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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W1625
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W1625
管理番号 1380005 
審判番号 無効2020-890076 
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-10-14 
確定日 2021-10-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5742050号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5742050号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5742050号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲に示すとおり、「BOND」の欧文字及び「GIRL」の欧文字を上下二段に横書きした構成からなり、平成26年10月1日に登録出願、第16類「書籍,雑誌,新聞,その他の印刷物,書画,写真,文房具類」及び第25類「被服,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同27年1月16日に登録査定され、同年2月20日に設定登録されたものである。

第2 引用標章
請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する標章は、「BOND GIRL」の欧文字を横書きしてなる標章(以下「引用標章1」という。)及び「ボンドガール」の片仮名を横書きしてなる標章(以下「引用標章2」という。)であり、請求人が使用・管理する、映画に登場する女性キャラクターの名称・標章として、世界中で著名であると主張するものである。
なお、上記の引用標章1及び引用標章2をまとめていうときは、以下、単に「引用標章」という。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第71号証を提出した。
以下、証拠の表記については、「甲(乙)第○号証」を「甲(乙)○」のように省略して記載する。
1 請求の理由の要点
(1)本件商標は、「BOND」及び「GIRL」の文字を含み、世界的に人気の高い、映画作品007シリーズ(以下「007シリーズ」という。)に登場する女性キャラクターたちの名称である「BOND GIRL」あるいは「ボンドガール」を容易に想起させるものである。
「BOND GIRL」あるいは「ボンドガール」は、請求人が使用・管理する名称・標章として世界中で著名であるにもかかわらず、これらと何らの関係を有しない者が、その指定商品に関して最先の商標出願を行った結果、特定の指定商品との関係で当該商標を独占的に使用できるようになり、請求人による使用を排除できる結果となることは、商標登録の更新が容易に認められており、その権利を半永久的に継続することも可能であることから、公正な取引秩序の維持に反するものであり、かかる商標を登録することは、国際信義に反し、公序良俗を害するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)本件商標は、請求人の使用・管理する著名な名称・標章である「BOND GIRL」あるいは「ボンドガール」と近似あるいは類似する商標である。
本件商標は、引用標章に化体した名声、信用、顧客吸引力にただ乗りすべく、「BOND/GIRL」なる文字を採択し、不正の利益を得る目的、すなわち、不正の目的をもって出願されたものとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、登録出願時より商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 具体的理由
(1)請求人
請求人は、米国のメトロ・ゴールドウィン・メイヤー社(MGM)とともに007シリーズの著作権を共同所有しており、この映画に関する世界的な商品化権を管理している企業である。
したがって、引用標章との間で出所の混同を生ずるおそれのある他人の商標、引用標章に化体した名声、信用、顧客吸引力にただ乗りし、不正の目的をもって出願された他人の商標及び請求人が使用・管理する著名な名称・標章に化体した名声や信用に故なく便乗する他人の使用等を排除することにつき利害関係を有する者である。
(2)「007シリーズ」
「007」は、スパイ小説家のイアン・フレミングによる長編「カジノ・ロワイヤル」の中で生み出されたイギリス秘密情報部員ジェームズ・ボンド(以下「ボンド」という場合がある。)のコード名であり、このジェームズ・ボンドを主人公とした小説はシリーズ化され多数の作品が出版されている。
また、当該小説シリーズが1962年に映画化されたのを契機として、ジェームズ・ボンドを主人公とした映画がこの58年の間に24作品が制作されている。これらの映画シリーズは世界中で公開され人気を博し、それらすべての作品が極めて高い興行成績を残しており、これらの一連の映画作品は、もっとも成功した映画シリーズであるということができる(甲3?甲5)。
さらに、007シリーズ第25作目である最新作が公開予定であることから、今後007シリーズ、ジェームズ・ボンド、ボンドガールに対する関心はますます高まるものと考えられる(甲6)。
(3)「BOND GIRL(ボンドガール)」
「BOND GIRL(ボンドガール)」は、007シリーズに登場するボンドの相手役となる女性キャラクター(以下、単に「女性キャラクター」という。)、あるいはその女性キャラクターを演じる女優たちを呼称するために創作された造語であり、女性キャラクターたちはボンドの敵となり得るし、また、ボンドと行動を共にすることもある。ボンドガールはボンドと共に、あるいは単独で、雑誌を始めとする様々なメディア、映画の試写会、関連イベントなどに登場することが多く、その容姿、キャラクターなどの圧倒的な魅力から、ボンドと同等あるいはそれ以上に注目を浴びている。
(4)ボンドガールの紹介記事等
007シリーズの新作が公開されるたびに、多くの雑誌で007特集が組まれ、ボンドガールについても様々な雑誌で取り上げられている。ボンドガールの関連記事は非常に多いため、2003年「007/ダイ・アナザー・デイ」以降の記事の一部を紹介する。
ア 007/ダイ・アナザー・デイ(2002年)
(ア)フラウ 2003年1月14日号(甲8)
表紙には、「今こそ、すべての女性は、ボンドガールを目指すべし!」といったタイトルがある。
同誌には、「歴代ボンドガール大図鑑 ボンドを愛した女たち」というタイトルで、60年代、70年代、80年代、90年代を彩った19名のボンドガールが紹介されている。
また、同誌には、「ボンドガールの歴史を統括した史上最強のボンドガール、ハル・ベリーという女神」というタイトルで、ヒロインのハル・ベリーが紹介されている。
(イ)SCREEN 2003年4月号(甲9)
「007/Special」という特集が組まれ、「『ダイ・アナザー・デイ』のボンドガール来日」として、ハリー・ベリーとロザムンド・パイクの来日やインタビューが紹介されている。
また、特集の中では、「強いボンドガールを演じられて気分は“女性版007”よ!」「ハリー・ベリー来日」というタイトルで、ハリー・ベリーのインタビュー記事が掲載されている。ハリー・ベリーについては「“ボンドを超えるボンドガール”という形容こそふさわしい彼女に早速インタビュー!」とある。
さらに、同誌には「セクシーさを競う/歴代ボンドガールズ」というタイトルで、「ジャマイカのクラブ・アイランドの海岸で、ウルスラ・アンドレス扮するハニー・ライダーがビキニ姿で海中から現われた時、“ボンドガール”という神話は幕を開けた。1962年のことだ。以後40年にも渡って数多くの美女たちがこの称号で呼ばれ、スクリーンの中でそのセクシーさを競ってきた。(以下、省略)」「もちろん女優たちにとってはボンドガールは憧れの座だった。“ボンドガールは女優として大成しない”などと陰口をたたかれた事もあったが、今なおこの称号は輝きを失わない。そして時代は21世紀。ボンドガールも新たな時代に移りつつある。(中略)常に時代の空気を反映しながら、007シリーズに鮮やかな彩りを加えてきたボンドガールたち。彼女たちもまた、さらなる進化を続けているのだ。」とある。
イ 007/カジノ・ロワイヤル(2006年)
(ア)キネマ旬報 2006年12月上旬特別号(甲10)
エヴァ・グリーンのインタビューが掲載されている。
また、同誌で、映画評論家A氏は、「Aのボンドガール論<決定版>」「“007と寝る”と見せかけて“時代と寝る”女たち」で、各作品のボンドガールについて触れ、「・・・、時代は変わる。ボンドも変わる。ボンドガールも当然変わる。その時代の女性像の合わせ鏡として、たとえディフォルメした形でも反映してきたのだ。下世話な表現をすれば、ボンドガールは、“007と寝て”いる、と見せかけて、ちゃんと“時代と寝て”いたのである。」と述べている。
(イ)日経エンタテインメント 2006年12月号(甲11)
ボンドガールのエヴァ・グリーンが紹介されている。
「カジノ・ロワイヤル」において「ボンドは原作に近い生身の人間として描かれ、時代とともに『お色気路線』から『戦う強い女』へと変化してきたボンドガールも、初めて等身大の存在になった。」とある。
(ウ)2006年12月1日に発行された映画パンフレット(甲12)
ボンドガール、ヴェスパー・リンドを演じた、エヴァ・グリーンのインタビューが掲載されている。
ウ 007/慰めの報酬(2009年)
(ア)SCREEN 2009年1月号(甲13)
「007/慰めの報酬マルチ大特集」の中で「非情の世界を生きる主人公たち」として、オルガ・キュリレンコ扮する「カミーユ」が紹介されている。同誌にはオルガ・キュリレンコのインタビュー、ジャパンプレミアでファンに手を振るオルガ・キュリレンコとダニエル・クレイグの写真が掲載されている。
(イ)キネマ旬報2009年1月下旬号(甲14)
「今までとは少し違うボンド・ガール」というタイトルで、オルガ・キュリレンコのインタビューが掲載されている。
(ウ)SCREEN 2009年3月号の付録である「007/慰めの報酬&ジェームズ・ボンド大百科」(甲15)
「強靭な意志を持った新時代のボンドガール」としてオルガ・キュリレンコの紹介がされている。
また、同付録の中の「映画は“女優”で見る!」「ボンドガール・ベスト10」では、「007といえばやっぱりボンドガール。僕なんぞはこれが楽しみでこのシリーズをずっと見ているようなもんだ。ボンドガールは実は時代の合わせ鏡なのである。初期のボンドガールは彩り、お飾り、ときには足手まとい。(中略)しかし、時代とともにボンドガールは007と同等あるいはそれ以上の職能女性として描かれることが多くなった。」と述べている。
(エ)ぴあ 2009年2月5日号(甲16)
オルガが演じるカミーユについて「同じ“復讐”という言葉でボンドとは結ばれ行動を共に。ボンドガールだが、そういうセクシャルな関わりはナシ!」と紹介されている。
(オ)Pen 2009年1月1日・15日号(甲17)
特別付録「007ジェームズ・ボンドのすべて。」では、「相棒か敵か戯れか?ボンドガールたちの系譜。」というタイトルで、「鮮烈な存在感で007映画をより刺激的にしてくれるボンドガール。果たしてボンドと作品にとって、女たちは何をもたらしてくれるのだろうか?」というサブタイトルで、代表的なボンドガールが紹介され、時代の変遷とともに“ガール”たちのキャラクターが多種多様になっていることをあげられ、いくつかの系譜に分けてボンドガールが紹介されている。
