月23日発売したバイクのレーシングゲームである「エキサイトバイク64」(甲25の3)では、バイク用品のブランドである「SHOEI」や「THOR」に関する広告をゲーム内のサーキットの看板として掲示した(甲25の4〜7)。
請求人は、「マリオカート」シリーズに関しても、平成26年に「Mercedes Cup in マリオカート8」というキャンペーン名称のもと、メルセデス・ベンツ日本株式会社の商品を「マリオカート8」の中に登場させた(甲14の11〜17)。さらに、請求人標章である「マリオカート」に関しては、ゲーム内広告以外にも、現実世界で「マリオカート」の世界を表現するというPennzoil社とのコラボレーションPRイベント「Mario KartingReimagined」も実施した(甲14の18、19)。
このように、請求人をはじめとするゲームソフトの開発・販売を行う事業者が、現に他社の商品・サービスを宣伝するための広告活動を行っていることに加えて、請求人も現に請求人標章を用いて広告に関する事業を行ったことがあることから、請求人が本件商標の指定役務である広告に関係する役務を提供する可能性があることは明らかである。
(ウ)請求人標章に係る請求人商品と本件商標の指定役務間の関連性について
請求人のようなゲームソフトの開発・販売を行う事業者が、自社のプラットフォーム用に提供されている他社の商品・サービスの広告活動を行ったり、ゲーム内広告を行ったりしていることは上述の通りであるが、それ以外にも、ゲームソフトを利用した広告・広報活動は一般に広く行われている。
請求人のゲームソフトを利用した広告・広報活動が行われた具体例を挙げていくと枚挙に暇がないが、最近では、請求人が令和2年3月20日に発売したゲームソフトである「あつまれどうぶつの森」(甲26の1)を利用した多種多様な広告・広報活動が行われ、それらの活動を、ゲームとは関連性のない新聞などのメディアが取り上げたり(甲26の2〜4)、プロモーションや人材発掘に関する文脈でビジネスメディアが取り上げたり(甲26の5)、広告に関する研究所がゲームを活用したPR施策に関する研究記事を発表したりしている(甲26の6、7)。
このように、ゲーム内広告に加えてゲームソフトを利用した広告・広報活動が広く行われ、それが広告業界において注目されていること、さらに、とりわけ請求人商品であるレーシングゲームを利用した広告・広報活動が広く行われていることからすれば、請求人商品であるレーシングゲームと本件商標の指定役務である広告に関係する役務の関連性が一般に高いことは明らかである。
(エ)請求人標章に係る請求人商品と本件商標の指定役務の需要者の共通性について
まず、コンピュータエンターテインメント協会発行の2017年度版「一般生活者調査報告書〜日本ゲームユーザー&非ユーザー調査〜」によれば、家庭用ゲームのアクティブユーザーは男女を問わず子供から大人まで広く分布していることから、請求人商品であるゲームソフトの需要者は男女を問わず子供から大人まで広く一般消費者といえる(甲27)。
また、本件商標の指定役務である広告に関連を有する役務の需要者は、広告の送り手となる広告業者に加えて、広告の受け手となる一般消費者であるといえるところ、請求人商標の需要者には本件商標の指定役務の需要者が含まれているといえ、本件商標の指定役務と請求人商品とは、需要者において共通性を有するものというべきである。
オ 出所の混同
上記のとおり、請求人標章は、請求人商品を表すものとして我が国の一般の需要者の間において広く知られており、また、「マリカー」の文字も請求人標章の略称として我が国の一般の需要者の間において広く知られていると認められるものであって、ゲームソフト分野の需要者のみならず、広く一般消費者においても認識されていたといえるものである。
そして、請求人標章及びその略称「マリカー」の文字は造語であるからその独創性は高く、また、本件商標と請求人標章との類似性の程度は高いものであり、さらに、本件商標の指定役務と請求人商品との関連性は高く、需要者においても共通性を有するといえるものである。
そうすると、本件商標をその指定役務に使用した場合に、これに接する需要者が請求人商品を表示する「マリオカート」ないしは請求人を連想、想起し、請求人又は請求人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある商標というべきものである。
このことは、請求人が本件商標の権利者であった「株式会社マリカー」に対して訴訟を提起したこと(甲3の1)を受けてなされたTwitterでのツイートや、このニュースについて取り上げたインターネット上の各ニュースサイトの記事からも裏付けられる。
そのようなツイートとして、例えば以下のようなものが挙げられる。
「会社名までマリカーだしさすがになんかの許可もらってるんだと思ってた。」(甲28の1)
「え アレ許可とってなかったの?しかも社名がマリカーってすげえなぁ」(甲28の2)
「任天堂の許可貰って営業してたんじゃないの?違うの?だったら会社名からしてアウトだよ。」(甲28の3)
「あと、会社名からしてまんますぎると思うんだ……。株式会社マリカーって……系列の会社かと思うよ……これで許可取ってなかったのがすごい……。」(甲28の4)
「なんだ無許可だったんかい!そりやあかんわ、世界の誰がどう見たってマリオカートの世界だし、社名もマリカーだし、なにもかもが著作物じゃん(笑)」(甲28の5)
「株式会社マリカーって任天堂から許可取ってるのかと思ってたら取ってないのか笑 そら怒られるわ」(甲28の6)
同様に、このニュースについて取り上げたインターネット上の各ニュースサイトに掲載されたコメントとして、例えば以下のようなものが挙げられる。
「無許可だったの!?」・「任天堂とライセンス契約なりを結ばず、その社名で堂々と事業展開してセーフと思っていたことが信じがたい話ですが」(甲29の1)
「渋谷や秋葉原を歩いていると、時折コスプレをしたカート集団を目にすることがある。これらのレンタルを手がけているのは、その名も『株式会社マリカー』。名前や内容を聞くと『任天堂と何か関係があるのかな?』と思ってしまうが、全くの無関係だ。」(甲29の2)
