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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W03050910
管理番号 1386380 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-08 
確定日 2022-02-07 
異議申立件数
事件の表示 登録第6227664号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第6227664号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第6227664号商標(以下「本件商標」という。)は,「zovladior」の文字を標準文字で表してなり,平成31年1月30日に登録出願,第3類「口臭用消臭剤,動物用防臭剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料,つけづめ,つけまつ毛」,第5類「薬剤(農薬に当たるものを除く。),栄養補給剤及び栄養補強剤,乳幼児用粉乳,サプリメント,栄養補助食品,食物繊維,食餌療法用飲料,食餌療法用食品,乳幼児用飲料,乳幼児用食品,栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。)」,第9類「眼鏡,読書用眼鏡,偏光眼鏡,サングラス」及び第10類「業務用美顔マッサージ器,業務用美容マッサージ器,家庭用電気式美顔マッサージ器,家庭用電気マッサージ器」を指定商品として,令和2年1月27日に登録査定され,同年2月19日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 登録異議申立人「パルファン クリスチャン ディオール」(以下「申立人1」という。)が,本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標は次の(1)のとおりであり,同じく「クリスチャン ディオール クチュール」(以下「申立人2」という。)が引用する商標は次の(2)ないし(13)のとおりであり(以下,それらをまとめて「引用商標」という。),いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(1)登録第1023590号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成 DIOR
指定商品 第3類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和44年3月17日
設定登録日 昭和48年7月30日
書換登録日 平成16年8月4日
(2)国際登録第951058号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成 Dior
指定商品 第9類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載の商品
国際商標登録出願日 2007年(平成19年)8月24日
設定登録日 平成21年8月28日
(3)登録第667468号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成 ”DIOR”
指定商品 第6類,第14類,第18類,第25類及び第26類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和38年8月26日
設定登録日 昭和40年2月15日
書換登録日 平成18年2月8日
(4)登録第669412号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成 ”DIOR”
指定商品 第14類,第18類,第25類及び第26類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和38年8月26日
設定登録日 昭和40年3月5日
書換登録日 平成18年3月1日
(5)登録第688094号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成 「Dior」と「ディオール」の文字を二段に書してなるもの
指定商品 第14類,第16類,第20類,第21類,第24類及び第27類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和39年3月13日
設定登録日 昭和40年10月25日
書換登録日 平成18年2月22日
(6)登録第838094号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成 「Dior」と「ディオール」の文字を二段に書してなるもの
指定商品 第24類及び第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和39年3月13日
設定登録日 昭和44年11月18日
書換登録日 平成22年8月4日
(7)登録第858578号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の構成 「Dior」と「ディオール」の文字を二段に書してなるもの
指定商品 第9類,第25類及び第28類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和39年3月13日
設定登録日 昭和45年5月30日
書換登録日 平成23年1月26日
(8)登録第1415962号商標(以下「引用商標8」という。)
商標の構成 「Dior」と「ディオール」の文字を二段に書してなるもの
指定商品 第2類,第16類及び第24類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和51年7月5日
設定登録日 昭和55年4月30日
書換登録日 平成23年1月19日
(9)登録第1996398号商標(以下「引用商標9」という。)
商標の構成 「Dior」と「ディオール」の文字を二段に書してなるもの
指定商品 第4類,第6類,第8類,第11類,第16類,第20類,第21類,第24類及び第26類ないし第28類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和60年7月10日
設定登録日 昭和62年11月20日
書換登録日 平成20年7月30日
(10)登録第4013843号商標(以下「引用商標10」という。)
商標の構成 Dior
指定商品 第14類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成6年6月10日
設定登録日 平成9年6月20日
(11)登録第4013844号商標(以下「引用商標11」という。)
商標の構成 Dior
指定商品 第18類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成6年6月10日
設定登録日 平成9年6月20日
なお,第24類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として防護標章登録されている。
(12)登録第4022600号商標(以下「引用商標12」という。)
商標の構成 Dior
