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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W03
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W03
審判 全部無効 外観類似 無効としない W03
審判 全部無効 観念類似 無効としない W03
管理番号 1379924 
審判番号 無効2019-890086 
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-12-26 
確定日 2021-10-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第6088573号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6088573号商標(以下「本件商標」という。)は,「ヒルドプレミアム」の文字を標準文字で表してなり,平成30年1月29日に登録出願,第3類「化粧品」を指定商品として,同年9月27日に登録査定,同年10月12日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が,本件商標の登録の無効の理由において,引用する登録商標は,以下のとおりであり,いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第459931号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:「Hirudoid」
登録出願日:昭和29年5月12日
設定登録日:昭和30年2月10日
書換登録日:平成17年10月19日
指定商品:第5類「薬剤(蚊取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。),キナ塩,モルヒネ,チンキ剤,シロップ剤,煎剤,水剤,浸剤,丸薬,膏薬,散薬,錠薬,煉薬,生薬,薬油,石灰,硫黄(薬剤),鉱水,打粉,もぐさ,黒焼き,防腐剤,防臭剤(身体用のものを除く。),駆虫剤,ばんそうこう,包帯,綿紗,綿撤糸,脱脂綿,医療用海綿,オブラート」
2 登録第1647949号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:「ヒルドイド」
登録出願日:昭和56年1月30日
設定登録日:昭和59年1月26日
書換登録日:平成16年11月4日
指定商品:第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド」並びに第1類及び第10類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
3 登録第6017880号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:「ヒルドイド」(標準文字)
登録出願日:平成29年5月26日
設定登録日:平成30年2月9日
指定商品:第3類「化粧品,せっけん類」
4 登録第6017881号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:「HIRUDOID」(標準文字)
登録出願日:平成29年5月26日
設定登録日:平成30年2月9日
指定商品:第3類「化粧品,せっけん類」
以下,これらをまとめていうときは「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第33号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標は,「ヒルド」と「プレミアム」の片仮名を結合してなる標準文字商標であって,「ヒルド」の文字は,辞書に載録がなく特定の意味合いを有する語として知られているものではないが,「プレミアム」の文字は,「高級な。上等な。」といった意味を有する語である(甲6)。
本件商標の指定商品である「化粧品」を取り扱う業界においては,「プレミアム」の語は,既存品よりも高級感があり上等であることや,既存品に特別な成分を付加する等によって優れた商品であること,すなわち,化粧品の品質や内容を表示するものとして使用されているという実情がある(甲7)。
以上より,「プレミアム」の文字は,本件商標の指定商品との関係においては,自他商品識別力が弱いか,自他商品識別力を発揮しない部分であるといえる。
そして,本件商標を構成する「ヒルド」と「プレミアム」の文字を結合しても特定の観念が生じないため,観念上のつながりがないといえる。また,「プレミアム」の文字部分は,上記のとおり,識別力を有しないのに対し,特定の観念の生じない造語と理解される「ヒルド」は,指定商品について識別力が強いといえる。
したがって,本件商標は,「ヒルドプレミアム」の全体のみならず,識別力を有しない「プレミアム」を除く「ヒルド」の文字部分のみが,独立して出所識別標識となる場合があるといえる。そのため,本件商標からは,その構成文字全体に相応した「ヒルドプレミアム」の一連の称呼の他に「ヒルド」の称呼も生じ,いずれもが特定の観念を生じない造語と認められるものである。
イ 引用商標は,前記第2のとおり,「Hirudoid」,「HIRUDOID」の欧文字又は「ヒルドイド」の片仮名を横一連に表してなり,辞書に載録がなく,特定の意味合いを有する語として知られているものでないから,特定の観念を有しない造語と理解され,「ヒルドイド」と称呼される。
ウ 本件商標の要部「ヒルド」と引用商標1の「Hirudoid」及び引用商標4の「HIRUDOID」は,構成文字種の差から,外観は相違するといえるが,引用商標2及び引用商標3の「ヒルドイド」は,語頭の片仮名3字が共通するため,外観において相紛らわしいといえる。