「Twitterでは任天堂のニュースリリースを目にした人から『無許可だったのか!』と驚きの声が上がる。特に、KAI−YOU編集部のある渋谷近辺でもよく見る光景だっただけに、社内からも総ツッコミが入った。」(甲29の3)
「一見すると任天堂が経営しているのではと思ってしまいそうだが、もちろん全くの無関係。」、「『マリカー』と名乗りマリオの衣装を着ている以上、事故を起こしたら任天堂に汚名が着せられるだろう。」(甲29の4)
「驚いたのはマリカーレンタルが無許可だったということ。そもそも社名自体が『株式会社マリカー』なので当然許可を得ていた、或いは任天堂の子会社だと思われていたのだが・・・。」(甲29の5)
「かなり大々的にやってるから許可とってるとばかり思ってました。」、「任天堂関連会社だとばかり…」、「任天堂の人気ゲーム『マリオカート』の略称を社名に使っていることから関連会社だと思っていた人もいるでしょうし、無許可だったなんて知っていた人はどのくらいいたんでしょう。」(甲29の6)
これらのツイート及び記事は、本件商標の権利者であった「株式会社マリカー」が本件商標である「マリカー」を使用していたことにより、現実に混同が生じていたことを示すものである。
なお、これらのツイート及び記事自体は本件商標の登録査定後になされたものではあるものの、上記(2)から(4)までに記載のとおり、「マリカー」の文字は、本件商標の登録出願時以前から、請求人のレーシングゲームシリーズであるゲームソフト「マリオカート」を表すものとして、我が国の需要者の間において、広く認識されていたこと、また、本件商標の登録出願以前から、本件商標の指定役務と請求人商品との関連性は高く、需要者においても共通性を有していたことなどを総合勘案すれば、これらのツイート及び記事は、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することを推認させる資料として適格性を有しているものである。
カ 小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当することについて
ア 請求人標章及び「マリカー」の周知性について
上記(2)から(4)までに記載のとおり、請求人標章は、請求人商品を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の一般の需要者の間に広く認識されていたものであり、また、「マリカー」の文字についても、請求人標章の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において我が国の一般の需要者の間に広く認識されていたものである。
イ 本件商標と請求人標章との類似性について
上記(5)ウに記載のとおり、本件商標と請求人標章とは、外観において近似した印象を与えるものであり、また、称呼においても一定程度類似し、同一の観念を生じるものであることからすれば、その類似性の程度は高いものである。
不正の目的について
(ア)本件商標は他人の周知な商標を不正の目的をもって使用するものと推認して取り扱うべきことについて
請求人標章である「マリオカート」の文字及びその略称である「マリカー」が、請求人商品を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において我が国の一般の需要者の間に広く知られていることについては、上記(2)から(4)までに記載のとおりであり、本件商標と請求人標章の類似性の程度が高いことについては、上記(5)ウに記載のとおりである。
また、請求人標章である「マリオカート」の文字が、辞書等に掲載されていないいわゆる造語であること(甲22の1)、その略称である「マリカー」の文字も、辞書等に掲載されていない造語であること(甲22の2)については、上記(5)イに記載のとおりである。
このように、請求人商品を表すものとして我が国の一般の需要者の間に広く知られている請求人標章である「マリオカート」の文字と高い類似性があり、かつ、請求人商品を表すものとして我が国の一般の需要者の間に広く知られている請求人標章の略称である「マリカー」の文字と同一で、しかも「マリオカート」も「マリカー」も造語であることに鑑みれば、本件商標が請求人商品と無関係に採択、出願されたとは到底考えられないことから、本件商標は他人の周知な商標を不正の目的をもって使用するものと推認して取り扱うべきである。
(イ)被請求人及びその関係者について
a はじめに
本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」(商号変更後の商号は株式会社MARIモビリティ開発)の代表取締役であるY氏の平成29年1月までの住所は「東京都品川区北品川四丁目8番33号777」とされ(甲30の1)、「株式会社マリカー」と代表取締役を同じくする「株式会社マリカー」の関連会社である「マリカーホールディングス株式会社」の本店所在地も「東京都品川区北品川四丁目8番33号777」とされているところ(甲30の2)、当該場所と本店又は支店の所在地を同じくし、「株式会社マリカー」と事実上同一であるか、少なくとも極めて密接な関係が存在することが推認される法人等として、「有限会社ゼント」(甲30の3)、「ドライブスーパーカー株式会社」(甲30の4)、「STREET KART合同会社」(甲30の5)、「知財防衛株式会社」(甲30の6)、「品川カート有限責任事業組合」(甲30の7)、「X−Kart株式会社」(甲30の8)など多数が存在するが、これらの関係者によっても、不正競争に該当するようなドメイン名の取得、剽窃的な商標登録出願、濫用的な不使用取消審判の請求が多数行われている。参考のために、請求人が作成した被請求人及びその関係者の相互関係を示した図を提出する(甲30の9)。
以下、被請求人及びその関係者につき詳述する。
b 「株式会社マリカー」(甲30の1)について
