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審決分類 審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W1825
管理番号 1390639 
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-12-04 
確定日 2022-04-11 
事件の表示 上記当事者間の国際商標登録第0924379号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件国際登録第924379号商標(以下「本件商標」という。)は、「EnviroSax」の欧文字を横書きしてなるものであり、2015年(平成27年)3月1日に国際商標登録出願(事後指定)、同年12月15日に登録査定され、第18類「Handbags, purses, luggage, garment bags, shopping bags, shoulder bags, backpacks and carry bags made from textile materials, synthetic and man―made materials.」及び25類「Clothing, footwear, vests; trousers; T―shirts; sweat shirts; sweat pants; sweat bands; sweat shorts; sweat suits; sweaters; swim wear; swim suits; sport shirts; shorts; scarves; coats, suits, rainwear; polo shirts; ponchos; neckerchiefs; neckties; neckwear; knit shirts; headwear; gym shorts; gym suits.」を指定商品として、平成28年2月12日に設定登録されたもので、その後、一部取消し審判の審決(平成31年4月5日に審判請求の登録、令和3年10月8日に審決確定)により、その指定商品中、第18類「全指定商品」についての商標登録は取り消された。

第2 引用商標
請求人が、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当するとして引用する商標は、請求人の業務に係る商品「エコバッグ」のブランド名である「EnviroSax」の欧文字からなる商標(以下「引用商標」という。)である。

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、本件商標の指定商品中、第18類「全指定商品」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第70号証を提出した。
2 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該道するから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきである。
(1)商標法第4条第1項第7号
ア 本件商標は、本件商標権者が、請求人との間で取り交わされた契約に違反して登録を受けたものであり、その出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないため、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当する。
イ 本件商標に係る事実関係は以下のとおりである。
(ア)本件商標の国際商標登録の基礎出願
請求人は、本件商標と同一の商標について、オーストラリア国において2005年3月1日に商標出願を行い、2007年2月22日に商標登録(第1043892号)を受けた(甲3)。なお、当該商標登録は、2015年2月4日に更新手数料が納付され、2025年3月1日まで存続期間が更新されている(甲4)。
(イ)本件商標の国際登録出願
請求人は、上記オーストラリア商標登録を基礎登録として、2007年4月13日に国際事務局に対して国際登録出願を行い、国際登録(第924379号)を受けた(甲5、参照1。以下「本件国際登録」という。)。
(ウ)請求人と本件商標権者との契約
本件商標権者は、2012年6月10日に、請求人に対して、本件国際登録を欧州に関してのみ売却してほしい旨を申し出た。本件商標権者は、欧州のみの権利を希望しているため、米国及びその他の全ての国については請求人が所有したままでよいと明示した(甲6)。
請求人はこの申し出を受け入れ、2012年10月3日に、本件商標権者との間に、本件国際登録の欧州に関する権利のみを譲渡する契約書(以下、「本契約書」という。)を取り交わした(甲7)。契約の主な内容として、譲渡の対象が「欧州」のみであること(甲7、翻訳参照1)、本件商標権者に対して本件国際登録に基づく欧州以外のいかなる権利も付与しないこと(甲7、翻訳参照1、3)が明記されている。すなわち、本件国際登録に基づいて日本の事後指定を行う権利は譲渡の対象外であることが明記されており、 請求人と本件商標権者はこの点を確認して、本契約書を取り交わしている。
また、本件商標権者が請求人に対して、譲渡の対価として500,000米ドルを2回に分けて支払う旨も取り決めていた(甲7、翻訳参照2)。
(工)国際事務局への名義人変更の記録申請手続
2012年11月20日に、国際登録簿に、請求人から本件商標権者への全部譲渡として、名義人変更記録申請(MM5)が11月1日付けで記録された(甲5、参照3、甲9、参照1及び3)。
2012年12月10日頃に、請求人は、名義人変更記録申請(MM5)が、欧州のみの一部譲渡ではなく、全ての指定国を対象とする全部譲渡として誤って記録されていることに気付いた(甲8、翻訳参照2)。この誤りは、請求人が誤って「全部譲渡」のポックスにチェックしたことが原因であつた。なお、甲8の翻訳参照2で請求人が説明しているが、実際提出したMM5はチェックボックスの下の欄に「European Union Only」と請求人が記載したとのことである。ただ、請求人はこの写しを残しておらず、国際事務局にその写しを要請したところ、オンラインデータベースから取得できる以外の情報や書類は権利者か代理人に直接コンタクトを取って欲しいとの回答であつたため入手できなかった。
