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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
管理番号 1376872 
審判番号 取消2019-300161 
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2019-03-01 
確定日 2021-07-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第5825462号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5825462号商標の指定商品及び指定役務中、第35類「広告業」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5825462号商標(以下「本件商標」という。)は、「リップス」の文字を標準文字で表してなり、平成26年12月26日に登録出願、第35類「広告業」を含む、第3類、第8類、第21類、第35類、第41類、第42類及び第44類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同28年2月12日に設定登録がされ、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録は、平成31年3月14日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成28年(2016年)3月14日から同31年(2019年)3月13日までの期間(以下「要証期間」という。)である。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第5号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第35類「広告業」(以下「請求に係る役務」という場合がある。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人による広告宣伝の行為は行われていない
ア 被請求人は、本件商標をフランチャイジーであるO氏に使用許諾したことを主張するが、被請求人はフランチャイジー、すなわち通常使用権者であるO氏が第35類「広告業」の役務(以下「本件役務」という。)について本件商標を使用したことの主張立証をしていないから、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」3年以上使用していないことに対する反証となっていない。
イ 被請求人は、フランチャイザー(甲)である被請求人とフランチャイジー(乙)であるO氏との間の契約を定めた乙第2号証の1の「リップスパートナーサロン契約書」なる契約書の第4条第1項を根拠に、被請求人は、広告宣伝の役務を提供していると主張するが、当該条項は、乙は、広告宣伝の際に甲の定める様式に従わなければならないことを定めるものであって、広告宣伝の主体は乙であり、甲ではない。当該契約書の第4条第2項第4号には、フランチャイジーの費用負担として「広告媒体への掲載費用」が掲げられているものの、被請求人は、フランチャイジーからの依頼に基づいて広告媒体への広告の掲載を行い、それに要した費用を請求した事実をなんら主張立証していない。
ウ 被請求人は、乙第3号証を提出するものの、これは「HOT PEPPER Beauty」と呼ばれるリクルートグループが運営するウェブサイトであって、被請求人とは無関係なものである。
エ 被請求人は、乙第4号証を提出するものの、これは株式会社リップスが運営するウェブサイトにおいて、需要者に向けてヘアサロンの選択のための情報の提供が行われていることを示すものであって、株式会社リップスが、ヘアサロンからの依頼に基づいて広告の掲載をしたものではない。同様に、被請求人は、乙第6号証を提出するものの、これは株式会社リップスが提供するアンドロイド専用アプリにおいて、需要者に向けてヘアサロンの選択のための情報の提供が行われていることを示すものであって、株式会社リップスが、ヘアサロンからの依頼に基づいて広告の掲載をしたものではない。
実際、被請求人は、かかる依頼があった事実、当該依頼に基づいて広告を掲載し、それに要した費用を請求した事実をなんら主張立証していない。
仮に、株式会社リップスがフランチャイジーのヘアサロン向けに広告宣伝の行為を行っていると解する余地があるとしても、株式会社リップスが顧客向けにヘアサロンの選択における情報の提供の役務を行っている事実は変わらない。
なお、商標法上の役務「広告業」とは、我が国において、「広告主の依頼に基づいて行うサービス」であるものと解されるところ、単に、他人が営むヘアサロンに関する情報の提供をウェブサイト又はアンドロイド専用アプリにおいて閲覧可能とすることは商標法上の「広告業」には該当しない。
オ 被請求人は、乙第5号証を根拠に、株式会社リップスがその100%子会社である旨主張するものの、被請求人は株式会社リップスの株主構成を客観的に明らかにしておらず、当該会社が被請求人の100%子会社であることをなんら立証していない。また、仮に100%子会社であると考えてみても、被請求人と株式会社リップスは別法人であるのだから、株式会社リップスによる役務の提供や商標の使用が被請求人による役務の提供や商標の使用と同視されることはない。
