• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W25
管理番号 1385411 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-12 
確定日 2022-05-12 
異議申立件数
事件の表示 登録第6376426号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6376426号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6376426号商標(以下「本件商標」という。)は、「FRAGONARD」の文字を標準文字で表してなり、令和2年9月24日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服」を指定商品として、同3年2月10日に登録査定、同年4月13日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由において、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして、引用する登録商標は以下の1及び2のとおりであり(以下、これらをまとめていう場合は、「引用商標」という。)、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
1 登録第4165029号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:FRAGONARD
指定商品:第3類「せっけん類,エッセンシャルオイル,その他の香料類,ヘアーローション,その他の化粧品,歯磨き,つけづめ,つけまつ毛,つや出し剤,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」
登録出願日:平成7年11月13日
設定登録日:平成10年7月10日
2 登録第5178768号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:FRAGONARD(標準文字)
指定役務:第35類「香水・化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,香料入りろうそく及びその他のろうそくの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
登録出願日:平成19年6月13日
設定登録日:平成20年11月7日

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第32号証を提出した。
1 「FRAGONARD」の語について
(1)著名なフランスの画家である「Fragonard」について
「FRAGONARD」は、フランスの画家であるジャン・オノレ・フラゴナール(Jean Honore Fragonard)(以下「フラゴナール」という。)の略称であり、フランスだけでなく、世界中で当該画家を指称するものとして著名である。
西洋美術史において、18世紀はロココの世紀であり、フラゴナールは、その18世紀の後半のフランスを代表する画家である。つまり、フラゴナールは、フランス・ロココ美術の典型的な画家であるとともに、時代の変化の中で、ロココ時代の最後を飾った画家「ロココの巨匠」ともいえる。1793年には、美術管理委員会メンバーに選ばれ、1800年までルーヴル美術館の収蔵品管理を担当していた(甲3〜甲6)。
フラゴナールについては「ロココの巨匠」として、世界各地で展覧会が開催され、フランスにおいても、頻繁に展覧会や企画展が開催されている(甲7)。また、2012年にはフラゴナールを題材とした伝記小説も発行されている(甲8)。
我が国においても人気は高く、1980年には、読売新聞社が、国立西洋美術館編集によるフラゴナール展の図録を刊行している(甲9)。また、国立西洋美術館は、フラゴナールの作品である「丘を下る羊の群」、「若い熊使い」及び「ドラリーチェ姫を連れ去る王子マンドリカルド」の3作品を所蔵し、展示を行っている(甲10)。さらに、東京富士美術館は、フラゴナールの作品である「豊穣な恵み」を所蔵し、2021年9月14日(決定注:「9月14日」は「9月19日」の誤記と認める。)から12月5日まで展示を行っている。(甲11)。加えて、インターネット上においても、美術ファンの間でフラゴナールの代表作が特集されるなど(甲12)、フラゴナールは、現在でも、我が国において根強い人気があることを容易に認識し得る。
(2)申立人の略称としての「Fragonard」について
申立人は、「Fragonard」をハウスマーク(商標)として使用し、ハンドメイドの香水とその関連芳香製品の製造販売を行うフランスの大手企業である。
申立人は、世界で初めて香水工場を設立し、そのブランドの起源は1920年代まで遡る。1926年に、古くから香水産業が発達し、香りの故郷ともいわれる南仏・グラースに創業し、現在は、4代目となる創業者のひ孫に経営が引き継がれている(甲13、甲14)。
グラースとエズに自社工場があり、パリ、グラース、エズに6つの直営店舗を展開しているほか、文化事業として、香りの文化や歴史を紹介する香水博物館をパリとグラースに所有、一般公開している。申立人の製品は、主力商品のフレグランスを始め、ボディーケア、ルームフレグランス、ソープなど日常生活における香りのトータルブランドとして位置付けられており、欧米では、若い女性のみならず子供、男性、中高年まで幅広い層に愛用されている(甲13、甲15、甲16)。
フラゴナールブランドは、2004年に全日空商事を正規輸入総代理店として、本格的に我が国へ進出し(甲13)、2005年には、青山と横浜に出店するが(甲17)、2007年には、我が国の市場より撤退する。しかし、我が国の市場より撤退したことにより、申立人の製品は、入手しにくくなったため、希少価値が高まり、現在でも一定の需要層からは、根強い人気があり、その秘密を分析する者もおり、その分析情報を掲載するインターネットサイトも存在する(甲18)。
例えば、パリを紹介する旅の書籍や旅行サイトでは、香水ブランド及び関連雑貨の店として、必ず申立人の店舗が紹介され(甲19、甲20)、また、創業の地である南仏・グラースの名所紹介でも、申立人の工場が紹介されている(甲21)。
