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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない W35
管理番号 1376853 
審判番号 取消2019-300162 
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2019-03-01 
確定日 2021-07-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第5825462号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5825462号商標(以下「本件商標」という。)は、「リップス」の文字を標準文字で表してなり、平成26年12月26日に登録出願、第35類「経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供」を含む、第3類、第8類、第21類、第35類、第41類、第42類及び第44類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同28年2月12日に設定登録がされ、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録は、平成31年3月14日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成28年(2016年)3月14日から同31年(2019年)3月13日までの期間(以下「要証期間」という。)である。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品及び指定役務中、第35類「経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第35類「経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供」(以下「請求に係る役務」という場合がある。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人による役務の提供や商標の使用は行われていない
ア 被請求人は、本件審判の登録前三年以内に、本件商標を第35類「経営の診断又は経営に関する助言」の役務(以下「本件役務」という。)に使用したことを主張するが、被請求人の行為は、本件役務との関係における本件商標の使用には該当しないことから、本件商標は、その登録の取り消しを免れない。
イ 被請求人は、本件商標をフランチャイジーに使用許諾したことを主張するが、被請求人はフランチャイジー、すなわち通常使用権者が本件役務について本件商標を使用したことの主張立証をしていないから、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」三年以上使用していないことに対する反証とはなっていない。
(2)被請求人は、本件役務に関する「取引書類」を「頒布」していない
ア 被請求人は、フランチャイザーである被請求人とフランチャイジーであるO氏との間の契約を定めた契約書は、商標法第2条第3項第8号に定める本件役務に関する取引書類に該当し、当該取引書類はフランチャイジーに頒布されたから、被請求人は、本件役務について、本件商標を使用したと主張する。しかしながら、同号は、「・・・役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して・・・頒布・・・する行為」であるところ、ここで「頒布」とは、「広告等が一般に閲覧可能な状態になっていること」を意味すると解される(甲1)。また、「頒布」とは、「広くゆきわたるように分かちくばること」(甲2)を意味する語である。被請求人が同号の「取引書類」に該当すると主張する乙第2号証の1の契約書は、被請求人が、極めて限られた数のフランチャイジーとの契約において契約相手であるフランチャイジーに示したものにすぎないから、同号に定める「頒布」の対象となったものではない。実際、被請求人は、乙第2号証の1において、いくつかのマスキングをしており、明らかに「一般に閲覧可能な状態」ではない。また、前記契約書では、フランチャイジーは、契約終了後も含めてフランチャイザーから受領した情報について守秘義務を負っており、これを「一般に閲覧可能な状態」とすることは許されない。
イ フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループ内でのみ行われる書類の受け渡しは、到底「頒布」と評価し得るものではない。
(3)被請求人は、本件商標と実質的同一の商標を使用していない