2012年12月13日に、請求人は国際事務局に対して、MM5の取下げを要請するメールを送り、状況を説明するため電話をした(甲8、翻訳参照4)。その際の国際事務局からの勧めに従って、一部譲渡として正しくチェックしたMM5に改めて署名をして提出し直した。
2012年12月19日に、請求人は国際事務局から、上記13日付けのメールヘの返信として、11月1日付けで記録された全部譲渡の名義人変更は国際事務局による審査には誤りがなかったため訂正することはできない。
また、国際事務局は本件商標権者と指定官庁に対して、12月6日付けで全部譲渡の記録通知を送付した、との連絡を受けた(甲8、翻訳参照4)。
2012年12月27日に、国際登録簿に、11月20日に記録された譲渡は無効とすべきで、一部譲渡に差し替える旨とともに、請求人から本件商標権者へ欧州のみの一部譲渡として、名義人変更記録申請(MM5)が記録された(11月1日付け)(甲9、参照4)。すなわち、請求人が改めて提出し直したMM5に基づいて、国際事務局により記録が訂正された。
2012年12月28日に、請求人は国際事務局から、請求人と本件商標権者の双方の主張がそれぞれ異なっているとのメールが届いた。国際事務局からのメールによると、本件商標権者が電話で国際事務局に対して、全部譲渡が正しいと主張したと記載されている(甲8、翻訳参照3)。双方の主張が異なっているため、国際事務局では解決できないので、オーストラリア特許庁へ相談してはどうか、オーストラリア特許庁から回答を得られるまで国際登録簿の記録は訂正後のままにしておく、とのことであった(甲8、翻訳参照3)。すなわち、本件商標権者は、実際の契約内容は欧州のみの譲渡であるにも関わらず、請求人の些細な過失に乗じて、国際事務局に対して虚偽の主張を行った。このメールを受領後に、請求人は本件商標権者に対して、国際事務局に行った主張を虚偽と認めるよう要請し、国際事務局の全部譲渡の記録を訂正するように要請したが、本件商標権者からの回答はなかった(甲10)。
2013年1月9日に、請求人は、オーストラリア特許庁から、当該庁が 争いがある場合に当事者となることや、争いに関してアドバイスをすることはできないとの回答を受領した(甲8、翻訳参照1)。これにより、本件商標権者が自らの主張を虚偽と認め国際事務局に直接申し出ない限り、請求人のみでは国際登録簿の訂正ができないことが確定した。
上記の経緯から、国際登録簿には、2012年11月1日付けで、本件商標権者を名義人とする、本件国際登録の全部譲渡の変更がなされ(甲9、参照3)、次に、欧州のみについて本件国際登録の一部譲渡の変更がなされ(甲5、参照3、甲9、参照4、国際登録第924379A)、さらに、本件商標権者に対して本件国際登録の全部譲渡とする変更がなされた(甲9、参照5)。すなわち、本件商標権者の虚偽の主張によって、本件商標権者が本件国際登録(国際登録第924379号)の名義人となってしまった。
(オ)本件商標権者からの譲渡価格の引き下げの要求
上記のとおり、2012年12月6日付けで、国際事務局は本件商標権者に対して、全部譲渡の記録通知を送付した(甲8、翻訳参照4、甲9、参照1)。
全部譲渡の記録通知受領後である2012年12月15日に、本件商標権者は、当初の譲渡価格を引き下げるよう要求してきた(甲11、翻訳参照1)。現時点では本件国際登録の欧州についての権利の最大価値が280,000米ドルとなっているとして、当初の譲渡の対価である500,000米ドルから、220,000米ドルの引き下げを要求した。その際、本件商標権者は、全部譲渡に関することには一切言及していない。
2012年12月17日に、請求人の会社のCEOが、本件商標権者に対してメール及び電話にて引き下げには応じない旨を伝えたが、本件商標権者は当初の譲渡の対価500,000米ドルを支払う準備がない等とともに改めて減額を要求した(甲11、翻訳参照2及び3)。
2012年12月28日に、上述のとおり、請求人は本件商標権者に対して、国際事務局への虚偽の主張を撤回するように要請したが、本件商標権者は、請求人のこの要請は無視して回答していない(甲10)。
そして後述するように、本件商標権者は、権利の返還を交渉材料として、最終的に50,000米ドルの減額に成功した。
すなわち、本件商標権者は国際事務局に対して虚偽の主張を行った時点で本件国際登録の権利を詐取する目的は伺えるが、請求人からの虚偽の主張の撤回要請は無視し、自己の利益のための対価額の引き下げ要求を行い、このために詐取した本件国際登録の権利の返還を交渉材料として用いており、本件商標権者の悪意は明確である。
(力)本件商標権者からの本件国際登録の権利の返還の難航
2013年1月5日に、請求人の会社のCEOは本件商標権者と話し合いを行ったが、本件商標権者は全部譲渡が間違いであったことを知っていたと認めながらも、欧州以外の国の権利を返還することを拒否した。そればかりか、本件商標権者は本契約書の他の内容について修正を要求し、その点が解消された後であれば返還すると提案してきた(甲12)。
2013年1月15日に、請求人は、訴訟代理人を介して、本契約書に記載された「名義変更の確認書状を受領してから2営業日以内に300,000米ドル支払う」という規約を本件商標権者が遵守しないことに基づき、本契約を解除することにより問題を解決しようと試みた(甲13)。
これに対して、2013年1月17日に、本件商標権者は、新しいデザインの商品がある場合は譲渡の対価を450,000米ドルとし、そうでない場合は350,000米ドルとするように要求した(甲14)。請求人は仕方なくこの要求を受け入れ、譲渡の対価を450,000米ドルに減額することを了承した。
減額したにもかかわらず、2013年4月23日になっても、請求人に本件国際登録の権利の返還はなされなかった。本件商標権者は、請求人のCEOに対してMM5はすでに国際事務局へ提出済みであると知らせていた。それにもかかわらず権利が返還されないため、請求人は再び訴訟代理人を介して、当該権利を返還するよう本件商標権者に要求した(甲15)。
