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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W44
管理番号 1376915 
審判番号 取消2019-300167 
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2019-03-01 
確定日 2021-07-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5825462号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5825462号商標の指定商品及び指定役務中、第44類「医療情報の提供,栄養の指導」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5825462号商標(以下「本件商標」という。)は、「リップス」の文字を標準文字で表してなり、平成26年12月26日に登録出願、第44類「医療情報の提供,栄養の指導」を含む、第3類、第8類、第21類、第35類、第41類、第42類及び第44類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同28年2月12日に設定登録がされ、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録は、平成31年3月14日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成28年(2016年)3月14日から同31年(2019年)3月13日までの期間(以下「要証期間」という。)である。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第44類「医療情報の提供,栄養の指導」(以下「本件役務」という。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、本件役務を提供していない
ア 被請求人は、本件商標をフランチャイジーであるO氏に使用許諾したことを主張するが、被請求人はフランチャイジー、すなわち通常使用権者であるO氏が本件役務について本件商標を使用したことの主張立証をしていないから、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」3年以上使用していないことに対する反証となっていない。
イ また、被請求人は、商標権者である被請求人が、その100%子会社である株式会社リップス(乙2)を通じて、本件役務について本件商標を使用したと主張するが、被請求人は株式会社リップスの株主構成を客観的に明らかにしておらず、当該会社が被請求人の100%子会社であることをなんら立証していない。また、仮に100%子会社であると考えてみても、被請求人と株式会社リップスは別法人であるのであるから、株式会社リップスによる役務の提供や商標の使用が被請求人による役務の提供や商標の使用と同視されることはない。
ウ 次に、被請求人は、フランチャイザーである被請求人とフランチャイジーであるO氏との間の契約を定めた「リップスパートナーサロン契約書」なる契約書の第8条第1項に、フランチャイジーであるO氏は、自身又はその従業員にフランチャイザーである被請求人の指定する研修を受講させなければならない旨定められていることを根拠に、フランチャイザーである被請求人はフランチャイジーであるヘアサロンに対して本件役務を提供していると主張する。しかしながら、同項は、単にフランチャイジーはフランチャイザーが指定した研修を受講しなければならないとするのみであって、フランチャイザーが「医療情報の提供,栄養の指導」を行うことを必ずしも意味しない。
この点、被請求人は、フランチャイジーである原宿店のヘアサロンで、口臭についてのセミナーが開催されたことも根拠として主張している。しかしながら、当該セミナーの講師を務めたF氏のフェイスブックの写しである乙第4号証の1、2?3頁に「今日、私がスタッフみんなに伝えたいことの、まず一つ目、スタッフの方に、口臭予防にはどんなことがありますか?と聞いてみました。」などと記載されていることより明らかなように、当該セミナーは、F氏がその内容を企画し、開催したものであって、被請求人が企画等したものではなく、被請求人は、原宿店に対し、F氏によるセミナーの受講を指定したにすぎない。このことは、当該セミナーにおいて配布された資料である乙第4号証の2に「プライベートデンタルサロンFukudaMKM F」と記載されており、「株式会社レスプリ」とは記載されていないことからも裏付けられる。
