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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2019890038 | 審決 | 商標 |
無効2018890005 | 審決 | 商標 |
無効2020890039 | 審決 | 商標 |
無効2019890004 | 審決 | 商標 |
無効2018890038 | 審決 | 商標 |
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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない Y18 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y18 審判 全部無効 商15条1項2号条約違反など 無効としない Y18 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y18 |
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管理番号 | 1371005 |
審判番号 | 無効2018-890085 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2018-11-19 |
確定日 | 2021-01-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4908401号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求中,商標法第4条第1項第15号を理由とする請求は却下する。その余の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第4908401号商標(以下「本件商標」という。)は,「TSA LOCK」の欧文字を標準文字で表してなり,2005年1月7日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し,平成17年5月25日に登録出願,同年9月8日に登録査定,第18類「かばん類,袋物」を指定商品として,同年11月18日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第76号証(枝番号を含む。なお,枝番号を有する証拠において,枝番号のすべてを引用する場合は,枝番号の記載を省略する。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第15号及び同項第16号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効にすべきものである。 また,本件商標は,商標登録がされた後において,商標法第4条第1項第16号に該当するものとなっており,同法第46条第1項第6号により,その登録は無効にすべきものである。 (1)「TSA」及び「TSA LOCK」について ア 「TSA」及び「TSA LOCK」の概要 本件商標の構成中の「TSA」は,2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロを受けて,同国の運輸システムの安全確保を目的として,アメリカ合衆国連邦行政部の国土安全保障省の一部局として創設された,アメリカ合衆国運輸保安局(Transportation Security Administration)(以下「米運輸保安局」という。)(なお,請求人はその主張において,上記部局を「以下,『TSA』という。」としているが,本審決の記載においては,上記のとおり「米運輸保安局」と置き換えていうこととした。)の略称と一致する。 米運輸保安局の任務には,アメリカ合衆国を往来する全ての民間旅客機の乗員や乗客並びにそれらの手荷物及び貨物を点検・検査し,外国の当局とも連携して世界中の空港の安全を確保することも含まれており,アメリカ国内の空港の保安検査場にて,民間旅客機の手荷物や貨物が米運輸保安局の係官によって点検・検査されており,係官は必要に応じてこれらを解錠し,又は錠を破壊することが許されている。 しかしながら,米運輸保安局が認可したロック機構を備えた錠により手荷物や貨物が施錠されている場合,その錠を解錠できるマスターキーが係官に提供されているため,錠を破壊することなく解錠され,スムーズかつ容易に手荷物や貨物の検査・点検がなされることとなる。 したがって,米運輸保安局にあっても,そのような認可がなされたロック機構を備えた錠の使用を推奨する一方,当該ロック機構の認可を受けるためにクリアすべき項目の水準は極めて高く設定されており,非常に限られた事業者のみが選別され,そのロック機構を備えた錠の製造販売の認可を受けている。 このような米運輸保安局の認可を受けたロック機構を備えた錠は,「TSA LOCK(ロック)」と呼ばれ(甲2),米運輸保安局の名称(TSA)と共に広く認知されている。 イ 我が国における「TSA LOCK」の普及 我が国においても2000年代前半より,多くの新聞や書籍等にて米運輸保安局による認可を受けたロック機構を備えた錠として「TSA LOCK(ロック)」を紹介する記事が掲載され(甲3,4),これに伴って,「TSA LOCK(ロック)」付きのかばんやスーツケース等の需要も喚起されることとなった(甲5,6)。 なお,請求人が実施したアンケート調査(甲7)においても,我が国の多くの需要者が「TSA LOCK」という名称を認知しており,かつ特定のブランドを指称するものではなく,あくまでも米運輸保安局が,又は少なくともアメリカ合衆国が認可した錠であるとの認識がなされている。 (2)無効原因 ア 本件商標の登録がされた後において,本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当するものとなっていることについて (ア)「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」が「TSA LOCK」であるとの報道・文献が存在すること 上述のとおり,我が国では2000年代前半より,米運輸保安局による認可を受けたロック機構を備えた錠として「TSA LOCK(ロック)」が多くの新聞や雑誌で紹介されてきたが,本件商標の登録日以降に発行された新聞等においても,本件商標と同視される「TSAロック」の語が,「TSA(アメリカ合衆国運輸保安局)ロック」と記載されるなど(甲3),現に「TSA LOCK」が米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠であるとの報道がなされている。 また,各かばんメーカーのウェブサイト,及び空港における荷物の預かりサービス等を提供している事業者のウェブサイトにおいても同様の説明がなされており(甲8?10),取引者であるかばんメーカー,日常の業務で関わりのある空港職員や荷物の預かりサービス等を提供している事業者においても,「TSA LOCK」とは,米運輸保安局が認可したロック機構を備えた錠であるとの理解がなされている。 (イ)実際に「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」が「TSA LOCK」であるとの需要者の認識が存在すること 請求人が実施したアンケート調査(甲7)の結果によれば,現に「TSA LOCK」の(潜在的)需要者である個人が,「TSA LOCK」が米運輸保安局の認定した(又は認可したロック機構を備えた)錠であること,あるいは少なくともアメリカの機関が認定した錠であって,特定の事業者の業務に係る商品を示すための自他商品識別標識として機能する標章ではなく,むしろ,一般名称的な位置づけにある標章との理解をしている。 具体的には,需要者の認識として,「TSA LOCK」がブランドであると認識している者の割合はわずか約15%にすぎない。また,「TSA LOCK」から何を惹起するか,及び製造しているメーカーを尋ねているところ,前者においてはアメリカの団体や公的機関等に認定された鍵等の回答が相当数存在するだけでなく,後者においても被請求人が製造しているとの回答はおろか,錠のメーカーを挙げている者自体が稀である。 (ウ)「TSA LOCK」の語が登録済意匠の内容を示すための表現として用いられていること 「TSA LOCK」の文字は,「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」なる意味合いをもって認識させるものであり,本件商標の指定商品の分野においても,「米運輸保安局の認可したロックを備えた錠」を指すものとして多くの事業者によって使用されている(甲11?13)。 また,我が国で意匠登録出願をするに際して,特許庁では,登録商標を説明に用いることは認めていないにもかかわらず(甲14),本件商標と同視される「TSAロック」の語が,上記意味合いをもって,多くの意匠登録に記載されている(甲15?17(代表的なもの))。 (エ)「TSA LOCK」の語が登録済特許の明細書において用いられていること 特許では,明細書等の記載に登録商標を用いることは原則認められておらず,「その商標名が物質又は物品の普通名称となっていると認められるとき」は,当該商標名を記載することが許されるとされているところ(甲18),「TSAロック」の語を明細書に記載した特許の登録が複数認められている(甲19?21)。 このことは,特許庁においても,「TSAロック(LOCK)」の語は,常に「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」程度の意味内容を有するにすぎないと捉えていることを示すに他ならない。 (オ)「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」を用いた商品が流通していること 現に「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」の大半がスーツケースやキャリーバッグ等の旅行用品に用いられ,そのような商品が広く販売されている事実がうかがえることからすると,本件商標が付された「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠付きのかばん・袋物」以外の商品(かばん類,袋物)に接した需要者・取引者にあっては,これを「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠付きのかばん類・袋物」であると商品の品質について誤認を生ずると考えられる。 (カ)小括 これらを総合すると,本件商標が,商品の品質について誤認を生ずるおそれのある商標であることは明白であり,商標法第4条第1項第16号に該当する。 イ 本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当することについて 前記アの理由により,「TSA LOCK」の文字からは,「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」なる意味合いが容易かつ一義的に把握されるに至っているとするのが至極相当であるが,米運輸保安局の創設は本件商標に係る商標登録出願に先立つものであることからすると,本件商標は,その登録査定時においても,商品の品質について誤認を生ずるおそれのある商標であったと考えられることから,商標法第4条第1項第16号に該当する。 