2013年4月26日に、訴訟代理人は国際事務局に対して当該権利のステータスを問合せたところ、同月29日付けで、現在の権利者は本件商標権者であり、2013年1月11日付けで国際事務局に一部譲渡のMM5が提出されたが、後日、本件商標権者によってキャンセルされた旨の回答があつた(甲16)。本件商標権者は、訴訟代理人(すなわち請求人)に対してMM5を国際事務局にすでに提出したと知らせていたのであるから、再度、事実と異なる虚偽の発言をして欺いていたことになる。
2013年4月30日に、請求人は訴訟代理人を介して再度、本件国際登録の権利を返還するよう要求した(甲17)。
2013年5月10日付けで、本件国際登録の欧州以外の指定国(米国、中国、シンガポール)の権利が移転された(甲5、参照4、甲9、参照2)。この時点での本件国際登録の指定国は米国、中国、シンガポールのみで日本の権利が消滅していたため、移転された指定国に含まれていないが、本件商標権者が署名して提出したMM5には、日本も含まれている(甲18)。このことは、本件商標権者は、請求人に返還すべき権利として、日本における権利が含まれていることを認識していたことを示している。
ただ、この譲渡の形式が、本件国際登録の全部譲渡をした後に、本件商標権者に対して欧州のみの一部譲渡を改めて行えば、本件国際登録(国際登録第924379号)の権利者が請求人、国際登録第924379B号の権利者が本件商標権者となっていたところを、この時点で欧州以外の指定国であった米国、中国、シンガポール(及び日本)について本件商標権者から請求人への一部譲渡の形式となったため、本件国際登録(国際登録第924379号)の権利者が本件商標権者、国際登録第924379B号の権利者が請求人という形になってしまった。
(キ)本件商標権者による日本を含む事後指定
本件国際登録の米国、中国、シンガポール(及び日本)に関する権利を譲渡した直後である2013年5月14日に、本件商標権者は、請求人に何も知らせることなく、密かに、本契約書の付属書類Bに記載の譲渡対象の欧州以外の欧州の国(スイス、アイスランド、ノルウェー、ロシア、トルコ、ウクライナ)について事後指定を行った(甲5、参照5)。請求人は、この事実を全く知らなかった。
2015年3月1日、本件商標権者は、請求人に何も知らせることなく、密かに、日本、韓国、カザフスタン、メキシコを事後指定した(甲5、参照6)。請求人は、この事実を全く知らなかった。日本については、平成28年(2016年)年2月12日に本件商標として登録された(甲1)。
なお、本件商標権者は上記の権利返還要請時頃から連絡が取りづらくなり、返還後は請求人との話し合いには全く応じていない。
ウ 上記の事実関係に基づき、本件商標が、その登録出願(事後指定)の経緯等に照らして社会的相当性を欠くものがあったか、すなわち、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標といえるかについて検討する。
(ア)本件商標の登録出願(事後指定)の経緯
本件商標の事後指定が行われた平成27年(2015年)年3月1日当時、本件国際登録の欧州以外の権利の所有者である請求人と、欧州のみの権利を譲渡された本件商標権者とは、本契約書の契約内容に縛られている関係にあった。そして、本契約書の規約には、欧州のみの権利を譲渡するのであって、それ以外のいかなる権利も本件商標権者に付与しない旨定めていたから、本件商標権者は本契約書のこの契約内容を遵守する義務及び請求人による本件国際登録の保有・管理を妨げてはならない信義則上の義務を負っていたものである。
それにも関わらず、本件国際登録が誤って全部譲渡とされた時点から既に、本件商標権者は本契約書の上記契約内容に違反する行為を行っている。すなわち、本件商標権者は全部譲渡が契約内容と異なることを認識していたにもかかわらず、国際事務局からの問合せの電話に対して、一部譲渡ではなく全部譲渡が正しいと、事実と異なる虚偽の主張を行っている。本契約書は2012年10月3日付けであるから、契約直後のことである。この時、本件商標権者が、一部譲渡が正しいことを国際事務局に伝えていれば、当事者双方の主張が一致しているとして、一部譲渡の訂正を行うことができていた。それを、本件商標権者は国際事務局に対して、契約内容と異なる虚偽の主張をし、契約内容と異なる全部譲渡の手続を無理やり押し通して、請求人から本件国際登録の権利を詐取した。
その上、自己の立場が有利になったことを利用し、権利の返還を交渉材料として、請求人との譲渡の対価に関する金銭的な交渉を行い、実際に本件商標権者は50,000米ドルもの減額交渉を成功させている。
また、本件商標権者は、請求人を欺いて、本件国際登録の権利が返還(移転)されたように見せかけていた。すなわち、実際は一度提出したMM5を自ら国際事務局にコンタクトを取ってキャンセルし、なかなか権利の返還(移転)を行わなかった。
さらには、本件商標権者は権利返還(移転)を行った直後に、本契約書の付属書類Bに記載の譲渡対象の欧州以外の欧州の国の事後指定を請求人に秘匿したまま行った。
そして、その後、日本を含めたさらに複数国について、請求人に告知せず次々と事後指定を行っている。
このように、日本への事後指定を含むこれらの本件商標権者の行為はいずれも、本契約書の契約内容である、請求人は本件商標権者に対して欧州以外の権利を譲渡しておらず、欧州以外の全ての国に対するいかなる権利も付与しないという規約に反する契約違反行為である。
換言すれば、本件商標権者は、本契約書の契約直後から度重なる契約違反行為を行い、日本への事後指定もその数ある契約違反行為の1つである。
(イ)本件商標の登録出願(事後指定)の目的