エ 007/スカイフォール(2012年)
(ア)週刊文春 2012年11月1日号(甲18)
「美女と車と/アクションの50年/私たちが愛した/007」という特集が組まれ、「魅惑のボンドガール/BOND GIRL Collection」として、ボンドガールたちが紹介されている。
(イ)SCREEN 2012年11月号(甲19)
「007 伝説のスパイ ジェームズ・ボンドが駆け抜けた半世紀」というタイトルで、歴代のジェームズ・ボンドが紹介されている。「1990年代?」の欄には、「上司が女性になり、ボンドガールも大物が演じるように」とあり、「ゴールデンアイ」でジェームズ・ボンドの上司Mが女性(ジュディー・デンチ)に変わったこと、18作目「トゥモロー・ネバー・ダイ」(97)では、ボンドガールのミシェール・ヨーがボンド以上に過激なアクションを披露して、決して添え物ではない点が新鮮だったこと、19作目「ワールド・イズ・ノット・イナフ」(99)では、人気女優ソフィー・マルソーが登場し、大物女優でもボンドガールになる価値を感じ出したこと、「2000年代?」の欄には、「ダイ・アナザー・デイ」(02)では、ボンドガールがシリーズ初のオスカー女優ハリー・ベリーであったことが紹介されている。
(ウ)NewsWeek(ニューズウィーク日本版) 2012年11月14日号(甲20)
「50/ジェームズ・ボンド50年の軌跡」という特集が組まれ、「美女と殺しと爆破の半世紀」というタイトルで、007シリーズの歴史が年表風に紹介されている。
(エ)エコノミスト 2012年11月27日号(甲21)
「50周年/007の魅力」という特集が組まれた。その中には「時代、スポンサーとともに変わる女性、クルマ、小道具」というコラムがあり、007の魅力を語るとき、忘れてはならないもののひとつとして、魅惑的なボンドガールが挙げられている。また、「当初のボンドガールは映画の“華”にすぎなかったが、やがてボンドのパートナー、ライバル、敵などへと役の重みが増していった。」ことなどが述べられている。
(オ)SCREEN 2013年1月号(甲22)
「シリーズ誕生50周年記念作/007/スカイフォール」と大きく書かれた文字とともにボンドとふたりのボンドガールの写真が掲載されている。
また、同誌にはボンドガールの欄があり、「男くさい『007』シリーズに華を添える存在として、なくてはならないボンドガール」とある。
(カ)2013年1月10日に発行された「MAGAZINE HOUSE MOOK/007 COMPLETE GUIDE」(甲23)
「ボンドガールは永遠に!」という特集が組まれている。映画評論家のK氏は、007シリーズに欠かせないのがボンドガールというものの、添え物的なニュアンスで語られることも多いボンドガールについて、「真の007ファンは『ボンドガール』の称号を崇拝する。」と述べ、いくつかの作品の女性キャラクターたちを紹介し、「最後にひとつだけいいたい。スターダムの登竜門と言われながら、実はその後に出世した女優は少ないことをよく揶揄されるが、一度でもボンドガールの歴史に名を連ねただけで、彼女たちは映画ファンから愛を獲得している。もう『永遠の命』を得ているのだ!」と締めくくっている。
(キ)GQ JAPAN 2012年12月号(甲24)
「ボンドガールは2度美味しい」というタイトルで、今作は2人の美女がボンドを窮地に陥れる、とある。
同誌には、GQ UKが行った、ボンドガール、ベレニス・マーロウのインタビューが掲載されている。
(ク)MEN’S CLUB 2013年2月号(甲25)
「ジェームズ・ボンドに学ぶ」「“熟男(うれだん)”007の流儀」というタイトルで、ボンドガールを演じたベレニス・マーロウを直撃したという記事が掲載されている。
オ 007/スペクター(2015年)
(ア)キネマ旬報 2015年12月上旬号(甲26)
S氏とM氏の対談では、ボンドガールについて、当初のお人好しで、プレイメイト的なボンドガールから、強くて、賢くて、若さに頼らないボンドガールになったこと、この20年の間にボンドガールはがらりと変わり、フェミニズム寄りになったというようなことが語られている。
(イ)Pen 2015年12月15日号(甲27)
「元ボンド・ガールが語る、物語を彩る女たち。」というタイトルで、「新作を含めて通算24作のフィルモグラフィーを誇る007シリーズを語る上で避けて通れないのがボンドガールの存在だ。」とある。
「リビング・デイライツ」でボンドガールを演じたマリアム・ダボは、ボンドガールについて、「女性の社会進出など各時代の社会的気運を背景に、その役柄設定も進化を続けている」と語っている。
また、「セックスシンボルから、女性のロールモデルヘ。」というタイトルで「歴代のプロデューサーたちは、刻々と変化する時代のトレンドに敏感で、それを各時代の作品に取り入れてきた。ボンド・ガールのキャスティングはその最たる例。1960年代に代表されるセックスシンボル的存在から、ボンドと肩を並べるプロフェッショナルな女性へと存在感を増していったの」とある。
(ウ)キネマ旬報 2015年12月下旬号(甲28)
「007/スペクター」で、007史上初の50歳の熟女ボンドガールを演じたモニカ・ベルッチのインタビューが掲載されている。彼女は「ボンド・ガールって呼ばれたくないわ、ボンド・レディにして」と述べている。
(エ)GQ JAPAN 2015年12月号(甲29)
「ボンド・ガールからボンド・ウーマンヘ」というタイトルで、「ボンドの世界に欠かせないのがボンド・ガールの存在だ。ボンドを愛し、翻弄し、命をも狙ってきた彼女たちはいつもその時代の女性像を象徴している。」とある。また、ボンドの長い歴史におけるボンド・ガールの移り変わりを、S氏が「ボンドの世界を彩るボンド・ガールたち」として考察し、ボンドガールたちを年表風に紹介している。
また、同誌には、BOND GIRL#1として、レア・セドゥのインタビュー、BOND GIRL#2として、モニカ・ベルッチのインタビューが掲載されている。
(オ)SCREEN 2016年1月号(甲30)
3名のボンドガール、ナオミ・ハリス、レア・セドゥー、モニカ・ベルッチのインタビューが掲載されている。
以上によれば、ボンドガールは007シリーズの象徴として同シリーズに鮮やかな彩りを与え、時代の空気を反映し、時代と共に進化し続けてきたことから、007ファンには常に新鮮であり、007シリーズという、稀にみる成功を収めた映画シリーズにおいて欠くべからざる存在であり、シリーズ成功の功労者であったといっても過言ではない。
(5)ボンドガールの各種イベントヘの参加、関連イベントの開催
ア 2008年10月29日、「慰めの報酬」のロイヤルプレミアが“聖地”オデオン・レスター・スクエアで開催された。同試写会については「女王陛下のために開催する、ロンドンの祝祭」という記事が、Pen 2009年1月15日号(甲17)に掲載されている。同誌にはボンドガール役のオルガ・キュリレンコが極寒のロンドンで見事なドレス姿を見せてくれたことが紹介されている。
イ 2008年11月23日、オメガの「オメガ シーマスタープラネットオーシャン007限定モデル」発売のイベントが東京青山のオメガブティックで開催され、「007/慰めの報酬」でボンドガールを演じたオルガ・キュリレンコが参加した(甲31)。
ウ 「007/慰めの報酬」公開イベントとして、2009年1月12日から2月15日まで、「TRIAL TO 007」が開催されることがソニー企業株式会社の2008年12月25日付けプレスリリースで公表された(甲32)。イベントの一環として、銀座ソニービルの外壁にはボンド(ダニエル・クレイグ)とボンドガール(オルガ・キュリレンコ)の大きな垂れ幕が掲げられた(甲33)。
エ 「007/スカイフォール」のロイヤルプレミア(ロンドン)が2013年10月23日に、パリプレミアが10月25日に、ローマプレミアが10月26日に、それぞれ開催された。ボンドガール役のベレニス・マーロウがボンドと共にプレミア試写会に参加した。プレミア試写会については、MOVIE STAR 2013年1月号(甲34)、SCREEN 2013年1月号(甲22)及び同2月号(甲35)で紹介されている。
オ 映画「007/スカイフォール」のオフィシャル・パートナーに選出された「GLOBE-TROTTER(グローブ・トロッター)」による、同作品の劇中衣装を展示する特別展「A Taste of 007 style」が、11月14日から12月16日までヴァルカナイズ・ロンドン青山店で開催されることが、オンラインの情報サイト(Fashionsnap.com)(甲36)や、MEN’S Ex 2013年1月号(甲37)で紹介されている。
カ 阪急メンズ東京が007シリーズ最新作「007/スカイフォール」の公開に合わせて「ウインターダンディズム?007WEEK?」を開催すること(2012年11月19日から12月7日まで)、ボンドガール、ベレニス・マーロウの来日イベントが11月19日(月)17時半からに決定したことが、オンラインの情報サイト(Fashionsnap.com)(甲36)や、メールマガジン(Web Magazine OPENER)(甲38)で紹介され、また、ベレニス・マーロウの来日イベントについては、「NEWS LOUNGE」というサイトでも紹介されている(甲39)。
キ 「八光自動車工業(株)× 007 スカイフォール × アストンマーチン コラボイベント ?セレッソ大阪のボンドガールになってボンドカーと記念撮影?」というイベント開催(イベントは12月1日(土))のため、ボンドガールの募集が行われた(甲40)。
ク 映画「007/スペクター」の公開を記念して、2015年11月16日、六本木ヒルズで「TOKYO BOND GIRL COLLECTION」が開催された。同イベントには、ボンドとボンドガールに扮した有田哲平と道端カレンが登場した(甲41)。
ケ 2015年11月、「現在、銀座線や日比谷線をはじめとする東京メトロでは、ハーパース×007のコラボポスターが全車両ジャック中です。」という記事がハーパーズバザーのサイトに掲載された。車内をジャックしたポスターには、ボンドとボンドガールの写真と共に「“ボンドガール”美しき永遠のアイコン」、「今月号の『ハーパーズ バザー』はボンドガールが主役」というキャッチコピーがある(甲42)。
(6)007シリーズの二次利用
流通メディアの発達に伴い、映画・映像作品については、映画館で上映されるだけでなく、DVDやテレビ等の様々なメディアを通して二次利用されるのが通例になっているが、007シリーズもその例外ではなく、映画館で上映後、DVDの制作(甲43)や、テレビ放送(2010年3月からWOWOWで全22作品を一挙放送(甲44)、2015年1月から2016年6月まで、BSジャパンの金曜名画座で22作品を放送(甲45)、2020年には新作が公開されることに伴い、BS-TBS、映画専門チャンネル「ムービープラス」が24作品及び番外編2作品(甲46、甲47)を、テレビ東京が20作品(甲48)を放送中あるいは放送予定)など作品の二次利用が行われている。これら映画以外の媒体を通じて、007シリーズ及びその華たる「ボンドガール」がお茶の間にも広くかつ深く浸透している。
(7)小括