本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」は、自ら運営するウェブサイトのタイトルを、平成28年8月時点においては「【マリカー】日本最大級レンタル公道カート&ツアー|リアルマリオカートを楽しもう!」とし、また、「選べるコスプレ」と題する項目では、「みんなでコスプレして走れば、リアルマリオカートで楽しさ倍増。」と記載していた(甲31の1:「株式会社マリカー」のウェブサイトのアーカイブ(平成28年8月12日時点))。しかし、平成29年2月10日時点においては、「株式会社マリカー」のウェブサイトにおける「リアルマリオカート」という記載が「リアルマリカー」に変更されていた(甲31の2:「株式会社マリカー」のウェブサイトのアーカイブ(平成29年2月10日時点))。このような記載の変更前後で記載の客観的な意味内容が変わらないはずであることに鑑みれば、本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」自身も「マリカー」が「マリオカート」シリーズの略称であることを認識した上で上記のような記載の変更をしたといえる。
また、平成29年1月6日時点において、Google.Incが提供する「Googleマップ」において、「リアルマリオカート」を検索すると、「株式会社マリカー」の住所(東京都品川区北品川一丁目23番15号)が表示され、「株式会社マリカー」のウェブサイト(http://maricar.jp)及び電話番号(0120−819−999)が表示されていた(甲32の1)。
「Googleマップ」において上記のように表示させるためには、「Googleプレイス」に店舗が自発的に登録手続を行う必要があることから(甲32の2)、「株式会社マリカー」は、自らの店名として「リアルマリオカート」を登録していたことは明らかであり、このことも、本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」が、「マリカー」が「マリオカート」シリーズの略称であることを認識していたことを示すものである。
また、「マリカー」という単語は、一般的な辞書には掲載されておらず(甲22の1、2)、ゲームソフトシリーズ「マリオカート」の略称として以外にはそれ自体一般的な意味を有しない単語であるところ、本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」は、本件商標を使用して、請求人商品である「マリオカート」に登場するキャラクターのコスチュームを貸し出した上、「スーパーマリオのコスプレをして乗れば、まさにリアルマリオカート状態!!」や「みんなでコスプレして走れば、リアルマリオカートで楽しさ倍増」といった宣伝文句で、「マリオカート」の世界観にフリーライドしたサービスを営んでいる(甲31の1、甲33)。
加えて、「株式会社マリカー」についての現地報告書(甲34)や「株式会社マリカー」らの行為を取り上げたテレビ番組「NEWSな二人」(甲19の3)や「TOKYOディープ!」(甲35)の内容が示すとおり、「株式会社マリカー」は、顧客に対して有償でカート、コスチュームその他の機器、物品等をレンタルする営業を行うに際して、従業員にも「マリオカート」シリーズに登場するキャラクターのコスチュームを着用させて公道カートの先導等の接客業務を行わせているほか、店舗に巨大な「マリオ」の人形を設置している。
このような「株式会社マリカー」の行為は、請求人が長年の営業努力により築き上げた「マリオカート」、「マリカー」及び「マリオ」に化体した高いブランドイメージにフリーライドすることによって、高い信用・名声・評判を有するに至った請求人の著名な商標とそれを使用してきた請求人との結びつきを弱め、「マリオカート」等の著名な商標の価値を毀損するものであり、知的財産高等裁判所の判決(甲15の2:第89〜99頁)においても、標章「マリカー」を使用する「株式会社マリカー」の行為は、不正競争行為に該当するものと判断されている。
また、「株式会社マリカー」の営業において事故が相次いでいることや、事故実態に関して国土交通省が調査を行うことが報道されている。
例えば、請求人による「株式会社マリカー」への訴訟提起後に「株式会社マリカー」のサービスの利用者が起こした事故として公に報道されたもののごく一部として、平成29年4月12日に東京都港区で韓国人女性が運転するレンタルカートが駐車中の乗用車に追突した事故(甲36の1〜3)や、同月28日に東京都港区でアメリカ人男性が運転するレンタルカートが車線変更時に軽トラックに接触した事故(甲36の4、5)が存在する。これらのいずれの事故についても、「株式会社マリカー」のサービス利用者は、「マリオ」等の「マリオ」シリーズに登場するキャラクターのコスチュームを着用しており、実際に、韓国人女性の上記事故については、「株式会社マリカー」のカート利用者に追突された事故の被害者が「後ろを見ても車がいないから、なんだろうなと思ったらマリオカートだった」と、請求人商品に関連付けた発言が全国ネットで報道されている(甲36の1〜3)。このように、「株式会社マリカー」のサービス利用者が起こした交通事故について、あたかも請求人が交通事故を起こした主体であるか、又は請求人若しくは請求人の商品である「マリオカート」が当該事故と何らかの関係があるかのように報道されている。また、報道機関により報じられるものの他にも、SNSにおいて、「株式会社マリカー」のサービス利用者が起こした交通事故が話題になる場合もある(甲36の6)。
また、平成29年4月頃に、「株式会社マリカー」のサービス利用者が、(a)車線を外れそうになりながら蛇行運転を行う、(b)運転中にスマートフォンで自らを撮影する、(c)「株式会社マリカー」のスタッフらしき人物や「株式会社マリカー」のサービス利用者が、赤信号での停止中にカートから降りる等して写真撮影を行う、(d)片側一車線の道路を二列縦隊で運転する、(e)ブレーキランプの切れたカートで走行する、(f)信号無視をして走行するといった危険な行為を公道上で行っている事実もテレビ報道や週刊誌において報道されている(甲37の1:平成29年5月10日放送の「情報プレゼンターとくダネ!!」の動画(4分23秒以降)、甲37の2:(株)講談社発行のフライデー平成29年4月28日号)。
