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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X35
管理番号 1381743 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2020-06-18 
確定日 2021-11-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第5086609号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5086609号商標(以下「本件商標」という。)は、「らしく」の平仮名を標準文字で表してなり、平成19年2月16日に登録出願、第35類「職業のあっせん,求人情報の提供」など第35類、第36類、第38類及び第41類に属する商標登録原簿に記載の役務を指定役務として、同年10月26日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録日は令和2年7月3日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成29年7月3日から令和2年7月2日までの期間(以下「要証期間」という。)である。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の指定役務中、第35類「職業のあっせん,求人情報の提供」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由、答弁に対する弁駁において要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中「第35類 職業のあっせん,求人情報の提供」について、継続して3年以上日本国内において使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
被請求人の提出に係る証拠によっては、次の理由により、本件審判請求に係る指定役務について、要証期間における本件商標の使用を裏付ける具体的な取引を立証したものと認めることができない。
(1)通常使用権の付与をうかがわせる書類がない
本来は商標権者と通常使用権者(又は親会社)との間において、使用契約書等が必要である。
一方、民法では書面が無くても口頭によっても契約が成立するとされている。
しかし、本審判事件のような主張をする場合、少なくとも当該契約を第三者に対して示唆するような又はそれをうかがわせるような客観的な状況証拠等が必要であると考えるが、その説明が全くない。
(2)商標の使用に該当しない
乙2の1のパンフレットは、内容を確認すると「株式会社らしく」(以下「らしく社」という。)の会社案内の書面であり、その会社の業務内容を広報し案内することを主眼としていると判断される。
つまり、実際の職業紹介の場面では、既にらしく社の業務内容を知った紹介される者と紹介先に対し、当該パンフレットを使用する必要性は全くない。
よって、職業のあっせんの役務を実際に行った旨を証明する、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付した物を用いて提供」することには当たらない。
すなわち、実際に使用した客観的な事実の証明とはなっていない。
(3)乙3の人材紹介に係る契約書
契約書締結日に虚偽の疑いがある。
まず、らしく社からの請求書、及び相手方からの銀行の入金履歴は、審判請求前3月以内から審判請求登録日までの使用であり、いわゆる駆け込み使用の証拠に該当する。
一方、契約書締結日については、駆け込み使用から外れる2020年3月11日を記入している。
しかし、上記日付は、当事者間で調整可能である。
もし、虚偽を疑われる余地を排除するのであれば、少なくとも上記日付に契約を締結した旨を宣誓する相手方の宣誓書等の提出が必要である。
(4)むすび
以上のとおり、被請求人の提出に係る証拠からは、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、その指定役務のいずれかについて、本件商標を使用していることを証明したものということができない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を答弁書及び審尋に対する回答書において要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)商標権者(被請求人)及び通常使用権者について
商標権者(被請求人)は、不動産総合ポータルサイト「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を管理・運営する企業であり、旧社名である「株式会社ネクスト」から平成29年4月より名称の変更を行ったものである。
