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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W11
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W11
審判 全部無効 商3条1項4号 ありふれた氏、名称 無効としない W11
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W11
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W11
管理番号 1367152 
審判番号 無効2018-890088 
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-11-19 
確定日 2020-07-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第5989695号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5989695号商標(以下「本件商標」という。)は,「Nakagishi」の欧文字を標準文字により表してなり,平成29年1月18日に登録出願,第11類「電球類及び照明用器具,探照灯,懐中電灯,LEDを使用した懐中電灯,LED照明用器具,家庭用電熱用品類,家庭用加湿器,家庭用電気式加湿器,電気毛布(医療用のものを除く。),家庭用電気毛布,家庭用浄水器,太陽熱利用温水器,業務用加熱調理機械器具,業務用食器乾燥機,業務用食器消毒器,業務用衣類乾燥機,乾燥装置,換熱器,蒸煮装置,蒸発装置,蒸留装置,熱交換器」を指定商品として,同年7月27日に登録査定,同年10月20日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
本件審判請求人(以下「請求人」という。)が,本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は,請求人が「家庭用電熱用品類」について使用してきた商標であって,「NAKAGISHI」の欧文字,「ナカギシ」の片仮名又は「なかぎし」の平仮名からなる商標である。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第45号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標を無効とすべき具体的理由
ア 本件商標について
本件商標は,「Nakagishi」の欧文字を標準文字で横書きしてなり,平成29年(2017年)1月18日に登録出願され,同年10月20日に登録されたものである(甲1)。
そして,本件商標の指定商品は下記のとおりである。
「第11類 電球類及び照明用器具,探照灯,懐中電灯,LEDを使用した懐中電灯,LED照明用器具,家庭用電熱用品類,家庭用加湿器,家庭用電気式加湿器,電気毛布(医療用のものを除く。),家庭用電気毛布,家庭用浄水器,太陽熱利用温水器,業務用加熱調理機械器具,業務用食器乾燥機,業務用食器消毒器,業務用衣類乾燥機,乾燥装置,換熱器,蒸煮装置,蒸発装置,蒸留装置,熱交換器」
イ 引用商標との類否について
引用商標は,有限会社ナカギシ(後に「株式会社なかぎし」へ組織変更。以下「ナカギシ社」という。)及び当該法人より事業を譲り受けた請求人が,2001年(平成13年)以降,17年間にわたり,「家庭用電熱用品類」について継続して使用してきた商標であって,その具体的態様は,後に示すカタログや会社案内,各種取引書類等に表示されているところであるが,「NAKAGISHI」,「ナカギシ」又は「なかぎし」の文字を左書きしてなる商標(以下,これらを「引用商標」という。)である。
そして,本件商標は,引用商標と同一の「ナカギシ」の称呼を生じるものである。
また,本件商標の指定商品は,第11類の「家庭用電熱用品類」を含むものであるところ,引用商標の使用商品は「家庭用電熱用品類」であり,引用商標の周知著名性からすれば,本件商標の「家庭用電熱用品類」はいうまでもなく,これ以外の第11類の指定商品についても,出所の混同を生じるものである。
なお,請求人は,第11類において「NAKAGISHI」の文字と欧文字の「A」,「N」及び「U」を三角形に積み上げたごとくの図形の右側に欧文字を「NAKAGISHI」を顕著に表示した商標を登録出願済みである(甲2の1)。
ウ 引用商標の使用について
引用商標は,ナカギシ社及び当該法人より事業を譲り受けた請求人が,電気製品について長年にわたり盛大に使用し,周知著名に至っている引用商標と類似するものである。
なお,ナカギシ社は,本書で提出した会社案内や電気製品の各種届出書等(甲2の2ないし甲22)に記載の日付・社名の表示を総合すれば,社名や住所が少なくとも次のとおりに変遷しており,また,引用商標の使用者は,ナカギシ社から請求人に切れ目なく移行しているものである。
エ 引用商標の使用と事業承継について
ナカギシ社は,その会社案内(甲2の2)に示すとおり,2001年(平成13年)に設立され,電気毛布,電気マット,電気足温器などの家電製品の製造販売の業務を行っていた。その代表者の氏名が「中岸篤史」であることからも分かるとおり,その社名は代表者の姓をとって名付けられたもので,「NAKAGISHI」,「ナカギシ」又は「なかぎし」の文字からなる商標をハウスマークとしていた。したがって,引用商標の使用開始は,少なくとも,平成13年(2001年)にまで遡ることができる。
そして,ナカギシ社は,平成15年(2003年)2月20日に,電気用品に表示する略称として,「ナカギシ」の文字を表示することについて,経済産業省の承認を受けた。(甲3)さらに,同18年(2006年)1月20日に,ナカギシ社は,種々の製品の安全検査と認証を行っている「財団法人電気安全環境研究所(JET)」より自社製品の認証を受けたが(甲7)。その際の認証申込書(甲6)には,製品銘板の表示例として「NAKAGISHI/電気かけしき兼用毛布」の文字が表示されることが明示されている。
