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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09
管理番号 1386381 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-31 
確定日 2022-06-10 
異議申立件数
事件の表示 登録第6251696号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6251696号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6251696号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、令和元年7月1日に登録出願、第9類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同2年5月8日に登録査定され、同月14日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立て(以下「本件異議申立て」という。)において、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標は、次の6件であり、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(1)登録第5203781号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:「ARM」の文字を標準文字で表してなる商標
登録出願日:平成19年4月27日
設定登録日:平成21年2月13日
指定商品 :第9類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(2)登録第5825356号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:「ARM」の文字を横書きしてなる商標
登録出願日:平成26年9月25日
優先権主張:2014年(平成26年)6月17日 域内市場における調和のための官庁(商標及び意匠)
設定登録日:平成28年2月12日
指定商品 :第9類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(3)登録第5931828号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲2のとおりの構成からなる商標
登録出願日:平成28年7月21日
設定登録日:平成29年3月17日
指定商品及び指定役務:第9類、第16類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
(4)登録第5931829号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:「アーム」の文字を標準文字で表してなる商標
登録出願日:平成28年7月21日
設定登録日:平成29年3月17日
指定商品及び指定役務:第9類、第16類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
(5)登録第6049275号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:「arm」の文字を横書きしてなる商標
登録出願日:平成29年7月31日
設定登録日:平成30年6月8日
指定商品及び指定役務:第9類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
(6)登録第6049276号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:「Arm」の文字を標準文字で表してなる商標
登録出願日:平成29年7月31日
設定登録日:平成30年6月8日
指定商品及び指定役務:第9類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
以下、引用商標1ないし引用商標6をまとめていう場合は、引用商標という。
2 申立人が本件異議申立てにおいて、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとして引用する商標は、「Arm」の欧文字からなる商標であって、申立人の名称として長年にわたって使用され、申立人を表示するものとして著名な商標であると主張するものである(以下「使用商標」という。)。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第8号、同項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号によって取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第30号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 具体的理由
(1)申立人及びArmブランドについて
ア アーム社について
申立人は、英国に本社を置く、1990年に設立されたプロセッサのIP及び関連ソフトウェア、ツール、IoTプラットフォーム、ソリューションテクノロジー等を主な事業内容とする会社である。現在はソフトバンクグループ株式会社(以下「ソフトバンクグループ社」という。)の傘下にあるが、2020年に米国NVIDIAへの売却が発表された。申立人は、プロセッサや中央処理装置(CPU)の設計・ソフトウェアの開発を行う世界的なリーディングカンパニーであり、申立人の技術により設計されたプロセッサや中央処理装置(CPU)は、スマートフォン、タブレット端末、ルーター等のあらゆる電子機器に使用されており、その技術を利用した製品は、世界中の1,300億以上の電子機器に搭載されている(甲8、甲9)。
