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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項18号他 団体商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W24 |
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管理番号 | 1390650 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2019-08-08 |
確定日 | 2021-11-15 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6084223号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第6084223号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6084223号商標(以下「本件商標」という。)は、「熊谷染」の文字を標準文字で表してなり、平成28年12月26日に地域団体商標として登録出願、第24類「埼玉県熊谷市及びその周辺地域において生産される染織物」を指定商品として、同30年8月28日に登録査定、同年9月28日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第76号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 無効事由の要点 本件商標は、自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されておらず、商標法第7条の2第1項の要件を充足しないにもかかわらず、商標法第7条の2第1項の規定に違反して登録された商標であるから、その登録は無効とされるべきである(商標法第46条第1項第1号)。 2 請求人及び利害関係 (1)請求人は熊谷染に従事してから100年の歴史を誇る企業である 請求人は、大正9年に埼玉県熊谷市で創業し、100年にわたり染織物商品の生産・販売を業としている法人である(甲2、甲3)。同社は、創業以来3代にわたり、一貫して熊谷染の商品を世に送り出してきた(甲4)。請求人は、埼玉県知事より昭和62年に埼玉県伝統工芸モデル工場の指定を受け、平成6年には埼玉県彩の国工場等に指定され、平成6年に先代社長及び平成12年に請求人代表者がそれぞれ埼玉県知事より埼玉県伝統工芸士に認定されたほか、永年の企業活動によって、県の伝統産業工芸展等で多数の表彰を繰返し受けている(甲3、甲7)。 着物市場の減少や後継者不足等の理由から、熊谷染を業とする企業は減少を続けており、昭和55年の時点で10数軒(甲8)、昭和61年時点で「現在の熊谷捺染組合の組合員は、隆盛時の八社で後継者がいるのは三社」となっていた(甲9)。そして、現在では、「熊谷染」の原反生産を行っているのは、請求人と他の1社の2社だけと思われる。しかし、請求人は被請求人の構成員ではない。 (2)本件商標は請求人に何らの連絡もないまま出願・登録された 請求人は、熊谷染について100年の業歴を有し、熊谷染の伝統を絶やさず今日まで伝統技術を伝承してきた。したがって、熊谷染の技術の維持・発展を心から強く願う。そのため、熊谷染に関連して紛争を起こすことを望むものでは決してないが、以下のような経緯から、やむなく本件審判の請求に及んだものである。 平成29年5月頃熊谷市立図書館のA氏より、被請求人が「熊谷染」の商標権を取得したいといっているので協力してほしい旨の依頼があり、この依頼に対して、請求人は、できることがあれば協力する等と応じた。しかしながら、その後、本件商標に関しては平成30年12月まで、被請求人からもA氏からも、請求人に対して何らの連絡も報告もなかった。 そして、平成30年12月になって、請求人は、「熊谷商工会議所だより12月号」に「熊谷染」が地域団体商標として登録されたという記事が掲載されていることを発見した(甲11)。そこで、請求人がA氏に対して、本件商標の出願及び登録に至った経緯を尋ねたところ、平成30年12月19日にA氏が請求人の本社事務所に来所して、平成29年6月30日付けの意見書(甲19の1)を手交した。この意見書には、「審査官は、株式会社ソメヤの代表取締役社長・・・の存在を懸念されておりますが、新たに提出した本件出願人の会員名簿からも明らかなように・・・本出願人に属する特別会員であって、出願人構成員の一人です。