ア 被請求人は、乙第2号証の1の契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」の文字が付されていることをもって、本件商標「リップス」と社会通念上同一の商標が使用されていると主張するが、「リップスパートナーサロン契約書」の文字のうち「パートナーサロン契約書」の文字を捨象して「リップス」の文字のみが出所識別標識として機能するから、これは「リップス」と社会通念上同一であるとする被請求人の主張にはなんら理由がない。
「リップスパートナーサロン契約書」の文字において、「契約書」の部分については、当該文字が契約書に付されているという取引実情に鑑みれば、これが出所識別標識として需要者に強い印象を与えるものではないと考え得るものの、称呼において淀みなく発音され、外観において片仮名でまとまりよく構成された「リップスパートナーサロン」の文字は、いずれかの部分のみが強く支配的な印象を与えるものではなく、その構成文字全体をもって需要者ないし取引者に認識される。
イ フランチャイズ契約を「パートナーサロン契約」と呼称することが一般的であるわけでもなく、被請求人自身、乙第2号証の1、2頁冒頭において「以下のとおりフランチャイズ契約(通称、『リップスパートナーサロン契約』、以下、『本契約』という)を締結する」と記載し、被請求人独自の呼称として「リップスパートナーサロン契約」の語を用いている。このような語を「リップス」と社会通念上同一と評価する理由はない。
ウ 「リップスパートナーサロン契約書」と記載されているとおり、乙第2号証の1の書類が契約書であることはそれを目にしたフランチャイジーにおいて明らかであり、「リップスパートナーサロン契約書」の文字はそのタイトルを単に示すものとして用いられているにすぎず、自他商品役務の識別標識たる商標として用いられているものではない。
エ 被請求人は、乙第3号証及び乙第4号証に依拠して「LIPPS」の文字を本件役務に関する請求書に使用したと主張するものの、乙第3号証は、被請求人が、本件審判が請求されることを知った後に作成されたものであるから(甲3)、意味を有しない。
オ なお、被請求人は、乙第2号証の2(覚書)が乙第2号証の1(契約書)の第1条第1項の「別紙」に当たる旨主張するところ、当該契約書と覚書は同一の締結日であるにも関わらず、フランチャイジーである乙の印影が異なり、被請求人の主張には、その全体において重大な疑義がある。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第13号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)商標権者は、以下のとおり、要証期間内に、本件商標を、本件役務について使用している。
(2)商標権者は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しているところ、商標権者は、フランチャイザーとして、フランチャイジーであるヘアサロンに対し「経営の診断又は経営に関する助言」を提供している。乙第2号証の1は、そのフランチャイズ契約書(以下「契約書」という。)の写しであり、このことは、2頁の冒頭の「乙及び丙は、甲をフランチャイザー(サブ・フランチャイザー)、乙をフランチャイジー、丙を連帯保証人として、以下のとおりフランチャイズ契約・・・を締結する。」の文言からも明らかである。また、乙第2号証の2は、契約書第1条第1項の別紙に当たる覚書の写しであり、本件商標も使用許諾した商標に含まれている。
そして、契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」として、「リップス」の商標が使用されている。「パートナーサロン契約書」の文字を伴ってはいるが、該文字部分が、ヘアサロンに関するフランチャイズ契約との関係においては出所識別標識としては全く機能しない部分であって、出所識別標識としての使用に係る商標は「リップス」の文字部分といえる。そうすると、その使用に係る商標と本件商標とは、社会通念上同一の商標ということができる。
(3)契約書の第1条第1項には、フランチャイザーである甲はフランチャイジーであるヘアサロンの乙に対し、営業ノウハウを用いることを承諾するとあり、同条第2項には、甲は乙のために個別経営指導や、計数管理指導などの経営指導業務及び予算の作成等の経営管理業務の補助を行うとされている。すなわち、フランチャイザーである商標権者は、フランチャイジーであるヘアサロンに対して、本件役務を提供しているのであり、その契約を定めた契約書は商標法第2条第3項第8号に定める役務に関する取引書類に該当する。
そして、契約書の末尾には「甲、乙及び丙は上述のとおり合意したので、本契約に署名、捺印をなし、3通作成のうえ、各自1通宛保有する。」とあり、契約日として「平成29年4月5日」と記載されている。
そうすると、契約日である「平成29年4月5日」は要証期間内であり、しかも、契約書は要証期間内にフランチャイジーであるヘアサロンの乙に頒布されたことも明らかといえるから、被請求人は、要証期間内に、本件商標と社会通念上同一の商標を本件役務について使用しているといえる。