指定商品 第26類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成6年6月10日
設定登録日 平成9年7月4日
(13)登録第4492095号商標(以下「引用商標13」という。)
商標の構成 Dior
指定商品 第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成12年9月18日
設定登録日 平成13年7月19日
2 申立人1及び申立人2(以下,両人をまとめていうときは「申立人」という。)が本件商標は商標法第4条第1項第15号及び同項19号に該当するとして引用する商標は,「Dior」又は「DIOR」の文字からなるもの(以下「申立人商標」ということがある。)であって,申立人1が「香水,化粧品等に関係する商品」について,また,申立人2が「婦人服,紳士服,シューズ,ベルト,ジュエリー,眼鏡,腕時計など,ファッションに関係する商品」(以下「婦人服等」という。)について使用し,我が国の需要者の間に広く認識されていると主張するものである。

第3 登録異議の申立ての理由
1 申立人1は,本件商標はその指定商品中第3類「全指定商品」,第5類「全指定商品」及び第10類「全指定商品」について,商標法第4条第1項第8号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから,その登録は同法第43条の3第2項によって取り消されるべきものであるとして,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第58号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)申立人1及び引用商標1の著名性について
申立人1は,フランスの著名なファッションデザイナー「Christian Dior(クリスチャン ディオール)」を創始者とするフランス国法人であり,1947年に化粧品及び香料類の製造販売を業とする企業として設立された。1968年に,著名な高級ブランドを取り扱う企業グループとして知られる「LVMH(ルイ ヴィトン モエ ヘネシー)グループ」の傘下となった後も,そのグループの幅広い販売網と宣伝により,日本を含めた世界各国において広く知られる極めて知名度の高いブランド力を維持し続けている(甲3,甲4)。
申立人1の取扱いに係る商品は,香水・スキンケアやメイクアップ等の化粧品をはじめ,化粧用具,化粧用ポーチからバッグ,婦人服,紳士服,シューズ,ベルト,ジュエリー,眼鏡,腕時計,万年筆,ライターなど,化粧品及び服飾関係を主として幅広い分野に及び,これら申立人1による商品は,申立人1の長年の継続的な努力によって,いずれも洗練された高品質であり,世界の超一流品として極めて高い信用が形成されているものである。
申立人1の香水等の化粧品の製造については,完璧なトータルファッションを目指したDiorが,「つま先から頭の先までディオールをまとった女性」の実現を目指したのが始まりであり,「Miss.Dior」が最初の香水となった。「Miss.Dior」は,申立人1の会社の設立と同じ年(1947年)に発表され,それ以降も,1949年「Diorama」,1956年の「Diorissimo」「Poison」などの人気香水を次々に発売し,さらに申立人1は,香水だけでなく,現在ではメイクアップ用からスキンケア用に至るまでの幅広い化粧品を販売している。
そして,日本においても,申立人1に係る化粧品や香水等の各種商品は,洗練された高品質の商品として一般需要者間に広く認識されており,申立人1の長年の継続的な努力によって,世界の超一流品としての極めて高い信用が形成されている。
また,近年では,申立人1のブランドや商品については,「DIOR」を申立人1の略称として用いて事業を行い,宣伝活動を行っている(甲4)。その努力の結果,申立人1の略称としての「DIOR」及びその称呼「ディオール」もまた,申立人1の製造販売する商品を意味するものとして,需要者・取引者らの間で広く知られるに至っている。
このことは,日本において出版された各種刊行物やウェブサイトにおいて,デザイナーの「Christian Dior」氏がデザインした香水や化粧品を製造する申立人1が,「DIOR」(ディオール)と略称されていることからも明らかである(甲14〜甲36)。
また,2017年は,世界各国で「DIOR」の創業70周年を迎えるイベントが開催され,それらは日本において紹介等されている(甲37〜甲40)。
さらに,2019年には,「DIOR(ディオール)」が伊勢丹への出店20周年を記念して伊勢丹新宿店で,「〈ディオール〉が伊勢丹新宿店をジャック!」として全館あらゆる場所に「DIOR」が掲げられ「DIOR」に関する商品等で埋め尽くされた(甲41)。
申立人1は,日本を含めた世界各国で展開するにあたり,「DIOR」の周知を図るべく,例えば,ホームページ(甲4)だけでなく,雑誌への紹介記事,地下鉄内のポスターといった屋外広告,SNSによる宣伝広告手段も積極的に活用し(甲6〜甲8),現在に至るまで積極的な宣伝広告活動を展開している。
申立人1は,引用商標1に係る「DIOR」商品の発売以来,日本を含む世界各国において,多額の広告宣伝費を投下して,「DIOR」商品の販売促進活動・広告宣伝活動を行ってきた。例えば,2017年は約77億円,2018年は約85億円,2019年は90億円をかけており,2015年から2019年の5年間の総額は370億円を超えている(甲5)。日本に絞っても,2017年には約27億円,2018年は約30億円,2019年には約32億円を費やしており(甲5),この日本での広告費用は全世界における費用の3分の1以上を占めており,申立人1が日本市場をいかに重要視しているかがわかる。
このような宣伝広告の結果,日本国内における香水や化粧品での「DIOR」商品に関する売上高は,2018年は約8.1億円,2019年は約8.2億円を超えている(甲5)。香水や化粧品に関する商品の1個あたりの価格が平均しても数千円であることを考慮すると,このように毎年高い売上高を誇っていることに鑑みれば,この販売実績は,「DIOR」ブランドのもとで販売される商品が極めて高い人気を博しているかは明らかである。
このように,申立人1は,引用商標1に係る「DIOR」商品について,現在に至るまで何十年にもわたって,「DIOR」に化体した高い信用,評判,名声等が損なわれぬよう,継続的に新商品を発売する等,不断の努力を続けている。申立人1による創立当初から変わらない高品質と大々的な宣伝活動等が功を奏し,引用商標1に係る「DIOR」は,現在もその発売当初から継続した高い人気を安定して保っている。実際,高い売上を誇っており,数々の化粧品で,一般消費者の口コミにより選ばれた年間のベストコスメを発表している日本最大のコスメ・美容の総合サイト「@cosme」においてベストアワードを受賞し,有名な女性誌等でベストコスメに輝いている(甲9〜甲13)。
このように著名な引用商標1「DIOR」は,申立人1ブランドを象徴する最も重要なハウスマークとして,設立以降現在に至るまで,すべての商品に使用されている。
さらに,「Dior」の著名性については,申立人1(決定注:「申立人2」の誤記と認める。)の登録第4013844号商標について防護標章登録されており,特許庁の日本国周知・著名商標においても登録されていることから,特許庁において顕著な事実であると思料する(甲11,甲42)。
加えて,「Dior」の著名性については,特許庁における審査・審決例においても認定されている(甲43〜甲50)。
