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審決分類 審判 全部無効 観念類似 無効としない W10
審判 全部無効 外観類似 無効としない W10
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W10
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W10
管理番号 1375944 
審判番号 無効2020-890020 
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-02-25 
確定日 2021-06-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第6197076号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6197076号商標(以下「本件商標」という。)は、「アスリートの宝」の文字を標準文字で表してなり、平成30年12月17日に登録出願され、第10類「指圧機械器具,指圧治療器具,マッサージ器(電気式のものを除く。),マッサージ機器」を指定商品として、令和元年10月15日に登録査定、同年11月15日に設定登録されたものである。

第2 引用商標等
1 請求人が、商標法第4条第1項第10号の理由において使用する商標は、「ATHLETE」又は「アスリート」の文字(以下、これらを「使用商標」という場合がある。)であって、商品「ガイドワイヤー」に使用しているものである。
2 請求人が、商標法第4条第1項第11号の理由において引用する商標は、以下の3件であり(以下、これらを「引用商標」という。)、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第4422102号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成10年3月12日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同12年10月6日に設定登録されたものである。
(2)登録第4441402号商標(以下「引用商標2」という。)は、「アスリート」の片仮名を横書きしてなり、平成10年3月12日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同12年12月22日に設定登録されたものである。
(3)登録第5134553号商標(以下「引用商標3」という。)は、「ATHLETE」の文字を標準文字で表してなり、平成19年9月7日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同20年5月16日に設定登録されたものである。
なお、使用商標と引用商標をまとめて、以下、「引用商標等」という。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第64号証(枝番号を含む。枝番号の全てを引用する場合は、その枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 本件商標を無効とすべき理由の要点
本件商標は、その指定商品において、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当するため、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 本件商標の商標法第4条第1項第10号について
(1)請求人の商標の周知性について
請求人が使用をする商標のうち、使用商標及びこれらを冠する商標は、請求人が製造販売する商品「ガイドワイヤー」の商標として、周知性を有しているとの判断が、すでに以下の裁判及び審判において示されている。
・平成21年(行ケ)第10411号(甲2の1)
・平成22年(行ケ)第10005号(甲2の2)
・無効2009-890051(甲3の1)
・無効2009-890052(甲3の2)
・無効2013-890072(甲4の1)
・無効2013-890073(甲4の2)
・無効2013-890074(甲4の3)
・無効2014-890090(甲4の4)
・無効2016-890048(甲4の5)
そして、以上の裁判及び審判においては、主として、下記アないし力の事実を認定することによって、請求人の商標が周知性を有しているとの判断を下している。
ア 請求人は、昭和56年に医療用機器の輸入、製造及び国内販売を主な事業内容として設立された会社であり、循環器系分野の医療用機器を提供しており、心臓ペースメーカやEPカテーテル等のほか、ガイドワイヤーを取り扱っている(甲5)。
イ ガイドワイヤーとは、PCI(経皮的冠動脈形成術。以下「PCI」という。)と呼ばれる心臓カテーテル治療に用いられる医療機器であり、製造販売について薬事法上所定の申請及び承認が必要な医療機器であり、PCIを行う病院に直接販売する方法と販売代理店経由で販売する方法がある。
