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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W33
審判 全部申立て  登録を維持 W33
審判 全部申立て  登録を維持 W33
審判 全部申立て  登録を維持 W33
審判 全部申立て  登録を維持 W33
管理番号 1380120 
異議申立番号 異議2020-900057 
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-26 
確定日 2021-08-12 
異議申立件数
事件の表示 登録第6207121号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6207121号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6207121号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成31年1月4日に登録出願、第33類「洋酒,果実酒,ワイン」を指定商品として、令和元年11月6日に登録査定、同年12月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が本件商標に係る登録異議の申立てにおいて、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標は、以下のとおりである。
(1)登録第4893695号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成17年3月1日
設定登録日:平成17年9月9日
指定商品:第33類「ぶどう酒,その他のアルコール飲料(ビールを除く。)」
(2)登録第5816454号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:平成27年8月11日
設定登録日:平成27年12月25日
指定商品:第33類「ぶどう酒,発泡性のぶどう酒,洋酒,果実酒」
(3)登録第6107096号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲4のとおり
登録出願日:平成30年3月30日
設定登録日:平成30年12月14日
指定商品:第33類「ぶどう酒,発泡性のぶどう酒,洋酒,果実酒」
以下、引用商標1ないし引用商標3をまとめて「引用商標」という。
2 申立人が本件商標に係る登録異議の申立てにおいて、本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同項第7号に該当するとして引用する商標は、申立人が自己の取扱いに係る「ワイン」にシンボルマークとして使用し、周知著名となっていると主張する自転車ロゴ(以下「申立人商標」という場合がある。)である。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、その指定商品について、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第7号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第28号証(枝番号を含む。)を提出した。
以下、証拠の表記にあたっては、「甲第○号証」を「甲○」のように、「第」及び「号証」を省略して記載し、枝番号は、「甲○の1」「甲○の2」のように記載する。
1 申立て理由の要旨
(1)本件商標の要部の一つである自転車のロゴは、引用商標に含まれる自転車ロゴに極めて近似している。
よって、本件商標と引用商標は、外観、観念、称呼全てにおいて類似し、全体として相紛れるおそれのある商標である。
また、本件商標と引用商標の指定商品は、同一又は類似する。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)本件商標は、その指定商品に使用された場合、これに接する取引者・需要者に、申立人又はこれと緊密な関係にある主体の業務に係る商品であることを連想・想起させ、その商品の出所について誤認混同を生じさせるものであり(広義の混同のおそれ)、ひいては、本件商標の登録が申立人の著名商標の持つ顧客吸引力ヘのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリュージョン)を招来するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)本件商標は、申立人の周知著名な商標を容易に連想・想起させるものであって、剽窃的に採用・使用するものであることから、商標権者による本件商標の独占的な使用は、商標法の法目的である、健全な商取引・流通秩序の維持・発展を害するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 具体的理由
(1)申立人及び申立人商標の周知著名性について
ア 申立人について
申立人である「Vina Cono Sur S.A.」(いわゆる「コノスル」)は、1993年チリで設立されたワイナリーである。
「コノスル」とは「南向きの円錐」という意味で、気候風土に恵まれたワイン産地を擁する、南向きの円錐形をした南米大陸を表している。申立人は、「no family trees,no dusty bottles,just quality wine」(家系図を持つような伝統もない、埃を被ったヴィンテージボトルもない、あるのは品質の高いワインのみ)をモットーに、スクリューキャップの導入やサスティナブル農法や有機栽培の実践など、革新的で新しい発想やテクノロジーを次々と実践し、2007年にはチリ産ワインの瓶詰ワインの輸出において、金額ベースで2位になるまでの大ブランドに成長した(甲6の1?甲6の3)。