平成22年(2010年)9月21日に,ナカギシ社は,自社製品の販売に関して,番組制作会社と契約し,スカイパーフェクトTVのテレビショッピング番組放送において,同年12月1日?同月31日の間で10回,75秒前後の番組の放送を行っている(甲9)。
そして,平成25年(2013年)10月8日に,その翌日を期日として,請求人は,ナカギシ社から営業の全部を譲り受ける契約を締結した(甲10)。この営業権の譲渡は,当該営業譲渡契約書の第3条第1項に記載のとおり,有償でなされている。現実に,平成25年(2013年)10月9日付けで,請求人は,近畿経済産業局に「電気用品製造事業承継届出書」を提出して,電熱器具について,ナカギシ社から事業を承継することが認められている(甲11)。
また,同日,請求人とナカギシ社とは,近畿経済産業局に対して,事業の全部の譲受があったことを証明している。
さらに,請求人とナカギシ社とは,平成25年(2013年)10月11日付けで,「一般財団法人電気安全環境研究所」に「認証に係る承継同意書」を提出している(甲13)。そして,平成26年(2014年)1月23日付けで,請求人は,「一般財団法人電気安全環境研究所」から「JET認証完了のお知らせ」(甲14)を受け,ナカギシ社から請求人へ認証取得者の名称変更が完了したのである。
オ 引用商標の周知著名性について
(ア)引用商標を使用した商品のカタログ,宣伝広告,販売サイトについて
ナカギシ社の商品カタログ(2008年9月現在)には,電気毛布,電気ひざ掛け,ホット足入れマット,電気マット,足入れヒーターなどの商品が掲載されている。当該カタログ表紙の左上には,「NAKAGISHI」の文字が表示されており,2ページ目中央右のコントローラーの写真では,「NAKAGISHI」の文字が小さく見て取れるものである(甲15)。
大手百貨店の高島屋の通信販売カタログ(2010年)には,ナカギシ社が販売する「NAKAGISHI」及び「なかぎし」文字からなる商標を使用したホットマルチヒーター(足温器)やホットマット,ホット脚入れヒーター,ホットマルチブランケット,電気ひざ掛け,電気毛布,ホット足入れマットなどが掲載されている(甲16の1)。
上記通信販売カタログの第37ページに掲載の,「(なかぎし)ホットマット」の製品のスイッチ部分には,「NAKAGISHI」の文字が表示されている(甲16の2)。
大手百貨店の三越の通信販売カタログ(2012年)には,ナカギシ社の脚入れ袋電気ホットヒーター,ホットマットが,甲第15号証に示すカタログに掲載された商品と同一の型番(「NA-?」)で掲載されている(甲17)。
2016年に,請求人は,毎日新聞社の通信販売折込みチラシにホットマルチヒーター(足温器)の販売広告を掲載した。当該商品は,甲第16号証の1に示す通信販売カタログに掲載のホットマルチヒーター(足温器)と同じ商品である(甲18,甲19)。
2017年発行の雑誌レタスクラブに,請求人の「NAKAGISHI」ブランドの電気ひざ掛けの広告が1ぺ-ジ全段で掲載された(甲20)。
甲第21号証は,請求人の「電気暖房器具総合カタログ2017-2018」である。請求人は,ナカギシ社から事業を承継した後,製造販売に係る電気暖房器具のバリエーションを広げつつあり,使用商標は,都合により「NAKAGISHI」から「Sugibo」又は「Sugiyama」へ変更したばかりである(甲22)。請求人が製造販売する,引用商標を使用した家庭用電熱用品類の販売数が相当なものであることは,通信販売サイト「Amazon」のカスタマーレビューの数からもうかがい知れることである。すなわち,甲第23号証の1は,2017年11月時点での,同通信販売サイトにおける「なかぎし敷き毛布NA-023S」の販売画面であるところ,請求人は,この頃までは,「なかぎし」の文字からなる商標も使用してきたのである。この製品コントローラーには,他の商品と同じように「NAKAGISHI」の文字が表示されている。当該製品のカスタマーレビューは,1097件に達しており,レビューを書いた需要者は,全商品購入者の一部の者であるから,現実に当該製品を購入した人数は,1097件を遥かに超えていると容易に推定することができる。
現在,上記サイトの当該製品は,請求人が引き継いで製造販売しており,「Sugiyama 敷き毛布 NA-023S」と表示して販売され,そのカスタマーレビューは,200件近く増えて1280件に達している(甲23の2)。上記サイトで,当該製品の販売がいつ頃まで遡ることができるかといえば,カスタマーレビューを「新しい順」に並べ替えて,最も古いカスタマーレビューを表示したならば(甲23の3)のレビューの日付は「2011年11月3日」となっており,この当時は,商品の販売者は「株式会社なかぎし」であった。つまり,この上記サイトの当該商品のみを見ただけでも,「NAKAGISHI」の欧文字の商標は,少なくとも6年間ほど使用されており,商品が盛大に販売されてきたことが首肯し得るものである。
甲第24号証の1は,2017年11月時点での,上記通信販売サイ卜における「なかぎし 電気ひざ掛け毛布 レッド NA-055H-RT」の販売画面であるところ,やはり,請求人は,この頃までは,「なかぎし」及び「ナカギシ」の文字からなる商標を使用してきたのである。当該製品のカスタマーレビューは,447件に達しており,レビューを書く需要者は商品購入者の一部であるので,現実に当該製品を購入した人数は,447件を遥かに超えていると容易に推定される。現在,上記サイトの当該製品は,請求人が引き継いで製造販売しており,「Sugiyama電気ひざ掛け毛布レッドNA-055H-RT」と表示して販売されており,そのカスタマーレビューは,100件近く増えて538件に達している(甲24の2)。上記サイトで,当該製品のカスタマーレビューを「新しい順」に並べ替えて,最も古いカスタマーレビューを表示すると(甲24の3),そのレビューの日付は「2013年(平成25年)10月9日」となっており,この日付は,請求人が「株式会社なかぎし」から営業譲渡を受けた日に遡ることができる。つまり,この上記サイトの当該商品を見ただけでも,「なかぎし」又は「ナカギシ」の仮名文字からなる商標は,少なくとも4年ほど使用されており,商品が盛大に販売されてきたことが認められる。