そして、申立人は、半導体、ソフトウェア並びにAI技術を設計・提案している会社として広く知られ、特に、半導体の設計の分野では圧倒的なシェアを有している。
イ 新聞雑誌情報
申立人は、半導体に関する技術を知的財産として各社に提供しているのみであり、自社で生産を行っていない。その技術を用いて半導体を製造しているのが、例えばインテル社やフリースケール社等である(甲9)。その事業形態から、エンドユーザーヘの宣伝広告等は行っていないが、半導体の分野では知らない者はおらず、ソフトバンクグループ社への買収によって申立人は日本人の多くにその存在を知られるところとなり、新聞等のメディアにも多く紹介されている。
そして、半導体技術の分野において申立人が、広いシェアをもっており、多くの携帯情報端末にアームの技術が用いられた半導体が使用されている事実が、各新聞雑誌によって裏付けられている(甲10〜甲23)。
ウ 売上及び実績について
申立人が投資家への決算説明会で公表している売上高は、2017年度が2,023億4,400万円、2018年度が2,026億9,900万円、2019年度が2,066億5,200万円である。
累計ライセンス契約件数は、2017年度が1,577件、2018年度が1,694件、2019年度が1,767件である。
Armベースチップ出荷数(通期)は、2017年度が213億個、2018年度が229億個、2019年度が228億個である。
累計出荷数は、2017年度が1,200億個、2018年度が1,450億個、2019年度が1,660億個である。
市場シェアは、2017年度が39%、2018年度が33%、2019年度が34%である。
モバイル機器用のアプリケーションプロセッサの市場シェアは、2017年度ないし2019年度のいずれも90%である(甲24、甲26)。
使用商標は、申立人の商号の一部であるハウスマークであり、全ての製品で使用されるので、上記の数字は全て使用商標に関するものである。
なお、上記数字は日本単独に限った売上等ではないが、半導体の設計開発は世界市場に向けて行われるもので、日本単独の売上や販売実績を収集する必然性が無いことに起因している。
そして、上記の高い市場シェアから半導体業界に直接間接に拘わっている日本の取引者(需要者)で、使用商標を知らない人はいない。
加えて、最終需要者においてもソフトバンクグループ社の買収報道で申立人の存在が明確に認識されたといえる。
ソフトバンクグループ社が2016年7月18日に行った申立人との戦略的提携についての説明会の会見では、買収当時の申立人の魅力について細かく説明されている(甲25)。かかる資料から申立人の技術を用いた製品が多く普及していることが確認できる。2018年2月7日に行われた2017年度決算説明会では申立人の技術をベースにした半導体の出荷数を1200億個、市場シェア39%と紹介している(甲26の1)。
また、外国への展開として、2018年12月5日に行われた「Arm事業説明会」では、申立人の事業が好調であることが示され、中国への事業拡大のためのジョイントベンチャー会社の設立、ニュースとしてアマゾン社が申立人の技術を採用したサーバを大量に採用したことが紹介された(甲27)。これらの説明資料は、株主への説明となるものであり、情報の正確性は保証されていることはいうまでもない。
エ まとめ
以上のとおり、申立人は半導体及び半導体の設計の分野において広く知られており、当業者において申立人の社名「Arm Limited」の略称である「Arm」は、非常に高い名声を獲得している。すなわち、「Arm」は、申立人の著名商標かつ著名な略称といえる。
事実、商願2018−125949号及び商願2018−125950号の登録出願の審査において申立人の著名な「Arm」商標を引用して、商標法第4条第1項第15号に基づく拒絶理由が通知されている(甲28)。
(2)本件商標が取り消されるべき理由
ア 商標法第4条第1項第11号該当性について
(ア)本件商標の構成
本件商標は、別掲1のとおり、欧文字「armo」をややロゴ化させた構成からなり、その構成文字より、「アーモ」と称呼されるものである。
(イ)引用商標の構成
一方、引用商標は、ARM(Arm,arm、アーム)の文字(と図形の組み合わせ 別掲2)からなる。
引用商標は、構成文字である「ARM(アーム)」より、「アーム」と称呼され「腕」ないし申立人「アーム・リミテッド」の観念を生じさせる。
とりわけ、コンピュータの分野においては、「腕」の意味は無関係であり、かつその著名性から申立人を想起させるものである。
(ウ)本件商標と引用商標の比較
まず、外観においては、本願商標は欧文字「armo」から成るのに対し、引用商標4を除く引用商標は欧文字「Arm」から成り、両者の差異は末尾の「o」の有無のみである。
視覚において目に留まりやすくより強い印象を与える語頭の3文字「arm」が一致することから、両者は外観上誤認混同のおそれがある類似の商標である。
次に、称呼については、本件商標からは「アーモ」の称呼が生じるのに対し、引用商標からは「アーム」の称呼が生じるところ、両者は末尾における「モ」と「ム」の一音違いであって、同相違音は子音を同じくするものであって、末尾という称呼上聴取しづらい位置にあることから、両者は称呼上相紛らわしい類似の商標である。
最後に、観念については、本件商標は、引用商標にかかる申立人の著名商標「Arm」の語をそのまま構成要素に含んでおり、これに接する需要者・消費者は外観・称呼における類似性も相まって、本件商標より、申立人の著名商標「Arm(アーム)」を想起すると解され、両者は観念においても類似の商標である。