請求人は、全国に26か所の営業拠点を有し、販売代理店経由を含め、PCIを行う病院に対し、製品の紹介・販売・サポートを行っている。そして、全国にわたる大学の付属病院等を主要な納入先としている(甲2?甲6)。
ウ 請求人は、「ATHLETE」及び「アスリート」のほか、「ATHLETEPLUS」、「アスリートマジック/ATHLETEMAGIC」、「アスリートジーティ/ATHLETEGT」、「ATHLETEEEL/アスリートイール」など、計21件の商標について、指定商品を第10類「医療用機械器具」として登録を受けている(甲34の1?甲21)。
エ 請求人は、平成7年頃から、ガイドワイヤーに「ATHLETE」、「ATHLETE PLUS」、「ATHLETE eel」、「ATHLETE GT」、「ATHLETE Wizard」、「アスリートプラス」、「アスリート スレンダー」、「アスリート GT」、「アスリート WIZARD」など、「ATHLETE」、「アスリート」を冠した商標を付し、これを「ATHLETE」、「アスリート」シリーズとして製造販売しており、平成7年以降継続して、これら商品についてのカタログ等を発行している(甲7、甲11、甲35?甲54)。
オ 株式会社矢野経済研究所の調査資料や株式会社アールアンドディ作成の「医療機器・用品年鑑」の年度毎の市場分析によれば、請求人は、ガイドワイヤーの販売本数で、平成8年から同12年まで約15%ないし25%の市場シェアを占めていたこと、独占販売契約の打ち切りによる自社製品への切り替えのため、同13年には販売が減少したが、同14年以降同19年まで約5%ないし8%の市場シェアを占め、その後、同24年に至る間も約5%ないし7%の市場シェアを占めてきたこと、請求人は、平成8年以降、同13年を除き、ガイドワイヤーの販売本数で、毎年上位5位以内にランキングされていること、が認められる(甲12?甲24、甲55?甲61)。
カ 使用商標及びこれらを冠する商標を付した請求人のガイドワイヤーは、平成13年日本心血管カテーテル治療学会等の学会誌に掲載されたのをはじめ、学会予稿集や医学雑誌に多数回掲載されている(甲25?甲32、甲62?甲64)。
そして、以上の裁判及び審判においては、主として、上記アないしカの事実を認定することによって、遅くとも平成19年2月には、請求人の商標が周知性を獲得し、その後も、周知性が維持されているとの判断が下されている。
なお、以上の裁判及び審判の審理終結日のうち、直近のものは、平成28年12月15日であり、未だ3年ほどしか経過していない。また、請求人は、今も、「ATHLETE」、「アスリート」シリーズの製造販売を継続している。
したがって、以上の裁判及び審判によって裏付けられた「ガイドワイヤー」の商標としての周知性は、今も継続しているとすることが極めて妥当な判断であると認められる。
さらに、商標法第4条第1項第10号にいう「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」については、我が国において、全国民的に認識されていることを必要とするものではなく、その商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には、その需要者の間に広く認識されていれば足りるものである。
そして、ガイドワイヤーは、前述の裁判や審判でも認定されているとおり、一般に市販されている商品ではなく、特定の医療関係者に販売元から直接又は問屋を通して売買されるものであって、その需要者は、医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に限定されると認められる。
以上に述べた事実から、使用商標及びこれらを冠する商標は、請求人がガイドワイヤーについて本件商標の登録出願前から、すでに日本国内の取引者・需要者において広く認識されるに至っており、また、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
(2)本件商標と使用商標との類否
ア 商標の類否判断
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
しかるところ、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されない。他方、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
イ 本件商標は、片仮名表示の「アスリート」、平仮名表記の「の」及び漢字表記の「宝」といった表記が異なる三種の文字を結合させたものである。そして、前記(1)の認定のとおり、本件商標の一部を構成する「アスリート」の文字部分は、取引者、需要者に対し、請求人の商品を示すものとして周知性を獲得し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
そうすると、本件商標からは、「アスリート」の文字部分からも称呼、観念が生じるということができる。そして、この「アスリート」の文字部分は、使用商標と同一の単語からなるものであり、両者とも「アスリート」という同一の称呼が生じ、「運動選手、競技者」という同一の観念が生じるから、その外観を考慮しても、両者は類似する。
