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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W43
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W43
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W43
管理番号 1367066 
審判番号 無効2019-890055 
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-09-25 
確定日 2020-09-23 
事件の表示 上記当事者間の登録第5988898号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5988898号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5988898号商標(以下「本件商標」という。)は,「出張バーベキュー満福」の文字を横書きしてなり,平成29年2月18日に登録出願,第43類「飲食物の提供,展示施設の貸与,家庭用電気トースターの貸与,家庭用電子レンジの貸与,家庭用ホットプレートの貸与,業務用加熱調理機械器具の貸与,加熱器の貸与,食器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,敷物の貸与,おしぼりの貸与,タオルの貸与,バーベキューコンロ及びバーベキューグリルの貸与」を指定役務として,同年9月14日に登録査定,同年10月20日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
本件審判請求人(以下「請求人」という。)が,本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は,「出張バーベキュー満福」の文字からなるもの(以下「引用商標」という。)であり,請求人がその業務に係る出張バーベキュー事業(顧客の注文により顧客の指定する日時,場所にバーベキューセット(食材,器具備品,食器等)を配送提供,器具備品設置,後片付け,器具備品類の回収をする事業。以下「出張バーベキュー事業」という。)のフランチャイズ事業に使用していると主張するものである。

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1 利害関係
請求人は,平成15年6月6日に成立した有限会社であり,北九州市内において焼肉店「満福」を経営する他,出張バーベキュー事業を「満福」という名称を用いて,平成23年よりフランチャイズ展開を行っている(甲1)。他方,被請求人は,請求人と平成27年5月13日にフランチャイズ契約(以下「本件フランチャイズ契約」という。)を締結した,いわゆるフランチャイジーであり(甲2「兵庫県フランチャイズ契約書」(以下「本件契約書」という。),甲3「満福出張BBQ事業 業務契約に関する覚書 第1号」(以下「本件覚書」という。)),平成29年2月18日に本件商標を請求人に無断で商標登録出願したもの(甲4)である。
請求人は,事業展開以降使用していた図形商標について,平成30年1月22日に商標登録出願したものの,本件商標との類似性を理由に,拒絶査定を受けている(甲5)。
このように,請求人は本件商標を理由として商標登録を拒絶されるという不利益を被っているのであるから,本件商標を無効にする利害関係を有している。
2 商標法第4条第1項第7号該当性
(1)被請求人は,請求人のフランチャイジーであり,請求人が使用している商標を商標登録出願する権利を有していないことは明らかである。実際,本件契約書第1条3項では,フランチャイジーがフランチャイザーである請求人の事前の書面による承諾なく,請求人の使用する商標と同一又は類似の商標を自己のものとして登録してはならないと規定されている(甲2)。被請求人は,まさに本件契約書で明確に禁止している行為を行ったものであり,契約当事者の信頼関係を大きく毀損する社会通念上容認できないものである。
(2)請求人は,被請求人の商標登録出願を把握したのち,自らも使用する図形商標(以下「別件図形商標」という。)について商標登録出願するとともに,被請求人に対して本件商標の移転登録を求めていた。しかしながら,被請求人は本件商標の移転登録には一切応じなかった。その上で,年間700万円もの商標使用料をフランチャイザーである請求人に請求してきた(甲6)。請求人は被請求人との信頼関係が完全に破壊されてしまったため,令和元年9月14日に本件フランチャイズ契約を解除せざるを得ない事態に至った。
(3)以上の事実経過に照らすと,フランチャイジーとして,請求人が使用する商標の保有,管理を妨げてはならない信義則上の義務を負う被請求人が請求人の営業に重大な不利益をもたらし得る商標登録出願を行い,これを契機として,請求人に年間700万円もの金銭を請求して,本件商標の移転登録を拒否していることから,被請求人が請求人から不当に金銭を得る目的で本件商標の登録出願を行ったものであることは明白である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第10号該当性
本件商標は,本件契約書から明らかなとおり,本来フランチャイザーである請求人の商標であり,フランチャイジーである被請求人は,請求人の商標を貸与(使用許諾)されているにすぎないから,被請求人からすれば,本件商標はあくまで「他人の商標」である。
そして,請求人は被請求人と本件フランチャイズ契約を締結する2年前から既に出張バーベキュー事業を開始しており(甲1),本件商標登録出願時である平成29年(2017年)2月18日の時点では,全国47都道府県に事業拠点を有していたのである(甲1)。
よって,本件商標は請求人の役務を表示するものとして需要者(利用者)の間に広く認識されている商標である。そして,本件商標の登録区分は,第43類でバーベキューに必要な食品及びコンロなどの貸与を含むものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
4 商標法第4条第1項第19号該当性