ウ 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて (ア)前提 本件商標の構成中の「TSA」は,米運輸保安局の略称と一致し,また,「LOCK」は,「錠,錠前」を意味するものとして広く知られた極めて平易な英単語である。 (イ)アメリカ合衆国法典に違反すること アメリカ合衆国法典第18編第709条(以下,単に「米国法典709条」という。)「連邦政府機関を示す名称の虚偽広告及び不正使用」では,アメリカ合衆国に承認・許可されている機関と何らかの関係があるとの印象を与える目的で,連邦政府機関の名称の略称や模倣したものを広告で使用する行為は明確に違法とされている。 米運輸保安局がアメリカ合衆国連邦行政部の国土安全保障省の一部局として,創設されていることから,「TSA」の標章が,米国法典709条にいう「連邦政府機関の名称の略称」に該当することは明らかである。 すなわち,「TSA」は被請求人の本国たるアメリカの政府機関の名称の略称であると共に,「TSA LOCK」はその略称を模倣したものであり,故に,これらはいずれもアメリカ合衆国に承認・許可されている機関と何らかの関係があるとの印象を与える目的で広告として使用することが同国で法律によって禁じられているものである。 (ウ)現に米運輸保安局が抗議を行っていること 米運輸保安局が請求人に宛てた書簡でも,「『TSA』の名称を使用した旅行かばんの錠がアメリカ合衆国により製造又は承認されたもの,またはアメリカ政府が許可又は好ましいとした安全機構であるとの誤った推測がされるおそれのある態様で使用することに抗議し,・・・(中略)・・・運輸保安庁は,商品の生産者の承認や特定について,『TSA』との用語またはロゴを含む商標が旅行者に混同・誤認・欺瞞を招く恐れがある場合,いかなる国においても,錠やかばん類について『TSA』との用語又はロゴを使用及び出願することを一切認めていない。」と記されている(甲22)。 また,被請求人が中国において「TSA」及び「TSA LOCK」の商標登録出願を行った際にも,米運輸保安局は,「アメリカ合衆国運輸保安局(TSA)は米商業目的のために商品の提供者の承認・特定に関して混乱を生じるであろう『TSA』の語またはロゴを有するいかなる商標をも承認許可しない。」としている(甲23)。 さらに,欧州共同体で被請求人によってなされた商標「TSA LOCK」の登録無効の手続の過程でも,米運輸保安局は,「運輸保安局は,航空安全において使用される全ての製品について,運輸保安局が出所または承認者であるとの混同を生じさせるおそれのあるいかなる商標の登録も認めていない。」としている(甲24)。 (エ)被請求人自身が「TSA LOCK」の語を商標として登録できないことを認識していたこと 以上より,被請求人にあっては,本件商標と同一の商標を世界各国で出願した行為につき,米運輸保安局が不快感を示し,かつ強い懸念を抱いていたことを熟知していたといえ,さらに,被請求人の創設者は米運輸保安局退職後に被請求人会社を創設していることなどから,「TSA」が米運輸保安局の略語として使用されている事実を認識していたと考えられ(甲25),また,被請求人と米運輸保安局との間で本件商標の出願前の2003年に取り交わされた覚書(以下「2003年覚書」という。)(甲26(2003年覚書及びその抄訳))に,「TSAロゴを書面での(TSAの)承認なしにそのロック等に使用してはならない」と記され,被請求人による署名もなされている。 したがって,被請求人にあっては,米運輸保安局の略称として「TSA」の文字が用いられていたことのみならず,その略称を米運輸保安局の承諾なしに商標として使用することは許されないことを十分に理解していたといえる。 (オ)被請求人が,敢えて「TSA」の略称を模倣していること 2003年覚書では,被請求人が米運輸保安局に対し供給する「ロックを破壊することなくTSA検査員が開けることができるように設計された」鍵を用いたロックシステムについて,「Travel Sentry Certificated Locks」と表現していたにもかかわらず,被請求人は,現在,自らのウェブサイトにおいて,「TSA LOCK」と「Travel Sentry Approved Lock」なる表示とを関連付けるように,あたかも,「TSA LOCK」が「Travel Sentry Approved Lock」の略称であるかの如く記載しており,「Certificated」を「Approved」に置き換えることで,頭文字が「TSA」となるように敢えて表現を変更したと考えられるものである。 そうすると,被請求人において本件商標を偶然に採択したとは考え難く,本国たるアメリカで政府機関の名称の略称として用いられているものの模倣であると考えられる。そのような機関と何らかの関係があるとの印象を与える目的で広告として使用することは法律によって禁じられており,米運輸保安局の創設の経緯やその公益的な任務・目的をも勘案すると,このような行為は,一般の国際信義にもとることに加え,アメリカの政府機関である米運輸保安局との関係でも信頼関係を破壊するのに十分足る行為であって,その出願の経緯に社会的相当性を欠き,我が国商標法の予定する秩序に反し,到底容認し得ないと考えられるものである。 (カ)小括 上述の状況を総合的に勘案すると,被請求人が本件商標につき,商標法によって保護を享受できる正当な理由はなく,むしろ,「TSA LOCK」の標章について,一私人である被請求人が営利の目的で使用することは,アメリカ合衆国及びその一機関である米運輸保安局の権威と尊厳とを損ね,かつ国際信義に反するのみならず,社会的妥当性を著しく欠くものであるから,これを被請求人が自己の商標として採択し,独占排他的に使用することが認められないことは明白である。 以上より,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当することが明らかであり,商標法第4条第1項第7号に該当する。 エ 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて 本件商標中「TSA」の語は,米運輸保安局の名称の略語であり,また,「TSA LOCK」は,「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」を指称するものとして,我が国でも十分に認知されている。 したがって,被請求人が本件商標をその指定商品に使用した場合,その商品が米運輸保安局の業務に係るものである,または,米運輸保安局と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し,出所について混同するおそれがあることは明らかである。 被請求人は中国においても「TSA LOCK」及び「TSA」について商標出願を行っているところ,「公衆は,本件商標(『TSA LOCK』及び『TSA』)を識別する際に,それをアメリカ合衆国運輸保安局と関連付け,それにより指定商品の出所等について誤認を生じやすい。」との理由で無効と宣告されている(甲27,28)。 我が国においても同様であり,「TSA LOCK」がその指定商品について商標登録がなされた場合,公衆は,本件商標を識別する際に,それを米運輸保安局と関連付け,それにより指定商品の出所等について誤認を生ずることが考えられる。 この点に加え,前述のとおり,被請求人は,米運輸保安局の存在や任務・目的について熟知するのみならず,自己以外にも「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」の製造販売を行う事業者が将来的に存在する可能性があることを認知しながらも,「TSA LOCK」の独占排他的な使用をもくろんで不正の目的をもって本件商標を出願したといえるものである。 したがって,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当し,また,被請求人は不正目的を有していたといえる。 2 答弁に対する弁駁等 (1)需要者・取引者の「TSA」及び「TSA LOCK」に対する認識 旅行情報誌(甲29?34),航空会社・旅行代理店・航空券予約サイト(甲35?42),鞄メーカー・小売店ウェブサイト(甲43?52),インターネット記事(甲53?58),個人ブログ(甲59?64),その他商品説明書(甲65),テレビ番組(甲66)において,「TSA」は「Transportation Security Administration」の略称であって「米運輸保安局」を指すこと,並びに,「TSA LOCK(ロック)」とは「米運輸保安局の認可した錠」又は「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」である旨が紹介され,事業者や需要者に認知されている。 (2)被請求人の主張について ア 「TSA LOCK」に関する報道・文献 書証中の「TSA」が,「TRAVEL SENTRY/APPROVED」との関係で表示されているものでないことは一目瞭然であって,ましてや一般の需要者において,被請求人の業務に係る商品の需要を喚起するために表示されていると認識されることはありえない。 イ アンケート調査結果 「TSA LOCK(ロック)」は,鍵を壊さずに米国に出入国する者の荷物のセキュリティチェックを行うためにスーツケースに搭載された錠又はロックシステムに関するものであるから,アンケートの調査対象者を海外旅行者かつスーツケースを購入した者とした点で不整合はない。 また,本件商標に係る商品の需要者がブランドに知見がある者ばかりとは限らず,そのような需要者の認識力・注意力を考慮しつつ問うているものであるから,調査対象者がブランドと一般名称の仕分け(認識)が正確にできておらず本件アンケート調査結果の信頼性が低いとする被請求人の反論は,的を射ていない。 さらに,「TSA LOCK」の語から,直接的に「アメリカ合衆国運輸保安局」と回答した10件の他,アメリカの政府機関主導で行われているセキュリティチェックと関連付けて認識していると思われる回答件数は124件に上っている一方,被請求人である「Travel Sentry」と回答した件数は2件にすぎず,また,単なる「鍵」「スーツケースの鍵」若しくは「わからない」と回答した件数は297件あったことを考慮すると,「TSA LOCK」から被請求人の商品が想起され得ないことは明らかである。 ウ 意匠に係る物品欄及び特許明細書の記載 権利範囲を定める上で重要な役割を果たす箇所に「TSAロック」の名称を使用していることに照らすと,錠やこれを用いた商品の事業分野に属する出願人,権利者が「TSAロック」を一般名称として,あるいは,少なくとも特定の事業者の出所に係る商品を示す名称ではなく,一定の品質を表示するにすぎないものとして認識しているばかりか,特許庁においてもこれを一般名称として認定していることがうかがい知れる。 また,被請求人の引用する裁判例は,本件について適用することはできない。 