したがって、本件商標が、その指定商品「指圧機械器具,指圧治療器具,マッサージ器(電気式のものを除く。),マッサージ機器」に使用されるときは、本件商標中の「アスリート」は、取引者、需要者において、周知の使用商標との出所の誤認混同を生じるおそれがあるといわざるを得ない。
しかるところ、1個の商標から2個以上の称呼、観念を生じる場合には、その1つの称呼、観念が登録商標と類似するときは、それぞれの商標は類似すると解すべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。
よって、本件商標から生じる称呼、観念の1つである「アスリート」と使用商標とが類似する以上、本件商標は、使用商標と類似するものである。
(3)商品の類否
本件商標の指定商品は、第10類「指圧機械器具,指圧治療器具,マッサージ器(電気式のものを除く。),マッサージ機器」であって、そのすべてが「医療用機械器具」に相当するものと認められる。そして、請求人が使用商標及びこれらを冠する商標を付して周知性を獲得したのは、ガイドワイヤーであって、これが「医療用機械器具」に属するものであることは明らかであるから、両商標の商品は類似する関係にある。
(4)小括
以上のとおり、本件商標は、請求人がガイドワイヤーに使用して周知性を獲得した使用商標及びこれらを冠する商標と類似し、商品においても類似するから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
3 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用商標との類否
本件商標のうち「アスリート」の部分だけを、引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるものというべきであるから、本件商標からは、「アスリート」の文字部分からも称呼、観念が生じるということができる。
他方、引用商標からは「アスリート」の称呼が生じ、「運動選手、競技者」等の観念が生じる。
そうすると、本件商標のうち「アスリート」の部分は、引用商標と同一の「アスリート」という称呼が生じ、「運動選手、競技者」という同一の観念が生じるから、両者は類似する。
そして、本件商標が、その指定商品について使用されるときは、本件商標中の「アスリート」は、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において、引用商標との出所の誤認混同を生じるおそれがあるといわざるを得ない。
よって、本件商標から生じる称呼、観念の1つである「アスリート」と引用商標とが類似する以上、本件商標は、引用商標と類似するものである。
(2)商品の類否
本件商標の指定商品は、第10類「指圧機械器具,指圧治療器具,マッサージ器(電気式のものを除く。),マッサージ機器」であって、そのすべてが「医療用機械器具」に相当するものと認められる。そして、引用商標の指定商品も第10類「医療用機械器具」であるから、両商標の商品は類似する関係にある。
4 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第10号に係る被請求人の答弁に関して
被請求人も、使用商標及びこれらを冠する商標を、ガイドワイヤーについての商標として本件商標の登録出願前から、請求人が使用していることを認めている。また、これらの被請求人の商標が周知性を獲得していることも、被請求人は認めている。
一方で、被請求人は、ガイドワイヤーの需要者が、医療関係者や医療機械器具を取り扱う者に限定されることから、本件商標の指定商品の需要者間においては広く認識されているとはいい難いと述べている。
確かに、ガイドワイヤーの需要者は、医療関係者や医療用機械器具を取り扱う者に限定されている。この点は、審判請求書において述べており、請求人も争うつもりはない。
しかしながら、商標の周知性の判断においては、取引者が限定される商品であっても、その取引者の間に広く認識されている商標であれば、「需要者の間に広く認識されている商標」として取り扱うことが当然とされている。
また、被請求人は、本件商標の指定商品について、「医療関係者のみだけではなく、誰でも使用できるものであり、一般用に販売するものである」と述べている。
しかしながら、この被請求人の認識は誤りである。指定商品の範囲については、その記載に基づいて判断をすべきところ、本件商標の指定商品は、「指圧機械器具,指圧治療器具,マッサージ器(電気式のものを除く。),マッサージ機器」となっており、次に述べるとおり、それらのすべてが、医療用機械器具に該当、又は、医療用機械器具に該当する商品を包含している。
まず、これらのうち「指圧治療器具」は、治療を目的とするものであるので、医療機械器具(医療機器)に該当し、医薬品医療機器等法に基づいた承認等を受けなければ、製造・販売することはできない。
さらに、残る指定商品についても、「医療用のものを除く。」の限定記載がないことから、これらの商品の範囲内に医療機械器具が包含されており、これら包含される商品も、やはり、医薬品医療機器等法に基づいた承認等を受けなければ、製造・販売することはできない。
