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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W43
管理番号 1375085 
審判番号 取消2020-300389 
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2020-06-08 
確定日 2021-05-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第5785142号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5785142号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5785142号商標(以下「本件商標」という。)は、「ESTINATION」の文字を横書きしてなり、平成27年1月21日に登録出願、第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」を指定役務として、同年8月14日に設定登録がされ、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、令和2年6月26日であり、本件審判の請求の登録前3年以内の平成29年(2017年)6月26日から令和2年(2020年)6月25日までの期間を、以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書、審判事件弁駁書及び令和2年12月11日付け審尋に対する審判事件回答書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用をした事実が存しないものであるから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
請求人が本件審判の請求人適格を有しないとの被請求人の主張は何ら理由がなく、また、被請求人が提出した乙各号証によっては、本件商標権者が要証期間に本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標をその指定役務について使用したことは全く証明されていない。
(1)請求人適格について
ア 商標法第50条第1項の審判は、商標登録にあたり商標の現実の使用を必須の要件としない登録主義下において、商標法上保護価値のない不使用商標の整理という公益的な目的の下で設けられた制度であり、その請求は、同項の文言どおり、広く「何人」にも認められるべきである。よって、請求人は、本件審判の請求人適格を有することは明らかである。
イ 被請求人は、本件商標の使用に関する請求人と被請求人との平成27年(2015年)11月12日付け合意(乙4。以下「本件合意」という。)を前提に、請求人が本件審判の請求人適格を有しないと主張する。
本件合意は、請求人が、「被請求人の趣旨が以下の通りで相違ないことを、このメールのやりとりで確認させていただければ」の前提をおいた上で、「(1)現在のホテル名『HOTEL ESTINATION』については、今年度中を目途に、『ESTINATE HOTEL』に変更する。(2)『ESTINATION』という言葉は、新名称の由来や意味を説明する記述の中では、今後も使用する可能性はあるが、それ以外では使用しない。(3)本件商標は、新名称に至るストーリーを物語るものとして、また、第三者に登録されたり、使用されたりしないための目的としても、保持したい。第三者に使用許諾したり、商標権を譲渡しない。」旨の内容であった。これに対し、平成27年(2015年)11月12日付け被請求人代表者送信のメールにおいて「頂いた確認事項につき、ご認識に相違ありません。」との記載があり、上記内容をもって双方合意に至ったものである。
しかしながら、被請求人が主張する「請求人は被請求人が本件商標を引き続き保有することを認める」ことは、本件合意には含まれないものであり、被請求人の思い込みにすぎない。
請求人は、本件合意に至るまでの過程において、請求人業務と被請求人(本権商標権者)の業務に係るホテル(以下「本件ホテル」という。)との混同防止の観点から、被請求人に対し、本件ホテルの名称変更の要請をすると共に、本件商標を請求人に移転するか、又は、放棄してほしいとの意向を繰り返し被請求人に伝えていた(乙4)。しかし、被請求人は本件ホテルの名称変更には応じたものの、本件商標の請求人への移転又は放棄の要請には応じなかったため、請求人は、当時の判断として、被請求人との紛争の長期化を避けるべく、商標権の譲渡又は自発放棄に関する被請求人との交渉について本件合意をもって一時中断することとしたにすぎない。
ウ 本件合意に至るまでの過程においても、請求人が、被請求人による本件商標の継続保有を積極的に認めるとの意思表示をした事実は一切無い(乙3、乙4)。さらに、請求人は、本件合意において、被請求人が本件商標を引き続き保有し続けることについて積極的に認めてはおらず、本件商標の有効性について将来にわたり争わないということをも明示的に約束したものではないから、本件合意をもって請求人が不争義務を負うとの被請求人の主張はそもそもの前提を欠く。
エ 請求人が、被請求人に対し本件商標を使用しないことを要請したのは、請求人の業務に係る周知商標と本件商標との類似性の高さが故に、被請求人の業務と請求人の業務とが誤認混同されることを防止せんとする正当な理由に基づくものである。そして、被請求人は、請求人のかかる要請に基づき、本件合意に至る前、平成27年(2015年)10月23日には、既に本件ホテルの名称変更を決定しており(乙4)、「請求人は本件商標の保有を認めた上で本件商標を使用しないという条件を課した」との被請求人の主張はそもそも前提を誤った歪曲的な解釈にすぎない。
オ 本件審判請求の結果、本件商標に係る登録が取消となっても、被請求人として、本件合意に係る「『ESTINATION』という言葉は、新名称の由来や意味を説明する記述の中では、今後も使用する」ことについて何ら妨げられるものではない。このように、本件審判請求は、本件合意に何ら反するものではなく、また、被請求人を害することを目的としたものでもないから、本件合意の存在を理由に請求人に本件審判の請求人適格がないとして本件審判請求を却下する審決を求めるとの被請求人の主張は失当である。