以上の事実から,引用商標は,少なくとも,ナカギシ社が設立された平成13年(2001年)には使用が開始され,遅くともその営業権が請求人に有償で譲渡された平成25年(2013年)には,需要者及び取引者の間に広く認識され,現実に経済的価値が認められる程度に信用が蓄積された周知商標となっていたものである。その後,その事業を譲り受けた請求人が継続的に且つ盛大に使用した結果,引用商標は,これに化体した信用がさらに増大し,引用商標の登録出願時には,直ちに請求人の取扱いに係る家庭用電熱用品類を表示するものとして,需要者及び取引者の間に広く認識された周知著名商標として不動の地位を獲得していたものである。
(イ)売上高について
甲第25号証ないし甲第35号証に示す一覧表は,株式会社なかぎし及び請求人が引用商標を使用した家庭用電熱用品類の販売数及び売上高について各年度の商品販売数量及び売上高を一覧表にして集計したものである。
有限会社ナカギシが引用商標を最初に使用開始した2001年当時の古いデータは散逸してしまったが,「株式会社なかぎし(有限会社ナカギシが改称)」が引用商標を使用していた「2008年5月1日?2018年4月30日」から,その後,その営業を承継した請求人が引用商標を使用してきた「2013年10月1日?2018年4月30日」までの10年間を各年毎に,「商品別得意先別売上集計表」に集計している。
この10年間の総合計では,商品販売数量が「189万件」,総売上高が「39億円」を超えている。しかも,その製造販売商品は,「電気敷毛布,電気掛敷兼用毛布,電気ひざ掛け,ホットキッチンマット,脚入れヒーター,足入れマット,電気足温器」などの「家庭用電熱用品類」に特化したものである。
言い換えれば,取扱商品が「家庭用電熱用品類」に限られているにもかかわらず,10年間の総販売数量又は総売上高が「189万件」又は「39億円」にも達しているのである。この販売数量及び売上高は,10年間,堅調に推移しており,特に請求人が事業を承継した2013年10月以降は,毎年,安定した数字を計上している。
(ウ)結論
以上の事実から,引用商標は,有限会社ナカギシが設立された平成13年(2001年)には使用が開始された後,遅くともその営業権が有償で譲渡された平成25年(2013年)には,需要者及び取引者の間に広く認識され,現実に経済的価値が認められる程度に信用が蓄積された周知商標となっていたものである。その後,その事業を譲り受けた請求人が継続的に且つ盛大に使用した結果,引用商標は,これに化体した信用がさらに増大し本件商標の登録出願時には,直ちに請求人の取扱いに係る家庭用電熱用品類を表示するものとして,需要者及び取引者の間に広く認識された周知著名商標として不動の地位を獲得していたみるべきものである。
このように,引用商標は,家庭用電熱用品類を中心に盛大に使用された結果,一般需要者及び取引者の間においては,請求人は「家庭用電熱用品類」の有名専門メーカーであって,かつ,引用商標は,「家庭用電熱用品類」の周知著名な商標であるとの共通認識が確立されており,引用商標には,業務上の信用が十分に化体しているものとみるべきである。
カ 商標法第4条第1項第10号(他人の周知商標)について
上記の事実より,引用商標は周知著名なものとみるべきものであり,本件商標は,未登録の周知著名な引用商標と同一又は類似の商標であって,指定商品も類似するものである。
したがって,本件商標は,他人の周知商標と同一又は類似の商標であって,商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
キ 商標法第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)について
引用商標は,平成13年(2001年)には使用が開始され,遅くともその営業権が有償で譲渡された平成25年(2013年)には,需要者及び取引者の間に広く認識され,現実に経済的価値が認められる程度に業務上の信用が蓄積され,その後もさらに継続的に使用された結果,本件商標の登録出願時点では周知著名商標として不動の地位を獲得していたものである。
本件商標は,周知著名な引用商標と同一又は類似するものであるから,本件商標がその指定商品について使用された場合,商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号の規定に該当するものである。
ク 商標法第4条第1項第19号(他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用をする商標)について
上述のとおり,引用商標は,電気毛布,電気マット,電気足温器などの家庭用電熱用品類を中心に盛大に使用され,周知著名に至っているものである。
そして,本件商標は「Nakagishi」の文字より構成されるものであり,引用商標の一つと同一のつづりであるか,または,同一称呼を生ずるものである。
このような本件商標は,偶然ではあり得ず,本件商標を登録出願又は登録する行為は,請求人の商標を剽窃し,自己の立場を有利にするため,あるいは,経済的利益のための不正の目的があるものと考えざるを得ない。
引用商標は,その営業権が譲渡された平成25年(2013年)には需要者及び取引者の間に広く認識され,有償で営業権が譲渡される程度に社会的経済的価値が発生していたものであり,引用商標と全く無関係な第三者が,本件商標を登録出願又は登録する行為は,請求人の商標及びこれに化体した業務上の信用を剽窃するものであって,不正の目的があるものと認められる。
したがって,本件商標は,他人の周知商標と同一又は類似するもので,不正の目的をもって使用する商標に該当するものであり,商標法第4条第1項第19号の規定に該当するものである。
ケ 商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)について
