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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W05
管理番号 1385404 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-16 
確定日 2022-05-09 
異議申立件数
事件の表示 登録第6372751号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第6372751号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第6372751号商標(以下「本件商標」という。)は,「XINS」の文字を標準文字により表してなり,令和3年1月25日に登録出願,第5類「衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,医療用試験紙,生理用ナプキン,生理用パンティ,ばんそうこう,包帯,おむつ,おむつカバー,サプリメント」を指定商品として,同年3月18日に登録査定され,同年4月2日に設定登録されたものである。

第2 引用標章
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が使用している標章は,別掲1及び別掲2のとおりの標章である(甲2,以下,別掲1の標章を「引用標章1」,別掲2の標章を「引用標章2」といい,これらをまとめていうときは「引用標章」という。)。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は,本件商標は,商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当するものであるから,商標法第43条の2第1号により取り消されるべきである旨申し立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第34号証を提出した。
1 申立人,本件商標権者及び雪原合同会社について
(1)申立人について
申立人は,平成25年(2013年)11月1日に設立された企業であり(甲3),2018年より中国工場にて不織布マスクの製造販売,日本への輸入販売を開始し,2020年からは日本国内の工場で不織布マスクを製造し,国産不織布マスクの販売を開始している。
(2)本件商標の商標権者について
本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)は,大分県大分市を所在地として,通信販売サイトであるAmazonで,ストア名「ran to rin」(以下「商標権者ストア」という。)を運営し,商品の通信販売を行う販売業者である(甲4)。
(3)雪原合同会社について
雪原合同会社は,埼玉県越谷市を所在地として,通信販売サイトであるAmazonで,ストア名「ライトファッション」(以下「ライトファッション」という。)を運営し,商品の通信販売を行う販売業者である(甲5)。
(4)申立人,本件商標権者及び雪原合同会社の互いの関係について
申立人は,不織布マスクの製造業者であり,本件商標権者及び雪原合同会社は,申立人の製造した不織布マスクを申立人から仕入れて販売する販売業者である。
また,本件商標権者と雪原合同会社とは,通信販売サイトであるAmazonにおいて,申立人から仕入れた同じ不織布マスクをそれぞれのストア名のストアから通信販売する同業他社の関係にある。
(5)申立人の会社ロゴについて
「XINS」は,申立人の会社ロゴであり,「XINS」の文字と共に中国らしい伝統的な柄である雲をモチーフにして無限大をデザインしたものである(甲2)。
申立人の代表者の英語表記は「XU XIN」であり,この名前の部分「XIN」に英語で「〜の」を意味する「’S」の「S」を付けて「XINS」を社名に採用したものである(甲6)。
申立人は,令和2年4月1日に株式会社シンズに変更されているが,「XINS」は,会社名の英文字表記や申立人の会社ロゴの文字として継続使用している。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)本件商標権者の取引の状況から登録出願,設定登録に至る経緯
ア 申立人と本件商標権者との取引開始は2020年(令和2年)11月であり(甲7),申立人と雪原合同会社との取引開始は2020年(令和2年)7月である(甲8)。
両者は,申立人から仕入れた不織布マスクを商標権者ストア及びライトファッションのそれぞれで販売していた(甲8)。