上述の通り、本件商標権者が、契約内容と異なる虚偽の主張を行って本件国際登録の権利を詐取し、それによって譲渡の対価の減額交渉を行い、契約内容には含まれない複数国の事後指定を請求人に秘匿し続けたまま次々と行い、その上で日本への事後指定を行った経緯からすれば、本件商標権者が日本への事後指定を行った目的については、他に合理的な説明かつかない限りは、何らかの不正な目的によるものであるといわざるを得ない。すなわち、すべては本件商標権者が契約直後に行った本件国際登録の権利の詐取から始まっており、これが明らかな契約違反行為、さらに言えば偽証による他人の権利の詐取であるから不当行為であったにもかかわらず本件商標権者の思う通りに事が運んでしまったことから、本件商標権者は、その後も減額交渉により現に不当な利益を得、あからさまに契約を無視して請求人の権利を不当に侵し続けた。この点を鑑みれば、日本の事後指定も日本における利益を不当に得る目的があったものと容易に推測できる。さらに、本件商標権者は、請求人に本件国際登録の権利を返還した時点で、日本の権利は請求人に移転されるべきことは認識していたことからすれば、その後、請求人に秘匿したまま行った日本の事後指定は剽窃的なものであることは明らかである。
また、実際に、日本においては、2014年7月10日付けでライセンス契約を締結した正規販売代理店が、請求人の商品を販売している(甲19)。なお、請求人は返還された自己の権利(国際登録第924379B号)に基づいて日本への事後指定を平成25年(2013年)年6月17日に行っていた(後に、手続きの不備で日本の事後指定は消滅した)。請求人は、平成28年(2016年)5月25日に改めて日本への事後指定を行ったところ、本件商標を引用して拒絶された(甲20)。したがつて、本件商標権者による日本の事後指定は、請求人及び正規販売代理店による日本における本件商標と同一の商標の使用及び権利化を阻み、請求人等の事業を不正に阻止し、損害を与える目的、かつ、それにより本件商標権者が日本で事業を展開することにより不当な利益を得ようとする目的を有していたことは明らかである。
したがって、本件商標権者による日本の事後指定は、欧州以外の権利はいかなる権利も付与しないとした本契約書の契約内容に違反するもので、契約内容を遵守し、請求人による本件国際登録の保有・管理を妨げてはならない信義則上の義務を負う立場にある本件商標権者が、請求人が日本への事後指定を行っていないことを奇貨として本件の事後指定を行い、本件商標に係る商標権を自ら取得し、その事実を利用して不当な利益を得ることを目的として行われたものである。
(ウ)公序良俗違反の有無
請求人が本件商標に対して申し立てた異議申立事件(異議2016−685009)の決定で、本件商標権者は、日本に事後指定された平成27年(2015年)年3月1日において、本件国際登録に係る国際登録簿に登録された名義人であることが認められることから、本件国際登録は、商標権者による国際登録後に行う領域指定(事後指定)であるので、手続を違法であるということはできないと判断された。
この点に関して、国際事務局は国際登録の名義人変更や事後指定などの手続きでは、権利の移転を証明する譲渡証書などの証拠書類を要求しておらず、むしろ、そのような証拠書類の受領を拒否している。さらに、国際事務局は紛争解決手段を持たないため、争いのある当事者間の問題を解決する方法がない。このような国際事務局の組織上及び制度上の構造が、今回のような権利の詐取を許したともいえる。すなわち、国際事務局に対して虚偽の主張により他人の権利を詐取した場合であっても、国際登録簿上の権利者となってしまえば自由に事後指定が可能である。当事者間の契約内容は不問である。本件商標権者は、契約直後の偽証がまかり通った経験から、この点を習得し、本契約書の契約内容を無視して利益を不当に得る目的で契約違反行為を容易に犯し続けられたものと考えられる。
しかしながら、上述したとおり、本件商標の事後指定の経緯及び目的に鑑みれば、本件商標権者による日本の事後指定は、請求人との間の契約上の義務違反となるのみならず、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであり、これに基づいて本件商標権者を権利者とする商標登録を認めることは、公正な取引秩序の維持の観点から見ても不相当であって、商標法の目的にも反する。
よって、本件商標は、その目的及び経緯に照らし、商標法4条1項7号の公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標に該当する。
なお、請求人は、本件国際登録の譲渡手続きの際に誤って全部譲渡のチェックボックスにチェックを行ってしまったり、日本への事後指定の手続きが滞ったり、という初歩的とも言える過失を行っている。しかしながら、これを本件商標権者との関係で見ると、請求人の過失によって生じた本件国際登録の全部譲渡、また、日本の事後指定をまだ行っていないことを意図的に利用して、請求人の使用商標であり、欧州以外の権利は請求人が有する商標権を自ら取得し、不当な利益を得ようとしたのであり、いわば、請求人の上記過失に乗じて背信的な行為に及んだのであるから、このような本件商標権者の行為の背信性が、請求人の上記過失の存在によって減じられるということにはならない。
したがって、請求人に上記のような過失があるからといって、公序良俗を害するおそれのある商標に該当するとの結論は左右されるものではない。
(2)商標法第4条第1項第19号
本件商標は、他人である請求人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものに該当する。
周知性
(ア)使用開始時期及び使用期間
請求人は、本件商標と同一又は類似の商標について、2004年にブランドとして確立して以降使用を開始し、2008年5月8日にオーストラリア国で創業し、現在に至るまで請求人の業務に係る商品(以下、「請求人商品」という。)に使用している(甲21、甲22)。
(イ)使用地域
使用地域は、後述のとおり、オーストラリアから、米国、イギリス、カナダ、ヨーロッパ各国、ニュージーランド、アジア各国、メキシヨ等の世界各国に広がっており、日本国内においては全国に及んでいる。
(ウ)広告宣伝
