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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) W41
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) W41
審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) W41
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) W41
管理番号 1371841 
審判番号 無効2019-890063 
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-10-09 
確定日 2021-02-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第5709296号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5709296号の指定役務中,第41類「資格付与のための資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与,その他の技芸・武道・スポーツ又は知識の教授,武道・スポーツの競技会の企画・運営又は開催,その他のスポーツの興行の企画・運営又は開催,セミナー・講習会・研修会又はシンポジウムの企画・運営又は開催,録音済み・録画済みのDVD・その他の記録媒体の貸与,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,武道の術技・術芸・演武の演出又は上演及びこれらに関する情報の提供,その他の演芸の上演,演劇の演出又は上演,武道場の提供,その他の運動施設の提供」についての登録を無効とする。 その余の指定役務についての審判請求は成り立たない。 審判費用は,その2分の1を請求人の負担とし,2分の1を被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5709296号商標(以下「本件商標」という。)は,「躰道」の漢字を標準文字で表してなり,平成26年6月16日に登録出願,第41類「資格付与のための資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与,その他の技芸・武道・スポーツ又は知識の教授,武道・スポーツの競技会の企画・運営又は開催,その他のスポーツの興行の企画・運営又は開催,セミナー・講習会・研修会又はシンポジウムの企画・運営又は開催,録音済み・録画済みのDVD・その他の記録媒体の貸与,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,武道の術技・術芸・演武の演出又は上演及びこれらに関する情報の提供,その他の演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,武道場の提供,その他の運動施設の提供」を指定役務として,同年9月24日に登録査定,同年10月10日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第99号証を提出した。
1 請求人
一般社団法人日本武藝躰道本院(以下「請求人1」という。)は,「躰道」の創始者である祝嶺正献最高師範(以下「祝嶺最高師範」という。)が昭和40年1月23日に設立した「躰道本院」を母体とし,躰道を国内外に普及させるために審査・競技・審判などを統一する機関として,祝嶺最高師範が自ら宗家・最高師範となって設立した団体であり,平成24年9月3日に法人格を取得した(甲2)。
特定非営利活動法人日本躰道協会(以下「請求人2」という。)は,祝嶺最高師範が昭和40年1月23日に設立した「日本躰道協会」を母体とし,上記躰道本院の下部組織として,国内での正当な躰道の普及・発展のために国内の躰道活動を統制する機関として,躰道の演武会及び実技指導等による普及事業,躰道の大会の開催や後援事業,ホームページや教本の作成,指導者の育成等の活動を行ってきており,平成17年4月1日に特定非営利活動法人として法人格を取得した(甲3)。
なお,「請求人1」及び「請求人2」を併せて「請求人」という場合がある。
請求人1の前身である躰道本院は,祝嶺最高師範存命時より,請求人2の前身である日本躰道協会及び世界躰道連盟の幹部及び高弟らによって構成される「躰道本院最高会議(以下「最高会議」という。)」によって運営され,会員に対する称号階位の付与,段級位付与にあたっての審査基準の策定,教本の作成,世界大会での実技指導,各国躰道協会における研修や大会の監修,及び正当な躰道を国内外に普及させるために審査・競技・審判等を統一してきた。祝嶺最高師範は,平成13年11月26日に死去し,以後も日本躰道協会幹部及び躰道本院の最高会議メンバーを中心に活動が継承されている。
2 躰道について
昭和40年に祝嶺最高師範が沖縄で「手(ティー)」を母体にして発祥させた玄制流空手をさらに発展させて創始した新しい武道である(躰道競技動画:甲11)。
躰道概論(甲27)において,武道の伝承名としての「躰道」の語句と意義について,躰道の【躰】は,人間の身体と精神活動の可能性を持った行為的な主体となりうる自己を意味し,【道】は,単なる実技上の理法となるばかりでなく,人間性を自覚することによって求める道,おこなうべき道を意味していると記している。
(1)躰道の普及活動について
祝嶺最高師範は,昭和40年に,躰道本院及び日本躰道協会を設立し,躰道の普及活動及び指導を行ってきた結果,本件商標の登録査定時と同じ時期である平成26年9月の時点で,32の都道府県に県地区躰道協会が存在し,日本各地に91の団体が設立され,その中には24を超える大学・高校において躰道部が設けられている(甲12)。また,海外においてはフィンランド,スウェーデン,デンマーク,フランス,アメリカ,オーストラリア,イギリス及びポルトガルに躰道協会が設立され活動している(甲13)。
(2)躰道の大会・競技会の開催
