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審決分類 |
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W33 審判 一部無効 商品(役務)の類否 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W33 審判 一部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W33 審判 一部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W33 審判 一部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W33 |
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管理番号 | 1376888 |
審判番号 | 無効2020-890084 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2020-12-10 |
確定日 | 2021-07-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6231088号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第6231088号の指定商品及び指定役務中,第33類「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,ぶどう酒,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」についての登録を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6231088号商標(以下「本件商標」という。)は,「余市川ワイナリー倶楽部 碧」の文字を標準文字で表してなり,令和元年6月19日に登録出願,第33類「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,ぶどう酒,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」及び第43類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定商品及び指定役務として,同2年2月14日に登録査定,同年3月2日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が,本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は次のとおり(以下,これらをまとめて「引用商標」という。)であり,いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。 1 登録第1875291号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の構成:別掲1のとおり 登録出願日:昭和59年5月31日 設定登録日:昭和61年7月30日 書換登録日:平成19年2月7日 指定商品:第32類「ビール」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」 2 登録第1901694号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:別掲2のとおり 登録出願日:昭和59年9月7日 設定登録日:昭和61年10月28日 書換登録日:平成19年3月7日 指定商品:第32類「ビール」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」 3 登録第6119144号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の構成:別掲3のとおり 登録出願日:平成30年5月22日 設定登録日:平成31年2月1日 指定商品:第33類「日本酒,泡盛,合成清酒,焼酎,白酒,清酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,麦芽及び麦を使用しないビール風味のアルコール飲料,麦芽または麦を使用したビール風味のアルコール飲料(ビール、ビール風味の麦芽発泡酒を除く。),中国酒,薬味酒」 4 登録第6132660号商標(以下「引用商標4」という。) 商標の構成:別掲4のとおり 登録出願日:平成30年6月26日 設定登録日:平成31年3月22日 指定商品:第33類「ウイスキー,日本酒,泡盛,合成清酒,焼酎,白酒,清酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,麦芽及び麦を使用しないビール風味のアルコール飲料,麦芽または麦を使用したビール風味のアルコール飲料(ビール、ビール風味の麦芽発泡酒を除く。),中国酒,薬味酒」 第3 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第63号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 無効の理由 本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号によって,その指定商品及び指定役務中,第33類の「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,ぶどう酒,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」の登録は無効とされるべきである。 