本件商標の事後指定がなされた平成27年(2015年)3月1日時点において、上記の国々で販売された数多くの雑誌に掲載され、インターネット販売サイトにおいても多くの記事が掲載された(甲23〜甲34、甲36〜甲40)。請求人商品はファッショナブルなエコバッグであるが、特に、ハリウッド女優が愛用している旨や、著名なハリウッド女優や前アメリカ大統領の娘等数多くの著名人が請求人商品を愛用している旨が雑誌で紹介され、請求人商品の周知性が益々高くなっていった。このように、請求人商品は、平成19年から平成23年頃には、世界的に周知性の高い商品となっていった。
日本においては、日本最大級のインターネット通販サイトにおいて、平成22年にエコバッグ部門でランキング第1位を獲得し(甲36)、「人気急上昇エンビロサックス便利なエコバッグ」として記事が掲載された(甲37)。同様に、楽天市場においても、平成22年にエコバッグ部門でランキング第1位を獲得した(甲38)。このように、日本においても平成22年にはエコバッグとして請求人商品はかなり高い周知性を有しており、その後も高いランキングを維持しており周知性も維持している(甲39、甲40)。
また、日本においては、請求人の正規販売代理店によって、平成26年頃から、世界的な見本市である東京ギフトショーに出展したり、数日間開催される展示会を開催したりしている。また、全国各地の百貨店などの店頭でも請求人商品が目立つように並べられ広告宣伝活動を重ねている(甲41〜甲51)。
(工)販売数量及び売上額
請求人の正規販売代理店(甲52)による販売数量は、平成19年(2007年)2月度から平成24年(2012年)1月度までの5年間で、17万6359個であり(甲53)、年平均では3万5271個、平成24年(2012年)年2月度から平成25年(2013年)年1月度では4万5199個(甲54)、平成25年(2013年)年2月度から平成26年(2014年)1月度では5万8987個(甲55)、平成26年(2014年)2月度〜平成27年(2015年)1月度では8万870個となっており、増加し続けている(甲56)。なお、甲53から甲56の商品コードにある商品は、例えば甲57に示すような商品である。
また、販売数量の増加に伴い、日本への輸入も増加しているのでこの証拠も併せて提出する(甲58)。ここの仕出人は、中国の貿易会社であって請求人商品の輸出エージェントである(甲64)。このエージェントからの出荷報告書も提出する(甲65)。甲65の商品コードにある商品は、例えば甲66に示すような商品である。
日本での売上額は、平成19年から平成23年において、請求人は上記以外の会社(甲61)とも取引を行っており、上記の販売数量とは別に、平成22年(2010年)は46万1043ドル、平成23年(2011年)は88万47ドルであり、約2倍近く増加した(甲62、甲63)。
また、オーストラリアでは、インターネット通販や、卸売業者(オーストラリアで約450)を介して、オーストラリア全域で販売活動を展開しており(甲59)、その販売数量は、2014年度は、7万5610個、2015年度は、11万6738個であった(甲60)。なお、甲60の商品コードにある商品は、例えば甲35に示すような商品である。オーストラリアでの売上額は、2014年は38万9107ドル、2015年は53万8777ドルであった(甲60)。
上記のとおり、本件商標は、請求人の商品の出所を示すものとして、本件商標の登録出願(事後指定)時及び査定時において、日本を含む世界各国におけるエコバッグ市場において高い周知性を有している。
なお、この点、請求人が本件国際登録の欧州の権利を当初500,000米ドルの譲渡価格で了承し契約を交わしたことからも、それだけの価値がある商標であると判断していたものであり、契約時(平成24年10月3日)には、すでに本件商標の顧客吸引力、すなわち、高い周知性が認められていたことが分かる。
不正の目的
上述したとおり、本件商標権者は、本件国際登録の権利を詐取し、それを利用して権利を返還することを仄めかしつつ当初の譲渡価格を減額するよう交渉し、実際に5万ドルの減額を行った。さらに、減額したにも関わらず、権利の返還をしぶり、契約にない欧州以外の国を請求人には秘匿しながら次々と事後指定し、日本の権利は本件商標権者の所有であることを認識しつつ請求人には秘密裏に日本の事後指定も行っている経緯から鑑みれば、本件商標権者が、日本についての本件登録商標の価値を十分に認識しており、日本でまだ事後指定がなされていないことを奇貨として、請求人や正規販売代理店による本件商標と同一又は類似の商標の使用及び権利化を阻み、請求人等の事業を不正に阻止し、損害を与える目的、かつ、それにより本件商標権者が自己の事業を日本においても展開することにより不当な利益を得ようとする目的を有していたことは明らかである。
よって、本件商標権者は、請求人が本件商標を長年使用してきたことにより、築き上げた信用にただ乗りし、不正の利益を得る目的及び他人に損害を与える目的で行われた行為に基づいて使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号の規定に該当する。

第4 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証から乙第8号証(枝番号を含む志)を提出した。
2 答弁の理由
(1)過去の異議事件について
請求人は、本件審判請求以前に、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当することを理由として、本件商標に対して異議を申立てていた(異議2016−685009)。
同事件は、最終的に本件商標を維持する決定がなされているところ、本件審判においても、同様の判断がされるのが相当である。
(2)本件商標の手続及び当事者間の交渉の経緯について
本件商標の商標権者と請求人との間には、複雑な事情が存在するため、その経緯を時系列にまとめている(乙1〜乙5)。詳細は後述にて説明するが、同経緯を確認すれば、請求人の主張は誤解に基づくものであることは明白である。
(3)商標法第4条第1項第7号について
