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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X25 |
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管理番号 | 1390687 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2020-06-01 |
確定日 | 2022-10-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5392941号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求中、商標法第4条第1項第15号を理由とする請求は却下する。その余の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5392941号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成20年4月12日に登録出願、第25類「Tシャツ,帽子」を指定商品として、同23年1月11日に登録査定がされ、同年2月25日に設定登録されたものであり、その後、本件商標の商標権は、令和2年9月29日に放棄による本商標権の登録の抹消の申請がされ、その登録の抹消がされているものである。 第2 引用商標 請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第4637003号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおりの構成よりなり、平成14年4月24日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同15年1月17日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 第3 請求人の主張 請求人は、本件商標の指定商品中、「沖縄の観光土産用又は沖縄をイメージしたTシャツ,その他のTシャツ,沖縄の観光土産用又は沖縄をイメージした帽子,その他の帽子」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第102号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 本件審判請求に至る背景 被請求人と請求人との間では、本件商標に描かれた、四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面からみた姿でシルエット風に描かれた図形(以下「動物図形」という。)に関連して、これまでに何度となく、異議・審判、取消訴訟を繰り返してきた。 (1)知財高裁の確定判決(引用商標の周知著名性、混同のおそれ) 被請求人が平成20年4月12日に出願した、本件商標構成中の動物図形からなる標章(登録第5392944号商標、指定商品は本件商標と同じ。甲66)と、引用商標(甲2)(審決注:甲第2号証として提出された登録商標は、前記第2の登録商標のほか、これと態様を同じくする登録商標6件がある。)との関係で商標法第4条第1項第15号の該当性が争われた審決取消請求訴訟(知財高裁平成29年(行ケ)第10207号審決取消請求事件)において、平成31年3月26日、知的財産高等裁判所は、同号違反により当該標章の登録は無効との判決を言い渡し(甲62)、被請求人がこれを承服したため、その後、無効審決(無効2016−890015号審決、甲63)が確定し、令和元年9月2日に商標登録第5392944号は遡及消滅した。 上記の無効取消された商標と、本件商標構成中の動物図形とは同一である。 (2)本件商標の動物図形の制作における被請求人の自白 被請求人は、本件商標の動物図形の外郭線、首の周り飾りのような模様、花柄のような細かい模様に差異を有する態様からなる標章(登録第5040036号商標。以下「別件商標」という。)が登録された直後の無効審判事件(無効2007−890127)において、被請求人は当該商標の制作の経緯を述べ、本件商標は「世界的に有名な『プーマ』等の動物をモチーフにしたデザインを参考にして」制作されたものであり、動物図形について、「プーマ風なデザイン」であることを自白している(甲40、甲41)(以下、審判請求書の9ページの図<3>ないし図<8>(審決注:<3>及び<8>は、○の中に3及び8の数字。)(別掲3)に描かれた動物図形を個別又は総称して「被請求人標章」という。)。 そして、被請求人標章は「シーサー」を表現したものとは認識されず(甲6、甲91〜甲95)、その一方で、当該動物図形のポーズ(とりわけ、後足から、胴体、前足、頭にかけてのライン)や各部位と全体のバランス、指先の向きにおいてまで、引用商標と寸分違わない。 被請求人標章が「シーサー」でないとすれば、引用商標と偶然に一致したものとは考え難く、被請求人は引用商標を参考に被請求人標章を制作したことを自認しているのであるから、結局のところ、引用商標をそっくりそのまま模倣し、そのイメージを残しつつ、シーサー風なアレンジを一部に施して制作されたものといわざるを得ない。 (3)被請求人標章に関連する数々の商標登録出願 被請求人標章に関連する商標について、被請求人は、平成15年から平成20年にかけて、10件以上も出願した。 被請求人は、横長の略長方形の枠の中にはめ込まれたような、太文字のゴシック体により書された文字の右上方に被請求人標章を配置した態様の商標を複数出願し、あたかも、被請求人標章は当該文字と一体不可分なものとして制作したかのように見受ける。 しかしながら、被請求人は、本件商標構成中の文字部分を独自の出所標識と捉えて、商標登録を願い出て(甲65)、さらには動物図形(被請求人標章)についても当該図形単独で商標登録を願い出た(甲61、甲66)(別掲4)ことからすると、被請求人の意図するところ、本件商標の文字部分と動物図形とは一体不可分ではなく、各々分離抽出されるものと解される。 (4)被請求人標章を強調した使用 被請求人は、2007年当時だけでなく、引用商標と混同のおそれがあるとして被請求人標章に係る登録商標(甲61、甲66)の登録無効が令和元年9月に確定した後も、被請求人標章をひときわ目立つ態様で表示したTシャツを販売している(甲55の1、甲67〜甲73)。 