従って、・・・本件商標が本件出願人に登録されることにおいて何らの不利益を得るものではなく、むしろその登録を望む者です。・・・そして、現状において埼玉県能谷市及びその近郊において、『熊谷染』の染織物を取り扱う者に関し、本件出願人の知る限りにおいて、他に問題となるアウトサイダー的な者の存在は承知しておりません。」と記載されていたが、この記載は全くの虚偽の記載である。そこで、請求人はその旨A氏に指摘したが、A氏は、なぜこのようなことになったのか経緯は分からないと答えた。また、その後、A氏は、「本件商標の出願に至る経緯について小池国際特許事務所にも尋ねたが、意見書を作成した職員が既に退所しているから手続等に関する経緯は全く分からないと言われた」と述べた。 さらに、平成31年2月12日には、丸田・白石法律事務所の弁護士より請求人に対して、内容証明郵便で通知書が送達された(甲12)。そこで、請求人は、被請求人の代表者に、なぜこのようなことになったのかと、その真意を問う平成31年4月4日付け書面を送達した(甲13)。すると、同弁護士より「本件につきましてご意見等がございましたらすべて当職宛てにご連絡頂きたく」等と記載し、被請求人の関係者への連絡は一切差し控えるように求める書面が送付され、同書面には被請求人の定款等が同封されていた(甲14)。ただし、なぜ請求人の名称や氏名を無断で使用し、また拒絶理由通知に対して全くの虚偽の事実を記載した意見書を特許庁に提出して本件商標を登録した点については、今日に至るまで、誰からも、何らの説明もなされていない。 (3)請求人は、本件審判の請求について利害関係を有する 上記経緯に明らかなように、被請求人は、請求人に何らの連絡も説明もしないまま本件商標を出願し、請求人が構成員に含まれていないという拒絶理由通知(甲15)に対しては、請求人が被請求人の構成員であるとの虚偽の事実を記載した意見書(甲10、甲19の1)を提出し、虚偽の証拠(名簿)まで提出した。本件商標は地域団体商標であって、その構成員が誰であるかは重要な要件である上に、虚偽の申告・証拠にその名称等が無断で使用された請求人が、本件審判を請求する利害関係を有することは明らかである。 3 無効事由 (1)商標法第7条の2第1項(自己又はその構成員)違反 ア 特許庁は、拒絶理由通知書において、「本願商標『熊谷染』について、下記に示すウェブサイト中に『熊谷染』の承継者として『株式会社ソメヤ』の代表取締役社長・・・が紹介されていますが、当該者は、出願人の構成員とは認められません・・・」と被請求人に通知をした。これに対して、被請求人は、意見書をもって、「審査官は、株式会社ソメヤの代表取締役社長・・・の存在を懸念されておりますが、新たに提出した本件出願人の会員名簿からも明らかなように・・・本出願人に属する特別会員であって、出願人構成員の一人です。・・・そして、現伏において埼玉県能谷市及びその近郊において、『能谷染』の染織物を取り扱う者に関し、本件出願人の知る限りにおいて、他に間題となるアウトサイダー的な者の存在は承知しておりません。」と述べ(甲19の1)、特定非営利活動法人熊谷染継承の会会員名簿を提出した(甲19の2)。 イ しかしながら、請求人又は請求人代表者は、被請求人の構成員ではないし、構成員であったこともないし、入会の申請すらしていない。奇異なことに、被請求人の定款は2種類提出されている(甲20の1、甲20の2)。いずれも、発効日付、発行日付や改正履歴が不明であって、その先後も不明である。ただし、いずれの定款でも、入会に際して「その旨を文章で代表理事に申し込むものと(する)」旨規定されているが(第7条2項)、請求人はかかる文章を代表理事に提出したこともない。それにもかかわらず、被請求人は、「・・・本出願人に属する特別会員であって、出願人構成員の一人です」と、特許庁に対する虚偽の申告を行っている。 ウ 甲第20号証の1の定款によれば、被請求人の会員は「正会員」と「賛助会員」のみからなり、「特別会員」という会員は存在しない。他方、甲第20号証の2の定款には、「特別会員」なる会員が追加されているが、これは特許庁からの拒絶理由通知に対応するために、会員ではない請求人ないしその代表者を「特別会員」であることにして被請求人の構成員であるかのように装うために「単に書き加えられた」のではないかという疑念が生じる。いずれにしても、被請求人は、定款を変更して「特別会員」なるものを設け、請求人に対しては何ら連絡もしないまま、したがって、請求人も請求人の代表者も同意のないまま、請求人の代表者が被請求人の構成員であると特許庁に対して虚偽の申告を行い、虚偽の証拠を提出して、本件商標を登録させたものである。 