そして,本件商標の要部から生じる「ヒルド」の称呼と引用商標から生じる「ヒルドイド」の称呼は,語頭から続く「ヒルド」の3音が共通し,語尾部分における「イド」の有無の差異にすぎない。しかも,差異音「イド」のうち,「イ」音は,その前音(第3音目の「ド」の母音)との二重母音となって,「ド」の母音に吸収されやすく,聞き取り難いものである。
また,差異音「イド」のうち,「ド」音は,称呼の識別上聴取され難い末尾に位置するものであるから,この差異音「イド」が,両商標の称呼全体に与える影響は大きいものとはいえない。
一方,文字で構成される商標については,自他商品の識別標識としての機能を果たす場合において,語頭部分の音が最も重要な要素となるので,語頭部分の「ヒルド」の3音が共通する両商標をそれぞれ一連に称呼するときは,その語調,語感が近似し,互いに相紛れるおそれがあるといえる。
したがって,本件商標と引用商標1及び引用商標4とは,称呼において類似し,引用商標2及び引用商標3とは,外観及び称呼において類似する商標とされるべきである。
エ 指定商品の類否について
本件商標の指定商品は,「化粧品」であって,引用商標1及び引用商標2の指定商品は,「薬剤」等であるところ,近年,「化粧品」は,化粧品会社のみならず,「薬剤」を製造,販売する製薬会社によるものがある(甲7-1,甲8)。
また,請求人が引用商標1及び引用商標2を付して販売する「薬剤」は,「ヘパリン類似物質」を原材料として含むものであり,皮膚の保湿のために用いられるものであるが,「ヘパリン類似物質」を原材料として含み皮膚の保湿のために使用される「化粧品」が販売されている実情がある(甲9,甲10)。
請求人が販売する「薬剤」と,第三者が販売する「保湿クリーム」等の化粧品は,いずれも,「ヘパリン類似物質」を含有するという点において,原材料が一致し,また,その品質も共通する場合があり,さらに,皮膚の保湿に使用されるという点で用途も一致する。
このように,「化粧品」と「薬剤」の原材料や用途が一致すれば,皮膚を保湿するための商品を要するという点において,需要者が一致する場合も十分にあり,第3類の「化粧品」と第5類の「薬剤」は,商品が類似する場合があるといえる。
また,引用商標3及び引用商標4の指定商品には,「化粧品」が含まれるので,本件商標の指定商品とは「化粧品」について同一である。
オ 以上のとおり,本件商標は,引用商標と商標が類似し,本件商標の指定商品は,引用商標の指定商品と,同一又は類似するものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録を受けたものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
請求人は,請求人の業務に係る,高い保湿効果を有する「ヘパリン類似物質」を有効成分とする血行促進・皮膚保湿剤(医療用医薬品)(以下「請求人商品」という。)に「ヒルドイド」及び「Hirudoid」の商標を継続的に付して販売等をしてきた。
「ヘパリン類似物質」は,ドイツのルイトポルド・ウエイク製薬会社(以下「ルイトポルド社」という。)で創製されたものであり,1949年にドイツ国内において,「ヘパリン類似物質」を有効成分とする「ヒルドイドクリーム0.3%」を発売した。
請求人は,1952年に,ルイトポルド社と輸入・販売契約を締結し,1954年10月に,我が国で「ヒルドイドクリーム0.3%」を発売した。
当初,「ヒルドイドクリーム0.3%」は,凝血阻止血行促進剤として販売されていたが,その後,皮膚科等において幅広く使用されることとなり,剤型追加品目として,1996年に「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」,2001年に「ヒルドイドローション0.3%」,2018年に「ヒルドイドフォーム0.3%」が承認され(甲11,甲12),現在では,クリーム,軟膏,ローション,フォームの4つの剤型で販売されている。
ア 本件商標と引用商標1及び引用商標2の類似性の程度
本件商標と引用商標1とは,文字商標が自他商品を識別するための標識としての機能を果たす際に,最も重要な要素となる語頭部分における「ヒルド」の3音が共通しているため,両商標をそれぞれ全体として称呼するときは,互いに聞き誤るおそれがある。
本件商標と引用商標2とは,外観において,語頭部分における「ヒルド」の3文字が共通していることに加え,冒頭の3音「ヒルド」が共通している。
したがって,両商標を時と処を異にして離隔的に観察したときは,外観において近似した印象を与え,また,両商標をそれぞれ全体として称呼するときは,互いに聞き誤るおそれがある。
イ 引用商標1及び引用商標2の独創性の程度
引用商標1及び引用商標2は,請求人商品の販売名「ヒルドイド」とその欧文字表示に相当するものであり,その販売名の由来は,「ドイツ語のHirudo(蛭属)とoid(?の様なもの)を組み合わせたもの」とされている(甲11)。当該語は,我が国において親しまれた外国語とはいい難いから,これらの語は,商標を構成する文字として,誰もが容易に採択するものではない。
上記の「oid」の文字については,「ヘパリン類似物質」の洋名が「Heparinoid」であることから(甲11),例えば,「ヘパリン類似物質」を有効成分とする商品の商標に選択されることはあるかもしれないが,1954年の請求人商品の発売時において,「Hirudo」又は「ヒルド」の文字を冒頭に掲げて販売されていた薬剤は,市場に存在していない。
1976年以降に,扶桑薬品工業株式会社(以下「扶桑薬品社」という。)が「ヒルドシン」という薬剤を販売していたようだが,これは,請求人が販売する「ヘパリン類似物質」を有効成分とする血行促進・皮膚保湿剤ではない(甲13)。