エ 欧州における判決 被請求人の主張する欧州での(無効審判に対する)判決は,請求人による主張立証が尽くされなかったものであり,また,出願時以降の事情については考慮されていないから,当該欧州における判決をもって,日本でも同様の認識がなされているとすることはできない。 中国,イスラエル,オーストラリア,ニュージーランド,スイスにて「TSA」は,「米運輸保安局」の略称として把握され得るとされており(甲67?71),ましてや,「Travel Sentry Approved」を意味する略称として認識されるものではない。 したがって,欧州での審決のみをもって,「TSA LOCK」が造語商標であり,被請求人の商品を示すものとして認識されているとする被請求人の主張は失当である。 また,追って上申するに,上記被請求人の主張する欧州での登録は,今般,「TSA LOCK」が慣用的な名称となったことを理由として,2019年8月21日付けで登録を取り消す旨の決定がなされた(甲74?76)。 オ 「TSA LOCK」の登録表示等 各ウェブサイトでは「TSA(米国運輸保安局)」「TSA LOCK(米国運輸保安局より認可を受けた先進のロックシステム)」「TSA職員が特殊ツールを使って解錠が可能」といった記載もあることから,「(R)」(登録表示)(審決注:(R)は,○の中にRの文字。以下同じ。)の有無にかかわらず,「TSA」からは「米運輸保安局」という意味合いが理解されると考えるのが自然である。 また,「(R)」(登録表示)が付され,「Travel Sentry社が管理,運営しているシステム」と紹介されているものは,請求人が挙げている2,3点にすぎず,これらの証拠をもって直ちに「(被請求人の)本件商品を意味するものとして日本の取引者・需要者に広く知られている」ということはできない。 (3)本件商標の登録がされた後において,本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当するものとなっていることについて 2003年覚書(乙5(審決注:「乙6」の誤記と認める。))の記載から,本件ロックシステムに係る契約は,トラベルセントリー社の独占ではなく,他の企業と交わされることを前提としているものでもなく,また,本契約が永続的なものではないことも明らかである。 このように,「TSA LOCK」が「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」と認識されている状況において,Travel Sentry社が本件商標をその指定商品中の「米運輸保安局の認可した錠」又は「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」とは無関係の商品に使用した場合には,需要者・取引者をして商品の品質について誤認を生ずることになる。 被請求人は,「TSA」が「Travel Sentry Approved」を意味する造語であると主張しながら,米国以外の他国のロックシステムについては「TSA LOCK」の名称を使用せず,「トラベルセントリー認可ロック」または「Travel Sentry(R)Approved locks」という表示のみを使用している(甲72)。 このような状況に照らすと,被請求人も,「米運輸保安局の認可した錠」又は「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」以外の錠を装着した商品に本件商標を使用すれば,商品の品質等について誤認が生じ得ることを十分に認知しており,そのために,米国とそれ以外の国で「TSA LOCK」と「Travel Sentry(R)Approved locks」を使い分けていると考えられる。 (4)本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当することについて 米運輸保安局の創設は本件商標の出願に先立つものであるから,本件商標は登録査定時においても当然に品質の誤認を生ずるおそれのある商標に該当する。 登録査定時において,本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当していた点については,2005年から2006年には,既に取引者・需要者に「TSA LOCK(ロック)」が「米運輸保安局が認可した鍵」と認識されている状況から明らかである(甲3,4,58?60)。 (5)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて ア 被請求人の取締役社長が米運輸保安局に勤務していた経歴,並びに,2003年覚書の後,2005年に本件商標に係る出願を行った経緯に照らせば,被請求人が本件商標の出願前に「TSA」が「米運輸保安局」を示すことを当然に認識し,これに影響を受けて本件商標を採択したと考えられる。 被請求人は,本件商標の使用及び出願の正当性を主張し続けており,このような被請求人の態度に鑑みると,被請求人が本件商標を採択し権利化するに際して,そのプロセスが適切であったといえないことが窺える。 本件ロックシステムの公共性に鑑みれば,一私人である被請求人に本件商標の独占的使用を認めること自体妥当でなく,また,独占的な使用を認めることにより,米運輸保安局から製造販売の許可を受けている他の企業が「TSA LOCK」及びその類似名称を使用することができなくなり,結果として,他社の製造販売を阻害し,市場における被請求人の独占的な地位を認めることになってしまい妥当ではない。 これに加え,仮に本件商標の存続を許すのであれば,被請求人の製造に係る「TSA LOCK」なる商品名の下に「米運輸保安局の認可していないロック機構を備えた錠やこれを装備したかばん類」等が市場に流通することになり,その結果,取引者・需要者の間で混乱を招くばかりでなく,実際に米国での出入国に際してそのような錠が施されたスーツケース等を米運輸保安局職員が「TSAロック」向けのキーにて開錠を試みることになり,米国での出入国業務の遅延・混乱をも招くおそれがある。 よって,上述の諸事情を総合的に勘案すると,被請求人が本件商標を採択し権利化するに至った行為が穏当であったとはいえず,本件商標の公共性・重要性に鑑みれば,本件商標登録を認めることは国際信義に反するものである。 イ 諸外国では「TSA」は「米運輸保安局(Transportation Security Administration)」を意味する語として認識され,「TSA」を含む商標については,その登録を認めないとするのが趨勢である(甲28,67?71)。本件商標及び本件ロックシステムがアメリカの国防に関わる公共性の高いものであること,また,人々の国家間の移動や出入国に関する問題と密接な関連性を有するといった本件特有の事情に鑑みれば,国際調和・国際協調の観点からは,上記諸外国の判断は十分に尊重されるべきである。 また,諸外国における判決・審査結果(甲67?71)は最近なされたものではあるものの,本件商標の登録が公序良俗に反するという状況については,本件商標の登録査定時においても何ら変わりはないといえる。 ウ 被請求人は,判決を引用して商標法第4条第1項第7号を私的領域までに拡大解釈すべきでない旨を主張するが,「TSA LOCK」が,アメリカの国防に関わる重要な表示であることに照らせば,当該表示の商標の登録の可否については,公益の問題に関わるものであり,一私人に帰属する権利として判断がなされるべきものではない。 エ 米国法典709条(甲73)に関して,本条項で問題とされているのは,「アメリカ合衆国に承認・許可されているとの印象を与える目的で連邦政府機関の名称や模倣したものを使用する行為」であるから,被請求人が述べているような,本件商標が全体を一体として,請求人の所有に係る登録商標「TSA SAFE SKIES」と類否判断されているかどうかについては関係がない。 オ 上記の状況を総合的に勘案すると,「TSA LOCK」の登録の可否については,アメリカの国防に関わる公益の問題であるから,一私人に帰属する権利として判断がなされるべきものではなく,国際調和・国際協調の観点からもその独占的な使用は認められるべきではない。 (6)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて 経緯に照らせば,被請求人は,不正の目的を有していたといえる。 「LOCK」の文字は,本件商標に係る指定商品中「錠付きのかばん類」との関係で自他商品識別力が極めて弱く,本件商標中の各語の間のスペースと相侯って「TSA」の文字が分離・独立して認識され得ることから,本件商標は一体不可分の商標とはいえず,「TSA」と「TSA LOCK」とは類似するものである。 また,需要者・取引者をして「TSA LOCK」の全体から「Travel Sentryが認定した鍵」との認識は生じず,「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」程の意味合いが生じると理解するのが自然であるから,商標全体を一体として捉えた場合においても,被請求人が本件商標を指定商品に使用すれば,その出所について混同が生ずるおそれがある点に変わりはない。 (7)むすび 本件商標をその指定商品に使用すれば,商品の品質について誤認を生じ,また,その出所について混同を生じるおそれがあるとともに,本件商標は一私人に帰属するべきものではなく,その登録は公序良俗に反するといえるから,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第15号及び同項第16号に該当するものである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第49号証(枝番号を含む。なお,枝番号を有する証拠において,枝番号のすべてを引用する場合は,枝番号の記載を省略する。)を提出した。 1 初めに (1)本件商標は被請求人が考案した造語商標である 本件商標は,欧文字で「TSA LOCK」と横書きにしてなる。その構成中の「TSA」は「Travel Sentry Approved」(トラベルセントリーが認定した)の略語である。本件商標は,全体を一体とする造語商標である。 本件商標は,EUIPOにおいても登録され,これに対して請求人により2014年4月15日に無効審判が請求されたものの,2016年11月24日の当該審決において,「平均的な需要者は『TSA』のようなEU外の特定の政府機関の名称に慣れている必要はな」く,「『TSA』はむしろそれに付随されている特定の意味を有さない創造された単語(造語)のように思われ(る)」と判断されており,出願時である2006年のヨーロッパにおいてもその造語性が認められ(自他商品識別力が認定され)ている(乙1)。 また,本件商標が被請求人の造語商標であることは,被請求人が本件商標を使用することになった経緯からも明らかである。 本件商標にかかる鍵(以下,個々の種別にかかわらず「本件商品」という。)は,米運輸保安局の依頼によって設計した「アメリカ国内すべての空港において,不審物が鞄に入っていると思われる場合は,鞄の持ち主の許可なく,鞄を切断や破壊することなく鞄の鍵を解除することができる鍵(ロックシステム)」である(乙2?4)。 被請求人の取締役社長であるA氏は,空港における職務経験から,被請求人のトラベルセントリーインクを創設する数十年も前より上記ロックシステムのもととなるアイディアを有していた。 