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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効としない W16
管理番号 1389837 
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-04-16 
確定日 2022-02-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第6320131号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6320131号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和2年1月23日に登録出願、第16類「マスキングテープ(文房具)」を指定商品として、同年11月9日に登録査定、同月24日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に該当するとして引用する商標は次のとおりであり(以下、これらをまとめていうときは、「引用商標」という。)、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(1)登録第5808784号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様 マステ(標準文字)
指定商品 第16類「マスキングテープ(文房具)」
登録出願日 平成25年11月25日
設定登録日 平成27年11月27日
(2)登録第5761593号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の態様 別掲2のとおり
指定商品 第16類「マスキングテープ(文房具)」
登録出願日 平成26年12月26日
設定登録日 平成27年5月1日
(3)登録第5954311号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の態様 別掲2のとおり
指定商品及び役務 「文房具類」を含む第16類並びに第3類、第27類及び第35類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務
登録出願日 平成28年3月31日
設定登録日 平成29年6月9日

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を審判請求書及び弁駁書において要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第31号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項の規定により無効にすべきものである。
2 審判請求書における主張
(1)請求人の無効審判請求適格について
請求人は、令和2年11月25日付で、被請求人に対して、本件商標は、請求人が所有する引用商標1、引用商標3等に類似する商標である、との通知書を発送した(甲2の1)。これに対して、被請求人は、令和2年12月8日付で、本件商標は、類似しない旨を回答書により返答した(甲2の2)。
したがって、請求人は、本件商標に対する無効審判を請求するにつき、利害関係を有するものである。
(2)本件商標の構成態様等について
ア 本件商標の構成中、ローマ字「TENSYA」は、漢字「転写」の読みを表したものであり、ローマ字「MASUTE」は、片仮名「マステ」の読みを表したものであるから、本件商標は、「テンシャ」若しくは「マステ」の称呼を生ずるものである。「転写」は、広辞苑によれば、「文章・絵などを他のものから写しとること。」などの意味を有する一般的名称であり(甲6の1)、「マステ」は、広辞苑のような辞書等に記載はない。
イ 本件商標の使用態様について見ると、「TENSYA MASUTE」の文字の下に、「転写」の漢字、その下に「マステ」の片仮名の表示があり、外観構成上分離して使用されている(甲7の1〜甲7の7の2)。また、「転写マスキングテープ(枝)のトップ層をはがす際は枝先から根元のほうに向かってゆっくりはがしてください。」等のように「転写」の意味の記載がなされている(甲7の6の1、甲7の6の2、甲8)。
