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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W09
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W09
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W09
審判 全部無効 観念類似 無効としない W09
審判 全部無効 外観類似 無効としない W09
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W09
管理番号 1372857 
審判番号 無効2020-890018 
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-02-19 
確定日 2021-03-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第5743519号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5743519号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成よりなり,平成26年10月6日に登録出願,第9類「サングラス,サングラス用枠,眼鏡,眼鏡用枠,眼鏡用ケース,携帯電話機用ストラップ,携帯電話機用ケース,ラップトップ型コンピューター専用バッグ,ラップトップ型コンピューター用保護ケース,ダウンロード可能な電子出版物,移動電話用のコンピューターアプリケーションソフトウエア」を指定商品として,同27年1月23日に登録査定,同年2月20日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 請求人が,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当するとして,請求理由において引用する商標は,以下のとおりである。
登録第2709252号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様:別掲2のとおり
指定商品 :第9類「英国製の眼鏡」,第14類「英国製の時計」
登録出願日:平成3年1月14日
設定登録日:平成7年8月31日
書換登録日:平成18年2月22日
2 請求人が,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するとして,請求の理由において引用する商標は,上記1に記載の引用商標1のほか,別掲3ないし5に掲載のとおり,「BOY」の文字を含む商標であるところ,これらの商標は請求人の「BOY」ブランドの代表的な商標であり,請求人が日本,欧州,英国,中国,香港をはじめとする国で第25類「被服」をはじめとするいわゆるアパレル商品といわれる商品に使用する著名商標である。
なお,別掲3に掲載の商標を引用商標2,別掲4に掲載の商標を引用商標3,別掲5に掲載の商標を引用商標4という。
また,引用商標1ないし引用商標4をまとめていうときは,「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第41号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第15号及び同第7号及び同項第19号に該当し,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。
2 具体的理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標は,太めのゴシック体に類した書体による「BOY」の欧文字と欧文字を環状に囲む8つの星形からなる態様の商標である。
イ 引用商標1について
引用商標1は,太いゴシック体に類した書体で書した「BOY」の欧文字と「LONDON」の欧文字を二段に書した文字部分と,「BOYLONDON」の文字を身体の中心に縦に配したピクトグラム風の人型の組み合わせからなる態様の商標である。
この商標の態様から,「ボーイロンドン」及び「ボーイ」の称呼が生じる。
ウ 本件商標と引用商標1の類否について
本件商標と引用商標1は,ともに「ボーイ」の称呼が生じる点において共通する。
すなわち,称呼において互いに類似する商標である。
本件商標と引用商標は,「BOY」の文字を大きめに顕著な態様で配している点,ともにゴシック体に類する書体を太字で表している点において共通する。
その他の構成要素に相違があるとしても双方の要部が顕著に類似していることで,両商標は出所混同が生じるほどに外観上類似する。
また,両商標は,商標を構成する「BOY」から観念が生じるものと考えられる。
本件商標の「BOY」及び引用商標1の「BOY」はともに「男の子」の観念のほか,請求人のブランド「BOY」を想起させる点において共通する。
すなわち,両商標は観念上類似する。
さらに,本件商標は,指定商品に「サングラス,サングラス用枠,眼鏡,眼鏡用枠,眼鏡用ケ-ス」を含んでいるところ,かかる商品は,引用商標の「英国製眼鏡」に類似する。
