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審決分類 |
審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない W41 |
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管理番号 | 1376864 |
審判番号 | 取消2019-300164 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2019-03-01 |
確定日 | 2021-07-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5825462号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5825462号商標(以下「本件商標」という。)は、「リップス」の文字を標準文字で表してなり、平成26年12月26日に登録出願、第41類「セミナーの企画・運営又は開催」を含む、第3類、第8類、第21類、第35類、第41類、第42類及び第44類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同28年2月12日に設定登録がされ、現に有効に存続しているものである。 そして、本件審判の請求の登録は、平成31年3月14日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成28年(2016年)3月14日から同31年(2019年)3月13日までの期間(以下「要証期間」という。)である。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標の指定商品及び指定役務中、第41類「セミナーの企画・運営又は開催」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。 1 請求の理由 本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第41類「セミナーの企画・運営又は開催」(以下「本件役務」という。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。 2 答弁に対する弁駁 (1)「リップスパートナーサロン契約書」について ア 被請求人は本件役務を提供していない (ア)被請求人は、本件商標をフランチャイジーに使用許諾したことを主張するが、被請求人はフランチャイジー、すなわち通常使用権者であるO氏が本件役務について本件商標を使用したことの主張立証をしていないから、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」三年以上使用していないことに対する反証とはなっていない。 (イ)被請求人は、商標権者である被請求人が、その100%子会社である株式会社リップス(乙2)を通じて、本件役務について本件商標を使用したと主張するが、被請求人は株式会社リップスの株主構成を客観的に明らかにしておらず、当該会社が被請求人の100%子会社であることをなんら立証していない。また、仮に100%子会社であると考えてみても、被請求人と株式会社リップスは別法人であるのであるから、株式会社リップスによる役務の提供や商標の使用が被請求人による役務の提供や商標の使用と同視されることはない。 (ウ)被請求人は、フランチャイザーである被請求人とフランチャイジーであるO氏との間の契約を定めた「リップスパートナーサロン契約書」(以下「本件契約書」という。)の第8条第1項に、フランチャイジーであるO氏は、自身又はその従業員にフランチャイザーである被請求人の指定する研修を受講させなければならない旨定められていることを根拠に、フランチャイザーである被請求人はフランチャイジーであるヘアサロンに対して本件役務を提供していると主張する。しかしながら、同項は、単にフランチャイジーはフランチャイザーが指定した研修を受講しなければならないとするのみであって、フランチャイザーが「セミナーの企画・運営又は開催」を行うことを必ずしも意味しない。 この点、被請求人は、フランチャイジーである原宿店のヘアサロンで、口臭についてのセミナーが開催されたことも根拠として主張している。しかしながら、当該セミナーの講師を務めたF氏のフェイスブックの写しである乙第5号証の1、2頁ないし3頁に「今日、私がスタッフみんなに伝えたいことの、まず一つ目、スタッフの方に、口臭予防にはどんなことがありますか?と聞いてみました。」などと記載されていることより明らかなように、当該セミナーは、F氏がその内容を企画し、開催したものであって、被請求人が企画等したものではなく、被請求人は、原宿店に対し、F氏によるセミナーの受講を指定したにすぎない。このことは、当該セミナーにおいて配布された資料である乙第5号証の2に「プライベートデンタルサロンFukudaMKM F」と記載されており、「株式会社レスプリ」とは記載されていないことからも裏付けられる。 (エ)被請求人は、本件契約書の第10条第1項に、フランチャイジーであるO氏に対する技術指導について定められていることを根拠に、フランチャイザーである被請求人はフランチャイジーであるヘアサロンに対して本件役務を提供しているとも主張する。しかしながら、美容師に対する技術指導は、「技芸・スポーツ又は知識の教授」の役務の一例であることが明らかであって、「セミナーの企画・運営又は開催」とは明らかに非類似で別異の役務である。 (オ)また、フランチャイザーである被請求人がフランチャイジーである各ヘアサロン向けに講習の開催を形式的には行っていると解した場合においても、フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該行為は、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループ内の内部セミナーであるにとどまり、他人のために提供される商標法上の「セミナーの企画・運営又は開催」には該当しないというべきである。 (カ)さらに、仮にフランチャイザーである被請求人がフランチャイジーである各ヘアサロン向けに講習を開催していると解する余地があるとしても、当該行為は、商標法上の「役務」には該当しない。すなわち、我が国の商標法上、「役務」とは「他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきもの」(甲1)と解されている。被請求人によるフランチャイジー向けの講習は、あくまで被請求人とフランチャイズ契約をしたフランチャイジーに対してのみ開催されるものであり、フランチャイズ契約によって被請求人が行うべき経営管理業務(乙3の1、第1条第2項)の一環又はそれに付随するものにすぎない。フランチャイジーである各ヘアサロンは、被請求人により指定された研修ないし講習を受講する義務があるのみであり(乙3の1、第8条第1項)、被請求人が行うフランチャイジー向けの講習それ自体を商取引の対象として選択し得るものではないのであるから、被請求人によるフランチャイジー向けの講習は独立性を有しない。 イ被請求人は、本件役務に関する「取引書類」を「頒布」していない (ア)被請求人は、本件契約書は、商標法第2条第3項第8号に定める本件役務に関する取引書類に該当し、当該取引書類はフランチャイジーに頒布されたから、被請求人は、本件役務について、本件商標を使用したと主張する。しかしながら、同号は、「・・・役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して・・・頒布・・・する行為」であるところ、ここで「頒布」とは、「広告等が一般に閲覧可能な状態になっていること」を意味すると解される(甲3)。また、「頒布」とは、「広くゆきわたるように分かちくばること」(甲4)を意味する語である。被請求人が同号の「取引書類」に該当すると主張する本件契約書は、被請求人が、極めて限られた数のフランチャイジーとの契約において契約相手であるフランチャイジーに示したものにすぎないから、同号に定める「頒布」の対象となったものではない。実際、被請求人は、乙第3号証の1において、いくつかのマスキングをしており、明らかに「一般に閲覧可能な状態」ではない。また、本件契約書では、フランチャイジーは、契約終了後も含めてフランチャイザーから受領した情報について守秘義務を負っており、これを「一般に閲覧可能な状態」とすることは許されない。 (イ)また、フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループ内でのみ行われる書類の受け渡しは、到底「頒布」と評価し得るものではない。 (ウ)そもそも、本件契約書は、役務「セミナーの企画・運営又は開催」との関係において、商標法第2条第3項第8号規定の「役務に関する・・・取引書類」に該当する余地はない。これは、あくまでフランチャイズ契約又はそれにより提供される経営管理業務のための契約書にすぎない。 ウ 被請求人は、本件商標と実質的同一の商標を使用していない (ア)被請求人は、本件契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」の文字が付されていることをもって、本件商標「リップス」と社会通念上同一の商標が使用されていると主張するが、「リップスパートナーサロン契約書」の文字のうち「パートナーサロン契約書」の文字を捨象して「リップス」の文字のみが出所識別標識として機能するから、これは「リップス」と社会通念上同一であるとする被請求人の主張にはなんら理由がない。 「リップスパートナーサロン契約書」の文字において、「契約書」の部分については、当該文字が契約書に付されているという取引実情に鑑みれば、これが出所識別標識として需要者に強い印象を与えるものではないと考え得るものの、称呼において淀みなく発音され、外観において片仮名でまとまりよく構成された「リップスパートナーサロン」の文字は、いずれかの部分のみが強く支配的な印象を与えるものではなく、その構成文字全体をもって需要者ないし取引者に認識される。 (イ)フランチャイズ契約を「パートナーサロン契約」と呼称することが一般的であるわけでもなく、被請求人自身、乙第3号証の1、2頁冒頭において「以下のとおりフランチャイズ契約(通称、『リップスパートナーサロン契約』、以下、『本契約』という)を締結する」と記載し、被請求人独自の呼称として「リップスパートナーサロン契約」の語を用いている。このような語を「リップス」と社会通念上同一と評価する理由はない。 (ウ)「リップスパートナーサロン契約書」と記載されているとおり、乙第3号証の1の書類が契約書であることはそれを目にしたフランチャイジーにおいて明らかであり、「リップスパートナーサロン契約書」の文字はそのタイトルを単に示すものとして用いられているにすぎず、自他商品役務の識別標識たる商標として用いられているものではない。 (エ)また、被請求人は、乙第5号証の7の請求書に「株式会社リップス」の文字が表示されていることをもって、本件商標「リップス」と社会通念上同一の商標が使用されているとも主張する。しかしながら、当該請求書に普通に用いられる方法で表示された「株式会社リップス」の文字は、商号を表すものにすぎず、自他商品役務の識別標識として付されたものではないから、被請求人の主張には理由がない。 ここで、被請求人は、「株式会社リップス」が本件商標の「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれ」かであること、そして当該請求書は「頒布」されたことを主張立証していないことを念のため付言する。 (2)「LIPPS」について 被請求人は、乙第7号証及び乙第8号証に依拠して「LIPPS」の文字を本件役務について使用したと主張するものの、本件商標「リップス」と「LIPPS」とは称呼を同一とし得るのみであって観念を異にするものであるから、これらは社会通念上同一の関係にはない。 また、被請求人は、乙第7号証及び乙第8号証に示される「LIPPS」の文字が本件商標の「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれ」かによって使用されたものであることをなんら主張立証していない。 (3)以上のとおり、被請求人の主張する各行為は、本件役務との関係における商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによる本件商標の使用には該当しないことから、本件商標は、その登録の取り消しを免れない。 なお、被請求人は、乙第3号証の2が本件契約書第1条第1項の「別紙」に当たる旨主張するところ、本件契約書と乙第3号証の2の「覚書」は同一の締結日であるにも関わらず、フランチャイジーである乙の印影が異なり、被請求人の主張には、その全体において、重大な疑義があることを付言する。 3 被請求人の回答書に対する上申(令和3年4月30日付け上申書) 被請求人から新たに提出された乙第9号証ないし乙第12号証はなんら、審尋に回答するものではない。 (1)乙第7号証及び乙第8号証のセミナーの企画、運営又は開催をした者が、被請求人あるいは通常使用権者であることが確認できないことについて 審尋事項1に対し、被請求人は、乙第9号証ないし乙第11号証を提出している。そして、乙第9号証の2枚目下部「会社概要」をクリックすることにより表示されるページが乙第10号証であり、乙第10号証に「株式会社リップス」と記載されていることを根拠として、LIPPS原宿が株式会社リップスによる運営であると主張している。 しかしながら、被請求人が乙第3号証の1に基づいてフランチャイジーであるO氏による運営であるとするLIPPS自由が丘に関するウェブページについても、乙第9号証のウェブページと同様に下部記載の「会社概要」をクリックすれば乙第10号証が表示される。すなわち、乙第9号証の下部記載の「会社概要」をクリックして表示される乙第10号証は、乙第9号証にかかるLIPPS原宿の運営者を示すものではない。 また、乙第10号証は、2021年2月3日に印刷されたものであり、要証期間内の事実を立証するものでもない。乙第6号証もその点、同様であるが、乙第10号証が乙第6号証と一致しないことからも、かかるウェブページの印刷は容易に改変可能であるといえる。 したがって、仮に株式会社リップスが商標権者である株式会社レスプリから通常使用権を許諾された通常使用権者であると考えてみても、株式会社リップスがLIPPS原宿の運営者であることがなんら立証されていないので、審尋事項1に対する回答は、根拠がない。 (2)乙第8号証の申込書において、申込先である「ガモウ担当セールス((株)ガモウ)」と被請求人との関係について また、審尋事項2に対し、被請求人は「株式会社ガモウに当該セミナーの事務的な作業を依頼して」いたと主張するのみであり、乙第12号証は、なんらその事実を立証するものではない。 また、乙第12号証は、2021年2月3日に印刷されたものであり、要証期間内の事実を立証するものでもない。