ウ 被請求人のWebサイトには、「転写マスキングテープ」の頁があり、その使用態様は、「転写」の文字の下に「マスキングテープ」の表示、その下部に小さく「アクセサリー」の文字、さらに、右側に「指でこすって/ゆっくり/はがすだけ」の図の説明文が表示されている(甲9の1〜甲9の3の2)。また、被請求人は、第16類「マスキングテープ(文房具)」を指定商品として、「転写/マスキングテープ/TENSYAMaskingtape」と3段で構成した商標を登録出願したが、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する旨の拒絶理由通知が発せられている(甲10の1〜甲10の2)。
エ 以上のとおり、被請求人は、「マステ」シリーズ(甲7の1〜甲8)と、「マスキングテープ」シリーズ(甲9の1〜甲9の3の2)とを使い分けており、しかも「転写」の文字は、「指でこすって/ゆっくり/はがすだけ」(甲9の2の2等)等の一般的名称としての説明がなされている。
(3)引用商標の使用等について
引用商標1は、件外審決を経て登録された造語商標である(甲3の3)。請求人は、当該件外審判事件において主張したとおり、平成25年(2013年)9月4日付けでマスキングテープの新ブランド「maste(マステ)」を発表し、その使用を開始した。
引用商標は、「マスキングテープ(文房具)」について継続使用されているものであるから(甲11の1〜甲13)、少なくとも「マスキングテープ(文房具)」を取り扱う取引者・需要者間にあっては、引用商標は「需要者の間に広く認識されている商標」となっている。
なお、当該件外審判事件以降、請求人は、請求人の商品カタログに、「『maste』および『マステ』は、株式会社マークスグループ・ホールディングスおよびリンレイテープ株式会社の登録商標です。」と記載している(甲13)。
(4)本件商標と引用商標との類否について
本件商標の構成中の「転写」の漢字と「マステ」の片仮名とは、異なる書体で構成されてなるものであるから、「転写」と「マステ」とは、外観構成上においても分離観察されるものである。そして、「転写」の文字は、上述のとおり一般的名称であり、「転写シールセット・・・」(甲14)のように商品の一般的名称として使用されている言葉でもある。
本件商標の構成中の「転写」の漢字部分からは、「TENSYA」のローマ字の表記のとおりの「テンシャ」の称呼が生じ、「マステ」片仮名部分からは、「MASUTE」のローマ字の表記のとおりの「マステ」の称呼が生ずる。
一方、引用商標の構成からは、それぞれ「マステ」の称呼が生ずる。
そうすると、本件商標と、引用商標とは、称呼を共通にする類似する商標である。
また、本件商標の構成中の「マステ」の片仮名は、引用商標1の構成と同一である。
そして、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一である。
(5)不正の目的について
引用商標は、造語商標であり、その継続的な使用(甲12、甲13)により取引者・需要者間において周知商標として認識されていることから、「日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」である。
そして、被請求人は、本件商標の登録出願前である平成31年(2019年)4月11日以前に、請求人と面会の機会があり、しかも当該日付以降も請求人と被請求人との間では商取引がなされている(甲16)。
請求人が、平成25年(2013年)9月4日から、「マスキングテープ」に引用商標を継続使用している事実は、少なくとも「マスキングテープ」を取り扱う取引者・需要者間において知得していたことは明らかである。
しかも、被請求人は、上述のとおり、「転写/マステ」(甲7の1〜甲8)のように登録商標である「マステ」と、「転写/マスキングテープ」(甲9の1〜甲9の3の2)の商品の一般的名称である「マスキングテープ」とを使い分けているのであるから、請求人が所有する周知商標である「マステ」の名声に「只乗り(フリーライド)、稀釈化(ダイリューション)」等をしようとするものであることは明白であり、「不正の目的」の意図を有するものである。
(6)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に該当する。
3 弁駁書における主張
(1)被請求人は、「マステ」は、引用商標が商標登録される前から、マスキングテープの愛好者の間で、マスキングテープの略語として使用されていたと主張する。
しかし、被請求人の提出に係る書証(乙1、乙2)は、「マステ」が取引者・需要者間において一般的に使用されていたものであるとの書証とはなり得ない。引用商標1が登録される以前に先使用があるとするならば、商標法上は、第32条で処理すれば足りるところであるが、当該権利は、被請求人が主張し得るところのものではなく、かつ、同条は、「現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」という要件を充足する必要がある。