イ 令和2年12月頃,本件商標権者は,商標権者ストアでの当該不織布マスクの販売が低迷しているのに対し,ライトファッションでの当該不織布マスクの売行きが良いと感じ,同年12月下旬に雪原合同会社の当該不織布マスクの販売におけるAmazonのレビューに悪いレビューを多数回書き込むとともに,Amazonカスタマーサービスに対して偽物を売っているかのような通報を行った(甲9)。
ウ 申立人は,上記事態になっていることを雪原合同会社から連絡を受けて知り,本件商標権者と雪原合同会社との間をとって状況確認を行ったところ,本件商標権者は,令和3年2月24日の雪原合同会社に対するAmazonサイトでの悪いレビューの書き込みが,ライトファッションに対する評価をおとしめるようなコメントであったことを認め,今後二度とこのような行動を取らないことを約束し,引き続きの申立人との取引継続を希望する旨の「お詫び状」を送付した(甲10,甲11)。
エ 本件商標権者は,上記「お詫び状」を申立人に送る一方,令和2年(決定注:「令和3年」の誤記と認める。)1月25日に本件商標の登録出願を行い,出願の翌日に早期審査に関する事情説明書を特許庁に提出していた。本件商標は,早期審査の結果,令和3年4月2日に設定登録に至っている。
オ 令和3年5月,本件商標権者は,本件商標が設定登録に至ったことを契機として,上記「お詫び状」の内容をほごにし,本件商標権者としてAmazonに対してライトファッションが知的財産権を侵害している可能性を報告した(甲12)。これにより,ライトファッションはAmazonでの出品停止に追い込まれた。
カ 申立人は,本件商標権者が本件商標を登録したこと及び雪原合同会社のAmazonでの出品が出品停止に至っている状況を把握した。
キ 本件商標の登録から現在に至るまでの間,申立人と本件商標権者とは,Amazonでの雪原合同会社の出品停止を解除するための交渉を進めたもののまとまらず,本件商標権者は,令和3年7月9日,申立人に対して電子メールにて商標譲渡金300万円程度の支払いを要求した(甲13)。
(2)剽窃的な出願であることについて
ア 本件商標権者と申立人とは,不織布マスクについて令和2年11月から取引関係にあることから,本件商標の登録出願時において本件商標が申立人の会社名であることを当然に知っていた(甲7)。
また,上記2(5)のとおり「XINS」は申立人の代表者の名前にちなんだ造語であり,申立人と取引関係にある本件商標権者が創出したものとは考えられない。
イ 本件商標権者による本件商標の登録出願の動機が,雪原合同会社に対する対抗措置としての出願であることを本件商標権者が自ら認めている(甲15)。
ウ 本件商標権者は,申立人との信頼関係を自ら壊しておきながら,本件商標が登録されたことを利用して,取引継続を迫る交渉を進めている(甲14〜甲16)。
エ 本件商標権者は,本件商標の登録異議申立がされていることを把握しながら,申立人との取引交渉の材料として権利行使の可能性に言及し,商標譲渡金の支払い要求を行って金銭的利益を得ようとしている(甲13)。
オ 本件商標の登録出願の経緯として,本件商標権者は早期審査に関する事情説明書を提出しているが,この中で提出した「商標の使用の事実を示す書類」における商標権者ストアの商品ページに示された商品パッケージの写真は,申立人が使用している商品パッケージ(包装箱)の写真であって,写真には見えていない裏面側には,販売元として申立人の名称及び住所等が示されている(甲18)。
それにもかかわらず,「XINS」の文字が自らの商標であるかのごとく示し,特許庁に早期審査を行わせようとした(甲17)。
カ 本件商標権者は,通信販売サイトAmazonにおける知的財産権ポリシーを悪用し,自ら商標権を取得してAmazon内の同業他社である雪原合同会社の出品停止に追い込むため(雪原合同会社への対抗措置として),本件商標の出願に至っている(甲12,甲15)。
キ 本件商標権者は,本件商標以外にも,同様な剽窃的と思われる別の商標登録出願を行っており(甲19),本件商標の場合と同様にAmazonの同業他社の使用を出願人の許可を得ていない使用である旨を主張している(甲20)。
(3)小括
このように,本件商標は,申立人の本件会社ロゴの文字を剽窃的に出願したものと認められ,当該商標の出願の経緯は社会的相当性を欠くものであることから,商標法第4条第4条第1項第7号に規定する公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当する。
3 商標法第4条第1項第19号について
(1)本件商標と申立人の会社ロゴの文字との類否
本件商標は標準文字で「XINS」であり,申立人の本件会社ロゴの文字と類似する。
(2)申立人による不織布マスクの販売及び周知性について