また、被請求人自身認識するように、当該セミナーは「セミナー」が開催されたのであって、「医療情報の提供、栄養の指導」の役務が行われたわけではない。被請求人は、「個々の相談等にも応じる場があった」ことを論拠とするように見受けられるところ、その事実は立証されていない。そして、仮にそのような事実があったとして、セミナーに付随してセミナー中又はその前後にセミナー講師が個々の相談等に応じることは、独立した役務ではなく、被請求人の主張は失当である。すなわち、我が国の商標法上、「役務」とは「他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきもの」(甲1)と解されているのであって、かかる相談等は独立性を有しない。
さらにいえば、かかる相談等を付随するセミナーないし講習自体も、あくまで被請求人とフランチャイズ契約をしたフランチャイジーに対してのみ開催されるものであり、フランチャイズ契約によって被請求人が行うべき経営指導業務(乙3の1、第1条第2項)の一環又はそれに付随するものにすぎない。フランチャイジーである各ヘアサロンは、被請求人により指定された研修ないし講習を受講する義務があるのみであり(乙3の1、第8条第1項)、被請求人が行うフランチャイジー向けの講習それ自体を商取引の対象として選択し得るものではないのであるから、被請求人によるフランチャイジー向けの講習は独立性を有しない。
エ 被請求人は、乙第5号証に基づき、産業医を選任し、フランチャイジーに対する経営指導業務及び経営管理業務の補助の一環として、フランチャイジーのスタッフに対して健康管理等を行っていると主張する。しかしながら、乙第5号証からは、実際に産業医が健康管理等を行った事実をなんら認めることができない。そして、仮にそのような事実があったとして、産業医による健康管理等は、当然のことであるが、当該産業医が行う行為であって、医師ではない被請求人の行為ではない。
また、仮に産業医による健康管理等の行為があったとして、あくまで被請求人とフランチャイズ契約をしたフランチャイジーに対してのみそれらは提供されるものであり、被請求人も自ら認めるように、フランチャイズ契約によって被請求人が行うべき経営指導業務及び経営管理業務(乙3の1、第1条第2項)の一環又はそれに付随するものにすぎず、商標法上の「役務」に要求される独立性を有しない。
加えて、フランチャイザーである被請求人がフランチャイジーである各ヘアサロン向けに医療情報の提供等を形式的には行っていると解した場合においても、フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該行為は、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループ内の情報提供等であるにとどまり、他人のために提供される商標法上の「医療情報の提供、栄養の指導」には該当しないというべきである。
(2)被請求人は、本件役務に関する「取引書類」を「頒布」していない
ア 被請求人は、「リップスパートナーサロン契約書」なる契約書(乙3の1)は、商標法第2条第3項第8号に定める本件役務に関する取引書類に該当し、当該取引書類はフランチャイジーであるO氏に頒布されたから、被請求人は、本件役務について、本件商標を使用したと主張する。しかしながら、同号は、「・・・役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して・・・頒布・・・する行為」であるところ、ここで「頒布」とは、「広告等が一般に閲覧可能な状態になっていること」を意味すると解される(甲2)。また、「頒布」とは、「広くゆきわたるように分かちくばること」(甲3)を意味する語である。被請求人が同号の「取引書類」に該当すると主張する前記契約書は、被請求人が、極めて限られた数のフランチャイジーとの契約において契約相手であるフランチャイジーに示したものにすぎないから、同号に定める「頒布」の対象となったものではない。実際、被請求人は、乙第3号証の1において、いくつかのマスキングをしており、明らかに「一般に閲覧可能な状態」ではない。また、前記契約書では、フランチャイジーは、契約終了後も含めてフランチャイザーから受領した情報について守秘義務を負っており、これを「一般に閲覧可能な状態」とすることは許されない。
イ フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループ内でのみ行われる書類の受け渡しは、到底「頒布」と評価し得るものではない。
ウ フランチャイザーである被請求人がフランチャイジーである各ヘアサロン向けに医療情報の提供等行っていると解する余地があるとしても、当該行為は、商標法上の「役務」には該当しないのであるから、前記契約書は、役務「医療情報の提供、栄養の指導」との関係において、商標法第2条第3項第8号規定の「役務に関する・・・取引書類」に該当する余地はない。
(3)被請求人は、本件商標と実質的同一の商標を使用していない