被請求人は,本件商標の利用料としてフランチャイザーである請求人に対して,年間700万円もの商標使用料を請求しているのであり,不当な目的で本件商標を利用していることは明らかである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 利害関係について
(1)請求人の成立年月日や焼肉店「満福」の経営年月日は不知。請求人が出張バーベキュー事業を「満福」という名称を用いて,平成23年からフランチャイズ展開を行っている会社であることは否認する。
(2)本件契約書及び本件覚書の日付が「平成27年5月13日」となっている(甲2,甲3)が,請求人が自らをフランチャイザーだとして同様の契約書を各事業主体に作成するよう求め始めたのはこの頃からである。
(3)本件フランチャイズ契約は,これ以前の平成26年9月頃から本件商標を用いて営業をしていた被請求人の権利を一方的に制約するものであり無効である。
(4)請求人主張のように平成23年頃からフランチャイズ展開を行っているのならば,同年付けの本部・加盟店間の契約書があるはずであるが,存在しない。請求人は,実体は定かではないが,請求人(ないし本件商標)と無関係に出張バーベキュー事業を行っていた他事業主がその後に請求人と関係を持つようになったことをもって自身の傘下であると都合良く主張しているにすぎない。
(5)甲第1号証は請求人自身が管理するウェブサイトのプリントアウトであり,何ら証明力はない。請求人が自らの裁量でウェブサイトの記載を変更していることからも記載の変更は容易である。
(6)請求人が事業展開(主張によれば平成23年以降)以降使用していた別件図形商標があることについては否認する。言及している別件図形商標は,被請求人とともにアイディアを出し合って決定された図形商標のことを指していると思われるが,この別件図形商標なるものが成立したとすれば平成26年以降である。請求人が別件図形商標について拒絶査定を受けた(甲5)ことについては認める。請求人が別件図形商標について商標登録出願をした(平成30年1月22日)のは,自ら提案していた本件商標の売却申出(乙3?乙5)を一方的に撤回し,平成30年11月頃,別件図形商標の登録のめどが立ったと早計して「本件商標はもう不要なので自由に使って良い」と被請求人に述べるなど,別件図形商標の登録を試みていたからにすぎない。本件商標無効審判請求は,令和元年6月28日付けの別件図形商標の拒絶査定を受けてその目算が外れ,本件商標の紛争を蒸し返しているにすぎない。このような審判請求は権利濫用に当たり許されず,また,自ら提案した本件商標の売却申出(乙3?乙5)を一方的に撤回しており,本件商標に関する請求権を放棄しているため,利害関係はない。
2 商標法第4条第1項第7号について
請求人は,平成27年5月13日付けの本件契約違反,年間700万円の商標使用料の請求(請求人からの「ご回答」と題する書面(甲6)は請求人側で主張するだけの書面で何ら証明力がなく,指摘のような暴利行為は一切ない。)をもって公序良俗違反を主張し,裁判例(甲8)との類似性を主張するようである。
(1)類似主張の事案について
裁判例(甲8)は,本件事案と乖離し,何ら参考にならない。本件において,平成27年5月13日以前に請求人はフランチャイズ方式によりチェーン運営していないし,請求人が自身をフランチャイザーであるかのように振る舞い事実上の影響力から本件商標をとりまく事業の支配を始めようとする約1年前から被請求人は本件商標を用いて出張バーベキュー事業をしている(乙2)。
また,百歩譲って本件商標取得が何らかの契約違反を構成するとして,これによる賠償請求権や解除権等を放棄していることは,(a)本件商標をとりまく事業の全国会議で請求人が平成30年2月に開催された新大阪丸ビルの関西エリア会議にて「出張バーベキュー満福」商標取得の責任を問わないと明言し,(b)請求人・被請求人間で本件商標を売買契約により譲渡することで解決を図ることが決定された(乙3?乙6)ことから明らかである(買主として売却の申出をしていることは,売主は売却対象である本件商標の正当な権利者であることを前提としていなければ行い得ない。)(乙7)。
請求人は,自身がフランチャイザーとして振る舞い始め,被請求人に本件フランチャイズ契約(甲2,甲3)を締結させる時点で本件商標を所有しておらず,ましてフランチャイズ形式のチェーン運営の実態もなく,被請求人はその商標権の存続期間が満了することに乗じて商標登録出願をしたわけでもなく,「剽窃的」な要素は皆無である。加えて,裁判例の指摘のようにフランチャイズ契約に関し約300万円の未払債務があったわけでもない。また,裁判例の事案は,秘密裏に商標登録出願をしたことを指摘しているが,被請求人は,平成26年6月19日には本件商標の取得について請求人に打診し,請求人も「良いですね」と賞賛しており,本件商標登録出願に係る議題を会議にも挙げているし,登録出願前の年に,大阪エリアS氏,愛知エリアI氏と,日本主要都市のエリア担当には商標登録をする旨を話している(乙6)。
さらに裁判例の事例は,商標に係る紛争を解決するために請求人が数百万円の経済的利益の提供の申出を再三しているのに,被請求人がこれを「はした金」と拒んだなどの事情が指摘されているが,本件でこのような事情はない。むしろ,請求人は売却の申出をしておきながら,代金決定の段階で突如白紙撤回をしている(乙3?乙5)。
(2)契約違反の主張について
ア 本件商標の使用は,本件フランチャイズ契約(甲2,甲3)以前から被請求人が行っており,その使用価値は被請求人によって高められてきたものであり,その権利(及び商標登録による保全)を一方的に放棄させ,営業を休止したら無条件に違約罰500万円を支払う内容を記載し,ネット上で安く購入が可能な請求人の食肉と同等セット等を高額かつ送料負担(ネット上では送料無料)で購入させる約定を設けるなど一方的に被請求人に負担を生じさせる契約文書に押印させており,本件で請求人が主張する契約違反の条項は無効である(乙1の1)。