また、被請求人は、商品「マスキングテープ」に使用される「マステ」の識別性はそれほど強いものではないと主張するが、単に主観的な判断に基づくものであり、客観的な事実に基づくものではない。被請求人の提出に係る書証(乙3〜乙7)は、引用商標1の商標登録日以降のものであるから、只乗り(フリーライド)若しくはミスユースの問題である。請求人は、費用・効果等の面から、全ての只乗り(フリーライド)若しくはミスユースに対して対策・対応するものではなく、選別しながら警告等を行うものであり(甲2の1、甲17〜甲21)、今後も同様の対応をする所存である。
(2)請求人は、「マステ」は、指定商品「マスキングテープ」に使用しても、識別性がそれほど強いものではないなどと主張するが、既知の言葉である「転写」と対比して、「マステ」(登録商標)の識別力がそれほど強くはないという被請求人の主張は、何ら証拠に基づくものではなく、根拠がない。本件商標は、「転写」と「マステ」とが、その構成書体である漢字と片仮名という相違ともあいまって、分離観察されるというのが自然である。また、審判請求書に記載したように、被請求人は、「マステ」シリーズと、「マスキングテープ」シリーズとを使い分けていることから、被請求人は、本件商標の構成中の「マステ」が登録商標であることを認識し、かつ「マスキングテープ」が一般的名称であることを認識していることは明らかである。本件商標と、引用商標とは、同一の称呼「マステ」を共通にする類似する商標であり、その指定商品についても同一の商品である。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)請求人が件外審判事件において提出した、引用商標1が登録されるまでの証拠は、当該事件の書類を閲覧すれば明らかなところであり、本件商標の無効審判事件に重ねて提出する必要がないと判断した。再度提出する必要がある場合には、直ちに提出可能な書証である。
また、被請求人は、「請求人が本審判事件において提出した証拠には、本件商標の登録査定日までに引用商標が使用された事実は何ら示されていない。」と主張する。しかし、請求人は、引用商標1が商標登録された2015年11月27日以降においても継続使用されていることを示す証拠として書証(甲12、甲13)を提出しており、このような被請求人の主張は、実益のない議論である。インターネットのサイト(甲12)は、継続使用している場合であっても、印刷した日付は、印刷日が印字されるものである。当該書証に示す「オンライン・マークス」は、2000年2月に開設され(甲12の1)、それ以降継続使用されている。なお、被請求人は、引用商標1の商標登録日から本件商標の登録査定日の期間に、引用商標が継続使用されている証拠がないと主張するので、証拠を確認のため提出する(甲22〜甲31)。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると主張し、その理由を審判事件答弁書において、要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)「マステ」の識別性について
引用商標は、いずれも「マステ」を含んでいるが、「マステ」は、引用商標が商標登録される前からマスキングテープの愛好者の間で、マスキングテープの略語として使用されていたものである(乙1、乙2)。この点、請求人は、あたかも引用商標1が識別性の強い造語からなる商標であるかのような主張をしているが、上述のように「マステ」は造語ではなく、マスキングテープの需要者の一部である愛好家がマスキングテープの略語として使用していたものであり、識別性の強いものではない。また、件外審決(甲3の3)は、「マステ」は、識別性がないとはいえないといっているだけであり、識別性が強い商標であるとの認定は行ってない。
そして、「マステ」は、引用商標が登録された後も、需要者の一部でマスキングテープの略語として使用が継続され(乙3〜乙7)、本件商標の登録時までに、「マステ」の識別性は弱められている。
したがって、商品「マスキングテープ」に使用される「マステ」は、マスキングテープという商品の品質を表すまでには至らないものの、その識別性はそれほど強いものではない。
(2)引用商標は周知でないことについて
請求人が提出する引用商標の使用例については、パッケージに「maste」と「マステ」の文字が印刷された商品(マスキングテープ)の写真が示されているだけであり、この商品の販売数量、販売期間等は何ら示されていない(甲11の1〜甲11の3)。