(2)被請求人提出の乙各号証について
ア 被請求人の主張について
被請求人の主張からすると、本件商標権者(被請求人)は、本件合意がなされた平成27年(2015年)11月12日以降、本件商標を、同人の業務に係る「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」の出所表示としては使用せず、本件合意にのっとり、本件ホテルの新名称の由来や意味を説明する記述の中で形式的に表示されたにとどまるはずである。もし、本件商標権者が、本件商標を、本件ホテルの新名称の由来や意味を説明する記述を超え、前記各役務の出所識別表示として使用したのであれば、本件合意にのっとって本件商標を使用しているという被請求人の主張は自己矛盾を来たすものである。そして、後述のとおり、被請求人が提出する乙各号証からは、本件商標権者が要証期間内に本件商標をその指定役務について使用したとは認められない。
イ 本件商標権者の業務及び本件ホテルについて
本件商標権者は、東京都渋谷区に本店を有する法人であり、その業務内容は、「ライフスタイルホテルの開発・運営」等と説明されている(甲2)。本件商標権者は、平成27年(2015年)8月に、沖縄県那覇市に本件ホテルを開業し、開業当時、該宿泊施設の名称として「HOTEL ESTINATION」を採択した(乙1)。しかし、その開業後ほどなく、請求人からの申し入れにより、本件商標権者は本件ホテルの名称を「ESTINATE HOTEL」に変更し(乙4)、本件合意を経て現在に至っている。
なお、本件商標権者は、本件合意を経て早々に本件ホテルの名称を「ESTINATE HOTEL(エスティネートホテル)」に変更し、遅くとも平成28年(2016年)1月12日までには、本件ホテルの旧名称である「HOTEL ESTINATION」の標章の使用を中止し、これに代えて、「ESTINATE HOTEL(エスティネートホテル)」の名称(営業表示)をもって本件ホテルの運営を行ってきたことがうかがえる(乙2、甲3?甲5)。
ウ 乙各号証について
被請求人が提出する乙各号証のいずれも、本件商標が本件指定役務について要証期間内に使用されたことを証明するものではない。
(ア)イメージデザインA(乙5の1)の中央下部には、モノグラム風の図形と共に「HOTEL ESTINATION」の文字、そして、左下部付近に配された円形又は楕円形からなる紋章様図形の中に「ESTINATION」の文字が形式的に含まれてはいるが、全体として、複数種の文字と図形とを融合させた一種の独創的なデザイン(絵柄)と認識しうるものであり、当該絵柄の一部に有機的に組み込まれた「ESTINATION」又は「HOTEL ESTINATION」の文字を直ちに判読、着目し、役務の出所表示として直ちに理解することは困難である。特に、イメージデザインAの左下部に配された紋章様図形の中に配された「ESTINATION」の文字は、他の文字要素よりも小さく、紋章様図形と一体となってイメージデザインAの絵柄に埋没して表されているため、当該紋章様図形は、全体としてデザインで用いられる図柄の一部として捉えられるにすぎず、そのうち「ESTINATION」の文字部分のみが他の要素から独立して自他商品識別標識として認識されることはない。
また、イメージデザインAが表示されているのは、本件商標権者のfacebookアカウントページ(以下「本件facebook」という。)のTOP画面の左上に小さく表示されるプロフィール写真部にすぎず、最も看者の目を引く、画面中央上部に大きく配される画像(カバー写真)として使用されているものではない(乙5の2、甲7)。
仮にイメージデザインAが、本件facebookのTOP画面に“プロフィール写真”として要証期間内に表示されていたものであるとしても、本件facebookを閲覧した者が、顕著に表された本件ホテルの正式名称でありかつ出所表示でもある「ESTINATE HOTEL」の商標の存在を無視し、プロフィール写真に使用されたイメージデザインAの中に組み込まれ、ごく小さく表示されているにすぎない「ESTINATION」又は「HOTEL ESTINATION」の文字を出所表示として認識することは極めて不自然である。
被請求人は、イメージデザインAが、本件facebookのプロフィール写真をクリックすると拡大して表示され(乙5の1)、また、閲覧者がfacebookアカウントにログインしていない場合、サービスヘのログインを促す画面においても表示される(乙5の3)と述べるが、そもそも、閲覧者がいちいちプロフィール写真をクリックし、その画像の細部にわたって内容を確認するとは考え難い。また、ログインを促す画面として提出されたスクリーンショット(乙5の3)は令和2年(2020年)8月25日付けのものであり、要証期間内に同じ画像がログイン画面に表示されていたのかが不明であるし、仮に、要証期間内に、ログインを促す画面においてイメージデザインAが表示されていたとしても、当該ログイン画面は、閲覧者のブラウザの仕様や、閲覧者が本件facebookを閲覧する際のログインの状況に応じ毎回必ず表示されるとは限らないため、本件facebookの閲覧者全員が必ず目にする画像ではない。また、仮に、イメージデザインAが、ログインを促す画面に表示されたとしても、この画像は、あくまで閲覧者がログインするまでの間に一時的に表示されるものにすぎず、継続的かつ恒常的に表示されるものではない。
また、本件facebookのプロフィール写真をクリックして表示される画面、または、閲覧者にfacebookサービスヘのログインを促す画面のいずれにおいても、イメージデザインAに加え、本件ホテルの正式名称であり出所表示である「ESTINATE HOTEL」の商標が共通して表示されており(乙5の1、乙5の3)、これらの画面においても、本件ホテルの正規の出所表示として認識されるのは「ESTINATE HOTEL」の商標であるというべきである。
さらに付言すると、イメージデザインAの画像それ自体を切り出してみても、当該画像は、本件商標権者の業務に係る「宿泊施設の提供」の広告、価格表若しくは取引書類のいずれにも該当しない。
(イ)被請求人が提出する「イメージデザインAを用いたマスクケース」(乙5の4)は、どういう目的でいつ制作され、どこで誰に頒布されたものなのか、その詳細が一切不明である。証拠説明書によると、その作成年月日は「R2.07」(令和2年(2020年)7月)と記載されており、要証期間内に、本件商標権者の業務に係る「宿泊施設の提供」の用に供するものとして、当該役務の提供を受ける者に対し頒布されたことについて客観的な立証はなされていない。