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第12号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。 1 答弁の理由 (1)請求人は、本件商標について、「その指定商品・役務中、『第41類セミナーの企画・運営又は開催』について継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しない」旨主張している。 しかし、商標権者は、その100%子会社である株式会社リップス(乙2)を通じて、以下のとおり、その要証期間内に、本件商標を、本件役務について使用している。 (2)商標権者は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しているところ、乙第3号証の1は、そのフランチャイズ契約書の写しであり、このことは、2頁の冒頭の「乙及び丙は、甲をフランチャイザー(サブ・フランチャイザー)、乙をフランチャイジー、丙を連帯保証人として、以下のとおりフランチャイズ契約?を締結する。」の文言からも明らかである。また、乙第3号証の2は、本件契約書第1条第1項の別紙に当たる覚書の写しであり、本件商標も使用許諾した商標に含まれている。 そして、その契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」として、「リップス」の商標が使用されている。「パートナーサロン契約書」の文字を伴ってはいるが、該文字部分が、ヘアサロンに関するフランチャイズ契約との関係においては出所識別標識としては全く機能しない部分であって、出所識別標識としての使用に係る商標は「リップス」の文字部分といえる。そうすると、その使用に係る商標と本件商標とは、社会通念上同一の商標ということができる。 (3)本件契約書の研修を定める第8条第1項では、フランチャイジーは、自身又はその従業員にフランチャイザーの指定する研修を受講させなければならないとされている。また、技術指導を定める第10条第1項には、フランチャイザーである甲は、その従業員又は指定する者を派遣して、フランチャイジーであるヘアサロンの指導を行うことができるとあり、また、同条第2項には、フランチャイジーであるヘアサロンはフランチャイザーである商標権者に指導を要請できるとされている。すなわち、この研修や、技術指導の一環として、各店舗のスタッフを集めた講習会を開催し、技術指導を行っているのである。このような講習会の存在は、フランチャイジーであるヘアサロンLIPPSの社員向け教育プログラムである乙第4号証のウェブサイトにおける「スタイル講習」や「デザイン講習」の記述をみても明らかである。 加えて、被請求人は、2018年の2月ないし3月にかけて、その100%子会社である株式会社リップスを通じて実施した「口臭セミナー」に関する証拠を乙第5号証として提出する。商標権者が展開するのはヘアサロンのフランチャイズシステムであり、その美容師が顧客と接する距離が近く、その時間が長いため、スタッフの口臭や体臭が顧客の満足度に大きく影響することを踏まえ、本件契約書の第8条第1項の研修の一環として、これらに関する研修が行われたものである。先ず、乙第5号証の1は、その講師を務めたプライベートデンタルサロンFukudaMKMのF氏のフェイスブックの写しである。「2018年2月28日」の日付とともに、「大手美容室LIPPSで、口臭についてのセミナーを行いました。」、「この原宿店のスタッフ30数名に、今日は、口臭セミナーを行いました。」などの記述の後に、スタッフに伝えた内容も記述されている。乙第5号証の2は同セミナーで配布された資料の一部(抜粋)の写し、乙第5号証の3は原宿店での受講風景の写真の写し、乙第5号証の4は吉祥寺annex店での受講風景の写真の写し、乙第5号証の5はRay GINZA店での受講風景の写真の写し、乙第5号証の6は参加者の名簿(抜粋)の写しである。乙第5号証の3の写真の4枚目の写真をみると、受講生の男性が乙第5号証の2の資料を所持しているのが分かる。また、乙第5号証の6の参加者の名簿には、乙第3号証の1の契約書のフランチャイジーである自由が丘店も含まれている。そして、乙第5号証の7は、商標権者の100%子会社である株式会社リップスから乙第3号証の契約書のフランチャイジーの乙に当たるO氏宛ての請求書の写しであり、その請求内容欄に「口臭セミナー料金」が掲載されていることからも、当該役務の提供がなされたことは明らかといえる。 そうすると、フランチャイザーである商標権者は、フランチャイジーであるヘアサロンに対して、「美容に関するセミナーの企画・運営又は開催」の役務を提供しているのであり、その契約を定めた本件契約書は商標法第2条第3項第8号に定める役務に関する取引書類に該当する。そして、本件契約書の末尾には「甲、乙及び丙は上述のとおり合意したので、本契約に署名、捺印をなし、3通作成のうえ、各自1通宛保有する。」