以上のことから,本件商標の出願当時には申立人1の著名な略称であり,登録商標でもある「Dior」の文字は,申立人1が自らのブランドとして「香水,化粧品」等に関係する商品に使用する商標として,極めて広く知られるに至っていた商標であり,現在もその周知性は維持されているというべきである。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標について
(ア)本件商標は「dior」部分が要部として,取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える。
本件商標の構成中「zovla」部分は,我が国において外国語として何らかの意味を持つものとして親しまれている語ではない。むしろ,本件商標は,著名な「dior」の文字がそっくりそのまま含まれていることから,たとえ「zovla」と「dior」の間にスペースがなくとも,上述したとおり「dior」部分が,申立人1の業務に係る香水や化粧品等の商品を表示するものとして,本件商標の出願時には,高い周知著名性を獲得するに至っている事実に鑑みれば,その構成中「dior」部分が,取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部となるというべきである。
かかる判断は,二語以上からなる商標の構成部分のうち(それが,たとえスペースのない態様で表されているものであっても)要部たる周知著名商標部分を抽出して他の商標との類否判断をした結果,両商標が類似するとした審判決例(甲51)からもより一層明らかなものとなる。
このような審判決例に鑑みるならば,本件商標においても,その構成中周知著名な「dior」部分をその要部とし,かかる要部たる「dior」部分と引用商標1との類否判断を行うべきであり,その場合,両者は共通の称呼「ディオール」及び著名な申立人1の引用商標1に係る「DIOR」ブランドという共通の観念を生じさせるものであるから,互いに類似することは明らかである。
さらに,「zovla」部分は,商標権者の名称の一部であると思われるが,名称の一部の「zovla」と「dior」を組み合わせた場合は,「zovla」がハウスマークとして,「dior」がペットネームとして,それぞれが独立して認識されるおそれもあり,このことからも「dior」部分が要部として認識されるというべきである。
以上より,本件商標においては,要部たる「dior」部分が他の商標との類否判断の対象となるというべきである。
(イ)本件商標の外観・称呼・観念
上記(ア)のとおり,本件商標の構成中の「dior」部分が出所表示標識として強い印象を生ずる部分であるから,「dior」部分より「ディオール」の称呼が生じ,かつ,申立人1の引用商標1に係る香水・化粧品等の商標として周知・著名な「DIOR」の観念をも生ずる。
イ 引用商標1について
引用商標1は,欧文字「DIOR」の構成よりなり,「ディオール」の称呼を生じ,かつ,申立人1の周知著名なブランドである「ディオール」の観念が生じる。
ウ 本件商標と引用商標1の称呼・観念・外観の類否
上述したとおり,本件商標においては,「dior」部分が要部となり,そこから「香水,化粧品」等に使用して周知著名となった「ディオール」の観念が生じる。したがって,本件商標と引用商標1とは称呼・観念において類似するものである。また,本件商標に係る第3類の指定商品中「口臭用消臭剤,動物用防臭剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料」は,引用商標1の第3類の指定商品と同一又は類似の商品である。
エ 小括
上述のとおり,本件商標は,引用商標1と類似する商標である。さらに,上記のとおり,本件商標は引用商標1に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用する商標である。よって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標1の著名性及び独創性
上述のとおり,引用商標1は申立人1が「香水,化粧品」等に使用する商標として,本件商標の出願時までには,我が国の取引者・需要者の間で著名となっている。また,引用商標1を構成する「DIOR」及び「ディオール」は,申立人1の創業者である著名なファッションデザイナー「Christian Dior」の姓に由来するものであり,造語の一種であることは明らかである。
イ 本件商標と引用商標1との類似性の程度
最高裁判例の判示においても「類似」ではなく「類似性の程度」とされて様々な判断基準の一つと位置づけており,仮に本件商標が商標法第4条第1項第11号の意味で類似しない場合であっても,直ちに本号該当性が否定されるべきではない。
これを踏まえて,本件商標と引用商標1との間の類似性の程度を検討すると,上述のとおり,引用商標1は「Dior」(決定注:「DIOR」の誤記と認める。)の文字からなるため,その構成文字に相応して「ディオール」の称呼が生じ,申立人1の著名なブランドである「ディオール」の観念が生じる。
他方,本件商標は,「zovladior」の文字を標準文字で書した態様よりなるが,「zovla」部分は特に意味を持つ単語として親しまれているものではなく,本件商標の第3類,第5類及び第10類の指定商品が,下記ウに詳述するとおり,化粧品等との関連性が非常に高いことに鑑みれば,本件商標に接した取引者・需要者は,著名な引用商標1を連想するというべきであるから,「dior」部分から「ディオール」の称呼が生じ,引用商標1に係る周知著名なブランドである「ディオール」の観念が生じる。
したがって,本件商標は,引用商標1と称呼・観念において類似する。
また,仮に,本件商標が引用商標1との関係において,商標法第4条第1項第11号における類似とまではいえないとしても,極めて強い出所識別機能を有する「dior」の部分が共通するのであり,その類似性の程度は極めて高い。
ウ 本件商標の指定商品と申立人1の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
(ア)本件商標の第3類の指定商品との関係について
上述のとおり,本件商標は,引用商標1に係る「香水,化粧品」等と同一又は類似する商品「化粧品,香料,薫料」等について使用される商標であるから,商品の性質等及び商品の取引者及び需要者において互いに共通性が高いことは明白である。
(イ)本件商標の第5類の指定商品との関係について
本件商標の第5類の指定商品である「薬剤(農薬に当たるものを除く。),栄養補給剤及び栄養補強剤,サプリメント,栄養補助食品,食物繊維,食餌療法用飲料,食餌療法用食品」等は,引用商標1に係る「化粧品」等と同様に,今日,美容・美肌目的で取引者・需要者が使用することも多く,特にサプリメントなどは,化粧品の代わりに,肌荒れ防止の目的で使用されていることから,その需要者・取引者は,引用商標1の指定商品に係る需要者・取引者と共通する。加えて,化粧品メーカーであっても,実際に美容目的のサプリメントや栄養補助食品を製造・販売している会社も数多く存在することから(甲53),「サプリメント」と「化粧品」は共に,美容と美肌を目的として,互いに密接に関連する商品というべきであり,販売部門,生産部門においても共通する。