上記のとおり,本件商標は,甲第2号証が示す引用商標1と類似のものであり,また,その指定商品も同一又は類似のものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 請求人について
請求人は,1989年(平成元年)に英国に設立された被服の製造・販売を行う企業であり,同社の扱う商品は,「BOY」あるいは「BOY LONDON」ブランドとして知られている。
当該ブランドは1976年(昭和51年)に英国デザイナー,ステファン・レイナーによって創設された。
同氏が「BOY」ブランドを本格的に扱う企業として設立したのが請求人である。
請求人は,1989年(平成元年)の設立以降,一度も名称を変更することなく現在に至り,一貫して「BOY」ブランドを主たるブランドとして運営する企業である(甲10)。
「ボーイロンドン」あるいは「ボーイ」として知られる請求人のブランドは,1980年代,イギリスを中心にパンクファッション及び文化の礎的存在として爆発的な人気を博した(甲11)。
当時世界的な人気を誇っていたボーイ・ジョージ,エルトン・ジョン,マドンナに愛され,「BOY」ブランドは,ポップカルチャー・パンク文化を代表するアイコンとしてもてはやされた。
ステファン・レイナー自身が2018年(平成30年)に著した「All About The BOY」の中で数多くの写真をもって説明されている(甲12)。
2017年(平成29年)に公開された映画「アトミックブロンド」は,1990年初頭のベルリンの壁崩壊前後の欧州を舞台にしているが,劇中,主人公は引用商標5「BOY LONDON」が付されたシャツを着用している。
このことからも,請求人の商品が,当時代を代表する被服ブランドであったことが如実に示されている。
「BOY」ブランドは,パンクやストリート系ファッションにカテゴライズされる商品であり,オートクチュールとは異なるメッセージ性の強いブランドである。
したがって,高級服飾を扱う雑誌等に取り上げられるブランドとは一線を画し,若者を中心に広く知られたブランドとなった。
その後,2012年(平成24年)には,リアーナが着用し話題を呼ぶなど,現在に至るまで,請求人の「BOY」ブランドは,とりわけストリートファッションを好む世界中の若者に一定の著名度を有している。
請求人は,現在,関連会社であるアングロフランチャイズジャパン株式会社を通じて,請求人の商品販売を行っている(甲13)。
イ 本件商標と引用商標の類似性について
引用商標は,いずれも「BOY」を要部とする商標であり,請求人のブランド名を表示するものである。
請求人は長い歴史のなかで,ほぼそのデザインに変更を加えていない。
複数ある商標はいずれも「BOY」の文字がとりわけ目立つような工夫を怠らない。
アパレルと呼ばれる分野では,ブランドイメージが大切である一方,時代や文化背景に合わせて,商標が少しずつ変化することがある。
請求人のブランドも,「BOY」の文字に「LONDON」を組み合わせた商標や,鷲の図形を組み合わせた商標があるほか,「BOY」と「LONDON」を二段に書した際のバランスなど些細な相違が存在することは事実であるが,こうした相違があってもなおかつ,請求人のブランド商標は全商標に統一感が維持され,同一人による出所表示機能が維持されている。
この根幹をなすのが,「BOY」の文字と他の構成要素とのバランスである。
請求人は,「BOY」の文字を特徴的に表示することで,自身のブランドの自他商品識別機能及び出所表示機能の保持につとめていた。
本件商標は,星形の図形と「BOY」の組み合わせからなるところ,「BOY」の文字部分を目立つように中央に配し,かつ,請求人の引用商標と酷似の書体で表している。
これは,本件商標が請求人の引用商標と関連した商標と印象付けることで,引用商標の請求人の周知表示にただ乗りし,請求人の引用商標のダイリューションを引き起こそうとするものである。
本件商標の指定商品が,「サングラス等」であって,身に着けるものであること,商品の性質上ファッション性が高く,ブランドが需要者にとって重要な購買時における選択ポイントであること,かかる特徴は,請求人が所有する引用商標の指定商品である「被服等」と共通していることを考慮すれば,被請求人が,本件商標をその指定商品に使用すれば,請求人の引用商標にかかる商品等と混同する蓋然性は極めて高い。
商標法第4条第1項第15号に該当するか否かの判断に際し,現実の混同や混同の危険性は必ずしも必要ではないが,後述するとおり,被請求人は,取引者に対し,被請求人自身が引用商標の日本における正当権利者であると主張し信頼させることで,市場における現実の混同を引き起こしている。
その際に用いられた商標の一つが本件商標である。
このことは,本件商標が,請求人の所有商標との間において出所混同を生じている事実を示すにほかならない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第7号について
上記(2)アのとおり,請求人は,「BOY」ブランドとして知られる「被服等」を扱う企業である。
請求人は,日本国内にて,1991年(平成3年)以降,商標登録出願を行い引用商標の権利化を図ってきた。
