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審決分類 |
審判 判定 その他 属さない(申立て成立) W05 |
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管理番号 | 1369168 |
判定請求番号 | 判定2020-600017 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標判定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 判定 |
2020-05-27 | |
確定日 | 2020-12-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5988821号商標の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | 商品「布マスク」に使用するイ号標章は,登録第5988821号商標の商標権の効力の範囲に属しない。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第5988821号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成よりなり,平成29年3月21日に登録出願,第5類「布製衛生マスク」を指定商品として,同年10月20日に設定登録されたものである。 2 イ号標章 請求人が商品「布マスク」に使用するイ号標章は,別掲2のとおりの構成よりなるものである。 3 請求人の主張 請求人は,結論同旨の判定を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出した。 (1)判定請求の理由の要点 所定方向から観察した場合,マスク本体部の正面右端部近傍に白地に「ピラミッド」様の図形と当該ピラミッド様図形の頂点部分付近にリング状(円形状)の図形とからなる図柄(以下「図柄部分」という)について強い印象を与える本件商標と,そのような外観を有さないイ号標章とは,外観上非類似の関係にあるといえる。さらには,本件商標の図柄部分により,ピラミッドやそれに関連するような観念(意味合い)を生じうるが,イ号標章には,何らそのような観念を生じうる形態はない。 したがって,イ号標章に接した需要者が,本件商標と,その出所を混同することはなく,両者は非類似の関係にあるといえる。 また,本件商標のうち,立体的形状部分(図柄部分を除く部分)には,商標権の禁止権的効力が及ばないと解すべきところ,仮に,イ号標章が,本件商標のうち,立体的形状部分に同一又は類似の関係にあったとしても,イ号標章には,本件商標に係る商標権の効力は及ばないといえる(商標法第26条第1項第2号)。 したがって,イ号標章は,本件商標の商標権の効力の範囲に属しない。 (2)判定請求の必要性 被請求人である「株式会社レッドアンドグリーン」及び「植木豪」氏(以下,2者をまとめて「被請求人ら」という。)は,本件商標の商標権者である。被請求人のうち株式会社レッドアンドグリーンは,請求人が商品「布マスク」に特定の立体的形状を有するイ号標章を使用していること(甲1)について,令和2年4月27日付けで,請求人に対して,前記商標登録に係る商標権を侵害するものである旨の警告書を発した(甲2)。 当該警告書によれば,株式会社レッドアンドグリーンは,裁判所への差止め請求及び損害賠償請求の提起を行うとともに,警察へ被害届を提出し,さらには,請求人が利用するECサイトヘ商標権侵害の旨を通報する旨の準備があることを表明している。 そこで,請求人は,本件商標に係る商標権の効力の範囲について,専門的知識をもって中立的立場から判断される判定を特許庁に求め,その判定に基づいてこの問題を解決すべく,本件判定を求める次第である。 (3)本件商標の説明 本件商標は,(イ)黒色のマスク本体部と,(ロ)耳掛けひもと,(ハ)使用時に当該ひもの長さを調整するアジャスター部と,(ニ)図柄部分とから構成されている立体商標である。 (4)イ号標章の説明 請求人は,令和2年4月6日から同月28日まで,(イ)黒色のマスク本体部と,(ロ)耳掛けひもと,(ハ)使用時に当該ひもの長さを調整するアジャスタ一部からなる立体的形状(イ号標章)を有する布製マスクを,ヤフーショッピングのECサイト(ねこの休日)(https://shopping.geocities.jp/nekoholiday/)で販売している。 (5)イ号標章が商標権の効力の範囲に属さないとの説明 ア イ号標章は,本件商標と非類似の関係にあるとの説明 立体商標の類否判断においては,所定方向からの外観を重視し,およそ所定方向には該当しない方向からの外観は,外観類否に係る類否判断の要素にはならないと解される。 「布製衛生マスク」を含め,通常,マスクを販売する際,マスクの正面部分(マスク着用した場合の表部分)が購入者・取引者に見えるように配置することが一般的であるといえる。そのため,本件商標においては,指定商品が「布製衛生マスク」であり,主として視認するであろう特定の方向(所定方向)は,マスクの正面部分であるといえる。 また,需要者がマスクの正面部分を視認した場合,図柄部分は,極めて需要者の注意をひく部分といえる。なぜならば,図柄部分は白地であるのに対して,マスク本体部などは黒地であり,そのコントラスト効果により図柄部分であるピラミッド様図形やリング状図形が認識しやすいためである。 また,マスク本体部,ひも及びアジャスターの色彩は黒であり,マスクで一般的に使用されている色であり,アジャスター自体も一般的な機能を付与する部品とするもので,その形状も特殊性があるとはいえない。すなわち,図柄部分を除くこれらの立体的形状の外観は,多少特徴を有するものとしても,一般に採用しうる機能や美観を有するにとどまる。そして,商品である「布製衛生マスク」の用途,機能から予測しがたいような特異な形状や特別な印象を与えるものではない以上,指定商品「布製衛生マスク」の形状そのものの範囲を脱するものではない。 以上から,本件商標は,図柄部分に識別力があり,類否判断では相対的に重視されるべき部分であるのに対し,その他の部分については,識別力はない,ないしは相対的に低いものといえ,類否判断では相対的に重視されない部分と解すべきである。 一方で,イ号標章は,マスク本体部,ひも及びアジャスターについては一応の共通性はあるものの,マスク本体部に識別力を有し,かつ需要者にとって注意をひく図柄部分に同一又は類似するような図柄はおろか,図柄自体が存在しない。 そのため,所定方向から観察した場合,ピラミッド様図形とその頂点のリング状図形について強い印象を与える本件商標と,そのような外観を有さないイ号標章とは,外観上非類似の関係にあるといえる。 さらには,本件商標の図柄部分により,ピラミッドやそれに関連するような観念(意味合い)を生じうるが,イ号標章には,何らそのような観念を生じうる形態はない。 以上から,イ号標章に接した需要者が,本件商標と,その出所を混同することはなく,両者は非類似の関係にあるといえる。 したがって,イ号標章は,本件商標の商標権の効力の範囲に属しない。 イ イ号標章は,商標法第26条第1項第2号に規定する,商標権の効力が及ばない商標であるとの説明 上述のように,マスク本体部,ひも及びアジャスターの形状等は,一般に採用しうる機能や美観を有するにとどまり,商品である「布製衛生マスク」の用途,機能から予測しがたいような特異な形状や特別な印象を与えるものではない。 そのため,本件商標のうち,立体的形状部分(図柄部分を除く部分)には,商標権の禁止権的効力が及ばない。 したがって,仮に,イ号標章が,本件商標のうち,立体的形状部分に同一又は類似の関係にあったとしても,イ号標章には,本件商標に係る商標権の効力は及ばない。 4 被請求人らの答弁 被請求人らは,本件判定請求に対し,何ら答弁していない。 5 当審の判断 (1)本件商標について 本件商標は,別掲1のとおり,一辺を外側に湾曲させた略四角形状の布(表面は黒色,裏面は白色になっている。)2枚を,それぞれの湾曲させた辺同士を接合し(以下,接合したものを「本件本体部分」という。),本件本体部分の左右に,黒い小さな部品をつけたひも状のもの(以下「本件ひも部分」という。)を取り付けた立体的形状であり,本件本体部分の右端には,ピラミッド様の図形と当該ピラミッド様図形の頂点部分付近にリング状の図形が表された白色の四角形(以下「ピラミッド図形部分」という。)が配されたものである。 ところで,本件商標の指定商品は「衛生マスク」の一種である「布製衛生マスク」であるところ,「衛生マスク」には,着用者の鼻及び口を覆う部分(以下「口あて部分」という。)と耳にかける部分(以下「耳かけ部分」という。)から構成されるものであるところ,その形状によって,「平面マスク」,「プリーツ型マスク」及び「立体型マスク」に大別され,そのうち「立体型マスク」は一般に顔の形に合わせた形状であって,口あて部分の前部がやや膨らんで,マスクと口元の間に空間を有するような立体的形状からなるものである。 