米運輸保安局は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを受けて創設された機関であるが,手荷物を検査のために,持ち主の許可なしでも破壊することなく鞄を開ける必要性が生じた。上記のとおり,A氏は,米運輸保安局の設立の数十年前から,鞄を破壊することなく開ける必要性を強く認識し,対策を検討してきた。上記同時多発テロ後に,アメリカ合衆国議会は,米運輸保安局に対し,国内線・国際線を問わず全ての手荷物を検査するよう命じ,そのことを契機に,被請求人が,本件商標にかかるあらゆる鞄に標準化した「ロックシステム」を生み出す契機となった。 2002年と2003年に,A氏は米運輸保安局の設立への協力を求められ,現実にその設立に参画して,米運輸保安局で勤務することとなった。A氏は,米運輸保安局を退職してからも,旅行品業界の社長,すなわち鍵や鞄を製造するメーカーと米運輸保安局の双方から,鞄を破壊することなく開けることができる鍵のシステムについて解決策を問われた。そして,A氏は,数十年間空港で働いていたときに発案していた,すべての鞄に共通する一つの「規格」の鍵を生み出すことを提案し,この提案は,鞄のメーカーや米運輸保安局といった関係者全員の賛同を得たため,A氏は,「被請求人が認定した鍵」を意味する「Travel Sentry Approved Lock」の略語である本件商標「TSA LOCK」の使用を開始した(乙2?4)。 被請求人は,本件商品を米運輸保安局に提供するにあたって,2003年覚書を2003年10月16日に締結した(乙6(2003年覚書及びその全訳))。本件商品は2003年11月より使用が開始され,日本においては,2006年より日本の鞄メーカーでも使用が開始された。被請求人は,日本での使用に先だって,その使用開始の前年の2005年に日本において本件商標を商標登録出願し,被請求人の造語商標として登録が認められ,現在に至っている。 (2)本件商標は,本件商品を表示するものとして周知である 本件商標は,2003年覚書を締結して以降,現在に至るまで,日本を含めた全世界の鞄に共通する「規格」の鍵の商標として広く長年使用され続けており,本件商標は被請求人の業務にかかる商標として広く知られるに至った。本件商品は,2003年11月から暫時各国の空港で採用されはじめ,2004年1月には,ワシントンで行われた全米旅行用品ショーで,旅行者,旅行用品業界,米運輸保安局に対する実際上の利益のみならず,民間企業と政府機関との業務提携の面においても先進的な役割を果たすものと高く評価された(乙3)。2005年3月には,初めて本件商品の生産量が年間1000万個に達した(乙3)。さらに,2013年11月には,本件商品はその製造数が世界中の220社以上の鍵・鞄メーカーにより年間4000万個に達した(乙3)。2017年には,空港を利用する二人に一人の乗客が本件商品を装備した鞄を使用している。本件商品は,13か国600か所の空港で,年間12億人の乗客が利用し,500以上の鞄ブランドの3億6000万個の鍵に使用されている(乙3)。 日本においては,2006年5月に本件商品が採用されたが,それはアメリカ以外で初めての国であった(乙3)。その後,本件商品は,1893年創業以来旅行鞄を作り続けている会社(乙7)のほか,スーツケースの国内シェア6割近くを誇る会社(乙8)に採用された(乙9)。同社のウェブサイトには,「TSA LOCK」の文字に登録表示(R)が付されており,本件商標にかかる「TSA LOCK」が被請求人の登録商標であることが明示され(乙9),また,同社のウェブサイトにある様々なパターンの「TSA LOCK」システムの説明書にも「TSA LOCK」が被請求人の登録商標であることを表す登録表示(R)が付されている(乙9)。 その他のスーツケースメーカーのウェブサイトやレンタルサイトにおいても,「TSA LOCK」の説明には,「TSA LOCK」が被請求人の登録商標であることを表す登録表示(R)が付され,あるいは,「TSA LOCKとは,アメリカTravel Sentry社が管理・運営する『Travel Sentryシステム』に許可されたロックのことです」(乙10),「製品に搭載しているTSAロックシステムは米国連邦航空省保安局が認定しTravel Sentry社が管理,運営しているシステムです」(乙11,12),「全てのTSAロックは,アメリカ運輸保安局(Transportation Security Administration)が認定し,Travel SENTRY社が営業管理しているシステムです」(乙13)等と記載されている。 2 「TSA」及び「TSA LOCK」について (1)標章「TSA」は周知とはいえず,本件商標は周知である 本件商標「TSA LOCK」は被請求人の造語商標であり,また,本件商標が我が国で周知となったのは,専ら被請求人の開発努力,技術力及び営業努力によるものである。ましてや,本件商標が普通名称であるとはいえない。 (2)本件商標は米運輸保安局の業務にかかる商品を表す語ではない 請求人は,本件商標が米運輸保安局の業務にかかる商品を表す語であると主張する(甲3,4)。しかしながら,請求人の提出する証拠は,わずかであって,「多くの新聞や書籍等」とはいえない。また,新聞(甲3)は2005年と2006年の日経流通新聞の記事のみであり,当該日経流通新聞は,購読者数が140万人程度の限られた購読者むけの専門新聞であり(乙14),一般消費者が購読する一般新聞ではない。そして,請求人の提出する証拠の殆どは,本件商品に関連する情報である。したがって,かかる少数の記事があっただけで,請求人主張のように「『TSA LOCK(ロック)』付きのかばんやスーツケース等の需要が喚起され」ることはない。 請求人は,「多くの新聞や書籍等にて『TSA LOCK(ロック)』を紹介する記事が掲載された」と主張するが,全て新聞記事であって書籍はない。また,請求人は,これらの記事が「本件商標が米運輸保安局の業務にかかる商品を表す語」であると主張するが,米運輸保安局が鞄を製造し我が国に販売している事実は認められない。これらの記事は,現時点では確認ができない商品を除けば,全て本件商品が装着された商品に関する記事である。これらの記事の中には,被請求人の商標や「TRAVEL SENTRY\APPROVED」等の表示がなされているものもある。したがって,請求人が主張するように,これらの記事によって「『TSA LOCK (ロック)』付きのかばんやスーツケース等の需要が喚起され」たとすれば,それは,被請求人の本件商品及び本件商品が装着された商品(かばんやスーツケース等)の需要が喚起されたことを意味するにすぎない。 3 本件商標の登録がされた後において,本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当するものとなっていることについて (1)請求人の主張の誤り ア 新聞及び事業者のウェブサイトの記事は,多くは,本件商品又は本件商品を装着した商品に関連する情報である。 イ アンケート結果について 請求人は,アンケート調査の結果,我が国の多くの需要者が「TSA LOCK」という名称を認知しているが,それは,「あくまでも米運輸保安局,又は,アメリカ合衆国が認可した錠であるとの認識」であると主張する。 しかしながら,このアンケート結果から,上記結論を導くのは誤りである。 (ア)このアンケートは,7年以内にスーツケースを購入した,海外旅行をしたことのある,日本全国の20歳以上の男女519名を対象としているが,スーツケースの用途は,海外旅行に限られない。 20歳以上の海外旅行未経験者は,男性で約49%,女性は約44%であり(乙22),単純に合算すると概ね国民の46%が,最初から調査対象になっていないものであり,前提に誤りがある。 (イ)鞄という商品に装着される特定の鍵は,いわば部品であって,その名称の認知度は一般的には低いと思われる。 また,ある標章が特定のブランドであるか,または,一般名称であるかの切り分けは,一般需要者にとって必ずしも明確ではない。 登録商標は,しばしば普通名称であるかのように使用されており,この調査でも,調査の対象者は,ブランドと一般名称の仕分け(認識)が正確にできていないことがうかがわれる。 本件商標に関するアンケート結果では,本件商標から,明確に「米運輸保安局」であると回答(又はそれに近い回答)をした人は,519件中の5ないし6件である。すなわち,調査対象人員の99%前後は,本件商標の「TSA」部分から,「米運輸保安局」を想起していない。 本件商標に関する,最も多い回答は,「知らない」「わからない」である。 したがって,アンケート結果に基づいて,「TSA LOCK」が「あくまでも米運輸保安局,又は,米運輸保安局が認可した錠であるとの認識」がなされているという請求人の主張は事実に反する。 (2)本件商標からは,本件商品が認識される 請求人が「『TSA LOCK』の文字は,『米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠』なる意味合いをもって認識させる」として提出する資料は,僅か3件(甲11?13)であって,我が国の需要者が,一般的に,本件商標が「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」として認識している証拠にはならない。 被請求人も,本件商品が「米運輸保安局が認可したロック機構を備えた錠」であることに異論はない。しかしながら,請求人の提出する証拠でも,「TSA LOCK」の語は被請求人の商標として紹介され,「TRAVEL SENTRY\APPROVED」という表示もされているから,多くの事業者が,本件商標を被請求人の商標として認識していることは明らかである。請求人の提出する新聞情報等は(詳細確認ができない情報を除き),全て,本件商品が装着された鞄についての情報である。かかる少数の証拠に基づいて「TSA」という標章の周知性をいうのであれば,同様に,本件商標の周知性も認められるべきである。 (3)意匠登録出願等に記載された語が全て普通名称であるとはいえない 請求人は,「TSAロック」の語が,意匠に係る物品欄や特許明細書中に使用されていることをもって,「TSAロック(LOCK)」の語が普通名称であると主張するが,その一事をもって,当該語が普通名称であるという主張は,判決(東京高裁平成13年8月29日判決(乙28))等に鑑みても失当である。 一般的に,意匠登録出願又は特許出願において,文中に登録商標を普通名称であるかのように記載することが認められていないことは,被請求人も認めるが,審査官が,願書において使用されている全ての語を事前調査(商標調査)することは不可能であるし,これらの出願において,登録商標が説明として使用されているー事をもって,当該語が,当然に普通名称であると認めることもできない。 (4)本件商標を本件商品に使用しても,商品の品質について誤認は生じない 「TSA LOCK」は「米運輸保安局が認可した鍵」という観念が生じないから,どのような商品に「TSA LOCK」を使用されても請求人の主張するような品質誤認は生じない。また,請求人は,「実際にそのような商品が広く販売されている事実がうかがえる」と主張するが,請求人が提出した新聞記事,各種WEB上の情報で確認できる範囲では,全て本件商品に関するものである。