請求人は,甲第14号証ないし甲第30号証として提出の諸外国の登録商標データが示すとおり,多くの国にて商標権を獲得しているが,請求人規模の一企業がすべての国において一律に権利化の体制に万全を期すことは困難であり,未登録出願の国があること,取扱商品のすべてについて万全に権利化し得ていないことも事実である。
請求人は,引用商標1についてのみ,日本国内にて商標権を維持しているものの,引用商標2ないし引用商標4について,第9類には商標登録を行っていなかった。
小規模ながら周知ブランドである「BOY」ブランドを運営していたことが理由の一つでもある。
こうした事情の下,被請求人は,請求人のブランドの周知・著名性に目をつけ,日本国内において,請求人の許諾や同意を受けることなく,引用商標を付した被請求人の商品を販売することを意図したものである。
2014年(平成26年)1月に日本法人株式会社クラウド(以下「クラウド社」という。)と交わした「商品輸入独占契約書」(甲8),「エングフランチャイズリミテッドは英国にBOYLONDONの商標のみ登録し,営業能力と資金力がなくて衣類事業を展開できなかった」,「『甲』(被請求人)は,上記のような合法的な根拠に基づいて日本や中国市場で本社(「被請求人」のこと)の正規品を輸入販売する代理商にBOYLONDON商品輸入販売契約を締結している。」の記載がある。
これらの記載は,「BOY」ブランドが本来,請求人のものであると被請求人は知っていたこと,それにもかかわらず,被請求人が現在の「BOY」ブランドの運営者であるかの説明を行い,日本における商標権者であるとの誤解をクラウド社に与え,日本国内にて,引用商標を付した被請求人商品の販売取引契約を締結していることを如実に示すものである。
実際にクラウド社が日本国内にて請求人の引用商標と同一又は類似の商標を付した商品の販売を開始したことを知った請求人は,同社を被告とする商標権侵害訴訟を2014年(平成26年)8月に提起した。
請求人が侵害訴訟を提起したことを知った被請求人は,請求人の引用商標と同一ではないが,引用商標と出所混同を生じさせる程度に類似する本件商標を2014年(平成26年)10月に登録出願したものである。
この行為は,被請求人が日本国内の販売代理店及び潜在的な販売代理店等に,自らこそが英国ブランド「BOY」の運営企業であると欺き,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的をもっていたことを明確に示すものである。
2015年(平成27年)12月に当該訴訟は和解にて終了したが,和解条項において「被告は被告商品を日本国内に輸入しこれを日本国内で販売する行為が,原告の商標権を侵害するものであることを認め」,「訴外株式会社ボーイロンドンコリアとの間のBOYLONDONブランド関連商品の輸入独占契約を破棄」した(甲9)。
本件商標の維持は,引用商標の出所表示機能が希釈化(ダイリューション)されて,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力が毀損されるばかりでなく,公正な取引秩序を乱すものといわざるを得ない。
してみれば,本件商標は,不当な利益を得る等の不正の目的をもって剽窃的に商標出願したものであることは明らかであり,出願の経緯に社会的相当性を欠き,登録を認めることが商標法の目的にも反するものであるから,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号について 請求人の「BOY」ブランドは,1990年代にはすでに日本においても著名性を獲得していた。
1990年代に発売された「地球の歩き方ロンドン」(甲31?甲37)には,毎年「世界中の若者から支持されている」と紹介されていたほどである。
ブランド創設から40年ほどが経過する今なお,需要者の間に広く認識されている。
その周知・著名性は,「BOY」ブランドの名称「BOYLONDON」を社名として登記した企業に対して社名取消を決定した英国法人登記所の判断からも確認することができる。
2019年(令和元年),「BOYLONDON HOLDINGS LIMITED」という名称を英国にて会社登記した企業があった。
この社名登記に対する取消を求めた請求人は,甲第38号証に示す名称取消を求める書面「Form CNA1」の第11項において,請求人商標の著名性について説明するとともに「かかる名称使用は,請求人の商標を希釈化する行為であり,詐称行為である」と不服を申し述べた(甲39)。
「『BOY LONDON』及び『BOY』は請求人によって,周知性を獲得した商標である」との理由である。
英国法人登記所は,請求人の主張を認め,当該法人に対し名称の変更命令を下した(甲39)。
このことからも請求人の引用商標が英国内にて周知性を獲得していることは明らかである。
被請求人は,請求人が日本国にて,商標登録を行っていることを知りながら,第三者であるクラウド社に,日本国内にて,真正なる権利者である請求人の同意を得ずに請求人の引用商標を付した被請求人の商品の販売を許諾し,自社製品の日本への輸入・販売をそそのかす行為を行った。
さらに,クラウド社に対して請求人が訴訟を提起した後,本件商標を出願し,権利化を図ろうとしたものである。