ア 本件商標は、「EnviroSax」の欧文字から構成されてなるところ、これは我が国においては特定の観念を生じない造語として認識されるのが相当であり、その構成自体が、非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字ではないことは明白である。また、本件商標をその指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するという事情もないし、他の法律によってその使用等が禁止されているものでもなく、さらに、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合には該当しない。
イ 本件商標権者が正当な名義人である点
請求人は、2012年10月3日に本件商標権者及び請求人との間で締結した本契約書(甲7)に違反して登録を受けたため、出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとしては到底容認し得ないため、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると主張している。
しかしながら、上記異議事件でも判断されているとおり、本件商標権者は、我が国に国際商標登録出願(事後指定)された2015年3月1日においては、本件国際登録に係る国際登録簿に登録された正当な名義人であるところ、本件国際登録は、商標権者によるマドリッド協定議定書第3条の3第2項規定の国際登録の後に行う領域指定が可能であり、本件商標権者による本件商標に係る事後指定手続自体は、全く違法性はない。
ウ 請求人による本件商標の日本への事後指定
請求人は、国際登録第924379号及び同第924379B号の権利に基づき、日本への事後指定を3度行っている(乙1〜乙5)。
今回、本件商標の存在を理由に拒絶されたことを受け、請求人は本件商標に対して先述の異議申立て及び本件審判を請求している。このように、請求人は過去に日本において商標権を取得できる機会が十分にあったにも関わらす、日本での権利化を怠っていた。つまり、請求人は自らの不作為により生じた結果を、本件商標権者の責任として転嫁しているにすぎず、国際登録第924379号の正当な権利者である本件商標権者が、本件商標を登録したことに違法性は一切ない。
工 日本の事後指定を行う権利
請求人は、本契約書において「乙に対して本件国際登録に基づく欧州以外のいかなる権利も付与しないこと」が明記されていると主張している。しかしながら、異議事件において請求人自身が認めているほか、乙1から乙5から明らかなとおり、平成24年(2012年)6月10日付けで本件商標権者が請求人に対して本件商標の売却を申し入れた際、及び本契約書を締結した平成24年(2012年)10月3日には、日本は事後指定されておらず、商標権は存在していなかった。よって、両当事者間においては、交渉当初から日本の商標権のことは想定されていなかったことは明白であり、請求人が主張するところの日本の事後指定を行う権利というものは、そもそも存在していない。
オ 本契約書について
請求人は、本契約書に本件商標権者が違反している旨を主張している。しかしながら、本件商標権者と請求人とは、2013年1月24日付けにて、本契約書の一部修正に同意した修正証書を締結しており(乙6)、同修正証書が両当事者間での最新の契約にあたり、両当事者は遵守が求められている。
修正証書によれば、2013年1月17日付けで、請求人らは本契約書の契約を解除しようとしたが、本件商標権者の要求及び修正証書の内容を考慮して、請求人らは同解除の取消しに同意し、修正証書を締結した(乙6、翻訳参照1及び2)。そして、修正証書の条項21には、本件商標権者が本件登録商標の譲渡対価の支払いを完了次第、両当事者は、同意した内容及び欧州商標に関する互いの要求から解放されると明記されている(乙6、翻訳参照3)。つまり、本件商標権者は、請求人らへの支払い完了後は、請求人に対して負うべき義務はない。
なお、修正証書では、本件商標権者のビジネスパートナーの署名が見受けられないが、これは本件登録商標の権利者ではないことから署名の必要がないと考えられたためである。この点については、2013年1月31日付けの本件商標権者宛ての信書において、修正証書の契約の当事者である請求人の関係者も了承済であり、修正証書の契約の有効性及び両当事者の義務が解放された点を認めている(乙7、翻訳参照)。
よって、本件商標の違法性と請求人と本件商標権者の間の契約とは無関係であることは明白である。
以上より、請求人が2015年(平成27年)3月1日にした本件商標に係る国際商標登録出願(事後指定)の経緯が著しく社会的妥当性を欠いており、その登録を認めたことが商標法の予定する秩序に反することは一切ない。
(4)商標法第4条第1項第19号について
不正の目的について
上述のとおり、本件商標権者と請求人との協議開始から修正証書が締結されるまでの間、本件登録商標に関する日本での商標権は存在しておらず、かつ、両当事者の間において日本での権利化については一切協議されていなかった。そして、本件商標権者が請求人に対価を支払った時点で、両当事者は互いの請求から解放されている。加えて、現に欧州において本件登録商標のバッグの販売を行っており(乙8の1、2)、本件登録商標の正当な権利者である本件商標権者が、日本で権利化を図ることは権利者として当然に許される行為であり、そこに不正の目的は一切ない。
周知性について
(ア)使用地域
請求人により請求人商品の販売数量及び売上高が示されているのは、オーストラリア及び日本のみに留まり、それ以外の国及び地域での使用状況は不明である。
(イ)広告宣伝
請求人提出の証拠(甲36〜甲40)は、日本におけるインターネット販売サイト上におけるショッピングランキングのウェブサイトのプリントアウトであるが、いずれの証拠も、請求人とライセンス契約を締結し、関係性が極めて深い者がランキング時期を認めているにすぎず、客観性を欠いている。加えて、本件商標と思しきブランドバックのランキングは20位に留まり(甲39)、決して高くはない。
東京ギフトショーでの出展状況と思しき証拠(甲41〜甲45)は、同ギフトショーの来場者数などは具体的に説明されておらず、どの程度の来場者があり、人々に認知されたのかが不明である。さらに、本件商標の事後指定日以降の証拠(甲44、甲45)は、採用すべきでない。