また,上述のとおり,薬剤と化粧品が類似する場合があることを踏まえ,化粧品についても確認したところ,「ヒルド」の文字を冒頭に掲げて販売されていた化粧品は存在していないし,本件商標の登録出願日以前に「薬剤」及び「化粧品」について出願・登録された,「ヒルド」又は「Hirudo」を冒頭に有する商標は,引用商標と扶桑薬品社の登録商標「ヒルドシン\HIRDSYN」のみである(甲14)。
以上のことからすれば,「ヒルド」又は「Hirudo」の文字を冒頭に有する独特な構成からなる引用商標1及び引用商標2の独創性の程度は高いといえる。
ウ 引用商標1及び引用商標2の著名性の程度
(ア)請求人商品の広告宣伝の状況
請求人は,引用商標1及び引用商標2を付した請求人商品の広告を,2013年以降,専門雑誌や日本全国各地で開催される学会の学会要旨集等に掲載し,また,医療機関向けパンフレット等を配布するなどの広告宣伝活動を,請求人商品の発売以来,現在に至るまで行ってきた(甲15?甲18)。
(イ)請求人商品の売上及び市場占有率
上記のような広告宣伝活動のもと,請求人商品は,2014年度から2017年度までの4年間において,年間約420億円ないし520億円を売り上げている。また,ヘパリン類似物質含有製剤における市場占有率は,80%前後(金額ベース)で推移している(甲19,甲20)。
(ウ)請求人商品の優れた有効性
上記の広告宣伝活動などの請求人の営業努力によって,引用商標1及び引用商標2が付された請求人商品が広く全国に流通するにつれ,請求人商品の使用者も次第に増加し,請求人商品の優れた効果が評判となり,皮膚科の専門医師の著した文献において紹介されている(甲21)。
このような請求人商品の評判や事業が評価され,請求人は,2007年にポーター賞を受賞している(甲22,甲23)。
(エ)まとめ
(ア)ないし(ウ)のように,引用商標1及び引用商標2を付して継続的に販売されてきた請求人商品への信頼は,請求人商品を取り扱う業者,皮膚科を専門とする医師,薬剤師や看護師等の医療関係者や,請求人商品を使用する患者の間において広く認識されるものとなっている。
以上のとおり,引用商標1及び引用商標2は,本件商標の登録出願時において,請求人の業務に係る「ヘパリン類似物質」を有効成分とする「血行促進・皮膚保湿剤」を表示するものとして広く認識されていたものであり,また,その周知著名性は,本件商標の登録査定時に至るまで継続していたものといえる。
エ 本件商標が使用される商品と請求人商品との関連性
本件商標を付して被請求人が販売する商品は,「ヘパリン類似物質」を有効成分として含有する「薬用クリーム」及び「薬用ローション」(医薬部外品)であって(以下「被請求人商品」という。),皮膚の乾燥による肌荒れを防ぐ「スキンケア用品」である(甲24)。
請求人商品は,医療用医薬品であるが,請求人商品と被請求人商品とは,「へパリン類似物質」を有効成分とすること,乾燥した皮膚の保湿に用いられることが共通している。また,請求人商品を使用するアトピー性皮膚炎等の患者は,皮膚が乾燥し症状が悪化するのを防ぐため,皮膚を清潔にして保湿をする「スキンケア」のために請求人商品を使用している。さらに,「スキンケア用のクリーム」及び「スキンケア用のローション」として販売される被請求人商品は,本件商標の指定商品「化粧品」の範疇に属する商品であり,上述のとおり,第3類の「化粧品」と第5類の「薬剤」は,商品が類似する場合がある。
したがって,被請求人商品と請求人商品は,その用途や使用の目的などが共通する関連性の高い商品であるといえる。
オ 請求人商品と被請求人商品の取引の実情と取引者・需要者の共通性
「医療用医薬品」は,医師による診断・処方なしにこれを入手することはできないのに対し,「医薬部外品」は,医師による診断・処方なしに,気軽にドラッグストア等で入手することができるため,入手可能な経路が異なることもあり,通常は,「医療用医薬品」(請求人商品)が「一般用医薬品」や「医薬部外品」とを取り違えられるようなことは少ないと考えられる。
しかし,本件の場合,上述する引用商標1及び引用商標2の著名性や,本件商標と引用商標1及び引用商標2が類似すること,請求人商品と被請求人商品の関連性が高いこと,及び後述する請求人商品と被請求人商品の需要者の共通性や取引の実情に照らせば,本件商標の登録出願時及びその登録査定時において,本件商標が付された被請求人商品が,請求人の事業に係る商品である,若しくは,請求人と組織的又は経済的に何らかの関係を有する者の商品であるとして混同を生ずるおそれがあるといえる。
(ア)請求人商品の高い評判に起因する需要者層の拡大
請求人商品の高い保湿力や安全性等は,アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患に悩む患者に限らず,皮膚の乾燥による肌荒れに悩む者,特に美容に関心のある者から次第に注目されることになった。
そして,2014年頃から,請求人の意に反して,請求人商品が,肌の潤いを保つ保湿クリームとして極めて有効であるという旨が,無断で女性誌等に取り上げられるようになった(甲25)。その中には,「お薬コスメ」と称し,あたかも請求人商品を,保湿用化粧品のごとく取り扱うものや,美容目的での使用を勧めるような記載をするものがあり,かかる状況を契機に,請求人商品は,美容に関心のある需要者から多くの注目を集めるようになり,また,このような需要者が,請求人商品の処方を受けるべく皮膚科に通うというケースも目立つようになった。
請求人の意に反して,請求人商品が,保湿効果の高い化粧品であるかのように取り扱われたことで,美容に関心の高い一般の需要者の間においても,「ヒルドイド」は,請求人商品を表示する商標であると広く認識されるようになった。
(イ)「ヘパリン類似物質」を含有する一般用医薬部外品等の取引の実情
「Yahoo! JAPAN ショッピング」や,「楽天市場」等のショッピングサイトにおいて,「ヒルドイド」のキーワードによって,「ヘパリン類似物質」を含有する他人の薬用クリーム等の商品の一部が検索できるようになっており,請求人の商標「ヒルドイド」の著名性にフリーライドするような広告宣伝がなされている(甲30)。
