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審決分類 審判 査定不服 商4条1項15号出所の混同 登録しない W40
管理番号 1376045 
審判番号 不服2019-6143 
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-13 
確定日 2021-07-26 
事件の表示 商願2017-151531拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1 本願商標
本願商標は、「庵治石工衆」の文字を標準文字で表してなり、第40類「石材の加工,墓石・石塔・石碑・石製彫刻の加工,石材の加工及びこれに関する情報の提供,石材に関する情報の提供,墓石・石塔・石碑・石製彫刻に関する情報の提供」を指定役務として、平成29年11月17日に登録出願されたものである。

2 原査定の理由の要点
本願商標は「庵治石工衆」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「庵治石」の文字は、地域団体商標として、平成19年3月9日に商標登録(商標登録第5030818号)されており、香川県高松市牟礼町所在の讃岐石材加工協同組合が「香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された墓用・石碑用石材・自然石を使用してなる庭石,香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された石材を使用し同町で加工された灯ろう・墓石・墓標及び墓碑用銘板・石製彫刻」に使用した結果、本願商標出願前から、我が国の需要者間において広く認識されている著名な商標である。
そして、本願商標の指定役務である「石材の加工」等と讃岐石材加工協同組合が使用する著名な商標「庵治石」が取り扱う商品は極めて関連性が高く、商品等の需要者の共通性や取引の実情も同じとみるべきものである。
そうすると、本願商標は、その構成中の一部に、地域団体商標として商標登録されている「庵治石」の文字を有してなるものであり、上記登録商標と商品等の出所の混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが相当である。
したがって、本願商標は、これをその指定役務「石材の加工,墓石・石塔・石碑・石製彫刻の加工,石材の加工及びこれに関する情報の提供,石材に関する情報の提供,墓石・石塔・石碑・石製彫刻に関する情報の提供」について使用するときは、あたかも前記組合と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如く、役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきであるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。

3 当審における証拠調べ通知
当審は、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当するか否かについて、職権に基づく証拠調べを実施した結果、別掲の事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人に対し、相当の期間を指定して令和2年4月21日付けで証拠調べの結果を通知して、これに対する意見の提出を求めた。

4 証拠調べ通知に対する請求人の意見の概要
(1)本願商標が、「庵治」の文字と「石工衆」の文字を組み合わせて形成された造語であり、その構成全体をもって、一種の造語として認識、理解されることからすると、「庵治石」が本願商標の指定役務に関連する取引者、需要者の間で広く認識されているとしても、本願商標と「庵治石」の文字とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない別異の成語であるというべきであるから、本願商標をその指定役務に使用しても、役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