(4)フランチャイズシステムにおける商取引の下では、前記(3)の役務の提供に対する対価は、加盟金(乙2の1、第14条)及びロイヤリティ(同第16条)として支払われることになるが、被請求人は、前記(3)を補足するものとして、契約書のフランチャイザーである商標権者がフランチャイジーである乙に対してロイヤリティの請求をしている請求書の写し(乙3)を提出する。なお、乙第3号証の宛先は、「株式会社YET」となっているが、株式会社YETは、契約書における乙の権利義務を承継した者である(乙4)。そして、乙第3号証の請求書には、「LIPPS」の文字が表示されているところ、その使用に係る商標と本件商標とは社会通念上同一の商標ということができる。
そうすると、これらを総合するならば、少なくとも、フランチャイズ契約の契約日である平成29(2017)年4月5日から当該請求書の請求日である2019年1月31日までは要証期間内に当たる時期であり、その間、商標権者は、契約書に基づき、フランチャイジーであるLIPPS自由が丘の店舗に対して、本件役務を提供し、当該役務について本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたということができる。
(5)以上のとおり、本件商標は、要証期間内に、日本国内において、商標権者又は使用権者により、本件役務について使用されていたことが明らかであるから、本件審判請求は成り立たない。
2 審尋に対する回答(令和3年2月15日付け回答書)
(1)フランチャイジーに対して本件役務を提供した事実について
美容室におけるサービスや、それに用いられる物に関する会議資料と、それがLIPPS事務所宛にメールにて提出されていることが確認できる資料を提出する(乙5)。
当該メール差出人「自由が丘店 Y」氏がメール送信時に自由が丘店に在籍していたことは、2017年(平成29年)4月24日のホットペッパービューティーヘの投稿記事と(乙6)、現在のLIPPS自由が丘店のSTAFFのページから容易に理解される(乙7)。
(2)乙第3号証における「(別紙A)」について
乙第3号証中の「(別紙A)」は、請求内容の項「ロイヤリティー(5%)」に関するものであり、乙第8号証として新たに提出する。当該証拠は、売上等が記載されているため一部のみ公開とするが、欄外に記載しているとおり【ロイヤリティ】については二子玉川店が「-413円」、自由が丘店が「-464円」であり、乙第3号証中の「ロイヤリティー(5%)」の項の各店舗の三桁と一致する。
新たに提出した当該証拠においては、金額を隠していることによって、各店舗のロイヤリティーの額の一致について確認できないと思われるが、「別紙A」は単にロイヤリティー額がどのように算出されたかということを確認するための書類であるところ、使用証明に必要な書類ではないため、マスキングのままの提出とする。
(3)2018年(平成30年)12月以前の株式会社YET宛の請求書及び同社が支払った事実について
2018年12月以前の乙第3号証と同様の請求書については、2018年1月から同年12月分のものを提出する(乙9)。乙第3号証において指摘されていた別紙Aについても請求書毎に存在するため、併せて提出している。
なお、当該請求書に対して株式会社YETが支払った事実については、上記の2018年1月から同年12月分の請求書に対する株式会社YET(又はO氏)からの振り込みの事実が確認できるよう、商標権者の通帳の写しを提出する(乙10)。
(4)新たに提出する使用証拠
フランチャイジーであるLIPPS自由が丘店の出店に際して、商標権者から事業計画書が提供されており、代表者であるO氏宛にメールで送信されている(乙11)。添付されているのは「自由が丘 事業計画書最終.pdf」となっており、複数回やり取りが行われていたことがうかがえ、商標権者が本件役務を行っていたことが確認できる(乙11)。
(5)「頒布」について
「フランチャイジーに対する経営の診断又は経営に関する助言」は、本件役務に含まれ、契約書タイトルの「リップス」の表示は商標の使用とみることができる。契約書等の取引書類への使用については使用の相手方に交付すればよく広く配布することは要しない。「頒布」について、裁判例で以下のように判示されている。
「原告は,パンフレットA及びBは,被告商品の購買者に配布されたにすぎず,不特定多数を対象とし,一般需要者・取引者の目に触れる態様において展示又は頒布がなされたものではないから,商標法2条3項8号にいう『展示』又は『頒布』にも当たらないと主張する。しかしながら,同号の法文には原告主張に係る要件は付されておらず,『展示』又は『頒布』の通常の意味に照らしても,『展示』又は『頒布』が不特定多数を対象になされなければならないと解することはできない(むしろ,取引書類は特定の者に『展示』又は『頒布』することが予定されているといってよい。)。また,商標法は『商標の使用をする者の業務上の信用の維持』(同法1条)を目的とするところ,商標の使用により業務上の信用が形成ないし毀損されるのは,不特定多数を対象にする場合に限らないのであるから,同法の目的に照らしても,『展示』又は『頒布』を不特定多数を対象とする場合に限定すべき理由はない。」(東京高裁平成16年(行ケ)第150号平成16年10月27日判決、乙第12号証)、「提案書は取引上必要な書類であるから,本件役務に関する取引書類に当たるところ,通常,このような提案書は提供を求める特定の顧客に交付されるものであるから,現実に提供を求める顧客に交付されている以上,これを頒布したということができる。」(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10105号平成18年8月9日判決、乙第13号証)