また,本件商標を付して販売される被請求人商品は,医薬部外品であるが,上記のようなショッピングサイトのみならず,同様の効果を企図する医療用医薬品である請求人商品と同じく,薬局でも販売され得るものである。
したがって,請求人商品の販売において処方箋を要するにしても,両者の商品の取引者,需要者において,その出所につき誤認混同を生ずるおそれがある。
(ウ)取引者・需要者による誤認・混同
請求人と取引のある医療関係者の一部から,「ネットでヒルドプレミアムというのを見た。ネットで見るとヒルドイドのすごいやつという感じだよ」,「(『ヘパリン類似物質』を含有する一般用医薬品(OTC医薬品)『ヒルメナイド』について)マルホがやっと出したのかと思った」,「(同じく『ヒルメナイド』について)名前が似ているからマルホが出したのかと思った」というコメントを得ている(甲32)。このように,日常的に請求人とコミュニケーションをとり,医薬品やその関連商品に詳しい専門家であっても,請求人が,医薬部外品や一般用医薬品の販売を開始したかのように誤解し,また,「ヘパリン類似物質」含有商品の商品名冒頭に掲げられる「ヒルド」や「ヒル」の文字から,請求人の著名商標「ヒルドイド」を連想し,これらの商品が,あたかも請求人の販売する商品であるかのように誤認している状況がみられる。
また,被請求人商品に関連しては,一般消費者から,2018年10月23日付けで,請求人が販売する「ヒルドイド軟膏」と「ヒルドプレミアム」という黄色のチューブの製品の関係について,電話による問い合わせがあり,これに対しては,「ヒルドプレミアム」という商品は請求人の取り扱う製品ではないこと,また,インターネットで検索したところ「ヒルドプレミアム」という黄色のチューブの製品を確認したが,これは請求人の製品ではないことを回答した(甲33)。かかる一般消費者は,本件商標を「ヒルドイドプレミアム」と勘違いしており,請求人商品「ヒルドイド」の「プレミアム(高級)」商品のような誤解を生じ得る表示であるといえる。
カ まとめ
本件商標は,その登録出願時において,請求人商品を示すものとして,請求人商品を取り扱う医療関係者や,請求人商品を必要とするアトピー性皮膚炎等の患者の他,美容に高い関心を示す一般需要者の間においても周知著名な引用商標1及び引用商標2と,称呼又は外観について類似するものである。
また,被請求人商品は,薬用クリーム,薬用ローションであり,医薬部外品のうち薬用化粧品に該当するものと考えられるが,請求人商品とは,有効成分「ヘパリン類似物質」と皮膚を保湿するという用途が共通する。そのため,本来,医師の診断・処方によって請求人商品を手にすべき需要者が,例えば,多忙で通院が困難である等の理由から,請求人商品の代わりに,被請求人商品をドラッグストアで購入するという場合もある。また,かかる「ヘパリン類似物質」を有効成分とする複数の保湿用商品が,「医薬部外品」等として,化粧品会社と医薬品会社の両者によって製造・販売されている実情もあるので,被請求人商品は,引用商標1及び引用商標2が付された請求人商品と需要者を共通にするといえる。
したがって,本件商標が,被請求人商品に使用されると,冒頭の「ヒルド」の3文字及びこれから生じる「ヒルド」の称呼が共通することも相まって,あたかも請求人商品,又は請求人商品の関連商品であるか,若しくは,請求人と経済的又は組織的に関係のある者の業務に係る商品であるかのように,取引者・需要者をして,商品の出所の混同を生じさせるおそれがある。
また,かかる商品の出所混同を起因として,皮膚の乾燥に苦しむアトピー性皮膚炎等の患者の健康を預かる請求人の業務上の信用を阻害し,また,需要者の利益を害するおそれもある。
このように,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録を受けたものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を要旨以下のように述べた。
1 答弁の理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標は,片仮名のみからなり,文字と文字の間には,空白も中点も存在しない標準文字の商標である。そして,文字数が8文字の商標ゆえ,冗長でなく一気呵成に読みうる一連の一体商標である。
したがって,特段の理由を示すことなく,本件商標が結合商標と断じているのは失当である。
さらに,「ヒルド」の文字が特別の意味合いを有する語ではないのにもかかわらず,何故に「ヒルド」と「プレミアム」の間という特定箇所で切れているのか何ら説明がされていない。
以上のとおり,本件商標は,一体商標であるにも関わらず,結合商標であるとした前提自体が誤っているため,請求人の述べていることは全て失当である。
イ 「プレミアム」の語の使用について
ドクターシーラボの例において,ジェルクリームの説明において,「ジェルクリームプレミアム」の誕生の例を引き合いに出しているが,ここで商品「ジェルクリーム」に「ジェルクリーム」では,商標として自他識別力を持ち得ないから,「プレミアム」の語を付与することで商標的使用に耐え得る一体商標として採用したと考えられる。
また,請求人は,他の例として,「プレミアムライン」,「プレミアムな」,「プレミアムタイプ」の語句が商品説明に使用されている例を示している。しかし,これらは,「プレミアム」の語そのものを使用しているものではない。
ウ 本件商標と引用商標との類否
請求人は,引用商標と「ヒルド」なる商標が類似であることについて,両者の差異音「イド」が両商標の称呼全体に与える影響が大きくないからとしている。
しかしながら,そうであるとすると,例を挙げるならば,商標「ポラロイド」と「ポラロ」,商標「ミニッツメイド」と「ミニッツメ」,商標「バンドエイド」と「バンドエ」等が類似ということになり,感覚的に考えても不当である。