なお、2007年に日本とチリの間で締結された経済連携協定「EPA」によりチリ輸入品の関税は段階的に0%まで引き下げられ、かかる輸入コスト低減の影響とも相まって、現在、日本におけるチリワインの輸入量は、フランス、イタリアを抜いて1位となっている(全輸入量のおよそ30%)(甲7)。かかる状況において申立人のワインは、親会社である「コンチャ・イ・トロ」に次いで、日本へのワイン輸出量第2位の座を占めており、申立人の製造・提供に係る商品が我が国において広く普及し、取引者・需要者の間で周知著名となっていることがうかがえる。
(ア)雑誌・業界紙における特集・広告
申立人は、我が国において、積極的かつ継続的に宣伝広告活動を展開している。掲載媒体は一般雑誌、業界紙、新聞など多岐にわたる(一例:甲8?甲12)。
(イ)屋外広告
申立人は、屋外広告も積極的に活用しており、例えば、駅の構内で大々的に申立人商標に係る商品の販促活動を行っていた(甲13)。
(ウ)受賞歴
申立人の取扱いに係るワイン(以下「申立人ワイン」という。)は、その品質により数々の賞を受賞している(一例:甲14の1?甲14の10)。
(エ)セミナー・講演などによる周知活動
申立人は、我が国において、セミナー・講演を行い、積極的かつ継続的に申立人及び申立人ワインの周知・普及活動を行っている(甲15の1?甲15の5)。
さらに、申立人は、後述するツール・ド・フランスの公式スポンサーを始めとした消費者向け各種イベントの企画やプロモーションを積極的に行ってきたことや、ソーシャルメディアなどを通じた顧客への情報提供や双方向のコミュニケーションを積極的に行ってきたことが高く評価され、イギリスの専門詰「ハーパーズ・ワイン&スピリッツ」主催のハーパーズアワード2015において、消費者との絆を最も深めたブランドとして、「エンゲージメント・オブ・ザ・イヤー」を獲得した(甲16)。
(オ)申立人ワインの漫画への登場
申立人ワインは、全世界で累計1,000万部を売り上げている大人気慢画「神の雫」にも登場した。なお、当該漫画において、申立人の周知著名な自転車ロゴが大きく描かれている(甲17)。
イ 申立人による自転車ロゴの使用
申立人は、自転車をシンボルマークとして採用しており、実際、申立人の葡萄畑には巨大な自転車のオブジェ(モニュメント)が置かれている(甲18の1、甲18の2)。また、申立人がシンボルマークとしているこの自転車ロゴは、現在、申立人ワインのシリーズ(ラインナップ)の中で、「オーガニック・シリーズ」と呼ばれる、エコサート認定を受けた有機栽培葡萄のみを使用して造られたオーガニックワインのシリーズ(甲19の1?甲19の5)、及び、手頃な価格で十分な飲みごたえが得られ、人気の高い「ビシクレタ・レゼルバ」シリーズ(2018年以前は、「ビシクレタ」シリーズ)のラベルに採用されている(甲20の1?甲20の13)。
申立人のシンボルともいえる自転車は、毎日畑へとペダルをこいでいく労働者たちへの敬意と、自然のサイクルを基本とした申立人の葡萄づくりを表している。自転車は、毎日の農作業に自転車を利用している労働者たちを象徴する乗物であり、葡萄畑のある村に住んでいる従業者たちは、毎日自転車で申立人の葡萄畑に通い、そのまま広大な300ヘクタールの葡萄畑へとペダルをこいでいく。このような労働者の献身的な畑仕事なくしては、土の滋味たっぷりで凝縮感のある味わいを生み出すことはできず、その献身的な畑仕事への尊敬の念を込めて、申立人ワインのラベルには、葡萄畑労働者を象徴する自転車が描かれている。
また、当該自転車は、申立人の葡萄づくりの基本である「自然のサイクルを尊重する」というコンセプトも表している。申立人は、1998年から自然のサイクルを尊重した農法を開始し、肥料や、害虫・病害・雑草の駆除において、できる限り自然なものを使用している。また、葡萄畑には、葡萄以外にも様々な植物が植えられており、様々な植物や生物がひとつの環境に共生することで、生態系が健康な状態で維持され、自然のサイクルに良い影響をもたらしている。そういった「自然のサイクル」の尊重を象徴するものとして、申立人は、自らのブランディング戦略において自転車ロゴを採用し、これを前面に出して広告宣伝活動を行っている。
なお、「ビシクレタ・レゼルバ」シリーズ(2018年以前は、「ビシクレタ」シリーズ)は、2011年から2019年の9年間で、我が国において、総計21,494,347本もの販売総数を計上している。全世界及び我が国における詳細な売上高・広告宣伝費等は、営業秘密に属するものであることから、開示は差し控えるものの、申立人は、必要に応じて、具体的な数値が記載された資料を開示する準備がある。
(ア)自転車ロゴのエンボス加工表示
申立人は、ワインラベルヘの使用に加えて、2018年に、「ビシクレタ」シリーズのボトルをリニューアルし、同年11月出荷分から順次、新ボトルでの販売を開始した。新ボトルにおいては、ボトル上部に、申立人のシンボルである自転車ロゴが、エンボス加工されて表示されている。また、当該リニューアルに伴い、「ビシクレタ」のシリーズ名は、「ビシクレタ・レゼルバ」シリーズヘと変更された(甲21の1、甲21の2)。
(イ)ツール・ド・フランスの公式スポンサー
申立人は、毎年7月にフランス及びその周辺国を舞台にして行われる自転車ロードレースである「ツール・ド・フランス」において、2014年、ワインで唯一の公式スポンサーとなり、2015年、2016年、2017年と毎年公式スポンサーを務めている(甲22の1?甲22の5)。
(ウ)自転車レースヘの協賛
申立人は、2018年に宇都宮市で開催された「ジャパンカップサイクルロードレース」に協賛し、スタート及びゴール地点付近に専用ブースを出展し、当該ブースにおいて自転車ラベルの「ビシクレタ」シリーズのワイン6種とスパークリングワインを提供した(甲23)。
(エ)申立人と自転車の関係に対する取引者・需要者の認識
申立人によるたゆまぬ営業活動により、現在では、取引者、一般需要者、ワイン愛好家の間では、「自転車といえば申立人」と認識されているほどである。すなわち、「自転車=申立人」との図式が成り立つほど、申立人使用の自転車ロゴは我が国において周知著名となっている(一例:甲24の1?甲24の5)