引用商標は,本件商標の登録出願時には,既に周知著名なものに至っているものである。
他人の周知著名な商標であることを知りながら,自己の商標として登録出願する行為は,公序良俗に反するものである。被請求人のように,他人の商標が登録されていないことを奇貨として,不正の利益を得る目的で登録出願することは,公正な取引秩序を乱すおそれがあり,取引秩序の維持という商標法の目的に反するものである。
そして,被請求人の中国法人は,最近これと全く同一称呼を生ずる商標を電気製品について登録出願又は登録している(甲36,甲37)。
特に,第11類における商標は,その指定商品に請求人が扱う電気製品を数多く含むものである(甲36)。これらの商標の登録出願又は登録については,請求人は,強い憤りを感じていることはもちろん,特に,甲第36号証に示す登録出願された商標については,平成30年8月30日付け及び同年10月26日付けをもって,本請求書と同主旨の刊行物等提出書を提出した。そして,被請求人は,これら商標に続いて「NAKAGISHI」の欧文字の字音を平仮名で表した商標を登録出願したのである。
被請求人のこれら商標は,いずれも,請求人の商標と酷似するもので,偶然の一致とは考えられないものである。
しかも,「NAKAGISHI」,「なかぎし」又は「ナカギシ」の文字は,元の商標使用者の「株式会社なかぎし(有限会社ナカギシ)」の社名の略称であって,その代表者の姓「中岸」を欧文字で表したものであるから,これら商標使用者との関連においては独自性があり,商標採択の必然性もあったのである。
ところが,中国籍の被請求人にとっては,これらつづりの商標は,中国語としても不自然な称呼である上に,何ら商標採択の必然性がないから,明らかに,請求人の商標を剽窃・冒用し,その周知著名性にフリーライドする意図があるとみるべきである。
なお,商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)の規定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,公益的事由により禁止される商標に止まらないものであることは,特許庁での次の異議決定の例からも首肯し得るものである(甲38,甲39)。
上記異議決定の判断例に照らしても,本件商標は,商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,かつ,剽窃的なものであり,その商標登録を認めることは,商取引の秩序を乱すものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反するものとみるべきである。
さらに,特許情報プラットフォームの商標検索において,「家庭用電熱用品類」の類似群コードである「11A06」を入力して,「ナカギシ」,「スギボー」(請求人が新たに採用した商標,甲21,甲22)又は「スギヤマボーショク」(請求人の略称)の「称呼(単純文字列検索)」の検索をすると,請求人と「川本貴土」氏との両者によって,複数の商標が出願又は登録されていることが判明する(甲40)。
しかも,被請求人と川本貴土氏との商標は,商標が同一又は類似のものであっても,互いに指定商品及び指定役務は類似していない。甲第40号証の2及び3に示す「椙山紡織」の文字からなる登録出願された商標に至っては,第11類の家庭用電熱用品類他の電気製品を指定商品とするもの,又は,第35類の小売等役務等を指定役務とするものであり,構成文字の「椙山」の文字部分は,本出願人の代表取締役である「椙山良三」の姓そのものであって,本出願人の社名「椙山紡織株式会社」が代表取締役の姓「椙山」にちなんだものであることは明らかであるのに対して,「椙山紡織」の文字からなる上記2件の登録出願された商標は,出願人たる川本貴土氏とは,何ら関係の無い文字であるから,川本貴土氏にとってこれら登録出願された商標を採択する理由はまったく見当たらないのである。
このような,請求人に関係の深い構成文字からなる商標を,これを採択する理由が見当たらない第三者が登録出願又は登録するという構図は,さきに述べた本件商標と引用商標との関係とまったく同じ構図である。
これら状況を総合すると,あたかも,被請求人と川本貴士氏が事前に相談して,請求人が使用してきた商標,あるいは,使用を開始した商標を先回りして集中的に剽窃せんとしているかのごとくの印象が拭えないものである。これら状況についても,請求人にとっては,まったく憤まんの念に堪えないものである。
以上のとおり,本件商標は,請求人の商品を表示するものとして,需要者及び取引者の間に広く認識されるに至っている商標と同一又は類似するものである。
そして,被請求人は,本件商標を登録出願するに際して,請求人の承認を得ていない,つまり,無断で登録出願に至ったものであり,著しく社会的相当性を欠くものである。
したがって,本件商標は,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものであって,商標法第4条第1項第7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。
コ 商標法第3条第1項第4号(ありふれた氏又は名称)について
ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」については,商標法第3条第1項第4号の規定に該当し,出願拒絶とされるべきである(甲41)。
これは,たとえ,ありふれた氏又は名称をローマ字又は仮名文字で表示したとしても,「普通に用いられる方法で表示する」ものに該当し,商標法第3条第1項第4号の規定が適用されるのである。
そして,このことは,第24類において,被請求人が出願した「Nakagishi」の欧文字からなる商標(商願2017-3807号,甲42)が拒絶査定を受けて拒絶が確定していることからもいえることである。
その拒絶の理由は「この商標登録出願に係る商標は,『Nakagishi』の欧文字を標準文字で現してなるところ,これはありふれた氏である『中岸』『仲岸』の欧文字表記と認められることから,当該文字は,ありふれた氏普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものというのが相当です。したがって,この商標登録出願に係る商標は,商標法第3条第1項第4号に該当します。」である(甲43)。