ア 被請求人は、乙第3号証の1の契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」の文字が付されていることをもって、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されていると主張するが、「リップスパートナーサロン契約書」の文字のうち「パートナーサロン契約書」の文字を捨象して「リップス」の文字のみが出所識別標識として機能するから、これは「リップス」と社会通念上同一であるとする被請求人の主張にはなんら理由がない。
「リップスパートナーサロン契約書」の文字において、「契約書」の部分については、当該文字が契約書に付されているという取引実情に鑑みれば、これが出所識別標識として需要者に強い印象を与えるものではないと考え得るものの、称呼において淀みなく発音され、外観において片仮名でまとまりよく構成された「リップスパートナーサロン」の文字は、いずれかの部分のみが強く支配的な印象を与えるものではなく、その構成文字全体をもって需要者ないし取引者に認識される。
イ フランチャイズ契約を「パートナーサロン契約」と呼称することが一般的であるわけでもなく、被請求人自身、乙第3号証の1、2頁冒頭において「以下のとおりフランチャイズ契約(通称、『リップスパートナーサロン契約』、以下、『本契約』という)を締結する」と記載し、被請求人独自の呼称として「リップスパートナーサロン契約」の語を用いている。このような語を「リップス」と社会通念上同一と評価する理由はない。
ウ さらに、前記契約書に「リップスパートナーサロン契約書」と記載されているとおり、当該書類が契約書であることは、それを目にしたフランチャイジーにおいて明らかであり、「リップスパートナーサロン契約書」の文字はそのタイトルを単に示すものとして用いられているにすぎず、自他役務の識別標識たる商標として用いられているものではない。
エ また、被請求人は、乙第4号証の7の請求書に「株式会社リップス」の文字が表示されていることをもって、本件商標「リップス」と社会通念上同一の商標が使用されているとも主張する。
しかしながら、当該請求書に普通に用いられる方法で表示された「株式会社リップス」の文字は、商号を表すものにすぎず、自他商品役務の識別標識として付されたものではないから、被請求人の主張には理由がない。
ここで、被請求人は、「株式会社リップス」が本件商標の「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれ」かであること、そして当該請求書は「頒布」されたことを主張立証していないことを念のため付言する。
また、乙第4号証の7の請求書は、当該請求書が本件役務である「医療情報の提供、栄養の指導」に関する取引書類であることが不明である。
(4)結語
以上のとおり、被請求人は、本件役務の提供の事実、本件商標の使用の事実などを主張するものの、被請求人の主張する各行為は、本件役務との関係における商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによる本件商標の使用には該当しないことから、本件商標は、その登録の取り消しを免れない。
なお、被請求人は、乙第3号証の2(覚書)が乙第3号証の1(契約書)の第1条第1項の「別紙」に当たる旨主張するところ、当該契約書と覚書は、同一の締結日であるにも関わらず、フランチャイジーである乙の印影が異なり、被請求人の主張には、その全体において重大な疑義があることを付言する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第6号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)商標権者は、以下のとおり、要証期間内に、本件商標を、請求に係る役務である第44類「医療情報の提供,栄養の指導」について使用している。
(2)商標権者は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しているところ、乙第3号証の1は、そのフランチャイズ契約書の写しであり、このことは、同乙号証の2頁の冒頭の「乙及び丙は、甲をフランチャイザー(サブ・フランチャイザー)、乙をフランチャイジー、丙を連帯保証人として、以下のフランチャイズ契約?を締結する。」の文言からも明らかである。また、乙第3号証の2は、乙第3号証の1のフランチャイズ契約書第1条第1項の別紙に当たる覚書の写しであり、本件商標も使用許諾した商標に含まれている。
その契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」として、「リップス」の商標が使用されている。「パートナーサロン契約書」の文字を伴ってはいるが、該文字部分が、ヘアサロンに関するフランチャイズ契約との関係においては出所識別標識としては全く機能しない部分であって、出所識別標識としての使用に係る商標は「リップス」の文字部分といえる。そうすると、その使用に係る商標と本件商標とは、社会通念上同一の商標ということができる。