カ フランチャイザーである被請求人がフランチャイジーである各ヘアサロン向けに広告宣伝の行為を形式的には行っていると解した場合においても、フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該行為は、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループによる美容の役務の提供のための広告行為であるにとどまり、他人のためにする商標法上の「広告業」には該当しないというべきである。
(2)被請求人による行為は、商標法上の「役務」ではない
ア 仮に、フランチャイザーである被請求人がフランチャイジーである各ヘアサロン向けに広告宣伝の行為を行っていると解する余地があるとしても、当該行為は、商標法上の「役務」には該当しない。すなわち、我が国の商標法上、「役務」とは「他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきもの」(甲2)と解されている。被請求人による広告宣伝の役務は、あくまで被請求人とフランチャイズ契約をしたフランチャイジーに対してのみ提供されるものであり、フランチャイズ契約によって被請求人が行うべき経営管理業務の一環又はそれに付随するものにすぎない。フランチャイジーである各ヘアサロンは、甲の定める様式に従った広告宣伝を行わなければならず、被請求人が行う広告宣伝の役務それ自体を商取引の対象として選択し得るものではないのであるから、被請求人による広告宣伝の役務は独立性を有しない。
イ 被請求人が「LIPPS」以外の商標を用いた種々の美容室向けに広告宣伝の行為を行っていたのであれば、被請求人の行為における独立した商取引性の有無は議論の余地があり得るものの、被請求人は、「LIPPS」を冠するフランチャイズシステムないしフランチャイズグループの運営のみを行っているのであり、かような極めて限定された者のみに向けた行為が、他人のための行為として、独立商取引性を有するとはおよそいい難い。
(3)被請求人は、本件役務に関する「取引書類」を「頒布」していない
ア 被請求人は、「リップスパートナーサロン契約書」なる契約書(乙2の1)は、商標法第2条第3項第8号に定める本件役務に関する取引書類に該当し、当該取引書類はフランチャイジーであるO氏に頒布されたから、被請求人は、本件役務について、本件商標を使用したと主張する。しかしながら、同号は、「・・・役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して・・・頒布・・・する行為」であるところ、ここで「頒布」とは、「広告等が一般に閲覧可能な状態になっていること」を意味すると解される(甲4)。また、「頒布」とは、「広くゆきわたるように分かちくばること」(甲5)を意味する語である。被請求人が同号の「取引書類」に該当すると主張する前記契約書は、被請求人が、極めて限られた数のフランチャイジーとの契約において契約相手であるフランチャイジーに示したものにすぎないから、同号に定める「頒布」の対象となったものではない。実際、被請求人は、乙第2号証の1において、いくつかのマスキングをしており、明らかに「一般に閲覧可能な状態」ではない。また、前記契約書では、フランチャイジーは、契約終了後も含めてフランチャイザーから受領した情報について守秘義務を負っており、これを「一般に閲覧可能な状態」とすることは許されない。
イ フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループ内でのみ行われる書類の受け渡しは、到底「頒布」と評価し得るものではない。
ウ フランチャイザーである被請求人がフランチャイジーである各ヘアサロン向けに広告宣伝の行為を行っていると解する余地があるとしても、当該行為は、商標法上の「役務」には該当しないのであるから、前記契約書は、役務「広告業」との関係において、商標法第2条第3項第8号規定の「役務に関する・・・取引書類」に該当する余地はない。
(4)被請求人は、本件商標と実質的同一の商標を使用していない
ア 被請求人は、乙第2号証の1の契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」の文字が付されていることをもって、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されていると主張するが、「リップスパートナーサロン契約書」の文字のうち「パートナーサロン契約書」の文字を捨象して「リップス」の文字のみが出所識別標識として機能するから、これは「リップス」と社会通念上同一であるとする被請求人の主張にはなんら理由がない。
「リップスパートナーサロン契約書」の文字において、「契約書」の部分については、当該文字が契約書に付されているという取引実情に鑑みれば、これが出所識別標識として需要者に強い印象を与えるものではないと考え得るものの、称呼において淀みなく発音され、外観において片仮名でまとまりよく構成された「リップスパートナーサロン」の文字は、いずれかの部分のみが強く支配的な印象を与えるものではなく、その構成文字全体をもって需要者ないし取引者に認識される。
イ フランチャイズ契約を「パートナーサロン契約」と呼称することが一般的であるわけでもなく、被請求人自身、乙第2号証の1、2頁冒頭において「以下のとおりフランチャイズ契約(通称、『リップスパートナーサロン契約』、以下、『本契約』という)を締結する」と記載し、被請求人独自の呼称として「リップスパートナーサロン契約」の語を用いている。このような語を「リップス」と社会通念上同一と評価する理由はない。