(ウ)イメージデザインB(乙6の1)は、本件facebookのうち、閲覧者が最初に目にするTOP画面には一切表示されてはおらず(乙5の2)、過去に表示されたプロフィール写真の“過去の履歴”として、複数あるページの一部に形式的に画像データが残存しているにすぎない。本件facebookにおいてイメージデザインBにたどり着くには、TOP画面に表示される複数のメニューの一つである「写真」のメニューを選択し、さらに、その中に複数表示された「アルバム」と称する画像のグループの中から「プロフィール写真」を選択するという複数回のプロセスを経て初めてたどり着けるものである。すなわち、イメージデザインBは、要証期間内に、本件商標権者の業務に係る「宿泊施設の提供」を受ける者が通常目にする場所・態様で、本件facebook上に表示されていたものではない。よって、当該画像は、本件商標権者の業務に係る宿泊施設の提供との具体的関連性をもって表示されているとはいえず、たとえイメージデザインBにモノグラム風の図形と「HOTEL ESTINATION」とを結合させた標章が形式的に含まれるとしても、かかる標章は本件商標権者の業務に係る役務の出所表示として使用されているとはいえない。
加えて、イメージデザインBの画像それ自体を切り出してみても、当該画像自体は、本件商標権者の業務に係る宿泊施設の提供という役務を具体的に認識させるものではないため、当該画像は、本件商標権者の業務に係る「宿泊施設の提供」の広告、価格表若しくは取引書類のいずれにも該当しない。
(エ)本件商標権者が、第三者が運営するオンライン旅行サイトにおいて定期的に配布しているメールマガジンの連絡先のメールアドレス(乙7)には、ドメインとして、「hotel-estination.com」という文字列は表示されてはいるものの、そもそも、メールアドレスのドメインはインターネット上のアドレスという単なる情報の記述にすぎず、本来的に、商品や役務の出所表示を目的として使用され認識されるものではない。また、当該メールマガジン全体を見ると、役務の出所表示として、すなわち、本件ホテルの名称としては「ESTINATE HOTEL(エスティネートホテル)」という商標が顕著かつ複数箇所に表示されており、かかる顕著な出所表示の存在を無視し、単なるメールアドレスの情報にすぎないドメイン名に着目して需要者が役務の選択を行うことはあり得ないというべきである。よって、メールアドレスのドメイン名の一部に表示された「hotel-estination」は、役務の出所表示、すなわち商標として使用されるものではない。
(オ)本件商標権者による平成27年(2015年)5月13日付けプレスリリース(乙1)は、要証期間外に作成されたものである。令和2年(2020年)8月25日付け本件ホテルのホームページにおける「ABOUT」のページの写し(乙2)では、「ESTINATION」の語は、本件ホテルのコンセプトの説明の中に記述的に表されているにすぎず、同記述に含まれる「ESTINATION」の文字が独立して役務の出所識別標識として機能することはない。また、乙第2号証のプリントアウトの日付は令和2年(2020年)8月25日とそもそも要証期間外であり、同ページ内に「(C)2016 ESTINATE HOTEL All rights reserved」の著作権表記はあれど、ウェブサイト上の記載は、当該著作権表記含め、何時でも任意で書き換えが可能であるから、当該記載が要証期間内になされていたかも不明である。請求人が本件商標権者に送付した内容証明の写し(乙3)、請求人と本件商標権者間で交わされたメールの文面の写し(乙4、乙8)は、本件商標権者が、同人の業務に係る役務の提供にあたり本件商標を使用したことを何ら立証するものではない。
(3)本件商標が本件指定役務の出所表示として使用されていないこと
前記のとおり、本件商標権者は、遅くとも平成28年(2016年)1月12日には、本件ホテルの名称を「ESTINATE HOTEL(エスティネートホテル)」に変更し、以降、当該営業表示をもって本件ホテルの営業を継続してきたのであり、本件ホテルの外観(乙2、乙5の2)や、本件facebook(乙5の2)等からも明らかなとおり、「ESTINATE HOTEL(エスティネートホテル)」が本件ホテルの主たる営業表示(出所表示)として専ら用いられている。
なお、本件facebookからは直接本件ホテルの予約を完結することはできず、役務の需要者は、本件facebookのリンク先にある本件ホテルの専用ホームページを介在して予約をし、本件商標権者の業務に係る宿泊施設の提供を受けることになる。
本件facebookは、本件ホテルに関する、インターネット上にある複数の広告宣伝媒体の一つであるにすぎず、本件ホテルの主たるホームページの補助的な位置づけとして存在するにすぎない。また、GoogleやYahoo!Japanで本件ホテルを「ESTINATE HOTEL」又は「エスティネートホテル」のキーワードで検索しても、検索上位に表示されるのは本件ホテルの主たるホームページ、又は、第三者の旅行代理店が運営するサイトにおける本件ホテルに関する情報の検索結果であり(甲9?甲12)、本件facebookは、検索結果の上位に常に表示されるものではなく、特に、「エスティネートホテル」と片仮名で検索した場合には、検索結果の1頁目に本件facebookは表示すらされない(甲10、甲12)。本件商標権者の業務に係る宿泊施設の提供を受ける者が、インターネットを介して本件ホテルに関する情報を閲覧する場合においても、本件facebookを必ず訪れるとはいい難いものである。
さらに、需要者が「宿泊施設の提供」の役務の提供を受ける場合、そもそも、宿泊施設の“正しい名称”を認識しなければ宿泊施設を予約し、その利用をすることができないところ、本件商標権者は、本件ホテルの正式名称として「ESTINATE HOTEL(エスティネートホテル)」の商標を4年以上にわたり継続的かつ顕著に使用してきた。かかる状況に関わらず、「ESTINATE HOTEL(エスティネートホテル)」の商標の存在を無視し、当該商標とは構成文字が明確に異なる別異の標章である「ESTINATION」又は「HOTEL ESTINATION」なる文字が独立して、本件商標権者の業務に係る役務の出所表示として認識されることは、現実的にはありえないというべきである。