エ したがって、本件商標の登録は、「出願人及びその構成員以外に出願商標を使用している者が存在することにより、出願人又はその構成員のみの使用によって出願商標が需要者の間に広く認識されていることが認められない場合には、出願人又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものとは認めない。」という審査基準に照らして無効とされるべきである。 (2)商標法第7条の2第1項(自己又はその構成員の業務に係る商品について)違反 ア 本件商標の指定商品は、「埼玉県熊谷市及びその周辺地域において生産される染織物」である。しかしながら、被請求人の提出する使用証拠には、「染織物」が含まれていない。そうすると、本件商標の登録は、地域団体商標として、その主体的要件(構成員)も、客体的要件(商品)も充足しない。 イ 被請求人は、熊谷染を生産していないから、「熊谷染の周知性」獲得の要件も充足しない。 ウ 被請求人の直近の売上高は少額であり、かつ、これらの受発注が実際に行われたのかも不明である。若干古い資料(甲7)ではあるが、請求人の生産数は、平成2年度においては、「高級なものだと一か月に五十〜百反ぐらいしかできない。月千反ぐらいできるものもあるが」と紹介されている。これに比較して、正会員16名の年間の生産総数が10反前後という被請求人の生産数量が、いかに少ないかが分かる(甲41、甲42)。 エ 甲第43号証ないし甲第47号証では、平成29年度の商品の販売数量及び販売金額が記載されてはいるものの、実際にこれらの商品が市場においてどの程度販売されたかは不明である。 4 請求人が、平成30年8月28日時点において、本件商標「熊谷染」を使用している事実及び実績 請求人は、創業以来100年、熊谷染一筋に、その生産・販売を業としてきた。かかる事業は、現在まで継続して行われており、平成30年8月28日以前に廃業をした等の事実はない。平成28年から平成30年までの各年における生産・販売実績は甲第58号証ないし甲第66号証のとおりである。これらの取引書類のほとんどには、それぞれの商品が「熊谷染」であることが明記されている。 5 請求人は、以前からの被請求人の対応について大きな不信感を持っており、本件審判の請求を取り下げる意思はない。 (1)被請求人の活動の意図・目的と、本件商標が不当な方法によって登録されたことは、本来的に関係がない。 被請求人は、従前から、本件商標の登録の経緯に関する請求人の問合せについては、一切無視し続けてきた。被請求人は、「請求人の認識は誤解に基づく」と主張しているが、請求人の認識の、どこが誤解であるのか、証拠をもって明確にすべきである。 (2)被請求人は、「特別会員として熊谷染継承の会の活動に参加してもらいたいと思った」というが、被請求人が「思った」ことと、事実(請求人が入会したこと)は異なる。請求人は、同会の会員ではない。 (3)被請求人は「熊谷染」の地域団体商標を独占する気はない、というが、商標権は、全国的に効力を有する独占・排他権である。被請求人は、その意図にかかわらず、現にこれを独占している。 (4)被請求人は、行政等を交えて審査委員会を立ち上げ、地域団体商標「熊谷染」の適切な運用に努めるというが、今後被請求人がどのような活動をするかということと、本件商標に無効理由があることとには、何ら関係はない。また、適格性のない団体が、不法な手段をもって登録した商標を使用して活動を継続することが適正とは思われない。それは、行政や地域、長らく伝統を守ってきた関係団体を更に欺くことになる。 (5)「地域団体商標の取得に際して、説明不足による誤解等が生じたのであれば」、答弁書で、その経緯を説明すれば足りる。ちなみに、被請求人は、「説明不足」というが、請求人は、「なぜこのようなことになったのか経緯は分からない」、「意見書を作成した職員が既に退所しているから手続等に関する経緯は全く分からない」と言われただけであって、従前から何らの説明も受けていない。被請求人は、請求人の問合せについても、単に無視してきただけである。にもかかわらず、請求人の主張は「誤解」であると述べている。請求人は、このような被請求人の応答が、極めて不誠実であると考えており、その点でも、本件審判の請求を取り下げる意思はない。 6 令和2年8月24日付け審尋には、合議体の意見として「まずは両当事者同士による話合いを行うことが適切な紛争解決につながると考えます。」と記載されているが、本件に限っては、それが適切な解決方法とは思われない。請求人と被請求人は、従前、本件商標について話合いは行われておらず、請求人から被請求人への問合せも無視されてきた。さらに、本件審判は、両当事者の意見の衝突や利害の対立のみが問題となっているのではない。被請求人が、特許庁に対して虚偽の主張を行い、偽造された証拠に基づいて、本件商標を登録させた点に一番大きな問題がある。