ウ さらに、前記契約書に「リップスパートナーサロン契約書」と記載されているとおり、当該書類が契約書であることは、それを目にしたフランチャイジーにおいて明らかであり、「リップスパートナーサロン契約書」の文字はそのタイトルを単に示すものとして用いられているにすぎず、自他役務の識別標識たる商標として用いられているものではない。
(5) 結語
以上のとおり、被請求人は、本件役務の提供の事実、本件商標の使用の事実などを主張するものの、被請求人の主張する各行為は、本件役務との関係における商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによる本件商標の使用には該当しないことから、本件商標は、その登録の取り消しを免れない。
なお、被請求人は、乙第2号証の2(覚書)が乙第2号証の1(契約書)の第1条第1項の「別紙」に当たる旨主張するところ、当該契約書と覚書は、同一の締結日であるにも関わらず、フランチャイジーである乙の印影が異なり、被請求人の主張には、その全体において重大な疑義があることを付言する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第9号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)商標権者は、以下のとおり、要証期間内に、本件商標を、請求に係る役務である第35類「広告業」について使用している。
(2)商標権者は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しているところ、フランチャイザーとして、フランチャイジーであるヘアサロンの広告を行っている。乙第2号証の1は、そのフランチャイズ契約書の写しである。また、乙第2号証の2は、乙第2号証の1のフランチャイズ契約書第1条第1項の別紙に当たる覚書の写しであり、本件商標も使用許諾した商標に含まれている。
そして、その契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」として、「リップス」の商標が使用されている。「パートナーサロン契約書」の文字を伴ってはいるが、該文字部分が、ヘアサロンに関するフランチャイズ契約との関係においては出所識別標識としては全く機能しない部分であって、出所識別標識としての使用に係る商標は「リップス」の文字部分といえる。そうすると、その使用に係る商標と本件商標とは、社会通念上、同一の商標ということができる。
(3)乙第2号証の1の契約書の第4条には、フランチャイジーであるヘアサロンの乙は、本件店舗に関し、ヘアサロンの営業、化粧品等商品の販売についての広告宣伝はフランチャイザーである甲の定める様式に従うこととされ、甲が店舗の広告媒体への掲載を行った場合は乙が広告宣伝費用を負担するとされている。すなわち、フランチャイザーである商標権者は、フランチャイジーに対して、店舗の広告宣伝の役務を提供しているのであり、その契約を定めた契約書は商標法第2条第3項第8号に定める役務に関する取引書類に該当する。そして、同契約書の末尾には「甲、乙及び丙は上記のとおり合意したので、本契約に署名、捺印をなし、3通作成のうえ、各自1通宛保有する。」とあり、契約日として「平成29年4月5日」と記載されている。そうすると、契約日である「平成29年4月5日」は要証期間内であり、しかも、同契約書は要証期間内にフランチャイジーであるヘアサロンの乙に頒布されたこと明らかといえるから、商標権者は、要証期間内に、本件商標と社会通念上同一の商標を請求に係る役務である第35類「広告業」について使用しているといえる。
(4)加えて、被請求人は、乙第2号証の1の契約書の乙であるLIPPS自由が丘の店舗が要証期間内に宣伝広告されたことを証する証拠として乙第3号証ないし乙第5号証を提出する。乙第3号証は、ヘアサロン等を紹介するウェブサイト「HOT PEPPER Beauty」をインターネットアーカイブのウェイバックマシンで表示した写しであるところ、要証期間内である2017年6月には「LIPPS」又は「リップス」の名の下にLIPPS自由が丘の店舗が宣伝広告されていたことが分かる。また、乙第4号証は、商標権者が100%子会社株式会社リップス(乙5)を通じ運営している、美容室LIPPSのウェブサイトをインターネットアーカイブのウェイバックマシンで表示した写しであるところ、要証期間内である2017年6月及び同年9月には「LIPPS」又は「リップス」の名のもとにLIPPS自由が丘の店舗が宣伝広告されていたことが分かる。加えて、商標権者は、アンドロイド専用の美容室LIPPSの専用アプリでも広告を行っており、乙第6号証の1は、美容室LIPPSのウェブサイトにおけるアンドロイド専用の公式アプリをリリースした旨の2018年11月1日付のニュースの写し、乙第6号証の2は、そのアプリの一部を抜粋したものであり、自由が丘の店舗も、他の店舗とともに、「LIPPS」又は「リップス」の名の下に広告されている。
そうすると、商標権者(又はその子会社)は、要証期間内に、乙第2号証の1の契約書に従って、フランチャイジーのLIPPS自由が丘の店舗を、「LIPPS」又は「リップス」の商標の下に宣伝広告していたといえるのであって、それら使用に係る商標は、本件商標と社会通念上同一の商標といえる。そして、「広告業」の役務との関係では、これら広告媒体に、他のフランチャイジーの店舗の広告とともに、共通した商標を表示し、それをもって広告する行為は、商標法第2条第3項第3号、第4号又は第7号に該当する使用であるということができる。