(2)本件商標及び商標権者について
ア 本件商標について
(ア)外観上の特徴
本件商標は、外観上、明確に上中下三つの部分に分かれる。まず、上部中央には、欧文字「CHACABUCO」が横一列に配され、当該「CHACABUCO」の文字は、中抜き、かつ、浮き出しの態様にて表示される。次に、欧文字「CHACABUCO」の直下に位置する中央部には、山並み及びそれを背景にして広がる葡萄畑、そしてその奥には、醸造小屋と思われる建物が配され、葡萄畑の手前側には、葡萄畑中央を緩やかなカーブを描き奥の建物へと続く道を走るトラックが描かれている。最後に、下部には、ワインと思われる3本の瓶を前カゴに積んだ左向きの自転車(以下「本件自転車ロゴ」という。)が、相対的な縮尺で考えると、上記中央部の山並み・建物・葡萄畑・道・トラックに比して顕著に大きな態様で表示されている。
なお、本件商標が、外観上、三つの部分に分離して看取されることは、例えば、本件商標の実際の使用態様を見れば、より一層明らかである(甲25)。一番手前の本件自転車ロゴの図柄が赤色に着色され、自転車の図柄単体が他の要素に比して、より顕著に目立つ態様で表示されている。また、本件自転車ロゴの図柄の色を反転させてなると思われる図案が単体でワインボトル首部のキャップシールに表示されている。つまり、商標権者自身が、本件自転車ロゴを単独で一つの独立した出所識別標識として認識している証左である。
(イ)観念上の特徴
本件商標上部の欧文字「CHACABUCO」は、我が国の取引者・需要者にとって馴染みのある語ではなく、一種の造語として認識される。よって、本件商標上部からは、特定の観念は想起されない。
次に、本件商標中央部は、山麓に広がる葡萄畑及びそれに関連すると思われる建物やトラックが描かれており、本件に係る指定商品の原材料等を表示していると評価され、特定の観念は想起されない。
最後に、本件商標下部からは、自転車の図柄から「自転車」程の観念、あるいは、自転車ロゴは申立人の周知著名なシンボルであるから、申立人を連想・想起せしめる。
したがって、本件商標は、これに接する取引者・需要者に特定の観念を想起せしめないか、あるいは、「自転車」又は申立人を連想・想起せしめる。
(ウ)称呼上の特徴
本件商標上部からは、欧文字「CHACABUCO」に相応して「チャカブコ」の称呼が生じ得る。
本件商標中央部は、上述したとおり、本件に係る指定商品の原材料等を表示していると評価されるので、本件商標中央部から格別な称呼が生じ得るとは考えられない。
最後に、本件商標下部からは、自転車の図柄から「ジテンシャ」との称呼が生じ得る。
したがって、本件商標からは、「チャカブコ」、「ジテンシャ」の二つの称呼が生じ得るものであり、いずれも4音の短い音構成であり、一連一体によどみなく一気に称呼できるものである。
イ 商標権者について
本件の商標権者は、申立人と特段、関係のあるものではない。
(3)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標と引用商標との類否について
(ア)本件商標について
本件商標の外観、観念、称呼の各特徴については、上記(2)アのとおりである。
(イ)引用商標について
a 外観上の特徴
引用商標1は、四隅が角丸の薄黄土色の横長長方形の中に、申立人の略称である欧文字「Cono Sur」が、上部およそ四分の一の部分、左寄りに筆記体風フォントで横一列に表示され、また、申立人の周知著名な自転車ロゴ(以下「自転車ロゴ1」という。)が、残りの四分の三の部分に、右寄りに描かれてなる。自転車ロゴ1は、左向きの、前カゴ及び後部荷台のないシンプルな形状の自転車である。
引用商標2は、申立人の略称である欧文字「Cono Sur」と申立人ワインのシリーズ名である「BICICLETA」が、上部およそ五分の二に該当する部分に、「Cono Sur」の文字は筆記体風フォントで、また、「BICICLETA」の文字はブロック体で「Cono Sur」の直下に、「Cono Sur」のフォントサイズのおよそ四分の一程度の大きさで横一列に表示されている。引用商標2中、上から五分の三ないし四の範囲には、申立人の周知著名な自転車ロゴ(以下「自転車ロゴ2」という。)が、灰色の横長長方形を背景に、右寄りに描かれている。自転車ロゴ2は、自転車ロゴ1と同様、シンプルな形状の左向きの自転車であるが、自転車ロゴ1と異なり、後部荷台がついている。
引用商標3は、黒色の横長長方形を背景に、申立人の周知著名な自転車ロゴ(以下「自転車ロゴ3」という。)が灰色で描かれている。引用商標3は、白地に描かれた自転車ロゴ2を、白黒反転させたような態様であり、よって、自転車ロゴ3は、自転車ロゴ2と略同一の形状である。
b 観念上の特徴
引用商標1の上部およそ四分の一の部分に表示された「Cono Sur」の文字と、その下に描かれた自転車ロゴ1は、それぞれが独立して自他商品識別標識としての機能を発揮すると考えられ、それぞれから観念、称呼が生じる。
したがって、引用商標1は、上部の語「Cono Sur」から申立人自身を想起せしめ、さらに、下部の自転車ロゴ1から「自転車」程の観念、又は、自転車ロゴは申立人のシンボルであるので、申立人自身を連想・想起せしめる。
引用商標2も同様に、上部の語「Cono Sur」及び「BICICLETA」からそれぞれ、申立人自身及び申立人の周知著名なワインのシリーズ名である「ビシクレタ」を想起せしめ、自転車ロゴ2から「自転車」程の観念、又は、自転車ロゴは申立人のシンボルであるので、申立人自身を連想・想起せしめる。
引用商標3は、自転車ロゴ3から「自転車」程の観念、又は、自転車ロゴは申立人のシンボルであるので、申立人自身を連想・想起せしめる。
c 称呼上の特徴
引用商標1においては、上部の「Cono Sur」の文字に相応して「コノスル」との称呼が生じ、また、下部の自転車ロゴ1からは、「ジテンシャ」又は周知著名な申立人略称「コノスル」との称呼が生じる。