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。 1 商標法第7条の2第1項(自己又はその構成員)違反との主張に対する反論 (1)平成29年5月17日付けの拒絶理由通知書においては、請求人の存在が指摘されていたため、被請求人はA氏を通じて請求人に対して本件商標の商標権取得についての協力を要請するとともに、熊谷染継承の会の特別会員として名前を登録してもらえるよう依頼し、請求人の本件商標の商標権取得についての協力承諾の返事をもって特別会員として登録したものである。 したがって、被請求人が請求人に対して何ら連絡しないまま本件商標の商標権を取得したとする請求人の認識は誤解に基づくものである。 (2)令和2年8月24日付け審尋に対する回答 ア 被請求人の2種類の定款(甲20の1、甲20の2)に関して、甲第20号証の1に係る定款は、特定非営利活動法人熊谷染継承の会の設立時である平成27年11月26日(甲21)の定款であり、その後、平成29年7月19日に定款変更を申請し、平成29年8月22日付けで認証されて(乙5)、現在の甲第20号証の2に係る定款となっている。 イ 定款第7条第2項に規定する手続は、原則として正会員の入会のみについて適用される規定である。これは定款第6条において、正会員については「(1)正会員 この法人の目的に賛同し、理事会の同意を得た個人又は団体」と、理事会の同意を得ることを要件としているのに対して、「(2)賛助会員(継承事業受講生を含む)」や「(3)特別会員」にはそのような要件は課されていない。 定款第7条第2項では、理事会の同意を得ることを規定していることからしても本規定は正会員の入会のみに適用されると解すべきである。 ウ 特別会員の経緯については、被請求人はA氏を通じて請求人に対して本件商標の商標権取得についての協力を要請するとともに、熊谷染継承の会の特別会員として名前を登録してもらえるよう依頼し、請求人の本件商標の商標権取得についての協力承諾の返事をもって特別会員として登録したものであり、文書等は作成していない。 2 商標法第7条の2第1項(自己又はその構成員の業務に係る商品について)違反との主張に対する反論 請求人は、「熊谷染」に係る商品の販売数量及び販売額が僅少であり、出願人等の使用により本件商標が需要者の間で周知性を獲得したものとはいえない旨主張している。 しかしながら、「自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」に該当するかどうかについては、「熊谷染」に係る商品の販売数量及び販売額の多寡のみによって判断されるべきものではない。 この点に関しては、審査段階における平成30年1月19日付けの上申書にも記載したとおり、NHKの番組において、熊谷染を紹介することによって、広く視聴者に「熊谷染」の存在を周知するのに貢献し、また、熊谷染継承の会及びその構成員の活動として、様々な展示会、作品協議会や体験教室を開催してきており、これらの普及・啓蒙活動によって、「熊谷染」が需要者の間に広く認識されるようになったのである。 また、甲第30号証の1から甲第30号証の12に示されているような新聞媒体を用いたり、甲第34号証の1に示されているようなふるさと納税の返礼品カタログといった媒体に「熊谷染」に係る商品を紹介することにより、仮に販売数量が比較的少量であったとしても、多くの需要者の目に「熊谷染」の商品がとどまることとなるため、需要者の間に広く認識されていることになるのである。 3 請求人との話合い (1)被請求人が、「熊谷染」の地域団体商標を出願したのは、熊谷市の伝統産業である熊谷染を広く県内外に知らしめるとともに、その技術の向上と継承を行っていくためである。 請求人に対して協力を要請したのも、特別会員として熊谷染継承の会の活動に参加してもらい、又は意見を伺って、「熊谷染」の普及、発展に寄与してもらえればと思ったためであり、被請求人は「熊谷染」の地域団体商標を独占する気もなく、また、今後、請求人に対して権利行使などをする気などは全くない。 熊谷染継承の会としては、今後、行政・団体・知識人・専門員・業界団体代表等を交えて審査委員会を立ち上げ、地域団体商標「熊谷染」の適切な運用に努める所存である(乙4)。 地域団体商標の取得に際して、説明不足による誤解や不信が生じたのであれば、被請求人側はそれらについて説明する用意がある。本件に関する被請求人側の認識は、上述のとおりであるが、更なる疑問点があれば連絡されたい。被請求人側としては、話合い、又は書面によるやり取りによって和解し、請求人が本件審判の請求を取り下げてくれることを求めるものである。 (2)令和2年8月24日付け審尋に対する回答 ア 請求人による本件審判の請求後、今日に至るまで請求人との話合いは実現していない。 