この被請求人より本件商標権に基づく通常使用権の許諾を受けているのが、「株式会社らしく」(らしく社)(以下、被請求人の主張において「本件通常使用権者」という。)である。
本件通常使用権者は、顧客に対して、人材紹介や採用支援のサービスを提供するものであり、「株式会社インソース」の完全子会社として平成30年7月に設立されたものである(乙1)。
(2)本件通常使用権者が、要証期間内に本件指定役務について本件商標を使用していること
ア 被請求人は、本件通常使用権者の企業及びサービス紹介に関するパンフレットを提出する(乙2の1)。
本件通常使用権者は、役務の提供に際して当該パンフレットを提示して顧客に対して役務の内容を説明するものである。当該パンフレットの表紙中央下部においては、本件商標が表示されていることが確認できる。また、表紙最下部において「◇人材紹介・・・」と記載されていることから、本件通常使用権者が当該パンフレットを用いて「職業の紹介」を行っており、当該「職業の紹介」は本件商標に係る指定役務である第35類「職業のあっせん」(以下「本件指定役務」という。)に該当するものである。さらに、当該パンフレットは、「株式会社プリントパック」により制作され、遅くとも令和元年12月12日に本件通常使用権者に納品されている(乙2の2)ことから、要証期間内におけるものということができる。
また、本件商標の右横に扇形状図形が存在するが、本件商標と当該図形部分とは、一定程度のスペースが存在していることから不可分一体とはいい難く、本件商標単独での使用と理解できる。
そのため、本件通常使用権者の行為は、本件商標を「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する」ものであるため、商標法上の使用(商標法第2条第3項第3号)に該当し、さらに、本件通常使用権者は、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付した物を用いて役務を提供」するものであるから、商標法上の使用(同項第4号)に該当する。
したがって、本件通常使用権者は、要証期間内に、本件指定役務について本件商標を使用するものである。
イ 本件通常使用権者は、顧客から人材紹介の依頼があった場合に、その顧客との間で「人材紹介に係る契約書」(乙3)を取り交わすものであり、本件通常使用権者が、顧客の意向に沿うような候補者を選定し、顧客に対して紹介することを主な契約内容として定めたものであり、候補者が顧客との間で雇用契約を締結する場合に報酬が発生する成功報酬型の契約内容である。本件通常使用権者は、当該契約に定めたとおり、顧客に対して職業紹介を行い、これに付随して情報の提供も行う。
なお、当該契約書は、営業秘密を管理する必要から契約の相手方を記載した箇所は黒塗りとしている。
ウ 被請求人は、令和2年7月16日付請求書(乙4)を提出する。当該請求書によれば、本件通常使用権者がその顧客に対して「人材紹介成功報酬」として金額を表示し、これを請求している事実が確認できる。さらに、請求書封筒部分の送付元「株式会社らしく」の左横に本件商標が表示されていることから、本件商標は、「・・・役務に関する・・・取引書類に標章を付して・・・頒布」するものといえるため、商標法上の使用(商標法第2条第3項第8号)に該当する。
したがって、本件通常使用権者は、要証期間内に、本件指定役務について本件商標を使用(商標法第2条第3項第8号)するものである。
なお、上記請求書に対して、当該顧客から本件通常使用権者が開設する銀行口座に請求額どおりの入金があったことから(乙5)、一連の取引が完了したことを示すものである。
(3)結語
以上に述べたように、被請求人の提出に係る乙各号証を勘案すれば、本件商標は、本件通常使用権者によって、要証期間内において本件指定役務について使用されているものであることが容易に理解できる。
2 審尋に対する回答
当審が令和3年1月12日付けで送付した審尋に対する回答は、次のとおりである。
(1)審尋項番1について
ア 審尋項番1では、「(1)被請求人が、乙第2号証の1の『株式会社らしく企業及び会社案内パンフレット』を、要証期間内に印刷したことはうかがえますが、これを頒布したことが確認できる証拠があれば提出してください。(2)乙第4号証『令和2年7月16日付請求書』及び乙第5号証『株式会社らしく銀行口座入出金明細書』が、要証期間外の証拠であるため、当該期間内に、契約に基づいて『職業のあっせん,求人情報の提供』の役務が提供された蓋然性が確認できません。」としている。
イ 項番1(1)については、答弁書においても述べたように、本件通常使用権者は、その顧客に対する役務の提供時に乙第2号証の1のパンフレットを提示して役務の内容を説明するものであり、被請求人が提出する本件通常使用権者の代表取締役社長H氏による陳述書(乙6)によれば、上記のような取引の実情が明らかである。