さらに,本件商標の第5類の指定商品中の「薬剤」と申立人1の業務に係る「化粧品」とは,例えば,「薬剤」の中には,「肌及び頭髪の手入れに用いる外皮用薬剤」のように,引用商標1が用いられている「スキンケア用化粧品」とその用途において近似した商品も含んでいるばかりでなく,「薬剤」と「化粧品」とは,その原材料を共通にするものも多く,また,近時,医薬品メーカーが化粧品の製造販売を行い,化粧品メーカーが医薬品事業を展開しており,薬剤と化粧品とがその販売場所を共通にする傾向も強くなっている(甲54)。
このような取引の実情を考慮すると,引用商標1に係る「化粧品」との関係において,本件商標の第5類の指定商品は,関連性が非常に高いというべきである。
(ウ)本件商標の第10類の指定商品との関係について
本件商標の第10類の指定商品である「業務用美顔マッサージ器,業務用美容マッサージ器,家庭用電気式美顔マッサージ器,家庭用電気マッサージ器」は,容姿や容貌を美しくすることを目的に提供される美容等に関する商品であるが,引用商標1に係る「化粧品」の中には,マッサージを目的にした商品(例えば,マッサージオイルなど)があるから,いずれも美容の向上や回復等を目的とする商品であり,本件商標の第10類の指定商品と「化粧品」等とは互いに美容に関するものとして密接な関連性を有するものである。
また,両者の需要者には,美顔やマッサージ等の効果について深い関心を寄せる者(主として女性)が含まれるから,両者は,その需要者を共通にする。
さらに,近年のファッションにおいては,顔や身体についても身に着けるものに合わせて化粧をし手入れを行う等,頭の先からつま先までをトータルでコーディネートする傾向にある。そして,エステティックやマッサージ等の提供の際には,化粧水等の化粧品が使用されており,化粧品メーカーがエステティックサロンを営むことは一般的に行われている。実際,申立人1はエステサロンを直営しており(甲55),そこでは,申立人1の化粧品を使用したトリートメントが受けられ,美顔用の器具を用いた施術が行われている(甲55)。そして近年では,化粧品メーカーが美顔器を発売もしている(甲56)ことに鑑みれば,本件商標の第10類の指定商品は,専ら,美顔の用途に使用されるものであり,その需要者も美顔に強い関心を抱く者ということができるから,申立人1の業務とは「密接な関連」を有する。
エ 周知・著名商標をその構成中に含む商標についての異議決定・審判決例
最高裁判決以降,審判決例においても,他人の周知著名な商標をその構成中に含む商標については,当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあるとして,本号に該当するとの判断が定着している(甲57)。
そうであれば,本件商標と引用商標1についても,本件商標に接した取引者・需要者は,著名な引用商標1を連想し,引用商標1に係る商品であるとその出所について混同を生じるというべきである。
さらに,上述したように,本件商標は「zovla」がハウスマークとして,「dior」がペットネームとして認識されるおそれもあり,世界的に著名な申立人1の「DIOR」が商標権者と何らかの関係あるとして出所の混同のおそれがあるというべきである。
オ 小括
以上述べたとおり,本件商標と引用商標1との称呼及び観念上の類似性,引用商標1が周知著名性を獲得していること,「DIOR」商標の独創性の高さ,申立人1が著名性を獲得している化粧品等の分野と関連性の高い商品を本件商標が指定商品としている点等の取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断した場合,本件商標に接した取引者・需要者は,あたかも申立人1若しくは申立人1と何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 引用商標1の著名性
上記のとおり,引用商標1は,申立人1の業務及び申立人1の業務に係る化粧品等について使用された結果,「DIOR」のつづり及び「ディオール」の称呼のもと,全国的に高い著名性を有する商標であり,かつ,商標法第4条第1項第19号に規定する「他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」に該当するものである。
イ 本件商標と引用商標1の類似性
本件商標と引用商標1は,上述のとおり互いに類似する商標である。
ウ 出願人の「不正の目的
本号における「不正の目的をもって使用するもの」とは,「日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について,出所混同のおそれまではなくとも出所表示機能を稀釈化させ,その名声を毀損させる目的をもって商標出願する場合」,「その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願する場合」等が該当する(東京高裁平成14年(行ケ)第97号,無効2001−35149号)。
しかるところ,引用商標1は,前述のように本件商標の出願時には取引者・需要者間において広く知られ,高い名声・信用・評判を獲得するに至っており,「DIOR(ディオール)」といえば「申立人1が製造販売する世界的に有名なファッションブランドの『DIOR』」との観念が一義的に生じるものである。
一方,本件商標の要部は,引用商標1と同一の称呼が生じ,その指定商品は,引用商標1が著名性を獲得した「化粧品」等の商品と極めて密接な関連を有する商品であり,さらに,商標権者の名称の一部であると思われる「zovla」に引用商標1「DIOR」を組み合わせる特段の理由はないことを考えると,商標権者が著名な引用商標1を知らず,偶然に引用商標1と同一のつづり及び同一の称呼を生じる文字を含んでなる本件商標を出願したとは考え難く,引用商標1の有する高い名声・信用・評判にフリーライドする目的で出願,使用されているものと推認される。したがって,商標権者が本件商標を不正の目的で使用するものであることは明らかである。
エ 特許庁の審決
特許庁においても,他人の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていた商標と同一又は類似性の高い商標を,当該広く知られていることを十分に知りながら出願し登録を受けた商標は,自己の利益を得るために出願した商標は不正の目的に基づくものであると多くの審決が認定している(甲58)。
オ 小括
以上のとおり,引用商標1に係る「DIOR」及び「ディオール」は,本件商標の出願時及び登録査定時において,申立人1の業務に係る化粧品等について世界的に著名な商標となっており,本件商標は,引用商標1に代表される商標「DIOR」及び「ディオール」に類似するものであって,商標権者が,「DIOR」の著名性に便乗し,「DIOR」(決定注:「dior」の誤記と認める。)の文字を含んでなる本件商標の独占排他的使用を得ようとする不正の目的に基づいて出願し登録されたものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第8号該当性について
「DIOR」は,我が国の一般的な辞書や雑誌等において,申立人1の略称として掲載されていることから,申立人1の略称として一般的に受け入れられ,本号における「著名な略称」に該当することは明らかである。
そして,本件商標は,「zovladior」の欧文字を書してなるところ,申立人1の著名な略称「DIOR」と同じつづり字「dior」が後半部分に表示されていることから,「zovla」と「dior」の2語からなる結合商標であると理解される可能性が十分にあるというべきである。そして,前半部分の「zovla」は特に観念を生じない単語であり,後半部分の「dior」は,本件商標の出願当時及び登録査定時には既に,我が国において著名となっている申立人1の略称「DIOR」と同一のつづり字からなり,特に,本件商標に係る指定商品と申立人1に係る化粧品分野における商品は需要者や取引者の面で共通性が高いことを考慮すると,需要者が申立人1を想起・連想することは明らかである。