請求人2は,昭和42年以降,全日本躰道選手権大会(甲14?甲17)・全国学生躰道優勝大会(甲18?甲20)・全国社会人躰道優勝大会(甲21?甲23)・全国少年少女躰道優勝大会・全国高校生躰道優勝大会(甲24?甲26),国際躰道競技大会(甲33,甲35)のほか,請求人の指導のもと全国各地にある躰道協会主催で,都道府県や市区町村単位で大会や競技会が毎年行われている。
(3)躰道の指導や紹介等を目的とした「躰道概論」(甲27),「躰道教範 上・下」(甲28)及び請求人が指導/監修のDVD「変幻自在なる武道 躰道 体軸を極めた三次元の技」(甲29,甲30)がある。
(4)雑誌(甲31?甲50),新聞(甲52?甲79)への掲載及びテレビでの放映(甲51)がある。
(5)その他一般読者向け書籍「世界のすごい武術・格闘技」(2011年発行:甲80),躰道がテーマの単行本漫画「瞳をそらさずにいて」(2003年?:甲81)及び公的な団体や地方公共団体の広報誌や広報用パンフレット(甲82?甲87)がある。
3 商標法第3条第1項第6号該当性について
上記のとおり,昭和40年に祝嶺最高師範が躰道を創始して以降,「躰道」の名称のもと,日本及び世界において,その実技や組織の統制及び普及・指導活動が行われ,大会や競技会,躰道の指導や紹介のための書籍やDVD,雑誌や新聞の掲載において,「躰道」の文字が標準的な文字体により,武道の名称を指称するものとして普通に使用されてきた。
その結果,本件商標の登録査定時において,「躰道」の文字が本件商標の指定役務に使用されても,これに接する取引者・需要者は,「躰道」の文字を武道の一つの名称であると認識し,当該指定役務の出所を識別するための標識とは意識し得ないものとなっていた。
4 商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号該当性について
上記のとおり,使用されてきた結果,本件商標の登録査定時において,「躰道」がアクロバティックな動きを持ち,平面のみならず,空中での攻撃防御,地面に伏せてからの攻撃といった三次元的な運動空間を有している武道の名称として,少なくとも日本では知られているところとなっている。
したがって,本件商標の指定役務中「資格付与のための資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与,その他の技芸・武道・スポーツ又は知識の教授,武道・スポーツの競技会の企画・運営又は開催,その他のスポーツの興行の企画・運営又は開催,セミナー・講習会・研修会又はシンポジウムの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,武道の術技・術芸・演武の演出又は上演及びこれらに関する情報の提供,その他の演芸の上演,演劇の演出又は上演,武道場の提供,その他の運動施設の提供」に使用した場合,これに接する取引者・需要者は,実施される資格試験,認定あるいは付与される資格,教授される内容,競技会の対象となる競技,興行されるスポーツの内容,セミナー・講習会・研修会又はシンポジウムのテーマ,電子出版物の内容,演出又は提供される情報の内容,提供される武道場あるいは運動施設に係るスポーツ又は武道が「躰道」であることを認識するだけである。
すなわち,本件商標が武道としての躰道に関する役務に使用される場合,これら指定役務の質,用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから,商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものである。
また,本件商標が躰道以外の技芸・武道・スポーツ又は知識に関する指定役務に使用されるときは,役務の質や用途について誤認を生ずるおそれがあるから,商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものである。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標が前記主張に該当することなく識別力を有する商標であったとしても,本件商標は,躰道に係る者すべてが自由に使用できるべきであって,被請求人のみに独占的な商標権が付与されることは,商標権者以外の躰道の関係者にとって,大きな混乱と困惑をもたらすものであり,社会公共の利益に反する。
請求人1は,「躰道」の創始者である祝嶺最高師範が昭和40年1月23日に設立した「躰道本院」を母体とするもので,正当な躰道を国内外に普及させるために審査・競技・審判などを統一する機関として,請求人2は,祝嶺最高師範が同じく昭和40年1月23日に設立した「日本躰道協会」を母体とし,上記躰道本院の下部組織として,共に,各国内での正当な躰道の普及・発展のために国内の躰道活動を統制する機関として,躰道の演武会及び実技指導等による普及事業,躰道の大会の開催や後援事業,ホームページや教本の作成,指導者の育成等の活動を行ってきたものであり,請求人2の会員時には六段教士まで取得し祝嶺最高師範の長女である齋藤育代氏は,このような事情を熟知していないはずがない。
そのような事情にもかかわらず,齋藤育代氏らが請求人1の前身である躰道本院と同一の名称をもって被請求人を設立し,その行為が平成26年(ワ)第17240号会員地位確認請求事件における判決中で,単に請求人2の活動に一時の混乱や誤解を生じさせたにとどまらず,躰道の活動を巡り請求人2からの分派を意図する活動であったと評価することができるから,請求人2の名誉を傷つける行為であったとともに,日本を代表する唯一の組織として躰道の普及奨励活動をする請求人2の目的に反する行為であったといわざるを得ないと判断され(甲92),平成26年5月25日に開催された請求人2の通常総会において,除名処分の議決がなされると,その直後の平成26年6月16日付で本件商標が請求人の活動に深く係る指定役務を指定して齋藤育代氏が代表理事を務める被請求人により出願されたこと,さらに齋藤育代氏が過去に不正な手段を利用してでも躰道関係の商標登録を自己に移転しようと試みたこと,を考慮すると,被請求人が本件商標の登録を取得することにより,請求人の活動を阻害しあるいは請求人に対して交渉等における有利な地位を確保しようとする意図があったことは明らかであり,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠く事情があったことは明らかである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第15号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第3条第1項第6号該当性について