(6)以上のとおり、本件商標は本件役務の取引書類に付されて要証期間内に頒布されていることは明らかであり、該行為は商標法2条3項8号の使用に該当するものである。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)ア 被請求人は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しており、「LIPPS自由が丘店」は、平成29年(2017年)4月5日付けの株式会社レスプリ(被請求人)との「リップスパートナーサロン契約書」と称するフランチャイズ契約書に基づいて、O氏によって運営されている店舗であり(乙2の1)、2018年(平成30年)6月22日付の覚書(乙4)によって、株式会社YETは、O氏の契約書上の権利義務を承継した。
イ 契約書の表紙には、「P」(アクサンテギュが付されている。以下同じ。)の文字を内包する正方形の図形の下に「LIPPS」の欧文字を表してなるものや「リップスパートナーサロン契約書」の文字が表示されている(乙2の1)。
ウ 契約書の第1条第1項には、フランチャイザーである甲(被請求人)はフランチャイジーであるヘアサロンの乙(O氏)に対し、「・・・ヘアサロンを営業すること、かつ、ヘアサロン営業のため甲が供給又は指定する化粧品等の関連商品を使用・販売すること、及び、甲の営業ノウハウを用いることを承諾する」とあり、同条第2項には、「甲は乙のために、以下の個別経営指導業務及び予算の作成等の経営管理業務の補助を行う」とあり、その中には「個別経営指導」が挙げられていることから(乙2の1)、被請求人は、自身の営業ノウハウを用いて、O氏の営業の補助として、「個別経営指導」(以下「使用役務」という。)を提供するものとみることができる。
エ 契約書の末尾には、契約日として「平成29年4月5日」と記載されている(乙2の1)。
オ 契約書の第16条には、フランチャイジーがフランチャイザーに支払う「ロイヤリティ」が「本契約書第1条第1項及び第2項に対する対価」である旨の記載があり、第1条第2項には、前記ウのとおりの記載が認められ、かつ、2019年1月並びに2018年1月から同年12月まで毎月、使用役務等に対する対価として、フランチャイザーからの請求に基づき、フランチャイジーからフランチャイザーへロイヤリティが支払われていることが確認できる(乙3、乙9?乙10)。
(2)2017年3月24日に、フランチャイジーであるLIPPS自由が丘店の出店に際して、被請求人からO氏宛に事業計画書がメールで送信されており、当該事業計画書の3頁において、「出店計画」として「マーケティング戦略」の記載、4頁において「売上見込及び従業員数」や「収支計画表」の記載があり(乙11)、使用役務が提供されていることをうかがい知ることができる。
なお、乙第5号証について、被請求人は、美容室におけるサービスや、それに用いられる物に関する会議資料と、それがLIPPS事務所宛にメールにて提出されていることが確認できる資料である旨主張するが、差出人が自由が丘店のY氏であることはうかがえるものの(乙6)、宛先の「lipps事務所」と被請求人の関係が明らかではない。
2 前記1において認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。
(1)使用役務について
前記1(1)のとおり、使用役務は、「個別経営指導」であるところ、これは、請求に係る役務に含まれる「経営の診断又は経営に関する助言」の範ちゅうに属する役務と認められる。
(2)使用商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「リップス」の文字を標準文字で表してなるものである。
他方、使用に係る商標は、前記1(1)イの認定事実からすれば、「P」の文字を内包する正方形の下に「LIPPS」の欧文字を表してなるもの(以下「使用商標1」という。)及び「リップスパートナーサロン契約書」の文字を表してなるもの(以下「使用商標2」という。)である(以下、これらをまとめていうときは、単に「使用商標」という。)。
そして、使用商標1の構成中、図形部分と文字部分は常に一体のものとしてみなければならないというほど不可分的に結合しているものとはいえないから、それぞれが分離して看取されるものであるところ、「LIPPS」の欧文字は、辞書等に載録のない造語であるから、使用商標1からは、「リップス」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。他方、本件商標は、前記第1のとおり、「リップス」の文字を表してなるところ、これより「リップス」の称呼が生じ、特定の観念は生じない。