これらはいずれも、被請求人が現に有する登録商標と比べ、文字部分よりも被請求人標章がひときわ大きく、又は、単独で描かれており、明らかに登録された態様とは異なる。 このように、被請求人は、使用開始当初から、文字部分ではなく、動物図形を本件商標の要部と捉え、動物図形部分をより強調し、需要者に引用商標を想起させ、引用商標に化体した業務上の信用(顧客吸引力)に便乗することで、本件商標を付した商品の売上拡大を狙っていることが推測される。 現に、被請求人は、「Jumping SHI−SA」の文字が表示されていないTシャツ(甲69)について、「Jumping SHI−SA」を被請求人標章の呼称として用いており(甲67、甲68)、当該事情からも、動物図形を要部と捉える被請求人の意図がうかがえる。 (5)被請求人の「不正の目的」 別件商標に対する登録取消決定取消請求事件(平成21年(行ケ)第10494号)(審決注:平成21年(行ケ)第10404号の誤記と認める。)(甲3)において、知財高裁は、当該商標の使用につき、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」があったとはいえないというべきであると認定した。 しかしながら、上記裁判においては、前記(2)及び(4)に挙げた事実(甲41、甲67〜甲73)、有名・人気ブランドを沖縄のイメージにアレンジした商品を販売する店において被請求人も被請求人標章を付したTシャツを販売している事情、アダルトグッズ(コンドーム)に被請求人標章を表示して販売し、引用商標のブランドイメージを著しく毀損している事情(甲74〜甲76)等が考慮されていないため、本件審判を拘束するものではない。 また、被請求人標章に係る商標が、引用商標の著名性に不正に便乗したPUMAパロディ商標の他者による出願(甲14〜甲17、甲77、甲78)を誘発し、著名な引用商標の毀損、希釈化を招いた可能性も考えられる。 2 商標法第4条第1項第15号により無効とすべき理由 (1)利害関係 請求人は、本件商標の出願時及び登録時前より有効に存続し、我が国の取引者、需要者の間で周知・著名な引用商標の権利者である(甲39)。 したがって、本件審判請求について利害関係を有する。 (2)商標法第4条第1項第15号 本件審判においては、たとえ、文字部分の相違により、商標全体として、外観、称呼及び観念において引用商標と差異があるとしても、動物図形に高い類似性が認められ、あるいは、引用商標のデザインの一部を変更してなるものとの印象を与えるものであれば、引用商標の周知著名性とあいまって、これに接する取引者、需要者は、本件商標の構成中の動物図形部分に着目し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがある、と判断されて然るべきである(甲28、甲39、甲54、甲61、甲82〜87)。 ア 本件商標について 本件商標は、「SHI−SA」の文字が横書きでやや大きく表示され、その右上方に、四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面からみた姿でシルエット風に描かれた動物図形を配し、「SHI−SA」の文字の下に2段にわたって「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI−DOg」という文字が、比較的小さく表記されている。本件商標の動物図形について仔細にみてみると以下の(ア)から(ウ)のとおりである。 (ア)外観 本件商標は、二つの耳がある頭部を有し、頭部と前足の間に間隔がなく、一部が丸まった大きな尻尾を有する四足動物が、右から左に向かって、跳び上がるように、頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で、前足と後足を前後に大きく開いている様子を、側面から見た姿でシルエット風に描いた図形である。この図形の内側には、概ね輪郭線に沿って、白い線が配されているほか、口の辺りに歯のような模様、首の周りに飾りのようなギザギザの模様、前足と後足の関節部分や尻尾にも飾り又は巻き毛のような模様が白い線で描かれており、花柄のような細かい模様が全体に描かれている。尻尾は、全体として丸みを帯びた形状で、先端が尖っている。 (イ)観念 本件商標から、四足動物を想起し得るが、直ちに特定の動物を想起し得るものではなく、何らかの四足動物という観念は生じるものの、それ以上に特定された観念は生じない。 (ウ)称呼 本件商標から、四足動物を想起し得るが、直ちに特定の動物を想起し得るものではなく、特定の称呼は生じない。 イ 引用商標について 請求人が証拠として提出する引用商標は、請求人が所有し、本件商標の出願時及び登録時において有効に存続している。 (ア)外観 引用商標は、二つの耳がある頭部を有し、頭部と前足の間に間隔があり、全体に細く、先端が若干丸みを帯びた形状となった、右上方に高くしなるように伸びた尻尾を有する四足動物が、右から左に向かって、跳び上がるように、頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で、前足と後足を前後に大きく開いている様子を、側面から見た姿で黒いシルエットとして描いた図形である。 (イ)観念 請求人は、引用商標の登録(平成15年1月17日)以前から、Tシャツに引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲8の1)、帽子を掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きしてその内部に横線を配した図形を記載したり(甲8の3・5)、Tシャツを掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きにした図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲8の4)などしており、その登録後も、スポーツウェアや帽子に引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲9の1・3・4、甲31の1・3・4、甲32の1・3・4)、それらの雑誌の広告には引用商標と同様の形の図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲9の1・4、甲31の1・3・4、甲32の1・3・4)などしている。これにより、引用商標は、本件商標の登録出願時(平成20年4月12日)及び登録査定時(平成23年1月12日)(審決注:「平成23年1月11日」の誤記と認める。)