本件商標は,「中岸」,「仲岸」の姓を仮名文字表記したにすぎないものであり,上記審査例からしても,やはり,商標法第3条第1項第4号の規定に該当するものである。
なお,前述したとおり,株式会社なかぎし(有限会社ナカギシ)の代表者の姓も「中岸」である(甲2の2,甲3,甲4,甲9,甲10,甲12,甲13)。
そして,「中岸」姓を有する人の数を調べると,全国で約600人に達する(甲44)。
また,「仲岸」姓を有する人の数を調べると,全国で約40人に達する(甲45)。
そうすると,「中岸」,「仲岸」の両姓を合わせると,全国で約640人にも達し,その分布をみると,特に関西地域や四国に集中している(甲44,甲45)。
このような事実からしても,本件商標は,ありふれた姓の「中岸」又は「仲岸」を欧文字で表したものとみるべきである。
したがって,本件商標は,商標法3条1項4号の規定に該当するものである。
(2)むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第19号,同項第7号及び同法第3条第1項第4号の規定に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項の規定により,無効とすべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判請求に対して,何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 請求の利益について
請求人が本件審判を請求することの利害関係の有無については,被請求人から答弁がなく,また,請求人の提出に係る証拠を総合すれば,請求人は本件審判について請求人適格を有するものと認められる。
よって,以下,本案に入って審理する。
2 商標法第3条第1項第4号該当性について
本件商標は,「Nakagishi」の欧文字を標準文字で表してなり,その構成文字に相応して「ナカギシ」の称呼を生ずるところ,該文字は,我が国の一般的な辞書にはその記載がない。
また,請求人提出の証拠(「日本姓氏語源辞典」:甲44,甲45)によれば,「中岸」姓の数は,全国で約600人で順位は11,409位,「仲岸」姓の数は,全国で約40人で順位はランク外との記載がある。
そうすると,姓氏の一である「中岸」又は「仲岸」は,さほど多い姓氏ということはできないばかりでなく,本件商標よりは,直ちに「中岸」又は「仲岸」の姓氏を表したものと想起,認識させるともいい難いものである。
してみれば,本件商標は,姓氏の1つである「中岸」又は「仲岸」に通ずる場合があるとしても,単にありふれた氏普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないものであって,自他商品の識別標識としての機能を有しないとはいえない。
その他,本件商標が,ありふれた氏普通に用いられる方法で表示したものであることを具体的に示す証左はない。
したがって,本件商標は,ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず,商標法第3条第1項第4号に該当しない。
3 引用商標の周知著名性について
請求人の提出した証拠及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
(1)引用商標の使用について
ア 請求人は,株式会社なかぎしとの営業譲渡契約(甲10)を締結し,引用商標を,「電気毛布,電気敷き毛布,電気ひざ掛け,ホット足入れマット,電気マット」などの家庭用電気製品について使用している(甲2の2?甲22)。
イ 株式会社なかぎしは,同社の会社案内(甲2の2)によれば,2001年(平成13年)1月13日に設立され,家電製品の製造・販売,商品開発・輸入販売を事業内容とするものである。その社名は代表者の姓をとって名付けられたもので,「NAKASHI」,「ナカギシ」又は「なかぎし」の文字からなる引用商標をハウスマークとしていた(請求人の主張)。
しかし,上記会社案内の作成日,作成部数,配布先等は不明である。
ウ 有限会社ナカギシ(請求人の主張によれば,「株式会社なかぎし」への組織変更前の名称。)は,平成15年(2003年)2月20日に,電気用品(電熱器具)に表示する略称を「ナカギシ」とすることについて,経済産業大臣の承認を受けた(甲3)。
エ 平成18年(2006年)1月20日に,有限会社ナカギシは,「財団法人電気安全環境研究所」より自社製品の認証を受けたが(甲7),その際の認証申込書の製品銘板への表示例には,「NAKAGISHI」及び「電気かけしき兼用毛布」の記載がある(甲6)。
オ 平成22年(2010年)9月21日に,株式会社なかぎしと株式会社スタジオGは,スカイパーフェクトTV内放送用番組「トレンドステーション」の映像制作及び放送に関し,2010年(平成22年)12月1日?同月31日の間で全10回,1回につき75秒前後の放送を行うことを契約している(甲9)。
しかし,当該放送の具体的な内容は不明である。
カ 平成25年(2013年)10月8日に,その翌日を期日として,請求人は,株式会社なかぎしから営業の全部を譲り受ける契約を締結した(甲10)。
キ 平成25年(2013年)10月9日付けで,請求人は,近畿経済産業局長に「電気用品製造事業承継届出書」を提出して,電熱器具について,株式会社なかぎしから事業を承継すること届け出ている(甲11,甲12)。
ク 請求人と株式会社なかぎしは,平成25年(2013年)10月11日付けで,「一般財団法人電気安全環境研究所」に「認証に係わる承継同意書」を提出している(甲13)。
そして,翌平成26年(2014年)1月23日付けで,請求人は,「一般財団法人電気安全環境研究所」から「JET認証完了のお知らせ」(甲14)を受け,株式会社なかぎしから請求人へ認証取得者の名称変更が完了した。
(2)引用商標を使用した商品のカタログ,宣伝広告,販売サイトについて