請求人が被請求人の商品の日本国内における販売を巡って提訴した商標権侵害訴訟が終結する直前の2015年(平成27年)12月17日に,引用商標2と同一の態様よりなる商標を第30類及び第43類に登録出願し商標登録を得たことは,明らかに被請求人に請求人の引用商標に対するただ乗りと剽窃の意思があったことを示すものである(甲40,甲41)。
本件商標は引用商標と同一態様ではないが,称呼及び観念において類似し,外観においても共通性を有するうえ,その指定商品についても請求人の取扱う商品と類似する。
「BOY」ブランドの真の権利者について出所混同が生じることは,上記の商標権侵害排除等請求事件(平成26年(ワ)第20435)における被告の存在からも明らかである。
本件商標の登録は,被請求人が,外国で周知な請求人の商標と類似の商標が日本国にて登録されていないことを奇貨として,請求人の日本国内参入を阻止する悪意と不正の目的をもって登録出願したものに他ならない。
よって,本件商標の登録は商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,請求人の主張に対して何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は,別掲1のとおり,「BOY」の欧文字と,当該「BOY」の文字を環状に囲む8つの星型の図形を表してなる結合商標であるところ,星形の図形部分は欧文字部分を装飾的に表したものと理解するのが自然であって,星形の図形部分から特定の称呼及び観念は生じ得ないものとするのが相当である。
また,本件商標は,その構成文字に相応して「ボーイ」の称呼を生じ,当該文字は,辞書(広辞苑第7版 株式会社岩波書店発行)によれば「少年」等の意味を有する語であるから,「少年」の観念を生じるものである。
したがって,本件商標は,「ボーイ」の称呼を生じ,「少年」の観念を生じるものである。
(2)引用商標1
引用商標1は,別掲2のとおり,左側に「BOY」及び「LONDON」の欧文字を二段に表してなり,その右側に間隔をあけることなく文字部分と高さを合わせるように人型の図形を表し,その人型の図形の中心に「BOY LONDON」の欧文字を,文字の上が右向き,文字の下が左向きになるよう90度に反転したうえで縦書きしてなる構成からなり,文字部分と人型の図形部分とは,全体がまとまりよく一体的に表されているものであり,外観上,商標の構成全体が一体のものとして需要者に看取されるというべきである。
そして,称呼については,引用商標1全体から特定の称呼及び観念は生じないとしても,引用商標1を構成する「BOY」及び「LONDON」又は「BOY LONDON」の文字に相応して,「ボーイロンドン」の称呼を生じるものである。
また,観念については,文字部分を構成する「LONDON」の欧文字は「イギリス連合王国の首都」,「BOY」の欧文字は「少年」等を意味するものであるとしても,「BOY LONDON」の欧文字は,辞書に掲載のないものであるから,一種の造語とみるのが相当であり,特定の観念を生じないものである。
そうすると,引用商標1は,欧文字部分に相応して「ボーイロンドン」の称呼が生じ,特定の観念は生じないものである。
(3)本件商標と引用商標1の類否について
本件商標と引用商標1とを比較すると,外観においては,上記(1)及び(2)のとおり,図形部分は,本件商標は環状の8つの星型の図形であることに対して,引用商標1は人型の図形であることからすれば,明らかに異なるものであり,また,文字部分は,「LONDON」の欧文字の有無の差異があることからすれば,両者の全体の構成態様は明らかに異なり,両者は,外観上,明確に区別し得るものである。
次に,称呼においては,本件商標から生じる「ボーイ」の称呼と引用商標1から生じる「ボーイロンドン」の称呼とを比較すると,ともに「ボーイ」の音を共通にするとしても,引用商標1の4音目以降における「ロンドン」の音の有無の差異,3音と7音という構成音数において顕著な差を有しており,両者は,称呼上,明瞭に聴別し得るものである。
さらに,観念においては,本件商標は「少年」の観念を生じ,引用商標1は特定の観念を生じないものであるから,両者は,観念上,相紛れるおそれはないものである。
そうすると,本件商標と引用商標1とは,外観,称呼及び観念において明確に区別できるものであるから,これらを総合的に勘案すれば,両者は,相紛れるおそれのない非類似の商標であり,別異の商標というべきである。
(4)小括
以上のとおり,本件商標は,引用商標1と非類似の商標であるから,本件商標の指定商品と引用商標1の指定商品とが同一又は類似する場合があるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知著名性について
ア 請求人提出の証拠及び同人の主張によれば,次の事実が認められる。
(ア)請求人は,イギリスで法人登記している企業であり,被服等を取り扱っている(甲10)。
そして,「BOY」及び「BOY LONDON」ブランドとして知られており,当該ブランドは1976年(昭和51年)にイギリスのデザイナーであるステファン・レイナーによって創設され,同氏が「BOY」ブランドを扱う企業として設立したのが請求人である。請求人は,1989年(平成元年)の設立以降,一度も名称を変更することなく現在に至り,「BOY」ブランドを主たるブランドとして運営する企業である。