において、請求人の業務に係る「PUMA」ブランドのスポーツウェア、スポーツシューズ、被服、帽子、バッグ等を表示する商標の一つとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていた。 したがって、引用商標からは「PUMA」ブランドの観念が生じる。 (ウ)称呼 引用商標からは、「プーマ」の称呼が生じる。 ウ 引用商標の周知著名性及び独創性 引用商標は、我が国において、遅くとも1972年から今日に至るまで、幅広い商品に使用され、大々的に宣伝広告されてきたものであり、その結果、請求人の業務に係る「PUMA」ブランドのスポーツウェア、スポーツシューズ、被服、帽子、バッグ等を表示する商標として、本件商標の出願時及び登録時に、我が国の取引者・需要者の間で周知著名性を獲得しており、さらに、引用商標の構成態様が独創的であることは、議論の余地はなく、本件審判において顕著かつ公知の事実といえる。 エ 本件商標と引用商標との類似性 過去の審決取消請求事件(甲57、甲58、甲62)における判断を踏まえ、本件商標の動物図形と引用商標とを対比する。 (ア)外観 本件商標の動物図形と引用商標は、二つの耳がある頭部を有する四足動物が、右から左に向かって、跳び上がるように、頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で、前足と後足を前後に大きく開いている様子を、側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。そして、両図形は、その向きや基本的姿勢のほか、跳躍の角度、前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度、胸・背中から足にかけての曲線の描き方について、極めて似通った印象を与える。 他方、差異点として、本件商標の動物図形は、引用商標の図形の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれており、頭部と前足の間に間隔がなく、前足と後足が比較的太く、尻尾が大きく、口の辺りに歯のような模様が白い線で描かれ、首の回り飾りのようなギザギザの模様が、前足と後足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模様が、白い線で描かれ、尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており、飾り又は巻き毛のような模様が白い線で描かれているほか、概ね輪郭線に沿って白い線が配されて、また、この図形の内側には、白い線で、花柄のような細かい模様が全体に描かれている。これに対し、引用商標の図形の動物は、本件商標の図形の動物に比べて頭部が比較的小さく描かれており、頭部と前足の間に間隔があり、尻尾は全体に細く、右上方に高くしなるように伸び、その先端が若干丸みを帯びた形状となっており、図形の内側に模様のようなものは描かれず、全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされている。 (イ)観念 本件商標からは、何らかの四足動物という観念が生じるのに対し、引用商標からは、「PUMA」ブランドの観念が生じる。 (ウ)称呼 本件商標からは、特定の称呼は生じないが、引用商標からは、「プーマ」の称呼が生じる。 (エ)検討 本件商標と引用商標は、そのシルエット、内部に白線による模様があるかなどにおいて差異はあるものの、全体のシルエットは酷似しており、本件商標の動物図形において、内部の白い線の歯のような模様、首の回りの飾り又は巻き毛のような模様、前足と後足の関節部分の飾りのようなギザギザの模様がシルエット全体に占める面積は、比較的小さく、細い白い線の花柄のような細かい模様は、それほど目立たない。したがって、本件商標と引用商標の外観全体の印象は、非常に似通っている。 また、本件商標からは何らかの四足動物の観念が生じ、特定の称呼は生じないが、引用商標からは、「PUMA」ブランドの観念と「プーマ」の称呼が生じる点で異なっているところ、本件商標から何らかの四足動物以上に特定された観念や、特定の称呼が生じ、それが引用商標の観念、称呼と類似していない場合と比較して、その違いがより明確ではない。 このように、本件商標の動物図形は、引用商標を特徴づける基本的構成と共通しており、当該構成から生じる共通の印象から、全体として時と処を別にして離隔的に観察した場合、構成の軌を一にするものであって、看者に外観上酷似した印象を与える。 審決例及び商標審査基準に照らし、たとえ、文字部分の相違により、商標全体として、外観、称呼及び観念において引用商標と差異があるとしても、動物図形に高い類似性が認められ、あるいは、引用商標のデザインの一部を変更してなるものとの印象を与えるものであれば、引用商標の周知著名性とあいまって、これに接する取引者、需要者は、本件商標の構成中の動物図形部分に着目し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがある、と判断されて然るべきである。 そして、本件商標構成中の文字部分は、「沖縄由来の魔除け獅子、シーサー」の意味合いが生じ、当該商品が沖縄由来であることを需要者に印象付ける機能を有するにすぎず、沖縄土産品との関係において特定の者の自他商品識別機能を発揮し得ないことからすると、本件商標の構成中の動物図形部分を抽出して、引用商標との類否を判断することは許される。 また、その他の指定商品「Tシャツ,帽子」との関係においても、商標全体として、当該文字部分の相違により、外観、称呼及び観念に引用商標と差異があるとしても、動物図形に高い類似性が認められ、引用商標のデザインの一部を変更してなるものとの印象を与えることから、これに接する取引者、需要者は、引用商標の周知著名性ともあいまって、本件商標の構成中の動物図形部分に着目する、と判断されて然るべきである。 オ 本件商品との関連性の程度 本件商標は、「Tシャツ,帽子」を指定商品とするところ、「PUMA」ブランドの商品としても、Tシャツ、帽子が存在し、引用商標と同様の形の図形を付した商品も存在していたのであるから、本件商標の指定商品は、請求人の業務に係る商品と、その性質、用途、目的において関連するということができ、取引者、需要者にも共通性が認められる。 さらに、本件商標の指定商品である「Tシャツ,帽子」は、一般消費者によって購入される商品である。 