以上のように、請求人による「株式会社マリカー」への訴訟提起後においても、「株式会社マリカー」のサービス利用者が公道上で危険な行為を行っているのみならず、そのような危険な行為による事故も多発しており、それらの事故の実態に関して国上交通省が調査を行うことがニュースとして取り上げられている(甲38)。
そして、「株式会社マリカー」に関するこれらの報道に際して請求人標章である「マリオカート」の文字や、その略語の「マリカー」の文字などが使用されることで、あたかも請求人が交通事故を起こした主体であるか、請求人のゲームソフトシリーズである「マリオカート」が当該事故と何らかの関係があるかのように報道を見聞きした人に思われることで、請求人が築き上げた請求人標章に化体した高いブランドイメージが現に毀損されている。
c Y氏について
Y氏は本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」(甲30の1)や「品川カート有限責任事業組合」(甲30の7)の代表者である。
ここで、「株式会社マリカー」は、もともとは小規模な会社であったと認められる上、Y氏が「株式会社マリカー」の設立当初から現在まで「株式会社マリカー」の唯一の取締役兼代表取締役であったことも踏まえると、Y氏は、「株式会社マリカー」の商号の決定、本件商標に係る権利の取得、「株式会社マリカー」での「マリオカート」の世界観にフリーライドしたサービスの提供における「マリオカート」や「マリカー」といった標章の使用といった重要な事項に関する意思決定に関与していたことは明らかである。
そして、Y氏が、テレビ番組の中で過去に「マリオカート」シリーズをプレイしていたことを自認していたこと(甲19の3)からすると、Y氏は請求人標章である「マリオカート」やその略称である「マリカー」が請求人商品を示すものとして周知であることを知悉していたことは明らかであるにもかかわらず、Y氏は自ら「マリオ」のコスチュームを着用して「株式会社マリカー」での「マリオカート」の世界観にフリーライドしたサービスの宣伝を行っていた(甲35)。
その結果、知的財産高等裁判所の判決(甲15の2:第121〜123頁)において、取締役としては、会社が不正競争行為を行わないようにする義務があるところ、Y氏はそのような義務に違反した点について、悪意又は少なくとも重過失があるものとして、会社法第429条1項に基づく責任を負うとされている。
d 「有限会社ゼント」(甲30の3)について
まず、「有限会社ゼント」は、支店所在地の一つを「東京都品川区北品川四丁目8番33号777」とするほか、その代表取締役の住所も「東京都品川区北品川四丁目8番33号」とする法人であり(甲30の3)、その代表取締役も「マリカーホールディングス株式会社」に在籍している(甲39)。
また、本件商標の出願時点での出願人であり、本件商標の出願人の名義は、本件商標の商標登録出願について商標登録の査定がなされた後になって「株式会社マリカー」に変更されたものである(甲40の1〜3)など、「株式会社マリカー」と極めて密接な関係が存在することが推測される法人である。
そして、「有限会社ゼント」は、「MARIOKART.JP」(甲41の1)、「MARIO−KART.JP」(甲41の2)など、請求人標章である「マリオカート」に関する特定商品等表示と同一又は類似のドメイン名や、「AKB−48.JP」(甲41の3)、「TOKYO−MARATHON.JP」(甲41の4)などといった他人の著名な特定商品等表示と同一又は類似のドメイン名を使用する権利に加え、「株式会社マリカー」の同業他社である「アキバカート」(甲41の5)の特定商品等表示と同一又は類似のドメイン名である「AKIBA−KART.JP」(甲41の6)を使用する権利などにつき、明らかに不正競争に該当するような取得・保有を行っている(甲41の7)。
e 「ドライブスーパーカー株式会社」(甲30の4)について
また、「ドライブスーパーカー株式会社」は、本店所在地を「東京都品川区北品川四丁目8番33号777」とし、被請求人と同じく後述のM氏を代表者とする法人だが(甲30の4)、「マリオカート」をハングルや中国語で表記したものと同一又は類似の商標を出願し、既に拒絶されている(甲42の1〜5)。また、本件商標と同様に登録第5860284号商標の商標権から分割された登録第5860284号の1の1の1の1商標及び登録第登録第5860284号の1の1の2商標の商標権者となっている(甲43の1、2)。
f 「STREET KART合同会社」(甲30の5)について
「STREET KART合同会社」も、本店所在地を「東京都品川区北品川四丁目8番33号777」とし、「ドライブスーパーカー株式会社」と同じく後述のM氏を代表者とする法人だが(甲30の5)、本件商標と同様に登録第5860284号商標の商標権から分割された登録第5860284号の1の2の2商標の商標権者となっている(甲44の1)。
さらに、「STREET KART合同会社」は、欧州連合知的財産庁に、本件商標を欧文字で表した「MariCAR」や、「MARIO」といった商標を出願していたが、既に請求人から「MARIO KART」等に基づき異議申立てを受けている(甲44の2、3)。
g 「知財防衛株式会社」(甲30の6)について
さらに、「知財防衛株式会社」も、本店所在地を「東京都品川区北品川四丁目8番33号777」とする法人だが(甲30の6)、「PokeGo」、「X−BOW」、「ミス慶應」、「ミス東大」や、請求人のゲームソフトシリーズ「マリオ」シリーズに登場するキャラクターのマークなど、他人が使用する商標と同一類似の商標を剽窃的に出願したとしか考えられないような様々な商標の出願を繰り返し行っている(甲45の1)。
例えば、商標「PokeGo」は世界的に流行した著名なゲームソフト「ポケモンGO」の略称と同一の商標であることは明らかであり、しかも「ポケモンGO」の日本国内での配信開始日と同日の平成28年7月22日に出願されている(甲45の2〜5)。