(イ)請求人は,日本,欧州,英国,中国,香港,台湾,マカオにおいて,引用商標と同一の図形又は「BOY」の欧文字を含む商標を商標登録している(甲2?甲7,甲14?甲30)。
(ウ)日本では,請求人の関連会社である「アングロフランチャイズジャパン株式会社」を通じて,請求人の商品を販売している(甲13)。
(エ)インターネット記事及び書籍での紹介
a 「ボーイロンドン」又は「ボーイ」として知られる請求人のブランドは,1980年代イギリスを中心にパンクファッション及び文化の礎的存在として人気を博したとして,「The story behind BOY,the cult London fashion label Punk Mecca」と称するインターネットの記事として紹介されている(甲11)。
なお,このインターネット記事がいつ掲載されたものであるのか不明である。
b ステファン・レイナー自身が2018年(平成30年)に著した書籍に「All About The BOY」の中でも写真をもって紹介されている(甲12)。
なお,当該書籍が出版された国,発行部数等は不明である。
c 海外旅行用のガイドブックである「地球の歩き方」(ダイヤモンド・ビッグ社発行)に「ロンドン90年?91年版」及び「ロンドン98年?99年版」において,例えば「ボーイ/BOY ポップなデザインが世界じゅうの若者から支持されている。“BOY”のロゴマークには見覚えのある人も多いはず。値段もてごろ」のように紹介されている(甲31?甲37)。
しかし,当該ガイドブックでは,請求人の店舗以外にも多くの店舗が紹介されており,その一店舗として紹介されているにすぎない。
さらに,2000年(平成12年)版以降のものにも継続して掲載されているかどうか不明である。
イ 判断
上記アによれば,引用商標及び「BOY」の欧文字を含む商標は請求人によって,日本,イギリス,中国等で商標登録されているとしても,引用商標を付した商品の我が国を含む各国での売上額,市場占有率,広告宣伝費等の周知著名性の判断の基礎となる客観的な数値を示す証拠等,我が国及び外国の需要者の間において周知著名性を獲得したことを示す具体的な証拠の提出はない。
そうすると,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人商品を表示するものとして,我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)請求人商標の構成中「BOY」の文字の独創性について
請求人のブラントとして主張する「BOY」の欧文字は,我が国では「少年」を意味する親しまれた平易な英語として知られていることからすれば,その独創性は低いといえる。
(3)本件商標と引用商標との類似性の程度について
ア 本件商標
本件商標は,別掲1のとおりの構成からなり,上記1(1)のとおり,称呼においては「ボーイ」の称呼を生じ,観念においては「少年」の観念が生じる。
イ 引用商標
(ア)引用商標1
引用商標1は,別掲2のとおりの構成からなり,上記1(2)のとおり,称呼においては「ボーイロンドン」の称呼が生じ,特定の観念は生じない。
(イ)引用商標2
引用商標2は,別掲3のとおり,鷲らしき鳥の図形の下に「BOY」の欧文字を表してなるところ,鷲らしき鳥の足は「O」の欧文字の上に重るよう配置されている構成からなることからすれば,構成全体がまとまりよく一体的に表されているといえるものであり,外観上,商標の構成全体が一体のものとして需要者に看取されるというべきである。
そして,引用商標2は,図形部分からは特定の称呼及び観念は生じないとしても,「BOY」の欧文字に相応して,称呼においては「ボーイ」の称呼を生じ,観念においては「少年」の観念が生じる。
(ウ)引用商標3
引用商標3は,別掲4のとおり,鷲らしき鳥の図形の下に「BOY」及び「LONDON」の欧文字を二段に表してなるところ,鷲らしき鳥の足は「O」の欧文字の上に重るよう配置されている構成からなることからすれば,構成全体がまとまりよく一体的に表されているといえるものであり,外観上,商標の構成全体が一体のものとして需要者に看取されるというべきである。
そして,引用商標3は,図形部分からは特定の称呼及び観念は生じないとしても,「BOY LONDON」の欧文字に相応して,上記1(2)のとおり,引用商標1の欧文字部分と同様に,称呼においては「ボーイロンドン」の称呼を生じ,特定の観念は生じない。
(エ)引用商標4
引用商標4は,別掲5のとおり,「BOY」及び「LONDON」の欧文字を二段に表してなるところ,当該欧文字部分からは,上記1(2)のとおり,引用商標1の左側の欧文字部分と同様に,称呼においては「ボーイロンドン」の称呼を生じ,観念においては特定の観念は生じない。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
(ア)本件商標と引用商標1との類否について
上記1のとおり,本件商標と引用商標1とは,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(イ)本件商標と引用商標2及び引用商標3との類否について