引用商標2は、引用商標1と同様に要部が複数存在すると考えるのが妥当で、上部およそ五分の二に該当する部分に表示された「Cono Sur」、「BICICLETA」、さらに、上から五分の三ないし四の範囲に描かれた自転車ロゴ2のそれぞれから称呼が生じると考えられる。
よって、引用商標2においては、「Cono Sur」の文字に相応して「コノスル」、「BICICLETA」の文字に相応して「ビシクレタ」、自転車ロゴ2から、「ジテンシャ」又は周知著名な申立人略称「コノスル」との称呼が生じる。
引用商標3からは、自転車ロゴ3に相応して「ジテンシャ」又は周知著名な申立人略称「コノスル」との称呼が生じる。
(ウ)本件商標と引用商標との類否
外観について検討すると、本件商標は、上述のとおり、外観上、明確に上中下三つの部分に分離して看取されるものであり、それぞれの部分が独立して自他商品の識別機能を果たし得るものであるから、本件商標に接する取引者・需要者は、本件商標中に顕著に表示された本件自転車ロゴ単体を独立した目印として認識し、商品の購入の際には、自転車ロゴの存在の有無のみを基にして取引する場合も少なくない。
同様に、引用商標も、その外観上の構成により、それぞれ自転車ロゴ1ないし自転車ロゴ3が独立して看取され得、自他商品識別標識として機能する。
そこで、本件商標から独立して看取される本件自転車ロゴと、引用商標から独立して看取される自転車ロゴ1ないし自転車ロゴ3を比較すると、これらは、以下の点において共通している。
a 左向きのシンプルな形状の自転車である点。
b 顕著なカラーリングは施されておらず、モノトーン調のシルエット風の図案である点。
c ハンドルとサドルの位置がほぼ同じ高さである点。
d ハンドルの直下からサドルの直下に渡された棒状形状(トップチューブ部)が略水平方向に延びている点(我が国で一般的に普及している自転車の多くは、このようにトップチューブ部が水平方向に渡されている構造とはなっていない。)(甲27)。
e 略水平方向の棒状形状(トップチューブ部)が、ペダル部からサドルヘと延びる棒状形状(シートチューブ部)と、ペダル部からハンドル方向へ左斜め上方向へと延びる棒状形状(ダウンチューブ部)とで、自転車中央部に略正三角形を形成している点。
f チェーンが巻いてあるチェーンステー部にはカバー等は施されておらず、チェーンがほぼむき出しのシンプルな形状となっている点。
本件自転車ロゴと自転車ロゴ1ないし自転車ロゴ3を詳細に観察すれば、例えば、本件自転車ロゴには前カゴがあり、ワインのボトルと思しきシルエットが3本分描かれている点などにおいて異なる点はあるものの、当該差異は、図柄全体における物理的な表示面積においてわずかであり、しかも、ワインのボトル自体は、指定商品との関係において、その品質・内容を示すものであって、取引者・需要者の印象には残り難いものである。
よって、本件自転車ロゴと自転車ロゴ1ないし自転車ロゴ3を全体的に観察すれば、いずれも一見して左向きの自転車の図形をシルエット風に描いたものと認識し得るものであって、着想、構図において、その構成の軌を一にするものであるから、その外観全体から受ける視覚的印象は著しく似通ったものとなる。
そして、簡易、迅速を重んじる取引の実際においては、構成上の微差は、外観全体から受ける視覚的印象には影響せず、本件自転車ロゴと自転車ロゴ1ないし自転車ロゴ3を時と所を異にして、離隔的に観察した場合、互いに相紛れるおそれのあるものである。
次に、観念について検討すると、本件商標中の本件自転車ロゴから「自転車」又は申立人が連想・想起され、一方、引用商標中の自転車ロゴ1ないし自転車ロゴ3から「自転車」程の観念又は申立人自身が連想・想起される。
したがって、本件商標と引用商標は、観念上、相紛れるおそれがある。
最後に、称呼について検討すると、本件商標は、「ジテンシャ」との称呼が生じ得るものであり、引用商標からも「ジテンシャ」との称呼が生じる場合がある。
したがって、本件商標と引用商標は称呼上、相紛れるおそれがある。
本件に係る商品の取引の実情について検討すると、上述のとおり、商標権者は、本件自転車ロゴを赤色に着色し、本件商標中においてその存在がより顕著に際立つ態様で本件商標の指定商品であるワインのラベルに採用している実情が認められる。さらに、商標権者は、キャップシールの部分に、本件自転車ロゴを白抜きの態様で表示している。ここで、甲21のとおり、申立人は、そのシンボルである自転車ロゴをエンボス表示加工にした新たなワインボトルを2018年11月出荷分から採用しており、ワインの分野においては、自転車を模したロゴが、自他商品識別標識としての機能を、より独立した形で、かつ、より重要な形で発揮する状況が現実に生まれている。本件商標の指定商品の分野は、いわゆる一般消費財であり、かかる分野においては、主たる需要者が、その普通に払われる注意力をもって、細部まで正確に観察し、記憶し、想起して商品の出所を識別するとは限らず、商標全体から受ける印象によって商品の出所を識別する場合が少なくないと考えるのが妥当である。そうすると、ワインボトルのキャップシール上に表示された本件自転車ロゴと、ワインボトルの胴体部上部にエンボス表示された申立人の自転車ロゴは、外観、観念、称呼の三要素の全てにおいて極めて近似するというべきものであり、自転車ロゴを看取した取引者・需要者をして容易に申立人・申立人ワインを連想せしめるものである。
以上より、本件商標と引用商標を同一・類似の商品に使用した場合、商品の出所に誤認混同を生じるおそれがある。
よって、本件商標と引用商標とは、商品の出所について誤認混同を生じるおそれのある類似の商標というべきものである。
イ したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件商標と申立人商標との類似性の程度について
本件商標における要部の一つである本件自転車ロゴと、申立人商標である自転車ロゴは、上述のとおり、外観、観念、称呼において相紛れるおそれのある類似商標である。
イ 申立人商標の周知性について
