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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W29
審判 全部申立て  登録を維持 W29
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審判 全部申立て  登録を維持 W29
審判 全部申立て  登録を維持 W29
管理番号 1378055 
異議申立番号 異議2021-900092 
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-11 
確定日 2021-09-09 
異議申立件数
事件の表示 登録第6350252号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6350252号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6350252号商標(以下「本件商標」という。)は、「かどやの太白ごま油」の文字を標準文字で表してなり、令和2年7月8日に登録出願、第29類「ごま油」を指定商品として、同3年1月14日に登録査定され、同年2月9日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する登録第1904140号商標(以下「引用商標」という。)は、「太白」の文字を表してなり、昭和54年7月2日に登録出願、第31類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、同61年10月28日に設定登録されたものであり、その指定商品は、平成18年11月15日付けの指定商品の書換登録の結果、第29類「食用油脂(マーガリンを除く。)」となったもので、現に有効に存続しているものである。
なお、本件では、登録第4446803号商標、登録第5256781号商標、登録第5325751号商標、登録第5550338号商標、登録第5579242号商標も引用されているものの、いずれも申立ての理由の具体的な根拠とはされていないため、記載は省略した。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第60号証(欠番あり。枝番号を含む。)を提出した。
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人は、1725年(亨保10年)、三河国(愛知県)において創業された竹本製油所を前身としたもので、同製油所は菜種や綿実の搾油業を事業としていた(甲50)ところ、大正時代に入り、電気の普及とともに灯明油が不要となったため、1915年(大正4年)ごろから圧搾製法のノウハウを活かしたごま油の本格的製造に事業転換を果たした。
引用商標「太白」は、申立人が自ら創作し、1924年(大正13年)から「ごま油」に使用を開始した(甲51)。1923年(大正12年)、関東大震災前に新工場が完成したことから、震災後の混乱の中でもごま油の供給を続け、関東地域の顧客の信頼を獲得し、以降関東にも順調に市場を拡大した(甲50)。その後、申立人は、1924年(大正13年)に引用商標を採用以来、現在に至るまで、96年間もの長期間にわたり使用を継続している。
現在、引用商標を使用したごま油は、家庭用と業務用に大別され、申立人はいずれのごま油にも引用商標を表示した商品を販売している(甲52、甲53)。また、申立人は、1965年からごま油「太白」を贈答用として販売を展開し(甲54)、1989年には、ごま油「太白」のテレビCMを開始した(甲55)。1991年からは、東海地区のテレビ局において、ごま油「太白」に特化したテレビスポットCMを放映した実績もある(甲56)。
イ 引用商標の周知性
(ア)申立人の製造販売に係るごま油「太白」を取り上げた、業界新聞等における執筆記事がある(甲11?甲16)。
これらの第三者執筆記事は、引用商標を申立人の製造販売に係るごま油の商標として認識の上、執筆されている。つまり、「太白」はごま油の普通名称ではなく、申立人の製造販売に係る自他商品の識別力のある商標として、認知されている。
(イ)申立人の製造販売に係るごま油「太白」を取り上げた、一般雑誌及び書籍がある(甲20?甲27)。
(ウ)実際の調理の現場において働くプロの料理人からは、引用商標を付したごま油について、評価を得ている。
プロの料理人のコメントによれば、申立人が製造販売するごま油「太白」をあえて選択し、その品質を称賛しているところ、これは、調味料の選択が調理の内容、質に重要な役割を担うことを熟知しているプロの料理人が、異なる製造者又は商標が多数競合する中でも、その選択及び購入においては細心の注意を払い、申立人が製造・販売するごま油「太白」をあえて採用する結果である。