インテリアライフスタイル展での出展状況と思しき証拠(甲46)は、来場者数などの詳細な説明がないことに加え、本件商標の事後指定日以後の証拠であり、採用すべきでない。
また、百貨店における出展状況と思しき証拠(甲47〜甲51)は、いずれも請求人と関係性が深い者が出展場所及び出展時期を示しているにすぎず、客観性を欠いている。また、本件商標の事後指定日以降の証拠(甲50)は、採用すべきでない。
(ウ)販売数量及び売上高
請求人は、日本及びオーストラリアにおける販売数量及び売上高について主張しているものの、各国の市場に占める占有率は明らかにされておらず、日本での販売価格が1個1,000円程度と、決して高いとは言えないバックであることを考慮すると、販売個数がそれ程あるとはいい難い。
よって、請求人提出の証拠(甲21〜甲60)のみでは、本件商標の事後指定日までに、本件商標が、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されるに至っていたとはいえない。
(工)以上より、本件商標の日本への事後指定手続にあたって、本件商標権者が不正の利益を得る目的及び他人に損害を加える目的を有していないことは明白であり、かつ、提出証拠からでは、本件商標が、請求人商品を表示するものとして、我が国又は外国において、需要者の間に広く認識されていたものとはいえないため、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

第5 当審の判断
1 請求の利益
請求人が本件審判を請求することの利害関係の有無については、当事者間に争いがなく、当審は請求人が本件審判の請求について利害関係を有すると認める。
なお、本件商標の登録は、上記第1のとおり、一部取消し審判(平成31年4月5日に審判請求の登録)により、第18類「全指定商品」について取り消されているものの、その日以前の登録に関して、本件審判における請求の利益がある。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本件商標の出願の経緯について
ア 本件商標について
本件商標は、本件商標権者が、上記第1のとおり、国際登録第924379号(以下「本件国際登録」という。)に基づき、2015年(平成27年)3月1日に、我が国を領域指定して事後指定(国際商標登録出願)したものである。
イ 本件国際登録と関連する経緯について
請求人及び被請求人の主張及び提出証拠によれば、本件国際登録と関連して、以下の事実が認められる。
(ア)本件国際登録
本件国際登録は、請求人により、2005年3月1日付けでオーストラリア国において出願・登録された「EnviroSax」の欧文字よりなる商標(No.1043892)を基礎として、2007年4月13日付けで国際登録されたものである(甲1、甲2)。
(イ)本件契約1(2012年10月3日)
請求人は本件商標権者との間で、本件国際登録に係る「EnviroSax」商標の一部である欧州商標(欧州共同体の加盟国のみを含む地域に関連するもの。)についての権利を譲渡する条項を有する売買契約書に、2012年10月3日付けで合意した(甲7)。
当該契約書には、上記欧州共同体の加盟国の国名や、購入対価額(1回目支払20万米ドル、2回目支払30万米ドル)が明記されている。
(ウ)本件国際登録の移転(2012年11月1日)
本件国際登録は、名義人を本件商標権者に変更したことが、2012年11月1日付けで国際登録簿に記録された(甲9、参照1)。
(工)当事者の交渉(2012年12月〜2013年1月)
請求人は、本件国際登録の上記移転は、請求人の手続ミスによる誤りであるとして、関係官庁や本件商標権者との間で連絡及び交渉を複数回行った(甲8、甲10〜甲14)。
上記交渉においては、本件商標権者から対価の減額(35万米ドルや45万米ドル)について言及があったとされる。
(オ)本件契約2(2013年1月24日)
請求人は本件商標権者及び関係者(「BELLOUCO PTY LIMITED」を含む。)との間で、本件契約1と関連する修正証書について、2013年1月24日付けで合意した(乙6)。
当該証書には、支払いが完了次第、合意事項及び欧州商標についての相手方に対する一切の請求から相手方を解放する旨の条項(新条項21)がある。
(力)書簡(2013年1月31日)
「BELLOUCO PTY LTD」から本件商標権者に宛てた、2013年1月31日付けの書簡には、欧州商標の売買の支払い全額(45万米ドル)を受領したこと、上記条項21の免責事項について確認していることが記載されている(甲7)。
(キ)当事者の交渉(2013年4月)
請求人は、本件商標権者に対して、本件国際登録について適切な所定の手続を行うように複数回にわたり催促した(甲15、甲17)。
(ク)本件国際登録の一部譲渡(2013年5月10日)
本件国際登録は、国際登録第924379B号商標として、中国、シンガポール及び米国の領域指定について、請求人に対して一部譲渡されたことが、2013年5月10日付けで国際登録簿に記録された(甲5、参照4、請求人の主張)。
(ケ)本件商標の事後指定
本件商標権者は、本件国際登録に基づき、日本(本件商標に相当する。)、韓国、カザフスタン、メキシコを領域指定して、2015年3月1日付けで事後指定した(甲5、参照6)。
本件商標は、上記第1のとおり、我が国において平成28年(2016年)2月12日に設定登録されている。
(2)請求人の我が国における事業の経緯について
ア 請求人は、国際登録第924379B号商標に基づき、2013年6月6日に我が国を事後指定したが、請求人の手続の不備により、設定登録には至らなかった(甲20、請求人の主張)。
イ 請求人は、2014年7月10日付けで契約した正規代理店を通じて、我が国において引用商標に係る商品販売をしている(甲19)。
しかしながら、当該事業活動が本件商標や本件商標権者によって阻害されるなど、具体的な影響を受けたことを示す証拠は提出されていない。
ウ 請求人は、国際登録第924379B号商標に基づき、2016年5月25日に我が国を事後指定し、本件商標を引用した拒絶理由が通知されたものの、結局は登録査定された(甲20、職権調査)。