この点を言語的に論じると次のとおりである。まず,末尾音の「ド」であるが,一般に商標を印象づけるのは,最初の音であり,次いで第2音あるいは末尾音であるといわれている。ただし,末尾音が子音のみである場合や長音である場合であれば,それぞれが存在しない場合の語と類似しやすいといえる。
ここで本件では,末尾音は,母音が「オ」という強い音を有する濁音である「ド」であって,明確に聞こえる音であり,子音でも長音でもないから,末尾音「ド」がない商標と比較すると,その印象は大きく変わるものである。
次に,第4音の「イ」について,請求人は,引用商標の第3母音の「ド」の母音「オ」との二重母音となって,「ド」の母音に吸収されやすく,聞き取り難いものと主張する。
しかしながら,二重母音が前の母音に吸収されやすいのは,前の母音が同じ音である「イ」又は似通った音である「エ」の場合である。3音目の「ド」と4音目の「イ」は,発音時の口の形が大きく異なり,吸収されにくいから,引用商標と「ヒルド」なる商標は類似しない。
さらに加えると,請求人は,引用商標と「ヒルド」なる商標が類似であることを前提とした上で,本件商標と「ヒルド」とも類似なので,引用商標と本件商標が類似と結論付ける。つまり,請求人が主張しているのは,本件商標と引用商標は,「ヒルド」なる商標を介した類似の類似という関係であるということであるから,類似の類似である関係までが類似と認められるわけではない。
エ 指定商品の類否について
請求人は,指定商品の類似について,第5類「薬剤」と第3類「化粧品」は,生産・販売部門が一致する場合があること,原材料が一致し,また,その品質も共通する場合があることから,需要者が一致する場合もありうるので,指定商品として類似する場合があると主張する。
たしかに,主に医薬品を製造・販売する会社が化粧品の製造・販売を行ったり,ドラッグストアでは医薬品・化粧品ともに扱っていたり,医薬品・化粧品で共通の原材料を,同じ効用を目指して配合されていたりする現状がある。
しかしながら,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」において,医薬品(第1種,第2種),医薬部外品,化粧品は厳然と区別されており,それぞれの取り扱いや販売の許可についても別個に規定されている(例えば,同法第12条の表)。
よって,たとえドラッグストアで医薬品と化粧品がともに販売されているとしても,店内の配置,陳列,販売方法等で両者は区別されており,需要者が両者の商品を区別できずに購入に至ることはほぼ考えられない。
さらに,請求人が主張するような大雑把な条件で指定商品が類似しうるというのであれば,指定商品の類似の範囲が際限なく広がるという結果になり,著しく不当である。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件商標と引用商標1及び引用商標2の類似性の程度について
本件商標と引用商標1及び引用商標2とは,語頭部分の3音のみ共通しても,その他の箇所については,文字数も発音も何ら共通するものがない両商標が混同される可能性は極めて低い。
イ 引用商標1及び引用商標2の独創性について
請求人は,引用商標1及び引用商標2の独創性の程度は高いことを説明しているが,請求人が自認するとおり,扶桑薬品社の登録商標「ヒルドシン/HIRDSYN」が存在するので,「ヒルド/Hirudo」の語を接頭につけた商標を選択することには独創性がない。
ウ 引用商標1及び引用商標2の周知・著名性の程度について
(ア)請求人商品の広告宣伝の状況について
引用商標1及び引用商標2が周知・著名な商標であることを証拠とともに示すが,その証拠量は,周知性が認められるだけの量に至っていない。
(イ)取引者・需要者による誤認・混同について
請求人は,「請求人と取引のある医療関係者の一部から,『ネットでヒルドプレミアムというのを見た。ネットで見るとヒルドイドのすごいやつという感じだよ。』(中略)といったコメントを得ています」と述べる。
しかし,これはおかしなことである。一般に,同じメーカーから,化粧品と医療用医薬品とに分類される同種の商品を販売する場合,何らかの薬効成分が医療用医薬品だけに許容される範囲まで配合された商品を医療用医薬品として販売し,同じ薬効成分の濃度を化粧品でも許容範囲内になるまで薄めて含有されているものを化粧品として販売する。つまり,化粧品が普及品ならば,医療用医薬品がその上級グレードとしてラインナップされるのが普通である。ところが,上記の証言は,医療用医薬品である「ヒルドイド」の「すごいやつ」が化粧品である「ヒルドプレミアム」であると混同したという状況である。これは,医療用医薬品である「ヒルドイド」が相当安っぽいものでない限り成立しえない。
しかしながら,請求人が述べるには,医療用医薬品「ヒルドイド」は,医療用医薬品としてふさわしい商品であるとのことであるから,上記コメントが虚言であるとまではいわないものの,医療用医薬品である「ヒルドイド」と化粧品である「ヒルドプレミアム」を混同しうるかの判断の裏付けには用い得ないものである。
加えて一般に,周知・著名商標の場合,需要者における認知が進み自他商品識別力が極めて高くなった結果,指定商品・役務については,その類似の範囲を超えて混同が生じ,また周知・著名商標の全体がその一部に取り込まれた商標については,その取り込まれた部分からでも商標機能が発揮されるようになった商標である。しかし,周知・著名商標の一部のみをその一部に取り込んだ商標については,その商標の認知度が高まった故に,混同は起こりにくくなる。その例外としては,その周知・著名商標の略称としても著名な場合である。本件の場合,「ヒルド」が「ヒルドイド」の略称として著名であるとして認められない限り,むしろ「ヒルドイド」とは混同しえない。