(2)同様の事例で、登録第5495765号商標「宇治茶房」(第30類「茶,菓子及びパン」)が、地域団体商標の登録第5050328号商標「宇治茶」(第30類「京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶」に対して、商品の出所について混同を生ずるおそれはないと判断されており、この事例からも、本願商標は「庵治石」と役務の出所について混同を生ずるおそれはない。

5 当審の判断
(1)本願商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして、上記の「混同を生じるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
イ 「庵治石」の文字の周知著名性について
別掲で提示した事実によれば、「庵治石」の文字は、「アジイシ」と称呼され、高級墓石材として著名な「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩」を表示するものとして、本願商標の指定役務に関連する墓用石材や墓石等の取引者、需要者の間で広く認識されていると認められる。
そして、当該文字を標準文字で表してなる商標(以下「引用商標」という。)については、讃岐石材加工協同組合、庵治石開発協同組合及び協同組合庵治石振興会(以下、「讃岐石材加工協同組合等」という。)が、その構成員(請求人は、当該構成員ではない。)に使用をさせる商標であって、その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品である第19類「香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された墓用・石碑用石材・自然石を使用してなる庭石,香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された石材を使用し同町で加工された灯ろう・墓石・墓標及び墓碑用銘板・石製彫刻」を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることを理由に、当該商品を指定商品として、平成19年3月9日に地域団体商標の商標登録(登録第5030818号商標)を受けている(なお、当該商標登録は、平成28年11月22日に商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続している。)。
ここで、上記1によれば、本願商標の指定役務は、石材若しくは墓石等の加工又はこれらの情報提供に係るものといえるところ、当該加工又は情報提供の対象物が、引用商標の指定商品を含む墓用石材や墓石等であるといえる。そうすると、本願商標の指定役務の取引者、需要者は、引用商標の指定商品を含む墓用石材や墓石等に、通常に接しているといえる。
以上によれば、「庵治石」の文字は、「アジイシ」と称呼され、「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩」の観念を生じるものであるとともに、讃岐石材加工協同組合等に係る、香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された墓用・石碑用石材・自然石を使用してなる庭石、並びに香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された石材を使用し同町で加工された灯ろう・墓石・墓標及び墓碑用銘板・石製彫刻に関する地域ブランドの観念をも生じるものとして、本願商標の登録出願日の時点において、本願商標の指定役務の取引者、需要者の間に広く認識されて、一定の周知性を有していたものであって、その周知性は、現在においても継続しているものと認められる。
ウ 商標の類似度の程度
(ア)本願商標について
本願商標は、上記1のとおり、「庵治石工衆」の文字を標準文字で表してなるものである。そして、上記イのとおり、「庵治石」の文字は、「アジイシ」と称呼されるとともに、本願商標の指定役務の取引者、需要者に、讃岐石材加工協同組合等の周知な商標と認識させるものであるところ、本願商標は、当該「庵治石」の文字を語頭という注意をひきやすい位置に含んだ態様である。
このように、本願商標の構成中、前半部分の「庵治石」の文字部分は、讃岐石材加工協同組合等の周知な商標と同一の文字よりなるものであるとともに、需要者、取引者の目を特に引く部分に位置しているから、当該文字部分の自他役務識別機能は高いものと認められる。