本件商標と引用商標2及び引用商標3の外観の構成は,それぞれ別掲1,別掲3及び別掲4のとおりであるところ,両者は,文字部分において,「BOY」の欧文字部分は近似するとしても,商標の構成全体の外観において,図形部分は,本件商標が環状の8つの星型の図形であるものに対して,引用商標2及び引用商標3は鷲らしき鳥の図形であり明らかに異なるものである。
さらに,本件商標と引用商標3の文字部分は,引用商標3における「LONDON」の欧文字の有無という差異を有している。
そうすると,本件商標と引用商標2及び引用商標3とは,両者の全体の構成態様は明らかに異なり,両者は,外観上,明確に区別し得るものである。
次に,称呼及び観念において,本件商標と引用商標2は,「ボーイ」の称呼及び「少年」の観念を共通にするとしても,「BOY」の欧文字は,我が国では「少年」を意味する親しまれた平易な英語として知られていることからすれば,自他商品の識別力としては比較的弱いものであるといえる。
そうすると,本件商標と引用商標2は,「ボーイ」の称呼及び「少年」の観念を共通にする場合があるとしても,商標の構成全体の外観において,顕著な差異を有するものであって,全体として異なる印象を与えるものであることからすれば,両者は,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
一方,本件商標と引用商標3は,称呼において,本件商標から生じる「ボーイ」の称呼と引用商標3から生じる「ボーイロンドン」の称呼では,上記1(3)のとおり,引用商標1の欧文字部分と同様に,両者は,称呼上,明瞭に聴別し得るものである。
さらに,観念において,本件商標は「少年」の観念を生じるものに対して,引用商標3は特定の観念を生じないものであるから,観念上,相紛れるおそれはない。
そうすると,本件商標と引用商標3は,外観,称呼及び観念において明確に区別できるものであるから,両者は,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(ウ)本件商標と引用商標4の類否について
本件商標と引用商標4の外観の構成態様は,それぞれ別掲1と別掲5のとおりであるところ,両者は,「BOY」の文字部分においては近似するとしても,商標の構成全体の外観において,本件商標が環状の8つの星型の図形を有していることに対して,引用商標4は図形を有していない欧文字のみからなる文字商標であり,さらに,当該欧文字部分において「LONDON」の文字の有無の差異があることからすれば,外観上,明確に区別し得るものである。
次に,称呼において,本件商標から生じる「ボーイ」の称呼と引用商標4から生じる「ボーイロンドン」の称呼では,上記1(3)のとおり,引用商標1の左側の欧文字部分と同様に,両者は,称呼上,明瞭に聴別し得るものである。
さらに,観念において,本件商標は「少年」の観念を生じるものに対して,引用商標4は特定の観念を生じないものであるから,観念上,相紛れるおそれはない。
そうすると,本件商標と引用商標4は,外観,称呼及び観念において明確に区別できるものであるから,両者は,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(エ)以上(ア)ないし(ウ)のとおり,本件商標と引用商標は,称呼と観念を共通にする場合があるとしても,外観,称呼及び観念を総合的に判断すれば,両者は,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(オ)小括
以上によれば,本件商標と引用商標とは,互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきものであり,類似性の程度は高いとはいえない。
エ 出所の混同のおそれ
上記(1)のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,我が国において,引用商標が,請求人の商品を表すものとして需要者に広く認識されていたものとは認められず,また,上記(2)のとおり,「BOY」の文字の独創性は低いものであって,上記(3)のとおり,本件商標と引用商標とは相紛れるおそれのない非類似の商標といえるから,類似性の程度は高いとはいえないものである。
してみれば,本件商標は,これをその指定商品に使用しても,これに接する需要者をして,請求人又は引用商標を想起,連想させるものとは認められず,当該商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生じるおそれはないというべきである。
また,その他に,本件商標と引用商標とが取引者,需要者において出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情はみいだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
引用商標は,上記2(1)イのとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人商品を表示するものとして,日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