商標法第50条における登録商標の「使用」は、その立法趣旨に鑑みても、単に同法第2条3項各号に文言上該当するか否かではなく、使用商標が商品や役務の出所表示として認識される態様で使用されているか否かという観点から実体的判断がなされるべきである。本件についても、「ESTINATION」又は「HOTEL ESTINATION」の標章は、本件facebook内に表示したイメージデザインA又はイメージデザインBと称する画像中において、紋章様図形やモノグラム風の図形と一体的に表され形式的に含まれているにすぎないものである。よって、これらの標章が、本件商標権者の業務に係る宿泊施設の提供の出所表示として独立してその機能を発揮し、需要者に役務の出所表示として認識されることはないから、かかる標章の使用は、商標法第2条3項の「使用」には該当しないと判断されてしかるべきである。
(4)本件商標と使用標章とが社会通念上同一ではないこと
イメージデザインAにおける「ESTINATION」の文字は、紋章様図形に有機的に組み込まれて表されているから、紋章様図形と一体を成すものとして看取され、「ESTINATION」の文字のみからなる本件商標とは外観において顕著な差を有するものである。よって、イメージデザインAにおける紋章様図形と一体的に表示された「ESTINATION」の標章は、本件商標と社会通念上同一の標章とはいえない。
イメージデザインA及びイメージデザインBに表示される「HOTEL ESTINATION」の標章は、各構成文字が同書同大で外観上まとまりよく表されており、さらにその左側に配されたモノグラム風の図形と近接して表されていることから、当該モノグラム図形を含む構成全体として一つの出所表示として看取できるものであり、「ESTINATION」の文字のみからなる本件商標とは外観上明確な差が存在する。さらに、仮に「HOTEL ESTINATION」の文字部分だけを取り出してみても、本件商標とは「HOTEL」の文字の有無という外観上明確な差がある。また、「HOTEL ESTINATION」の文字からは「ホテルエスティネーション」という一連一体の称呼が生じ、かかる称呼はさほど冗長ではなく一気一連に称呼可能であるため、殊更に「ESTINATION」の部分のみを分離し、これを「エスティネーション」と省略して称呼する必要性もない。そうとすれば、「エスティネーション」の称呼のみが生じる本件商標とは称呼も共通性がないのであり、「HOTEL ESTINATION」の文字と本件商標とを比較した場合においても、これらが社会通念上同一の商標に該当しないことは明らかである。
乙第7号証については、前記のとおり、あくまでメールアドレスのドメインという情報の記載にすぎないため、そもそも商標の使用には該当しないが、仮にメールアドレスのドメイン名部分を抜き出してみても、「hotel-estination」と一連で表記されていることから、前記と同様の理由により、当該使用標章は本件商標と社会通念上同一の標章ではない。
3 審尋に対する回答
乙第7号証に記載された「hotel-estination.com」の文字については、合議体の見解のとおり、外形上「estination」の文字部分のみが独立して自他役務の識別標識としての機能するものではない。
また、審尋において指摘されているとおり、本件Facebookが、要証期間内に、本件商標権者により運営されていたことの立証もなされていない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求を却下する又は本件審判請求は成り立たない旨の審決を求め、審判事件答弁書及び令和2年12月11日付け審尋に対する回答書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標をめぐる経緯
ア 被請求人(本件商標権者)は、ライフスタイルをテーマにしたホテルの開発・運営等を事業内容とする法人である。
被請求人は、沖縄に人が集うコミュニティのあるホテル(本件ホテル)を開発し、2015年(平成27年)8月の開業を目指して準備を進め(乙1)、DESTINATION(目的地)から頭文字のDを外すことにより表現したホテルのコンセプトから、本件ホテルの名称を「HOTEL ESTINATION」とした(乙2)。そして、本件ホテル開業の準備の一環として、本件商標の登録出願を行い、設定登録された(甲1)。
イ 請求人は、アパレル、生活雑貨、飲食、ビューティ等、衣食住ブランドを運営する企業グループの持株会社、並びに衣食住ブランドの企画、販売及び卸売業等を行う法人である。
被請求人は、請求人及び株式会社エストネーションから送付された2015年(平成27年)7月23日付け内容証明郵便で送付された書面を受領した(乙3)。かかる書面の内容は、(a)請求人は、商標「ESTNATION/エストネーション」、指定役務「飲食物の提供」等に係る商標登録第4484922号を保有しているから、本件商標権者がこれと類似するESTINATIONを使用して飲食物を提供する行為は商標権侵害に該当する、(b)ESTNATIONは請求人らの周知商標であり、本件商標権者がこれと類似するESTINATIONを使用する行為は不正競争防止法第2条第1項第1号に該当する、(c)本件商標権者の商標登録出願は登録になったとしても無効理由を有する、として、本件商標権者の本件ホテルの名称を変更するよう求めるものであった。
ウ 2015年(平成27年)8月19日、被請求人の代表取締役が、請求人の本社を訪問し、請求人側は、法務担当者及び弁護士、弁理士(以下、「請求人」という場合がある。)が対応した。被請求人は、ESTINATIONの名称の由来や、請求人の商標を模倣しているわけではないことを説明した。これに対して、請求人は、内容証明郵便で送付された書面と同様の主張とともに、ESTNATIONが全国的に著名なブランドであることを主張し、本件商標権者に対し、基本譲歩の余地はないので、今後どうするか検討してくださいと要求した。被請求人は、「検討する」として、第1回目の交渉は終了した。
エ 2015年(平成27年)9月15日に被請求人が「現在の名称にて共存ということで調整したい」と提案するも、同月16日に請求人は「共存は難しい」とし、暗に法的手続きに移ることを示唆した(乙4)。