申立人は,令和2年4月頃,新型コロナウイルスによる影響で日本国内におけるマスク不足が深刻化していたなか,不織布マスクの増産を進めながら,厚木市等の地方自治体,公益社団法人神奈川県私立幼稚園連合会へ合計400万枚以上のマスクを寄付する活動を行っている(甲21〜甲28)。
このような寄付行為の功績が認められ,申立人は,令和3年1月14日に神奈川県知事からの感謝状を受けている(甲29)。
さらに,申立人は,令和3年3月に,神奈中タクシー乗車客へのマスク試供品プレゼントキャンペーンを行い(甲30),小田急電鉄,東京メトロ等において広告を掲載している(甲31〜甲34)。
また,ネット検索においても「シンズマスク」「XINSマスク」によって申立人の製造した不織布マスクは数多くヒットする。
これらのことより,申立人の会社ロゴと類似の「XINS」は,不織布マスクの需要者の間に広く認識されている商標であると考えられる。
(3)本件商標権者による不正の使用
ア 本件商標権者は,令和3年7月9日の電子メールにて申立人に対し,商標の買い取り要求をした(甲13)。
イ 本件商標権者は,Amazonに対してライトファッションが知的財産権を侵害している可能性を報告し,雪原合同会社をAmazonでの出品停止に追い込んだ(甲12)。また,本件商標権者は,雪原合同会社に対する対抗措置として商標出願を行ったことを認めている(甲15)。
ウ 本件商標権者は,雪原合同会社をおとしめる不誠実な攻撃をしたにもかかわらず(甲9),申立人に取引継続を迫るため,交渉材料として本件商標の出願及び登録を行った(甲15,甲16)。
エ 前記のとおり,本件商標権者は,商標を登録する時点において,申立人との間で本件商標が記載されたマスクの取引を開始し,また,当該マスクが広く販売されていることを認識していた。
(4)小括
このように,本件商標は,申立人の業務である不織布マスクを表示するものとして需要者の間に広く認識された申立人の会社ロゴの文字と同一又は類似する商標であって,本件商標権者が不正の目的をもって使用する商標であるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 当審における取消理由の通知
当審において,本件商標権者に対して,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する旨の取消理由を令和3年12月8日付けで通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。

第5 本件商標権者の意見
本件商標権者は,上記第4の取消理由に対して意見を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
1 本件商標権者について
本件商標権者は2015年(平成27年)からEC事業に参入。当初は家具をメインに販売。その後,アパレル商品や雑貨も取り扱い,2017年(平成29年)から「XINS」のブランド名を付してマスクの販売も開始し(乙2),現在も本件商標権者が製造したものではない本件商標権者オリジナルのマスクを「XINS」のブランド名で販売している(乙3)。
ブランド名の由来は,本件商標権者が好んで聞いていた音楽のバンド名「SNIX」(スニックス)。そのままでは体裁が悪いため,反対から読んで「XINS」と命名した(乙1)。
2 商標の使用に関して
本件商標権者は,2020年(令和2年)10月頃ないし2021年(令和3年)1月頃までの約4か月間は申立人よリマスクを仕入れていたが,申立人の担当者には,本件商標権者がそれより前の2017年(平成29年)から「XINS」のブランドでマスクを販売していたこと及び「XlNS」のブランド名を先使用している旨を伝え,申立人もそのことを承知しており,本件商標権者と申立人の間で何も問題なく取引が行われていれば本件商標権者が先使用している「XINS」の使用を申立人にも認めるとの約束をしていた。
しかし,2020年(令和2年)12月半ばから他代理店の販売が始まり,申立人に対し,その行為の改善を要求するも一向に対応しない申立人の不誠実な対応が,申立人と本件商標権者の間で何も問題なく取引が行われていれば本件商標権者が先使用している「XINS」の使用を申立人にも認めるとの約束をほごにした形となったため,本件商標権者が以前より使用していた「XINS」を商標登録。これは申立人が取決めを無視した行為が原因である。商標の先使用及び取決めに関して前もって申立人に伝えている以上,この行為は何ら問題ないものである。
また,申立人は本件商標権者に対し,1億円の支払いを求め,さらにはこれに応じなければ数億円から数十億円規模の賠償を求めるという文書を送ってきている(乙4)。