(3)乙第3号証の1の契約書の研修を定める第8条第1項には、フランチャイジーは、自身又はその従業員にフランチャイザーの指定する研修を受講させなければならないとされている。特に、商標権者が展開するのは、ヘアサロンのフランチャイズであり、その美容師が顧客と接する距離が近く、その時間が長いため、スタッフの口臭や体臭が顧客の満足度に大きく影響することを踏まえ、これらに関する研修、指導や情報の提供も盛んに行っている。
その実例として、被請求人は、昨年の2月ないし3月にかけて、その100%子会社である株式会社リップスを通じて実施した「口臭セミナー」に関する証拠を乙第4号証として提出する。それら乙号証には「セミナー」となっているが、そのセミナーにおいては、医療の見地から口臭に関する情報がもたらされるとともに、個々の相談等にも応じる場であったので、「医療情報の提供,栄養の指導」にも該当するものといえる。先ず、乙第4号証の1は、その講師を務めたプライベートデンタルサロンFukuda MKMのF氏のフェイスブックの写しである。「2018年2月28日」の日付とともに、「大手美容室LIPPSで、口臭についてのセミナーを行いました。」、「この原宿店のスタッフ30数名に、今日は、口臭セミナーを行いました。」などの記述の後に、スタッフに伝えた内容も記述されている。乙第4号証の2は同セミナーで配布された資料の一部の抜粋の写し、乙第4号証の3は原宿店での受講風景の写真の写し、乙第4号証の4は吉祥寺annex店での受講風景の写真の写し、乙第4号証の5はRayGINZA店での受講風景の写真の写し、乙第4号証の6は参加者の名簿(抜粋)の写しである。乙第4号証の3の写真の4枚目の写真をみると、受講生の男性が乙第4号証の2の資料を所持しているのが分かる。そして、乙第4号証の7は、商標権者の100%子会社である株式会社リップスから乙第3号証の契約書のフランチャイジーの乙に当たるO宛ての請求書の写しであり、その請求内容欄に「口臭セミナー料金」が掲載されていることからも、当該役務の提供がなされたことは明らかといえる。
(4)加えて、乙第3号証の契約書第1条により、フランチャイザーは経営指導業務や経営管理業務の補助を行うとされているところ、商標権者は、100%子会社である株式会社リップスを通じて、産業医を選任し、フランチャイジーのスタッフに対して、健康管理等について、当該産業医による医療の専門的な立場からの指導・助言や情報の提供を行っている。産業医は、労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には選任が義務付けられているものであり、労働安全衛生規則により、労働者の健康管理、健康教育、健康相談、衛生教育等を行うことが定められており、それらの補助の一環ともいえる。そして、乙第5号証は、東都三軒茶屋クリニックのK院長との産業医の就任に関するメールのやり取りの写しであり、その中にも、〈1〉職場の環境衛生、〈2〉個人の健康管理(ストレスチェックシート配布・回収・個別相談、1?2回/年実施、〈3〉衛生情報の指導(健康だより(1回/月;花粉症、インフルエンザ、日焼けなどテーマ)、感染症(エイズ、肝炎、性病)、資料配布))(審決注:〈1〉ないし〈3〉は、○の中に1ないし3の数字。)などと記載されており、本件役務である「医療情報の提供,栄養の指導」も、それら産業医の業務に含まれることは明らかである。
(5)そうすると、フランチャイザーである商標権者は、フランチャイズ契約に基づき、フランチャイジーであるヘアサロンに対して、「医療情報の提供,栄養の指導」の役務を提供しているといえるのであり、その契約を定めた契約書は商標法第2条第3項第8号に定める役務に関する取引書類に該当する。そして、同契約書の末尾には「甲、乙及び丙は上記のとおり合意したので、本契約に署名、捺印をなし、3通作成のうえ、各自1通宛保有する。」とあり、契約日として「平成29年4月5日」と記載されているところ、契約日である「平成29年4月5日」は要証期間内であり、同契約書が要証期間内にフランチャイジーであるヘアサロンの乙に頒布されたことは明らかであるから、商標権者は、要証期間内に、本件商標と社会通念上同一の商標を本件役務について使用しているといえる。
また、乙第4号証の7の請求書も、取引書類に認当するところ、そこには「株式会社リップス」の文字が表示されているが、「株式会社」の文字部分が会社法によって義務付けられた会社の種類を表す文字であるため、出所識別標識として捉えられるのは「リップス」の文字部分にあり、その使用に係る商標と本件商標は社会通念上同一の商標ということができる。
(6)以上のとおり、本件商標は、要証期間内に、日本国内において、商標権者又は使用権者により、本件役務について使用されていたことが明らかであるから、本件審判請求は成り立たない。
2 審尋に対する回答(令和3年2月15日付け回答書)
(1)乙第5号証の医師との関係について