百歩譲ってそのような条項の無効がないとしても,およそ公序良俗違反などの踏み込んだ判断が必要なほどの違反は存在しない上,(a)本件商標をとりまく事業の全国会議で請求人が平成30年2月に開催された新大阪丸ビルの関西エリア会議にて「出張バーベキュー満福」商標取得の責任を問わないと明言し,(b)請求人・被請求人間で本件商標を売買契約により譲渡することで解決を図ることが決定された(乙3?乙7)ことから,契約違反の事由が治癒されていることは明らかである(買主として売却の申出をしていることは,売主は売却対象である本件商標の正当な権利者であることを前提としていなければ行い得ない。)。
イ 契約違反についての主張の補足
本件フランチャイズ契約の内容は,本件営業が被請求人をはじめとした対等な立場にある数名で平成26年6月頃に発足し,相互に経営案等を出し合い拡大していったにもかかわらず,本件営業に関する食材の大部分の仕入れを請求人提供食材に限定しその利益を実質的にロイヤリティとして徴収するなど一構成員にすぎない請求人ないし請求人の利益となる一方,各担当エリアが事業を停止した場合に500万円の違約金を支払う記載をするなど,他の構成員に著しく重い義務を課す片面的な条項を含み,無効である。
とりわけ,請求人が違反を主張する条項は,フランチャイズ契約時点で本件商標の使用価値は請求人が独占して保有しておらず,請求人が他の対等な立場にある構成員に不当な拘束をするものであり,同条項の規定は無効である。
また,本件契約書及び本件覚書は,被請求人が,本件フランチャイズ契約において請求人に一方的に有利な条項の有効性を認識せず,被請求人の元に訪れた請求人代表者含む数名により内容を何ら説明なく押印を求められて押印したものであり,請求人主張の条項の規定は錯誤により無効である。
請求人は平成23年頃から,本件商標でフランチャイズ展開をしていると主張するが,そのような事実はない。当時の関係者によれば,早くても,平成25年頃から,準備行為を開始していただけである(開始は被請求人と同時期である。)。しかも,当時,使用商号は「どこでもBBQ」,「手ぶらBBQ」など定まっていなかった。請求人代表者は,大学卒業後,様々な事業活動を営んでおり,請求人は,請求人代表者が事業承継をしたものと聞き及んでいる。請求人代表者が平成25年頃に出張バーベキュー事業を行っていたかは定かではないが,出張バーベキュー事業は,請求人代表者が営む前に九州で先行して営業が拡大していたバーベキュー事業を請求人が模倣して開始したと推測される。特段請求人固有のオリジナリティを発揮して開始されたものでもない。むしろ請求人以外の事業主体が,先行して出張バーベキュー事業を行っており,請求人の支配下に収まったという事情もあるようである。
本件商標の使用価値が初期構成員により高められてきたこと,被請求人が本件フランチャイズ契約締結時点で,請求人主張の違反条項の存在を認識していなかったことは,本件商標について,平成26年6月19日,本件商標を用いて営業していた構成員全員加入のトークルームにおいて,被請求人が「競業対策の一案として,商標出願するのはとう〔ママ〕ですか?」と提案し,その全員がこれを確認し,請求人代表者自身も「良いですね。」と賛同していることからも明らかある(乙8)。
被請求人が本件商標を登録するに至った端緒としては,請求人代表者が平成27年1月17日は神戸,平成28年11月15日は名古屋での全国会議に開催された本件営業に関する会議において,「既に出張バーベキュー満福の商標を登録している」旨明言していたにもかかわらず,その後本件商標登録が未了だったことが発覚し,被請求人が自己の営業の権利保全のために取得したものであり,契約違反を基礎づける違法はない。
加えて,請求人は,本件フランチャイズ契約の違反を主張しながら,他方で被請求人に利益的である広告の利益や排他的な営業権の条項を殊更に無視しており,請求人自身,第1条をはじめ本件フランチャイズ契約の各条項の有効性を前提とした行動をしておらず,矛盾挙動がある(乙1の1,乙1の2,乙9)。その他,本件フランチャイズ契約第3条(営業活動の指導)「指導」が被請求人に対し行われたことはなく,被請求人もこれを求めたことはない。両当事者が本件フランチャイズ契約内容の各条項の有効性を前提とした行動をしておらず,このことは本件フランチャイズ契約において有効な合意が形成されていない。
(3)暴利行為の主張について
請求人は,年間700万円の商標使用料を請求してきたと主張するが,これを基礎づける資料の提出は一切ない。請求人は,売却経過の「700万円」という暴利行為の主張をするようであるが,自ら代金額を空白にして,本件商標の売却を持ちかけておきながら(乙3?乙5),その代金の提示にかこつけて暴利行為を主張するなど,失当である。
本件商標の適正額の算定について,その対価が本件商標の使用実績に基づく業務上の信用から評価されるべきところ,請求人から,本件商標を用いた事業に関し,(a)本部事業者である請求人本店(北九州エリア)の直近三事業年度における売上げ実績等の資料(貸借対照表及び損益計算書等),(b)直近の三事業年度における加盟者の店舗の数の推移等の資料が提出されるなど,対価を算定する根拠資料は一切提示されることはなかった。その後,突如として提案を一方的に翻し,売却の白紙撤回を主張された。被請求人は,請求人の対応から,請求人が自らの懐を痛めて本件商標の譲渡を完了させることに難色を示していると推測したので,売却提案に対し,請求人が行っている別の事業(いわゆる便利屋。年間30万円を徴収している。)を例に本件商標を使用して,チェーン全体に本件商標の使用料を求めると1年間で1,400万円程度となるので,請求人・被請求人双方で折半した700万円を数年間支払うことで本件商標の譲渡対価に充てることを提案したものである。
3 商標法第4条第1項第10号について
本件においては,本件商標が「請求人の業務」を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている商標」とはいえない。被請求人は,請求人が違反を主張する平成27年7月付け契約締結時点以前の平成26年9月頃から,「自身の商標」として本件商標を用い,本件事業を営んでいる(乙2,乙3)ところ,本件商標は「他人の商標」に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号違反について
本件で該当しないことは論を待たない。「剽窃的」要素がうかがわれた事案(甲5)でも商標法第4条第1項第19号でも一蹴されていることからも明らかである。
5 総括