他方、本願商標の構成中、後半部分の「工衆」の文字部分は、特段の意味合いをもつものではなく、また、本願商標である「庵治石工衆」の文字は、全体として一種の熟語を形成するものでもない。
そうすると、本願商標は、これに接する取引者、需要者に、讃岐石材加工協同組合等の「庵治石」を用いた役務その他の「庵治石」と何らかの関連性をもつ役務と理解させるものであり、讃岐石材加工協同組合等と資本上又は経済上の関連性があることを強く示唆するものといえる。
また、本願商標は、上記のとおり、周知な「庵治石」の文字を語頭に含んでいるものであり、当該文字は「アジイシ」と称呼されるから、本願商標に接した取引者、需要者は、本願商標を、「アジイシクシュウ」又は「アジイシコウシュウ」と称呼するというのが相当である。
(イ)引用商標について
引用商標は、上記イのとおり、「庵治石」の文字を標準文字で表してなるところ、「アジイシ」の称呼を生じ、「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩」の観念を生じるとともに、讃岐石材加工協同組合等に係る、香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された墓用・石碑用石材・自然石を使用してなる庭石、並びに香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された石材を使用し同町で加工された灯ろう・墓石・墓標及び墓碑用銘板・石製彫刻に関する地域ブランドの観念をも生じるものである。
(ウ)本願商標と引用商標の対比
外観について、本願商標は、上記(ア)のとおり、「庵治石」の文字部分の自他役務識別機能が高いところ、この文字部分の漢字が、引用商標の「庵治石」の漢字と同一である。そして、本願商標を構成する5字のうち語頭からの3字が、引用商標と一致する。そうすると、本願商標と引用商標とは、外観上相紛らわしい点を含むといえる。
称呼について、本願商標は、上記(ア)のとおり、「アジイシクシュウ」又は「アジイシコウシュウ」の称呼を生じるところ、これらの称呼は、引用商標の「庵治石」という周知な文字の「アジイシ」との称呼を、語頭という注意をひきやすい位置に含んでおり、しかも、本願商標の称呼のうち語頭からの概ね半分程度が引用商標の称呼と一致するものであることから、本願商標と引用商標とは、称呼上相紛らわしい点を含むといえる。
観念について、本願商標は、上記(ア)のとおり、「庵治石」を用いた役務その他の「庵治石」と何らかの関連性をもつ役務との意味合いを生じることからすれば、本願商標と引用商標とは、観念上相紛らわしい点を含むといえる。
以上からすると、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても、相紛らわしい点を含むものであるから、両者の類似度は相当程度高いものというべきである。
エ 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
上記イのとおり、引用商標は、本願商標の指定役務の取引者、需要者の間に広く認識されており、一定の周知性を有している商標である。
他方、引用商標は、地域の名称である「庵治」の語と引用商標の指定商品を表す普通名称である「石」の語とを普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる地域団体商標であるから、その構成自体は独創的なものではない。
オ 本願商標の指定役務と引用商標の指定商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
上記イのとおり、本願商標の指定役務は、その加工又は情報提供の対象物を、引用商標の指定商品を含む墓用石材や墓石等とするものであるから、本願商標の指定役務と引用商標の指定商品とは、密接な関連性を有するとともに、取引者、需要者も相当程度で共通にするものといえる。