そうすると,本件商標が「zovladior」の文字を一体的に表示しているとしても,需要者は,後半部分の「dior」の文字を認識し,ひいては申立人1の略称を連想するというべきである。
また,構成文字が一体的に表示されている商標について本号を適用した判決や審決(甲52)における判断と同様に,本件商標も申立人1の「著名な略称を含む商標」と解されるべきである。
したがって,本件商標は,「他人の著名な略称を含む商標」と解するのが妥当であり,かつ,申立人1の承諾を受けないものであるから,商標法第4条第1項第8号に該当する。
2 申立人2は,本件商標はその指定商品中第9類「全指定商品」について,商標法第4条第1項第8号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから,その登録は同法第43条の3第2項によって取り消されるべきものであるとして,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第58号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)申立人2及び引用商標2ないし引用商標13の著名性について
申立人2は,フランスの著名なファッションデザイナー「Christian Dior(クリスチャン ディオール)」を創始者とするフランス国法人であり,1947年にクチュールメゾンを創設し,2017年に,著名な高級ブランドを取り扱う企業グループとして知られる「LVMH(ルイ ヴィトン モエ ヘネシー)グループ」の傘下となった後も,そのグループの幅広い販売網と宣伝により,日本を含めた世界各国において広く知られる極めて知名度の高いブランド力を維持し続けている。
申立人2の取扱いに係る商品は,婦人服等,服飾関係を主として幅広い分野に及び,これら申立人2による商品は,申立人2の長年の継続的な努力によって,いずれも洗練された高品質であり,世界の超一流品として極めて高い信用が形成されているものである。
このことは,申立人2の売上高をみれば明らかである。すなわち,2017年度の世界全体での売上高は20億ユーロ(約2380億円)となっており,この額は,ファッション部門では,同じ年にLVMHの傘下となったLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン)に次ぐ売上高となっている(甲15)。
そして,日本においても,申立人2に係る婦人服等の各種商品は,洗練された高品質の商品として一般需要者間に広く認識されており,申立人2の長年の継続的な努力によって,世界の超一流品としての極めて高い信用が形成されている。
また,近年では,申立人2のブランドや商品については,「DIOR」を申立人2の略称として用いて事業を行い,宣伝活動を行っている(甲4)。その努力の結果,申立人2の略称としての「DIOR」及びその称呼「ディオール」もまた,申立人2の製造販売する商品を意味するものとして,需要者・取引者らの間で広く知られるに至っている。
このことは,日本において出版された各種刊行物やウェブサイトにおいて,デザイナーの「Christian Dior」氏がデザインした婦人服を製造する申立人2が,「DIOR」(ディオール)と略称されていることからも明らかである(甲16〜甲36)。
また,申立人2がLVMHの傘下に入った2017年は,世界各国で「DIOR」の創業70周年を迎えるイベントが開催され,それらは日本において紹介等されている(甲37〜甲40)。
さらに,2019年には,「DIOR(ディオール)」が伊勢丹への出店20周年を記念して伊勢丹新宿店で,「〈ディオール〉が伊勢丹新宿店をジャック!」として全館あらゆる場所に「DIOR」が掲げられ「DIOR」に関する商品等で埋め尽くされた(甲41)。
このように著名な引用商標2ないし引用商標13「DIOR」は,申立人2ブランドを象徴する最も重要なハウスマークとして,設立以降現在に至るまで,ほぼすべてのあらゆる商品,すなわち本件商標の指定商品に係る眼鏡から被服,バッグ,シューズ,時計等ファッション全般の商品に使用されている。
さらに,「Dior」の著名性については,引用商標11について防護標章登録されており,特許庁の日本国周知・著名商標においても登録されていることから,特許庁において顕著な事実であると思料する(甲11,甲42)。
加えて,婦人服等のファッション関連商品についての「Dior」の著名性については,特許庁における審査・審決例においても認定されている(甲43〜甲50)。
以上のことから,本件商標の出願当時には「Christian Dior」の著名な略称であり,登録商標でもある「Dior」の文字は,申立人2が自らのブランドとして婦人服等のファッションに関係する商品に使用する商標として,極めて広く知られるに至っていた商標であり,現在もその周知性は維持されているというべきである。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標について
(ア)本件商標は「dior」部分が要部として,取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える。
本件商標の構成中「zolva」部分は,我が国において外国語として何らかの意味を持つものとして親しまれている語ではない。むしろ,本件商標は,著名な「dior」の文字がそっくりそのまま含まれていることから,たとえ「zovla」と「dior」の間にスペースがなくとも,上述したとおり「dior」部分が,申立人2の業務に係る婦人服等の商品を表示するものとして,本件商標の出願時には,高い周知著名性を獲得するに至っている事実に鑑みれば,その構成中「dior」部分が,取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部となるというべきである。
かかる判断は,二語以上からなる商標の構成部分のうち(それが,たとえスペースのない態様で表されているものであっても)要部たる周知・著名商標部分を抽出して他の商標との類否判断をした結果,両商標が類似するとした審判決例からもより一層明らかなものとなる(甲51)。
このような審判決例に鑑みるならば,本件商標においても,その構成中周知著名な「dior」部分をその要部とし,かかる要部たる「dior」部分と引用商標2等との類否判断を行うべきであり,その場合,両者は共通の称呼「ディオール」及び著名な引用商標2等に係る「DIOR」ブランドという共通の観念を生じさせるものであるから,互いに類似することは明らかである。
なお,特許庁の審査基準上でも,「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は,その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め,原則として,その他人の登録商標と類似するものとする」とされている。
以上より,本件商標においては,要部たる「dior」部分が他の商標との類否判断の対象となると言うべきである。
(イ)本件商標の外観・称呼・観念
上記(ア)のとおり,本件商標の構成中の「dior」部分が出所表示標識として強い印象を生ずる部分であるから,「dior」部分より「ディオール」の称呼が生じ,かつ,引用商標2等に係る婦人服等の商標として周知・著名な「DIOR」の観念をも生ずる。