以上より,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同第10号及び同第19号に該当しない。

第5 当審の判断
1 本件審判の請求の利益について
本件審判の請求に関し,当事者間において,利害関係の有無につき争いがあることから,まず,この点について判断する。
商標法第46条に規定する商標登録の無効審判を請求できる者は,当該商標登録を無効とすることに関して利害関係を有する者であるところ,ある商標の登録の存在することによって,直接不利益を被る関係にある者は,それだけで同条にいう利害関係人としてのその商標の登録の無効審判を請求する利害関係を有すると解されている(東京高裁昭和35年(行ナ)第106号)。
そして,商標登録出願に係る商標が,当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標と同一又はこれに類似し,指定商品若しくは指定役務も同一又は類似するものとして,当該商標登録出願が拒絶され又は拒絶されるおそれがある場合,その商標登録出願は,上記他人の登録商標につき,商標登録の無効審判の請求をする法律上の利益があることは,明らかである。
しかるところ,請求人は,本件商標と類似する商標について別件図形商標について登録出願(商願2018-14481号:甲5。別掲)をしていることが認められ,その登録出願に係る商標について,本件商標を引用した拒絶理由(商標法第4条第1項第11号)が通知され,拒絶査定となり,当該商標登録出願は現在審判に係属していることが認められる。
以上の事実よりすれば,請求人は,本件審判の請求をすることについて法律上の利益を有するものと解するのが相当である。
したがって,本件審判の請求は,その請求を不適法なものとして却下することはできない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(a)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10349号)。
かかる観点から,以下,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについて検討する。
(2)請求人及び被請求人の提出に係る証拠によれば,以下のとおりである。
ア 請求人のホームページに掲載された請求人の沿革において,「有限会社/まんぷくカンパニ」の名称の下,請求人住所及び請求人代表者氏名の記載と共に,「沿革」として,1998年7月に北九州戸畑区で「焼肉・たき鍋 満福」を開業し,2003年6月「有限会社まんぷくカンパニ」に社名変更,2012年7月に北九州で出張BBQ事業を展開し,2013年7月に出張BBQフランチャイズ事業を展開(2016年12月現在 全国47拠点)した旨の記載がある(甲1)。
イ 「兵庫県フランチャイズ契約書」と題する書面(本件契約書)によれば,「請求人(以下『甲』という)と被請求人(以下『乙』という)は,出張バーベキュー事業(顧客の注文により顧客の指定する日時,場所にバーベキューセット(食材,器具備品,食器等)を配送提供,器具備品設置,後片付け,器具備品類の回収。以下『本件事業』という)のフランチャイズに関し以下のとおり契約を交わした。」として,「第1条(目的)」に「甲は,乙に対し,本契約を遵守することを条件に,後記(1)記載の営業拠点(以下『拠点』という)において,後記(2)記載の商標,商号あるいはサービスマーク等(以下『商標等』という)を使用し(審決注:後記(2)記載の商標は「出張バーベキュー満福 兵庫」の文字からなる商標。),甲の開発した本件事業の経営手法を用いてその事業活動を行うことを許諾する。」との記載がある(甲2)。
また,「第1条(目的)」には,「2 商標等の使用にあたっては乙は次の事項を遵守する。/(1)甲の指示に従い,かつ甲が別途作成する商標使用規定に従う。/(2)出張バーベキュー業務において顧客に提供する食材【基本セット】は全て甲より仕入れる。/*基本セット(並セット,上質セット,特選セット)/*その他の食材は乙が自由に調達可能とする。/(3)商標等は,本契約に基づき実施される事業にのみ使用し,他の事業のために使用しない。」,「3 乙は,甲の事前の書面による承諾なく,商標等と同一もしくは類似する商号,商標又はサービスマーク等をいかなる国又は地域において自己のものとして登録してはならない。」との記載があり,「第2条(加盟金)」には,「加盟金は免除ですが,別途覚書書の第4条に従う。」との記載があり,「第13条(契約期間)」には,「本契約の期間は2015年5月13日から5年間とする。期間満了の6ヶ月前までに甲または乙のどちらか一方から本契約の更新しない旨の書面による通知がない限り,本契約は更に5年間更新され,以降も同様とする。」との記載がある(同上)。
そして,当該契約書の7葉目には,「平成27年5月13日」の日付の記載と共に,請求人及び被請求人の署名,捺印がある(同上)。
さらに,契約書末尾に後記として,「(1)営業拠点/住所」として「兵庫県尼崎市西本町4-39?102」の記載,「電話番号」及び「(2)商標,商標あるいはサービスマーク等」として「出張バーベキュー満福 兵庫」との記載がある(同上)。
ウ 平成27年5月13日付け「満福出張BBQ事業 業務契約に関する覚書 第1号」と題する書面(本件覚書)において,「請求人(以下甲という)と被請求人(以下乙という)とその他満福エリアオーナー店(以下丙)とは,次のとおり満福出張BBQ事業の業務委託に関する『覚書』を締結する。」の記載がある(甲3)。
そして,本件覚書の第1条ないし第9条には事業の業務委託に関する事項の記載があり,第4条には「満福出張BBQ事業の停止,撤退について以下の通り取り決める。」として「1.乙が何らか(病気以外)の理由により事業の停止をする場合は事業停止日より起算して6ケ月前に乙は甲に申告しなければならない。停止期間は1年を限度としそれを超える場合は事業権が失効すると同時に乙は甲に違約金として500万円を支払う。」との記載があり,当該覚書の末尾には,甲として請求人及び乙として被請求人の住所,署名,捺印がある(同上)。