また、本願商標の指定役務の需要者は、一般需要者を含むといえるところ、このような一般需要者は、特別の専門的知識経験を有するものではない。そして、本願商標の指定役務は、「石材の加工,墓石・石塔・石碑・石製彫刻の加工,石材の加工及びこれに関する情報の提供,石材に関する情報の提供,墓石・石塔・石碑・石製彫刻に関する情報の提供」であるところ、このうち情報の提供に係る役務は、高額な役務であるとは言い難いし、石材等の加工に係る役務も、様々な石材や加工の種類があることから、必ずしも高額な役務であるとは言い難い。そうすると、本願商標の指定役務の需要者において普通に払われる注意力が、殊更に高いものであるとまではいえない。
カ 出所の混同のおそれについて
以上のとおり、本願商標は、他人の表示である引用商標との類似度が相当程度高いこと、引用商標は、独創的な構成からなるものではないものの、本願商標の指定役務の取引者、需要者間において広く認識されている一定の周知性を有する商標であること、本願商標の指定役務と引用商標の指定商品とは、密接な関連性を有するとともに、取引者、需要者を相当程度で共通にするものであること、本願商標の指定役務の需要者において普通に払われる注意力が殊更に高いものであるとまではいえないこと等を総合的に考慮すれば、本願商標をその指定役務に使用した場合は、これに接した取引者、需要者に対し、引用商標の商標権者の業務に係る「庵治石」の表示を連想させて、当該役務が引用商標の商標権者又はその構成員との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信され、役務の出所につき誤認を生じさせるおそれがあるというのが相当である。
よって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(2)請求人の主張について
ア 請求人は、本願商標が、「庵治」の文字と「石工衆」の文字を組み合わせて形成された造語であり、その構成全体をもって、一種の造語として認識、理解される旨主張し、その根拠として、本願商標は、外観上、まとまりよく一体的に表されている旨、「アジイシクシュウ」及び「アジセッコウシュウ」という7音の称呼は、冗長ではなく一息で発音できる旨、「石工」と「衆」は、それぞれの字義からみて、「石工衆」という成語として理解されることから、本願商標は、「庵治」の文字と「石工衆」の文字を組み合わせて形成された造語であり、その構成全体をもって、一種の造語として認識し、理解される旨を挙げる。
しかしながら、「庵治石」の文字は、上記(1)イのとおり、本願商標の指定役務の取引者、需要者の間に広く認識されているものであるとともに、上記(1)ウ(ア)のとおり、本願商標においては、語頭という注意をひきやすい位置に配されているものである。他方で、「石工衆」の文字は、辞書に載録されていない上、本願商標の指定役務の取引者、需要者の間に広く認識されているものともいえない。そうすると、本願商標に接した取引者、需要者が、これを、「庵治石」という文字に注意をひかれることなく、「石工衆」という文字にもっぱら着目して認識、把握するというべき特段の事情は見当たらない。そして、本願商標が、外観上まとまりよく一体的に表されていて、称呼上冗長ではないとしても、上記(1)ウ(ア)の認定を左右するものではない。
さらに、請求人は、本願商標を自らの上記主張のとおり理解することを前提に、「庵治石」が本願商標の指定役務に関連する取引者、需要者の間で広く認識されているとしても、本願商標と「庵治石」の文字とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない別異の成語であるというべきであるから、本願商標をその指定役務に使用しても、役務の出所について混同を生ずるおそれはない旨主張するが、その前提が失当である。
イ 請求人は、本願商標の「庵治石工衆」と引用商標の「庵治石」とは、外観、称呼、観念のいずれも類似しない非類似の商標である旨主張し、その根拠として、本願商標が、全体が同じ字体同じ大きさの商標であり、外観上特に強調される部分も存在しないので、需要者はこれを一体の商標であると判断するとともに、称呼も「アジイシクシュウ」と7音であり冗長ではなく一息で発音できることから、一連一体の商標であって、「庵治の石を加工する集団」という意味を生じる一方、引用商標が、「アジイシ」と称呼され、「庵治の石」という意味しか生じないことを挙げる。
しかしながら、本件では、本願商標の商標法第4条第1項第15号該当性が問われているのであるから、本願商標と引用商標との類否ではなく、上記(1)のとおり、両商標の類似度の程度を含めた総合判断がなされるべきものである。そして、両商標の類似度の程度についてみれば、上記(1)ウのとおり、本願商標と引用商標の類似度は、相当程度高いものである。