(エ)引用商標に係るごま油は、焙煎処理を施さない「生搾り」(非焙煎)のカテゴリーに属するごま油である。また、申立人が製造販売する「生搾り」のカテゴリーに属するごま油は、商標「太白」を表示する(甲32)。
申立人は、生搾りのごま油について、株式会社インテージによるSRI(全国小売店パネル調査)(甲31の1?3)を活用したマーケットシェアの調査を実施した。
同調査によれば、生搾りのごま油について、2016年1月から2020年12月の間におけるマーケットシェアの分析の結果、2016年1月時点では、申立人のごま油「太白」が64.5%のマーケットシェアを記録し、以降段階的にシェアを上げ、2021年1月の時点では72.9%まで、マーケットシェアが上昇した(甲30の1、2)。
(オ)スーパーマーケット市場における売上ランキングにおいて、2020年7月の実績として、申立人の販売した「太白」を付したごま油は、約3,963万円の売上を記録している(甲33の1)。これを、スーパーマーケット市場における年間売上高に換算すると、「太白」を付したごま油は、約4億7,559万円の年間売上が予測される。
他方、引用商標を付したごま油「太白」に競合する他社の非焙煎のごま油に関する2020月7月における競合他社5社の販売額と、申立人のごま油「太白」を合計した額が約5,482万円の販売規模であるから(甲33の1)、申立人の製造販売に係るごま油「太白」の販売シェアは72.3%に及ぶ。
また、同様のランキングにおいて、2021年1月の実績として、「太白」を付したごま油は、約3,279万円の売上を記録している(甲33の2)。これを、スーパーマーケット市場における年間売上高に換算すると、「太白」を付したごま油は、約3億9,356万円の売上が予測される。
他方、ごま油「太白」に競合する他社の販売額と、申立人のごま油「太白」を合計した額が約4,498万円の販売規模であるから、2021年1月における「太白」の販売シェアは72.9%に及ぶ。
かかる統計から、申立人の製造販売に係るごま油「太白」は、スーパーマーケット市場における非焙煎ごま油の分野で70%以上の高い販売シェアを有している。また、かかる販売シェアは、2020年7月度が72.3%であり、同月の6か月後の2021年1月においても72.9%と、2020年7月とほぼ同一のマーケットシェアを維持している(甲33の1、2)。
このように、申立人の製造販売に係る非焙煎であるごま油「太白」は、高シェアを安定的に維持している。
(カ)ごま油は、食用油屈指の成長分野であり、2019年度における家庭用ごま油の市場規模は300億円を突破し、305億円の市場であった(甲34)。
申立人の販売に係るごま油「太白」のスーパーマーケットにおける2020年度の推定売上高が約4億7,559万円であると仮定した場合、2019年における家庭用ごま油の市場販売実績の1.6%が、「太白」を付したごま油が占めていたことが推測できる。
(キ)申立人は、2009年以降、「太白」ごま油をモンドセレクションの審査に応募し、2020年に至るまで、銅賞又は金賞を継続的に受賞している(甲35の1?21)。
また、ごま油「太白」は、第50回食品産業技術功労賞の商品・技術部門にて、賞を受賞した(甲36の1、2)。
(ク)a 申立人は、引用商標を付したごま油に関する消費者の認識度を評価するため、大規模な調査を2020年4月に実施した(甲37)。
その調査はインターネットを用いて実施し、対象エリアは関東、関西、中部の3エリア、対象者は30歳から69歳の既婚女性である。
b まず、純粋想起設問として、「ごま油のメーカー名やブランド名として思い浮かぶものを最大5つまでお書きください。」との自由質問に対しては、「B社」「A社」及び「マルホン/太白/竹本」の回答が上位4位を占めたが、「マルホン/太白/竹本」を回答した46サンプルのうち、「太白」若しくは「太白ごま油」との回答が21回答を占め、「マルホン」の16回答、及び「竹本/竹本油脂」の9回答を大きく上回った。
c 次に、助成想起設問として、「あなたが知っているごま油の『商品名』をお選びください(複数回答可)。」との設問調査を行った。その結果、「マルホンブランド」の各銘柄のうち、「太白」が最も銘柄認知度の高いことが判明した。
「マルホンブランド」ごま油のうち、「圧搾純正」は「圧搾純正胡麻油」若しくは「圧搾純正胡麻油濃口」よりも「マルホン」で覚えられている傾向にあるが、「太白」は、「マルホンブランド」の「マルホン」よりも「太白」という銘柄名で覚えられている傾向にあることを示している。