したがって、本件商標の指定商品について「医療関係者のみだけではなく、誰でも使用できるものであり、一般用に販売するものである」という被請求人の認識は誤りである。
(2)商標法第4条第1項第11号に係る被請求人の答弁に関して
被請求人が主張する本件商標と引用商標との類否は、引用商標が周知商標であるという前提を完全に除外した上で判断してしまっており失当である。
また、被請求人による「両商標の商品は類似関係にあるものではない」との主張も、前記(1)において述べたとおり、本件商標の指定商品のすべてが、医療用機械器具に該当、又は、医療用機械器具に該当する商品を包含するところ、引用商標の指定商品がすべて「医療用機械器具」であることから失当である。
したがって、商標法第4条第1項第11号に係る被請求人の答弁も、その主張だけでなく、前提となる認識にも誤りがあり、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない。
5 まとめ
以上のことから、審判請求書において主張したとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当する。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べた。
1 商標法第4条第1項第10号について
請求人が提出した証拠から、請求人が製造販売する「ガイドワイヤー」の商標として、使用商標及びこれらを冠する商標が使用されていることは理解される。「ガイドワイヤー」とは、PCIと呼ばれる心臓カテーテル治療に用いられる医療機器である。ガイドワイヤーは、一般に市販されている商品ではなく、特定の医療関係者に販売元から直接又は問屋を通して売買されるものであって、その需要者は、医療関係者や医療器械器具を取り扱う者に限定されるものであり、需要者に広く認識されているとはいい難い。
(1)需要者の認識
ガイドワイヤーの需要者は、医療関係者等に限定されるもので、需要者の間に広く認識されておらず、関係者の取引者間にのみ認識されている商標である。「アスリートの宝」は、指定商品が「指圧機械器具,指圧治療器具,マッサージ器(電気式のものを除く。),マッサージ機器」であり、需要者が使用したいとの商品に対する購買力の裏付けは使用することで身体が楽に成ると広く認識される商品であり、医療関係者等のみの需要者の認識とは異なるものである。
(2)周知性の判断
「ガイドワイヤー」は、医療機関等の特定の市場においてのみ流通する商品で、周知性に欠けるものである。「アスリートの宝」は、指定商品「指圧機械器具,指圧治療器具,マッサージ器(電気式のものを除く。),マッサージ機器」であり、医療関係者のみだけではなく、誰でも使用できるものであり、一般用に販売するものであることから、請求人との使用商標との出所の誤認混同を生じるものではない。
(3)商標の類否判断
請求人の販売する商品は、使用商標及びこれらを冠する商標である、ガイドワイヤーは「医療用機械器具」に属するものであるが、本件商標の指定商品は、前述したとおりであり、請求人が「医療用機械器具」に相当するとの主張であるが、両商標の商品は類似する関係ではないことは明らかである。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標「アスリートの宝」は、請求人がガイドワイヤーに使用して周知性を獲得した使用商標及びこれらを冠する商標とは非類似であり、商品においても類似するものではないことから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用商標との類否
本件商標のうち「アスリート」の部分だけを、引用商標と比較して商標そのものの類否を判断しているが、本件商標「アスリート」の部分からも称呼、観念が生じるということができるとのことであるが、本件商標「アスリートの宝」は、標準文字で登録されたもので、等間隔により表してなるもので、これを敢えて「アスリート」の部分だけを取り出して類否判断しなければならない特段の事由が見当たらない。
よって、本件商標から「アスリート」を取り出して、引用商標の「アスリート」と同一の称呼、観念が生じるものではない。指定商品について使用されるに際し、本件商標は、引用商標の需要者である医療関係者等において、引用商標との出所の誤認混同を生じるものではない。
(2)商品の類否
本件商標の指定商品は、第10類「指圧機械器具,指圧治療器具,マッサージ器(電気式のものを除く。),マッサージ機器」であり、引用商標の第10類「医療用機械器具」に相当するとの指摘であるが、生産部門、販売部門、用途及び需要者等が異なるものであることから、両商標の商品は類似関係にあるものではない。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標「アスリートの宝」の「アスリート」の部分のみを取り出して、引用商標と対比するものではない。「アスリートの宝」と「アスリート」は、引用商標とは非類似であり、指定商品も異なるものであるから、本件商標と引用商標は、商標法第4条第1条第11号に該当しない。
3 まとめ