エ 請求人代理人から被請求人宛の令和元年8月30日付け「ご回答」と題する書面(内容証明郵便物)には,「1 商標について」として,年間700万円の商標使用料を支払う提案を受けられないこと,本件フランチャイズ契約においては書面による承諾もなく商標を登録することは禁止されているから,本件商標登録は同規定に反し,商標を取得する権利はないこと,本件商標の即時商標移転を求めていること,商標使用料の請求を維持した場合契約書に基づきフランチャイズを即時解除すること等の記載がある(甲6,甲7)。
オ 被請求人代理人から請求人代理人宛の令和元年10月11日付け「ご連絡」と題する書面には,本件フランチャイズ契約の内容は,本件営業である出張バーベキュー事業が被請求人をはじめとした対等な立場にある数名で平成26年6月頃に発足し,相互に経営案を出し合い拡大していったにもかかわらず,一構成員にすぎない請求人の利益になる一方,各担当エリアの事業構成員に著しく重い義務を課す片面的な条項を含むから,その有効性に疑義がある旨の記載,被請求人の満福全国グループのトークへの復帰及び被請求人のウェブページの記載の回復の求め,被請求人の営業権侵害の記載の削除,本件商標に関する条項の規定は無効であること,本件商標の譲渡は受けられないこと等の記載があり(乙1の1),請求人代理人の令和元年10月31日付け「ご回答」には,上記書面に対し,応じることができない旨の記載がある(乙1の2)。
カ 被請求人の提出に係る営業許可書(食肉販売業)と題する書面は,「営業許可書」のタイトルの下,「許可番号」として「尼崎市指令(尼保生)第1-○○○○○号」の記載,「氏名」として被請求人の氏名の記載,「営業所の名称/屋号又は商号」として「満福 兵庫」の記載,営業の種類として「食肉販売業」の記載,「営業所所在地」として「尼崎市西本町4-39・・・」の記載,「有効期間」として「平成26年 9月25日から平成31年11月30日まで」の記載があり,その下部には「食品衛生法第52条の規定より営業を許可する」,「平成26年9月25日」として尼崎市保健所長の記名,押印がある(乙2の1)。
また,営業許可書(魚介類販売業)と題する書面は,「営業許可書」のタイトルの下,「許可番号」として「尼崎市指令(尼保生)第1-○○○○○号」の記載,「氏名」として被請求人の氏名の記載,「営業所の名称/屋号又は商号」として「満福 兵庫」の記載,営業の種類として「魚介類販売業」の記載,「営業所所在地」として「尼崎市西本町4-39・・・」の記載,「有効期間」として「平成26年 9月25日から平成31年11月30日まで」の記載があり,その下部には「食品衛生法第52条の規定より営業を許可する」,「平成26年9月25日」として尼崎市保健所長の記名,押印がある(乙2の2)。
キ 被請求人の提出に係る「商標権譲渡契約書」と題する書面は,請求人が作成したとされるものであり,「譲受人」又は「乙」の欄に請求人の名称及び代表者の記載又は押印があるものの,支払金額,支払日時,支払方法,商標登録番号,商品の区分,譲渡人又は「甲」の欄の氏名等は空白である(乙3)。さらに、乙第4号証は,「譲渡証書」であるにもかかわらず,「譲渡人」の欄がなく,当事者がいずれも「譲受人(登録権利者)」と記載され,また「(登録権利者)」として請求人の住所・名称等が記載されていることから,「譲渡証書」の体を成していないといわざるを得ない。
ク 被請求人の提出に係る「時系列表(被請求人の手記)」とされる書面は,被請求人が作成したものとされ,1葉目に「【2017】救済目的のため李 商標出願,登録。/12月 大阪にて金元氏と会合(愛知エリアマネージャーI氏同席)商標をグループで使用することをすすめるも,金元氏は強く拒否。」,「【2018年】2月 新大阪 丸ビル 満福関西エリア会議にて発表/1(審決注:数字は○で囲まれている。)『出張バーベキュー満福』商標取得の責任を問わない。/2(審決注:数字は○で囲まれている。)商標譲渡契約を結ぶ。/11月 金元氏,和解内容の書面化を拒否。商標不必要と通達。」旨の記載がある(乙6)。
ケ 被請求人の提出に係る「SNSの手記」とされる書面には,「過去のこの日 1年前」及び「Lee Jongmok/2018年11月1日8:01」の記載の下,「【記録として】10月31日19時2分,請求人代表者より連絡あり。2017年関西会議(新大阪)にて合意し,進めていた商標の譲渡手続きは不要で,そのまま李が所持していても良いという趣旨の発言をする。商標取得に関して異議申し立てをされても困るので合意書を交わしたいと伝えると,先使用権を申請したので李所持でもいいと発言。取得所持の承諾の口約束のみでは後日問題が生じる場合があり,2種類の合意書を発送すると提案。金元氏はPDFファイルでの送信を希望したため,19時54分にメッセンジャーにて送信済み。」の旨の記載がある(乙7の1)。
そして,「合意書.pdf」と題する書面には,「合意書」のタイトルの下,「(以下,『甲』という。)(審決注:甲の氏名は空白。)と被請求人(以下,『乙』という。)とは以下の通り合意する。甲は,乙が登録した商標(登録番号第5988898号)(審決注:本件商標のこと。)の取得に関し一切異議を申し立てないものとする。」旨の記載があるものの,「年月日」,「甲」及び「乙」の欄は空白であり,当事者の署名捺印はない(乙7の3)。
また,「合意書#2.pdf」と題する書面には,「合意書」のタイトルの下,「(以下,『甲』という。)(審決注:甲の氏名は空白。)と「被請求人(以下,『乙』という。)とは以下の通り合意する。甲と乙は,乙が登録した商標(登録番号第5988898号)(審決注:本件商標のこと。)の譲渡契約を交わすことを条件に,甲は,乙が商標を取得したことに関し一切異議を申し立てないものとする。」旨の記載があるものの,「年月日」,「甲」及び「乙」の欄は空白であり,当事者の署名捺印はない(同上)。
コ 被請求人の提出に係るSMS記録とされる書面には,「Lee Jongmok」,「2014年6月19日」の記載の下,「今朝もワイドショーで『手ぶらでBBQ』というタイトルで大手の紹介をしていましたが,競合対策の一案として,このフレーズや『出張BBQ』など,41類などの商標出願するのはとうですか?」の記載があり,それに続いて,請求人代表者氏名の記載の下「良いですね。」との記載がある(乙8)。
サ 被請求人の提出に係るSNS記録とされる書面には,「満幅 全国グ...」の記載の下,「8月1日 13:19」,「8月2日 18:01」,「○○さん(審決注:「○○」は請求人代表者の氏名。)はあなたをこのグループから削除しました。」旨の記載がある(乙9)。