また、商標「X−BOW」は、オーストリアのKTM社が自動車に使用している商標と同一の商標であり(甲45の6、7)、「株式会社マリカー」が求人広告において「日本の数台しかないマシンも買っちゃいました!この車でのデートプランなど、サービスの幅を広げています。」と記載している自動車(甲45の8)でもあるが、「知財防衛株式会社」はこれを「自動車並びにその部品及び附属品」や「自動車の貸与」等の指定商品及び指定役務において出願している(甲45の9、10)。「ミス慶應」や「ミス東大」などは著名な大学のミスコンテストの名称と同一の商標である(甲45の11、12)。また、いずれも平成28年12月28日に出願された商願2016−147390から商願2016−147398までの9件の図形商標は、いずれも請求人のゲームソフトシリーズ「マリオ」シリーズに登場するキャラクターのマークと酷似するものである(甲45の13〜24)。
さらに、「任天堂は無関係」が請求人である任天堂株式会社に関係するものであることは明らかである(甲45の25、26)。
このように、「知財防衛株式会社」は他人の商標について剽窃的な出願を繰り返している。
これに加えて、「知財防衛株式会社」のホームページのアーカイブ(甲45の27)によると、「知財防衛株式会社」は不使用取消審判を請求することを「知財解放運動」と称し、他人に対して不使用取消審判を請求しつつ、月額10万円の会費を支払った会員の商標登録には不使用取消審判を請求しないと謳って会費を募っていた。事実、「知財防衛株式会社」名義で、株式会社コナミデジタルエンタテインメントのゲームソフトシリーズに関する登録商標である「桃鉄/モモテツ」(登録第4811454号)に対し、平成28年10月26日付で不使用取消審判(取消2016−300753)等3件を請求し(甲45の28)、同日に「桃鉄」(商願2016−124698)等4件を出願していた(甲45の1)。
h M氏について
また、M氏は被請求人の代表者でもあるが、「知財防衛株式会社」の本店所在地と同じ「東京都品川区北品川四丁目8番33号777」を住所とするM氏により、「マリオカート」を含む請求人の登録商標に対しても、30件以上もの不使用取消審判の請求が行われている(甲46)。
(ウ)本件商標が不正の目的をもって使用するものであることについて
以上のとおり、本件商標を構成する片仮名「マリカー」が、請求人標章である「マリオカート」の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において我が国の一般の需要者の間に広く認識されていたものと同一であること、本件商標の前の権利者やその代表者自身も本件商標が請求人標章の略称であることを認識し、それに便乗していたと推認されること、本件商標の「マリカー」という文字構成は、一般的な辞書には掲載されておらず、ましてや本件商標の各指定役務において一般的に使用されるような言葉ではないことから請求人標章の略称として以外に商標として採択する理由がなく、現に本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」が本件商標を使用して「マリオカート」の世界観にフリーライドした営業を行っており、かかる「株式会社マリカー」の行為によって、請求人が築き上げた「マリオカート」、「マリオ」及び「マリカー」に化体した高いブランドイメージが毀損されていること、更には所在地を同じくするなど、本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」と事実上同一であるか、少なくとも極めて密接な関係が存在することが強く推認される法人等により、請求人をはじめとする他社が使用する商標と同一又は類似の商標を剽窃的に出願したとしか考えられない商標が多数出願されたり、濫用的な不使用取消審判の請求がなされたり、不正競争に該当するようなドメイン名の取得及び保有が行われたりしており、その中には請求人標章をはじめとした請求人の知的財産に関するものも多数含まれていること、以上の事実を総合考慮すると、本件商標は、著名な請求人標章の略称として一般の需要者の間に広く認識されていた略称である「マリカー」と同一の商標を独自に選択して出願したものとは考えられず、むしろ、本件商標の出願日の時点においても、請求人標章の略称である「マリカー」の著名性を知りつつ、これが正当な権利者というべき請求人によって商標登録出願及び商標登録されていないことを奇貨として、「マリカー」の著名性に乗じて不正の利益を得る目的又は請求人に損害を加える目的その他の不正の目的で剰窃的に出願したというべきものである。
エ 小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(7)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて
上記(6)に記載の通り、本件商標を構成する片仮名「マリカー」が、請求人標章である「マリオカート」の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において我が国の一般の需要者の間に広く認識されていたものと同一であること、本件商標の前の権利者やその代表者自身も本件商標が請求人標章の略称であることを認識し、それに便乗していたと推認されること、本件商標の「マリカー」という文字構成は、一般的な辞書には掲載されておらず、ましてや本件商標の各指定役務において一般的に使用されるような言葉ではないことから請求人標章の略称として以外に商標として採択する理由がなく、現に本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」が本件商標を使用して「マリオカート」の世界観にフリーライドした営業を行っており、かかる「株式会社マリカー」の行為によって、請求人が築き上げた「マリオカート」、「マリオ」及び「マリカー」に化体した高いブランドイメージが毀損されていること、更には所在地を同じくするなど、本件商標の前の権利者である「株式会社マリカー」と事実上同一であるか、少なくとも極めて密接な関係が存在することが強く推認される法人等により、請求人をはじめとする他社が使用する商標と同一又は類似の商標を剰窃的に出願したとしか考えられない商標が多数出願されたり、濫用的な不使用取消審判の請求がなされたり、不正競争に該当するようなドメイン名の取得及び保有が行われたりしており、その中には請求人標章をはじめとした請求人の知的財産に関するものも多数含まれていること、以上の事実を総合考慮すると、本件商標は、独自に選択して出願した商標が偶然に著名な請求人標章の略称として一般の需要者の間に広く認識されていた略称である「マリカー」と同一のものとなったとは考え難い。