なお、「マルホンブランド」のごま油において、知っているブランドとして回答があった比率は、「太白」胡麻油:27.2%、「太香」胡麻油:15.4%、「圧搾純正胡麻油」:15.4%、「圧搾純正胡麻油濃口」:5.8%であり、申立人の製造販売に係るごま油において、「太白」が最も認知度の高い事実が判明した。
d さらに、「現在自宅にあり、使用しているごま油の商品名をお選び下さい」との問に対しては、「マルホン」ではなく「太白胡麻油」との回答が5.8%を占め、「太白」なるブランドを認知している事実が顕在化した。
e また、非焙煎である胡麻油(申立人に係るごま油においては「太白」ごま油が相当する。)と聞いて、どのブランドを想起するか調査を実施した。
その結果、「マルホンブランド」を想起する割合は、事前調査:2019年9月20日(金)?23日(月)においては29.8%が「マルホンブランド」を想起したが、事後調査:2019年10月25日(金)?28日(月)においては31.1%、事後調査:2020年01月17?20日(月)は26.9%、また、事後調査:2020年04月27日(月)?28日(火)においては、36.5%の認知度を示している。すなわち、「非焙煎」のごま油のブランドのうち、「マルホンブランド」の認知度が調査年毎に上昇している。
(ケ)申立人は、「マルホンブランド」のごま油「太白」の販売を、特に一般消費者に対し促進するため、ごま油「太白」に特化したテレビ広告を実施した(甲39)。
その結果、2020年4月の調査時において、回答者のうち、45.8%が「太白」に特化したテレビCMを認知していた(甲38)。
(コ)申立人は、「太白」に特化した地上波テレビCM(甲39)を、2020年4月に集中して放映した(甲40)。15秒間の映像の中において、引用商標が全面的にアピールされていると同時に、「太白」が2回も発声され、視聴者に対して商標「太白」の記憶定着に貢献している。当該テレビCMのリーチ率及びリーチ数、認知率は高い(甲41、甲42)。また、当該テレビCMと共通する画像を用いたウェブサイト広告を配信し、閲覧されている(甲57)。
(サ)申立人は、公式ホームページにごま油「太白」の専用ページを設定し、特に2011年6月ごろから、ごま油「太白」の紹介情報を充実させており、アクセスされている(甲58の1、2)。
(シ)申立人は、1986年から広報誌「ごま油の四季」を季刊誌として出版しており、現在も発刊が継続している(甲59)。
当該広報誌では、申立人の製造販売に係るごま油「太白」を用いたレシピの紹介を中心に、顧客のインタビューを掲載しており、申立人の製造販売に係るごま油「太白」は調理において不可欠な調味料であることが繰り返し述べられている。
そして、申立人は、当該公報誌に「太白・太香は登録商標です」と明確に表示することで、ごま油における「太白」の一般名称化を防ぐ措置を講じている。
当該公報誌は、日本全国へ各季ごとに3万部を配布している。
(ス)以上のとおり、引用商標は、申立人の製造販売に係る商標として、商品「ごま油」について、自他商品の識別力を有する商標である。
そして、事業実績、表彰歴、広告宣伝活動、第三者による客観的な評価等の事実及び分析から、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の製造販売に係る商品「ごま油」の商標として、需要者が広く認識している周知な商標である。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標「かどやの太白ごま油」は、引用商標「太白」とは、全体的に観察した場合は同一ではないが、以下で詳述するとおり、類似する。
(ア)本件商標「かどやの太白ごま油」は、その指定商品が「ごま油」であるため、自他商品・役務の識別力を発揮する部分(要部)は、「かどやの太白」である。
(イ)そして、「かどやの太白」に含まれる「かどや」の文字は、日本国においてありふれた姓である「角谷」の平仮名表記であり、自他商品・役務の識別力を発揮しない部分である。よって、本件商標の要部は「太白」である。
(ウ)本件商標が含む「太白」は、引用商標とは、称呼、観念及び外観が同一であって、同一又は類似する商標である。
(エ)以上のとおり、本件商標は、引用商標と同一ではないが、需要者、取引者が「太白」のみを抽出し、取引に当たることは明らかだから、引用商標と類似する。
イ よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、上記のとおり、引用商標と類似する。
また、引用商標は、上記のとおり、本件商標の登録出願時において、申立人が製造販売する「ごま油」の商標として、その取引業界及び一般消費者の間において、広く認識されていた商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号について