また、申立人の最大の特徴である「パリの香水博物館 LE MUSEE DU PARFUM FRAGONARD」(「MUSEE」の欧文字の最初の「E」は、アクサンテギュ付きである。)も紹介されており、パリのホテルでは、我が国の宿泊客向けのおすすめ情報として、この「香水博物館」を紹介するほどの名所となっている(甲22、甲23)。
オンラインショップの整備も、我が国の需要者における根強い人気を継続することに、大きく役立っている。香水を主力製品として、その他化粧品等も含めて、男女を問わず、充実したラインナップがそろっている(甲24)。また、アマゾン、楽天等の販売サイトからも、Fragonardの製品を購入することができる(甲25〜甲27)。取り扱う製品は限定されるが、それでも一定の需要者層が確実に存在するからこそ、このような販売サイトが存在するといえる。
また、申立人は、Fragonard(フラゴナール)のブランド力を活かし、各種被服にも事業を拡大している。ストール、ポンチョ、ガウン、ベビー服、子供服等をオンラインショップにて販売し(甲28)、また、申立人が取り扱う被服等には、独特のコンセプトがあり、それを紹介する記事も存在する(甲29)。
さらに、申立人は、我が国において、香水とその関連芳香製品の製造販売を行うため、登録商標を有し、引用商標をハウスマークとして使用している(甲2)。
以上の事実は、申立人が、ファッションの分野で今や世界的に多様な事業を展開し、そのための流通販売経路を持つ国際企業であることを示している。「FRAGONARD」という商標を長期にわたって広く使用し、販売促進を行うことにより、申立人は、特に香水及びファッション業界で大きな影響力を獲得し、引用商標は関連需要者の間で世界的な名声を得て認知されている。そして、その認知度は、我が国においても相当に高く、上記事実を鑑みれば、著名の域に達していることに疑いはない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
引用商標は、フランス国民に深く愛好され、我が国でも同様に深く愛好されているフランスの高名な画家の略称である。一方、本件商標は、「FRAGONARD」の標準文字のみからなるものであり、引用商標と同一の観念しか生じ得ない。
よって、本件商標を登録し、使用することは、我が国とフランス国との国際信義に反するおそれがあるものである(甲32)。殊に、本件商標を、美術性をその特徴として発揮する指定商品に使用することは、フランス国民の感情を害するおそれがあると思われる。
なお、東京高裁平成13年(行ケ)第443号判決(甲30)及び無効1998−35253号審決(甲31)においても、世界的に著名な画家「サルバドール・ダリ」の略称である「ダリ/DARI」及び「Alphonse Mucha」の略称「Mucha」を含む「Doi Mucha Collection/ドイミュシャコレクション」について、第三者が商標登録することが商標法第4条第1項第7号に反すると認定されている。
したがって、本件商標の登録は公序良俗に反するものであって、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標と引用商標とは、共に「フラゴナール」の称呼を生じるものであり、類似する商標であって、本件商標の指定商品と引用商標が使用される商品とは同一である。
また、引用商標は、遅くとも2015年頃から世界各国で被服等に、使用されており、アパレル業界で広く知られている。
このような状況において、本件商標をその指定商品に使用すると、引用商標の周知性により、引用商標との間で出所の混同が生じるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標は、我が国において遅くとも2004年から、申立人の香水及び芳香製品に使用されている。1995年には我が国の商標登録を取得すべく、化粧品等を指定して引用商標を登録出願している(甲2)。そして、現在、引用商標は我が国の需要者の間では著名な表示である(甲17〜甲29)。
したがって、引用商標を目にする需要者、取引者はそれが申立人を指し示すと理解するから、本件商標をその指定商品に使用した場合、需要者の間で当該商品が申立人と関連あるものによって提供されているかのように出所の混同を生じるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標は、申立人を示す著名な表示であることからすれば、国内で引用商標が既に有名であり絶大な影響力があることを考慮すると、本件商標の商標権者が申立人のグッドウィルと名声にフリーライドする意図を持っていると判断するのが妥当である。
したがって、本件商標が、申立人とは何ら関係のない第三者によって使用された場合、申立人の著名表示の出所表示機能が稀釈化され、また、それに化体した信用、名声が毀損されるおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 当審の判断
1 引用商標及び申立人商標の周知著名性について
(1)申立人の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。
ア 申立人は、1926年に創業したフランスの香水メーカーであり、2004年(平成16年)に全日空商事株式会社との間で申立人の製品に係る独占輸入販売契約を締結した(甲13)。
イ 申立人は、2005年(平成17年)3月19日に東京・青山、同年10月26日に横浜みなとみらいに、それぞれ直営店を開いた(甲17)。
ウ 申立人は、数件の新聞記事、書籍又はウェブサイトにおいて、「フラゴナール」又は「フラゴナール社」といった略称によって、フランスの香水メーカー、ブランド又は店舗として紹介されている(甲17〜甲23)。
エ 申立人は、「香水,石けん」等の商品に「フラゴナール」の片仮名からなる商標、「Fragonard」の欧文字からなる商標及び引用商標(以下、これらをまとめて「申立人商標」という。)の使用をしている(甲18)。
オ 申立人商標が使用された「香水,石けん」等(以下「申立人商品」という。)が、2020年(令和2年)8月19日付けのウェブサイトの記事において紹介されている(甲18)。
カ 申立人商品が、「Rakuten ラクマ」及び「BUYMA」といったオンラインショッピングサイトにおいて販売されている(甲26、甲27)。
キ 「madame FIGARO.jp」と称するウェブサイトにおいて、申立人商標の使用がされた「被服」等が紹介されている(甲29)。