上述のとおり、申立人は、申立人商標を付した申立人ワインについて、我が国において、大々的に広告宣伝活動を行っており、継続して数々の雑誌、新聞などに広告を掲載することにより、その周知度を絶え間なく高めてきたものである。また、その販売数も堅調に推移しており、ワイン業界において、申立人の製造・販売する申立人商標を付した商品が高い評価を得ていることも上述のとおりである。
よって、申立人商標が、本件商標の登録出願・査定前までに、申立人の業務に係る商品の出所識別標識として、広く親しまれていたことは明らかである。
ウ 申立人商標の独創性等について
申立人商標である自転車ロゴは、申立人のシンボルともいうべきものであり、ワインのラベルに自転車ロゴを採用した事実自体がそもそも申立人による一種の独創性の発露ともいうべきものである。また、上述の自転車ロゴ図案の外観上の特徴は、すべて申立人の作成に係る顕著な特徴というべきものである。
エ 申立人商標がハウスマークであるかについて
申立人商標である自転車ロゴは、申立人のハウスマークではないが、申立人のシンボルというべきものであり、ハウスマークに準ずる位置づけといっても過言ではない。また、上述のとおり、取引者・需要者の間においても、「自転車ロゴ=申立人」と広く認知されるほど、申立人と自転車ロゴとの関連性、結びつきは強い。
オ 申立人における多角経営の可能性
本件においては、本件商標の指定商品と申立人商標に係る商品は共通しているので、当該要件を検討する必要性はない。
カ 商品間の関連性、需要者の共通性について
本件商標の指定商品と申立人商標に係る商品は共通しており、よって、取引者・需要者も共通している。
最後に、本件商標の指定商品に係る取引の実情、及び本件商標の指定商品の取引者・需要者の注意力を検討すると、上述のとおり、本件自転車ロゴと、申立人商標は、いずれもワインボトルに、出所表示機能を発揮する態様で、独立して顕著に表示されるものであるし、本件商標の指定商品の分野における主たる需要者(すなわち、ワインの購買者)が、ワインの購入の際に、細部まで正確に観察し、商品の出所を識別するとは限らず、その普通に払われる注意力をもってしては、顕著に示された自転車ロゴ全体から受ける漠然とした視覚的印象を基に商品の出所を識別する可能性が大いにあるので、本件商標と申立人商標は相紛れるおそれがある。
以上より、本件商標は、上記アないしカの要件について、オを除いた全ての要件において、商品の出所についての誤認混同が生じるおそれを肯定する方向にあり、加えて、取引の実情及び本件商標の指定商品の取引者・需要者の注意力の検討においても、商品の出所の誤認混同が懸念される事実が認められるので、本件商標に接した取引者・需要者は、本件商標に係る商品について、申立人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第7号について
上述のように、申立人の業務に係る商品の出所表示である自転車ロゴ(申立人商標)は、「ワイン」に関する主たる取引者・需要者の間で広く知られている。そして、本件商標の要部の一つである本件自転車ロゴは、申立人商標と極めて近似するものである。本件商標を、申立人とは何ら関係を有しない他人である本件商標権者が使用することは、本来自らの営業努力によって得るべき業務上の信用を、申立人の広く知られている商標の著名性にただ乗り(フリーライド)することにより得ようとすることに他ならず、申立人の周知著名な商標に化体した莫大な価値を希釈化させるおそれがある。
よって、本件商標を不正の目的をもって使用し、申立人商標が持つ顧客吸引力等にただ乗りしようとする意図があると推認することは至極妥当であり、このような行為は、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものであるといえる。
さらに、申立人商標に酷似した自転車ロゴを含む本件商標をあえて採択し、商標登録を試みた上に、実際の使用態様においては、本件自転車ロゴのみが独立して顕著に表示されるような態様で、本件商標を使用していることに鑑みると、本件商標の出願の経緯は大いに社会的妥当性を欠いているといえ、その登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号に該当し、商標登録を受けることができないものであるから、本件商標の登録は、商標法第43条の2第1号により取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
1 申立人商標の周知著名性について
申立人は、自転車ロゴ1ないし自転車ロゴ3を含め、申立人が自己の取扱いに係る「ワイン」にシンボルマークとして自転車ロゴ(申立人商標)を使用し、ワインの取引者・需要者間において、「自転車ロゴ=申立人」と認知されるほど、周知著名となっている旨主張しているので、この点について判断する。
(1)申立人提出の証拠、同人の主張及び職権による調査によれば、以下のとおりである。
ア 申立人は、1993年にチリで設立されたワイナリーであり、2007年には、チリ産ワインの瓶詰ワインの輸出において、金額ベースで第2位になったことがうかがえる(甲6の1?甲6の3)。
イ 平成30年10月24日付けの東京税関による「ボトルワインの輸入」と題された資料(甲7)には、2017年は、チリ産のワインの輸入量が過去最大となり、2015年から3年連続で首位となっている旨の記載がある。
ウ 申立人に係る日本公式サイトによれば、「商品ラインナップ」として、「シレンシオ」「オシオ」「20バレル・リミテッド・エデション」「シングルヴィンヤード」「レゼルバ・エスペシャル ”ヴァレー・コレクション”」「オーガニック」「ビシクレタ・レゼルバ」「コセチャ・ノーブレ」「スパークリング」の9種のシリーズが挙げられている(https://conosur.jp/our-wine/wines/sparkling/)。このうち、申立人商標が付されているのは、「オーガニック」及び「ビシクレタ・レゼルバ」の2種のみである(甲19、甲20)。