ア 株式会社なかぎし作成の電気製品総合カタログ(2008年(平成20年)9月現在)の表紙の左上には「NAKAGISHI」の表示があり,2ページ以降には,電気毛布,電気ひざ掛け,ホット足入れマット,電気敷きパッド,パーソナルマット,ホットマットなどの商品が掲載されている(甲15)。
しかし,上記電気製品総合カタログの作成部数,配布先,配布範囲等は不明である。
イ 高島屋の通信販売カタログ(2010年(平成22年)秋冬号)の36ページには,商品「ホットマルチヒーター」の写真,37ページには,商品「ホットマット」,「ホット脚入れヒーター」及び「ホットテーブル下マット」の写真,38ページには,商品「ホットマルチブランケット」の写真,39ページには,「電気敷毛布」,「電気毛布」及び「ホット足入れマット」の写真が掲載され,それぞれに「NAKAGISHI」及び「(なかぎし)」の表示がある(甲16の1)。
しかし,上記通信販売カタログには,請求人以外の商品も多数掲載されている。
ウ 上記通信販売カタログの37ページに掲載の「ホットマット」のスイッチ部分を拡大した画像には,「NAKAGISHI」の文字が表示されている(甲16の2)。
しかし,上記画像の撮影日,撮影場所,撮影者等は不明である。
エ 株式会社三越伊勢丹の通信販売カタログ(2012年(平成24年)秋冬号)には,甲第15号証に示す電気製品総合カタログに掲載された商品と同一の型番の脚入れ袋電気ホットヒーター,ホットマットが掲載されている(甲17)。
しかし,上記通信販売カタログからは,引用商標の表示を確認することはできず,当該カタログには,請求人以外の商品も多数掲載されている。
オ 毎日新聞社作成の2016年(平成28年)の通信販売折込みチラシには,甲第16号証の1に示す通信販売カタログに掲載のホットマルチヒーターと同型の商品が掲載されている(甲18,甲19)。
しかし,上記折込みチラシからは,引用商標の表示を確認することはできず,当該チラシには,請求人以外の製品も多数掲載されている。
カ 株式会社KADOKAWA発行の雑誌レタスクラブ(2017 Vol.863 1/25)には請求人の電気ひざ掛けの広告が1ぺ-ジ全段で掲載され,「NAKAGISHIの『電気ひざ掛け』」の記載がある(甲20)。
しかし,上記雑誌の発行部数,販売地域等は不明である。
キ 請求人の「電気暖房器具総合カタログ2017-2018」には「あったか脚入れヒーター」,「電気ひざ掛け」,「あったか寝ころんぼマット」,「ホットマルチヒーター」などの商品が掲載されている(甲21)。
しかし,上記電気暖房器具総合カタログからは,引用商標の表示を確認することはできず,また,当該カタログの作成部数,配布範囲,配布先等は明らかでない。
ク 請求人のウェブサイト(2018年(平成30年)8月27日打ち出し)の商品ラインアップには,「電気パーソナルマット」,「電気ひざ掛け」,「電気足温器」,「ホットマット」,「電気毛布」等の商品が掲載されていること,また,会社案内のごあいさつの欄には,「2013年,主力販売先で,電気毛布関連商品・温熱マット等の製造販売をしていた株式会社なかぎしから,工場及びNAKAGISHIブランド商品の製造販売権を買い取ることとなり,・・・また,2018年からは,NAKAGISHIというブランド名が,役割を終えた会社名に由来することから,順次Sugiyamaブランドに変更する作業に入って参ります。」との記載がある(甲22)。
ケ Amazonのウェブサイト(2017年(平成29年)11月9日印刷)には,「なかぎし【水洗いOK】敷き毛布」の記載及び「敷き毛布」の写真が掲載されている(甲23の1)が,当該商品の掲載日は不明である。
請求人は,当該製品のカスタマーレビューは,1097件に達しており,レビューを書いた需要者は,全商品購入者の一部の者であるから,現実に当該製品を購入した人数は,1097件を超えている旨及び現在,同サイトの当該製品は,請求人が引き継いで製造販売しており,「Sugiyama 敷き毛布 NA-023S」と表示して販売され(甲23の2),そのカスタマーレビューは,200件近く増えて1280件に達している旨主張している。
しかし,請求人の業務に係る家庭用電気製品等に関する市場規模,市場シェアは不明である。
コ Amazonのウェブサイト(2017年(平成29年)11月9日印刷)には,「なかぎし 電気ひざ掛け毛布」の記載及び「電気ひざ掛け毛布」の商品が掲載されている(甲24の1)が,当該商品の掲載日は不明である。
請求人は,当該製品のカスタマーレビューは,447件に達しており,レビューを書く需要者は商品購入者の一部であるので,現実に当該製品を購入した人数は,447件を遥かに超えている旨及び現在,同サイトの当該製品は,請求人が引き継いで製造販売しており,「Sugiyama電気ひざ掛け毛布レッドNA-055H-RT」と表示して販売されており(甲24の2),そのカスタマーレビューは,100件近く増えて538件に達している旨主張している。
しかし,請求人の業務に係る家庭用電気製品等に関する市場規模,市場シェアは不明である。
サ 請求人は,株式会社なかぎしが引用商標を使用していた「2008年5月1日?2013年9月30日」から,その後,その営業を承継した請求人が引用商標を使用してきた「2013年10月1日?2018年4月30日」までの10年間の総合計では,商品販売数量が「189万件」,総売上高が「39億円」を超えている旨(甲25?甲35)及びその製造販売商品は,「電気敷毛布,電気掛敷兼用毛布,電気ひざ掛け,ホットキッチンマット,脚入れヒーター,足入れマット,電気足温器」などの「家庭用電熱用品類」に特化したものである旨主張する。
しかし,甲第25号証ないし甲第35号証の商品別得意先別売上集計表に記載の数字を裏付ける具体的,客観的な証拠の提出はない。