以上のとおり、「BOND GIRL(ボンドガール)」は1962年の映画公開時より50年余りの間007シリーズの華としてスクリーンに登場し、ボンドと共に活躍してきた。ボンドガールについては雑誌等のメディアで多数取り上げられており、新作映画公開時の各種イベントヘの登場により、「BOND GIRL」及び「ボンドガール」の名称・標章は、遅くとも本件商標の登録出願時(平成26(2014)年10月1日)において、これらの名称・標章に接する者が、007シリーズの登場人物である女性キャラクターたちを直ちに想起させる程に著名なものとなっていたこと、さらに、その著名性は2015年の「007/スペクター」の公開及び2020年11月に公開予定の新作「007/No Time To Die」に関するプロモーション活動などを通じて、今日に至るまで引き続き維持されている。
(8)ボンドガールについてのライセンス許諾
一般に周知・著名な映画やテレビやその登場人物については、正当権利者の許諾の下に各種商品化が行われることは珍しくない。人気のあるキャラクターを自己の商品に利用することで、その購買力を著しく高められるからである。ボンドガールは有名な映画シリーズの人気キャラクターであることから、その名称・標章及び肖像の使用についてのライセンスが多くの会社に許諾されている。
例えば、請求人は以下のブランドに「BOND GIRL(ボンドガール)」についてのライセンスを許諾している。
ア O・P・I
ネイル製品トップメーカーであるO・P・I(アメリカ合衆国カリフォルニア州)は、映画「007/スカイフォール」(2012年)のタイアップキャンペーンとして、映画界で印象に残る美しい女性たち、ボンドガールをイメージした「ボンドガールズ バイ オーピーアイ」という商品を発売した(甲49、甲50)。商品及び商品の箱には「Bond Girls」の文字及びボンドガールの肖像が使用されている(甲51)。
イ AVON(エイボン)
エイボン化粧品(アメリカ合衆国ニューヨーク州)は、007シリーズと提携し、「BOND GIRL 007」という名前の香水及びシャワージェルを発売し、商品のイメージキャラクターとして、「007/慰めの報酬」でボンドガールを演じる英国人女優ジェマ・アータートンを起用した(甲52、甲53)。
なお、映画.comニュースによれば、今回の提携についてエイボン社側は「ボンドガールは007シリーズの象徴の一つ。力強く、女性らしく、魅力的なそのエッセンスを我が社の商品に注入できるなんて、喜ばしいこと」とコメントし、007の制作サイドも、宣伝効果が得られる上、上品なブランドのイメージも植えつけることができるため、提携を喜んでいるようだ、とのことである。
商品及び商品の箱には「BOND GIRL」の文字が使用されている(甲54)。
また、エイボンは「007/慰めの報酬」の公開に合わせ、オーデパルファム スプレイを購入した顕客に対し、抽選で50名に「007/慰めの報酬」のDVDをプレゼントするというキャンペーンを行った(甲55)。
ウ Mattel(マテル)
バービー人形で有名なマテル(アメリカ合衆国カリフォルニア州)は、請求人よりライセンスを許諾され、2010年に「ドクター・ノオ」、「ゴールドフィンガー」、「死ぬのは奴らだ」、「オクトパシー」、「ダイ・アナザー・デイ」などのボンドガールのバービー人形を発売した(甲56)。
ボンドガールのバービー人形はオンラインストア楽天で購入可能である(甲57)。
エ Cartamundi(カルタムンディ)
カードメーカーのカルタムンディ(ベルギー)は、ボンドガールのトランプを発売した。トランプのパッケージには「BOND GIRLS」の文字が表示され、カードにはボンドガールたちの肖像が使用されている(甲58)。歴代55人のボンドガールを集めた50周年記念スペシャルトランプはトランプ・カジノ専門店「モンテカルロ」のオンラインストアで購入可能である(甲59)。
オ Rittenhouse(リッテンハウス)
トレーディングカードのメーカーであるリッテンハウス(アメリカ合衆国ペンシルバニア州)は、ボンドガールたちのトレーディングカードを発行した。トレーディングカードには「bond/girls」の文字が表示され、ボンドガールたちの肖像が使用されている(甲60)。
ボンドガールのトレーディングカードは、海外ショッピングサイト「セカイモン」で購入が可能である(甲61)。
カ Te Neues(テヌース)
写真集などアート系の本を出版するテヌース(ドイツ)は、ボンドガールのカレンダーを発行した。カレンダーの表紙には「BOND GIRLS」の文字が表示され、カレンダーにはボンドガールたちの肖像が使用されている(甲62)。
ボンドガールのカレンダーはアマゾン(amazon)で購入可能である(甲63)。
キ Revlon(レブロン)
レブロンが、その専属モデル、ハル・ベリーが演じる魅惑のボンドガール「ジンクス」のクール&セクシーなイメージをふんだんに取り入れた「007レブロン カラーコレクション」を限定品として、2003年3月7日に発売予定であることが、フラウ 2003年1月14日号(甲8)で紹介されている。
(9)プロダクト・プレイスメント
ア 007シリーズとプロダクト・プレイスメント
近年の映画製作においては映画に商品を提供してその付加価値を高める、いわゆる「プロダクト・プレイスメント」といわれる広告手法が採用されることが多い。映画作品の中で企業の商品が映し出されば企業側にとっては良い宣伝となる。一方、映画製作者側にとっても映画製作費用を調達することができるというメリットがある。
また、映画作品のタイトルや登場人物、関連する標章等とともに商品の宣伝・販売を行えば、それらの顧客吸引力を利用して高い宣伝効果・経済効果を得ることも期待できる。007シリーズは、その広告効果の高さから、多くのスポンサーにとって商品を提供したい「夢の作品」といわれている(GQ JAPAN 2015年12月号(甲29))。
「GQ JAPAN 2015年12月号」には、「プロダクト・プレイスメントにみる/ボンドの巨大スポンサービジネス」というタイトルで、「ジェームズ・ボンドに“選ばれたい”と思うのはなにも女性だけではない。007シリーズは、今一番企業が商品を提供したい映画なのである。世界を駆け巡る男は、ビジネスのスケールも大きい。」とある。同誌にはボンドが身につけるもの、ボンドが飲むもの、ボンドが乗るものなどが紹介されている(甲29)。
また、日刊スポーツのオンライン記事(2015年11月10日)にも、「今度のボンドはどの商品を使う?『007』広告効果」という記事が掲載されている(甲64)。一流のスパイが使用するものは世界最高級の証といわれるだけに、007シリーズには厳選された企業の商品が毎回選ばれているとのことである。007シリーズは作品が公開されるたびに登場する商品が話題となり、大規模なタイアップキャンペーンなども行われるだけに、その広告効果もかなり大きいようである。
イ ボンドガールとプロダクト・プレイスメント
007シリーズにおいて、ボンドガールにもタイアップが行われている。例えば、「007/スカイフォール」でボンドガールを演じたベレニス・マーロウは劇中で「デビルプレステージ」を着用した(甲39)。
また、「007/慰めの報酬」でボンドガールを演じたオルガ・キュリレンコや、ベレニス・マーロウは、来日イベントで、オメガの時計を身につけ登場し、作品と共に作品の公式ウオッチであるOMEGAのPRもした(甲39)。
ジュエリーメーカーのスワロフスキーも、007シリーズとタイアップを行っており、ボンドガールを演ずる女優にスワロフスキーのジュエリーを提供した。同社は、スカイフォール公開時、007シリーズ50周年を記念したコレクションを、世界1,000店のショップで販売した(甲65、甲66)。
「O.P.I.」、「エイボン」、「レブロン」も007シリーズとタイアップしていたこと、限定商品を販売したことは前述したとおりである。
最新作「007/No Time To Die」では、スイスの高級時計及び宝飾品のブランドである、ショバールがオフィシャルパートナーとなっている。この作品で「ボンドガール」としてパロマ役を演じるアナ・デ・アルマスが、同メゾンのハイジェリー「グリーン カーペット コレクション」から3つの作品をまとい、スクリーンに登場するということである。また、今回のコラボにより「ハッピーハート-ゴールデンハート」と称されたユニークなジュエリーコレクションも発表されることになっている(甲67)。
新作でもオメガは007シリーズとタイアップしている。マネー・ベニーを演じたナオミ・ハリス及びノーミを演じたラシャーナ・リンチはオメガの時計を身につけてスクリーンに登場するということであり、オメガの時計をプロモートするための活動も行っている(甲68、甲69)。
なお、映画「007シリーズ」は、58年間に24作品が公開されている(2020年に公開される新作を含めれば25作品となる)。その間新作が公開されるたびに様々な企業とのタイアップキャンペーンが長期間にわたり実施され、幅広い範囲の商品化が行われてきた。「ボンドガール」とのタイアップは単なる単発の映画のタイアップと比較し、各段に大きな宣伝効果・経済効果がある。
(10)商標の登録
請求人は、莫大な費用と時間を投じて「BOND GIRL」含む商標「BOND GIRL 007」を日本を含む39か国で、「BOND GIRL」と女性のシルエットの結合商標を欧州で、「BOND GIRL」及び「ボンドガール」を二段に併記した商標を日本で、それぞれ登録し、「BOND GIRL(ボンドガール)」に表象された業務上の信用の維持に努めている(甲70)。
3 本件商標と引用標章
(1)本件商標と引用標章の類否
本件商標は「BOND」及び「GIRL」を二段に書してなる。本件商標を構成する「BOND」及び「GIRL」の文字は、丸みを帯びた太文字の特徴的な書体からなり、各文字は同一、同書、同大であることから、全体としてまとまりが良く、本件商標からは「ボンドガール」の称呼、007シリーズの女性キャラクターたちの名称である「ボンドガール」の観念が生ずる。
引用標章1は「BOND GIRL」、引用標章2は「ボンドガール」の文字からなり、引用標章からは「ボンドガール」の称呼と007シリーズの女性キャラクターの名称である「ボンドガール」の観念が生ずる。
本件商標と引用標章1は、共に「BOND」及び「GIRL」の同一の文字より構成され、外観において近似する。両商標からは「ボンドガール」の一連の称呼と007シリーズの女性キャラクターたちの名称である「ボンドガール」の観念が生ずるので、両商標は称呼及び観念が同一である。
したがって、本件商標と引用標章1は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても同一又は近似する商標といえる。
本件商標と引用標章2は、外観は相違するものの、両商標からは「ボンドガール」の称呼と007シリーズの女性キャラクターたちの名称である「ボンドガール」の観念が生ずるので、両商標は称呼及び観念が同一である。
したがって、本件商標と引用標章2は、称呼及び観念が同一であるから、類似する商標である。
(2)本件商標の指定商品及び請求人の引用標章の使用
本件商標の指定商品は、第16類「写真,印刷物,文房具類等」、第25類「被服,靴類等」である。
第16類の指定商品「印刷物」との関係では、リッテンハウスがボンドガールたちのトレーディングカードを、テヌースがボンドガールのカレンダーを、それぞれ請求人の許諾を得た上で、発行していた(甲60?甲63)。
また、ボンドガールは、新作映画公開時にはその衣装展示が行われるなど、そのファッションは多くの女性たちの注目を浴びている(甲36、甲37)。
さらに、本件商標の第25類の指定商品である「被服,靴類等」はいずれもファッションに関連するものである。
4 商標法第4条第1項第7号が適用されるべき点について
上述したとおり、本件商標は007シリーズの女性キャラクターたちの名称として著名である「BOND GIRL」を容易に認識させるものであり、「BOND GIRL」の語からは、007シリーズの女性キャラクター以外の観念が想起されることはないから、被請求人が本件商標を偶然に採択したものとは考え難い。