イ 引用商標2等について
引用商標2は,欧文字「Dior」の構成よりなり,「ディオール」の称呼を生じ,かつ,申立人2の周知著名なブランドである「ディオール」の観念が生じる。
ウ 本件商標と引用商標2の称呼・観念・外観の類否
上述したとおり,本件商標においては,「dior」部分が要部となり,そこから「ディオール」の称呼を生じ,申立人2が婦人服等に使用して周知著名となった「ディオール」の観念が生じる。したがって,本件商標と引用商標2とは称呼・観念において類似するものである。また,本件商標に係る第9類の全指定商品が,引用商標2の第9類の指定商品中「spectacles,spectacle cases(眼鏡,眼鏡用容器)」と同一又は類似の商品である。
エ 小括
上述のとおり本件商標は,引用商標2と類似する商標である。さらに,上記のとおり,本件商標は引用商標2に係る指定商品・役務と同一又は類似の商品について使用する商標である。よって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標2等の著名性及び独創性
上述のとおり,引用商標2等は申立人2が婦人服等に使用する商標として,本件商標の出願時までには,我が国の取引者・需要者の間で著名となっている。また,引用商標2等を構成する「DIOR」及び「ディオール」は,申立人2の創業者である著名なファッションデザイナー「Christian Dior」の姓に由来するものであり,造語の一種であることは明らかである。
イ 本件商標と引用商標2等との類似性の程度
最高裁判例の判示においても「類似」ではなく「類似性の程度」とされて様々な判断基準の一つと位置づけており,仮に本件商標が商標法第4条第1項第11号の意味で類似しない場合であっても,直ちに本号該当性が否定されるべきではない。
これを踏まえて,本件商標と引用商標2等との間の類似性の程度を検討すると,上述のとおり,引用商標2等は「Dior」又は「ディオール」の文字からなるため,その構成文字に相応して「ディオール」の称呼が生じ,申立人2の著名なブランドである「ディオール」との観念が生じる。
他方,本件商標は,「zovladior」の文字を標準文字で書した態様よりなるが,「zovla」部分は特に意味を持つ単語として親しまれているものではなく,本件商標の第9類の指定商品が,申立人2の引用商標2等に係る周知著名な婦人服等のファッション商品との関連性が非常に高いことに鑑みれば,本件商標に接した取引者・需要者は,著名な引用商標2等を連想するというべきであるから,「dior」部分から「ディオール」の称呼が生じ,申立人2の引用商標2等に係る周知著名なブランドである「ディオール」との観念が生じる。
したがって,本件商標は,引用商標2等と称呼・観念において類似する。
また,仮に,本件商標が引用商標2等との関係において,商標法第4条第1項第11号における類似とまではいえないとしても,極めて強い出所識別機能を有する「dior」の部分が共通するのであり,その類似性の程度は極めて高い。
ウ 本件商標の指定商品と申立人2の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
上述のとおり,本件商標は,申立人2が使用し著名性を有する引用商標2等に係る指定商品の一部の商品と同一又は類似する商品「眼鏡」について使用される商標であるから,商品の性質等及び商品の取引者及び需要者において互いに共通性が高いことは明白である。
実際,申立人2は,「眼鏡,サングラス」等について日本において宣伝広告を行い(甲53),販売している。現在,我が国で申立人2の「眼鏡・サングラス」を扱っている店舗は292にものぼり(甲54,甲55),2015年以降,常に1億円から3億円以上の売り上げをほこっている(甲56)。
さらに,本件商標の第9類の指定商品の眼鏡のつる等に使用された場合,小さく付されることが多いこと,及び,本件商標が周知著名な引用商標2等に係る「DIOR」の文字を含んだ商標であることから,実際の取引実情においても,両商標を離隔的観察した場合に,需要者等が,商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
エ 周知・著名商標をその構成中に含む商標についての異議決定・審判決例
最高裁判決以降,審判決例においても,他人の周知著名な商標をその構成中に含む商標については,当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあるとして,本号に該当するとの判断が定着している(甲57)。
そうであれば,本件商標と引用商標2等についても,本件商標に接した取引者・需要者は,著名な引用商標2等を連想し,引用商標2等に係る商品であるとその出所について混同を生じるというべきである。
オ 小括
以上述べたとおり,本件商標と引用商標2等との称呼及び観念上の類似性,引用商標2等が周知著名性を獲得していること,「DIOR」商標の独創性の高さ,申立人2が著名性を獲得しているファッション分野に関して本件商標が指定商品としている点等の取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断した場合,本件商標に接した取引者・需要者は,あたかも申立人2若しくは申立人2と何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 引用商標2等の著名性
上記のとおり,引用商標2等は,申立人2の業務及び申立人2の業務に係るファッション商品等について使用された結果,「DIOR」のつづり及び「ディオール」の称呼のもと,全国的に高い著名性を有する商標であり,かつ,商標法第4条第1項第19号に規定する「他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」に該当するものである。
イ 本件商標と引用商標2等の類似性
本件商標と引用商標2等は,上述のとおり互いに類似する商標である。
ウ 出願人の「不正の目的
本号における「不正の目的をもって使用するもの」とは,「日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について,出所混同のおそれまではなくとも出所表示機能を稀釈化させ,その名声を毀損させる目的をもって商標出願する場合」,「その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願する場合」等が該当する(東京高裁平成14年(行ケ)第97号,無効2001−35149号)。
然るところ,引用商標2等は,前述のように本件商標の出願時には取引者・需要者間において広く知られ,高い名声・信用・評判を獲得するに至っており,「DIOR(ディオール)」といえば「申立人2が製造販売する世界的に有名なファッションブランドの『DIOR』」との観念が一義的に生じるものである。
一方,本件商標の要部は,引用商標2等の「DIOR」と同一の称呼が生じ,指定商品が申立人2の「DIOR」が著名性を獲得した婦人服等のファッション商品と極めて密接な関連を有する商品であり,商標権者の名称の一部であると思われる「zovla」に引用商標2等の「DIOR」を組み合わせる特段の理由はないことを考えると,商標権者が著名な引用商標2等を知らず,偶然に引用商標2等と同一のつづり及び同一の称呼を生じる文字を含んでなる本件商標を出願したとは考え難く,引用商標2等の有する高い名声・信用・評判にフリーライドする目的で出願,使用されているものと推認される。したがって,商標権者が本件商標を不正の目的で使用するものであることは明らかである。