ウ そうすると、本件通常使用権者の前記行為は、本件商標を「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する」ものであるため、商標法第2条第3項第3号の使用に該当し、その上、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付した物を用いて役務を提供」するものであるから、同項第4号の使用に該当する。
エ また、本件通常使用権者は、前記人材紹介サービスに関する企業紹介パンフレットに本件商標を付して、顧客に対して「頒布」したといえることから、同項第8号の使用に該当する。
(2)審尋項番2について
ア 審尋項番2では「被請求人は、上記1の事項について、事実を裏付ける客観的な証拠(例えば、第三者に公表されている会社案内、写真画像データのアーカイブ情報、広告物の注文書、納品書、請求書など)に基づき説明すると共に、既に提出した乙各号証のほかに、商標法第50条第2項に規定する本件商標を使用した事実を示す新たな証拠方法がある場合には、それを提出してください。また、乙各号証の記載事項に対応して、それが商標法第2条第3項各号のいずれの行為に該当するものであるのか個別具体的に主張してください。」としている。
イ 被請求人は、本件通常使用権者が株式会社Sに対して発行した令和2年4月7日付請求書を提出する(乙7の1)。この請求書によれば、本件通常使用権者がその顧客に対して「人材紹介成功報酬」として金額を表示し、これを請求している事実が確認できる。これに対して、当該顧客から本件通常使用権者が開設する銀行口座に請求額どおりの金額の入金があったことにより(乙8の1)、本件通常使用権者が提供する人材紹介サービスに関する一連の取引が存在したことは明らかである。また、本件通常使用権者と他の顧客との一連の取引を示すべく、令和2年5月27日付請求書(乙7の2)及び本件通常使用権者の銀行口座入出金明細書(乙8の2)を提出する。
ウ また、請求書の日付は「令和2年4月7日」(乙7の1)と「令和2年5月27日」(乙7の2)であることから、いずれも要証期間内の書証ということができる。
エ さらに、請求書封筒部分の送付元「株式会社らしく」の左横に本件商標が表示されていることから、本件商標は、「・・・役務に関する・・・取引書類に標章を付して・・・頒布」するものといえるため、商標法第2条第3項第8号の使用に該当する。
オ したがって、本件通常使用権者は、要証期間内に、本件指定役務について本件商標を使用するものである。
(3)審尋項番3について
ア 審尋項番3では「被請求人は、・・・審判事件弁駁書の主張に対し、意見があれば述べてください。」としている。
審判事件弁駁書において、請求人は、「通常使用権の付与を伺わせる書類がない」などと主張するが、民法第522条第1項で「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立する。」、同条第2項において「契約の成立には、・・・書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」と明文で規定されているのにもかかわらず、「本審判事件のような主張をする場合、少なくとも当該契約を第三者に対して・・・その説明が全くない。」などと請求人が主張することは、民法上の条文に反するものであり、独自の解釈といわなければならない。
被請求人は、らしく社に対して、本件商標権に基づく通常使用権を黙示的に許諾するものである。この許諾に関しては、契約書こそ存在しないものの、前記民法第522条第2項により契約自体は有効に成立するものである。この点、明文なき通常使用権の許諾契約が有効に成立することは、数多の審判決例の存在からも明らかである(乙9の1〜4)。
したがって、請求人の主張は、失当である。
イ 請求人は、「商標の使用に該当しない」などと主張する。
しかしながら、パンフレットには人材紹介サービス(以下「本件役務」とする。)に関する4つのポイントや本件役務の流れが示されており(乙2の1。第2頁目)、本件役務の提供時に当該パンフレットを提示して説明したとしても何ら不自然な点はない。むしろ、請求人の主張、すなわち、「つまり、実際の職業紹介の場面では、既に(株)らしくの業務内容を知った紹介されるものと紹介先に対し、当該パンフレットを使用する必要性は全くない。」などの主張は、現実に行われている取引の実情を正解しておらず、失当である。
ウ なお、請求人は、何らの根拠を示さず乙号証の日付のみから「契約書締結日に虚偽の疑いがある。」などと述べているが、契約から履行まで一定の期間要することは、本件役務の業界においてはむしろ通常であり自然なことである。さらに言うなれば、被請求人は商標法に則り適切かつ適法に本件商標の使用の事実を主張立証しているのであるから、そのような適切かつ適法な主張立証活動をとらまえて「虚偽の疑い」などと言及すべきではない。