また、請求人は、ネイル製品、化粧品をはじめ、人形、カード、カレンダー等を取り扱うメーカーに、引用標章に係るライセンスを許諾していたことからすれば、「BOND GIRL」の語が一定の顧客吸引力を獲得しており、高い商業価値を有していたことは明らかである。
そして、請求人は、我が国を含む世界各国において、引用標章に係る商標を登録し、メーカーに対してはライセンス契約によりその使用を許諾するなど、その商業的な価値の維持管理にも努めてきた。
このような状況の中で、請求人と関わりのない第三者が、最先の商標出願を行った結果、特定の指定商品との関係で当該商標を独占的に使用できるようになり、請求人による使用を排除できる結果となることは、商標登録の更新が容易に認められており、その権利を半永久的に継続することも可能であることなどを考慮すると、公正な取引秩序の維持の観点からみても相当とはいい難い。
被請求人は、引用標章の世界的な知名度、顧客吸引力及び商業的価値の維持に何ら関わってきたものではないから、本件商標の指定商品との関係においてではあっても「BOND/GIRL」の語の使用の独占を許すことは相当ではなく、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義にも反するものといわざるを得ず、本件商標は公序良俗を害するおそれがある商標に該当すると判断すべきものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
5 商標法第4条第1項第19号が適用されるべき点について
本件商標は、我が国をはじめ世界中で007シリーズの主人公であるボンドの相手役である女性キャラクターたちの名称として著名である引用標章と近似あるいは類似する商標である「BOND/GIRL」の文字からなるものであり、被請求人が引用標章の存在を知らずに本件商標を採択したものとは考え難く、むしろ、本件商標は引用標章を強く意識した上で、引用標章に化体した名声、信用、顧客吸引力にただ乗りして、不正の利益を得る目的、すなわち、不正の目的をもって出願されたとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、登録出願時より商標法第4条第1項第19号に該当するものであり、その登録は無効とされるべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙1ないし乙21を提出している。
1 理由(抄訳)
(1)本件商標は、商標法の違反なく被請求人が申請し登録された。
他の誰の商標及び知的財産権を侵害するものではない。
(2)本件商標の称呼の成立について請求人が主張するプロセスに錯誤又は瑕疵がある。
該当称呼を請求人が積極的にシリーズ公表当時から使ってきた証ひょうが提出されていない。
(3)本件商標の呼称の元となった原作小説は2016年時点でパブリックドメインとなった。
小説「007 ジェームズ・ボンド」は、著作権保護期間の終期を迎えて公有知財である。
(4)本件とは別の区分で登録された商標への異議申立て(2件)は過去、却下されている。
(5)請求人は、米国で保有していた商標「BOND GIRL」すべての登録を放棄している。
請求人は米国では商標を保有せず、無関係と思われる第三者複数が類似称呼を登録している。
(6)請求人は、米国において「BOND GIRL」と題された出版物の刊行を看過している。
「BOND」は英語の意味が「債権」であり、「証券の女」という小説が大手版元から刊行中。
請求人は出版その他の商標を保有せず、著作隣接権での許諾も行っていない。
2 具体的理由
(1)本件商標は、商標法の違反なく被請求人が申請し、登録された。
本件商標の取得は、他の誰の商標権及び知的財産権を侵害するものではない。
被請求人は、本件商標を、商品区分第25類「被服類」で取得し、Tシャツ等のアパレル商品を企画開発している。これらの宣伝、販売用にポスター、カタログ、チラシなどの制作と配布が予想されたため、商品区分第16類(印刷、出版)も取得した。
販売は関係会社であるS社によるネット通販を中心にイベント販売などを試験的に開始している。
請求人は、被請求人による本件商標の取得に対して、請求人が保有するコンテンツから派生したネーミングや知名度にフリーライド(ただ乗り)しようという被請求人の意志を訴えているが、そもそも請求人が本件商標を保有する権利を有する立場にあるかどうかが疑わしい。
(2)本件商標の称呼の成立について請求人が主張するプロセスに錯誤又は瑕疵がある。
ア ボンドガールの称呼について、請求人が積極的に映画公表当時から関与してきた証ひょうが存在しない。
請求人ダンジャック・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(以下「ダンジャックLLC社」という。)は、甲号証として「ボンドガール/BOND GIRL」が日本において多くの記事で使われている証ひょうとして、雑誌記事、Web記事を多く示している(請求人によるボンドガールの紹介記事等:甲7?甲51)
だがそれらは主に近年、21世紀になってから雑誌やWebの制作者(出版社・サイト運営会社)が、各自、それぞれの記事制作でつけたキャッチコピー(惹句)であり、請求人が本件商標のために長年にわたって意図的に拡散流布したものかどうかの証明にはならない。
ボンドガールの称呼が映画紹介において使われていること及び日本では「ジェームズ・ボンド」に登場する女性キャラクターの代名詞として映画ファンに知られた存在であることの証左にはなるが、それが、請求人が深く関与し、保有する知財商品化物だと認識されているわけではない。
服飾の世界では、ブランドイメージの維持と流布のために商標保有者は格段の費用と期間をかけてそれを行っているが、請求人は偶発的に日本で一部の映画ファン、スパイ小説ファンに広まった称呼を、あたかも自らの努力で広めたがごとく主張している。
これらを説明するために映画公開における配給宣伝のプロセスにおいて正しくなぞる必要があるので説明する。
イ 2021年時点での「ジェームズ・ボンド」映画における各社の役割:製作と配給の流れ
(ア)映画原作 イアン・フレミングによるスパイ小説(英国)
(イ)企画立案 イーオン・プロダクション(米国)製作チームとして
(ウ)共同製作 イーオン・プロダクション/MGMスタジオ(米国)他
(エ)世界配給 MGMスタジオ(米国)、他
(オ)日本配給 ソニー・ピクチャーズ=コロンビア映画グループ(日本)
映画業界ではダンジャックLLC社は、イーオン・プロダクションと強い資本関係又は支配力をもつ知財管理の会社と認識されているが、その実態と功績は非公開である。
こうした流れにおいて、宣伝用に配布される資料(宣材と呼ぶ)の製作は、(オ)の日本配給を担当するソニー・ピクチャーズ社宣伝部及び委託を受けた外部宣伝チームが行っている。
日本において「ボンドガール」という称呼の広報普及に際しては、映画配給会社の宣伝によるものが大きく関与しており、その知的生産活動において全ての活動成果がダンジャックLLC社に帰属しているのかどうかについて証ひょうが提示されていない。
作家イアン・フレミング氏の小説からの映像化権をイーオン・プロダクションが取得し、その後、それらの権利保有がダンジャックLLC社に移動したと類推されるが、その時点で結ばれた契約又は現在有効な契約において、「ジェームズ・ボンド」の映画から発生する全てのスピンオフ作品やネーミングを所有する権利が同社に帰属するのかどうかは不明である。
そもそも「ボンドガール」は、日本で創作された宣伝文案のキャッチフレーズである。
請求人ダンジャックLLC社とイーオン・プロダクションとの関係性が不明ではあるが、同社の傘下にあると思われるイーオン・プロダクション社が、原作者イアン・フレミング氏から映像化権を取得し、多くのジェームズ・ボンド映画が作られたことは事実である。
第1作「007 ドクター・ノー」(1962年)から最近作「007 ノータイム・トゥ・ダイ」(2021年)まで、その期間は60年にもなろうとしている。
そして、「ボンドガール/BOND GIRL」なる呼称は、<a>いつ頃から誰の手によって創作されたものか、<b>本当に世界各国で一般的に認識されているのか、<c>米英において「BOND GIRL」という呼称がボンド映画の宣伝に使われていたのか、ということについて、アメリカの映画や娯楽雑誌のバックナンバーを1960年代に絞って調査したが、その使用は、現時点では見つけられていない(乙1)。
米国を代表する国民的雑誌LIFE誌は、話題の映画・演劇・流行についても積極的に紹介していることから、1960年代の10年間において紹介された「007 ジェームズ・ボンド映画」の紹介記事掲載号を探したところ、以下の5号分が該当した。
1962年8月10日号(表紙=女優ジャネット・リー)
1964年8月28日号(表紙=ザ・ビートルズ)
1964年10月7日号(表紙=作家イアン・フレミング)
1964年11月6日号(表紙=女優シャリー・イートン「ゴールドフィンガー」出演)
1966年9月7日号(表紙=俳優ショーン・コネリー「サンダーボール作戦」主役)
これらの記事を全て検索したが、「BOND GIRL」の称呼を見つけることはできなかった。
請求人が深く関わった映画「007 ジェームズ・ボンド」は、娯楽映画として1960年代から広く世界で公開され人気を獲得していったが、少なくとも1960年代に公開された映画全作品において、「BOND GIRL」という造語は、本篇・予告篇並びに宣伝文案などで米英では使われていないと類推する。
この造語は、映画評論家の故・M氏がユナイト映画宣伝部の時代に映画宣伝用に作ったコトバだと映画ライターとして生前、同氏を取材した折に確認した。
1960年代中頃には宣伝部から雑誌社への提案として「ボンドのガールフレンドたち」といった記事を推奨していたが、それを短くして「ボンドガール」として宣伝パンフレットなどに使ったとM氏から取材した。
もちろん、この時点でユナイト映画宣伝部は「ボンドガール」の商標登録は行っていない。
また、日本ユナイテッド・アーチスツ映画会社(以下「ユナイト映画社」という。)に法人著作権(社員による職務著作)があると仮定した場合、1967年までに公表された職務著作物や無名の著作物は、公表後50年を迎えて著作権の保護期間は終わっている。
もし宣伝キャッチコピーとしての著作権がその後の連続した使用によって存続していたとしても、それを法人著作物として所有したであろうユナイト映画社は、1985年に、その法人格を任意整理により解散している。
これ以前から日本における配給宣伝の業務は同業のユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ日本支社(略称:UIP映画社)に移管されているが、このUIP映画社日本法人も2007年末に解散している。
このような流れの中で、職務著作による法人著作物の所有帰属は、特段の譲渡契約などがない限り、保有者が存在しない状態、すなわちパブリックドメイン化すると解釈される。
ユナイト映画社又はUIP映画社と、今回の請求人ダンジャックLLC社との間で、宣伝業務において配給会社側が現地で創作した著作物は全て権利管理者に著作権が戻る・・・という契約がない限り、これらを自動的にダンジャックLLC社が保有するとは考えられない。
よって、日本において「ボンドガール/BOND GIRL」を著作権として誰かが保有しているとは考えられないし、米国においても著作権登録の方式主義(登録制度)で登録されていることは確認できない。
ウ 「ボンドガール/BOND GIRL」の称呼はどこまで世の中に広まっているのか?