カ 取引の実情 本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品とは、商品の選択・購入に際して払う注意力が高いとはいえない一般消費者を需要者とする点でも共通する(甲57)。 また、衣類や帽子等では、商標をワンポイントマークとして小さく表示する場合も少なくなく(甲57)、請求人もそのように使用している(甲8、甲9、甲19、甲21、甲30〜35)。ワンポイントマークとして使用された場合などに、全体的な配置や印象において引用商標と高い類似性が認められる本件商標は、引用商標とより類似して認識されるとみるのが相当である。 さらに、本件商標構成中の文字部分からは、「沖縄由来の魔除け獅子、シーサー」の意味合いが生じるが、沖縄土産品に描かれた、又は、沖縄をイメージした商品における「シーサー」を想起させる文字や図形は、当該商品が沖縄由来であることを需要者に印象付けるにすぎず、沖縄土産品との関係において特定の者の自他商品識別機能を発揮し得ないことが、取引の実情から認められる。 キ 混同を生ずるおそれ 本件商標の指定商品たるTシャツ、帽子の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、本件商標を指定商品に使用したときに、本件商標は、全体としては、外観、称呼及び観念において引用商標と差異があるものの、引用商標が1949年より、請求人のブランドとして使用され、その業務に係る「PUMA」ブランドのスポーツウェア、スポーツシューズ、被服、帽子、バッグ等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知著名なものであること、本件商標の動物図形が引用商標と高い類似性を示すものであること(甲62)、引用商標が高い独創性を有すること(甲17)、本件商標の指定商品が引用商標の使用商品と同一であるから取引場所を共通にし、その性質・用途・目的において関連し、商品の取引者及び需要者を共通にすることを総合的に考慮すれば、本件商標を被請求人がその指定商品において使用した場合、本件商標中の動物図形が取引者、需要者に強い印象を与え、請求人の業務に係る引用商標を連想又は想起させ、当該商品が請求人又は請求人と一定の緊密な営業上の関係若しくは請求人と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると認められる。 したがって、本件商標には、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」がある。 (3)除斥期間の適用除外(不正の目的) 本件審判の請求は、本件商標の設定登録日(平成18年10月6日)(審決注:平成23年2月25日の誤記と認める。)(甲1)から5年以上経過している。 しかしながら、本件商標は、引用商標に化体した顧客吸引力に便乗し、毀損する不正の目的で制作、出願されたものであることから、本件審判請求について除斥期間は適用されない。 ア 被請求人標章の制作に関する被請求人の証言 被請求人は、平成19年9月12日付け「商標登録第5040036号について(1)」(審決注:(1)は、○の中に1の文字。)と題する書面(甲41)において、本件商標、及びその構成中の動物図形(被請求人標章)の制作の経緯を証言しており、「世界的に有名な『プーマ』等の動物をモチーフにしたデザインを参考にして」制作されたものであり、動物図形(被請求人標章)について、「プーマ風なデザイン」であることを自白している。 被請求人標章からはモチーフにした動物が全く認識されない一方で、偶然の一致とは考え難いほどに、当該動物図形のポーズ(とりわけ、後足から、胴体、前足、頭にかけてのライン)や各部位と全体のバランス、指先の向きにおいてまで、引用商標と寸分違わないのであるから、被請求人の証言によれば、プーマのロゴを参考にしたのではなく、引用商標をそっくりそのまま模倣し、そのイメージを残しつつ、シーサー風なアレンジを一部に施して本件商標を制作した、と捉えるのが自然である。 イ 無効取消し後に被請求人標章をより強調した使用 被請求人は、2007年当時(甲55の1)だけでなく、引用商標と混同のおそれがあるとして被請求人標章(甲61、甲66)の登録無効が令和元年9月に確定した後も、被請求人標章をひときわ目立つ態様で表示したTシャツを、沖縄県内の店舗だけでなく、インターネットにおいて販売している(甲67〜甲73)。 被請求人は、使用開始当初から、動物図形を本件商標の要部と捉え、動物図形部分をより強調し、需要者に引用商標を想起させ、引用商標に化体した業務上の信用に便乗することで、本件商標を付した商品の売上拡大を狙っていることが推測される。 ウ アダルトグッズに被請求人標章を付して販売 被請求人は、被請求人標章を、Tシャツ(甲18、甲23の2・3・6・8・9)やタンクトップ(甲18、甲23の1)、タオル(甲4)、バッグ(甲23の1・5・7)といった、請求人の「PUMA」ブランドとして存在する商品の範ちゅうに使用しているだけでなく、被請求人の沖縄県内の店舗(甲20)及びインターネット(甲18)において、コンドームに被請求人標章を表示して販売しており、被請求人標章を付したTシャツと陳列してもいる(甲76)。 コンドームはアダルトグッズ(性風俗用品)として販売されるものでもあり、「PUMA」ブランドとして存在する商品の範ちゅうにはなく、商品パッケージに被請求人標章が低俗なメッセージとともに表示されていることから、スポーティーで洗練され、ファッショナブルな引用商標のブランドイメージ、名声が著しく毀損されている。 エ 商標法第47条第1項の「不正の目的」 知財高裁は、商標登録取消決定取消請求事件(甲3)において、当該商標の使用につき、被請求人に商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」があるかについては否定したが、上記の事情が考慮されていないことから、本件審判を拘束するものではない。 被請求人は、周知著名な請求人の引用商標に化体した顧客吸引力に便乗、毀損することを狙って被請求人標章を制作し、それがあからさまにならないよう、不正の目的において、文字を組み合わせた本件商標を制作、出願したものであり、その指定商品に使用された場合、出所について混同を生ずるおそれがあるから、本件審判において、商標法第47条第1項の除斥期間は適用されない。 (4)小括 本件商標は、その第25類に係る指定商品中、「沖縄の観光土産用又は沖縄をイメージしたTシャツ,その他のTシャツ,沖縄の観光土産用又は沖縄をイメージした帽子,その他の帽子」について使用された場合、その出所について混同を生ずるおそれがある。