ク 「Maison Fragonard, a family story」と称する外国語のウェブサイトにおいて、申立人が紹介されており(甲14)、また、外国語の数件のウェブサイトにおいて、申立人商品が紹介されており(甲16、甲24、甲25)、さらに、申立人は、外国語のウェブサイトにおいて、被服も販売している(甲28)。
(2)判断
ア 前記(1)アないしキによれば、申立人はフランスの香水メーカーであって、我が国においては平成17年から直営店が開かれており、数件の新聞記事、書籍又はウェブサイトにおいて、「フラゴナール」又は「フラゴナール社」といった略称によって紹介されていることが認められる。
また、申立人は、申立人商標を「香水,石けん」等に使用をしており、当該申立人商品は、2020年(令和2年)8月19日付けのウェブサイトの記事において紹介されるとともに、「Rakuten ラクマ」及び「BUYMA」といったオンラインショッピングサイトにおいて販売されていることが認められ、さらに、申立人商標は「被服」にも使用をされていることが認められる。
しかしながら、申立人の略称や申立人商品が紹介又は販売されている新聞記事、書籍又はウェブサイトの掲載例は僅かであり、その他に申立人商品に関する販売数、広告の方法、市場シェア等を示す証拠の提出はない。
そうすると、申立人の提出に係る証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商標が申立人の業務に係る「被服」はもとより、その他の商品を表示する商標として、我が国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
イ 前記(1)クによれば、数件の外国語のウェブサイトにおいて、申立人や申立人商品、又は申立人が被服を販売していることが紹介されていることは認められるものの、その他に外国における申立人商品に関する販売数、広告の方法、市場シェア等を示す証拠の提出はない。
そうすると、申立人の提出に係る証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商標が申立人の業務に係る商品を表示する商標として、外国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
ウ 以上によれば、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
前記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商標が申立人の業務に係る「被服」等を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されていたとはいえない。
そうすると、たとえ、本件商標と引用商標を始めとする申立人商標とが類似し、かつ、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品とが類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
前記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されていたとはいえない。
そうすると、たとえ、申立人商標の独創性の程度及び本件商標と申立人商標との類似性の程度が高く、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品との関連性及び需要者の共通性が認められる場合があるとしても、本件商標をその指定商品に使用をしても、当該商品が申立人の商品に係るものであると誤信されるおそれがあるとはいえず、当該商品が申立人との間にいわゆる親子関係や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるともいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
前記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたものとはいえない。
そのため、たとえ、本件商標と申立人商標とが同一又は類似の商標であったとしても、本件商標をその指定商品に使用をした場合、これによって、申立人商標の出所表示機能が希釈化されたり、申立人商標に化体された信用、名声、顧客吸引力等が毀損されたりするおそれはないというべきである。
他に、本件商標が不正の目的をもって使用をするものというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
申立人の提出に係る証拠によれば、ジャン・オノレ・フラゴナール(Jean Honore Fragonard)という画家が過去に存在し、当該画家は「フラゴナール」と略称されていること(甲3〜甲6)、当該画家の企画展がパリで開催されたこと(甲7)、当該画家の伝記及び図録が販売されていること(甲8、甲9)、当該画家の作品が国立西洋美術館のウェブサイトを始めとする数件のウェブサイトにおいて紹介されていること(甲10〜甲12)が認められるとしても、これらの事実のみによっては、当該画家が周知・著名な人物とはいえず、また、本件商標の使用や登録が、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するような場合又は一般に国際信義に反するような場合に該当するともいえない。
他に、本件商標が、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するとはいえず、その登録は同項の規定に違反してされたものとはいえない。
他に、本件商標の登録が商標法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意)
特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分に御注意ください。
異議決定日 2022-04-26 
出願番号 2020124206 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W25)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 豊田 純一
特許庁審判官 山田 啓之
杉本 克治
登録日 2021-04-13 
登録番号 6376426 
権利者 MARAIS LUXE合同会社
商標の称呼 フラゴナール、フラゴナード、フラゴナルド 
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