2021年3月8日出力のウェブサイト(甲12)には、商品(マスキングテープ)の写真画像とその価格等が表示されているところ、一部の写真画像(5葉目〜8葉目)に「maste」が表れているだけであり、本件商標の登録査定日(2020年11月18日)までに当該ウェブサイトが存在したことは示されておらず、「maste」が表されている画面にアクセスした人数等も示されていない。
商品カタログ(甲13)は、全22頁からなり、各頁にはマスキングテープの使い方等が写真画像入りで記載され、多くの頁に「maste」ないし「マステ」の文字が記載されているが、最終頁に「2021.01」の日付が記載されていることから、この商品カタログは、本件商標の登録査定後の2021年1月に配布されたものであるが、引用商標が周知であるか否かは、本件商標の登録査定日において判断される。
したがって、請求人は、本件商標の登録査定日までに引用商標が使用された事実を何ら示していないから、引用商標が請求人の商品「マスキングテープ」を表示するものとして周知であるとする請求人の主張は失当である。
(3)本件商標と引用商標は非類似であることについて
本件商標と引用商標を対比すると、両商標は、「マステ」の文字を有する点で共通するが、本件商標は、「転写(TENSYA)」の文字を有し、「マステ」とは異なる称呼・観念が生じ、引用商標からはそのような称呼・観念が生じない点で相違する。この場合、両商標に共通の「マステ」は、上述のように指定商品「マスキングテープ」に使用しても、識別性がそれほど強いものではない。
また、引用商標は、上述のように請求人の商品「マスキングテープ」を表示するものとして周知とはなっていない。
そして、本件商標が有する「転写」(テンシャ)は、「文章・絵などを他のものから写しとること」を意味する一般的な用語であるが(甲6の1)、この「転写」を「マステ」と組み合わせて「転写マステ」とした本件商標は、全体として識別性のある商標となり、「マステ」だけからなる引用商標とは異なる称呼・観念を生ずることとなる。
よって、本件商標と引用商標とは、全体として外観・称呼・観念が異なり、本件商標が使用されたマスキングテープと引用商標が使用されたマスキングテープの出所の混同は生じず、本件商標と引用商標は非類似である。
(4)「マステ」を含む商標の登録例
本件商標以外にも、「マステ」と、一般的な用語の文字であって「マステ」とは異なる称呼・観念を生じる文字を組み合わせた商標は、指定商品にマスキングテープを含むものであっても、引用商標とは非類似であるとして商標登録されている(乙8、乙9)。
(5)まとめ
以上のとおり、本件商標は、引用商標に類似せず、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第19号について
(1)引用商標は周知商標でないことについて
請求人が、件外審判事件において提出したと主張する甲号証は、本無効審判事件においては、証拠として提出されていない。
また、上記1(2)で述べたように、請求人が本審判事件において提出した証拠には、本件商標の登録査定日までに引用商標が使用された事実は何ら示されていない。
したがって、引用商標が周知商標であるとの請求人の主張は、証拠に基づかないものであり、失当である。
なお、請求人は、引用商標が造語商標であると主張しているが、これが誤りであることは、上記1(1)で述べたとおりである。
(2)本件商標と引用商標は非類似であることについて
上記1(3)で述べたとおり、本件商標と引用商標を対比すると、両商標は、「マステ」の文字を有する点で共通するが、本件商標は、「転写(TENSYA)」の文字を有し、「マステ」とは異なる称呼・観念が生じ、引用商標からはそのような称呼・観念が生じない点で相違する。
そして、上記1(1)で述べたとおり、「マステ」の識別性は強くなく、上述のように引用商標は周知商標ではない。
また、本件商標が有する「転写」(テンシャ)は、一般的な用語であるが(甲6の1)、この「転写」を「マステ」と組み合わせて「転写マステ」とした本件商標は、全体として識別性のある商標となり、「マステ」だけからなる引用商標とは異なる称呼・観念を生ずることとなる。
したがって、本件商標と引用商標とは、全体として外観・称呼・観念が異なり、本件商標が使用されたマスキングテープと引用商標が使用されたマスキングテープの出所の混同は生じず、本件商標と引用商標は非類似である。
(3)まとめ
以上のとおり、引用商標は周知商標ではなく、本件商標と引用商標とは、全体として外観・称呼・観念が異なる非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