請求人は,「躰道概論」(甲27)を用いて,その語句と意義について説明しているが,「躰道」自体が造語であるため,使用する対象によっては,十分に自他役務商品識別機能を発揮する文字である。例えば「躰道概論」を読んで,これを個人,友人とで実践することは何ら商品や役務の提供といえない。一方,ある私人が「躰道」という看板の下で,武道の指導を行う場合は,知識の教授に該当する可能性が高い。
そうすると,本件商標の登録査定時で,請求人提出の証拠(甲1?甲87,甲99)の全体をみれば,本審判と一部重複する証拠が提出された異議申立て(異議2015-900008)に関して述べたように,本件商標の使用状況において,未だ「祝嶺正献(出所)」と「玄制流空手(空手の一流派)」又は/及び「躰道(新武道の一流派)」との一体的な結びつきが確認でき,請求人も認めているとおり,「武道の一流派の名称等を指称するもの」の名称として認識される点で,商標法第3条第1項第6号に該当しない。
2 商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号該当性について
請求人1は,「躰道」の創始者である「祝嶺最高師範」が設立した「躰道本院」を母体とすると主張するところ,その「躰道本院」は,「太道」の異議申立て(異議2000-91041)に対して,「武道界における一流派として武道に関心のある者の間で広く知られた商標『躰道』と混同を生ずるおそれがある」と取消を求めている。すなわち,「太道」でさえ,自己とは関係のない者の使用を排除しようと試みながら,本請求において,「何人もその使用を欲するものだから一私人に独占を認めることは妥当ではなく」等と主張するのは理解し難いものである。
また,上述のように,「躰道」,「たいどう」,「TAIDO」を上下三段に書してなる商標の登録出願については,拒絶査定不服審判(不服2001?12284)の審決において,「昭和40年頃に,躰道本院の創始者である祝嶺春範氏が創作した空手の一流派の名称であって,その後,武道界で公認され,日本全国に組織を有する躰道本院によって宣伝普及され,今日に至っていることが認められ,空手,柔道等のような武道一般の名称ではなく,空手の特定の一流派の名称を表示するもの」と判断され,登録された。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)会員地位確認請求事件で争われた「法の予定する秩序」の性質について
まず,請求人の具体的主張のうち,「その行為が平成26年(ワ)第17240号会員地位確認請求事件における判決中で,単に請求人2の活動に一時の混乱や誤解を生じさせたにとどまらず,躰道の活動を巡り請求人2からの分派を意図する活動であったと評価」でき,「請求人2の名誉を傷つける行為であ」った等とある。
しかし,本事件で問題となった「法の予定する秩序」とは,同判決「4. 争点3 (本件除名決議の手続上の瑕疵の有無)について」で記載されているとおり,「特定非営利活動促進法は,特定非営利活動法人の定款に社員の資格の得喪に関する事項を定めることを要求し,これを受けた被告定款11条は,各号において除名事由を定め」る等して,「被告の団体としての民主的な運営を担保し,もって特定非営利活動法上の社員である被告正会員が恣意的に除名されることを防止している」点にあると考える(甲92,19頁)。
同判決では,本件における各手続を精査した上で,「被告の本件通常総会における本件除名決議に関しては,除名手続上に重要な瑕疵があり,同決議の効力は無効といわざるを得ない。」(甲92,22頁)と判断されたものである。すなわち,本判決によって守られようとした「秩序」とは,「被告の団体としての民主的な運営」の確保であり,「特定非営利活動法上の社員である被告正会員が恣意的に除名される」という危険性を防止することにある。
実際に「除名事由」があったか否かは,「被告の団体」の内部の問題で,いわば「私的領域」の問題である。当該団体が,民主主義的な手続の上で「除名事由」に該当すると判断したら,その構成員はこれに従うしかない,それは当該団体と当該構成員の間の問題で,かかる「私的領域」の問題に,商標法第4条第1項第7号が立ち入る余地はない。
そうすると,請求人の具体的主張のうち「その行為が平成26年(ワ)第17240号会員地位確認請求事件における判決中で,単に請求人2の活動に一時の混乱や誤解を生じさせたにとどまらず,躰道の活動を巡り請求人2からの分派を意図する活動であったと評価」でき,「請求人2の名誉を傷つける行為であ」ったか否かについては,上記のような「私的領域」の問題と考えられる。
(2)「商標法の予定する秩序」を超えて請求人を保護すべきかについて
上記(1)にも関わらず,「私的領域」に拡大解釈してまで実現しなければならない,商標法が守るべき「法の予定する秩序」があるかという点を,以下の主張に関して検討する。
請求人の主張と同判決文を比較すると,請求人主張の「日本を代表する唯一の組織として躰道の普及奨励活動をする請求人2」は,同判決文(甲92,「1 事実関係(2)」の9頁)によれば,請求人2は「祝嶺正献が昭和40年1月23日に設置した任意団体『躰道本院(法人化された現在の日本武藝躰道本院)』から,日本を代表する唯一の躰道組織として認められ」たことを意味し,国や地方公共団体等の公的立場にある組織から認められたものではない点を確認できる。
この点請求人は,請求人2に対し「唯一の躰道組織として認め」た主体を隠して主張し,判決文を請求人に有利に解釈しようとする意図が見受けられる。
さらに,「祝嶺正献氏の『躰道本院』と請求人1が同一ではない」点は明らかである。