エ 特許庁の審決
特許庁においても,他人の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていた商標と同一又は類似性の高い商標を,当該広く知られていることを十分に知りながら出願し登録を受けた商標は,自己の利益を得るために出願した商標は不正の目的に基づくものであると多くの審決が認定している(甲58)。
オ 小括
以上のとおり,引用商標2等に係る「DIOR」及び「ディオール」は,本件商標の出願時及び登録査定時において,申立人2の業務に係る婦人服等について世界的に著名な商標となっており,本件商標は,引用商標2等に代表される商標「DIOR」及び「ディオール」に類似するものであって,商標権者が,「DIOR」の著名性に便乗し,「DIOR」(決定注;「dior」の誤記と認める。)の文字を含んでなる本件商標の独占排他的使用を得ようとする不正の目的に基づいて出願し登録されたものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第8号該当性について
「DIOR」は,我が国の一般的な辞書や雑誌等において,申立人2の略称として掲載されていることから,申立人2の略称として一般的に受け入れられ,本号における「著名な略称」に該当することは明らかである。
そして,本件商標は,「zovladior」の欧文字を書してなるところ,申立人2の著名な略称「DIOR」と同じつづり字「dior」が後半部分に表示されていることから,「zovla」と「dior」の2語からなる結合商標であると理解される可能性が十分にあるというべきである。そして,前半部分の「zovla」は特に観念を生じない単語であり,後半部分の「dior」は,本件商標の出願当時及び登録査定時には既に,我が国において著名となっている申立人2の略称「DIOR」と同一のつづり字からなり,特に,本件商標に係る指定商品と申立人2に係るファッション分野における商品は需要者や取引者の面で共通性が高いことを考慮すると,需要者が申立人2を想起・連想することは明らかである。
そうすると,本件商標が「zovladior」の文字を一体的に表示しているとしても,需要者は,後半部分の「dior」の文字を認識し,ひいては申立人2の略称を連想するというべきである。
構成文字が一体的に表示されている商標について本号を適用した判決や審決(甲52)における判断と同様に,本件商標も申立人2の「著名な略称を含む商標」と解されるべきである。
したがって,本件商標は,「他人の著名な略称を含む商標」と解するのが妥当であり,かつ,申立人2の承諾を受けないものであるから,商標法第4条第1項第8号に該当する。

第4 取消理由の通知
当審において,商標権者に対して,「本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。」旨の取消理由を令和3年6月4日付けで通知した。

第5 商標権者の意見
上記第4の取消理由の通知に対し,商標権者は,何ら意見を述べていない。

第6 当審の判断
1 申立人商標の周知性
(1)申立人商標について
申立人提出の甲各号証及び申立人の主張によれば,次のとおりである(以下,申立人1提出の甲第○号証は「申立人1甲○」,申立人2提出の甲第○号証は「申立人2甲○」のように表し,両人提出の甲16〜甲52,甲57及び甲58はそれらの号証番号及び証左が一致するので「甲○」のように表す。)。
ア 申立人は,いずれもフランスのファッションデザイナー「Christian Dior(クリスチャン ディオール)」を創始者とするフランス国法人であり,1947年に化粧品及び香料類の製造販売を業とする企業(申立人1)及び婦人服,紳士服,シューズ,ベルト,ジュエリー,眼鏡,腕時計等服飾関係を取り扱うクチュールメゾン(申立人2)として設立された(申立人1甲3,申立人1甲4,申立人2甲14,申立人2甲15ほか)。
イ 「Dior」及び「DIOR」の文字は,1977年頃から申立人の香水「Christian Dior」に使用され(甲23),遅くとも2002年頃までには申立人の時計,バッグ等についても使用され,その後現在まで継続して,化粧品,香水,婦人服,サングラス等に使用されている(甲29ほか)。また,これらの商品についてはウェブサイトや雑誌・刊行物において紹介されている(申立人1甲8〜甲15,申立人2甲53ほか)。
(ア)ウェブサイト,SNS
申立人は,そのウェブサイトやSNSにおいて,「DIOR」の文字を表示して,「香水,サングラス」等の申立人の商品を掲載している(申立人1甲4,申立人2甲53の1)。
また,申立人の商品「香水,化粧品,サングラス」等は,「@cosme」(2018年7月,申立人1甲8の94),「美的.com」(2018年11月,申立人1甲8の95),「FASHION HEADLINE」(申立人2甲53の2)等の第三者のウェブサイトにおいて,「DIOR」,「Dior」,「ディオール」の文字とともに紹介されている。
さらに,申立人1の商品「化粧品」等は,第三者のSNSにおいて,「Dior」の文字とともに紹介されている(申立人1甲8の567,572〜577ほか)。
(イ)雑誌・刊行物
「世界の一流品大図鑑」(株式会社講談社 昭和52年6月1日発行,甲23),「美的」(2012年4月号 株式会社小学館,申立人1甲8の1),「Oggi」(2012年6月号〜10月号 株式会社小学館,申立人1甲8の2〜6),「VoCE」(2012月1月号 株式会社講談社,申立人1甲8の8),「VOGUE JAPAN」(2015年1月号〜3月号 CONDE NAST JAPAN,申立人1甲8の13〜15),「FRAU」(2015年10月号 株式会社講談社,申立人2甲53の10),「HAPPER’S BAZAR」(2015年10月 ハースト婦人画報社,申立人2甲53の11)「Domani 2015年7月号」(株式会社小学館)(申立人2甲53の18),等の雑誌や刊行物において,「DIOR」,「Dior」,「ディオール」の文字とともに,「香水,バッグ,サングラス,婦人服」等の申立人の商品が紹介されている。
ウ 日本国内における申立人商標に係る商品に関する申立人1の売上高は,2018年は約8.1億円,2019年は約8.2億円である(申立人1甲5)。また,申立人商標に係る商品に関する申立人2の売上高は,世界全体で,2017年度は約2380億円である(申立人2甲15)。
エ 日本において出版された各種刊行物やウェブサイトにおいて,デザイナーの「Christian Dior」の名,同氏がデザインした香水や化粧品を製造する申立人1の名称及び同氏がデザインした婦人服を製造する申立人2の名称が,「DIOR」(ディオール)と略称されている(申立人1甲4,甲16〜甲26ほか)。
オ 近年では,申立人は,そのブランドや商品について,「DIOR」を用いてファッション関連の事業を行い,宣伝活動を行っている(申立人1甲4,申立人2甲53ほか)。
カ 2017年は,申立人の創設70周年に当たる年であり,それを記念するイベントがパリで実施され,それを記念する書籍が発行された(甲37〜甲40)。
キ 2019年9月には,申立人の百貨店の伊勢丹への出店20周年を記念したイベントが行われ,当該イベントにおいては伊勢丹新宿店で「ディオールが伊勢丹新宿店をジャック!」として,全館あらゆる場所に「DIOR」の表示が掲げられるとともに,申立人の商品等が展示・販売された(甲41)。