(4)結語
以上に述べたように、被請求人の提出に係る乙各号証を勘案すれば、本件商標が被請求人によって、要証期間内において、本件指定役務について使用されているものであることが容易に理解できる。

第4 当審の判断
1 事実認定
被請求人提出の乙各号証及び同人の主張によれば、次のとおりである。
(1)乙第1号証は、らしく社についての令和2年9月10日付け履歴事項全部証明書であり、それには「代表取締役」としてH氏の氏名が記載されている。
(2)乙第2号証の1は、「会社案内」と題するらしく社に関するパンフレット(以下「本件パンフレット」という。)であり、それには「人材紹介サービス」(以下「使用役務」という。)「人材紹介サービスの流れ」の項目とそれらの内容が記載され、また、「Coming soon・・・」「2020年春にリリース予定!」の表示及び「らしく」の平仮名とその右に扇状図形を配した構成からなる商標(以下「使用商標」という。)の表示がある。
乙第2号証の2は、「印刷通販 PAC プリント・パック」と称するウェブページのプリントアウトとみられる書面であり、そこには「ようこそ!H様」などとしてらしく社の代表取締役H氏の氏名が表示され、一覧表の「納期」欄に「2019年12月12日」、「商品名」欄に「会社案内」の記載がある。また、当該会社案内の部数として「1,000部」、お届け先情報としてらしく社の名称及び同社の取締役W氏(乙1)の氏名、支払い方法などを記載した書面が添付されている。
また、乙第6号証は、らしく社の代表取締役H氏の令和3年1月21日付け陳述書であり、「当社従業員は、人材紹介サービスを行うに際して、顧客に対して、当社紹介パンフレットを差し上げた上で、当該パンフレットを用いて人材紹介サービスの内容を紹介します。これにより顧客は、当社が提供する人材紹介サービスの内容を理解することができ、納得感を得た上で当社の人材紹介サービスを受けることが可能となります。」と記載されている。
(3)乙第3号証は、乙(らしく社)が甲に人材を紹介、あっせんすることなどを約する旨の「2020年3月11日」付けの契約書面である。
(4)乙第7号証の1は、らしく社発行の2020年4月7日付け請求書であり、それには「実施日:2020年4月1日(水)」「内容:【2020年4月入社】人材紹介成功報酬」に続き株式会社Sの名称のほか、金額などが記載されている。
また、乙第7号証の2は、らしく社発行の2020年5月27日付け請求書であり、それには「実施日:2020年5月26日入社」「内容:【2020年5月入社】人材紹介成功報酬」に続き株式会社Fの名称のほか、金額などが記載されている。
(5)乙第8号証の1は、「照会日時:2020/06/04 11:10」と表示された「みずほe−ビジネスサイト 入出金明細一覧表」と題する書面であり、そこには「日付 起算日」欄に「05/29」、「取引区分」欄に「振込」、「振込依頼人」欄に株式会社Sの名称の記載があるほか、「入金 うち他店券金額」欄には金額の記載があり、この金額は乙第7号証の1の請求書に記載された金額と一致している。
また、乙第8号証の2は、「照会日時:2020/07/01 12:04」と表示された「みずほe−ビジネスサイト 入出金明細一覧表」と題する書面であり、そこには「日付 起算日」欄に「06/30」、「取引区分」欄に「振込」、「振込依頼人」欄に株式会社Fの名称の記載があるほか、「入金 うち他店券金額」欄には金額の記載があり、この金額は乙第7号証の2の請求書に記載された金額と一致している。
2 判断
前記1において認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。
(1)使用役務について
前記1(2)のとおり、使用役務は、「人材紹介サービス」であるところ、これは、請求に係る役務に含まれる「職業のあっせん」の範ちゅうに属する役務と認められる。
(2)使用商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「らしく」の文字を標準文字で表してなるものである。
他方、使用商標は、前記1(2)のとおり、「らしく」の平仮名とその右に扇状図形を配した構成からなる商標である。
そして、使用商標は、視覚上、「らしく」の文字部分と扇状図形が分離して看取されるものであって、「らしく」の文字部分は、それ自体独立した出所識別標識として把握されるものである。
そうすると、本件商標と使用商標の文字部分は、書体のみに変更を加えた同一の文字からなるものである。
よって、使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
(3)使用時期について