そうすると,“「躰道本院(法人化された現在の日本武藝躰道本院)」(甲92の「1 事実関係(2)」の9頁)の記載は,「祝嶺正献氏の『躰道本院』を『母体』とする『日本武藝躰道本院』」”の意味,と解すべきである。
次に,請求人主張の具体的主張のうち,「平成26年5月25日に開催された請求人2の通常総会において,除名処分の議決がなされると,その直後の平成26年6月16日付で本件商標が請求人の活動に深く係る指定役務を指定して齋藤育代氏が代表理事を務める被請求人により出願された」とある。
しかし,本件商標を出願したのは除名議決後であり,除名議決後,齋藤育代氏としては,請求人とは関係なく,祝嶺一門のために「躰道」に取り組んでいくしかないとの腹をくくり,決意によって出願をしたものである。仮に出願せずにいた場合,請求人によって,「躰道」の世界そのものから排除される危険もあるところ,祝嶺一門の活動を守るため,本件商標を出願したものである。なお,齋藤育代氏にとって「祝嶺一門」を守ることは,「躰道」と「躰道」に係る全ての人々(請求人に属さない人々を含む)に貢献することを意味する。乙第15号証の1ないし乙第15号証の4のように,同氏及び被請求人は「祝嶺の型研究会」(2016年に設立10周年を迎えた研究事業)を主宰したり,「健康武道事業」等で社会貢献活動にも取り組んでいる。「躰道」とは請求人が主張するように「アクロバティックな動き」だけを特徴とする武道ではなく,例えば「躰道概論」(甲27)を引用した医師インタビュー記事(甲43)のように,呼吸法等を含む高齢者向け体力維持・推進にも貢献できる奥深いものである。
また,乙第15号証の5のように,齋藤育代氏は,請求人との関係でも,「躰道会員の中では慕う若い人が多く」「躰道のことをよく考えていて」と,評価される面をもっている。
これまで,祝嶺正献氏からの相続により,齋藤育代氏は「躰道」関係の登録商標について複数,工藤依子氏と共有も含め有している。一方,請求人1は「躰道」の普及に必要な商標の登録を一切取得していない。そもそも第41類における「躰道」の商標については,過去の審決・異議の決定に鑑みれば識別力があると判断される可能性が高いことは認識でき,かかる商標について出願することなく,そのまま放置していたのは,請求人である。むしろ,齋藤育代氏や工藤依子氏の商標登録が,「躰道」とは全く関係のない第三者により「躰道」関連商標と同一又は類似の商標が登録される事態を防ぎ,これは「躰道」関係者にも利益となるものである。しかも,「躰道」関係者に対し,これまで,齋藤育代氏が権利行使したことがないのは「躰道」関係者にとって自明である。さらに,請求人は,「躰道」という「躰道」関係者に極めて重要な知的財産を事業に使用している以上,祝嶺正献氏存命中に契約等によって譲り受けるべきであった。
本件は,まさに,請求人が,適切な措置を怠っていたような場合に該当し,商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきである。そのような場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。
(3)齋藤育代氏の過去の行為が「商標法の予定する秩序」を害するかについて
請求人主張の具体的主張で,「さらに齋藤育代氏が過去に不正な手段を利用してでも躰道関係の商標登録を自己に移転しようと試みた」とあるが,上記(2)で述べたように,被請求人の代表理事である齋藤育代氏について「公益を害する人間のイメージ」を作出しようとする意図が認められ,かかる主張は失当である。かかる主張がなぜ本審判請求書で繰り返し書かれるかを考えるに,祝嶺正献氏逝去から請求人1設立の間に起きた出来事を整理すると「祝嶺正献氏の『躰道本院』と請求人1が同一ではない」ということが根底にあると考える。この点,「祝嶺正献(祝嶺春範)氏存命中と逝去後の組織の概念図」(図1)(乙10の1)によれば,祝嶺正献氏を求心力として,複数の要素が集まって形成され,同氏逝去後,その求心力は失われ,複数の要素に分離したものと考える。この図を基に考えると請求人1は,「躰道本院」の最高会議のメンバーによって設立されたと考えることができ,したがって,請求人1は「躰道本院」を母体とするものの,同一ではない,ということができると考える。
そして,祝嶺正献氏逝去後,各躰道関連協会を個人のカリスマ性では統制できなくなったことから,日本躰道協会所属の者の一部(例えば「日本躰道協会の師範であり,事務総局長の近藤光雄氏(甲33),日本躰道協会副会長の渡辺三雄氏(甲16)」)が集まり,「躰道本院最高会議」の名を外部に出すこととし(甲44),同時に「正献夫人が,『二代目祝嶺正献』を襲名し,八段範士八名がその後見人となって」(甲45),「躰道本院」とは別組織である「日本躰道協会」がその足場固めに力を入れ始めたと考えられる。かかる出来事と同時期に,祝嶺正献氏逝去後から請求人1の設立前の期間に起きた「商標」事件があったと考える。この「商標」事件は,確かに,祝嶺家の問題,祝嶺正献氏(及び祝嶺和子氏)の相続人間の問題で,外形上,請求人1は,関わりがないように見える。しかし「祝嶺正献氏の『躰道本院』と請求人1が同一」であったなら,請求人1が自分のこととして,祝嶺家・祝嶺一門の問題に積極的に関与し,最善の解決策を模索したはずである。
一方で,齋藤育代氏は,「躰道本院」は祝嶺正献氏そのものであり,「宗家」の象徴性のみ利用される事態を避け,父の想い(例えば「躰道本院」の「約款」の「血筋」は「妻」は該当しないところ,「長男」を宗家にしたいと父が望んでいただろう想い)を継ぎたいと考え,請求人との関係性の中で,祝嶺家の問題,祝嶺正献氏の相続人間の問題について果敢に解決しようと試みた。そして,上記「除名議決」後は,請求人とは関係ない場所で「躰道」を続けて行こうと決心し,本件商標の出願に至ったのである。
(4)まとめ
以上のように,請求人主張の「被請求人が本件商標の登録を取得することにより,請求人の活動を阻害しあるいは請求人に対して交渉等における有利な地位を確保しようとする意図があったこと」は全くないことは明らかである。
したがって,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠く事情は全く確認することができず,本件商標は,商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものでない。