被請求人が,本件商品について本件商標を使用している限りにおいて,商品の品質に誤認を生じることはない。 以上より,本件商標の使用によって,商品の品質について誤認を生じるおそれはないから,本件商標は,第4条第1項第16号に反して登録されたものではない。 4 本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当することについて 上述のとおり,本件商標は,被請求人が考案した造語商標である。本件商品も,被請求人の考案にかかる商品である。 本件商品は,概ね年間1000万個が生産され,現在では,空港を利用する二人に一人が,本件商品を装備した鞄を使用している。このため,請求人が提出した証拠においても,詳細が確認できないものを除いて,全て本件商品に関する情報である。換言すれば,本件商標と本件商品との品質において,誤用されている例(品質の誤認を生じている例)は1件もない。したがって,本件商標は,その出願時においても,現時点においても,商品の品質に誤認を生じるおそれはない。 5 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて 本件商標は,全体として一体の造語商標である。仮に,その一部の語が,米運輸保安局の略称と一致しているとしても,本件商標は,当該略称とは非類似であり,「TSA」の語が我が国において周知になってもいないことにも鑑みれば,これをもって,本件商標がいわゆる公序良俗に反するとはいえない。現に,請求人も,「TSA SAFE SKIES」という,「TSA」の語を構成中に含む登録商標を保有し,使用しており(乙33),指定商品には,「鍵」や「旅行かばん」が含まれているが,商標法第4条第1項第7号(以下,被請求人の主張において,単に「7号」という。)違反とはされていない。 6 アメリカ合衆国法典違反については何ら立証されていない (1)米国法典709条について 請求人は,条文も提出せず,そのいかなる条項に違反するのかについても明確にしていない。仮に,いずれかの条文に該当するとしても,それが,当然に我が国において適用されるものではないことも明らかである。さらに,本件商標は,「連邦政府機関を示す名称」として使用されていないし,その略称ともいえない。これは,本件商標の登録後に出願された,請求人の商標「TSA SAFE SKIES」が,本件商標と併存登録されていることからも明らかである。すなわち,両商標には,いずれも「TSA」の語が含まれているが,その部分のみを抽出して類否判断がなされていない。換言すれば,両商標は,全体を一体として観察されており,「TSA」の語に類似しない。 (2)商標法第4条第1項第7号の適用範囲について 請求人は,米運輸保安局といった公の団体ではなく,民間企業であり,単に被請求人の競合会社であるから,そもそも,本件で,7号の該当性を争うべきではないし,また,請求人は,「TSA SAFE SKIES」という登録商標を保有し,現に使用しているにもかかわらず,本件商標の登録について7号の該当性につき論じるのは適切ではない。 7 米運輸保安局からの抗議等について 請求人は,書面(甲22?24)に基づいて主張するが,以下のとおり,本件には当てはまらない。 (1)米国法典709条については,その内容が全く不明確であり,かつ,これが当然に我が国において適応されないことは上述のとおりである。また,本件商標が「TSA」の文字のみからなるものでないことも,上述のとおりである。他方,本件商品は「アメリカ合衆国により製造又は承認されたもの」であり,「アメリカ政府が許可又は好ましいとした安全機構」であるから,「誤った推測がされるおそれ」もない。 (2)書面では,「商品の生産者の承認や特定について,『TSA』との用語またはロゴを含む商標が旅行者に混同・誤認・欺瞞を招く恐れがある場合」には,「錠やかばん類について『TSA』との用語又はロゴを使用及び出願することを一切認めない」と記載されているが,本件商標は,「TSA」とは非類似であり,かつ,使用及び出願が禁じられている「ロゴ」についてはいかなるものをいうかは不明である。さらに,本件商品は,まさに米運輸保安局の承認を得ているものであって,「商標が旅行者に混同・誤認・欺瞞を招く恐れがある場合」にはあたらない。 (3)請求人は,中国における事件において,「アメリカ合衆国運輸保安局(TSA)は米商業目的のために商品の提供者の承認・特定に関して混乱を生じるであろう『TSA』の語またはロゴを有するいかなる商標をも承認許可しない。」という米運輸保安局の主張を援用しているが,これも,上記同様,「商品の提供者の承認・特定に関して混乱を生じるであろう『TSA』の語またはロゴ」の意味が不明確である。本件商品は,米運輸保安局の承認を得て製造されている。また,本件商標は,単に「TSA」単独の語からなるものではない。さらに,ここでいう「ロゴ」がどのようなものであるかを,請求人は明らかにしていない。 (4)欧州共同体における事件においても,「運輸保安局は,航空安全において使用される全ての製品について,運輸保安局が出所または承認者であるとの混同を生じさせるおそれのあるいかなる商標の登録も認めていない」という米運輸保安局の主張を援用しているが,これも,上記中国における主張の繰り返しである。 ちなみに,この事件は,「平均的な需要者は『TSA』のようなEU外の特定の政府機関の名称に慣れている必要はない。」「『TSA』はむしろそれに付随されている特定の意味を有さない創造された単語(造語)のように思われるだろう」と判断されて,2006年時のヨーロッパにおいても「TSA LOCK」の造語性が認められている(乙1)。 8 本件商標を商標として登録できない旨の認識について (1)請求人は,本件商標の出願(各国出願を含む)について,米運輸保安局が不快感を示し,かつ強い懸念を抱いていると主張するが,仮に,そうであるとしても,それを唯一の理由として,当然に本件商標が7号違反となるわけではない。 (2)被請求人の創設者が米運輸保安局に勤務し,その後に被請求人会社を興した事実については争わない。したがって,「TSA」が米運輸保安局の略語として使用されていることも,その結果過去の意見書においても,「TSA(アメリカ運輸保安局)」と述べていることも否定しない。ただし,本件商品は,被請求人の創設者の考案にかかる商品であり,かつ,本件商標も「TSA LOCK」という態様からなる。したがって,過去の一連の経緯とは全く無関係な請求人が,これを論難すべきではない。 (3)被請求人と米運輸保安局との2003年覚書では,「TSAロゴを書面での(TSAの)承認なしにそのロック等に使用してはならない」と記されている。ただし,この覚書における,「DHS」や「TSAロゴ」がどのようなものかが不明である。したがって,かかる書面を指摘して,当然に本件商標の使用が禁止されているとはいえない。 9 本件商標は「TSA」の略称ではない (1)上述のとおり,2003年覚書において,どのような商標の使用が禁じられているのかは全く立証されていない。また,請求人は,被請求人の競合会社であって,そもそも本件について7号の適否を論じること自体失当である。本件商標は,2005年1月7日の米国出願に基づく優先権を主張した出願であるから,上記覚書締結時(2003年11月15日時点)における表記を,その2年後に,別の表示に変えたからといって,それ自体非難されるいわれはない。なお,本件商標は,「TSA」の語とは非類似である。 (2)上記(1)と同様の理由から,仮に,頭文字がTSAとなるように表現したとしても,非類似商標の使用には問題はない。 (3)請求人は,本件商標は,「本国たるアメリカで政府機関の名称の略称として用いられているものの模倣である」と主張するが,非類似商標を採択したからといって,それが「模倣」であるとはいえない。請求人自身「TSA SAFE SKIES」という登録商標を保有し,現に使用している。 (4)請求人は,上記一連の行為は,私人間の紛争あるいは私的な利害の調整により解決できる範囲に止まらず,一般の国際信義にもとると主張する。 しかしながら,本件商標は被請求人の造語商標として知られている一方で,我が国において,「TSA」が米運輸保安局の略称として周知著名とは認められない。したがって,「TSA」の語とは非類似の本件商標を使用したからといって,アメリカ又はその国民を侮辱するものでもなく,国際信義に反する場合にもあたらない。「TSA」の語については,日本では各種国語辞典や現代用語の基礎知識等への記載は全く認められない(乙35)。他方,「TSA」の略称は,「Time Series Analysis(時系列分析)」や「Transition State Analog(遷移状態アナログ)」や「Tumor Specific Antigen(腫瘍特異性抗原)」等であると掲載されている(乙36)。さらに本件商標は,その商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠く,または,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合にもあたらない。 10 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて (1)我が国では,「TSA」の語は,米運輸保安局の名称の略語として周知ではない。 この点は,「TSA」の語が,我が国の各種国語辞典や現代用語の基礎知識等への記載が全く認められず(乙35),他方で,「TSA」は,「Time Series Analysis(時系列分析)」や「Transition State Analog(遷移状態アナログ)」や「Tumor Specific Antigen(腫瘍特異性抗原)」といった語の略語であると紹介されていることからも明らかである(乙36)。また,請求人の行ったアンケート調査においても,「TSA LOCK」の語を,米運輸保安局の名称と(または,これに関連付けて)認識した者は,1%前後である。さらに,本件商標は,米運輸保安局の略称とされる「TSA」とは非類似である。加えて,請求人の提出する新聞等の証拠に明らかなように,本件商標は,専ら本件商品を表示するものとして使用されている。そうすると,本件商品の出所が,米運輸保安局であると誤認を生じるおそれはない。 本件商標は「TSA LOCK」と横書きにしてなり,その構成全体で一体不可分の商標として認識される。本件商標は,全体でわずか7文字からなるものであって,視覚上一体的に把握される。換言すれば,本件商標は,前半部分の「TSA」と後半部分の「LOCK」とを敢えて分離して観察する特別の事情は存在しない。称呼においても,「ティーエスエーロック」と,よどみなく一気に称呼できる。また,これを観念の点からみると,本件商標の構成中,後半の「ロック」の文字部分は,一般的には,「鍵,ロック」といった意味で使用されるが,「Advisory Lock」(通知ロック),「Air Lock」(エア・ロック,気圧調整室),「Automatic Lock」(自動ロック),「SIM Lock」(シムロック)等のように,「Lock」の語の前に別の単語が結合されることによって新たな一個の観念を生じさせる語である。 