そうすると、本件商標と使用商標1は、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼を生じ、観念においても異なるものではない。
次に、使用商標2は、その構成中「パートナー」の文字は「共同で仕事をする相手」を意味し、「サロン」の文字は「美容や飲食などの接客を主とする業種・店舗につける語」を、「契約書」の文字は「契約の成立を証明する書類」(出典:いずれも「goo辞書」)を意味することから、その構成文字及び態様からすれば、「リップス」の「パートナーサロン(共同で仕事をする相手として美容等の店舗に係る)契約書」ほどの意味合いを理解させるものであり、特定の観念を生じない「リップス」の文字部分に対し、「パートナーサロン契約書」の文字部分は、識別力がない又は弱い部分であるといえることから、「リップス」の文字部分を要部と判断するのが相当である。
そうすると、本件商標と使用商標2の要部とは、書体のみに変更を加えた同一の文字からなるものといえる。
以上からすると、使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
(3)使用時期について
前記1(1)の認定事実からすれば、要証期間内である平成29年(2017年)4月5日時点において、被請求人とO氏の間でフランチャイズ契約が締結され、使用商標を付した使用役務についての取引書類が頒布されたということができる。
(4)使用者について
前記1(1)の契約書における、「株式会社レスプリ」は、本件商標の商標権者である。
(5)小括
以上によれば、本件商標の商標権者が、要証期間内である平成29年4月5日に、請求に係る役務の範ちゅうに含まれる使用役務「個別経営指導」に関する取引書類に、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付して頒布したと認めることができる。
そして、この行為は、商標法第2条第3項第8号にいう「・・・役務に関する取引書類に標章を付して・・・頒布・・・する行為」に該当する。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、フランチャイザーである被請求人とフランチャイジーであるO氏との間の契約を定めた契約書(乙2)は、被請求人が、極めて限られた数のフランチャイジーとの契約において契約相手であるフランチャイジーに示したものにすぎないから、商標法第2条第3項第8号に定める「頒布」の対象となったものではなく、同号に定める「取引書類」には該当しない旨主張する。
しかしながら、前記第3の2(5)の裁判例に示されるとおり、同号の「頒布」が不特定多数を対象になされなければならないと解することはできず、前記契約書は取引上必要な書類であって、本件役務に関する取引書類に当たり、通常、このような契約書は提供を求める特定の顧客に交付されるものであるから、現実に提供を求める顧客に交付されている以上、これを頒布したとみるのが相当である。
(2)請求人は、乙第2号証の1(契約書)と乙第2号証の2(覚書)におけるフランチャイジーの印影が異なることを挙げ、被請求人の主張には、その全体において重大な疑義があると主張する。
しかしながら、乙第2号証の契約書と覚書の印影が異なるとしても、契約書(乙2の1)それ自体に不自然な点はないから、両書面の印影が異なることのみをもって、直ちに被請求人の主張の全体において重大な疑義があるとまではいえない。
したがって、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者が、本件審判の請求に係る指定役務の範ちゅうに含まれる役務について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることを証明したということができる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2021-05-13 
結審通知日 2021-05-18 
審決日 2021-06-10 
出願番号 商願2014-110409(T2014-110409) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (W35)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 聡一 
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 綾 郁奈子
板谷 玲子
登録日 2016-02-12 
登録番号 商標登録第5825462号(T5825462) 
商標の称呼 リップス 
代理人 大谷 寛 
代理人 特許業務法人大島・西村・宮永商標特許事務所 

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