そして、請求人は、本願商標からは、「庵治の石を加工する集団」との意味が生じるが、「庵治の石」との意味が生じない旨主張し、その根拠として、本願商標から「庵治石」の文字を取り除くと「工衆」という無意味な言葉が残ることを挙げ、また、本願商標のうち、「庵治」の部分が地名であるので識別性がないと考えた場合には、本願商標の要部は「石工衆」となるとも主張するが、これも、上述のとおりである。
ウ 請求人は、「庵治石」の墓石などの商品を購入する需要者は、一般的な取引者及び需要者に比べて商標等に対する注意力が非常に高い旨主張し、その根拠として、「庵治石」は、その素材自体が非常に大きな価値があり、「庵治石」の墓石などの商品を購入する需要者は、購入する商品の素材が「庵治石」であるかを綿密に吟味して商品を購入することや、一生に一度の取引あるかないかの大きな取引であることを挙げる。
しかしながら、本願商標の指定役務は、「庵治石」の墓石などの商品ではなく、「石材の加工,墓石・石塔・石碑・石製彫刻の加工,石材の加工及びこれに関する情報の提供,石材に関する情報の提供,墓石・石塔・石碑・石製彫刻に関する情報の提供」の役務であり、これらの役務は、上記(1)オのとおり、必ずしも高額であるとは言い難いものである上、その需要者は、特別の専門的知識経験を有しない一般需要者を含むものである。そして、本願商標が他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標であることについては、上記(1)カで判断したとおりである。
エ 請求人は、本願商標の指定役務である「石材の加工」等は、石材を加工して製品を製造する事業であり、その事業において取り扱う素材、つまり、加工する石材は多岐にわたるのが一般的であって、墓石や石塔等の製造を依頼する場合、その事業者の加工技術やデザイン性等を信頼して依頼することが通常であるから、石材を加工して製品を製造する事業者のホームページなどに「庵治石工衆」の商標が使用されていたとしても、せいぜい「庵治」の地域に関連性のある事業者であると考えることはあったとしても、直ちに「庵治石」を素材とした石材の加工品を製造している事業者であるとは考えないのであり、ましてや、「庵治石工衆」を使用する事業者が、「庵治石」を使用した商品にのみ付される地域団体商標「庵治石」の商標権者の関連企業等これらと何らかの関係ある者とは直ちに認識しないと考える方が妥当である旨主張する。
請求人の主張は、判然としないところはあるが、本願商標の指定役務が「石材の加工」等であることから、その取引者、需要者は、本願商標を「石材の加工」等の観点から観察するはずであり、そうであるならば、本願商標の構成中、「庵治石」の部分に着目するのではなく、「石工」の部分に着目して、本願商標を認識、把握する旨主張しているものと解される。
しかしながら、上記(1)イのとおり、引用商標の「庵治石」の文字は、本願商標の指定役務の取引者、需要者の間に広く認識されており、しかも、上記(1)ウ(ア)のとおり、本願商標は、当該「庵治石」の文字を語頭という注意をひきやすい位置に含んだ態様である。そうすると、本願商標の指定役務の取引者、需要者が、もっぱら「石工」の部分に着目して、本願商標に接するとはいえないというべきである。そして、本願商標が他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標であることについては、上記(1)カで判断したとおりである。
オ 請求人は、過去の登録例からも、本願商標は引用商標と役務の出所について混同を生ずるおそれはない旨主張するが、請求人の挙げる登録例は、本願商標とは、構成文字や構成態様が異なるものであって、かつ、具体的事案の判断においては、過去の登録例に拘束されることなく、当該商標登録出願の査定時又は審決時において、当該商標の構成態様と取引の実情に応じて個別的に判断されるべきであるから、これらの事例の存在によって、上記(1)の認定判断が左右されるものではない。
カ よって、請求人の主張は、いずれも採用できない。
(3)まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するから、これを登録することはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲(「庵治石」の語が、本願商標の指定役務に関連する取引者、需要者の間で広く認識されている事実)