したがって,上記の例と同様に,「LOCK」の前に「TSA」を結合した態様からなる本件商標は,その構成全体より,被請求人が製造販売する「Travel Sentryが認定した鍵」という造語商標であると認識されるのが自然であるというべきであり,たとえ「LOCK」部分が指定商品に使用されたとき識別力が弱い語であるとしても,僅か3文字からなる「TSA」部分のみを,殊更分離・抽出して類否判断をすべきものではない。この商標の類否判断に関しては,学説上「商標は商品又は役務の識別標識であるから,1個の商標は文字・図形・記号・色彩等が組み合わされたものである場合においても,全体としては識別標識として一体をなすものであり,したがって,商標の類否の判断においても原則的にはこれらの部分を総括した全体が識別標識として取引者・需要者の心理にいかに反映し理解されるかという見地からなされなければならない」とされている(乙45)。 かかる観察手法は,裁判所においても支持,是認されており(東京高等裁判所昭和57年3月31日判決)(乙46),特許庁における審決例等に照らし考察しても裏付けられる(乙47?49)。 商品や商品の品質を表す語を含む商標であっても,その商標の外観,観念及び称呼の各要素に照らし,不可分一体のものと認識される場合には,全体として一個の造語を形成したものと判断されて登録が認められている。 本件商標も,同書同大で一連に表されて外観上まとまりよく一体的に構成され,これより生じる称呼も冗長とはいえないことから,上記審決例に照らしても,「ティーエスエーロック」との一連の称呼のみを生じる一種の造語とみるのが相当である。したがって,本件商標はあくまでも,「ティーエスエーロック」からなる構成全体をもって一体不可分の商標であると理解・認識されるべきものである。 そうすると,本件商標は,「TSA」とは非類似の商標であり,しかも,2003年より世界中において使用され続けている商標であることから「TSA LOCK」の構成全体で本件商品の業務にかかる商標として広く知られている。したがって,米運輸保安局とはその出所につき誤認混同を生じるおそれはないというべきである。 (2)我が国では,「TSA」の語が米運輸保安局を指称するものとして周知・著名とはいえない。加えて,本件商標は「TSA」とは非類似の語からなるので,本件商標に接した需要者が,これを米運輸保安局の業務に係るものの商標であるとか,これと経済的又は組織的に何らかの関係がある商品であるとは誤認しない。 (3)中国と我が国では,法制度,類否判断の手法等が大きく異なっているのは周知の事実であり,中国における判断が,当然に我が国において適用されるわけではない。 (4)我が国においては「TSA」という略語自体周知とはいえないので,本件商標が本件商品に使用されても,本件商品の出所について何らかの誤認を生じることはあり得ない。請求人が提出する新聞情報等の殆どが,本件商品を装着した鞄に関する情報である。 (5)被請求人が,米運輸保安局の存在や任務・目的について知悉し,かつ,将来的に被請求人以外にも「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」の製造販売を行う事業者が出現する可能性は否定しない。しかしながら,かかる事業者は,本件商標以外の商標を採択すれば足りるから,これをもって不正の目的があったということはできない。現に,請求人も,「TSA SAFE SKIES」という商標を我が国において登録し,かつ使用している。将来的に本件商品に類する商品を販売する事業者は,それぞれ独自に商標を登録し,使用すれば良いと考える。 11 むすび 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第16号及び同項第15号のいずれにも反しない。 第4 当審の判断 1 請求人適格について 請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては,被請求人はこれについて争っておらず,また,当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。 2 本件商標は不正の目的で商標登録を受けたものであるか否かについて (1)本件商標は,平成17年11月18日に設定登録されたものであり,本件無効審判の請求がされた同30年11月19日には,既に設定登録の日から5年以上経過しているため,本件無効審判の請求の理由中,商標法第4条第1項第15号に該当することを理由とする請求は,「不正の目的で商標登録を受けた場合」に限られることから(同法第47条第1項かっこ書き),本件商標が「不正の目的」で商標登録を受けたものであるか否かについて,まず検討する。 (2)証拠及び当事者の主張によれば,以下の事実が認められる。 ア 米運輸保安局(Transportation Security Administration)は,2001年(平成13年)9月11日に起きたアメリカ同時多発テロを受けて,同年11月19日にアメリカ合衆国連邦行政部の国土安全保障省の一部局として創設されたものであり,その略称は「TSA」とされる(甲24,請求人の主張)。 イ 米運輸保安局は,アメリカの運輸システムの安全強化と人や物の自由な交通のために創設され,米国内の空港の安全を確保し,全ての民間航空機の乗員及び貨物の検査等を行っている(甲24)。そして,アメリカ国内の空港の保安検査場にて,民間旅客機に持ち込まれる手荷物や預け入れられる貨物が米運輸保安局の係官によって点検・検査されており,これらに施錠がなされている場合であっても,係官は必要に応じて解錠し,又は錠を破壊することが許されている(甲2?6,乙10,乙16)。 ウ 被請求人の取締役社長は,米運輸保安局の依頼によって本件商品の開発をした(乙3,被請求人の主張)。 エ 2003年(平成15年)10月16日に被請求人と米運輸保安局は,「トラベルセントリー認証用ロック(TRAVEL SENTRY CERTIFIED LOCKS)」に関する覚書・合意書を交わした。同2003年覚書には,「4.責務:」に「TSAの責務:」の「d.」として「TSAは,類似のサービスの提供を検討している他の組織に対し,本合意書と同じ条件を提示することができる。」旨,及び同じく「トラベルセントリー(審決注:被請求人):の責務」の「a.」として「トラベルセントリーは,トラベルセントリー認証ロックについて米運輸保安局が独占的に承認を付与または暗示できないこと,トラベルセントリーが当該承認の存在を主張できないことを了承する。トラベルセントリーは,書面による明確な承認がある場合を除き,トラベルセントリーのロックまたは配布用印刷物その他のメディア資料にDHS(審決注:米国国土安全保障省)又はTSAロゴ(DHS/TSA logo)を使用することができない。」旨などが記載されている(甲26,乙6)。 オ 2006年(平成18年)5月に,日本において被請求人ロック(錠)の使用が開始された(乙3)。 カ 米運輸保安局の略称が「TSA」とされるほか,「時系列分析」,「遷移状態アナログ」及び「腫瘍特異性抗原」を表す略語も「TSA」とされている(乙36)。 そして,上記各略称又は略語については,いずれも,本件商標の登録査定日以前に,上記の意味を有する語として理解される程に,我が国において広く親しまれた語であったということができる証左は見いだせない。なお,「TSA」が米運輸保安局の略称であると一般に理解されるものということができない点に関しては,後述する。 (3)上記(2)の認定事実によれば,〈1〉2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロを受けて,同国の運輸システムの安全確保を目的として,米運輸保安局が創設され,アメリカ国内の空港の保安検査場にて,民間旅客機に持ち込まれる手荷物や預け入れられる貨物が米運輸保安局の係官によって点検・検査されており,係官は必要に応じて解錠し,又は錠を破壊することが許されていること,〈2〉米運輸保安局の略称が「TSA」であること,〈3〉2003年(平成15年)10月16日に被請求人と米運輸保安局は,「トラベルセントリー認証用ロック」に関する覚書・合意書を交わしたこと,〈4〉被請求人の取締役社長が本件商品の開発をしたこと,〈5〉2006年(平成18年)5月に,日本において被請求人ロック(錠)の使用が開始されたこと,〈6〉「TSA」の文字は,「時系列分析」,「遷移状態アナログ」及び「腫瘍特異性抗原」を表す略語でもあることが認められる。 他方,「TSA」及び「TSA LOCK」の欧文字が,本件商標の登録査定の日(平成17年9月8日)以前に,米運輸保安局を表すもの,あるいは米運輸保安局の業務に係る商品を表すものとして,我が国の取引者,需要者において広く認識されていたことを示す証左は見いだせず,また,職権により調査するも,「TSA」及び「TSA LOCK」の欧文字が,本件商標の登録査定の日以前に,米運輸保安局を表すもの,あるいは米運輸保安局の業務に係る商品を表すものとして,我が国の取引者,需要者において広く認識されていた事実を見いだすことができない。 そうすると,本件商標の登録出願時及び登録査定時においては,「TSA」及び「TSA LOCK」の欧文字が,米運輸保安局及びその者の業務に係る商品を表示するものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたものとはいえないから,本件商標は,米運輸保安局の著名性にフリーライドし,不正の利益を得るなどの目的をもって登録出願されたということはできない。 また,本件商標の登録出願の経緯において,被請求人による本件商標の登録出願が,他人に損害を加える目的その他不正の目的で行われたものと認められる証左もなく,さらに,商取引上の信義則に反する行為を行っていたとまでも,認めることはできない。 してみると,被請求人は,不正の目的をもって本件商標の商標登録を受けたものであると認めることはできない。 (4)したがって,本件商標は,商標法第47条第1項の規定にいう「不正の目的」で商標登録を受けたものには該当しないというべきであるから,商標法第4条第1項第15号に違反する旨の本件審判の請求は,これを却下すべきものである。 そこで,上記以外の理由につき本案に入り審理する。 3 「TSA LOCK」及び「TSA」について 請求人は,本件商標構成中の「TSA」の文字が米運輸保安局の略称と一致し,米運輸保安局の認可を受けたロック機構を備えた錠が「TSA LOCK(ロック)」と呼ばれ,広く認知されている旨主張しているので,まず,我が国における「TSA」及び「TSA LOCK」又は「TSA ロック」に係る使用状況等について検討する。 (1)「TSA」及び「TSA LOCK」又は「TSA ロック」の文字(語)の意味 前述のとおり,「TSA」の文字は,米運輸保安局の略称とされるほか,「時系列分析」,「遷移状態アナログ」及び「腫瘍特異性抗原」を表す略語でもある(乙36)。 「TSA LOCK」又は「TSA ロック」の文字が,特定の意味を有する熟語として一般的な辞書に載録されているとの証左はない。 (2)「TSA」及び「TSA LOCK」又は「TSA ロック」の文字(語)の使用状況並びに該文字に係るアンケート ア 新聞記事 日本経済新聞社発行の「日経流通新聞」及び「日本経済新聞」(甲3,4)には,「・・・エース・・・は『TSA(米運輸安全局)ロック』に対応したスーツケースを来年春に発売する。・・・TSA規格対応なら当局側がマスターキーを持っているので施錠したまま預けられる。」