ア 本件商標は、申立人の業務に係る商品「ごま油」を表示するものとして、日本国内における需要者の間に広く認識されている引用商標と類似する。
イ また、本件商標は、以下によれば、不正の目的をもって使用をするものである。
(ア)本件商標の商標権者は「ごま油」の製造販売を業とするところ、申立人の事業内容と競合しており、周知な引用商標の存在を、本件商標の登録出願時において不知であるとは、到底考えられない。
(イ)また、申立人の「生搾りごま油」、すなわち、ごま油「太白」のシェアが60%を超えている状況が続いている一方(甲30)、申立人以外の他社が製造販売する「生搾り」のごま油のシェアは、A社及びB社とも30%以下であり、申立人のごま油「太白」の後塵を拝している。
かかる生搾りのごま油市場における優劣関係に鑑みれば、本件商標の商標権者は引用商標が申立人の製造販売に係る「生搾りごま油」の商標として需要者に広く認識されている顧客吸引力にただ乗りすべく本件商標の登録に及んだものであり、不正目的を有するものである。
(ウ)なお、本件商標の商標権者は現在、その製造販売に係る「生搾りごま油」を「かどやの純白」と表示して販売しており、「生搾り」のごま油を指し示す表示として商標権者独自の表示「純白」を使用している(甲60)。
かかる表示を使用しているにもかかわらず、あえて申立人が所有する「ごま油」の周知な商標「太白」の登録を試みる行為は、登録商標「太白」の顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する意図、及び「生搾り」の「ごま油」の購入に当たる需要者が認識している、「生搾りごま油」と「太白」の強固な結びつきを希釈(ダイリュート)する意図、すなわち、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正な目的)を有することは明らかである。
(エ)以上のとおり、本件商標の商標権者は、申立人の「ごま油」について周知な商標「太白」を自社の製造販売に係る「ごま油」に登録することは、不正の利益を得る目的、すなわち、申立人に損害を加える目的であるといわざるを得ない。
ウ 以上によれば、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件商標は、上記のとおり、引用商標とは、同一ではないが、類似する。
そして、本件商標の自他商品の識別力を発揮する部分「太白」と引用商標の「太白」が一致するため、類似する程度が高い。
イ 引用商標は、上記のとおり、その指定商品に含まれる「ごま油」について、1924年(大正13年)から継続的に使用している商標であって、本件商標の登録出願時点では、周知な商標であった。
そして、その周知性はテレビCMの放映状況(甲38?甲40)から、日本全国に及んでおり、一般消費者とともにプロの料理人においても認知されている(甲28)。また、非焙煎のごま油に関するスーパーマーケットにおけるシェア調査においても、60%以上のシェアを維持しており(甲30の1、2)、雑誌、新聞等を中心とする多くのメディアが、「太白」は申立人の製造販売するごま油の商標として紹介記事を執筆している(甲11?甲16、甲20?甲27)。
このように、引用商標は、申立人が製造販売するごま油の商標として周知性が極めて高い。
ウ 引用商標は、申立人が、1924年(大正13年)に創作した特定の観念を持たない造語である。
なお、申立人は、引用商標のほか「太白」及び「太白」を含む商標を登録している(甲2?甲6)ところ、これら指定商品及び指定役務の分野において、第三者がこれら商標を使用している事実も散見されない。
よって、引用商標は、独創性が高い。
エ 本件商標の指定商品「ごま油」と、引用商標が使用される「ごま油」は、極めて密接な関係にある。
オ 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は、取引者及び需要者が共通する。
カ 一般消費者における昨今の健康志向により、食用油脂を購入する際には「非焙煎」か「焙煎」か、「無香」か「有香」等、いくつかの判断ポイントを念頭に購入に及ぶことが一般的である。
そして、引用商標に係る「非焙煎」のごま油の分野では、複数のメーカーの商品が競合するから、購入においては、通常の注意力をもって商品選択を慎重に行い、購入すべき商品を特定する姿勢が一般的である。
また、ごま油は業務用にも使用されており、プロの料理人にとって、どの製造者のごま油を採択するかは調理の味付け等を左右する極めて大きな判断事項である(甲28)から、プロの料理人においては、ごま油の採択の際には相当の注意を払い、購入の判断を行う。
キ 以上によれば、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性