そして、被請求人は、周知著名な請求人の引用商標に化体した顧客吸引力に便乗、毀損することを狙う不正の目的において、本件商標を制作、出願したものであるから、商標法第4条第1項第15号違反である。 3 商標法第4条第1項第7号により無効とすべき理由 (1)請求人の著名商標との関係で同号の該当性を認めた裁判例及び審決例 知財高裁は、請求人の「PUMAロゴ」との関係で同号の該当性が争われた裁判(甲17)で、フリーライドマークの登録を無効とした。 また同様に、特許庁の審決においても、周知著名な請求人の「PUMAロゴ」に化体した業務上の信用をフリーライドするとして、同号の適用を認めた(甲14、甲15、甲77、甲78)。 (2)引用商標との混同を生ずるおそれ(高い類似性) 前記2(2)エ(エ)で述べたように、本件商標構成中の文字部分は、「沖縄由来の魔除け獅子、シーサー」の意味合いが生じ、当該商品が沖縄由来であることを需要者に印象付けるにすぎず、沖縄土産品との関係において特定の者の自他商品識別機能を発揮し得ない。 そうすると、本件商標の指定商品たるTシャツ、帽子の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、本件商標を指定商品に使用したときに、本件商標は、全体としては、外観、称呼及び観念において引用商標と差異があるものの、引用商標が1949年より、請求人のブランドとして使用され、その業務に係るスポーツウェア、スポーツシューズ、被服、帽子、バッグ等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知著名なものであること、本件商標の動物図形が引用商標と高い類似性を示すものであること、引用商標が高い独創性を有すること、本件商標の指定商品が引用商標の使用商品と同一であるから取引場所を共通にし、その性質・用途・目的において関連し、商品の取引者及び需要者を共通にすることを総合的に考慮すれば、本件商標を被請求人がその指定商品において使用した場合、本件商標中の動物図形が取引者、需要者に強い印象を与え、請求人の業務に係る引用商標を連想又は想起させ、当該商品が請求人又は請求人と一定の緊密な営業上の関係若しくは請求人と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると認められる。 (3)本件商標の動物図形に対する被請求人関係者等の認識 被請求人が経営する会社の従業員等の記載(甲55の2)は、需要者に被請求人標章が「プーマのパクリ」「プーマのパロディーバージョン」だと思われてしまうことを前提として書かれている。 また、請求人が実施した消費者調査(甲26、甲56)の結果、少なくとも4割近くの回答者が、調査の対象とされた商標から請求人又はその商標を想起している。上記調査対象の商標は、本件商標の動物図形そのものである。 (4)被請求人標章をより強調した使用、及びアダルトグッズに被請求人標章を付した販売 前記2(3)イ及びウで述べたように、被請求人標章に係る商標登録第5392943号(甲61)及び5392944号(甲66)が令和元年9月に無効確定した後も、被請求人標章をより強調したTシャツを販売したり、被請求人標章をアダルトグッズに使用する行為は、明らかに、商標に接する取引者、需要者に、請求人の著名な引用商標を連想・想起させ、著名商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)し、ブランドイメージの毀損を招く、不正の目的によるものであり、「使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する」ものと判断されて然るべきである。 (5)小括 本件商標を本件指定商品に使用する場合、引用商標の出所表示機能が希釈化(ダイリューション)され、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力、ひいては請求人の業務上の信用を毀損させるおそれがあるから、本件商標は、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標の特徴を模倣して出願し登録を受けたもので、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的(商標法第1条)に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 4 むすび 以上に述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同項第7号に違反してされたものである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判請求に対して、令和2年9月28日付け上申書を提出し、「被請求人は、請求人の主張を認め、請求の趣旨に対し、請求人が主張するとおりの審決がなされ、本件商標権が遡及消滅することを争わない。」と述べている。 第5 当審の判断 1 請求人適格について 請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについて、被請求人はこれについて争っておらず、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。 なお、本件商標は、前記第1のとおり、放棄による本件商標権の登録の抹消がされているが、本件審判の請求は、商標法第46条第1項第1号を理由とする商標登録無効審判請求であり、当該商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、当該商標権は、初めから存在しなかったものとみなされる(同法第46条の2第1項本文)ことから、以下のとおり審決することとする。 2 不正の目的で商標登録を受けたものであるか否かについて (1)本件商標は、平成23年2月25日に設定登録されたものであり、本件無効審判の請求がされた令和2年6月1日には、既に設定登録の日から5年以上を経過しているため、本件無効審判の請求の理由中、商標法第4条第1項第15号に該当することを理由とする請求は、「不正の目的で商標登録を受けた場合」(同法47条第1項括弧書き)に限られるところ、請求人は、本件商標は引用商標に化体した顧客吸引力に便乗し、毀損する不正の目的で制作、出願されたものであるから除斥期間は適用されない旨主張している。 そこで、本件商標が「不正の目的」で商標登録を受けたものであるか否かについて、まず検討する。 (2)本件商標と引用商標の類似性 請求人は、本件商標は引用商標に化体した顧客吸引力に便乗し、毀損する不正の目的で制作、出願されたものである旨主張しているところ、本件商標が引用商標に化体した顧客吸引力に便乗し、毀損するかを判断するにあたり、以下、本件商標と引用商標の類似性から検討する。 ア 本件商標 (ア)本件商標は、「SHI−SA」の文字が横書きで大きく表示され(なお、当該文字の右下には、小さく「C」の記載がある。(審決注:「C」は、○の中にCの文字。))、その右上方に、四足動物が右側から左上方に向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれるとともに、上記「SHI−SA」の文字の下に2段にわたって「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI−DOg」という文字が赤色で比較的小さく表記されている、文字と図形を結合してなるものである。 (イ)そして、本件商標の図形部分からは直ちに特定の動物を想起し得るものではないが、当該図形部分の左方に配された「SHI−SA」の文字は「シーサ」、「シ・サ」、「シサ」と呼称し得るものであり、また、上記「SHI−SA」の文字の下方に配された「OKInAWAn ORIgInAL」の文字からは「沖縄のオリジナル」の意味を、同様に下方に配された「gUARDIAn ShIShI−DOg」の文字からは、「保護者」「獅子犬」の意味をそれぞれ読み取ることができ、かつ、「OKInAWAn ORIgInAL」と「gUARDIAn ShIShI−DOg」の文字は二段書きされたひとかたまりのものであることに、上記図形部分の形状も考え合わせると、上記図形部分は、沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」が跳躍する様子を側面から見たものと理解することができるから、本件商標からは、沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が生じると認めることができる。 (ウ)また、本件商標は、文字部分から、「シーサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」、「シ・サオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」、「シサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」等の称呼が生じ得ると共に、上記のとおり、本件商標から沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が生じることからすると、「シーサー」又は「シーサ」の称呼も生じるというのが相当である。 イ 引用商標 (ア)引用商標は、二つの耳がある頭部を有する四足動物が、右から左に向かって、跳び上がるように、頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で、前足と後足を前後に大きく開いている様子が、側面から見た姿でシルエット風に描かれている図形からなるものである。 (イ)そして、引用商標は、平成15年1月17日に商標登録されたものであるところ、請求人は、その登録以前から、Tシャツに引用商標と同様の図形を付した商品を販売しており(甲8の1)、帽子を掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きしてその内部に横線を配した図形を記載したり(甲8の3・5)、Tシャツを掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きにした図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲8の4)などしており、その登録後も、スポーツウェアや帽子に引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲9の1・3・4、甲31の1・3・4、甲32の1・3・4)、それらの雑誌の広告には引用商標と同様の形の図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲9の1・4、甲31の1・3・4、甲32の1・3・4)などしている。 これら証拠に請求人の主張の全趣旨を総合すると、引用商標は、本件商標の登録出願時(平成20年4月12日)及び登録査定時(同23年1月11日)において、請求人の業務に係る「PUMA」ブランドの被服、帽子等を表示する商標の1つとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていたと認めることができる。 したがって、引用商標からは、「PUMA」ブランドの観念が生じる。 (ウ)また、前記(イ)のとおり、引用商標が「PUMA」ブランドの商標の1つとして周知著名な商標となっていたことからすれば、引用商標からは、「プーマ」の称呼が生じるというのが相当である。 ウ 本件商標と引用商標との対比 (ア)外観 本件商標と引用商標とは、図形において、四足動物が右から左に向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。また、両商標における図形は、上記のほか、跳躍の角度、前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度、胸・背中から足にかけての曲線の描き方について、似通った印象を与える。 他方、本件商標においては、「SHI−SA」の文字並びに当該文字の下に2段にわたって「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI−DOg」の文字が表記されているのに対し、引用商標においては、何らの文字も記載されていない。また、両商標の図形についても、本件商標の図形の方が引用商標の図形に比べて、動物の頭部が比較的大きく描かれているほか、本件商標においては、図形の内側に概ね輪郭線に沿って白い線が配されているほか、口の辺りに歯のようなものが描かれ、首の部分に飾りのようなギザギザの模様が、前足と後足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模様が描かれ、尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており、飾り又は巻き毛のような模様が描かれ、さらに、この図形の内側には、花柄のような細かい模様が全体に描かれている。