むしろ、本件商標の出願日の時点においても、請求人標章の略称である「マリカー」の著名性を知りつつ、これが正当な権利者というべき請求人によって商標登録出願及び商標登録されていないことを奇貨として、「マリカー」の著名性に乗じて不正の利益を得る目的又は請求人に損害を加える目的その他の不正の目的で剰窃的に出願し、無断で「マリカー」の語を商標権によって永久に独占する目的で本件商標の登録を得たと推認される。
このような著名な名称・標章と何らの関係を有しない者が、これを自己の商標として採択・使用することは、その名称・標章に化体した名声や信用に故なく便乗するものといわざるを得ない。
かかる本件商標の権利者の商標出願行為は社会的妥当性を欠くものであり、商標登録出願について先願主義を採用している我が国の法制度を前提としても、健全な法感清に照らし条理上許されないものというべきである。
また、かかる商標を登録することは、指定役務について被請求人にその独占的使用を認めることとなり、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義にも反するものといわざるを得ず、本件商標は公序良俗を害するおそれがある商標に該当するというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(8)結論
以上より、本件商標は商標法第4条1項第7号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項の規定によりその登録は無効とすべきである。
よって、請求人は、請求の趣旨のとおりの審決を求める。

第4 被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張に対し、何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 本件審判の請求の利益について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、被請求人は何ら争っておらず、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下、本案に入って審理する。
2 請求人標章「マリオカート」及びその略称「マリカー」の周知性について
(1)請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 請求人が開発・販売しているゲームソフトウェア「マリオカート」シリーズについて
請求人は、ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターとしてギネス・ワールド・レコーズに発表されたキャラクター「マリオ」が登場するゲームソフトのシリーズを開発・販売している(甲4)。
「マリオカート」は、「マリオ」を始めとして、請求人が生み出した様々なキャラクターがレースを繰り広げるレーシングゲームソフトのシリーズであり、請求人は、平成4年8月27日に発売されたスーパーファミコン用ソフト「スーパーマリオカート」を第1作目として、「マリオカート64(発売:平成8年12月14日)」、「マリオカートアドバンス」(発売:平成13年7月21日)、「マリオカートダブルダッシュ!!(発売:平成15年11月7日)」、「マリオカートDS(発売:平成17年12月8日)」、「マリオカートWii(発売:平成20年4月10日)」、「マリオカート7(発売:平成23年12月1日)」、「マリオカート8」(発売:平成26年5月29日)及び「マリオカート8デラックス」(発売:平成29年4月28日)」まで、9本の「マリオカート」シリーズのレーシングゲームソフトウェアを開発販売している(甲6の1〜9)。
このうち、コンピュータエンターテインメント協会発刊の「CESAゲーム白書」の2015年版(甲8の1)によれば、平成26年12月31日の時点で、最初のタイトルである「スーパーマリオカート」(甲6の1:平成4年8月27日)は、国内出荷本数382万本、世界累計出荷本数876万本を記録している。また、NINTENDO64用ソフト「マリオカート64」(甲6の2:平成8年12月14日発売)は、国内出荷本数224万本、世界累計出荷本数987万本を記録している。さらに、Wii用の「マリオカートWii」(甲6の6:平成20年4月10日発売)の販売本数は、国内出荷本数383万本、世界累計出荷本数3526万本を記録しており、同タイトルは、世界における歴代ミリオン出荷タイトルの3位にランクインしている。そして、本件商標の出願前の時点での最新作である、Wii U用ソフト「マリオカート8」(甲6の9:平成26年5月29日発売)は、平成26年12月31日の時点で国内出荷本数103万本、世界累計出荷本数477万本を記録している。「マリオカート」シリーズの全世界での累計販売本数は平成26年12月31日の時点で1億本を超えており、2015年版のGUINNESS WORLD RECORDS GAMER’S EDITIONでも「マリオカート」シリーズを2頁にわたって紹介した上で「史上最も売れたカートレーシングシリーズ」(best−selling kart−racing series)と記録している(甲8の2)。