(5)以上のとおり、本件商標は、要証期間内に、日本国内において、商標権者又は使用権者により、請求に係る役務である第35類「広告業」の役務について使用されていたことが明らかであるから、本件審判請求は成り立たない。
2 審尋に対する回答及び弁駁に対する主張(令和3年2月15日付け回答書)
(1)「株式会社リップス」「LIPPS 自由が丘店」「LIPPS 原宿店」との関係
まず、被請求人「株式会社レスプリ」と「株式会社リップス」との関係については、答弁書において説明したとおり、「株式会社リップス」は被請求人の100%子会社である。現在もその関係に変わりないが、要証期間においても同様であったことを証明するために乙第7号証の1及び2を新たに提出する。法人名「株式会社リップス」の記載と、「判定基準となる株主(社員)及び同族関係者」に被請求人「株式会社レスプリ」の記載が確認できる。
「LIPPS 自由が丘店」は、被請求人「株式会社レスプリ」と「リップスパートナーサロン契約」を締結している「O氏」が代表を務める「株式会社YET」が運営する美容室の店舗である。当該契約書については自由が丘店のものが提出済みである(乙2の1)。
「LIPPS 原宿店」は、被請求人「株式会社レスプリ」の子会社である「株式会社リップス」が運営する美容室の店舗である。
前記契約書には、「(広告宣伝の統一)第4条 乙は、本件店舗に関し、独自に宣伝広告を行ってはならず、・・・甲が、本件店舗のために次の費用を支出したときは、乙は、甲に対し、その広告宣伝費用を負担する。・・・」とあり、フランチャイジー独自の広告禁止と費用負担の定めがある。フランチャイザーとフランチャイジーは、特定の商品・役務については、後者が前者の通常使用権者であっても、別法人であるので、前者が後者のためにする広告は、前者が後者に広告の役務の提供を行っていると見ることができる。
被請求人は、被請求人が運営する、本件商標に係るツイッター(2.6万人フォロワーがいる)において、「LIPPS 自由が丘店」を紹介している(乙8)。よって、被請求人が他人のために広告役務の提供を行っていることは明らかである。
なお、広告役務の対価については、基本的には、乙第2号証の契約書に基づく毎月の請求書と別紙Aにおける「ロイヤリティー」に含まれている。当該請求書及び別紙Aは2018年1月分ないし12月分を新たに提出する(乙9)。
(2)以上のとおり、本件商標は本件役務の取引書類に付されて要証期間内に頒布されていることは明らかであり、該行為は商標法第2条第3項第8号の使用に該当するものである。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)株式会社リップスは、本件商標権者(被請求人)の100%子会社であり、美容業を展開している(乙5、乙7)。
また、被請求人は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しており、「LIPPS自由が丘店」は、平成29年4月5日付けの被請求人との「リップスパートナーサロン契約書」と称するフランチャイズ契約書(以下「本件契約書」という。)に基づいて、O氏によって運営されている店舗である(乙2の1)。
(2)本件契約書の第4条第1項に「乙(フランチャイジー)は、本件店舗(LIPPS自由が丘店)に関し、独自に宣伝広告を行ってはならず、ヘアサロンの営業、化粧品等商品の販売についての広告宣伝は甲(フランチャイザー)の定める様式に従うものとする。」(審決注:括弧内の記載は合議体が付加。)、同条第2項に「甲が、本件店舗のために次の費用を支出したときは、乙は、甲に対し、その広告宣伝費用を負担する。」の記載がある(乙2の1)。
また、同契約書第16条には、フランチャイジーがフランチャイザーに支払う「ロイヤリティ」が「本契約書第1条第1項及び第2項に対する対価」である旨の記載があり、同第1条第1項で、「甲は乙に対し、以下に定める規定に従い・・・ヘアサロンを営業すること・・・」とし、同第2項では、「甲は乙のために、以下の経営指導業務及び予算の作成等の経営管理業務の補助を行うものとする。」とし、その中に「店舗の広告宣伝に関する指導」の記載がある。そして、乙第9号証によると、2018年1月分から同年12月分まで毎月、フランチャイジーからフランチャイザーへロイヤリティが支払われていることが推認できる。
(3)ア 乙第3号証によると、「HOT PEPPER Beauty」のウェブサイトにおいて、「LIPPS 自由が丘【リップス ジユウガオカ】」の見出しの下、2017年10月に、LIPPS自由が丘の店舗が紹介されている。また、乙第4号証によると、美容室LIPPSのウェブサイトにおいて、2017年6月及び同年9月に、LIPPS自由が丘の店舗が紹介されている。さらに、乙第6号証の2によると、美容室LIPPSのアンドロイド専用の公式アプリにおいて、2018年11月1日に、LIPPSの自由が丘の店及び他の店舗が紹介されている。加えて、乙第8号証によると、被請求人が運営するツイッターにおいて、LIPPS自由が丘店及び他の店舗が紹介されている。
イ 乙第3号証、乙第4号証、乙第6号証及び乙第8号証には、「P」(アクサンテギュが付されている。以下同じ。)の文字を内包する正方形の図形の下に「LIPPS」の欧文字を表したものや「リップス」の片仮名が表示されている。
2 請求に係る役務について本件商標の使用が行われたか否かについて
(1)判断