2 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)引用商標の周知著名性 ア ウイスキー「碧」の宣伝広告 「碧」は,請求人のグループ会社であるサントリースピリッツ株式会社が,ビームサントリー社と共同して作り上げたウイスキーの名称である(甲7の1?3)。ウイスキーの原酒不足が深刻な問題となっている昨今,世界5大ウイスキー産地(アイルランド,スコットランド,米国,カナダ,日本)の自社蒸留所でつくられた原酒のみをブレンドした世界初のウイスキーは,その販売開始前から大変な注目を集めてきた。 その一証左として,日本経済新聞(甲8の1,2),読売新聞(甲9)といった全国紙はもちろん,神戸新聞(甲10),山梨日日新聞(甲11),岐阜新聞(甲12),京都新聞(甲13),奈良新聞(甲14),福井新聞(甲15),北日本新聞(甲16),日本海新聞(甲17),東奥日報(甲18)といった地方紙や共同通信社(甲19)のような大手の通信社でも,「碧」ブランドのウイスキーの誕生が広く取り上げられている。 テレビ放送では,テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」(甲20)や毎日放送の「ミント!」(甲21),テレビ大阪の「やさしいニュース」(甲22)といった視聴率の高い情報番組において,ウイスキー「碧」の発売開始のニュースが大々的に取り上げられている。 雑誌では,総合ビジネス金融紙である日刊ゲンダイ(甲23の1,2)において,複数回にわたって「碧」の誕生と誕生に至るまでの歴史が紹介され,その広告には多くの紙面が割かれている(甲23の2)。このほか,「GetNavi」(甲24)や「味の手帳」(甲25),お酒をめぐるカルチャーマガジンである「月刊たる」(甲26)といった「酒」をテーマとする雑誌における掲載はもちろん,「日経ビジネス」においては,「碧」のチーフブレンダーである福輿伸二氏が,世界を動かす日本人50の1人として選出・紹介されている(甲27)。さらに,男性誌として名高い「LEON」においては,「碧」の誕生秘話が紹介されている(甲28)。 インターネットでは,「Yahoo!ニュース」(甲29),「日本経済新聞電子版」(甲30),「毎日新聞電子版」(甲31),「朝日新聞DIGITAL」(甲32)といった名だたるサイトにおいて,複数回にわたってウイスキー「碧」の発売情報が掲載され,「ウォーカープラス」(甲33),「たのしいお酒.jp」(甲34),「食楽web」(甲35の1,2),「Hanako.tokyo」(甲36),「週刊アスキー」(甲37)といったサイトでは,発売情報に加えて,各産地の個性や飲み方による印象についてのより詳細な情報が掲載されている。インターネット上の各種ニュースサイトでも,ウイスキー「碧」は広く取り上げられている(乙38?乙45)。 SNSでは,人気俳優である綾野剛氏を起用したウイスキー「碧」の紹介動画が同氏のInstagram上で公開され話題を呼んだ(甲46)。綾野剛氏のInstagramのフォロワー数は80万人を超え,動画公開当日の令和2年4月16日時点で,動画の再生回数は,10万3,974回に及んでいる(甲47)。綾野剛氏を起用したウイスキー「碧」の紹介動画は,令和2年4月16日時点で,インターネット上に27件の露出が確認されており(一例として,甲48の1?11),その1日のみの広告換算額は,1,380万円にも及んでいる(甲49)。 さらに,平成31年1月10日には,大阪商工記者クラブにて,朝日新聞社,読売新聞社,産経新聞社,共同通信社,時事通信社,日刊工業新聞社,NHK,MBS,YTVの計9社が参加する記者会見を開催し,ウイスキー「碧」の紹介に加え,販売計画等が発表された(甲50の1,2)。また,同日にサントリーホールブルーローズで行われた記者会見には,大手新聞社,テレビ局,編集者等計69社が参加した(甲51の1,2)。さらに,平成31年4月4日及び10日付で開催した「碧Aoブランドセミナー」には,東京及び大阪の2箇所で,合計115名が参加し,新聞社や通信社のみならず,幅広い業界からの参加者が出席している(甲52,甲53)。 イ 小括 上記をみれば明らかなとおり,「碧」は,本件商標の登録出願日である令和元年6月19日時点で,請求人及び請求人のグループ会社であるサントリースピリッツ株式会社の製造販売に係るウイスキーの商標として,全国的な周知著名性を獲得している。 (2)本件商標の要部ないし本件商標と引用商標の類否 本件商標を構成する「余市」は,北海道西部,後志支庁北部の町の名称であり,果樹栽培・ウイスキー製造で知られている(甲54の1)。そして,「余市川」の部分は,この北海道余市群を流れる二級河川の名称を示す語であることから(甲54の2),生来的に自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。 また,本件商標を構成する「ワイナリー」の部分は,「葡萄酒醸造所」を意味する英単語(甲55)であり,昨今のワインブームも相まって,日本では「ワインの醸造所」や「ワインの生産者」などを意味する語として広く一般的に認識し使用されているものである。この点は,「ワイナリー」の語が,「ワインの醸造所」や「ワインの生産者」を意味するものとして多用されている取引の実情をみても明白である(甲56)。 さらに,本件商標を構成する「倶楽部」の部分は,「政治・社交・娯楽,あるいは学校の課外活動で,共通の目的によって集まった人々の団体。また,その集合所。」