また、上記のとおり「ARM」は申立人のハウスマークとして著名であり、本件商標の構成において同語が既成の語の一部となっているものとも認められないため、引用商標とは類似の商標である。
以上より、本件商標は、その構成より「アーモ」の称呼を生じさせ、また、外観においても申立人の著名商標「Arm」の欧文字をそのまま構成要素に含むものであるので、引用商標と称呼及び外観を共通にする類似の商標である。
そして、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが抵触することも明白である。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
イ 商標法第4条第1項第15号該当性について
上記のとおり、使用商標は、申立人の社名として長年にわたって使用され、申立人を表示するものとして著名な商標であるところ、本件商標は、申立人の著名商標をそっくりそのまま構成要素に含んでおり、また、本件商標中の「arm」の文字は、申立人の著名な商標・略称であり、申立人を想起させ強い出所表示機能を担うことから、「armo」の文字からは、申立人と何らかの関連を有する商品をイメージさせ、その出所を混同するおそれが高い。
したがって、本件商標が、その指定商品について使用された場合には、その商品は、申立人又は関連する企業の商品と誤認されるおそれがあることは明らかである。
本件商標が使用されると、出所の混同が生ずるおそれや、申立人から公認を受けているとの誤認あるいは、申立人の著名な使用商標の希釈化汚染化が生ずるおそれがある。
(ア)本件商標と使用商標との類似性の程度
本件商標は、著名な使用商標「Arm」を極めて目立つ語頭に含んでおり、需要者は「arm」の文字部分に注目する。そうすると、本件商標は、著名な使用商標「Arm」と類似する商標である。
(イ)使用商標の周知度
上記(1)のとおり、申立人の使用商標は著名である。
(ウ)使用商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
Armの語はそれ自体「腕」を意味する言葉であるが、本願の指定商品との関係では特徴的な語であり、恣意的に採用された言葉である。よって、独創性の高い商標といえる。
(エ)使用商標がハウスマークであるか
使用商標はアーム・リミテッド社のハウスマークであり、事業の特性上個別の製品名はなじまない。
よって、使用商標は申立人にとって極めて重要な知的財産である。
(オ)企業における多角経営の可能性
半導体はあらゆる電子機器に用いられるものであり、その製品自体に多様性がある。
(カ)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
本件商標の指定商品には、コンピュータ関連商品が含まれており、申立人の著名な使用商標における分野と関連性があることは明白である。
なお、インターネット検索によれば、本件商標は「スマートウォッチ」について使用されているものと理解され(甲29、甲30)、申立人事業は、半導体製品と密接な関連性を有する。
(キ)商品等の需要者の共通性その他取引の実情
上記のとおり、商品の関連性があることから、需要者層も一致する。
また、本件商標は、その構成中に申立人の著名な使用商標「Arm」の文字を有しており、本件商標の語頭に位置するため、これに接する需要者・消費者は「arm」の文字に着目するものと解される。
したがって、本件商標がその指定商品に使用されると、需要者は、それらの商品が申立人の業務に係る商品ないし申立人と何等かの関係がある者の業務にかかる商品であると誤認し、出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかなので、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
ウ 商標法第4条第1項第8号該当性について
申立人の名称は「Arm Limited」であるが、一般には「アーム」と称呼され、親しまれており、「Arm」が申立人の著名な略称である。
本件商標は、「armo」の文字からなり、申立人の著名な略称「Arm」を含んでいることは明らかである。
そして、申立人は、本件商標に関し、商標法第4条第1項第8号かっこ書所定の承諾を与えていない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。

第4 当審の判断
1 使用商標ないし申立人の略称としての「Arm」の周知・著名性について
(1)申立人の提出に係る甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 申立人は、1990年に設立され、英国に本社を置く企業であって、少なくとも本件商標の登録出願時には、ソフトバンクグループの傘下にあった。申立人の技術により設計されたプロセッサや中央処理装置(CPU)は、世界中の1300億以上の電子機器(スマートフォン、タブレット端末等)に搭載されている(甲8、甲9)。申立人は、半導体に関する技術を知的財産として各社に提供することを業としており、その技術を用いて半導体を製造しているのが、インテル社やフリースケール社等である(甲9)。
イ 2016年にソフトバンクグループ社が申立人を買収したことが、我が国の新聞等のメディアに紹介された(甲10〜甲16、甲18〜21)。
ウ ソフトバンクグループ社による2018年ないし2020年の各3月期決算短信において、申立人の事業にかかる2018年(2017年4月〜2018年3月)の売上高が約2兆23億44百万円、2019年(2018年4月〜2019年3月)の売上高が2兆26億99百万円、2020年(2019年4月〜2020年3月)の売上高が2兆66億52百万円、2020年期末(3月末)のプロセッサのライセンス契約の累計は1767社に及んでいる旨が記載されている(甲24)。