ア 申立人提出の証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。
(ア)申立人は、1725年に搾油業を行う「竹本製油所」として創業されたもので、1915年よりごま油の製造を本格的に開始、1924年頃から「太白胡麻油」(以下「申立人商品」という。)の製造販売を開始した(甲50)。
(イ)申立人商品は、圧搾製法にこだわった「マルホン胡麻油」のラインナップにある、生搾り、無香性のごま油であって、その容器のラベル部には、商品の種別や容量などにより多少態様は異なるものの、「本」の文字を円囲いしたロゴに近接(上下又は左右)するように、「太白」及び「胡麻油」の文字を表示している(甲52)。
ただし、申立人商品のうち、「製菓用 太白胡麻油」は、その容器のラベル部には、「Sesame Seed Oil」の文字と「太白胡麻油」の文字を上下二段に表示している(甲52、甲53)。
(ウ)申立人商品の販売実績は、スーパーマーケット市場において、月間で約3千9百万円(2020年7月)、約3千2百万円(2021年1月)とされる(甲33の1、2)。なお、家庭用ごま油の市場規模は、年間で305億円(2019年度)である(甲34)。
また、申立人商品の市場シェアは、「生搾りごま油」市場において、株式会社インテージによるSRI(全国小売店パネル調査)によれば、2016年から2021年の間で、おおむね6割から7割(2016年1月時点で64.5%、2021年1月時点で72.9%)である(甲30の2)。
(エ)申立人商品は、業界新聞や雑誌、書籍等において、「素材本来のおいしさを引き出す無香性の生搾りごま油『製菓用太白胡麻油』を提案」、「竹本油脂『マルホン胡麻油』/家庭用のブランド展開強化」、「『マルホン胡麻油』大幅刷新」、「竹本油脂がマルホン胡麻油の新CMを放映」等の見出しで、商品の名称(「製菓用太白胡麻油」、「太白胡麻油」、「マルホン太白胡麻油」など)を表示しながら商品紹介をする記事が掲載されている(甲11?甲27)。
なお、上記記事の中には、申立人商品を指称する略称として「太白胡麻油」の文字に続けて「太白」の文字を文章中に使用する記事(甲13、甲14)もわずかにあるが、当該文字を申立人商品の名称や略称として積極的に周知するような記述はみられない。
また、申立人の広報誌における申立人商品に言及する記事の中には、申立人商品の写真を掲載したり、「太白胡麻油」の文字を食材や料理の材料等として表示(「太白胡麻油90ml」、「太白胡麻油 140g」など)するものがあっても、引用商標に相当する「太白」の文字を申立人商品の名称や略称等として積極的に周知するような記述は確認できない(甲59の1?12)。
(オ)申立人商品に係る「マルホン胡麻油」のテレビCM(ウェブサイト広告を含む。)が、2020年に放映された「太白編」を含み、日本全国で放映された実績がある(甲39、甲40、甲55?甲57)。
イ(ア)以上によれば、申立人商品は、長年(1924年?)にわたり、「マルホン胡麻油」の「太白胡麻油」として製造、販売されており、継続的な販売実績(2020年頃に月間で約3?4千万円)や広告宣伝実績(雑誌、新聞、テレビCM等)がある実情はうかがえる。
しかしながら、申立人商品は、取引業界においては、「マルホン」(又は「マルホン胡麻油」)の「太白胡麻油」として通称されることがあるとしても、以下(2)ア(ア)のとおり、「太白胡麻油」は「焙煎しないごま油」の意味合いを認識させる状況にある中において、引用商標に相当する「太白」の名称又は略称で通称されている実態は具体的に把握できない。また、申立人商品の容器のラベル部には、「マルホン」に相当するようなロゴに近接して、「太白」と「胡麻油」の文字が一体的に表示されている、又は「太白胡麻油」の文字が横一列にまとまりよく表示されているから、引用商標が独立した態様で表示されてもいない。
さらに、申立人商品の広告宣伝(業界紙や雑誌、書籍等)における商品紹介の際も、商品の名称(「製菓用太白胡麻油」、「太白胡麻油」、「マルホン太白胡麻油」など)を表示することがあっても、引用商標「太白」が商品名やその略称として積極的に周知が図られてはいない。
加えて、申立人商品の販売規模にしても、「生搾りごま油」市場という限定的な業界において高い市場シェアを占めているとしても、家庭用ごま油の市場規模は年間で305億円(2019年度)ある中では、申立人商品の年間で4億円から5億円程度の販売規模(2020年頃の売上げから推定)はごま油市場全体の中でわずかな規模にすぎない。
したがって、申立人商品の名称中に含まれるにすぎない引用商標が、「ごま油」に係る需要者の間において、申立人商品の名称や略称として、周知、著名になるに至っているとは考えにくい。