日本では「ボンドガール/BOND GIRL」という単語は、「007 ジェームズ・ボンド」の原作小説や映画のファンの間では知られてきたが、一般の老若男女全ての国民に向けて広く知られてきたかというと必ずしも断定はできない。
あくまでも映画ファンのうちの知る人ぞ知る女スパイの代名詞であった。
まして米国、海外において認識されてきたのは今世紀に入ってからであり、1960年代から2000年までの英米の映画雑誌、一般誌、新聞における使用は認められない。
被請求人は、パブリックドメインとなった過去の著作物の二次創作者としての活動を予定しており、そこから生まれる新しい創作物の翻案タイトルを知財として保護するために、本件商標を取得した。
エ 商標の称呼が有名であるとしても、取得を怠った無名の法人の後発の異議は有効か?
請求人は、商標名「ボンドガール」が有名であるから、それと関連する「007 ジェームズ・ボンド」の映画の製作者であるダンジャックLLC社がそれを保有するべきと主張するが、「ダンジャックLLC」というコーポレートブランドが日本では無名である。
「007 ジェームズ・ボンド」は誰が製作しているかを世に問うた時、それを答えられる一般人は稀少である。ボンド映画のファンや映画業界人は「イーオン・プロダクション」を挙げ、あるいは最近作における配給会社である「ソニー・ピクチャーズ」を答えるだろうが、これらはハリウッド映画に精通する極めて一部の映画業界人しか知らない関係性だと思われる。
ところで、別の業界の例を挙げると、トヨタ自動車はハイブリッドEVカー「プリウス」を発売しており、その商標はトヨタ自動車により、単一区分12類で「プリウス」「プリウスナビパッケージ」「プリウスa」の3称呼、複合区分(6類・14類・16類・18類・25類・28類)で「プリウス」の1呼称が登録されているが(乙2)、その他、「プリウス」又は「プリウス」が含まれる商標は、トヨタ自動車とはおそらく資本などの関係のないと思われる法人又は個人により、24件が登録されている。
トヨタ自動車とプリウスは、日本人の多くが知っている企業名と自動車名だが、2020年2月時点で区分が違う商標は同一の称呼や複合した称呼でこのように他の企業によって自由に登録されている(乙3)。
請求人の主張は、請求人の社名「ダンジャックLLC」がトヨタ自動車のように日本のみならず世界規模で知名度のある企業名ではなく、また「ボンドガール」も、プリウスのように日本のみならず世界規模で知られた自動車名の知名度はないにも関わらず、すでに取得されている「ジェームズ・ボンド」と「ボンドガール」との物語上の付き合いだけを頼りにセットであるから潜在的な商標権の所有権も存在するという主張である。
現在、日本には数多くの映画やアニメーションのキャラクターが存在し、知名度のある映画会社「東宝」は、特撮怪獣映画「ゴジラ」の商標及びそこに登場する「キングギドラ」「モスラ」「ラドン」なども個別に商標を取得し、同様に、知名度のある映画スタジオ「円谷プロダクション」も「ウルトラマン」「バルタン星人」「レッドキング」などの人気の宇宙人、怪獣を個別に登録している。
これらは制作者も作品も知名度があり、そこに登場するキャラクターもまた同様に知名度があり、もし第三者が不当不正に登録をしていた場合には異議申し立ても通用すると思われる。
ところが請求人は、「無名の会社」であり、さらに「知名度の少ない称呼」について商標使用実績もなく、これからの使用予定もない状況下で「正当な所有権」を主張するのは、いささか強弁と感じざるを得ない。
関与している作品名「ジェームズ・ボンド」は、世界中に知られた作品だが、その作品の日本における宣伝キャッチコピーから50年前に生まれた「ボンドガール/BOND GIRL」は、必ずしも請求人が保有する称呼として日本では認識されていない。
オ 被請求人による商標権の利用意図について
本件商標がカバーする第25類(被服その他)について、請求人は、当該称呼をタイトルにした作品の製作実績もなく、請求人の名義で新作としての製作発表もなされていない。
対して被請求人は、本件商標とは別に保有する「ボンドガール スパイゲームス」をタイトルとした「映画」「ゲーム」「出版」などの娯楽コンテンツを準備している。登録時に「スパイゲームス」を加えたのはゲームの独自性の主張であり、また後続の商標申請者に取得の余地を残すためである。これらの制作に臨んで、キャンペーン用のTシャツやポスター、チラシなどが必要であり、区分第16類も使用することが予測される。
本件プロジェクトに参加する各社との守秘義務契約もあり全容を公開することはできないが、それは既にパブリックドメインとなった故人イアン・フレミング氏の小説作品「007 ジェームズ・ボンド」シリーズに想を得た独創性のある作品となる予定である。
請求人は、現時点で「ボンドガール/BOND GIRL」と題する作品を作ったことも作る予定も発表しておらず、また彼らが生前のイアン・フレミング氏から取得され現在も使われている「007 ジェームズ・ボンド」の映画作品に必要な映像化権、すなわち、二次創作のための翻案権については、原著作権がパブリックドメインとなり、イアン・フレミング氏が生存している時のみ一身専属において有効とされる著作者人格権も消滅している。
請求人が保有しているとされる「ジェームズ・ボンド」映画についての排他的独占状態での映画化権は、今後の世界各国における著作権法の運用において必ずしも恒久的に独占権は維持できないと考える。
例えば、映画の著作権は、日本では、公開後70年で消滅するので、1962年公開の映画第1作『007 ドクター・ノオ』は、2032年には著作権保護期間の終期を迎えて2033年からは誰もが自由に映像を使い、それを翻案することも可能となる。
もちろん原作小説『ドクター・ノオ』からの映像化はパブリックドメインとなっているので2021年でも行える。それはあくまでも原作小説からの映像化であって、先行して映画化された「ドクター・ノオ」で施された脚色や翻案部分は映画制作者の創意であるため勝手に使うことができないが、それも2033年からは自由に使うことが可能となる。
(3)本件商標の呼称の元となった原作小説は、2016年時点でパブリックドメインとなった。
小説「007 ジェームズ・ボンド」は、著作権保護期間の終期を迎えて公有知財である。
同作シリーズは、イギリスの作家イアン・フレミングにより1953年発表の第1作「カジノ・ロワイヤル」から1965年発表の最終作「007/黄金の銃をもつ男」までスパイ小説の連作である。
最終作「007/黄金の銃をもつ男」の校了途中、イアン・フレミング氏は急逝されたため、同氏は遺作となった本の刊行を見ることはなかった(生年1908年?没年1965年)。
ところで、日本では著作権法(旧法)で、その保護期間は著作者の死後50年と定められていた(著作権法:第57条1項は2018年より、死後70年の保護を受けると改正された。)。
没年1965年のイアン・フレミング氏の著作物は旧法下において50年後の2015年まで保護されたが、翌年2016年より著作権保護期間の終期を迎えてパブリックドメインとなった。
原著作物(クラシックタイトル)から生まれる翻訳権、翻案権、複製権、出版権などの権利は全て日本国内においては誰もが自由に二次著作物(モダンタイトル)として創案を加えて発表や商用化が行えるものとなったと考えられる。
原著作物の改変や翻案においては、著作権法第59条で定めた著作者人格権の権利行使も考えられるが、この権利は一身専属、すなわち、原著作者ひとりが生存している場合のみの権利と規定されているので、フレミング氏の逝去と共に効力を失効したものと考えられる(乙4)。
請求人は、イアン・フレミング氏が原作者であることは申述しているが、その著作権が日本においては保護期間終期を迎えたことは一切、述べていない。
請求人は、自身が正統な映像化権、商品化権の保有者だと主張しているが、元となった原作著作物の権利が消滅したことについて認識していなかったのか、意図的に説明していないのかは不明である。
いずれにしても日本において原作小説からの映像化は誰もが自由に行える状態である。
そこで被請求人は、新しい時代の「ジェームズ・ボンド」を、小説、映画、マンガ、ゲームなどで二次創作するプロジェクトを起案し、2015年から現在まで開発を進めている。
そのために本件商標権の取得を行ったものである。
ただし、英米でのイアン・フレミング氏の作品保護期間は、死後70年であり今も存続中であり、英米では1965年に70年を加算して2035年までイアン・フレミング氏の権利は保護される。
請求人ダンジャックLLC社は、生前のイアン・フレミング氏との映像化権許諾(翻案権取得)を確保して世界的に有名なスパイ映画「ボンド」シリーズを作っていることは当然、被請求人も認知するが、それらは全て英米でのことで、前述のように日本では法的に効果をもち得ない。
ダンジャックLLC社が製作する「ジェームズ・ボンド映画」とは異なる別のコンテンツとして、原作小説からのスピンオフ小説やマンガ、ゲーム、映画を日本と中国で合作することも法的に何ら問題はないと確信する。実際、パブリックドメインとなった文芸作品を原作として複数の映像化作品が作られた例は、「ピーターパン」「宝島」など枚挙にいとまがない。
「ボンドガール/BOND GIRL」の場合、この称呼が小説中又は映画劇中には一切登場しないこと、宣伝文案として日本で作られた配役の代名詞肩書きであること、キャラクターの類型、いわゆるタイプには著作権は発生しないことなどの理由により、翻案二次創作で発生する著作権は存在しないと解釈できる。
(4)本件商標と別の区分で登録された商標への異議申立て2件(異議平11-091680、異議2015-900114)は過去、却下されている。
今回の請求人ダンジャックLLC社の主張は、上記2例の異議決定を大きく覆すだけの新しい解釈や理論が見当たらず、その請求行為そのものになんら納得できる理由は感じられない(乙6)。