しかしながら,「ヒルド」が引用商標1及び引用商標2の略称として著名であるという証拠は,何ら提示されていない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は,前記第1のとおり,「ヒルドプレミアム」の片仮名を標準文字で表してなり,該構成文字は,辞書等に載録された既成語とは認められないものであるから,特定の意味合いを有しない一種の造語として理解され,特定の観念を生じないものである。
そして,本件商標の構成中,「プレミアム」の語は,「高級な。上等な。」といった意味を有し(甲6),一般に広く知られている語といえるものである。また,本件商標の指定商品を取り扱う業界において,以下のように使用されている 。
ア ドクタープログラム株式会社のウェブサイト(甲7-1)には,会社沿革に,「2009.9/『ジェルクリーム プレミアム』誕生/美しい肌のために,最も大切なセラミドを高濃度に配合して浸透させる事にこだわりました。水を一滴も加えない美容成分95%以上配合を実現しました。」の記載がある。
イ クラシエホームプロダクツ株式会社のニュースリリース(2009年7月28日:甲7-2)には,「プレミアムライン登場/『集中ラップ高保湿マスク』,『フェイスリフト設計マスク』新発売」の見出しの下,「『集中ラップ高保湿マスク』は,『フランス産海藻エキス』や『スクワラン』など4つの保潤成分を配合した<高保湿ジェル美容液>が,乾燥の気になる肌にうるおいを集中補給。」,「『フェイスリフト設計マスク』は,『ブドウ葉エキス』『ローヤルゼリー』など4つの保潤成分と,『カフェイン』『茶エキス』の2つのひきしめ成分を配合。」の記載がある。
ウ 常盤薬品工業株式会社のウェブサイト(甲7-3)には,「メイクアップブランド『エクセル』から,美肌効果にこだわった,美容液仕立てのプレミアムな『スキンケアパウダー』限定発売」の見出しの下,「ワンランク上の贅沢な肌ざわり。」,「2015年11月17日・・・美肌効果にこだわったスキンケアパウダー『エクストラリッチパウダー 01』(ピーチベージュ)を限定発売いたします。・・・ベースとなるパウダーをアミノ酸でコーティングしたことで,お肌にしっとりと密着。」の記載がある。
エ コーセープロビジョン株式会社のニュースリリース(2017.6.23:甲7-4)には,「?プレミアムなハリとうるおいが目覚める?/通販ブランド『米肌』から,『活潤リフト化粧水』を発売」の見出しの下,「・・・通販ブランド『米肌(まいはだ)』から,『米と発酵』の美容成分を贅沢に配合したエイジングケアの化粧水・・・」の記載がある。
オ 株式会社資生堂のニュースリリース(2018/1/31:甲7-5)には,「デオドラントスプレー売上NO.1 『エージーデオ24』 初の『プレミアム デオドラントスプレー』発売」の見出しの下,「2018年1月,近年の『ニオイリスク』『ニオイ意識の高まり』に応え,ブランド初となる『プレミアムタイプ』のスプレーを発売します。IPMP(イソプロピルメチルフェーノール)・クロルヒドロキアルミニウム・酸化亜鉛,3つの有効成分を配合。」の記載があり,同ニュースリリース(2016/8/26:甲7-7)には,「プレミアムなエイジングケア*シリーズ『エリクシール エンリッチド』誕生」の見出しの下,「資生堂は,高機能エイジングケアブランド『エリクシール』より,ブランド最高峰のエイジングケアシリーズ『エリクシール エンリッチド』【全10品目10品種 ノープリントプライス】を2016年10月21日(金)に発売します。」の記載がある。
カ 三省製薬株式会社デルメッドのウェブサイト(甲7-6)には,ヒストリーの項に「2015年秋,切実な大人の肌悩みに応えるべく,基本のお手入れでハリもシミも一緒にケアできる『プレミアムシリーズ』を発売することができました。」の記載があり,同「デルメッドオンラインストア」には,「化粧水/プレミアムローション」が「成分の浸透を高めて,すこやかに整える」,「3大成分でハリとシミを一挙にケア」の記載がある。
キ コーセーコスメポート株式会社のニュースリリース(2017.8.17:甲7-8)には,「?濃厚なうるおい,めざめる柔らか肌?/『黒糖精』からプレミアムなオールインワンジェルクリームを発売」の見出しの下,「『黒糖精 プレミアム パーフェクトジェルクリーム』は,天然由来成分を85%使用した,1品で7役(化粧水,乳液,美容液,クリーム,美容オイル,パック,マッサージ)を実現するオールインワンジェルです。高濃度の黒糖発酵エキスと,ハトムギ油をはじめとする厳選ボタニカルオイルを贅沢に配合しました。」の記載がある。
以上からすると,「プレミアム」の語は,化粧品を取り扱う業界において,本件商標の登録出願前から,既存品に特別な成分を配合することによって優れた商品であることを表示するものとして使用されており,本件商標の指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能は弱いものといえる。
してみれば,本件商標は,全体の構成文字に相応した「ヒルドプレミアム」の称呼のほか,「ヒルド」の称呼をも生じ得るものというべきであって,特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標
引用商標は,前記第2のとおり,「Hirudoid」の欧文字,「ヒルドイド」の片仮名又は「HIRUDOID」の欧文字からなるものである。
してみると,引用商標は,いずれもその構成文字に相応して,「ヒルドイド」の称呼を生じ,該文字は辞書等に載録された既成語とは認められないものであるから,特定の意味合いを有しない一種の造語として理解され,特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標を比較するに,両者は,上記(1)及び(2)のとおりの構成からなるところ,外観においては,本件商標と引用商標2及び引用商標3とは,語頭の「ヒルド」を共通にするものの,文字数及び構成全体の文字において相違し,本件商標と引用商標1及び引用商標4においては,片仮名と欧文字の差異を有し,明確に区別できるものである。