同年10月21日、請求人から被請求人に対しての催促があり、法的手続きに移ることについて具体的に言及された。そこで、同月22日、被請求人から請求人に対し、名称変更にて進めていることを伝え、同月23日、被請求人から請求人に対し、変更後の名称を「ESTINATE HOTEL」とすることを伝えた(乙4)。そして、同月27日、請求人から被請求人に対し、本件商標の請求人への移転又は放棄の申し出があった。これに対し、同月29日、被請求人は「新名称を形づくるためのストーリーにおいて重要な役割を果たすので、本件商標自体は確保しておきたい」旨を返答し、本件商標は被請求人が引き続き保有することを希望する旨伝えた(乙4)。
オ 2015年(平成27年)11月11日、第2回目の交渉が行われ、被請求人から、本件商標の請求人への譲渡や放棄をする意思がない理由について説明した。これに対し、請求人から、「本件商標を第三者に使用許諾したり商標権を譲渡したりしない」という条件を提案された。被請求人は、第三者に使用許諾したり譲渡したりする考えは一切なかったので、本件商標を引き続き保有するために、この提案を受諾した。なお、請求人から書面化することを提案されたが、合意内容の確認のみであればあえて書面は不要と考え、その旨伝えた。
同日、請求人より、合意内容を確認するための電子メールが送付された。これに対し、同月12日、被請求人は請求人に確認事項が、相違ない旨を返答し、合意が成立した(乙4)。
カ 請求人は、2019年(平成31年)3月29日、商標を「ESTNATION」、指定役務を「宿泊施設の提供」等として商標登録出願(商願2019-45115号)を行ったが、先願先登録である本件商標と類似するという令和2年4月23日付け拒絶理由通知が発せられた。請求人は、同年6月8日付け意見書において、本件商標に対し不使用取消審判の請求を行ったことを理由に、審査の留保を求めた。
キ 被請求人は、2020年(令和2年)8月17日に、電子メールで、上記オの合意内容を理由として本件審判請求の取下げを請求人に求めたところ、同月18日に請求人より、「本件審判請求は、請求人が、従来より他の商標出願においても行っている通常業務の流れの中で、登録を得るための方策として行ったものである」旨の本件審判請求を行った理由及び、「互いの認識に若干のずれがあった」旨の合意内容に関する認識を内容とした電子メールの返信があった(乙8)。
(2)請求人は本件審判の請求人となる適格(請求人適格)を有しないこと
ア 2015年(平成27年)11月12日の請求人と被請求人との合意内容は、上記第2の2(1)イのとおりであり、被請求人が本件商標を引き続き保有することを認めていることは、交渉の経緯から見ても明らかである。請求人は、被請求人が本件商標を引き続き保有することを前提として認めた上で、本件商標の第三者への譲渡や使用許諾をしないという条件を課しているのであるから、上記第2の2(1)イの合意(3)は、請求人は本件商標権者が本件商標を引き続き保有するという内容を含んでいる(乙4)。
そして、被請求人が本件商標を引き続き保有することについて合意がある以上、当然又は反射的に請求人自ら本件商標の保有を害するような行為を行うことは禁止されるという内容を含むものである。すなわち、請求人は、請求人及び被請求人の合意上の不争義務を負っているといえる。仮に、請求人が本件審判請求を行うことが認められるとすると、合意により得られた被請求人の全ての対価が失われるという結果になり妥当でない。
以上、請求人は、本件商標に対し、合意による不争義務を負うのであるから、商標法第50条第1項の「何人」には該当せず、請求人適格を有しない。
イ 仮に、請求人に、合意による不争義務が認められないとしても、請求人は合意に至る経緯に照らして信義則上の不争義務を負っている。請求人は、交渉の経緯において、被請求人が本件商標を引き続き保有することを前提として認めた上で、被請求人に対し、本件商標の第三者への譲渡や使用許諾をしないという条件を課している。加えて、請求人は、上記第2の2(1)イの合意(2)のとおり、本件商標権者が本件商標の使用をしないことを条件としている(乙4)。請求人が、被請求人に対し、本件商標の使用をしないという条件を課しておきながら、請求人が、被請求人の本件商標の不使用という状態を利用して不使用取消審判で本件商標を取り消せば、被請求人が本件商標を引き続き保有することを認めたことと矛盾する。したがって、合理的に解釈すれば、請求人は本件商標の保有を認めた上で本件商標を使用しないという条件を課した以上、明示的に徐外しない限り、不使用を理由として自ら本件商標の取り消しを求めることはできない、すなわち信義則上の不争義務があるとするのが妥当である。
以上、請求人は、本件商標に対し、信義則上の不争義務を負うのであるから、商標法第50条第1項の「何人」には該当せず、請求人適格を有しない。
(3)本件商標権者が本件商標を使用していること
ア 商標の使用者
イメージデザインA(乙5の1?3)及びイメージデザインB(乙6)は、本件facebook上に掲載されている。
また、メールアドレス「contact@hotel-estination.com」(乙7)は、本件商標権者が運営するESTINATE HOTEL NAHA OKINAWAに対する問い合わせ先である。
したがって、いずれも商標の使用者は本件商標権者である。
イ 使用に係る役務
イメージデザインA(乙5の1?3)及びイメージデザインB(乙6)は、ESTINATE HOTELの本件facebookで、本件ホテルのコンセプトやイメージを発信するために表示されるものである。また、メールアドレス「contact@hotel-estination.com」(乙7)は、ESTINATE HOTELのメールマガジンに問い合わせ先として表示されるものである。よって、いずれも、宿泊施設の提供の広告に本件商標を付して電磁的方法により提供しているものである。
ウ 使用に係る商標
(ア)イメージデザインA(乙5の1?3)及びイメージデザインB(乙6)には、本件商標又は本件商標を含む「HOTEL ESTINATION」が記載されている。いずれのデザインも、本件facebook上に表示されるが、それと重ねて背後で本件ホテルのコンセプトやイメージとともに表示されるものであるから、これ自体についても自他役務識別機能における出所表示機能や広告宣伝機能を発揮するものである。