ク 申立人1の化粧品は,「@コスメ」,「ヴォーグジャパン」,「美的.com」等が優れた化粧品を選出する各種賞において,2018年及び2019年に「ベストコスメアワード」等の賞を受賞している(申立人1甲9〜申立人1甲13)。
ケ 「Dior」の文字からなる商標は,第24類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として防護標章登録されている(申立人2甲11,甲42)。
(2)判断
上記(1)からすれば,「DIOR」及び「Dior」の文字は,1977年頃から申立人の香水「Christian Dior」に使用され,遅くとも2002年からは申立人の商品「時計,バッグ」等に使用され,その後現在まで継続して,商品「化粧品,香水,婦人服,サングラス」等についても使用されているものであり,かつ,かかる商品は近年において日本国内及び世界において相当の売上高があったものと認められる。
さらに,日本国内の各種刊行物やウェブサイトにおいて,申立人の共通の創設者であるデザイナーの「Christian Dior」の氏名,同氏がデザインした香水や化粧品を製造する申立人1の名称及び同氏がデザインした婦人服を製造する申立人2の名称が,「DIOR」(ディオール)と略称されて広く用いられている。
そうすると,申立人商標は,申立人の業務に係る商品「化粧品,香水,時計,バッグ,婦人服,サングラス」等(以下「申立人商品」という。)を表示するものとして,本件商標の登録出願時前から,登録査定時はもとより現在まで継続して我が国のファッション関連分野の需要者の間に広く認識され,著名性を獲得しているものと判断するのが相当である。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標
本件商標は,上記第1のとおり「zovladior」の文字を標準文字で表してなるものである。
(2)申立人商標
申立人商標は,上記第2の2のとおり「DIOR」及び「Dior」の文字からなるものである。
(3)本件商標と申立人商標との類似性の程度について
本件商標と申立人商標は,それぞれ上記(1)及び(2)のとおりの構成からなるところ,本件商標はその構成中,後半の「dior」の文字が申立人商標「DIOR」及び「Dior」とつづりを同じくするものであって,全体の9文字のうち4文字までを申立人商標と共通にするものであるから,両商標はある程度の類似性を有するものといえる。
(4)申立人商標の周知著名性及び独創性の程度について
上記1(2)のとおり,申立人商標は,いずれも本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものであり,また,申立人の創始者の氏名の一部であって,他に意味を有しないものであるから,独創性の程度は高いものといえる。
そして,申立人商標は,申立人が1977年頃から香水「Christian Dior」に使用し,遅くとも2002年からは時計,バッグ等,その後現在まで継続して,化粧品,香水,婦人服,サングラス等に申立人商標を付して販売していることや,近年のファッション雑誌やウェブサイト等における広告や紹介の状況(申立人1甲8〜甲15,申立人2甲53)等を考慮すれば,申立人商標の周知性の程度は極めて高いものというのが相当である。
(5)本件商標の指定商品と申立人商品との関連性の程度及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品は第3類,第5類,第9類及び第10類に属する上記第1のとおりの商品であり,申立人商品は上記1(2)のとおり「化粧品,香水,時計,バッグ,婦人服,サングラス」等である。
そして,両商品を比較すると,前者の指定商品中,第3類「化粧品,香料,薫料」及び第9類「眼鏡,読書用眼鏡,偏光眼鏡,サングラス」と後者の商品「化粧品,香水」及び「サングラス」とは同一又は類似すると認められる商品であり,また,前者の他の指定商品には,美容や美肌に係るものであって後者の商品「化粧品」と用途及び目的を共通にするものが少なくないから,両商品の関連性は高いかある程度の関連性があるといえる。
さらに,両商品は,上記のとおり,同一又は類似する商品や,その用途,目的における関連性が高いかある程度の関連性があるものであるから,取引者,需要者層が共通するものといえる。
(6)その他取引の実情について
申立人商標は,申立人の創設者の略称ないし社名の一部であり,申立人のハウスマークといえる。
(7)出所の混同を生ずるおそれについて
上記(1)ないし(6)のとおり,本件商標と申立人商標とは,ある程度の類似性を有するものであること,申立人商標は周知性の程度が極めて高いものであり,かつ,独創性の程度が高いものであること,及び本件商標の指定商品と申立人商品の関連性の程度が高いかある程度の関連性があること,取引者,需要者層も共通すること,さらに,申立人商標がハウスマークであることから,本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば,本件商標は,看者をして,その構成中,後半の「dior」の文字に着目し,申立人商標を連想又は想起させることが少なくないものと判断するのが相当である。
そうすると,本件商標は,商標権者がこれをその指定商品について使用するときは,取引者,需要者をして周知著名となっている申立人商標を連想又は想起し,その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認し,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから,同法第43条の3第2項の規定に基づき,その登録を取り消すものである。
付言するに,当審は,本件商標は,申立人が主張する商標法第4条第1項第8号,同項第11号及び同項第19号には該当しないものと判断する。
よって,結論のとおり決定する。

別掲
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは,この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は,著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては,著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
異議決定日 2021-12-28 
出願番号 2019018545 
審決分類 T 1 651・ 261- Z (W03050910)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 平澤 芳行
特許庁審判官 須田 亮一
鈴木 雅也
登録日 2020-02-19 
登録番号 6227664 
権利者 ZOVLA株式会社
商標の称呼 ゾブラディオール、ゾブラディア 
代理人 田中 克郎 
代理人 池田 万美 
代理人 田中 克郎 
代理人 宮川 美津子 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 特許業務法人iRify国際特許事務所 
代理人 池田 万美 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 稲葉 良幸 

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