いずれにしても本件商標権者は以前より商標を使用している。
3 当案件の前に申立人より裁判所を通じて申立てが行われたが,裁判所に既述の内容を説明した結果,和解や裁判になる前に申立人より取り下げられた(乙5〜乙7)。
4 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。

第6 当審の判断
1 申立人の提出に係る証拠及び主張並びに職権調査によれば,以下の事実が認められる。
(1)申立人商品並びに申立人,商標権者及び雪原合同会社について
ア 申立人は,平成25年(2013年)11月1日に設立された企業(令和2年4月1日付けで,法人の目的にマスクの製造,輸出入及び販売を追加。)であり,2018年(平成30年)より中国工場にて不織布マスクの製造販売,日本への輸入販売を開始し,2020年(令和2年)からは国産不織布マスクを製造し,販売を開始した(甲3,申立人の主張)。
イ 品名を「耳らくリラマスク」とする不織布マスク(以下「申立人商品」という。)の包装箱には引用標章(色彩の異なるものを含む,以下同じ。),「商品目」として「サージカルマスク」の文字及び「販売元」として申立人の旧商号である「株式会社XINS」(令和2年4月1日付けで「株式会社XINS」より現商号「株式会社シンズ」に変更。)が表示されている(甲3,甲18)。
なお,当該包装箱は,申立人がデザインしたものであるとされる(申立人の主張)。
ウ 本件商標権者は,通信販売サイトのAmazonで,商品の通信販売を行う販売業者であり,商標権者ストア(ストア名「ran to rin」)の運営責任者である(甲4,甲17)。
エ 申立人と商標権者ストアとの取引開始は,2020年(令和2年)10月であり,商標権者ストアでは,申立人から仕入れた「XINS」の表示がされた申立人商品(納品書の品名は「耳楽リラマスク」)を通信販売サイトAmazonで販売している(甲4,甲7)。
オ 申立人は遅くとも2020年(令和2年)7月から,雪原合同会社に「XINS」の表示がされた申立人商品を納品しており,雪原合同会社は,通信販売サイトAmazonのストア名「ライトファッション」において申立人商品を販売している(甲5,甲8)。
カ 上記アないしオを踏まえれば,申立人は,申立人商品(不織布マスク)の製造販売業者であり,他方,本件商標権者及び雪原合同会社は,申立人商品を申立人から仕入れて販売する販売業者であるから,本件商標権者及び雪原合同会社にとって,申立人は,申立人商品を仕入れる仕入先となる。
また,本件商標権者と雪原合同会社は,同じ通信販売サイトのAmazonにおいて,申立人から仕入れた申立人商品をそれぞれのストアから販売しており,同業他社の関係にある。なお,両者の販売する申立人商品は,販売価格を除き,ブランド名,包装箱,商品説明及び素材は同一である(甲4,甲5)。
(2)引用標章及び「XINS」の文字について
ア 引用標章及び申立人の旧商号に使用されている「XINS」の文字は,申立人の代表者の名前「XU XIN」にちなんだ造語である(甲6,申立人の主張)。
なお,「XINS」の文字は,申立人の会社名の英文字表記等としても使用されていることがうかがえる(甲18,甲21〜甲27,甲29)。
イ 令和2年(2020年)2月29日付け東京読売新聞(朝刊)には,「マスク生産 設備投資補助の3社決定」の見出しの下,「新型コロナウイルスの感染拡大を受け,経済産業省などは28日,マスク増産のための設備投資を補助する第1弾の事業者3社を発表した。国内メーカーは24時間体制で通常の3倍に相当する増産を続けているが,品薄状態は解消されておらず,官民一体で供給量の確保を急ぐ。事業者は,マスクを製造する『興和』,『XINS』,マスクに使うゴムひもの部材を製造する『ハタ工業』のメーカー計3社。」との記載がある(職権調査)。
ウ 上記ア及びイによれば,申立人は,遅くとも,「XINS」の欧文字からなる商標(以下「申立人商標」という。)を令和2年(2020年)2月頃から申立人商品に付して販売し,申立人商標は現在まで継続して使用していることが推認される。
(3)本件商標権者のAmazonサイトでのレビュー等について
ア 本件商標権者は,令和2年(2020年)12月下旬に,ライトファッションより販売された申立人商品に係るAmazonサイトでのレビュー欄に,当該商品を購入した顧客をよそおい,評価の低いレビューを多数回書き込むと共に,Amazonカスタマーサービスに対してライトファッションが申立人商品の偽物を売っているかのような通報を行った(甲9)。
イ 申立人は,上記事態になっていることを雪原合同会社から連絡を受けて知り,本件商標権者と雪原合同会社との間をとって状況確認を行った(申立人の主張)。