エ 申立人は、我が国において、一般雑誌、業界紙、新聞等に、積極的かつ継続的に宣伝広告活動を展開している旨主張し、その一例であるとして、甲8ないし甲12を挙げている。その一部において、申立人商標が確認できる申立人ワインもあるが、申立人商標が確認できない申立人ワインも少なくなく、また、その掲載内容をみても、多数の頁数からなる雑誌等の一部の頁に、わずかに申立人商標を確認し得るにとどまるものである。
オ 申立人は、屋外広告を積極的に活用しているとして、都内の池袋駅、六本木駅、新宿駅、渋谷駅において、デジタルサイネージ広告を展開したとしている(甲13)が、その期間は、合わせて2週間程であり、また、デジタルサイネージにおいて、申立人商標がどのように使用されていたのか明確ではない。
カ 申立人は、申立人ワインの受賞歴等を挙げている(甲14の1?甲14の10)が、係る証拠において、申立人商標が確認できるのは、甲14の1のみである。
キ 申立人は、我が国において、セミナー・講演を行い、申立人ワインの周知・普及活動を行っており(甲15の1?甲15の5)、また、イギリスの「ハーパーズ・ワイン&スピリッツ」主催のハーパーズアワード2015において、「エンゲージメント・オブ・ザ・イヤー」を獲得した(甲16)としているが、係る証拠において、申立人商標を確認することはできない。
(2)上記(1)からすると、申立人は、1993年にチリで設立されたワイナリーであり、2007年には、チリ産ワインの瓶詰ワインの輸出において、金額ベースで第2位になったことがうかがえるものの、申立人ワインは、9種のシリーズを有する商品であり、申立人商標は、そのうち、「オーガニック」及び「ビシクレタ・レゼルバ」の2種のみに使用されているものである。
また、上記(1)エないしキのとおり、申立人の提出に係る証拠には、申立人商標を確認することができないものが多く、わずかに申立人商標を確認し得るものが存在するとしても、申立人の提出に係るこれらの証拠は、積極的かつ継続的に宣伝広告をしていること等を裏付けるには、あまりに少ないものといわざるを得ない。
その他、ツール・ド・フランスの公式スポンサーであることや人気漫画に申立人ワインが登場したこと等の事情を勘案しても、申立人の提出に係る証拠及び職権による調査によっては、申立人商標が、ワインの取引者・需要者間において、「自転車ロゴ=申立人」と認知されるほど、周知著名となっていると認めるに足りる事情は見いだせない。
したがって、本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても、申立人商標が、ワインの取引者・需要者間において、申立人ワインを表すものとして、広く認識されていたと認めることはできない。
なお、申立人は、必要に応じて、全世界及び我が国における詳細な売上高・広告宣伝費等の具体的な数値が記載された資料を開示する準備がある旨述べているが、上述のとおり、申立人ワインの9種のシリーズのうち、申立人商標が付されているのは、「オーガニック」及び「ビシクレタ・レゼルバ」の2種のみであることや、広告宣伝等において、申立人商標が全面的に使用されているとはいい難いこと等からすれば、全世界及び我が国における詳細な売上高・広告宣伝費等の具体的な数値が記載された資料が提出されたとしても、申立人商標の周知著名性の判断が左右されるものではないことから、当該資料の開示は求めないこととした。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、上段にややデザイン化された「CHACABUCO」の欧文字を横書きし、その下に、山、建物、畑、トラック及び自転車を表したと思われる図形(以下「本件図形部分」という。)を配してなるものである。
そして、本件商標は、文字と図形の結合商標であるところ、文字部分と本件図形部分とは、視覚上分離して認識されるものであって、文字部分と本件図形部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないものであり、両者を常に一体不可分のものとしてみなければならない特段の理由も見当たらないものであるから、それぞれの部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというのが相当である。
そこで、本件図形部分についてみるに、当該図形部分は、我が国において特定の事物を表したもの、又は特定の意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は見いだせないから、これより特定の称呼及び観念は生じないものである。
また、本件商標の文字部分は、「CHACABUCO」の欧文字よりなるところ、チリやアルゼンチンの地名に「CHACABUCO」が存在することは確認し得るものの、当該語は、我が国において一般に使用されている辞書等に載録されているものでなく、特定の意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情も見いだせないことからすれば、これより直ちに特定の観念を生ずるとはいえないものである。
そして、通常、我が国においては、特定の意味合いを有さない欧文字を称呼するときには、英語読み風又はローマ字読み風に称呼するのが一般的であることからすれば、当該文字からは「チャカブコ」の称呼が生じるというのが相当である。
そうすると、本件商標からは、「CHACABUCO」の文字に相応して「チャカブコ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
なお、申立人は、自転車ロゴ(申立人商標)が周知著名であることを前提に、本件商標の構成中の本件自転車ロゴが要部となり得る旨主張しているが、上記1のとおり、申立人商標の周知著名性は認められないものであるから、本件商標の構成中の本件自転車ロゴのみを要部として抽出し、引用商標との類否の判断をすることは許されないというべきである。
(2)引用商標
ア 引用商標1
引用商標1は、別掲2のとおり、上段に「Cono Sur」の欧文字を筆記体風に横書きし、その下に、自転車を表したと思われる図形(以下「引用図形部分1」という。)を配してなるものである。