第4 当審の判断
1 本件商標は,「躰道」の文字を標準文字で表してなるところ,請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)「躰道」の普及活動について
祝嶺最高師範は,昭和40年に躰道本院及び日本躰道協会を設立し,躰道普及及び指導を行ってきた結果,平成26年9月時点で,27の都道府県において県地区躰道協会が存在し,日本各地に91の団体が設立され,その中には大学・高校において躰道部が設けられている(甲12)。また,海外においては,フィンランド,スウェーデン,デンマーク,フランス,アメリカ,オーストラリア,イギリス及びポルトガルにおいて躰道協会が設立され活動を行っている(甲13)。
(2)「躰道」の大会について
ア 全日本躰道選手権大会は,第10回(甲15),第30回(甲16),第40回(甲17)及び全国学生躰道優勝大会は,第11回(甲19),第47回(甲20)のように,1967年から2018年の間,日本躰道協会又は日本学生躰道協会及びNPO法人日本躰道協会主催で毎年開催(甲14,甲18)されている。
イ 全国社会人躰道優勝大会は,第3回(甲22),第22回(甲23)のように,1991年から2018年の間,日本社会人躰道協会又は特定非営利法人日本躰道協会主催で毎年開催(甲21)されている。
ウ 全国少年少女躰道優勝大会は,第28回(甲17),第35回(甲26)のように,1979年から2019年の間,また,全国高校生躰道優勝大会は,第32回(甲26)のように,1983年から2019年の間,NPO法人日本躰道協会主催で毎年開催(甲24,甲25)されている。
エ 国際躰道競技大会は,第1回が1984年に開催され,第2回が1989年に日本の他にアメリカ,スウェーデン,フィンランド,ポルトガル,フランスの5か国の選手が参加して開催された(甲33,甲35,甲53)。
(3)「躰道」が武道であって,各種大会が開催されているとの新聞記事掲載
ア 昭和54年6月25日発行の国民新聞(甲52)には,「自己形成の武道/全日本躰道選手権」の見出しの下,「躰道とは体軸の変化によって攻防を展開する武道である。」の記載がある。
イ 昭和59年(1984年)6月28日発行の読売新聞/多摩読売(甲53)には,「創始20年の武道『躰道』/東村山で初の国際大会」の見出しの下,「躰道は・・・『攻防一体の武道』として親しまれている。」の記載がある。
ウ 平成元年(1989)2月6日発行の読売新聞(甲54)には,「躰道は,バック転などを使い,体操の床運動に突き・蹴(け)りがミックスされた感じのするアクロバティックな要素を持つ武道。」の記載がある。
エ 平成元年(1989年)8月13日発行の河北新報(甲55)には,「新武道に160人熱戦」の見出しの下,「躰道は昭和四十年,祝嶺総監が空手道に体育的要素を加味して考案した新しい武道。全国に約五万人の愛好者がいるほか,米国,ヨーロッパ各国に躰道協会が組織され,年々競技人口が増えている。」の記載がある。
オ 1997年6月6日発行のTHE JOMO SHINBUN(甲56)には,「世界選/躰道」の見出しの下,「躰道/玄制流空手道の祝嶺正献最高師範が沖縄生まれの武道『手(ティー)』を母体に編み出した武道。体を軸に,あらゆる角度から変幻自在に攻防を繰り広げる。」の記載がある。
カ 2003年(平成15年)3月17日発行の読売新聞(甲57)には,「躰道部で『組織』を知った」の見出しの下,「・・・沖縄空手の流れをくむ武道『躰道』の大会を見に行き・・・」の記載がある。
キ 2003年(平成15年)11月29日発行の陸奥新報(甲58)には,「本県選手が大活躍/全国少年少女躰道大会」の見出しの下,「躰道は体の軸を旋回させるなどして変化させる五つの技を基本に,攻防一体となって競う武道。」の記載がある。
ク 平成17年(2005年)9月10日発行の河北新報(甲64)には,「迫力満点 空中の妙技」の見出しの下,「躰道とは,空手を母体とした武道で,三次元の運動空間の中で攻防を展開する。簡単に言えば,前後左右の横の動きに,バック転やバック宙など床体操のように跳んだりはねたりする空中の動きを加えた武道だ。」の記載がある。
ケ 2007年(平成19年)1月1日発行の三陸新報(甲67)には,「“進化する空間技”躰道」の見出しの下,「沖縄空手を進化させ,四十年前に誕生した躰道。“護身の武道”とも呼ばれ,鮮やかな動きで相手をかわすことから始まる空間的な攻防が人々を魅了する。そんな新たな武道を『地元に広めたい』・・・」の記載がある。
コ 2007年(平成19年)4月27日発行の陸奥新報(甲68)には,「躰道は沖縄発祥の武道で,体の軸を自由自在に移動させながら繰り広げるスピード感あふれる一進一退の攻防が特徴。」の記載がある。
サ 2008年(平成20年)8月29日発行の陸奥新報(甲70)には,「全国躰道大会 男子法形小学低学年の部」の見出しの下,「躰道は五つの基本技を自在に駆使して,スピーディーな攻防を展開する沖縄発祥の武道。」の記載がある。
シ 2009年(平成21年)7月9日発行の新潟日報(甲71)には,「沖縄生まれ・躰道 来月広島で世界大会」の見出しの下,「躰道は沖縄で約45年前に生まれた武道。旋(回る),運(飛ぶ),変(倒れる),捻(ねじる),転(転がる)の五つの動きを基本として,攻防を繰り広げる。」の記載がある。
ス 2009年(平成21年)8月10日発行の中国新聞/広島市民版(甲72)には,「躰道 広島で世界選手権」の見出しの下,「4年に1度開かれる沖縄発祥の武道『躰道』の世界選手権が9日・・・開かれた。・・・躰道は琉球王国時代の武術を基本に,自在な動きで突きやけりを繰り出す。」の記載がある。
セ 2010年(平成22年)5月28日発行の朝日新聞(甲73)には,「攻撃を『かわし』ながら気合満たす」の見出しの下,「躰道は1965年に空手一派から派生したそうだ。空手は相手の攻撃を『受ける』が,躰道は体の中心軸を変化させて『かわす』。だからバック転や側転などもあり,空間を生かしたアクロバティックな動きが特徴だ。」の記載がある。