ウ 本件商標権者は,申立人に対して,令和3年(2021年)2月24日に,Amazonサイトでのレビューの書き込みについて,ライトファッションに対する評価をおとしめるようなコメントを記載し,また「51枚は偽物」と表記するような軽率な行動であったことを自ら認め,今後二度とこのような行動を取らないことを約束し,引き続き申立人との取引継続を希望する旨の「お詫び状」を送付した(甲10,甲11)。
(4)本件商標の登録出願の経緯と登録後の申立人と本件商標権者とのやり取りについて
ア 上記(3)のとおり,本件商標権者は,令和2年(2020年)12月下旬に,ライトファッションより販売された申立人商品に係るAmazonサイトでのレビュー欄に,当該商品を購入した顧客をよそおい,評価の低いレビューを多数回書き込む一方,同3年(2021年)1月25日に本件商標の登録出願を行い,翌日に,ライトファッションが出願人に無断でAmazonサイト内にて出願に係る商標を付した商品を販売していることを理由とした早期審査に関する事情説明書(甲17)を提出したところ,本件商標は,同年3月18日に登録査定,同年4月2日に設定登録された。
イ 本件商標権者は,令和3年(2021年)5月に,本件商標が登録されたことを理由として,Amazonに対してライトファッションが販売する申立人商品について,知的財産権を侵害している可能性があるとの申立てを行った。Amazonは,この申立てを受け,他社の知的財産権を侵害するコンテンツの掲載は,知的財産権ポリシーに違反することを理由として,ライトファッションの出品を一部削除した(甲12)。
ウ 申立人は,雪原合同会社から上記事態の連絡を受け,これによって申立人は,本件商標権者が本件商標「XINS」を申立人に無断で登録したこと,及びライトファッションによるAmazonでの出品が本件商標権者のAmazonへの通報によって出品停止に至っている状況を把握した(申立人の主張)。
エ 本件商標権者は,申立人に対して,令和3年(2021年)6月16日付け電子メールにおいて,本件商標の登録は,同2年(2020年)12月にライトファッションによる申立人商品のAmazonへの出品によって本件商標権者の販売する申立人商品が売れなくなったから,対抗措置として本件商標を登録した旨を述べると共に,申立人商品の取引継続を要求し,同3年(2021年)6月18日付け電子メールにおいて,上記の対応がとられない場合には,「XINS」の商標権を行使する旨,及び「XINS」と記載されている商品の流通・販売を取りやめることを求めた(甲14〜甲16)。さらに,本件商標権者は,申立人に対して,令和3年(2021年)7月9日付け電子メールにおいて,販売数量に応じた使用料を支払うか,本件商標権の譲渡金として300万円程度の支払を要求した(甲13)。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
上記1(1)カによれば,本件商標権者と雪原合同会社は,共に申立人から申立人商品を仕入れており,同じAmazon内にあるそれぞれのストアで申立人商品を販売する同業他社の関係にあることが認められる。
そして,上記1(4)エによれば,本件商標権者は,ライトファッションによる申立人商品のAmazonへの出品によって本件商標権者の販売する申立人商品が売れなくなったから,その対抗措置として本件商標を取得したものというべきである。そして,本件商標権者は,Amazonに対してライトファッションが販売する申立人商品が知的財産権を侵害している可能性があると申立てたことにより,ライトファッションは,申立人商品の販売停止に追い込まれたことがうかがえる。
さらに,本件商標権者は,申立人に「XINS」が使用されている商品の流通・販売を取りやめることを求め,販売数量に応じた使用料の支払か,本件商標権の譲渡金として300万円程度の支払を要求した。
また,本件商標を構成する「XINS」の文字は,引用標章及び申立人商標を構成する文字と同じつづりであるところ,当該文字は辞書に掲載がなく,一種の造語を表したものと認識されるものであって,その独創性は高いものである。そして,本件商標権者は,「XINS」の表示がされた申立人商品を申立人から仕入れ,販売しており,引用標章及び申立人商標の存在を十分に認識していたものであるから,本件商標権者は,偶然に引用標章及び申立人商標の文字部分と同じつづりからなる商標を採択したものではないと認められる。
そうすると,本件商標権者による,本件商標の登録出願は,引用標章及び申立人商標の存在を十分に認識し,かつ,引用標章が我が国において登録されていないことを知った上で,雪原合同会社(ライトファッション)及び申立人の事業を阻害し,不正の利益を得る目的など不正の目的をもって申立人商標を剽窃し,登録出願されたものといわざるを得ない。