本審判の請求に係る第44類「医療情報の提供,栄養の指導」については、乙第4号証によって使用証明がされているものと考えるため、乙第5号証の医師との関係を証明するための資料の追加提出は行わない。
ただし、乙第4号証に関連して、株式会社リップスが被請求人の100%子会社であることを証明する書類を追加で提出する(乙6)。
(2)乙第5号証の医師が役務を提供した事実、提供日時、提供場所、商標の使用について
上記のとおり、乙第5号証の医師との関係については、追加の資料提出を行わないので、提供した事実等についての資料も同様とする。
(3)既に提出された証拠により、被請求人が提携している講師を介して、フランチャイジーに対して、口臭予防に関する医療情報の提供を行っていることが立証されているので、本件商標が本件役務について要証期間内に使用されていることは明らかである。
(4)以上より、本件商標が要証期間内に本件役務の広告(乙4の1のウエブサイト上の「リップス」の表示)及び取引書類(契約書)に表示されていたことが明らかであり、商標法第2条第3項第8号の使用に該当する。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)株式会社リップスは、本件商標権者(被請求人)の100%子会社であり、美容業を展開している(乙2、乙6)。
また、被請求人は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しており、「LIPPS自由が丘店」は、平成29年4月5日付けの被請求人との「リップスパートナーサロン契約書」と称するフランチャイズ契約書(以下「本件契約書」という。)に基づいて、O氏によって運営されている店舗である(乙3)。
(2)本件契約書第1条第2項に、「甲(フランチャイザー)は乙(フランチャイジー)のために、以下の経営指導業務及び予算の作成等の経営管理業務の補助を行うものとする。」(審決注:括弧内の記載は合議体が付加。)として「〈1〉個別経営指導 〈2〉計数管理指導・・・〈6〉上記業務に付帯・関連する一切の業務」(審決注:〈1〉、〈2〉、〈6〉は、○の中に1、2又は6の数字。)記載があり、第8条第1項に、「甲による研修」として、「乙は、ヘアサロン営業にあたって、高度の技術を維持し、かつ日々研鑽するものとし、また、乙自身又は乙の従業者をして、甲が指定する研修を受講させなければならない。」の記載がある(乙3の1)。そして、被請求人は、美容師は顧客と接する距離が近く、その時間が長いため、口臭や体臭が顧客の満足度に大きく影響することを踏まえ、これらに関する研修、指導や情報の提供も盛んに行っていると主張している(前記第3の1(3))。
(3)乙第4号証によると、F氏のフェイスブックに、2018年2月28日の記事として、「大手美容室LIPPSで、口臭についてのセミナーを行いました。」の記載、「この原宿店のスタッフ30数名に、今日は、口臭セミナーを行いました。」の記載がある。また、被請求人のフランチャイジーである自由が丘店の従業員もこれを受講していることがうかがえる(乙4の6)。そして、2018年3月31日付けの株式会社リップスからO氏に宛てた請求書(乙4の7)によると、「請求内容」の欄に「口臭セミナー料金」が記載されていることから、前記セミナーの費用が請求されたことが推認される。
(4)乙第5号証によると、「産業医の就任について(先日お願いした件)」と題した、東都三軒茶屋クリニックのK院長と株式会社リップスのN氏とのメールやりとりがあり、業務内容として、「〈1〉職場の環境衛生、〈2〉個人の健康管理、〈3〉衛生情報の指導、〈4〉健康異常者の継続管理、〈5〉要医療者の継続加療」(審決注:〈1〉ないし〈5〉は、○の中に1ないし5の数字。)がK院長より提案され、その内容が依頼されていることがうかがえる。そして、乙第5号証の2葉目から確認できる日付は、2019年2月2日、4葉目から確認できる日付は同年2月7日である。
2 請求に係る役務についての登録商標の使用が行われたか否かについて
(1)判断
商標法上の役務とは、他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たり得べきものである。
そこで前記1で認定した事実に基づいて判断すると、乙第3号証の1における、本件契約書第1条第2項におけるヘアサロンのフランチャイズ契約に係る経営補助等に関する記載から、商標権者(通常使用権者)が、業として「医療情報の提供,栄養の指導」を行うことが定められたものとみることは困難であるし、第8条第1項の記載は、フランチャイザーによる研修に関する定めであって、「医療情報の提供,栄養の指導」の役務の提供を定めたものとは認められないから、商標権者(通常使用権者)が、業として「医療情報の提供,栄養の指導」を行っていることの根拠にはなり得ない。