そして、引用商標1は、文字と図形の結合商標であるところ、文字部分と引用図形部分1とは、視覚上分離して認識されるものであって、文字部分と引用図形部分1とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないものであり、両者を常に一体不可分のものとしてみなければならない特段の理由も見当たらないものであるから、それぞれの部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというのが相当である。
そこで、引用図形部分1についてみるに、当該図形部分は、自転車の一類型を表したものと看取されるものの、上記1のとおり、申立人商標の周知著名性は認められないものであることからすれば、我が国において特定の事物を表したもの、又は特定の意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は見いだせないというべきであるから、これより直ちに特定の称呼及び観念は生じないものである。
また、引用商標1の文字部分は、「Cono Sur」の欧文字よりなるところ、当該語が「南向きの円錐」という意味を有する語である(甲6の1)としても、我が国において一般に使用されている辞書等に載録されているものでなく、特定の意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情も見いだせないことからすれば、これより直ちに特定の観念を生ずるとはいえないものである。
そして、通常、我が国においては、特定の意味合いを有さない欧文字を称呼するときには、英語読み風又はローマ字読み風に称呼するのが一般的であることからすれば、当該文字からは「コノスル」の称呼が生じるというのが相当である。
そうすると、引用商標1からは、「Cono Sur」の文字に相応して「コノスル」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
イ 引用商標2
引用商標2は、別掲3のとおり、上段に「Cono Sur」の欧文字を筆記体風に横書きし、その下に、「BICICLETA」の欧文字を横書きし、さらに、その下に自転車を表したと思われる図形(以下「引用図形部分2」という。)を配してなるものである。
そして、引用商標2は、文字と図形の結合商標であるところ、文字部分と引用図形部分2とは、視覚上分離して認識されるものであって、文字部分と引用図形部分2とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないものであり、両者を常に一体不可分のものとしてみなければならない特段の理由も見当たらないものであるから、それぞれの部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというのが相当である。
そこで、引用図形部分2についてみるに、当該図形部分は、自転車の一類型を表したものと看取されるものの、上記1のとおり、申立人商標の周知著名性は認められないものであることからすれば、我が国において特定の事物を表したもの、又は特定の意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は見いだせないというべきであるから、これより直ちに特定の称呼及び観念は生じないものである。
また、引用商標2の文字部分は、「Cono Sur」及び「BICICLETA」の欧文字よりなるところ、当該語が、それぞれ「南向きの円錐」、「自転車」という意味を有する語である(甲6の1、甲8)としても、我が国において一般に使用されている辞書等に載録されているものでなく、特定の意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情も見いだせないことからすれば、これより直ちに特定の観念を生ずるとはいえないものである。
そして、通常、我が国においては、特定の意味合いを有さない欧文字を称呼するときには、英語読み風又はローマ字読み風に称呼するのが一般的であることからすれば、当該文字からは「コノスル」及び「ビシクレタ」の称呼が生じるというのが相当である。
そうすると、引用商標2からは、「Cono Sur」の文字に相応して「コノスル」の称呼が生じ、「BICICLETA」の文字に相応して「ビシクレタ」の称呼が生じるものの、直ちに特定の観念は生じないものである。
ウ 引用商標3
引用商標3は、別掲4のとおり、自転車を表したと思われる図形よりなるものである。
当該図形は、自転車の一類型を表したものと看取されるものの、上記1のとおり、申立人商標の周知著名性は認められないものであることからすれば、我が国において特定の事物を表したもの、又は特定の意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は見いだせないというべきであるから、これより直ちに特定の称呼及び観念は生じないものである。
(3)本件商標と引用商標の類否
ア 本件商標と引用商標は、それぞれ上記(1)及び(2)のとおりの構成よりなるところ、その全体の外観については、明らかに異なるものである。
また、本件図形部分と引用図形部分1、引用図形部分2及び引用商標3との比較においても、本件図形部分は、山、建物、畑、トラック及び自転車を表したと思われる図形よりなるものであるのに対し、引用図形部分1、引用図形部分2及び引用商標3は、いずれも自転車の一類型を表したものであるから、判然と区別し得るものである。
イ 称呼については、本件商標からは「チャカブコ」の称呼が生ずるのに対し、引用商標1からは「コノスル」の称呼、引用商標2からは「コノスル」「ビシクレタ」の称呼が生ずるものであるから、明らかに異なるものである。
また、引用商標3からは、特定の称呼は生じないものであるから、本件商標と引用商標3は、称呼において紛れるおそれはない。
ウ 観念については、本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、観念において比較することはできない。