1 辞書類
(1)広辞苑第六版(2008年1月11日、株式会社岩波書店発行)には、「あじいし【庵治石】」の見出しの下、「香川県高松市庵治町産の花崗岩。細粒均質で青灰色を呈する。産額は少ないが高級墓石材として著名。」との記載がある。
また、広辞苑第七版(2018年1月12日、同書店発行)には、同じ見出しの下、香川県高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩。細粒均質で青灰色を呈する。産額は少ないが高級墓石材として著名。」との記載がある。
(2)大辞林第三版(2006年10月27日、株式会社三省堂発行)には、「あじいし【庵治石】」の見出しの下、「香川県高松市庵治町で産する、良質の黒雲母花崗岩。墓石などにする。」との記載がある。
(3)大辞泉第二版(2012年11月7日、株式会社小学館発行)には、「あじいし【庵治石】」の見出しの下、「香川県高松市庵治町で産出する石。黒雲母のまざった青灰色の花崗岩で、高級な墓石などに使用。」との記載がある。

2 新聞情報(下線は合議体が付した。)
(1)2020年1月7日 読売新聞(大阪本社) 朝刊23頁
「[世界とつながる四国](6)庵治石 新国立に採用」の見出しの下、「真新しい国立競技場(東京都新宿区)は、約6万人の観客であふれていた。(中略)そんな熱狂の中、競技場にいた高松市の庵治石開発協同組合代表理事の太田元さん(71)ら庵治石の業界関係者12人が目を向けたのは、フィールドではなかった。競技場の3階に上がると、『風の庭』と呼ばれるスペースへ。『みんなの思いがようやく形になった』。そこに庵治石がびっしりと敷き詰められているのを見ると、安堵(あんど)した。」、及び「国内外で評価が高い庵治石は、きめの細かな模様や、水晶と同じ程度の硬度を持つことから、墓石の高級材として知られる。」との記載がある。
(2)2019年10月12日 産経新聞(大阪) 夕刊3頁
「香川、うどんだけじゃない!」の見出しの下、「香川県の中小企業が開発した新商品や技術を紹介し、販路開拓を目指す発表会が7月、高松市の総合コンベンション施設『サンメッセ香川』で開かれた。地元の高級石材・庵治(あじ)石を使ったおしゃれな新商品が出展されたり、県産の農作物を活用したおいしい逸品が振る舞われたりするなど、41事業者(連携体)がえりすぐりの品々をアピールした。」、及び「島本石材工業(高松市)が今年発売したコーヒードリップスタンドだ。最高級の石といわれる地元の庵治石を使用している。庵治石は、高松市牟礼(むれ)町と同市庵治町にまたがる五剣山で採れる花崗(かこう)岩。墓石として重宝されてきたが、近年は安価な外国産の石に押されているほか、ライフスタイルの変化もあって墓石としての需要が減少。このため関連業者が、長年培った技術を生かした新商品の開発に力を入れている。」との記載がある。
(3)2019年10月2日 朝日新聞 朝刊25頁
「思い出愛車、庵治〈石〉なカタチに 高松市、ふるさと納税返礼品 不振に一石/香川県」の見出しの下、「お墓を建てる人が少なくなり、苦境に立つ県の高級石材『庵治(あじ)石』の職人が、石を依頼者のマイカーの形にして贈るサービスを始めた。高松市のふるさと納税の返礼品で、30万円以上の寄付が必要だが、『納車』まで最短でも半年待ちの人気になっている。」、及び「庵治町は隣の高松市牟礼町とともに、岡崎(愛知)、真壁(茨城)と並ぶ日本三大石材産地とされる。きめが細かい庵治石は『花崗岩(かこうがん)のダイヤモンド』とも呼ばれてきた。だが、近年は墓石としての需要が減り、不振が続く。市牟礼庵治商工会によると、墓石や建材に使う『切り石』の生産は、05年に1万トン近くあったが、18年は3千トン余りにまで減った。」との記載がある。
(4)2016年4月15日 読売新聞(東京本社) 朝刊33頁
「『佐貫石仏』開山者の墓建つ 藤原富正 従者の子孫寄付=栃木」の見出しの下、「間口約2・8メートル、奥行き約3・8メートルの墓地を構え、墓石は、名石として知られる香川県特産の庵治石(あじいし)を使用した。」との記載がある。
(5)2016年2月23日 朝日新聞 朝刊28頁