そして、乙第4号証により、2018年2月28日時点において、自由が丘店を含む美容室LIPPSの各店舗の従業員が、F氏を講師とする口臭についてのセミナーを受講したことと、2018年3月31日付けで株式会社リップスからO氏に当該セミナーの料金が請求されたことは確認できる。しかしながら、当該行為は、被請求人が、顧客満足度を向上させるために、ヘアサロンのフランチャイズ契約に基づいて、美容室のスタッフ(美容師)に対して受講を義務付けている「研修」(又は、当該研修の一環として行っている「セミナーの開催」)とみるのが相当であって、商標権者(通常使用権者)が、業として「医療情報の提供」を行っているとみることはできない。
乙第5号証からは、遅くとも2019年2月2日時点において、美容室LIPPSの従業員の健康管理等を行うための産業医の就任について、東都三軒茶屋クリニックのK院長と株式会社リップスのN氏とのメールやりとりがあったことは確認できるものの、これよりは、就任についての承諾があった事実がうかがえるにとどまり、実際に健康管理等が行われたことは確認できないばかりか、被請求人やその100%子会社が本件役務を提供したとみるべき証左も見当たらない。さらに、本件役務が提供されるにあたり、本件商標が使用された事実は主張も立証もされていない。
以上のとおり、乙第4号証及び乙第5号証からは、被請求人やその100%子会社が他人のために独立して商取引の目的たり得る「医療情報の提供,栄養の指導」を行ったものとみることはできない。
したがって、被請求人が、本件役務についての本件商標の使用をしていることを認めることはできない。
(2)被請求人の主張について
被請求人は、本件商標が要証期間内に本件役務の広告(乙4の1のウエブサイト上の「リップス」の表示)及び取引書類(契約書)に表示されていたことが明らかであり、商標法第2条第3項第8号の使用に該当すると主張する。
しかしながら、乙第4号証の1は、前記1(3)のとおり、F氏のフェイスブック記事のスクリーンショットとみられるところ、スクリーン上の別タブとして、「美容室LIPPS(リップス)公式アプリ」が立ち上げられている様子が映り込んではいるものの、フェイスブック記事中には被請求人の主張するような「リップス」の片仮名の表示は見当たらない。また、フェイスブック記事の「大手美容室LIPPSで、口臭についてのセミナーを行いました。」等の記載における「LIPPS」の欧文字の表示は、美容室(役務「美容の提供」)に係るものというのが相当であって、本件役務に係る広告ということはできない。
また、本件契約書は、前記第3の1(2)のとおり、ヘアサロンに関するフランチャイズ契約書である上、第8条第1項は研修についての条項であり、本件役務に係るものとみることは困難であるから、本件役務に係る取引書類ということはできない。
よって、被請求人が本件役務を提供していると認められないことはもとより、上記の使用はいずれも同号に該当する使用であると認めることはできない。
したがって、被請求人の前記主張は採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり、被請求人が、請求に係る役務についての本件商標の使用をしていることを証明したとはいえないから、商標法第50条第2項に規定されているその他の使用の要件について論及するまでもなく、被請求人の提出に係る証拠によっては、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る役務についての本件商標(本件商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしていることを被請求人が証明したとはいえない。
また、当該使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしたともいえない。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品及び指定役務中、請求に係る役務について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2021-05-13 
結審通知日 2021-05-18 
審決日 2021-06-17 
出願番号 商願2014-110409(T2014-110409) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (W44)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 聡一 
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 綾 郁奈子
板谷 玲子
登録日 2016-02-12 
登録番号 商標登録第5825462号(T5825462) 
商標の称呼 リップス 
代理人 大谷 寛 
代理人 特許業務法人大島・西村・宮永商標特許事務所 

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