(3)検討
ア 以上の認定事実によれば、請求人と本件商標権者は、過去に本件国際登録と関連した譲渡契約(本件契約1)を締結していたものの、同契約は修正証書(本件契約2)により契約内容が変更されており、当該契約内容には、対価の支払いにより両当事者は合意事項についての一切の請求から解放される旨の条項もある(対価の支払いは確認されている。)から、両当事者の間において、当該契約に基づき、何らかの義務や制限を負うような契約関係(例えば、本件商標権者が我が国を領域指定しないという不作為義務)は確認できない。
なお、本件契約1が欧州商標に関する譲渡契約であることをもって、その譲受人である本件商標権者が本件商標を我が国に登録出願(領域指定)しないという将来的な不作為義務までを負うことになるとは、そのような明示の合意がない以上、直ちには首肯し難い。
イ また、マドリッド協定議定書によれば、本件国際登録に基づき、国際登録の後であっても保護の効果を求める締約国を領域指定することができる(同議定書第3条の3第2項)ところ、本件商標権者は、当該手続に従って我が国を領域指定(本件商標の事後指定)したにすぎず、その手続に特段の違法や不正はない。
なお、請求人は、本件商標の国際商標登録出願より前に、国際登録第924379B号商標に基づき我が国で商標権を取得する機会(2013年6月6日)がありながら、自らの手続の不備により失しており、いうなれば、本件商標が我が国において設定登録されたことは自らの過失に帰するものともいえる。
ウ さらに、請求人の我が国における事業活動が、本件商標や本件商標権者によって阻害されるなど、具体的な影響を受けた事実は確認できず、その他、本件商標権者が本件商標を登録したことを奇貨として、請求人の業務を阻害したり、不正の利益を得たことを認めるに足りる証拠はない。
なお、本件国際登録と関連した種々の問題は、本件商標に係る登録出願時点とは離れた時期のもので、本件商標の出願経緯との直接の関連性は、提出証拠からは必ずしも明らかではない。
工 そうすると、本件商標の登録出願は、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的)でなされたものとはいえず、その目的及び経緯に鑑みて適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為であると認めることはできない。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とはいえず、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)引用商標の周知性について
ア 請求人の主張及び提出証拠によれば、引用商標と関連して、以下の事実が認められる。
(ア)請求人によリオーストラリアにおいて2004年に設立された「ENVIROSAX」は、「エコバッグ」を取り扱うブランド(以下「請求人ブランド」という。)である(甲21、甲33)。
(イ)請求人ブランドに係る商品は、我が国においてもインターネット通信販売を通じて販売されている(甲35〜甲39)。
また、請求人ブランドは、2014年から2016年に開催された我が国の商品見本市に出展している(甲41〜甲49)。
(ウ)請求人ブランドに係る商品(エコバッグ)の売上数は、5年間(2007年2月〜2012年1月)で約17万6千個(年平均で3万5千個)、2012年は約4万5千個、2013年は約5万9千個、2014年は約8万1千個である(甲53〜甲56)。
なお、上記以外の店舗を通じた売上げもある。
イ 以上によれば、引用商標に相当する請求人ブランドは、我が国においてインターネット通信販売を通じた商品販売及び広報活動(商品展示会)をしており、2007年以降から継続的な販売実績があるとしても、我が国におけるメディア等を通じた広告実績(広告手法、広告規模)は不明であり、その販売実績も市場シェアなどが不明であることもあって、その多寡を評価することは困難である。
そうすると、請求人提出の証拠によっては、引用商標が、本件商標の登録出願時点において、請求人の業務に係る商品「エコバッグ」を表示するものとして、日本国内における需要者の間に広く認識されるに至っていたとは認められない。
(2)不正の目的
本件商標は、上記2(3)工のとおり、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他の不正の目的)をもって出願、使用されているとは認められない。
(3)結論
以上のとおり、引用商標は日本国内における需要者の間に広く認識されている商標ではなく、また、本件商標は、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他の不正の目的)をもって使用をするものとはいえないから、本件商標と引用商標が共通する構成文字からなるとしても、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 むすび
以上を踏まえると、本件商標は、その指定商品中、第18類「全指定商品」についての登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に違反してされたものとはいえないから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2022-02-15 
結審通知日 2022-02-22 
審決日 2022-03-08 
審決分類 T 1 12・ 22- Y (W1825)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 矢澤 一幸
特許庁審判官 阿曾 裕樹
杉本 克治
登録日 2015-03-01 
商標の称呼 エンビロサックス、エンバイロサックス 
代理人 特許業務法人松原・村木国際特許事務所 
代理人 特許業務法人松原・村木国際特許事務所 

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