エ 「ソフトバンクグループ社による申立人との戦略的提携について」と題する資料(2016年7月18日付)には、申立人の買収経緯及び提携について記載され(甲25)、「ソフトバンクグループ社による申立人の事業に関する説明資料」と題する資料(2018年2月7日付)には、2017年の申立人の技術にかかるベースチップの累計出荷数は1200億個、その市場シェアは39%であった旨が記載されている(甲26)。
オ 「ソフトバンクグループ社による申立人の事業に関する説明資料」と題する資料(2018年12月5日付)には、申立人の財務情報、中国への事業拡大のためのベンチャー会社設立についての説明、アマゾン社が申立人の技術を採用したサーバーを大量に採用した旨が記載されている(甲27)。
(2)判断
ア 使用商標の周知・著名性
上記(1)において認定した事実によれば、申立人は、プロセッサや中央処理装置(CPU)の設計・ソフトウェアの開発を行う英国の企業であり、半導体に関する技術を知的財産として各社に提供することを業としていること、2016年にソフトバンクグループ社が申立人を買収したことが新聞記事等で取り上げられたこと、申立人の事業にかかる2018年の売上高が約2兆23億44百万円、2019年の売上高が2兆26億99百万円、2020年の売上高が2兆66億52百万円であったこと、申立人には、多数のライセンシーが存在し、2020年期末のプロセッサのライセンス契約の累計が1767社であったこと、2017年の申立人の技術にかかるベースチップの累計出荷数が1200億個、その市場シェアが39%であったことはうかがえる。
また、使用商標「Arm」の欧文字は、申立人の社名を構成する文字の一部であることが認められる。
しかしながら、申立人が、2016年にソフトバンクグループ社に買収され、その買収当時の新聞記事等に取り上げられているとしても、当該記事は、我が国において申立人の取り扱う商品「半導体」及び役務「半導体の設計」について使用商標を使用した事実やその使用状況を具体的に示すものではないし、申立人が提出した甲各号証からは、本件商標の登録出願時や登録査定時において、多数の新聞や雑誌等の記事において、申立人が取り上げられたことを確認することができない。
そして、申立人の事業形態は、半導体の技術をライセンシーに提供するものであり、実際に、申立人が、半導体を商品として取引している事実は、申立人が提出した甲各号証からは確認することができない。
また、申立人が主張する上記売上高、市場シェア等は、いずれも我が国以外の外国をも含む数値である上、これらを裏付ける証拠が提出されておらず、その多寡を確認することができない。
そうすると、申立人の我が国における売上高、市場シェア等の量的規模を客観的な使用事実に基づいて、使用商標の使用状況を具体的に把握することができず、その周知・著名性の程度を推し量ることができないものといわざるを得ない。
その他、申立人が提出した甲各号証には、使用商標が、我が国において、申立人の取り扱う商品「半導体」及び役務「半導体の設計」を表示するものとして、周知・著名性を有していたと判断し得る証拠は見いだせない。
したがって、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、使用商標が申立人の取り扱いに係る商品「半導体」及び役務「半導体の設計」を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識され、周知・著名性を獲得していたと認めることはできない。
イ 申立人の略称としての著名性
「Arm」の欧文字は、申立人の社名の一部であるとしても、申立人が提出した甲各号証からは、「Arm」の欧文字が、我が国において申立人の略称を表示したものとして単独で使用され、申立人の略称として一般に広く認識されていることを認め得る証拠は見いだせないことから、当該欧文字が申立人の略称として我が国において著名となっていたと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、「armo」の文字を丸くデザインした書体で表してなるところ、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさで、等間隔に、空白なく、まとまりよく表されており、視覚上一体的に看取されるものであるから、本件商標は、外観上、構成文字全体が一連一体のものとして把握、認識されるとみるのが自然である。
そして、当該文字は、我が国において一般的に使用されている辞書等に載録されている語ではなく、また、特定の意味合いを有するものとして認識されているというような事情も見いだせないものである。
また、一般的に、特定の意味を有しない欧文字は、我が国において親しまれた外国語である英語読み又はローマ字読みに倣って称呼されることから、本件商標は、その構成文字に相応して「アルモ」又は「アーモ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものとみるのが相当である。
(2)引用商標
ア 引用商標1、引用商標2、引用商標5及び引用商標6は、「ARM」、「arm」又は「Arm」の欧文字からなるものである。
また、引用商標3は、別掲2のとおり、上3分の1を青色で、下3分の1を白色で表した長方形中の左下部の白色部分に、青色で「ARM」の欧文字を配した構成よりなるものである。
そうすると、引用商標1ないし引用商標3、引用商標5及び引用商標6はいずれも「ARM(大文字と小文字が異なるものを含む。)」のつづりからなる欧文字を有するものであるところ、当該文字は、「腕」を意味する英語であり、我が国においてもその意味が広く一般に知られている「arm」と同じつづりであるから、当該構成文字に相応して「アーム」の称呼を生じ、「腕」の観念を生じるものである。