(3)判断
ア 請求人について
請求人は,そのホームページの記載によれば,平成10年(1998年)7月に北九州市において「焼肉・たき鍋 満福」を開業し,その後,平成25年(2013年)7月頃には出張BBQフランチャイズ事業を行っていたことがうかがわれる。
また,被請求人の主張によれば,請求人は平成25年頃からフランチャイズ事業について準備行為を開始したとのことであり,平成26年6月頃には,構成員として請求人が含まれている出張バーベキュー事業が発足しており,被請求人を含む数名で相互に経営案を出し合い拡大していったとのことであるから,請求人は本件フランチャイズ契約締結時である平成27年5月13日までには,出張バーベキュー事業のフランチャイズ事業に係る準備行為を行っていたということができる。
イ 本件商標の登録出願の経緯について
(ア)請求人及び被請求人間の本件フランチャイズ契約
本件契約書及び本件覚書(甲2,甲3)には,上記(2)イのとおり,請求人及び被請求人を当事者とする出張バーベキュー事業についてのフランチャイズ契約を内容とする記載がなされ,「平成27年5月13日」の日付,契約当事者として請求人の住所,署名,捺印及び被請求人の住所,署名,捺印が確認できることから,請求人と被請求人の間には,平成27年5月13日には,出張バーベキュー事業について,同契約に基づきフランチャイザーとそのフランチャイジーの関係にあったものというのが相当である。
(イ)商標等の使用に関する契約事項
本件契約書によれば,請求人は,被請求人に対し,本契約を遵守することを条件に営業拠点において,契約書の後記(2)に記載された商標等(「出張バーベキュー満福 兵庫」)を使用し,請求人の開発した本件事業の経営手法を用いてその事業活動を行うことを許諾するとされ(本件契約書第1条第1項:以下「出張バーベキュー満福 兵庫」を「使用許諾商標」という。),また,被請求人は,請求人の事前の書面による承諾なく,商標等と同一もしくは類似する商標,商標又はサービスマーク等をいかなる国又は地域において自己のものとして登録してはならないとされている(同契約書同第3項)。
そうすると,請求人と被請求人の間には,平成27年5月13日時点で,商標等の使用に関して上記内容の契約が存在し,両者は当該契約期間中,請求人の事前の書面による承諾なく,商標等と同一若しくは類似する商標,商標又はサービスマーク等をいかなる国又は地域において自己のものとして登録してはならないとする約束に合意したものといわなければならない。
(ウ)被請求人による本件商標の登録出願の経緯についての判断
a 本件商標
本件商標は,上記1のとおり,「出張バーベキュー満福」の文字からなるものであり,本件契約書に示された商標「出張バーベキュー満福 兵庫」の構成中,地名と認識される「兵庫」の文字を除いた「出張バーベキュー満福」の文字と同一のものであり,使用許諾商標と類似の商標であると認められる。
また,その指定役務には,「飲食物の提供」,「食器の貸与」,「おしぼりの貸与」及び「バーベキューコンロ及びバーベキューグリルの貸与」等が含まれている。
b 本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるか
本件商標の登録出願日は,平成29年2月18日であるところ,本件フランチャイズ契約の期間は2015年(平成27年)5月13日から5年間とされているものであるから(本件契約書第13条),本件商標の登録出願は,当該契約の契約期間中になされたものである。そして,請求人及び被請求人の提出した証拠を検討しても,被請求人が我が国において使用許諾商標を自己のものとして登録することについて,請求人の事前書面による承諾を得ていたことを認めるに足りる証拠の提出はなく,また,本件フランチャイズ契約締結から本件商標の登録出願時及び登録査定時までの間に本件フランチャイズ契約を無効とすべき特段の事情も見いだすことことはできないから,被請求人による本件商標の登録出願は,本件契約書第1条第3項に違反するものである。
加えて,フランチャイジーである被請求人は,本件フランチャイズ契約の目的(本件契約書第1条)において,本契約を遵守し,フランチャイザーである請求人の許諾の下で使用許諾商標を使用して事業活動を行うこととされているところ,本件商標は,使用許諾商標と類似の商標であると共に,出張バーべキュー事業の事業内容に含まれ得る,「飲食物の提供」,「食器の貸与」,「おしぼりの貸与」及び「バーベキューコンロ及びバーベキューグリルの貸与」等を指定役務とするものであり,その商標登録が認められれば本件フランチャイズ契約に基づく業務に使用する商標に係る権利を被請求人が独占することとなるから,被請求人による本件商標の登録出願及び商標登録は,請求人が被請求人に対し,使用許諾商標を使用し出張バーベキュー事業を行うことを許諾するという本件フランチャイズ契約の内容を実質上反故にするものといえる。
そして,請求人と被請求人との間では,本件商標登録出願の後,本件商標の譲渡を巡る交渉が行われていることが認められ(甲6,甲7,乙1),被請求人はその交渉の中で請求人に対し年間700万円の商標使用料を求めたことがうかがわれる。
そうすると,被請求人による本件商標の登録出願は,本件フランチャイズ契約を遵守し,フランチャイザーである請求人の許諾の下で使用許諾商標を使用して事業活動を行うこととする本件契約の約束事項に反するものであり,本件商標の登録出願は,契約当事者の信頼関係を大きく毀損する商道徳上容認できない行為であるといわざるを得ない。
このような本件商標の登録出願の経緯にかんがみれば,本件商標の登録出願は,適正な商道徳に反し,社会的相当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に該当するものというべきであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
ウ 被請求人の主張について