(イ)申立人は、株式会社博報堂を通じて2020年に実施した「ごま油消費者認知調査」(甲37)の結果から、「マルホンブランド」や「太白」の認知度が高い旨を主張するが、当該調査は、申立人が関与する調査であることに加えて、調査対象者数(312名)も多くはないこと等を踏まえると、我が国の一般の需要者層における認識を推し量ることのできる客観的な調査とは評価し難いばかりか、その質問方法(思い浮かぶブランド名を書く、知っている商品名を選ぶ)を踏まえても、申立人商品に係る漠然とした知名度や認知度を反映するとしても、申立人商品の名称中に含まれるにすぎない引用商標「太白」についての知名度や認知度までを推し量ることはできない。
(ウ)申立人は、2020年に放映された「太白編」のテレビCM(甲39)において、「太白」が発声されたことで、引用商標の周知が図られた旨を主張するが、当該テレビCMにおいて、引用商標を申立人商品の名称や略称等として積極的に周知しているものでもなく、それだけをもって、視聴者や需要者の間において、「太白」が申立人商品の名称又は略称であると広く浸透するものとまでは評価しがたい。
(エ)以上のとおり、申立人提出の証拠からは、引用商標が、申立人の業務に係る商品について使用する商標として、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、取引者、需要者の間に広く認識されていたとは認めることができない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標と引用商標の類否
(ア)本件商標は、「かどやの太白ごま油」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ大きさ及び書体で、間隔なく、横一列にまとまりよく表してなるもので、それより生じる「カドヤノタイハクゴマアブラ」の称呼も、格段冗長ではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、辞典等(「総合 調理用語事典[特装版]、公益社団法人全国調理師養成施設協会発行)において「ごまあぶら【胡麻油】」の項に「ゴマの種子(油分35?56%)から圧搾によって採取される油。焙煎しない太白ごま油もあり、いり具合によって油の色と香りが変わる。」などの記載があることを踏まえると、本件商標の構成中「太白ごま油」の文字部分は、「焙煎しないごま油」の意味合いを認識させるもので、その指定商品(ごま油)との関係においては、自他商品の出所識別標識としての機能がない、又は極めて弱いものといえる。
なお、申立人は、本件商標の構成中「かどや」の文字部分がありふれた氏を表すものである旨主張しているが、その主張を裏付ける具体的な証拠もなく、また、当審において職権調査するも、当該文字が本件商標の商標権者の名称や商品と関連して使用されている事実(甲60)はみられても、ありふれた氏であることを示す事実は発見できなかった。
そうすると、本件商標は、各構成文字が主従、軽重の差なく、まとまりよく表されていることも相まって、構成文字全体として一連一体の造語(商品名)を表してなると認識、理解できるもので、特定の文字部分(特に「太白」の文字部分)が、出所識別標識として独立した、強く支配的な印象を与えるような構成よりなるものではない。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して、「カドヤノタイハクゴマアブラ」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。
(イ)引用商標は、「太白」の文字を表してなるところ、その構成文字は「『太白星』の略。精製した純白の砂糖。」などの意味を有する語(「広辞苑 第7版」岩波書店)であるが、一般に親しまれて使用されている語ではないから、特定の意味合いを直ちに認識、理解させるものではない。
そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「タイハク」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。
(ウ)本件商標と引用商標を比較すると、外観においては、構成文字の中間に「太白」の文字を含む点で共通するとしても、語頭及び語尾の文字部分(「かどやの」、「ごま油」)の有無により、構成文字全体としては明らかに異なる語を表してなるから、判別は容易である。また、称呼については、全12音中、中間音の「タイハク」の4音を共通にするが、語頭及び語尾の構成音(「カドヤノ」、「ゴマアブラ」)の有無により、全体としては音数及び構成音が明らかに異なるから、聴別は容易である。さらに、観念については、いずれからも特定の観念は生じないため、比較できない。