イ 引用商標4は、「アーム」の片仮名からなるものであるところ、当該文字は、「腕」を意味する英語の表音であり、我が国においてもその意味が広く一般に知られているものであるから、当該構成文字に相応して「アーム」の称呼を生じ、「腕」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標は、上記(1)及び(2)のとおりの構成よりなるところ、本件商標と引用商標1、引用商標2、引用商標5及び引用商標6との類否について検討すると、外観において、それぞれ4文字又は3文字にて構成され、1文字目から3文字目の「arm」、「ARM」又は「Arm」のつづりを共通にし、4文字目において「o」の文字の有無に差異を有するところ、両者の構成文字数が3文字又は4文字と比較的少ない中にあって、「o」の有無が看過されるとはいい難く、両者の視覚的印象に与える影響は小さいものとはいえないから、両者は、外観上、判然と区別し得るものである。
そして、本件商標と引用商標3との類否について検討すると、外観において、図形の有無に明らかな差異を有するものであり、本件商標と引用商標の文字部分との比較においても、文字種及び構成文字数が異なること等からすれば、両者は、視覚的な印象が相違し、外観上、判然と区別し得るものである。
また、本件商標と引用商標4との類否について検討すると、外観において、文字種及び構成文字数が異なること等からすれば、両者は、視覚的な印象が相違し、外観上、判然と区別し得るものである。
次に、称呼においては、本件商標から生じる「アルモ」又は「アーモ」の称呼と引用商標から生じる「アーム」の称呼とを比較すると、両者は共に3音で構成され、語頭の「ア」と「アー」の音を共通にするとしても、語尾の「ルモ」と「ーム」の音又は語尾の「モ」と「ム」の音の差異を有するものであり、わずか3音という短い音構成にあっては、かかる差異が、両称呼全体に及ぼす影響は決して小さいものとはいえないから、両者をそれぞれ称呼しても、語調、語感が異なり、互いに聞き誤るおそれはなく、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
そして、観念においては、本件商標は、特定の観念を生じないものであるのに対し、引用商標は、「腕」の観念を生じるから、観念において紛れるおそれはないものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼において明確に相違し、観念においても紛れるおそれはないことから、これらを総合して全体的に考察すれば、本件商標は、引用商標と商品の出所について混同を生ずるおそれのない非類似の商標というのが相当である。
(4)小括
以上によれば、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが同一又は類似するものであるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第8号該当性について
本件商標は、別掲1のとおり、「armo」の文字を丸くデザインした書体で表してなり、その構成中に「arm」の文字を有するとしても、上記1(2)イのとおり、「Arm」の文字が、他人(申立人)の名称の略称として、需要者の間に広く認識され、著名になっていたものと認めることはできない。
してみれば、本件商標は、その構成中に他人の名称の著名な略称を含む商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
上記1(2)アのとおり、使用商標(「Arm」の欧文字)は、申立人又は申立人の業務に係る商品「半導体」及び役務「半導体の設計」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く認識されていたものとは認められないものであり、また、使用商標は引用商標6と同じつづりからなるものであるから、上記2と同様の理由により本件商標とは、非類似のもので別異のものというのが相当である。
そうすると、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、需要者において、申立人又は申立人の略称である「Arm」の文字を連想、想起するということはできず、よって、その商品が申立人又は申立人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがある商標とはいえない。
その他、本件商標が商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるというべき事情を見いだすこともできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第8号及び同項第15号のいずれにも該当するものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
別掲1 本件商標



別掲2 引用商標3(色彩は原本を参照)




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異議決定日 2022-06-02 
出願番号 2019090932 
審決分類 T 1 651・ 23- Y (W09)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大森 友子
特許庁審判官 山根 まり子
清川 恵子
登録日 2020-05-14 
登録番号 6251696 
権利者 深▲せん▼市天鋭祥通訊設備有限公司
商標の称呼 アルモ、アーモ 
代理人 TRY国際特許業務法人 
代理人 弁理士法人大島・西村・宮永商標特許事務所 

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