ア 本件商標は、別掲1のとおり、手描き風の「転写マステ」の文字と、サンセリフ体の「TENSYA MASUTE」の欧文字とを上下二段に横書きしてなるところ、それぞれの構成文字は、同じ大きさ、同じ書体で横一列に配置されており、上下段の各文字部分も、両端を揃えて近接して配置されているため、構成上まとまりのよい印象を与えるものである。そして、上段の文字部分は、黒色の太字で表されており、下段の欧文字部分は、薄灰色で、上段に比して小さく(高さは上段の文字の2分の1ほどである。)表されていることから、色彩の濃淡及びその大きさもあいまって、下段の欧文字は、上段の漢字及び片仮名の読みを示すために付加表記したものと看取、理解されるものである。
イ また、本件商標の構成中、「転写」の文字は、「文章・絵などを他のものから写しとること。」(甲6の1)の意味を有する親しまれた語であり、「マステ」の文字については、被請求人の提出した証拠によると、以下のような使用例が認められる。
(ア)「DICTIONARIES&BEYOND WORD−WISE WEB 三省堂辞書ウェブ編集部によることばの壷」のウェブサイトにおいて、「第258回 日高貢一郎さん:熊本方言の書かれたmt 2013年6月15日」の見出しの下、「・・・『mt』とは、さて、何ということばの省略形でしょうか?(ヒント):その他に、愛好者の間では『マステ』という略語も使われている由。正解は『m=マスキング t=テープ』です。この分野でのリーダー企業『カモ井加工紙』の部内での通称が次第に愛好者に広がってきたもので、今では『mt』は、同社の商標になっています。『マスキングテープ(masking tape)』は元々は塗装をする際、塗料が付いては困る範囲を保護するために貼るものでした。が、最近は文具や雑貨のような使われ方をすることも増えており、カラフルで多様なデザインのテープが登場しています。」の記載がある(乙1)。
(イ)「YOJOTAPE」のウェブサイトにおいて、「YOJOTAPEとは」の見出しの下、「養生テープ・・・に柄が入って『YOJOTAPE』として生まれました!・・・誕生のきっかけは2014年2月・・・『私たちがDIYするとき、マスキングテープより養生テープをよく使うんだけど、マステみたいに可愛い柄ができないの?』の一言。」の記載がある(乙2)。
(ウ)「本と文房具とスグレモノ」のウェブサイトにおいて、「2016−03−27 【必殺の文具】達人が薦める『マステの使い方』とは?〜どんどん増殖するマステに歯止めをかけろ!〜」の見出しの下、「マスキングテープの人気続いてますね。・・・今日は久々にマステ好きの僕が『マステの使い方』をご紹介します。」の記載がある(乙4。なお、証拠上の「甲第4号証」の記載は、「乙第4号証」の誤記と認める。)。
(エ)「ハセガワ トライツール情報『模型用工具・マテリアル』」のウェブサイトにおいて、「『マステ』極細の0.3mmと0.5mm 投稿日:2017年4月28日」の見出しの下、「スグレモノ工具 いつの間にか『マスキングテープ』の呼び方が『マステ』になっていた・・・?長年模型を作られている皆さんにとっては、マスキングテープは当たり前に、気がつけば身近にありましたよね。そんなマスキングテープのことを、『マステ』と短縮して呼ばれていたという『おじさんちの知らなかった世界』がTVで放送されて驚いたわけですが、かつては工業用として利用されたマスキングテープが、可愛い柄で、おしゃれで、便利になって、女性に大人気というからさらに驚きです。」の記載がある(乙5)。
(オ)「キャラWalker」のウェブサイトにおいて、「リサとガスパール誕生20周年記念デザインのマステとロール付箋が登場 2019.8.28 UPDATE!!」の見出しの下、「今年は、リサとガスパールが誕生して20周年のアニバーサリーイヤー。・・・この記念年に新しく登場したのが、“Sante!”柄のマスキングテープとロール付箋。」の記載がある(乙6)。
(カ)「MAMADAYS」のウェブサイトにおいて、「編集部で試してみた! 13のマステ活用テク」の見出しの下、「お家にいる時間が長く続く中、マステの活用方法を知っておくだけでこんなに便利!という方法を一斉にご紹介。・・・公開日:2020年8月20日・・・マスキングテープ活用 1.ビニール傘の持ち手 間違われやすいビニール傘、持ち手にマステを貼ってアレンジするともう間違えられない!・・・」等の記載がある(乙7)。
以上によれば、「マステ」の文字は、本件商標の登録出願時又は登録査定時までに、「マスキングテープ」の略称として使用されていることが認められるから、本件商標の指定商品である「マスキングテープ(文房具)」との関係においては、「マスキングテープ」の意味合いを想起させるものといえる。