「(讃岐力 庵治石:上)銘石の地、息づく技術 東京五輪の聖火台へ一手」の見出しの下、「庵治(あじ)石は日本が誇る銘石です。その歴史は古く、はるか平安時代にまでさかのぼるとされます。現在も様々な建築物に採り入れられていますが、主力の墓石は安価な外国産に押され気味です。」、及び「<庵治石> 高松市牟礼町、庵治町の境界付近を中心に採掘されている花崗岩(かこうがん)。地肌はきめ細やかで、磨くほどにつやが増す。黒雲母が密に入っていることでまだら模様の濃淡が出る特徴があり、表面が二重のかすり模様のように見えることを『斑(ふ)が浮く』と呼ぶ。最高級の墓石には3千万円の値がついたこともある。年間産出量は約8万トン。うち墓石になるのは6%程度という。」との記載がある。
(6)2016年2月20日 読売新聞(大阪本社) 朝刊35頁
「庵治石の砂利 液状化抑制 香川高専教授ら研究 年18万トン発生=香川」の見出しの下、「高松市特産の高級石材・庵治石を採石する際、大量に出る砂利(採石ズリ)が、地震で起きる液状化現象を抑制するのに有効だと、香川高専や香川大の研究者が発表した。住宅建築時、土の代わりに採石ズリを敷くと地盤が強固になるという。庵治石開発協同組合(高松市)は、宅地の地盤改良材として活用できると期待する。」、及び「庵治石は市北東部の庵治、牟礼両地区が産地で、墓石などの高級石材として全国的に有名だ。ところが、1回の採石作業で産出できる石は4割ほど。残りは有効な使い道がない砂利で、分量は年約18万トンにのぼるという。採掘現場に放置されている事例もある。」との記載がある。
(7)2015年6月8日 日経MJ 9頁
「県産品、海外進出後押し、香川県、米展示会への出展主導。」の見出しの下、「【高松】香川県は県産品を扱う中小企業の海外展開を本格的に支援する。欧米向けに販路を展開する足がかりとして、今夏に県主導で11社が米国の大規模展示会に出展する。外郭団体の専門組織が商品開発を助言し継続的に海外進出を支援する。県産品の輸出が増える中、香川漆器や手袋、庵治石(あじいし)など県産品の認知度向上につなげる。」、及び「11社は県産の漆器や線香、手袋、庵治石など県産品を扱う。高級墓石として知名度の高い庵治石の加工品を扱うオオクボエンタープライズ(高松市)は庵治石を使ったタブレット(多機能携帯端末)や文具スタンド、スピーカーセットを出展。『文具スタンドなどを中心に小売店や高級雑貨店を開拓する』(同社)」との記載がある。
(8)2015年1月7日 日経MJ 2頁
「石のざらつきに温かみ??生活雑貨『AJIPROJECT』。」の見出しの下、「(前略)素材は、香川県高松市牟礼町と庵治町で採掘された『庵治石(アジイシ)』を使用する。同地域は古くから石材業が盛んで、庵治石は花崗岩の中でもキメが細かく、光の当たる角度でキラキラと輝くところから『花崗岩のダイヤモンド』と評される。硬度も高く、風化や変質にも強いことから高級墓石としても名高い。」との記載がある。
(9)2013年11月19日 読売新聞(東京本社) 朝刊33頁
「[先人を訪ねて]イサム・ノグチ 石の空間に人生刻む=東京」の見出しの下、「◇高松市 那須与一が扇の的を射抜いた源平合戦の故事で知られる景勝地、屋島に近い高松市牟礼町。20世紀を代表する彫刻家、イサム・ノグチが、この地にアトリエを構えたのは、60歳代半ばを迎えた1969年だった。周辺は高級石材・庵治(あじ)石の産地で、石材の加工場が多い。イメージ通りの石彫を生み出すのに欠かせない、熟練の石工たちの存在がノグチを引き寄せたのだという。」、及び「【名産】讃岐うどんは県産のイリコでとるだしが特徴。表面が美しく風化に強い庵治石は主に墓石に使われてきたが、近年は皿やブックエンドなど日用品の素材としても人気だ。」との記載がある。

3 インターネット情報
(1)「墓石ナビ」のウェブサイトにおいて、「人気の墓石ランキング」の見出しの下、
「第1位:庵治石(あじいし)
価格:400?500万円 ★★★★★
知名度:★★★★★
美しさ:★★★★★
国内で流通するすべての石材の中で最高級に位置づけられた、超高級石材です。国産の御影石の中では最も美しい石と言われており、原産地は香川県庵治町です。別名『花崗岩のダイアモンド』と言われるほどにその外観は美しく、高級でありながらとても人気の高い墓石です。この石の評価は国内だけのものではなく、世界各地においても庵治石は高い評価を受けています。その理由としては主成分の花崗岩の中に含有されている黒雲母の『斑(ふ)』という模様がとても珍しいものであるという事が挙げられます。採石量も年々減少しており、流通量も減少していくにつれて価格は上昇を続けています。」との記載がある。