イ 被請求人側は請求人側との話合いを強く希望する。請求人側においても話合いを行うことに同意される場合には、連絡されたい。 第4 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、争いがないから、本案に入って、以下、判断する。 1 請求人は、被請求人の構成員(特別会員)であるか否かについて (1)両当事者の提出に係る証拠及び両当事者の主張(争いのない事実)並びに審査の過程における被請求人の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。 ア 被請求人は、平成27年11月26日に設立された特定非営利活動法人である(甲21)。 イ 被請求人の設立時の定款(甲20の1)には、第6条において、会員の種類として「正会員」及び「賛助会員」が規定されているが、「特別会員」については規定されていない(甲20の1、被請求人の主張)。 ウ 平成29年4月1日現在の被請求人の会員名簿には、「特別会員」として請求人の代表取締役社長の氏名が記載されている(甲19の2)。 エ 特許庁審査官は、本件商標に係る審査の過程において、被請求人に対し、平成29年5月17日付けで拒絶理由通知書を発出し、その中で、他人による本件商標の使用として、請求人の代表取締役社長を指摘した(甲15)。 オ 請求人の代表取締役社長は、平成29年5月頃(前記エの拒絶理由通知の発出後)、熊谷市立図書館のA氏から、被請求人による本件商標の取得について協力依頼を受け、協力すると答えた(甲2、請求人の主張、被請求人の主張)。 カ 被請求人は、平成29年7月4日付けで特許庁に対して提出した意見書において、請求人の代表取締役社長は、被請求人の特別会員であり、被請求人の構成員の一人である旨述べた(甲10)。また、被請求人は、同年6月30日付け手続補足書により、前記ウの会員名簿を特許庁へ提出した(甲19の2、平成29年6月30日付け手続補足書に添付の「特定非営利活動法人熊谷染継承の会会員名簿」)。 キ 被請求人は、平成29年7月19日に定款の変更の申請し、同年8月22日に申請のとおり認証された(乙5)。 ク 平成29年8月22日に変更が認証された定款(甲20の2)には、第6条において、会員の種類として新たに「特別会員」が追加された(甲20の2、被請求人の主張)。また、定款の第7条に規定される入会の手続は、「正会員」のみに適用されるものであり、「賛助会員」及び「特別会員」には適用されない(被請求人の主張)。 (2)判断 ア 前記(1)エ及びオによれば、平成29年5月下旬頃(特許庁審査官から被請求人に対する平成29年5月17日付け拒絶理由通知の発出後)、請求人の代表取締役社長は、被請求人による本件商標の取得について協力依頼を受け、協力すると答えたことが認められる。 この点について、被請求人は、被請求人の特別会員として登録してもらえるよう依頼し、協力承諾の返事をもって特別会員として登録した旨主張している。 イ 前記(1)イ、キ及びクによれば、被請求人の会員の種類としては、法人設立当初は「正会員」と「賛助会員」のみであったが、平成29年8月22日に定款の変更申請が認証されたことにより、新たに「特別会員」が追加されたことが認められる。 そうすると、請求人の代表取締役社長が被請求人による本件商標取得について協力依頼を受けた平成29年5月下旬頃は、被請求人の会員の種類としては、「特別会員」はまだ追加されていないといえる。 また、前記(1)カのとおり、被請求人は、平成29年7月4日付けで特許庁に対して提出した意見書において、請求人の代表取締役社長は、被請求人の特別会員であり、被請求人の構成員の一人である旨述べているが、その時点においても、定款の変更申請の認証前であり(変更申請日である平成29年7月19日の前でもあり)、「特別会員」はまだ追加されていないといえる。 してみると、被請求人による、被請求人の特別会員として登録してもらえるよう依頼し協力承諾の返事をもって特別会員として登録した旨の主張は、不自然といわなければならない。 ウ 前記(1)ウ及びカによれば、被請求人が平成29年6月30日付け手続補足書により特許庁へ提出した平成29年4月1日現在の被請求人の会員名簿には、「特別会員」として請求人の代表取締役社長の氏名が記載されていることが認められる。 しかしながら、平成29年4月1日は、被請求人の会員の種類として「特別会員」はまだ追加されていないことから、当該会員名簿は不自然なものといわなければならない。 のみならず、平成29年4月1日は、特許庁審査官から被請求人に対して拒絶理由通知を発出する前でもあるから、当該拒絶理由通知を受けて、請求人の代表取締役社長に対し、被請求人の特別会員として登録してもらえるよう依頼し、協力承諾の返事をもって特別会員として登録した旨の被請求人の主張とも矛盾するといえる。 