加えて、「マリオカート」シリーズの各ゲームソフトは、その発売前から発売後約2、3ヵ月の時期で、国内のゲーム雑誌の人気ランキングにおいて上位にランクされていた(甲9〜甲10)。
また、「マリオカート」シリーズの各ゲームソフトは、ゲーム雑誌のみならず一般雑誌である「monoマガジン」((株)ワールドフォトプレス発行)2011年12月2日号(甲12の1)及び2014年6月2日号(甲12の2)でも「お待たせ!ニンテンドー3DSの大本命タイトル『マリオカート7』が、ついに発売される。」及び「誰もが一度はプレイしたことがある『マリオカート』シリーズの8作目が、Wii Uで発売される。」と記載されている。
さらに「マリオカート」シリーズの各ゲームソフトは、コンピュータエンターテインメント協会が主催する日本ゲーム大賞において、「マリオカートWii」が、日本ゲーム大賞2009(平成21年)の年間作品部門において大賞を受賞しているほか(甲13の1)、「マリオカートDS」が日本ゲーム大賞2006(平成18年)の年間作品部門優秀賞(甲13の2)、「マリオカート7」が日本ゲーム大賞2012(平成24年)の年間作品部門優秀賞(甲13の3)、そして、「マリオカート8」が日本ゲーム大賞2015(平成27年)の年間作品部門優秀賞を受賞している(甲13の4)。
イ 請求人標章に関する商品化事業等について
請求人が開発・販売している「マリオカート」シリーズは、国内の大企業を含む多数の企業との間で、「マリオカート」シリーズに関する多岐に渡るライセンス商品やコラボレーション企画を展開している(甲14)。
また、請求人による防護標章登録出願(商願2017−005651号)につき、登録商標「マリオカート\MARIO KART」(登録第4880591号の2)の防護標章として防護標章登録が認められた(甲15の1)。
ウ 「マリカー」について
(ア)複合語の各要素の語頭から二拍ずつを採る略称のパターンについて
複合語の各要素の語頭から二拍ずつを採るパターンは、広範囲にあるところ(甲16の1〜甲16の4)、ゲーム機やゲームソフトの分野における複合語についても、例えば、「プレイステーション」が「プレステ」、「ドラゴンクエスト」が「ドラクエ」、「モンスターハンター」が「モンハン」、「ポケットモンスター」が「ポケモン」等(甲16の5〜甲16の22)のように、しばしば各要素の語頭から二拍ずつを採るパターンで略称され、その略称がゲーム機やゲームソフトのシリーズ名と同義なものとして使用されている。
(イ)ゲーム雑誌における「マリカー」の記載例
ゲーム雑誌では請求人標章である「マリオカート」の略称として「マリカー」と記載されている(甲17)。
(ウ)ゲームとは関連性のないメディアでの「マリカー」の使用例
平成28年6月から同29年2月にかけて放送された全国ネットのテレビ番組において、「マリカー」が「マリオカート」の略称として使用されているだけではなく、知名度の高い芸能人や主要地上波テレビ局に在籍する複数のアナウンサーなどから「マリカー」が「マリオカート」の略称として広く知れ渡っている旨の発言がなされている(甲19)。
さらに、「マリオカート」を何らの注釈もなしに「マリカー」と表記する例は、一般の読者を対象とし、ゲームとは関連性のない著名な漫画作品や平成25年4月から同年6月にかけて全国放送されたテレビアニメなどにも見られる(甲20)。
(エ)一般需要者によるSNS等における「マリカー」の使用例
また、多くの一般需要者によるSNS等における情報発信においても、本件商標の登録出願前から「マリカー」の語が請求人標章の略称として広く使用されている(甲21)。
(2)上記(1)によれば、請求人標章である「マリオカート」の文字は、請求人の製造、販売に係るゲームソフトである請求人商品を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、ゲームの需要者のみならず、我が国の一般の需要者の間に広く知られていたものと認められる。
また、「マリカー」の文字は、請求人が請求人標章の略称として使用していたとはいい難いものの、本件商標の登録出願時には、請求人のレーシングゲームシリーズであるゲームソフト「マリオカート」を表すものとして、我が国の一般の需要者の間において、広く認識されていたものといえ、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
そうすると、「マリカー」の文字は、請求人商品及び請求人標章の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、ゲームに関連した分野においてはもとより、我が国の一般の需要者の間に広く認識されるに至っていたというのが相当である。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)請求人標章及び「マリカー」の周知性について
上記2(2)のとおり、請求人標章は、請求人商品を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の一般の需要者の間に広く認識されていると認められるものであり、また、「マリカー」の文字についても、請求人商品及び請求人標章の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において我が国の一般の需要者の間に広く認識されていたと認められるものである。
(2)請求人標章及び「マリカー」の独創性
請求人標章である「マリオカート」の文字は、辞書等に掲載されていないものであり、いわゆる造語であって、その独創性は高いものであり、その略称である「マリカー」の文字も辞書等に掲載のない造語であって、独創性が高いといえるものである。
(3)本件商標と請求人標章との類似性について