そうすると、本件商標は、引用商標とは、外観及び称呼のいずれも相紛れるおそれはなく、観念において比較できないから、同一又は類似の商品について使用するときでも、互いに別異の印象を与えるもので、出所について誤認混同を生じるおそれはないため、互いに類似しない。
イ 以上のとおり、本件商標は、引用商標とは同一又は類似する商標ではないから、その指定商品について比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 本件商標は、引用商標とは、上記(2)アのとおり、同一又は類似する商標ではない。
イ また、引用商標は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間で、広く認識されている商標ではない。
ウ したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されている商標又はそれに類似する商標ではないから、その指定商品について言及するまでもなく、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標は、上記(1)のとおり、我が国において申立人の業務又はその業務に係る商品として、需要者の間において広く知られているものではなく、何より、本件商標と引用商標は、上記(2)アのとおり、互いに別異な印象を与えるものであるから、本件商標をその指定商品について使用するときであっても、その需要者及び取引者をして、申立人又は引用商標との関連性を連想、想起させることは考え難く、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
イ したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標ではないから、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 本件商標は、上記(2)アのとおり、同一又は類似する商標ではない。
イ また、引用商標は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、日本国内における需要者の間で、広く認識されている商標ではない。
ウ さらに、本件商標が、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的など)をもって使用、出願されたことを認めるに足る証拠はない。
なお、申立人は、本件商標権者が引用商標を認識していたことなどを根拠に、本件商標の使用及び登録に不正の目的があった旨を主張するが、それは具体的な証拠に基づかない単なる憶測による主張であるばかりか、他人の商標を認識していたことが直ちに不正の目的に結びつかないこと明らかである。
エ したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標ではなく、不正の目的をもって使用をするものとも認められないから、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれの規定にも違反してされたものではなく、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
異議決定日 2021-08-31 
出願番号 商願2020-84229(T2020-84229) 
審決分類 T 1 651・ 263- Y (W29)
T 1 651・ 253- Y (W29)
T 1 651・ 262- Y (W29)
T 1 651・ 251- Y (W29)
T 1 651・ 222- Y (W29)
T 1 651・ 271- Y (W29)
T 1 651・ 261- Y (W29)
T 1 651・ 255- Y (W29)
T 1 651・ 252- Y (W29)
最終処分 維持  
前審関与審査官 浦辺 淑絵 
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 鈴木 雅也
阿曾 裕樹
登録日 2021-02-09 
登録番号 商標登録第6350252号(T6350252) 
権利者 かどや製油株式会社
商標の称呼 カドヤノタイハクゴマアブラ、カドヤノタイハク、カドヤノ、カドヤ、タイハクゴマアブラ、タイハク 
代理人 田辺 敏郎 
代理人 前田 大輔 
代理人 中村 知公 
代理人 田辺 恵 
代理人 伊藤 孝太郎 
代理人 朝倉 美知 
代理人 特許業務法人タナベ・パートナーズ国際特許事務所 

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