以上述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当しない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下、本案に入って審理する。
1 使用商標の周知性について
(1)請求人の提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
ア 請求人は、医療用機器の輸入、製造並びに国内販売を主な事業内容として1981年(昭和56年)2月6日に設立された会社であり、循環器系分野の医療用機器を提供しており、心臓ペースメーカやEPカテーテル等のほか、ガイドワイヤーを取り扱っている(甲5、甲6)。
イ ガイドワイヤーとは、PCIと呼ばれる心臓カテーテル治療に用いられる医療機器である。PCIとは、腕や脚の血管からガイドワイヤーを心臓まで引き通して、そのガイドワイヤーをガイドとしてバルーンカテーテルを心臓の冠動脈まで押し込み、バルーンを膨らますことで冠動脈の塞栓等を解消する手術方法である。ガイドワイヤーは、薬事法上、製造販売には独立行政法人医薬品医療機器総合機構への申請及び厚生労働大臣の承認が必要な医療機器であり、その販売については、PCIを行う病院に直接販売する方法と、販売代理店経由で販売する方法とがある。請求人は、全国に26か所の営業拠点を有し、販売代理店経由を含め、PCIを行う病院に対し、製品の紹介・販売・サポートを行っており、全国にわたる大学の付属病院等を主要な納入先としている(甲5、甲6)。
ウ 請求人は、「ATHLETE」又は「アスリート」のほか、「ATHLETEPLUS」、「アスリートマジック/ATHLETEMAGIC」、「アスリートジーティ/ATHLETEGT」、「ATHLETEEEL/アスリートイール」等(計21件)の商標について、指定商品を第10類「医療用機械器具」として登録を受けている(甲34の1?甲34の21)。
エ 請求人は、平成7年頃から、ガイドワイヤーに「ATHLETE」、「ATHLETEPLUS」、「ATHLETE eel」、「ATHLETE GT」、「ATHLETE Wizard」、「アスリートプラス」、「アスリート スレンダー」、「アスリート GT」、「アスリート WIZARD」など、「ATHLETE」又は「アスリート」を冠した商標を付し、これを「ATHLETE」、「アスリート」シリーズとして製造販売しており、平成7年以降継続して、これら商品についてのカタログ、保険償還価格表等を発行している(甲7の1?甲7の11、甲11の1?甲11の10、甲35?甲54)。
オ 株式会社矢野経済研究所の調査資料や株式会社アールアンドディ作成の「医療機器・用品年鑑」の年度毎の市場分析によれば、請求人は、ガイドワイヤーの販売本数で、平成8年から同12年まで国内の約15%ないし25%の市場シェアを占めていた。
その後、独占販売契約の打ち切りによる自社製品への切り替えのため、平成13年は販売本数が減少したが、同14年から同17年まで約7%ないし8%の市場シェアを占め、その後も同24年に至るまで約5%程度の市場シェアを占めてきた。請求人は、平成8年以降、同13年を除き同24年まではガイドワイヤーの販売本数で、毎年上位5位以内にランキングされている。上記調査資料においても、請求人が「ATHLETE」、「アスリート」シリーズのガイドワイヤーを展開していることが記載されている(甲12?甲24、甲55?甲61)。
カ 「ATHLETE」又は「アスリート」が冠された商標を付した請求人のガイドワイヤーは、平成13年日本心血管カテーテル治療学会等の学会誌に掲載されたのをはじめ、学会予稿集や医学雑誌に掲載された(甲25?甲32、甲62?甲64)。
(2)上記(1)によれば、請求人は、遅くとも平成7年頃から「ATHLETE」又は「アスリート」(使用商標)を、商品「ガイドワイヤー」について使用し、同8年から同12年までガイドワイヤーの販売本数で約15%ないし25%の市場シェアを占め、その後、同14年から同17年まで約7%ないし8%の市場シェアを占め、その後5%程度の市場シェアを占めていることは認められる。
しかしながら、平成24年以降の使用商標に係る商品「ガイドワイヤー」の市場シェアが確認できる証拠の提出はなく、また、学会誌や医療雑誌等の掲載についても同22年以降の証拠の提出はなく、他に、近年における使用商標に係る商品の販売数量等の量的規模(市場シェア等)を客観的な使用事実に基づいて、請求人の使用商標の使用状況を把握する証左は見いだせない。
そうすると、請求人の商品「ガイドワイヤー」について、平成8年から14年間程度は、ある程度高い販売本数の市場シェアを有していたこと、その後、市場シェアは5%程度であったことから、同24年頃においては、取引者、需要者の間に知られていることは推認できるとしても、請求人が提出した証拠からは、本件商標の登録出願時(平成30年12月)及び登録査定時(令和元年11月)における、使用商標の周知性の程度を推し量ることができない。
(3)したがって、提出された証拠によっては、使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、我が国において、請求人の業務に係る商品「ガイドワイヤー」を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたものとまではいうことができない。