(2005年(平成17年)11月28日掲載),「米国への旅行に役立つバッグ用施錠用品2種類。米運輸保安局(TSA)認可済みの鍵で,預けた荷物はTSAがマスターキーで開錠して検査後,再施錠する。」(2006年(平成18年)1月13日掲載),「四月末に発売した『TSA(米運輸安全局)ロック』対応商品。テロ対策の強化で米国の空港では荷物検査が厳格になり,施錠した荷物は壊して開けられる可能性がある。TSAロック対応商品は施錠したまま預けることができるのが特徴。」(2006年(平成18年)5月1日掲載),「鍵を開けて荷物を預ける必要がある米国内の空港で,施錠したまま預けられる『TSA(米運輸安全局)ロック』対応のスーツケースが二〇〇六年春に相次ぎ登場する。・・・TSAロック 米運輸安全局(TSA)が認可した鍵。・・・〇三年以降,搭乗時の荷物は鍵を開けたまま預けるのが原則。・・・同ロックは例外として施錠して預けることが認められる。必要な際はTSAの係員が特殊な器具で鍵を開け,検査後,施錠する。」(2006年(平成18年)1月20日掲載),「今年の旅行カバンのもうひとつの特徴が,米運輸安全局(TSA)が認可した特殊なロックを装備していること。・・・TSAロック 米運輸安全局(TSA)が認可したロックシステム。・・・」(2006年(平成18年)7月19日掲載)などの記述がある。 ここにおいて,「TSA」の語は「米運輸安全局」等とともに記載されており,「TSA」や「TSAロック」の語が何らの説明もなく用いられているものは見あたらず,また,「TSA LOCK」の文字は見あたらない。さらに,提出された証拠によれば,新聞記事への掲載回数はわずかなものである。 イ インターネット記事 (ア)a 「スーツケースやトランクケースの選び方」と題する記事(印刷日:2018年11月15日)(甲5)には,「スーツケースの説明を読んでいるとTSAロックという言葉を目にすることがあります。TSAロックとはアメリカ運輸保安局(TSA)が認可した特殊なロックのことです。」,「スーツケースの鍵がTSAロックであるかどうかは,鍵穴の付近にTSAという表記があるかないかで判断できます。・・・TSAの後についている002や003などの番号は,TSA職員がTSAロックを開錠するためのマスターキーの種類です・・・。」などの記述がある。 ここにおいて,「TSA」の語は「アメリカ運輸保安局」とともに記載されており,「TSA」や「TSAロック」の語が何らの説明もなく用いられているものは見あたらず,また,「TSA LOCK」の文字は見あたらない。 その他,「地球の歩き方ストア」のホームページ(印刷日:2016年10月4日)(甲6),「JAL ABC」のホームページ(印刷日不明)(甲10)における各記事においても,「TSAロック」が米運輸保安局(TSA)により認可されたロックである旨の記述があるが,「TSA」の語は「アメリカ運輸保安局」とともに記載されており,「TSA」や「TSAロック」の語が何らの説明もなく用いられているものは見あたらず,また,「TSA LOCK」の文字は見あたらない。 b 「ククレンタル」のホームページ(印刷日:2017年9月13日)(乙10)には,「TSAロックとは?」の表題の下,「TSA LOCK(R)」の見出し及び「TSA LOCK(TSAロック)とは,アメリカ Travel Sentry(・・・)社が管理・運営する『Travel Sentryシステム』に認可されたロックのことです。・・・アメリカ国内の空港では,TSA(米国運輸保安局)の荷物検査のために,・・・」,「Travel Sentry認可ロック搭載の荷物なら,鍵をかけることをTSAに許可されます。」の記述がある。 また,「スーツケースレンタルの専門店 マイレンタル」のホームページ(印刷日:2017年9月13日)(乙13)には,「TSAロックシステムとは?」、「全てのTSAロックは,アメリカ運輸保安局(・・・)が認定し,TRAVEL SENTRY社が営業管理しているシステムです。」の記述がある。 ここにおいて,「TSA」の語は「米国運輸保安局」等とともに記載されており,「TSA」や「TSA ロック」の語が何らの説明もなく用いられているものは見あたらず,「TSAロックシステム」という記載も見受けられる。他方,「TSA LOCK」の文字は「(R)」とともに記載されており,被請求人との関係が記載されている。 (イ)a 「ZERO HALLIBURTON」のホームページにおける「TSA ロックについて」と題する記事(印刷日:2018年11月15日)(甲8)には,「TSA LOCK(R)『米国運輸保安局(TSA認可ロックシステム)』搭載の鞄は,TSA職員が特集(審決注:「特殊」の誤記と思料する。)ツールで解錠・検査する・・・」,「・・・TSA LOCK(R)搭載の鞄でも・・・」などの記述,「Proteca(プロテカ)エース株式会社」のホームページにおける「TSAロックの使い方/Instructions for TSA Lock」(審決注:「/」は改行を示す。)と題する記事(印刷日:2018年11月15日)(甲9)には,「現在,米国領土内のすべての空港では・・・手荷物をTSA(米国運輸保安局)が検査する・・・TSA LOCK(R)(米国運輸保安局より認可を受けた先進のロックシステム)搭載の鞄は,TSA職員が特殊ツールを使って解錠が可能。」,「・・・TSA LOCK(R)搭載の鞄でも・・・」などの記述並びに(R)を伴って,上段に「TSA」の文字,下段に「LOCK」の文字を横幅を揃えてまとまりよく表した表示及びその右側に近接して,上段に(R)を伴った「TRAVEL SENTRY」の文字,下段に「APPROVED」の文字を横幅を揃えてまとまりよく表した表示がある。その他,「ACE Online Store」のホームページにおける「TSAロックの使い方」と題する記事(印刷日:2018年11月15日)(甲11)や「エース株式会社」に係る記事(乙9,16)や商品ガイド(乙19)にも,上記記事と同様の記述がある。 ここにおいて,「TSA」の語は「米国運輸保安局」とともに記載されており,「TSA」や「TSA ロック」の語が何らの説明もなく用いられているものは見あたらず,「TSA認可ロックシステム」という記載も見受けられる。他方,「TSA LOCK」の文字は「(R)」とともに記載されている。 b 「キャプテンスタッグ株式会社」のホームページ(印刷日:2017年9月13日)(乙12)には,「TSAロックとは,アメリカの国土安全保障省運輸保安局が認定し,TRAVEL SENTRY社が管理・運営しているシステムです。」の記述がある。 また,「サンコー鞄株式会社」のホームページ(印刷日:2019年4月3日)(乙17)には,「TSA LOCK(R)/TSAジッパーロック」の見出し及び「本商品に搭載しているロックシステムは,TRAVEL SENTRY(R)がTSA(アメリカ運輸保安局)と協力し,設計された安心のロックシステムです。」の記述がある。 ここにおいて,「TSA」の語は「アメリカ運輸保安局」等とともに記載されており,「TSA」や「TSA ロック」の語が何らの説明もなく用いられているものは見あたらず,「TSAジッパーロック」という記載も見受けられる。他方,「TSA LOCK」の文字は「(R)」とともに記載されており,被請求人との関係が記載されている。 (ウ)その他,提出に係る各種インターネット記事をみるに,上記(ア)及び(イ)の記述内容と同旨の記載があるほか,「TSAダイヤルファスナーロック」(印刷日:2018年11月15日)(甲12),「米国運輸保安局(TSA)認証ロック」(印刷日:2019年7月10日)(甲44),「TSAカードロック」(印刷日:2019年7月2日)(甲47)といった様々な記載が見受けられる。他方,「TSA LOCK」の文字は「(R)」とともに記載されている。 ウ 旅行情報誌(2010年?2019年発行) (ア)地球の歩き方(甲29,30) 「米国連邦航空省運輸保安局(TSA:The U.S. Transportation Security Administration)の職員が荷物を開けて検査をする。・・・TSAロック(欄外参照)を採用したスーツケースなどを利用しよう。」,欄外に「TSAロックとは TSAによって認可・容認されたロックで,・・・TSA職員が特殊なツールを使用して開錠でき・・・」といった記述がある。 また,「アメリカ運輸保安局(TSA)の職員がスーツケースを開いて厳重なチェックを行っている。」,欄外に「TSA公認グッズ TSA公認の施錠スーツケースや南京錠などを使用すれば・・・TSA公認グッズは,施錠してもTSAの職員が特殊なツールでロックの解除を行う・・・」といった記述がある。 (イ)るるぶ(甲31) 「TSAロックとは? アメリカ運輸保安局が認定したロックシステムのこと。」といった記述がある。 (ウ)わがまま歩き ニューヨーク(甲32) 「米国運輸保安局(TSA)がテロ対策として,米国の各空港を出発,乗り継ぐ乗客に対し受託手荷物を施錠しないよう求めている。・・・TSAの認可・承諾を受けたTSAロック搭載のスーツケースであれば施錠できる。」の記述がある。 (エ)まっぷる(甲33) 「TSA(米国運輸保安局)公認の鍵の付いたスーツケースやベルトもある。」といった記述がある。 (オ)グアム本(甲34) 「米国国土安全保障省運輸保安局(TSA)の職員が鍵を開けて検査する。・・・TSAロック(TSAによって認可されたロックで,TSA職員が解錠できる仕組み。・・・)」といった記述がある。 (カ)小括 「TSAロック」が米運輸保安局(TSA)により認可されたロックである旨の記述があるが,「TSA」の語は「アメリカ運輸保安局」等とともに記載されており,「TSA」や「TSAロック」の語が何らの説明もなく用いられているものは見あたらず,また,「TSA LOCK」の文字は見あたらない。 エ アンケート調査 請求人の提出に係るアンケート調査(2018年10月実施)(甲7)の結果によれば,以下のことがいえる。 (ア)例えば,「LCC」について「ブランド」と回答した者が「約18%」,「一般名称」が「62%」,「わからない」が「約20%」,「JCB Card」について「ブランド」が「約78%」,「一般名称」が「17%」,「わからない」が「約5%」であったところ,「TSA LOCK」については,「ブランド」が「約15%」,「一般名称」が「約40%」,「わからない」が「約45%」であった。 (イ)「TSA LOCK」を知っているか,との問いに対し,「知っている」が「34.1%」,「名前を聞いたことがある」が「23.5%」,「知らない」が「42.4%」であった。 (ウ)「TSA LOCK」という言葉から何を想起するか,との問いに対し,「鍵」という程度の回答が多く,「わからない」も一定数あったのに対し,「アメリカのセキュリティ」などアメリカと結びつけた回答は多いとはいえず,さらに具体的な回答(アメリカの空港で税関職員が開錠できる鍵といったもの)はより少なくなり,その他,「『LOCK』という言葉から,セキュリティー機能を連想する」,「厳重さ」,「安全」などといった回答や,わずかではあるが「ブランド」という回答も見られる。 (エ)「TSA LOCK」を製造しているメーカーを知っているか,また,知っている場合はその名称を記載してください,との問いに対し,「わからない」や「知らない」が多数であり,具体的な記載があったものとしては,「エース」,「サムソナイト」,「プロテカ」等が見られるほか,「トラベルセンツリー」や「Travel Sentry」との回答も複数ある。 (オ)小括 以上の回答内容を含め,アンケート調査対象者が7年以内にスーツケースを購入した海外旅行経験者であったことを踏まえ,当該アンケートを検討するに,その結果からは,「TSA」の文字が米運輸保安局を表すものとして,また,「TSA LOCK」の文字が米運輸保安局の認定した錠であるとの品質を表示するものとして理解されるほどに,我が国の取引者,需要者に認識されているとまではいうことができない。 オ 意匠公報,特許公報(2007,2009,2016?2018年発行) 「TSAロック」の記載がある一方,「TSA LOCK」の文字は見あたらない(甲15?17,19?21)。なお,例えば「本明細書でいう『TSAロック』とは,アメリカ国内の空港を利用する際,・・・TSAの係官が・・・開錠できる錠前のことを意味する。いわゆるTSA認可の鍵穴を有する錠前であり・・・」(甲19(3頁))といった記載も見られ,「TSAロック」の説明(定義づけ)を伴って記載されており,また,「・・・従来のTSA対応ロック・・・」(甲20(11頁))との記載も見受けられる。 (3)まとめ 「TSA」の文字は,米運輸保安局の略称とされるほか,「時系列分析」,「遷移状態アナログ」及び「腫瘍特異性抗原」を表す略語でもあり,「TSA LOCK」又は「TSA ロック」の文字は,特定の意味を有する熟語であると認めることはできない。 そして,新聞記事やインターネット記事等における使用状況については,スーツケースや米国旅行に関する記事を中心として,「TSA」の語は米運輸保安局を指称する旨の説明とともに記載されており,「TSA」や「TSA ロック」の語が何らの説明もなく用いられているものは見あたらず,「TSA認可ロックシステム」や「米国運輸保安局(TSA)認証ロック」といった様々な記載も見受けられる。他方,「TSA LOCK」の文字は,一般に登録商標であることを表す際に慣用的に使用されている「(R)」とともに記載されており,被請求人が管理等するものであるなど,被請求人との関係が記載されている。 さらに,上記アンケート結果を踏まえると,「TSA」の文字が米運輸保安局を表すものとして,また,「TSA LOCK」の文字が米運輸保安局の認定した錠であるとの品質を表示するものとして理解されるほどに,我が国の取引者,需要者に認識されているとまではいうことができない。 4 商標法第4条第1項第16号該当性について 請求人提出の甲各号証によれば,「TSA」及び「TSA LOCK」の文字が,本件商標の登録査定の日以前に,米運輸保安局を表すもの,あるいは米運輸保安局の認定した錠を表すものとして,我が国の取引者,需要者に認識されていることを示す証左は見いだせない。 また,本件商標を構成する「TSA LOCK」の文字が何らかの意味を認識させるものであったと認め得る証左も見いだせない。 そうすると,本件商標は,その登録査定時においては取引者,需要者をして,特定の意味を有しない造語と認識されるものと判断するのが相当である。 してみれば,本件商標は,これをその指定商品に使用しても,取引者,需要者をして,商品の品質について誤認を生ずるおそれはなかったものといわなければならない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当するものといえない。 5 商標登録後における商標法第4条第1項第16号該当性(商標法第46条第1項第6号)の有無について 請求人は,本件商標が商標登録された後において,その登録商標が商標法第4条第1項第16号に掲げる商標に該当するものとなっているとして,同法第46条第1項第6号に基づく商標登録の無効の審判をも請求している。 そして,請求人は,アンケートの調査結果(甲7),登録済意匠及び特許の明細書等における「TSAロック」の記載(甲15?17,19?21),「米運輸保安局の認可したロック機構を備えた錠」を用いた商品が流通していることなどを主張する。 しかし,当該アンケート結果からは,「TSA」の文字が米運輸保安局を表すものとして,また,「TSA LOCK」の文字が米運輸保安局の認定した錠であるとの品質を表示するものとして理解されるほどに,我が国の取引者,需要者に認識されているとまでは認めることはできず,また,登録済意匠及び特許の明細書等において,「TSAロック」の記載があるとしても,それをもって直ちに,本件商標を構成する「TSA LOCK」の文字が,商品の品質を表示するものであるなどということはできないものである。 さらに,各かばんメーカーのウェブサイト(甲8・9,乙16・17等)における,「TSAロック」に関する説明では,「TSA LOCK」の表示に,一般に登録商標であることを表す際に慣用的に使用されている「(R)」の記号が付されていることが認められる。 以上,上記3を踏まえ検討すると,「TSA LOCK」について,取引者,需要者が,商品の品質等を表示するものとして理解,認識し,商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるとはいい難いものであり,商標登録がされた後において,本件商標が商標法第4条第1項第16号に掲げる商標に該当するものとなっている事実を認めるに足る証拠は見いだせないものである。 なお,請求人は,上記アンケート結果に関して,我が国の多くの需要者が「TSA LOCK」という名称を認知しており,かつ特定のブランド名を指称するものではなく,あくまでも米運輸保安局が,又は少なくともアメリカ合衆国が認可した錠であるとの認識がなされ,一般名称的な位置づけにあるものと理解されている旨述べるが,商品の普通名称であるといえるほどに,多くの需要者が「TSA LOCK」という名称を認知しているとは認め難いのみならず,商標法第4条第1項第16号に該当しないものと判断するにあたっては,必ずしも特定のブランド名を指称するものとして認知されていることは要しないものと解される。 したがって,本件商標は,商標登録がされた後において,商標法第4条第1項第16号に該当するものとなっているとはいうことができない。 6 商標法第4条第1項第7号該当性について 請求人は,<1>連邦政府機関の名称の略称や模倣したものを広告で使用する行為はアメリカ合衆国法典に違反すること,<2>米運輸保安局が抗議を行っていること,<3>被請求人自身が「TSA LOCK」の語を商標として登録できないことを認識していたこと,<4>被請求人が,敢えて「TSA」の略称を模倣していることを総合的に勘案すると,本件商標を登録することは,国際信義に反するのみならず,社会的妥当性を欠くものであるから,本号に該当する旨主張する。 しかしながら,上記請求人の主張が,米国法典709条によって「アメリカ合衆国に承認・許可されている機関と何らかの関係があるとの印象を与える目的で,連邦政府機関の名称の略称や模倣したものを広告で使用する行為が違法とされている」とのことを前提としているのであれば,本件商標を我が国において商標登録等することが,米国法典709条にいうところの違法行為に該当するのかは明らかではないから,かかる前提を認めることはできず,また,本件商標が我が国又は外国の法律によって使用等が禁止されており商標登録することが妥当でないなどというべき具体的な証拠の提出もない。 さらに,2003年覚書に反するとのことを前提としているのであれば,当該覚書に商標登録出願についての記載が見あたらないこと,及びそれに記載された「DHS/TSA logo」がいかなるものであるのか明らかでないことから,かかる前提を認めることはできないし,当該覚書に係る紛争は基本的にはこれに係る両当事者間で解決すべきものである。 加えて,被請求人が,敢えて「TSA」の略称を模倣していると認めるに足る客観的事実を見いだすこともできない。 そして,「TSA」の語は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,米運輸保安局の略称として我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っていると認められないことは先に認定したとおりであるから,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を適用することは妥当でない。 そうすると,本件商標は,国際信義に反するものとも,社会的妥当性を欠くものともいえない。 その他,本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激又は他人に不快な印象を与えるような構成からなるものともいえない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。 なお,請求人は,諸外国では「TSA」を含む商標の登録を認めないとするのが趨勢であり,アメリカの国防に関わる公共性の高いものであるなど,本件特有の事情に鑑みれば,国際調和・国際協調の観点から上記判断は十分に尊重されるべきである旨主張する。 しかしながら,諸外国と我が国の商標保護に関する法制は,細部においては自ずと異なるものであるところ,本件商標の登録の適否は,我が国の商標法の下で判断されるべきものであって,また,取引の実情や需要者の認識等も各国毎に異なるものであるから,諸外国における判断状況等の事情をもって,直ちに本件の判断が左右されるものではない。 7 むすび 以上のとおり,本件審判の請求は,その無効理由中,商標法第4条第1項第15号を理由とする請求については,不適法なものであって,その補正をすることができないものであるから,同法第56条第1項において準用する特許法第135条の規定により却下すべきものである。その余の無効理由については,本件商標は,商標法第4条第1項第7号及び同項第16号に違反して登録されたものではなく,商標登録がされた後において同項第16号に該当するものとなっているとも認められないものであるから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-08-07 |
結審通知日 | 2020-08-13 |
審決日 | 2020-09-02 |
出願番号 | 商願2005-45855(T2005-45855) |
審決分類 |
T
1
11・
6-
Y
(Y18)
T 1 11・ 272- Y (Y18) T 1 11・ 22- Y (Y18) T 1 11・ 271- Y (Y18) |
最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
中束 としえ |
特許庁審判官 |
板谷 玲子 木村 一弘 |
登録日 | 2005-11-18 |
登録番号 | 商標登録第4908401号(T4908401) |
商標の称呼 | テイエスエイロック、テイエスエイ |
代理人 | 池田 万美 |
代理人 | 宮川 美津子 |
代理人 | 岡田 淳 |
代理人 | 平田 憲人 |
代理人 | 小林 彰治 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 田中 尚文 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 渡部 彩 |