ソ 2010年(平成22年)8月12日発行の東奥日報/夕刊(甲74)には,「全国少年少女大会・団体実戦競技」の見出しの下,「躰道は,琉球空手から派生した攻防一体の武術で,県内の競技人口は100人ほど。」の記載がある。
タ 2010年(平成22年)8月17日発行の陸奥新報(甲75)には,「入賞相次ぎ喜びに沸く/弘前市躰道協」の見出しの下,「躰道は体の軸を旋回させるなどして変化させる五つの技を基本に,攻防一体となって競う武道。」の記載がある。
チ 2010年(平成22年)11月14日発行の読売新聞(甲76)には,「外科医の躰道一直線」の見出しの下,「空手のような突きや蹴り,これに跳び技や回転も駆使する躰道。」「躰道/1965年,空手を基に始まった武道。」の記載がある。
ツ 2012年(平成24年)8月30日発行の東奥こども新聞(甲77)には,「スウェーデン出身/躰道7段 武道の達人」の見出しの下,「ヒューゴソンさんは『躰道は,相手を殺す武道ではなく,生かす武道である・・・』と語った。」の記載がある。
テ 2013年(平成25年)8月24日発行の東京新聞(甲78)には,「躰道/技のやりとり大迫力」の見出しの下,「躰道/1965年,沖縄に伝わる琉球空手『手(ティー)』を母体に生まれた武道。空手のような突きや蹴りに加え,跳び技や回転を駆使する。」の記載がある。
ト 2013年(平成25年)10月14日発行の東京新聞(甲79)には,「全国学生躰道大会/東大が圧勝6連覇」の見出しの下,「躰道は,第二次世界大戦中に特攻隊員となった琉球空手『玄制流』の最高師範・祝嶺制献が編み出し,一九六五年に体系化して生まれた武道。『旋・運・変・捻・転』という五つの動きを組み合わせて演武や対戦をする。」の記載がある。
(4)「躰道」に関する書籍,雑誌等の掲載
ア 「躰道概論」(著者:祝嶺正献 1988年6月14日 現代書林発行:甲27)には,安倍晋太郎氏の推薦の言葉の中に「躰道は玄制流空手を母体として創作された武道であり・・・主体的な人間を育成する武道であると言われております。」の記載がある。
イ 「21世紀の武道/躰道教範/上巻・下巻」(2004年11月26日 躰道本院出版局発行:甲28)がある。
ウ 株式会社福昌堂発行の「月刊 空手道」(1982年11月号:甲31,1983年9月号:甲32,1989年12月号:甲35,1990年6月号:甲36,1991年1月号:甲38,1991年3月号:甲39,1998年9月号:甲40,1998年10月号:甲41),同発行「空手道外伝 奇襲裏技」(1999年1月1日:甲42)及び同発行の「月刊 フルコンタクト/KARATE」(2005年3月号:甲45,2008年10月号:甲49),成美堂出版株式会社発行の「武道空手」(1989年10月号及び11月号:甲33・34,1990年6月号:甲37,),株式会社BABジャパン発行の「月刊 秘伝」(2006年8月号:甲48,2013年4月号:甲50),寿出版株式会社発行の「月刊 寿」(2000年4月号:甲43),株式会社ぴいぷる社発行の「格闘 Kマガジン」(2003年5月号:甲44),株式会社マガジンハウス発行の「Tarzan」(2005年12月28日:甲46),株式会社ティップネス発行の「ティップネスプレス」(2006年4月1日:甲47),株式会社イースト・プレス発行の「世界のすごい武術・格闘技」(2011年5月16日:甲80)には,躰道が体軸の変化によって攻防を展開する武道であること,全日本躰道選手権大会,全国学生躰道優勝大会,全国少年少女躰道優勝大会,国際躰道競技大会が開催されたことの特集,躰道の基本動作について写真による解説が掲載されている。
エ 「鶴岡タイムス」(2005年9月1日 有限会社鶴岡タイムス社発行:甲84)には,「世界躰道選手権に出場」の見出しの下,「躰道は,沖縄空手を母体として創始された武道。独特な足の運び方があり,体軸を大きく移動させて前転や側転,バック宙といったアクロバティックな動きの中から技を繰り出すのが特徴的。」の記載がある。
オ 「ひろしま観光コンベンション2009年7月」(財団法人広島観光コンベンションビューロー発行:甲85)には,「第5回世界躰道選手権大会」とする欄に「躰道とは,1965年,沖縄出身の故祝嶺正献最高師範が創始し,世界十数カ国に普及された武道です。」の記載がある。
カ 「広報つるおか2013(平成25年)1.1」(鶴岡市総務課広報広聴係発行:甲86)には,その表紙に「躰道」と表示された道着を着た子供達の写真とともに,その左下に「躰道(鶴岡躰道教室)/昭和40年に,沖縄玄制流空手道を基に体系化された武道。」の記載がある。
キ 「スポーツ祭東京2013/東日本大震災復興支援/第68回国民体育大会」(甲87)について,「主催:公益財団法人 日本体育協会・文部科学省・東京都・中野区」とし,「デモンストレーションとしてのスポーツ行事/躰道」及び競技一覧の中に「躰道」の記載がある。
(5)請求人及び被請求人について
ア 請求人1について
請求人1は,躰道を発展的に後世へ伝承し,もって社会へ還元することを目的とし,躰道の実体的な理論に関する啓蒙普及のための事業等を行うため,平成24年9月3日に設立された一般社団法人である(甲2)。
イ 請求人2について
請求人2は,躰道の実技指導等による普及事業等の活動を行うことによって,社会の安定と平和に資することを目的とし,躰道に関する実技と理論及び予防医学等についての調査,研究事業等を行うため,平成17年4月1日に設立された特定非営利活動法人である(甲3)。
ウ 被請求人について
被請求人は,玄制流空手及び躰道を発展的に後世へ伝承することを目的とし,武道(玄制流空手及び躰道)の普及活動等を行うため,平成23年9月16日に設立された一般社団法人である(甲88)。そして,代表理事の齋藤育代氏は,躰道の創始者である祝嶺正献の長女であり,齋藤正晴氏は育代氏の夫である。
(6)齋藤育代氏及び齋藤正晴氏(原告)と請求人2(被告)との関係
平成26年(ワ)第17240号会員地位確認請求事件において,「原告らは,平成17年ころ以降,被告との間で,被告における三代目宗家及び最高師範の就任に関する意見の対立が生じ,平成22年ころからは祝嶺修道(審決注:祝嶺最高師範の長男)を三代目宗家と称するようになった。」と認定された(甲92)。