(ア)被請求人は,「本件商標の使用は本件フランチャイズ契約以前から被請求人が行っており,その使用価値は被請求人によって高められてきたものであり,その権利(及び商標登録による保全)を一方的に放棄させ,営業を休止したら無条件に違約金を支払う内容を記載し,ネット上で安く購入が可能な請求人の食肉と同等セット等を高額かつ送料負担(ネット上では送料無料)で購入させる約定を設けるなど一方的に被請求人に負担を生じさせる契約文書に押印させており,請求人が主張する契約違反の条項は無効である(乙1の1),及び,本件フランチャイズ契約の内容は,食材の大部分の仕入れを請求人提供食材に限定しその利益を実質的にロイヤリティとして徴収するなど一構成員にすぎない請求人ないし請求人の利益となる一方,各担当エリアが事業を停止した場合に500万円の違約金を支払う記載をするなど,他の構成員に著しく重い義務を課す片面的な条項を含み無効である」旨主張している。
しかしながら,被請求人が平成26年9月に食肉販売業及び魚介類販売業の営業許可を得ていた(乙2)としても,被請求人による本件商標の使用を具体的に示す証拠の提出はなく,本件商標が本件フランチャイズ契約以前から被請求人により使用され,その使用価値が被請求人によって高められてきたことを認めることはできないから,この点についての被請求人の主張を採用することはできない。
また,請求人が提供する食材の価格や内容がいかなるものであるか,500万円の違約金の額が同種の他の事例と比べてどれほど高いものであるのか等,本件フランチャイズ契約の内容がいかなる点で著しく重い義務を課すものであるのかについて,具体的,客観的な根拠は示されていないことから,かかる主張によって本件フランチャイズ契約が無効であると認めることはできない。
(イ)被請求人は,「請求人が違反を主張する条項は,フランチャイズ契約時点で本件商標の使用価値は請求人が独占して保有しておらず,請求人が他の対等な立場にある構成員に不当な拘束をするものであり,同条項の規定は無効である」旨主張している。
しかしながら,契約は当事者の合意によって成立するものであって,請求人が使用許諾商標について商標の独占的使用権である商標権を保有することが本件フランチャイズ契約が成立する条件とはいい難いから,請求人が本件フランチャイズ契約時点で使用許諾商標の商標権を保有していないとしても,請求人が他の構成員に不当な拘束をするものということはできず,かかる主張によって本件フランチャイズ契約を無効と認めることはできない。
(ウ)被請求人は,「本件フランチャイズ契約は,被請求人が,本件フランチャイズ契約において請求人に一方的に有利な条項の有効性を認識せず,被請求人の元に訪れた請求人代表者を含む数名により内容を何ら説明なく押印を求められて押印したものであり,請求人主張の条項の規定は錯誤により無効である」旨主張しているが,本件契約の合意が錯誤に基づくものであることを客観的に示す証拠はなく,かかる主張によって本件フランチャイズ契約を無効と認めることはできない。
(エ)被請求人は,「請求人は平成23年頃から本件商号でフランチャイズ展開をしていると主張するが,そのような事実はない。当時の関係者によれば,早くても,平成25年頃から,準備行為を開始していただけである。開始は被請求人と同時期である。しかも,当時,使用商号は『どこでもBBQ』,『手ぶらBBQ』など定まっていなかった」等と指摘し,本件フランフランチャイズ契約が無効である旨主張している。
しかしながら,平成26年6月頃には,構成員として請求人が含まれている出張バーベキュー事業が発足し,被請求人を含む数名で相互に経営案を出し合い拡大していった(乙1)とのことであるから,請求人は少なくとも本件フランチャイズ契約締結時である平成27年5月13日までには,出張バーベキュー事業に係る準備に関わっていたといえる。
してみれば,締結の時期からみて本件フランチャイズ契約に不自然な点は見当たらない。
よって,かかる主張によって本件フランチャイズ契約を無効と認めることはできない。
(オ)被請求人は,「請求人は本件フランチャイズ契約の違反を主張しながら,他方で被請求人に利益的である広告の利益や排他的な営業権の条項を殊更に無視しており,請求人自身,第1条をはじめ本件フランチャイズ契約の各条項の有効性を前提とした行動をしておらず,矛盾挙動がある(乙1の1,乙1の2,乙9)。その他,本件フランチャイズ契約第3条(営業活動の指導)の『指導』が被請求人に対し行われたことはなく,被請求人もこれを求めたことはない。両当事者が本件フランチャイズ契約内容の各条項の有効性を前提とした行動をしておらず,このことは本件フランチャイズ契約において有効な合意が形成されていない」旨主張している。
しかしながら,被請求人の提出した乙各号証を検討しても,被請求人作成の令和元年10月11日付けの「ご連絡」と題する書面や同年8月2日付けとされるSNS記録において,被請求人が満幅全国グループのトークから削除されたことや,被請求人ウェブページの記載が削除されたことがうかがえるものの(乙1の1,乙9),請求人が被請求人に利益的である広告の利益や排他的な営業権の条項を無視し,また,本件契約書第3条に基づく「指導」を行わなかったことに関する具体的な事実関係は不明であり,契約当事者間で有効な合意が形成されていないと判断すべき客観的な根拠を見いだすことはできない。
してみれば,本件契約書及び本件覚書には,契約締結の日付(平成27年5月13日),当事者の署名,捺印があり,他に不自然な点がない以上,本件商標の登録査定時(平成29年9月14日)において,本件フランチャイズ契約の当事者間で有効な合意が形成されていないとみることはできない。
(カ)被請求人は,「本件フランチャイズ契約の条項の無効がないとしても,およそ公序良俗違反などの踏み込んだ判断が必要なほどの違反は存在しない上,(a)請求人代表者が本件商標をとりまく事業の全国会議で請求人が平成30年2月に開催された新大阪丸ビルの関西エリア会議にて「出張バーベキュー満福」商標取得の責任を問わないと明言し,(b)請求人・被請求人間で本件商標を売買契約により譲渡することで解決を図ることが決定された(乙3?乙7)ことから,契約違反の事由が治癒されていることは明らかである」旨主張している。
しかしながら,(a)被請求人が作成した手記(乙6)や,SMS記録画面(乙7,乙8)において,「(1)『出張バーベキュー満福』商標取得の責任を問わない。(2)商標譲渡契約を結ぶ」,「競合対策の一案として,・・『出張BBQ』など,41類などの商標出願するのはとうですか?」及び「良いですね。」等の記載があったとしても,これらはいずれも被請求人が作成したものや,商標や指定役務が具体的に特定されていないものであり,請求人から商標権の取得について承諾を得,又は本件商標登録に関し責任を問わない等としていたことを示す客観的な証拠とはいい難いものである。