シ 以上によれば,株式会社なかぎし及びその承継人である請求人は,遅くとも2008年(平成20年)9月頃から2017年(平成29年)頃までは,引用商標を「電気毛布,電気敷き毛布,電気ひざ掛け,ホット足入れマット,電気マット」などの家庭用電気製品について使用していたといえるが,その後,請求人が現在まで継続して引用商標を使用しているといった状況は見出せない。また,商品別得意先別売上集計表(甲25?甲35)に記載の販売数量や総売上高等を裏付ける具体的,客観的な証拠や市場シェアなどの販売実績を示す証拠や広告宣伝の費用,回数など,商標の使用の事実を量的に把握することができる証拠の提出はなく,また,同業他社の売上高等は不明であり,商品の販売におけるシェアなども比較することができないから,リストに記載された金額の多寡について評価することはできない。
そうすると,引用商標が我が国又は外国において著名商標であることを立証する証拠としては不十分なものといわざるを得ない。
したがって,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,我が国及び外国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
4 本件商標と引用商標との類似性
(1)本件商標
本件商標は,上記第1のとおり,「Nakagishi」の欧文字を横書きした構成からなるものであるところ,該文字は,既成の語として一般の辞書類に掲載がなく,特定の意味を有する成語として親しまれているものでもないから,一種の造語と認められるものである。
したがって,本件商標は,その構成文字に相応して,「ナカギシ」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標
引用商標は,上記第2のとおり,「NAKAGISHI」の欧文字,「ナカギシ」の片仮名又は「なかぎし」の平仮名を横書きした構成からなるものである。
そして,該各文字は,既成の語として一般の辞書類に掲載がなく,特定の意味を有する成語として親しまれているものでもないから,一種の造語と認められるものである。
したがって,引用商標は,その構成文字に相応して,「ナカギシ」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標とを比較すると,両者の外観は,「Nakagishi」と「ナカギシ」又は「なかぎし」との比較においては,欧文字と片仮名又は平仮名の差異を有するから,判然と区別し得るものであるが,「Nakagishi」と「NAKAGISHI」との比較においては,そのつづりが共通するものであるから,外観上,近似するものである。
そして,両商標は,「ナカギシ」の称呼を共通にし,観念においては,ともに造語であり比較できないものであるが,両者の外観,称呼及び観念等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すれば,両者は相紛れるおそれのある類似のものと判断するのが相当である。
そうすると,本件商標は,引用商標との類似性が比較的高いものである。
(4)本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品との類否について
本件商標の指定商品中には,第11類「家庭用電熱用品類」が含まれているところ,引用商標の使用に係る請求人商品は,「電気毛布,電気ひざ掛け,ホット足入れマット,電気マット」等で「家庭用電熱用品類」に含まれるものであるから,用途,目的,需要者等を共通にするものであり,これらの商品は,同一又は類似の商品ということができる。
5 商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標と引用商標とは,上記4(3)のとおり類似するものであり,上記4(4)のとおり本件商標の指定商品と引用商標の請求人商品とが類似する。
しかしながら,本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するものというためには,引用商標が,請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることが求められるところ,上記3のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時において我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものであるから,商標法第4条第1項第10号の要件を欠くものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標の登録出願時において,引用商標が我が国の需要者の間に広く認識されていたものとは認められないことは,上記3のとおりである。
してみれば,本件商標と引用商標とは,上記4(3)のとおり互いに類似する商標であり,上記4(4)のとおり本件商標の指定商品と引用商標の請求人商品とが類似し,需要者が共通するとしても,引用商標は,我が国の需要者の間に広く認識されていたものではないから,本件商標をその指定商品中のいずれの商品に使用しても,これに接する需要者が,引用商標を想起し連想して,当該商品を,請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じるおそれがある商標ということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
7 商標法第4条第1項第19号該当性について
本号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そうすると,上記3のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,我が国及び外国の需要者の間に広く認識されているものとは認められないものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
また,請求人が提出した証拠からは,本件商標権者が,本件商標を不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