(http://boseki-info.jp/column/bosekicolumn003/bosekicolumn003.html)
(2)「終活ねっと」のウェブサイトにおいて、「最高級墓石、庵治石の値段は?庵治石の特徴やその歴史もあわせて紹介」の見出しの下、「墓石に使われる石には様々な種類がありますよね。中でも庵治石は高級な石材として有名ですが、一生に一度の買い物である墓石にはどうせなら値段の高い石材を使いたいと考える人もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は庵治石の値段や特徴といったことを解説します。」、「庵治石(あじいし)とは 庵治石とは、御影石の一種で花崗岩に分類されます。正式名称を『黒雲母細粒花崗閃緑岩』と言い、その主成分は石英と長石、少しの黒雲母が含まれています。石質の高さから花崗岩のダイヤと称され、世界的にも高評価の石として知られています。評価が高い故に高級石材としても有名です。」、及び「庵治石は香川県高松市にある庵治町の五剣山から採掘されます。庵治石とは庵治町の名前が由来しています。五剣山には庵治石を掘る採石場がいくつかありますが、採石場によって結晶の細かさが異なります。」との記載がある。
(https://syukatsulabo.jp/grave/article/6690)
(3)「全国墓石・石材店情報」のウェブサイトにおいて、「教えて!墓石の価格」の見出しの下、「石の種類」の項に、「国産の石で有名な、香川県産庵治石(あじいし)は最も高価な石として世界的にも有名で、また、神奈川県産の本小松石(ほんこまついし)、愛媛県産の大島石(おおしまいし)、茨城県産の真壁石や佐賀県産の天山石など、全国各地で採掘されている石が50種類以上あります。」との記載がある。
(https://www.boseki.net/bosekinokakaku/)
(4)「墓石コネクト」のウェブサイトにおいて、「庵治石は海外からも高く評価されている最高級の石」の見出しの下、「墓石を建てようと考えている方で、必ずと言っていいほど候補に上がるのが、この『庵治石(あじいし)』ではないでしょうか。国内だけではなく、海外からも高く評価されている最高級の石です。」、及び「世界では『花崗岩のダイヤ』と呼ばれる、庵治石の特徴 庵治石の正式名称は『黒雲母細粒花崗岩閃緑岩』で、香川県木田郡庵治町で採掘され、日本三大花崗岩の1つとして知られています。その名は世界にも知れ渡り、『花崗岩のダイヤ』と呼ばれ、評価されるようになった石材です。」との記載がある。
(https://boseki-connect.com/report/no10/)

4 その他
(1)「香川県」のウェブサイトにおいて、「香川の伝統工芸品」の見出しの下、「香川県伝統工芸品指定の経緯 第1次指定品目(昭和60年度)(中略)庵治産地石製品(後略)」との記載があり、さらに、伝統工芸品「あじさんちいしせいひん 庵治産地石製品 高松」の項に、「高松市の東部に位置する五剣山の麓、牟礼町、庵治町で採掘される良質な花崗岩は『庵治石』と呼ばれます。採石の歴史は、遠く平安時代にまでさかのぼり、江戸時代に高松藩の御用丁場となったことから急速に発達しました。彫刻家イサムノグチに絶賛されたことで世界的にも高い評価を得て、現在も200社あまりの業者が軒を連ねます。」との記載がある。
(https://www.pref.kagawa.lg.jp/keiei/dentou/dentou.html)
審理終結日 2020-06-22 
結審通知日 2020-06-23 
審決日 2020-07-13 
出願番号 商願2017-151531(T2017-151531) 
審決分類 T 1 8・ 271- Z (W40)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 康浩 
特許庁審判長 木村 一弘
特許庁審判官 庄司 美和
山村 浩
商標の称呼 アジセキコーシュー、アジイシコーシュー、アンジセキコーシュー、アンジイシコーシュー、アジイシクシュー、アンジイシクシュー 
代理人 岡本 茂樹 
代理人 中井 博 

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