これに対し、引用商標の図形には、模様のようなものは描かれず、全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされているほか、尻尾は全体に細く、右上方に高くしなるように伸び、その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。 上記に照らすと、本件商標と引用商標とは、その図形において共通する点(いずれも四足動物がシルエット風に描かれ、その向きや基本的姿勢等が似通っている点)があるものの、本件商標において大きな構成部分である文字部分を、引用商標は有しないという顕著な相違があること等からすると、両商標の外観は、その違いが明瞭に見て取れるのであって、相紛れるおそれはないものである。 (イ)観念 前記ア(イ)のとおり、本件商標からは沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が生じ、前記イ(イ)のとおり、引用商標からは「PUMA」ブランドの観念が生じるから、両商標は、観念を明らかに異にする。 (ウ)称呼 前記ア(ウ)のとおり、本件商標からは「シーサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」や「シーサー」等の称呼が生じるのに対し、前記イ(ウ)のとおり、引用商標からは「プーマ」の称呼が生じるから、両商標は、称呼を明らかに異にする。 エ 小括 以上のとおり、本件商標と引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても異なるものであって、類似せず、本件商標と引用商標が同一又は類似の商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。 (3)請求人の主張について ア 請求人は、〈1〉被請求人が、引用商標をそっくりそのまま模倣し、そのイメージを残しつつ、シーサー風なアレンジを一部に施して本件商標を制作したと捉えられること、〈2〉被請求人が、被請求人標章(甲61、甲66)の登録無効が確定した後も、被請求人標章を目立つ態様で表示したTシャツを販売しており、動物図形部分を強調し、引用商標を想起させるなどすることで、本件商標を付した商品の売上拡大を狙っていること、〈3〉被請求人が、被請求人標章を商品「コンドーム」に付して低俗なメッセージと共に販売しており、引用商標のブランドイメージ等が毀損されていること、〈4〉沖縄土産品や沖縄をイメージした商品との関係において、本件商標の文字部分は自他商品識別力を発揮し得ないから、動物図形部分が着目されることを挙げ、本件商標は不正の目的で商標登録を受けたものである旨主張するが、以下のとおり、上記主張は採用することができない。 イ(ア)まず上記〈1〉については、本件商標の図形部分は、「シーサー」の本来の特徴とは異なる点(跳び上がるように前足と後ろ足を大きく開いている姿勢)がある一方、「シーサー」の本来の特徴を備えている点(首の周りや前足・後足の関節部分に描かれた飾り又は巻き毛のような模様、全体的に丸みを帯びて先端が尖った尻尾の形状等)も多く見られる(甲6)ことに加え、前記(2)のとおり、本件商標は文字部分も有するなど、全体として引用商標とは類似していないことを考え合わせると、直ちに被請求人が引用商標の顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で本件商標を採択したと認めることはできない。 (イ)上記〈2〉については、本件商標は文字と図形を結合してなるものであるところ、請求人の上記主張は動物の図形のみからなる標章(以下「動物図形標章」という。)ないし動物図形を強調した標章に関する使用状況を述べるものであって、当該標章は文字の有無又は構成文字の数若しくは大きさなどにおいて本件商標とは構成態様が明らかに異なるものである上、前述のとおり本件商標は引用商標と類似するものでもないから、上記動物図形標章等の使用状況を本件商標の使用の実情として評価することはできず、当該使用状況をもって本件商標が不正の目的で商標登録を受けたものとする主張は当を得ないものである。 (ウ)上記〈3〉については、本件商標の指定商品は前記第1のとおり「Tシャツ,帽子」であるところ、請求人の主張は、これとは異なる商品「コンドーム」についての標章の使用に係るものであるから、当該使用状況をもって直ちに、指定商品を「Tシャツ,帽子」とする本件商標が引用商標のブランドイメージ等を毀損しているとみるのは妥当でなく、本件商標が不正の目的で商標登録を受けたものということはできない。 (エ)上記〈4〉については、本件商標の文字部分全体は、図形部分よりも大きく、本件商標の面積の大きな部分を占め、印象的な書体を用いて表されているものであって、本件商標の文字部分が自他商品識別力を発揮し得ないというべき事情も見いだせない。そして、本件商標は、前記(2)アのとおり、文字部分の構成及びこれより生じる意味、並びに図形部分の形状を考え合わせると、「シーサー」の観念及び称呼を生じるものというべきであって、文字部分が捨象され、図形部分のみが着目されるということはできない。 (4)まとめ 以上のとおり、本件商標と引用商標とは類似せず、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないから、本件商標は、引用商標の顧客吸引力にただ乗りし、その出所表示機能を希釈化させ、又はその名声を毀損させるなどの不正の目的をもって登録出願されたということはできない。また、本件商標の登録出願の経緯において、被請求人による本件商標の登録出願が、他人に損害を加える目的その他の不正の目的で行われたものと認めるに足る証左もなく、その他、本件商標が不正の目的で商標登録を受けたものというべき事情は見いだせない。 してみると、被請求人は、不正の目的をもって本件商標の商標登録を受けたものであると認めることはできない。 したがって、本件商標は、商標法第47条第1項の規定にいう「不正の目的」で商標登録を受けたものには該当しないというべきであるから、商標法第4条第1項第15号に違反する旨の本件審判の請求は、これを却下すべきものである。 そこで、上記以外の理由につき本案に入り審理する。 