前記1(2)の認定事実からすれば、本件パンフレット(乙2の1)は、2019年(令和元年)12月12日にらしく社に対して1,000部納品されたことがうかがわれ、同社代表取締役の陳述(乙6)並びに同社が締結した人材紹介に係る2020年(令和2年)3月11日付け契約(乙3)及び使用役務に係る同年4月7日付け及び同年5月27日付け請求書(乙7)が存することに、本件パンフレットの記載内容(「Coming soon・・・」「2020年春にリリース予定!」)をも併せみれば、本件パンフレットは、要証期間内である2019年(令和元年)12月12日以降順次、遅くとも2020年(令和2年)3月11日までに頒布されたことが推認できる。
(4)使用者について
被請求人は、らしく社に対して、本件商標権に基づく通常使用権を黙示的に許諾するものであると主張し、らしく社の代表取締役H氏は、本件審判請求手続において被請求人の利益に適うよう陳述をしている事実からすれば、両者には緊密な関係性が認められ、書面による方式を具備せずとも、本件商標権に基づく通常使用権を許諾する契約が成立しているものと推認される。
よって、らしく社は、本件商標の通常使用権者であると認められる。
(5)小括
以上によれば、本件商標の通常使用権者が、要証期間内である2019年(令和元年)12月12日以降、少なくとも2020年(令和2年)3月11日時点において、請求に係る役務の範ちゅうに含まれる使用役務に係るパンフレット(広告)(乙2の1)に、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付して頒布したと認めることができる。
そして、この行為は、商標法第2条第3項第8号にいう「・・・役務に関する広告・・・に標章を付して・・・頒布・・・する行為」に該当する。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、本件商標に係る通常使用権の契約について、本審判事件のような主張をする場合、少なくとも当該契約を第三者に対して示唆するような又はそれを伺わせるような客観的な状況証拠等が必要であると主張している。
しかしながら、前記2(4)のとおり、被請求人の主張と提出された証拠を総合すれば、被請求人とらしく社には、緊密な関係性が認められ、書面による方式を具備せずとも、本件商標権に基づく通常使用権を許諾する契約が成立しているものと認めるのが相当である。
(2)請求人は、乙2の1のパンフレットは、会社案内を内容とするものであり、実際の職業紹介の場面では、既にらしく社の業務内容を知った紹介される者と紹介先に対し、当該パンフレットを使用する必要性は全くないから、職業のあっせんの役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付した物を用いて提供する使用には当たらないと主張する。
しかしながら、たとえ役務の提供を受ける者が、らしく社の業務内容をある程度知っていたとしても、らしく社が実際に役務の提供を行うに当たり、顧客に対してパンフレットを提示してその役務内容の詳細を説明することは決して不自然ではなく、その行為は、前記判断のとおり、使用役務に関する広告を頒布するものというのが相当である。
(3)請求人は、らしく社からの請求書(乙4)及び相手方からの銀行の入金履歴(乙5)は、審判請求前3月以内から審判請求登録日までの日付であることから、要証期間内である人材紹介に係る契約書(乙3)の日付は、虚偽の疑いがあると主張する。
しかしながら、人材紹介に係る契約書(乙3)は、らしく社が使用役務を提供していることを推認させる証拠とみるのが自然であって、他の証拠との関係においても、上記契約書の日付について虚偽であると疑う合理性はない。なお、らしく社発行の請求書(乙4)の日付は、2020年7月16日であり、銀行口座出入金明細書(乙5)の「日付起算日」は、同年8月14日であるところ、これらは要証期間外のものである。
(4)したがって、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、通常使用権者が、本件審判の請求に係る指定役務の範ちゅうに含まれる役務について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることを証明したということができる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
審理終結日 2021-09-16 
結審通知日 2021-09-22 
審決日 2021-10-14 
出願番号 2007012975 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (X35)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 板谷 玲子
綾 郁奈子
登録日 2007-10-26 
登録番号 5086609 
商標の称呼 ラシク 
代理人 佐藤 大輔 
代理人 水野 博文 
代理人 橘 哲男 

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