の意味を有する語であり(甲57),一般に,団体であることを表す際に広く使用される語であることから,本来,自他商品識別標識としての機能を果たし得ない。「倶楽部」なる語の識別力について,特許庁は商標の審査において,「『倶楽部』の文字は,『政治・社交・娯楽,あるいは学校の課外活動で,共通の目的によって集まった人々の団体。また,その集合所。』の意味を有するものであり,一般に,団体であることを表す際に広く使用されるものですから,自他役務識別標識としての機能を果たし得ない」旨の判断を示している(甲58の1,2)。同様に,指定商品又は指定役務について識別力に乏しい語に「倶楽部」の語を結合したにすぎない商標も,識別力の欠如を理由に登録を拒絶されている(甲58の3?10)。 以上のように,「余市川」,「ワイナリー」,「倶楽部」の各語は,生来的に識別力に乏しい語であるか,又は本件商標の第33類の指定商品について自他商品の識別機能を果たす語ではない。そして,これらの語を結合した「余市川ワイナリー倶楽部」の語もまた,全体として「余市川に所在するワイナリーの集まり」程の意味合いを生じさせるにすぎず,依然として自他商品の識別機能を果たすものとはいえない。このことは,本件商標同様に,地名に商品又は役務と関連のある語と「倶楽部」又は「クラブ」の語を結合してなる商標が,自他商品役務の識別機能に乏しいとして登録を拒絶された例が多数存在することからも明白である(甲59)。 こうした「余市川」,「ワイナリー」,「倶楽部」の語に関する取引の実情や,特許庁の審査や審決にみられる判断に照らすと,本件商標を付した商品に接した取引者及び需要者は,その通常の注意力からすれば,本件商標中の「余市川ワイナリー倶楽部」の部分を,酒類の産地や生産地を表す語と,「団体」を意味する語とを組み合わせたものと理解するにとどまるから,「余市川ワイナリー倶楽部」の部分は,商標として果たし得る自他商品識別機能はないか,又はあっても極めて弱い部分であるといわざるを得ない。 一方,本件商標を構成する「碧」の部分は,酒類の品質を表示する語として一般に使用されているものでないから,それ自体単独でも商標としての自他商品識別機能を十分に果たし得る部分である。この点は,引用商標が,第32類及び第33類の商品について問題なく登録に至っていることからも明白である。 そして,本件商標は,「余市川ワイナリー倶楽部」の語と「碧」の語との間にスペースを介し,全体の称呼長が15音と極めて冗長である。また,「余市川ワイナリー倶楽部」の部分からは「余市川に所在するワイナリーの集まり」程の一体的な観念が生じるのに対し,「余市川ワイナリー倶楽部」と「碧」との間には観念上の一体性がないことも合わせ考慮すると,「余市川ワイナリー倶楽部」の部分と「碧」の部分とがそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど強く結合しているものとは認められない。 さらに,上述のとおり,「碧」の文字が,酒類については請求人及びグループ会社であるサントリースピリッツ株式会社のウイスキーを表す「碧」ブランドとして周知著名であることも考慮すれば,本件商標を構成する「碧」の部分からは,全国的な周知著名性を獲得した請求人の業務に係る「碧」ブランドとしての観念が生じる。 以上より,本件商標は「碧」の部分を要部とする商標であり,引用商標とは,外観,称呼及び観念が同一又は類似するから,本件商標は引用商標に類似する。 (3)特許庁の審決例 本件商標が「碧」の部分を要部とする商標であって,引用商標に類似するとの請求人の主張は,冗長な称呼を有する結合商標の類否について判断した先例であって,かつ,結合商標の一部に自他商品等識別力がない語が含まれている場合,これを除いた部分からなる他人の商標に類似すると判断した特許庁の審決(甲60)により明らかである。 (4)本件商標と引用商標の指定商品 本件商標の第33類の指定商品は,引用商標の第32類及び第33類の指定商品との関係において,生産部門,販売部門,流通経路,用途及び需要者の範囲が一致する。したがって,本件商標の指定商品は,引用商標の指定商品と同一又は類似する。 (5)小括 以上のとおり,本件商標は,引用商標とは,要部から生じる称呼及び観念が同一である類似商標であり,引用商標に係る指定商品と同一又は類似する商品を指定商品とするものであって,引用商標の後願に係るものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。 3 商標法第4条第1項第15号該当性について 本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しないとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものである。 (1)本件商標と引用商標の類似性の程度 既述のとおり,本件商標は,「余市川ワイナリー倶楽部」の部分が自他商品識別力を欠いた部分であり,「碧」の部分を要部とする商標であるから,引用商標とは,要部から生じる外観,称呼及び観念が同一又は類似する類似商標に該当する。したがって,本件商標と引用商標の類似性の程度は,相当程度高いものである。 (2)引用商標の周知著名性 引用商標の周知著名性についても,2(1)「引用商標の周知著名性」で詳述したとおり,「碧」は,請求人によるウイスキーの名称として全国的な周知著名性を獲得している商標である。 一方,本件商標は,全国的に周知著名な引用商標と同一又は類似する「碧」の文字を含んでおり,また,「余市川ワイナリー倶楽部」が本件商標の指定商品との関係において識別力が低いものであることからすれば,本件商標において,まず取引者・需要者の注意を引くのは,「碧」の部分である。したがって,引用商標の周知著名性の程度は,相当程度高いものである。 (3)引用商標の独創性の程度 引用商標の独創性の程度について,上記のとおり,「碧」は,ウイスキーや酒類の品質を表示する語として一般に使用されているものでなく,また,語義としても一般に特定の観念を生じるものでないから,造語の一種である。したがって,引用商標は,独創性を有するものである。 (4)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性の程度,取引者・需要者の共通性等 引用商標が周知著名性を獲得した商品がウイスキーであるのに対し,本件商標は,「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,ぶどう酒,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」といった,ウイスキーと類似する商品を指定商品としている。 したがって,生産部門及び販売部門が一致する。また,いずれの商品も,一般消費者を需要者として製造販売されることから,需要者の範囲も一致する。 一方,「碧」が請求人の業務に係る商品を表すものとして全国的な周知著名性を獲得している商標であることからすれば,需要者において普通に払われる注意力としては,本件商標に接した需要者は,構成中の「碧」の部分に着目し,周知著名な「碧」ブランドを想起連想して,当該商品が請求人の業務に係る商品ではないかと認識するであろうことは容易に想像されるところである。また,被請求人はワイン用のブドウを栽培していることから,広く酒類に関心があるものと考えられ,被請求人が請求人の新商品であるウイスキー「碧」の存在を知らないということも考えづらい。 したがって,本件商標に係る指定商品は,引用商標が周知著名性を獲得した商品とは,一般的に同一又は類似する関係にあるのみならず,具体的な取引の実情に照らしても関連性が強いものであるから,本件商標と引用商標の取引者・需要者の共通性が極めて高いものである。 (5)判決及び特許庁の審決 他人の周知著名な商標を一部に含む商標について,当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあると判断した判決(甲62の1?6)と同様に,他人の周知著名な商標を一部に含む商標について,当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあるとして,登録拒絶又は登録無効若しくは取消しの判断をした特許庁の審決は多数存在し,第33類に分類される酒類を指定商品とする商標についての審決(異議決定)例もある(甲63)。引用商標の「碧」は,請求人の業務に係る商品として周知著名性を獲得している点に相違はないから,こうした審決等にみられる判断は,本審判事件において最大限考慮されなければならないものである。 (6)小括 以上のとおり,引用商標が請求人の業務に係る商品「ウイスキー」を表すものとして周知著名な商標であること,本件商標は,引用商標と同一又は類似する「碧」の部分を要部とする商標として,引用商標と高い類似性を有すること,「碧」が独創性の高い商標であること,本件商標の指定商品は,引用商標が周知著名性を獲得した商品と同一又は類似するものであり,需要者の範囲も一致するものであることから,本件商標は取引者・需要者にとって引用商標と強い関連性を持って認識されること,過去の裁判例や特許庁の審決にみられる判断等を総合して考慮すると,本件商標をその指定商品に使用するときは,これに接する取引者・需要者は,請求人の商品であるウイスキー「碧」を想起・連想し,あたかも請求人が取り扱う業務に係る商品であるかのごとく認識して取引に当たると考えられるため,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 第4 被請求人の答弁 被請求人は,請求人の主張に対して何ら答弁していない。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき,利害関係について当事者間に争いがないから,本案について判断する。 1 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標 本件商標は,前記第1のとおり,「余市川ワイナリー倶楽部 碧」の文字を標準文字で表してなるところ,全体として12文字という冗長な構成からなり,「余市川ワイナリー倶楽部」の文字と末尾の「碧」の文字との間には,一文字程度の空白(スペース)がある。 また,本件商標中「余市川ワイナリー倶楽部」の文字は,「余市川」が北海道余市郡を流れる河川の名称(甲54の2),「ワイナリー」が「葡萄酒醸造所」を意味する語(甲55)及び「倶楽部」が「政治・社交・娯楽,あるいは学校の課外活動で,共通の目的によって集まった人々の団体。また,その集合所。」の意味を有する語(甲57)であって,これらの語を結合したものであるから,「北海道の余市川周辺に所在するワイナリーの集まり」程の一つのまとまった意味合いが生じるとともに,本件商標の第33類の指定商品「ぶどう酒」との関係においては,産地や生産地を表す語と「団体」を意味する語とを組み合わせたものと理解するにとどまるから,自他商品識別機能の弱い部分といえるものである。 これに対し,本件商標末尾の「碧」の漢字は,「青緑色の美しい玉石。」の意味を有する(「新選漢和辞典第八版」株式会社小学館。)から,「余市川ワイナリー倶楽部」と結合して直ちに特定の熟語的な意味合いを生ずるものとはいい難く,「余市川ワイナリー倶楽部」及び「碧」の各文字は,これを分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとはいえないものである。また,本件商標の第33類の指定商品との関係においては,「碧」の文字は「余市川ワイナリー倶楽部」の文字に比較して自他商品識別機能のより強い文字といえるものである。 