3 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)商標法第4条第1項各号は、商標登録を受けることができない商標として、相当数の類型を規定しているのであって、同項第7号において、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」がその一類型として規定されているのは、他の号に当てはまらなくともなお商標登録を受けることができないとすべき商標が存在し得ることを前提に、一般条項をもって、そのような商標の商標登録を認めないこととしたものであると解されるから、同号の適用は、その商標の登録を社会が許容すべきではないといえるだけの反社会性が認められる場合に限られるべきである。(知財高裁 平成29年(行ケ)第10203号、同 平成29年(行ケ)第10204号、同 平成29年(行ケ)第10205号) (2)ア 本件商標と引用商標とは、前記2(2)のとおり、外観、称呼、観念のいずれにおいても異なるものであって、類似せず、本件商標と引用商標が同一又は類似の商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。 なお、請求人は、沖縄土産品や沖縄をイメージした商品との関係において、本件商標の文字部分は自他商品識別力を発揮し得ないから、該構成中の動物図形部分が需要者等に強い印象を与えるなどと主張するが、前記2(3)イ(エ)で述べたことと同様に、本件商標の文字部分が自他商品識別力を発揮し得ないとは認めることができず、そして、本件商標は、文字部分の構成及びこれより生じる意味、並びに図形部分の形状を考え合わせて「シーサー」の観念及び称呼が生じるものであるから、図形部分のみが需要者等に強い印象を与えるなどということはできない。 イ 以上のとおり、本件商標と引用商標とは類似せず、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないから、本件商標について、引用商標の顧客吸引力にただ乗りし、その出所表示機能を希釈化させ、又はその名声を毀損させるおそれがあるとか、そのような不正の目的をもって出願されたということはできない。 したがって、本件商標の登録が商道徳に反するということもできない。 (3)請求人の主張について ア 請求人は、消費者調査の結果を挙げ(甲26の1・2、甲56)、本件商標の動物図形に対する認識を主張しているが、上記調査の対象とされたマーク(画像)は、文字部分を全く含まない図形のみからなるマークであり、本件商標とは異なる構成からなるものであるから、前記(2)の判断を左右しない。 イ 請求人は、被請求人標章(甲61、甲66)の登録無効が確定した後も、被請求人標章を目立つ態様で表示したTシャツを販売しており、動物図形部分を強調し、引用商標を想起させるなどすることで、本件商標を付した商品の売上拡大を狙っていることを主張しているが、前記2(3)イ(イ)で述べたことと同様に、請求人の上記主張に係る標章は動物図形標章ないし動物図形を強調した標章であって、本件商標とは構成態様が明らかに異なるものである上、前述のとおり本件商標は引用商標と類似するものでもないから、上記主張は当を得ないものである。 ウ 請求人は、被請求人が、被請求人標章を商品「コンドーム」に付して低俗なメッセージと共に販売しており、引用商標のブランドイメージ等が毀損されていることを主張しているが、前記2(3)イ(ウ)で述べたことと同様に、本件商標の指定商品は前記第1のとおり「Tシャツ,帽子」であるところ、請求人の主張をもって直ちに、本件商標が引用商標のブランドイメージ等を毀損しているとみるのは妥当でなく、上記主張は採用することができない。 (4)まとめ 本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、引用商標を連想又は想起させるものでもない。 そうすると、本件商標は、引用商標の顧客吸引力にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものということはできない。 また、本件商標が、その出願及び登録の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合など、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべき事情も見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものといえない。 4 むすび 以上のとおり、本件審判の請求は、その無効理由中、商標法第4条第1項第15号を理由とする請求については、不適法なものであって、その補正をすることができないものであるから、同法第56条第1項において準用する特許法第135条の規定により却下すべきものである。 その余の無効理由については、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標)登録第5392941号商標(色彩は原本参照) ![]() 別掲2(引用商標)登録第4637003号商標 ![]() 別掲3(被請求人標章(以下に描かれた動物図形をいう。)) 図<3> ![]() 図<4> ![]() 図<5> ![]() 図<6> ![]() 図<7> ![]() 図<8> ![]() 別掲4 (1)甲第61号証の標章 ![]() (2)甲第66号証の標章 ![]() (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。 審判長 中束 としえ 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2021-05-31 |
結審通知日 | 2021-06-02 |
審決日 | 2021-06-21 |
出願番号 | 2008032550 |
審決分類 |
T
1
11・
22-
Y
(X25)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
中束 としえ |
特許庁審判官 |
板谷 玲子 馬場 秀敏 |
登録日 | 2011-02-25 |
登録番号 | 5392941 |
商標の称呼 | シーサーオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ、オキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ、オキナワンオリジナル、ガーディアンシシドッグ、シーサー、シシドッグ、ガーディアン |
代理人 | 大久保 秀人 |
代理人 | 三上 真毅 |