また,「衛生マスク」には,一般に,そのフィット感を向上させるために,耳かけ部分に伸縮性のある素材を用いたものや,ひも状の耳かけ部分を採用し,そこにアジャスターを付けサイズ調整を可能にしたものが存在している。 そして,本件商標の指定商品「布製衛生マスク」との関係で,本件商標の立体的形状のうち,上記本件本体部分は,口あて部分であり,黒い小さな部品がアジャスターとして機能する上記本件ひも部分は,耳かけ部分であると客観的に理解できるものである。 そこで,本件商標と一般的な「立体型マスク」とを比較すると,いずれも,口あて部分と耳かけ部分から構成されているところ,口あて部分は人間の顔の形に合わせた形状であることや,前部が膨らんでいて,マスクと口元の間に空間を有するという点において共通するものであり,その共通する形状は,花粉,埃などを吸入しないようにすることや,咳やくしゃみの飛沫が飛散することを防ぐために,顔との密着性を高めたり,装着時の息苦しさを緩和させることなどを目的とした「立体型マスク」の基本的な形状であって,当該商品の機能を効果的に発揮させるために通常採用されている形状といえるものである。 また,本件商標の本件ひも部分に付けられたアジャスターは,耳の上下を通る2本のひもを通し,アジャスターの固定位置を変更することによって,ひものサイズ調整ができるようにしたものであって,アジャスターの形状は,格別特異な形状をしたものではなく,本件ひも部分の形状も,格別特異な形状をしたものではない。 してみれば,本件商標の立体的形状は,「衛生マスク」の形状として,商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたと,客観的に理解できるものであるから,本件商標の指定商品の形状を普通に用いられる方法で表示するにすぎないというべきである。 そして,本件商標中,ピラミッド図形部分には,ピラミッド様の図形と当該ピラミッド様図形の頂点部分付近にリング状の図形が表されているから,自他商品の識別力を発揮するものとして認識されるものである。 (2)イ号標章について イ号標章は,別掲2のとおり,一辺を外側に湾曲させた略四角形状の布2枚を,それぞれの湾曲させた辺同士を接合(以下「イ号本体部分」という。)し,その左右に,小さな部品をつけたひも状のもの(以下「イ号ひも部分」)を取り付けた立体的形状よりなるものである。 そして,イ号標章が使用される商品「布マスク」との関係で,上記イ号本体部分は,口あて部分であり,小さな部品が付けられた上記イ号ひも部分は,耳かけ部分であると客観的に理解できるものである。 そうすると,このイ号標章の立体的形状は,本件商標の立体的形状と同様に,イ号標章が使用される商品「布マスク」の一種である「立体型マスク」の機能を効果的に発揮させるために通常採用されている形状といえるものである。 そして,その他に,イ号標章には,自他商品の識別力を発揮しうる部分は存在しないものである。 (3)イ号標章が本件商標の商標権の範囲に属するかについて 本件商標とイ号標章の立体的形状が類似するものであるとしても,これらの立体的形状は,本件商標の指定商品又はイ号標章の使用商品との関係において,商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたと,客観的に理解できるものであるから,イ号標章は,商品「布マスク」の形状を普通に用いられる方法で表示するにすぎないというべきであるから,商標法第26条第1項第2号に該当する。 (4)まとめ 以上のとおり,商品「布マスク」に使用するイ号標章は,商標法第26条第1項第2号に該当するから,本件商標の商標権の効力の範囲に属しないものである。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
別掲1 本件商標 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 別掲2 イ号標章 ![]() |
判定日 | 2020-11-10 |
出願番号 | 商願2017-44652(T2017-44652) |
審決分類 |
T
1
2・
9-
ZA
(W05)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 寺澤 鞠子、小田 昌子 |
特許庁審判長 |
佐藤 松江 |
特許庁審判官 |
平澤 芳行 須田 亮一 |
登録日 | 2017-10-20 |
登録番号 | 商標登録第5988821号(T5988821) |
代理人 | 篠崎 史典 |