(5)請求人は米国で保有していた商標「BOND GIRL」全ての延長を放棄した。
請求人とは無関係と思われる第三者がいくつもの類似称呼を登録している。
そもそもダンジャックLLC社が米国での商標「BOND GIRL」を破棄している事実が確認された。請求人は、本件審判において、自らを映画「007 ジェームズ・ボンド」を製作し、また、そこから発生した「ボンドガール/BOND GIRL」についても米国内及び全世界において映像のみならず各種の商品化を行える唯一の存在であると主張し、さらに、長年にわたって世界中の多くの国・地域において商標権を取得しその知財保護に努めてきたとも主張している。
請求人は、ネイル製品、化粧品を始め、人形、カード、カレンダー等を取り扱うメーカーに、引用標章に係わるライセンスを許諾していたことからすれば、「BOND GIRL」の語が一定の顧客吸引力を獲得しており、高い商業価値を有していたことは明らかである。そして、請求人は、我が国を含む世界各国において引用標章に係わる商標を登録し、メーカーに対してはライセンス契約によりその使用を許諾するなど、その商業的な価値の維持管理にも努めてきた、と述べている。
しかしながら、実態として、請求人は米国本国において「BOND GIRL」の商標登録の更新を停止して、その保有を廃棄しているという事実については述べていない。
請求人から提出された証拠(甲70)のリスト一葉を見ると、世界各国における商標登録の状況が並ぶが、注意深く眺めると「アメリカ合衆国」における登録実績はリストから除外されている。
被請求人は、甲70のリストに、なぜ「アメリカ合衆国」が入っていないのか疑問に思い、調べたところ、請求人自らが登録の継続を停止している事実を知った。
さらに、請求人がかつて取得していた本件称呼に係わる商標権は米国における化粧品と香水のみであり、請求人が主張するような「人形」「カード」「カレンダー」類での米国での商標を取得していた痕跡も商標権の使用許諾を基底とした正規ライセンスによる商品も見つけられなかった。
また、日本においても、本件商標を含む複数の商標権の取得を行わずに長年放置しておきながら、第三者が原作著作権のパブリックドメイン化を論拠として立ち上げたコンテンツ事業のために、申請取得した商標登録に対して後からキャンセルクレームを行うことは、請求人が主張する「我が国を含む世界各国において引用標章に係わる商標を登録してきた」という主張とは合理せず、明らかに矛盾している。
日本における商標権の判断と米国でのそれとは司法が独立しており、必ずしも連動、同調するものではないが、請求人が「国際的キャラクター」と称して日本での商標権所有の正当性を唱える以上、米国でのそれはどのようになっているのかを以下のように調査した。
米国特許商標庁(USPTO)のデータベースTESSを検索してみたところ、確かに過去には請求人ダンジャックLLC社が商標を取得していた事実を確認した。
現在有効な商標で「BOND GIRL」を有効(LIVE)として検索したが、そこに請求人ダンジャックLLC社を商標権の保有者として見つけることができず、おおよそダンジャックLLC社とは無関係に見える所有者による類似称呼又は組み合わせ称呼としての「BOND GIRL」の商標であった(乙7)。
次に念のため、現在無効となっている商標に記録があるかどうかを確認するため、「BOND GIRL」を無効「DEAD」として検索したところ、請求人ダンジャックLLC社がオーナーであったという過去の有効登録についての記録を見つけたが(乙9)、ダンジャックLLC社は、取得していた2件の商標の更新を行わず、その登録がアバンダン(破棄・抹消)されている。
2021年2月現在、ダンジャックLLC社は米国において「BOND GIRL」の商標を所有してしない(乙8)。
ダンジャックLLC社は、日本における商標では第3類の香料、化粧品、石けん類を取得しており、米国での取得はこれと合致する。
また米国特許商標庁のデータベースには、ダンジャックLLC社とは別の企業、個人による様々な分野での類似称呼、組み合わせによる商標権取得の事実が確認できる。
これもまた請求人が主張する「知財としての『商標権』の維持管理に努めてきた」という説明とは大きな乖離がある。
請求人の主張である「世界において当該称呼の商標権について正統なる権利を有する」と主張している請求人本人が、自ら米国内において有効な商標2件の期間延長を行わず廃棄しているという「主張」と反する「事実」には困惑せざるを得ない。
そもそも「ボンドガール/BOND GIRL」の代名詞肩書きは、小説でも映画でも台詞として発せられたことは一度もなく、映画宣伝のために作られたキャッチフレーズだと認識するが、もしそれがコンテンツに帰属するとすれば、帰属先は原著作権となった小説から映像化権(翻案権)を取得して作られた映画ではなく、その原点となった原著作権としてのイアン・フレミング氏による小説であると判断する。
改めて「ボンドガール/BOND GIRL」についてのインターネット事典ウィキペディアにまとめられた解説記事を提出する。日本語版のウィキペディアでは説明が浅かったため英語版の同項目を抽出し、それをグーグル翻訳によって日本語に粗訳している。
その記述をみても「小説におけるボンドガールの存在」から解説が始まっており、この称呼がファンにとっては小説を原点として認識され、映画だけが占有を主張できる対象ではないことが分かる(乙10)。
ア ジェームズ・ボンド ライフスタイル(総合情報サイト)
実際の商品化についての現状を知るため「007 ジェームズ・ボンド」映画に登場した衣裳、自動車、インテリア、飲食物など全てを網羅し、ファンが同じものを購買できるように販売サイトヘとリンクをガイドするポータルサイト「ジェームズ・ボンド ライフスタイル」を参照した。
同サイトは非公式のファンサイトだが、英米を中心にボンド商品のカタログにしても信頼できる充実した内容で権利元各社も準公認の扱いで画像の使用などを承認している。まずトップ画面を提示し(乙11)、次に映画に登場する「ボンドガール/BOND GIRL」に関係する専用ページを提示する。
サイトの左端のタブ「ボンドガールズ」から、女優たちが劇中で使った衣裳、アクセサリー、バッグ、武器などを紹介した特設サイトが表示される。
ただし表示のタイトルには「ボンドガールズ/BOND GIRLS」と複数形で綴られている。
このカテゴリーの中に女性向けの香水(フレグランス)を見つけることができた。世界的な化粧品ブランドであるP&G社が「007」のロゴを利用したライセンシー商品として香水を発売していた。
だが、ここでは「ボンドガール/BOND GIRL」のロゴは使われておらず、「007 Fragrance for Women」というキャッチコピーの下、商品名は「007 For Women Eau de Parfum 75ml」である(乙12)。
さらに調べると、エイボン化粧品へのライセンシー商品としての香水が紹介されていた。
これは請求人が主張する商品化例と合致する(乙13)。
この商品のリリースは2008年であり、サイトの説明によれば、現在、エイボン化粧品では取り扱いしていない。
世界的に知られている香水と化粧品のデータベースポータルサイトである「フラグランティカ」には、「Bond Girl 007 AVON for women」という商品紹介キャッチコピーでエイボン化粧品から2008年に発売された香水が紹介されていた。
イ 上記商品は、請求人のライセンスによる唯一の商標権が利用された商品であるため、米国及び日本でのリリースについて詳細を記す(乙14)。
エイボン化粧品は世界的な香水、化粧品の総合企業であるが日本では以下の概要で活動している。
(ア)日本国内
「エフエムジー&ミッション株式会社」(FMG&MISSIONCO.,LTD.)
長らく日本国内でエイボンプロダクツとして活動していたが、2018年に企業買収により親会社が変わったことで社名変更。「ボンドガール/BOND GIRL」香水の取り扱いは2020年現在、行っていない(乙15、乙16)
(イ)米国内
「BOND GIRL 007」の商標を冠した香水を含め、あらゆる商品において同商標を使った商品、ノベリティは2021年時点では取り扱いがない。過去の商品としてのアーカイブすら登録されていない。映画の公開と合わせたコラボレーション、タイアップキャンペーン的商品だったと類推される。
(ウ)販売サイト Amazon
エイボン社の香水商品は、かつてアマゾンジャパンのサイトでも売られていた痕跡があったが、現在は在庫切れ(絶版)により商品販売はされていない(乙17)。
(エ)上記の商品が現在は絶版となっていることを認知したことで、エイボン社とのコラボレーションが終わり、商品の販売が不調に終わったため商標を維持する必要性がないと判断され、請求人ダンジャックLLC社が米国において商標登録の継続を行わず破棄したものと類推できる。
そうであれば、この事実は本件審判請求において請求人が主張する「(ダンジャックLLC社は)、我が国を含む世界各国において引用標章に係わる商標を登録し、メーカーに対してはライセンス契約によりその使用を許諾するなど、その商業的な価値の維持管理にも努めてきた」という説明とは大きな乖離があると指摘せざるをえない。
おそらくは前掲した各国での請求人が保有する商標権リスト(甲73)(審決注:「甲70」の誤りと認める。)は、その実際を調べればどの国でも「香水」類だけの商標権の取得だと推する。
請求人は、エイボン化粧品と結んだ世界的な香水ブランドの展開のためにのみ、各国で商標権取得を行ったものであり、他の分野については取得も展開予定もライセンス計画も持ち得ていないのではないかと判断する。これが前述した請求人による主張である世界各国でさまざまな商品群において商標権ビジネスを展開している、というブランドマネジメント企業のイメージとは大きく乖離している。
ウ そもそも請求人ダンジャックLLC社は商品化権の窓口業務を日本で行っているのか?