本件商標は「マリカー」の文字よりなるものであり、請求人標章は「マリオカート」の文字からなるところ、外観においては、本件商標は、語頭の「マリ」の文字を請求人標章の前半部の「マリオ」の文字と2文字を共通にし、後半の「カー」の文字も請求人標章の後半部の「カート」の文字と長音を含め2文字を共通にしており、本件商標は、請求人標章と前半及び後半のそれぞれに類似している点があることから、外観上、一定程度の類似性を有するものといえ、近似した印象を与えるといい得るものである。
また、称呼においては、本件商標からは「マリカー」の称呼を生じ、請求人標章からは、「マリオカート」の称呼を生じるところ、両者は、印象に残りやすい語頭の「マリ」の音及び後半において「カー」の音を共通にしていることから、一定程度類似するといえるものである。
さらに、観念においては、請求人標章は、レーシングゲームシリーズを表すものとして、広く認識されており、当該ゲームシリーズである「マリオカート」の観念を生じ、「マリカー」の文字はその略称として広く認識されていることから、「マリカー」の文字からなる本件商標からも同じ観念が生じるといえる。
そうすると、本件商標と請求人標章とは、外観において、近似した印象を与えるといい得るものであり、また、称呼においても一定程度類似し、同一の観念を生じるものであることからすれば、その類似性の程度は高いものである。
(4)本件商標の指定役務と請求人標章に係る請求人商品との関連性及び需要者の共通性について
本件商標の指定役務は、前記第1に記載のとおり、第35類「船体・機体・車体を利用した広告,インターネットによる広告,広告宣伝物の企画及び制作,広告のための商品展示会・商品見本市の企画又は運営,広告業,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,求人情報の提供,商業用・販売促進用及び広告用のイベント・展示会・見本市及びショーの企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供但し、船体・機体を利用した広告,インターネットによる広告,広告宣伝物の企画及び制作,広告のための商品展示会・商品見本市の企画又は運営,広告業,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,求人情報の提供,商業用・販売促進用及び広告用のイベント・展示会・見本市及びショーの企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供を除く但し、フロントカウル及びフロントフェアリング及びサイドポンツーンを備え、かつ高さが750mm以下かつ乗車定員が1名の4輪乗用自動車(またがり式座席、又はバーハンドル、又はヘッドレスト、又はフェンダーを備えるものを除く)の車体を利用した広告を除く」であるところ、上記指定役務は、いわゆる公道で走行可能なカートの対象となる車両を示す「フロントカウル及びフロントフェアリング及びサイドポンツーンを備え、かつ高さが750mm以下で、かつ乗車定員が1名の、4輪乗用自動車(またがり式座席、又はバーハンドル、又はヘッドレスト、又はフェンダーを備えるものを除く)」(以下「4輪乗用自動車」という。)以外の車体を利用した広告である。
そして、上記本件商標の指定役務と請求人商品であるレーシングゲームソフトとは、その提供者及び流通経路を共通にするとはいい難いものの、請求人は、請求人商品について、自動車関連、自動車が走行する高速道路を含め様々な業界において、コラボレーション等をしていることからすれば、請求人商品がコラボレーション等を行っている分野における役務の提供者等においては、関連性が一定程度あるものといえる。また、本件商標の指定役務の需要者には一般消費者も含まれ得るといえ、請求人商品のようなゲームソフトの需要者は男女を問わず子供から大人まで広く一般消費者といえることからすれば、本件商標の指定役務と請求人商品とは、需要者において共通性を有するものというべきである。
(5)出所の混同
上記(1)のとおり、請求人標章は、請求人商品を表すものとして我が国の一般の需要者の間において広く知られており、また、「マリカー」の文字も請求人商品及び請求人標章の略称を表示するものとして我が国の一般の需要者の間において広く知られていると認められるものである。そして、請求人標章及びその略称「マリカー」の文字は造語であるからその独創性は高く、また、本件商標と請求人標章との類似性の程度は高いものであり、さらに、本件商標の指定役務と請求人商品との関連性は一定程度あり、需要者においても共通性を有するといえるものである。
そうすると、本件商標をその指定役務に使用した場合に、これに接する需要者が請求人商品を表示する「マリオカート」ないしは請求人を連想、想起し、請求人又は請求人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれがある商標というべきものである。
(6)小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、その登録は、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
なお、請求人は、本件商標が、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号にも該当する旨主張しているが、提出された証拠によっては、本件商標が上記条項に該当すると認めることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
審理終結日 2022-01-25 
結審通知日 2022-01-28 
審決日 2022-02-15 
出願番号 2015045116 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (W35)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 岩崎 安子
特許庁審判官 板谷 玲子
森山 啓
登録日 2016-06-24 
登録番号 5860284 
商標の称呼 マリカー 

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