次に,称呼においては,本件商標から生じる「ヒルドプレミアム」及び「ヒルド」と引用商標から生じる「ヒルドイド」の称呼とは,その構成音,音数などが明らかに相違するものであるから,称呼上,明確に聴別できるものである。
そして,本件商標と引用商標は,いずれも特定の観念を生じないものであるから,観念において比較することができない。
以上からすると,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において明確に区別できる非類似の商標とみるのが相当である。
(4)小括
そうすると,本件商標と引用商標の指定商品の類否について判断するまでもなく,本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知著名性について
ア 請求人の主張及び提出した証拠によれば,以下のとおりである。
(ア)請求人(以下「マルホ社」という場合がある。)の商品
マルホ社が,1954年10月,1996年7月及び2001年7月に発売開始した商品「血行促進・皮膚保湿剤」の医薬品インタビューフォーム(2017年9月改訂(第11版)に,「ヒルドイド クリーム0.3%」及び「Hirudoid Cream」(「ヒルドイド」の文字の右下及び「Hirudoid」の文字の右上には小さい○内にRが付されている。以下同じ。),「ヒルドイド ソフト軟膏0.3%」及び「Hirudoid Soft Ointment」,「ヒルドイド ローション0.3%」及び「Hirudoid Lotion」の記載がある(甲11)。
(イ)医療関係者向けの専門誌への広告(甲15)
一般社団法人日本アレルギー学会発行の「アレルギー」(発行日:平成25年4月10日,同26年2月1日,同27年4月25日,同28年5月15日),日本皮膚科学会西部支部発行の「西日本皮膚科」(発行日:平成25年10月1日,同28年6月1日),医学書院発行の「臨床皮膚科」(発行日:2013年10月1日,2016年2月1日),南山堂発行の「薬局」(発行日:2013年12月5日),北隆館発行の「アレルギーの臨床」(発行日:平成25年2月20日,同28年9月20日),金原出版株式会社発行の「小児科」(発行日:2013年4月25日),秀潤社発行の「VisualDermatology」(発行日:2014年1月25日,2017年4月25日),「週刊 日本医事新報」(発行日:2014年4月26日),公益社団法人日本皮膚科学会発行の「日本皮膚科学会雑誌」(発行日:平成26年9月20日,同27年3月20日,同年12月20日,同28年10月20日,同29年8月20日),金原出版発行の「皮膚科の臨床」(発行日:2014年10月31日,2015年5月29日),公益社団法人日本薬学会発行の「ファルマシア」(発行日:平成26年11月1日,同28年12月1日),公益社団法人日本小児科学会発行の「日本小児科学会雑誌」(発行日:平成27年9月1日),日本皮膚科学会大阪地方会・京滋地方会発行の「皮膚の科学」(発行日:2017年2月),日本小児皮膚科学会事務局発行の「日本小児皮膚科学会雑誌」(発行日:2017年6月30日),日本臨床皮膚科医会発行の「日本臨床皮膚科医会雑誌」(発行日:平成29年7月15日)に掲載されたマルホ社の商品「血行促進・皮膚保湿剤」の広告に「ヒルドイド」及び「Hirudoid」の記載,その右側に「クリーム0.3%」,「ソフト軟膏0.3%」及び「ローション0.3%」の記載がある。
(ウ)一般需要者向け雑誌
以下の一般需要者向け雑誌(光文社発行「HERS」:2014年5月号,角川春樹事務所発行「美人百花」:2014年6月号,「andGIRL」:2015年9月号,小学館発行「AneCan」:2016年2月号,光文社発行「美ST」:2016年7月号,同年10月号)には,美容目的のスキンケア商品の一つとして「ヒルドイド ソフト 軟膏 0.3%」及び「Hirudoid Soft Ointment」,又は「ヒルドイド ローション 0.3%」及び「Hirudoid Lotion」が掲載されているが,「皮膚科で処方してもらった」,「処方薬」,「処方箋が必要なコスメ」,「皮膚科処方のヒルドイド軟膏」等と表示されており,請求人の表示は見いだせない(甲25-1?6)。
(エ)皮膚科各医師による発表
「薬物療法 別冊(医事日報社 昭和49年11月15日発行:甲21-1)」には「ケロイドに対するヒルドイド軟膏の効果」,「基礎と臨床(Jun’88:甲21-2)」には,「ヒルドイド軟膏の臨床効果」,「医学と薬学(1993年9月:甲21-3)」には,「ヘパリン類似物質軟膏(ヒルドイド)の使用経験」,「臨皮(2006年1月:甲21-4)」には,「アトピー性皮膚炎に対する寛解維持療法としてのヒルドイドローションの有用性の検討」,「医薬の門(2007:甲21-6)」には,「皮脂欠乏性湿疹に対するヘパリン類似物質W/O型軟膏(ヒルドイドソフト)と酪酸プロピオン酸ベタメタゾンローション(アンテベートローション)の混合外用について」,「ペインクリニック(2012.10:甲21-12)」には,「薬のコーナー/ヒルドイドクリーム0.3%」,「西日皮膚(2014:甲21-13)」には,「タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏0.1%)の有効性と刺激感?ヘパリン類似物質含有製剤(ヒルドイドローション0.3%)併用の影響?」等と皮膚科の各医師によって発表されている。
(オ)年度別広告費用一覧(甲17)及び2008年以降の医療機関向けヒルドイド広告宣伝資料配付記録(甲18)は,請求人の作成に係るものであって,客観的な裏付けのない表である。また,NDBオープンデータから算出した請求人商品(ヒルドイド)の売上額及び市場占有率(平成26年度ないし同29年度:甲20)は,入院及び外来の外用薬としての売上額及び市場占有率を示すものであって,420億円から520億円の売上が伺えるとしても,占有率がどのような薬剤の範囲に基づくものであるかは明らかではない。