そこで本件商標をみるに、その構成中の「文章・絵などを他のものから写しとること。」の意味を有する「転写」の文字と、粘着テープである「マスキングテープ」を想起させる「マステ」の文字とを結合した「転写マステ」の文字は、当該文字全体として、特定の意味を有する成語となるものではないが、それぞれの語義又は想起させる意味合いから「文章・絵などを写しとるマスキングテープ」程度の意味合いを連想、暗示させるものである。また、その構成文字から生じる「テンシャマステ」の称呼も、格別冗長というべきものでなく、無理なく一連に称呼し得るものである。
ウ 以上を踏まえると、本件商標は、「転写」及び「マステ」の文字を組み合わせた結合商標であるものの、両文字部分の構成態様、観念及び称呼における一体性等に鑑みると、いずれかの文字部分が自他商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものでもなく、出所識別標識としての称呼及び観念が生じないというものでもないから、特定の文字部分のみを要部として抽出するのではなく、構成文字全体を対比して商標の類否を検討すべきである。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「テンシャマステ」の称呼を生じ、特定の観念までは生じないが、「文章・絵などを写しとるマスキングテープ」程の意味合いを暗示させるものである。
(2)引用商標について
引用商標1は、前記第2のとおり、「マステ」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して「マステ」の称呼を生じ、上記(1)と同様、引用商標1の指定商品である「マスキングテープ(文房具)」との関係においては、「マスキングテープ」の意味合いを想起させるものである。
引用商標2及び引用商標3は、別掲2のとおり、ゴシック体の「maste」の文字(その構成中、語尾の「e」の文字には、アクサンテギュが付されている。以下同じ。)とゴシック体の「マステ」の文字とを二段に横書きした構成からなるところ、下段の片仮名は、上段の欧文字の読みを示すために付加表記したものと看取、理解されるといえ、その構成文字に相応して「マステ」の称呼を生じる。そして、「maste」の文字は、辞書類に載録されている既成の語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているものともいえないことからすれば、特定の観念は生じない。
そうすると、引用商標は、「マステ」の称呼を生じ、引用商標1については「マスキングテープ」の意味合いを想起させ、引用商標2及び引用商標3については、特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
以上を踏まえて本件商標と引用商標とを比較すると、両商標の外観は、その構成文字において「マステ」の片仮名を有する点で共通するとしても、その他の文字(「転写」及び「TENSYA」の文字の有無や、欧文字のつづりの相違など。)において顕著な差異があるから、互いの印象は相違する。
また、称呼においては、本件商標から生じる称呼「テンシャマステ」と引用商標から生じる称呼「マステ」は、構成音及び音数に明らかな差異があるため、互いに聴別することも容易である。
さらに、観念においては、本件商標は「文章・絵などを他のものから写しとるマスキングテープ」程の意味合いを暗示させるのに対し、引用商標1は「マスキングテープ」の意味合いを想起させ、引用商標2及び引用商標3については、特定の観念を生じないものであるから、互いに相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれはないから、互いに誤認混同を生じるおそれのない非類似の商標というべきである。
(4)請求人の主張について
請求人は、本件商標の構成中、既知の言葉である「転写」と対比して、「マステ」(登録商標)の識別力がそれほど強くはないという被請求人の主張は根拠がなく、本件商標は、「転写」と「マステ」とが、その構成書体である文字という相違ともあいまって、分離観察されるというのが自然である旨主張する。
しかしながら、上記(1)アのとおり、本件商標は、構成上まとまりのよい印象を与えるものであって、いずれかの文字部分だけが独立して見る者の注意を引くようなものではない。また、上記(1)イのとおり、「マステ」の文字は、「マスキングテープ」の略称として、遅くとも2013年から愛好家の間で使用されており、請求人が主張する件外審決(2015年)以降、現在においては、マスキングテープの愛好家にとどまらず、一般の需要者においても、「マステ」の文字を「マスキングテープ」の略称として認識している実情が見受けられる。そうすると、「マステ」の文字は、「マスキングテープ(文房具)」との関係においては、「マスキングテープ」の意味合いを想起させるものといえる。