2 本件商標と引用商標等との類否について
(1)本件商標
本件商標は、「アスリートの宝」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「アスリート」の文字部分は、「運動選手、陸上競技の選手」等を意味する語であり、また、「宝」の文字部分は、「世の中に数少なく、特に貴重なもの。宝物。財宝。財産。金銭。ほかのものと取り替えることのできない、特に大切なもの。また、かけがえのない人。」等を意味する語であり、これらの文字を「の」の文字で結合してなるものである(コトバンク「デジタル大辞泉」の解説より)。
そして、本件商標は、その構成において、同書、同大、等間隔でまとまりよく一体に表され、また、これより生ずる「アスリートノタカラ」の称呼は、格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼できるものである。そして、本件商標は、たとえその構成中の「アスリート」及び「宝」の各語が、上記の意味を有する語であるとしても、かかる構成及び称呼においては、その構成中のいずれかの文字部分が、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとは認められず、また、いずれかの構成部分を分離抽出して他の商標と比較検討することが許されるというべき特段の事情も見いだせない。
さらに、本件商標からは「運動選手、陸上競技の選手の財産」又は「運動選手、陸上競技の選手の特に大切なもの」程の意味合いを生じるものである。
したがって、本件商標は、その構成全体をもって、「アスリートノタカラ」の称呼を生じ、「運動選手、陸上競技の選手の財産」又は「運動選手、陸上競技の選手の特に大切なもの」観念を生じるとみるのが相当である。
(2)引用商標等
ア 使用商標
使用商標は、「ATHLETE」又は「アスリート」の文字からなる商標であるところ、その構成文字に相応して「アスリート」の称呼を生じ、「運動選手、陸上競技の選手」の観念を生じるものである。
イ 引用商標
引用商標1は、別掲のとおりの構成からなるところ、その構成中語頭の文字が図案化されてはいるものの、欧文字の「A」を表したものと認識され、全体として「ATHLETE」の文字が表されたものと無理なく看取されるものであり、引用商標2は、「ATHLETE」の文字からなり、引用商標3は、「アスリート」の文字からなるものである。
そして、引用商標は、いずれの構成文字からも「アスリート」の称呼を生じ、「運動選手、陸上競技の選手」の観念を生じるものである。
ウ 小括
以上のとおり、引用商標等は、「ATHLETE」又は「アスリート」の文字からなり、「アスリート」の称呼を生じ、「運動選手、陸上競技の選手」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標等との類否について
本件商標と引用商標等の外観においては、本件商標は「アスリートの宝」であり、引用商標等は「ATHLETE」又は「アスリート」であるから、「の宝」の文字部分の有無の差異により、外観上、明確に区別できるものである。
次に、称呼においては、本件商標からは、「アスリートノタカラ」の称呼を生じ、引用商標等からは、「アスリート」の称呼を生じるところ、「ノタカラ」の音の有無という差異を有し、この差異が両称呼全体の語調語感に及ぼす影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼しても称呼上、明瞭に聴別できるものである。
さらに、観念においては、本件商標からは、「運動選手、陸上競技の選手の財産」又は「運動選手、陸上競技の選手の特に大切なもの」程の意味合いをも生じるものであり、引用商標等からは、「運動選手、陸上競技の選手」の観念を生じることから、観念上、明確に区別できるものである。
したがって、本件商標と引用商標等とは、外観において明確に区別できるものであり、称呼においては明瞭に聴別できるものであって、観念においても明確に区別できるものであるから、これらの外観、称呼及び観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶等を総合して全体的に勘案すれば、両者は、同一又は類似の商品について使用するときでも、相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標といわざるを得ない。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
使用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国において請求人の業務に係る商品を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されているものとまでいえないものであり、また、本件商標と使用商標とは、上記2(3)のとおり、非類似の商標であって別異の商標である。