(イ)イメージデザインA(乙5の1)には、中央下部に「HOTEL ESTINATION」の文字、そして、左中央付近及び左下部付近、紋章様の図形の中に「ESTINATION」の文字を配している。当該画像は、本件facebook左上のTOP画像として表示され(乙5の2)、これをクリックすると拡大されて表示される(乙5の1)。また、facebookアカウントでログインしていないユーザに対してログインアカウントの入力を促す画面にも表示される(乙5の3)。
当該画像は、機会があれば本件ホテルのイメージを印象付けるために用いている。本件商標権者はイメージデザインAを用いた折り紙を細工してマスクケースを製作した。現在、本件ホテルのロビーに置いており、希望する宿泊客に無償で配布している(乙5の4)。
(ウ)イメージデザインB(乙6の1)にも、中央下部に「HOTEL ESTINATION」の文字を配している。当該画像は、本件facebookのプロフィール写真として表示される(乙6の2)。
(エ)本件商標権者は、オンライン旅行サイトにおいて、定期的にメールマガジンを配布しており、お客様の問い合わせ先として、「contact@hotelestination.com」を使用している(乙7)。当該メールアドレスのドメイン名にも、本件商標を含む「HOTEL ESTINATION」が記載されている。メールアドレスは、@(アットマーク)以降のドメイン名に商標を用いることが通常行われていることから、ドメイン名自体がブランドを示すことは周知の事実である。したがって、メールアドレス自体も商標としての自他役務識別機能における出所表示機能を発揮するものである。
エ 使用時期
イメージデザインA(乙5の1?3)は、2015年6月18日から現在に至るまで使用している。イメージデザインB(乙6)は、2015年5月13日から現在に至るまで使用している。
メールアドレス「contact@hotel-estination.com」(乙7)は、2018年(平成30年)2月19日に使用している。
2 審尋及び弁駁に対する回答
(1)審尋に対する意見
ア 本件商標権者が開設するウェブサイトのPORTFOLIO欄には、本件商標権者が運営している宿泊施設として、ESTINATE HOTELが挙げられている(乙9)。また、ESTINATE HOTELは本件商標権者が運営するホテルであることを前提として、請求人と本件商標権者との交渉が行われている(乙4)。以上から、ESTINATE HOTELは本件商標権者が運営するホテルであることは明らかである。
また、本件Facebookのページの「基本データ」の欄には、impressumとして、本件商標権者の英文名及び本件商標権者のホームページアドレスが記載されている(乙10)。impressumとは、「サイトの管理者情報」を意味するから、本件Facebookのページは、本件商標権者によって運営されているものである。
イ 乙第5号証の1は、イメージデザインAが2015年6月18日付けで掲載されたページを、欄外左上に記載された日である2020年8月25日に紙出力したものである。そもそも、Facebookに限らずウェブサイトヘ一旦情報がアップロードされると、ウェブサーバがダウンしない限り削除されるまで表示され続けることは周知の事実である。仮に、途中で一旦削除した後、再度アップロードされた場合は、再度アップロードされた日付が表示されるはずである。
乙第5号証の1は、2015年6月18日から2020年8月25日まで表示が継続してなされていたことを示しているのであるから、要証期間である2017年6月26日から2020年6月25日の間はこれに包含されている。つまり、乙第5号証の1は、要証期間中イメージデザインAが表示されていたことを示すものである。
乙第5号証の4の写真は、2020年8月10日に、本件ホテルの従業者が、一階ラウンジで撮影したものである。なお、乙第5号証の4は、イメージデザインAを、機会があれば本件ホテルを印象付けるために使用している事実を示すために提出した証拠であり、要証期間内の使用を証明するために添付した証拠ではない。
ウ 乙第6号証の1は、イメージデザインBが2015年5月13日付で掲載されたページを、欄外左上に記載された日である2020年8月25日に紙出力したものである。この期間内にイメージデザインBが継続的に表示されていた根拠は、上記イで述べたとおりである。
乙第6号証の1は、2015年5月13日から2020年8月25日まで表示が継続してなされていたことを示しているのであるから、要証期間はこれに包含されている。つまり、乙第6号証の1は、要証期間中イメージデザインBが表示されていたことを示すものである。
エ 合議体は、「hotel-estination.com」のドメイン名(乙7)から、「estination」の文字部分のみが自他役務の識別標識としての機能を発揮するというべき合理的な理由は見当たらないと認定している。
しかし、アットマーク以降のドメイン名(hotel-estination)は、ハイフン(‐)でhotelとestinationが分離されて記載されているのだから、一体不可分のものとして認識されるような表記にはなっていない。また、hotelは宿を意味する普通名詞であり、本件商標の指定役務を提供することを意味するだけであるから、これ自体からは自他役務の識別標識としての機能は発揮しない。また、comもドット(.)でhotel-estinationと分離されて記載されているのであるから、やはり一体不可分のものとして認識されるような表記になっていない。そして、comは、分野別トップレベルドメインのうち、企業や商用サービスを表すものであり、これ自体自他役務の識別標識としての機能を発揮するものではない。
以上から、「hotel-estination.com」を使用すれば、estinationの文字部分のみが独立して自他役務の識別標識としての機能を発揮するといえる。
(2)弁駁に対する意見
ア 商標法第50条の「何人も」の規定は、請求人の利害関係を問わないことを明確にするとともに、公益的理由や、条約及び諸外国の制度との調和を図るためであり、請求人適格を無制限に認めるものではない。