そうすると、本件商標は、特定の文字部分のみを要部として抽出するのではなく、構成文字全体を対比して商標の類否を検討すべきであること、上記(1)ウのとおりである。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
(5)小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標とは類似しないものであることから、その指定商品が同一又は類似であるかにかかわらず、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)引用商標及び使用標章の周知性について
請求人は、引用商標は、造語商標であり、件外審決以降も継続して使用されているものであるから、「日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」である旨主張するが、提出された証拠において、二段書きの態様である引用商標2及び引用商標3の使用が確認できる証拠(本件商標の登録査定時以前のものに限る。)は見受けられない。
そこで、以下においては、「maste」(その構成中、語尾の「e」の文字には、アクサンテギュが付されている。)の文字を表してなる標章(以下「使用標章」という。)及び引用商標1についての周知性を検討、判断する。
そして、請求人提出の証拠(本件商標の登録査定時以前のものに限る。)及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 2016年7月及び2017年11月の「新商品カタログ」(甲22、甲23)並びに2018年ないし2020年の「総合カタログ」(甲24〜甲26)において、請求人に係るマスキングテープ(以下「使用商品」という。)の掲載頁に、使用標章と、引用商標1とが、左右あるいは上下に近接した配置で使用されている(まれに、引用商標1のみの使用も見受けられる。甲26、6葉目。)。また、2018年ないし2020年の「総合カタログ」においては、使用商品の掲載頁の脚注に、使用標章及び引用商標1は、請求人及びリンレイテープ株式会社の登録商標である旨の記載がある。
イ 請求人は、2017年12月15日ないし同月17日の期間、2018年12月14日ないし同月16日の期間、2019年12月12日ないし同月15日の期間に、それぞれ東京流通センターにおいて開催されたとする「文具女子博二〇一七」、「文具女子博二〇一八」、「文具女子博二〇一九」において、使用商品を展示したことがうかがえる(甲27〜甲29)。2017年の展示会においては、請求人の展示パネルに「パール色のマステ 2018年1月下旬 発売予定!!」の記載があるほか、展示されている使用商品の包装容器には、「パール色の」「マスキングテープ」の文字及び使用標章が上下三段に表されている(甲27の2)。2018年の展示会においては、請求人の展示パネルに「水性ペンで書けるマスキングテープ」及び使用標章の記載があるほか、展示されている使用商品の包装袋には、「水性ペンで書ける」「マスキングテープ」の文字が上下二段に表され、使用標章が使用されている(甲28の1)。2019年の展示会においては、請求人の展示パネルに「水性ペンで書けるマスキングテープ」及び使用標章の記載がある(甲29の1)。
ウ 「文具屋さん大賞2018」(新作文房具398品が掲載されているムック本。2018年2月20日、扶桑社発行。甲30。)において、「マスキングテープ進化論」の見出しの下、多数のメーカー商品の中の一つとして、使用商品が引用商標1と共に紹介されている(甲30の2)。また、「文具屋さん大賞2019」(新作文房具503品が掲載されているムック本。2019年2月21日、扶桑社発行。甲31。)において、「つける・留める・切る部門」の見出しの下、「文房具屋さん大賞2019 マスキングテープ賞1位」として、使用商品が引用商標1と共に掲載されている。当該商品の包装袋とおぼしきものには、「水性ペンで書ける」「マスキングテープ」の文字が上下二段に表され、使用標章が使用されている(甲31の2)。
エ 上記アないしウによれば、請求人は、遅くとも2016年から、使用標章及び引用商標1を使用商品に使用していることが認められる。
しかしながら、使用標章及び引用商標1の使用期間は、さほど長いものではなく、使用標章及び引用商標1が使用された商品について、我が国又は外国における売上高や市場シェアなどの事業規模を具体的に把握し得るものは見いだせない。