とあり、契約日として「平成29年4月5日」と記載されているところ、契約日である「平成29年4月5日」は要証期間内であり、本件契約書が要証期間内にフランチャイジーであるヘアサロンの乙に頒布されたことは明らかであるから、商標権者は、要証期間内に、本件商標と社会通念上同一の商標を本件役務について使用しているといえる。 さらに、乙第5号証の7の請求書には、「株式会社リップス」の表示があるところ、その構成中の「株式会社」の文字部分は会社法によって記載が義務付けられている会社の種類を表す文字であり、自他役務の出所表示標識としては全く機能しないものであって、出所表示標識たり得るのは「リップス」の文字部分であるから、その使用に係る商標も本件商標とは社会通念上同一ということができるものである。 (4)また、商標権者は、その100%子会社である株式会社リップスを通じて、フランチャイジーであるヘアサロン以外の美容師を対象としたセミナーも開催している。乙第6号証は、株式会社リップスのホームページの抜粋の写しであり、その事業内容の欄に、「全国講習活動」の記載があり、セミナーもその事業の一つであることが分かる。そして、乙第7号証は、ヘアサロンの紹介サイト「HOTPEPPER Beauty」のウェブサイトであるが、被請求人の登録商標である「P」を内包した赤い正方形と「LIPPS」の文字からなる登録商標(第5865364号)、「LIPPS」の文字からなる登録商標(第5866255号)とともに、本件商標が表示され、美容師向けのカットセミナーが開催されたことが掲載されており、その日付は要証期間内である2018年8月9日である。 さらに、乙第8号証は、それらセミナーの開催案内の写しであり、セミナー名が「LIPPSメンズカットデザインセミナー」や「LIPPSメンズカットセミナー」等として、「LIPPS」の文字が冠されているほか、「byLIPPS」(乙8の1及び6)や「行きたいサロンNo.1『LIPPS』presents」(乙8の4及び5)と表記されていることをみても、株式会社リップスが企画、開催したものであること明らかであり、それらセミナーの開催日はいずれも要証期間内である。そして、「LIPPS」を片仮名表記したのが「リップス」であるから、これら開催案内における「LIPPS」と本件商標とは、社会通念上同一の商標であること明らかである。 そうすると、かかる観点からも、商標権者(又は通常使用権者)は、本件商標と社会通念上同一の商標を、その要証期間内に、本件役務について使用しているといえる。 (5)以上のとおり、本件商標は、要証期間内に、日本国内において、商標権者又は使用権者により、本件役務について使用されていたことが明らかであるから、本件審判請求は成り立たない。 2 審尋に対する回答(令和3年2月15日付け回答書) (1)乙第7号証及び乙第8号証の「セミナーの企画、運営又は開催をした者」について 乙第7号証のブログ内容には「先日埼玉ガモウスタジオにて美容師さんに向けたカットセミナーをさせていただきました。」との記載があり、乙第8号証の7及び8枚目の埼玉で行われたセミナー開催日(2018年8月7日)の二日後の2018/8/9の日付であることから、当該セミナーに関する記事であることがうかがえる。 同ブログは「LIPPS原宿」のものであるが、同店舗のウェブサイトとして乙第9号証を提出する。乙第7号証に記載された住所と一致するので、同店舗のものであることが確認できる。また、当該証拠の2枚目下部「会社概要」のページが乙第10号証であり、「株式会社リップス」と記載されていることから、「LIPPS原宿」が「株式会社リップス」による運営であることが理解できる。なお、「株式会社リップス」が被請求人の100%子会社であることは乙第11号証から確認できる。 乙第8号証1枚目(栃木)、11枚目(福岡)、13枚目(岩手)の案内には、「byLIPPS」の文字が記載されていることと、講師が美容室LIPPSの美容師であることから、当該セミナーの主催者が「美容室LIPPS」であることがうかがえる。 (2)「ガモウ担当セールス((株)ガモウ)」と被請求人の関係 株式会社ガモウのウェブサイトの会社概要・各拠点のページを新たに提出する(乙12)。当該証拠の「事業内容」から、同社は「総合美容商社」「美容業務用品・美容器具一式の販売/美容最新情報・商品の提供 イベント・ヘアショーの開催等/人材教育(セミナーの実施等)」を行っており、本件に関連する「セミナーの実施等」が含まれていることが確認できる。 株式会社ガモウと乙第8号証の関係は各セミナーの申込用紙の「アクセス」の項目と乙第12号証中の「支店所在地」以下の項目の住所及び電話番号の一致から、株式会社ガモウの支店が会場になっていたことがうかがえる。ただし、最終ページの岩手での開催は株式会社ガモウの支店ではなく、「アイーナ岩手県民交流センター」で行われている。 被請求人においては、株式会社ガモウに当該セミナーの事務的な作業を依頼しており、セミナー自体(企画・運営又は開催)は被請求人に係るフランチャイジー又は子会社によって行われた。 (3)以上のとおり、本件商標が本件役務の広告を内容とする情報に付されて使用されていたことが明らかであり、商標法2条3項8号の使用に該当する。 