エ そうすると、本件商標と引用商標は、観念において比較することができないとしても、称呼において紛れるおそれはなく、外観において明らかに異なるものであるから、全く別異の非類似の商標というべきである。
その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
(4)小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるから、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品が同一又は類似するものであるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)申立人商標の周知著名性について
上記1のとおり、申立人商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても、ワインの取引者・需要者間において、申立人ワインを表すものとして、広く認識されていたと認めることはできないものである。
(2)本件商標と申立人商標との類似性の程度について
本件商標は、上記2(1)における判断と同様に、申立人商標の周知著名性は認められないことからすれば、本件商標の構成中の本件自転車ロゴのみを要部として抽出し、申立人商標との類否の判断をすることは許されないというべきである。
そうすると、上記2(3)アにおける判断と同様に、本件商標と申立人商標は全く別異の非類似のものであるから、類似性の程度は著しく低いものである。
(3)申立人商標の独創性について
申立人商標は、自転車の一類型を表したものと容易に認識されるものであり、殊更、特徴的なところも見いだせないものであるから、独創性の程度が高いものとはいい難い。
(4)商品の関連性、需要者の共通性について
本件商標の指定商品は、申立人商標に係る商品「ワイン」を含むものであるから、商品の関連性を有し、需要者の範囲を共通にするものである。
(5)上記(1)ないし(4)からすれば、本件商標の指定商品と申立人商標に係る商品「ワイン」とは、商品の関連性を有し、需要者の範囲を共通にするものであるとしても、申立人商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても、ワインの取引者・需要者間において、申立人ワインを表すものとして、広く認識されていたと認めることはできないものであり、本件商標と申立人商標の類似性の程度は低く、申立人商標の独創性の程度は高いとはいえないものである。
してみれば、本件商標に接する取引者・需要者が、申立人商標を連想又は想起するものということはできない。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれを、その指定商品について使用しても、取引者・需要者が、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
申立人は、申立人商標が周知著名であること、及び本件自転車ロゴが申立人商標と近似していることを根拠に、本件商標を本件商標権者が自己の商標として採択使用することは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する旨、商標権者の実際の使用態様において、本件自転車ロゴが顕著に表示されているような態様で使用していることに鑑みれば、本件商標の出願の経緯に社会的妥当性を欠く旨主張している。
しかしながら、申立人商標は、上記のとおり、申立人の取扱いに係るワインを表示するものとして、取引者・需要者の間に広く認識されているということはできないものであるから、本件商標は申立人商標の周知著名性にフリーライドするものとはいえない。
また、本件商標と申立人商標は、明らかに非類似の商標であることからすれば、商標権者が本件商標を採択使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するということもできない。
加えて、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないこと明らかであり、さらに、申立人の提出した商標権者の実際の使用態様に係る証拠(甲25)をみても、確かに色彩は異なるものの、殊更、本件自転車ロゴのみが看取されるとはいい難い。
その他に、具体的に商標権者が申立人の事業を妨害している等、不正の目的があることを裏付ける事実を見いだすことはできないし、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠く等の事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第7号のいずれにも該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。


別掲
【別掲1】
本件商標


【別掲2】
引用商標1(色彩は、原本参照。)


【別掲3】
引用商標2


【別掲4】
引用商標3


異議決定日 2021-08-04 
出願番号 商願2019-68(T2019-68) 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W33)
T 1 651・ 271- Y (W33)
T 1 651・ 263- Y (W33)
T 1 651・ 261- Y (W33)
T 1 651・ 262- Y (W33)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太野垣 卓 
特許庁審判長 中束 としえ
特許庁審判官 冨澤 美加
馬場 秀敏
登録日 2019-12-13 
登録番号 商標登録第6207121号(T6207121) 
権利者 アイトール イデール バルボ
商標の称呼 チャカブコ 
代理人 門田 尚也 
代理人 杉村 光嗣 
代理人 杉村 憲司 
代理人 西尾 隆弘 

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