請求人が本件商標の、第三者への譲渡又は使用許諾をしないことを求めたことは、少なくとも被請求人が本件商標を保有することを認めることを前提とした意思表示であると解するのが合理的である。被請求人から見れば、本件商標の移転又は放棄を繰り返し求められたが、この要請に応じなかった結果、代案として第三者への譲渡や使用許諾をしないことを求められたので、この条件なら承諾してもよいと考えたのである。結局のところ、請求人は、紛争の長期化を避けるために、将来の不使用取消審判を視野に入れながら、被請求人に対して本件商標を保有することを認めていると誤解させるような表現をしていたのである。そのような誤解を前提としなければ、被請求人と合意に至ることは不可能で、交渉の一時中断もできなかったのであり、結果、紛争の長期化は免れなかったはずである。
以上から、請求人は、被請求人が本件商標を引き続き保有することを前提として認めるような意思表示をしていたのであるから、契約の意思解釈においては、被請求人が本件商標を引き続き保有することを前提として認めていたという他はない。
イ 請求人は、被請求人が本件商標を引き続き保有することを前提として認めていたことを頑なに否定するが、仮にこのような前提がなかったとしても、請求人の本件審判請求は権利濫用であり、請求人の本件審判請求は請求人適格を欠くものである。
請求人は、自ら起案した上記第2の2(1)イの合意(3)で、被請求人が本件商標を保持したいと考えていることを確認し、さらにはこの確認内容に合意したようにふるまいつつ、他方同合意(2)でもって、本件商標権者の本件商標の使用を制限するよう導き、この状態を利用して、自らの商標登録出願を登録に導くため本件商標の取消を求めることにより、同合意(3)で確認した被請求人の本件商標の保持を害する行為を行っている。
以上の請求人の行為に鑑みれば、本件審判請求は、請求人が被請求人を害することを目的としているのであるから、本件審判請求は権利濫用であり、請求人の本件審判請求は請求人適格を欠くものである。
ウ 請求人は、本件facebook上での表示態様等をこまごまと述べて、本件商標が本件指定役務の出所表示として使用されていないと主張する。
しかし、そもそも本件商標権者の本件商標の使用は、本件商標を「ESTINATE HOTEL」を背後で支える存在として使用を継続していた。つまり、「ESTINATE HOTEL」のような通常の商標としての使用ではなく、背後で新名称に至るストーリーを物語るものとして需要者にイメージ付けることを目的とした使用を行っていた。このような目的に基づく使用であるから、通常の商標と使用態様が異なるのは当然である。露出の程度が少ないのは、請求人との合意を尊重し、控えめな使用に留めていたからに他ならない。

第4 当審の判断
1 請求人適格(請求人による権利濫用)について
被請求人は、本件商標の使用に関する請求人と被請求人との平成27年(2015年)11月12日付け合意により、請求人は、請求人・被請求人間の合意上の不争義務、あるいは、信義則上の不争義務を負っているから、本件審判の請求人適格を有さず、本件審判の請求は、請求人による権利濫用に当たると主張している。
しかしながら、商標法第50条第1項で規定される審判請求は、「継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標・・・の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る登録商標を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定されており、この規定において、請求人適格については、「何人も」とされており、当該登録商標を使用する意思を要する規定もなく、商標法上、これを制限する規定はない。
また、登録商標の不使用による取消審判の請求が、専ら被請求人を害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情がない限り、当該請求が権利の濫用となることはないと解するのが相当である(知財高裁平成20年(行ケ)第10025号、平成20年6月26日判決)ところ、被請求人の主張、請求人と被請求人との平成27年(2015年)11月12日付け合意内容及び、その他本件審判請求に係る全証拠からみても、直ちに、請求人による権利濫用に当たるということもできない。
そして、請求人が自身の商標登録出願につき、本件商標を引用した拒絶理由を解消するために本件審判を請求することは、商標権を取得する過程において通常取り得る方法の一つである。
そうすると、本件審判請求は、請求人の権利濫用に当たるということはできない。
したがって、本件商標について、商標法第50条第1項の規定により審判請求を行っている請求人は、請求人適格を有するものであって、そのほかにこれを否定すべき理由はない。
2 本件商標の使用について
(1)被請求人の提出に係る乙各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 乙第5号証の1は、「ESTINATE HOTEL」に係るfacebookのスクリーンショットであり、黒猫やパイナップル等の多数の図形及び「New Okinawa」、「Guest room 88」等の多数の文字を含む画像が表されているところ、当該画像内下部には、モノグラム図形の右に「HOTEL ESTINATION」の文字が表示され、画像内左下には、小判型又は円形の図形内上部に「ESTINATION」の文字が表示されている。また、当該スクリーンショット中の右上には「2015年6月18日」の記載があり、欄外にはURLが記載されている。
乙第5号証の2は、「ESTINATE HOTEL」に係るfacebookの出力物であり、左上の「facebook」の文字の下にある円形図形中には、乙第5号証の1に表示された画像と思しきものが掲載されているものの、円形図形自体が小さく、中に記載されている文字を判別することはできない。また、欄外にはURL及び「2020/08/25」の記載がある。
乙第5号証の3は、facebookのログイン画面のスクリーンショットであり、ログインボタン等の左側には、乙第5号証の1に表示された画像と思しきものが、欄外にはURLが記載されているものの、日付を示す記載はない。
イ 乙第6号証の1は、「ESTINATE HOTEL」に係るfacebookのスクリーンショットであり、建物の内部と思しき画像が表されているところ、当該画像内下部には、モノグラム図形の右に「HOTEL ESTINATION」の文字が表示されている。また、当該スクリーンショット中の右上には「2015年5月13日」の文字が、欄外にはURLが記載されている。