このことは,上記1(4)エのとおり,本件商標権者は,申立人に対し,本件商標権の買取りや申立人商品の取引継続を要求したり,「XINS」と記載されている商品の流通・販売を取りやめることなどを要求していることからも蓋然性は高いものといえる。
してみれば,本件商標の登録出願の経緯には,申立人の引用商標及び申立人商標を剽窃し,申立人及び雪原合同会社(ライトファッション)の事業を阻害し,不正の利益を得る目的など不正な目的をもって登録出願されたものとして,社会的妥当性を欠くものがあり,その登録を認めることは,健全な商取引の遂行を阻害し,公正な競業秩序を害するものであるから,公序良俗に反するものである。
したがって,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認められるから,商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 本件商標権者の主張について
本件商標権者は,申立人との取引開始以前の2017年(平成29年)より,現在も「XINS」のブランドでオリジナルマスクを販売していることから,本件商標権者が申立人より先に「XINS」の文字を使用している旨主張する。
しかしながら,2017年(平成29年)1月12日及び同年2月24日に「XINSマスク」の販売を行った証拠として本件商標権者が発行した領収証(乙2)は,左下の「消費税率等( %)」が2段に表示されているところ,当該表示がされる領収証は,消費税の軽減税率制度(消費税率10%への引上げに伴い,酒類・外食を除く飲食料品や新聞などの購入時に掛かる消費税の税率を8%とする制度。)が開始された令和元年(2019年)10月1日以降に使用されるものであって,2017年(平成29年)当時には,このような軽減税率に対応した領収証は存在しなかったものであるから,当該領収証(乙2)は,本件商標権者が2017年に顧客に対し「XINS」のマスクを販売した証拠として採用できない。
また,本件商標権者の主張によると,本件商標権者は,2017年(平成29年)より,現在も「XINS」のブランドでオリジナルマスクを販売している一方,2020年(令和2年)10月ないし2021年(令和3年)1月に同一の文字が付されている申立人の製造に係るマスクもわざわざ仕入れ,販売している。そうすると,本件商標権者のこれら2つの行為は,同じ商標(ブランド)に係るマスク2種類を同時に販売していることになり,商取引として不自然な行為であると認められる。
さらに,本件商標権者は,「XINS」のブランドの由来は,本件商標権者が好んで聞いていた音楽のバンド名「SNIX」(スニックス)で,そのままでは体裁が悪いため,反対から読んで「XINS」と命名した旨主張する。
しかしながら,本件商標権者は,「SNIX」について,体裁が悪い(見た目に悪い)という客観的な理由を何ら述べていない。
したがって,本件商標権者の主張はいずれも採用できない。
4 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当し,その登録は同条第1項に違反してされたものであるから,その余の申立ての理由について論及するまでもなく同法第43条の3第2項の規定により,その登録を取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

別掲
別掲1(引用標章1,色彩は甲2参照。)


別掲2(引用標章2,色彩は甲2参照。)



(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは,この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は,著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては,著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
異議決定日 2022-03-29 
出願番号 2021007721 
審決分類 T 1 651・ 22- Z (W05)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 平澤 芳行
特許庁審判官 大森 友子
鈴木 雅也
登録日 2021-04-02 
登録番号 6372751 
権利者 山口 剛史
商標の称呼 エックスアイエヌエス、エキシンス、ジンス、キシンス、ザインス 
代理人 野村 一郎 

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