そうすると、本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品とが類似するものであるとしても、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標と引用商標とは、上記2(3)のとおり、外観において明確に区別できるものであり、称呼においては明瞭に聴別できるものであって、観念においても明確に区別できるものであるから、これらの外観、称呼及び観念を総合的に勘案すれば、本件商標と引用商標とは、非類似の商標である。
したがって、本件商標は、引用商標とは類似する商標ではないから、たとえ両商標の指定商品が類似するとしても、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
5 請求人の主張について
(1)使用商標の周知性について
請求人は、判決及び審決において、使用商標が周知性を有していると判断されていること、請求人が全国に26か所の営業拠点を有していること、請求人が使用商標のほか「ATHLETE」又は「アスリート」を冠する商標を計21件の商標について、指定商品を第10類「医療機械器具」として登録を受けていること、株式会社矢野経済研究所の調査資料や株式会社アールアンドディ作成の「医療機器・用品年鑑」の毎年の市場分析によれば、請求人は、ガイドワイヤーの販売本数で、平成8年から同12年まで約15%ないし25%の市場シェアを占め、平成14年以降同19年まで約5%ないし8%の市場シェアを占め、その後同24年に至る間も約5%ないし7%の市場シェアを占めてきたこと、「ATHLETE」又は「アスリート」が冠された商標を付した請求人のガイドワイヤーは、同13年日本心血管カテーテル治療学会等の学会誌に掲載されたのをはじめ、学会予稿集や医学雑誌に多数回掲載されたことから、遅くとも同19年2月には、使用商標が周知性を獲得し、その後も、周知性が維持されているとの判断が下されている旨主張している。
確かに、提出された証拠からは、平成24年頃までは、請求人の商品「ガイドワイヤー」について、販売本数で約5%ないし6%の市場シェアを占めていたことは認められるが、それ以降の市場シェアを示す証拠の提出はなく、また、証拠として提出された医療雑誌等も同22年発行のものが最後である。
そして、本件商標の登録出願時は、平成30年12月であり、登録査定時は、令和元年11月であるところ、請求人の商品「ガイドワイヤー」について、最近の6ないし7年間の販売数や売上高等の市場シェアは提出された証拠からは推し量ることはできず、使用商標が掲載されている医療雑誌なども本件商標の登録出願時及び登録査定時に、どのような医療雑誌がどのくらい発行されているのかも不明である。
そうすると、請求人が主張するように、平成19年頃には、使用商標は請求人の業務に係る商品「ガイドワイヤー」について使用する商標として、需要者の間に広く認識されていたといい得るとしても、本件商標の登録出願時及び登録査定時における、請求人の使用商標の使用状況を客観的な使用事実に基づいて判断するための証拠の提出がなく、提出された証拠によっては、当該時においても使用商標が同様に需要者の間に広く認識されていたとまでは認めることはできない。
(2)過去の判決例及び審決例について
請求人は、過去の判決例及び審決例により、使用商標及び「ATHLETE」又は「アスリート」を冠する商標は、請求人が製造販売する「ガイドワイヤー」の商標として、周知性を有しているとの判断が示されている旨主張している。
しかしながら、本件においては、本件商標の登録出願時及び登録査定時、使用商標が他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないことは、上記1のとおりであり、仮に当該時に使用商標が周知であったとしても、上記2(3)のとおり、本件商標は使用商標とは、非類似の商標であって別異の商標である。
そうすると、請求人の主張する判決例及び審決例の存在を考慮したとしても、上記の判断が左右されるものではない。
よって、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
別掲(引用商標1)


審理終結日 2021-03-17 
結審通知日 2021-03-19 
審決日 2021-05-07 
出願番号 商願2018-165100(T2018-165100) 
審決分類 T 1 11・ 261- Y (W10)
T 1 11・ 263- Y (W10)
T 1 11・ 262- Y (W10)
T 1 11・ 25- Y (W10)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安達 輝幸 
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 榎本 政実
小俣 克巳
登録日 2019-11-15 
登録番号 商標登録第6197076号(T6197076) 
商標の称呼 アスリートノタカラ、アスリートノ、アスリート、タカラ 
代理人 猪狩 充 

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