そうすると、「特別会員」として請求人の代表取締役社長の氏名が記載されている平成29年4月1日現在の被請求人の会員名簿(甲19の2)は、信用できないものといわなければならない。 エ 令和2年8月24日付け審尋により、被請求人に対し、「特別会員」としての入会手続の詳細について釈明を求めたが、前記第3の1(2)イのとおり、被請求人は、定款の第7条の手続は、「正会員」のみに適用される旨述べるにとどまり、「特別会員」としての入会手続の詳細については何ら述べていない。 したがって、被請求人の「特別会員」としての入会手続は不明である。 オ 令和2年8月24日付け審尋により、被請求人に対し、請求人が被請求人の「特別会員」であることを示す客観的な証拠の提出を求めたが、前記第3の1(2)ウのとおり、文書等は作成されていない旨述べるにとどまり、何ら提出されていない。 カ 以上のとおり、被請求人による、被請求人の特別会員として登録してもらえるよう依頼し協力承諾の返事をもって特別会員として登録した旨の主張は不自然であり、また、「特別会員」として請求人の代表取締役社長の氏名が記載されている平成29年4月1日現在の被請求人の会員名簿は、信用できないものである。 さらに、被請求人は、被請求人の「特別会員」としての入会手続の詳細については何ら述べていないため、当該手続が不明となり、これによって、請求人が「特別会員」であるか否かの当審における判断を困難にしている。 加えて、請求人が被請求人の構成員ではない旨主張しているのに対し、被請求人は、請求人が被請求人の「特別会員」であることを示す客観的な証拠を提出していない。 以上を踏まえれば、請求人は、被請求人の構成員(特別会員)ではないと判断するのが相当である。 2 本件商標が使用をされた結果、被請求人又はその構成員の業務に係る商品「染織物」を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたかについて (1)両当事者の提出に係る証拠及び審査の過程における被請求人の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。 ア 「熊谷染」は、被請求人が製造するものとして、埼玉県伝統的手工芸品に指定されている(平成28年12月26日付け手続補足書に添付の資料4「埼玉県伝統的手工芸品産業振興対策要綱」)。 イ 2008年(平成20年)5月29日から2016年(平成28年)6月9日までに発行された埼玉新聞、朝日新聞、東京新聞又は毎日新聞において、「熊谷染」を使用した日傘、風呂敷手提げセット、ハンカチ、ストール、コースター、ふくさ及び名刺台紙を紹介する記事が掲載されている(甲30の1〜甲30の12、平成29年6月30日付け手続補足書に添付の資料18の1〜資料18の13)。 これらの記事の一部においては、当該日傘等又はこれに使用された「熊谷染」が被請求人の代表取締役社長によって製造又は染め上げられた旨が紹介されている(甲30の1、甲30の3、甲30の7、甲30の8、平成29年6月30日付け手続補足書に添付の資料18の1、資料18の3、資料18の7、資料18の8、資料18の11)。 ウ 熊谷商工信用組合発行「くましんの現況DISCLOSURE2006」、熊谷市商工業振興課のブログ及び熊谷商工信用組合のウェブサイトにおいて、「熊谷染」の伝統を守る者として、請求人及び請求人の代表取締役社長が紹介されている(甲4〜甲6、甲15)。 エ 被請求人による「熊谷染」に関する「染織物」に係る平成27年度及び平成28年度の売上実績は、平成27年度は約75万円、反物8反、平成28年度は、約115万円、反物11反である(平成29年6月30日付け手続補足書に添付の資料13、資料14)。 オ 請求人による「熊谷染」に関する「染織物」に係る平成28年から平成30年の売上実績は、平成29年12月に約39万円、反物8反、染布24枚である(甲58〜甲66)。 (2)判断 前記(1)で認定した事実によれば、被請求人は、本件商標「熊谷染」を「染織物」に使用をしており、「熊谷染」は被請求人が製造するものとして埼玉県伝統的手工芸品に指定されており、また、埼玉新聞等の新聞において、「熊谷染」を使用した日傘等を紹介する記事が掲載され、これらの記事の一部においては、当該日傘等又はこれに使用された「熊谷染」が被請求人の代表取締役社長によって製造又は染め上げられた旨が紹介されているものである。 