また,平成25年5月20日に齋藤育代氏が請求人2へ宛てた報告には,「1.躰道に関する権利関係(躰道,躰道本院,世界躰道連盟商標)について,2.躰道における宗家の名称及び最高師範の名称の使用について,3.土地建物の相続について」が記載されている(甲90,別紙1)。
そして,平成26年5月25日に開催された請求人2の通常総会で請求人2の正会員であった原告らを正会員から除名する決議は,除名手続上重大な瑕疵があり,原告らがいずれも被告の正会員たる地位を有することが確認された(甲92)。
(7)上記(1)ないし(4)からすれば,「躰道」の語は,「昭和40年に創始され,体の軸を旋回させるなどして変化させる五つの技を基本に,攻防一体となって競う武道」として,本件商標の登録出願時及び登録査定時前の新聞,書籍及び雑誌等に掲載されており,昭和42年以降,全日本躰道選手権大会を始めとする各大会等があり,各都道府県に躰道協会及び高校や大学において躰道部が存在し,活動しているといえる。
そうすると,本件商標の登録査定時はもとより本件商標の登録出願時において,「躰道」は,武道の一つとして認識されているといえる。
2 商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は,「躰道」の漢字を標準文字で表してなるものである。そして,上記1の事実によれば,「躰道」の語は,「昭和40年に創始され,体の軸を旋回させるなどして変化させる五つの技を基本に,攻防一体となって競う武道」として,本件商標の登録出願時及び登録査定時前の新聞,書籍及び雑誌等に掲載されており,昭和42年以降,全日本躰道選手権大会を始めとする各大会等が開催されている。
以上によれば「躰道」の語は,本件商標の登録査定時には,躰道に関わる指導者,生徒だけではなく,一般的な需要者及び取引者において,体の軸を旋回させるなどして変化させる五つの技を基本に,攻防一体となって競う武道の名称として,広く認識されていたものといえる。
そして,本件商標(躰道)が,その指定役務中「資格付与のための資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与,その他の技芸・武道・スポーツ又は知識の教授,武道・スポーツの競技会の企画・運営又は開催,その他のスポーツの興行の企画・運営又は開催,セミナー・講習会・研修会又はシンポジウムの企画・運営又は開催,録音済み・録画済みのDVD・その他の記録媒体の貸与,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,武道の術技・術芸・演武の演出又は上演及びこれらに関する情報の提供,その他の演芸の上演,演劇の演出又は上演,武道場の提供,その他の運動施設の提供」(以下「結論掲記の役務」という。)に使用された場合,これらの指定役務について,これに接する取引者・需要者は,実施される資格試験,認定あるいは付与される資格,教授される内容,競技会の対象となる競技,興行されるスポーツの内容,セミナー・講習会・研修会又はシンポジウムのテーマ,記録媒体の内容,電子出版物の内容,図書及び記録の内容,武道の術技の演出又は上演等の内容,提供される武道場あるいは運動施設が,体の軸を旋回させるなどして変化させる五つの技を基本に,攻防一体となって競う武道の名称である「躰道」であることを認識するものというべきであるから,本件商標が武道としての躰道に関する役務に使用される場合,これら指定役務の質,用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって,結論掲記の役務中,躰道に関する役務以外の役務に使用するときは,役務の質の誤認を生じるおそれがある。
したがって,本件商標は,結論掲記の役務については,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものである。
3 結論掲記の役務以外についての商標法第3条第1項第3号,同項第6号及び同法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は,その指定役務中,結論掲記の役務以外の役務である「音楽の演奏」について,提出に係る証拠において,役務の質や用途を具体的に表すものとして使用していることが確認できない。
また,当該役務の業界において本件商標が広く使用され,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないという事実も見いだせない。
したがって,本件商標は,その指定役務中,結論掲記の役務以外の役務については,役務の質を具体的に表示するものともいえず,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものとはいい難い。また,需要者が何人かの業務に役務であることを認識することができない商標ともいい難いから,商標法第3条第1項第3号及び同項第6号に該当するとはいえない。
さらに,本件商標は,その指定役務中,結論掲記の役務以外の役務については,役務の質を具体的に表示するものではないから,これをその指定役務に使用しても役務の質の誤認を生ずるおそれのないものである。
したがって,本件商標は,その指定役務中,結論掲記の役務以外の役務については,商標法第4条第1項第16号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号は,本来,「商標の構成に着目した公序良俗違反」であるが,このような場合ばかりではなく,「主体に着目した公序良俗違反」として適用される例がなくはない。しかし,出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際しては,商標法第4条第1項各号で商標登録を受けることのできない要件を個別的に定めていること,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,同法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになる特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。
そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者(例えば,出願された商標と同一の商標を既に外国で使用している外国法人など)との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合(例えば,外国法人が,あらかじめ日本のライセンシーとの契約において,ライセンシーが自ら商標登録出願をしないことや,ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず,そのような措置を怠っていたような場合)は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当ではない(知財高裁平成19年(行ケ)第10391号及び同第10392号同20年6月26日判決参照)。
(2)商標の構成に着目した公序良俗違反の該当性
本件商標は,上記第1のとおり,「躰道」の文字からものであるから,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字及び図形でないことは明らかである。
(3)主体に着目した公序良俗違反の該当性
ア 請求人による本件商標の登録出願の機会について
上記1(5)のとおり,請求人1は,本件商標の登録出願(平成26年6月16日)前である平成24年9月3日に設立され,請求人2は,平成17年4月1日に設立されたことが認められる。そうすると,請求人は,自らすみやかに本件商標について商標登録出願する機会が十分あったにもかかわらず,それをしなかったということであり,また,それができなかった特段の事情があったと認めるに足りる事実もないことから,当該出願を怠っていたものと評価せざるを得ない。
イ 被請求人が請求人及び「躰道」の存在を知っていたかについて
請求人は,「被請求人が本件商標の登録を取得することにより,請求人の活動を阻害しあるいは請求人に対して交渉等における有利な地位を確保しようとする意図があったことは明らかであり,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠く事情があったことは明らかである。」旨を主張している。
確かに,請求人の主張及び同人の提出に係る甲各号証によれば,被請求人の代表者である齋藤育代氏は,平成25年5月20日に請求人1の下部組織である請求人2へ宛てた報告において,(ア)躰道に関する商標について,(イ)躰道における宗家の名称について説明し,同26年5月25日当時に齋藤育代氏及び齋藤正晴氏は,請求人2の正会員たる地位が確認されたものであることから,被請求人は,本件商標の登録出願時には請求人及び「躰道」の存在を知っていたものといえる。
しかしながら,平成17年ころ以降,齋藤育代氏及び齋藤正晴氏と請求人2との間で三代目宗家及び最高師範の就任に関する意見の対立が生じ,被請求人は武道(玄制流空手及び躰道)の普及活動等を行うため,同23年9月16日に一般社団法人を設立し,同25年5月20日に齋藤育代氏が請求人2へ「躰道における宗家の名称及び最高師範の名称の使用について」報告した後,同26年5月25日に開催された請求人2の通常総会において齋藤育代氏及び齋藤正晴氏の「除名議決」後に被請求人は本件商標を登録出願したものであるが,これらのことをもって本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるとまではいえない。
そして,請求人の提出した証拠からは,具体的に,被請求人が請求人の活動を阻害しあるいは請求人に対して交渉等における有利な地位を確保しようとしていることなどを裏付ける事実は見いだせない。
以上からすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るような,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあるということはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。
また,本件商標は,他の法律によって,その商標の使用等が禁止されているものではないし,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反するものでもない。
その他,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る証拠もない。
してみると,被請求人が,本件商標の登録出願をし,登録を受ける行為が「公の秩序や善良の風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,その指定役務中「結論掲記の役務」について,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきである。
しかし,その余の指定役務については,上記のとおり,本件商標が本件審判請求の事由には該当せず,商標法第46条第1項の規定によってその登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2020-12-22 
結審通知日 2020-12-24 
審決日 2021-01-08 
出願番号 商願2014-49806(T2014-49806) 
審決分類 T 1 11・ 16- ZC (W41)
T 1 11・ 22- ZC (W41)
T 1 11・ 272- ZC (W41)
T 1 11・ 13- ZC (W41)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 山本 敦子 
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 平澤 芳行
半田 正人
登録日 2014-10-10 
登録番号 商標登録第5709296号(T5709296) 
商標の称呼 タイドー 
代理人 吉澤 和希子 
代理人 佐藤 明子 
代理人 笹本 摂 
代理人 今 智司 
代理人 佐藤 明子 
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