また、宣伝広告の程度を検討するに、請求人に係る商品カタログについては、その作成部数や頒布先を示す証左は見いだせない。そして、使用商品が展示会において展示されたことはうかがえるものの、その回数や地域は限定的であることに加え、使用商品の展示ブースへの来場者数等は明らかでなく、使用標章及び引用商標1がどの程度の範囲の需要者の目に触れたのか不明である。さらに、新作文房具を掲載するムック本に、使用商品が掲載されたことは認められるものの、それは、当該ムック本に多数掲載されている商品の一つにすぎないし、その回数も限定的であることから、これらの掲載記事が、取引者、需要者の認識にどの程度の影響を与えているのかを推し量ることはできない。
その他、申立人の提出に係る甲各号証を総合してみても、使用標章及び引用商標1が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の取引者、需要者の間で、申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。
そうすると、請求人の提出した証拠によっては、使用標章及び引用商標1は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表すものとして、我が国又は外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
(2)不正の目的について
請求人の提出に係る全証拠を勘案しても、本件商標権者が引用商標及び使用標章の顧客吸引力を利用する、又は、顧客吸引力を希釈化させる等、不正の目的をもって本件商標を出願し、登録を受けて使用していると認めるに足る具体的事実を見いだすことができない。
そうすると、本件商標は、引用商標の名声にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることもできない。
(3)請求人の主張について
請求人は、本件商標の登録出願前に、被請求人と面会の機会があったこと、2019年4月11日以降にも請求人と被請求人との間で商取引がなされていたこと(甲16)、被請求人が「転写/マステ」の文字と「転写/マスキングテープ」の文字とを使い分けていること(甲7〜甲9)を挙げ、被請求人は、引用商標の名声に只乗り(フリーライド)等をしていることは明白であり、「不正の目的」の意図を有する旨主張する。
しかしながら、上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないから、引用商標が、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたものであることを前提として、本件商標は不正の目的をもって使用するものであるとする請求人の主張は、その前提を欠くものである。
そして、請求人の提出に係る証拠によれば、本件商標権者による本件商標の使用が引用商標に蓄積された名声や信用にフリーライドし、それらをき損させるものというべき事実は見いだせないばかりでなく、他に、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他不正の目的をもって使用するものであることを具体的に示す証拠はない。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
(4)小括
以上のとおり、引用商標及び使用標章は、他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているものではなく、また、本件商標は、不正の目的をもって使用をするものではない。
そして、上記1のとおり、本件商標と引用商標1とは非類似の商標である。
したがって、本件商標と使用標章の類否を検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲
1 本件商標


2 引用商標2及び引用商標3



(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
審理終結日 2021-12-13 
結審通知日 2021-12-15 
審決日 2022-01-04 
出願番号 2020007800 
審決分類 T 1 11・ 261- Y (W16)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 大森 友子
石塚 利恵
登録日 2020-11-24 
登録番号 6320131 
商標の称呼 テンシャマステ、テンシャ、マステ 
代理人 上代 義剛 
代理人 小野 博喜 
代理人 仲村 圭代 
代理人 羽切 正治 
代理人 大木下 香織 
代理人 金山 聡 

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