さらに,「碧」の漢字の訓読みは「ミドリ」であり(前掲書),本件商標の全体の構成文字から生ずる「ヨイチガワワイナリークラブミドリ」の称呼は,16音であるから冗長であるといえる。 そうとすると,簡易迅速を尊ぶ取引の実際にあっては,かかる冗長な構成からなる本件商標に接する取引者,需要者は,全体の一部の語をとらえて区切り,分離して把握し,認識することが十分にあり得るものであり,スペースによって区切られ,指定商品との関係で自他商品識別機能がより強い文字である末尾の「碧」の文字部分に着目し,これより生ずる称呼や観念をもって取引に資する場合も決して少なくないと判断するのが相当である。 してみれば,本件商標は,構成文字全体より「ヨイチガワワイナリークラブミドリ」の称呼を生ずるほか,要部たり得る「碧」の文字に相応して,単に「ミドリ」の称呼をも生じ,「青緑色の美しい玉石。」の観念を生ずるものといわなければならない。 (2)引用商標 引用商標1及び引用商標4は,前記第2の1及び4のとおり,「碧」の漢字からなるところ,当該文字に相応して「ミドリ」の称呼及び「青緑色の美しい玉石。」の観念を生じるものである(前掲書)。 (3)本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標1及び引用商標4を比較すると,両者は,商標全体の比較において区別できるとしても,本件商標中独立して識別標識としての機能を果たし得る「碧」の構成文字との比較において,「碧」の文字の外観,当該構成文字から生ずる「ミドリ」の称呼及び「青緑色の美しい玉石。」の観念を共通にするものであるから,本件商標と引用商標1及び引用商標4とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのある類似の商標といわなければならない。 (4)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の類否 本件商標の指定商品,第33類「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,ぶどう酒,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」は,引用商標1の指定商品,第32類「ビール」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」並びに引用商標4の指定商品,第33類「ウイスキー,日本酒,泡盛,合成清酒,焼酎,白酒,清酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,麦芽及び麦を使用しないビール風味のアルコール飲料,麦芽または麦を使用したビール風味のアルコール飲料(ビール、ビール風味の麦芽発泡酒を除く。),中国酒,薬味酒」と同一又は類似の商品である。 (5)小括 以上のとおり,本件商標は,引用商標1及び引用商標4に類似する商標であり,かつ,引用商標1及び引用商標4の指定商品と同一又は類似の商品に使用されるものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。 2 商標法第4条第1項第15号該当性について 商標法第4条第1項第15号は,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第10号から前号までに掲げるものを除く。)」と規定されている。 したがって,本件商標は,上記1のとおり,商標法第4条第1項第11号に該当するものである以上,同項第15号に該当するものとはいえない。 3 むすび 以上のとおり,本件商標は,本件審判請求に係る指定商品,第33類「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,ぶどう酒,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」について,商標法第4条第1項第11号に該当するものであり,その登録は同条第1項の規定に違反してされたものであるから,同法第46条第1項の規定により,その指定商品及び指定役務中「結論掲記の指定商品」について,その登録を無効とすべきである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(引用商標1) ![]() 別掲2(引用商標2) ![]() 別掲3(引用商標3) ![]() 別掲4(引用商標4) ![]() |
審理終結日 | 2021-05-21 |
結審通知日 | 2021-05-25 |
審決日 | 2021-06-08 |
出願番号 | 商願2019-86378(T2019-86378) |
審決分類 |
T
1
12・
261-
Z
(W33)
T 1 12・ 271- Z (W33) T 1 12・ 264- Z (W33) T 1 12・ 263- Z (W33) T 1 12・ 262- Z (W33) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 駒井 芳子、柿本 涼馬 |
特許庁審判長 |
平澤 芳行 |
特許庁審判官 |
佐藤 松江 鈴木 雅也 |
登録日 | 2020-03-02 |
登録番号 | 商標登録第6231088号(T6231088) |
商標の称呼 | ヨイチガワワイナリークラブアオ、ヨイチガワワイナリークラブミドリ、ヨイチガワワイナリークラブ、ワイナリークラブ、アオ、ミドリ、ヘキ |
復代理人 | 飯田 遥 |
復代理人 | 山口 現 |
代理人 | 佐藤 俊司 |
代理人 | 中村 勝彦 |
代理人 | 田中 克郎 |