また,(b)請求人から被請求人に簡易書留で送付されたと主張する「商標譲渡契約書」(乙3)は,商標登録番号,譲受人の氏名等の記載がなく対象となる商標権や当事者が特定されていないものであり,被請求人から請求人に送付された「合意書」(乙7)も,「本件商標の取得に関し一切異議を申し立てないものとする。」,「本件商標の譲渡契約を交わすことを条件に,商標を取得したことに関し一切異議を申し立てないものとする。」との記載があるものの,「年月日」,当事者の欄は空白であり,署名捺印もないことからすれば,当該内容に請求人が合意したと認めることはできず,これらによって請求人・被請求人間で本件商標を売買契約により譲渡することで被請求人による本件商標の取得に係る問題の解決を図ることが決定されたということはできない。
さらに,仮に,請求人と「譲渡契約で問題解決を図る」ことが合意されていたとしても,当該契約が成立していない以上,被請求人の本件フランチャイズ契約違反が治癒されたとはいえない。
してみれば,これらの証拠によって,本件フランチャイズ契約の契約違反の事由が治癒されているということはできない。
(キ)その他,被請求人は,「甲第8号証に係る事案は本件とは乖離し,何ら参考にならない」旨,及び「年間700万円の商標使用料の請求が『暴利行為』に該当しない」旨主張しているが,本件においては,本件フランチャイズ契約に違反して本件商標を商標登録出願したことが,社会的相当性に欠けると判断されることは上記のとおりであり,異なる裁判事例との比較や,商標使用料の要求が暴利行為に当たらない旨の主張によって,その判断が左右されるものではない。
(ク)したがって,被請求人の上記主張はいずれも採用することができない。
(4)小括
以上のとおり,本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなそのような商標等でないとしても,当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものというべきであるから,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」であるといわなければならない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)引用商標の周知性
請求人の提出に係る甲第2号証及び甲第3号証には「出張バーベキュー満福 兵庫」や「満福出張BBQ」の文字が記載されているとしても,請求人の業務に係る具体的な役務について,引用商標の使用状況を量的に把握することができる証拠の提出はなく,我が国及び外国における役務の提供数量,売上高等の取引実績,市場におけるシェアや広告宣伝等の量的規模を客観的かつ具体的に把握することができないから,引用商標の周知性の程度を推し量ることができない。
したがって,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標が請求人の業務に係る役務を表示するものとして,我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)判断
商標法第4条第1項第10号は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」と規定されている。
そして,引用商標は,上記(1)のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた商標とは認められないものである。
そうすると,商標の類否や商品・役務の類否について言及するまでもなく,本件商標は,本号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項に第19号該当性について
商標法第4条第1項第19号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて,不正の目的(中略)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されているところ,引用商標は,上記3(1)のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る役務を表示するものとして我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていた商標とは認められないものであるから,本件商標は,本号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当しないとしても,同第7号に該当するものであり,その登録は,同条第1項の規定に違反してされたものであるから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
別掲(商願2018-14481号:色彩は甲5参照。)



審理終結日 2020-07-02 
結審通知日 2020-07-06 
審決日 2020-08-12 
出願番号 商願2017-35301(T2017-35301) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (W43)
T 1 11・ 22- Z (W43)
T 1 11・ 25- Z (W43)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石塚 文子佐藤 純也 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 冨澤 美加
鈴木 雅也
登録日 2017-10-20 
登録番号 商標登録第5988898号(T5988898) 
商標の称呼 シュッチョーバーベキューマンプク、バーベキューマンプク、マンプク、シュッチョーバーベキュー 
代理人 石橋 駿一 
代理人 西村 裕一 

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