先に挙げた非公式サイト「ジェームズ・ボンドライフスタイル」のサイト協力クレジットを引いて最近の映画3作について関係先会社を述べる。
2021年公開の「ノータイム・トゥ・ダイ」は、MGM映画社、ダンジャックLLC社、イーオン・プロダクション社、ユニバーサル映画社、ユナイテッド・アーチスツ社の5社がクレジットに並ぶ。
2015年公開の「スペクター」は、MGM映画社、ダンジャックLLC社、イーオン・プロダクションズ社、コロンビア映画社がクレジットに並ぶ。
2012年公開の「スカイフォール」は、ダンジャックLLC社、ユナイテッド・アーチスツ社、コロンビア映画社が並ぶ。さらに「007 JAMES BOND」関連の商標はダンジャックLLC社とイーオン・プロダクション社とがライセンスを行う(乙18)。
さてダンジャックLLC社がイーオン・プロダクションズ社と共に座組の中心にいることは十分に理解しているが、その商品化権窓口が常にダンジャックLLC社であることは証明できない。この2社は日本国内で商業活動の代理人又は代理店を設けず、ライセンス許諾の実態は認められない。
過去のライセンス活動は映画会社の商品化権窓口部門が担当したり、専門のエージェントであったりしていると思われる。確かに請求人は「007」「ジェームズ・ボンド」を使った商業活動においては長年の実績は認められるが、こと「ボンドガール/BOND GIRL」については全く何も行ってきていないし、それらは上掲に並ぶ他の映画会社の活動であるといえる。
となるとダンジャックLLC社が全ての事業パートナーから一任されて「ボンドガール/BOND GIRL」のライセンス事業の展開を行う旨を表明しなければ、その商標の取得において排他的独占権をパートナーから任されたことへの説明にはなり得ない。
先のエイボン化粧品とのタイアップで米国において発売された「BOND GIRL」を商標に使った、おそらく請求人の唯一の「商標権を利用した商品化の例である香水」は、請求人が日本で登録保有する「ボンドガール」の商標:第5147963号(商品区分第3類)とも分野が合致して理解できる(乙19)。
(6)請求人は米国において「BOND GIRL」と題された出版物の刊行を看過している。
BONDは英語の意味が「債権」であり、「証券の女」という小説が大手版元から刊行中である。
米国Amazonで「BOND GIRL」を引くといくつかの写真集の刊行が確認された。
これらは映画に出演した女優の肖像写真や宣材スチールをまとめた写真集だと思われるが、決してベストセラーヒットとしてランキングされている訳ではなく、刊行の痕跡が認められる程度である。その程度のAmazonでの露出をもって世界的に知られた代名詞と主張するのであれば、Amazonに登録された数百万点もの商品全ては世界的に知られたと喧伝してよいことになる。
もちろん請求人は書名タイトルの商標権を保有していないため、これらの刊行は無許諾又は写真画像の使用許諾契約において刊行されたものと思われる。
となると請求人が主張するところの「全世界で広く商標権を行使してライセンスしている」という表現とは合致しない。
そもそも請求人は、米国特許商標庁USPTOに「出版」区分での商標申請を行った形跡がなく、今回、日本での本件商標の異議申立てのために、米国を始め全世界で商標権を取得して広汎にライセンスビジネスを行っていると虚偽の説明を行ったものと思われる(乙20)。
さらに米国アマゾンを調べたところ、2012年に「BOND GIRL」と題した小説がアメリカで刊行されていた事実があった。
この本を取り寄せたところ、出版社はウィリアム・モローとあったが、同社は世界規模で各国において出版事業を展開する巨大出版グループ「ハーパーコリンズ」の一部門であった。
女性作家エリン・ダッフィー氏によるストーリーは、アマゾンその他のレビューによると証券会社で働く女性主人公のサクセスストーリーとあり、「ジェームズ・ボンド」とは何ら関わりのない証券業界版の「プラダを着た悪魔」であることが分かった。スパイアクションの物語とは真反対の現代劇と認識できる。
その表紙・裏表紙そして巻頭発行クレジット(日本における奥付に該当)を見ても、ダンジャックLLCのライセンス表記はない。
請求人の主張では、「BOND GIRL」は世界的に知られた女スパイの代名詞だとされるが、世界的に知られた巨大出版社ハーパーコリンズグループから発行された同書において、タイトル名の剽窃、無断使用が行われたとは到底考えられない。
そもそも「ボンドガール/BOND GIRL」という称呼はすべからく「007 ジェームズ・ボンド」に直結するイメージではないと考えられる。
請求人の主張する世界における称呼への認識、すなわちダンジャックLLC社が利用する権利をもつ独自のネーミングという主張は通用しないものと思われる。
もちろん、請求人は米国における出版類の商標を保有していない(乙21)。
以上の理由をもって、被請求人は現在、保有している商標権の維持を主張する。
(7)請求人の無効審判請求への反論
ア 理由の要点(1)について
(ア)「BOND GIRL」又は「ボンドガール」は、請求人が使用・管理する名称・標章として世界で著名である、との主張については、請求人は、名称・標章を管理もしていないし商標権も保有していないから、否定する。
(イ)何らの関係を有しないものが、当該商標を独占的に使用できるようになり、との主張については、パブリックドメイン化した小説コンテンツからの二次化は自由であるから、否定する。
当該商標には「SPY GAMES」が付加され、その固有タイトルでの使用である。
(ウ)かかる商標を登録することは国際信義に反し公序良俗を害するおそれがある、との主張については、米国において請求人自らが登録した商標権の継続を破棄しその行使を停止したことから否定する。
母国で廃した商標権登録をして「標章を管理」といいかえることは国際信義に劣る。
イ 理由の要点(2)について
無関係の商標が行使されれば請求人と経済的組織的になんらかの関係があるものの業務に関わる商品と誤認し商品の出所について混同する蓋然性が極めて高いについては、否定する。
請求人の社名は日本においてほとんど無名であり、関係性の誤認はありえない。
さらに混同を招くような商品を請求人は一切発表、発売しておらず、被許諾者に対してライセンスもしていないため混同はあり得ない。その実行においては、当該商品の成立過程が「パブリックドメイン」作品からの二次創作として「ジャパンオリジナル」であることを宣伝するため、双方の顧客は英米のそれと混同することは排除できる。
ウ 理由の要点(3)について
「本件商標は、請求人が使用・管理する著名な名称・標章である「BOND GIRL」あるいは「ボンドガール」と近似又は類似する商標である、との主張については、否定する。
請求人は著名な名称・標章を使用・管理していない。確認できる例はただの一例、すなわち香水類だけであり、それも十年近く前にライセンスしたが現在は米国、日本共に発売されていない。また、請求人は米国における商標登録も廃して使用していない。
さらに、請求人は書籍類については日米共に商標権の取得を行っておらず、商標権許諾なく自由に刊行されている現状がある。
エ 以下のとおり、請求人代理人が例を挙げた多数の訴因と証拠はすべて、否定する。
請求人は甲号証として多数の「ボンドガール/BOND GIRL」の称呼が使われた誌面記事を並べているが、それらは出版社編集部によって恣意的に著述された出現例にすぎない。
有名ブランドが自社のブランド商品を広めるために、雑誌広告、放送広告、看板サイン広告などの有償媒体に自らの費用を投下して行うマーケティングを、請求人が行った訳ではない。
香水類などの広告が存在したとしても、それはライセンシー(被許諾製造者)の費用で賄われており、請求人が自らの負担や広報活動の努力をしたものではない。
本件代理人は、小説「007 ジェームズ・ボンド」の著者であり、映画「007 ジェームズ・ボンド」の映画化における原著作者であるイアン・フレミング氏が1964年に死去し、その著作権、著作隣接権が死後50年を経て2014年には保護期間の終期を迎えて、翌2016年から誰もが使える公有知財、すなわちパブリックドメインとなったことを認知していないか、または意図的に隠して請求人が恒久的な権利を有するように印象を操作している。
当該行為は後に続くものが公有知財となったコンテンツから二次著作物としての再創作を行って文化芸術を進化させたり、あるいは特許権保護期間を終えたことでジェネリック化した薬剤や工業製品の構造・製法を利用して公共へ利益還元を行える、という行為を阻害するものである。著作権や特許に有限期間を設けている著作権法、特許法の真なる目的を曲げた行為と感じる。
また請求人及び請求人代理人は、自らの怠慢とミスにより、自らの貴重な知財になり得る商標権をないがしろにして取得を怠ったり、既に米国において放棄された商標権をあたかも保持しているように虚偽の説明を繰り返している。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
1 請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
(1)請求人について
請求人は、米国のメトロ・ゴールドウィン・メイヤー社(MGM)とともに007シリーズの著作権を共同所有しており、この映画に関する世界的な商品化権を管理している企業であるとしている。
また、請求人は、「BOND GIRL」を含む商標「BOND GIRL 007」を日本を含む39か国で、「BOND GIRL」と女性のシルエットの図形との結合商標を欧州で、「BOND GIRL」及び「ボンドガール」を二段に併記した商標を日本で、それぞれ登録を受けているとしている(甲70)。
(2)引用標章について
ア 映画「007シリーズ」
スパイ小説家のイアン・フレミングによる長編「カジノ・ロワイヤル」の中で生み出されたイギリス秘密情報部員ジェームズ・ボンドを主人公とした小説はシリーズ化され多数の作品が出版されている。また、当該小説シリーズが1962年に映画化されたのを契機として、ジェームズ・ボンドを主人公とした映画がこの58年の間に24作品が制作されている。これらの映画シリーズは世界中で公開され人気を博し、それら全ての作品が極めて高い興行成績を残している(甲3?甲5)。
さらに、007シリーズ第25作目である最新作「007/No Time To Die(007/ノー・タイム・トゥ・ダイ)」が公開予定であることから、今後007シリーズ、ジェームズ・ボンド、ボンドガールに対する関心はますます高まるものと考えられる(甲6)。
イ BOND GIRL(ボンドガール)
「BOND GIRL(ボンドガール)」は、007シリーズに登場するボンドの相手役となる女性キャラクター、あるいはその女性キャラクターを演じる女優たちを呼称するために創作された造語であり、女性キャラクターたちはボンドの敵となり得るし、また、ボンドと行動を共にすることもある。
ウ 「BOND GIRL(ボンドガール)」に関する記事(平成15年以降)
ボンドガールについては、「フラウ 平成15年1月14日号」、「SCREEN 2003年(平成15年)4月号」、「キネマ旬報 2006年(平成18年)12月上旬特別号」、「日経エンタテインメント 2006年(平成18年)12月号」、「2006年(平成18年)12月1日に発行された映画パンフレット」、「SCREEN 2009年(平成21年)1月号」、「キネマ旬報 2009年(平成21年)1月下旬号」、「SCREEN 2009年(平成21年)3月号」の付録である「007/慰めの報酬&ジェームズ・ボンド大百科」、「ぴあ 2009年(平成21年)2月5日号」、「Pen 2009年(平成21年)1月1日・15日新年合併号」、「週刊文春 2012年(平成24年)11月1日号」、「SCREEN 2012年(平成24年)11月号」、「NewsWeek(ニューズウィーク日本版)2012年(平成24年)11月14日号」、「週刊エコノミスト 2012年(平成24年)11月27日号」、「SCREEN 2013年(平成25年)1月号」、2013年(平成25年)1月10日に発行された「MAGAZINE HOUSE MOOK/007 COMPLETE GUIDE」、「GQ JAPAN 2012年(平成24年)12月号」、「MEN’S CLUB 2013年(平成25年)2月号」、「キネマ旬報 2015年(平成27年)12月上旬号」、「Pen 2015年(平成27年)12月15日号」、「キネマ旬報 2015年(平成27年)12月下旬号」、「GQ JAPAN 2015年(平成27年)12月号」、「SCREEN 2016年(平成28年)1月号」等の専門誌や雑誌に、ボンドガールを演じた女優のインタビューや写真とともに、ボンドガール及びその変遷や存在感などについての紹介記事が掲載されている(甲8?甲30)。