8 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き,その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には,その商標は商標法第4条第1項第7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし,同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として,商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,及び,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が同法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第616号,平成15年5月8日判決)。
本件において,請求人は,被請求人は,本件商標を登録出願するに際して,請求人の承認を得ていない,つまり,無断で登録出願に至ったものであり,著しく社会的相当性を欠くものである。したがって,本件商標は,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものであって,商標法第4条第1項第7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当する旨主張する。
しかしながら,上記3のとおり,本件商標の登録出願時において,引用商標が周知著名なものではなく,請求人提出に係る全証拠を勘案しても,被請求人が本件商標を登録出願し,登録した行為は,引用商標の顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)することを意図し,引用商標を剽窃して登録出願されたものと認めるに足る具体的事実を見いだすことはできない。
また,請求人は,引用商標の使用開始に当たって,その商標を自ら登録出願する機会は十分にあったというべきであって,自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求めるべき具体的な事情を見いだすこともできない。
そうすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るような,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるということはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。
さらに,本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょう激又は他人に不快な印象を与えるようなものでないこと明らかであり,さらに,その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くなど,公序良俗に反するものというべき証左も見いだせない。
してみると,請求人の主張するところをすべて考慮しても,本件商標の登録出願から商標権取得に至る行為を不当,不徳義と評価することはできないし,かつ,本件商標の登録出願が不正の目的でなされたと断定することもできないから,本件商標を登録出願し商標権を取得した行為が著しく社会的妥当性を欠き,その登録を容認することが商標法の目的に反するということはできない。
なお,請求人は,特許情報プラットフォームの商標検索において,「家庭用電熱用品類」の類似群コードである「11A06」を入力して,「ナカギシ」,「スギボー」(本請求人が新たに採用した商標,甲21,甲22)又は「スギヤマボーショク」(本請求人の略称)の「称呼(単純文字列検索)」の検索をすると,本請求人と「川本貴土」氏との両者によって,複数の商標が出願又は登録されており(甲40の1?3),しかも,被請求人と川本貴土氏との商標は,商標が同一又は類似のものであっても,互いに指定商品及び指定役務は類似していないことから,被請求人と川本貴士氏が事前に相談して,本請求人が使用してきた商標,或いは,使用を開始した商標を先回りして集中的に剽窃せんとしているかのごとくの印象が拭えないものである旨主張している。
しかしながら,それらは,いずれも本件商標とは構成態様を異にし,登録出願又は登録に至った事情も異なるものであるから,本件とは事案を異にするものというべきであり,仮に,被請求人が請求人の主張しているような商標の登録出願をしていたとしても,そのことから直ちに,本件商標の登録出願が不正の目的(不正競争の目的)をもってなされたものとはいえないから,請求人の主張は,採用することができない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
9 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第4号並びに同法第4条第1項第7号,同項第10号,同項第15号及び同項第19号に該当するものではなく,その登録は同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2020-05-20 
結審通知日 2020-05-25 
審決日 2020-06-15 
出願番号 商願2017-3806(T2017-3806) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (W11)
T 1 11・ 14- Y (W11)
T 1 11・ 25- Y (W11)
T 1 11・ 271- Y (W11)
T 1 11・ 22- Y (W11)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 光治 
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 小俣 克巳
薩摩 純一
登録日 2017-10-20 
登録番号 商標登録第5989695号(T5989695) 
商標の称呼 ナカギシ 
代理人 鮫島 武信 

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