なお,請求人は,不正の目的について,被請求人は,請求人が日本国にて,商標登録を行っていることを知りながら,第三者を通じて,日本国内にて,真正なる権利者である請求人の同意を得ずに請求人の引用商標を付した被請求人の商品の販売を許諾し,自社製品の日本への輸入・販売をそそのかす行為を行った。さらに,当該第三者に対して請求人が訴訟を提起した後,本件商標を出願し,権利化を図ろうとしたものであり,請求人が被請求人の商品の日本国内における販売を巡って提訴した商標権侵害訴訟が終結する直前に引用商標2と同一の態様よりなる商標を第30類及び第43類に出願し登録を得たことは,明らかに被請求人に請求人の引用商標に対するただ乗りと剽窃の意思があったことを示すものであり(甲40,甲41),本件商標の登録は,被請求人が,外国で周知な請求人の商標と類似の商標が日本国にて登録されていないことを奇貨として,請求人の日本国内参入を阻止する悪意と不正の目的をもって出願したものに他ならない旨主張する。
しかしながら,当該主張についても,これを裏付ける具体的な証拠は何ら提出されておらず,他に,本件商標が不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる事実は見いだせない。
また,甲第40号証及び甲第41号証で示されている商標は,たとえ,引用商標2と類似する商標であるとしても,上記2(3)ウ(イ)のとおり,本件商標と引用商標2は互いに紛れるおそれのない非類似の商標であり,本件商標とは別異の商標といえるものであって,商標法第4条第1項第19号の要件に該当しないものであるから,請求人の主張は採用することはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標権者が,過去に請求人関係者と商品の輸入販売の独占に関して取引があり(甲8),また,同じく商標権侵害訴訟(甲9)で本件商標の登録出願日前に引用商標の存在を知り得る状況にあったこと,加えて本件商標の維持は,引用商標の出所表示機能が希釈化(ダイリューション)されて,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力が毀損されるばかりでなく,公正な取引秩序を乱すものといわざるを得ないから,本件商標は,不当な利益を得る等の不正の目的をもって剽窃的に登録出願したものであることは明らかであり,出願の経緯に社会的相当性を欠き,登録を認めることが商標法の目的にも反するものであるから,商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張する。
しかしながら,前記請求人関係者と商品の輸入販売の独占に関して取引があったことを示す商品輸入独占契約書及びその訳文(写)(甲8),また,同じく商標権侵害訴訟の和解調書(写)(甲9)に示された商標は,たとえ引用商標と類似する商標であるとしても,本件商標と引用商標とは上記2(3)ウのとおり,非類似の商標であり,別異の商標といえるものである。
そして,請求人提出の証拠及び同人の主張を総合してみても,商標法の先願登録主義を上回るような,本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実を見いだすことができない。
さらに,本件商標を,その指定商品について使用することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するということもできず,他の法律によってその使用が禁止されているものでもなく,本件商標の構成自体が,非道徳的,卑わい,差別的,きょう激又は他人に不快な印象を与えるような構成態様でもない。
その他,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る証拠の提出はない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当するものではなく,その登録は同法第4条第1項の規定に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
別掲1 本件商標


別掲2 引用商標1

別掲3 引用商標2

別掲4 引用商標3

別掲5 引用商標4




審理終結日 2020-10-05 
結審通知日 2020-10-07 
審決日 2020-11-12 
出願番号 商願2014-83970(T2014-83970) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W09)
T 1 11・ 262- Y (W09)
T 1 11・ 261- Y (W09)
T 1 11・ 222- Y (W09)
T 1 11・ 263- Y (W09)
T 1 11・ 271- Y (W09)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 齋藤 貴博
特許庁審判官 小俣 克巳
榎本 政実
登録日 2015-02-20 
登録番号 商標登録第5743519号(T5743519) 
商標の称呼 ボーイ、ビイオオワイ 
代理人 豊崎 玲子 

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