エ 「BOND GIRL(ボンドガール)」に関するイベント
2008年(平成20年)10月29日に“聖地”オデオン・レスター・スクエアで「慰めの報酬」のロイヤルプレミアが開催、2008年(平成20年)11月23日に東京・オメガブティック青山で「オメガ シーマスタープラネットオーシャン007限定モデル」発売イベントが開催、「007 慰めの報酬」公開イベントとして、2009年(平成21年)1月12日から2月15日まで、「TRIAL TO 007」が開催、2012年(平成24年)10月23日に「007 スカイフォール」のロイヤルプレミア(ロンドン)、10月25日にパリプレミア、10月26日にローマプレミアが開催、2012年(平成24年)11月19日から12月7日まで、有楽町の阪急メンズ東京で、「ウインターダンディズム?007WEEK?」が開催、2015年(平成27年)11月16日に六本木ヒルズで「TOKYO BOND GIRL COLLECTION」が開催され、各イベントには、ボンドガールを演じた女優らが登場するなどした(甲17、甲31?甲41)。
オ 映画「007シリーズ」の二次利用
「007シリーズ」は、映画館で上映後、DVDの制作や、テレビ放送(2010年(平成22年)3月からWOWOWで全22作品を一挙放送、2015年(平成27年)1月から2016年(同28年)6月まで、BSジャパンの金曜名画座で22作品を放送、BS-TBS、映画専門チャンネルで24作品及び番外品2作品を放送、テレビ東京が20作品を放送)などの、作品の二次利用が行われている(甲43?甲48)。
カ 「ボンドガール(BOND GIRL)」に関するライセンス許諾
請求人は、ネイル製品トップメーカーであるO・P・I(アメリカ合衆国カリフォルニア州)、エイボン化粧品(AVON)(アメリカ合衆国ニューヨーク州)、バービー人形で有名なマテル(Mattel)(アメリカ合衆国カリフォルニア州)、カードメーカーのカルタムンディ(Cartamundi)(ベルギー)、トレーディングカードのメーカーであるリッテンハウス(Rittenhouse)(アメリカ合衆国ペンシルバニア州)、写真集などアート系の本を出版するテヌース(Te Neues)(ドイツ)及びRevlon(レブロン)等に、ボンドガールに係るライセンスを許諾しており、各メーカーは、ボンドガールをイメージした商品の販売、ボンドガールの肖像や「BOND GIRL」の文字の使用、イメージキャラクターとしてのボンドガールを演じた女優の起用等、許諾されたライセンスを活用していることがうかがわれる(甲8、甲49?甲63)。
キ 「ボンドガール(BOND GIRL)」に関するプロダクト・プレイスメント
映画「007シリーズ」は、54年間に24作品が公開され、その間新作が公開されるたびに様々な企業とのタイアップキャンペーンが長期間にわたり実施され、幅広い範囲の商品化が行われてきた。
ボンドガールに対してもタイアップは行われており、例えば、「007/スカイフォール」でボンドガールを演じたベレニス・マーロウは劇中でオメガの「デビルプレステージ」を着用した(甲39)。
また、「007/慰めの報酬」でボンドガールを演じたオルガ・キュリレンコは、来日イベントで、オメガと007シリーズの6本目のコラボ作品を記念して誕生した限定モデルの発表を行った(甲31)。
ジュエリーメーカーのスワロフスキーも、007シリーズとタイアップを行っており、ボンドガールを演ずる女優にスワロフスキーのジュエリーを提供してきた。同社は、スカイフォール公開時、007シリーズ50周年を記念したコレクションを、世界1,000店のショップで販売した(甲65、甲66)。
「O.P.I.」、「エイボン」、「レブロン」も007シリーズとタイアップし、限定商品を販売した。
(3)引用標章の著名性について
上記認定事実からすれば、映画「007シリーズ」は、1962年以降、24作品が制作され、我が国を含め世界各国において公開(審決注:25作品目が2021年に公開予定。日本での公開日は未定。)され、いずれも高い興行成績を残していることから、世界中に広く知られた映画作品であるということができる。
そして、作品中の主人公ジェームズ・ボンドの相手役となる女性キャラクターは、「ボンドガール(BOND GIRL)」として、各種雑誌に紹介され、各作品の公開時期に合わせた宣伝を兼ねたイベントにおいても注目されていることが認められる。
また、請求人は、ネイル製品、化粧品を始め、人形、カード、カレンダー等を取り扱うメーカーに、引用標章に係るライセンスを許諾しており、各メーカーは、「ボンドガール(BOND GIRL)」の顧客吸引力を商品の販売促進に活用していることがうかがわれる。
そうすると、引用標章は、映画「007シリーズ」に登場する女性キャラクターの名称として、世界的な知名度を有するに至っているものであり、「007シリーズ」は、永年にわたり、途切れることなく制作されていること、007シリーズ第25作目である最新作映画の公開が予定されていることからすれば、その知名度は、現在も継続しているといえる。
2 商標法第4条第1項第7号の該当性
上記1のとおり、引用標章は、映画「007シリーズ」に登場する女性キャラクターの名称として、広く認識されていたことを認めることができる。
また、前記認定のとおり、請求人は、ネイル製品、化粧品を始め、人形、カード、カレンダー等を取り扱うメーカーに、引用標章に係るライセンスを許諾していたことからすれば、「BOND GIRL(ボンドガール)」の語が一定の顧客吸引力を有していたことも認めることができる。
さらに、「BOND GIRL(ボンドガール)」は、1962年公開の作品「007 ドクター・ノオ(原題:Dr.No)」以降、一貫して「007シリーズ」に登場する女性キャラクターとして描写されており、「BOND GIRL(ボンドガール)」の語からは、他の観念を想起するものとは認められない。
そして、請求人は、米国のメトロ・ゴールドウィン・メイヤー社(MGM)とともに映画作品007シリーズの著作権を共同所有しており、この映画に関する世界的な商品化権を管理し、我が国を含む世界各国において引用標章に係る商標を登録したり、メーカーに対してはライセンス契約によりその使用を許諾するなど、その商業的な価値の維持管理にも努めてきたものとみることができる。
このような状況の中で、被請求人は、新しい時代の「ジェームズ・ボンド」を、小説、映画、漫画、ゲームなどで二次創作するプロジェクトを起案し、開発を進めている旨主張していることからすれば、本件商標の採択にあたり、引用標章の周知性や顧客吸引力に便乗して、不正の利益を得ようとする目的をもって、本件商標を登録出願したことは明らかといわざるを得ないから、請求人と関わりのない第三者である被請求人が、最先の商標出願を行った結果、特定の指定商品との関係で当該商標を独占的に使用できるようになり、請求人による使用を排除できる結果となることは、商標登録の更新が容易に認められており、その権利を半永久的に継続することも可能であることなども考慮すると、公正な取引秩序の維持の観点からみても相当とはいい難い。
また、被請求人は、引用標章の世界的な知名度、顧客吸引力及び商業的価値の維持に何ら関わってきたものではないから、本件商標の指定商品との関係においてではあっても「BOND GIRL(ボンドガール)」の語の使用の独占を認めることは相当ではなく、本件商標の登録は、公正な取引秩序を乱し、公序良俗を害するものというのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 被請求人の主張について
(1)被請求人は、本件商標は、商標法の違反なく同人が申請し、登録されたものであり、他者の商標及び知的財産権を侵害するものではない旨主張する。
しかしながら、商標法第46条第1項は、商標登録が、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法第4条第1項第7号)に該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる旨を規定しているのであるから、本件商標が登録されたことをもって、上記規定の該当性を否定することはできない。
(2)被請求人は、請求人が007シリーズの公表当時から「BOND GIRL(ボンドガール)」を使用していることを裏付ける証拠が提出されていない主張する。
しかしながら、請求人が007シリーズを制作したことは、被請求人も認めているところ(審判事件答弁書10ページ)、当該映画は、1962年以降24作品が制作されており、遅くとも平成15年には、1960年代から当該映画の女性キャラクターを指称する語として「BOND GIRL(ボンドガール)」の語が、我が国において、雑誌における紹介記事のみならず、映画の宣伝用のイベントにおいても使用されているところ、「BOND GIRL(ボンドガール)」は、請求人に係る映画のキャラクターの名称として、広く認識されているものであり、また、映画の宣伝用イベントは、007シリーズの映画に関連して開催されたものであって、請求人の了承に基づき行われていたものとみるのが相当であるから、当該使用は、請求人が同人の映画の宣伝広告において、「BOND GIRL(ボンドガール)」の文字を使用していたといい得るものである。
(3)請求人は、本件商標とは別の区分で登録された商標への異議申立2件は、その申立てが認められず、登録が維持された旨及び今回の請求人の主張は、当該異議決定の判断を覆すだけの新しい解釈や理論が見当たらない旨主張する。
しかしながら、審判事件は、各事件ごとに、申立人(請求人)の主張及び提出された証拠に基づき判断すべきものであり、また、上記異議事件と本件審判に係る主張及び証拠は同一とはいえないものであるから、当該異議事件の存在により、本件の判断が左右されるべきものではない。
(4)被請求人は、請求人は米国で保有していた商標「BOND GIRL」すべての登録を放棄しており、米国では商標を保有していない旨及び米国において「BOND GIRL」と題された出版物の刊行を看過している旨主張する。
しかしながら、他国における商標の登録状況及び第三者による出版物が刊行されたことによって、上記判断が左右されるものではない。
(5)小括
したがって、被請求人の上記主張は、いずれも認めることができない。
4 商標法第4条第1項第19号の該当性
本件商標は、007シリーズの女性キャラクターとして著名な引用標章と同一又は類似するものであるとしても、引用標章は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして使用する商標ではなく、請求人が本件商標の指定商品を自己の業務として提供している事情もない。
してみれば、本件商標は、他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標ということはできないから、本号が適用される要件を欠くものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しないものの、同項第7号に該当するものであり、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録は無効とするべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)




審理終結日 2021-08-03 
結審通知日 2021-08-06 
審決日 2021-09-03 
出願番号 商願2014-86390(T2014-86390) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (W1625)
T 1 11・ 22- Z (W1625)
最終処分 成立  
前審関与審査官 浦崎 直之 
特許庁審判長 冨澤 美加
特許庁審判官 中束 としえ
杉本 克治
登録日 2015-02-20 
登録番号 商標登録第5742050号(T5742050) 
商標の称呼 ボンドガール、ガール、ボンド 
代理人 山崎 行造 
代理人 熊谷 美和子 
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