前記1で認定した事実によれば、インターネットウェブサイトや公式アプリにおいて、「LIPPS」又は「リップス」の表示をともなって、LIPPS自由が丘店等が紹介されている。
しかしながら、商標法上の役務とは、他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきものであるところ、「広告業」とは、広告代理店等が広告主の依頼に基づいて行う役務であると解される。
乙第2号証の1によると、本件契約書の第4条において、フランチャイジー独自の広告禁止と広告宣伝費用の負担の定めがあり、これらの記載からは、ヘアサロンの営業にあたって、フランチャイジーが独自に広告を行うことができないこと及びフランチャイザーが同条第2項に列記された広告宣伝費用を支出した場合にフランチャイジーがその広告宣伝費用を負担することが確認できる。しかしながら、これらの記載をもって、実際に、商標権者が商標法上の広告業を提供していると認めることはできない。
また、乙第3号証において、LIPPS自由が丘店の依頼に基づいて、その広告を掲載したのは、「HOT PEPPER Beauty」の運営者であって、フランチャイジーが被請求人の指導に基づいて「HOT PEPPER Beauty」を通じて自身が営業する美容室「LIPPS自由が丘店」に関して広告したとみる余地があるとしても、被請求人が他人のために独立して商取引の目的たり得る広告業を提供したものとみることはできない。また、乙第4号証、乙第6号証及び乙第8号証は、株式会社リップスが運営する美容室のウェブサイトや被請求人が運営するツイッターにおいてLIPPS自由が丘店及び美容室「LIPPS」のその他の店舗を紹介するものであって、「LIPPS」の欧文字や「リップス」の片仮名等が表示されているものの、これらの表示のされ方を考慮すると、当該表示は、美容室(役務「美容の提供」)に係るものというのが相当であって、役務「広告業」に係るものとはいうことができない。
そうすると、これらはLIPPS自由が丘店の依頼に基づいて、被請求人が「LIPPS」又は「リップス」の表示を用いて広告業を提供したというより、被請求人が「LIPPS」又は「リップス」の表示を用いて子会社やフランチャイズ契約を通じて提供する美容の役務を広告したものとみるのが相当である。
したがって、被請求人が、請求に係る役務についての本件商標の使用をしていることを認めることはできない。
(2)被請求人の主張について
被請求人は、フランチャイズ契約書(乙2の1)の第4条において、フランチャイジー独自の広告禁止と広告宣伝費用の負担の定めがあること、同契約書第16条に基づき、ロイヤリティとして広告宣伝に関する指導の対価が支払われていることから、フランチャイザーがフランチャイジーのためにする広告は、商標法上の広告業の役務を提供していると主張している。
しかしながら、フランチャイジー独自の広告禁止と費用負担の定めがあることは、被請求人が商標法上の広告業を提供していることの証明にはならないし、被請求人が広告業に対し本件商標を使用していることは前記(1)のとおり証明されていない。また、ロイヤリティには前記1(2)のとおり「店舗の広告宣伝に関する指導」が含まれているものの、ヘアサロンを営業するための経営補助としての前記記載が、直接的に広告業に対する対価であるとは考え難いものであるし、被請求人が広告業に対し本件商標を使用していることは前記(1)のとおり証明されていない。
したがって、被請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり、被請求人が、請求に係る役務についての本件商標の使用をしていることを証明したとはいえないから、商標法第50条第2項に規定されているその他の使用の要件について論及するまでもなく、被請求人の提出に係る証拠によっては、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る役務についての本件商標(本件商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしていることを被請求人が証明したとはいえない。
また、当該使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしたともいえない。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品及び指定役務中、請求に係る役務について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2021-05-13 
結審通知日 2021-05-18 
審決日 2021-06-10 
出願番号 商願2014-110409(T2014-110409) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (W35)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 聡一 
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 板谷 玲子
綾 郁奈子
登録日 2016-02-12 
登録番号 商標登録第5825462号(T5825462) 
商標の称呼 リップス 
代理人 特許業務法人大島・西村・宮永商標特許事務所 
代理人 大谷 寛 

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