(カ)請求人は,「2007年度 第7回ポーター賞」を受賞している(甲22,甲23)が,これは「皮膚科・外用剤に特化,スペシャリティ・ファーマという戦略的ポジショニングを実現」という企業の事業に対する賞である。
(キ)その他
請求人は,「ヒルドイドの適正使用に関するお知らせ」(2017年10月18日)に「・・・ヒルドイドをあたかも化粧品等と同様のものであるかのように紹介することは控えていただくよう要請してきました。・・・マルホは,『薬機法』『医療用医薬品等適正広告基準』等の関係法規を厳守し,一般の方への医療用医薬品の広告をしておりません。・・・今後とも,ヒルドイドの美容目的での使用を推奨していると受け取られかねない記事に対して厳しい姿勢で臨むとともに,医療関係者の皆様や患者さんへの医療用医薬品の適正使用に関する啓発に努めるなど,責任ある企業として対応していきます。」と記載し,各位に宛てている(甲29)。
イ 上記アからすると,請求人は,血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイドクリーム0.3%」を1954年10月に,「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」を1996年7月に,「ヒルドイドローション0.3%」を2001年7月に発売開始しており,当該商品には,「Hirudoid」の文字も併記され,引用商標が使用されているといえる。
そして,請求人商品の「ヒルドイドクリーム0.3%」等は,医療用医薬品の一種であって,一般人を対象とする広告はなされていないものであり,また,一般雑誌における請求人商品に関する記事は,医療用医薬品としてではなく,スキンケア商品として美容目的で掲載されているもの(甲25-1?6)であるうえに,請求人は,これら記事の掲載に関し,医療用医薬品としての適正使用についての要請を行っているにすぎないから,請求人商品の広告をしているとはいえない(甲29)。
さらに,請求人商品は,皮膚科の医師に注目され,医療関係者向けの雑誌における広告は認められるものの,その掲載期間及び回数は平成25年から同29年にかけて年5,6回程度と決して多くはないといわざるを得ない。
そうすると,請求人商品に使用されている引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)本件商標と引用商標との類似性の程度
上記1(3)のとおり,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において明確に区別できる非類似の商標とみるのが相当であって別異の商標である。
(3)引用商標の独創性の程度について
引用商標「Hirudoid」又は「ヒルドイド」の語は,辞書等に載録が認められない造語といえるから,その独創性の程度は高いといえる。
(4)出所の混同のおそれについて
上記(1)のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識されていたとはいえない。
また,引用商標の独創性の程度は高いといえるものの,上記(2)のとおり,本件商標と引用商標は,明らかな差異を有する別異の商標である。
してみれば,本件商標をその指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者が引用商標を想起,連想して,当該商品を請求人の業務に係る商品,あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 請求人の主張について
請求人は,請求人と取引のある医療関係者の一部から誤解がある旨のコメント(甲32)及び一般消費者から「ヒルドイド軟膏」と「ヒルドプレミアム」という黄色のチューブの製品の関係についての電話問い合わせ(甲33)から,本件商標は,「ヒルドイド」の「プレミアム(高級)」商品のような誤解が生じ得る表示である旨主張している。
しかしながら,医療関係者からのコメント一覧(甲32)及びヒルドプレミアムに関する問い合わせ(甲33)は,請求人の作成に係るものであって,客観的裏付けが確認できないものであり,また,本件商標についてのコメント及び電話問い合わせはわずか1件ずつであるから,これをもって,「ヒルドイド(軟こう)」と「ヒルドプレミアム」とが一般に誤認されているものとはいい難い。
また,本件商標と引用商標とが,出所の混同を生ずるおそれがないことは上記2(4)のとおりである。
したがって,請求人の上記主張は採用することができない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものはないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2020-12-07 
結審通知日 2020-12-09 
審決日 2020-12-25 
出願番号 商願2018-11011(T2018-11011) 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (W03)
T 1 11・ 263- Y (W03)
T 1 11・ 271- Y (W03)
T 1 11・ 261- Y (W03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 順子 
特許庁審判長 岩崎 安子
特許庁審判官 平澤 芳行
佐藤 松江
登録日 2018-10-12 
登録番号 商標登録第6088573号(T6088573) 
商標の称呼 ヒルドプレミアム 
代理人 瀧澤 文 
代理人 小林 浩 
代理人 鈴木 康仁 
代理人 中川 信治 

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