乙第6号証の2は、「ESTINATE HOTEL」に係るfacebookの出力物であり、中央の「プロフィール写真」の欄には、「写真4件 Updated4年前」の記載とともに、乙第5号証の1に表示された画像と思しきもの、乙第6号証の1に表示された画像と思しきものが表示されている。また、欄外にはURL及び「2020/08/25」の記載がある。
ウ 乙第7号証は、メールの写しであり、「From:ESTINATE HOTEL」、「Subject:【R-mailテスト】ESTINATE HOTELから、楽天スーパーSALEのご案内です!」、「Date:2018年2月19日(月)22:37」のメール情報とともに、<送信元情報>として、「ESTINATE HOTEL(エスティネートホテル)」、「問い合わせ先 contact@hotel-estination.com」の記載がある。
エ 乙第9号証は、本件商標権者ウェブサイトの出力物であり、「運営中」として、「ESTINATE HOTEL」の文字及びホテルの外観写真が掲載されている。また、欄外にはURL及び「2021/01/14」の記載がある。
オ 乙第10号証は、「ESTINATE HOTEL」に係るfacebookの出力物であり、「Impressum」の欄に「Global Agents」の記載がある。また、欄外にはURL及び「2021/01/14」の記載がある。
3 判断
被請求人は、「HOTEL ESTINATION」又は「ESTINATION」の文字が表示されている「ESTINATE HOTEL」に係るfacebookのスクリーンショット又は出力物(乙5の1?3、乙6)、また、メールアドレス「contact@hotel-estination.com」が表示されているメールの写し(乙7)の使用をもって、本件商標を請求に係る指定役務中の「宿泊施設の提供」に使用している旨主張するので、これについて検討する。
(1)facebookにおける使用について
「ESTINATE HOTEL」は、本件商標権者が運営するホテルであり、「ESTINATE HOTEL」に係るfacebookについても、本件商標権者によって運営されている(乙9、乙10)。そして、当該facebookには、2015年5月13日及び2015年6月18日(いずれも要証期間前)に「HOTEL ESTINATION」又は「ESTINATION」の文字を含む画像が掲載され、2020年8月25日時点(要証期間後)で、これらの画像が掲載されていたことが認められる(乙5の1及び2、乙6)。
しかしながら、当該facebookが要証期間において存在していたことが推認できるとしても、上記画像が掲載された日付はいずれも要証期間外のものであり、他に、これらの画像に表わされたものと同一の表示が、要証期間内にも変わらず存在していたことを客観的に示す証拠は見いだせない。また、要証期間以前に上記画像が当該facebookにアップロードされ、要証期間内においても引き続きアップロードされているとしても、要証期間内に上記画像が電磁的方法により提供されたとする客観的な証拠の提出はない。
したがって、上記画像中に「HOTEL ESTINATION」又は「ESTINATION」の文字が表示されていたとしても、これにより要証期間内に本件商標が使用されたものと認めることはできない。
なお、乙第5号証の3については、日付の記載がなく、採用することができない。
(2)メールにおける使用について
メールの写しに記載されている「問い合わせ先 contact@hotel-estination.com」のメールアドレス(乙7)は、構成文字の全てが格別特徴のない書体で、同書、同大で一連に表されているものであって、当該メールアドレスのドメイン部「hotel-estination.com」の「.com」の部分がトップドメインを表すものであり、自他役務の識別機能としての機能がない又は弱いものであるとしても、当該ドメイン部(文字列)に接する取引者、需要者は、その構成全体をもって、一体不可分のドメインとしてのみ認識し、把握するというべきであり、当該ドメインの構成中、格別「estination」の文字のみが、自他役務の識別標識としての機能を発揮するというべき合理的な理由は見当たらない。
そうすると、「hotel-estination.com」の文字は、「ESTINATION」の文字からなる本件商標と社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
したがって、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が使用をされているということはできない。
(3)小括
以上よりすれば、被請求人が提出した証拠によっては、要証期間内に、本件商標権者が、請求に係る指定商品について、本件商標の使用をしたことを認めるに足る事実を見いだせない。
4 むすび
以上のとおり、被請求人は、要証期間内に日本国内において、商標権者、通常使用権者又は専用使用権者のいずれかが、請求に係る指定役務のいずれかについて、本件商標を使用していることを証明したものということができない。
また、被請求人は、請求に係る指定役務について、本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2021-03-26 
結審通知日 2021-03-31 
審決日 2021-04-14 
出願番号 商願2015-9416(T2015-9416) 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (W43)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邉 あおい 
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 石塚 利恵
大森 友子
登録日 2015-08-14 
登録番号 商標登録第5785142号(T5785142) 
商標の称呼 エスティネーション 
代理人 松下 友哉 
代理人 藤江 和典 
代理人 北原 絵梨子 
代理人 松尾 和子 
代理人 鈴木 秀昌 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 中安 桂子 
代理人 中村 稔 
代理人 藤倉 大作 

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