第4 当審の判断 1 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。 (1)株式会社リップスは、本件商標権者(被請求人)の100%子会社であり、美容業を展開している(乙2、乙11)。また、美容室LIPPSは、株式会社リップスによって運営されている(乙6)。 (2)ア 株式会社リップスは、その「事業内容」に「全国講習活動」と記載しており(乙6)、LIPPS原宿店の2018年8月9日付のブログとみられるもの(乙7)に、「さいたまカットセミナー」を開催した旨の記載がある。 イ 乙第8号証は、1葉目から順に、いずれも美容室LIPPSの従業員が講師を務める、2016年7月12日の「men’s cut design seminar by LIPPS」、2017年3月14日の「MEN’S CUT DESIGN SEMINAR」、同年7月4日の「LIPPS MEN’S CUT SEMINAR」、2018年8月7日の「LIPPS MEN’S CUT SEMINAR/・・・行きたいサロンNo.1『LIPPS』presents」、同年10月2日と同年11月20日の「行きたいサロンNo.1『LIPPS』presents/LIPPS MEN’S CUT SEMINAR 2days」、同年11月26日の「MEN’S CUT SEMINAR by LIPPS」及び2016年3月14日の「men’s cut design seminar by LIPPS」と題したセミナーの開催案内書兼申込書であり、「P」(アクサンテギュが付されている。以下同じ。)の文字を内包する正方形の下段に「LIPPS」の欧文字を表してなるものや、セミナーのタイトルにおいて「LIPPS」の欧文字が表示されている。 また、上記申込書には、例えば「第1次〆切日/6月1日(水)」(乙8、2葉目。該当する年は2016年。)、「第1次〆切日/2017年2月22日(水)」(乙8、4葉目)、「第一次〆切/2018年11月5日」(乙8、12葉目)といった記載があり、その他、「定員」、「受講料」、「タイムスケジュール」、「申込み方法」などの記載がある。 2 前記1において認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。 (1)使用役務について 前記1(2)イの認定事実からすれば、各セミナーの開催案内書兼申込書は、需要者に対し、セミナーの開催日及びスケジュール、講師、定員、受講料、申込み方法といった各種情報を与えるものであるということができる。 そうすると、当該開催案内書兼申込書は、「セミナーの開催」(以下「使用役務」という。)に関する広告ということができ、使用役務は、本件役務の範ちゅうに属する役務と認められる。 (2)使用商標について 本件商標は、前記第1のとおり、「リップス」の文字を標準文字で表してなるものである。 他方、使用に係る商標は、前記1(2)イの認定事実からすれば、「P」の文字を内包する正方形の図形の下段に「LIPPS」の欧文字を表してなるもの(以下「使用商標1」という。)及び「LIPPS」の文字を表してなるもの(以下「使用商標2」という。)である(以下、これらをまとめていうときは、単に「使用商標」という。)。 そして、使用商標1の構成中、図形部分と文字部分は常に一体のものとしてみなければならないというほど不可分的に結合しているものとはいえないから、それぞれが分離して看取されるものであるところ、「LIPPS」の欧文字は、辞書等に載録のない造語であるから、使用商標1からは、「リップス」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。他方、本件商標は、前記第1のとおり、「リップス」の文字を表してなるところ、これより「リップス」の称呼が生じ、特定の観念は生じない。 そうすると、本件商標と使用商標1中の文字部分は、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼を生じ、観念においても異なるものではない。 次に、使用商標2は、「LIPPS」の欧文字からなるものであるから、上記使用商標1で述べたことと同様に、使用商標2からは、「リップス」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。 そうすると、本件商標と使用商標2は、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼を生じ、観念においても異なるものではない。 以上からすると、使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。 (3)使用時期について 前記1(2)イの認定事実からすれば、要証期間内である2016年(平成28年)3月14日、同年7月12日、2017年(平成29年)3月14日、同年7月4日、2018年(平成30年)8月7日、同年10月2日、同年11月20日、及び同月26日に、使用役務が提供されていたことが認められ、セミナー開催案内書兼申込書(乙8)の性格からすれば、それぞれに当該セミナーの開催日ないしは申込みの締切り日以前に頒布されたものとみるのが相当である。 (4)使用者について 前記1(2)イの認定事実のとおり、乙第8号証における、「LIPPS・・・SEMINAR」、「・・・seminar by LIPPS」、「・・・SEMINAR・・・『LIPPS』presents」の記載及び講師の所属からすれば、美容室LIPPSが当該セミナーを開催したものと認められ、前記1(1)の認定事実のとおり、美容室LIPPSは、株式会社リップスが運営しているものと認められる。 そして、前記1(1)によれば、株式会社リップスは、被請求人の100%子会社であって、両者は緊密な関係にあるものと認められる。そして、被請求人は、株式会社リップスによって使用商標が使用されていることを認識できているにもかかわらず、それに対する異議を述べていない。 そうすると、被請求人は、株式会社リップスに本件商標を使用する黙示の許諾を与えていたものと認められる。 したがって、株式会社リップスは、本件商標の通常使用権者であるといえる。 (5)小括 以上によれば、本件商標の通常使用権者が、要証期間内に日本国内で、本件役務に含まれる使用役務に関する広告に、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付して頒布したと認めることができる。 そして、この行為は、商標法第2条第3項第8号にいう「・・・役務に関する広告・・・に標章を付して・・・頒布・・・する行為」に該当する。 3 請求人の主張について (1)請求人は、被請求人は、乙第7号証及び乙第8号証に依拠して「LIPPS」の文字を本件役務について使用したと主張するものの、本件商標「リップス」と「LIPPS」とは称呼を同一とし得るのみであって観念を異にするものであるから、これらは社会通念上同一の関係にはない。また、被請求人は、乙第7号証及び乙第8号証に示される「LIPPS」の文字が本件商標の「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれ」かによって使用されたものであることをなんら主張立証していないと主張する。 しかしながら、前記2(2)のとおり、本件商標と使用商標は、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼を生じ、観念においても異なるものではないから、これらは社会通念上同一と認められるものである。また、本件商標はその通常使用権者によって使用役務について使用されたものと認められることは、前記2(4)のとおりである。 したがって、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。 (2)請求人は、審尋事項1について、乙第10号証からは、株式会社リップスがLIPPS原宿の運営者であることがなんら立証されていないこと、審尋事項2について、被請求人は主張するのみであって、乙第12号証は何らその事実を立証するものではないと主張する。 しかしながら、前記1(1)の認定事実のとおり、美容室LIPPSは、株式会社リップスが運営しているものとみて差し支えないものである。また、被請求人の主張と、前記2(4)のとおり、乙第8号証における、「LIPPS・・・SEMINAR」、「・・・seminar by LIPPS」、「・・・SEMINAR・・・『LIPPS』presents」の記載及び講師の所属からすれば、株式会社リップスが運営する美容室LIPPSが当該セミナーを開催したものと判断するのが相当である。 したがって、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。 4 まとめ 以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、通常使用権者が、本件審判の請求に係る指定役務に含まれる役務について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることを証明したということができる。 したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-05-13 |
結審通知日 | 2021-05-18 |
審決日 | 2021-06-10 |
出願番号 | 商願2014-110409(T2014-110409) |
審決分類 |
T
1
32・
1-
Y
(W41)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉田 聡一 |
特許庁審判長 |
森山 啓 |
特許庁審判官 |
綾 郁奈子 板谷 玲子 |
登録日 | 2016-02-12 |
登録番号 | 商標登録第5825462号(T5825462) |
商標の称呼 | リップス |
代理人 | 大谷 寛 |
代理人 | 特許業務法人大島・西村・宮永商標特許事務所 |