そうすると、たとえ被請求人による「熊谷染」に関する「染織物」に係る売上実績がさほど高いとはいえないとしても、埼玉県伝統的手工芸品の指定や埼玉新聞等の新聞での紹介記事を踏まえれば、本件商標は、その登録査定時において、その指定商品に使用をされた結果、被請求人又はその構成員の業務に係る商品を表示するものとして、埼玉県を中心とする一定の範囲の需要者の間に広く認識されていたことがうかがえる。 他方で、請求人も本件商標「熊谷染」を「染織物」に使用をしており、熊谷商工信用組合発行「くましんの現況DISCLOSURE2006」、熊谷市商工業振興課のブログ及び熊谷商工信用組合のウェブサイトにおいて、「熊谷染」の伝統を守る者として請求人が紹介されている。 そして、請求人による「熊谷染」に関する「染織物」に係る売上実績は、被請求人の当該売上実績より少ないものの、その差はさほど大きいとはいえない。 してみると、被請求人及びその構成員以外に本件商標の使用をしている請求人の存在により、本件商標は、その登録査定時において、被請求人又はその構成員のみの使用によって、埼玉県を中心とする一定の範囲の需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。 したがって、本件商標が使用をされた結果、被請求人又はその構成員の業務に係る商品「染織物」を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたということはできない。 3 以上によれば、本件商標は、使用をされた結果、被請求人又はその構成員の業務に係る商品「染織物」を表示するものとして需要者の間に広く認識されたものとはいえないから、その登録は、商標法第7条の2第1項の規定に違反してされたものというべきである。 4 両当事者による話合いについて (1)被請求人は、「本件商標の取得に際して、説明不足による誤解や不信が生じたのであれば、説明する用意がある。更なる疑問点があれば連絡されたい。被請求人としては、話合い又は書面によるやり取りによって和解し、請求人が本件請求を取り下げてくれることを求める。」旨主張している。 (2)当該主張を踏まえ、当審では、令和2年8月24日付け審尋により、両当事者に対し、両当事者による話合いの有無、予定又は意思を審尋した。 (3)前記(2)の審尋に対し、請求人は、前記第2の6のとおり、従前、話合いは行われておらず、本件に限っては、話合いは適切な解決方法ではない旨述べている。 (4)前記(2)の審尋に対し、被請求人は、前記第3の3(2)のとおり、これまで話合いは実現していないが、話合いを強く希望し、請求人が話合いに同意される場合は連絡がほしい旨述べている。 (5)前記(1)ないし(4)によれば、請求人は、話合いは適切な解決方法ではない旨述べているように、話合いを行う意思はないようである。 また、被請求人にしても、「話合い又は書面によるやり取りによって和解し、請求人が本件請求を取り下げてくれることを求める。」や「話合いを強く希望する。」と述べるものの、「説明する用意がある。更なる疑問点があれば連絡されたい。」や「請求人が話合いに同意される場合は連絡がほしい。」のように受け身の状態であり、自ら出向いたり連絡したりするなど、話合いの依頼を積極的に申し出ている様子はない。 そうすると、当該話合いが実際に行われる可能性は、極めて低いものといわなければならない。 したがって、当該話合いを待たずに、本件審判の審理を終結することとした。 5 まとめ 以上により、本件商標は、商標法第7条の2第1項の規定に違反して登録されたものであるから、本件商標の登録は、商標法第46条第1項第1号に該当し、無効とすべきである よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分に御注意ください。 |
審理終結日 | 2021-09-16 |
結審通知日 | 2021-09-21 |
審決日 | 2021-10-05 |
出願番号 | 2016144189 |
審決分類 |
T
1
11・
942-
Z
(W24)
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最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
齋藤 貴博 |
特許庁審判官 |
山田 啓之 板谷 玲子 |
登録日 | 2018-09-28 |
登録番号 | 6084223 |
商標の称呼 | クマガヤゾメ、ソメ |
代理人 | 河野 貴明 |
代理人 | 高田 修治 |
代理人 | 村上 浩之 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 小林 彰治 |
代理人 | 北原 明彦 |
代理人 | 鳥海 哲郎 |
代理人 | 石原 佐知子 |
代理人 | 小池 晃 |